主文 被告人を懲役2年に処する。 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,弁護士として,東京都港区a甲ビルに「A法律事務所」を設けていた者であるが,第1 同法律事務所の職員をしていたB及びCと共謀の上,別紙一覧表(1)のとおり,平成9年2月4日ころから同年10月6日ころまでの間,前後10回にわたり,東京都港区a乙ビル日本クレサラ相談センターにおいて,いずれも弁護士でなく報酬を得る目的で業として法律事件に関して法律事務の周旋をしていたD,E,F,G,H及びIから,複数の貸金業者等に対し債務を負担している者からの委任を受けこれらの者を代理して貸金業者等に債務の一部不存在の確認等を求める事件につき,V1ほか9名の紹介を受けて同人らから上記事件を受任し,第2 別紙一覧表(2)のとおり,平成10年4月6日ころから同年12月19日ころまでの間,前後5回にわたり,上記A法律事務所において,弁護士でなく報酬を得る目的で業として法律事件に関して法律事務の周旋をしていたJから,複数の貸金業者等に対し債務を負担している者からの委任を受けこれらの者を代理して貸金業者等に債務の一部不存在の確認等を求める事件につき,V2ほか4名の紹介を受けて同人らから上記事件を受任し,もって,報酬を得る目的で法律事務の周旋を業としていた者から事件の周旋を受けたものである。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1 被告人の主張被告人は,判示第1については,K弁護士に対する名義貸しであって,弁護士法に違反するいわゆる非弁提携には当たらないとし,判示第2については,Jから事件の周旋を受けたことはないし,被告人がJに支払った金には対価性がなく,むしろJから恐喝されて支払ったものであ て,弁護士法に違反するいわゆる非弁提携には当たらないとし,判示第2については,Jから事件の周旋を受けたことはないし,被告人がJに支払った金には対価性がなく,むしろJから恐喝されて支払ったものであるとして,いずれも無罪を主張するので,検討する。 第2 判示第1の事実について 1 認定事実関係証拠によれば,以下の各事実を認めることができる。 (1) Kの債務整理業務の形態Kは,弁護士としてK法律事務所(以下「K事務所」という。)を設けていたが,平成6年2月ころから,Dより多重債務者の紹介を受けてその債務整理を受任しており,Dは,弁護士と委任契約を締結するのに必要な着手金に相当する額をその多重債務者に貸し付けることによって利益を得ていた。 D及びその部下であったEは,平成7年11月上旬ころ,日本クレサラ相談センター(以下「クレサラセンター」という。)を設立し,クレサラセンターの名称で多重債務者を募集して相談を受け,弁護士の紹介を希望する者をKに紹介し,Kが債務整理を受任した場合に,Kから紹介料を受け取って利益を得ることを始めた。Dらは,平成8年2月上旬ころからは,Qの名称で多重債務者を募集した上弁護士に紹介して紹介料を得ていたFその他のいわゆる紹介業者と提携することとし,紹介業者が多重債務者を募集してクレサラセンターに紹介し,クレサラセンターが多重債務者をさらにK事務所に紹介して,Kが事件を受任した場合には,取決めに従った一定の紹介料が紹介業者及びDの経営する有限会社「L」に支払われ,Lからクレサラセンターの運営費が支出されるという仕組みが作られた。紹介料は,紹介業者に対しては多重債務者の受任時の債務総額の6パーセントを,Lに対しては4パーセントをそれぞれ支払うこととされていた。 ンターの運営費が支出されるという仕組みが作られた。紹介料は,紹介業者に対しては多重債務者の受任時の債務総額の6パーセントを,Lに対しては4パーセントをそれぞれ支払うこととされていた。 クレサラセンターは,社団的な名称により業務を行っていたところ,経営者であるDは業務に携わらず,理事長の肩書きを有するEが実質的に運営していたが,Eのほかには1,2人の女性事務職員がいるだけで,代表者が替わっても永続性が保たれるという意味での法的な社団性や組織の実態を有していなかった。また,Fら紹介業者とクレサラセンターとは,別の組織で,多重債務者の紹介をするだけの関係にあった。 K事務所の金銭管理は,実務的には事務長のMに任せられており,債務整理関係の金は,他の一般事件の経理とは区別して管理され,多重債務者が債権者への弁済金及び弁護士報酬の引き当てとして毎月振り込んだ金の中から従業員の給料や経費等が支払われていた。また,Kに対しては,毎月一定額の金が手渡されていたが,このことは,多重債務者からの月々の振込金額が不足するときなどに債権者に対する支払が滞ることのないように相応の額を用意しておく必要があり,またKが使い込みをしないように予防策としてKの可処分所得を決めておく必要があって,KとMとの間の合意に基づくものであった。 Kは,紹介される事件が増加してきたことや,クレサラセンターからの多重債務者が全て自分に紹介される仕組みではクレサラセンターが自分のための集客機関であると発覚する危険が高いことなどから,自分以外にも多重債務者の紹介を受けて債務整理案件を受任する弁護士が必要であると感じ,大学の後輩である被告人とは,それまでにも事件を紹介したり,事件処理に関し協力し合うなど仕事上の付き合いもあった上,被告人がDの民事訴 の紹介を受けて債務整理案件を受任する弁護士が必要であると感じ,大学の後輩である被告人とは,それまでにも事件を紹介したり,事件処理に関し協力し合うなど仕事上の付き合いもあった上,被告人がDの民事訴訟を担当してDとも面識のあったことから,被告人に打診してみることとした。 (2) Kの被告人に対する勧誘平成8年5,6月ころ,Kは,仕事の用件で東京都千代田区b所在の丙ホテルのロビー内の喫茶室で被告人と会った際,被告人に対し,「Dから紹介を受けて、債務整理を以前からやっている。今度、クレサラというものを作り、そこから紹介を受けて債務整理をやっているが、先生も紹介を受けてやってみないか。」などと言うと,被告人は,「うちにも廻して下さいよ。」などと積極的な態度で答えた。その際,Kは,「非弁提携」という言葉こそ使わなかったものの,紹介料を支払わなければならないことは話した。 Kは,被告人から,非弁提携として拒否されるか批判されると危惧していたが,思いがけず被告人が積極的な態度を見せたことから,被告人に対し,Dと会い,話し合って自分で判断してほしいと言い,Dに対しても,被告人と会って話してみるように伝えた。 (3) 被告人とDとの話合いDは,平成8年6月ころ,東京都港区a所在の甲ビルc階d室にあるA法律事務所(以下「A事務所」という。なお,後記(8)のA事務所分室と区別して使う場合には「A事務所本室」又は「本室」という。また,本室と分室を併せた意味で「A事務所」ということもある。)を訪ね,Kに多重債務者を紹介しているが,被告人にも引き受けてもらえないかと切り出した。その際,被告人が表情を崩して「面白そうだね。私もやってみたいな。」などと言ったことから,Dは,被告人に対し,紹介業者から紹介を受け を紹介しているが,被告人にも引き受けてもらえないかと切り出した。その際,被告人が表情を崩して「面白そうだね。私もやってみたいな。」などと言ったことから,Dは,被告人に対し,紹介業者から紹介を受けた多重債務者をクレサラセンターから弁護士に紹介するという形態をとっていること,紹介業者は既に確保してあり,紹介業者への紹介料は,債務整理案件を受任したことで得る弁護士報酬の中から支払われること,K事務所と同じ方法でやってもらえればよいこと,Dらへの報酬は業務が軌道に乗ってからでよいことなどを説明した。これに対して,被告人は,「やりましょう、大々的にやりましょう。」などと言って乗り気の姿勢を示した。そこで,Dは,A事務所には事務職員が被告人の父親と女性1人しかいないと知っていたことから,債務整理業務を始める際の職員の手当として,「従業員については、K先生の方のお力を借りましょうかねえ。」などと提案すると,被告人は「そうだね。」と言って了承した。 (4) 事務職員の確保被告人が乗り気の姿勢を示したため,Kは,Mに対し,被告人がクレサラセンターから債務整理案件の周旋を受けることを伝え,被告人の債務整理業務が軌道に乗るまでの間,その運営について面倒を見てほしいこと,紹介料はK事務所と同様でよいことなどを告げた。また,A事務所で債務整理を始めるに当たっては,その仕事の経験のある職員が必要であることから,Kは,Dの提案もあり,Mと相談し,K事務所の事務職員の中からBとNを選び出した。K及びMは,A事務所で行う債務整理はK事務所における業務とは別個であるという認識でいたため,職員についても,一旦K事務所を退職させた上でA事務所の職員とする考えでいた。 (5) 被告人とD及びMとの連携Dは,平成8年6月中旬ころ,親 は別個であるという認識でいたため,職員についても,一旦K事務所を退職させた上でA事務所の職員とする考えでいた。 (5) 被告人とD及びMとの連携Dは,平成8年6月中旬ころ,親睦を図る目的で,被告人とMをaの料亭「丁」に招いて会食の席を設けた。Mが同席したのは,K事務所における債務整理業務の運営等の詳細について,被告人に説明するためであった。被告人とMとは初対面であったため,Dが被告人に対し,「K法律事務所のMさんです。スタートについては、Mさんに手助けして貰いますから。」と言って紹介した。その数日後には,DとMがA事務所を訪ねて話合いが持たれた。上記の会食や話合いの際,Dが被告人に対し,「この仕事はチリつもの仕事だから大変な仕事ですが共にお金を儲けましょう。」などと激励した上,「先生には毎月五〇万円取って下さい。軌道に乗れば、もっと取れますよ。軌道に乗ってきたら私の方も貰いますよ。」などと言うと,被告人は,「そうですか。」と言って同意した。また,Mが被告人に対し,紹介料の支払について,「Kでは、紹介業者に紹介料を払っています。それが大きな比重を占めていますが、条件はKと同じでよろしいですか。」と尋ねたところ,被告人は,K事務所と「同じ条件でけっこうです。」などと言って了承した。 (6) 紹介業者の認識そのころ,Eは,紹介業者に対し,多重債務者の紹介先の弁護士に被告人が加わることを伝えた。紹介業者は,紹介の条件がKと同じであったことから,紹介先が増えることに依存はなく,また,同額の紹介料が入る以上,紹介先が誰であるかについては取り立てて興味を持たなかった。 (7) 税務処理同じころ,Dは,K事務所の税務も担当していたOにA事務所の顧問税理士となるように依頼し,平成8年7月 先が誰であるかについては取り立てて興味を持たなかった。 (7) 税務処理同じころ,Dは,K事務所の税務も担当していたOにA事務所の顧問税理士となるように依頼し,平成8年7月10日,A事務所において,被告人,O及びMの3人が顔合わせと打合せをした。その際,Oと被告人との間で顧問契約が締結されるとともに,債務整理業務に関する紹介業者への紹介料の勘定科目をK事務所と同様に委託調査費とすることなどが話し合われた。 (8) A事務所分室の開設被告人がクレサラセンターから紹介されて受任する債務整理業務は,専らその処理のために設けられたA法律事務所分室(以下「A事務所分室」又は「分室」という。)で扱うこととなり,BとNらは,一旦K事務所を辞めてA事務所に移籍した。 Mは,平成8年6月26日ころ,B,Nのほか,K事務所のアルバイト職員で,やはりA事務所に勤務することとなったPの3人を連れてA事務所に行き,被告人に対し,債務整理の仕事を始めるに当たってK事務所からA事務所に移って働くことになった旨紹介した。被告人は,Bらに激励の言葉をかけた。Bは,Mから,A事務所分室の債務整理の方法についてK事務所と同様でよいと聞いていたことから,被告人のもとで行う業務の内容を認識しており,ここに債務整理業務を行うつもりでいた被告人とBとの間で共謀が成立した。 A事務所分室は,被告人が賃借し同年5月に甲ビルc階へ移転するまでA事務所として使用していた東京都港区a所在の戊e号室に置かれ,その鍵は,開設の数日前にMが被告人の父親から受け取り,その後同年7月の中旬ころにかけて,B,Nらが備品を揃えるなどして事務所としての体裁を整えた。 A事務所分室で多重債務者から受任する際に用いる契約書及 日前にMが被告人の父親から受け取り,その後同年7月の中旬ころにかけて,B,Nらが備品を揃えるなどして事務所としての体裁を整えた。 A事務所分室で多重債務者から受任する際に用いる契約書及び委任状の書式については,Bが被告人にK事務所と同様でよいかと伺いを立て,被告人が,その好みに応じてK事務所で用いていた書式に手を入れる形で準備した。 被告人は,同年7月29日ころ,A事務所分室において,最初の多重債務者の債務整理案件を受任した。 その後,分室における債務整理案件が増加したのに応じて,同年9月ころにCが分室の職員として採用されたのを始め,ほか3名の職員が順次採用された。 Cは,MがK事務所で事務職員を募集した際,Bの依頼によって,応募者の中からA事務所分室の職員として採用された者で,採用の際には,被告人のもとへ挨拶に行き,被告人から激励の言葉をかけられた。その後,Bの指導により,分室における債務整理業務を覚えていく中で,Bを介して,Cと被告人との間でも共謀が成立した。 A事務所分室は,被告人の発案により,同年9月ころ,c階d室にA事務所本室が入っている甲ビルのf階g室に移転した。 A事務所では,本室及び分室の懇親会が何度か開催され,分室移転後の同年10月18日に開かれた懇親会には,被告人,本室職員,分室職員,D,Mらが参加し,Dが「この度、A先生と債務整理の仕事を一緒にやるようになりましたので、頑張りましょう。」などと挨拶し,被告人も同様の挨拶をした。また,同年12月中旬に開かれたA事務所の忘年会では,本室と分室の職員のほか,M,Dらが招待され,被告人は,「今年は、自分の中で、大きなイベントを始めた年であり、皆さんも大変だけど、これから一緒に頑張っていきましょう。」などと挨拶し 務所の忘年会では,本室と分室の職員のほか,M,Dらが招待され,被告人は,「今年は、自分の中で、大きなイベントを始めた年であり、皆さんも大変だけど、これから一緒に頑張っていきましょう。」などと挨拶した。 A事務所本室の職員も,分室においては専ら債務整理業務を取り扱っていることを認識していた。本室と分室とは内線電話でつながれ,誤って債務整理関係の電話が本室にかかってきた場合には,本室の事務職員が電話を切り替えるなどしていた。 (9) A事務所分室における債務整理業務の処理状況A事務所分室における紹介業者からの多重債務者の紹介,受任及び債務整理の事務処理の状況は,K事務所におけるそれと同様であった。 すなわち,①紹介業者のFがQという名称で,紹介業者のGがR等の名称で,紹介業者のHがSという名称で,紹介業者のIがTという名称でそれぞれ「低金利一本化」「借金を卒業しましょう」などという勧誘文言を雑誌等に掲載して多重債務者を募集していた。②各紹介業者は,自ら又は従業員を使って,募集に応じてきた多重債務者からその債務状況等を聴取した上,弁護士へ紹介するのに適すると判断した者をクレサラセンターに紹介した。各紹介業者は,多重債務者がクレサラセンターを通じてKか被告人のいずれかに紹介されることを知っていたが,いずれの弁護士に紹介されるかについては関知できず,むしろ,紹介料が支払われさえすれば足りるので,紹介先の選定について興味を持っていなかった。各紹介業者は,いずれかの弁護士が受任した後,その通知が来ることで紹介した多重債務者が受任されたことを知り,受任後,弁護士事務所から3ないし5回程度の分割により,紹介した多重債務者の債務総額の6パーセントを紹介料として受け取っていた。③クレサラセンターでは,職員が多 た多重債務者が受任されたことを知り,受任後,弁護士事務所から3ないし5回程度の分割により,紹介した多重債務者の債務総額の6パーセントを紹介料として受け取っていた。③クレサラセンターでは,職員が多重債務者に必要書類を書かせるなどした上で,主にEが多重債務者と面談して債務状況を確認し,弁護士による債務整理が適当と判断した者に対しては,弁護士に相談することを勧め,相談を希望する場合には,弁護士に紹介することとしていた。紹介先をKと被告人のいずれにするかは,Eがその時の状況で決定し,それぞれの事務所の事務職員に多重債務者を引き継いだ。引継ぎの資料には,紹介元の紹介業者を表すアルファベット等の記号が記載されたため,各事務所ではどの紹介業者からの紹介であるかを認識できた。クレサラセンターでは,当初はA事務所から紹介料を徴収していなかったが,仕事が軌道に乗ってきた平成9年5月から,Dの経営するLに対し,受任した多重債務者の債務総額の4パーセントが1人当たり月5000円の分割によって振り込まれ,Dからクレサラセンターの運営費が支払われていた。④多重債務者がEの面談を経てA事務所分室に紹介される段になると,B又はC(Cについては平成8年12月以降)がクレサラセンターの事務所内の面談室で面談し,債務内容等を聞き取り調査して書面(以下「債務申告表」という。)等に記載した上で,A事務所の職員としての観点から,多重債務者の返済の意欲等被告人が債務整理を受任するにふさわしいかどうかを判断した。適当と判断した場合には,被告人に債権債務の整理(任意整理)に関する一切の件を委任する旨の委任状に署名させ,さらに予め被告人の職印が押されている契約書に署名させることによって委任契約を取り交わした。委任契約書は,被告人の職印を管理する被告人の父親が予め押印したものがクレサラ 委任する旨の委任状に署名させ,さらに予め被告人の職印が押されている契約書に署名させることによって委任契約を取り交わした。委任契約書は,被告人の職印を管理する被告人の父親が予め押印したものがクレサラセンターに常備されていた。⑤Bらは,作成した書類をA事務所分室に持ち帰り,委任状の原本及び契約書,債務申告表等の写しはA事務所本室に,委任状の写し及びその他の書類の原本は分室に保管した。受任後は,事務職員が債権者らに債務状況を照会するなどして債務内容を確定し,その内容に基づいて和解案を作成した上,個々の債権者に和解案を提示するなどして債務の一部不存在の確認等を求める和解交渉を進めた。和解が成立しない場合には,被告人に依頼し,民事調停を申し立てるなどして裁判上の和解の余地も探り,和解が成立した場合には,和解案に基づいた弁済基準に従って月々の債務の弁済を継続するなどの事務処理をしていた。 これらの事務処理の仕組みを作るに当たっては,被告人,K,D,Mらの間でK事務所と同様にするという申し合わせがなされたことや,Kからの依頼もあったことから,K事務所で債務整理の事務処理を掌握していたMが積極的,主導的に関与した。 (10) 被告人の債務整理業務への関与A事務所本室では,分室開設後もそれ以前と同様に民事事件,刑事事件を扱っていたのに対し,分室では専らクレサラセンターを経由して受任した多重債務者の債務整理業務を行っていた。 Bは,債務整理業務を開始した当初の平成8年8月ころは,クレサラセンターにおける面談で多重債務者に委任状等へ署名させて受任手続を済ませた後,被告人と多重債務者の都合がつく限り,多重債務者をA事務所本室へ案内し,被告人自らが多重債務者に面談するなどしていた。しかし,同年9月ころ,被告人の事 務者に委任状等へ署名させて受任手続を済ませた後,被告人と多重債務者の都合がつく限り,多重債務者をA事務所本室へ案内し,被告人自らが多重債務者に面談するなどしていた。しかし,同年9月ころ,被告人の事件出張が多くなってからは,被告人が「多重債務者の件は、Bさんに任せますから、よろしくお願いします。ただ、報告だけは、きちんとやって下さい。」と言ってBに処理を任せていたため,被告人が多重債務者に面談することはなくなった。その後の平成9年9月下旬ころ,A事務所分室で受任していた多重債務者の代理人となったU弁護士から,その債務者が被告人と1度も面談していなかったことから,被告人との間の委任契約は弁護士法27条に抵触する可能性があるという指摘を受け,その後は,再び被告人自らが面談し始めたが,間もなく面談しなくなった。 被告人がA事務所分室に行くことはほとんどなく,事務所の職員が日々の定型的な事務処理を行っていることは被告人自身も了承していた。Bは,被告人からは,「何かあったら、直ぐに言ってね。何処へでもいくからね。」などと言われており,事案処理に当たって問題が生じた場合等は,被告人に報告して判断を仰いだり,Bの要請により被告人自らが処理に当たるなどしており,和解,調停等弁護士資格が必要な時はもとより,債権者が直接弁護士と話をさせるように要求した場合にも,被告人が対応していた。現に,事案処理のために,被告人が裁判所に出頭したことも数回あった。 Bは,被告人から,受任件数や債務整理の状況報告だけはきちんとするように指示されていたことに従って,被告人に対し,適宜依頼者ファイルを持参するなどして業務状況を報告していた。 (11) A事務所分室の経理A事務所分室の経理全般,具体的には,多重債務者から分室専用の口 従って,被告人に対し,適宜依頼者ファイルを持参するなどして業務状況を報告していた。 (11) A事務所分室の経理A事務所分室の経理全般,具体的には,多重債務者から分室専用の口座に振り込まれて弁護士報酬や債権者への弁済金の引き当てとなる「原資」等の管理と督促,紹介業者への紹介料の算出と送金については,開設当初,Mが指導したところに従い,主にNが行っており,被告人が分室のために開いた「A法律事務所分室A」名義のさくら銀行の口座の通帳,キャッシュカード及び印鑑についても,被告人からMを経由して渡されたNが管理していた。Nは,住友銀行のパソコンバンキングを知ると,Bを通じて被告人に口座の開設を依頼し,被告人が同銀行に開いた「A法律事務所分室代表A」名義の口座も平成8年8月ころから利用していた。 A事務所分室が開設された当初などには分室の経費が不足し,このような場合には,NがMの指示で,K事務所から金を借りて賄っていた。ただし,K事務所からの出費等については,Kは認識していなかった。 具体的な金銭管理の状況としては,委任契約後,多重債務者が原資等を分室の口座に振り込むと,この中から,債権者,紹介業者,Lへの支払がなされ,さらに,被告人への報酬,分室職員への給料,その他経費が支払われていた。 被告人に対しては,Mからの指示に基づき,Bの手配により,多重債務者から受け取る弁護士報酬から,給料という名目で,当初月50万円が分室の会計の中から支払われていた。月々一定の金額が支給されていたのは,K事務所における運用をA事務所分室が踏襲したものであり,債務整理業務の特殊性,すなわち,債務者からの支払が細々とした不確実なものであって,債権者への支払を継続する関係で一定の金を常時事務所に保持しておく必 おける運用をA事務所分室が踏襲したものであり,債務整理業務の特殊性,すなわち,債務者からの支払が細々とした不確実なものであって,債権者への支払を継続する関係で一定の金を常時事務所に保持しておく必要があること,受任契約時に設定した弁護士報酬額をまとめて渡すことが不可能であることなどによるものであり,このことは,当初のDから被告人に対する説明等により,被告人も了解していた。平成9年春には,被告人から暗に不満が示された上,分室の債務整理業務が軌道に乗ってきたことやDからの要求もあったため,Mの指示により,被告人への支給分を70万円に増額するとともに,D(L)への支払も開始することとなった。 紹介業者に支払われる債務総額の6パーセントの紹介料は,最終的には,Qへ4653万8700円,Sへ1510万8400円,Rへ1261万4500円,Tへ873万3600円が支払われ,その他の紹介業者への支払を含めると,合計8629万2000円に達した。D(L)に支払われる債務総額の4パーセントの紹介料は,合計431万円に達した。 なお,平成8年度分の被告人の確定申告には,Bの給料が記載されていないが,Bが自己の負債の関係による給料の差押えを免れるためであり,Oも了解済みの処理であった。 分室の職員の経費処理については,BやCが領収書を持って請求してきた場合に,Nが請求に応じた金額を支出していた。 (12) A事務所分室の閉鎖平成9年9月ころ,被告人はそれまでは職員に任せきりであったA事務所分室の経理について興味を持ち,Bに対し金銭出納帳を毎月持ってくるように指示するなどした。 被告人は,Bらが分室の経費を使い込んでいるという疑いを抱き,Bらが被告人の事件依頼者からの預り金を業務上横領 て興味を持ち,Bに対し金銭出納帳を毎月持ってくるように指示するなどした。 被告人は,Bらが分室の経費を使い込んでいるという疑いを抱き,Bらが被告人の事件依頼者からの預り金を業務上横領したとする同年12月1日付け警視庁宛の告訴状の案を作成したが,結局告訴をしなかった。その際,Kに告訴意思を確認することはなかった。 同年12月15日,被告人は警察官3人を連れて分室に入り,Bに対し分室の経理について苦情を言い,「誰のおかげで、飲み食いできているんだ。」「分室の経理はどうなっているんだ。」などと叱責した。 同年12月18日,被告人は,分室職員らを含めた関係者に告知することなく,数名の私服の警察官を連れてA事務所分室を訪れ,鍵を取り替えるなどして分室を閉鎖し,B,Nその他の事務職員を追い出した。 その後,分室職員のうち,Bら数名はK事務所で働くようになったが,NとCはそうしなかった。 (13) 判示第1の犯行判示第1の多重債務者である依頼者(別紙一覧表(1))に関する受任状況は,以下のとおりである。 ア V1TのIから紹介を受けたV1は,平成9年2月4日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。V1の当時の債務状態としては,アコム株式会社ほか3社からの残債務総額約160万3257円であった。 イ V3TのI又はその従業員から紹介を受けたV3は,平成9年2月7日,クレサラセンターの事務処理を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。同女の当時の債務状態としては,アコム株式会社ほか2社からの残債務総額約122万8247円であった。 ウ V4 事務処理を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。同女の当時の債務状態としては,アコム株式会社ほか2社からの残債務総額約122万8247円であった。 ウ V4QのFから紹介を受けたV4は,平成9年7月22日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。V4の当時の債務状態としては,株式会社武富士ほか4社からの残債務総額約229万6094円であった。 エ V5RのGから紹介を受けたV5は,平成9年7月25日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Bの面談により被告人との間で委任契約を締結した。同女の当時の債務状態としては,プロミス株式会社ほか4社からの残債務総額約226万283円であった。 オ V6QのFから紹介を受けたV6は,平成9年8月21日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。V6の当時の債務状態としては,株式会社武富士ほか2社からの残債務総額約118万8792円であった。 カ V7RのGから紹介を受けたV7は,平成9年9月2日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。同女の当時の債務状態としては,アイク株式会社ほか4社からの残債務総額約213万3509円であった。 キ V8SのH又はその従業員から紹介を受けたV8は,平成9年9月8日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。V8の当時の債務状態としては,株式会社武富士ほか2社からの残債務総額約137万9482円であった。 ク V9QのFから紹介を の面談により被告人との間で委任契約を締結した。V8の当時の債務状態としては,株式会社武富士ほか2社からの残債務総額約137万9482円であった。 ク V9QのFから紹介を受けたV9は,平成9年9月17日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。同女の当時の債務状態としては,株式会社ニッシンほか2社からの残債務総額約120万9285円であった。 ケ V10QのFから紹介を受けたV10は,平成9年9月26日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Bの面談により被告人との間で委任契約を締結した。V10の当時の債務状態としては,株式会社武富士ほか2社からの残債務総額約149万9115円であった。 コ V11SのHの従業員から紹介を受けたV11は,平成9年10月6日,クレサラセンターでEの面談を経た後,Cの面談により被告人との間で委任契約を締結した。V11の当時の債務状態としては,アイフル株式会社ほか3社からの残債務総額約196万8216円であった。 なお,これら10件を含め,平成8年7月から平成9年12月までの間に紹介業者から受任した債務者総数は666名であり,その債務総額は約15億9643万円であった。 2 共犯者及び関係者の各供述の信用性上記1の各事実を支える証拠として,共犯者であるB及びC並びに関係者であるK,D,E,M,N,Oらの各供述がある。 関係者のうちKは,公判段階においても供述しているところ,その供述内容は,捜査段階における供述とも合致していて,一貫性があり,被告人による詳細な尋問によっても崩れていない。K自身が「調書を取られたときにはそれなりの資料を見せられていますから、調書 ころ,その供述内容は,捜査段階における供述とも合致していて,一貫性があり,被告人による詳細な尋問によっても崩れていない。K自身が「調書を取られたときにはそれなりの資料を見せられていますから、調書に書いてあることは正確です。今は記憶が大分薄れています。」(第9回公判期日)と供述するとおり,一部の点で供述が曖昧になっているけれども,既に自己が訴追された刑事裁判が終わって判決が確定していることや,犯行当時から数年間が経過していることなどから,その認識及び記憶に混乱が生じるのはむしろ自然である上,はっきりと記憶にある事柄とない事柄とを区別して供述していること,自己の刑責に関わる事項についても積極的に供述していることに加え,公判段階における真摯な供述態度をも併せ考えると,Kの供述のうち,捜査段階から一貫して供述する部分及び公判段階において捜査段階における供述の方が正確であると供述する部分については,Kの捜査段階における供述に高い信用性を認めることができる。 共犯者及び関係者は,犯行に至る経緯及び犯行状況に関し,それぞれが経験し認識したところを具体的,詳細に供述している上,それぞれが固有の立場と利害関係を有し,共通の利害に立つわけではないにもかかわらず,これらの者の供述は相互に合致して,一連の流れとして矛盾していない。また,共犯者及び関係者は,自己にとって不利益な事実,特に,Bは自らの経費の使い込みについて,DやEは弁護士法違反に該当する自らの周旋行為についてそれぞれ積極的に供述している。 そして,Kが躊躇しつつも被告人を勧誘し,被告人が予想外に乗り気であったことから,Dらが詳細な説明をして被告人の同意を取りつけ,債務整理業務の経験に富むMの指示により,BやNを始めとする職員が業務形態の基盤を作った後,被告人が犯行に踏み込んで が予想外に乗り気であったことから,Dらが詳細な説明をして被告人の同意を取りつけ,債務整理業務の経験に富むMの指示により,BやNを始めとする職員が業務形態の基盤を作った後,被告人が犯行に踏み込んでいった状況,その後のA事務所分室の債務整理業務の運営状況,Bらの分室経費の使い込みが被告人に発覚して破綻が生じた状況等の一連の経過は,自然な流れとして首肯し得るものであって,これらを支える共犯者及び関係者の各供述は信用することができる。 3 被告人の供述の信用性(1) これに対し,被告人は,以下のとおり,共犯者及び関係者の各供述と異なる供述をしているので,その信用性について検討する。 ア Kからの勧誘の内容被告人は,①Kから債務整理業務の話を持ちかけられた際,KがDから継続的に多重債務者の紹介を受けていたことを聞き,非弁提携であるからまずいのではないかという疑義を唱えたが,Kから,紹介料を支払う関係にはないので,勘違いしないでほしいと反論された。また,今はDではなくボランティアの無料法律相談のセンターからの紹介で受任していると言われたので,違法な行為ではないと判断し,積極的にやらせてほしいと答えた。②その後,KがA事務所を訪ねてきて話し合った際,Kから,K自身が開拓した受任ルートを他の弁護士に回す気はないと言われ,戊e号室をA事務所分室という形にして名義ごと貸してほしいと頼み込まれた。また,「誤解しないでくれよな。」という前置きをした上で,弁護士が弁護士に名義を貸すことは弁護士法上禁じられておらず,いわば「弁弁提携」であるし,絶対迷惑をかけないと懇願された。併せて,分室使用料等の対価として「取りあえず月に五〇万くらいは渡せるから。」と言われ,1晩考えた末,Kが自分に迷惑をかけるはずがなく,Kのこれまでの恩に報い るし,絶対迷惑をかけないと懇願された。併せて,分室使用料等の対価として「取りあえず月に五〇万くらいは渡せるから。」と言われ,1晩考えた末,Kが自分に迷惑をかけるはずがなく,Kのこれまでの恩に報いるためにも協力した方がよいし,ここでKとけんかをすれば,自分の受任ルートに大きな痛手を受けるなどと考え,承諾することとし,その旨Kに伝えたと供述している。 しかし,この点に関するKの言動は,上記1(2)のとおりであり,Kは,Dから紹介を受けて多重債務者の債務整理をしているが,一緒にやらないかという趣旨で勧誘したものであって,紹介料を支払う必要があることも話した旨供述し,また,被告人はひたすら乗り気であって,非弁提携について疑義を唱えることはなかった旨供述している。さらに,Kは,A事務所を訪ねて話し合ったことについては何ら言及していない。 被告人自身が供述するとおり,非弁提携については,当時から,弁護士会でも問題にされており,弁護士である以上,紹介料を支払って債務整理案件を受任すれば弁護士法に違反する非弁提携になることについて十分な認識を有していた時期であり,また,Kが供述するとおり,Kとしては,非弁提携に加担し債務整理案件を受任する弁護士が被告人でなくてもよかったのであるから,Kが被告人を勧誘するに当たって,D又はクレサラセンターから紹介を受けることが違法行為ではないという直ちに見透かされるような虚言を弄したとは考え難い上,このような状況にあって,違法ではないというKの説明をそのまま鵜呑みにしたとする被告人の供述は不合理である。さらに,話を持ちかけたK自身がかえって告発される危険性をも考慮すれば,勧誘した相手方が多少なりとも疑義を表明したのに,あえて懇願したというのは不自然というほかない。 不合理である。さらに,話を持ちかけたK自身がかえって告発される危険性をも考慮すれば,勧誘した相手方が多少なりとも疑義を表明したのに,あえて懇願したというのは不自然というほかない。 そうすると,Kからの勧誘の内容に関する被告人供述は,信用し得るものではないというべきである。 イ D及びMとの打合せ被告人は,①Kに承諾の返事をした1,2日後,KがM及びDを連れてA事務所を訪れ,話合いが持たれたが,その際,Dへの紹介料の支払の話も,Dから月々50万円を取ってほしいという話も出なかった。②その後間もなくして,M,D及び被告人の3人で丁において会食をした際にも,債務整理に関する話は出なかった。Dとは受任している民事事件の依頼者と代理人という関係にあったが,Mが会食に同席した理由は分からないなどと供述している。 しかし,A事務所で話合いがあったことについては,被告人1人だけが供述するものであって,他の関係者は何も言及していない。丁での会食については,そこで話された内容は,上記1(5)のとおりであり,被告人の供述は,D及びMの各供述と矛盾している。また,この会食に出席したDもMも,Mと被告人とはこの時が初対面であった旨供述しているところ,被告人は,第3回及び第4回公判期日において,丁での会食の前のA事務所での話合いの場で初めてMに会い,丁での会食がMに会った2回目であり,弁護士でもないMとKの引き合わせもなしに初対面で会食を共にするはずがない旨供述しているのに対し,第11回公判期日においては,丁での会食がMとの初対面であり,初対面のMがK事務所の職員であると名乗ったが,K事務所の職員は女の子1人と思っていたので,こういう人もいるかと思った旨供述しており,明らかに変遷が認められる。しかも 丁での会食がMとの初対面であり,初対面のMがK事務所の職員であると名乗ったが,K事務所の職員は女の子1人と思っていたので,こういう人もいるかと思った旨供述しており,明らかに変遷が認められる。しかも,被告人は,いずれも具体的な根拠を示しながら供述しているのであって,単なる勘違いや言い間違いとは考え難い上,供述の変遷の理由について合理的な説明をしていない。 そうすると,D及びMとの打合せに関する被告人の供述は信用することができない。 ウ A事務所分室の事務職員に関する事情被告人は,①B,C,Nらは,Mの指示に従うK事務所の職員であって,被告人が雇った職員ではなかった。ある日突然連れられてきて挨拶されたことはあるが,給料や待遇等については一切話したことがなかった。②A事務所分室の名義をKに貸したけれども,Kの分室に対する管理状況に不安を感じたため,空室となった甲ビルf階への移動を提案した。そのような提案をしたのは,被告人とKは,当時,債務整理以外の案件で打合せをすることが多く,A事務所分室が本室の上の階になれば,打合せに本室を使い,Kが分室に行く機会が増えるであろうという考えからで,実際,Kは,事件の打合せでA事務所本室に来た時には,1時間程度分室を見に行っているようであった。③U弁護士から,弁護士法27条に抵触する可能性があると指摘した配達証明付き郵便が来たのに対し,Kに相談した上で返答をした。回答書に「Bは、当職の事務職員として、当職の事務手続を代行しただけです。」と書いたが,これは,Kの指示により虚偽の記載をしたものである。④債務整理業務の実態に気づき始めたのは,最初の受任から1か月以内の平成8年8月末ころであり,Bが被告人のもとへ報告に来た際,持参した依頼者ファイルに暗号めいたアルファ 虚偽の記載をしたものである。④債務整理業務の実態に気づき始めたのは,最初の受任から1か月以内の平成8年8月末ころであり,Bが被告人のもとへ報告に来た際,持参した依頼者ファイルに暗号めいたアルファベットの記載があり,Bからはクレサラセンターがどのようなルートで受任したかを示す記号であるという曖昧な説明しかなかったため,純粋なボランティア団体からの紹介という点に疑問を感じた。しかし,Kとの合意内容は,分室を名義ごとKに貸すというものにすぎず,Kに対して忠告すべき筋合いにはないと思い,また,責任を持つと言っているKに対し,後輩の立場として確証もなしに指摘することはできなかった。⑤Bらが債務者からの預り金を使い込んでいることが発覚したため,知人の刑事に捜査してほしいと思い,告訴状の案を作成した。 正確には,Kが多重債務者から預かっている金をBらが使い込んだのであるが,その金は被告人名義の預金口座にあるもので,被告人自身も被害を受ける可能性を感じ,Kの告訴意思を確認せずに告訴しようとした。告訴状にA事務所の事務職員が横領した旨書いたのは,表現が難しく,分かりやすい内容とするためであって,結果的には,記載内容が真実と異なるために告訴するには至らなかったなどと供述し,結局,分室における債務整理案件の処理は,実際にはKからMを通じて指示を受けていた分室職員によって被告人の関与なしに行われていたことを強調している。 確かに,B及びNは,KとMの指示でA事務所分室に移籍した者であり,その他の分室職員も,BやMの主導によって採用された者であって,被告人は,事後的に紹介を受けるにとどまっていたと認められること,各職員の給料や待遇についても,被告人が関与して決定した様子が窺われないことなど,通常の雇い主と従業員との関係に比べて奇異に見える点 被告人は,事後的に紹介を受けるにとどまっていたと認められること,各職員の給料や待遇についても,被告人が関与して決定した様子が窺われないことなど,通常の雇い主と従業員との関係に比べて奇異に見える点があることは否定し難い。 しかし,上記1(3)ないし(5)のとおり,被告人を含む関係者の間で,A事務所においてもK事務所と同じ形態で債務整理を行うことや,A事務所が債務整理に従事する職員を確保するに当たってはK事務所の支援を受けることなどが合意されていた事実を前提にすれば,上記の点も,BらがA事務所の職員であることと矛盾するわけではない。むしろ,BらがA事務所の職員でないと供述することは,被告人自身が作成したU弁護士に対する回答書や告訴状の案の記載に反している上,そのように記載した理由に関する③⑤の被告人の説明は,説得力のあるものではない。また,被告人が数回にわたりA事務所の懇親会を開催して親睦を図っていたこと,被告人が分室の甲ビルへの移転を提案したこと(移転の理由に関する②の被告人の説明は,それ自体不自然であって,信用することができない。),分室の経費の使い込みについて,Kの了承を得ずに被告人の独断で,告発ではなく告訴の準備をしたことなどの事実は,被告人がBらを雇用していると考えており,同人らの活動を監督する意図を有していたことを指し示す行動である。 被告人が分室の債務整理の実態に気づいた経緯やその後の対応に関する④の被告人の供述については,知人である警察官を動員して分室を閉鎖し,告訴の準備等を速やかに行った被告人が,Kには遠慮し,忠告すべき筋合いにないなどと思って控え目な態度をとったというのは不自然である。 そうすると,分室における債務整理案件の処理は被告人の関与なしに行われていたという被 ,Kには遠慮し,忠告すべき筋合いにないなどと思って控え目な態度をとったというのは不自然である。 そうすると,分室における債務整理案件の処理は被告人の関与なしに行われていたという被告人の供述は信用することができない。 (2) 被告人の供述は,全体を通じて具体的,詳細であって,被告人の訟廷日誌の記載とも矛盾していないが,以上のとおり,その内容において不自然,不合理である上,信用性の高い共犯者及び関係者の各供述から導かれる一連の事実経過と明らかに矛盾する。 したがって,判示第1の事実に関する被告人の供述のうち,共犯者及び関係者の各供述から認定できる一連の事実経過に反する部分については,信用性がなく,上記のような被告人の供述が存在するからといって,上記1の各事実の認定を妨げるものではない。 4 被告人の主張の検討被告人は,①被告人自身が債務者と面談して委任契約を締結したわけではないから,被告人と債務者との間で委任契約の法律効果は発生せず,被告人は委任契約の当事者ではなかったこと,②被告人は月々一定額の金を受け取っていたにすぎず,分室の金銭管理はMがNを指示して行っており,分室の経費が不足した場合に,K事務所から資金を借りて賄うなどしていたこと,③Bらが業務上横領をしたのは,主導権が弁護士でない者にあって,実態が名義貸しであったことを示していることなどを指摘し,被告人が事件の周旋を受けたことにはならず,Kに対する名義貸しをしたにすぎないと主張する。 しかし,①については,上記1(9)(10)のとおり,被告人が父親を介して予めその職印を押した契約書と委任状をBらに渡し,債務者から受任する際に使用させていたこと,日々の業務処理は分室職員に委ねつつも,状況報告等を定期的に行わせ,問題が生じ とおり,被告人が父親を介して予めその職印を押した契約書と委任状をBらに渡し,債務者から受任する際に使用させていたこと,日々の業務処理は分室職員に委ねつつも,状況報告等を定期的に行わせ,問題が生じた場合には被告人の判断を仰ぐように指示していたこと,和解,調停等弁護士資格が必要な場合には被告人自らが対応していたことなどが認められるのであって,これらの事実に照らせば,上記のような根拠で受任の事実を否定する被告人の主張が採用できないことは明らかである。加えて,被告人の主張は,勾留理由開示の際に,被告人の当時の弁護人がKからの任意整理事件の紹介であったという主張を展開し,それに対して被告人が何の異議も差し挟んでいないことと矛盾する。また,このように主張を変えた理由について,被告人は,身柄拘束状態において正しい判断ができなかった上に接見が十分でなかったなどという説明をしているが,被告人が法曹としての資格及び経験を有し,自己の考えを法律的に正確に主張し得る能力を備えた者であり,かつ,勾留理由開示の手続が被告人から請求したものであることをも併せ考えると,納得できる説明とはいい難い。そうすると,被告人自身が委任契約の当事者として周旋を受けたことは否定し得ないというべきである。 ②については,分室で行っていた債務整理業務に関する報酬として,被告人が一定額の金しか受け取っていなかったことは,名義貸しを推認させる方向に働き得るとしても,このような方法をとったのは,上記1(11)のとおり,債務整理業務の特殊性に基づくものであって,それなりに合理的と考えられる上,現に,K自身の債務整理業務に関する報酬も,同様の理由から一定額とされていたことをも併せ考慮すれば,このことのみをもって名義貸しにすぎないということはできない。確かに,分室における会計処理は る上,現に,K自身の債務整理業務に関する報酬も,同様の理由から一定額とされていたことをも併せ考慮すれば,このことのみをもって名義貸しにすぎないということはできない。確かに,分室における会計処理は,Nら分室職員によって,被告人自身やA事務所本室の会計からは相当程度独立した形で行われていたこと,分室立ち上げに要する費用等を一時的にK事務所から借りるなど,分室の会計がK事務所と近い関係を有していたことが窺われることに加え,分室職員の給料や交際費等も専ら分室の会計から支出されており,このような支出をするについて,被告人の承認が求められた形跡もないことなどに照らすと,分室の会計が全面的に被告人の管理のもとにあったとはいい難い。しかし,分室で使用していた2つの銀行口座がいずれも被告人自身の開設した被告人名義のものであり,現に,分室を閉鎖した際,被告人が通帳等を分室から取り戻したことなどに照らせば,少なくとも,被告人が分室の会計を管理し得る地位にあったことは明らかである。そうすると,被告人の指摘する②の点は,被告人が周旋を受けたという認定を覆すに足りる根拠となるものではない。 ③については,主導権の主体が誰であるかによって非弁提携の犯行の成否が決まるという立論は,被告人独自の見解にすぎず,承伏し難い上,一般に,紹介業者から周旋を受ける非弁提携は,主導権が弁護士でない者にあることも多く見られるのであるから,この点を判断基準とすることは相当でない。そうすると,BらがA事務所分室の経費を流用したことが窺われるものの,この点は犯罪の成否に影響を及ぼすものではない。 5 まとめ上記1の各事実によれば,被告人は,Kと同様に,クレサラセンターを営むD及びその部下のEから並びに同人らを介して紹介業者から,多重債務者の紹介を受け,その債務整 ではない。 5 まとめ上記1の各事実によれば,被告人は,Kと同様に,クレサラセンターを営むD及びその部下のEから並びに同人らを介して紹介業者から,多重債務者の紹介を受け,その債務整理案件を受任していたと認められるのであって,被告人は,これらの者から事件の周旋を受けていたということができる。そして,被告人には,K事務所と同様の形態という意味で,その事務処理の詳細についてはともかくも,その犯行の基本的構造について包括的な犯意があったと認められる。 被告人は,紹介業者と面識がないことや,紹介料の率の認識がないことを理由に周旋・受周旋の関係は成立し得ないと主張するが,上記のような包括的な犯意がある以上,たとえ紹介業者の顔ぶれやその紹介料の率等詳細について被告人に認識がなかったとしても,実際にK事務所と同様の運用が行われている本件においては,事件の周旋を受けたということができる。 その他被告人が主張するところを考慮しても,判示第1の犯行の成立に疑念を差し挟む余地はない。 第3 判示第2の事実について 1 認定事実関係証拠によれば,以下の各事実を認めることができる。 (1) 被告人とJとの話し合いJは,法律事務所職員として稼働するなどした後,J総合事務所を開設して調査興信及び経営コンサルタント業を始め,弁護士の下請けの仕事を引き受けるなどしていたところ,業務拡大の一方策として,弁護士会会員名簿の中から独立後間もないと思われる弁護士に仕事の下請けをする旨のファックスを送るなどしていた。平成10年2月20日,被告人がこのファックスに興味を示してJと連絡を取ったことから,同年2月25日,Jは,A事務所を訪れて,被告人と面識を持ち,出身大学が同じこともあって意気投合し,その日の夜,東京都 10年2月20日,被告人がこのファックスに興味を示してJと連絡を取ったことから,同年2月25日,Jは,A事務所を訪れて,被告人と面識を持ち,出身大学が同じこともあって意気投合し,その日の夜,東京都港区a所在の「庚」において,会食の機会を持った。その際,Jは,被告人に対し,そのころ住宅や自動車のローン等で約4000万円余の借金があり,月々の返済,生活費,事務所の運営費等を総合すると,月約100万円以上を必要とする状況にあったため,仕事がないときには苦労しているなどと話をしたところ,被告人は「それならまかしとけ。おまえの面倒くらいは見てやるよ。俺の側にいれば儲けさせてやるよ。」などと言ったため,Jは,J総合事務所を運営できる程度の月100万円くらいの利益が上がる仕事をもらえるものと理解した。その際又はその後同年3月上旬ころまでの間に2人が何度か顔を合わせた際,被告人は,Jに対し,かつて法律事務所の分室を作って債務整理を専門に行っていたが,使途不明金等につき職員を問いつめて追い出したこと,債務整理業務は事務所を維持するための方策として気に入っているが,この仕事が減ってしまい,弁護士が宣伝をするわけにも紹介業者と組むわけにもいかず,困っていることなどを打ち明けるとともに,債務額を利息制限法に引き直して計算することなど債務整理の具体的な内容についても説明した。この話を受けて,Jは,債務者を集める方法が何か考えられないか調べてみる旨の返事をした。 (2) 四つ葉のクローバーの会の構想平成10年3月上旬ころ,Jは,被告人に協力するため,多重債務者を集める手段として,クレジット会社やサラ金から債務者を救うという名目で「四つ葉のクローバーの会」と称する団体を設立することを考え,知人にその名称を用いて債務者を集める手伝いをするこ め,多重債務者を集める手段として,クレジット会社やサラ金から債務者を救うという名目で「四つ葉のクローバーの会」と称する団体を設立することを考え,知人にその名称を用いて債務者を集める手伝いをすることを依頼した。 Jは,遅くとも同年3月中旬ころから下旬ころまでには,被告人に四つ葉のクローバーの会の構想を説明し,計画案を作るなどし,2人で弁護士法違反になるかどうかを検討するなどした。そのころ,被告人がJに200万円を渡す話が出ており(後記(3)参照),Jが「先生、この二〇〇万円は債務者を集める経費に使うことができますよ。」「『四つ葉のクローバーの会』をやってどんどん客を集めますから。」などと言うと,被告人が「わかった。じゃあ、僕の方も調査依頼を出すから。」などと答えた。また,Jは四つ葉のクローバーの会のチラシを作成して被告人に見せるなどし,その名称で債務者集めを手伝ってくれる者がいること,手伝った者に対しては,紹介のあった債務者1人当たり5万円の報酬をJが出すつもりであることなども話した。 (3) 200万円の交付と調査報告書の作成Jが未だ被告人のために具体的に動いていない時期であった平成10年3月中旬から下旬ころ,被告人は,Jに対し,「今年の一月分からの分ということで二〇〇万円渡しますよ。」などと言い,さらに,「儲けさせてあげるにしても、こっちでも経費にならないともったいない。だから、J総合事務所に、既にA法律事務所で扱っている債務者の身上調査を頼んだ形にするから、一月に遡って、その分についての調査報告書を作って出して下さい。一件について一〇万円出すけど、一件一〇万円でやっていると税務署から変に思われるかもしれないから、帳簿上は一件五万円として計上しておくので、倍の調査報告書を作成して下さい。」などと って出して下さい。一件について一〇万円出すけど、一件一〇万円でやっていると税務署から変に思われるかもしれないから、帳簿上は一件五万円として計上しておくので、倍の調査報告書を作成して下さい。」などと言って,税務署対策のために,200万円に相当する40件分の名目だけの調査報告書を作成するように指示をした。 そして,同年3月27日,A事務所からJのもとに20件分の債務者の身上調査依頼のファックスが送信され,また,同日午後2時ころ,JがA事務所を訪ねた際,被告人がJに現金200万円を手渡し,これに対してJが1月から3月までの分の40件の調査報酬料として領収証を作成した。その後,Jは,上記調査依頼に対応する調査報告書を作成したが,これらは,実際の調査に基づかない形だけのものであった。 (4) 500万円の貸付け平成11年1月13日ころ,Jの依頼に応じて,被告人がJに対し,調査報酬とは別に500万円を貸し付けたが,貸付け当初は借用書が作成されず,同年11月ころ,Jが日付を遡らせて借用書を作成した。 この500万円については,返済の期限を定めておらず,Jの認識としては,可能であれば返済するという程度のものであり,場合によっては返済に代えて多重債務者50人を紹介することでも足りると考えていた。 (5) 多重債務者紹介の仕組みJは,平成10年4月から被告人に多重債務者の紹介を始めたが,その仕組みは,Jがサラ金やカードローンの多重債務者に無料で相談に乗る旨記載した四つ葉のクローバーの会のチラシを作成し,これを配布して直接多重債務者を集め,あるいは知人に声をかけ,四つ葉のクローバーの会の名称で多重債務者を集めるのを手伝ってもらうなどして,Jが被告人に多重債務者を紹介し,被告人が債 のチラシを作成し,これを配布して直接多重債務者を集め,あるいは知人に声をかけ,四つ葉のクローバーの会の名称で多重債務者を集めるのを手伝ってもらうなどして,Jが被告人に多重債務者を紹介し,被告人が債務整理を受任した場合に,Jに対し調査依頼を出し,Jが紹介した多重債務者の2倍の数の架空の調査報告書を提出し,その対価として,紹介した多重債務者1人当たり10万円の調査報酬を被告人から受け取るというものであった。また,Jが知人から紹介された債務者を被告人に紹介したときには,Jが被告人から受け取る報酬の中から債務者1人当たり5万円を紹介者に支払っていた。 (6) 判示第2の犯行判示第2の多重債務者である依頼者(別紙一覧表(2))に関する受任状況は,以下のとおりである。 ア V2Jの知人の義理の兄であったV2は,平成10年4月6日,Jの紹介により,A事務所で被告人と面談して委任契約を締結した。V2の当時の債務状態としては,第一勧銀カード株式会社ほか13の会社又は団体に対し残債務総額約1056万3222円であった。 被告人は,同年4月9日付けのファックスでJに調査を依頼し,Jが調査報告書を作成した。そして,Jは,V2を含めた3人及び架空人の紹介料の請求として,平成9年4月20日付け(平成10年4月20日付けの誤記)の請求書を提出し,平成10年4月27日,A事務所からJ総合事務所の口座に30万円が振り込まれた。 イ V12四つ葉のクローバーの会のチラシを見てJに連絡をとってきたV12は,平成10年6月9日,Jの紹介により,A事務所で被告人と面談して委任契約を締結した。V12の当時の債務状態としては,株式会社レイクほか5社に対し残債務総額約216万8532円であっ てきたV12は,平成10年6月9日,Jの紹介により,A事務所で被告人と面談して委任契約を締結した。V12の当時の債務状態としては,株式会社レイクほか5社に対し残債務総額約216万8532円であった。 被告人は,同年6月23日付けのファックスでJに調査を依頼し,Jが調査報告書を作成した。 ウ V13V12の紹介を受けたV13は,V12がJの指示に従い被告人と直接連絡をとって日程調整をした後の平成10年6月23日,A事務所を訪ね,被告人と面談して委任契約を締結した。V13の当時の債務状態としては,三和ファイナンス株式会社ほか3社に対し残債務総額約354万927円であった。 被告人は,同年6月23日付けのファックスでJに調査を依頼し,Jが調査報告書を作成した。そして,Jは,V12及びV13を含めた6人及び架空人の紹介料の請求として,平成9年6月24日付け(平成10年6月24日付けの誤記)の請求書を提出し,平成10年6月25日,A事務所からJ総合事務所の口座に60万円が振り込まれた。 エ V14知人を介してJに連絡をとってきたV14は,平成10年11月5日,Jの紹介により,A事務所で被告人と面談して委任契約を締結した。V14の当時の債務状態としては,三和ファイナンス株式会社ほか9社に対し残債務総額約334万2540円であった。 被告人は,同年11月10日付けのファックスでJに調査を依頼し,Jが調査報告書を作成した。そして,Jは,V14を含めた2人及び架空人の紹介料の請求として,同年11月11日付けの請求書を提出し,同年11月13日,A事務所からJ総合事務所の口座に20万円が振り込まれた。 オ V15V14の紹介を受けた 空人の紹介料の請求として,同年11月11日付けの請求書を提出し,同年11月13日,A事務所からJ総合事務所の口座に20万円が振り込まれた。 オ V15V14の紹介を受けたV15は,Jが被告人の予定を確認した後,平成10年12月19日,A事務所で被告人と面談して委任契約を締結した。V15の当時の債務状態としては,リッチ株式会社ほか3社に対し残債務総額約139万7548円であった。 被告人は,同年12月25日付けのファックスでJに調査を依頼し,Jが調査報告書を作成した。そして,Jは,V15を含めた3人及び架空人の紹介料の請求として,平成11年1月6日付けの請求書を提出し,同年1月11日,A事務所からJ総合事務所の口座に30万円が振り込まれた。 これらの5件以外にも,Jは,被告人に合計51人の多重債務者を紹介し,被告人は,上記第3の1(3)の200万円及び第3の1(4)の500万円のほかに,紹介料としてJ総合事務所の口座に合計480万円を振り込んだ。 2 Jの供述の信用性第3の1の各事実を支える主要な証拠として,Jの捜査段階及び公判段階における各供述がある。 Jの供述は,被告人と知り合い,被告人が自分に利益をもたらしてくれる者と感じて関係を深めていった経緯,多重債務者を募集する方法について被告人と相談し,募集及び事務処理の仕組みを作っていった経緯,多重債務者の紹介及び債務整理業務の運営の状況,その後警察の捜査が迫ってきた状況等について,その時々の自己の心情を交えて供述しており,具体的,詳細であって迫真性に富むものである。また,Jの供述は,その主要部分においては,捜査段階及び公判段階を通じて一貫しており,公判段階において弁護人及び被告人から詳細な尋問を受けても崩れ おり,具体的,詳細であって迫真性に富むものである。また,Jの供述は,その主要部分においては,捜査段階及び公判段階を通じて一貫しており,公判段階において弁護人及び被告人から詳細な尋問を受けても崩れていない。 さらに,V2ら多重債務者及びJを通じて被告人に多重債務者を紹介したXら関係者は,それぞれが経験し認識したところを具体的,詳細に供述し,これらの供述は,Jの手帳,被告人の訟廷日誌その他各債務整理調査票,各調査依頼書,各調査報告書等の関係書類等から認定できる債務整理案件の受任状況及び事務処理状況によっても裏付けられている上,それぞれが供述する部分は,相互に符合し,一連の流れとして矛盾しないところ,運営状況に関するJの供述は,これら関係者の供述とも合致し,上記関係書類等から認定できる債務整理案件の受任状況及び事務処理状況によっても裏付けられているなど,その内容の正確性が担保されている。 ところで,Jは,上記第3の1(4)の500万円の借用書の作成時期及びその経緯について,捜査段階においては,借り受けた際に借用書を作成したと供述しているのに対し,公判段階においては,借り受けた当時は作成せず,その後J総合事務所が捜索される直前になって被告人と示し合わせて作成し,原本を被告人の当時の弁護人に郵送した旨供述を変遷させている。しかし,Jは,J総合事務所を建て直すためにこの金が必要と感じたことや,返済できなかったとしても債務者を50人紹介することで足りると感じていたことなどの本質部分については,捜査段階及び公判段階を通じて一貫した供述をしている上,変遷の理由として,捜査段階当時はこのことが自分及び被告人にとって不利益な事項であると感じ,被告人をかばい,自己保身を図るつもりもあったと述べるところも,あながち不自然なものではない。 いる上,変遷の理由として,捜査段階当時はこのことが自分及び被告人にとって不利益な事項であると感じ,被告人をかばい,自己保身を図るつもりもあったと述べるところも,あながち不自然なものではない。 また,Jは,調査料について,犯行当時に紹介料という認識がなかったかのような供述をしているが,紹介の対価を受け取れば弁護士法違反になるという知識は当初から有しており,J自身が公判段階において供述するとおり,そのために調査委託料の「衣をかぶった紹介料」という方策がとられたのであるし,実際にJが実質的な調査をしていなかったことに照らしても,Jが当時から紹介の対価として金を受け取っているという事実を十分認識しながら,単に法的理解の点で独善的な解釈をし,又は供述する際に法律評価を誤ったにすぎないのであるから,これらの供述をとらえ,曖昧さや変遷があるとしてJの供述の信用性を否定することはできない。 以上に加え,Jが自己の刑責に関わる部分についても積極的に供述しており,記憶にある事柄とない事柄とを区別して供述するなど,供述態度が真摯であることに照らしても,Jの捜査段階における供述のうち,公判段階における供述と符合する部分については信用することができる。 3 被告人の供述の信用性一方,被告人は,公判段階に至り,Jから,被告人が現に債務整理中の依頼者と面談していないことを弁護士会に報告する旨の脅迫を受け,口止め料を要求されていたこと,当初Jに支払ったのは200万円ではなく400万円であること,後に支払った500万円についてもJから恐喝されて渡したものであることなどを供述し,被告人のJに対する金の支払は,多重債務者の紹介を受けた対価ではないと供述している。 しかし,400万円の支払や,Jから恐喝されたことについては,被告人 て渡したものであることなどを供述し,被告人のJに対する金の支払は,多重債務者の紹介を受けた対価ではないと供述している。 しかし,400万円の支払や,Jから恐喝されたことについては,被告人が一方的に供述するものであって,これを裏付ける証拠が存在しない(被告人の訟廷日誌(弁20)及び司法警察員作成の粗利解明捜査報告書(甲83)の平成10年3月27日の欄の記載は,裏付け証拠とはいい難い。)上,上記のとおり信用性の高いJの供述と明らかに矛盾する。また,Jから恐喝されたという被告人の供述は,恐喝の態様や脅迫の文言について曖昧なものにとどまり,具体性に欠ける。さらに,被告人は,上記第2の1(12)のとおり,A事務所分室の経費について使い込みの疑いを抱くと,知人の警察官を連れて分室に行き,分室の経理に関して苦情を言い,告訴の準備をしたほどであるから,被告人がJの脅迫に応じて数百万円を提供し,そのままJの刑事責任を追及する態度を示さなかったというのは不自然といわざるを得ない。この点について,被告人は,依頼者と面談しないことは弁護士として非行に当たり,弁護士会の懲戒手続が開始されれば業務停止等の厳しい懲戒処分を受けることが必至であったので,そのような事態を避けるためにJの要求に従うしかなかった旨供述するが,平成9年9月に,多重債務者の代理人となったU弁護士から弁護士法違反の可能性があるという指摘を受けた際には,「許し難い誹謗・中傷」であってU弁護士に謝罪を求める旨の回答をするなど強硬な態度をとった被告人が,全くの部外者で,弁護士でもないJから債務者と面談していないことを指摘されるや,要求されるままに大金を支払ったというのは,納得し難い。加えて,被告人は,勾留質問も含め捜査段階において,本件に関して何ら供述せず,自ら要求した勾留理由開示手続に 面談していないことを指摘されるや,要求されるままに大金を支払ったというのは,納得し難い。加えて,被告人は,勾留質問も含め捜査段階において,本件に関して何ら供述せず,自ら要求した勾留理由開示手続において自己の意見を主張する機会を持ちながら,Jの恐喝行為について一切言及することなく,むしろ,Jとの先輩後輩の友誼から貸したものである旨主張している。このように,自己を弁護し得る法律的知識及び能力を持ち,権利意識に富んだ被告人が,Jの行為についてその違法性を主張する機会を有し,自ら要求してその機会を設けながら,それをせず,公判段階に至って,突如上記のとおりの供述を始めた経緯は不可解というほかない。以上からすると,被告人の供述は不自然,不合理なものといわざるを得ない。 そして,上記第3の1のとおりのJの被告人に対する多重債務者の紹介状況並びに被告人からJへの調査委託及び金の支払状況を併せ考えれば,多重債務者の紹介を受けて対価を支払う仕組みが作られていたものとみるのが自然であり,少なくとも別紙一覧表(2)の依頼者については,紹介人数に対して1人10万円の割合の調査費名目の金がJの口座に入金されていたことが認められる。 もっとも,被告人の主張するとおり,1人当たり10万円か否かについてその紹介人数と支払金額との関連が必ずしも明らかでない部分もあり,被告人が指摘する司法警察員作成の受任者数等解明捜査報告書(甲79)には,Jが紹介したことの明らかなWについて紹介業者が不明と記載されており,Jが紹介した人数の把握について不十分な点を残すものである。しかし,この証拠があるからといって紹介を受けたことの対価ではないと断定することは妥当ではなく,そもそも,税務署対策等のため,架空人の紹介及び架空人に関する調査報告書も作成して提出する仕組みに る。しかし,この証拠があるからといって紹介を受けたことの対価ではないと断定することは妥当ではなく,そもそも,税務署対策等のため,架空人の紹介及び架空人に関する調査報告書も作成して提出する仕組みになっていたことや,当初多重債務者の紹介を受ける以前に,被告人から200万円の運転資金的な金がJに渡されていた経緯等からしても,紹介人数に対する紹介料の算定が厳密になされていたものであるのか疑問であるし,また,厳密になされていることまでが対価性の認定において必要とされるものでもない。 したがって,その算定が厳密かどうかはともかくも,Jを介して多重債務者の紹介を受けたことの対価として紹介料の意味合いの金が支払われていたことは,これを否定することができない。 その他,被告人が供述するところを検討してみても,いずれも証拠に基づかない独自の立論にすぎないものであって,上記認定に影響を与えるものではない。 第4 弁護士法72条が違憲であるという主張について 1 法令違憲の主張被告人は,弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」及び「その他の法律事務」の概念が曖昧,不明確であって,処罰の範囲を確定できないことから,同条は憲法31条に反すると主張する。 しかし,弁護士法72条の趣旨は,弁護士の資格がなく,その職務を誠実,適正に遂行するための規律にも服さない者が自らの利益のために業としてみだりに他人の法律事件に介入することを放置すれば,当事者その他関係者らの利益を損ね,法律生活の円滑公正な営みを妨げ,ひいては法律秩序を害することになるという理念の下に,これを禁圧することにある。そして,同法72条は,弁護士でない者の活動一切を禁止しようとする立法目的に立って,「一般の法律事件」「法律事務」という包括的表現を採用しているのであ るという理念の下に,これを禁圧することにある。そして,同法72条は,弁護士でない者の活動一切を禁止しようとする立法目的に立って,「一般の法律事件」「法律事務」という包括的表現を採用しているのである。 「法律事件」の解釈については,法律上の権利義務に関し争いや疑義があり,又は新たな権利義務関係の発生する案件をいい,「その他の法律事務」とは法律事件について法律上の効果を発生し変更する事項の処理のみならず,法律上の効果を保全し明確化する事項の処理も含むと解されており,上記の立法趣旨をも併せ考えれば,紹介業者が紹介料の支払を対価に多重債務者の債務整理案件を弁護士に紹介する行為が同法72条の適用を受けることについては,通常の判断能力を有する一般人の理解をもって十分判断可能なものであり,犯罪構成要件が不明確ということはできず,被告人の主張は理由がない。 2 適用違憲の主張被告人は,弁護士が弁護士法により処罰されるのは,弁護士自治が機能しない場合,すなわち,弁護士会が刑事告発をしている場合に限られるべきであるという限定解釈を主張し,本件犯行に弁護士法27条を適用するのは適用違憲であると主張している。 しかし,弁護士法27条の趣旨は,同法72条に違反する行為を直接,間接に助長する弁護士の行為を禁止して,同条の違反行為を防止しようとすることにあり,弁護士制度の維持,確立にとどまらず,国民の法律生活の面をも考慮し,弁護士制度を包含した法律秩序全般を維持し確立することにある。そうであるからこそ,同法27条違反の罪が弁護士会の告発等を要件とする親告罪とはされていないのであり,被告人が主張するような弁護士自治の維持,確立のみを主眼とする解釈は適切なものということはできないから,被告人の主張は理由がない。その他,被告人に対する関 要件とする親告罪とはされていないのであり,被告人が主張するような弁護士自治の維持,確立のみを主眼とする解釈は適切なものということはできないから,被告人の主張は理由がない。その他,被告人に対する関係で同法27条の適用が憲法31条に違反すると判断すべき事情は存しない。 第5 その余の被告人の主張についてその他,被告人が縷々主張するところを仔細に検討しても,本件の帰趨は既にして明らかであり,これらの主張は上記認定を覆すに足りるものではない。 (法令の適用)省略(量刑の理由)本件は,弁護士であった被告人が,自己の法律事務所の職員と共謀し(判示第1の事実)又は単独で(判示第2の事実),弁護士でなく報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務の周旋を業としていた者から,貸金業者等を相手に多重債務者を代理してその債務整理等を行う事件を紹介されて受任し,もって,事件の周旋を受けたという事案である。 被告人は,捜査段階において本件犯行に関する供述をせず,公判段階においても争っていることから,つまびらかでない点はあるものの,犯行当時,それ以前の法律事務所の運営に関する債務を抱えていた上,収入が望むほどにははかばかしくなかったことから,安定した高収入を得るため,紹介料を対価に紹介業者らから多重債務者の債務整理案件を紹介されて受任することを始めたものであり,その動機に酌量の余地はない。 判示第1の犯行について見ると,犯行態様は,複数の紹介業者がクレサラセンターに多重債務者を紹介し,次いでクレサラセンターが被告人に周旋するという仕組みの大規模で組織的なものである。被告人は,受任の際に多重債務者とほとんど面談しないなど債務整理案件の処理の大部分を職員に任せきりにしながら,相応の弁護士費用を徴収していたのであって,利欲的で無責任な態様は非難されるべ ものである。被告人は,受任の際に多重債務者とほとんど面談しないなど債務整理案件の処理の大部分を職員に任せきりにしながら,相応の弁護士費用を徴収していたのであって,利欲的で無責任な態様は非難されるべきであり,依頼者の被った不利益も無視することができない。また,被告人は,多重債務者の代理人から弁護士法違反の可能性があるという指摘を受けたり,債権者から問い合わせを受けるなどして,何度となく犯行を止める機会を持ちながら,長期にわたって多重債務者の紹介を受け続け,その一環として判示第1の犯行を繰り返していたのであり,悪質である。 判示第2の犯行について見ると,法律事務所分室の職員らの経費流用を契機に判示第1の犯行を止めた後も,新たな収入の道を求めて知人を誘い込み,再び弁護士でない者から多重債務者の紹介を受け始め,しかも,巧妙にも,紹介の対価性が明らかにならないように,多重債務者の調査委託に対する調査料という名目で紹介料を支払っていたのであって,犯情は悪質である。 被告人は,捜査段階及び公判段階を通じて,事実を認めることなく,むしろ,共犯者,関係者,捜査機関等周囲の者全てが被告人に悪意を抱き,自分がこれらの者によって陥れられた被害者であるかのような供述をし,独善的な判断に基づいて自己の行為を正当化しようとしており,真摯な態度が見受けられない。 加えて,被告人は,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の職にありながら,自己の利益のみを追求するあまり,弁護士でない者の違法な活動を助長し,国民の法律生活の円滑な営みを妨げ,弁護士に対する信用をも失墜させたのであって,その社会的影響も無視することができず,厳しい非難に値する。 以上によれば,被告人の刑事責任は重い。 しかし,一方で,判示第1の犯行については,多重債務者紹介の仕組みは法律事 墜させたのであって,その社会的影響も無視することができず,厳しい非難に値する。 以上によれば,被告人の刑事責任は重い。 しかし,一方で,判示第1の犯行については,多重債務者紹介の仕組みは法律事務所の職員らが主導的に作り上げたものであること,債務整理案件の処理に際しては,日本弁護士連合会が指導する債務整理の方式に従い,依頼者の債務額につき利息制限法所定の制限利率に基づいて処理していたこと,本件を契機に自ら弁護士登録を取り消し,再び法曹として活動する可能性は事実上消滅しており,相応の社会的制裁を受けていること,依頼者からの預り金を精算し,他の弁護士に事件を引き継ぐなど,本件発覚後の事後処理について誠実に取り組んでいること,被告人には前科前歴がないこと,新たな職に就き,真面目に働いている様子が窺えることなど,被告人のために斟酌すべき事情も認められる。 そこで,これらの事情を勘案し,被告人に対しては,懲役2年の刑を科した上,その刑の執行を猶予することとした。 (求刑懲役2年)平成14年1月23日東京地方裁判所刑事第5部裁判長裁判官山室惠 裁判官辻川靖夫 裁判官大内めぐみ
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