主文 本件控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は,控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴人ら(1)原判決を取り消す。 (2)控訴人P1及び同P2を除く控訴人らが,被控訴人に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 (3)被控訴人は,控訴人らに対し,各300万円及びこれに対する平成16年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 被控訴人主文と同旨第2事案の概要 事案の要旨本件は,被控訴人が商法(平成17年7月26日法律第87号による改正前のもの。以下「旧商法」という。)上の会社分割(新設分割)を行った際,設立する会社(旧商法373条。以下「設立会社」という。)へ承継される営業(以下「承継営業」という。)に含まれるとして分割計画書に記載された労働契約の相手方労働者である控訴人らを含む原審原告15名が,①原審原告らには会社分割による労働契約の承継を拒否する権利があり,これを行使した,②被控訴人の行った会社分割は,手続に瑕疵があり,違法である,また,③上記会社分割は権利濫用・脱法行為に当たるため労働契約が設立会社に承継されるとの部分については無効であるなどと主張して,定年に達した原審原告P1及び同P2を除く原審原告らが被控訴人に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,原審原告らが,被控訴人に対し,会社分 割手続の違法や権利濫用・脱法行為等が不法行為に当たるとして,慰謝料各300万円とこれに対する本件不法行為以後の日であり,かつ2004年6月24日付請求の趣旨拡張申立書の送達の日である平成16年6月24日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 原審裁判所は,原審原告 り,かつ2004年6月24日付請求の趣旨拡張申立書の送達の日である平成16年6月24日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 原審裁判所は,原審原告らの請求をすべて棄却したので,原審原告P3,同P4,同P5の3名を除く原審原告12名が控訴をした。なお,当審において,原審原告P6は訴えを取り下げた。 争いのない事実等(1)被控訴人は,コンピューター製造・販売,システム開発等を目的とする株式会社であり,米国法人IBMコーポレーション(以下「IBM」という。)の完全子会社である。 (2)控訴人らは,被控訴人との間で労働契約を締結し,被控訴人のハードディスク(以下「HDD」という。)事業部門に従事していた。また,控訴人らは,全日本金属情報機器労働組合(以下「本件組合」という。)の日本アイ・ビー・エム支部(以下「本件組合支部」という。)の組合員である。 (3)IBMは,平成14年4月ころ,株式会社日立製作所(以下「日立」という。)との間で,HDD事業に特化した合弁会社を設立し,その本社機能をアメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼに置く合意をし,その際,3年後には同社を日立の100%子会社とすること,その対価として日立はIBMに3年間で20億5000万ドルを支払うことなどを合意した。 (4)被控訴人は,遅くとも平成14年9月3日までには,被控訴人のHDD事業部門を会社分割して設立会社とし(簡易分割により被控訴人が100%株式を取得),HDD事業部門の従業員との労働契約も承継営業に含めることで設立会社に移し(以下「移籍」という。),設立会社の株式を合弁会社に譲渡する方針を決定した。 (5)IBMと日立は,平成14年11月27日ころ,IBMが30%,日立が70%の出資持分を持つアメリカ合 社に移し(以下「移籍」という。),設立会社の株式を合弁会社に譲渡する方針を決定した。 (5)IBMと日立は,平成14年11月27日ころ,IBMが30%,日立が70%の出資持分を持つアメリカ合衆国カリフォルニア州法人「ヒタチ・グローバル・ストレージ・テクノロジー」(上記の合弁会社。以下設立の前後を問わず「HGST」という。)を設立した。また,被控訴人は,最終的に,同日,HDD事業部門を新たに設立するストレージ・テクノロジー株式会社(以下「ST」という。)に承継させるため,会社分割の分割計画書等を作成し本店に備え置いた。上記分割計画書には,「新設会社は,分割期日をもって,当社から,別紙2「承継する権利義務」記載のとおり,当社の藤沢事業所におけるハードディスクドライブ開発及び製造に関する営業に係る資産,負債及びこれに付随する一切の権利義務を承継する。なお,新設会社が当社から承継する債務については,本件分割の日をもって,当社が併存的債務引受けを行う。」と記載され,「別紙2承継する権利義務」には,承継する雇用契約として,承継営業に主として従事している労働者の従業員リストが添付され,控訴人らも上記リストに記載されていた。 (6)被控訴人は,平成14年12月25日,旧商法373条の新設分割によりHDD事業部門を会社分割してSTを設立し(以下「本件会社分割」という。),その旨登記した。なお,本件会社分割では,株主総会の承認を要しない簡易分割が採用され,STは普通株式10万株を発行し,その全部を被控訴人に割当・交付するものとされた。 (7)被控訴人は,平成14年12月31日に,所有するSTの株式をすべてHGSTに譲渡した。STは,平成15年1月1日をもって,「日立グローバルストレージテクノロジーズ株式会社」に商号を変更した(同社については は,平成14年12月31日に,所有するSTの株式をすべてHGSTに譲渡した。STは,平成15年1月1日をもって,「日立グローバルストレージテクノロジーズ株式会社」に商号を変更した(同社については,商号変更の前後を通じて便宜「ST」と称する。)。 (8)日立は,平成15年4月1日,日立のHDD事業部門を会社分割(吸収分割)し,STに承継させた。 本件の争点 (1)労働者は,会社分割に伴い自己の労働契約が新設会社等へ承継されることを拒否する権利を有するか否か。 (2)本件会社分割の手続が違法で無効であり,労働契約承継の効果が生じないといえるか否か。 (3)本件会社分割は民法625条1項の脱法行為であり,同意していない労働者について労働契約承継の効果が生じないといえるか否か。 (4)本件会社分割が権利濫用として無効であり,労働契約承継の効果が生じないといえるか否か。 (5)本件会社分割が違法であり,控訴人らに対する不法行為を構成するか,不法行為を構成する場合の損害額いかん。 争点に関する当事者の主張(1)労働者は,会社分割に伴い自己の労働契約が新設会社等へ承継されることを拒否する権利を有するか否か。 (控訴人ら)会社分割法制及び会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下「労働契約承継法」という。)においては,明文上の規定はないが,労働者は,会社分割に伴い自己の労働契約が新設会社等へ承継されることを拒否する権利,すなわち,承継拒否権を有すると解すべきである。この承継拒否権は,憲法13条,18条,22条1項が保障する「使用者選択の自由」に基づき,また,契約締結の自由という契約法上の一般原則に基づき,さらに,会社分割法制及び労働契約承継法の一般債権者に与えられた保護との均衡 13条,18条,22条1項が保障する「使用者選択の自由」に基づき,また,契約締結の自由という契約法上の一般原則に基づき,さらに,会社分割法制及び労働契約承継法の一般債権者に与えられた保護との均衡を図るために解釈上認められるべきである。EC企業譲渡指令3条1項の解釈として,EC司法裁判所は,使用者選択の自由を根拠に承継拒否権があることを認め,労働者の拒否権行使の効果は加盟国の国内法に委ねられ,移転元との雇用関係の維持を定めても自由であるとしている。そして,控訴人らは,自己の労働契約が承継され る旨の通知を受けてから,会社の分割登記までの間に承継拒否権を行使した。 (被控訴人)控訴人らの主張は争う。控訴人らの承継拒否権の主張は,その理論的基礎を欠く。 (2)本件会社分割の手続が違法で無効であり,労働契約承継の効果が生じないといえるか否か。 (控訴人ら)ア平成12年法律第90号商法等の一部を改正する法律附則5条1項(以下「本件改正法附則5条」という。)は,旧商法上の規定に基づく会社分割に伴う労働契約の承継に関しては,会社分割をする会社(以下「分割会社」という。)は,労働契約承継法2条1項の規定による通知をすべき日までに,労働者と協議をするものとすると定めている。そして,労働契約承継法8条の委任に基づく労働省告示第127号「分割会社及び設立会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(以下「指針」という。)によれば,分割会社は分割計画書等の本店備置日までに,承継営業に従事している労働者に対し,当該分割後当該労働者が勤務することとなる会社の概要,当該労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し,本人の希望を聴取した上で,当該労働者に係 ている労働者に対し,当該分割後当該労働者が勤務することとなる会社の概要,当該労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し,本人の希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働契約の承継の有無,承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容,就業場所その他の就業形態等について協議をするものとされている(本件改正法附則5条1項の労働契約の承継に関する労働者との協議〔以下「5条協議」という。〕)。 また,労働契約承継法7条は,分割会社は,当該分割に当たり,厚生労働大臣の定めるところにより,その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとすると定めている。そして,上記指針は,分割会社は,そ のすべての事業場において,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によって,その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとすることとされ,その対象事項としては,①会社の分割を行う背景及び理由,②会社の分割後の分割会社及び設立会社等が負担すべき債務の履行の見込み,③労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かの判別基準,④労働契約承継法6条の労働協約の承継に関する事項,⑤会社の分割に当たり,分割会社又は設立会社と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続などとされているほか,遅くとも5条協議の開始までに開始されることが望ましいとしている(労働契約承継法7条の労働者の理解と協力を得るための措置〔以下「7条措置」という。〕)。 イしかるに,被控訴人が7条措置として行った①従業員代表(過半数代 までに開始されることが望ましいとしている(労働契約承継法7条の労働者の理解と協力を得るための措置〔以下「7条措置」という。〕)。 イしかるに,被控訴人が7条措置として行った①従業員代表(過半数代表者)を4グループに分け,各グループごとに行った協議,②従業員データベースの開設・掲載,③社内イントラネット上の「質問受付窓口」創設とFAQとしての公開,④藤沢事業所ブロック代表らとの協議は,いずれも労働契約承継法7条が要求する水準には遠く及ばず,その方法・態様の点で,7条措置を講じたと評価することはできない。また,その内容においても,設立会社等の資本力や負債額,経営状況や将来の見通しに関連する「債務の履行の見込み」について労働者全体の理解と協力を得るよう努めていない。とりわけ,他社で問題となったHDD瑕疵問題(以下「HDD瑕疵問題」という。)に対するリスク,労働条件の不利益変更の可否,日立との賃金水準の差異について明らかにしていない。 そして,7条措置に重大な不履行があった場合には,労働者保護の趣旨から,会社分割手続に瑕疵があったものとして,設立会社等への労働契約 の承継は効力を生じないと解すべきである。仮に,7条措置違反によって労働契約承継が無効でないとしても,7条措置は5条協議の前提条件であるから,5条協議違反を推定させる重要な判断要素となるというべきである。 ウ次に,被控訴人が5条協議として行った労働組合員以外の従業員に対しての部門ミーティングや課内会議等における所属長の説明では,その方法・態様として5条協議の履行があったと評価することはできない。また,組合員については,組合員が組合に5条協議を委任していたとしても,直接,個別的に説明し,希望を聴取しなければ5条協議を履行したと評価することはできない。さらに,協議の内容において はできない。また,組合員については,組合員が組合に5条協議を委任していたとしても,直接,個別的に説明し,希望を聴取しなければ5条協議を履行したと評価することはできない。さらに,協議の内容においても,7条措置におけるのと同様に「債務の履行の見込み」や承継される営業の経営実態と新設会社の経営の見通し等についての説明が欠如しており,協議義務を履行したということはできない。 そして,5条協議は民法625条の代替措置として位置付けられるのであるから,5条協議違反があった場合には,原則に戻り,個々の労働者の同意がない限り,労働契約が設立会社等に承継されることはない。さらに,5条協議が全くされなかった場合やそれと同視できる場合には会社分割の無効原因となる。 (被控訴人)ア本件会社分割の経緯は次のとおり適法に行われたものであり,その効果として控訴人らと被控訴人との間の労働契約は設立会社に当然承継された。 (ア)被控訴人は,平成14年9月3日,HDD事業部門に関連する被控訴人従業員に対し,役員による口頭説明やイントラネットへの掲載などにより,同人らが同年11月中に本件会社分割に伴い設立会社(ST)に移籍することになる旨等を伝えた。そして,その後,イントラネット上で,従業員から本件会社分割に関する質問を受け付け,電子メールで 返答する質問受付窓口(乙52。以下「質問受付窓口」という。)を開設するとともに,主な質問とその回答(FAQ。乙11)を掲載した。 (イ)被控訴人は,本件会社分割について,労働者の理解と協力を得るべく,以下のような手続を行った。 まず,被控訴人は,被控訴人の業務組織であるブロックごとの代表(以下「ブロック代表」という。)の互選によって各事業所ごとに従業員代表を選出し,これを4つに分け,平成14年9月27日,同月30日,同年 ず,被控訴人は,被控訴人の業務組織であるブロックごとの代表(以下「ブロック代表」という。)の互選によって各事業所ごとに従業員代表を選出し,これを4つに分け,平成14年9月27日,同月30日,同年10月1日,同月2日,これらの者との間で,本件会社分割について協議を行った(甲29。以下「代表者協議」という。)。 次に,被控訴人は,平成14年10月17日,イントラネット上で,代表者協議で使用した資料や議事録等を掲載した従業員代表用のデータベースを設置し,従業員代表がこれを閲覧できるようにした(乙75。 以下「従業員代表データベース」という。)。 被控訴人藤沢事業所従業員代表及び同事業所各ブロック代表が,被控訴人に対し,平成14年9月30日に質問事項を記載した「藤沢事業所要望案」を提出し(甲34。以下「藤沢要望①」という。),同年11月7日には,質問事項を記載した電子メールを送信し(乙26。以下「藤沢要望②」という。),同月14日には,「HDD新会社設立(会社分割)藤沢事業所意見書」(乙30。以下「藤沢要望③」という。)を提出して,被控訴人の回答を求めた。これに対し,被控訴人は,同年10月11日(乙17。以下「藤沢回答①」という。),同年11月13日(乙29。以下「藤沢回答②」という。),それぞれ書面で回答した。 さらに,被控訴人は,藤沢事業所従業員代表及び同事業所ブロック代表の求めに応じ,同年10月17日,同人らと本件会社分割について協議を行った(乙73,74,甲90。以下「藤沢協議」という。)。 他方,被控訴人は,承継営業であるHDD事業に従事する従業員について,労働契約承継法2条1項1号の「主として従事するものとして厚生労働省令で定めるもの」(以下「承継営業に主として従事する労働者」という。)に該当するか否かの判別をし,同年10月4 する従業員について,労働契約承継法2条1項1号の「主として従事するものとして厚生労働省令で定めるもの」(以下「承継営業に主として従事する労働者」という。)に該当するか否かの判別をし,同年10月4日,被控訴人の業務組織であるラインの専門職に対して,同月30日までの間に,これを各従業員に確認し,移籍に納得しない従業員に対しては最低3回の協議を行い,それぞれの従業員の状況()を被控訴人に報告すstatusるよう指示した(乙54)。 これに従い,各ライン専門職は,自分のラインの従業員全員を集めてミーティングを行うなどの方法により,移籍に同意するか否かを確認し,コメントを聴取するなどして,これを被控訴人に報告した(乙55)。 (ウ)以上のとおり,被控訴人は,従業員代表と協議や書面のやりとりを重ね,STの負担すべき債務の履行の見込みなどに関しても,十分理解を得るべく努力を重ねており,労働契約承継法7条に違反していない。 なお,控訴人らは,7条措置に関し,被控訴人が「会社の分割後の分割会社及び設立会社の負担すべき債務の履行の見込み」について理解と協力を得る努力をしていないと主張するが,「債務の履行の見込み」とは,分割時に負担すべき債務の履行の見込みを意味し,分割後将来負担するかもしれない債務の履行の見込みを意味するものではない。 また,仮に,被控訴人の説明が労働契約承継法7条を満たすに足りないとしても,それによって,本件会社分割による移籍の効果が生じないものではない。会社分割は部分的包括承継であり,もともと労働者の個別的同意を要しないから,労働契約承継法7条は個別的同意に代わるものではない。よって,同法違反の法的効果として,労働契約承継の効力が左右されることはない。 (エ)次に,本件組合支部は,平成14年9月19日,HDD事業部門所 継法7条は個別的同意に代わるものではない。よって,同法違反の法的効果として,労働契約承継の効力が左右されることはない。 (エ)次に,本件組合支部は,平成14年9月19日,HDD事業部門所 属の組合員から被控訴人との間で5条協議を行うことを受任し,これを被控訴人に通知した(甲20)。本件組合支部は,上記受任以前から,本件会社分割に関して被控訴人と団体交渉を行っていたほか,被控訴人に対して,同月13日には,要求を記載した要求書(甲15。以下「組合要求」という。)及び質問を記載した質問書(甲16。以下「組合質問①」)という。)を送付し回答を求めていた。そして,被控訴人も,同月19日,書面で回答した(甲19。以下「組合回答①」という。)。 本件組合支部は,その後も,同年10月7日(甲23。以下「組合質問②」という。)及び同月28日(甲35。以下「組合質問③」という。),被控訴人に対して,質問事項を記載した各質問書を送付し回答を求めた。これに対して,被控訴人も,同月9日(甲24。以下「組合回答②」という。)及び同年11月6日(乙23。以下「組合回答③」という。)に,それぞれ書面で回答している。 そして,被控訴人と本件組合支部は,同年9月19日,同年10月2日,同月9日,同月17日,同月22日,同年11月6日,同月12日,5条協議を行った。 指針によれば,5条協議の協議事項は,承継営業に従事する労働者に係る労働契約承継の有無,承継するとした場合又は承継しないとした場合に従事する業務内容,就業場所その他の就業形態等であって,会社分割後労働者が勤務することになる会社の概要,当該労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かを十分説明することや本人の希望を聴取することは,それ自体は5条協議の協議事項ではない。したがって,労働契約承継 ることになる会社の概要,当該労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かを十分説明することや本人の希望を聴取することは,それ自体は5条協議の協議事項ではない。したがって,労働契約承継の対象となる労働者が,労働契約承継の有無等の協議事項について同意している場合には,その点について5条協議を行う必要はない。被控訴人は,本件会社分割に際し,ライン専門職を通じてラインに所属する従業員に対して5条協議を行っている。この点,本 件会社分割においては,HDD事業に従事する従業員のうち,控訴人らを除くほとんどの者が,被控訴人が決定した労働契約承継の有無や会社分割後に従事予定の業務内容,就業場所その他の就業形態等の協議事項について,本人自らの意見として,同意する旨あるいは異議がない旨を表明している。 被控訴人は,本件組合支部に5条協議を委任した者以外のHDD事業の従業員からも,承継営業に主として従事する労働者に当たるか否かの被控訴人の判別について異議の申立てを受けたため,法務部門や各従業員の所属部門と協議の上,これらの者に対して改めて被控訴人の判別結果を伝え,面談などを通じて理解を得るよう努めたほか,承継営業に主として従事する労働者ではないと判別した従業員5名について,本人の同意を得ることなく分割計画書に記載していたことが判明したため,この5名の氏名を削除するなど,従業員からの異議にも適切に対応した。 なお,被控訴人は,同年9月19日,本件組合支部から控訴人ら組合員の5条協議については本件組合及び本件組合支部が委任された旨の連絡を受けたため,控訴人らについては,本件組合支部等を代理人として,5条協議を行った。このようにして行われた被控訴人と本件組合支部等との団体交渉(5条協議)は,6回(同年10月9日,同月17日,同月22日,同月 ,控訴人らについては,本件組合支部等を代理人として,5条協議を行った。このようにして行われた被控訴人と本件組合支部等との団体交渉(5条協議)は,6回(同年10月9日,同月17日,同月22日,同月28日,同年11月6日,同月15日),小委員会(同月12日)も1回行われている。 そして,被控訴人は,本件組合支部に対して,判別基準に従って本件組合支部に5条協議を委任した従業員について承継営業に主として従事する労働者に当たるか否かの判別及びその根拠を伝えたほか,代表者協議で使用した資料とほぼ同様の資料(STの背景,日立の概要,STの概要,事業の概要,承継営業に主として従事する労働者か否かの判別基準,STでの労働条件,今後の日程,異議申立ての方法),STの就業 規則案,代表者協議の議事録,STに承継される福利厚生制度の一覧等を送付したほか,分割計画書等を本店に備置くと同時に,本件組合支部に対しても労働契約承継法に基づく通知を行い,分割計画書,承継される権利義務についての書面,債務の履行の見込みがあることを示す文書等の書類を送付している。 また,被控訴人は,本件組合支部との5条協議の中で,本件組合支部が求める質問に対し,STの債務については承継される労働者の賞与・定期俸と中途退職一時金の引当金が債務となる可能性があるがそれ以外の債務はないこと,HDD製品の瑕疵が生じた場合の処理については日立と被控訴人との合意に基づいて処理されること,その日立と被控訴人との合意は守秘義務があるため開示することはできないこと等を説明している。また,被控訴人は,STの資本金や代表取締役は米国公正取引委員会の認可が下りるまでは発表できないこと,分割計画書等についても本店備置前に開示することはできないことなどを幾度も伝えており,分割計画書の備置きの直前には,口頭 資本金や代表取締役は米国公正取引委員会の認可が下りるまでは発表できないこと,分割計画書等についても本店備置前に開示することはできないことなどを幾度も伝えており,分割計画書の備置きの直前には,口頭ではあるがSTの社名,資本金,役員構成,さらにはHGSTに株式が譲渡された後は社名や役員等について変更されるかもしれない旨を説明している。 被控訴人は,本件組合支部等に5条協議を委任した従業員について,承継営業に主として従事する労働者か否かについての被控訴人の判別基準及び判別結果を伝えたほか,同判別結果と従業員の自己判別が異なった9名については,本件組合支部及び本人の意見を聴いた上で,それら従業員について,承継営業に主として従事する労働者であることを再度説明し,控訴人P7から質問された際には,同控訴人の当時の業務内容は機械系機器の校正であるところ,HDD関連が業務の半分以上を占めるため,承継営業に主として従事する労働者と判別した旨を説明するなどしている。 また,被控訴人は,本件組合支部に対し,日立の労働条件については両者が合意した目的の範囲内でのみ使用することが前提であり開示できないこと,控訴人らが主張するP8の発言(被控訴人の常務取締役であったP8が,藤沢事業所のライン専門職に対して「『給与保障は6か月まで,その後,製造直接員は50%で概算+で理解をするように』,offこの内容を製造員全員に伝えなさい」,との発言〔以下「P8発言」という。〕があったとの噂)は事実ではないことに加え,従業員の労働条件については会社分割後も同等の水準で維持され,承継後に労働条件が変更される場合は変更法理の枠内でしか行えず,合理性のない不利益変更を一方的に行うことはできないことを繰り返し説明した。 被控訴人は,本件組合支部に対して,藤沢事業所の土地建物 れ,承継後に労働条件が変更される場合は変更法理の枠内でしか行えず,合理性のない不利益変更を一方的に行うことはできないことを繰り返し説明した。 被控訴人は,本件組合支部に対して,藤沢事業所の土地建物については,藤沢事業所1100名のうち,労働契約承継の対象となる従業員は800名に及び,使用スペースも藤沢事業所の半分強であり,HDD事業が利用する施設だけを分けることは困難であることから譲渡するとしたこと,野洲事業所のリース契約書は日立との間の守秘義務があり公開できないこと,会社分割や労働条件とは関係ないことを説明した。 (オ)以上のとおり,被控訴人は,本件組合支部の要請の中には5条協議の対象事項に含まれないものもあることを認識しながらも,明らかにすることができるものは説明し,明らかにできないものは理由を説明しているから,誠実に控訴人らと5条協議を行っており,本件改正法附則5条に違反する点はない。なお,同条は協議を行うことを義務付けてはいるが,その結果として合意に達することまで求めているわけではない。 (カ)さらに,会社分割に伴う労働契約承継は部分的包括承継であり,労働者の意思は何ら問題とされないのであるから,仮に労働者に対し本件改正法附則5条違反があったとしても,労働者について移籍の効果が生じないものではない。 イ旧商法は会社分割の無効について分割無効の訴えをもってのみ主張し得るものとしているところ,本件会社分割においては,会社分割無効の訴えは提起されないまま,会社分割の日から既に6か月を経過しており,本件会社分割が有効であることは対世的に確定している(旧商法374条の12第1項)。そして,本件会社分割が全部有効である以上,その一部である労働契約の承継も有効であることは明らかであり,控訴人らの主張は失当である。 この点,控訴 世的に確定している(旧商法374条の12第1項)。そして,本件会社分割が全部有効である以上,その一部である労働契約の承継も有効であることは明らかであり,控訴人らの主張は失当である。 この点,控訴人らは,会社分割の組織法的な効力は争わずに,控訴人らについての労働契約の承継の無効のみを主張することができると解しているようであるが,会社分割の有効性が確定している以上,その組織法的な効果として包括承継された個々の権利義務について承継の無効を主張することはできない。また,そもそも無効とは,当事者が法律行為によって達成しようとした法律効果の発生を阻止する制度であって法律行為の存在を必須の前提とするが,会社分割による権利の移転は分割の登記を行うことによって法律上当然に生ずる包括承継であり,個々の権利義務の承継のための個々の法律行為は存在しないのであるから,本件会社分割の組織法的な効力を問題とせずに控訴人らの労働契約の承継について無効を主張することは不可能である。 (3)本件会社分割は民法625条1項の脱法行為であり,同意していない労働者について労働契約承継の効果が生じないといえるか否か。 (控訴人ら)民法625条1項は,使用者は労働者の承諾を得なければ,その権利を第三者に譲り渡すことができないと規定している。そうであるにもかかわらず,旧商法の会社分割及び労働契約承継法が労働者の移籍についてはその同意を必要としないとしたのは,①会社分割の対象とされるのが営業目的のために組織されている人的・物的設備全体,さらにはこれに得意先関係,仕入先関 係,販売の機会,営業上のノウハウなど経済的価値のある事実関係を加えた全体として有機的一体として機能する会社組織の一部であること,②分割会社の従前からの労働条件が設立会社等に承継されるものとされていること, 機会,営業上のノウハウなど経済的価値のある事実関係を加えた全体として有機的一体として機能する会社組織の一部であること,②分割会社の従前からの労働条件が設立会社等に承継されるものとされていること,③労働者の権利保護のために7条措置や5条協議の義務を分割会社に課することで,当該労働者の権利ないし法的地位の保障にできる限り資するようにされているからである。 しかるに,本件会社分割は,その実態は営業譲渡にすぎず,本件会社分割で成立したSTは6日(当初の予定では1日)しか被控訴人の子会社としては存在しなかった上,不採算部門の切り捨てであって,将来的に労働条件の不利益変更が行われる可能性が強く,7条措置及び5条協議が不十分であって,上記の民法625条1項の同意を不要とした理由を欠き,民法625条1項の脱法行為というべきである。そして,このような場合には,その利用された外形に即した効果は否定され,実態に即した法規制に服するから,原則に戻り民法625条1項が適用される結果,同意していない労働者については労働契約承継の効果は生じない。 (被控訴人)本件会社分割は適法に行われたものであり,民法625条の脱法行為となるものではない。 (4)本件会社分割が権利濫用として無効であり,労働契約承継の効果が生じないといえるか否か。 (控訴人ら)本件会社分割は,①その実態は事業譲渡にほかならず,その手続も簡易分割によって,かつ併存的債務引受けにより債権者異議手続を排除していること,②不採算部門であるHDD事業部門を切り捨てるものであること,③労働条件の切り下げないしそのおそれ・企図がうかがえること,④7条措置や5条協議の義務を尽くしていないことなどからすれば,権利の濫用として無 効というべきである。 (被控訴人)本件会社分割は適法に行われたものであり,権 のおそれ・企図がうかがえること,④7条措置や5条協議の義務を尽くしていないことなどからすれば,権利の濫用として無 効というべきである。 (被控訴人)本件会社分割は適法に行われたものであり,権利濫用には当たらない。 (5)本件会社分割が違法であり,控訴人らに対する不法行為を構成するか,不法行為を構成する場合の損害額いかん。 (控訴人ら)本件会社分割は,その手続に違法な瑕疵があり,また,本件会社分割は権利濫用・脱法行為に当たることから,控訴人らに対する不法行為を構成するというべきである。 控訴人らは,本件会社分割によって,IBM労働者としての誇りを奪われ,精神的苦痛を被った,その苦痛を慰謝するためには,各人300万円の支払をもってするのが相当というべきである。 (被控訴人)控訴人らの主張は争う。 本件会社分割は適法に行われたものであり,脱法行為・権利濫用に当たるものではなく,控訴人らに対する不法行為を構成しない。 第3当裁判所の判断 認定事実当裁判所の認定した事実は,次のとおり訂正,付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3の1(原判決14頁8行目から32頁15行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決14頁9行目の「63,」を削除し,同行目の「108,」の次に「119,」を,同頁10行目の「104」の次に,「,107,118」をそれぞれ加える。 (2)原判決19頁1行目の「P8発言の真偽」を「P8発言,すなわち,P8が製造マネジメントに対し「『給与保証は6か月まで,その後,製造直接 員は50%で概算+で理解をするように』,この内容を製造員全員に伝offえなさい」と発言したことの真偽」と改める。 (3)原判決20頁9行目の「作成されること,」の次に,「持株会社への株式譲渡は,株主構成の変更 +で理解をするように』,この内容を製造員全員に伝offえなさい」と発言したことの真偽」と改める。 (3)原判決20頁9行目の「作成されること,」の次に,「持株会社への株式譲渡は,株主構成の変更であり,従業員の移籍ではないので,就業規則の変更はないこと,」を加える。 (4)原判決21頁6行目から7行目にかけての「被告は,」の次に「福利厚生につき承継ができないものに対する補填の趣旨で,」を加える。 (5)原判決23頁14行目の「①」の次に「会社分割に際しての従業員の移動方法の選択肢として,」を,同頁17行目の「待遇の保障」の次に「をSTに働きかけること」をそれぞれ加え,同行目の「⑤」から20行目の「⑦リストラについては」までを「⑤元日立,元被控訴人の双方の就業規則の一部につきこれを同一にする変更する場合は,元IBM,元日立双方の労働者又はその代表者が議論の上決定するものとし,元日立,元被控訴人で同職位で処遇等の相違等がある場合には,基本的に高い方に合わせること,⑥STの利益が上がらない場合の賃下げの経営判断については」と改め,同頁22行目から23行目にかけての「送付したが,」の次に「その要望書は形式的にも内容からしても質問書として被控訴人に回答を求めるものではないと判断されたことから,」を加える。 (6)原判決24頁5行目の「組合回答①(甲19)」を「同月19日付けの組合回答①(甲18,19)」と改める。 (7)原判決24頁26行目から25頁1行目にかけての「窓口へ提出」の次に「し,5労働日以内に回答」を加える。 (8)原判決25頁5行目から6行目にかけての「P8発言の真偽などについて」を「従業員代表者協議会でP8常務が『IBMの製造直接者の給与は日本の電機業界の中では高い。もし新会社で業績が悪化した場合,日立の直接作業者の方 目から6行目にかけての「P8発言の真偽などについて」を「従業員代表者協議会でP8常務が『IBMの製造直接者の給与は日本の電機業界の中では高い。もし新会社で業績が悪化した場合,日立の直接作業者の方と同じ給与まで下がる可能性がある』という旨発言したがどうか などについて」と改め,同頁10行目冒頭から11行目末尾までを「代表者協議会の場でそのような発言をしておらず,代表者協議会の後,藤沢事業所従業員代表に対し,仮に新会社の業績が不振になった場合には,給与を下げざるを得ない状況になるので,皆で頑張ろうという趣旨の発言をしたにすぎない」と改める。 (9)原判決28頁22行目の「審理手続」を「審査手続」と改める。 (10)原判決29頁11行目の「平成14年11月15日,」の次に,「前記のとおり,会社分割に関する団体交渉において,具体的な資料を示すなど,誠意をもって交渉することを内容とする勧告を前提とした」を加える。 (11)原判決30頁2行目末尾の次に「また,「債務の履行の見込みがあることに関する書面」においては,STが承継する資産及び負債の同年9月30日現在の簿価は,114億8500万円及び3億9000万円であること,本件分割後被控訴人に残る資産及び負債の同日現在における簿価は,9745億4700万円及び5109億9300万円であること,被控訴人及びSTの本件会社分割後の各事業活動において被控訴人及びSTの負担する各債務履行に支障を及ぼす事態の発生は現在予想されておらず,被控訴人及びSTは,いずれも分割日以降の弁済期が到来する債務につき履行の見込みがあることが記載されていた。」を加える。 (12)原判決31頁8行目の「赤字幅の圧縮」を「生産効率化」と,同頁10行目の「上記のとおりとなった」を「赤字幅の圧縮が達成されたと述べている。」 込みがあることが記載されていた。」を加える。 (12)原判決31頁8行目の「赤字幅の圧縮」を「生産効率化」と,同頁10行目の「上記のとおりとなった」を「赤字幅の圧縮が達成されたと述べている。」とそれぞれ改める。 (13)原判決31頁23行目から24行目にかけての「発言をした。」を「発言をしたが,他方,HGSTのP9CEOは,平成18年11月作成の内部文書に,「HDD事業から撤退する予定はありません。」,「もし撤退を予定しているならば,これらの設備投資を行うはずはありません。」と記載し,社内向けにHDD事業からの撤退の予定がないことを明言している。」と改 め,同頁24行目末尾次に改行して,「日立は,平成19年12月頃,同20年3月期のHDD事業の営業赤字が368億円と見込まれ,ST取得後の累積損失も1200億円に達しそうなことから,HDD事業からの撤退は否定したものの,投資ファンドから資金を受け入れ,HDD事業の再建を目指す方針を固めた。」を加える。 認定事実に基づく判断(1)労働者は,会社分割に伴い自己の労働契約が新設会社等へ承継されることを拒否する権利を有するか否か(争点(1))。 争点(1)に対する判断は,原判決「事実及び理由」欄の第3の4(原判決40頁1行目から41頁15行目の「原告らの主張を根拠付けるものではない。」まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決40頁3行目の「21条」を「22条」と改め,41頁6行目の「また,」の次に「労働者の地位及び契約内容(労働条件を含む。)は,分割会社で個別の合意や労働協約による場合を除き,分割会社におけるそれがそのまま承継され,分割により直ちに労働条件の切下げ等の変更を行うことはできないものであり,」を加える。 (2)本件会社分割の手続が違法で無効であ や労働協約による場合を除き,分割会社におけるそれがそのまま承継され,分割により直ちに労働条件の切下げ等の変更を行うことはできないものであり,」を加える。 (2)本件会社分割の手続が違法で無効であり,労働契約承継の効果が生じないといえるか否か(争点(2))。 ア会社分割手続においては,労働者保護のために,本件改正法附則5条1項及び労働契約承継法7条が設けられている。そこで,まず,5条協議違反及び7条措置違反があった場合に,いかなる法的効果が生ずるかについて検討を加える。 (ア)会社分割の効力が生じると,設立会社は,分割計画書の記載に従い,分割会社の権利義務を包括的に当然承継する。分割会社から設立会社に承継される権利義務については,分割計画書に記載されなければならないとされ,この場合,承継される営業を構成する雇用契約も,承継する 権利義務に含まれるものとされている。 本件改正法附則5条2項は,前項の労働契約の承継に関連して必要となる労働者の保護に関しては,別に法律で定めるとしており,同項を受けて,労働契約承継法が制定されている。 労働契約承継法は,分割会社は,所定の通知期限日までに,分割によって承継される営業に主として従事する労働者,それ以外の労働者で分割によって設立会社に承継されるもの及び労働組合に対し,これらの労働者に係る労働契約又は労働協約を承継する旨が分割計画書に記載されているかどうかを書面で通知しなければならないと定めている(2条)。 承継対象の営業に主として従事している労働者に係る労働契約が分割計画書に記載された場合には,その労働契約は,その労働者の同意なくして当然に分割によって承継されるものであり(3条),この場合には,合併の場合と同様に,使用者は労務者の承諾がなければその権利を第三者に譲渡できないとする民法625 労働契約は,その労働者の同意なくして当然に分割によって承継されるものであり(3条),この場合には,合併の場合と同様に,使用者は労務者の承諾がなければその権利を第三者に譲渡できないとする民法625条1項の適用はないとされている。 そして,営業に主として従事している労働者,営業に従として従事している労働者に対しては,それぞれに応じた異議権が規定されている(4条,5条)。 (イ)労働契約承継法7条によれば,分割会社は,当該分割に当たり,厚生労働大臣の定めるところにより,その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとすると定められている。この規定は,会社分割を巡る労働法上の諸問題について,労働者の意思を反映させることを目的とするものである。また,この規定を受けて,会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則(平成18年厚生労働省令第116号による改正前のもの。)4条は,分割会社は,当該会社分割に当たり,そのすべての事業場において,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織 する労働者がない場合においては労働者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によって,その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとすると定めている。この規定の趣旨を踏まえて,指針第2の4(2)は,上記の「労働者の理解と協力を得る努力」の内容について,協議の方法は,そのすべての事業場において,当該事業場に,事業場の過半数労働者で組織する労働組合があればその組合,なければ過半数代表者との協議その他これに準ずる方法によるものとし,協議の対象事項については,(イ)会社分割をする背景及び理由,(ロ)効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項,(ハ)労 協議その他これに準ずる方法によるものとし,協議の対象事項については,(イ)会社分割をする背景及び理由,(ロ)効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項,(ハ)労働者が労働契約承継法2条1項1号に掲げる労働者に該当するか否かの判断基準,(ニ)労働契約承継法6条の労働協約の承継に関する事項,(ホ)会社分割に当たり,分割会社又は承継会社等と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続が含まれると定めている。 労働契約承継法7条の規定は,その文言から明らかなとおり,分割会社に対し,承継営業に主として従事する労働者の労働契約の承継を含む会社分割について,分割会社の全労働者を対象として,その理解と協力が得られるよう努力する義務を課したものであり,したがって,仮に7条措置が十分に行われなかったとしても,そのことから,当然に会社分割の効力に影響を及ぼすものということはできず,仮に影響を及ぼすことがあったとしても,せいぜい5条協議が不十分であることを事実上推定させるに止まるものというべきである。 (ウ)次に,本件改正法附則5条1項によれば,会社分割に伴う労働契約の承継に関しては,分割会社は,分割計画書を本店に備え置く日まで(簡易分割の際には分割契約書が作成された日から起算して2週間前まで)に,労働者と協議をするものとすると定められている。 会社分割により,一体の営業を単位として権利義務の包括的承継が行われ,労働契約についても例外でなく,民法625条の適用はなく,労働者の個別の同意を要せず,営業を構成する労働契約上の地位が当然に承継されることとされているが,上記規定は,労働契約の特殊性から,会社分割により,労働者の地位に重大な変更を生じ得ることから,分割会社に対し労働者本人との協議 営業を構成する労働契約上の地位が当然に承継されることとされているが,上記規定は,労働契約の特殊性から,会社分割により,労働者の地位に重大な変更を生じ得ることから,分割会社に対し労働者本人との協議を義務づけ,その意向を十分に聴取し,できる限りこれを斟酌すべきことを定めたものと解される。 指針第2の4(1)によると,5条協議においては,分割会社は,当該労働者に対し,分割計画書を本店に備え置くべき日までに,承継される営業に従事している労働者と,労働契約の承継に関して協議するものとし,具体的には,当該労働者が勤務することとなる会社の概要,当該労働者が労働契約承継法2条1項1号に掲げる労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し,本人の希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働契約の承継の有無,承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容,就業場所その他の就業形態等について協議をするものとされている。もっとも,分割会社は,当該労働者と協議を行うことが義務づけられるのであって,協議の成立までも要求されているものではないと解される。 本件改正法附則5条違反の効果を定めた明文の規定はなく,その効果は解釈に委ねられているというほかない。そこで検討するに,分割会社が5条協議義務に違反したときは,分割手続の瑕疵となり,特に分割会社が5条協議を全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合には,分割の無効原因となり得るものと解されるが,その義務違反が一部の労働者との間で生じたにすぎない場合等に,これを分割無効の原因とするのは相当でなく,将来の労働契約上の債権を有するにすぎない労働者には分割無効の訴えの提起権が認められていないと解されること からしても,5条協議義務違反があった場合には,一定の要件の下に, とするのは相当でなく,将来の労働契約上の債権を有するにすぎない労働者には分割無効の訴えの提起権が認められていないと解されること からしても,5条協議義務違反があった場合には,一定の要件の下に,労働契約の承継に異議のある労働者について,分割会社との間で労働契約の承継の効力を争うことができるようにして個別の解決が図られるべきものである。そして,会社分割においては,承継営業に主として従事する労働者等の労働契約を含め分割計画書に記載されたすべての権利義務が包括的に新設会社に承継される仕組みが取られており,会社分割制度においては,その制度目的から,会社分割により労働契約が承継される新設会社が分割会社より規模,資本力等において劣ることになるといった,会社分割により通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益は当該労働者において甘受すべきものとされているものと考えられること,分割手続に瑕疵がありこれが分割無効原因になるときは分割無効の訴えによらなければこれを主張できないとされており,個々の労働者に労働契約の承継の効果を争わせることは,この分割無効の訴えの制度の例外を認めるものであり,会社分割によって形成された法律関係の安定を阻害するものであることを考慮すれば,労働者が5条協議義務違反を主張して労働契約の承継の効果を争うことができるのは,このような会社分割による権利義務の承継関係の早期確定と安定の要請を考慮してもなお労働者の利益保護を優先させる必要があると考えられる場合に限定されるというべきである。この見地に立ってみれば,会社分割による労働契約の承継に異議のある労働者は,分割会社が,5条協議を全く行わなかった場合若しくは実質的にこれと同視し得る場合,または,5条協議の態様,内容がこれを義務づけた上記規定の趣旨を没却するものであり 働契約の承継に異議のある労働者は,分割会社が,5条協議を全く行わなかった場合若しくは実質的にこれと同視し得る場合,または,5条協議の態様,内容がこれを義務づけた上記規定の趣旨を没却するものであり,そのため,当該労働者が会社分割により通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益を超える著しい不利益を被ることとなる場合に限って,当該労働者に係る労働契約を承継対象として分割計画書に記載する要件が欠けていることを主張して,分割会社と の関係で,労働契約の承継の効果を争うことができるものと解するのが相当であるというべきである。 (エ)5条協議義務違反及び7条措置違反があった場合に生ずる法的効果については上記説示のとおり解するのが相当である。そこで,以下においては,この解釈に基づいて,控訴人らが,本件において,被控訴人の5条協議義務違反を理由に,控訴人らの労働契約について本件会社分割による承継の効果が生じないということができるか否かについて判断する。 イまず,7条措置が労働契約承継法7条の規定の趣旨に沿って適正に行われたか否かについて検討する。 (ア)分割会社が,会社分割についてその雇用する労働者の理解と協力を得るためのの方法,内容について労働契約承継法規則4条及び指針が定めるところは,前記ア(イ)に記載したとおりである。 (イ)前記認定事実によれば,被控訴人は,7条措置を講ずるに当たり,被控訴人には労働者の過半数で組織する労働組合がないため,被控訴人は,従業員から各ブロックごとにブロック代表を選出するよう要請し,その互選により,各事業所ごとに従業員代表が選出されたこと,そして,被控訴人は上記従業員代表らを4つのグループに分け,4日間にわたって代表者協議を行い,その席上においては,STの中核となる藤沢事業所の概要や日立及 各事業所ごとに従業員代表が選出されたこと,そして,被控訴人は上記従業員代表らを4つのグループに分け,4日間にわたって代表者協議を行い,その席上においては,STの中核となる藤沢事業所の概要や日立及び同社のHDD事業部の概要など関係するHDD事業部門の状況,本件会社分割の背景・目的,STの事業の概要,移籍対象となる部署と今後の日程,移籍する従業員のSTにおける処遇,承継営業に主として従事する労働者か否かの判別基準,労使間で問題が生じた場合の問題解決の方法等について説明したこと,なお,被控訴人は,代表者協議の質疑応答の中で,債務の履行の見込みの説明がなかったことを問われて「今回引き継がれる債務というのは少なくとも日本IBMか ら分社するという局面においては,引き継がれる債務というのは形式的なものにとどまりますので,この会社分割の手続中で説明しなければならないようなクリティカルなボリュームの債務は特にないという認識をしているということから,特にそこの部分についての説明の時間というのは設けませんでした。」と回答したことが認められる。 また,被控訴人は,代表者協議とは別に,HDD事業部門に関連する従業員向けに,イントラネット上で,上記従業員が同年11月中に会社分割によりSTに移籍すること,STには平成15年の早い時期に日立のHDD事業部門が合流すること,STにおける処遇は労働契約承継法に基づき現在と同等の水準が維持されること等を通知し,さらに,イントラネット上にSTへの移籍に対する質問受付窓口を開設して,FAQで主な質問と回答を掲載したこと,このFAQにおいては,本件会社分割の背景,目的,会社分割に当たっては,分割会社及び新設会社ともに,分割後,債務の履行の見込みが存すると考えていること,労働者が労働契約承継法2条1項1号に掲げる労働者 FAQにおいては,本件会社分割の背景,目的,会社分割に当たっては,分割会社及び新設会社ともに,分割後,債務の履行の見込みが存すると考えていること,労働者が労働契約承継法2条1項1号に掲げる労働者に該当するか否かの判断基準,移籍する社員については雇用関係の継続性が保たれること,現在利用中の福利厚生等の新設会社の下での取扱い等が説明されていることが認められる。 これらの事実によれば,被控訴人は,本件会社分割について,指定の定めるところに従い,その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めたものと評価できるのであって,7条措置が不十分であったものとは認められない。 (ウ)控訴人らは,被控訴人が行った7条措置については,その協議・態様の点で要求される水準には遠く及ばないものである上,内容としても,「債務の履行の見込み」について労働者の理解と協力を得るよう努めていない,HDD瑕疵問題に対するリスク,労働条件の不利益変更の可否, 日立との賃金水準の差異について明らかにしておらず,努力義務に不履行がある旨を主張する。 しかしながら,被控訴人の7条措置の方法としては,前記認定のとおり,従業員代表の人数が被控訴人全体において70人に及んだことから,被控訴人が4グループに分けて協議を実施したものであり,被控訴人は,後日,従業員代表データベースにおいて各代表者協議の議事内容を明らかにしているから,従業員代表は,自らが出席しなかった代表者協議の議事内容等を知り得る状況にあったものである。なお,被控訴人は,従業員代表に対して,議事内容を他の従業員に説明することを求めなかったし,上記従業員データベースについては,従業員代表ではない一般の従業員からはアクセスができなかったものである(証人P10)ことによると,各従業員に対して代表者協議の内容を理解させると を求めなかったし,上記従業員データベースについては,従業員代表ではない一般の従業員からはアクセスができなかったものである(証人P10)ことによると,各従業員に対して代表者協議の内容を理解させるという点では代表者にその説明を求め,あるいは従業員代表データベースへのアクセスを可能にすることがより望ましいものであったとは考えられるものの,他方で,イントラネット上でFAQが開示されていることも考慮すれば,これらが行われなかったからといって,労働者の理解と協力を得る努力を欠いたとまで評価することはできない(藤沢事業所の代表は,藤沢要望①~③を作成していることによると,代表者協議の内容を従業員に説明したものと推測される。)。 また,「債務の履行の見込み」については,平成14年10月11日付の藤沢回答①(乙17)において,HDD事業部門(STD)のビジネスに関連する被控訴人の債務を被控訴人100%子会社に承継させる予定はないことを明記しているほか,被控訴人が藤沢事業所従業員代表に送付した同年11月13日付の藤沢回答②(乙29)においても,承継される債務は,雇用契約の承継に伴い承継される債務((1)中途退職一時金積立額,(2)未払賞与及び定期俸計上の合計額)368百万円で あることを説明していること,HDD瑕疵問題に対するリスクについては,保証義務の分担は日立とIBM間の合意に基づいて処理され,当然にSTが負担するものではないが,製品の保証については一義的な対応窓口はSTが行うことになると説明されていることや,労働条件の不利益変更の可否については労働法の保護法理が働く旨を説明していることからすれば,これらの事項について7条措置として不適切であったということはできない。そして,設立会社発足後の従業員の給与自体は,上記「承継される債務」に該当 働法の保護法理が働く旨を説明していることからすれば,これらの事項について7条措置として不適切であったということはできない。そして,設立会社発足後の従業員の給与自体は,上記「承継される債務」に該当しないから,その履行可能性について十分な説明がなかったとしても,7条措置を尽くさなかったことになるものではない。なお,日立との賃金水準の差異については,他社(日立)の賃金にかかわることであることからすると,被控訴人が説明できる立場にないとしたことが不適切であると評価することはできない。 (エ)そうすると,本件会社分割において,被控訴人に後記の5条協議義務違反に結びつくような7条措置義務違反があったとは到底いえず,この点についての控訴人らの主張は理由がない。 ウ次に,被控訴人が行った労働者との5条協議が本件改正法附則5条の規定の趣旨を没却するもので,同規定に違反するものであったか否かについて検討する。 (ア)前記ア(ウ)に記載したとおり,指針によれば,分割会社は,分割計画書等の本店備置日までに,承継営業に従事している労働者に対し,当該分割後当該労働者が勤務することとなる会社の概要,当該労働者が承継営業に主として従事する労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し,本人の希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働契約の承継の有無,承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容,就業場所その他の就業形態等について協議をするものとされている。 (イ)前記認定事実によれば,被控訴人は,HDD事業に従事するライン専門職に対して,STの就業規則等案及び代表者協議で使用した従業員代表用の説明資料を送付し,約1か月の期間を設定して,上記各資料に基づいて,各ライン従業員に会社分割による移籍等について説明させる ン専門職に対して,STの就業規則等案及び代表者協議で使用した従業員代表用の説明資料を送付し,約1か月の期間を設定して,上記各資料に基づいて,各ライン従業員に会社分割による移籍等について説明させることとしたこと,その際,移籍に納得しない従業員については最低3回の協議を行うよう指示したこと,これを受けて,HDD事業部門のライン専門職は,自分のラインの従業員全員を集めた上で説明会を開き,上記従業員代表用の説明資料を示すなどの方法により,移籍に同意するか否か及び本件会社分割についてのコメントを聞くなどして,各従業員の状況を人事に報告したこと,その結果は,多数の従業員が移籍に同意する意向を示したことが認められる。もっとも,HDD事業部門の従業員約800名中77名が回答したアンケート結果中には,分割後の業務の内容,就業場所については質問しても分からないことが多かった,全体的な雰囲気としては社員に対して十分説明がされたとは思われない,断ることができないか否かは別にしても本人の同意を明確にすべきであった,個別協議というよりは行くか辞めるかの意思確認であった,ライン担当からはただ移籍してくれの一点張り,選択の余地なく,これを与えていない,無理矢理の一言,辞めた場合,一時金が出るなどの話はあったが他は覚えていない,同意をとるような話はなく,一方的に決定されたことを伝えられた感じ,上司は判っている範囲内では説明をしてくれたと思ってるが,HDDに関わっている人はすべて新会社へ行くか会社を辞めるかしか選べないといわれた,部で何回か説明があったが,マネージャーの答えられる範囲での説明で詳しいことは人事に聞いてくれと言われ,個人的に日立に行くか行かないかの選択はないと感じられた,最初に新会社の説明がありマネージャーに配られたパッケージを使って課員に説明し 答えられる範囲での説明で詳しいことは人事に聞いてくれと言われ,個人的に日立に行くか行かないかの選択はないと感じられた,最初に新会社の説明がありマネージャーに配られたパッケージを使って課員に説明し最後に新会社に行くか行かないかのサインを促され,個人 的に行かないときは会社を辞めるしかないと思いサインしたなどの回答が寄せられており(甲59),マネージャーの説明や協議方法にはばらつきがあったことが窺える。しかし,5条協議の方法については,逐一,個別面談の方法によらなければならないものではなく(会社の指示では,移籍に納得しない従業員に対しては最低3回の協議を行うこととされていることからすれば,課内の説明会で納得しない従業員に対しては,その後,個別の協議を行うことが予定されており,個別協議に至らなかった従業員についてはラインでの説明会で移籍に同意していたと考えられる。),ラインでの説明会によったことが5条協議の方法として本件改正法附則5条の趣旨に沿わないものということにはならないし,ライン専門職を通じた上記協議をもって,本件改正法附則5条の趣旨を没却するもので,同規定に違反するものということは困難である。 労働組合員については,被控訴人がライン専門職を通じた5条協議が行われる以前の平成14年9月19日に本件組合支部が控訴人らを含む労働組合員から委任を受けて,被控訴人に対し5条協議の申し入れをし,そこで,被控訴人は,労働組合員については,本件組合支部との間で5条協議を行い,合計7回にわたって協議が行われたこと,この協議の中では,控訴人らは出向を希望して移籍に反対する旨の意思を表明していたこと,被控訴人は,本件組合支部に対して,代表者協議で従業員代表の送付した書類を送付しているほか,組合から書面でされた要求・質問に対する各回答書面を送付し 望して移籍に反対する旨の意思を表明していたこと,被控訴人は,本件組合支部に対して,代表者協議で従業員代表の送付した書類を送付しているほか,組合から書面でされた要求・質問に対する各回答書面を送付していること,被控訴人と本件組合支部等との協議内容は前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第3の1(4)のとおりであったことが認められる。 上記の事実からすると,被控訴人が本件組合支部との間で行った5条協議の手続は,指針が定める「当該効力発生日以後当該労働者が勤務することとなる会社の概要」,「当該労働者が労働契約承継法2条1項1 号に掲げる労働者に該当するか否かの考え方等」が説明されていること,本人の希望については,控訴人らが出向を希望して移籍に反対の意向を表明していることからすれば,これを聴取したと評価することができること,「当該労働者に係る労働契約の承継の有無」,「承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容」,「就業場所その他の就業形態等」についても協議を行ったということができる。そして,その協議の内容も,労働契約の承継に関して必要かつ十分な内容の協議が行なわれたものと認めることができる。 (ウ)これに対し,控訴人らは,労働組合員が本件組合支部等に5条協議を委任していたとしても,労働組合員に直接,個別的に説明し,希望を聴取しなければ5条協議を履行したと評価することはできないと主張し,さらに,本件組合支部と行った5条協議の内容においても,7条措置におけるのと同様に,「債務の履行の見込み」や承継される営業の経営実態と設立会社の経営の見通し,将来の労働条件等についての説明が欠如しており,被控訴人が行った5条協議は違法である旨を主張する。 しかし,前記認定のとおり,本件組合支部との間で行われた れる営業の経営実態と設立会社の経営の見通し,将来の労働条件等についての説明が欠如しており,被控訴人が行った5条協議は違法である旨を主張する。 しかし,前記認定のとおり,本件組合支部との間で行われた5条協議においては,被控訴人は,会社の概要の説明につきST(控訴人らがいうA社)が行うべき業務やその生産拠点等について説明し,労働契約の承継の手続は労働契約承継法に従って行うことを回答しており,これ以上にSTの営業計画の詳細や,日立の合流後の控訴人らのいうB社,C社という本件会社分割後の将来における概要等についてまで説明する義務があるものではない。また,将来的にSTにおける労働条件の引下げがあるか否か,野洲営業所が将来的に維持されるか否かについては,いずれも本件会社分割後の将来の事柄であり,ST(B社又はC社以降のことと考えられる。)の経営判断に属することである。 被控訴人は,上記の各点について,①B社及びC社の本店所在地や代表取締役,資本金については米国連邦公正取引委員会の認可が下り次第知らせること,②A社は藤沢事業所の敷地及び建物のすべてを所有する予定であるが,野洲事業所の敷地及び建物を所有する予定はないこと,野洲事業所については,被控訴人が所有主としてA社に貸与することになり,賃貸期間は4年であること,③A社に相当するHDD事業部門の売上,売上原価,経費,利益,出荷台数については経営に関わる機密事項であるから知らせることはできないが,現状において同業他社と同様,HDD部門としての売上が低迷し,また,利益の確保が困難となっていることは事実であること,専業メーカーになれば自動的に利益が出るのではなく,IBMと日立の強みを重ねて活かすことでメリットが得られ,新たな成長のプロセスに入ることができると考えていること,④HDD事業部門の 実であること,専業メーカーになれば自動的に利益が出るのではなく,IBMと日立の強みを重ねて活かすことでメリットが得られ,新たな成長のプロセスに入ることができると考えていること,④HDD事業部門のビジネスに関連する被控訴人の債務をA社に承継させる予定はないこと,HDD瑕疵問題について,保証義務の分担に関しては,日立とIBM間の合意に基づいて処理されることとなっており,当然に新会社が負担するものではないこと,⑤日立の財務資料やそのHDD部門の実績等については被控訴人が回答する立場になく,また,日立の賃金,労働条件等の開示要求には応じられないこと,⑥C社設立後における重複部門の人員再配置計画,生産拠点の計画及び親会社における国際的生産拠点の統廃合については,C社及びその親会社の経営方針に基づくが,職種変更や赴任に伴う異動その他労働条件の変更がある場合には,労働法の労働者保護法理の適用を受けること,労働条件の引き下げについての交渉はSTでやってもらうしかないこと,承継された労働契約期間については法律には明記されていないが社会通念や常識に従うこと,日立に対して被控訴人の処遇制度を説明しており,日立も基本的な雇用と労働条件は維持すると回答しているが,その後変わる可能性はあることな どと回答したこと認められるが,上記説示したところからすれば,被控訴人がこのような回答をしたことを不誠実ということはできず,このことをもって被控訴人が協議義務を尽くしていないということになるものではない。 そして,本件会社分割は,被控訴人の藤沢事業所を中心とするHDD事業部門を設立会社に移転させるものであり,当該事業に係る労働契約を含めた権利義務関係が包括的に設立会社に承継されることを前提としているものであるから,承継営業に主として従事する労働者に該当する控訴 業部門を設立会社に移転させるものであり,当該事業に係る労働契約を含めた権利義務関係が包括的に設立会社に承継されることを前提としているものであるから,承継営業に主として従事する労働者に該当する控訴人らについて,在籍出向はないことや被控訴人内における配置転換の可能性がないと回答したことはやむを得ないことというべきである。 さらに,控訴人らは本件組合支部等に5条協議を行うことを委任したのであり,これに基づいて被控訴人と本件組合支部等との間で5条協議が行われたものであるから,控訴人らからの申し出もないのに,それとは別に,さらに控訴人ら個々人と被控訴人が5条協議を行わなければならないものではないし,本件組合支部は,被控訴人に対して,委任を行った個々の組合員に対する個別交渉を控えるよう求めていたのであるから(甲20),被控訴人が,重ねて,個々の組合員との個別協議を行うべきものとする理由はない。控訴人らの上記主張は理由がない。 (エ)以上のとおり,被控訴人が5条協議を全く行わなかったとか,被控訴人が行った5条協議が実質的にこれを行わなかったと同視し得る程度のものであったとは到底いえない。また,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,承継営業に主として従事する労働者についてはすべて分割に伴う労働契約の承継の対象とし,その余の労働者についてはその承継の対象としておらず,労働者が承継営業に主として従事しているか,従として従事しているかの判定について,被控訴人と控訴人らとの間に判断の相違はなかったこと,被控訴人は,承継営業に主とし て従事する労働者らが分割後に従事することが予定されている業務の内容,就業場所その他の就業形態等については,分割前と後で変更があることは予定されていなかったことから,その旨労働者に説明していることが認められ,こ 者らが分割後に従事することが予定されている業務の内容,就業場所その他の就業形態等については,分割前と後で変更があることは予定されていなかったことから,その旨労働者に説明していることが認められ,このことを前提にして上記5条協議の態様,内容をみれば,被控訴人と控訴人らを含む労働組合員との間の5条協議が,本件改正法附則5条の趣旨を没却するもので,同規定違反の瑕疵を帯び,そのため,控訴人らが本件会社分割により通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益を超えて著しい不利益を被ることになるとは認められない。 控訴人らは,使用者が複数部門を有する巨大企業から単部門の規模の小さい企業になり,相対的にランク下位の企業へ変わること,相対的に低位の労働条件を引き継いだ他社からの移籍組と同居させられるといった,労働条件悪化等の契機がもたらされたこと,IBMの労働者としての誇りを奪われたこと,新設会社において,賃上げ幅の縮小,基本給の頭打ち等基本的労働条件が悪化していること等,本件会社分割による労働承継により不利益を受けているとし,被控訴人が5条協議等を誠実に行っていれば,これら危惧されていた不利益に関する情報が組合に知らされ,控訴人らを含む組合員を在籍出向とする必要性が判明し,それらの措置が講じられることになり,不利益を回避することができたなどと主張するけれども,控訴人らが主張する不利益は,仮にそのような不利益が生じていたとしても,会社分割により通常生じると想定される事態がもたらす可能性のある不利益の範囲内に止まるものというべきであり,被控訴人において,これらの不利益を解消すべく在籍出向を検討するなどの協議を行うことまで法律上要請されていたと解することはできない。 したがって,5条協議が本件改正法附則5条の規定に違反する瑕疵のあるものである いて,これらの不利益を解消すべく在籍出向を検討するなどの協議を行うことまで法律上要請されていたと解することはできない。 したがって,5条協議が本件改正法附則5条の規定に違反する瑕疵のあるものであるとして,控訴人らの関係で本件会社分割による労働契約 承継の効果が生じないとする控訴人らの主張は,これを主張するための前提要件を欠き理由がないというべきである。 (3)本件会社分割は民法625条1項の脱法行為であり,同意していない労働者について労働契約承継の効果が生じないといえるか否か(争点(3))及び本件会社分割が権利濫用として無効であり,労働契約承継の効果が生じないといえるか否か(争点(4))。 争点(3)及び争点(4)に対する判断は,原判決「事実及び理由」欄の第3の5(原判決41頁23行目から43頁2行目まで)及び6(原判決43頁4行目から44頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決42頁26行目の「本件で実施された」から43頁1行目の「瑕疵は認められないこと」までを「本件で実施された7条措置及び5条協議には,労働契約承継法7条及び本件改正法附則5条の規定に違反する瑕疵があるとは認められないこと」と改める。 (4)本件会社分割が違法であり,控訴人らに対する不法行為を構成するか,不法行為を構成する場合の損害額いかん(争点(5))。 以上に説示したとおり,本件会社分割において被控訴人が実施した5条協議や7条措置が違法であるとは認められず,また,本件会社分割が脱法行為あるいは権利濫用行為に当たると認めることも困難であり,したがって,本件会社分割によって控訴人らにSTへの移籍の効果が生じたことについても違法とはいえないのであるから,本件会社分割が控訴人らに対する不法行為を構成するものではないというべきである。 ,したがって,本件会社分割によって控訴人らにSTへの移籍の効果が生じたことについても違法とはいえないのであるから,本件会社分割が控訴人らに対する不法行為を構成するものではないというべきである。 争点(5)のうち,損害額については判断の限りではない。 第4 結論 以上の次第で,控訴人らの本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきものである。よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第19民事部裁判長裁判官青柳馨裁判官長久保守夫裁判官豊田建夫は,填補のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官青柳馨
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