平成14(行コ)142 相続税の更正の請求に対する通知処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成13年(行ウ)第231号)

裁判年月日・裁判所
平成14年9月18日 東京高等裁判所 租税
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判決文本文9,987 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人本件控訴を棄却する。 第2 事案の概要 1 本件は,平成9年9月9日に死亡したaに係る相続税に関し,平成11年7月9日,子である被控訴人及びbが,アメリカ在住のbがaから送金を受けた金員を相続税の課税価格に算入して申告したのは誤りであった旨更正の請求をしたところ,控訴人が平成11年8月27日,更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をしたため,被控訴人においてこれの取消しを求める事案である。 2 前提事実(争いがない事実以外は各項末尾掲記の証拠により認定した。)(1) 被控訴人(昭和23年1月28日生)及びb(昭和29年9月25日生)はa(大正6年1月13日生)の子である。 (2) aは,平成8年12月3日,遺言公正証書(乙1,以下「当初遺言」という。)を作成した。その内容の概略は,aが所有する不動産,預金,有価証券の全部を被控訴人に,現金及び上記不動産,預金,有価証券以外の財産を被控訴人とb(同公正証書には「c」と表記)に各2分の1ずつ相続させ,その結果bの相続する財産が相続財産全体の4分の1を下回る場合には,その不足額を被控訴人が支払うことというものであり,当該遺言執行者として本件被控訴人訴訟代理人が指定された。 (3) aはbに対し,平成9年2月4日,北海道拓殖銀行国分寺支店(現在は中央三井信託銀行国分寺支店,以下「北海道拓殖銀行」という。)から1000万円をアメリカ合衆国の「WACHOVIABANKOFGEORGIAEASTMARIETTABRANCH(以下「ワコービア銀行」という。) 店,以下「北海道拓殖銀行」という。)から1000万円をアメリカ合衆国の「WACHOVIABANKOFGEORGIAEASTMARIETTABRANCH(以下「ワコービア銀行」という。)」のb名義の預金口座に電信送金した(4) aはbに対し,平成9年2月5日,第一勧業銀行国分寺支店(現在はみずほ銀行国分寺支店,以下「第一勧業銀行」という。)から,送金日を同月7日として,1017万5275円をワコービア銀行のb名義の預金口座に電信送金した(前項の送金とを併せて,以下「本件各送金」という。)。 (5) bは,昭和61年3月19日アメリカ合衆国の国籍を取得したため日本国籍を喪失した。bは,昭和61年以前から現在に至るまで日本国内に住所を有したことはなく,aから本件各送金を受けた当時アメリカ合衆国ジョージア州に居住していた。 (6) aは,平成8年1月から平成9年9月9日までの間に,次のとおり北海道拓殖銀行(アないしキ,ケ)及び第一勧業銀行(ク)からワコービア銀行のb名義の預金口座に電信送金した(ただし,ウについては被控訴人名義で送金)。(乙2の①ないし⑧,3)ア平成8年 5月30日宿泊料として54万6250円イ平成8年 6月27日旅行費として55万2250円ウ平成8年 7月17日仕送りとして11万0350円エ平成8年10月23日生活費として11万3400円オ平成8年11月19日仕送りとして11万2450円カ平成8年12月24日仕送りとして11万5350円キ平成9年 1月21日仕送りとして11万9150円ク平成9年 2月18日仕送りとして75万3000円ケ平成9年 8月15日仕送りとして71万2200円(7) aは,平成9年2月5日に遺言(一部取消・変更)公正証書(以下「変更遺言」という。 平成9年 2月18日仕送りとして75万3000円ケ平成9年 8月15日仕送りとして71万2200円(7) aは,平成9年2月5日に遺言(一部取消・変更)公正証書(以下「変更遺言」という。乙4)を作成した。 変更遺言には,「第参条(付記) この遺言の変更は,すでに長女cには生計の資本として,相当額の生前贈与をなしたこと,その他諸般の事情を考慮してなすものであるから,cもこの内容に異議をとなえることなく,この遺言に従うことを強く希望する。」と記載されていた。 (8) aは,平成9年9月9日死亡した。同人の相続人はその子である被控訴人及びbであった。 (9) 被控訴人及びbは,平成10年7月7日共同で控訴人に対し相続税の申告書を提出した(以下「本件申告」という。)。同人らは,本件申告において,本件各送金に係る金員を被相続人からの贈与により取得したとして相続税法19条の規定により相続税の課税価格に加算して申告した。 (10) 被控訴人及びbは,平成11年7月9日控訴人に対し,本件各送金に係る金員を相続税の課税価格に加算して申告したことは誤りであったとして更正の請求をしたが,控訴人は平成11年8月27日,更正すべき理由がない旨の通知処分をした。 (11) 被控訴人及びbは平成11年10月27日,控訴人に対して異議申立てをしたが,控訴人は,平成12年3月2日,被控訴人に対しては異議申立てを棄却し,bに対しては納税管理人の代理権の証明がないとして異議申立てを却下した。 (12) 被控訴人は,平成12年3月31日東京国税不服審判所長に対し審査請求をしたが,東京国税不服審判所長は,平成13年5月29日審査請求を棄却する旨の裁決をした。 3 争点相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産 が,東京国税不服審判所長は,平成13年5月29日審査請求を棄却する旨の裁決をした。 3 争点相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合,その者が日本に住所を有しないときは,日本国内にある財産を取得した場合にのみ当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算することができるとされていることから,本件でbが日本国内にある財産を取得したといえるかどうかが争点である。 (1) 控訴人の主張ア相続税法19条1項は,相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては,その者については,当該贈与により取得した財産(21条の2第1項から第3項まで,21条の3及び21条の4の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産を除く。)に限る。)の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして算出した金額をもって,その納付すべき相続税額とする旨規定している。相続税法21条の2第1項は,「贈与に因り財産を取得した者がその年中における贈与に因る財産の取得について第1条の2第1号の規定に該当する者である場合においては,その者については,その年中において贈与に因り取得した財産の価額の合計額をもって,贈与税の課税価格とする。」と規定し,同条2項は,「贈与に因り財産を取得した者がその年中における贈与に因る財産の取得について第1条の2第2号の規定に該当する者である場合においては,その者については,その年中において贈与に因り取得した財産でこの法律の施行地内にあるものの価額の合計額をもって,贈与税の課税価格とする。」と規定していると 号の規定に該当する者である場合においては,その者については,その年中において贈与に因り取得した財産でこの法律の施行地内にあるものの価額の合計額をもって,贈与税の課税価格とする。」と規定しているところ,「相続税法1条の2第1号の規定に該当する者」とは,贈与により財産を取得した個人で当該財産を取得した時において国内に住所を有する者であり,「相続税法1条の2第2号の規定に該当する者」とは,贈与により国内にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時において国内に住所を有しない者(以下「制限納税義務者」という。)とされている。相続税法10条は,財産の所在について,動産若しくは不動産又は不動産の上に存する権利についてはその所在により判定し(同条1項1号),その財産の所在の判定は当該財産を相続,遺贈又は贈与に因り取得した時の現況によると規定している(同条4項)。 イ bの取得した財産は,aが日本国内に有していた現金であり,贈与契約成立時において日本国内に所在した財産として相続税の課税価格に加算すべきものである。すなわち,本件各送金に係る金員(以下「本件金員」という。)は平成9年2月4日及び同月5日にbに対する海外電信送金の依頼がされた。そして,前記変更遺言(乙4)は同月5日の作成に係るもので「この遺言の変更は,すでに長女cには生計の資本として,相当額の生前贈与をなした」との記載があり,当初遺言が作成された平成9年2月5日に至るまでの間に本件金員以外に亡aからbに対して「相当額の生前贈与」がされた形跡が特段見受けられないことからすると,変更遺言にいう「相当額の生前贈与」とは本件金員を指すものというべきである。 そうすると,aとbとの間における本件金員の贈与契約は現金の贈与契約であり,変更遺言がされた平成9年2月5日以前に成立していたものであって, 当額の生前贈与」とは本件金員を指すものというべきである。 そうすると,aとbとの間における本件金員の贈与契約は現金の贈与契約であり,変更遺言がされた平成9年2月5日以前に成立していたものであって,亡aは上記贈与契約に基づいて同人が日本国内で所持していた邦貨を外貨と交換し,北海道拓殖銀行又は第一勧業銀行から外国為替による電信送金によってbに送金したものと認められる。 ところで,相続税法上財産の所在の判定は,贈与により取得した時の現況によるとされているところ,「贈与により取得した時」とは民法の贈与契約の規定により贈与契約成立の時と解すべきところ,本件贈与契約成立の時は平成9年2月5日以前と思料され,その当時の本件金員の現況は日本国内にある現金である。 ウしたがって,bが贈与により取得した財産は日本国内に所在する財産であり,相続税法の施行地に所在する財産ということになる。bが取得したのは預金払戻請求権ではなく本件金員であり,これを贈与により取得した時は贈与契約成立の時で,電信送金はその履行の問題にすぎないのであるから,電信送金の法的性質いかんによって「財産を取得した時」の解釈が変わるものではない。書面によらない贈与であっても贈与契約である以上財産を取得するのはあくまでも契約時であって,その後履行が終了すればもはや取消しができなくなるというにすぎない。書面によらない贈与の課税時期については,通達(相続税基本通達1・1の2共ー7)では,その履行の時とされているが,これは納税者の担税力を考慮して履行が完了した時を課税時期として取り扱っているもので,財産の所在の判定にまで用いられるべきものではない。 (2) 被控訴人の主張ア本件各送金は,外国為替による電信送金の方法によるものであるところ,電信送金においては,送金依頼人と電信送金契約を締結した の所在の判定にまで用いられるべきものではない。 (2) 被控訴人の主張ア本件各送金は,外国為替による電信送金の方法によるものであるところ,電信送金においては,送金依頼人と電信送金契約を締結した送金取組銀行(仕向銀行)は支払銀行に対して指図を行うが,支払銀行はこれに応じて直ちに受取人に支払をするものではなく,当該指図が真正であること,支払資金の決済が確実であること等を確認し,受取人に支払う場合又は支払銀行における受取人の預金口座に入金する場合のいずれにおいても,支払の停止などがないか,支払を請求した受取人は正当な受取人であるかなどを確認した後に支払に応じ又は口座への入金手続を行う。 したがって,受取人が電信送金に係る金員を取得するのは,支払銀行における受取人の預金口座に入金する場合は当該入金手続の完了時であり,そうでない場合は受取人が支払銀行に支払を請求し実際に支払がされた時である。そして,電信送金は送金された金員が受取人に支払われ,又は支払銀行の受取人名義の預金口座に入金されるまでは,送金人は仕向銀行を通じて支払銀行に対し支払を停止するよう指示できるとされていることからすると,贈与の履行が電信送金によりされた場合の履行の終了は,支払銀行が受取人の預金口座に金員を入金したとき又は支払銀行から受取人に金員が支払われたときである。以上からすると,bが本件各送金により取得した財産は支払銀行に対する預金払戻請求権であり本邦に所在する財産ではないから,相続税の課税価格に加算されるべきではない。 控訴人は,bは贈与契約成立時に本邦に所在する現金を取得した旨主張する。しかし,aとbとの間に,本件各送金とは別に贈与契約が締結されたことはなく,本件における贈与はいわゆる現実贈与であり,aがその意思により一方的にbに送金したものである。したがって,本件 旨主張する。しかし,aとbとの間に,本件各送金とは別に贈与契約が締結されたことはなく,本件における贈与はいわゆる現実贈与であり,aがその意思により一方的にbに送金したものである。したがって,本件各送金が現実に行われる前に本邦に所在するa所有の現金を取得したとみる余地はない。また,仮に本件各送金前にaとbとの間で贈与契約がされていたとしても,金銭の所有権は原則として占有の移転に従って移転するものであり,現実の占有を有しないbが本邦に所在する現金を取得することはできないし,aも北海道拓殖銀行又は第一勧業銀行に対して預金払戻請求権を有していたにすぎず,当該預金に相当する現金を所有していたわけではない。したがって,控訴人の主張は失当である。 第3 証拠関係証拠関係は,本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから,これを引用する。 第4 当裁判所の判断 1 前提事実(5)記載のとおり,bはaから本件各送金を受けた平成9年2月当時アメリカ合衆国ジョージア州に居住し,相続税法の施行地である本邦に住所を有していなかった。したがって,aからの贈与によって得た財産が,取得した時点において本邦に所在するものであった場合に限り,bは相続税法1条の2に定める納税義務を負う。 2 控訴人は,bがaからの贈与によって取得した財産はaが本邦において所有していた現金である旨主張している。ところで,一定の金額を表示してされる金銭の贈与は,贈与者の所持する現金について所有権を観念しその所有権を受贈者に移転するというものではなく,その特定の金額に相当する経済的価値を金銭をもって受贈者に取得させることをその本体とするものである。そして,贈与は契約であるから意思表示により成立し,贈与者の上記内容の意思表示とこれに対する受贈者の受諾の意思表示がされて意思表示の合致をみればこ 受贈者に取得させることをその本体とするものである。そして,贈与は契約であるから意思表示により成立し,贈与者の上記内容の意思表示とこれに対する受贈者の受諾の意思表示がされて意思表示の合致をみればここに贈与契約は成立し,受贈者は贈与者に対しその契約に基づき特定の金額に相当する経済的価値を金銭によって取得し得べき請求権を取得することになる。金銭の贈与の多くの場合,契約の成立とともに現金が交付されて履行が完了し請求権の残る余地はないが,隔地者間の場合,金額が高額の場合等,請求権が発生しているが履行は終わっていないという場合もある。本件では,bは本邦に居住していなかったため現金が直接同人に交付されることはなく,外国為替による海外電信送金がされたのである。したがって,同人が贈与により本邦に所在する財産を取得したといえるのは,本件各送金の前すなわちこれに先だってaとbとの間で本件各送金の額に相当する金銭に関し贈与契約が成立した場合,換言すれば本件各送金手続が執られたのはその履行のためであると認められる場合でなければならない。 3 そこで,本件各送金に先だってaとbとの間で本件各送金の原資に当たる邦貨による金額に相当する金銭につき贈与契約が成立し,その履行のために本件各送金手続が執られたのかどうかについて検討する。 aとbとの間において本件各送金に先だって贈与契約が成立していたか否かの立証責任についてみると,更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消訴訟にあっては,申告により確定した税額等を納税者に有利に変更することを求めるのであるから,納税者において,確定した申告書の記載が真実と異なることにつき立証責任を負うものと解するのが相当である。被控訴人は,aとbとの間に特段の贈与契約が締結された事実はなくaが一方的にbに本件各送金をしたに 税者において,確定した申告書の記載が真実と異なることにつき立証責任を負うものと解するのが相当である。被控訴人は,aとbとの間に特段の贈与契約が締結された事実はなくaが一方的にbに本件各送金をしたにすぎない旨主張するに止まり,本件各送金についてのaの意思,送金を受けたbの意思その他贈与の成立時期等(仮に本件各送金がaからの一方的な送金であったとしても,bが受領を拒否したとの事実が窺われない本件においては贈与契約が存在すること自体は否定できない。)について何ら具体的な立証をしていない(bを証人として申請する考えはないかとの裁判所からの問いに対して被控訴人は申請しないと答えている(当審第1回弁論)。)。 そして本件証拠に照らしても上記主張の点が立証されているとはいえず,かえって事前に贈与契約が成立したとみるべき事実関係が認められる。すなわち,bがアメリカ合衆国で生活しているとはいえ,親子の間であればこそ連絡を取るのは簡単で,電話でひとこと送金の趣旨と金額を伝えれば足りること,本件各送金は1000万円及び1017万5275円と高額であり,相続に関連する重要な問題であるから事前に何の説明もなしにいきなり送金されるということは考えにくいこと,平成9年2月5日作成の変更遺言(乙4)には「この遺言の変更は,すでに長女cには生計の資本として,相当額の生前贈与をなした」との記載があり,変更遺言が作成された平成9年2月5日に至るまでの間に本件各送金に係る金員以外にaからbに対して「相当額の生前贈与」がされた形跡が特段見受けられず(送金状況は前提事実(6)記載のとおりであり,宿泊料,旅行費,生活費,仕送りであり,これらも贈与とみる余地はあるとしても,遺言を変更する契機となるほど高額なものではなく「相当額の生前贈与」というには当たらない。),変更遺言にいう「 おりであり,宿泊料,旅行費,生活費,仕送りであり,これらも贈与とみる余地はあるとしても,遺言を変更する契機となるほど高額なものではなく「相当額の生前贈与」というには当たらない。),変更遺言にいう「相当額の生前贈与」とは本件各送金に係る金員の贈与を指すものとみることができること等からすると,本件各送金に先だってaからbに対し電話その他の方法により本件各送金をすることを連絡するとともに贈与であることの説明をしたとみるのが自然であり,一方,bにおいて異存のあろうはずもなく謝意を表したことも十分あり得るところである。したがって,両者間に各送金額の金銭について贈与契約が成立したと考えるのが合理的である。 なお,この辺りの事情についてはbを尋問すれば直ちに明らかになると考えられるのであるが,被控訴人は前記のとおり同人の証人申請をしようとせず,陳述書も提出しない。 4 そうすると,本件各送金に先だってaとbとの間で,本件各送金の原資に当たる邦貨による金額に相当する金銭につき贈与契約が成立し,その履行のために本件各送金手続が執られたとみることができ,bは贈与契約締結時にaが日本国内に有していた金銭の贈与を受けたものということができる。 もっとも,この贈与は書面によるものではないから,贈与者は履行が終わるまでは贈与を取り消すことができその間受贈者の権利は不確定であるとの見地から,履行が終わった時に受贈者の権利は確定し,その時点をもって課税すべきであるとの立場もあり得る。租税実務上書面によらない贈与についてはその課税時期を履行の時としている。 しかし,本件のようにアメリカ合衆国に在住する者に金銭の贈与を約束しその履行として電信送金の手続をとった場合は,受贈者の預金口座に入金されるのはいわば時間の問題で,送金された金銭は贈与者の手を離れ事実上その支配下 ようにアメリカ合衆国に在住する者に金銭の贈与を約束しその履行として電信送金の手続をとった場合は,受贈者の預金口座に入金されるのはいわば時間の問題で,送金された金銭は贈与者の手を離れ事実上その支配下にない状態になったということができる。法的,観念的にはなお贈与を取り消す余地はあり,電信送金手続上送金依頼人が支払停止の指示をすることも可能であるが,電信送金をする者の通常の意思としてはその手続を了した時に贈与に係る金銭は自己の支配下を離れ受贈者がこれを受け取るのを待つ(何らかの事故で送金されないというような事態にならないことを願う。)というものであると考えられる。そうすると,上記のような立場に立っても,受贈者の預金口座に入金された時あるいは受贈者が支払銀行に支払を請求し実際に支払がされた時まで待たずとも,贈与者が送金の手続を了した時に受贈者の贈与を受ける権利(贈与契約に基づく請求権)は確定的になったものということができる。履行という概念は権利の確定との関連で相対的にとらえるべきものであって,金銭の贈与の場合に受贈者の権利が確定したというためには,完全な履行があったこと,すなわち受贈者が当該金銭を現実に入手したことまで要するものではないというべきである。このように解することは前記租税実務に反するものではないと考えられる(なおこの実務は納税者の経済的負担(実際上の担税力)を考慮した扱いであるということもできる。)。 被控訴人は電信送金の法的性質に基づいて贈与の時期を争うが,電信送金の法的性質いかんによって「財産を取得した時」の解釈が変わるものではない。すなわち,被控訴人はbが取得するのは支払銀行に対する預金払戻請求権であると主張するが,これは贈与契約の履行過程における別個の法律関係から生ずるものであって,贈与契約によりbがどのような権利をいつ すなわち,被控訴人はbが取得するのは支払銀行に対する預金払戻請求権であると主張するが,これは贈与契約の履行過程における別個の法律関係から生ずるものであって,贈与契約によりbがどのような権利をいつ取得したかという見地からすれば上記のような被控訴人の立論を是認するのは困難である。 以上のとおりであるから,本件贈与によってbが取得した財産については,相続税法10条が相続,遺贈又は贈与に因り取得した時の現況によると規定している財産取得時とは,契約締結時をいうものと解すべきであり,仮にそうでなくても日本国内の前記各銀行において電信送金による送金手続を了した時ということができる。そうすると,いずれにしてもbは本邦に所在した財産を取得したというべきである。 以上によれば,被控訴人の更正請求については更正をすべき理由がなく,本件各送金に係る金員を相続税の課税価格に加算して被控訴人の相続税額を算出すると,被控訴人が納付すべき相続税額は2億6245万5800円となり,これは本件申告に係る被控訴人の納付すべき相続税額と同額であるから,本件申告に係る更正の請求に対して控訴人がした本件通知処分は適法である。 第5 結論よって,本件通知処分の取消しを認めた原判決は相当でないからこれを取り消して被控訴人の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法67条2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 (平成14年7月24日口頭弁論終結)東京高等裁判所第17民事部裁判長裁判官新村正人裁判官田川直之裁判官志田博文

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