主文 1 原告らの被告Aに対する請求を棄却する。 2 原告らのその余の被告らに対する訴えを却下する。 3 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1) 被告らは,連帯して,三重県に対し,金10億5844万5630円を支払え。 (2) 訴訟費用は,被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告ら(1) 本案前の答弁ア主文2項同旨イ訴訟費用は原告らの負担とする。 (2) 本案の答弁ア原告らの請求をいずれも棄却する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,三重県の住民である原告らが,三重県知事・教育委員長・教育委員・教育長であった被告らに対し,「被告らが進めた三重県による公立学校職員等に対する給与過渡金の返還債権放棄は違法で,三重県が損害を被った。」として三重県に損害賠償金を支払うよう求めた住民訴訟である。 2 前提事実(全て当事者間で争いがない。)(1) 原告らは,三重県の住民である。 (2) 被告Aは,平成7年4月から三重県知事である。 被告Bは,平成9年3月25日から三重県教育委員で,平成10年10月26日から平成11年10月25日までの間三重県教育委員長であった。 被告Cは,平成13年3月25日から三重県教育委員である。 被告Dは,平成9年12月24日から三重県教育委員で,平成11年10月26日から平成12年10月25日までの間三重県教育委員長であった。 被告Eは,平成7年3月10日から三重県教育委員で,平成8年10月26日から平成9年10月25日までと平成12年10月26日から平成13年10月15日までの間三重県教育委員長であった。 被告Fは,平成11年4月1日から平成14年3 教育委員で,平成8年10月26日から平成9年10月25日までと平成12年10月26日から平成13年10月15日までの間三重県教育委員長であった。 被告Fは,平成11年4月1日から平成14年3月31日まで三重県教育長で,平成13年4月1日から平成14年3月31日まで三重県教育委員であった。 (3) 三重県知事の被告Aは,平成13年11月26日に,下記の債権放棄(以下「本件債権放棄」という。)についての議案を提出し,三重県議会は,同年12月21日に同議案を可決した。 記公立学校職員等が勤務時間中に職員団体のための活動を行っていたことにより生じた給与の過渡しに伴う三重県の損失につき,該当職員1万2652人に対する10億5844万5630円の返還請求権を放棄する。 (4) 原告らは,平成14年4月5日に,三重県監査委員に対し,地方自治法242条1項の規定に基づき,被告らが三重県に対し損害賠償をするよう監査請求したが,三重県監査委員は,平成14年5月24日,この請求を棄却した。 3 原告らの主張(1) 本件債権放棄は,三重県教育委員長,三重県教育委員及び三重県教育長であった被告B,被告C,被告D,被告E,被告Fが主導して実質的に行ったもので,三重県知事の被告Aが議会に議案を提出し,放棄したものである。 (2) 被告らの権限について被告Aは知事として債権放棄をする権限があり,被告B,被告C,被告D,被告E,被告Fも三重県教育委員長,三重県教育委員及び三重県教育長として,その法律上の権限に従い又はその地位を利用して債権放棄の実行を進める権限があるから,被告らは地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。 以下同じ。)242条の2第1項4号に規定する「当該職員」に該当する。 (3) 本件債権放棄の違法性に 権放棄の実行を進める権限があるから,被告らは地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。 以下同じ。)242条の2第1項4号に規定する「当該職員」に該当する。 (3) 本件債権放棄の違法性について公立学校職員等が平成9年4月1日から平成11年9月30日までの間に勤務時間中に職員団体のための活動を行っていたことにより生じた給与の過渡しについて,県教委は個々人に返還を求めて弁済によって債権の消滅を図ろうとしたが,三重県教職員組合(以下「三教組」という。)は地方公務員法違反を根拠とすることや個々人への納付書送付に反対した。そこで,三重県教育委員長,三重県教育委員及び三重県教育長であった被告B,被告C,被告D,被告E,被告Fは,返還請求や納付書の交付をすることなく返還請求権を放棄する手続を進め,三重県知事の被告Aが議会に議案を提出し,放棄したのであるが,かかる手続が違法であることは明らかである。 三重県は,三教組と三重県教育振興管理職会(以下「管理職会」という。)からの寄附によって損失は実質的に補填されたとするが,寄附によって個人の債務が消えるわけではない。 (4) よって,原告らは,三重県に代位して,被告らに対し,三重県に対する10億5844万5630円の支払を求める。 4 被告らの主張(1) 三重県教育委員長,三重県教育委員及び三重県教育長には債権放棄をする権限がないから,被告B,被告C,被告D,被告E,被告Fは,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当しない。 (2) 本件債権放棄をしたのは三重県議会であって,三重県知事の被告Aは本件債権放棄をしていない。被告Aは,三重県知事として三重県議会に本件債権放棄の議案を提出したにすぎない。 したがって,被告Aは住民訴訟の対象となる財務会計行為を行っていない。 ( 知事の被告Aは本件債権放棄をしていない。被告Aは,三重県知事として三重県議会に本件債権放棄の議案を提出したにすぎない。 したがって,被告Aは住民訴訟の対象となる財務会計行為を行っていない。 (3) 議会において適法に債権放棄の議決がなされた以上,その放棄について損害賠償が問題となる余地はない。 第3 当裁判所の判断 1 地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして上記権限を有するに至った者(当該普通地方公共団体の内部において,訓令等の事務処理上の明確な定めにより,当該財務会計上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され,上記権限行使についての意思決定を行うとされている者も含まれる。)を意味するものであるが,およそ上記のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者を被告として提起された同号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えは,法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして,不適法であると解するのが相当である。 これを本件についてみるに,弁論の全趣旨によれば,被告B,被告C,被告D,被告E,被告Fは,上記前提事実のとおり三重県教育委員長,三重県教育委員,三重県教育長であって,およそ債権放棄(なお,債権放棄を主導したことは,そもそも財務会計上の行為ではない。)につき上記のような権限を有する地位ないし職にはなかったことが認められる。 よって,原告らの被告B,被告C,被告D,被告E,被告Fに対する訴えは,法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして,不適法である。 2 被告Aは なかったことが認められる。 よって,原告らの被告B,被告C,被告D,被告E,被告Fに対する訴えは,法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして,不適法である。 2 被告Aは,三重県知事であり,債権を放棄する権限がある。また,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,本件債権放棄の議決は地方自治法96条1項10号に基づくものであることが認められる。 しかるところ,地方自治法96条1項10号は,議会の議決事項として,「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること」と規定し,法令や条例の定めがある場合を除いて,広く一般的に地方公共団体の権利の放棄の意思決定については,執行機関の長ではなく,議会の議決によるべきものとしている。 したがって,本件債権放棄の意思決定をしたのは三重県議会であって,三重県知事である被告Aがその意思決定をしたものではないということができる。 また,証拠(甲1,4,7,8,11)及び弁論の全趣旨によれば,三重県は,平成13年11月,三教組から8億円,管理職会から2億5844万6000円,合計10億5844万6000円の寄附金の納付を受けたこと,上記寄附金納付は,本件の過渡し給与返還問題を解決することを実質的な目的としてなされたこと,かかる事情が存したために三重県議会が本件債権放棄を議決したものであることが認められる。 そうすると,本件給与過渡しに伴う三重県の損失は上記寄附金により事実上補填されたものと評価することも可能であって,被告Aにおいて上記議決を公告するなどして相手方にその議決内容を通知することを拒むべき事情はないというべきであるから,仮にその通知が財務会計行為に当たるとしても,これをもって被告Aが本件債権放棄につき損害賠償責任を負う根拠とすることは して相手方にその議決内容を通知することを拒むべき事情はないというべきであるから,仮にその通知が財務会計行為に当たるとしても,これをもって被告Aが本件債権放棄につき損害賠償責任を負う根拠とすることはできない。 3 結論以上の次第であり,原告らの被告Aに対する請求は理由がないからこれを棄却し,原告らのその余の被告らに対する訴えは不適法であるからこれを却下すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 津地方裁判所民事部裁判長裁判官内田計一裁判官後藤隆裁判官大竹貴
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