平成23(行ケ)10150 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年10月24日 知的財産高等裁判所 1部 判決 請求棄却
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判決文本文7,556 文字)

- 1 -平成23年10月24日判決言渡平成23年(行ケ)第10150号審決取消請求事件(商標)口頭弁論終結日平成23年9月5日判決原告 X訴訟代理人弁理士辻永和徳被告株式会社ユニスター 訴訟代理人弁理士広瀬文彦同末岡秀文 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2008-890066号事件について平成22年12月21日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,被告が,下記登録商標(本件商標)につき,その商標権者である原告を被請求人として商標登録無効審判請求を提起したところ,特許庁から平成21年8月17日付けで請求不成立の審決(第1次審決)を受けたが,その審決取消訴訟において,当庁から審決取消しの判決がなされ確定したため,再び特許庁において審理がなされ,特許庁が上記判決に従い上記商標登録を無効とする旨の審決(第2次審決)をしたことから,これに不服の原告が第2次審決の取消しを求めた事案である。 - 2 -記(商標) (指定商品)第9類半導体,コンピュータ用メインボード,プリント回路基板,コンピュータ用プログラムを記 記(商標) (指定商品)第9類半導体,コンピュータ用メインボード,プリント回路基板,コンピュータ用プログラムを記憶させた記録媒体,パーソナルコンピュータ 2 争点は,審決が行政事件訴訟法33条にいう取消判決の拘束力に従ってなされたものであるか,等である。 第3 当事者の主張 1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア原告は,下記内容の本件商標の商標権者である。 記・商標法38条の32第2項によるみなし出願日平成15年(2003年)9月18日・出願日平成19年3月8日・登録日平成19年8月24日・登録番号第5072102号イ被告は,平成20年8月29日,原告のなした本件商標登録は商標法4条1項7号(公序良俗)・8号(著名商標)・10号(周知商標)・15号(混同)・19号(不正目的)及び3条1項柱書き(非使用)に違反してなされたものであるとして,本件商標登録の無効審判を請求(以下「本件無効審判請求」という。)をしたところ,特許庁は,同請求を無効2008-890066号事件として審理した上,平成21年8月17日「本- 3 -件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(第1次審決)をした。 ウこれに対し被告は,当庁に上記第1次審決の取消訴訟(平成21年(行ケ)第10297号)を提起したところ,当庁は,平成22年8月19日,本件商標に商標法4条1項7号を適用することができないとした第1次審決は誤りであるとして第1次審決を取り消す旨の判決(以下「前判決」という。)をし,同判決は確定した。 エそこ 22年8月19日,本件商標に商標法4条1項7号を適用することができないとした第1次審決は誤りであるとして第1次審決を取り消す旨の判決(以下「前判決」という。)をし,同判決は確定した。 エそこで,本件無効審判請求は再び特許庁で審理されることとなり,その結果,特許庁は,平成22年12月21日,本件商標登録は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」で商標法4条1項7号に該当するとして,「登録第5072102号の登録を無効とする。」旨の審決(第2次審決。以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成23年1月5日原告に送達された。 (2) 審決の内容第2次審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,前記のとおり,本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当し,商標法4条1項7号に違反して登録されたものである,というものである。 (3) 審決の取消事由しかしながら,商標法4条1項7号の該当性に関する本件審決の認定判断には,次のような誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。 すなわち,審決の要旨は,ある程度周知のASUSTeK社と関係のあるASRock社が本件商標と類似の商標を使用するという将来的な展望が,本件商標の出願日より先に台湾の英文ウェブサイトに掲載されたという事実が存在することを理由として,原告による本件商標の出願は悪意の剽窃であり,「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当し,先願主義を採用した法制度の下でも無効になる,というものである。 - 4 -しかし,先願主義を採用している商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法4条1項19号の趣旨に照らせば,それらの趣旨から離れて,同法4条1項7号の「公の しかし,先願主義を採用している商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法4条1項19号の趣旨に照らせば,それらの趣旨から離れて,同法4条1項7号の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的場合を除くほか,許されないというべきである。 以上の観点からすると,本件においては,上記台湾の英文ウェブサイトの内容が日本国内において知られた証拠がないこと,ASRock社は本件商標の出願日に先立って25か国に下記商標(以下「引用商標」という。)を出願したが,日本国内においては商標出願を怠っていたこと,本件商標の出願当時,商取引秩序の主体となるべきASRock社が日本国内に存在していなかったこと,本件商標の出願当時,引用商標は日本国内はもちろん外国においても周知著名であるとはいえず,世界市場におけるシェアもわずかであったこと,ASRock社は公益法人又は政府機関ではなく私的な利益追求を目的に設立された私企業であること,原告の悪意については明白な証拠資料がなく漠然とした推定に基づいて認定されていること,本件とは直接関連のない韓国における全く別の商標出願の事実を無効の理由に採用していること,以上の事実を総合判断すると,原告と被告及びASRock社間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも当事者同士の私的な問題として解決されるべきものであり,かつ審決の事実認定には誤りがあるから,このような場合にまで,「公の秩序又は善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解して,商標法4条1項7号を適用することはできないというべきである り,かつ審決の事実認定には誤りがあるから,このような場合にまで,「公の秩序又は善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解して,商標法4条1項7号を適用することはできないというべきである。 記 - 5 - 2 請求原因に対する認否請求原因(1)及び(2) の各事実は認めるが,(3) は争う。 3 被告の反論原告主張の取消事由は,以下に述べるとおり,理由がない。 (1) 本件訴訟に係る登録商標「ASRock」(登録第5072102号)は,先の審決取消訴訟(知財高裁平成21年(行ケ)第10297号)において,商標法4項1項7号に違反するものであるため審判請求は成り立たないとした審決を取り消す判決(前判決)がなされ,上告をしなかったために特許庁に差戻され,再度審理の結果,無効審決がなされたものである。すなわち,先の知財高裁の判決でも,後の審判の審理でも,無効であることが認められた事件である。今回は,判決に基づく審決を不服として審決取消訴訟を提起しているが,このような提訴は制度上は許されているものの,一事不再理に該当する蓋然性が極めて高いものである。 (2) 行政事件訴訟法33条は,第1項で,「処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」と規定し,再度の審理ないし審決には取消判決の拘束力が及ぶこととしている。また,同条第2項では,処分又は裁決をした行政庁は,判決の趣旨に従って改めて裁決をしなければならない旨が規定されており,審判官は,取消判決の拘束力の下,取消判決の趣旨に従い,再度の審決を行うことが明定されている。 すなわち,行政事件訴訟法33条に規定する取消判決の拘束力の及ぶ範囲について,最高裁平成4年4月28日第三小 取消判決の拘束力の下,取消判決の趣旨に従い,再度の審決を行うことが明定されている。 すなわち,行政事件訴訟法33条に規定する取消判決の拘束力の及ぶ範囲について,最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決(民集46巻4号245頁)は,「再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従ってされた再度の審決に対し,関係当事者がこれを違法として非難することは,確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,- 6 -再度の審決の違法(取消)事由たり得ない」とし,「再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(・・・)として,これを裏付けるための新たな立証をし,・・・取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである」旨を判示している。 これは,行政事件訴訟法33条1項の拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるという立場のもとに,なされたものである。 そこでこれを本件についてみると,原告が本件の準備書面において主張し,提出しようとした甲1ないし甲183は,確定した平成21年(行ケ)第10297号事件において,被告が提出した各証拠と同一のものである。 また,原告が追加で提出しようとした甲184ないし甲256は,上記の事件において原告が提出した証拠と同一の証拠が多数含まれ,また,新たに提出しようとした証拠であっても,上記の事件において原告自らが提出した証拠を補助ないし補強する性質を有するにすぎないものであり,同種の証拠といわざるを得ないものである。上記の事件では,原告及び被告の主張や提出した多くの証拠から,判決主文に必 おいて原告自らが提出した証拠を補助ないし補強する性質を有するにすぎないものであり,同種の証拠といわざるを得ないものである。上記の事件では,原告及び被告の主張や提出した多くの証拠から,判決主文に必要な事実認定及び法律判断がなされた上で判決が出され,判決が確定した後に再度の審判において取消判決の拘束力の下に審決がなされたものである。新たに提出しようとした証拠を含めて証拠の全体を通覧しても,上記の事件において提出した事実認定に供された証拠や,それを補助ないし補強する性質のものであって,事実認定を覆すに足りるとは考えられない証拠が多数であるため,本件での原告の主張は,取消判決の拘束力が及ぶ事実認定より導き出された上記の事件の判決主文に従った適法な審決を,更に違法であるとして争って反論しているにすぎないものである。 そして,原告は,上記の事件において上告をしていない。本件において原- 7 -告が主張する事実は,上告審やそれ以前において主張できる性質のものであり,従前の審判及び裁判において主張すべきである。このような主張を再度の審決に対する取消訴訟において行うことは容認されるべきではない。 第4 当裁判所の判断 1 請求原因(1) (特許庁等における手続の経緯),(2) (審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2 商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当するとした審決の誤りの有無について原告は,本件商標登録は商標法4項1項7号(公序良俗違反)に該当するとした本件審決(第2次審決)は誤りであると主張し,これに対し被告は,本件審決は平成22年8月19日になされた前判決(知財高裁平成21年(行ケ)第10297号)の拘束力(行政事件訴訟法33条)に従ってなされたものであって違法となる余地はない等と反論するので,以下検討する。 決は平成22年8月19日になされた前判決(知財高裁平成21年(行ケ)第10297号)の拘束力(行政事件訴訟法33条)に従ってなされたものであって違法となる余地はない等と反論するので,以下検討する。 (1) 前判決の判断内容証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,平成22年8月19日になされた前判決は,前記第3,1(1) イを理由とする本件無効審判請求につきこれを不成立とした第1次審決において,本件商標登録には商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当する違法事由があるとしてこれを取り消したものであることが認められるところ,その理由の詳細は,原告の「本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,そのような出願は,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,出- 8 -願当時,引用商標及び標章『ASRock』が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は『公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標』に該当するというべきである。」というものであった。 (2) 本件審決(第2次審決)の判断内容一方,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,平成22年12月21日になされた本件審決(第2次審決)は,本件商標登録には商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当する違法事由があるとするものであり,その理由の詳細は,「被請求人の本件商標の出願は,ASUSTeK社 日になされた本件審決(第2次審決)は,本件商標登録には商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当する違法事由があるとするものであり,その理由の詳細は,「被請求人の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,そのような出願は,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法第1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,出願当時,引用商標及び標章『ASRock』が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は『公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標』に該当するというべきである。」としたものであった。 (3) 検討商標登録無効審判についての審決の取消訴訟において審決を取り消す旨の判決が確定したときは,審判官は,商標法63条2項において準用する特許法181条5項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審決には,同法33条1項の規定により,同取消判決の拘束力が及び,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245- 9 -頁参照)から,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されず,したがって,再度の審判手続において,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決 )から,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されず,したがって,再度の審判手続において,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできないというべきである。 そこでこれを本件についてみるに,前述した前判決の認定判断に照らすと,前判決の拘束力は,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものであり,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するとの認定判断について生ずるものというべきであるから,「被請求人の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,・・・,出願当時,引用商標及び標章『ASRock』が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は『公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標』に該当するというべきである。」とした本件審決の認定判断は,上記前判決の拘束力に従ったものであることが明らかである。 そうすると,本件訴訟において原告の主張する本件審決の取消事由は,前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであると主張することに帰着するものであるから,それ自体失当というべきである。 3 結論以上によれば,本件審決の違法をいう原告の主張は理 主文 前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであると主張することに帰着するものであるから、それ自体失当というべきである。 理由 結論以上によれば、本件審決の違法をいう原告の主張は理由がないことが明らかである。よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉

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