平成14(わ)1284 業務上過失傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年5月29日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-6982.txt

判決文本文5,796 文字)

主文 被告人を禁錮1年4月に処する。 訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成13年4月23日午後5時40分ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,神戸市A区B町a番地先の信号機により交通整理の行われている交差点を西方から南方に向け右折進行するに当たり,対向直進車両の有無及びその安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,対向直進車両の有無及びその安全確認不十分のまま,時速約10ないし20キロメートルで右折進行した過失により,折から普通自動二輪車を運転して東方から対向直進してきたB(当時52歳)をして急制動の措置をとらせて同人を同自動二輪車もろとも転倒滑走させて自車左側部に衝突させ,よって,同人に加療約1年6か月間以上を要し四肢知覚障害,四肢不全麻痺の後遺症を伴う外傷性頸髄損傷等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)- かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,本件事故について,被告人が,普通乗用自動車(以下「被告人車両」ともいう。)を運転し,西方から南方に向け右折進行しようとして,本件交差点内の右折車線において停止していたところ,被害者が,普通自動二輪車(以下「被害者バイク」ともいう。)を運転し東方から対向進行してきて,被告人車両に気付くのが遅れて急ブレーキをかけて転倒し,被告人車両の方に向かって進行してきたため,被告人が,被害者との衝突を避けようとして,被告人車両を右折進行させたことから,被告人車両左側部に被害者が接触したものであって,被告人に過失はない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下補足して説明する。 2 せたことから,被告人車両左側部に被害者が接触したものであって,被告人に過失はない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下補足して説明する。 2 前掲各証拠によれば,次の事実が間違いがないと認められる。すなわち,① 本件交差点は,東西に通じる道路と本件交差点から南方に延びる道路とがT字型に交差する三叉路交差点であって,東西に通じる道路は,本件交差点西側入口の手前で東行車線が直進車線と右折車線の2車線に分かれており,西行車線が1車線になっていて,西行車線の幅員は約3.0メートルであり,東西両方向からの見通しはいずれも良好であったこと② 本件事故当時,天候は晴れであり,日没前でまだ明るかったこと③ 本件事故は,本件交差点において,西方から南方に向かい時速約10ないし20キロメートルで右折進行しようとした被告人運転の普通乗用自動車と東方から時速約40キロメートルで対向直進してきた被害者運転の普通自動二輪車との間に発生したものであること④ 本件交差点には,時差式信号機が設置されていて,東行車線の青色信号表示の時間が西行車線の青色信号表示の時間よりも10秒長くなっていたが,本件事故当時,被告人車両及び被害者バイクの各対面信号はともに青色表示であったこと⑤ 本件事故直後,本件交差点内の路面には,被害者バイクによる長さ約4.2メートルの擦過痕が東行車線の右折車線南端線(以下「中央線」という。)から約1.2メートル南側の西行車線内に中央線とほぼ並行につけられており,衝突地点はほぼその擦過痕の終了(西端)部分であったこと■ 被告人車両の左側後部ドア下部及び左後輪には本件事故によって生じたものと考えられる痕跡があり,被害者バイクの右側面後部には本件事故によって生じたものと考えら 痕の終了(西端)部分であったこと■ 被告人車両の左側後部ドア下部及び左後輪には本件事故によって生じたものと考えられる痕跡があり,被害者バイクの右側面後部には本件事故によって生じたものと考えられる塗料が直線状に剥げた部分があったこと■ 被害者は,本件事故当時ヘルメットを着用していたが,本件事故により判示の傷害を負ったことが認められる。 3 証人Cの当公判廷における供述並びにCの検察官調書(甲15)及び警察官調書(甲13,14)(以下,併せて「C供述」という。)は,概略,「Cは,軽四輪貨物自動車を運転し,南方から北方に向け進行してきて,本件交差点の南詰で赤色信号待ちのため停止中に本件事故を目撃した。本件事故は,被告人車両が,右折した前車に引き続いて2台目に右折しようとして,右折車線から対向車線に時速約15ないし20キロメートルで1メートルか2メートル出てきたところ,対向車線をそんなに速くも遅くもない速度で直進してきた被害者バイクが右側を下にして転倒しその運転者が左側に倒れるようにして滑走しながら,被告人車両の左側面に衝突するというものであった。被告人車両が右折する前に交差点中央の右折車線で一時停止していたようなことはなかった。」というのである。 ①Cは,本件交差点から南方に延びる道路において,北方を向いて信号待ちのために先頭で停車していて本件事故を目撃したものであるが,本件事故現場は,Cの停車位置から約20メートル先の真正面に見えるところにあって,その視認状況は良好であったこと,②C供述は,本件事故直後から終始一貫して,被告人車両は,右折した前車に引き続いて2台目に右折しようとして,対向車線に進出し,本件事故を招いたものであって,右折する前に交差点中央の右折車線で一時停止していたようなことはなかった旨いうものであり, 車両は,右折した前車に引き続いて2台目に右折しようとして,対向車線に進出し,本件事故を招いたものであって,右折する前に交差点中央の右折車線で一時停止していたようなことはなかった旨いうものであり,そのことについては全く動揺がみられないこと,③C供述の前記のような目撃状況は,前記認定の本件交差点内の路面の擦過痕の状況,被告人車両及び被害者バイクの各衝突の痕跡等の客観的状況と合致しており,そこに不合理不自然な点は見当たらないこと,④Cは,被告人や被害者とは本件事故当時まで面識のなかった第三者である上,本件事故を目撃直後119番等の通報をし,警察官が臨場するまで現場に止まって目撃状況を説明するなど,その供述態度も誠実であることなどを考え併せると,上記のようなC供述の信用性は高いというべきである。 4 これに対し,被告人の当公判廷における供述並びに被告人の検察官調書(乙4ないし6)及び警察官調書(乙2)(以下,併せて「被告人供述」という。)は,概略,「被告人は,被告人車両を運転して,前車が右折した後,右折車線の先頭で一時停止し,前方約75メートル付近の地点にヘッドライトを点灯せずに走行してくる被害者バイクを認めた。被害者バイクより先行してくる車両はなかったが,先に右折しようとはせず,そのまま40キロメートルを少し上回る程度の時速で進行してくる被害者バイクの動静を注視していたところ,被害者が北方を脇見していたことから,本件交差点に入る辺りで,被告人車両に気付き急ブレーキをかけて転倒し被告人車両の方に向かって進行してきたため,被告人が,被害者との衝突を避けようとして,被告人車両を急いで右折進行させたことから,西行車線内の衝突地点において,被告人車両左側部に被害者が接触衝突した。」というのである。 しかしながら,①被告人が前方約75メートル ようとして,被告人車両を急いで右折進行させたことから,西行車線内の衝突地点において,被告人車両左側部に被害者が接触衝突した。」というのである。 しかしながら,①被告人が前方約75メートル付近の地点に被害者バイクを認め,その時速が40キロメートルを少し上回る程度であったというのであれば,被害者バイクが本件交差点に到達するまでに約5秒の余裕があって右折が可能だったのであるから,被告人車両がその間右折車線に停車していたというのは不自然な感を否めないこと,②被害者であるBの当公判廷における供述(以下「被害者証言」という。)は,「本件事故時の状況についての記憶は事故の影響により失われているが,本件事故現場のひとつ手前の交差点で信号待ちして出発したころまでの記憶はある。ヘッドライトは昼間でもいつも点灯して走行しており,このときも点灯していた。」旨いうのであって,被害者証言のこの部分は信用できると考えられることや,また,被害者バイクの進行方向からの見通しは良好である上,バイクを運転して何十メートルも脇見をすればまっすぐ進路を保つことは困難であるから,被害者が本件交差点に入る辺りまで被告人車両に気付かないほど長い間脇見をしていたとは思われないことから考えると,被告人供述が被害者バイクの進行状況についていうところはそれ自体真実性に乏しいこと,③本件交差点内の路面には,上記のとおり,被害者バイクによる長さ約4.2メートルの擦過痕が中央線から約1.2メートル南側の西行車線内に中央線とほぼ並行につけられていたのであって,被害者バイクが転倒して被告人車両の方に向かって進行してきたという被告人供述は,このような客観的事実に合致しないこと,④しかも,被告人供述が被害者バイクが急ブレーキをかけ転倒し始めたという地点から衝突地点までは約16メートルであっ 方に向かって進行してきたという被告人供述は,このような客観的事実に合致しないこと,④しかも,被告人供述が被害者バイクが急ブレーキをかけ転倒し始めたという地点から衝突地点までは約16メートルであって,被害者バイクの時速が約40キロメートルであるとすると,その間を到達するのに約1.5秒しかないのであるから,被害者バイクが転倒して被告人車両の方に向かって進行してきたことを被告人が認識してそれに反応するのに相当の時間を要するであろうことを考えれば,被告人車両が急発進したとしても,その左側後部ドアないしは左後輪が中央線から約1.2メートル南側の西行車線内に至る辺りまで約3.5メートルも進行する余裕があったとは思われないことなどを考え併せると,上記のような被告人供述の信用性は乏しいといわざるを得ない。 5 そして,先に2で間違いがないと認定した事実に上記のように信用できるC供述によって認められる事実を総合すると,本件事故は,被告人が,被告人車両を運転し,対向直進車両の有無及びその安全確認不十分のまま,時速約10ないし20キロメートルで右折進行した過失により,折から被害者バイクを運転して東方から対向直進してきた被害者に急制動の措置をとらせて被害者バイクもろとも転倒滑走させて被告人車両左側部に衝突させ,被害者に判示の傷害を負わせたものであることが明らかである。 (法令の適用)被告人の判示所為は平成13年法律第138号附則2条により同法による改正前の刑法211条前段に該当するところ,所定刑中禁錮刑を選択し,その所定刑期の範囲内で,被告人を禁錮1年4月に処し,訴訟費用については刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転して交差点を右折するに当たり,対向直進車両の有 ,訴訟費用については刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転して交差点を右折するに当たり,対向直進車両の有無及びその安全確認不十分のまま右折進行した過失により,対向直進してきた普通自動二輪車を転倒させて衝突し,その運転者に判示の傷害を負わせたという事案である。 被告人は,自動車運転者が右折進行する際に果たすべき基本的な注意義務を怠ったものであって,その過失の程度は高いこと,被害者は,対面青色信号に従い直進しようとして本件交差点に進入したものであって,特段の落ち度はないこと,被害者は,本件事故により加療約1年6か月間以上を要し四肢不全麻痺等の後遺症を伴う判示の傷害を負わされたものであって,生じた結果は非常に重大であること,ところが,被告人は,本件事故直後から公判段階に至るまで,被害者に責任を転嫁して,不合理不自然な弁解に終始し,被害者に対する被害弁償はおろか謝罪や見舞いさえすることなく,むしろ「自分の方が被害者だと思っている。」と被害者やその家族の神経を逆なでするような発言をするなど,被告人には反省の態度が全く認められないし,その被害者に対する態度も不誠実というほかないこと,しかも,被告人車両は,本件事故当時,無車検かつ無保険・無共済車であったが,被告人は車検や自動車損害賠償責任保険等のことは全く気にしないで運転していたというのであって,その点でも無責任というほかないこと,そして,当然のことながら,被害者の被害感情は厳しく,被害者は被告人に対する厳重処罰を望んでいることなどを考え併せると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 してみると,被害者は,自動車損害賠償保障法の規定により,政府から本件事故による損害のてん補として221 を望んでいることなどを考え併せると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 してみると,被害者は,自動車損害賠償保障法の規定により,政府から本件事故による損害のてん補として2219万円の支払いを受けている(なお,被告人は,政府からその求償を受けており,その納期は平成15年4月25日となっていたが,現在までその支払いをしていない。)こと,被告人が本件後の平成14年4月下旬ころに被告人車両を廃棄処分していること,被告人には,昭和48年9月に業務上過失傷害罪により,平成4年7月に道路交通法違反(駐車違反)罪により,それぞれ罰金刑に処せられた以外に,前科が見当たらないことなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文の実刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見禁錮1年8月)よって,主文のとおり判決する。 平成15年5月29日神戸地方裁判所第12刑事係甲裁判官森岡安廣

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る