昭和45(ネ)1717 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
昭和47年12月21日 東京高等裁判所
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判決文本文10,661 文字)

主文 本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。事実 一控訴代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴は控訴棄却の判決を求めた。二当事者双方の事実上ならびに法律上の主張は次のとおりである。1 被控訴人の請求の原因(一) 被控訴人は、控訴人Aの紹介により、昭和四二年六月二九日訴外Bに対し一〇〇万円を、利息年一割五分、期限後の損害金年三割、弁済期同年一〇月二九日の約で貸与し、同日Bとの間で、同人の所有と称する船橋市a町b丁目c番のd宅地一七一、五三平方米(以下本件土地という。)に抵当権を設定し、かつ右債務不履行の場合は代物弁済として本件土地の所有権を被控訴人に移転すること、ならびに本件土地に被控訴人のために停止条件付賃借権を設定することを約し、翌三〇日右抵当権設定登記ならびに右所有権移転仮登記、賃借権設定仮登記をした。(二) 本件土地は、Bが昭和四二年六月一〇日訴外Cから贈与を受けて所有権を取得したとしてBの所有名義に登記されていたものである。ところが実際は、CがBに贈与したものではなく、BがCの印鑑を偽造行使して登記手続に必要な印鑑証明の交付を受け、委任状を偽造して登記に必要な文書を作成し、これを行使してB所有名義に不実の登記をしたものであることが後日判明した。そのためCがBと被控訴人を相手として提起した千葉地方裁判所昭和四二年(ワ)第四八三号登記抹消請求事件において、被控訴人らは敗訴し、本件土地はCの所有でありBの所有でないことが確定し、被控訴人の前記抵当権設定登記、条件付所有権移転仮登記、同賃借権設定仮登記はいずれも抹消されるに至つた。請求事件において、被控訴人らは敗訴し、本件土地はCの所有でありBの所有でないことが確定し、被控訴人の前記抵当権設定登記、条件付所有権移転仮登記、同賃借権設定仮登記はいずれも抹消されるに至つた。 四八三号登記抹消請求事件において、被控訴人らは敗訴し、本件土地はCの所有でありBの所有でないことが確定し、被控訴人の前記抵当権設定登記、条件付所有権移転仮登記、同賃借権設定仮登記はいずれも抹消されるに至つた。請求事件において、被控訴人らは敗訴し、本件土地はCの所有でありBの所有でないことが確定し、被控訴人の前記抵当権設定登記、条件付所有権移転仮登記、同賃借権設定仮登記はいずれも抹消されるに至つた。(三) 被控訴人がBに対し前記一〇〇万円を貸与するに至つたのは、本件土地が真実Bの所有であると信じたからであつて、結局被控訴人はBの詐欺により右一〇〇万円を騙取されたのである。(四) 控訴人両名は、左記のとおり故意または過失により、Bの前記騙取行為の遂行に共同で加担したものである。(1) 控訴人Aは、司法書士であり、依頼者の言動には特別の注意を払い、文書の作成にあたつても慎重な取扱いをすべきであるのに拘らず、BがCの印鑑を持参してCからBへの本件土地所有権移転登記を依頼すると、Cに何らの確認も調査もしないで、昭和四二年六月一〇日付のCの代理人としてBに本件土地を贈与した旨の不動産贈与証書およびCの代理人として同控訴人を右土地を贈与を原因とする所有権移転登記をするについて代理権を授与する旨の登記申請委任状を作成し、これを同月一四日千葉地方法務局船橋出張所に提出して、同月二六日CからBへの本件土地所有権移転登記申請手続をした。(2) しかも、同控訴人は、右登記申請にあたり、Cの本件土地の権利証が必要であるのに、Cに確認もしないで、同控訴人の妻控訴人DとEとの二名を保証人とする保証書を作成し、Cの権利証の代りにこれを添付して前記登記申請手続をした。その後控訴人Aは、Bが持参した千葉地方法務局船橋出張所からC宛に送付した不動産登記法四四条の二所定の回答書に自らCの記名押印をしたうえ、右出張所に送付した。(3) 控訴人Aは、右登記後同年六月二九日、Bの依頼を受けて被控訴人代表者に対し、「不動産担保で金を借りたい人が私の事務所にきているから、 答書に自らCの記名押印をしたうえ、右出張所に送付した。(3) 控訴人Aは、右登記後同年六月二九日、Bの依頼を受けて被控訴人代表者に対し、「不動産担保で金を借りたい人が私の事務所にきているから、すぐきていただきたい。」と電話し、控訴人事務所に赴いた被控訴人代表者に対しBを紹介し、「B氏とは親の代からおつきあいをしている。 被控訴人代表者に対し、「不動産担保で金を借りたい人が私の事務所にきているから、 答書に自らCの記名押印をしたうえ、右出張所に送付した。(3) 控訴人Aは、右登記後同年六月二九日、Bの依頼を受けて被控訴人代表者に対し、「不動産担保で金を借りたい人が私の事務所にきているから、すぐきていただきたい。」と電話し、控訴人事務所に赴いた被控訴人代表者に対しBを紹介し、「B氏とは親の代からおつきあいをしている。特に父親は数年前に亡くなつたが、Fといつて県会議員もやつておられた方で、絶対に間違いないんです。是非貸してやつて下さい。書類も私が作つたもので、権利証も印鑑証明書もあつて間違いありません。」と述べた。被控訴人代表者は、右控訴人の言葉と書類を信用し本件土地が真実Bの所有であると信じたので、初対面のBに対し前記の貸付を行つた。(4) ところで、Bは、Cの夫Fの妾の子でCに養育されたものであるが、素行不良で昭和四二年六月初旬頃からC方を家出していたものである。従つて司法書士たる控訴人Aとしては、前記のような登記申請および被控訴人への紹介にあたり、少しく事実を調査しCに確かめるなどすれば、容易にBの不正を知り得たはずである。また前記回答書についても、それは登記義務者たるCにおいて必要事項を記入し署名押印すべき旨助言すべきである。しかるに同控訴人は、右調査ならびに助言を怠り、漫然Bの言を軽信し、業務処理上必要な注意を怠つた過失によつて本件事故を惹起させたものである。(5) 控訴人Dは、控訴人Aの妻であり、同控訴人がBの依頼によりCからの本件土地の贈与による所有権移転の登記申請をするに際し、保証人となつて保証書を作成し、「申請人が登記義務者本人であつて人違いでないことを保証する。」と保証したため、Bへの本件土地の所有権移転登記が完了した。(6) 控訴人Dが前記登記申請について保証人となり保証書を作成するにあたつては 人が登記義務者本人であつて人違いでないことを保証する。」と保証したため、Bへの本件土地の所有権移転登記が完了した。(6) 控訴人Dが前記登記申請について保証人となり保証書を作成するにあたつては、真実Cが土地権利証を紛失したものであるかどうか、BとCの関係、および登記申請をする意思がC本人にあるのかどうかについて善良な管理者の注意義務をもつて調査し確認すべきであるのに、これを怠り、Cと一面識もないのに漫然と自己の利益のため保証人となり前記保証書を作成したのは、同控訴人に重大な過失があつたものであり、その結果被控訴人は損害を蒙るに至つたのである。 いて保証人となり保証書を作成するにあたつては、真実Cが土地権利証を紛失したものであるかどうか、BとCの関係、および登記申請をする意思がC本人にあるのかどうかについて善良な管理者の注意義務をもつて調査し確認すべきであるのに、これを怠り、Cと一面識もないのに漫然と自己の利益のため保証人となり前記保証書を作成したのは、同控訴人に重大な過失があつたものであり、その結果被控訴人は損害を蒙るに至つたのである。よつて、控訴人らは被控訴人に対し、Bとの共同不法行為により被控訴人の蒙つた損害を賠償する義務がある。(五) 右不法行為により被控訴人の蒙つた損害は次のとおり合計一五七万円である。(1) 騙取された貸付金名義の元本一〇〇万円(2) 右元本に対する昭和四五年六月二九日までの約定利息および損害金の内金四五万円(3) 昭和四二年七月初め頃被控訴人から控訴人Aに支払つた謝礼一万円、その後同控訴人に支払つたCとの交渉費三万円の合計四万円(4) Cから提起された前記訴訟に被告として応訴するため江尻平八郎弁護士に支払つた費用八万円(六) よつて、被控訴人は控訴人ら各自に対し右一五七万円とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四五年五月一〇日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。2 控訴人らの答弁(一) 請求原因(一)、(二)、(三)の事実は認める。(二) 同(四)本文の主張は争う。(四) の(1)事実中、控訴人Aに被控訴人主張のような調査確認義務があることは争うが、その余は認める。(四)の(2)の事実は認める。(四) の(3)の事実 (二) 同(四)本文の主張は争う。(四) の(1)事実中、控訴人Aに被控訴人主張のような調査確認義務があることは争うが、その余は認める。(四)の(2)の事実は認める。(四) の(3)の事実は否認する。最初は昭和四二年六月二六日Bが電話で被控訴人代表者を呼出したのであり、控訴人Aは、それによつて控訴人の事務所にきた右代表者に対し、Bを元県会議員Fの子であると紹介したにすぎず、当日はBの所有権取得から間がないとの理由で話は打切られ、同月二九日被控訴人代表者とBが金銭消費貸借契約公正証書を持参して抵当権設定等の登記申請の依頼にきたのであつて、その間控訴人Aは双方の話合に何ら関与していない。(四) の4の事実中、Bの人と成り、素行等は不知、控訴人Aが業務上必要な注意を怠つたとの主張は争う。 つて控訴人の事務所にきた右代表者に対し、Bを元県会議員Fの子であると紹介したにすぎず、当日はBの所有権取得から間がないとの理由で話は打切られ、同月二九日被控訴人代表者とBが金銭消費貸借契約公正証書を持参して抵当権設定等の登記申請の依頼にきたのであつて、その間控訴人Aは双方の話合に何ら関与していない。(四) の4の事実中、Bの人と成り、素行等は不知、控訴人Aが業務上必要な注意を怠つたとの主張は争う。(四) の5の事実は認める。(四) の6の事実中、控訴人Dに被控訴人主張のような調査確認義務があることは争う。同控訴人はCとは面識があり、本件土地がCの所有であることを熟知していた。(三) 同(五)の損害額は不知。ただし、控訴人Aが被控訴人から謝礼として一万円を受領したことは認める。Cとの交渉費三万円の受領は否認する。ただ被控訴人からBの捜索を依頼され、その実費ならびに謝礼として二万円を受領したことはある。3 控訴人らの主張(一) 不動産登記法四四条にいう「登記義務者の人違なきことの保証」が、現に申請をなす登記義務者と登記簿上の権利名義人とが事実上同一人なることの確認のほか、代理人によつてなされる場合の代理権限の確認まで含まれるか否かは疑問なしとしない。この点につき「代理人により登記申請をなす場合には、その代理人が正当なる代理権限を有することを確知したうえで保証すべき」旨判示した判例がある。(昭和二〇年一二月二二日大審院判決、民 問なしとしない。この点につき「代理人により登記申請をなす場合には、その代理人が正当なる代理権限を有することを確知したうえで保証すべき」旨判示した判例がある。(昭和二〇年一二月二二日大審院判決、民集二四巻三号一三七頁)しかし、昭和三五年法律第一四号による改正により不動産登記法四四条の二の規定が新設され、保証書による登記申請の場合は、法務局から登記義務者に照会の通知書が郵送され、三週間以内にその通知書に記名捺印して返送又は持参した場合にのみ登記申請が受付けられることになつた。このように法務局による確認措置が制度化された以上、保証人の注意義務は軽減されたものというべきであり、保証人の責任を前記の代理権限の確認まで拡大するのは相当でない。本件の場合他の保証人EはCの娘であり、当時C、B、Eの三名は本件土地上の建物に同居していたのであり、控訴人らがBの言を信用したとしても過失はない。 以内にその通知書に記名捺印して返送又は持参した場合にのみ登記申請が受付けられることになつた。このように法務局による確認措置が制度化された以上、保証人の注意義務は軽減されたものというべきであり、保証人の責任を前記の代理権限の確認まで拡大するのは相当でない。本件の場合他の保証人EはCの娘であり、当時C、B、Eの三名は本件土地上の建物に同居していたのであり、控訴人らがBの言を信用したとしても過失はない。被控訴人は、当初所有権移転後間がないものは危いということで難色を示しながら、その後現地を確認したりして貸付を行つたのであるから、むしろ金融業者としてCに本件土地の処分についての真意を確認する機会がありながら、その調査を怠り漫然と貸付けをした被控訴人こそ過失があつたというべきで、被控訴人の主張は自己の過失を控訴人らに転嫁せんとするものである。(二) 控訴人Aは、司法書士として登記申請書を作成したものであるがら、保証人と同一の責任を負うべきいわれはない。元来司法書士は、登記官吏と同様登記申請につき実質審査の権限も義務もないのである。まして事前通知制度により本人の意思を確認することが制度化された今日、代理権限を確認すべき義務を負うものではない。4 被控訴人の反論(一) 不動産登記法の改正により保証人の注意義務が軽減されたものでないことは、右改正法が四四条の 認することが制度化された今日、代理権限を確認すべき義務を負うものではない。4 被控訴人の反論(一) 不動産登記法の改正により保証人の注意義務が軽減されたものでないことは、右改正法が四四条の二の規定と同時に一五八条を新設し、登記義務者につき確実な知識を有しないで保証した者に対する処罰を定めている点からみても明白である。(二) 登記申請書類を作成し登記申請を業とする司法書士と登記申請の形式的ないし手続的事項の審査を職務とする登記官吏とは、職務の内容範囲を異にするものであるから、その責任の範囲も同様に論ずることはできない。三証拠関係(省略) 理由 請求原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。よつて控訴人らの不法行為の成否について検討する。被控訴人Aが司法書士であり、控訴人Dがその妻であること、控訴人Aが、Bの依頼により、CからBへの本件土地所有権移転登記申請をなすにあたり、Bが持参したCの印鑑を用いてC代理人控訴人A名義の本件土地贈与証書および同控訴人を受任者とするC名義の登記申請委任状を作成し、さらにBが本件土地の権利証を所持していなかつたところから、控訴人Dに対しEとともに不動産登記法四四条所定の保証書を作成することを指示してこれを承諾せしめ、これを添付して昭和四二年六月一四日千葉地方法務局船橋出張所に登記申請書を提出したこと、その後控訴人Aが右出張所からCに宛てた不動産登記法四四条の二による照会の書面を持参したBの依頼により、Cの記名押印をして右出張所に送付したこと、よつて同月二六日右所有権移転登記がなされたことは、当事者間に争いがない。 、控訴人Dに対しEとともに不動産登記法四四条所定の保証書を作成することを指示してこれを承諾せしめ、これを添付して昭和四二年六月一四日千葉地方法務局船橋出張所に登記申請書を提出したこと、その後控訴人Aが右出張所からCに宛てた不動産登記法四四条の二による照会の書面を持参したBの依頼により、Cの記名押印をして右出張所に送付したこと、よつて同月二六日右所有権移転登記がなされたことは、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第九ないし一一号証の各一ないし三および控訴人両名の本人尋問の結果によれば、Bは控訴人Aに右登記申請手続を依頼するにあたり、 所有権移転登記がなされたことは、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第九ないし一一号証の各一ないし三および控訴人両名の本人尋問の結果によれば、Bは控訴人Aに右登記申請手続を依頼するにあたり、同人に面識あるBの義母Cの印鑑と印鑑証明書を持参し、「家族の中で男は自分一人だから、自分が土地の贈与を受けたので登記してほしい。」と申し向け、また権利証は紛失したというので、前記のように原因証書たるC名義の贈与証書および登記申請委任状ならびに保証書を作成してやつたこと、保証人の一人であるEの印鑑もBが持参したものを使用したものであること、前記法務局からの照会に対する回答の書面作成の際も、控訴人AはBに対し一旦はC本人に書いて貰うよう申し向けたものの、Cが病気で書けないから代筆してほしいといわれてこれを作成してやつたこと、右各書面の作成に使用されたCおよびEの印鑑はいずれもBが偽造したもので、その印鑑証明書もBが右偽造印によつて交付を受けたものであること、法務局からC宛の照会の書面もBがCに知られないようにして手に入れたものであること、当時Bは素行が定まらずCらと別居していたが、しばしばC方に出入りしていたものであることを認めることができる。被控訴人は、控訴人Aが昭和四二年六月二九日被控訴人代表者を電話で控訴人事務所に呼出し、Bを紹介し、同人の亡父Fは元県会議員であり、間違いない人だから、本件土地を担保に是非金を貸してやつて貰いたい旨申し向けたと主張し、被控訴人代表者は本人尋問において同趣旨の供述している。しかし、他方控訴人Aは本人尋問において、同年六月二六日Bが控訴人A方を訪れ金融業者を紹介してくれるよう頼んだが、控訴人が知らぬというと、自ら被控訴人に電話して代表者を呼出し金借を依頼したもので、その際控訴人Aは被控訴人代表者に対し、Bは元 は元県会議員であり、間違いない人だから、本件土地を担保に是非金を貸してやつて貰いたい旨申し向けたと主張し、被控訴人代表者は本人尋問において同趣旨の供述している。しかし、他方控訴人Aは本人尋問において、同年六月二六日Bが控訴人A方を訪れ金融業者を紹介してくれるよう頼んだが、控訴人が知らぬというと、自ら被控訴人に電話して代表者を呼出し金借を依頼したもので、その際控訴人Aは被控訴人代表者に対し、Bは元 年六月二六日Bが控訴人A方を訪れ金融業者を紹介してくれるよう頼んだが、控訴人が知らぬというと、自ら被控訴人に電話して代表者を呼出し金借を依頼したもので、その際控訴人Aは被控訴人代表者に対し、Bは元県会議員のFの伜であり、Fと控訴人とは交際があつたことを話したにすぎず、Bに金を貸してやつてくれと頼んだことはない。その後同六月二九日Bと被控訴人代表者が控訴人方に来り控訴人Aに対し本件土地に対する抵当権設定登記手続を依頼したので、その手続をしてやつただけである旨供述しているのであつて、被控訴人代表者の前記供述のみでは被控訴人の右主張事実を肯認するに足る心証を得ることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。以上認定の事実ならびに争いのない事実によれば、控訴人らがCからBへの本件土地の所有権移転登記<要旨>につきBの前記不正行為を察知していたものと推認することはできない。しかし司法書士が登記義務者の代</要旨>理人と称する者の依頼により本人のため登記関係書類を作成する場合において、依頼者の言動により代理権の存否に疑のあるような場合は、単に必要書類について形式的な審査をするに止まらず、本人について登記原因証書作成についての真意の有無および登記申請についての代理権授与の事実の有無を確かめ登記手続に過誤なからしめるよう万全の注意を払う義務があるものというべきであり、このような場合保証人として不動産登記法四四条の保証書を作成する者についても右と同様のことがいえる。(前出昭和二〇年一二月二二日大審院判決)ところで本件においては、前認定のようにBは控訴人Aに対しCの代理人として本件土地の自己への所有権移転登記手続を依頼するにあたり、本人であるCの印鑑と印鑑証明書を持参したほかには、委任状等代理権授与に関する事実を推知せしめるような何らの証憑書類を Aに対しCの代理人として本件土地の自己への所有権移転登記手続を依頼するにあたり、本人であるCの印鑑と印鑑証明書を持参したほかには、委任状等代理権授与に関する事実を推知せしめるような何らの証憑書類を示すことなく、持参したCの印鑑により登記原因証書たる贈与証書ならびに登記申請委任状の作成を依頼し、このようにCの権利書も所持せず、そのため保証書の作成の必要があるのみならずその後法務局からCに対する保証書による登記申請につき本人の意思を確かめる照会に対する回答書の作成までも右控訴人に依頼するなど甚だ異例な態度をとつているのであつて、しかもCとBは義理の親子の関係にあることは控訴人も知つていたことを考え合せると、控訴人AとしてはBの右代理権の有無につき疑をさしはさむことは容易であつたと考えられ、このような場合は何らかの方法で本人たるCについてこれを調査確認すべきであつたといわなければならない。 保証書による登記申請につき本人の意思を確かめる照会に対する回答書の作成までも右控訴人に依頼するなど甚だ異例な態度をとつているのであつて、しかもCとBは義理の親子の関係にあることは控訴人も知つていたことを考え合せると、控訴人AとしてはBの右代理権の有無につき疑をさしはさむことは容易であつたと考えられ、このような場合は何らかの方法で本人たるCについてこれを調査確認すべきであつたといわなければならない。しかるに控訴人Aは、ひたすらBの言を軽信し同人の代理権限について疑念を抱かず、本人たるCにこれを確かめることなく前記の所有権移転登記の申請手続をなし、よつて不実の登記がなされる結果を招来したことは、司法書士として善良な管理者の注意義務を怠つたものといわなければならない。また控訴人Dは、前認定のような事情のもとにおいて、夫である控訴人Aの指示によるものとはいえ、これまた本人たるCの真意を何ら確かめることなく、軽々に保証書を作成したものであつて、前同様保証人たる者として当然払うべき注意義務を怠つたものというべきである。控訴人らは、不動産登記法の改正により同法四四条の二の規定が新設され、保証書による登記申請の場合の法務局による確認措置が制度化されたことにより、従来より保証人の責任が軽減されたと主張するが、右改正は濫用の危険性の大きい保証書による登記についてより の規定が新設され、保証書による登記申請の場合の法務局による確認措置が制度化されたことにより、従来より保証人の責任が軽減されたと主張するが、右改正は濫用の危険性の大きい保証書による登記についてより慎重な手続を履むことにより過誤登記のなされることを防止しようとする趣旨に出でたものであり、保証人の責任を軽減する趣旨を含むものとは到底解することはできない。控訴人らの右主張は独自の見解によるものであつて採用できない。以上のとおりであつてみれば、控訴人らは前記のような過失によりCからBへの不実の本件土地所有権移転登記を完了させたものであるから、右登記簿の記載を利用して被控訴人から金員を騙取した行為に間接的に加担したものということができる。そして被控訴人が貸付金をBに交付したのは右登記簿の記載を真実と信じたことによるものであるから、これによつて被控訴人が蒙つた損害と控訴人らの前記過失の間には相当因果関係が存するというべきであるから、控訴人らは被控訴人に対し右損害を賠償すべき責任がある。 実の本件土地所有権移転登記を完了させたものであるから、右登記簿の記載を利用して被控訴人から金員を騙取した行為に間接的に加担したものということができる。そして被控訴人が貸付金をBに交付したのは右登記簿の記載を真実と信じたことによるものであるから、これによつて被控訴人が蒙つた損害と控訴人らの前記過失の間には相当因果関係が存するというべきであるから、控訴人らは被控訴人に対し右損害を賠償すべき責任がある。よつて、損害額につき考える。被控訴人が貸付金名義でBに騙取された元本一〇〇万円とこれに対する昭和四五年六月二九日までの約定利息(年一割五分)および損害金(年三割)のうち四五万円(右利息損害金が四五万円をこえることは計算上明らかである。)が損害額に含まれることは前認定の事実から明らかである。被控訴人本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認めうる甲第八号証ならびに控訴人A本人尋問の結果によれば、被控訴人が控訴人Aに対し、前記貸金に際し謝礼として一万円を支払つたこと(この点は当事者間に争いがない。)、その後昭和四二年一一月頃調査料および謝礼として三万円を支払つたこと、被控訴人がCから提起された登記抹消請求事件に被告として応訴するため江尻平八郎弁護 払つたこと(この点は当事者間に争いがない。)、その後昭和四二年一一月頃調査料および謝礼として三万円を支払つたこと、被控訴人がCから提起された登記抹消請求事件に被告として応訴するため江尻平八郎弁護士と訴訟代理人に委任し、本訴提起前弁護士費用として八万円を支払つたことを認めることができ、これまた本件事故によつて被控訴人が蒙つた損害ということができる。以上のとおりであるから、控訴人らは被控訴人に対し右合計一五七万円とこれに対するその弁済期後で訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四五年五月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金を支払う義務があるから、右の限度で被控訴人の請求を認容した原判決は相当である。よつて本件控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長裁判官菅野啓蔵裁判官渡辺忠之裁判官小池二八)

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