主文 被告人を懲役9年に処する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は、酒気を帯び、呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、令和5年5月14日午前5時59分頃、名古屋市東区矢田3丁目20番24号付近道路において、普通乗用自動車を運転した。 第2 被告人は、前記日時頃、前記車両を運転し、前記場所先の最高速度が40キロメートル毎時と指定されている左方に湾曲し、かつ、当時は降雨のため路面が湿潤し車輪が滑走しやすい状態にあった道路を名古屋市東区矢田東方面から同市守山区市場方面に向かい進行するに当たり、その進行を制御することが困難な時速約106ないし111キロメートルの高速度で自車を走行させたことにより、自車を道路の湾曲に応じて進行させることができず、自車を右前方に滑走させ、路外の橋の欄干に自車右側後部を衝突させ、よって、自車同乗者A(当時19歳)に重症頭部外傷の傷害を負わせ、同日午前9時25分頃、同市a 区b 町c 番地dB病院において、同人を同傷害に起因する外傷性くも膜下出血等により死亡させるとともに、同C(当時19歳)に全治約31日間を要する下顎骨骨折等の傷害を、同D(当時19歳)に入院加療約2か月間を要する頭蓋底骨折、びまん性軸索損傷等の傷害をそれぞれ負わせた。 第3 被告人は、前記第1の道路交通法違反事件及び前記第2の危険運転致死傷事件につき、これらが罰金以上の刑に当たる罪であることを知りながら、自己の刑責を免れようと考え、同日午前6時6分頃、同市東区矢田3丁目20番24号先路上において、Eに対し、前記事件の身代わり犯人になることを依頼し、前記Eにその旨決意させ、よって、同人をして、同日午前6時35分頃、同所先路上において、愛知県東警察署巡査 矢田3丁目20番24号先路上において、Eに対し、前記事件の身代わり犯人になることを依頼し、前記Eにその旨決意させ、よって、同人をして、同日午前6時35分頃、同所先路上において、愛知県東警察署巡査部長Fに対し、前記Eが前記車両を運転して事故を起こした旨虚偽の申立てをさせ、もって犯人隠避を教唆した。 (量刑の理由)量刑の中心となる第2の危険運転致死傷については、制限速度が時速40キロメートルのカーブのある一般道につき、降雨で路面が湿潤した状態であるにもかかわらず、制限速度より70キロメートル程度超過した時速約106キロメートルないし110キロメートルという速度で走行しており、速度超過の程度は甚だしい。見通しも悪く、被告人にとって初めて通る道において、制限速度を大幅に超えた高速度を出す行為は、危険性が高いものといわざるを得ない。 本件事故により、同乗者1名が死亡し、2名が怪我を負っている。死亡した被害者は、事故の衝撃で身体の全身にわたり重傷を負い、まだ19歳という若さでその生命を絶たれており、その肉体的、精神的苦痛は計り知れず、被害者遺族が厳しい処罰感情を抱くことは至極当然といえる。加えて、負傷した同乗者のうち1名は高次脳機能障害等の重篤な後遺症が残ったこと、もう1名も重傷を負ったことからすると、結果は重大である。 被告人は、飲酒運転中に、パトカーを見かけたことから逃走しようと考えて自車の速度を上げているところ、車内の状況について、同乗者のEは、同乗者らが速度を落とすように止めたにもかかわらず、被告人は制止を聞くことなく、「まだまだ行くぜ。」と言って前記運転に及んだ旨証言する。E証言の内容は具体的かつ自然であり、捜査段階からの一貫性も認められる。また、すでに少年審判が終了していることからすると、虚偽供述の動機もない まだまだ行くぜ。」と言って前記運転に及んだ旨証言する。E証言の内容は具体的かつ自然であり、捜査段階からの一貫性も認められる。また、すでに少年審判が終了していることからすると、虚偽供述の動機もない。他方、同乗者のCは、車内の状況について、誰かが被告人を制止するような言動はしていなかったと証言するが、被告人がパトカーを見つけたと言って右折した後の状況に関しては記憶がないと述べている上、車内はやばい雰囲気であったという一方で誰も特段の反応をしなかったとの供述をしている点は不自然である。被告人の公判供述は、パトカーを見つけて国道19号線沿いから自車を右折させた後の同乗者や自己の発言について曖昧な内容である上、捜査段階の供述との変遷も認められる。よって、E証言に信用性が認められ、その証言どおり、被告人は、制止している同乗者らの声に耳を傾けず、自らの判断で高速度走行を行ったと認 められる。 第1の酒気帯び運転については、第2の犯行に及んだ動機が飲酒運転の発覚を免れるためであったことからすれば、危険運転致死傷につながった犯行であり、また、被告人は、友人らと常習的に飲酒運転を行っていたのであり、被告人の交通法規遵守の意識は低かったといわざるを得ない。第3の犯人隠避教唆については、同乗者らが意識を失った状態で車内にいる状況の中で、Eに身代わり犯人となることを依頼した上、ドライブレコーダーのSDカードを抜き取って投棄し、車内の状況等に関する証拠を隠滅して真相解明を困難にしており、自己保身に走った短絡的な行動というほかない。 被告人は、車両の所有者であるEが運転したことにすることで被害者らへの保険の支払いを可能になるように考えたというが、そのような動機であっても何ら酌量できない。 以上の事情を勘案すると、死亡した被害者らが、被告人の飲酒運転を知 が運転したことにすることで被害者らへの保険の支払いを可能になるように考えたというが、そのような動機であっても何ら酌量できない。 以上の事情を勘案すると、死亡した被害者らが、被告人の飲酒運転を知った上で、乗車定員を超える5名で乗車し、後部座席のシートベルトを着用しなかった点を考慮しても、被告人の刑事責任は、高速度の危険運転により同乗者に死傷の結果を生じさせたという類型の中でも重い部類に属する。 被告人は、本件当時19歳であり、毎週事故現場に花束を手向けており、一生かけて本件事故と向き合いたい、今後は免許を再取得せず、飲酒もしないと述べている。 被告人の父親は、被告人が現在の職場で継続して雇用される見込みであり、被告人を今後監督することを誓約している。また、被告人自らが、他者運転危険補償特約付の任意保険に加入しており、死亡した被害者らに治療費や損害賠償金等の支払いが見込まれる。もっとも、被告人なりに後悔や反省の態度を示して本件に向き合おうとする姿勢はうかがえるものの、自己の言動が被害者遺族への心情に与える影響について十分に考えることができていないことなどから、その反省や本件への向き合い方を被告人にとって有利に評価することはできない。 以上により、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役10年) 令和6年10月28日名古屋地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官森島聡 裁判官平手健太郎 裁判官藤井茜
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