- 1 - 主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理由 上告人兼上告代理人金尾哲也、同岩西廣典、同石井誠一郎の上告理由について 1 本件は、令和6年10月27日に行われた衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について、広島県第1区及び同第2区の選挙人である上告人らが、衆議院小選挙区選出議員(以下単に「小選挙区選出議員」という。)の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから、これに基づき行われた本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して提起した選挙無効訴訟である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ 公職選挙法は、衆議院議員の選挙制度につき、小選挙区比例代表並立制を採用しており、衆議院議員の定数は465人とされ、そのうち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員とされている(4条1項)。小選挙区選挙については、全国に289の選挙区を設け、各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項、別表第1。以下、後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規定」という。)、比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)については、全国に11の選挙区を設け、各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項、別表第2)。総選挙においては、小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い、投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条、36条)。 衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下「区画審設置法」という。)は、衆議 区選挙と比例代表選挙とを同時に行い、投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条、36条)。 衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下「区画審設置法」という。)は、衆議令和7年(行ツ)第117号選挙無効請求事件令和7年9月26日第二小法廷判決- 2 -院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は、小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、その改定案(以下単に「改定案」という。)を作成して内閣総理大臣に勧告するものとした上で(2条)、①4条1項において、上記の勧告は、統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査(以下「大規模国勢調査」という。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとする旨規定し、②4条2項において、同条1項の規定にかかわらず、区画審は、統計法5条2項ただし書の規定により大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる国勢調査の結果による各選挙区の日本国民の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上となったときは、当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に、上記の勧告を行うものとする旨規定する。 区画審設置法3条は、改定案の作成の基準について、①1項において、改定案の作成は、各選挙区の人口(同条においては最近の国勢調査の結果による日本国民の人口をいう。)の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない旨規定し、②2項において、同法4条1項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区 ようにすることとし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない旨規定し、②2項において、同法4条1項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の小選挙区選出議員の選挙区の数は、各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除数で各都道府県の人口を除して得た数(1未満の端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする。)の合計数が小選挙区選出議員の定数に相当する数と合致することとなる除数をいう。)で除して得た数(1未満の端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする。)とする旨規定し(いわゆるアダムズ方式)、③3項において、同法4条2項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の小選挙区選出議員の選挙区の数は変更しないものとする旨規定する(以下、この改定案の作成の基準を含む同法2条から4条までの規定による選挙区の改定の仕組みを「本件区割制度」という。)。 - 3 -⑵ 区画審は、小選挙区選出議員の選挙区に関し、令和2年10月1日を調査時とする大規模国勢調査(以下「令和2年国勢調査」という。)の結果に基づき、各都道府県の小選挙区選出議員の定数を5都県で合計10人増員し10県で各1人減員した上、25都道府県の140選挙区において区割りを改めることを内容とする改定案を作成し、令和4年6月16日、内閣総理大臣に勧告した。これを受けて、同年11月18日、区割規定の定める選挙区割りを上記改定案のとおりに改定することなどを内容とする令和4年法律第89号(以下「令和4年改正法」という。)が成立した(以下、令和4年改正法による改正後の区割規定を「本件区割規定」といい、本件区割規定の定める選挙区割りを「本件選挙区割り」という。)。 ⑶ 令和6年10月9日に衆議院が解散さ という。)が成立した(以下、令和4年改正法による改正後の区割規定を「本件区割規定」といい、本件区割規定の定める選挙区割りを「本件選挙区割り」という。)。 ⑶ 令和6年10月9日に衆議院が解散され、同月27日、本件選挙区割りの下で本件選挙が行われた。 本件選挙区割りの下では、令和2年国勢調査の結果によると、選挙区間の日本国民の人口(以下単に「人口」という。)の最大較差は1対1.999となり、本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は、選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(北海道第3区)との間で1対2.059であり、選挙人数の最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は10選挙区であった。 3⑴ 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ、国会の両議院の議員の選挙については、憲法上、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項、47条)、選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。 衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には、選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して、- 4 -憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当 最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって、このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり、国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような憲法上の要請に反するため、上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。 ⑵ 上記の見地に立って、本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性について検討する。 ア区画審設置法の定める本件区割制度は、小選挙区選出議員の選挙区(以下単に「選挙区」という。)について、区画審において、10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき、各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行った上、選挙区間の人口の較差が2倍未満となるよう区割りをして、その改定案を作成するものとしつつ、大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる国勢調査の結果、選挙区間の人口の最大較差が2倍以上となった場合には、その結果に基づき、各都道府県への定数配分を変更することなくこれが2倍未 大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる国勢調査の結果、選挙区間の人口の最大較差が2倍以上となった場合には、その結果に基づき、各都道府県への定数配分を変更することなくこれが2倍未満となるよう区割りをして改定案を作成し、これを是正することとするものである。このような本件区割制度は、選挙区を改定してもその後の人口異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを前提に、選挙制度の安- 5 -定性も考慮しながら、選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させその状態が安定的に持続するよう設けられたものであるといえ、投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ、国会において考慮することのできる他の要素をも考慮して選挙区の改定を行う仕組みを定めたものとして、合理性を有するものというべきである。 イ本件選挙は、令和4年改正法により改正された本件区割規定の定める選挙区割り(本件選挙区割り)の下で行われたものであるところ、前記事実関係等によれば、令和4年改正法は、本件区割制度の下、区画審が、令和2年国勢調査の結果に基づき、区画審設置法3条1項及び2項に定める基準に従い各都道府県への定数配分及び区割りをして作成した改定案のとおり、選挙区を改定するものといえる。 本件選挙区割りの下においては、令和2年国勢調査の結果による選挙区間の人口の最大較差が1対1.999であったのに対し、本件選挙当日には、選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.059となっており、選挙人数の最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は10選挙区となっていたものの、本件区割制度が、選挙区を改定してもその後に選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを前提とするものであって、このような制度に合理性が認められることは上記のとおりである。そして、本件 ていたものの、本件区割制度が、選挙区を改定してもその後に選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを前提とするものであって、このような制度に合理性が認められることは上記のとおりである。そして、本件選挙当時における選挙区間の投票価値の較差が自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれず、本件選挙区割りの下におけるその拡大の程度が著しいものともいえないから、上記の選挙区間の投票価値の較差の状況をもって、本件選挙区割りが本件選挙当時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたということはできないというべきである。 ⑶ したがって、本件選挙当時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。 ⑷ 以上は、最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民- 6 -集53巻8号1441頁、最高裁平成11年(行ツ)第35号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁、最高裁平成18年(行ツ)第176号同19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁、最高裁平成30年(行ツ)第153号同年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁及び最高裁令和4年(行ツ)第130号同5年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁の趣旨に徴して明らかというべきである。 4 以上の次第であるから、本件区割規定が本件選挙当時憲法に違反していたということはできないとした原審の判断は、是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官高須順一の意見がある。 裁判官高須順一の意見は、 審の判断は、是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官高須順一の意見がある。 裁判官高須順一の意見は、次のとおりである。 1 はじめに私は、多数意見とは異なり、令和4年改正法による改正後の区割規定の下での選挙区間の投票価値の不均衡は、本件選挙当時、違憲の問題が生ずる程度の不平等状態(いわゆる違憲状態)にあったと考える。 多数意見は、本件選挙区割りの合憲性の審査を多数意見3⑴記載の判断基準により行うこととした上で、本件区割制度は、選挙区を改定してもその後の人口異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを前提に、選挙制度の安定性も考慮しながら、選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させその状態を安定的に持続するように設けられたものとしてその合理性を肯定し、本件区割制度の下で定められた本件選挙区割りは合憲状態にあったものと判断している。 私も、本件選挙区割りの合憲性を上記判断基準により審査すべきことに異論はない。他方、本件区割制度については、このような選挙区の改定の仕組み自体に一定の合理性が認められることは否定しないが、その合理性は、一定の前提により支えられているものというべきである。そして、令和4年改正法により改定された本件- 7 -選挙区割り及びその下での本件選挙は、上記前提を欠くがゆえに、憲法の要請する投票価値の平等との関係で合理性を有するものとは評価し得ないというべきであり、この点において多数意見と意見を異にする。 以下では、これらを明らかにするために、本件区割制度が合理性を有するための前提と、これを踏まえた上での本件選挙区割りの具体的な評価について検討する。 2 本件区割制度が合理性を有するための前提本件 は、これらを明らかにするために、本件区割制度が合理性を有するための前提と、これを踏まえた上での本件選挙区割りの具体的な評価について検討する。 2 本件区割制度が合理性を有するための前提本件選挙区割りは、令和4年改正法により新たに定められたものであり、本件では、本件選挙区割りの下で初めて行われた小選挙区選挙が問題となっている。区画審設置法3条1項によれば、選挙区割りの改定に当たり、令和2年国勢調査の結果による人口を基準にして、選挙区間の人口の最大較差(以下、選挙区間の選挙人数の最大較差も併せて単に「最大較差」という。)が2倍以上にならないようすることが求められ、同法の規定内容を遵守することは、憲法上の投票価値の平等を維持する上においても不可欠の要請となる。そして、本件選挙区割りについては、令和2年国勢調査の結果を基準とした場合の最大較差は1.999倍であり、区画審設置法3条1項の規定自体に違反するものとはいえない。 しかしながら、上記最大較差の数値は限りなく2倍に近く、不断に生ずる人口異動の状況を考慮するならば、後記3のとおり、本件選挙区割りが定められた時点において、その下では改定後短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれる状況であったというべきである(現に、本件選挙時点では本件選挙区割りの下での最大較差は2.059倍となっており、較差が2倍以上の選挙区の数も10に及んでいる。)。 私も、多数意見と同様に、定数配分及び選挙区割りの決定について国会に広範な裁量が認められると考えるものであるが、そうはいっても、改定後短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるような改定案を区画審が勧告し、それに基づき国会において区割規定の改正を行うことが、果たして国会の裁量権の行使として合理性を有するといえるのか 間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるような改定案を区画審が勧告し、それに基づき国会において区割規定の改正を行うことが、果たして国会の裁量権の行使として合理性を有するといえるのか疑問であるといわざるを得ない。本件区割- 8 -制度は、憲法が保障する投票価値の平等を、選挙区制度を前提とする選挙制度の下で維持するために制度化されたものであり、最大較差が2倍未満となる区割り基準を設けた上で定期的な区割規定の見直しを法定する点において、選挙区間における人口の異動にも合理的に対応し得るものといえるが、本件区割制度が選挙区割りの改定後の人口の異動にも有効に対応するためには、何よりもまず、改定案そのものが適切に策定される必要があるというべきである。そこで、改定案策定の段階において、たとえ区画審設置法3条1項の定めるとおりに最大較差が2倍未満となるような選挙区割りがなされたとしても、それが短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるような選挙区割りである場合には、同法の規定自体に違反するものとはいえないとしても、このようにして定められた選挙区割りの下で行われる小選挙区選挙は、憲法の定める投票価値の平等の要請を満たすことにはならないと考えるものである。すなわち、本件区割制度が合理的であるといえるためには、まず当初の選挙区割りが憲法上の投票価値の平等の要請を満たすものであることが必要とされるのであって、当初の選挙区割りがそもそも投票価値の平等の要請を満たすものと評価できない場合には、区画審設置法が10年あるいは5年ごとの選挙区割りの改定の規律を設けているからといって、当該区割規定に基づく小選挙区選挙が憲法に適合するものと評価することは、到底できないといわなければならない。 以上から、私は、国勢調査の結果に基づきその基 りの改定の規律を設けているからといって、当該区割規定に基づく小選挙区選挙が憲法に適合するものと評価することは、到底できないといわなければならない。 以上から、私は、国勢調査の結果に基づきその基準時点においてたとえ最大較差が2倍未満となる選挙区割りが定められたとしても、それが短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるようなものであった場合には、そのような選挙区割りの下で行われる小選挙区選挙は、本件区割制度によって担保されるべき合理性の前提を欠くこととなり、違憲状態の選挙区割りの下で行われたものとなると考える次第である。 3 本件選挙区割りの評価そこで、次に問題となるのは、具体的にどのような事情があれば、短期間で最大- 9 -較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるような選挙区割りと評価されるかである。一概にその基準を明確にすることは困難であるが、本件訴訟において明らかにされているように、第1に、新たに改定された選挙区割りについて、その改定の際に基準とされた国勢調査の結果による最大較差が2倍に極めて近いものとなっており、第2に、当該改定後に実施される最初の衆議院議員総選挙時点における当該選挙区割りの下での最大較差が実際に2倍以上となっているというような場合には、これらの事情をもって、短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるような選挙区割りであったと基本的に判断すべきであり、当該選挙区割りに基づき行われた小選挙区選挙は違憲状態の選挙区割りの下で実施されたものと理解するのが妥当である。その上で、上記のような事情が認められても、選挙区割りの改定時に予測し得なかったような特別の要因が選挙までの間に生じ、これが原因となって選挙時の最大較差が2倍以上となったような事情があれば、例外的に違憲状態と 記のような事情が認められても、選挙区割りの改定時に予測し得なかったような特別の要因が選挙までの間に生じ、これが原因となって選挙時の最大較差が2倍以上となったような事情があれば、例外的に違憲状態とはならないと考えるべきであろうが、そのような事情が認められるのは極めて例外的な場合に限られるものと解される。 以上に述べたところに基づき改めて本件選挙区割りについて検討すると、まず令和2年国勢調査の結果による最大較差は、上記のとおり1.999倍と2倍に極めて近く、令和2年国勢調査の調査時(令和2年10月1日)以降の短期間におけるごく僅かの人口異動によっても最大較差が2倍以上となり得る数値である。そして、本件選挙区割りの下での本件選挙時の最大較差は2.059倍と、実際に2倍を超えていた。また、令和2年国勢調査の調査時から本件選挙時までの間に選挙区割りの改定時に予測し得なかったような特別の要因が生じたというような事情も認められない。したがって、本件選挙区割りは、その改定時において、短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるようなものであったといえ、本件選挙時における選挙区間の人口の不均衡は、憲法の保障する投票価値の平等の要請を害する状態になっていたというべきである。以上が、私が本件選挙における小選挙区選挙が違憲状態にある選挙区割りの下で行われたものであると考える理由で- 10 -ある。 4 令和5年大法廷判決との関係なお、最高裁令和4年(行ツ)第130号同5年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁(以下「令和5年大法廷判決」という。)は、平成29年法律第58号による改正後の平成28年法律第49号により改正された区割規定の定める選挙区割り(以下「平成29年選挙区割り」という。)について、選挙時における選挙区間の投票価 という。)は、平成29年法律第58号による改正後の平成28年法律第49号により改正された区割規定の定める選挙区割り(以下「平成29年選挙区割り」という。)について、選挙時における選挙区間の投票価値の較差が憲法の投票価値の平等の要求と相いれない新たな要因による場合や、較差の拡大の程度が選挙制度の合理性を失わせるほど著しいものである場合などの特別の事情が存する場合に初めてその合憲性が否定され得ることを前提とする判示をしているので、上記2、3の私の意見が、この令和5年大法廷判決と整合性を有することにつき念のため付言する。 私は、令和5年大法廷判決が上記判示するところは、基本的に本件区割制度の下においても妥当するものと考えるが、その前提として、区画審設置法2条に基づく勧告及びそれに基づく区割規定の改正により定められる新たな選挙区割りは、憲法の保障する投票価値の平等の要請を維持するにふさわしい内容でなければならないと考えるものである。すなわち、上記2のとおり、区画審設置法3条1項及び4条1項、2項の規定に従い国勢調査の結果を基準とした最大較差が2倍未満となる選挙区割りの改定作業が定期的になされるべきことは当然のこととした上で、改定による新たな選挙区割りがたとえ基準となる国勢調査の結果によれば最大較差が2倍未満となるものであっても、短期間でこれが2倍以上となることが改定時においてほぼ確実に見込まれるものであった場合には、区画審設置法が定める基準にかかわらず、違憲状態となると考えるべきである。これに対し、そのような事情が認められず、新たな選挙区割りの内容が、その改定時点において憲法上の投票価値の平等の要請にも適合するものであったと判断される場合には、正に令和5年大法廷判決の判示するとおり、その後の較差拡大が憲法の投票価値の平等の要求と相いれない 容が、その改定時点において憲法上の投票価値の平等の要請にも適合するものであったと判断される場合には、正に令和5年大法廷判決の判示するとおり、その後の較差拡大が憲法の投票価値の平等の要求と相いれない新たな要因による場合あるいは較差拡大の程度が当該制度の合理性を失わせるほど- 11 -著しいものである場合などの特別の事情がない限り、本件区割制度に基づく10年あるいは5年ごとの選挙区割りの改定によりこれを是正していくことは、憲法の許容するところとなる。現に令和5年大法廷判決において問題となった平成29年選挙区割りの下での最大較差は、平成27年に実施された国勢調査の結果によれば1.956倍であったし、その後に最初に行われた衆議院議員総選挙の時点(平成29年10月22日)でも1.979倍にとどまっていた。したがって、平成29年選挙区割りは、その改定時において、短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれる場合とまではいえない状況であったのであり、合憲状態であったと判断される。そこで、その次に行われた衆議院議員総選挙(令和3年10月31日施行)における小選挙区選挙において最大較差が2倍以上となったとしても、その憲法適合性の判断は、正に令和5年大法廷判決が判示する判断基準によることが可能であったのである。これに対し、本件選挙における小選挙区選挙については、令和4年改正法により定められた新たな選挙区割りがそもそも違憲状態であったのであり、平成29年及び令和3年の上記総選挙とは状況を異にするというべきであって、私の意見は令和5年大法廷判決に反するものではない。 ちなみに、多数意見には令和5年大法廷判決のほかにもいくつかの当審の大法廷判決が引用されている。このうち最高裁平成30年(行ツ)第153号同年12月19日大法廷判決・民集72巻6 ものではない。 ちなみに、多数意見には令和5年大法廷判決のほかにもいくつかの当審の大法廷判決が引用されている。このうち最高裁平成30年(行ツ)第153号同年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁は、令和5年大法廷判決と同様に平成29年選挙区割りの下において行われた小選挙区選挙を対象とするものであり、私の意見を前提としても合憲状態と判断し得るものであった。それ以前の大法廷判決については、アダムズ方式を採用した上最大較差を2倍未満とすることが定められた平成28年法律第49号による区画審設置法の改正より前のものであるので、私の意見との関係での説明は不要と考えている。 5 結論上記2及び3のとおり、本件選挙当時、本件選挙区割りの下で行われた小選挙区選挙における選挙区間の投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の不平等状- 12 -態(違憲状態)にあったといわざるを得ない。 以上のとおりであるが、本件選挙が令和4年改正法により定められた新たな選挙区割りの下での最初の衆議院議員総選挙であり、本件選挙の時点で最大較差が2倍以上となっていたことが確認されたことにより違憲状態の存在が明確となったものであるから、この時点までに国会が更に選挙区割りの改定を行うことを期待することは、現実的ではない。本件選挙当時において違憲状態の是正のための十分な期間が経過したということはできず、本件選挙までの期間内に是正がなされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとはいえないので、本件区割規定が憲法14条1項等に違反するとまではいえないというべきである。 したがって、理由は異なるものの、結論は多数意見と同じである。ただし、今後、令和7年国勢調査が実施され、その結果、区画審設置法4条2項による勧告が必要となる場合には、上記結果に基づく改定 ある。 したがって、理由は異なるものの、結論は多数意見と同じである。ただし、今後、令和7年国勢調査が実施され、その結果、区画審設置法4条2項による勧告が必要となる場合には、上記結果に基づく改定案が所定の期間内に区画審により勧告され、これに基づき公職選挙法の改正が行われることとなると思われるが、この改正に当たっては、これによる選挙区割りが短期間で最大較差が2倍以上となることがほぼ確実に見込まれるものとなるようなことはあってはならないことを、立法関係者は肝銘する必要があると考える次第である。 (裁判長裁判官尾島明裁判官三浦守裁判官岡村和美裁判官高須順一)
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