令和6年12月23日宣告令和4年(わ)第184号 主文 被告人を懲役19年に処する。 未決勾留日数中400日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年9月29日午前1時44分頃から同日午前3時4分頃までの間、長野県塩尻市(以下住所省略)被告人方において、妻であるO(当時47歳) に対し、殺意をもって、その頸部を何らかの方法で圧迫し、よって、その頃、同所において、同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。 (事実認定の補足説明)第1 争点等 1 令和3年9月29日(以下「本件当日」ということがある。)未明、被害者が何者かによって殺害されたことについては、その殺害の態様や死因を含めて争いがなく、本件の争点は、被告人がその犯人であると認められるかどうかである。当裁判所は、以下の検討を経て、被告人が本件の犯人であると認定した(特記のない限り、月日の記載は同年のそれを指す。)。 2 被害者の遺体の発見状況その他の前提となる事実関係は、次のとおりである。 被害者は、本件当日、前記被告人方1階の一室で就寝し、同日午前6時57分頃、その建物のうち、被告人らが経営するP株式会社(当時。以下、単に「会社」ということがある。)の事務所として用いられていた1階北西角の区画にある事務室の床上で、仰向けに倒れた状態で二男に発見され、ほどなく死亡が確認された。司法 解剖の結果、死亡推定時刻は同日午前1時頃から同日午前3時頃、遅くとも同日午 前4時頃までの間と考えて矛盾しないとされた。 被告人は当時、現職の長野県議会議員として活動するとともに、同社代表取締役の地位にあった。現場である被告人の居宅兼会社事 とも同日午 前4時頃までの間と考えて矛盾しないとされた。 被告人は当時、現職の長野県議会議員として活動するとともに、同社代表取締役の地位にあった。現場である被告人の居宅兼会社事務所の建物は、他にも酒蔵、瓶詰工場等複数の建物が並ぶ敷地内にあり、被害者、長男及び二男がその居宅部分を住まいとしていた。被告人も同所に居住していたが、本件当時は令和3年9月長野 県議会定例会の会期中であり、主に長野市内の長野県議会議員会館(長野市(以下住所省略)。以下「議員会館」という。)に滞在していた。被告人は、長野市内と自宅との間を、自身が所有管理する車両(トヨタ・アイシスプラタナ)で行き来していた。 第2 被告人の所在、移動の状況等について 1 検察官の主張等⑴ 検察官の主張検察官は、被告人は、9月28日午後11時20分頃、被告人車両を運転して、滞在していた議員会館を後にし、本件当日午前1時44分頃(第2の項における時刻の記載は、特記のない限り同日のそれを指す。第4の項における時刻の記載 も同じ)に現場に到着して、午前3時4分頃同車を運転して同所を離れ、午前5時7分頃議員会館に戻ったと主張し、その主な根拠に、議員会館と現場との間に設置された防犯カメラ画像の解析(車両の同一性の解析)の結果等を挙げている。 ⑵ 解析の対象とされた防犯カメラ画像について解析の対象とされた画像に係る各防犯カメラの設置場所、補正撮影時刻、車両の 走行方向は、次のとおりである。 ① 議員会館近くの長野県警察本部警務部総務課別室(長野市(以下住所省略)。 以下「県警総務課別室」という。)ア 9月28日午後11時20分北方向(議員会館方面)から南方向イ本件当日午前5時7分南方向から北方向(議員会館方面) (以下住所省略)。 以下「県警総務課別室」という。)ア 9月28日午後11時20分北方向(議員会館方面)から南方向イ本件当日午前5時7分南方向から北方向(議員会館方面) ② C株式会社D事業所(長野県安曇野市(以下住所省略)) 午前0時50分北西方向から南方向③ 現場近くの民家(E方。長野県塩尻市(以下住所省略))ア午前1時43分、午前1時44分西方向から東方向(現場方面)イ午前3時4分東方向(現場方面)から西方向④ 株式会社F塩尻店(長野県塩尻市(以下住所省略)) 午前3時11分南方向から北方向⑤ 長野県安曇野警察署G警察官駐在所(長野県東筑摩郡(以下住所省略))午前4時17分南西方向から北東方向⑥ 聖高原観光案内センター(長野県東筑摩郡(以下住所省略))午前4時26分南西方向から北東方向 ⑦ 県警総務課別室ア 9月22日午後11時38分北方向(議員会館方面)から南方向イ同月23日午前4時53分南方向から北方向(議員会館方面) 2 防犯カメラ画像③(E方)の車両がトヨタ・アイシスプラタナであると認められるかについて(証人H関係) ⑴ H証人の見解の概要H証人(富山県警察職員)は、車両が映った防犯カメラ画像③(E方)と、トヨタ・アイシスプラタナを同じ場所で運転走行させた実験時の同防犯カメラ画像をもとに、スーパーインポーズ法(画像を重ね合わせて対象の形状等が一致するかどうかを確認するという異同識別の手法)による解析を行った結果、防犯カメラ画像③ (E方)の車両は、3つの時刻(午前1時43分、午前1時 インポーズ法(画像を重ね合わせて対象の形状等が一致するかどうかを確認するという異同識別の手法)による解析を行った結果、防犯カメラ画像③ (E方)の車両は、3つの時刻(午前1時43分、午前1時44分及び午前3時4分)ともトヨタ・アイシスプラタナと考えられるとしている。 ⑵ H証人の見解の信頼性に関する検討H証人は、撮影画像をもとにした人物や車両等の異同識別について数十年にわたる豊富な経験・知見をもち、これまでに手掛けた分析・鑑定も相当多数に上るほか、 平成24年以降は、防犯カメラ画像の分析に関する警察庁指定広域技能指導官とい う立場にあって、日頃から自動車の外観装備に関する情報収集も行っているというのであり、画像解析と自動車の特徴双方について高い専門性を有している。H証人が行った解析の手法は、複数の自動車製造販売会社の担当者に、対象画像の車両と外観が似通っている車種を調査・選定させ、トヨタ・アイシスプラタナを含む3車種の走行実験を実施して同じ防犯カメラで撮影した画像を準備し、これらを防犯カ メラ画像③(E方)と現に重ね合わせるなど視覚的に明瞭な方法で対比し、車種の同一性を判断するというものである。H証人は、長野県警担当者から車両の画像を見せられた当初からトヨタ・アイシスではないかと思い立ってはいたものの、予断を与えないようその点を担当者に伝えずにおいたなど、解析過程にも随所に公正さ、慎重さがうかがえ、手法としても疑問の入り込む余地のない手堅いものといえる。 H証人は、当該画像の車両の外観上の特徴を相当数挙げて、トヨタ・アイシスプラタナとトヨタ・アイシスとの外観の相違も意識しながらこれをトヨタ・アイシスプラタナであると結論付けるとともに、異なる特徴を挙げて、外観が類似する他の2車種である可能性を 挙げて、トヨタ・アイシスプラタナとトヨタ・アイシスとの外観の相違も意識しながらこれをトヨタ・アイシスプラタナであると結論付けるとともに、異なる特徴を挙げて、外観が類似する他の2車種である可能性を除外しているが、こうした判断の仕方も、視覚的に難なく確認できる画像上の根拠や、自動車の外観装備に関する豊富な知識に基づくものとして、 十分信頼できる。 H証人の見解は高い信頼性を備えており、防犯カメラ画像③(E方)の車両はトヨタ・アイシスプラタナであると認めることができる。 3 各防犯カメラ画像の車両が被告人車両と認められるかについて(証人I関係)⑴ I証人の見解の概要 I証人は、各防犯カメラ画像(防犯カメラ画像③(E方)アを除く。)について、車種の分類による異同識別(外観上の特徴に着目して車種の同一性を識別する方法)と、車両の固有特徴(個々の車両に特有の外観上の特徴)による車両個別の異同識別という2段階の解析を行い、これらがそれぞれ被告人車両と同一のものといえるかどうかについて、各防犯カメラ画像又はそれらの処理画像と、被告人車両や走行 実験車両(トヨタ・アイシスプラタナ)の画像等とを各々対比させるなどしながら 検討したものである。I証人は、車種分類による異同識別として、どの防犯カメラ画像の車両にも、被告人車両や走行実験車両の画像に係る車種分類上の特徴が複数みられるとし、また、車両の固有特徴による異同識別として、どの防犯カメラ画像の車両にも、被告人車両の固有特徴(後部のナンバープレート左右にある2か所のへこみ及び左側面下部、後輪のすぐ前にあるほぼ水平の直線状のきず。以下、それ ぞれ「へこみきず」「線きず」などということがある。)を確認できるとして、被告人車両との「同一性が高い」との意見を述べ、特に 及び左側面下部、後輪のすぐ前にあるほぼ水平の直線状のきず。以下、それ ぞれ「へこみきず」「線きず」などということがある。)を確認できるとして、被告人車両との「同一性が高い」との意見を述べ、特に、県警総務課別室の防犯カメラ画像①ア及び⑦アについては被告人車両と限りなく同一車両に近い、同じく県警総務課別室の防犯カメラ画像①イ及び⑦イについては被告人車両と同一車両である可能性が非常に高い、という見解を示している。 ⑵ I証人の見解の信頼性に関する検討ア I証人は、長年大学や学会で画像解析の研究活動に従事し、豊富な鑑定実績を有する専門家である上、本件における画像解析の手法・過程も、後述する点を除いては明瞭で理にかなっている。とりわけ、防犯カメラ画像①及び⑦(県警総務課別室)のほか同④(F)及び同⑥(聖高原)の車種分類上の特徴については、暗い 時間帯の撮影画像とはいえ、比較的鮮明に映った車両の外観上の特徴を比較的多く根拠に挙げており、また、防犯カメラ画像①及び⑦(県警総務課別室)の車両の固有特徴については、へこみきず又は線きずの見え方を、そうしたきずのない走行実験車両の撮影画像と比較対照することを通じ、これらの画像の車両にはそれらのきずが確認できるとして、被告人車両と限りなく同一車両に近い、ないしは同一車両 である可能性が非常に高いという判断を導いている。その見解は、画像上比較的無理なく確認できる特徴を手がかりとしており、その過程も違和感の残らないものとなっている。 なお、防犯カメラ画像①(県警総務課別室)イの処理画像で線きずが見えるとされている部分は、被告人車両の処理画像のそれと比較すると、高さがやや異なるよ うにも見受けられる。とはいえ、I証人は、これについて、解像度や撮影角度等を 考慮 ずが見えるとされている部分は、被告人車両の処理画像のそれと比較すると、高さがやや異なるよ うにも見受けられる。とはいえ、I証人は、これについて、解像度や撮影角度等を 考慮して許される範囲内と考えたと納得できる説明をしている上、例えば線きずの位置と形状が一致すると指摘しているのは、これらが概ね一致するといった趣旨に解されるのであって、特に問題はないと考えられる。I証人の見解を批判するJ証人(後記)ですら、この画像の当該箇所にきずが見えることを争っていないことからしても、I証人の見解は当該部分を含めて信頼できる。 このように、I証人の見解において、防犯カメラ画像①及び⑦(県警総務課別室)につき、被告人車両と限りなく同一車両に近い、ないしは同一車両である可能性が非常に高いとし、防犯カメラ画像④(F)及び同⑥(聖高原)につき、被告人車両と共通する車種分類上の特徴がみられるとする部分に問題はなく、信頼することができる。 イ他方、I証人において、防犯カメラ画像②(C)、同③(E方)及び同⑤(G駐在所)の車両について車種分類上の特徴が確認できるとする見解については、これらの画像が他の防犯カメラ画像と異なり、とらえられている特徴の数が限られている以上、各画像の車両が被告人車両の車種の外観と似通っているということができるとしても、被告人車両の車種と同一であると言い切るのは困難ではないかと 考えられ、信頼性が低い。 また、I証人は、防犯カメラ画像①及び⑦(県警総務課別室)以外の画像でも被告人車両の固有特徴(へこみきずや線きず)が確認できるとするが、同証人が指摘する箇所を逐一見てみても、元々の防犯カメラ画像が処理を経てもかなり不鮮明であり、判別のきっかけとされる陰影等は、画像上その存在、位置等を把握すること きずや線きず)が確認できるとするが、同証人が指摘する箇所を逐一見てみても、元々の防犯カメラ画像が処理を経てもかなり不鮮明であり、判別のきっかけとされる陰影等は、画像上その存在、位置等を把握すること が相当困難なものである(例えば、防犯カメラ画像③(E方)イについては、よりはっきり見えるはずのキャラクターライン(側面の線状のデザイン)ですら確認できない不鮮明な画像上で、それより見えにくいはずの小さな線きずが何ゆえ肉眼で確認できるのか疑問である。)。これらの画像に関するI証人の見解はやはり信頼性が低い。 ウところで、弁護人は、証人J(株式会社K代表取締役)の供述を根拠に、I 証人の見解を争っている。J供述は、I証人が、固有特徴による異同識別に当たり、スーパーインポーズ法が可能であるのにこれを実施しないまま、きずの位置等が一致していると判断しているのは疑問である、各防犯カメラ画像を、被告人車両の画像ではなく走行実験車両の画像と比較しているのは意味がない、などと批判している。 しかし、J証人の画像解析の経験・知見は限られており、I証人と比較すると、必ずしもこの分野に通じているわけではないといわざるを得ない。また、I証人は、スーパーインポーズ法を実施するには、画像の撮影角度が合っていて、境界が明瞭であることが必要である旨を述べるなど、その手法を積極的には使用しなかった考えについて納得のいく説明をしている(H証人も、スーパーインポーズ法の実施条 件として、撮影角度や明るさ、対象の向き等が同じであることを挙げており、I証人の見解に沿う説明をしている。もとよりH証人がスーパーインポーズ法を用いて解析した画像は、この条件を満たしている。)。そして、J証人が実施したという3Dスーパーインポーズ法によれば、 ており、I証人の見解に沿う説明をしている。もとよりH証人がスーパーインポーズ法を用いて解析した画像は、この条件を満たしている。)。そして、J証人が実施したという3Dスーパーインポーズ法によれば、防犯カメラ画像④(F)と被告人車両の画像は一致しなかったとのことであるが、そこで重ね合わせられた画像を見ても、画像 の暗さなどもあって、どの部分でどのように不一致を来しているのかを判別できない上、何ゆえこうした画像を選んで解析を行ってみせたのかも理解し難い。また、I証人は、各画像の車両に被告人車両の固有特徴が確認できるかどうかをより明確に判断できるよう、そうした固有特徴がない走行実験車両が画像上どのように映し出されるかを把握するための比較材料としてこれを示しているのであって、J証人 は、こうした趣旨を誤解している。J証人は、きずの位置等を把握するには、目測ではなく、基準線を設けるなどして確認する必要があるともいうが、不鮮明でぶれ等が生じている画像の性質上、そうした作業が可能かどうか、それにどの程度意味があるのかも疑問である。 このように、J証人の見解は信用できず、I証人の見解に対する評価は左右され ない。 4 各防犯カメラ画像の車両がトヨタ・アイシスプラタナと認められるかについて(証人L関係)⑴ L供述の概要L証人(M株式会社社員)は、トヨタ・アイシスプラタナの全体の形状・外観上の特徴を踏まえ、各防犯カメラ画像の車両は、トヨタ・アイシスプラタナと言って よいとか、その可能性が高いなどと供述する。 ⑵ L供述の信用性に関する検討L証人は、長らくトヨタ車の営業販売に従事し、トヨタ・アイシスプラタナの外観装備等に通じている上、本件と無関係な第三者であって、基本的には、公平で客観的な供述を期待で L供述の信用性に関する検討L証人は、長らくトヨタ車の営業販売に従事し、トヨタ・アイシスプラタナの外観装備等に通じている上、本件と無関係な第三者であって、基本的には、公平で客観的な供述を期待できる証人である。特に防犯カメラ画像①及び⑦(県警総務課別 室)の車両に関し、ほぼトヨタ・アイシスプラタナと言ってよいと確信的に供述するところは、比較的鮮明な画像に見られる外観上の特徴を多数その根拠にした説明であり、十分納得できる。ただし、L証人は、それ以外の防犯カメラ画像につき、確認できる外観の特徴が限られているのに、これらをトヨタ・アイシスプラタナである旨あっさりと明言し、あるいは、各防犯カメラ画像が白黒のものであっても、 他の画像との比較等をせずに、ヘッドライトの発光が特に明るく白く見えるなどとして、トヨタ・アイシスプラタナの特徴があると判断するなど、説得的とはいい難い。L証人は画像分析の知見等をもたず、形状・外観が類似する他の車種と比較してこれを除外するような検討も経ていない。よって、防犯カメラ画像①及び⑦(県警総務課別室)以外の画像の車両がトヨタ・アイシスプラタナであるとする供述は、 それらの車両の外観がそれと類似しているといった限度ではそう言えるとしても、これを全面的に採用することはできない。 5 検討⑴ 防犯カメラ画像の解析結果から導くことができる事実関係等についてア検察官は、被告人は9月28日午後11時20分頃から本件当日午前5時7 分頃にかけて、被告人車両で議員会館から現場に移動し、また現場から議員会館に 戻ったと主張するが、前記のとおりI証人の見解やL供述の信用性には部分的に問題があることからすると、直ちには採用できない。 イしかし、防犯カメラ画像①(県警総務課別室)に関 に 戻ったと主張するが、前記のとおりI証人の見解やL供述の信用性には部分的に問題があることからすると、直ちには採用できない。 イしかし、防犯カメラ画像①(県警総務課別室)に関するI供述等によれば、被告人車両と限りなく同一車両に近いとされる車両が、9月28日午後11時20分頃、議員会館のごく近くを北方向(議員会館方面)から南方向に走行していき、 本件当日午前5時7分頃、被告人車両と同一車両である可能性が非常に高いとされる車両が、同じ場所を反対に南方向から北方向(議員会館方面)に走行していったことは間違いない。また、防犯カメラ画像③(E方)に関するH供述等によれば、トヨタ・アイシスプラタナが、午前1時44分頃、現場のごく近くの交差点を西方向から東方向(現場方面)に進行していき、午前3時4分頃、トヨタ・アイシスプ ラタナが、前記交差点を反対に東方向(現場方面)から西方向に進行していったことも間違いないところである。これらに併せて、I供述によれば、防犯カメラ画像④(F)及び同⑥(聖高原)の車両はトヨタ・アイシスプラタナであると、また、防犯カメラ画像②(C)及び同⑤(G駐在所)の車両も、少なくとも外観はトヨタ・アイシスプラタナのそれと類似していたとそれぞれ認めることができる(これ ら防犯カメラ画像②、④ないし⑥の車両については、L供述によっても、トヨタ・アイシスプラタナの外観と類似しているということができる。)。 以上から確認できることは、被告人が、9月28日午後11時20分頃から本件当日午前5時7分頃にかけ、被告人車両を運転して議員会館から現場に移動し、また現場から議員会館に戻って、両地点を往復したとみた場合、その往路の出発点に 当たる議員会館のごく近くを、被告人車両と限りなく同一に近いとされる車両 人車両を運転して議員会館から現場に移動し、また現場から議員会館に戻って、両地点を往復したとみた場合、その往路の出発点に 当たる議員会館のごく近くを、被告人車両と限りなく同一に近いとされる車両が進行し、往路の到着点に当たる現場のごく近くを、トヨタ・アイシスプラタナが現場の方に向かい、その後、復路の出発点に当たる同地点をトヨタ・アイシスプラタナが現場から離れていき、復路の到着点に当たる議員会館のごく近くを、被告人車両と同一の可能性が非常に高いとされる車両が進行した、ということである。加えて、 議員会館と現場との間にある他の複数の地点でも、被告人車両と同じ車種の車両又 はその車種と外観が類似した車両が走行していたというのであり、以上を要するに、被告人が前記時間帯に被告人車両で議員会館と現場とを往復したとみた場合、その移動の状況に符合するであろう複数の時刻・地点において、被告人車両である可能性が高い車両、あるいは被告人車両と車種・外観が共通又は類似する車両が、その移動状況と符合する方向にそれぞれ走行していたこととなる。 ウ弁護人が指摘するとおり、関係証拠上これらの車両が全て被告人車両であるとか、同一車両であるとは認定できないが、当時が交通量の少ない時間帯であったことにも照らすと、こうした状況は、相当な偶然が重ならなければ生じない事態ではないかと考えられ、被告人が28日深夜から本件当日早朝にかけて被告人車両で議員会館と現場との間を往復したというのは、純然たる仮説にとどまるようなもの ではない(なお、弁護人は、被告人を犯人視する捜査機関が「不審車両の推定走行ルート」を作り出したと主張し、防犯カメラ画像の補正時刻の正確性を争っているが、担当警察官の供述等によれば、各画像の収集・精査等は恣意的なものではな 、被告人を犯人視する捜査機関が「不審車両の推定走行ルート」を作り出したと主張し、防犯カメラ画像の補正時刻の正確性を争っているが、担当警察官の供述等によれば、各画像の収集・精査等は恣意的なものではなく、その正確性に問題はないものと認められる。)。 ⑵ 現場付近での近隣住民の目撃供述について(証人N関係) アところで、現場の近隣に住むN証人は、本件当日午前3時過ぎ頃、会社敷地南の駐車場で、ある男性が駐車車両の後ろに立って、ハッチバックドアを手で上に開けている様子を見た、その人物の背丈は証人自身(身長約172センチメートル)より少し高かったように思われ、体格はがっちりというより普通の体型に見えた、二、三分後に戻ってくるとその車両と人物はいなくなっていたと供述している。 N証人は、辺りは結構薄暗かったとはいうものの、そう遠くない距離から相応の注意をもって目撃していたと認められる上、その内容は、全体を通じ認識・記憶の有無や程度に応じて素朴かつ慎重に述べられている。目撃した時間帯についても、付近にある米の乾燥機の様子を一定の時間おきに確認すべく、午前3時の到来を知らせる柱時計(正確な時刻より2分余り進んでいたもの)の音を聴いて移動を開始 したこと、歩行実験捜査の結果、前記駐車場付近への移動におよそ3分がかかるこ とが判明したことなどを根拠としており、相応に正確なものと認められる。N供述は十分信用できる。 イ N証人が目撃した車両や人物が本件と関係するものかどうかは、その供述自体からは明らかではない。しかし、防犯カメラ画像③(E方)イから認められるように、午前3時4分頃、トヨタ・アイシスプラタナが現場や前記駐車場のごく近く の交差点を東方向(現場方面)から西方向に進行していったこと、トヨタ・アイシ 犯カメラ画像③(E方)イから認められるように、午前3時4分頃、トヨタ・アイシスプラタナが現場や前記駐車場のごく近く の交差点を東方向(現場方面)から西方向に進行していったこと、トヨタ・アイシスプラタナにはハッチバックドアが採用されていて、N供述にある車両の特徴と共通することのほか、当時当該道路を行き来する車両がほとんどなかったとみられることからすると、N証人が目撃した車両が、その後間もなく前記駐車場を西方向に出発したとみると、時間的にちょうど整合することとなる(なお、N証人が述べる 当該人物の外見の特徴はありふれたものでしかないが、これらも被告人のそれと矛盾しない。)。 このことは、被告人が9月28日深夜から本件当日早朝にかけ、被告人車両で議員会館と現場との間を往復したとすると、議員会館に向かって現場を後にしたであろう正にその時刻・地点において、一応はそれと符合する人物と車両が目撃されて いることを意味している。 第3 動機について 1 検察官の主張検察官は、被告人は不倫相手であったAとの復縁・交際を強く望んでいたところ、被害者がいる限りそれらが不可能な状況にあったため、被害者の死亡を望んでいた と主張し、被告人が離婚できない状況にあった理由として、被害者の実家からの借金の返済を猶予してもらえず、選挙等の支援が得られなくなると考えていた旨を指摘している。 2 証拠上認められる事実関係⑴ 被告人の不倫等について ア被告人は、平成27年12月頃からAと不倫関係にあった。平成28年8 月頃までに被害者にそのことが発覚し、被害者の父からも追及を受けたが、不倫関係を絶つ旨うそを言いつつもAとの交際を継続し、令和元年になってからは、Aに対し、離婚に向けて動いているが進展はない 月頃までに被害者にそのことが発覚し、被害者の父からも追及を受けたが、不倫関係を絶つ旨うそを言いつつもAとの交際を継続し、令和元年になってからは、Aに対し、離婚に向けて動いているが進展はないなどとうそを言うようになった。 Aは、令和元年12月下旬頃にBと親密な間柄となり、その頃から交際するようになったところ、被告人は、そのようなAから同じ頃に別れ話を切り出され、一 時期連絡を取らなくなったが、令和3年5月ないし同年6月頃、たまたま対面したAに、離婚が決まった、詳しくはまた話すと告げ、それ以降、話を聞いてほしいと、会うことをたびたび求めるようになり、同年9月3日、しばらく応じてもらえなかったAとの外食をすることとなった。その際に被告人は、不倫関係が続くことを嫌がるAに対し、夫婦間では離婚が決まった、新学期をめどに離婚し、 長男は自分と塩尻で、二男は妻と東京で暮らすなどと言い、結婚したら仕事を続けたいか、塩尻に来たいか、想像してほしい、自分との結婚に不安があるかなどと結婚を迫る生々しい発言を重ねるとともに、交際相手と別れるよう繰り返し求め、そうした会話は概ね二、三時間に及んだ。Aは被告人の求めには応じなかったものの、この頃から被告人は、それまで以上に頻繁にAを食事等に誘うように なり、同月17日には外食をともにした後、ホテルに宿泊した。 イ被告人は、被害者が死亡して間もない同年10月10日頃から、LINE等でAと連絡を交わす中で再三好意を伝え、頻繁に食事等に誘い、交際の再開を強く求めるようになった。Aは誘いを断り、交際の再開についても返事を先送りにしていたが、同年12月頃以降、両名は密に連絡を交わしてホテルで密会を重 ねるようになった。被告人は、Aに交際相手との交際状況を尋ね、別れてほしいと言っていたが、A 開についても返事を先送りにしていたが、同年12月頃以降、両名は密に連絡を交わしてホテルで密会を重 ねるようになった。被告人は、Aに交際相手との交際状況を尋ね、別れてほしいと言っていたが、Aは、令和4年2月頃までに被告人に対し、距離を保とうと思う、付き合えないなどと伝え、次第に、食事やLINEを明確に拒否するようになった。 同年7月、被告人は、交際中の男女等を別れさせる工作を請け負う業者(別れ させ屋)に偽名で連絡をとり、交際相手がいる女性と復縁をしたいので、二人を 別れさせてほしい旨の相談をもちかけ、具体的な条件のやり取りをした。同年8月にも、別の同種業者に同様に相談をもちかけた。 ⑵ 被告人の県議会議員としての地位等について被告人は、塩尻市の有力者に推挙される形で、平成27年4月の長野県議会議員選挙に初めて立候補をし、当選を果たした。選挙の際、被害者の父は、選挙活動資 金のあてのない被告人のために約300万円を貸し渡すとともに、自らも地元であるQ地区を中心として、人脈等をもとに投票の呼び掛けを行うなど精力的に選挙応援に当たった。被害者やその母も選挙事務所で諸々の手伝いに当たった。 被告人と被害者は、平成27年12月頃までの間に、被害者の実家から、会社の経営資金として合計約4000万円を借り受けていた。被告人が不在にしがちな中、 被害者は率先して同社の経営業務全般にいそしむ一方、かねて同社の経営や資金をめぐる状況を案じ、実家からの多額の借入れについて、被告人は返済に向けた心構えがなっていないとして悩みを深めていた。被害者は、平成27年頃から平成28年頃にかけて、被告人とAとの不倫を知ってショックを受けたことを含め、被告人について悩みを深める心情を私的なメモにひそかに書き留めていた。 として悩みを深めていた。被害者は、平成27年頃から平成28年頃にかけて、被告人とAとの不倫を知ってショックを受けたことを含め、被告人について悩みを深める心情を私的なメモにひそかに書き留めていた。 ⑶ A供述の信用性に関する検討前記⑴の認定根拠にA供述がある。A供述には、Bと交際していたことを否定するなど、自身の日記の記載やLINEのやり取りと明らかに整合しないところがあり、Bとの交際状況に関する部分は信用できない(Bも、Aとは交際していたわけではないと述べているが、Bに家庭があることなどに配慮して、両名がそろって虚 偽を述べている可能性すらあり、これらの供述は信用できない。)。しかし、A供述は、被告人との交際状況やその推移、自身に復縁・交際を求める被告人の発言等に関しては、日記やLINE等により裏付けられている上、内容としても違和感の残らない自然なものである。A供述は、被告人との交際状況、とりわけ、被告人がAに復縁・交際を求めていた状況等を認定する上で十分信用できる。 3 検討 ⑴ 被告人の不倫等について被告人は、長らくAと不倫関係にあり、妻である被害者や初当選時に尽力したという被害者の父にそのことが発覚して追及を受けたのに、その後もいっこうにAとの関係を断つことなく、一時期連絡を交わさなくなった後も、Aに対し、離婚が決まった、自分との結婚に不安があるかなどとうそを交じえつつ結婚を迫る生々しい 発言を重ねるなどして、再三復縁を求めるようになっていた。そればかりか、妻が不慮の死を遂げて間もなく、通常であれば、突然の悲劇に衝撃を受け、家族と悲嘆に暮れ、様々な活動等を自粛しているであろう時期、あるいは、Aとの関係が世間に露見すると、悪評が生じ、本件の犯人ではないかと疑われることすら予 もなく、通常であれば、突然の悲劇に衝撃を受け、家族と悲嘆に暮れ、様々な活動等を自粛しているであろう時期、あるいは、Aとの関係が世間に露見すると、悪評が生じ、本件の犯人ではないかと疑われることすら予想されるような時期に、早々にAと連絡を交わしてこれまで以上に強く復縁・交際を求める ようになり、しばらくの間、ホテルで密会を重ねるなどしていたものである。明確に復縁を拒まれるようになった後は、別れさせ屋に連絡を取って、Aと交際男性を別れさせる画策を思案するという踏み込んだ行動にも出ていたことを併せ考えると、本件が発生した令和3年9月やその前後の時期に、被告人は、Aを振り向かせて復縁・交際を果たしたいという思いを相当強く募らせていたものと認められる。Aが 交際男性と別れようとせず、被告人が嫉妬やあせりなどからこうした思いを一層強くしていたとしても、無理からぬ状況にあったともいえる。なお、被告人は、Aと結婚するという考えはなかったと供述しているが、仮にその供述どおり、Aに対して結婚を迫るかのような被告人の一連の言動が全てもっぱらAの気を引くためだけのものであったとしても、いずれにせよ、被告人がAに相当強い思いを寄せていた ことは間違いないと認められる。 ⑵ 被告人の県議会議員としての地位等について仮に、被告人が不倫相手と復縁・交際したいという思いから被害者に離婚をもちかけようとすると、数年前、その不倫が被害者の父に発覚して追及されたのに、うそを言って長らく関係を継続していたことが露見するなどして、被害者の実家との 関係が急激に悪化することは必至であるし、自身が身を置く政財界等での悪評など 様々な痛手をこうむることも予想されたと認められる。しかも被告人は、初当選の際、被害者の父から活動資金等の支援を受 悪化することは必至であるし、自身が身を置く政財界等での悪評など 様々な痛手をこうむることも予想されたと認められる。しかも被告人は、初当選の際、被害者の父から活動資金等の支援を受けたほか、会社経営のためにも多額の資金援助を受けるなどしていたもので、県議としての地位も会社経営も、いわば被害者の実家によって支えられているような状況にあった。検察官が主張するように、被告人が、被害者と離婚すると借金返済を求められて生活が維持できなくなるとか、 選挙支援が見込めなくなって県議を続けられなくなるなどと具体的に考えていたかどうかはともかく、強い思いを寄せるAが、不倫に対する抵抗感から復縁・交際に応じようとしない状況にあっても、こうしたしがらみの中、被告人にとって、離婚は決して現実的なことではなかったといえる。 ⑶ 被告人をめぐる状況等に関する検討 アこうしてみると、被告人にとって、被害者が仮に事件・事故により不慮の死を遂げるということがあれば、そのことは、Aが復縁・交際に応じてくれる可能性が広がり、かつ、離婚をもちかけようとした際の種々のリスクはあまり深く考え込まずともよくなるような事態であったということができる。一般には、このような状況におかれたからといって、妻の殺害という極端な行動に出る動機には結びつか ないと思われるが、とりわけAに対する思いを相当強くしていた被告人が、そうした行為に出ることを次第に思案するようになったり、場当たり的にそのような考えを思い立ったりしたとしてもおかしくはなかったと考えられる。少なくとも被告人は、夫婦の関係が愛情にあふれ、妻を殺害するなど思いもよらないといったような状況にはなかったと認められる。 イ弁護人は、夫婦関係は良好であったなどというが、被告人が不倫にふけって も被告人は、夫婦の関係が愛情にあふれ、妻を殺害するなど思いもよらないといったような状況にはなかったと認められる。 イ弁護人は、夫婦関係は良好であったなどというが、被告人が不倫にふけっていた状況や、被害者が実家からの借金や被告人の不倫に悩みを深めていた経過があったことからして、大きな疑問がある。弁護人が根拠に挙げる事件前に両名がしていたLINEのやり取りも、事務的な連絡にすぎず、関係が良好であったあらわれなどではない(被害者作成の前記メモには、ありのままの被告人を受け入れる覚悟 ができたとの記載があり、弁護人はこのことも指摘するが、メモ全体に目を通せば、 その多くはむしろ被告人の借金や不倫に思い悩む厳しい心情を吐露する内容である。)。その他の弁護人の主張も採用できない。 第4 現場の状況、痕跡等について 1 検察官の主張検察官は、現場の状況から被告人が犯人であると認定でき、物盗り犯による犯 行をうかがわせる形跡は、被告人の偽装工作であると主張している。 2 証拠上認められる事実関係⑴ 遺体の発見場所や周辺の状況について居宅兼会社事務所の一角にある事務所(事務室及びその西側前室からなる区画)のうち、遺体が発見された事務室には、その東側に居宅部分につながる扉があり、 同扉のすぐ近くの同室内の壁に事務所の照明のスイッチがあった。事務所の照明は、午前2時23分頃は消灯されていたが、午前2時44分頃、午前3時2分頃は点灯していた(以降午前5時50分頃まで点灯を確認することができた。)。 本件の後、事務室内の事務机やキャビネット等には、遺体の発見場所の周辺を含め荒らされたり乱されたりした形跡はなかったが、事務室中央部分に配置されてい た事務机4台のうち1台(事務所西側の出入口に比 の後、事務室内の事務机やキャビネット等には、遺体の発見場所の周辺を含め荒らされたり乱されたりした形跡はなかったが、事務室中央部分に配置されてい た事務机4台のうち1台(事務所西側の出入口に比較的近い南西方に配置されたもの。以下「本件事務机」という。)の最下段の引き出し内で保管されていた手提げ金庫が解錠され、鍵が刺さったままの状態となっており、在中の現金5万117円のうち約3万6900円がなくなっていた。この鍵は、本件事務机の別の引き出し内で保管されていた。 被害者の遺体は、頸部等に複数の表皮剥脱が見られたほかは目立った外傷等はなく、暴力を振るわれたり激しく抵抗したりしたような跡はなかった。本件当日被害者、二男や長男が寝ていた各部屋は、事務所東側扉を出てごく近い位置にあった。 ⑵ 足跡痕についてア関係者は日頃、事務所西側の出入口で靴を脱いで入室し、事務所内で靴を 履いていることはなかったが、本件当日の鑑識捜査の結果、その出入口から西側 前室を経て、事務室中央部分の事務机4台が配置されていた辺りにかけて、不鮮明な痕跡が確認されたほか、土等の付着した外靴の足跡痕が複数確認された(以下、単に「土足痕」というのは、事務所内で確認されたような外靴による足跡痕を指す。)。土足痕は、事務所出入口から事務室中央部分の方向につま先が向けられたと認められるものが12か所で、中央部分から出入口の方向に向けられた と認められるものが1か所で確認された。反対に、事務室中央部分やそれよりも東側(居宅部分側)には、遺体が発見された地点や照明スイッチの周辺を含めて土足痕はなく、不鮮明な痕跡もほとんど確認されなかった。また、土足痕は、瓶詰工場内でも、出入口や中央の付近を含む18か所で確認された。 イなお、弁護人は 発見された地点や照明スイッチの周辺を含めて土足痕はなく、不鮮明な痕跡もほとんど確認されなかった。また、土足痕は、瓶詰工場内でも、出入口や中央の付近を含む18か所で確認された。 イなお、弁護人は、足跡痕の鑑識結果の正確性を争っている。しかし、鑑識 作業の指揮に当たったR警察官は、現場鑑識にまつわる長年の経験をもとに、会社敷地全体につき網羅的に足跡痕やそれと思しき痕跡等を検索し、一般的な手順に従って保全・記録等を行ったものと認められ、そうした鑑識結果の信頼性に特に問題はないといえる(R警察官が、つま先の方向や左足右足の区別は、鑑識課足跡痕係の鑑定官の協力を得て判定したと供述しているところについては、足跡 痕の画像からいかなる作業を経てその判定に至ったかが必ずしも明らかではなく、いかに正確性が確保されているのか判然としないが、専門部署の協力を仰ぎ、広く定着した方法によって判定されたと解することができ、R供述はその点を含め信用してよいと考えられる。)。弁護人は、犯人の情報が未解明な段階で、単独犯であるという見込みを前提に鑑識作業が進められたと批判しているが、R供述 によれば、関係者が土足で立ち入らない事務所で外靴の痕跡が発見されたので疑いを抱き、他に発見された同様の外靴の痕跡について検索・保全等を行ったと認められ、その手順・手法は常識にかなっており、特に問題はない。実際に、複数の犯人が侵入・物色した形跡等はなく、こうした鑑識作業を不当な見込み捜査として批判するのは不合理である。弁護人のその他の指摘にも採用すべきものはな い。 3 検討⑴ 犯人が物盗り目的の外部の侵入者である可能性についてア現場の状況、痕跡等について現場の状況、痕跡等を前提に、本件の犯人が物盗りを目的とした全く 。 3 検討⑴ 犯人が物盗り目的の外部の侵入者である可能性についてア現場の状況、痕跡等について現場の状況、痕跡等を前提に、本件の犯人が物盗りを目的とした全く外部の侵入者である可能性について検討すると、事務所内には、事務机やキャビネット、棚等 が至るところに配置され、物盗り犯であれば物色しようと考えるであろう箇所がいくつもあるのに、現に現金が盗み出された本件事務机以外に物色の痕跡がないことは、物盗り犯の行動の跡として相当不自然である。こうした物盗り犯が侵入後に手提げ金庫を発見した以上、それごと盗み取ればよいのにそうはせず、現金の一部のみを盗み取って約1万3000円もの現金を置き残したこととなり、この点も不可 解である。 また、被害者が事務室内で犯人と相応に近い位置関係に立つという状況があったことは間違いないところ、未明に予期せぬ形でこうした侵入者に遭遇した場合には、驚愕や恐怖から声を上げ、そうでなくとも抵抗を試みたり逃走を図ったりする中で物音が生じるなどしてもおかしくはないのに、近くで寝ていた二男らが目を覚ます ことはなかった。また、遺体が発見された地点の周囲には事務机やキャビネットがあったのに、物が散らかり壊れるなどした様子はなく、遺体にも、暴力を振るわれ、あるいは激しく抵抗したような跡はない。このように、現場等の状況は、被害者が予期せぬ形で侵入者と遭遇したにしては、荒らされたり乱されたりした跡がなく整然としており、不可解な印象を強くせざるを得ない。 加えて、事務所の照明は、午前2時23分頃から午前2時44分頃までの間に点灯し、以降点灯状態が続いたものであるが、物盗り犯であれば、侵入先で自ら照明を点灯してそのままにしておくということは想定し難い(照明スイッチの周辺に土 前2時23分頃から午前2時44分頃までの間に点灯し、以降点灯状態が続いたものであるが、物盗り犯であれば、侵入先で自ら照明を点灯してそのままにしておくということは想定し難い(照明スイッチの周辺に土足痕がなかったことからしても、物盗り犯がこれを点灯した可能性はほぼない。)。 そうすると、照明を点灯したのは被害者であったこととなるが、照明を点灯した際 には、予期せぬ形で侵入者と遭遇したはずであり、そうであれば、事務所東側扉か ら居宅部分の方に逃げようとしてしかるべきであるのに、遺体が発見されたのは、その扉付近というよりむしろそこから事務室の内部に向かって、つまりは、侵入者がいたであろう方向に向かって歩を進めなければ到達しないような事務室中央部分に近い地点であることも、不可解というべきである。そもそも、物盗り犯が家人と遭遇したような場合、急いで逃走しようとし、あるいはとっさに暴力を振るったり 金品を要求したりすることが想定されるが、本件の犯人が物盗り犯であったとすると、それとは全く異なり、被害者に遭遇するなり強い殺意を抱き、絞殺するという方法でこれを実行に移したこととなり、しかも、これといった物音を立てず、暴力や抵抗の痕跡等をおよそ残すことなく殺害を遂げたことになるわけであって、やはり不可解というべきである。 イ足跡痕について更に足跡痕の遺留状況を前提に検討すると、物盗り犯であれば、まずは靴を履いたまま事務所に侵入したものと想定されるが、そうすると、事務所内で、発覚をおそれながら西側前室や事務室の中を物色しつつ移動した際に残されたはずの土足痕がなく、事務所出入口と本件事務机との間というごく限られた場所にしかこれが残 っていないのは、明らかに不自然である。しかも、遺体が発見された地点の周囲に土 つつ移動した際に残されたはずの土足痕がなく、事務所出入口と本件事務机との間というごく限られた場所にしかこれが残 っていないのは、明らかに不自然である。しかも、遺体が発見された地点の周囲に土足痕がなかったことからすると、靴を履いて侵入した物盗り犯が靴を脱いだ状態で殺害に及んだこととなるが、そうした事態はもはやあり得ないといってよい(物盗り犯が靴を脱いで侵入したとすると、事務所出入口と本件事務机との間に限って外靴の跡を残すという無意味な行動をとっていたこととなって、その可能性もな い。)。なお、事務所内で発見されたものと同様の土足痕が、瓶詰工場内でも少なからず遺留されており、犯人は、一見して金品の保管先とは思われないような瓶詰工場に立ち入っていたと認められる。犯人が物盗り犯であったとすると、このようにその行動が物盗りに向けられていないようにうかがわれるのも不可解である。 ウ小括 このように、本件の犯人が物盗り目的の外部の侵入者であるとすると、現場の状 況、痕跡等には不可解なところが相当目立ち、その可能性はないに等しいことが確認できる。 ⑵ 現場の状況、痕跡等が指し示す本件の犯人像についてア本件の犯人が物盗り犯である可能性が否定されると、現場である事務室から現金が盗み取られたことや、事務所出入口とその現金の保管場所との間に土足痕が 遺留されていたことなど、物盗り犯の犯行であることを想起させるこれらの形跡は、物盗り犯ではない犯人があえて物盗り犯の犯行のように見せかけ、そのように捜査をかく乱しようとしたものと相当強く推認される。 イその上で、本件事務机から現金の一部が盗み取られた一方、他の箇所に物色された形跡が全くないこと、それどころか、犯人が事務所出入口と本件事務机との 間 ようとしたものと相当強く推認される。 イその上で、本件事務机から現金の一部が盗み取られた一方、他の箇所に物色された形跡が全くないこと、それどころか、犯人が事務所出入口と本件事務机との 間にのみ土足痕を残したということは、その犯人が事務所内で現金を盗み取ることができる箇所を知っていた人物であることを指し示している(事務所内の土足痕のつま先の方向等がR警察官の供述どおりであるとすると、犯人は出入口から本件事務机の方に迷うことなく歩を進めたこととなり、なおさらである。)。 また、現場等の状況が、被害者が予期せず侵入者と遭遇したにしては整然として いること、被害者が事務室の扉付近や居宅部分ではなく、事務室中央部分に近い地点で殺害されたことなどは、その犯人が、被害者において未明に事務室内で遭遇し、相対するなどしても違和感のない間柄の人物であることをうかがわせる事実関係といえる。なお、事務所の照明が点灯され点灯状態が続いたことは、被害者と相当程度関係が近い者が犯人であったとすると特に不可解ということはなく、容易に説明 可能である。 ウ弁護人は、現場の状況、痕跡等からすれば第三者の犯行と考えるのが自然であるとした上で、例えば、侵入した犯人が瓶詰工場等を物色しながら移動し、事務所で物盗りに及び、風の吹き込みによる物音に気づくなどした被害者が照明を点灯して事務所に入ってきたのに対し、発覚を防ぐために同人に襲いかかって押さえつ けた、とみても不自然ではないと主張している。しかし、そのような見立ては、正 に現場の状況、痕跡等と様々な点で矛盾を来し、現実的にはほぼ想定できない。むしろ、現場の状況、痕跡等から浮かび上がってくるのは、本件の犯人が物盗り犯ではなく、物盗り犯の犯行のように見せかけようとしたこと、その 況、痕跡等と様々な点で矛盾を来し、現実的にはほぼ想定できない。むしろ、現場の状況、痕跡等から浮かび上がってくるのは、本件の犯人が物盗り犯ではなく、物盗り犯の犯行のように見せかけようとしたこと、その犯人が事務所内で現金を盗み取ることができる箇所を知っており、かつ、被害者が未明に事務室内で遭遇するなどしても違和感のない人物である、ということである。こうした条件を 兼ね備えるのは、基本的には、被害者や会社と相当程度関係が深い者に限られると考えられる。 ⑶ 土足痕と被告人が使用していたテニスシューズとの照合等について(証人S関係)ア S証人の見解の概要及び信用性に関する検討 T株式会社においてテニスシューズのデザインを含む製品開発等を担当していたというS証人は、平成23年10月に撮影された被告人等の写真画像数点を見分し、そこで被告人が履いている靴は、自身がかつてデザインを担当した同社製造のテニスシューズ(製品名パワークッション121FW/品番SHT121FW。以下「121FW」という。)である旨供述している。S証人は約30年来、 同社でこの種製品のデザイン考案等に数多く携わり、121FWの開発を手掛けた担当者その人であることからしても、その見解には相当の重みがある。また、その供述は、121FWのデザイン上の特徴が、前記画像で被告人が履いている靴に複数確認できることを根拠とした無理のないものであり、信ぴょう性が高い。 また、S証人は、事務所等の土足痕の画像と121FWの底面のデザインを照 合した結果、事務所における土足痕のうち11か所及び瓶詰工場における土足痕のうち11か所の痕跡は、121FW又はこれとデザインが共通する他の2製品(以下、まとめて「121FW等」という。)によるものと判断できるとしている。S証 痕のうち11か所及び瓶詰工場における土足痕のうち11か所の痕跡は、121FW又はこれとデザインが共通する他の2製品(以下、まとめて「121FW等」という。)によるものと判断できるとしている。S証人は、同社製造のテニスシューズのデザインにまつわる豊富な知識をもとに、121FW等がもつ特徴的な底面のデザインが、土足痕の各画像のつま先 部分を中心に複数確認できることを根拠に挙げており、その過程では、121F Wのデザイン図面を土足痕の画像と重ね合わせながら検討を進めたというのであって、その判断の在り方は明瞭にして合理的である。S証人は、自身の考えを確信的に述べる一方で、不鮮明な画像に対しては慎重にあえてコメントを差し控えるなど、真摯に自身の見解を示している。土足痕の各画像と121FW等との照合の点に関しても、S証人の見解は十分信頼をおくことができる。 イ土足痕のかかと部分にみられる線状の模様等について土足痕の各画像には、かかとに該当する部分に細かい線状の模様がみられるものがあるところ、S証人は、それは121FW等のデザインではなく、靴下かストッキング等の何かが介在した跡と思われる旨供述している。たしかに、こうした線状の模様が残されている理由・経緯は結局不明であるが、S証人は、土足痕の各画像 のつま先部分に限っても特徴的なデザインが複数確認できることから、それらの土足痕がそのようなデザインを兼ね備えた121FW等の痕跡であると判断しており、その見解の信頼性が揺らぐわけではないと考えられる。 弁護人は、物盗りに慣れた物盗り犯であったからこそ靴下等の物をかぶせたはずであると主張する。しかし、本件の犯人が物盗り犯ではなくとも、物盗り犯の犯行 に見せかけようとしていることは明らかで、そのような犯人 盗りに慣れた物盗り犯であったからこそ靴下等の物をかぶせたはずであると主張する。しかし、本件の犯人が物盗り犯ではなくとも、物盗り犯の犯行 に見せかけようとしていることは明らかで、そのような犯人が何らかの細工をしたという説明が成り立つところであり、そうである以上、土足痕に線状の模様がみられることが、物盗り犯が犯人である根拠となるわけではない。S証人の見解に対する弁護人のその他の批判も、見解を誤解・曲解しているか、供述の中で説明済みの事柄をあえて問題視しようとするものであり、採用の限りではない。 ウ小括以上によれば、犯人が、物盗り犯の犯行に見せかけるために事務所内に残した土足痕は、本件の約10年前に被告人が使用していたテニスシューズと同じ底面のデザインをもつ靴によるものと認められる。ただし、これらの土足痕を残した靴、つまり本件の犯人が履いていた靴が被告人使用の前記テニスシューズと同一 とまでは認められない。 ⑷ 現場に遺留された圧着ペンチについて関係証拠によれば、遺体発見時、その近くの床上に圧着ペンチ(電気工事に用いる工具)が遺留されていたことが認められる。検察官は、本件前に瓶詰工場内で保管されていた圧着ペンチが、本件後に見当たらなくなっていたこと、本件当日の概ね午前9時頃、本来消灯されているはずの瓶詰工場の照明が点灯していたことなど から、犯人が瓶詰工場の照明を点灯して圧着ペンチを持ち出し、凶暴な物盗り犯の犯行を装う偽装工作としてこれを遺体近くに遺留したと主張している。 しかし、会社従業員2名の供述によっても、現場に遺留されていた圧着ペンチが瓶詰工場内で保管されていたそれと同じものかは定かではないし、凶暴な物盗り犯を装おうとするのであれば、圧着ペンチを用いて暴力に及んだ跡を残そう 員2名の供述によっても、現場に遺留されていた圧着ペンチが瓶詰工場内で保管されていたそれと同じものかは定かではないし、凶暴な物盗り犯を装おうとするのであれば、圧着ペンチを用いて暴力に及んだ跡を残そうとしてし かるべきように思われるが、遺体にもその周囲にもそうした形跡はない。この主張は唐突で説得力に乏しい。他方、弁護人は、物盗り犯が金庫をこじ開ける道具を遺留したものと主張するが、圧着ペンチがそうした用途に役立つとは思われず、その可能性もほぼない。 4 弁護人の主張に関する検討 ⑴ 瓶詰工場内の土足痕について土足痕は、瓶詰工場内でも18か所確認され(うち11か所のそれは121FW等によるもの)、その出入口や圧着ペンチが保管されていた箇所の付近だけではなく、これらからやや離れた瓶詰工場内の中央に近い箇所でも多く遺留されていたところ、弁護人は、被告人が犯人であれば瓶詰工場を物色する必要はない旨主張して いる。 この点、瓶詰工場内で保管されていたものと同じような圧着ペンチが遺体付近で発見されたこと、本件当日朝、消灯されているはずの瓶詰工場の照明が点灯していたことなど、本件の犯人が瓶詰工場に出入りなどをしている関係者ではないかと連想させるような形跡があえて残されていたことが認められる。瓶詰工場内に土足痕 が遺留されていた経緯や犯人の意図を推認するのは困難であるが、説明の一例とし ては、犯人が、瓶詰工場の関係者に捜査の目を向けさせようと思い立ち、事務所内の土足痕と同じ痕跡を瓶詰工場内にそれと分かるようにあえて遺留したものと考えてみると、瓶詰工場と関連をもつこれらの形跡は全て整合的に理解できることとなる。そのように考えると、前記のように、被害者や会社と相当程度関係が深い者が犯人であるとした場合に説 えて遺留したものと考えてみると、瓶詰工場と関連をもつこれらの形跡は全て整合的に理解できることとなる。そのように考えると、前記のように、被害者や会社と相当程度関係が深い者が犯人であるとした場合に説明がつかなくなるわけではなく、このことは、被告人が 犯人である場合も同様である。弁護人の前記主張は採用できない。 ⑵ 被害者の着衣から検出されたDNA型について弁護人は、被害者の着衣から、被告人、被害者や子ら以外の者に由来すると思われるDNA型が検出されたことを挙げて、第三者が犯人である可能性があるとしている。しかし、関係証拠によれば、着衣の付着物5点から検出されたDNA 型のほとんどが被告人、被害者や子らに由来するものとみて問題ないものである一方、弁護人指摘の第三者に由来すると思われるDNA型はわずかしか検出されなかった。それらについては、検査過程で生じる副産物である可能性も、誰かのDNA型が日常的に起こり得る様々なきっかけで各所に付着するに至った可能性もあるというのであるから、それによって、第三者が犯人である可能性が生じる わけではないと考えられる。 ⑶ 侵入経路について弁護人は、会社敷地東側裏口の高い塀から繊維片が発見されたことなどから、犯人はその塀を乗り越えて侵入したと主張し、被告人がそうした危険を冒して侵入するはずがないとしている。しかし、侵入できる経路が他にもある中で、犯人がその 塀を乗り越えて侵入したとする前提自体が根拠薄弱であって、弁護人の主張は失当である。 第5 事件前後の被告人の言動について 1 検察官の主張検察官は、被告人は、犯行時間帯に議員会館の自室で一般質問の原稿を作成して いたかのように装うアリバイ工作をしたと主張している。 2 証拠上認められる事実関 察官の主張検察官は、被告人は、犯行時間帯に議員会館の自室で一般質問の原稿を作成して いたかのように装うアリバイ工作をしたと主張している。 2 証拠上認められる事実関係⑴ 9月28日夜から本件当日朝にかけての被告人の言動等についてア令和3年9月長野県議会定例会(同月22日開会)において、被告人は、本件当日である同月29日(第5の項における日の記載は、特記のない限り同月のそれを指す。)に、一般質問に立つ予定であった。28日の会議終了後、被告人は議 員会館を出て飲食店で複数の同僚議員と食事をし、一同でビールやハイボールを飲んだ。その店で、翌日の一般質問の準備が話題となった際、被告人は、五、六千字のうち2000字しか書けていないと話した(被告人が行う一般質問は時間にして20分が予定され、その時間に見合った発言の準備としては、一般に概ね6000字程度の原稿が必要とみられた。)。終了後、被告人は議員会館に戻り、同日午後 9時頃(第5の項における時刻の記載は、特記のない限り同日のそれを指す。)に会館2階の食堂で始まった二次会に参加し、ハイボールを飲むなどしたが、一般質問の原稿がまだ完成していないのでその作業をする旨を他の参加者らに言って中座し、午後9時41分頃までに、同じ階にある自室に戻った。被告人は、午後9時頃から午後10時頃までの間に、AにもLINEで、二次会を抜け出てきて、これか ら質問原稿の作業をする旨を伝えた。なお、午後11時18分過ぎ頃、被告人の会館自室の照明は消灯されていた。 イ被告人は、29日午前5時30分頃から同日午前6時頃までに、会館2階で同僚議員と遭遇し、また同日午前7時過ぎ頃には、会館1階で別の同僚議員に目撃された。 ⑵ 一般質問の原稿の作成作業について は、29日午前5時30分頃から同日午前6時頃までに、会館2階で同僚議員と遭遇し、また同日午前7時過ぎ頃には、会館1階で別の同僚議員に目撃された。 ⑵ 一般質問の原稿の作成作業について被告人は、22日早朝より、29日に行う予定の一般質問の原稿の作成作業を進め、最後に文字入力をした28日未明の段階で、4000字余りからなる原稿を準備していた。28日夜、二次会を中座して会館自室に戻った後、午後9時41分、パソコンをスリープ状態から復帰させ、午後9時43分、原稿ファイルが保存され たUSBメモリをそのパソコンに挿入した。29日午前5時19分になってWor dを起動し、原稿ファイルを開き、同日午前5時24分及び同日午前6時40分に上書き保存を合計2回行った。原稿ファイルに最後に文字入力がされたのは28日午前2時46分、その最終更新日時は29日午前6時40分であった。 なお、被告人は、令和4年11月、逮捕前に検察官の取調べを受け、28日夜は、会館自室に戻った後一般質問の文章に最終的な加筆修正をし、パソコンで文字入力 をした、加筆修正には1時間程度がかかった旨を述べた。 3 検討⑴ 一般質問の原稿の作成作業についてア一般質問に備えて県議会議員が作成する質問原稿は、それがどのような仕上がりとなれば完成したといえるかは様々な事情によるようにも思われ、いわく言い 難いところがあるが、いずれにせよ被告人において、28日夜以降これが未完成と考えていたとすると、一般質問を翌日に控え、会合を中座して会館自室に戻り、原稿ファイル保存用のUSBメモリをパソコンに挿入しながら、29日早朝まで、原稿ファイルを開くことはおろかWordを起動さえせずに、文字入力(変換)操作を一切しないまま上書き保存のみを行ったとい 、原稿ファイル保存用のUSBメモリをパソコンに挿入しながら、29日早朝まで、原稿ファイルを開くことはおろかWordを起動さえせずに、文字入力(変換)操作を一切しないまま上書き保存のみを行ったというのは、いかにも不可解である(被 告人は、22日以降28日未明までの間は、未明や早朝にも原稿ファイルを操作して作業を行うことがあったと認められ、そのことと対比するとなおさらである。)。 反対に、被告人において仮に、28日夜の時点で原稿が完成済みと考えていたとすると、原稿ファイルを一切操作しなかったことの説明はつくが、周囲に原稿が未完成であるとか、2000字しか書けていないなどと言っていたことの説明が全くつ かないこととなる。 他の可能性として、被告人が28日夜の段階で、原稿の作成作業をしようと考えてその旨を周囲に伝え、自室に戻ったものの、これ以上作業をする必要はないと考え直し、又は就寝してしまうなどして一切原稿ファイルを操作しなかったにすぎない、という可能性も想定できなくはない。もっとも、被告人自身そのようには供述 していない上、USBメモリをパソコンに挿入するという準備的な動作をしていな がら、その後Wordの起動すらしなかったというのは、原稿の作成作業をしようと考えていたのであればやはり不自然である。どちらにせよ、4000字余りの原稿を準備していながら、2000字しか書けていないなどと実際の作業状況と相容れない発言をしていたことの説明はつかないのであって、そのような可能性は現実的なものではない(なお、被告人は、そのような発言をしたことを争っているが、 これを聴いたという同僚議員の供述は十分信用できる。)。 イこうした質問原稿の作成をめぐる不可解な行動は、被告人が28日夜に、作業の進捗に関して周囲 そのような発言をしたことを争っているが、 これを聴いたという同僚議員の供述は十分信用できる。)。 イこうした質問原稿の作成をめぐる不可解な行動は、被告人が28日夜に、作業の進捗に関して周囲に虚偽の発言をしていたことと相まって、会館自室で原稿の作成作業をしていたかのように装おうとするものであったとみてほぼ間違いないといえる。そして、文字入力(変換)操作の有無、その日時・内容が逐一記録される 仕組みとなっていることについては、これを知らない者があっても決しておかしくはないと思われ、検察官の指摘にもあるように、そうした仕組みを知らなかった被告人が、上書き保存をすることで、原稿ファイルの最終更新日時を29日早朝となるよう操作すれば、それで事足りると考えていたという見方も十分成り立つところである。この点にも照らすと、被告人のこれら一連の行動は、28日夜から29日 早朝にかけて会館自室にいた旨を周囲に印象付け、その形跡を原稿ファイルの操作履歴にも残そうとしたという意図的な工作であったという蓋然性が非常に高く、一連の行動をそれ以外に合理的、整合的に説明することは困難である。 ウそして、被告人が取調べに対し、原稿の作成作業について原稿ファイルの操作履歴と目に見えて食い違う供述をしていたことも、そのような説明が通用すると 誤認していたがゆえの弁解であって、原稿作成にまつわる一連の行動が、当該時間帯に会館自室にいたかのように装おうとする意図的な工作であったことを強くうかがわせる事情である。この点、被告人は、公判廷において、取調べの際は、28日夜の原稿の準備状況をはっきり覚えておらず、検察官に供述を誘導された旨を述べているが、その供述調書は、被告人が黙秘権を告げられた上で取調べに臨み、その 内容を確認した上で署名押印したも 28日夜の原稿の準備状況をはっきり覚えておらず、検察官に供述を誘導された旨を述べているが、その供述調書は、被告人が黙秘権を告げられた上で取調べに臨み、その 内容を確認した上で署名押印したものと認められ、その言い分が録取されていると みて間違いない。公判廷で、28日夜にどのような作業をしたかははっきりと覚えていないと不自然にあいまいな述べ方をしているのも、原稿ファイルの操作履歴との食い違いを取り繕おうとしている疑いが濃厚であって、信用できない。 ⑵ 弁護人の主張に関する検討ア 28日夜の飲酒等について 弁護人は、被告人が28日夜に飲酒したことをとらえ、酒に弱い被告人が酒を飲んで長距離を運転すると、計画実行が困難となるほか、飲酒運転が摘発されるなど県議の地位を失うリスクがあるとして、犯人の行動にしては極めて不自然であると主張する。しかし、被告人は、少なくともひどい酔い方をしていたわけではなかったと認められる上、29日未明に被害者の殺害を決行することが念頭にあったので あれば、普段と異なって飲酒をしないでいるとそのことが疑われるきっかけになりかねない。むしろある程度アルコールを口にし、飲酒したことを周囲に印象付けることで容疑が向けられることを回避しようとすることも、十分想定可能である(なお、被告人は、その供述によっても、県議に当選して以降、長野市と塩尻市との間を高速道路を利用せずに行き来したことが二、三十回あったといい、一般道で往復 することもさして困難ではなかったと認められる。)。被告人が28日夜に飲酒したことは、犯人の行動としてさほど不自然なわけではない。 ちなみに、28日午後11時18分過ぎ頃に被告人の会館自室の照明が消灯されていたことに関連して、弁護人は、被告人が、原稿の作成作業をす 飲酒したことは、犯人の行動としてさほど不自然なわけではない。 ちなみに、28日午後11時18分過ぎ頃に被告人の会館自室の照明が消灯されていたことに関連して、弁護人は、被告人が、原稿の作成作業をする旨を周囲に印象付けてアリバイ工作をしたのであれば、消灯したのは不自然であるとも主張して いる。しかし、現場との往復等を計画していた被告人が、自室の点灯状態が翌日早朝まで、場合によっては辺りが明るくなった後も続き、かえって周囲に奇異な印象を与えることを懸念したということも優に考えられ、不自然なわけではない。 イ歩数計アプリの記録について関係証拠によれば、被告人のスマートフォンのヘルスケアアプリでは、28日午 後10時から本件当日午前6時30分までは歩数が全く計測されなかったといい、 弁護人は、このことはその時間帯に被告人が議員会館から動かなかったからであると主張している。当該ヘルスケアアプリの機能・仕様は判然としないが、端末自体の電源を切るなどして一定時間歩数を全く計測させないようにすることもできるように思われる。歩数が計測されなかったことには様々な理由・経緯が考えられる以上、これをもとに被告人が議員会館から動かなかったとみるのは困難である(検察 官は、歩数が計測されていないことをアリバイ工作であると主張しているが、計測がされなかった理由等が判然としない以上、無理な主張である。)。 ウその他について弁護人は、被告人が事件後も普段と変わらない様子であり、半年余り後に自然な経緯で被告人車両を下取りに出したことなどを指摘している。しかし、これらはい わば印象や漠然とした受け止めといった域を出ず、様々な見方が可能な事情でもあって、判断を左右するようなものではない。 第6 総合的検討 1 検察官の などを指摘している。しかし、これらはい わば印象や漠然とした受け止めといった域を出ず、様々な見方が可能な事情でもあって、判断を左右するようなものではない。 第6 総合的検討 1 検察官の立証全体についての検討・評価⑴ 主要な事実関係等の整理 ア被告人の所在、移動の状況等(第2)の関係被告人が、9月28日深夜から本件当日早朝にかけ、被告人車両で議員会館と現場との間を往復したとみると、その移動の状況に符合するであろう複数の時刻・地点において、被告人車両である可能性が高い車両、あるいは被告人車両と車種・外観が共通又は類似する車両が、その移動状況と符合する方向にそれぞれ走行してい たこととなる。これらの車両が全て被告人車両であるとか、同一車両であるとは認定できないものの、こうした状況は、相当な偶然が重ならなければ生じない事態ではないかと考えられ、被告人がそのように両地点を往復したというのは、純然たる仮説にとどまるものではない。また、被告人が当該時間帯に被告人車両で両地点を往復したとみると、議員会館に向かって現場を後にしたであろう正にその時刻・地 点において、一応はそれと符合する人物と車両が目撃されている。 イ動機(第3)の関係被告人は、本件が発生した令和3年9月やその前後の時期に、Aを振り向かせて復縁・交際を果たしたいという思いを相当強く募らせていた。Aが不倫に対する抵抗感からこれに応じない状況にあっても、被告人にとって離婚は決して現実的なことではなかった。こうした当時の被告人の状況は、一般には、妻の殺害という極端 な行動を決意する動機に結びつくものではないと思われるが、とりわけAに対する思いを相当強くしていた被告人が、そうした行為に出ることを次第に思案するようになったり、 一般には、妻の殺害という極端 な行動を決意する動機に結びつくものではないと思われるが、とりわけAに対する思いを相当強くしていた被告人が、そうした行為に出ることを次第に思案するようになったり、場当たり的にそのような考えを思い立ったりしたとしてもおかしくはなかった。少なくとも被告人は、夫婦の関係が愛情にあふれ、妻を殺害するなど思いもよらないといったような状況にはなかった。 ウ現場の状況、痕跡等(第4)の関係本件の犯人は、物盗り犯ではなく、物盗り犯の犯行に見せかけようとしている上、事務所内で現金を盗み取ることができる箇所を知っており、かつ、被害者が未明に事務室内で遭遇しても違和感のない間柄の人物である。これらの条件を兼ね備える者として想定できるのは、基本的には、被害者や会社と相当程度関係が深い者に限 られる。なお、犯人が現場に残した土足痕は、かつて被告人が使用していたテニスシューズと同じ底面のデザインをもつ靴によるものである。ただし、これらの土足痕を残した靴(本件の犯人が履いていた靴)が被告人使用の前記テニスシューズと同一とまでは認められない。 エ事件前後の被告人の言動(第5)の関係 被告人の質問原稿の作成をめぐる不可解な行動は、その作業の進捗に関して周囲に虚偽の発言をしていたことと相まって、議員会館の自室で原稿の作成作業をしていたかのように装おうとするものであった。その一連の行動は、28日夜から29日早朝にかけて自室にいた旨を周囲に印象付け、その形跡を原稿ファイルの操作履歴にも残そうとした意図的な工作であった。 ⑵ 検討 アこれらの事実関係等を個別にみると、単体では被告人が本件の犯人であると認定する決め手にはならない。例えば、被告人の所在、移動の状況等の点について た。 ⑵ 検討 アこれらの事実関係等を個別にみると、単体では被告人が本件の犯人であると認定する決め手にはならない。例えば、被告人の所在、移動の状況等の点については、被告人が28日夜から本件当日早朝にかけて議員会館と現場との間を往復したというのは、いわば仮説の域を出ないままであるし、仮にそのとおり認定したとしても、それ自体が被告人が犯人であるとする強い根拠になるわけではない。現場の 状況、痕跡等の点も、それにより犯人として想定される人物ないし人物像が絞り込まれ、被告人もそれに該当するという意味では、被告人が犯人であることを一定程度推認させる事実関係ではあるものの、他の者が犯人である可能性を強力に打ち消すようなものではない。事件前後の被告人の言動についても、被告人に疑いを向けるきっかけとしては十分といえても、どういう意図・思惑による工作なのかは直ち に判然としないため、それ自体で強い推認が働くものではない。動機の点に至っては、これが決め手にならないことは明らかである。 もっとも、それぞれの事実関係等が、強弱の差がありながらも、そろって被告人が本件の犯人であると推認させ、あるいはそうした推認を支えるものであることは否定できない。動機の点も、その推認を下支えするような事実関係と評価できる。 そして、このように内容、性質、根拠を異にする複数の事実関係等が各々別々の角度から、被告人が犯人であることを指し示していることには重い意味がある。 イところで、これらの主要な事実関係等には、時間的な関係が相互に整合し、また、被害者の死亡推定時刻から認められる本件発生の時間帯や、その時期と重なり合うものがある。 まず、被告人が被告人車両で議員会館と現場との間を往復したという前記仮説は、すでにみた 合し、また、被害者の死亡推定時刻から認められる本件発生の時間帯や、その時期と重なり合うものがある。 まず、被告人が被告人車両で議員会館と現場との間を往復したという前記仮説は、すでにみたように、被告人車両である可能性が高い車両、被告人車両と車種・外観が共通又は類似する車両の走行状況が時刻、地点、方向という複数の要素においてそれに符合しているという裏付けが備わっており、純然たる仮説などではないものである。被告人が往復したとみた場合に、議員会館に向かって現場を後にしたであ ろう正にその時刻・地点において、一応はそれと符合する人物と車両が目撃された ことも、裏付けの1つに位置付けてよいと考えられる。 そして、被告人が両地点を往復したとみた場合のその時間帯(9月28日午後11時20分頃から本件当日午前5時7分頃まで)は、被害者の死亡推定時刻(本件当日の午前1時頃から午前3時頃、遅くとも午前4時頃までの間と考えて矛盾しないというもの)、つまり本件が発生した時間帯を含んでいる上、現場に到着してそ の後同所を出発したこととなる時間帯(本件当日午前1時43分頃から同日午前3時4分頃まで)に至っては、被害者の死亡推定時刻(本件発生の時間帯)と重なっていることが確認できる。さらに、被告人が会館自室で質問原稿の作成作業をしていたかのように装う工作をした時間帯も、二次会を中座して自室に戻ったと認められる9月28日午後9時41分頃より前の時刻頃から、自室で原稿ファイルの上書 き保存をしたという本件当日午前5時24分ないし同日午前6時40分までの間であり、こうしてみると、被告人が両地点を往復したとみた場合のその時間帯は、被害者の死亡推定時刻(本件発生の時間帯)のみならず、被告人の前記工作に係る時間帯とも重なっているこ 午前6時40分までの間であり、こうしてみると、被告人が両地点を往復したとみた場合のその時間帯は、被害者の死亡推定時刻(本件発生の時間帯)のみならず、被告人の前記工作に係る時間帯とも重なっていることとなる。 なお、被告人が議員会館を出発したこととなる時刻は9月28日午後11時20 分頃であり、二次会を中座して会館自室に戻った時刻から相応の時間(最短で約1時間39分)が経過しているが、関係証拠によれば、同日午後11時以降もしばらくの間、二次会が自室と同じ階の食堂で続いていたと認められることに照らすと、被告人がその終了を見計らって出発したとみれば、ごく当然のことであって、むしろ時間的によく整合する。また、被告人が議員会館に戻ったこととなる時刻は本件 当日午前5時7分頃、前記工作の一環として会館自室で同日に初めてパソコンを操作した時刻は午前5時19分であって、これらの時刻も問題なく整合する。このように、前記工作のための各行動とその間にしたであろう両地点の往復移動は、客観的に確認できる時刻のレベルでもちょうど整合することとなる。以上のような考察を経ると、翻って、9月28日午後11時20分頃及び本件当日午前5時7分頃に 議員会館のごく近くを被告人車両と同一である可能性が高い車両が、議員会館の方 から又は同所に向かって走行していたと認められるのは、それぞれ正に被告人が被告人車両で議員会館を出発していった際と同所に戻ってきた際の走行状況であって、それと同時に、被告人が行った前記工作は、その時間帯に会館にいたかのように装うアリバイ工作そのものであったとみて間違いないというべきである。 また、動機の点に関連して、本件が発生した令和3年9月頃というのは、被告人 がようやく得たAとの外食の機会の際、長時間にわたって うアリバイ工作そのものであったとみて間違いないというべきである。 また、動機の点に関連して、本件が発生した令和3年9月頃というのは、被告人 がようやく得たAとの外食の機会の際、長時間にわたって、離婚が決まった、自分との結婚に不安があるかなどとうそを交じえつつAに結婚を迫る生々しい発言を重ねたという出来事を経て、より頻繁に食事等に誘うようになっていた時期である。 そして、本件の発生後間もなく、被告人はAに再三好意を伝え、復縁・交際を強く求めるようになったものであり、本件が発生した時期は、被告人のAに対する働き かけがより強く積極的なものになっていった経過と時期的に矛盾なく整合している。 以上のように、被告人をめぐる主要な事実関係等の間の時間的な関係や本件が発生した時間帯、時期との関係をみると、それらが重なり合い又は整合していることが確認できる。本件の犯人があくまで被告人以外の者であり、そうであるのに、幾重もの偶然の重なりによりこうした状況が生じたという可能性はあくまで抽象的、 空想的なもので、現実的にはないに等しいと考えられる。しかも、被告人は、9月28日深夜に被告人車両で議員会館を離れ、本件当日早朝に戻ってきた上、正にその時間帯に議員会館にいたかのように装うアリバイ工作をしていたのであるから、仮に被告人が本件の犯人でないとすると、被告人はアリバイ工作をしなければならないような別の企てのためにその時間帯に外出し、ちょうどその間に他の者が本件 犯行に及んだこととなり、やはりそのような偶然の一致が起こるとは考え難い(そうである以上、内部の者、例えば会社従業員が犯人ではないかという見方も現実的には成り立たず、もとよりそのような見方は、以上の検討に照らすと、あまりに唐突で根拠に乏しい。)。 以上によれば、本件では、被告人が 上、内部の者、例えば会社従業員が犯人ではないかという見方も現実的には成り立たず、もとよりそのような見方は、以上の検討に照らすと、あまりに唐突で根拠に乏しい。)。 以上によれば、本件では、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明するこ とができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難な事実関係等が存在すると評 価できる。被告人が本件の犯人であると認定することができ、その認定に合理的な疑いは残らない。 ウなお、本件では、経緯等が不明であったり、内容があいまいであったりするために事実認定上の位置付けや意味合いが判然としない事実関係があるが、それらを踏まえて検討しても、被告人が犯人であるという認定は動かない。 すなわち、事務所内の土足痕のかかと部分に線状の模様が残っている経緯は不明であるほか、現場に圧着ペンチが遺留されていた経緯等や、瓶詰工場で、事務所内のそれと同じ土足痕が少なからず残され、本件当日朝に照明が点灯していた経緯等も不明のままである。しかし、これらの経緯等が不明であるのは、どのような人物が犯人であっても変わらないことである。むしろ、被告人が本件の犯人であったと すれば、すでにみたように、物盗り犯の犯行に見せかけようとそれらしい細工を自分なりに試みたり、捜査の目を瓶詰工場の関係者に向けさせようとしたりしたという説明が十分成り立つところであり、この点は、被告人が犯人であるという認定を妨げるものではない。そして、これらの土足痕が、かつて被告人が使用していた前記テニスシューズによるものとまでは認められないことは前記のとおりであるが、 そうした土足痕に、それと同じ底面デザインの靴によるものが相当数あることについては、被告人が犯人であったとすれば、本件の当時に自身が使用していた靴を利用して足 いことは前記のとおりであるが、 そうした土足痕に、それと同じ底面デザインの靴によるものが相当数あることについては、被告人が犯人であったとすれば、本件の当時に自身が使用していた靴を利用して足跡痕を残すと疑われる可能性があるのでこれを避け、何年も前に使用していた靴を選んで利用した結果、121FW等による土足痕が残されたとみることができ、合理的・整合的に説明できる。むしろ、被告人以外の者が犯人であったとす ると、その犯人が物盗り犯の犯行を装おうと足跡痕を残すのに使用した靴が、たまたま被害者の夫が何年も前に使用していたテニスシューズの底面のデザインと全く共通するものであったという偶然の一致が、先にみたような偶然の重なりとは別に生じたこととなり、やはりその可能性はないに等しい。 また、9月22日午後11時38分頃及び翌23日午前4時53分頃にも、被告 人車両である可能性が高いとされる車両が、議員会館のごく近くを同所から又は同 所に向かって進行していったことが認められる。同車両の行き先やその間の移動状況は明らかではないが、いずれにせよ、本件に先立つ近い時期に、被告人が本件の前後に議員会館と現場との間を往復したのとほぼ同じ時間帯に、やはり被告人車両である可能性が高い車両が議員会館を出発して戻ってくるような走行の仕方をしていたといえる。この点も、被告人が犯人であったとすれば、殺害の決行を見据え、 何らかの意図があって、本件に先立つ近い時期に、それに近い時間帯において被告人車両の運転を試みた形跡として、全く違和感なく、むしろ合理的・整合的に説明できる(本件発生前後の時間帯に、被告人のヘルスケアアプリで歩数が全く計測されなかった理由等も定かではないが、これが認定に影響しないことは、すでに検討したところから明らか むしろ合理的・整合的に説明できる(本件発生前後の時間帯に、被告人のヘルスケアアプリで歩数が全く計測されなかった理由等も定かではないが、これが認定に影響しないことは、すでに検討したところから明らかである。)。 このように、経緯等が不明であるなどといった事実関係については、被告人が犯人であるという認定に影響するものではなく、むしろ、被告人が犯人であるとすると合理的・整合的に説明できるという意味で、間接的にとはいえ、その認定を裏付けるものがあると評価できる。 2 被告人の供述に関する検討 被告人は、9月28日深夜から本件当日早朝にかけて議員会館に滞在していた旨を供述している。しかし、一般質問の原稿ファイルの操作状況に関する供述部分が信用できないことはすでに検討したとおりであり、公判廷で、9月28日夜の会館自室での行動等について一段とあいまいな述べ方をしているのは、特に不自然で信用できない。また、前記のとおり、被告人は9月28日深夜に議員会館を離れて本 件当日早朝に同所に戻ってきたと認められ、この意味においても、議員会館にいたという供述は破綻していることになる。よって、被告人の前記供述は信用できない。 第7 結論以上の検討を経て、被告人が本件の犯人であると認定した。 (法令の適用) 罰条刑法199条 刑種の選択有期懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由)被告人は、主として、かつて長らく不倫関係にあった女性と復縁・交際したいと いう思いを募らせ、これを遂げようと、自身の妻であるとともに子らの母でもある被害者の殺害に及んだものと認められ、その行為は、実に身勝手 して、かつて長らく不倫関係にあった女性と復縁・交際したいと いう思いを募らせ、これを遂げようと、自身の妻であるとともに子らの母でもある被害者の殺害に及んだものと認められ、その行為は、実に身勝手な思惑に基づく冷酷かつ凶悪な犯行として相当厳しい非難に値する。県議会議員として議会で一般質問に立つという機会を利用する形でアリバイ工作をするなど計画性が認められる上、犯行後は、ほどなくその女性に復縁・交際を強く求め、密会を重ねるようになって おり、自身の行為をためらったり後悔したりしたような様子もうかがえない。被害者は、夫である被告人が不在にしがちな中、子の養育はもとより、被告人が代表を務める会社の経営等に尽力していたにもかかわらず、その被告人の手によって不慮の死を遂げざるを得なかったのであり、深い同情を禁じ得ない。遺族は悲嘆に暮れ、厳しい処罰感情を示している。被告人の刑事責任は重く、かなり長期の刑を選択す るよりほかない。そこで、同種類似事案の量刑傾向をも参照しつつ検討し、被告人に対しては、主文の刑をもって臨むのが相当であると判断した。 (求刑懲役20年)令和6年12月26日長野地方裁判所刑事部 裁判長裁判官坂田正史 裁判官坂井唯弥 裁判官楠本めぐ
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