判決平成15年1月14日神戸地方裁判所平成12年(ワ)第2699号貸金等請求事件 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求被告らは,原告に対し,連帯して金631万0356円及び内金630万円に対する平成12年11月1日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 請求原因(1) 原告は,平成12年10月28日,被告Aに対し,630万円を下記約定で貸し付けた(以下「本件貸付契約」という。)。 ① 利息及び損害金各年29.2パーセント(年365日の日割計算)② 弁済方法弁済期日に一括返済③ 弁済期日平成12年10月31日(2) 被告Bは,同日,前項の被告Aの原告に対する債務を連帯保証した(以下「本件連帯保証契約」という。)。 (3) よって,原告は,被告らに対し,貸付元金630万円と貸付日の平成12年10月28日から弁済期日(同月末日)まで利息制限法の制限内の年15パーセントの割合による利息金1万0356円の合計631万0356円及び元金630万円に対する平成12年11月1日から支払済みまで利息制限法の制限内の年21.9パーセントの割合による遅延損害金の連帯支払を求める。 2 請求原因に対する認否(1) 請求原因(1)の事実は否認する。 被告Aは,本件貸付契約につき,原告が用意した三文判を使用してその借用証書(甲1。以下「本件借用証書」という。)に署名捺印したが,原告から貸金を受領していない 1)の事実は否認する。 被告Aは,本件貸付契約につき,原告が用意した三文判を使用してその借用証書(甲1。以下「本件借用証書」という。)に署名捺印したが,原告から貸金を受領していない。したがって,本件貸付契約は成立していない。 また,仮に,金員の受領があったと認められるとしても,被告Aは,本件貸付契約について原告と一切面談したことはない。すなわち,本件貸付契約について被告Aが交渉した相手方は,原告の夫C及びCと前妻との間の長男Dであって,原告とは何らの交渉をしていない。したがって,この点からも原告と被告Aとの間には本件貸付契約の成立はない。 (2) 同(2)の事実は否認する。被告Bの署名捺印のある連帯保証契約書(甲2。以下「本件連帯保証契約書」という。)は,原告が,被告Bに連帯保証する意思がなかったのに,被告B名の三文判を用意したうえ,被告Bに署名させ,その末尾に前記三文判を押捺させたものである。したがって,被告Bは,被告Aの債務を保証する意思で署名捺印したものではないから,本件連帯保証契約は成立していない。 3 抗弁(1) 信義則違反による無効原告は,被告両名に本件貸付金返済の資力がないことが明らかであったにもかかわらず,被告Aの本件貸付金の使途,同被告の資産,返済能力等につき調査を一切せず,また,被告Bに対しては,何の説明もせずに,同被告が神戸市役所に勤務する地方公務員であることを知るや,いきなり本件借用証書及び本件連帯保証契約書に署名捺印させたものであり,「貸金業者は,資金需要者である顧客又は保証人となろうとする者の資力又は信用,借入の状況,返済計画等について調査し,その者の返済能力を超えると認められる貸付けの契約をしてはならない。」旨を定める貸金業の規制等に関す 需要者である顧客又は保証人となろうとする者の資力又は信用,借入の状況,返済計画等について調査し,その者の返済能力を超えると認められる貸付けの契約をしてはならない。」旨を定める貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)13条の規定に違反することが明らかであるところ,その違反の程度が著しいことにも照らせば,本件貸付契約及び本件連帯保証契約は信義則に反するものとして無効である。 (2) 強行法規違反による無効(民法91条)本件貸付契約について被告Aが交渉した相手方は,原告の夫C及びCと前妻との間の長男Dであって,原告とは何らの交渉をしていないところ,これは,原告が貸金業法12条に違反して,他人に貸金業を営ませていたものにほかならない。また,前記のとおり,本件貸付契約及び本件連帯保証契約は,貸金業法13条に違反するほか,原告は,被告両名に対し,貸金業法17条所定の書面を交付せず,また,同法19条所定の帳簿を備えていないものであり,本件貸付契約及び本件連帯保証契約は強行法規違反(民法91条)として無効であることが明らかである。 (3) 強迫による本件連帯保証契約の取消被告Bは,平成12年10月28日,何ら事情の分からないまま,原告事務所に赴き,同事務所において原告の事務員らから,高圧的かつ矢継ぎ早に,荒々しい口調で,職業,勤務年数,自動車運転免許証の有無等を詰問され,自動車運転免許証の提示を強要された後,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄に自己の住所と氏名を自署するよう執拗に要求されたため,甚だしい恐怖の余り前後の事情もわからないまま,自己の意思に反して自署したところ,原告事務所にあった有り合わせの被告B名の印鑑を押捺するよう求められて押捺したものであり,被告Bの連帯保証の意思表示は, しい恐怖の余り前後の事情もわからないまま,自己の意思に反して自署したところ,原告事務所にあった有り合わせの被告B名の印鑑を押捺するよう求められて押捺したものであり,被告Bの連帯保証の意思表示は,強迫による意思表示として取り消すことができるものである。 そこで,被告Bは,平成14年1月15日午後1時30分の本件第7回口頭弁論期日において,被告Bのした本件連帯保証契約を取り消す旨の意思表示をした。 4 抗弁に対する認否被告ら主張の抗弁事実は,すべて否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因(1)の事実について(1) 被告Aは,本件借用証書である甲1に署名捺印したことは認めるものの,金員の交付を受けていないとして,本件貸付契約の成立を争うところ,証拠(甲1,2,6~9,10の1~17,11の1・2,12の1・2,乙2,3,5,21,24,40,41,74,証人C,同E〔第1,2回〕,被告A本人〔第1,2回〕,株式会社Fに対する調査嘱託)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 ア被告Aは,実父Gが経営する株式会社Hの取締役に就任していたものであるが,賭け事に手を出し,株式会社Hの下請等をしていた株式会社Fの代表取締役Eから借金をするなどしていた。 なお,被告Aは,平成12年9月26日付をもって,株式会社Hの取締役を辞任した。 イ被告Aは,Eから,平成12年10月中旬ころより,株式会社Fが工事した工事代金630万円につき株式会社Hから支払いがないので,株式会社Hに代わってこれを支払うよう強く求められた。これに対し,被告Aは,月末になれば株式会社Hに入金があるので支払いができるはずであると言ってこれを逃れようとしたが,Eからは,話をつ ないので,株式会社Hに代わってこれを支払うよう強く求められた。これに対し,被告Aは,月末になれば株式会社Hに入金があるので支払いができるはずであると言ってこれを逃れようとしたが,Eからは,話をつけてあるので,I株式会社で金員を借用して支払うよう指示され,同社の代表取締役で原告の夫であるCからは,同月28日に保証人2人を連れて兵庫県加古川市所在のI株式会社の事務所に来るように指示された。 ウ被告Aは,これまでのEとの関係から,上記Eの指示を拒否できず,同月28日午後0時前ころ,友人でJ市役所に勤務する被告Bを同道してI株式会社の事務所に赴いた。そして,被告両名は,同事務所で,Cに指示されるまま,原告から630万円を請求原因(1)に記載のとおりの約定で借り入れる旨の甲1の本件借用証書及びこれを連帯保証する旨の甲2の本件連帯保証契約書に各署名するとともに,両名とも印鑑を持参していなかったことから,同事務所であてがわれた三文判を用いてその各名下に押捺した。 エその後,被告両名は,Cから,Eが来るので,それまで待つように指示され,近くの喫茶店で昼食を済ませ,その後は,被告Bの自動車の中でEの来るのを待っていたところ,午後2時ころEがやって来たので,被告AはI株式会社の事務所に戻り,被告Bはそのまま自動車に残った。 オ被告AがI株式会社の事務所に戻った後,同事務所で行われた被告A,C及びEとの間のやり取りに関しては,次のとおり,被告Aが述べるところ(乙41,被告A本人〔第1,2回〕)とC及びEが述べるところ(証人C,同E〔第1,2回〕)とではまったく食い違っている。 すなわち,被告Aによれば,被告Aは,Cに対し,630万円の金員の交付を求めたが,Cからは「630万円は直接Eに渡しておく。」 同E〔第1,2回〕)とではまったく食い違っている。 すなわち,被告Aによれば,被告Aは,Cに対し,630万円の金員の交付を求めたが,Cからは「630万円は直接Eに渡しておく。」と言われ,そこで,被告Aは,Eに対し領収書の交付を求めたが,Eはこれに応じず,追い払われるようにして原告事務所を出ざるを得なかったもので,現金の交付を受けられなかったことはもとより,現金を目にすることもなかったというものであり,これに対し,C及びEの述べるところによれば,まず,Cが被告Aに現金で630万円を手渡し,これを被告Aが受領して金額を確認した後,被告AがEに手渡したというものである。 (2) 以上の事実によれば,甲1の本件借用証書は,いまだ金員の交付がなされていない状況下で,これが作成されたものであり,したがって,甲1中に「本日この金員を受領しました。」との記載はあるものの,これをもって直ちに金員の交付があったことの裏付けとすることはできず,結局のところ,本件において金員の交付があったか否かは,被告Aの述べるところとC及びE両名の述べるところのどちらが信用できるかにかかっていると言わざるを得ない。 そこで検討するに,Cが,甲1,2の借用証書等に署名捺印を終えた被告両名に対し,Eが来るまで待つように指示したのは,Eが来るのを待って金員の交付を行うためであったと考えるのが自然であるようにも思われる。しかし,金員の交付がなされたことについては,C及びE両名の供述以外にはこれを裏付けるに足りる証拠がない(原告が本件貸付に関する貸付帳簿〔写〕の抜粋として提出する甲3も,金員の交付があったことまで裏付けるものとは認めがたい。)うえ,現実に630万円の交付がC及びEの述べるとおりになされたのであれば,株式会社Fないしその代表 付帳簿〔写〕の抜粋として提出する甲3も,金員の交付があったことまで裏付けるものとは認めがたい。)うえ,現実に630万円の交付がC及びEの述べるとおりになされたのであれば,株式会社Fないしその代表者であるEから被告Aないし株式会社Hに対し,630万円を受領した旨の領収書が作成されていてもおかしくないのに,その作成はなされていないこと,また,株式会社Fとしては,領収書は作成せずとも,株式会社Hから支払を受けるべき工事代金につき代払いを受けたのであるから,少なくともこれに即した経理処理を行って然るべきであるのに,株式会社Fに対する調査嘱託の結果によれば,株式会社Fは,現在においても,上記630万円はいまだ未入金であるとの処理しかしておらず,被告Aの代払いにより代金を受領済みであるとの経理処理を行っていないこと,また,そもそも,当時,賭け事に手を出し,借金に負われ,他の高利金融業者を回ってもなかなか金員を借り入れることができない状況にあった被告Aに対し(被告A本人〔第1回〕),同被告が連帯保証人として同道してきた被告BがJ市役所に勤務している者であったとはいえ,その保証だけで他に何らの担保を取ることなしに630万円もの金員を貸し付けること自体,通常では考えにくいことにも照らすと,借用証書等の作成はあるにしても,これが実際に実行されたものかどうか,すなわち,金員の交付が現実にあったものかは疑問であり,これがあったと一致して供述する証人C及び同Eの各証言の信用性には疑問があると言わざるを得ない。そして,上記認定事実からも明らかなとおり,CとEとは密接な関係にあったと思われることからすれば,Eの意を受けたCにおいて,当初から金員交付の予定なしに,工事代金の代払い資金としての借入名目で,被告ら両名に対し630万円の本件借用証書及び本件連帯保証契約書 係にあったと思われることからすれば,Eの意を受けたCにおいて,当初から金員交付の予定なしに,工事代金の代払い資金としての借入名目で,被告ら両名に対し630万円の本件借用証書及び本件連帯保証契約書に署名捺印させたものであった疑いもないではない。 そうとすれば,EがI株式会社の事務所に来てからの同事務所での被告A,C及びEの間でのやり取りに関しても,被告Aが述べるようなやり取りであった可能性も十分あり得るところである。 被告Aは,株式会社Fと株式会社H及び被告Aとの間の金銭問題等に関し,それらの処理に窮して,偽造文書を作成する等して,逮捕されるなどしており(甲13の1~3,15,乙16,乙19,27,被告A本人〔第2回〕),その供述を全面的には措信しがたい部分があることは否定できないにしても,前記したところからすれば,本件貸付契約に関し金員の交付がなかったとの部分まで一概に信用性のないものとまでは言えず,被告両名は,借用書等の作成後,EがI株式会社の事務所に来るのを待ったものの,結局,そこにおいても金員の現実の交付はなされずに終わった可能性はこれを否定できないというべきである。 (3) そうすると,本件貸付契約については,その借用証書(甲1)の作成はあるものの,金員の交付がなされなかった疑いを払拭できず,その交付があった事実を認めることができないから,結局,本件貸付契約の成立はこれを認めることができない。 2 以上によれば,原告の被告らに対する請求は,その余について判断するまでもなく理由がないことが明らかである。 よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官 主文 よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官上田昭典
▼ クリックして全文を表示