◆H16.7.29 大分地方裁判所民事第1部平成14(ワ)23 損害賠償請求事件 主文 1 被告は,原告らに対し,それぞれ1173万3348円及びこれに対する平成11年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,4232万2113円及びこれに対する平成11年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,4232万2113円及びこれに対する平成11年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,重度の障害児であった訴外Cが,被告の設置・管理する大分県立日出養護学校(以下「本件学校」という。)の教諭訴外Dから訪問教育指導を受けた際,無理な姿勢を強要され,大腿骨を骨折し,その結果死に至ったとして,Cの両親である原告らが,被告に対し,被告の被用者である公務員が,その職務を行うについて,過失によって違法に他人に損害を加えたものとして,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,Cの取得した損害賠償請求権の相続,及び固有の損害賠償請求権を根拠に,慰謝料,逸失利益等及びこれらに対する遅延損害金の賠償を求めている事案である。 1 争いのない事実等(証拠によって認定した事実は末尾に掲記した。)(1) 当事者等ア原告ら(ア) Cは,昭和62年11月9日生まれの男 対する遅延損害金の賠償を求めている事案である。 1 争いのない事実等(証拠によって認定した事実は末尾に掲記した。)(1) 当事者等ア原告ら(ア) Cは,昭和62年11月9日生まれの男児であるが,先天的に,脳性麻痺による四肢体幹機能障害を有する重度の障害児であった。同児は,平成6年4月,本件学校に入学し,教員の派遣がなされる訪問教育(学校教育法(以下「学教法」という。)72条,学教法施行規則73条の12第1項)を受けていた。 (イ) 原告A,同Bは,Cの父母であり,いずれもCの法定相続人である。 イ被告被告は,本件学校の設置・管理者であり,Cの死亡当時,Cの担任教師であったDを通じて,Cに対して教育を行っていた地方公共団体である。 (2) 本件の経緯ア Cは,前記障害により,痙性の運動麻痺と両側足関節の拘縮があり,生後基本的に寝たきりの状態にあった。平成2年ころには,1年程度別府整肢園(現在の医療発達センター)で動作訓練を受けたが,ストレスから円形脱毛を繰り返すようになり,中止した。 平成6年4月には本件学校に入学し,週2,3回,1回2時間程度の訪問教育を受けていたが,平成9年3月までは動作訓練はなされていなかった。(甲13,乙13,原告B本人)イ平成9年4月,Cは,4学年に進級し,Dが新しく担任となった。当時,Cは,首も定まっておらず,下肢(膝・腰・足首)が硬く,自ら両下肢を曲げることができず,背に側わんがあるため,うつぶせに寝かせるしかない状況にあった。 Dは,Cの姿勢を改善することが必要であると考え,2学期ころから座位姿勢保持の指導を訪問教育に組み込むこととした。Cの座る姿勢は,右膝が十分に曲がらないために,左膝を曲げて床につける形で折り畳み,その上に右膝を立てるというものであった。 平成1 期ころから座位姿勢保持の指導を訪問教育に組み込むこととした。Cの座る姿勢は,右膝が十分に曲がらないために,左膝を曲げて床につける形で折り畳み,その上に右膝を立てるというものであった。 平成10年12月21日に5学年2学期の最後の座位姿勢保持の訓練が行われたが,このころには,Cはある程度床に座れるようになっていた。 その後,約2週間の冬休みに入った。(乙7,証人D,原告B本人)ウ平成11年1月8日,Dは3学期最初の座位姿勢保持の指導をしようとしたところ,Cの姿勢が安定しなかったため,指導を中止した。同月13日にも同様に指導をしようとしたが,やはりCの姿勢が安定せず指導を中止した。(乙7,証人D,原告B本人)エ同月18日午前9時30分ころ,Dが原告ら宅を訪問し,Cに対し座位姿勢保持の指導を始めた(以下,この日の指導を「本件指導」という。)。本件指導の際,Cの足から骨が折れるような音がしたため,Cは,午前10時30分ころには,大分県速見郡a町所在の酒井整形外科病院(以下「酒井整形外科」という。)にてレントゲン検査を受け,右大腿骨骨折の診断が下され,ギプスをされた。 オ原告Bは,Cを連れて酒井整形外科から一度帰宅したが,同日午後8時30分ころ,Cの痛みが持続していたため,再度酒井整形外科に連れて行き,ギプスを締め直してもらおうとしたところ,Cの顔色が悪いことに気づいた。Cは同日午後11時30分ころには,救急車で大分医科大学(現大分大学医学部)附属病院(以下「大分医大」という。)に到着し,入院したが,同月19日午前5時50分に死亡した。(乙6の1,7,13,原告B本人)カ解剖の結果,Cの死因は肺の脂肪塞栓であると判断された(乙6の1)。 キ原告らは,日本体育・学校健康センター(以下「センター」という。)から,同年4月 た。(乙6の1,7,13,原告B本人)カ解剖の結果,Cの死因は肺の脂肪塞栓であると判断された(乙6の1)。 キ原告らは,日本体育・学校健康センター(以下「センター」という。)から,同年4月2日,災害共済給付金(死亡見舞金。以下,災害共済給付金を単に「災害給付金」という。)として2100万円の支給(以下「本件給付金」という。)を受けた。 また,原告らは,Dから100万円を,当時の本件学校校長から50万円を香典として受領した。 2 争点に関する当事者の主張本件の争点は,① 本件指導の態様(②の前提事実として),② Dの過失の有無,③ Dの過失とCの死亡との因果関係,④ 原告らの損害額(逸失利益は,別に項目を定める。),⑤ Cに逸失利益が認められるか否か,⑥ 過失相殺の適否,⑦ 損益相殺の適否である。 (1) 本件指導の態様(原告らの主張)Dは,「C君は嫌かもしれないけど,座る訓練にはあぐらが一番良いんだからね。」と,Cの左足の下に同児の右足を曲げて差し込み,それまで一度も訓練で取り入れたことのなかったあぐらの姿勢を強要した。 Cは,嫌がって上体を反らせ,表情をひきつらせ,泣きながら右足を抜いたが,Dは,さらにCの左足の下に右足を放り込むように2,3度入れ,あぐらの姿勢を強要し続けた。このとき,Cの前方にいた原告Bが,「すごく嫌そうな顔してる。鬼瓦みたいな顔よ。」と述べたのに,Dは訓練を中断することなくあぐらの強要を続けた。 Cが,わめきながら後ろに反り返ったので,DがCの背中を前に押し倒した瞬間,ぐきっと骨が折れるような音がした。 (被告の主張)Dは,Cを後ろから両手で介助して座らせようとしたが,なかなか安定しなかった。このため,Dは,いつものように,座位姿勢保持の前段階として,Cの腰部で上体を支え れるような音がした。 (被告の主張)Dは,Cを後ろから両手で介助して座らせようとしたが,なかなか安定しなかった。このため,Dは,いつものように,座位姿勢保持の前段階として,Cの腰部で上体を支えられるように縦方向への力の入れ方の指導を行うこととした。Dは,左手でCの胸を抱くように支えた上,右手でCの脇の部分を支え,Cが自ら上体を支えることができるよう援助をなした。 そして,Cの背を少し伸ばして,同児の体の右側を同児の腰の上に乗せ,Cの姿勢がどうなるかを見ようとして右手をゆるめた。その際,Dは,「グッ」という音がした気がして本件指導を中止した。 なお,Dは,Cに無理なあぐらを強要したり,右足を左足の内側に入れたりしたことはないし,Cの背後からそのような動作をすることは不可能である。 (2) Dの過失の有無(原告らの主張)ア Dは,本件学校の担任教師として,Cの身体安全に配慮しながら適切に指導教育する義務を負っており,事故などを未然に防止すべく注意する高度の注意義務が課せられていた。 イしかしながら,Dは,十分な医学的知識もなく,Cに対する座位保持訓練に対する医学的訓練・指導を受けることもなく,また勤務先学校ないし県教育委員会において座位保持訓練・指導も受けることなく,我流の指導方針によりCにとって無理なあぐらの姿勢を強要し,同人の肩ないし背中を背後から押して,同人の右大腿骨を骨折させた。 ウ Dは,Cに対して,医師ないし医師の指導を受けた専門家が実施すべきリハビリテーションである座位保持訓練を実施していたもので,このような訓練を実施する以上は,Cの骨の状況からして大腿骨が骨折して死亡に至る危険性を十分に予見可能であったといわなければならない。 (被告の主張)ア Dは,本件指導を行うにつき,その具体的内容においても従 する以上は,Cの骨の状況からして大腿骨が骨折して死亡に至る危険性を十分に予見可能であったといわなければならない。 (被告の主張)ア Dは,本件指導を行うにつき,その具体的内容においても従前以上の注意を払った上指導をなしており,注意義務を怠ったと認めることはできない。またそれまで1年以上もの間,同様の指導を続けていた状況からすれば,Dが行ったCに対する座位姿勢保持の指導では,通常大腿骨を骨折することはありえない。 イ仮に本件指導により骨折が発生したとしても,上記事実からすれば,Dには,本件指導によってCに骨折が生じることについての予見可能性はなく,ましてや,大腿骨の骨折により脂肪塞栓が発症することは,医師においてもこれを予見することは非常に困難であり,Dに脂肪塞栓の発症を予見することは不可能である以上,Cの死亡についての予見可能性,回避可能性は存在しない。 (3) 因果関係(原告らの主張)脂肪塞栓は,骨折の合併症であるところ,Cは,右大腿骨骨折を原因として骨髄あるいは皮下の脂肪組織が遊離し血管内に流入し,肺血管を閉塞し,脳に高度の低酸素血症を発症して死亡するに至ったものである。Dの過失によって生じた右大腿骨骨折とCの死亡との間には因果関係が認められる。 (被告の主張)本件指導後の経緯によれば,酒井整形外科でも,最初のレントゲン撮影では異常なしとの診断を下しており,本件指導の際にCが骨折したと断定することはできない。 (4) C及び原告らの損害額(逸失利益については次項)(原告らの主張)ア傷害による損害(ア) C本人の慰謝料 10万円(イ) 入院雑費 2600円酒井整形外科及び大分医大に各1日入院。 (ウ) 付添看護費用(交通費を含む) 害(ア) C本人の慰謝料 10万円(イ) 入院雑費 2600円酒井整形外科及び大分医大に各1日入院。 (ウ) 付添看護費用(交通費を含む) 4万円① 入院等の交通費合計7280円a 平成11年1月18日午前10時30分ころ,自宅から酒井整形外科まで往復したため,その汽車代・タクシー代合計2200円。 午後8時30分ころ,自宅から酒井整形外科まで赴いたため,その片道の汽車代・タクシー代合計1460円。 酒井整形外科でCが急変し,救急車で大分医大に搬送されたところ,原告Aは自家用車で同病院に赴いたため,自宅から大分医大までの片道バス代1350円。 b 平成11年1月19日原告Aの大分医大から自宅までのバス代・汽車代・タクシー代合計2270円。 ② 付添看護費用 3万2720円Cの障害の内容,事故時の症状からして原告らの付添いが必要であったことは明らかである。原告両名につき各1万6360円,2名分として,計3万2720円を請求する。 (エ) 原告両名の慰謝料 20万円原告らにつき各10万円。 イ死亡による損害(ア) 葬儀関係費用 77万1694円原告両名が,各2分の1宛負担して出捐した。 (イ) 葬儀関係における僧侶へのお布施等 37万円原告両名が,各2分の1宛負担して,速見郡b町所在の法照寺へ出捐した。 (ウ) 墓碑代 136万5000円原告両名が,各2分の1宛負担して出捐した。 (エ) 慰謝料 3000万円原告両名の固有慰謝料が各500万円宛,Cの死亡慰謝料2000万円を原告両名が各2分の1宛相続した。 ウ弁護士費用 捐した。 (エ) 慰謝料 3000万円原告両名の固有慰謝料が各500万円宛,Cの死亡慰謝料2000万円を原告両名が各2分の1宛相続した。 ウ弁護士費用 766万円原告両名が各383万円宛負担した。 (被告の主張)ア傷害による損害(ア) C本人の慰謝料傷害による慰謝料と死亡による慰謝料の双方は認められない。 (イ) 入院雑費原告らは,入院2日分の雑費を主張しているが,Cが2日間入院したとは評価できない。 (ウ) 付添看護費用(交通費を含む。)原告らは自家用車で通院しており,距離に換算した燃料代は往復892円となる。 (エ) 原告両名の慰謝料傷害による慰謝料と死亡による慰謝料の双方は認められない。 イ死亡による損害(ア) 葬儀関係費用,僧侶へのお布施等,墓碑代原告ら主張額は,合算額を考慮すると高額すぎる。お布施代については立証がなされていない。 (イ) 慰謝料原告ら主張額は,高額にすぎる。 ウ弁護士費用原告ら主張額は,高額にすぎる。 (5) Cに逸失利益が認められるか否か(原告らの主張)ア賃金センサス平成10年の男性労働者学歴計全年齢平均賃金額569万6800円に,18歳から67歳までの労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数12.9122を乗じ,独身者として40パーセントの生活費控除をすると,Cの逸失利益としては4413万4932円となる。 イ Cの意思疎通等の生育状況からすれば,現在の情報技術関係の科学技術の発達,遺伝子治療の発達,再生医療の発達等により,就労可能性が見込まれるものである。 ウ Cは,重度の障害児であった。しかし,子どものもつ人間としての価値の本質は,ありとあらゆる無限の発達の 術の発達,遺伝子治療の発達,再生医療の発達等により,就労可能性が見込まれるものである。 ウ Cは,重度の障害児であった。しかし,子どものもつ人間としての価値の本質は,ありとあらゆる無限の発達の可能性を秘めているのであり,この点について,Cと健常児とは全く差はなかった。障害児に限り,将来の発達の可能性がないものと決めつけ,損害賠償額において差別を設けるのは,障害児に対する不当な偏見であり,絶対に許されない。よって,障害児死亡の場合の逸失利益も,健常児童と同じように,男性労働者の平均賃金をもって認定することが合理的である。判例実務は,年少者の将来の逸失利益という予測不可能な事態に対して「フィクション」を働かせて,最低でも平均余命分の平均賃金は獲得するであろうと擬制し,逸失利益を算定している。にもかかわらず,障害児には,かかる擬制を働かせずに逸失利益を算出するのであれば,それはまさしく障害を理由とする差別にほかならない。 裁判所があくまで,人間の物的側面にこだわるのであれば,国の総体としての経済的利益が,我が国における居住者総体によって生み出されるものである以上,1人当たりの国内総生産額をもって損害額を認定することが憲法原則に適合するものである。 (被告の主張)ア Cは,先天的脳奇形の一種である全前脳胞症であった。このように,Cに脳の形成異常が明らかに存在していたこと,食物の経口摂取が不可能であったこと,11歳で発語がなかったこと等の事情を勘案すると,Cの死亡以後,相当期間Cの生存が認められたとしても,Cはほぼ寝たきりで全介護の状態が継続し,治療や何らかの訓練を行ったとしても,将来就労することが可能な程度の思考力,運動力は到底見込めず,将来の就労可能性が認められる状態ではなかった。 イ我が国の損害賠償制度は,不法行為によって 継続し,治療や何らかの訓練を行ったとしても,将来就労することが可能な程度の思考力,運動力は到底見込めず,将来の就労可能性が認められる状態ではなかった。 イ我が国の損害賠償制度は,不法行為によって現実に発生した具体的損害を,金銭賠償の方法をもって填補することを目的としている。そして,現実に発生した具体的損害は,被害者に現実に生じた具体的不利益によって算定される。人間は,千差万別の生活利益を得ているのであるから,仮に外形上同程度と見られる人身損害があった場合であっても,これによって被害者が現実に被る具体的不利益は一様ではなく,かかる一様ではない事実に基づき損害賠償額を算定する以上,被害者によって損害額に差異が生じるのは当然で,憲法上の平等原則に反するとはいえない。 現時点で相当な程度に将来収入が得られる蓋然性が認められなければ,損害額を算定するにあたって斟酌する必要がない。Cについて,逸失利益を認めるべき理由は存在しない。 (6) 過失相殺(被告の主張)仮にDに何らかの責任が認められるとしても,訪問教育における養護・訓練は,教諭と親との共同作業によって成立するものであるから,Dだけに責任を負わせるのは公平を欠く。特に本件においては,本件指導前の2回の訪問の際(平成11年1月8日,同月13日),Cの体調が思わしくなかったので,Dは指導に入るのをためらっていたにもかかわらず,原告Bは,早く座位保持訓練を開始するようDを急かしていた。このような事情に鑑みれば,少なくともCら側の過失として50パーセントは過失相殺されるべきである。 (原告らの主張)原告BがDに対して座位保持訓練を急かしたというような事実はない。 そもそも重度障害者であったCに対する座位保持訓練については,トレーナーであるDにおいて,基礎的な医学的知識・情報を有し らの主張)原告BがDに対して座位保持訓練を急かしたというような事実はない。 そもそも重度障害者であったCに対する座位保持訓練については,トレーナーであるDにおいて,基礎的な医学的知識・情報を有していることを前提に,医療機関等との連携のもとに,主体的かつ専門的に実施されなければならないもので,被告の主張は単なる責任逃れにすぎない。 (7) 損益相殺(被告の主張)ア原告らは,センターから,災害給付金として2100万円の支給を受けている。日本体育・学校健康センター法(昭和60年法第92号,以下「センター法」という。)44条は「学校の設置者が国家賠償法,民法その他の法律による損害賠償の責めに任ずる場合において,免責の特約を付した災害共済給付契約に基づきセンターが災害共済給付を行ったときは,同一の事由については,当該学校の設置者は,その価格の限度においてその損害賠償の責めを免れる」と規定しており,損益相殺の対象となることは明らかである。また,逸失利益に限定せず,損害賠償金の総額から損益相殺するのが実務の取扱いである。 イさらに,Dは100万円を,前本件学校校長は50万円を香典として原告らに渡している。 ウしたがって,合計2250万円については損益相殺すべきである。 (原告らの主張)センターから支払われた災害給付金は,全体として見れば,個々の生徒・児童が支払った共済掛金の対価としての性質をもっており,生命保険などと同じく,自己の支払の対価と見るべきである。また,災害給付金の性質が加入学校の設置者及び保護者の相互援助的な共済制度であること,災害給付金の受給者が,災害にあった児童本人ではなく,その保護者とされていることから,災害給付金が民事上の損害を填補するものではないことは明らかである。よって,損益相殺の対象とならないと解すべきであ 災害給付金の受給者が,災害にあった児童本人ではなく,その保護者とされていることから,災害給付金が民事上の損害を填補するものではないことは明らかである。よって,損益相殺の対象とならないと解すべきである。 仮に災害給付金が民事上の損害賠償金と損益相殺の対象となるにしても,「慰謝料,葬祭費,物的損害に対する弁償」とは調整の対象としないとされている。よって,損益相殺の対象は逸失利益相当分に限られるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記「争いのない事実等」に記載した事実,掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 養護学校における教育内容等ア養護学校は,知的障害者,肢体不自由者,又は病弱者(身体虚弱者を含む。)に対し,教育を施す機関であるところ(学教法71条。なお,以下法令は,本件指導時に施行されていた法令の内容である。),その教育課程は,学教法施行規則第6章のほか,文部大臣が公示する盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領等によるものとされる(学教法73条,学教法施行規則73条の10)。そして,同学習指導要領(文部省告示第158号,乙2)によると,「学校における養護・訓練に関する指導は,(中略)学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に,養護・訓練の時間における指導は,(中略)個々の児童又は生徒の心身の障害の状態や発達段階に即して行うよう配慮しなければならない」(第1章第2節第1の4)とされ,指導計画の作成にあたって配慮すべき事項として,「学校医等との連絡を密にし,児童又は生徒の心身の障害の状態に応じた保健及び安全に十分留意すること」(第1章第2節第6の2(9)),「児童又は生徒の心身の障害の状態により,必要に応じて,専門 して,「学校医等との連絡を密にし,児童又は生徒の心身の障害の状態に応じた保健及び安全に十分留意すること」(第1章第2節第6の2(9)),「児童又は生徒の心身の障害の状態により,必要に応じて,専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして,適切な指導ができるようにするものとする。」(第5章第3の5)との内容が含まれている。 イ大分県では,心身の障害により養護学校へ就学し,通学して教育を受けることが困難な児童・生徒に対して,家庭・施設等へ教員を派遣して適切な教育を施すことなどを目的として,「大分県心身障害児訪問教育実施要綱」(乙1)を制定し訪問教育を行っていたが,同要綱中には,訪問教育担当者の業務(5項)として,「① 1人の対象児について,年間35週以上訪問し,1週当たり2回(1回につき2時間)の指導を標準とする。② 1回の時間内の指導は,対象児の障害の状況,健康状態等を配慮し,保護者への相談,助言も含めて適切に実施する。③ 訪問にあたっては,医療,福祉機関と緊密な連携を保ち,障害児の実態に即した指導を行うように努める。」旨規定されていた。 ウ養護学校である本件学校には,平成10年度,校長,教頭を始め,合計33名の教職員が在籍し,うち学校医5名,学校歯科医1名,学校薬剤師1名が含まれていたが,学校医の担当は,内科,精神科,小児科,眼科,耳鼻科であって,外科,整形外科の担当医が用意されていなかった(乙3)。 (2) 本件指導に至る経緯ア Dは,昭和38年3月に短期大学を卒業し,翌年には中学校教諭として被告に採用され,昭和42年に聾学校教諭に任じられて以降,大分県下の養護学校等で障害児教育に携わり,平成9年4月から,本件学校教諭として勤務していた(乙7,証人D)。 イ Dは,養護・訓練(現在は学教法施 用され,昭和42年に聾学校教諭に任じられて以降,大分県下の養護学校等で障害児教育に携わり,平成9年4月から,本件学校教諭として勤務していた(乙7,証人D)。 イ Dは,養護・訓練(現在は学教法施行規則上「自立活動」と称する。)の指導を行うために大分県が義務付けていた年2回の研修を受けていたほか,任意の研修にも参加し,心理リハビリテーション学会の講習も受け,平成7年には心理リハビリテーションにおけるトレーナーの資格を取得した。 なお,心理リハビリテーションとは,九州大学のE教授らが研究している脳性麻痺等の障害を有する者に対する動作訓練法の一種であり,リラクゼイション(ゆるめ)や体を立てる「タテ系動作訓練」をその主な特徴とし,姿勢づくりの手法として,座位姿勢の場合には,あぐらをとらせることを紹介している。(甲24,25,70,証人D)ウ平成9年4月,Cが本件学校の4学年に進級し,Dが担当となり,毎週3回,午前9時半から午前11時までの間訪問教育を実施することとなった。 Dは,平成9年の夏ころから,Cの健康状態や生活状況に触れ,原告Bに対し,首がすわらず,常に横抱きにされているCに縦方向の姿勢をとらせ,自分の力で座位を保持できるように訓練を実施したいと説明した。この指導の際に,脱臼があると無理ができないので,Dは,原告Bに,月ごとの大分医大での検診時に,Cの股関節が脱臼してないかレントゲンを撮影してもらって見てほしい,そして養護訓練の中で座位姿勢を取り入れてよいか聞いてほしいと要請した。原告Bは,大分医大の医師に確認して了解をとり,その旨Dに伝えた。 DはCに対し,徐々に動作訓練を開始したが,その後も数回Cの脱臼の有無について原告Bにレントゲンを撮るよう要請したり,大分医大の医師にアドバイスをもらうよう指示したことがあっ ,その旨Dに伝えた。 DはCに対し,徐々に動作訓練を開始したが,その後も数回Cの脱臼の有無について原告Bにレントゲンを撮るよう要請したり,大分医大の医師にアドバイスをもらうよう指示したことがあった。ただし,Dが直接大分医大に赴き,医師から話を聞くことはなく,また医学的な面で医師などの専門家から直接アドバイスを受けたことはなかった。(乙7,13,証人D,原告B本人)エ平成10年4月,Cは5学年に進級したが,そのころには座椅子に最長2,3分程度座ることが可能になっていた。さらに2学期には,肘掛けのない座椅子にも1時間程度座ることができるようになっていた。 座位姿勢保持の指導は,原告Bの立会いのもと,DがCを背後から介助しながら,Cの座りやすい腰の位置を定め,少しずつ手を離していくというもので,Cに座ろうとする力がないときには,Dが背後からCの両肩をもって少し前に押した後,押す力をゆるめてCが自分で体を起こすのを待ったり,少し後ろに引いた後力をゆるめて起きあがるのを待つなどし,Cの自発性を促す方針で行われていた。Cは右膝が硬く,その可動性が乏しかったが,床の上でも重心さえ保てれば,不安定ながらも右膝を立てて,左足を組んだ状態で多少は座れるようになっていた。 訓練中,Cが嫌がるときは,Dは,一度指導を中断して原告BにCを抱かせ,同児の機嫌を直してから再度続行していた。(甲13,20の1・2,乙7,原告B本人)オ平成10年12月21日に,5学年の2学期最後の座位保持訓練が実施されたが,このころには,Cは自力で床にある程度座ることができるようになっていた(乙7の⑨ないし⑫の写真,証人D,原告B本人)。 カ平成11年1月8日,3学期の始業式の後に,Dは原告ら宅を訪問し,従前のとおり,原告BからCの体を受け取って,Cを座らせようと ようになっていた(乙7の⑨ないし⑫の写真,証人D,原告B本人)。 カ平成11年1月8日,3学期の始業式の後に,Dは原告ら宅を訪問し,従前のとおり,原告BからCの体を受け取って,Cを座らせようとしたが,Cは,足を突っ張ることができず,体が不安定なままであった。Dが事情を尋ねると,原告Bは,Cが右足の股関節の部分を痛がっていたことから,Cの右足を指さして,Dに「痛がる」と伝えた。 Dは,Cの股関節が脱臼しているのではないかと疑い,この日の指導を中止し,原告Bに対し,Cが心配なので大分医大で足のレントゲンを撮ってもらい,よく調べてほしいと述べたが,原告Bは,Cを病院に連れて行かなかった。(乙7,証人D,原告B本人)キ同月13日,原告Bは,原告ら宅を訪れたDから「(Cの様子は)どうですか」と聞かれ,「大丈夫」と答えた。原告Bが座布団に座らせる段階で,Cに力が入る様子がなく,前に倒れたままの状態であった。Dが原告Bと交代しても同様であり,Dは指導を中止し,「どうしたのでしょう」と尋ねると,原告Bは,Cの着衣を引き上げて膝をみせた。Cの右膝の内側付近は,直径5センチメートル程度打ち身の跡のように黒ずんでおり,Dが驚いたところ,原告Bは,こたつから引き出す時に打ったためであると説明した。(乙7,証人D,原告B本人)(3) 本件指導とその後の経緯ア同月18日,Dは午前9時半ころに原告ら宅を訪問した。Dは「(Cの)からだはどうですか」と尋ね,原告Bは「大丈夫,よくなった」と述べた。Dは「(Cの)腰の状態はどうですか。」と尋ねたが,原告Bは「心配ない」と答えた。 Dは,Cの後方にまわり,原告BからCの体を受け取った。このとき,Dは,「どうして座れないのであろう。足だろうか,腰だろうか」「座る力がどうして出ないのだろう」とい は「心配ない」と答えた。 Dは,Cの後方にまわり,原告BからCの体を受け取った。このとき,Dは,「どうして座れないのであろう。足だろうか,腰だろうか」「座る力がどうして出ないのだろう」という思いで,躊躇しながらCを抱いた。Cは,通常どおり,左足を曲げて床につけ,曲がった右足を立ててまっすぐにしていた。Cが左右に揺れるので,DがCの腰部と肩に手を当て,揺れを止めようとしたところ,Cが嫌がり,背中を反らせた。 Cは,この際,両足を外側に曲げた状態か,又は両足を曲げたまま交差させる状態,すなわちあぐら様の姿勢をとっていたが,Dは,Cが背中を反らせたため,Cの足の状態に注意することなく背部を押したところ,Cから異常な音がし,この音をDとCの面前に座っていた原告Bが同時に確認した。Dは直ちにCを抱き上げ,原告Bとともに酒井整形外科に運んだ。(甲11ないし13,乙7,証人D,原告B本人)イ酒井整形外科でCの右足のレントゲン撮影をしたところ,医師からは骨折は認められないと説明された。しかし,原告BはCの様子が異常であると感じ,Dの勧めもあって,再度レントゲンを撮影するよう要請した(酒井整形外科で撮影したレントゲン写真を「本件レントゲン写真」という。)。すると,右大腿骨の剥離骨折の診断がされたが,医師からは,1か月もすれば治るとの説明がされ,簡易ギプスで固定し,Cらは帰宅した。(甲22の1ないし3,乙6の1,7,13)ウしかし,Cが依然として痛がるため,原告らは,Cを連れて同日午後9時ころ,再度酒井整形外科に赴いたところ,同整形外科内でCの顔色がおかしいのに気づき,同日午後11時30分には大分医大に救急車でCを搬送し,入院させることとなった。 そして,同月19日午前3時55分ころから,Cの呼吸が不規則となり,その後呼吸停止・心 の顔色がおかしいのに気づき,同日午後11時30分には大分医大に救急車でCを搬送し,入院させることとなった。 そして,同月19日午前3時55分ころから,Cの呼吸が不規則となり,その後呼吸停止・心停止となり,約2時間にわたり心肺蘇生術が施行されたが回復せず,同日午前5時50分に死亡が確認された。(乙6の1,13,原告B本人)エ解剖時,Cの右大腿から股関節にかけて著明な腫脹が見られ,5×5×15センチメートルの血腫があり,大腿骨骨幹部に縦割れの骨折を認めた。解剖前は,直接死因は外傷性ショックなどと見られていたが,病理学的に肺に明らかな脂肪塞栓が見られること,また臨床的にも高度の低酸素血症が見られることなどから,解剖の結果,直接死因は脂肪塞栓と判断された。なお,脂肪塞栓とは,骨折の合併症の一つであり,原因については,骨折部の骨髄から流れ出した中性脂肪が血管に入るか,骨折によって体内の脂質代謝の変化が生じるなどの考え方の違いはあるものの,要は,非乳化した脂肪滴によって脳や他の臓器の毛細血管に栓塞を生じさせるもので,骨盤や長管骨の骨折の際に生じやすく,発症した場合(発症率は,1ないし2パーセント程度である。),死亡率は10ないし20パーセント程度であるといわれている。(甲2,10の1・2,34,乙6の1,8ないし10)(4) 本件指導時のCの身体の状況ア重症心身障害児は,室内生活を強いられることに加え,抗痙攣剤服用,食事中のビタミンD不足,また,日常生活活動の低下による廃用などの原因により,骨萎縮病変をきたしやすく,日常生活介助においても骨折という事態を招くこともある。脳性麻痺の場合,歩行が不可能なケースで骨盤と下肢の骨密度の低下が顕著となる傾向があり,その結果ささいな外力によっても大腿骨骨折等を起こすことが多く,リハビリテー 骨折という事態を招くこともある。脳性麻痺の場合,歩行が不可能なケースで骨盤と下肢の骨密度の低下が顕著となる傾向があり,その結果ささいな外力によっても大腿骨骨折等を起こすことが多く,リハビリテーション・介護・教育上の大きな問題となっている。(甲29ないし32)イ Dも,養護教育の経験の中で,障害児がささいな外力でも骨折しやすいことは熟知しており,Cについても,膝・腰・足首が硬く,その部分については特に注意が必要であると認識していた(証人D)。 ウ本件レントゲン写真に関する社会福祉法人別府発達医療センター所属医師F作成の診断書(甲69,以下「本件診断書」という。)では,Cに骨萎縮があり,易骨折性があることのほか,両股関節に脱臼があり,可動域に制限があったであろうことが指摘されている(甲22の1ないし3,69)。 エ以上のとおり,本件レントゲン写真上,Cの両股関節に脱臼が認められていること,冬休み後,Cの腰がふらつき,従前できていた座る姿勢がとれなくなっていたこと,平成11年1月8日の指導の際までに,原告Bに股関節付近の痛みを訴えていたことに照らせば,Cは,本件指導時には既に両股関節が脱臼していたか,これに近い状況にあったものと推認される。 2 争点(1)(本件指導の態様)について(1) まず,被告は,Cの右大腿骨骨折が,本件指導後に生じた可能性がある旨の主張をしている(争点(3)についての被告の主張)のでこの点を検討するに,前記1の認定のとおり,本件指導の際に,Cの足から異常な音がしたことを,Dと原告Bの両名が同時に確認し,直ちにCを酒井整形外科に連れて行っていること,Dと原告Bは,同病院でのレントゲン撮影でいったんは骨折はしていない旨説明されたが,原告Bは,Dの勧めもあって再度レントゲン撮影を依頼したこと(D及び原 ちにCを酒井整形外科に連れて行っていること,Dと原告Bは,同病院でのレントゲン撮影でいったんは骨折はしていない旨説明されたが,原告Bは,Dの勧めもあって再度レントゲン撮影を依頼したこと(D及び原告Bは,本件指導時にCから聞こえた異常な音及び同病院におけるCの状態等からして,最初のレントゲン撮影の結果では納得できないと感じていたと認められる。),再度のレントゲン撮影時に骨折が生じたと認めるに足りる主張・立証はないことから,本件指導の際に右大腿骨骨折を生じたものと認めるのが相当である。この点についての被告の主張は採用することができない。 (2) 次に,本件指導の態様については当事者双方の主張が異なっているので検討する。 ア本件診断書には,本件レントゲン写真に対する所見として,右大腿骨の小転子から約8センチメートルにわたる螺旋状の骨折(捻転骨折)が生じており,大腿に捻れを加えるような力が働いたものと考えられると記載されており(甲69),同記載を覆すに足りる証拠はない。 したがって,本件診断書の記載を前提にし,かつ前記(1)の認定のとおり,本件指導時に右大腿骨骨折が生じたことによると,本件指導の際に,Cの右大腿部に対し,捻れを加えるような力が働いたことを推認することができる。 イところで,被告は,Dは,左手でCの胸を抱くように支えた上,右手でCの脇の部分を支え,Cの背を少し伸ばして,同児の体の右側を同児の腰の上に乗せ,その上で,Cの姿勢がどうなるか見ようとして,単にCを支える右手の力をゆるめただけで,無理にあぐらを組ませたり,背中を押したことはないと主張し,証人Dもこれに沿う陳述(乙7)及び証言(以下併せて「D証言等」ともいう。)をしている。そしてD証言等によれば,本件指導の際のCの脚部は,従前の指導のとおり,左足を曲げて横に倒 ことはないと主張し,証人Dもこれに沿う陳述(乙7)及び証言(以下併せて「D証言等」ともいう。)をしている。そしてD証言等によれば,本件指導の際のCの脚部は,従前の指導のとおり,左足を曲げて横に倒し,曲がらない(膝の硬い)右足は,前に伸ばしていたとされている。しかし,かかる姿勢であれば,Dが右手の力をゆるめ,Cの腰部に重心がかかったとしても(しかも,Dの左手は,引き続きCの胸を抱くようにして支えていたのであるから,Cの腰部にかかる重心の力はさほど大きなものではなかったことになる。),前記アのように,大腿に捻れを加えるような力が働くことは想定しがたいと思われる。 ウ一方で原告らは,本件指導において,Dは,Cに対し,今まで一度も取り組んだことのなかったあぐら姿勢を強要し,さらに原告BがDに対し「Cが鬼瓦のような顔をしている」旨伝えたのにもかかわらず,Dが数回にわたって,Cの右足をつかみ,左足の中に放り入れ,むきになって指導を続行し,Cがわめきながら後ろに反り返ったので,DがCの背中を前に押し倒したと主張し,原告B本人も同様に陳述(甲13)及び供述(以下「原告B供述等」ともいう。)をしている。 この点,Cの右足が,膝を曲げたまま,Cの体から見て横方向(左右の方向)に倒れるかそれに近い状態(甲12の写真③の状態)となり,又は右足の足先がCの体からみて左方向に移動し,両足が交差する状態(乙7の写真①,②の状態)となれば,右足をまっすぐに伸ばしていた場合よりは,Cの姿勢の変化等により,大腿部に捻れた外力がかかりやすくなるということができる。そして,原告B供述のとおり,DがCの背中に力をかけたとすれば,前記1の認定のとおりのCの骨の脆弱性,股関節の脱臼(又は脱臼様の状態)と相まって,大腿骨に捻れを加えるような力がかかり,骨折に至ったことを合 原告B供述のとおり,DがCの背中に力をかけたとすれば,前記1の認定のとおりのCの骨の脆弱性,股関節の脱臼(又は脱臼様の状態)と相まって,大腿骨に捻れを加えるような力がかかり,骨折に至ったことを合理的に説明できる。この点で,原告B供述等は,骨折の態様と符合する。 もっとも,前記1の認定のとおり,Dは,従前の指導では,Cが抵抗したり,原告BがCの表情を見て,嫌がっていると伝えたときにはすぐに指導を中止し,無理に続行したことはなかったこと,3学期に入ってからの本件指導前の2度の指導の際には,DはCの姿勢が不安定であったことからすぐに指導を中止していることなど,DにはCへの指導について慎重な姿勢も窺えるところであり,従前の指導では,DがCにあぐらをさせたことがないことを考慮すると,原告B供述等は,そのすべてを採用することまではできない(これらの点で,原告Bの供述等は,Cを失った感情からやむを得ない面もあるものの,本件指導の態様等に関しては,やや誇張があるといわざるを得ない。)。 しかし,少なくとも,本件指導時に,Cがあぐら様の体勢となり,上記のとおり,大腿に捻れを加えるような力がかかりうる状態になっており,これにDが背中を押したこととCの骨の脆弱性,股関節の脱臼(又は脱臼様の状態)が相まって,大腿骨骨折を引き起こしたと認めるのが相当である。なお,Dが背中を押した点については,従前の座位姿勢保持の訓練においても,「Cが座ろうとする力がない時は,背後からCの両肩をもって少し前に押した後,押す力をゆるめて,Cが自ら身体を起こすのを待つ」などの指導をしていたことを認めており(乙7),Cに自力で身体を起こさせるために,背後から押して圧力をかけたとしても従前の指導と矛盾することはないといえる。 エ以上のとおり,少なくとも,Dがあぐら様の姿勢 導をしていたことを認めており(乙7),Cに自力で身体を起こさせるために,背後から押して圧力をかけたとしても従前の指導と矛盾することはないといえる。 エ以上のとおり,少なくとも,Dがあぐら様の姿勢をとったCの背部から圧力をかけた限度では,これを事実と認め,本件指導の態様を前記1のとおり認定するのが相当である。 したがって,この点に関する被告の主張は採用することができない。 3 争点(2)(Dの過失の有無)について(1) ところで,前記1,2で認定したとおり,本件では,Dが,あぐら様の姿勢をとっていたCの背部を押したことが認められる。かかる行為は,前記認定のとおりのCの骨の脆弱性と,股関節の脱臼(又は脱臼様の状態)に照らせば,大腿骨骨折を引き起こす無理な姿勢であったといえる。 (2) 養護教諭が障害児に動作訓練を施す場合には,その職務上,対象児童の健康状態に十分な配慮をし,身体に危険のないよう注意する義務を負っているものであり,場合によっては,医師とも連絡をとる義務があるところ(学教法施行規則73条の10,盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領第1章第2節第1の4,第6の2(9),第5章第3の5参照,乙2),本件のように,特に重度の障害児の動作訓練の場合には,前述のとおり,ささいな外力で骨折等の傷害が生じるおそれがある以上,医師と協議するなどして,健康状態について正確に把握した上で,障害児の状態を注視しつつ慎重に指導を行う必要があったといえる。 ところでDは,本件指導に先立って,Cの下半身の状態が従前と比べて安定性に欠け,Cに脱臼の疑いがあることも認識していたのであるから,D自身が医師と直接連絡をとったり,原告らとともに病院に行くなどして,Cの足や腰部の状態を正確に把握し,座位保持訓練によって身体に危険が及ぶ可能性がな 臼の疑いがあることも認識していたのであるから,D自身が医師と直接連絡をとったり,原告らとともに病院に行くなどして,Cの足や腰部の状態を正確に把握し,座位保持訓練によって身体に危険が及ぶ可能性がないかを慎重に検討し,さらに,当該訓練においてCに何らかの負荷をかける場合には,Cの身体の状態に注視し,Cの身体に過度の負担がかからない姿勢であるか否かを確認する義務があったということができる。しかるに,Dはこれを怠り,Cの足や腰部の状態を正確に把握することなく漫然と訓練を開始した上,Cがあぐら様の姿勢をとっていたことを見過ごして背部から圧力をかけた結果,右大腿部を骨折させたものと認められる。 したがって,Dには過失があることが明らかである。 (3) 被告は,Dが,本件指導時,従前以上に注意を払った指導をしていたなどと主張するが,前記(1),(2)のとおり,Dに過失があったといえるから,被告の主張は採用することができない。なお,被告は,大腿骨の骨折により脂肪塞栓が発症してCが死亡することは予見不可能である旨も主張するが,Dの注意義務は,Cが大腿骨を骨折するなどの傷害を負わないように予見しかつ回避する義務であって(骨折を招いた行為が違法行為である。),骨折から脂肪塞栓によってCが死亡する結果が生じたことは,Dの違法行為(注意義務違反行為)と死亡との因果関係の問題であるから,この点でも被告の主張は採用することができない。 4 争点(3)(因果関係)について前記1,2で認定したとおり,Cは本件指導中に右大腿骨骨折を生じ,その合併症である脂肪塞栓により死亡したと認めるのが相当である。 なお,前記3(3)のとおり,被告は,骨折から脂肪塞栓を発症することは事例的には稀有であり,本件でもDにはCが脂肪塞栓によって死亡することまでの予見可能性は り死亡したと認めるのが相当である。 なお,前記3(3)のとおり,被告は,骨折から脂肪塞栓を発症することは事例的には稀有であり,本件でもDにはCが脂肪塞栓によって死亡することまでの予見可能性はなかった旨主張しているが,この主張は,特別事情の予見可能性(国賠法4条,民法416条2項)がDになかったので,Dの違法行為とCの死との間には因果関係がなかった旨の主張と解されるところ,前記1の認定のとおり,脂肪塞栓は,骨折の合併症の一つとされており,骨折に他の特別な事情が関与して生じるものではなく,また,脂肪塞栓が生じた場合の死亡率も低いものではないから,脂肪塞栓により死亡することは,骨折の通常損害(国賠法4条,民法416条1項)ということができる。したがって,被告の主張は採用することができない。 5 争点(4)(C及び原告らの逸失利益を除く損害額)について(1) 傷害による損害(Cの損害)ア慰謝料本件の経緯に照らせば,骨折と死亡との間に20時間弱の時間しか経過していないから,傷害と死亡に関して別個に慰謝料を算定するのは相当ではなく,死亡による慰謝料と一括して評価する。 イ入院雑費 1300円大分医大に入院した1日分について1300円を認める。なお,前記1の認定によれば,酒井整形外科については通院にとどまり,入院したとは評価できない。 ウ付添看護費用 1万6360円大分医大に入院した1日分について,Cの傷害の内容・年齢・障害の程度からして原告ら2名の付添いが必要であったと認め,1日8180円の2名分1万6360円を相当として認める。 エ交通費 容・年齢・障害の程度からして原告ら2名の付添いが必要であったと認め,1日8180円の2名分1万6360円を相当として認める。 エ交通費 892円原告らの2度の酒井整形外科への通院は近隣住民に車で送ってもらっていること(甲13,乙7,原告B)などに照らすと,原告ら主張の交通費の算定方法には疑義があるところ,被告は,通院に自家用車を使用したものとして交通費としてはガソリン代相当892円であると主張し,原告らはこれに特段の反論していないから,かかる892円を交通費としての損害と認める。 (2) 死亡による損害(C及び原告らの損害)ア葬儀関係費用等(お布施・墓碑代含む) 150万円葬儀関係費用等として,実際に支出された費用(甲4の1・2,5の1ないし3,6の1・2)のうち,150万円を相当因果関係ある損害と認める。 イ慰謝料 2400万円C自身の慰謝料として2000万円,原告らの慰謝料を各200万円,合計2400万円を慰謝料として相当と認める。なお,その根拠としては後記のとおりである。 6 争点(5)(Cの逸失利益)について(1) 掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア Cの障害(ア) Cは,先天的に脳の前頭葉及び側頭葉の発達が悪く,嗅覚・嗅球が欠如していた。一部で前頭葉の分離不全が見られ,脳梁は低形成であったがわずかに存在し,脳室は左右に分離していたが,透明中隔は欠損していた。これらの特徴から,全前脳胞症と判断された。(乙6の1,13)(イ) 全前脳胞症とは,胎生初期,神経管頭側には前脳胞,中脳胞及び菱脳胞の3つの脳胞が生じ(3脳胞期),やがて 欠損していた。これらの特徴から,全前脳胞症と判断された。(乙6の1,13)(イ) 全前脳胞症とは,胎生初期,神経管頭側には前脳胞,中脳胞及び菱脳胞の3つの脳胞が生じ(3脳胞期),やがて前脳胞から眼球,嗅球,大脳の前身である終脳胞などが分離発達してくるところ,この時期の前脳胞の発達障害によって嗅脳の欠如,前脳胞形態の遺残などを示す奇形の症例である。具体的には大脳縦裂を欠き,葉形成がない型,脳葉形成は認めるものの大脳縦裂が不完全な型,及び大脳縦裂や脳葉の形成はよいものの前脳の不完全な発達を示すlobar型に分類される。 Cの全前脳胞症は,lobar型と見られるところ,この型は,一般に知能低下が見られるものの,生命予後は悪くないとされている。(乙11,15)イ Cの病態の変化(ア) Cは,昭和62年11月9日出生したが,口唇口蓋裂があり,その後,高ナトリウム血症,脳梁欠損を伴う小頭症,精神運動発達遅延と認められた上,中枢性尿崩症を合併している旨診断された(乙13)。 (イ) 平成元年5月6日に実施された特別児童扶養手当認定診断では,著明な精神運動発達遅滞,経鼻栄養,発語なしなどの所見であり,日常生活には全介助が必要で,「知的予後悪く,生命予後も良いとはいえない」と付記され,総合判定は重度とされた(乙13)。 (ウ) 同年8月8日に実施された障害児福祉手当・福祉手当認定診断では,脳性の障害に起因する痙性の運動麻痺と両側足関節の拘縮を認め,日常生活は全介助の状態であり,中枢性尿崩症の合併のため,抗利尿ホルモンの補充療法を生涯にわたり必要とすると診断された(乙13)。 (エ) 平成5年2月12日に実施された特別児童扶養手当認定診断では,全介助が必要で,先天性脳内奇形に起因するも 利尿ホルモンの補充療法を生涯にわたり必要とすると診断された(乙13)。 (エ) 平成5年2月12日に実施された特別児童扶養手当認定診断では,全介助が必要で,先天性脳内奇形に起因するものであるから,精神運動発達遅滞,中枢性尿崩症,てんかんは今後軽快することは期待されるが治癒することはない,電解質異常又は脱水症による生命予後も危険が高いとされ,総合判定は重度とされた(乙13)。 (オ) 同年8月16日に実施された障害児福祉手当・福祉手当認定診断でも,DQ(発達指数)は4と,最重度の知能障害を認め,痙攣発作と精神遅滞があり,日常生活は全介助で,常に厳重な注意を必要とするとの診断がされた(乙13)。 (カ) 平成9年3月13日に実施された特別児童扶養手当認定診断でも,全介助が必要で,安静度の評価はできず,各症状は,先天性脳内奇形に起因するものであり,治癒することはなく,電解質異常又は脱水症による生命の危険もあるとされ,特別児童扶養手当1級の評価がなされた(乙14)。 ウ Cの生活状況(ア) Cは,生後しばらく自発的と思える動きは殆どなかったものの,徐々に動作や声,表情で自分の機嫌や意思を伝えるようになり,家族らとの間では,一定のコミュニケーションがとれるようになっていた。 また,当初は寝たきりであったのに,本件指導前には,座椅子や床に一定程度自力で座れるようになっていた。(甲13,乙7)(イ) 平成9年5月の段階では,Cは「あー」「うー」「いやいやいや(嫌な時)」「がやがやがや(うれしい時)」程度の発語をしていたが,自力での移動はできず,食事はペースト状にしたものを口から若干量食べるほか,液状のものを経鼻チューブにて摂取するなどの状況にあり,本件指導のころにおいても,日常生活の全てにわたって介助 ていたが,自力での移動はできず,食事はペースト状にしたものを口から若干量食べるほか,液状のものを経鼻チューブにて摂取するなどの状況にあり,本件指導のころにおいても,日常生活の全てにわたって介助が必要であった(乙7,13,弁論の全趣旨)。 (2) 一般に,不法行為により死亡した年少者の逸失利益の算定については,双方から提出されたあらゆる証拠資料に基づき,経験則に照らし,でき得る限り蓋然性のある金額を算出するのが望ましいことはいうまでもないが,不確実ながら年少者であるが故にまた潜在する将来の発展的可能性のある要因をも,それが現時点で相当な程度に蓋然性があると見られる限りは,当該生命を侵害された年少者自身の損害額を算定するにあたって,何らかの形で慎重に勘案し,斟酌しても差し支えないものと考える。 (3) ところで,前記(1)に認定したとおり,Cの障害は,脳の先天的な発育不全に由来し,著明な精神運動の発達遅滞,運動麻痺が認められ,一貫して重度の障害と認定されており,死亡時(11歳)においても,喃語程度しか発話がなく(その能力としては6か月程度),可能な動作としては座位をとれる程度で,食事を始め生活全般について介護が必要な状態にあり,その予後としても,諸症状が軽快することはあっても,治癒することはないとされている(乙15)。 また,前記(1)のとおり,全前脳胞症であっても,lobar型であれば必ずしも生命予後は悪くはないとされる一方で,Cの場合は,中枢性尿崩症を合併しており,医師からも,繰り返し「生命予後も良いとはいえない」「抗利尿ホルモンの補充療法を生涯にわたり必要とする」「電解質異常又は脱水症による生命予後も危険が高い」と指摘されている。 結局,これらのCの障害,病態の変化,生活状況に照らせば,Cが将来にわたって何らかの形 の補充療法を生涯にわたり必要とする」「電解質異常又は脱水症による生命予後も危険が高い」と指摘されている。 結局,これらのCの障害,病態の変化,生活状況に照らせば,Cが将来にわたって何らかの形で稼働能力を得る蓋然性を認めるには未だ困難であるといわなければならない。 (4) 原告らは,将来にわたる科学技術・医療技術の進歩は無視できず,これらの技術を用いて,Cにも稼動能力を取得する可能性がないではないと主張している。確かに,原告らの主張は一般論としては頷けるところが全くないわけではなく,本件に表れた証拠中には,いわゆる再生医療によって,かつては予想できなかった人体の器官の再生が可能になりつつあることを示唆するものがある(甲8の1ないし137等)。しかしながら,Cの障害が末端の器官や組織の一部の損傷等にとどまらず,脳自体の先天的な発育不全に由来するものであることを念頭におけば,現在までの科学技術・医療技術の進歩の結果を踏まえ,さらに近い将来までも展望したとしても,かかる脳の先天的な発育不全状態を修復する技術が一般的に普及するまでには未だ相当程度の年月が必要と思われる。とすると,これらの技術発展の可能性を十分に考慮に入れても,未だCが稼動能力を取得する蓋然性を認めるに足りる立証はなされていないといわなければならない。 (5) さらに,原告らは,逸失利益の算定において,Cが障害児であったことを,健常児と比べて不利益に扱うことは,平等原則に反していると主張している。 しかしながら,現在の民法上の損害賠償法理によれば,消極損害の本質については,事故がなければ被害者が取得できたはずの現実的な収入,利益の全部又は一部の喪失を損害と把握するか(差額説),又は事故がなければ被害者が有したはずの稼働能力の全部又は一部の喪失それ自体を損害と把握する 故がなければ被害者が取得できたはずの現実的な収入,利益の全部又は一部の喪失を損害と把握するか(差額説),又は事故がなければ被害者が有したはずの稼働能力の全部又は一部の喪失それ自体を損害と把握するか(労働能力喪失説)のいずれかと解されており,現実に収入,利益が失われるか,あるいは少なくとも,稼働能力の喪失を認められて初めて損害の発生を観念し得ることとなる。 このような民法の理解にたてば,少なくとも稼働能力の喪失を立証できなければ,逸失利益を認定することができないのは当然の法理であるし,この場合において,結果的に健常児と障害児の受けるべき損害賠償額に差が出たとしても,それだけで平等原則と矛盾するとはいえない。むしろ,本件のように,稼働能力の喪失等を立証できなかった場合において,平等原則を適用して補填すべきであるとするのは,法の予定するところを超えているといわなければならない。 (6) その余の原告らの主張は独自の見解であり,採用できないから,Cの逸失利益に関してはこれを認めることはできず,慰謝料算定の限度で諸事情を考慮するのが相当である。 (7) 上記のとおり,先天的に重度かつ複数の障害を有して生まれたCは,生後まもなくから始まって,数度の入院や手術を余儀なくされるなど,再三その生命の危機に瀕したものであるが,そのたびに原告らの手厚い介護や多大な愛情によりその命を保持していたものであり,日常生活においても,原告ら家族がCを全力で支え,適宜に薬剤を投与するなどして慎重にその健康を管理するなどしていたことが認められる。このような生育状況の中で,Cが喃語程度とはいえコミュニケーション能力を取得し,家族と意思疎通を図り,徐々に表情豊かになり,自力で座れるようになるなどの一つ一つの過程において,原告らがCの進歩をいかに喜び,今後のさらなる成長を 喃語程度とはいえコミュニケーション能力を取得し,家族と意思疎通を図り,徐々に表情豊かになり,自力で座れるようになるなどの一つ一つの過程において,原告らがCの進歩をいかに喜び,今後のさらなる成長をどれほど期待していたかは,想像に難くない。 原告らの11年間にわたるCに対する思いや情熱,愛情に照らせば,Cの死によってもたらされた悲しみ,喪失感は非常に重いものと評価し得るため,原告ら固有の慰謝料として前記の金額を相当と認めた。 7 争点(6)(過失相殺)についてところで,前記のとおり,本件指導により,Cの右大腿骨が捻転骨折するに至ったのは,股関節に脱臼(又はこれに近い状態)があり,かつ可動域に制限のあるCの右足を,あぐら様の状態になっているにもかかわらず,背部から圧力をかけたことにより,大腿骨に変則的な負荷がかかったことに起因すると認められる。 そして,前記1で認定したとおり,Dは,本件指導の前にCの足の異変に気付き,原告Bに対しては,Cに脱臼の可能性があるのでレントゲンをとるよう要請していたにもかかわらず,原告Bは,支障ないものと軽信し,病院に連れて行くことなく,Dからの確認に対しては「大丈夫」「心配ない」などと回答していたことが認められる。 確かに,Dには養護教員として,Cの指導に対しては細心の注意を払い,原告Bの曖昧な返答を過信せずに,自ら病院に同行するなどしてCの健康状態を正確に把握すべき法令上の義務があったことは前記のとおりである。しかしながら,本件のように障害児が訪問教育を受け,当該児童の能力,健康状態に併せた指導を受ける際には,児童の保護者も教員と連携・協力することが不可欠であり,原告Bとしても,Cの保護者として,Cの健康状態にはできる限り注意を払い,Dから異常を指摘されたのであれば,その指示にしたがって医師の診断を受け 童の保護者も教員と連携・協力することが不可欠であり,原告Bとしても,Cの保護者として,Cの健康状態にはできる限り注意を払い,Dから異常を指摘されたのであれば,その指示にしたがって医師の診断を受けさせたり,診断を受けさせていないのであれば,その旨をDに報告する義務があったといわなければならない。 しかし,原告Bは,かかる義務を怠り,Dから指示されていたにもかかわらず医師の診断を受けず,Dの確認に対しても「大丈夫」と伝えるのみで,正確な情報を報告せず,Dに自ら医師に確認をする必要を感じさせないまま,DにCに対する座位保持訓練を開始させたものである。 よって,公平の見地から,かかる原告Bの過失について,C側の過失として1割の過失相殺を行うのが相当である。 8 争点(7)(損益相殺)について(1) 被告(大分県教育委員会)は,昭和35年7月10日,日本学校安全会法に基づき,日本学校安全会との間で免責特約を付した災害共済給付契約を締結していること,日本学校安全会が行っていた災害共済給付制度は,行政機構の再編成等により,昭和61年以後センターに引き継がれ,平成11年当時も同様であったこと(根拠法令は,センター法である。)が認められる(甲89,乙16)。そして,免責の特約を付した災害共済給付契約約款第2条によれば,学校の管理下にある児童,生徒等の災害につき学校設置者の損害賠償責任が発生した場合において,災害共済金が給付された場合には,その価額の限度において学校設置者が損害賠償責任を免れるものと定められている。この特約の趣旨は,同条にも明記されているように,学校教育又は保育所における保育の円滑な実施に資するとともに,学校設置者が突発的な財政的負担を強いられることを防止するというものである。すなわち,本来,共済金の支払がなされた場合,当該共済給付 に,学校教育又は保育所における保育の円滑な実施に資するとともに,学校設置者が突発的な財政的負担を強いられることを防止するというものである。すなわち,本来,共済金の支払がなされた場合,当該共済給付と同一の事由に基づく損害賠償請求権は,共済金の支払者が代位取得し,学校設置者に対し,求償していくことになるが,これでは学校設置者が一度に多額の財政的負担を強いられることになるから,上記免責特約は,学校設置者の災害共済金の支払者に対する責任を免れさせたものである。 ただし,上記に述べたとおり,被害者が災害共済給付を受けた場合には,当該共済給付と同一の事由に基づく損害賠償請求権は,受けた給付額の限度で,被害者から災害共済金の支払者に移転することになり(センター法21条3項は,代位を前提にしている。),結局,被害者は,受けた給付額の限度で,加害者たる学校の設置者に対して損害賠償請求権を行使することができなくなる。そして,共済給付と損害賠償が同一の事由の関係にあるかどうかは,共済給付の趣旨目的と民事上の損害賠償のそれとが一致すること,すなわち,共済給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同性質であり,共済給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合をいうものと解すべきであって,単に同一の災害から生じた損害であることをいうものではないと解される(最高裁昭和62年7月10日第二小法廷判決,民集41巻5号1202頁参照)。 そこで,センター法における共済給付の趣旨目的であるが,① 同法によるセンターの目的は,体育の振興や児童生徒等の健康の保持増進を図るために,体育施設の適切かつ効率的な運営等のほかに,学校の管理下における児童生徒等の災害に関する必要な給付を行うことによって,もって国民の心身の健全な発達に寄与することにあ 等の健康の保持増進を図るために,体育施設の適切かつ効率的な運営等のほかに,学校の管理下における児童生徒等の災害に関する必要な給付を行うことによって,もって国民の心身の健全な発達に寄与することにあるのであって(1条),損害賠償責任給付を保障する制度ではないこと,② 同法における災害補償給付の支給要件は,「学校の管理下における災害」(センター法20条1項2号,6号)であって,学校に法的責任があることを前提としていないし,児童生徒に故意,過失があっても支給することを予定していること,③災害給付の内容は,医療費,障害見舞金(障害の程度によって給付額が決まる。),死亡見舞金に限られており(センター法20条1項2号,同法施行令5条1項),損害賠償責任の際に一般に賠償責任の内容とされる物的損害や人的損害のうちの付添費用,交通費,入院雑費,葬祭費用,精神的損害(慰謝料)等について法令に明記されていないこと,④ 実際の運用においても,医療費については,通院費,入院雑費,介添えなどのための親等の休業補償等との間で,障害見舞金及び死亡見舞金については,慰謝料,葬祭費,物的損害に対する弁償との間でいずれも災害給付金と調整を行わない(ただし,名目は慰謝料等となっているが,実質は逸失利益の補填と解される場合は,調整を行う。)とされていること(甲89,乙19)などからすると,センター法の共済給付金の趣旨目的は,災害による児童生徒の損失補償や生活保障にあり,主として医療費と逸失利益の保障に給付の目的があり,物的損害,人的損害のうち医療費を除く積極損害,慰謝料等については,その填補を目的としていないと解される(なお,「障害見舞金」,「死亡見舞金」という名称は,儀礼的な意味を含ませたにすぎず,それだけで給付の趣旨目的を解することはできない。)。 そして,本 ては,その填補を目的としていないと解される(なお,「障害見舞金」,「死亡見舞金」という名称は,儀礼的な意味を含ませたにすぎず,それだけで給付の趣旨目的を解することはできない。)。 そして,本件においては,上記5で認容した原告らの損害は,入院雑費,付添看護費用,交通費,葬儀関係費用,慰謝料であり,いずれも原告らが給付を受けた本件給付金2100万円とは,その趣旨目的を異にし,同一の事由による損害とは認められないから,上記災害共済金は損益相殺の対象とならないというべきである。 なお,上記のとおり,被告は,センターとの間の災害共済給付契約に免責特約を付しているが,同特約は,被告の損害賠償責任が発生した場合に,センターが災害共済給付を行うことによって,その価額の限度で被告の損害賠償責任を免れさせるものであって,災害共済給付の性格を変更してしまうものではないから(センター法も特約にそこまでの趣旨は含めていないと解され,仮に含めていると解すると,生徒児童の関与のないところで給付の性格を変える合意を認めることになる。),この特約故に,上記損益相殺の範囲についての判断は変更しない。 したがって,上記に反する被告の主張は,採用することができない。 (2) 一方,Dが支払った100万円及び前本件学校校長が支払った50万円については,社会通念上認められる香典としての額をはるかに上回るものであるから,損害賠償の填補の性質を有するものとして,上記認容額から損益相殺すべきである。 9 弁護士費用(1) 前記5及び6で認定したとおり,原告らに生じた損害としては,固有の慰謝料として各200万円宛を認め,Cの損害である入院雑費1300円,付添看護費用1万6360円,交通費892円,葬儀関係費用150万円の合計151万8552円,死亡によるC自身の としては,固有の慰謝料として各200万円宛を認め,Cの損害である入院雑費1300円,付添看護費用1万6360円,交通費892円,葬儀関係費用150万円の合計151万8552円,死亡によるC自身の慰謝料2000万円をそれぞれ2分の1宛相続したものであり,合計すると,各1275万9276円,両名併せて2551万8552円となる。 (2) この金額から,前記のとおり1割を過失相殺すると,両名併せて2296万6696円,各1148万3348円となる。 そして,損益相殺すべき香典150万円を差し引くと,損害は,両名併せて,2146万6696円,各1073万3348円となる。 (3) 以上より,弁護士費用としては,各認容額の約1割に当たる各100万円を相当因果関係あるものと認める。 小括以上によると,原告らは,被告に対し,国賠法1条1項に基づき,損害について所定の計算をした各1173万3348円を請求する権利が認められ,本件指導の日である平成11年1月18日から,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の発生を認めることができる。 第4 結論そうすると,原告らの請求は,被告に対し,それぞれ1173万3348円及びこれに対する平成11年1月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でいずれも理由があるから,これらを認容し,その余はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法64条,61条,65条1項本文を,仮執行宣言について同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第1部裁判長裁判官浅見宣義裁判官影浦直人裁判官三 大分地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官 浅見宣義 裁判官 影浦直人 裁判官 三宅朋佳
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