- 1 -平成23年9月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ネ)第10039号,第10056号不正競争行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第4916号(第1事件),平成20年(ワ)第3404号(第2事件))口頭弁論終結日平成23年7月12日判決控訴人兼附帯被控訴人(原告) 出光興産株式会社(判決中では「原告」と表記)訴訟代理人弁護士鈴木正勇相澤 愛被控訴人(第1事件被告) 株式会社ビーシー工業(判決中では「被告ビーシー工業」と表記)被控訴人(第1事件被告) Y1(判決中では「被告Y1」と表記)両名訴訟代理人弁護士東松文雄被控訴人兼附帯控訴人(第2事件被告)有限会社山野商事(判決中では「被告山野商事」と表記)被控訴人兼附帯控訴人(第2事件被告)Y2(判決中では「被告Y2」と表記)両名訴訟代理人弁護士荒木勝己 主文 1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 - 2 -(1) 被告らは,別紙営業秘密目録記載1ないし3の各図面及び図表を,ポリカーボネート製造装置の建設,改造,増設,補修,運転管理において,自ら使用し,又は第三者に使用させてはならない。 (2) 被告らは,別紙営業秘密目録記載1ないし3の各図面及び図表を第三者に開示してはな ボネート製造装置の建設,改造,増設,補修,運転管理において,自ら使用し,又は第三者に使用させてはならない。 (2) 被告らは,別紙営業秘密目録記載1ないし3の各図面及び図表を第三者に開示してはならない。 (3) 被告らは,別紙営業秘密目録記載1ないし3の各図面及び図表が記録された文書,磁気ディスク,光ディスクその他の記録媒体を廃棄せよ。 (4) 被告らは,原告に対し,連帯して2億9700万円及びこれに対する被告ビーシー工業においては平成19年3月9日から,被告Y1 においては同月16日から,被告山野商事及び被告Y2においては平成20年2月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 本件附帯控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被告らの負担とする。 4 この判決第1項の(1)ないし(4)は,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 当事者の求めた判決 1 控訴の趣旨主文第1項と同旨並びに仮執行宣言。 2 附帯控訴の趣旨原判決中被告山野商事及び被告Y2の敗訴部分を取り消し,原告の同被告らに対する請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 請求の概要と原判決石油精製等を業とする株式会社であり,吸収合併により,子会社であった出光石- 3 -油化学株式会社(出光石化)の権利義務を承継した原告は,被告らが共同して,出光石化が保有していた営業秘密であるポリカーボネート樹脂製造装置(PCプラント)に関する別紙営業秘密目録記載1ないし3の図面及び図表(以下「本件図面図表」という。)に記載された本件情報を出光石化の従業員をして不正に開示させて取得し,その取得した本件情報を中国の藍星(集団)総公司(以下「藍星公司」という。)に開示した行為が,不正競争防 本件図面図表」という。)に記載された本件情報を出光石化の従業員をして不正に開示させて取得し,その取得した本件情報を中国の藍星(集団)総公司(以下「藍星公司」という。)に開示した行為が,不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為又は民法709条の不法行為に該当する旨主張して,被告らに対し,不正競争防止法3条1項に基づく本件図面図表の使用,開示の差止め,同条2項に基づく本件図面図表が記録された記録媒体の廃棄,同法4条(予備的に民法709条)に基づく損害賠償として2億9700万円の支払を求めた。なお,本判決の別紙営業秘密目録は,原判決の別紙に更に特定事項を付加したものである。 原判決は,出光石化が保有していたPCプラントに関する情報は営業秘密に当たるとした上で,被告山野商事及び被告Y2に関しては,本件図面図表の一部分についてのみ不正競争行為があったと認定し,その部分に関する使用,開示の差止めを認めるとともに,不正競争防止法4条に基づく損害賠償を1100万円の限度で認めたが,その余は棄却し,被告ビーシー工業及び被告Y1 に関しては,不正競争行為が認められないとして,同被告らに対する請求をいずれも棄却した。 2 争いのない事実等(1) 当事者等ア原告は,昭和15年3月30日に設立された,石油精製及び油脂製造業,石油化学工業等を目的とする株式会社である。 出光石化は,昭和39年9月10日に設立された,石油化学製品の製造及び販売等を目的とする株式会社であり,原告がその発行済株式全部を保有する原告の完全子会社であった(甲28)。 原告は,平成16年8月1日,出光石化を吸収合併し,その権利義務の一切を承継した(甲27,28)。 - 4 -イ被告ビーシー工業は,昭和53年6月30日に設立された,プラント設備据付,補修,検査及び洗浄工事業 年8月1日,出光石化を吸収合併し,その権利義務の一切を承継した(甲27,28)。 - 4 -イ被告ビーシー工業は,昭和53年6月30日に設立された,プラント設備据付,補修,検査及び洗浄工事業等を目的とする株式会社であり,被告Y1 は,その代表取締役である。 ウ(ア) 被告山野商事は,平成14年5月1日に設立された,合成樹脂製品の再生・成型・加工及び販売・輸出入等を目的とする有限会社であり,被告Y2は,その代表取締役である。 (イ) 被告Y2は,広島県内の工業高校を卒業後,昭和35年に原告に入社し,昭和39年に出光石化の設立に伴って同社に移籍し,以後,平成11年3月に退職するまで同社で勤務していた。 被告Y2は,原告又は出光石化に在職中,ポリスチレン(PS)樹脂,ポリカーボネート(PC)樹脂,ポリプロピレン樹脂等の製造業務に従事したが,このうち,PCプラントに関わる業務は,昭和35年から昭和39年までの原告徳山工場のPCパイロットプラントにおける補助業務と,昭和60年から平成元年までの出光石化千葉工場のPCプラントにおける装置運転業務であった。 エ藍星公司は,中国北京市に本社を置く,石油化学工業を営む中国法人である(甲52)。 (2) PC樹脂の製造技術等(甲1,16)ア PC樹脂は,1953年(昭和28年)に,ドイツのバイエル社によって開発された合成樹脂であり,それまでの汎用プラスチックに比べ,耐熱性,耐衝撃性に優れた性質を有することから,電子機器,OA機器,自動車部品,建材,医療機器,日用品など,様々な用途に使用されてきた。特に近年では,パソコン筺体,DVD等の記録媒体の基板,液晶ディスプレイ用のバックライト反射板などの用途において大きく需要を伸張させている。 PC樹脂の製造技術には,界面重合法(「ホスゲン法」とも 特に近年では,パソコン筺体,DVD等の記録媒体の基板,液晶ディスプレイ用のバックライト反射板などの用途において大きく需要を伸張させている。 PC樹脂の製造技術には,界面重合法(「ホスゲン法」とも呼ばれる。)と溶融重合法(「エステル交換法」とも呼ばれる。)の2種類の方法がある。界面重合法は,ビスフェノールAの苛性ソーダ水溶液と塩化カルボニル(通称「ホスゲン」)とを,- 5 -有機溶媒である塩化メチレンを用い,触媒存在下で重合させる方法であり,混ざらない二つの液体を混ぜて反応界面を増加させること及び反応過程で生じる食塩を樹脂から取り除くことが重要な技術課題となる。他方,溶融重合法は,高温・高真空下で溶融させたビスフェノールAとジフェニルカーボネートとを,触媒存在下でエステル交換反応により重合させる方法であり,高温下での反応のため,反応中に生成する原料や樹脂の分解を防止することが重要な技術課題となる。 イ平成20年2月当時,PC樹脂の製造について商業規模の自社技術を有し活動している企業として知られていたのは,海外では,ドイツのバイエル社,アメリカ合衆国のSABICイノベーティブプラスチックス社(旧GE社)及びダウケミカル社,国内では,原告のほか,帝人化成株式会社(帝人化成),三菱瓦斯化学株式会社(三菱ガス化学),三菱化学株式会社(三菱化学),旭化成株式会社(旭化成)の各社を中心とする8つの企業グループのみであった。これらの企業グループのうち,バイエル社,SABICイノベーティブプラスチックス社,三菱化学においては界面重合法と溶融重合法の双方を,ダウケミカル社,帝人化成,三菱ガス化学,原告においては界面重合法を,旭化成においては溶融重合法をそれぞれの製造技術として保有している。これらのPC樹脂の製造技術は,各企業グループがそれぞれ上記 ,ダウケミカル社,帝人化成,三菱ガス化学,原告においては界面重合法を,旭化成においては溶融重合法をそれぞれの製造技術として保有している。これらのPC樹脂の製造技術は,各企業グループがそれぞれ上記の技術課題を克服するための研究開発,技術改良等を積み重ねて確立させてきた。 ウ PCプラントを設計するに当たって,その根幹となる技術資料は,Piping& InstrumentDiagram(P&ID)及びProcessFlowDiagram(PFD)である。 P&IDは,PCプラント内の各機器,それらをつなぐ配管,装置運転を制御するための計器類をダイヤグラム形式で工程ごとに表した図面であり,PFDは,プラント内の機器,配管を流通する流体の種類,流量,温度・圧力などの運転条件が記載された図表である。また,これらの技術資料に基づいて,PCプラント内で使用されるすべての機器の仕様が定められ,その情報を記載した機器図が作成される。 本件図面図表は上記のP&ID,PFD及び機器図に該当し,PCプラントの建- 6 -設,運転,管理等に使用される不可欠な技術資料であり,本件情報はこれらを内容とする。 (3) 原告及び出光石化によるPC樹脂の製造等(甲16,丙11)原告は,昭和32年にPC樹脂製造の基礎研究に着手し,昭和35年8月に自社技術によるPCパイロットプラントを完成させた。その後,原告及び出光石化は,研究開発等を経て界面重合法による自社技術を確立させ,原告は,昭和44年4月に原告徳山工場にPCプラントを建設し,PC樹脂の製造を開始した。また,出光石化は,昭和60年に千葉工場第1PCプラントを,平成2年に同じく千葉工場第2PCプラントを建設し,それぞれPC樹脂の製造を開始し,原告による出光石化の吸収合併後は,原告が千葉工場の各PCプラント 石化は,昭和60年に千葉工場第1PCプラントを,平成2年に同じく千葉工場第2PCプラントを建設し,それぞれPC樹脂の製造を開始し,原告による出光石化の吸収合併後は,原告が千葉工場の各PCプラントにおいてPC樹脂の製造を行っている。 3 原告主張の請求原因原告は,後記第3の1(1)のとおり本件情報が営業秘密として管理されてきたのに,後記第3の2(1)のとおり被告らが本件情報を藍星公司に取得させ,損害を被ったとして,前記1のとおりの差止めと廃棄及び損害賠償を本件訴訟で請求している。 第3 当事者の主張 1 本件情報の営業秘密性について(1) 営業秘密性に関する原告の主張出光石化及び原告は,多大な期間,労力,資金を費やした研究開発の結果,独自にPC樹脂の製造技術を開発し,それに基づいて,昭和60年に千葉工場第1PCプラントを建設し,PC樹脂を製造してきた。 これらの過程において,PC樹脂製造技術開発の成果及びノウハウが集積されたものとして,本件情報を内容とする別紙営業秘密目録記載1の各図面(P&ID),同目録記載2の各図表(PFD)及び同目録記載3の機器図(以上が本件図面図表である。)が作成され,千葉工場第1PCプラントの建設,改造,増設,補修,運- 7 -転,管理等に使用されてきた。 上記P&IDは,設計当初は手書きで作成され,その後,たびたび行われた図面の修正も手書きで行われていたが,平成13年にCADシステムによって作り直されたものである。 このように,本件図面図表に記載された本件情報は,PC樹脂の製造に有用な技術上の情報である。 本件情報は,出光石化及び原告によって秘密として管理され,PC樹脂の製造技術として有用な情報であって,しかも,公然と知られていないものであるから,不正競争防止法2条6項の営業秘密に当 情報である。 本件情報は,出光石化及び原告によって秘密として管理され,PC樹脂の製造技術として有用な情報であって,しかも,公然と知られていないものであるから,不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たる。 (2) 営業秘密性に関する被告らの主張ア被告ビーシー工業及び被告Y1 の主張原告の主張は争う。 イ被告山野商事及び被告Y2の主張不正競争防止法2条6項の営業秘密の要件とされる秘密管理性を充足するためには,情報にアクセスできる者が制限されていることが必要とされており,フロッピーディスク等の持出しにより情報が一気に外部に流出する危険を未然に防止する必要がある。しかしながら,出光石化による本件情報の管理には,次のとおり重大な欠陥があるから,本件情報は,秘密管理性の要件を満たしておらず,営業秘密に該当しない。 すなわち,原告主張の計器室建物内の資料保管ロッカーに収納されたフロッピーディスクの管理については,ロッカーの置かれた位置が,計器室の1階か2階かが不明であるが,ロッカーが1階に置かれている場合は,計器室入口に「関係者以外立入禁止」の表示があったとしても,特別の監視装置があるわけではないので,PS,PCの部署以外の従業員が立ち入らないということはできず,誰か係員が監視していなければ,鍵のかけられていないロッカーから容易にケースごとフロッピーディスクを持ち去られる危険がある。また,ロッカーが2階に置かれている場合で- 8 -も,ロッカー内のフロッピーディスクを持ち出す際のチェックはどのようにして行うのか,貸出のための管理者が置かれているかどうか,フロッピーディスクから所要の情報を画面上に出し,これを印刷する際の手続はどうなっているのか,この操作を許容されている従業員の範囲及び暗証番号等の規定はどうなっているのか,不明であ ているかどうか,フロッピーディスクから所要の情報を画面上に出し,これを印刷する際の手続はどうなっているのか,この操作を許容されている従業員の範囲及び暗証番号等の規定はどうなっているのか,不明である。 このことは,書類についても同様であって,通常昼夜を問わず必要とされるであろう各セクション毎の書類は,どこに,どのようにして保管され,使用されているのか,PS,PCの部署の従業員が必要箇所を含む1冊を持ち出して工場現場まで持ち込む際のチェック及び工場内に持ち込んで必要箇所をコピーした際には何か記録に残すのか残さないのか,その書類を記録室に返還する場合の手続はどのようなものであるのか,工場内で夜間持ち出した書類を,丸ごとコピーして社外に持ち出す危険はないのかなどの疑問が生じるが,これらの手続について規定があるのか,あるとすればその内容はどうなっているのか不明である。 次に,退職者,転勤者らの訪問の際の取扱いが問題であり,その取扱い如何によっては,本件営業秘密の社外への流出は十分防止できない。正門において守衛を配置するのであれば,出入者は特別の者を除き身体捜検を行う位の注意が必要であると考えられるが,守衛の任務についての規定は不明である。 2 被告らによる不正競争行為の有無について(1) 被告らの行為に関する原告の主張ア被告らは,阿州エンジニアリング株式会社(旧商号「株式会社三共プロセス・サービス」。以下「三共プロセス」という。)及びその代表取締役のA と共同して,PC樹脂の製造技術を欲している藍星公司に対し,本件情報を開示することにより利益を得ることを企て,被告Y2において出光石化の従業員(原告の従業員であって,出光石化千葉工場で勤務していた者を含む。以下同じ。)をして本件情報を不正に開示させて取得し,これを藍星公司に開示した。 益を得ることを企て,被告Y2において出光石化の従業員(原告の従業員であって,出光石化千葉工場で勤務していた者を含む。以下同じ。)をして本件情報を不正に開示させて取得し,これを藍星公司に開示した。 すなわち,被告Y2は,出光石化の従業員に千葉工場で保管されている本件図面- 9 -図表を持ち出すよう働きかけ,当該従業員が持ち出した本件図面図表に記載された本件情報を開示させてこれを取得し,平成15年から平成16年にかけて,三共プロセスが立ち上げた各技術分野の技術者を集めたプロジェクトチーム(以下「三共PT」という。)に本件情報を提供した。 三共PTは,そのころ,藍星公司が建設を予定している現地の状況に合うように本件情報の修正等を行い,被告ビーシー工業作成名義のPCプラントの設計図面等を作成した(以下,この修正等に係る設計図面等を「三共PT作成図面等」という。)。 そして,被告ビーシー工業は,三共プロセスから受け取った三共PT作成図面等を藍星公司に引き渡した。 以上のような被告らの行為は,出光石化が保有する営業秘密である本件情報について,不正開示行為であること若しくは不正開示行為が介在したことを知って,又は重大な過失によりこれを知らないで,本件情報を取得し,その取得した本件情報を藍星公司に開示する行為であり,不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為に該当する。 イ被告らが前記アの不正競争行為を行ったことは,次の諸点から明らかである。 (ア) 甲16の別紙図面8ないし14が別紙営業秘密目録記載1の各図面図表の一部を複製したものであること甲16の図面8ないし14は,三共プロセスの電気エンジニアリングマネージャーの肩書で,電気技術者として三共PTに参加していたB が原告に提供した図面であり,三共PT作成図面等に含まれるP&IDの一部で 16の図面8ないし14は,三共プロセスの電気エンジニアリングマネージャーの肩書で,電気技術者として三共PTに参加していたB が原告に提供した図面であり,三共PT作成図面等に含まれるP&IDの一部である。甲16の図面8ないし14は,右下の「TITLE」欄に「BCIndustrialCompany,Ltd.」という被告ビーシー工業の英語表記がされているように,被告ビーシー工業の図面として作成されたものである。 一方で,甲16の図面1ないし7は,出光石化が作成した平成13年CAD化後のP&IDの一部であり,別紙営業秘密目録記載1の各図面図表に含まれる。 - 10 -甲16の図面1ないし7とこれらに対応する甲16の図面8ないし14とを対比すると(具体的には,図面1と8,2と9,3-1と10-1,3-2と10-2,4と11,5と12,6と13,7と14がそれぞれ対応する。),P&IDの主要な事項である,①主原料及び製品流体の流れ並びにそれらが直接係わる機器,②その他の流体等の流れ及びそれらが直接係わる機器,③制御のための機器類及び信号ラインのいずれにおいても,ほとんど同一であり,甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14は,実質的に同一である。 そして,甲16の図面1ないし7及び甲16の図面8ないし14は,その記載内容からも明らかなように極めて複雑精巧なものであり,その記載が偶然一致するようなことはあり得ないこと,PC樹脂の製造技術は,多くの専門的技術的ノウハウを要するものであり,原告を含む8社を中心とする8つの企業グループしか同製造技術を保有していないこと,藍星公司が独自に作成したP&IDとして提出された乙1の1,2は,甲16の図面8ないし14と全く異なっており,藍星公司が甲16の図面8ないし14の基となる図面を作成していたとは を保有していないこと,藍星公司が独自に作成したP&IDとして提出された乙1の1,2は,甲16の図面8ないし14と全く異なっており,藍星公司が甲16の図面8ないし14の基となる図面を作成していたとは考えられないことなどからして,甲16の図面8ないし14は,別紙営業秘密目録記載1の各図面図表の一部である甲16の図面1ないし7を複製して作成されたものとしか考えられない。 (イ) 本件情報全体との関係三共プロセスは,各分野の技術者を集めた三共PTにおいて,被告Y2から提供された千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD,機器図等の修正作業を行い,平成16年6月に国内での作業を終了し,同年10月末に中国現地に合わせた修正も終了し,三共PT作成図面等を完成させた。そして,完成した三共PT作成図面等は藍星公司に納入された。 PCプラント建設のためには,甲16の図面8ないし14だけではなく,PC樹脂の製造工程すべてについてのP&ID,PFD及び機器一台ごとに表した機器図のすべてが必要となるが,そもそもPCプラントに関する技術は,限られた企業グループが独自に開発し保有しているもので,汎用的な技術ではなく,また,PCプ- 11 -ラントの工程は,一連の実験や実測データに基づくノウハウにより定められるもので相互に密接に関連しているから,他社が開発した技術と組み合わせて使用することができるものではなく,PCプラントの設計の経験がない被告Y2や三共プロセスが作成できるものでもない。 出光石化の千葉工場第1PCプラントにおけるすべての工程のP&IDは,合計60枚あり,このような多数の図面がなければPCプラントを建設することはできない。しかも,甲16の図面8は,甲16の図面1のシンボル(記号)リストを複製したものであるが,シンボルリストはP&IDのシンボル あり,このような多数の図面がなければPCプラントを建設することはできない。しかも,甲16の図面8は,甲16の図面1のシンボル(記号)リストを複製したものであるが,シンボルリストはP&IDのシンボルを全体として統一して記載するためのものであるから,シンボルリストを複製するということは,P&IDすべてについて複製することを前提とするものである。また,甲16の図面9ないし14は,限定された一部の工程に関するものではなく,P&IDの主要な工程のほぼすべてに及んでおり,各工程の一部を入手しながら,それ以外の部分を入手しないことは考えられない。さらに,P&IDはデジタルデータ(CADデータ)として保存されており,一括コピーが容易であるのに,一部だけをコピーすることも考えられない。 PFDや機器図についても,P&IDと相互に密接な関係にあり,他社のものを流用することはできない。また,被告Y2から三共PTに提供された図面等については,本件情報の全体を把握している出光石化の元従業員D が,不十分な点がないかを確認し,その確認に基づき,変更されていた部分の機器図を持ち出している。 そして,前記のとおり三共プロセスは三共PT作成図面等(P&ID,PFD,機器図等を含む。)を完成させており,この図面等が藍星公司に納入されたにもかかわらず,三共プロセスにおける作業中や藍星公司への納入後に,三共PT作成図面等が不完全であることが発覚するなどの事態は生じていないのであって,三共PT作成図面等は,部分的に持ち出された情報に基づいて作成された不完全なものではない。 以上の事情からすると,被告らは,甲16の図面1ないし7を複製して甲16の- 12 -図面8ないし14を作成したにとどまらず,本件図面図表のすべてを入手し,これを複製したものである。 (ウ) 被告山野 事情からすると,被告らは,甲16の図面1ないし7を複製して甲16の- 12 -図面8ないし14を作成したにとどまらず,本件図面図表のすべてを入手し,これを複製したものである。 (ウ) 被告山野商事及び被告Y2の本件情報の具体的取得経過被告山野商事及び被告Y2は,被告Y2が出光石化の従業員(又は出光石化千葉工場で勤務していた原告の従業員)であったC 及びD に働きかけて,出光石化が保管する本件図面図表を持ち出させて本件情報を取得した。このことは,以下の事実から裏付けられる。 a 本件情報は公表されたものではなく,出光石化と外国企業との合弁事業から流出したものでもないから,被告Y2が本件情報を取得するためには,出光石化から不正に持ち出す以外に方法はない。被告Y2がA(三共プロセスの代表取締役)にPC樹脂の製造方法の説明等をしたとする平成15年7月の時点において,C(平成15年10月31日退職)及びD(平成16年1月31日退職)は,いずれも出光石化の従業員(又は原告の従業員)として在職しており,両名が出光石化から本件図面図表を持ち出すことは可能な状況にあった。 b D は,平成15年の秋以降に,被告Y2から,千葉工場第1PCプラントに係る洗浄塔,分離槽など4箇所ほどの機器についての機器図の提供を求められ,これに応じて当該機器図を千葉工場内でコピーし,それらのコピー図面を持ち出し,被告Y2に渡している。 D は,PC樹脂製造技術開発の資料をまとめて保管する作業を行っており,千葉工場内で本件情報すべてを容易にコピーすることができる状況にあった。このような状況の下で,上記4か所ほどの機器についての機器図の変更を行うために,不正に機器図を出光石化から持ち出すのであれば,P&IDの記載も変更する必要があるから,変更されているP&IDについて このような状況の下で,上記4か所ほどの機器についての機器図の変更を行うために,不正に機器図を出光石化から持ち出すのであれば,P&IDの記載も変更する必要があるから,変更されているP&IDについても持ち出すのが自然である。 以上によれば,D が,被告Y2から求められて,上記機器図だけではなく,本件図面図表のすべてを出光石化から持ち出したことは明らかである。 (エ) 被告ビーシー工業及び被告Y1 の関与- 13 -a 藍星公司は,中国有数の大化学メーカーであり,PC樹脂の製造技術を限られた企業グループしか保有していないことを認識していた。このため,藍星公司は,出光石化から上記技術のライセンスを受けるべく交渉をしたが,断られた。すると,藍星公司は,PC樹脂の製造プロセスの取扱い経験のない被告ビーシー工業を通じて,上記技術を導入することを意図し,上記技術を保有しているとは考えられない小規模な会社である三共プロセスから被告ビーシー工業へとライセンスを受けさせることとし,被告ビーシー工業に対して6億円ないし8億6000万円という高額なライセンス料を支払っている。 このような経過からすると,藍星公司が被告ビーシー工業を介して三共プロセスから上記技術の提供を受けることとしたのは,三共プロセスを通じて,上記技術を保有する企業のOB等から不正に上記技術を入手する意図であったとしか考えられない。そして,藍星公司は,長期にわたり懇意な関係にあった被告ビーシー工業,被告Y1 を介して上記技術を取得しようとしたのであるから,上記の意図は被告ビーシー工業らにも説明・指示されていたはずである。 b 被告ビーシー工業は,自社の事業として,PCを含めた生産管理,設備メンテナンス等を掲げているのであるから,PC樹脂の製造技術を限られた企業グループしか保有していな ・指示されていたはずである。 b 被告ビーシー工業は,自社の事業として,PCを含めた生産管理,設備メンテナンス等を掲げているのであるから,PC樹脂の製造技術を限られた企業グループしか保有していないことを認識していたはずである。また,仮にそのような認識を有していなかったとしても,藍星公司から上記技術の入手を依頼されたのであるから,その保有者を探す前提として上記技術の保有状況を調査したはずであり,これにより,上記技術の保有者が限られることを認識したはずである。そして,三共プロセスが上記技術を保有していないことは明らかであるから,被告ビーシー工業及び被告Y1 は,三共プロセスを通じて得られる上記技術がこれを保有する限られた企業から不正に取得されたものであることを認識し,あるいは容易に認識し得た。 c 被告ビーシー工業は,平成15年4月に日中友好会館で行われた会議に出席し,これに出席した被告Y2と面識を得ており,被告Y2が出光石化のOB- 14 -であることを認識していた。また,被告Y2は平成15年6月に藍星公司本社を訪問しており,この訪問は出光石化の図面等を被告Y2が有していることを確認するためのものと考えられるが,このような訪問・確認も被告ビーシー工業を介して行われたものである。そして,その後の同年7月に被告ビーシー工業と三共プロセスとの間でライセンス契約が締結されていることからしても,被告ビーシー工業や被告Y1 は,三共プロセスからライセンスを受ける設計図書の元になるのが出光石化の保有する本件情報を記載した図面等であることを認識していたはずである。 d 被告ビーシー工業は,E に対し,藍星公司が中国に建設を予定しているPCプラントに関する業務について統括管理者としての業務を委託した。 E は,上記委託を受けて,三共PTにおいて,① である。 d 被告ビーシー工業は,E に対し,藍星公司が中国に建設を予定しているPCプラントに関する業務について統括管理者としての業務を委託した。 E は,上記委託を受けて,三共PTにおいて,①設計事務所から交付される基本設計書をチェックすること,②被告ビーシー工業の客先に基本設計書を引き渡し,客先と設計会談を行い,客先から質問等を受け,それについて被告ビーシー工業からの発注先である設計事務所に問い合わせた上で,その質問等の回答を客先に伝えること,③設計業務の進行についての工程管理をすること,④プロジェクトに関わるエンジニアの能力判断等をすることなどの業務を行い,被告ビーシー工業の代表取締役である被告Y1 に対し,これらの業務についての報告をしている。また,被告ビーシー工業は,E に加え,F にも業務委託し,同人らの報酬を払って,三共プロセスの作業センターに常駐させている。 このように被告ビーシー工業及び被告Y1 は,藍星公司が中国に建設を予定しているPCプラントに関する三共PTの業務を,E やF を用いて主体となって推進していた。 e 被告Y1 は,E から前記dのとおりの報告を受けていたほか,被告Y2に複数回会い,三共PTによる作業が行われていた現場にも4,5回行っており,三共PTのメンバー,藍星公司の担当者,中国で詳細設計をする「第二設計院」の担当者のことも知っていた。 また,三共PTにおいては,被告Y2らについてYグループ等の仮名が使われ,- 15 -被告Y2に接触できる者がA とE の二人に制限されるなど,通常のプロジェクトでは考えられない異常な状況にあり,三共PTに参加していたB,G や,F においてもデータの出所がおかしいと認識していた。したがって,E からすべての報告を受けている被告Y1 においても,被告Y2か は考えられない異常な状況にあり,三共PTに参加していたB,G や,F においてもデータの出所がおかしいと認識していた。したがって,E からすべての報告を受けている被告Y1 においても,被告Y2から提供されるPCプラントに関する情報が出光石化から不正に取得したものであることを知らなかったとは考えられない。 f 甲16の図面8ないし14の右下の「TITLE」欄には,「BCIndustrialCompany,Ltd.」という被告ビーシー工業の英語名が記載されているように,これらの図面は,被告ビーシー工業の図面として作成されている。 g 被告ビーシー工業は,PCプラントの基本設計が終了した後の平成16年6月ころ以降に,三共プロセスとの契約を解除し,被告Y2と直接の契約を締結している。このことからしても,被告ビーシー工業は,被告Y2が三共プロセスに対するPCプラントの技術提供者であることを認識していた。 h 以上のとおり,被告ビーシー工業及び被告Y1 は,被告Y2が出光石化の保有する本件図面図表に記載された本件情報を不正に取得して提供するものであることを認識しながら,三共プロセスを介して本件図面図表と実質的に同一の三共PT作成図面等を取得し,藍星公司に対し,これらを引き渡して,本件情報を開示した。 (2) 被告らの主張ア被告らの行為に関する被告ビーシー工業及び被告Y1 の主張(ア) 被告ビーシー工業及び被告Y1 が,出光石化の従業員に働きかけて本件情報を不正に開示させて取得した事実はない。 被告ビーシー工業は,以下のとおり,藍星公司からPC樹脂の生産について支援要請を受けて支援をした。しかし,被告ビーシー工業が藍星公司から依頼されたのは,あくまで藍星公司が保有するPC樹脂製造の基礎となる図面を修正し,実用化に耐えるものとする らPC樹脂の生産について支援要請を受けて支援をした。しかし,被告ビーシー工業が藍星公司から依頼されたのは,あくまで藍星公司が保有するPC樹脂製造の基礎となる図面を修正し,実用化に耐えるものとすることであり,PC樹脂の製造技術そのものを入手するということではなく,三共PTが行った作業も,そのような技術支援にすぎない。藍星公司- 16 -がもともとPCプラントの設計図面を保有していたことは,藍星公司から許可を得て本件訴訟において提出した当該設計図面の一部である乙1の1,2が存在することから明らかである。 a 被告ビーシー工業は,平成元年ころから,藍星公司と業務提携を行っていたところ,平成14年2月ころ,同社からPC樹脂の生産について支援要請を受けた。藍星公司の説明では,同社は,既にPC樹脂の生産に関する基礎的な技術を独自に開発していたが,未だ本格的生産に至るものではなく,被告ビーシー工業にその支援業務を行ってもらいたいとのことであった。 被告ビーシー工業は,PCに関する技術について何らの経験,知識も有していなかったが,藍星公司の要請に応じるため,日本国内において広く人材を求めることとし,東京,名古屋,大阪等各地の人材銀行に求人依頼をし,また,自社のホームページでも,同様の求人を行った。 なお,藍星公司が被告ビーシー工業に依頼したのは,被告ビーシー工業が自ら図面の修正等を行うというものではなく,その技術を有する者を探し出し,これに委託することが当然の前提とされていた。 b 被告ビーシー工業は,平成15年4月ころ,種々あった応募の中から,三共プロセスを技術支援元に決定することとし,その後,三共プロセスが中心となって,三共プロセスのA,被告Y2,大学の非常勤講師H,技術士のI 等7名からなるPC技術支援プロジェクトチームを立ち上げること プロセスを技術支援元に決定することとし,その後,三共プロセスが中心となって,三共プロセスのA,被告Y2,大学の非常勤講師H,技術士のI 等7名からなるPC技術支援プロジェクトチームを立ち上げることとなった。これに先立つ同年2月15日,被告ビーシー工業と藍星公司は,上記支援業務に関し,秘密保持契約を締結した。その秘密保持契約書(乙2)には,三共プロセスが図面の修正作業等の受託先に内定していたこともあって,三共プロセスの代表取締役のA も署名した。 上記プロジェクトチームのメンバーは,同年4月21日,東京都内の日中友好会館で,藍星公司の保有するPC生産に関する設計図等の検討会を行った。同検討会には,藍星公司の幹部及び技術者も出席した。 - 17 -上記検討結果を踏まえ,藍星公司の技術を補完すべく,上記プロジェクトチームのメンバーによる図面の修正等の作業が行われた。その成果物は,順次藍星公司側に引き渡されたが,平成16年12月になって三共プロセスが倒産したこともあって,以後の作業は,藍星公司が独自に行うこととなり,上記プロジェクトチームは解散することとなった。 その後,藍星公司においては,PC生産が現地の排水,排気ガスの規制を遵守できないことが判明し,同社は,PCプラント設備を建設しないこととなった。 (イ) 仮に被告ビーシー工業及び被告Y1 が本件情報を入手した事実があるとしても,それが不正開示によること又は不正開示行為が介在していることについて,被告ビーシー工業及び被告Y1 は認識しておらず,認識していないことについて重過失もない。 すなわち,被告ビーシー工業及び被告Y1 は,藍星公司が中国に建設を予定しているPCプラントに関する業務について,内容的なことは三共プロセスに全面的に委せていたものであり,その詳細を知り得る立場にはな なわち,被告ビーシー工業及び被告Y1 は,藍星公司が中国に建設を予定しているPCプラントに関する業務について,内容的なことは三共プロセスに全面的に委せていたものであり,その詳細を知り得る立場にはなかった。三共PTに関与していたE 及びF は,いずれも,被告ビーシー工業のマネージャーの肩書が記載された名刺を有してはいたが,それは便宜上のものにすぎず,実際には被告ビーシー工業の従業員ではなく,被告ビーシー工業が三共PTと藍星公司との間の連絡調整役の業務を個別に委託していた者にすぎない。しかも,E 及びF は,三共PTによる図面等の作成自体には関与していないから,被告ビーシー工業及び被告Y1 が,E 及びF を通じて,三共PTによる作業の詳細を知り得たものでもない。 甲16の図面8ないし14の右下の「TITLE」欄に,被告ビーシー工業の英語表記がされているのは事実であるが,これは,藍星公司との契約当事者が被告ビーシー工業であり,修正した図面等を藍星公司に納品するために被告ビーシー工業の名称が記載されていないとその後の手続に支障があることから便宜上行われたものであって,被告ビーシー工業が作成した図面であることを示すものではない。 また,被告ビーシー工業及び被告Y1 は,本件訴訟の提起前に,出光石化及び原告- 18 -に直接接触したことはなく,ましてや千葉工場の存在など知らなかったのであるから,本件情報を不正に取得することを企てることなどあり得ない。 (ウ) 甲16の図面8ないし14は,三共プロセスに雇われて三共PTの業務に従事していたB が原告に提供したものであるところ,B が,三共プロセスが保有する図面を同社に無断で第三者に開示することは違法な行為に当たり,被告ビーシー工業と藍星公司との間の秘密保持契約に係る秘密保持義務にも違反することに 供したものであるところ,B が,三共プロセスが保有する図面を同社に無断で第三者に開示することは違法な行為に当たり,被告ビーシー工業と藍星公司との間の秘密保持契約に係る秘密保持義務にも違反することになるから,これらの証拠は,違法に収集された証拠として,証拠能力を欠くというべきである。 (エ) 以上のとおり,被告ビーシー工業及び被告Y1 が原告主張の不正競争行為を行った事実はない。 イ被告らの行為に関する被告山野商事及び被告Y2の主張(ア) 甲16の図面8ないし14は,甲16の図面1ないし7を複製したものではない。 原告は,甲16の図面8ないし14は,甲16の図面1ないし7を複製したと主張する。しかしながら,原告提出の証拠によると,平成15年末ころには三共プロセスにおいてP&IDの一部を作成していたことになるところ,甲16の図面2,3-2,4,5は,平成16年4月に作成されたものであるから,これを複製して甲16の図面9,10-2,11,12が作成されることはあり得ない。 (イ) 被告Y2が出光石化の従業員に働きかけて本件情報を不正に開示させてこれを取得した事実はない。 被告Y2は,平成14年末ころ,大日本インキ株式会社四日市工場の関係者から,三共プロセスの代表取締役のA がPCの分かる者を探しているという話を聞き,Aに電話したところ,藍星公司が中国に建設を予定しているPCプラントについての技術支援の要請を受け,これを了承した。 その後,被告Y2は,平成15年春ころ,東京都内の日中友好会館で,被告Y1,A,藍星公司の担当者らとの会合を持った後,同年6月に,藍星公司の招きにより中国- 19 -北京所在の藍星公司の本社を訪問した。 被告Y2は,その訪問の際,藍星公司から,同社が保有するPCプラントに関するP&IDを含む多数の図面 った後,同年6月に,藍星公司の招きにより中国- 19 -北京所在の藍星公司の本社を訪問した。 被告Y2は,その訪問の際,藍星公司から,同社が保有するPCプラントに関するP&IDを含む多数の図面等の資料を手渡されて,日本に持ち帰った。上記資料は,作成日時及び作成者等の欄が抹消されてはいたが,界面重合法による出光石化のPC製造等に関するものであった。また,不足している部分があるなど資料として完全なものではなかった。 その後,被告Y2は,同年7月ころ,A との間で,被告Y2において,藍星公司から手渡された上記資料中の英文は和文に翻訳し,不足している部分を追加すると同時に,余分の箇所を削除するなどの整理をした上で,順次図面等を三共プロセスのA に引き渡すこと,これらの図面等に基づいて年産1万トンクラスのPC樹脂の製造方法を説明することなどの業務を引き受けることを合意した。 被告Y2は,同年9月までに,上記図面等を順次三共プロセスに引き渡し,同年10月ころ以降は,A からの要求に応じて,PC樹脂の製造方法を説明するなどした。 このように被告Y2が三共プロセスに提出したPCプラントの設計図面等は,藍星公司が保有し,被告Y2に手渡された上記図面等を被告Y2において整理したものであって,被告Y2が出光石化の従業員に働きかけて,同社から持ち出させたものではない。 (ウ) 仮に被告Y2が三共プロセスに提出した図面等が本件図面図表と同一のものであったとしても,出光石化は,海外(オランダ,ブラジル,台湾)においてPC製造に関する合弁事業等を行っており,特に,台湾の台湾化学繊維株式会社との間でライセンス契約を締結したのは平成12年3月31日であって,これらの事業の過程で流出したPCプラントに関する資料を藍星公司が入手し,それを被告Y2に渡した可能性も 台湾の台湾化学繊維株式会社との間でライセンス契約を締結したのは平成12年3月31日であって,これらの事業の過程で流出したPCプラントに関する資料を藍星公司が入手し,それを被告Y2に渡した可能性もあるから,これらが同一であるからといって,被告Y2が三共プロセスに提出した図面等の基となった図面等を藍星公司から取得したという事実が否定されることにはならない。 - 20 -また,平成13年に出光石化のP&IDがCAD化されたとしても,それ以前の手書き図面が適時更新され,CAD化作業の直前にはCAD化された図面と同様の図面となっていたと推測されるから,甲16の図面1ないし7がCAD化後の図面であるとしても,手書き図面が流出し,その後CAD化された可能性は十分にあり得る。 (エ)a 原告は,被告Y2が,出光石化の従業員(又は出光石化千葉工場で勤務していた原告の従業員)であったC 及びD に働きかけて,出光石化が保管する本件情報に係る資料を持ち出させたものである旨主張するが,そのようなC やD による資料持ち出しの事実はない。 かえって,C は,平成10年6月に出光石化の千葉工場から関東第一支店営業課に,次いで平成15年4月に東北支店(仙台市)に転勤となり,同年10月末に退社しているのであるから,平成13年のCAD化以降の時点において,C が千葉工場に保管されていた第1PCプラントに関する設計図面等に接近し,本件情報に係る大量の資料をコピーすることは困難であった。 また,D は,平成13年以降も出光石化千葉工場に勤務していたが,D 自身が,本件図面図表を千葉工場から持ち出した事実を明確に否定している。 b なお,D は,原審証人尋問において,平成15年秋ころ,被告Y2から,出光石化千葉工場第1PCの洗浄塔,分離槽など4か所ほどの機器について 図表を千葉工場から持ち出した事実を明確に否定している。 b なお,D は,原審証人尋問において,平成15年秋ころ,被告Y2から,出光石化千葉工場第1PCの洗浄塔,分離槽など4か所ほどの機器についての機器図を提供するよう求められ,千葉工場に保管中の当該箇所の機器図をコピーし,それらを被告Y2に渡した旨供述している。 D は,これまで原告の事実調査などを受けても,千葉工場第1PCプラントに関する資料を社外に持ち出した事実については,終始これを否認していたにもかかわらず,平成21年5月27日,福岡市内の貸事務所において,東京から赴いてきた原告副社長のJ,原告化学管理部のK 及び原告訴訟代理人弁護士鈴木正勇の3名から,種々糾問された結果,上記の事実を認めるに至ったものである。 しかしながら,上記会話の内容を記録した録音の反訳文(丙5の1)によれば,- 21 -上記3名は,D に対し,随所において利益誘導や威圧を加えている。すなわち,Dは,原告側の誘導に従って資料持ち出しの事実を認めれば,被告Y2のように本件訴訟を提起しないし,損害賠償の金額も加減するが,否認を通せば,被告Y2と同様の対応をせざるを得ない旨申し向けられたために,事実に反して自己に不利な上記事実を認めたのであり,その供述が原告側の利益誘導と威圧の結果であることは明白である。 したがって,機器図の持ち出しに関するD の供述は信用できない。 (オ) 以上のとおり,被告山野商事及び被告Y2が原告主張の不正競争行為を行った事実はない。 3 損害について(1) 損害に関する原告の主張ア(ア) 不正競争防止法5条3項による損害額本件に関して,三共プロセスと被告ビーシー工業との間でライセンス契約が締結されているところ,同契約において,ロイヤリティは2億7200万円と定められて ア(ア) 不正競争防止法5条3項による損害額本件に関して,三共プロセスと被告ビーシー工業との間でライセンス契約が締結されているところ,同契約において,ロイヤリティは2億7200万円と定められている。この金額は,三共プロセスが,本件情報を不正に取得して被告ビーシー工業に開示した対価であり,本件情報の使用に対して受けるべき金銭の額に相当する。 また,出光石化は,FORMOSACHEMICALS & FIBRECORPORATION(FCFC)との間のPC製造プロセスのライセンス契約において,ライセンスの対価として,年産5万トンの第1プラントについて,3200万米ドルの支払を受けるものとされている。本件のPCプラントは年産1万トンであり,生産量の減少に伴う減額があり得るとしても,5分の1以下にすることはないから,年産1万トンのPCプラントのライセンスの対価は640万米ドル(1ドル89円73銭換算で5億7427万2000円)となる。 本件情報の使用に対して受けるべき金銭の額としては,上記の金額を平均して算出するのが合理的であるから,本件情報の不正取得・開示行為により原告が受けた損害は4億2313万6000円である。 - 22 -(イ) 弁護士費用相当額原告は,被告らの本件不正競争行為により訴訟提起を余儀なくされたところ,被告らの本件不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は4231万3600円を下らない。 (ウ) 小括したがって,出光石化の権利を承継した原告は,被告らに対し,不正競争防止法4条に基づく損害賠償として4億6544万9600円(前記(ア)及び(イ)の合計額)の一部である2億9700万円及びこれに対する不正競争行為の後である訴状送達の日からの遅延損害金の連帯支払を求める。 イ不正競争防止法5条2項による損 万9600円(前記(ア)及び(イ)の合計額)の一部である2億9700万円及びこれに対する不正競争行為の後である訴状送達の日からの遅延損害金の連帯支払を求める。 イ不正競争防止法5条2項による損害額(ア) 被告山野商事及び被告Y2の得た利益被告山野商事は,本件情報の不正取得・開示行為の対価として,三共プロセスから,平成15年7月から平成16年8月までの間に,合計2億0421万9150円を受領し,また,被告ビーシー工業から,平成17年1月から同年6月までの間に,合計8800万円を受領した。したがって,被告山野商事が本件情報の不正取得・開示行為により得た利益は合計2億9221万9150円である。 上記2億9221万9150円は,不正競争防止法5条2項により,被告山野商事の不正競争行為によって出光石化が受けた損害額と推定される。 また,被告Y2は,被告山野商事の代表者として自ら本件情報の不正取得・開示行為を行ったものであり,共同して不正競争行為をした者として同社と連帯して損害を賠償する義務がある。 (イ) 被告ビーシー工業及び被告Y1 の得た利益被告ビーシー工業は,本件情報の不正取得・開示行為により,藍星公司から少なくとも7億3960万円の報酬の支払を受けた。したがって,この金額が被告ビーシー工業の得た利益となり,不正競争防止法5条2項により,被告ビーシー工業の不正競争行為によって出光石化が受けた損害額と推定される。 - 23 -また,被告Y1 は,被告ビーシー工業の代表者として自ら本件情報の不正取得・開示行為を行ったものであり,共同して不正競争行為をした者として同社と連帯して損害を賠償する義務がある。 (2) 損害に関する被告らの主張ア被告ビーシー工業及び被告Y1 の主張被告ビーシー工業が本件に関し藍星公司から受領 して不正競争行為をした者として同社と連帯して損害を賠償する義務がある。 (2) 損害に関する被告らの主張ア被告ビーシー工業及び被告Y1 の主張被告ビーシー工業が本件に関し藍星公司から受領した金額は,4億3378万9567円であり,このうち,三共プロセスに合計3億5618万4508円を,被告山野商事に合計8800万円を支払ったので,被告ビーシー工業が得た利益はなく,被告Y1 が得た利益もない。 なお,被告ビーシー工業の計算書類について文書提出命令が発せられているが,当該計算書類は盗難もしくは税務調査後の破棄により存在しておらず,推定力はない。仮に,推定力があるとしても,乙6ないし12により推定は破られている。 イ被告山野商事及び被告Y2の主張被告山野商事は,本件に関し,三共プロセスから合計2億0421万9150円を,被告ビーシー工業から合計8800万円の合計2億9221万9150円を受領した。しかし,被告山野商事は,C が設立した有限会社中江商会に対して合計7700万0840円を,D に対して合計870万円を,中国語の通訳の養成費用等として合計1900万円を,上記収入に対する税金として合計3442万7240円を,被告山野商事訴訟代理人に対する弁護士費用として1500万円を,それぞれ支出しており,これらの費用が控除されるべきである。 4 不法行為の成否及び不法行為による損害額について(予備的損害の主張)(1) 原告の主張ア本件情報は,原告又は出光石化が蓄積していた技術開発力をもとに,多大な期間,労力,資金を費やして開発したPC樹脂の製造技術の成果及び同製造のノウハウが集積されたものであり,一切外部に公表することなく保有していたものである。仮に前記2(1)のような方法により本件情報を取得し開示した被告らの行為- PC樹脂の製造技術の成果及び同製造のノウハウが集積されたものであり,一切外部に公表することなく保有していたものである。仮に前記2(1)のような方法により本件情報を取得し開示した被告らの行為- 24 -が不正競争行為に該当しないとしても,被告らの行為は,自由競争原理を明らかに逸脱する違法なものであり,出光石化に対する民法709条の不法行為を構成する。 イ被告らの前記アの不法行為により出光石化が受けた損害額は,2億7000万円をはるかに上回るものであり,少なくとも同額の損害が生じたことは明らかである。 加えて,原告は,被告らの上記不法行為により訴訟提起を余儀なくされたところ,被告らの上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は2700万円を下らない。 ウしたがって,出光石化の権利を承継した原告は,被告らに対し,民法709条の不法行為による損害賠償として2億9700万円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日からの遅延損害金の連帯支払を求めることができる。 (2) 被告らの主張原告の主張はいずれも争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件情報の営業秘密性について(1) 営業秘密性に関する認定事実争いのない事実等,証拠(甲1,6,7,16,丙11)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア PC樹脂の製造技術等(甲1,16,丙11)PC樹脂の製造技術等は前記第2の2(2),(3)のとおりである。このようなPC樹脂の製造技術は,これを保有する企業グループがそれぞれ開発した独自の高度な技術であって,機密性が高く,一般には公開されていない。原告ないし出光石化も,そのように限られた商業規模の自社製造技術を有してきたところ,本件情報が記載されている別紙営業秘密目録記載1の各図面図表(P&ID),同目録記載 高く,一般には公開されていない。原告ないし出光石化も,そのように限られた商業規模の自社製造技術を有してきたところ,本件情報が記載されている別紙営業秘密目録記載1の各図面図表(P&ID),同目録記載2の各図表(PFD)及び同目録記載3の機器図(以上,本件図面図表)は,出光石化(吸- 25 -収合併後は原告)の千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD及び機器図であり,このうちP&IDは,設計当初の手書きの図面等を平成13年にCADシステムによりCAD化したものである。 イ本件図面図表の管理状況等(甲6,7,弁論の全趣旨)平成18年ないし平成19年の時点において,本件図面図表(P&ID,PFD及び機器図)並びにその電子データ(CADデータ)が記録されたフロッピーディスクは,原告千葉工場のPS・PC計器室内に保管されていた。 千葉工場は,周囲に塀がめぐらされ,敷地内への出入口にはゲートが設置されており,そのゲート脇には,守衛が駐在する詰所があり,外部の者が構内に出入りする際には,詰所において入出構手続をとる必要があり,許可のない者が入構することはできなかった。また,PS・PC計器室は,独立した一つの建物となっており,その建物出入口の扉には,「関係者以外立入禁止」の表示が付されており,本件図面図表及び上記フロッピーディスクは,上記PS・PC計器室にあるロッカー内に保管されていた。そして,ロッカー内の上記フロッピーディスクが入れられたケースの表面には,持ち出しを禁止する旨が記載されたシールが貼付されていた。 なお,上記PS・PC計器室の建物出入口及び上記ロッカーは,施錠されていなかった。 (2) 営業秘密性の判断ア有用性及び非公知性前記(1)の認定事実によれば,本件図面図表に記載された本件情報は,原告及び出光石化が独自に開発 口及び上記ロッカーは,施錠されていなかった。 (2) 営業秘密性の判断ア有用性及び非公知性前記(1)の認定事実によれば,本件図面図表に記載された本件情報は,原告及び出光石化が独自に開発したPC樹脂の製造技術に基づいて設計された,出光石化千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD及び機器図に係る情報であって,同PCプラントの具体的な設計情報であり,同PCプラントの運転,管理等にも不可欠な技術情報であるから,原告及び承継前の出光石化のPC樹脂の製造事業に「有用な技術上の情報」であることは明らかである。 次に,PC樹脂の製造について商業規模の自社技術を有するものとして知られて- 26 -いたのが,平成20年2月当時においても,原告を含めて世界で僅か8つの企業グループに限られ,それぞれの技術が各企業グループ独自の技術であることに照らすと,原告及び承継前の出光石化が保有するPC樹脂の製造技術に関する本件情報は,世界的にも稀少な情報であって,原告及び承継前の出光石化にとって秘匿性が高く,社外の者に開示されることがおよそ予定されていないことは明らかである。したがって,本件情報は,「公然と知られていないもの」であると認められる。 イ秘密管理性不正競争防止法2条6項の「秘密として管理されていること」とは,外部者及び従業員から認識可能な程度に客観的に秘密として管理されていることを指す。 ところで,上記(1)で認定した原告千葉工場における本件情報の管理状況は,平成18年ないし平成19年時点のものであるが,それ以前に管理状況が変更されたことを窺わせる証拠はないから,不正競争行為があったとされる平成15年ないし平成16年当時の管理状況も同様であったと推認される。 そうすると,本件図面図表(P&ID,PFD及び機器図)並びにその電子データ( せる証拠はないから,不正競争行為があったとされる平成15年ないし平成16年当時の管理状況も同様であったと推認される。 そうすると,本件図面図表(P&ID,PFD及び機器図)並びにその電子データ(CADデータ)が記録されたフロッピーディスクは,千葉工場のPS・PC計器室のロッカー内に保管されていたものであるところ,守衛の配置等により外部の者の工場内への入構が制限されており,PS・PC計器室の建物出入口の扉に「関係者以外立入禁止」の表示が付されることにより,PS・PC樹脂の製造に関係ない従業員の立入りも制限されていたのであり,さらに,フロッピーディスクが入れられたケースの表面には,持ち出しを禁止する旨が記載されたシールが貼付されており,しかも,上記アで説示したとおり,本件情報は世界的にも稀少な情報であって,そのことを千葉工場のPS・PC樹脂の製造に関係する従業員が認識していたことは当然であるから,PS・PC樹脂の製造に関係する従業員においても,PC樹脂の製造技術に係る情報が秘密であることは認識されていたといえるし,このことは,当業界の外部の者にとっても同様であることは明らかである。したがって,外部者・従業員のいずれにとっても,本件図面図表及びその電子データが記録され- 27 -たフロッピーディスクが秘密として管理されていることは当然に認識されていたというべきであり,本件情報が秘密として管理されていたことは明らかである。 (3) 小括以上によれば,本件情報は,平成15年ないし平成16年の時点において,当時の出光石化が保有していた営業秘密に当たるということができる。 2 被告らによる不正競争行為の有無について(1) 被告らの行為に関する認定事実前記争いのない事実等,証拠(甲8,15,16,20,26,41,42の1,43の1,4 るということができる。 2 被告らによる不正競争行為の有無について(1) 被告らの行為に関する認定事実前記争いのない事実等,証拠(甲8,15,16,20,26,41,42の1,43の1,44の1,49,乙2,3,丙1,証人B,証人D,被告Y2本人(第1回,第2回),被告Y1 本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア被告Y2の経歴(丙1,被告Y2本人(第1回))被告Y2は,広島県内の工業高校を卒業後,昭和35年に原告に入社し,昭和39年に出光石化の設立に伴って同社に移籍し,以後,平成11年3月に退職するまで同社で勤務していた。このうち,被告Y2が出光石化千葉工場に勤務していた期間は,昭和56年から平成元年までと平成9年から平成11年までであった。 また,被告Y2は,出光石化退職後の平成11年中に,個人でプラスチック樹脂を中国に輸出する事業を始め,平成14年5月1日にこれを会社組織として被告山野商事を設立していたが,この事業の関係で原告及び出光石化千葉工場に出入りしていた。 被告Y2は,原告又は出光石化に在職中,ポリスチレン(PS)樹脂,ポリカーボネート(PC)樹脂,ポリプロピレン樹脂等の製造業務に従事したが,このうち,PC樹脂の製造装置に関わる業務は,昭和35年から昭和39年までの間原告徳山工場のPCパイロットプラントにおける補助業務,昭和60年から平成元年までの出光石化千葉工場のPCプラントにおける装置運転業務であった。ただし,被告Y2は,PCプラントの設計,建設業務を担当したことはなく,また,PC樹脂の製造等に関する同被告の知識は,昭和60年から平成元年までの4年間の上記業務経- 28 -験に基づくものであり,平成15年当時の技術水準に対応したものではなかった。 イ藍星公司からの依頼の経緯等(甲4 に関する同被告の知識は,昭和60年から平成元年までの4年間の上記業務経- 28 -験に基づくものであり,平成15年当時の技術水準に対応したものではなかった。 イ藍星公司からの依頼の経緯等(甲41,49,乙3,丙1,被告Y1 本人,被告Y2本人(第1回))被告ビーシー工業は,平成元年ころから中国法人である藍星公司と取引関係を有していたところ,平成14年ころ,藍星公司から,中国に建設を計画しているPCプラントに関して協力を求める旨の要請を受けた。 被告ビーシー工業は,PC樹脂及びその製造等に関する知識及び経験を有していなかったことから,藍星公司の要請に応ずるため,自社のホームページに求人広告を出すなどして,PC樹脂及びその製造等に関する知識,経験等を有する人材の募集を行った。その後,三共プロセス(株式会社三共プロセス・サービス。商号変更後は阿州エンジニアリング株式会社)が藍星公司の計画するPCプラントに関与するようになり,三共プロセスを通じて被告Y2もこれに関与するようになった。 ウ藍星公司と出光石化との交渉(甲10,11)藍星公司は,平成14年12月13日ころ,出光石化に対し,PC樹脂の製造事業に関する申入れを行った。 出光石化と藍星公司は,平成15年1月17日,中国の上海において,藍星公司の上記申入れに関する打合せをした。しかしながら,この打合せに関して藍星公司が作成した議事録案の中に,出光石化が藍星公司のPCプラントに合資で参加することに合意したなどといった出光石化の認識と異なる記載がされたことから,出光石化は,藍星公司に対し,交渉を白紙にする旨通知した。 エ作業開始前の状況(甲49,乙3,丙1,被告Y2本人(第1回))藍星公司が建設を計画するPCプラントに関して,平成15年4月ころ,東京都内の日中友好会館で会議 ,交渉を白紙にする旨通知した。 エ作業開始前の状況(甲49,乙3,丙1,被告Y2本人(第1回))藍星公司が建設を計画するPCプラントに関して,平成15年4月ころ,東京都内の日中友好会館で会議が開催され,藍星公司の担当者数名のほか,被告Y1,被告Y2,三共プロセスの代表取締役A,その関係者であるL,M,N のほか,大学の非常勤講師であるH,PC技術に関係していたI が出席した。 また,被告Y2は,同年6月,中国の藍星公司本社を訪問した。 - 29 -オ三共プロセスによるプロジェクト・チームの立上げとその後の作業状況(甲8,9,12,17,26,31~37,41~45,49,53,乙3,丙1,証人B,証人D,被告Y1 本人,被告Y2本人(第1回,第2回))(ア) 三共プロセスは,平成15年7月ころ,藍星公司のPCプラント建設に関する作業を行うために,各技術分野の技術者を集めたプロジェクト・チーム(三共PT)を立ち上げた。三共PTには,後から参加した者も含めると,三共プロセスに所属する立場の者として,代表取締役であるA のほか,同社の「ゼネラルマネージャー」としてO が,「プロジェクトマネージャー」としてP が,「電気エンジニアリングマネージャー」としてB が,「計装エンジニアリングマネージャー」としてG が,それぞれ参加した。また,被告ビーシー工業は,同月ころ,同社の従業員ではなかったE に対し,このプロジェクトを総括する業務を委託し,同社の「マネージャー」の立場で三共PTに参加させたほか,その後にも,同社の従業員ではなかったF を「マネージャー」の立場で三共PTに参加させ,E の補助をさせた。 (イ) 三共PTは,平成15年から平成16年6月ころにかけて,主に東京都杉並区の事務所において,被告Y2から提出されたP&IDを含む マネージャー」の立場で三共PTに参加させ,E の補助をさせた。 (イ) 三共PTは,平成15年から平成16年6月ころにかけて,主に東京都杉並区の事務所において,被告Y2から提出されたP&IDを含むPCプラントの設計図面等に修正を加えるなどの作業を行った。三共PTが上記作業を行っていた事務所には,藍星公司の関係者である中国人技術者2名が数週間訪れていた。また,三共PTのメンバーは,同月中旬ころから同年10月末ころまでの間,中国蘭州に滞在して藍星公司の工場内の事務室で上記修正が加わった図面等への更なる修正等の作業を行い,同年10月末ころに作業を終了して帰国した。これらの作業を通じて,三共PTは,P&ID,PFD,機器図等を含むPCプラントの設計図面等を完成し,3回にわたり,被告ビーシー工業を介して,藍星公司に引き渡した。 被告ビーシー工業と三共プロセスとの関係が同年9月ころまでに悪化しており,上記作業を終えた同年10月末に三共PTは解散した。 (ウ) E は,三共PTにおいてプロジェクトを総括する立場にあり,A らに対して,パソコン上のデータの消去を含む各種の指示を行っていたが,三共プロセ- 30 -スに対する金銭の支払については関与していなかった。このため,三共プロセスが,平成16年9月24日,被告ビーシー工業に対して送信したファクシミリ文書においても,「貴社E マネージャーの御要請により……現地派遣の予定です。」などとして,E が被告ビーシー工業のマネージャーの立場にあること,そのE の要請により三共PTのメンバー3名と通訳を現地派遣すること,通訳の代金についてもE が決定したことが記載される一方で,上記現地派遣に伴う作業代金は被告ビーシー工業に請求すること,この作業代金については従来藍星公司と被告ビーシー工業との間の話合いが完了し ,通訳の代金についてもE が決定したことが記載される一方で,上記現地派遣に伴う作業代金は被告ビーシー工業に請求すること,この作業代金については従来藍星公司と被告ビーシー工業との間の話合いが完了していないことなどが記載されていた。また,E は,プロジェクトの状況について被告Y1 に報告をしていた。 被告ビーシー工業は,藍星公司の計画するPCプラントに関し,藍星公司から送金を受け,三共プロセスへの支払をするなど,金銭面の管理をしていた。また,被告Y1 は,前記のとおり,日中友好会館における会議に出席したほか,東京都杉並区の三共PTの作業場所や中国蘭州を訪れることもあった。 (エ) 被告Y2は,三共PTの作業に直接加わらず,専らA を通じて三共PTに被告Y2提供図面等を提供していた。なお,三共PT内においては,被告Y2及びそのグループを「Yグループ」等の仮名で呼んでおり,三共PTのメンバーで,被告Y2と直接に接することができたのは,多くともA,E 及びF の3名に限られていた。 D は,昭和44年に原告に入社し,主にPC樹脂の製造プロセスの開発研究を担当し,出光石化千葉工場においても勤務していたが,平成16年1月に定年により退職した。D は,平成15年秋ころ,少なくとも千葉工場第1PCプラントの洗浄塔や分離槽等の機器図4枚をコピーし,これを被告山野商事に提供した。また,Dは,平成16年8月ころ,被告Y2とともに中国の藍星公司本社を訪問し,藍星公司の担当者からの質問に回答するなどした。他方,D は,被告山野商事から,平成15年8月ころ以降の6か月分の報酬として原告を退職した直後の平成16年2月3日に180万円を受領し,同月から平成17年2月までの間も月額30万円ずつ- 31 -を受領した。 カ甲16の図面8ないし14の性質等(甲16 分の報酬として原告を退職した直後の平成16年2月3日に180万円を受領し,同月から平成17年2月までの間も月額30万円ずつ- 31 -を受領した。 カ甲16の図面8ないし14の性質等(甲16,26,証人B)中国蘭州における三共PTの作業に参加していたB は,作業に使用していた私物パソコンに甲16の図面8ないし14に係る電子データが残存していたことから,帰国後,これを原告に提供した。 甲16の図面8ないし14の各図面右下には,「TITLE」の欄に被告ビーシー工業の英語表記である「BCIndustrialCompany,Ltd.」の表記が,「DESIGNED」の欄にP を表す「P」の表記が,「CHECKED」の欄にO を表す「O」の表記が,「APPROVED」の欄にA を表す「A」の表記が,「REVIS0RYCONTENTS」の欄に三共プロセス(現商号・「阿州エンジニアリング株式会社」)を表す「AschueProcessServiceCorporation」の表記がある。 このように,甲16の図面8ないし14は,前記オ(イ)の経緯で完成されたPCプラントの設計図面等に含まれるP&IDであり,その基となった修正等の作業前の図面は,被告Y2が三共プロセスに提供したものである。 キ甲16の図面1ないし7の性質等(甲16,25,46,丙11)(ア) 出光石化千葉工場第1PCプラントのP&IDは,設計当初は手書きで作成され,その後,たびたび行われた図面の修正も手書きで行われてきたが,平成13年にCADシステムによって作り直され,CAD化された図面となった。 別紙営業秘密目録記載1の各図面図表(P&ID)は,CAD化による作図がされた図面であり,平成15年2月から3月にかけての定期見直し(以下「平成14年度末定期見直し」とい D化された図面となった。 別紙営業秘密目録記載1の各図面図表(P&ID)は,CAD化による作図がされた図面であり,平成15年2月から3月にかけての定期見直し(以下「平成14年度末定期見直し」という。)が実施された時点におけるP&ID(平成13年CAD化後のP&ID)である。 甲16の図面1ないし7は,平成13年CAD化後のP&IDの一部であり,図面1は別紙営業秘密目録記載1のP&ID中の別紙「千葉工場第一ポリカーボネート装置P&IDリスト」の№2の図面(図面番号PC-00-GD-00B01)に,図面2は№5の図面(図面番号PC-07-GD-078-8A-07802)に,図面3-1は№9の図- 32 -面(図面番号PC-62-GD-237-B-07831)に,図面3-2は№10の図面(図面番号PC-62-GD-238-B-07832)に,図面4は№17の図面(図面番号PC-07-GD-078-8A-07839)に,図面5は№19の図面(図面番号PC-07-GD-079-6A-07902)に,図面6は№24の図面(図面番号PC-07-GD-080-A-08002)に,図面7は№38の図面(図面番号PC-07-GD-081-8A-08108)にそれぞれ対応する。 ただし,別紙営業秘密目録記載1の各図面図表(P&ID)の一部は,平成14年度末定期見直しの後にも修正が行われており,甲16の図面2,3-2,4,5,6については,平成16年の修正を反映したものが証拠として提出されている。 (イ) 甲46の図面(甲46の5枚目)は,平成13年CAD化前のP&IDの一部である。甲16の図面1と甲46の図面とを対比すると,両者のシンボルリストに記載された機器・部品の種類,それらの区分の仕方,記載の順序が大きく異なり,両図面に共通して記載された機器・部 &IDの一部である。甲16の図面1と甲46の図面とを対比すると,両者のシンボルリストに記載された機器・部品の種類,それらの区分の仕方,記載の順序が大きく異なり,両図面に共通して記載された機器・部品についても,そのシンボルの形状が異なっているものがあるように(例えば,「BACKPRESSUREVALVE」については,中央上部から出る線が右に折れるか左に折れるかが異なり,「INSULATEDVESSEL」についても,羽状図形が楕円形の右側に付されるか両側に付されるかが異なる。),P&IDのシンボルリストの内容は,平成13年のCAD化によって,大きく変更されているク対比(甲16,25,46,57,丙11)PC樹脂の製造技術は,高い技術水準を持つ企業が,長い時間をかけて研究・技術開発を行うことにより初めて開発することができるものであり,その根幹となる技術資料であるP&ID,PFDや機器図についても,そのような研究・技術開発の結果である各企業固有の技術が記載されたものである。したがって,それ以外の様々な情報を組み合わせても,類似の図面等にはならず,また,PC樹脂の生産活動を行うこともできない性質のものである。 甲16の図面8のシンボルリストは,記載された機器・部品の種類,それらの区- 33 -分の仕方,記載の順序において,甲16の図面1とほぼ一致している。のみならず,甲16の図面8の「BACKPRESSUREVALVE」及び「INSULATEDVESSEL」のシンボル形状をみると,甲16の図面1のそれとほぼ完全に一致しており,甲46のものとは異なっている。 原告のPCプラントの主要工程は,①溶解工程,②二段階の反応からなる重合反応工程,③洗浄精製工程,④乾燥工程,⑤仕上げの工程等からなる。甲16の図面2と9は①の工程の 6のものとは異なっている。 原告のPCプラントの主要工程は,①溶解工程,②二段階の反応からなる重合反応工程,③洗浄精製工程,④乾燥工程,⑤仕上げの工程等からなる。甲16の図面2と9は①の工程の,図面3-1と10-1,3-2と10-2,4と11はそれぞれ②の工程の,図面5と12は③の工程の,図面6と13は④の工程の,図面7と14は⑤の工程の,それぞれ一部を構成するものである。また,甲16の図面2ないし7と甲16の図面9ないし14は,上記のように1枚ずつが対応する形でほぼ同一の工程が記載されており,対応する図面ごとに,いずれも主要な機器の種類・構成,それらの機器の図面上の配置場所,それらの機器を結ぶ主要な原料や流体(ビスフェノール-A,苛性ソーダ,純水など)の流れや種類,その他の計器等の種類や配置場所等がおおむね一致しており,機器番号や名称等に若干の違いはあるものの,全体として,酷似している。 これに加えて,甲16の図面7は,平成13年のCAD化後である2002年(平成14年)4月30日に,「SAMPLINGBOX(サンプリングボックス)」を追加する図面修正が行われているが,これに対応する工程が記載された甲16の図面14においても,甲16の図面7と同じ位置に「SamplingBox」が記載されている。 ケ被告山野商事に対する支払(丙9)被告山野商事は,前記オ(イ)で認定した設計図面等の提供その他の対価として,三共プロセスから,平成15年7月から平成16年8月までの間に,合計2億0421万9150円を受領し,また,被告ビーシー工業から,平成17年1月から同年6月までの間に,合計8800万円を受領した。 コ出光石化の海外での合弁事業(甲22,48,56,弁論の全趣旨)出光石化は,次のとおり,海外でPC樹脂の製造に関する合弁事 平成17年1月から同年6月までの間に,合計8800万円を受領した。 コ出光石化の海外での合弁事業(甲22,48,56,弁論の全趣旨)出光石化は,次のとおり,海外でPC樹脂の製造に関する合弁事業等を行ってき- 34 -た。 (ア) 1981年(昭和56年),ブラジルのポリカーボナートス・ド・ブラジル有限会社との間で,出光石化が保有するPC樹脂の製造技術情報等に関する技術供与契約を締結し,そのころ,ブラジルの同社に対して,当該技術情報等を供与した。 (イ) 1988年(昭和63年)6月13日,オランダのDSMKunstoffenBVとの間で,合弁会社を通じて出光石化が保有するPC樹脂の製造技術に基づくPC樹脂の製造,販売等を行うための合弁契約を締結した。その後,該合弁契約は,1990年(平成2年)7月31日に終了した。 (ウ) 平成7年ころ,台湾の会社と共同で,出光石化が保有するPC樹脂の製造技術に基づくPC樹脂の製造,販売等を行うための合弁会社を設立した。 ( エ) 平成12年3月31日,台湾のFORMOSACHEMICALS & FIBRECORPORATION(FCFC)に対し,出光石化が保有するPC樹脂の製造技術をライセンスする旨の契約を締結した。この契約において,出光石化は,各年産5万トンの第1ないし第3プラントに係る技術を提供することとされた。 サ藍星公司は,2008年(平成20年)5月の時点において,中国天津市所在の臨海工業区において,年産1万トン規模のPCプラントを建設するプロジェクトを進行させていた(甲15)。 (2) 被告山野商事及び被告Y2の不正競争行為ア甲16の図面8ないし14と図面1ないし7との関係上記(1)の認定のとおり,三共PTが作成した図面等(前記(1)オ(イ))に含まれる 5)。 (2) 被告山野商事及び被告Y2の不正競争行為ア甲16の図面8ないし14と図面1ないし7との関係上記(1)の認定のとおり,三共PTが作成した図面等(前記(1)オ(イ))に含まれるP&IDである甲16の図面8ないし14と,出光石化が有していた甲16の図面1ないし7とは,シンボルリストに記載された機器・部品の種類,それらの区分の仕方,記載の順序がほぼ同一であること,各工程における主要な機器等の種類・構成,図面上の配置場所がおおむね一致していること,CAD化された後に追加された機器についてもおおむね一致していること,甲16の図面1ないし7に記載され- 35 -た内容は,限られた企業グループしか保有しておらず,しかも,個々の企業が独自に開発したPC樹脂の製造技術に関するものであって,出光石化と無関係に作成された図面がそのように酷似することは考えにくいことからすると,甲16の図面8ないし14は同図面1ないし7を基に作成されたものと認めるのが相当である。 被告山野商事及び被告Y2は,甲16の図面2,3-2,4,5が平成16年4月に作成されたものであるから,これを基にして甲16の図面9,10-2,11,12が作成されることはないと主張する。確かに,甲16の図面2,3-2,4,5は,平成16年4月に一部修正されているが,図面に修正の経過が記載されていることに照らすと,それ以前に修正される前の図面が存在したことは明らかである。 原告は平成16年4月の修正前の図面が複製されたことを立証する証拠として上記図面を提出し,当裁判所もそのような事実を認定したものであって,この認定を具体的に反証するに足りる原図面についての立証がない以上,被告山野商事及び被告Y2の上記主張は採用することができない。 イ甲16の図面1ないし7の入手経路(ア) したものであって,この認定を具体的に反証するに足りる原図面についての立証がない以上,被告山野商事及び被告Y2の上記主張は採用することができない。 イ甲16の図面1ないし7の入手経路(ア) 次に,前記認定の事実関係,特に,PC樹脂の製造技術が限られた企業によって保有されるもので,一般的に入手し得るものではないこと,被告Y2が平成11年まで出光石化の従業員であり,退職後も千葉工場に出入りしていたこと,被告Y2が日中友好会館での会議に参加し,その直後に中国の藍星公司本社にまで赴くなど,早い時期から深く関与していること,三共PTにおいては被告Y2が仮名で呼ばれ,三共PTのメンバーとの接触も制限されていたこと,出光石化千葉工場に勤務していたD が少なくとも機器図4枚のコピーをとり,被告Y2に交付していることなどからすると,被告Y2が,D あるいはその他の出光石化の従業員から,甲16の図面1ないし7を複製した図面あるいはこれらの図面に係る電子データを入手し,これを三共プロセスに提供し,三共PTにおいてこれを基にして甲16の図面8ないし14を作成したものと推認するのが相当である。 (イ) 被告山野商事及び被告Y2は,甲16の図面8ないし14の基となっ- 36 -た図面を含む被告Y2提出図面等は,被告Y2が,藍星公司の本社を訪問した際に,藍星公司から手渡されたPCプラントに関する多数の図面等の資料を一部追加削除するなどして整理したものであり,上記資料は,藍星公司が独自に開発したものであるか,出光石化によるオランダ,ブラジル,台湾での合弁事業から流出し,それを藍星公司が入手していた可能性がある旨主張し,丙1(陳述書)及び被告Y2本人(第1回)の供述中には,被告Y2が平成15年6月ころ中国北京市所在の藍星公司本社を訪問した際,P&ID等を含む書 ,それを藍星公司が入手していた可能性がある旨主張し,丙1(陳述書)及び被告Y2本人(第1回)の供述中には,被告Y2が平成15年6月ころ中国北京市所在の藍星公司本社を訪問した際,P&ID等を含む書類一式を藍星公司から託されて持ち帰ったとする部分がある。 しかしながら,藍星公司が,PCプラントに関する多数の図面等を独自に開発する能力を有していたのであれば,その修正等の作業についても自身で行う能力を有していると考えるのが自然であって,修正等の作業についてのみPCプラントの設計の経験がない三共プロセスや被告Y2に依頼するのは不自然である。 合弁事業から流出した可能性があるとの主張についても,出光石化が行った合弁事業は,いずれも平成12年以前,すなわち,出光石化において平成13年にCAD化がされる前に行われたものであるところ,前記認定のとおり,甲16の図面8のシンボルマークがCAD化された後の甲16の図面1のものとほぼ一致し,CAD化前の手書き図面である甲46のものとは異なること,CAD化後の平成14年に甲16の図面7に付加された「SamplingBox」が甲16の図面14にも反映されていること,甲16の図面2ないし7と甲16の図面8ないし14とは主要な機器の図面上の配置場所等についてもおおむね一致するところ,手書きの図面から甲16の図面8ないし14が作成された場合にそこまで一致するとは考えにくいことなどに照らすと,合弁事業を通じて流出した情報を藍星公司が入手し,これを被告Y2に交付したと認めることはできない。 以上のとおりで,前記陳述書の記述部分や被告Y2本人(第1回)の供述部分は採用することができない。 被告山野商事及び被告Y2は,機器図の持出しを認めるD の証言には信用性がな- 37 -いなどとも主張する。しかしながら,丙5,6 分や被告Y2本人(第1回)の供述部分は採用することができない。 被告山野商事及び被告Y2は,機器図の持出しを認めるD の証言には信用性がな- 37 -いなどとも主張する。しかしながら,丙5,6の記載等によれば,原告の関係者によりD に対して相当程度の追及がされた様子は窺えるものの,それ以上にD 作成の報告書(甲44の1)やD 証言の信用性に影響を及ぼすような強制や利益誘導がされたとは認められない。また,D 作成の報告書(甲44の1)やD 証言には,D が持ち出した情報の範囲についてあいまいな点があるものの,少なくとも,被告Y2に対して持ち出した情報を開示したという点については,自己に不利益な事実を認めるもので,かつ,被告山野商事から相当額の金銭を受領している事実にも符合し,信用性が高いといえる。したがって,被告山野商事及び被告Y2の上記主張は採用できない。 その他,被告山野商事及び被告Y2が主張するところによっても,前記認定・判断は動かない。 ウ被告Y2が開示させた情報の範囲について前記認定の事実関係,特に,三共PTにおいて,甲16の図面8ないし14のみならず,P&ID,PFD,機器図を含む図面等を完成し,被告ビーシー工業を通じてこれを藍星公司に納入していること,甲16の図面2ないし7はPC樹脂の製造工程を構成する複数の工程の全般にわたっており,工程全体について入手が試みられたと考えられること,これらの図面の1枚ずつは,各工程の一部分であり,これと密接に関連する他の部分も入手されたと考えるのが自然であること,PC製造技術は,限定された企業グループしか保有しておらず,しかも,各社が独自に開発したものであって,特殊な技術であるから,甲16の図面1ないし7のみを入手して,他社の技術や被告らの有している一般的な知識と組み合わせて図 れた企業グループしか保有しておらず,しかも,各社が独自に開発したものであって,特殊な技術であるから,甲16の図面1ないし7のみを入手して,他社の技術や被告らの有している一般的な知識と組み合わせて図面等を完成させることは考えられないこと,D が少なくとも機器図4枚についてコピーをとり,被告Y2に交付していることなどからすると,被告Y2が,D あるいはその他の出光石化の従業員から,本件情報の全体を入手し,これを三共PTに提供したと推認するのが相当である。 エ小括- 38 -以上のとおり,被告Y2は,出光石化の従業員(又は出光石化千葉工場で勤務していた原告の従業員)であったD あるいはその他の従業員に働きかけて,本件情報の全体を入手し,これを三共PTに提供したものであるから,本件情報の全体について不正競争防止法2条1項8号所定の不正競争行為があったというべきである。 また,三共プロセス等からの支払が被告山野商事に対して行われているという前記認定事実に照らすと,被告Y2の行為は,被告山野商事の代表者として行われたものであるから,被告山野商事についても不正競争行為があったものである。 (3) 被告ビーシー工業及び被告Y1 の不正競争行為前記認定の事実関係,特に,藍星公司が協力依頼をしたのは被告ビーシー工業であること,被告ビーシー工業が協力者の募集を行っていること,三共プロセスや被告Y2の関与が決まった後も,新たにE とF に業務委託し,被告ビーシー工業のマネージャーとしての立場で三共PTに関与させていること,E については三共PTの作業を総括する立場であり,実際にA に指図をしていること,被告Y2と直接に接することができた三共PTのメンバー3人のうち2人はE とF であること,藍星公司に納入された甲16の図面8ないし14が被告ビーシー する立場であり,実際にA に指図をしていること,被告Y2と直接に接することができた三共PTのメンバー3人のうち2人はE とF であること,藍星公司に納入された甲16の図面8ないし14が被告ビーシー工業の名義で作成されていること,被告Y1 も,E から作業の報告を受けるほか,日中友好会館での会議に出席し,東京都内の三共PTの作業場や中国蘭州を訪れていることによれば,被告ビーシー工業及び被告Y1 のいずれも,被告Y2が出光石化の従業員に働きかけて不正開示させた情報を三共PTに提供し,その情報を基にして三共PTが図面等を作成したことを認識し,藍星公司にこれを引き渡したものと認められる。したがって,被告ビーシー工業及び被告Y1 についても不正競争防止法2条1項8号所定の不正競争行為があったと認めるのが相当である。 被告ビーシー工業及び被告Y1 は,藍星公司がもともとPCプラントの設計図面を保有していたと主張し,乙3(陳述書)及び被告Y1 本人の供述中には,これに沿う部分があるが,前記(2)で説示したとおり,藍星公司がPCプラントの設計図面を保有していることは不自然であって,採用することができない。また,被告ビーシー- 39 -工業及び被告Y1 は,上記主張を裏付ける証拠として,乙1の1,2を提出するが,わずか2枚の不鮮明なコピーであって,文字の判別も困難であり,甲16の図面8ないし14との関連性はもとより,PCプラント関係の図面であるかどうかも明らかではなく,証拠価値はない。 さらに,被告ビーシー工業及び被告Y1 は,甲16の図面8ないし14は違法に収集された証拠であるから証拠能力を欠く旨主張するが,前判示のとおり,これらの図面が出光石化の従業員によって不正開示された営業秘密を用いて作成されたものであることからすると,原告がB からこれら に収集された証拠であるから証拠能力を欠く旨主張するが,前判示のとおり,これらの図面が出光石化の従業員によって不正開示された営業秘密を用いて作成されたものであることからすると,原告がB からこれらの図面を取得する行為については,上記被告らが主張するように,被告ビーシー工業と藍星公司との間の秘密保持契約を根拠にして,これを違法とすることはできない。 3 差止め及び廃棄請求について被告らが共同してした前記不正競争行為は,出光石化及びその承継人である原告の営業上の利益を侵害するものであることが明らかであり,被告らは現時点においても本件図面図表又はその電子データを保有しているから,これを,PC製造装置の建設,改造,増設,補修,運転管理に使用し,又は第三者に開示するおそれがあるものと認められる。 したがって,原告は,被告らに対し,不正競争防止法3条1項に基づき,上記各図面及び図表の使用,開示の差止めを,同条2項に基づき上記各図面及び図表が記録された記録媒体の廃棄を求めることができる。 4 損害額について不正競争防止法5条3項に基づく損害額について検討する。 (1) 証拠(甲48,56)によれば,次の事実が認められる。 出光石化は,平成12年3月31日,台湾のFORMOSACHEMICALS & FIBRECORPORATION(FCFC)に対し,出光石化が保有するPC樹脂の製造技術をライセンスする旨の契約を締結した。この契約において,出光石化は,各年産5万トンの第1ないし第3プラントに係る技術を提供することとされた。その対価は,ライセ- 40 -ンス料として第1ないし第3プラントについて,それぞれ3200万米ドル,1300万米ドル,1000万米ドルであって,生産量に応じた継続的な技術使用料等を支払う旨の定めはない。また,出光石化 -ンス料として第1ないし第3プラントについて,それぞれ3200万米ドル,1300万米ドル,1000万米ドルであって,生産量に応じた継続的な技術使用料等を支払う旨の定めはない。また,出光石化がFCFCの人員を訓練・指導する費用や,プラントの運転条件を確立するためのエンジニアの派遣費用等は別途FCFCが負担することとされていた。 (2) PC樹脂の製造技術が,平成20年2月当時でも,世界で8つの企業グループしか保有していない稀少な技術であることは,争いのない事実等のとおりであり,上記認定のFCFCとの間のライセンス契約においても,ライセンス料として固定の金額が定められ,生産量に比例した対価は定められていないことに照らすと,PCの製造技術に関しては,稀少な技術の開示を受け,保持すること自体に価値があると認めることができる。したがって,本件において営業秘密を不正に開示させられたことによって原告が被った損害額は,その反面において,本件情報が営業秘密から外れて第三者の自由に行使し得る状況に置かれたことを踏まえて算出されるべきであり,本件においては,技術提供の際に固定の金額として定められるライセンス料を基準に認めるのが相当である。 ところで,上記(1)で認定したライセンス料は,年産5万トンのPCプラントを3つ提供することの対価であって,年産1万トンのPCプラントに関する本件情報とは規模が異なっている。しかしながら,生産量が異なるとしても,世界的に稀少なPC樹脂の製造技術が開示されるという点に変わりはないから,本件情報を保有し続け使用することにより受けるべきライセンス料について上記(1)のライセンス料を斟酌することは十分に合理的であり,生産量の差や,その他の諸条件の差異等を考慮しても,本件情報に係るライセンス料は,上記(1)のライセンス料を 受けるべきライセンス料について上記(1)のライセンス料を斟酌することは十分に合理的であり,生産量の差や,その他の諸条件の差異等を考慮しても,本件情報に係るライセンス料は,上記(1)のライセンス料を生産量に比例して低減した金額を下回ることはないものと解される。そして,上記(1)で認定したライセンス料は,第1ないし第3プラントの合計15万トンに対して合計5500万米ドルであって,1万トン当たり約367万米ドルとなり,1米ドル約80円としても2億9360万円であるから,本件情報の使用により原告が受けるべき金- 41 -額は2億9000万円と認めるのが相当である。 次に,本件における技術の複雑性,立証の困難性等を考慮すると,被告らの前記不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,前記認定の損害額の1割に相当する2900万円と認めるのが相当である。 したがって,出光石化を吸収合併し,その権利義務一切を承継した原告は,不正競争防止法4条に基づいて,被告らに対し,合計3億1900万円の一部である2億9700万円及びこれに対する不正競争行為より後の日である訴状送達の日から年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 第5 結論以上によれば,原告の被告らに対する請求はいずれも理由があるから,これを認容すべきであり,これと結論を異にする原判決は変更されるべきである。他方で,被告山野商事及び被告Y2の附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官 裁判長 裁判官 塩月秀平 裁判官 清水 裁判官 古谷健二郎 以下省略
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