令和1(行コ)156 原因者負担金負担命令取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和2年3月26日 大阪高等裁判所
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判決文本文11,970 文字)

令和2年3月26日判決言渡令和元年(行コ)第156号原因者負担金負担命令取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成28年(行ウ)第223号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 処分行政庁が控訴人に対し平成26年4月30日付けでした工事費用納入命令(大阪府達富土第1928号)を取り消す。 第2 事案の概要(略称は,特記しない限り,原判決の例による。) 1 平成25年6月26日午後2時頃,大阪府(住所省略),同(住所省略)(本件各土地)先において,控訴人が同地に設置したブロック(本件ブロック)等が一級河川A川の河道内に崩落するとともに,A川の河川護岸の一部が崩落するという事故(本件事故)が発生した。 本件は,処分行政庁(本件所長)が,控訴人が本件各土地上に本件ブロックを設置したことが本件事故の原因であるとして,河川法67条に基づき,控訴人に対し,応急対策工事費用合計297万5000円の納付を命じる旨の処分(本件処分)をしたため,控訴人が,被控訴人を相手に,本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が原判決を不服として本件控訴を提起した。 2 関係法令の定め,前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次の3において当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1から4までに記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における控訴人の主張(1) 審理の対象について本件処分は,控訴人が本件ブロックを設置した行為が本件事故の原因であるとして行われたものである(甲1)。したがって,本件工事のうち,本件ブロックを設置し 控訴人の主張(1) 審理の対象について本件処分は,控訴人が本件ブロックを設置した行為が本件事故の原因であるとして行われたものである(甲1)。したがって,本件工事のうち,本件ブロックを設置した行為以外の行為,すなわち本件各土地上にあった土砂を移動させて盛土で埋め,本件各土地全体に砂利を敷き詰めるなどした行為を除外して,まさに本件ブロックを設置した行為により,本件事故が発生したといえるか否かが審理の対象となるべきである。 (2) 事実認定についてア本件工事により,本件各土地の北側斜面(本件斜面)に対する荷重はほとんど増加しておらず,したがって,本件工事により本件斜面の安定性が低下したとはいえない。 イわずか1枚の写真を根拠に,本件斜面が本件工事前に急斜面であったことが認められないと判断することはできない。 ウ本件事故の発生箇所付近にて浸食や洗掘など,他に本件斜面の崩壊に繋がり得る原因の有無について調査されていないから,本件事故の原因が本件工事にあると推認することはできない。むしろ,控訴人が本件ブロックを設置した延長約130mの範囲のうち77mの範囲(約59.2%)のみで斜面の崩落が発生し,残りの約53mの範囲(約40.8%)では斜面の崩落が発生しなかったことを踏まえると,本件事故の原因が本件工事にあると推認することは誤りである。 エ原審専門委員は,本件事故の原因について,降雨による河川水位の上昇が地盤の強度低下を生じさせたことが原因と説明しているので,本件工事が本件事故の原因ではないことが明らかである。本件斜面のうち崩落した約77mの範囲(約59.2%)は河川が湾曲する下流部分であり,崩落しなかった約53mの範囲(約40.8%)は河川が直行する上流部分で あることから(乙21),本件事故が河川の水量,水流 た約77mの範囲(約59.2%)は河川が湾曲する下流部分であり,崩落しなかった約53mの範囲(約40.8%)は河川が直行する上流部分で あることから(乙21),本件事故が河川の水量,水流の影響により発生したことが見て取れる。 オ本件工事から本件事故までの間である平成25年6月19日午後1時から同月20日午前7時までに,連続雨量が70㎜を超え,最大水位も1. 36mに至ったことがあった。この雨量及び水位は,本件事故時と変わらない程度のものであったから,本件事故時に本件斜面の安全率が1を下回っていたのなら,この時点でも本件斜面の安全率は1を下回っていたはずである。この時点で本件事故が発生しなかったということは,本件工事が本件事故の原因ではなかったことを示すものである。 そもそも,円弧滑り計算に基づく斜面の安全率の考え方が妥当するのは,土質が均一な人工斜面に限られ,本件工事後の本件斜面のように,本件ブロックと盛土という異なる物質で組成された斜面には妥当しない。被控訴人が主張する安全率には変遷がある上,その具体的な計算根拠も明らかではないので,本件斜面の安全率が本件事故時に1を下回っていたという主張自体が裏付けを欠くものである。 (3) 専門委員制度趣旨違反について原審専門委員は,本件事故の原因について,降雨による河川水位の上昇が地盤の強度低下を生じさせたことが原因と説明した。判決文中に合理的な説明をすることなく専門委員の説明を排除することは専門委員制度(民事訴訟法92条の2)の趣旨に反するものとして違法である。 (4) 裁量権の逸脱又は濫用について河川法は,河川管理費用を原則として河川管理者が負担するものと定めているから(59条,60条),河川応急工事費用も原則として河川管理者が負担するものであり,河川管理者の合理的 逸脱又は濫用について河川法は,河川管理費用を原則として河川管理者が負担するものと定めているから(59条,60条),河川応急工事費用も原則として河川管理者が負担するものであり,河川管理者の合理的裁量により,当該工事に係る諸事情を総合的に考慮して,その必要を生じた限度において全部又は一部を原因者に負担させる趣旨と解される。そして,原因者負担金の制度が衡平上の当然 の法理に基づくものであることからすると(甲17),原因者に負担させることができる費用は,河川工事以外の工事(他の工事)又は河川の損傷行為等(他の行為,併せて他の工事等)と因果関係があるというだけではなく,他の工事等の必要性を生じさせた責任ないし寄与に応じた限度のものに限られるというべきである。 そして,前記(2)のとおりの事実を踏まえると,本件事故の原因が専ら本件工事にあるとはいえないから,本件事故に係る応急対策工事費用(本件費用)の全部を控訴人に負担させることはできない。 また,河川管理者に裁量権があるにしても,判断要素の選択や判断過程に合理性がなければ,裁量権の逸脱又は濫用があると解すべきであるところ,前記(2)のとおりの事実を踏まえると,本件費用の全部を控訴人に負担させることには,河川管理者の裁量権の行使として逸脱又は濫用があるというべきである。 (5) 本件費用の範囲についてア本件費用には,右岸側田んぼへ堤防が破堤した際の流入土砂の撤去費用及び右岸側護岸洗掘の補修費用が含まれている。右岸側田んぼは堤防の外側にあって河川区域に含まれないから,流入土砂の撤去は河川工事に含まれない。また,右岸側護岸の洗掘は,本件工事(左岸)と関係がない。したがって,いずれの費用も河川法67条所定の原因者負担金負担命令の対象とはならない。 イ本件工事により本件事故が発 川工事に含まれない。また,右岸側護岸の洗掘は,本件工事(左岸)と関係がない。したがって,いずれの費用も河川法67条所定の原因者負担金負担命令の対象とはならない。 イ本件工事により本件事故が発生したというのであれば,控訴人が本件工事を行っていたことを見逃して何らの是正措置もとらなかった被控訴人には,その河川管理に瑕疵があったというべきである。したがって,被控訴人は,本件事故により損害を被った控訴人に対し,国家賠償法2条に基づく損害賠償責任を負う。そのような被控訴人が,本件事故による損害の全てを控訴人に負担させることは許されない。 (6) 行政手続法違反原因者負担金負担命令は,不利益処分に該当するから(行政手続法2条4号),被控訴人はその具体的な処分基準を定めなければならない(同法12条)。処分基準を定めないことが許されるのは,あらかじめ基準を設定することが困難な事情がある場合に限られるところ(甲15,16),原因者負担金負担命令についてはそのような事情はない。 しかるに,被控訴人は,原因者負担金負担命令につき処分基準を定めずに本件処分を行ったから,本件処分には行政手続法12条に反する違法がある。 また,原因者負担金負担命令は,処分基準に則って十分な理由を提示して行わなければならない(行政手続法14条)。河川法67条は,「その必要を生じた限度において」「その全部又は一部」を負担させるものとすると定めているのに,本件処分においては,なぜ控訴人は本件費用の全部を負担しなければならないかという点について納得できる理由が提示されていないから,本件処分には行政手続法14条に反する違法がある。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,次の2において当審における控訴人の主張に対す ないから,本件処分には行政手続法14条に反する違法がある。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,次の2において当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3の1から3までに記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(1) 審理の対象について控訴人は,本件処分は,控訴人が本件ブロックを設置した行為が本件事故の原因であるとして行われたものであるから,本件工事のうち,本件各土地上にあった土砂を移動させて盛土で埋め,本件各土地全体に砂利を敷き詰めるなどした行為を除外して,本件事故の原因がまさに本件ブロックの設置行為にあったといえるか否かが審理の対象となるべきであると主張する。 そこで検討するに,原判決認定のとおり(原判決「事実及び理由」第3の 2(1)ア及びイ),本件工事は,盛土の除去,本件ブロックの設置,盛土の埋め戻し及び砂利の敷き詰めの一連の工程から成るものである。盛土の除去は本件ブロックの設置場所を整えるために行われるものであり,盛土の埋め戻しや砂利の敷詰めも本件ブロックが設置された本件各土地の地盤を安定させ,本件各土地を資材置き場等に利用可能な状態にするために行われたものであるから,本件工事のうち特定の部分を切り取って護岸への影響を論ずべき性質のものではない。 乙3の1及び9によれば,本件所長は,控訴人に対し,平成25年12月18日,本件処分に先立つ聴聞手続において,本件処分の前提となる事実として,本件各土地においてブロック積擁壁,コンクリートブロック,盛土等により河川堤防及び護岸が崩壊したところ,崩落原因はブロック積擁壁等にあると説明したことが認められる。その説明に鑑みれば,「ブロック ,本件各土地においてブロック積擁壁,コンクリートブロック,盛土等により河川堤防及び護岸が崩壊したところ,崩落原因はブロック積擁壁等にあると説明したことが認められる。その説明に鑑みれば,「ブロック積擁壁等」というのは,ブロック積擁壁に加え,コンクリートブロック及び盛土等も含む趣旨であり,本件ブロックのみならず本件工事全体が本件事故の原因であるとして聴聞手続が進行していたと認められる。また,乙3の1及び9によれば,控訴人代表者は,被控訴人担当者による上記説明に対し,本件ブロックは控訴人が設置したが盛土はしていないと陳述しているから,控訴人は,本件ブロックの設置のみならず本件工事全体が本件処分の処分理由を構成することを理解していたというべきである。 甲1によれば,本件処分に係る処分書(以下「本件処分書」という。)の「汚損内容」欄に,「サイコロブロックの設置により,河道内にブロック積擁壁,サイコロブロック,盛土等が崩壊するとともに本府の護岸も崩壊した。」と記載されていることが認められるところ,上記「サイコロブロックの設置」が,一連の工程から構成される本件工事のうち本件ブロックの設置のみを切り取って処分理由を限定する趣旨であったとは解されない。 したがって,本件処分の処分理由は,控訴人が本件工事を行ったことによ って本件事故が発生したというものであり,控訴人もこれを理解していたというべきである。控訴人の主張は,採用することができない。 (2) 事実認定についてア控訴人は,本件工事により,本件斜面に対する荷重はほとんど増加しておらず,したがって,本件工事により本件斜面の安定性が低下したとはいえないと主張するが,これを認めるに足りる証拠は全くない。 かえって,乙22及び23並びに弁論の全趣旨によれば,本件斜面の単位体積重量(自 したがって,本件工事により本件斜面の安定性が低下したとはいえないと主張するが,これを認めるに足りる証拠は全くない。 かえって,乙22及び23並びに弁論の全趣旨によれば,本件斜面の単位体積重量(自然地盤,砂質土,密なもの)は19kN/㎥(1N=1kg×9. 8m/s2 であるから,19000を9.8で除し,約1.94t/㎥)であると認められるところ,これを1辺90㎝の立方体の重さに換算すると(100㎝の3乗で除し,90㎝の3乗を乗ずる),約1.41tとなる。これを本件各土地に設置された本件ブロック3段分の高さで換算すると4.23tとなる。他方,本件ブロックの重さは,控訴人の主張を前提としても1個約1.55tであるから,本件ブロック3段分の重さは4.65tとなる。したがって,本件ブロックの設置に先立つ盛土の除去及び本件ブロック設置後の後背地への埋め戻しを考慮せずとも,本件斜面には,1辺を90㎝とする正方形の底面積(8100㎠)当たり約420kg も荷重が増加していることが認められる。 そのような荷重の増加が本件斜面の強度に与えた影響は大きいものというべきであり,控訴人の上記主張は採用することができない。 イ控訴人は,わずか1枚の写真を根拠に,本件斜面が本件工事前に急斜面であったことが認められないと判断することはできないと主張する。 しかし,乙10によれば,平成22年3月当時に本件斜面が写真に撮影されたこと,その写真によれば,本件斜面の盛土の高さと水平面との比が1:1.5程度であったことが認められる。乙16の1及び2によれば,昭和61年2月及び平成元年10月に本件各土地付近の航空写真が撮影 されたこと,その写真によれば,昭和61年2月当時,本件斜面は盛土がされてむき出しの状態であったが,平成元年10月当時,盛土に樹木が繁茂し び平成元年10月に本件各土地付近の航空写真が撮影 されたこと,その写真によれば,昭和61年2月当時,本件斜面は盛土がされてむき出しの状態であったが,平成元年10月当時,盛土に樹木が繁茂している状態であったこと,いずれの時点においても,周辺のA川の河岸に比して急峻な状態であったわけではなかったことが認められる。さらに,甲3の1から4までによれば,本件各土地を含む土地(本件購入地)の売買(本件売買)に先立ち本件斜面の写真が撮影されたこと,その写真(甲3の4,左上)によれば,本件斜面は盛土に樹木が繁茂しており,その斜度も乙10と同程度であったことが認められる。このことに,盛土を設計する場合の標準法面勾配は盛土の高さに対する水平面の比率を1:1. 5以下とすることが目安とされていたこと(乙9の106頁),本件斜面が昭和61年2月頃から安定してきたこと(弁論の全趣旨)を併せ考慮すると,本件斜面の盛土の高さと水平面との比が1:1.5程度であったと認めることができる。 控訴人の上記主張は,採用することができない。 ウ控訴人は,本件事故の発生箇所付近にて浸食や洗掘など,他に本件斜面の崩壊に繋がり得る原因の有無について調査されていないから,本件事故の原因が本件工事にあると推認することはできないと主張する。 しかし,乙15によれば,本件事故以前の平成18年及び平成23年に行われたA川の河川堆積土砂の調査の結果,本件斜面付近には洗掘がなかったことが認められるから,控訴人の上記主張は前提において失当である。 また,控訴人は,控訴人が本件ブロックを設置した延長約130mの範囲のうち77mの範囲(約59.2%)のみで斜面の崩落が発生し,残りの約53mの範囲(約40.8%)では斜面の崩落が発生しなかったことを踏まえると,本件事故の原因が本件工事にあ た延長約130mの範囲のうち77mの範囲(約59.2%)のみで斜面の崩落が発生し,残りの約53mの範囲(約40.8%)では斜面の崩落が発生しなかったことを踏まえると,本件事故の原因が本件工事にあると推認することは誤りであると主張する。 しかし,本件事故は,大雨に見舞われたA川付近のうち,控訴人による 本件工事がされた本件斜面のみで発生し,その余の河岸では発生しなかった。他方で,本件斜面が,長年に渡って安定していたにもかかわらず,本件事故の当日に突如として崩壊した原因は見当たらない。そうすると,本件事故の原因が本件工事にあると推認するのが合理的である。実際に崩落するか否かは,地盤の違いにも左右されるのであるから,本件工事に係る本件斜面の全てが崩壊しなかったからといって,本件工事が崩落の原因であると推認することの妨げとはならない。 控訴人の上記主張は,いずれも採用することができない。 エ控訴人は,原審専門委員が,本件事故の原因について,降雨による河川水位の上昇が地盤の強度低下を生じさせたことが原因と説明しているので,本件工事が本件事故の原因ではないことが明らかであると主張する。 しかし,一件記録によれば,原審専門委員は,不安定な盛土に,降雨による河川水位の上昇により地盤の強度低下が生じたことが,本件事故の原因と考えられるとの説明をしたことが認められる。控訴人の上記主張は,専門委員の説明のうち,「不安定な盛土」の部分を殊更に除外したものであって,その趣旨を正しく理解しないものであるといわざるを得ず,前提において失当である。 控訴人は,本件斜面のうち崩落した約77mの範囲(約59.2%)は河川が湾曲する下流部分であり,崩落しなかった約53mの範囲(約40. 8%)は河川が直行する上流部分であることから(乙21),本件事故が河 人は,本件斜面のうち崩落した約77mの範囲(約59.2%)は河川が湾曲する下流部分であり,崩落しなかった約53mの範囲(約40. 8%)は河川が直行する上流部分であることから(乙21),本件事故が河川の水量,水流の影響により発生したことが見て取れると主張する。 しかし,乙21及び弁論の全趣旨によれば,A川は,本件斜面付近の全体に渡って,洗掘が発生しやすいほど湾曲していなかったことが認められるから,控訴人の主張は,前提において採用することができない。 オ控訴人は,本件工事から本件事故までの間である平成25年6月19日午後1時から同月20日午前7時までに,連続雨量が70㎜を超え,最大 水位も1.36mに至ったことがあったから,本件事故時に本件斜面の安全率が1を下回っていたのなら,この時点でも本件斜面の安全率は1を下回っていたはずであって,この時点で本件事故が発生しなかったということは,本件工事が本件事故の原因ではなかったことを示すものであると主張する。 しかし,本件事故に先立つ同日時点で,控訴人が主張するとおり,本件斜面の安全率が1を下回っていたと認めるに足りる証拠はない。むしろ,乙18によれば,同月19日午後1時から同月20日午前7時までの降雨に伴うA川橋付近の最大水位が1.36mに至ったことは認められるものの,同月26日午前4時から午後2時までの降雨に伴うA川橋付近の最大水位は1.64mであったから,後者の方が本件斜面に与える影響は大きかったと推認することが合理的である。 控訴人の上記主張は,採用することができない。 また,控訴人は,円弧滑り計算に基づく斜面の安全率の考え方が妥当するのは,土質が均一な人工斜面に限られ,本件工事後の本件斜面のように,本件ブロックと盛土という異なる物質で組成された斜面には妥当しないので 控訴人は,円弧滑り計算に基づく斜面の安全率の考え方が妥当するのは,土質が均一な人工斜面に限られ,本件工事後の本件斜面のように,本件ブロックと盛土という異なる物質で組成された斜面には妥当しないのであって,被控訴人が主張する安全率には変遷がある上,その具体的な計算根拠も明らかではないので,本件斜面の安全率が本件事故時に1を下回っていたという主張自体が裏付けを欠くと主張する。 しかし,乙17によれば,円弧滑り計算に基づく斜面の安全率の考え方は,道路や宅地を造成する場合の盛土や切土,河川の堤防や護岸,山間部の砂防のための治山・治水の斜面など,斜面を有する地盤構造物の設計等に広く用いられる概念であることが認められる。また,乙22によれば,本件事故当日と同等の雨量,河川水位であったと条件設定した上で,滑り危険度が上昇する降雨終了時における本件斜面の安全率を算定すると,本件工事前の状態で1.102であったのに,本件工事後の状態で0.97 3であったことが認められるところ,その妥当性を疑うべき具体的事情は見当たらない。 控訴人の上記主張は,採用することができない。 (3) 専門委員制度趣旨違反について控訴人は,原審専門委員が,本件事故の原因について,降雨による河川水位の上昇が地盤の強度低下を生じさせたことが原因と説明したにもかかわらず,判決文中に合理的な説明をすることなく専門委員の説明を排除したことが専門委員制度(民事訴訟法92条の2)の趣旨に反するものとして違法であると主張する。 しかし,一件記録によれば,原審専門委員は,不安定な盛土に,降雨による河川水位の上昇により地盤の強度低下が生じたことが,本件事故の原因と考えられるとの説明をしたことが認められるから,控訴人の上記主張は専門委員の説明を正しく理解しないものであって,前提に ,降雨による河川水位の上昇により地盤の強度低下が生じたことが,本件事故の原因と考えられるとの説明をしたことが認められるから,控訴人の上記主張は専門委員の説明を正しく理解しないものであって,前提において失当である。 (4) 裁量権の逸脱又は濫用について控訴人は,河川法上の原因者負担金の制度が衡平上の当然の法理に基づくものであることから,原因者に負担させることができる費用は,他の工事等と因果関係があるというだけではなく,他の工事等の必要性を生じさせた責任ないし寄与に応じた限度のものに限られるというべきであるところ,本件事故の原因が専ら本件工事にあるとはいえないから,本件費用の全部を控訴人に負担させることはできないし,仮に河川管理者に裁量権があるにしても裁量権の逸脱又は濫用があると主張する。 しかし,前記(2)のとおり,本件事故の直接の原因は本件工事にあったというべきであるから,控訴人の上記主張は,前提において誤りがある。 控訴人の主張は,採用することができない。 (5) 本件費用の範囲についてア控訴人は,本件費用には,右岸側田んぼへ堤防が破堤した際の流入土砂 の撤去費用が含まれているところ,右岸側田んぼは堤防の外側にあって河川区域に含まれないから,流入土砂の撤去は河川工事に含まれず,したがってその費用は原因者負担金負担命令の対象とはならないと主張する。 しかし,乙6の5(168頁)によれば,流入土砂の撤去の対象となった右岸側田んぼは,いわゆる河川敷,すなわち河川管理施設(河川法3条2項)に該当する堤防の内側である河川区域内(同法6条1項)に存することが認められるから,これを対象とする工事は河川工事(同法8条)に含まれることとなる。 また,控訴人は,本件費用には右岸側護岸洗掘の補修費用が含まれているところ,右岸側 (同法6条1項)に存することが認められるから,これを対象とする工事は河川工事(同法8条)に含まれることとなる。 また,控訴人は,本件費用には右岸側護岸洗掘の補修費用が含まれているところ,右岸側護岸の洗掘は本件工事(左岸)と関係がないと主張する。 しかし,乙6の5及び弁論の全趣旨によれば,右岸側護岸の洗掘は,本件事故により,河川内へコンクリートブロック等が崩落し,河床勾配が著しく不均衡となったために生じたものと認められる。したがって,右岸側護岸洗掘の補修工事も,本件事故,すなわち本件工事により直接必要となった費用として原因者負担金負担命令の対象となるというべきである。 控訴人の上記主張は,採用することができない。 イ控訴人は,本件工事により本件事故が発生したというのであれば,控訴人が本件工事を行っていたことを見逃して何らの是正措置もとらなかった被控訴人には,その河川管理に瑕疵があり,国家賠償法2条に基づく損害賠償責任を負うから,そのような被控訴人が,本件事故による損害の全てを控訴人に負担させることは許されないと主張する。 しかし,被控訴人による河川管理が万全ではなかったからといって,直ちに控訴人との関係で国家賠償法上の責任を負担することとなるわけではなく,控訴人による本件工事を直接の原因として発生した本件費用を控訴人に負担させることができなくなるわけではない。 控訴人の上記主張は,独自の見解にすぎない。 (6) 行政手続法違反について控訴人は,被控訴人が,原因者負担金負担命令につき具体的な処分基準を定めずに本件処分をしたこと(行政手続法12条),処分基準に則って十分な理由を提示しなかったこと(同法14条)の2点をもって違法と主張する。 しかし,不利益処分について処分基準を定めることは努力義務であって法的な義務 たこと(行政手続法12条),処分基準に則って十分な理由を提示しなかったこと(同法14条)の2点をもって違法と主張する。 しかし,不利益処分について処分基準を定めることは努力義務であって法的な義務として定められているわけではないから,これを定めないことが直ちに当該不利益処分の違法を基礎付けることとなるわけではない。 本件処分が行政手続法12条に反する旨の控訴人の主張は,採用することができない。 また,不利益処分についての理由提示義務は,行政庁に慎重な判断を促し,合理的な判断を担保するとともに,名宛人に不服申立ての便宜を付与するために規定されたものと解される。したがって,不利益処分に当たってどの程度の理由提示が求められるかは,当該不利益処分の内容や根拠法令,当該処分の原因となる事実関係等に鑑み判断されることとなる。 これを本件においてみるに,本件処分は,被控訴人による本件工事により,本件斜面が崩落するという本件事故が発生し,処分行政庁が応急対策工事費用として本件費用を支出したため,被控訴人に対し,河川法67条に基づき,その負担を命ずるという趣旨で行ったものである。甲1によれば,本件処分書において,冒頭部分に根拠法令として同法同条が明示され,更に,河川名,汚損日時,汚損場所,原因者が特定されたうえで,汚損内容として「上記場所について,貴社のサイコロブロックの設置により,河道内にブロック積擁壁,サイコロブロック,盛土等が崩壊するとともに本府の護岸も崩壊した。」,負担額として「汚損により必要を生じた河川の維持に要した費用応急対策工事費用金2,975,000円」と示されていたことが認められる。そうすると,本件処分書において,本件処分の要件及びこれに該当する具体的事実が示され,その効果として応急対策工事費用の全額である297万50 975,000円」と示されていたことが認められる。そうすると,本件処分書において,本件処分の要件及びこれに該当する具体的事実が示され,その効果として応急対策工事費用の全額である297万50 00円の支払を命ずる旨が明記されていたというべきであるから,理由の提示として十分であるというべきである。そして,甲2によれば,控訴人は本件処分に対する審査請求に当たり,本訴における主張と同旨の主張をしていたことが認められるから,本件処分書記載の理由により控訴人が審査請求をするのに何らの不都合もなかったことが認められる。 本件処分が行政手続法14条に反する旨の控訴人の主張は,採用することができない。 第4 結論以上のとおりであるから,控訴人の請求は理由がなく,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官石原稚也 裁判官大藪和男 裁判官森鍵一

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