令和1(ワ)35109 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年2月22日 東京地方裁判所
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判決文本文20,774 文字)

令和4年2月22日判決言渡し同日原本交付裁判所書記官令和元年(ワ)第35109号損害賠償請求事件口頭弁論の終結の日令和3年12月6日判決 主文 1 被告は、原告に対し、2425万4443円及びこれに対する平成26年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを20分し、その7を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、6887万2516円及びこれに対する平成25年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告の従業員であった原告が、被告による安全配慮義務違反により、恒常的な長時間労働に従事した結果鬱病を発症したと主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、6887万2516円及びこれに対する平成25年12月2日(不法行為の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29 年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(以下の各事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)⑴ 当事者 ア原告は、昭和▲▲年▲月▲日生まれの男性であり、平成22年4月1日に 被告に入社し、平成26年6月15日に被告を退社した者である。 (甲2、20)イ被告は、インターネット通販の運営事業、ネット通販支援事業、化粧品開発 性であり、平成22年4月1日に 被告に入社し、平成26年6月15日に被告を退社した者である。 (甲2、20)イ被告は、インターネット通販の運営事業、ネット通販支援事業、化粧品開発・販売事業及びオンラインゲーム事業等を主に事業内容とする株式会社である。 (甲1)⑵ 原告が鬱病を発症した経緯等ア原告は、平成22年4月1日、被告に入社した。 原告は、同日から平成25年5月31日までの間、被告の業務グループに所属し、データ入力等の業務に従事した。 原告は、平成25年6月1日以降、被告の物流グループに所属し、入荷作業などに従事した。 (甲2)イ原告は、平成25年11月下旬頃、埼玉県E町所在の物流センターがさいたま市F区所在のF物流センター(以下「本件事業所」という。)に移転した ことに伴い、本件事業所に異動した。 原告の本件事業所における労働条件等は、以下のとおりであった。 雇用期間:定めなし就業時間:午前9時から午後6時までの合計8時間休憩時間:午後0時から午後2時までの間のうち1時間 休日:土曜日、日曜日及び祝日給与:基本給17万5000円、職能給8万円、調整給2万7500円業務内容:倉庫内の商品管理及び顧客への商品発送等(甲2、3、20) ウ原告は、平成26年2月下旬頃、鬱病を発症し、同年3月3日、Aメンタ ルクリニックを受診して鬱病と診断された。 原告は、同月13日、同月27日、同年4月15日、同年5月16日及び6月16日、Aメンタルクリニックに通院(5回)した。 (甲2、乙5の1、乙8)エ原告は、平成26年6月15日、被告を退職した。 (甲20)オ春 年4月15日、同年5月16日及び6月16日、Aメンタルクリニックに通院(5回)した。 (甲2、乙5の1、乙8)エ原告は、平成26年6月15日、被告を退職した。 (甲20)オ春日部労働基準監督署長(以下「春日部労基署長」という。)は、平成26年12月16日、平成25年9月から平成26年2月までの間の時間外労働時間を以下のとおり認定し、原告が同年2月下旬頃に鬱病に発症したことにつき、業務起因性が認められる旨認定した。 平成25年9月 13時間44分同年10月 36時間12分同年11月 147時間05分同年12月 223時間34分平成26年1月 81時間45分 同年2月 108時間25分(甲2)カ原告は、平成27年3月6日以降、労働者災害補償法に基づく休業補償給付の支給決定に基づき、平成26年6月16日から平成30年9月26日までの間に係る休業補償給付として、合計1810万0078円の支給を受け た。 (甲7ないし9)キ春日部労基署長は、平成31年1月18日、原告が発症した鬱病につき、平成30年9月26日をもって症状固定の状態に至り、原告において、後遺障害等級9級に該当する後遺障害が残存する旨認定した。 原告は、平成31年1月23日、上記認定に基づき、障害補償一時金とし て844万0908円の支給を受けた。 (甲6、18) 2 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 被告による安全配慮義務違反の有無(原告の主張) ア使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがない (原告の主張) ア使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うというべきである。そして、使用者において、労働者の死傷等という具体的な結果を惹起するような危険な状態についての認識があれば、上記結果に対する予見可能性は認め られるべきである。 イ原告の労働時間は、ICカード(社員証)を専用パソコンに通すことにより管理されていたこと、原告の当時の上司が、被告の従業員(原告を含む。)に対して、「たくさん残業できるから、稼げていいな。」と発言したことなどに鑑みれば、被告は、原告が平成25年11月下旬頃から恒常的な長時間労 働に従事していたこと(具体的には、同月1日から同月30日までの間に147時間05分もの時間外労働に従事していたこと。)を認識し、原告が心身の健康を損なうおそれがあることを予見することは容易に可能であったというべきである。 そうすると、被告は、原告に対し、遅くとも、発症前3箇月の時点(平成 25年12月1日)で、原告が過重な労働が原因となって健康を害することがないよう労働時間、休憩時間、休日、労働密度、休憩場所、人員配置、労働環境等を検討し、原告の労働時間が長時間に及ばないよう管理し、十分な休息を取らせる義務があったにもかかわらず、それを怠り、その直後の1箇月間には、原告に223時間34分もの時間外労働に従事させた。 ウしたがって、被告は、平成25年12月1日時点で、安全配慮義務に違反 したといえる。 エ被告は、原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から同年12月15 て、被告は、平成25年12月1日時点で、安全配慮義務に違反 したといえる。 エ被告は、原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から同年12月15日までの間のみであると主張するが、同主張は、賃金台帳という、被告が作成した一部の不正確な資料に基づくものである。 また、被告は、原告が鬱病を発症した後の面談の内容等を考慮して、被告の安全配慮義務違反は重大ではないと主張するが、同義務違反後の事情は、違反の程度に何ら関係がないものである。 (被告の主張)ア被告が原告に対して結果的に長時間に及ぶ時間外労働をさせていた事実 はあるものの、平成25年及び平成26年の賃金台帳によれば、原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から同年12月15日までの間のみであるから、原告において恒常的に長時間の時間外労働があったわけではない。 イ原告は、平成25年11月から平成26年2月までの間(以下「本件期間」 という。)、被告に対し、業務量が過重であることや業務の改善を求めることなどの申告をしなかった。被告は、原告を含む従業員に対し、毎年、健康診断を受けさせるなどの対応をしており、特に、原告を含む35歳以上の従業員に対し、人間ドック検査を認めていた。原告は、平成26年1月23日の人間ドック検査の際、医師に対し、長時間労働による睡眠不足や体調不良等 を申し出ていなかった(乙2)。 また、被告は、原告から鬱病の診断書の提出を受けた後、原告と面談をし、原告の健康状態等を確認して原告が出社しないよう措置を採ったり、原告の健康を気遣った。 ウ以上の事情に鑑みれば、被告において、仮に安全配慮義務違反が認められ を受けた後、原告と面談をし、原告の健康状態等を確認して原告が出社しないよう措置を採ったり、原告の健康を気遣った。 ウ以上の事情に鑑みれば、被告において、仮に安全配慮義務違反が認められ るとしても、上記違反の程度は重大ではない。 ⑵ 被告による安全配慮義務違反と原告の鬱病の発症の間の因果関係の有無(原告の主張)①原告は、平成26年2月下旬頃、鬱病を発症したこと、②原告は、平成25年11月下旬頃に仕事量が著しく増加し、同年12月1日から同月30日までの間に約223時間の時間外労働に従事したこと、③原告は、平成25年1 1月11日から同月23日までの間の13日間(倉庫移転作業)、同月26日から同年12月14日までの間の19日間(クリスマス商戦)及び平成26年2月10日から同月25日までの間の16日間(新規事業の開始)に、いずれも休日がとれず、連続して勤務したこと、④原告は、平成26年2月下旬から、新規事業の実質的なリーダーとして現場を任されたことなどによれば、本件で は、原告が鬱病を発症する前おおむね6箇月の間に、業務による強い心理的負荷が認められる。 そして、原告において、業務以外の心理的負荷及び個体側要因がいずれも存在しないことなどを考慮すれば、被告による安全配慮義務違反と原告の鬱病の発症の間に因果関係を是認し得る高度の蓋然性を認めるに足りる事情がある というべきである。 (被告の主張)①原告は、鬱病を発症する前に肝機能に異常があった可能性があり(乙2)、また、睡眠薬を常用していたから、健康状態に問題があったこと、②原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から 同年12月15日のみであり(乙3の1及び2)、本件事業 睡眠薬を常用していたから、健康状態に問題があったこと、②原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から 同年12月15日のみであり(乙3の1及び2)、本件事業所に勤務していた従業員及びアルバイト7名で原告と同時期に鬱病を発症した者はいないこと、③原告は、本件事業所に勤務する前から軽度のストレスに耐えられない性格であり、平成26年2月頃に原告の業務内容が変更され、その後の仕事をうまくできなかったことが、鬱病の発症の原因と考えられること、④原告は、本件事 業所で勤務していた際、被告の従業員と交際していたが、平成26年5月以降 に破局したこと、⑤原告が鬱病を発症した後に受診した病院の診療録等によれば、原告は、鬱病を発症した後1箇月程度で復職可能な程度に回復していたことや、原告と家族の関係及び原告と担当医師の相性などにより、鬱病が発症し、長期化したことなどが認められることなどの各事情に鑑みれば、被告による安全配慮義務違反と原告の鬱病の発症の間に因果関係は認められない。 ⑶ 損害額(原告の主張)原告は、被告による安全配慮義務違反により、以下のとおり合計6887万2516円(下記アないしエ及びカの合計-下記オ)の損害を被った。 ア休業損害 3555万8424円 原告が鬱病を発症した日の直近3箇月間の賃金の平均である、1日当たり2万1267円(甲6。労働基準法12条1項参照。)を基礎収入とすべきである。原告が鬱病を発症した日を平成26年2月28日と仮定すると、症状固定日が平成30年9月26日であるから、原告が就労できなかった日数は、1672日である。 したがって、休業損害は、3555万8424円(21,267 円×1,67 定すると、症状固定日が平成30年9月26日であるから、原告が就労できなかった日数は、1672日である。 したがって、休業損害は、3555万8424円(21,267 円×1,672 日=35,558,424 円)である。 イ逸失利益 3748万9941円原告は、平成30年9月26日、後遺障害等級9級と認定されていることから、原告の労働能力喪失率は、35%である。原告は、症状固定時(平成 30年9月26日)、43歳であり、67歳まで就労可能であるから、労働能力喪失期間は24年であり、それに対応するライプニッツ係数は、13.7990である。 したがって、逸失利益は、3748万9941円(21,267 円×365 日×13.7990×0.35≒37,489,941)である。 ウ入通院慰謝料 782万4000円 原告は、鬱病を発症してから症状が固定するまでの間、1週間の入院及び54箇月の通院(74回)をした。原告は、1箇月当たり最大233時間もの時間外労働を強いられたにもかかわらず、被告から一切の謝罪がないばかりか、被告から「今回のことはお互い様だったな。」などという不適切な発言があったことを踏まえれば、原告の入通院慰謝料は、782万4000円(赤 い本を基準とする金額にその2割を加えた金額)を下らない。 エ後遺障害慰謝料 828万円原告は、平成30年9月26日、後遺障害等級9級と認定されたことに加え、前記ウの事情も踏まえると、原告の後遺障害慰謝料は、828万円(赤い本を基準とする金額にその2割を加えた金額)を下らない。 オ損益相殺 2654万0986円原告は、労災保険給付として、以下のとおり、合計2654万0986円の給 、828万円(赤い本を基準とする金額にその2割を加えた金額)を下らない。 オ損益相殺 2654万0986円原告は、労災保険給付として、以下のとおり、合計2654万0986円の給付を受けた。 障害補償一時金 844万0908円 休業補償給付 1810万0078円 カ弁護士費用相当額 626万1137円((前記アないしエの合計-前記オ)×0.1)(被告の主張)ア休業損害について原告の時間外労働を含まない平成24年の収入(344万7957円。乙 13。)を基準とすべきであり、基礎収入は1日当たり9446円(3,447,957円÷365 日)となるから、休業損害は、1578万4266円(9,446 円×1,671 日=15,784,266 円)である。 イ逸失利益について原告の鬱病に関する医師の意見書(乙16。以下「本件意見書」という。) には、原告が、仮に、これまで受けてこなかった薬剤の投与や電気けいれん 療法などの治療を受けていれば、鬱病発症から5年又は10年の間に治癒していた可能性は否定できない旨記載され、原告は、診療機関での入院又は自宅での経頭蓋磁気刺激療法による施術が可能であり、労働能力を回復する可能性は十分にあるといえる。 したがって、原告の労働能力喪失期間は、長くても症状固定後5年である というべきであるから、逸失利益は、522万4522円(9,446 円×365 日×4.3295×0.35≒5,224,522 円)である。 ウ入通院慰謝料について入院1週間については、原告が希望したものであるから、慰謝料は生じないというべきである。 また、原告の通院期間は長 224,522 円)である。 ウ入通院慰謝料について入院1週間については、原告が希望したものであるから、慰謝料は生じないというべきである。 また、原告の通院期間は長期にわたるから、実通院日数(74日)の3倍である222日を慰謝料算定のための通院期間とすべきである。 そうすると、入通院慰謝料は、赤い本を基準とすると、124万円(通院7箇月分)に3万2000円(12日分)を加えた127万2000円である。 エ後遺障害慰謝料について原告は、後遺障害慰謝料について、赤い本を基準とする金額にその2割を加えた金額を下らないと主張するが、その根拠は不明である。 入通院慰謝料は、赤い本基準の690万円である。 ⑷ 過失相殺 (被告の主張)ア原告は、平成26年3月28日、本当は働けない状態であるのに、職場に戻れるようAメンタルクリニックのB医師に頼み、同医師をして、同年4月4日以降の復職が可能である旨の診断書(乙5の2)を作成させた。B医師は、上記原告の発言により、適切な治療を行うことができなかった。 原告は、その後に通院した東北会病院の担当医師の勧めに反し、障害者向 けの作業所に行かなかった。原告が社会復帰のための活動を試みなかったことが、鬱病の治癒を遅延させていることは否定できない。 原告は、平成26年5月下旬頃から、仙台の実家での生活を開始したが、家族と過ごすことにストレスを感じながら生活をしていたのであるから、その生活環境が、鬱病の治癒を遅延させていることは否定できない。 原告は、平成26年2月に新規プロジェクトのリーダーを申し出た一方で、上司及び同僚に対し、原告の業務状況の改善を相談したことがなかったことからすれば、仕事を抱 させていることは否定できない。 原告は、平成26年2月に新規プロジェクトのリーダーを申し出た一方で、上司及び同僚に対し、原告の業務状況の改善を相談したことがなかったことからすれば、仕事を抱え込む性格を有し、かかる性格が、鬱病の治療を遅延させていることは否定できない。 原告が平成26年5月以降に交際相手と破局したこと(前記⑵(被告の主 張)④)が、原告に精神的影響を与えたことは否定できない。 イ以上の各事情を考慮すれば、発生した損害につき、原告には少なくとも3割の過失が認められるから、過失相殺がされるべきである。 (原告の主張)ア業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において、使用者 の賠償すべき額を決定するに当たり、労働者の性格が、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には、当該労働者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を心因的要因としてしんしゃくすべきではない。 イ被告が指摘する各事情は、いずれも同種の業務に従事する労働者の個性の 多様さとして通常想定される範囲を外れるものとはいえないから、過失相殺は認められないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記第2の1の前提事実(以下「前提事実」という。)に加え、後掲の各証拠及 び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができる。 ⑴ 原告の本件期間(平成25年11月から平成26年2月まで)における労働状況等ア本件期間において、本件事業所には、原告を含む被告の従業員合計4名及び派遣社員合計約30名がいた。 本件事業所内が整理されておらず、また、日々新しい品物が届くため、本 件期間における本件事業所は において、本件事業所には、原告を含む被告の従業員合計4名及び派遣社員合計約30名がいた。 本件事業所内が整理されておらず、また、日々新しい品物が届くため、本 件期間における本件事業所は、荷捌きが全く追いつかない状況であった。 (争いのない事実)イ被告は、平成26年2月下旬頃、株式会社Gと業務提携をし、本件事業所において上記会社の化粧品の出荷業務や在庫管理を行うといった新規プロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)を実施することとなった。 原告は、当時の上司から、本件プロジェクトにおける現場のリーダーを任された。 (甲20、原告本人(5頁))ウ原告は、被告から社員証(ICカード)を交付されており、原告の労働時間(本件期間を含む。)は、同社員証を本件事業所内に設置された専用のパソ コンに読み込ませることによって管理されていた。 春日部労基署長は、原告の平成25年9月から平成26年2月までの間の労働時間を、社員証(ICカード)を通した管理に基づく就業週報及び就業月報等により把握し、原告の上記期間の時間外労働時間数を以下のとおり認定した。 平成25年9月 13時間44分同年10月 36時間12分同年11月 147時間05分同年12月 223時間34分平成26年1月 81時間45分 同年2月 108時間25分 (争いのない事実、前提事実⑵オ、甲2)⑵ 原告の健康状態等ア原告は、平成26年2月下旬頃、鬱病を発症し、同年3月3日、Aメンタルクリニックを受診して鬱病と診断された。 原告は、同年3月3日から同年6月16日までの間、同クリニックに通院 (6回)した。 (前提事実⑵ウ、甲2、乙8) 症し、同年3月3日、Aメンタルクリニックを受診して鬱病と診断された。 原告は、同年3月3日から同年6月16日までの間、同クリニックに通院 (6回)した。 (前提事実⑵ウ、甲2、乙8)イ原告は、平成26年3月3日、Aメンタルクリニックを受診し、「病名うつ病」、「上記による症状(引用者注:鬱病)のため、今後1ヶ月間の自宅療養が必要な状態である」と診断された。 (乙5の1、乙8)ウ被告の人事総務部長は、平成26年3月20日、原告に対し、以下の内容の手紙を交付した。 「先般19日は、気分を悪くさせてしまったことがあるかも知れませんが、医師の診断書を見た上での判断だったので、ご理解ください。 診断内容を読むと、1か月間の自宅療養をした後に元気に復帰してもらうのが、Cにとっても職場の皆にとっても最良のことと思っています。(中略)それから、自身で考え込む前に病院の先生とかに必ず相談すること。(友人とかネットの情報を信じても本当の解決にはなりません)」 (乙1)エ原告は、平成26年3月27日、Aメンタルクリニックを受診し、「上記の症状(引用者注:鬱病)軽快しており、平成26年4月4日以降、復職が可能な状態であると判断する」と診断された。 (乙5の2、乙8) オ原告は、同月頃、本件事業所の派遣社員から、原告がいないと本件事業所 の仕事が回らず、職場に復帰してほしい旨伝えられたため、同年4月上旬頃、職場に復帰した。 しかし、原告は、体調が悪くなり、その日の午後に早退した。 (甲20、原告本人(8、9頁))カ原告は、平成26年6月10日から同年9月29日までの間、東北会病院 に通院した。 (乙10)キ原告は、平成26年10 の日の午後に早退した。 (甲20、原告本人(8、9頁))カ原告は、平成26年6月10日から同年9月29日までの間、東北会病院 に通院した。 (乙10)キ原告は、平成26年10月10日から平成27年7月27日までの間、東北大学病院に通院した。東北会病院から東北大学病院に通院先を変更したのは、原告の母親が勧めたことや、原告の父親の知り合いが東北大学病院に勤 務していたからであった。 平成27年7月27日の診療録には、医師の見立てとして、以下の内容が記載されている。 「抑うつが持続しているのではなく、悩みや“恨み”といった性質のものにさいなまれていたり、また人格特性により苦悩している可能性がある。薬 物療法の効果が十分得られない要因と思われる。 →心理的・社会的に変わっていくことも求められるのでは?」(乙9、10)ク原告は、平成27年8月17日から平成30年9月26日までの間、東北会病院に再度通院した。 同病院の平成30年4月11日の診療録には、原告の発言として、以下の内容が記載されている。 「作業所にいくと労災が打ち切られる。なのでなかなか通いにくい。」(乙10)ケ原告は、平成28年1月13日から同月19日、検査を受けて、器質的な 原因の有無や治るのか等を知る目的で、国立研究開発法人国立精神・神経医 療研究センター病院に入院した。 同病院は、同月19日、原告に対し、現在まで十分な抗鬱薬による薬物治療が行われていなかったため、今後、抗鬱薬の至適用量を十分な期間投与することにより、鬱病の改善の可能性があることなどを伝えた。 (乙11) コ春日部労基署長は、平成31年1月18日、原告が発症した鬱病につき、平成30年9月26日をもって症状固 な期間投与することにより、鬱病の改善の可能性があることなどを伝えた。 (乙11) コ春日部労基署長は、平成31年1月18日、原告が発症した鬱病につき、平成30年9月26日をもって症状固定の状態に至り、原告において、後遺障害等級9級7号の2に該当する後遺障害が残存する旨認定した。 (前提事実⑵キ)⑶ B医師による原告の診察 B医師は、原告を診察した際、診療録に以下の内容を記載している。 ア平成26年3月3日「(冒頭略)ここ3ヶ月ほどとにかく忙しく仕事量が倍になった。1週間ほど前から立っていられない様なだるさがあり2,3日休んだ。めまいや頭痛、倦怠感、過眠傾向など続いていた。吐き気もあった。現在は頭痛と倦怠感 だけ続いている。夜は眠れている。食欲がとにかくない。殆ど食べていない。(中略)長期には休まないほうがよいと考える。診断書が必要な場合は1ヶ月程度休職の必要性を記載する。」イ同月13日「結局休んでいても退屈で何をしてよいか分からないので1週間だけ休み今 週から仕事に戻っている。負担の軽減はされている。周りは心配している。 自分でもどうしてよいか分からないという。ほんとに辛ければ戻れないと考える。初診時の印象でも神経症圏の病態であり、今回は本人の行動を尊重し会社の配慮引き出しながら経過を観ていくことになる。(以下略)」ウ同月27日 「読書もしているし外出もしている。夜も眠れている。薬で多少眠くなる。 昼間も寝る。薬を飲んで休んでいるだけでは良くならないと本人も話される。会社の配慮引き出しながら予定どおり1ヶ月の休職で復職したらどうかと伝える。後頭部の重い張ったような感じがある。(以下略)」エ同年4月15日 いるだけでは良くならないと本人も話される。会社の配慮引き出しながら予定どおり1ヶ月の休職で復職したらどうかと伝える。後頭部の重い張ったような感じがある。(以下略)」エ同年4月15日「復職出来なかった。本社勤務で通勤にも時間がかかりとても無理だと考え た途端加え悪くなった。退職も考えている。逃避的な印象はある。休んでるだけでは良くならない。本人希望もあり抗うつ薬を加える。」(アないしエについて、乙8)⑷ 本件意見書(乙16)について浜松医科大学において精神医学講座を担当するD医師が令和3年8月20 日に作成した意見書(本件意見書)には、以下の見解が記載されている。 「うつ病の治療期間について明確に回答することはできない。」「原告には、まだ薬物療法によって寛解を得られる可能性は十分にあると考えられる。その上でなお治療に難渋する場合には経頭蓋磁気刺激法や電気けいれん療法を検討する必要があると考えられる。 このように治療可能性が十分残されていることを踏まえてもなおうつ病の治療期間について明確に回答することは困難である。しかし、上記のように原告がこれまで受けてこなかった薬剤の投与や電気けいれん療法などの治療を受けていたとしたら、うつ病発症から5年の間に治癒していた可能性は否定できないし、発症から10年までの間に治癒する可能性も否定できな い。」「上記のように治療可能性が十分残されており、今後就労可能なほどに回復する可能性もあると考えられる。すなわち、現時点で労働能力を喪失しているとしても、直ちに67歳までの労働能力を喪失するとは言えないと考える。」(乙16) 2 争点⑴(被告による安全配慮義務違反の有無)について ⑴ 一般的に、使用 しているとしても、直ちに67歳までの労働能力を喪失するとは言えないと考える。」(乙16) 2 争点⑴(被告による安全配慮義務違反の有無)について ⑴ 一般的に、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である(最高裁平成10年(オ)第217号、同年(オ)第218号平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 ⑵ 前提事実⑵イ及び前記1の認定事実(以下「認定事実」という。)⑴ウによれば、原告は、本件事業所に異動してから業務量が著しく増加し、原告の平成25年11月の時間外労働時間は約147時間であった。厚生労働省労働基準局長が発した「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号。甲4、5。以下、単に「認定基準」という。) に照らせば、原告の上記時間外労働は、原告に対して相当程度の心理的負荷を生じさせるものと認めることができる。そして、被告は、ICカードを用いた管理によって従業員の労働時間を正確に把握していたのであるから(認定事実⑴ウ)、原告の上記時間外労働時間を把握していたことが認められる。12月は、一般的に、クリスマス商戦によって商品の出荷量が増加することから、被 告において、原告の平成25年12月の本件事業所での業務量も増加するであろうことは容易に予想でき、実際に、原告の同年12月の時間外労働時間は、約223時間であって同年11月の時間外労働時間を大きく上回った(同認定事実。なお、認定基準は、直前の2箇月間に1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その 年12月の時間外労働時間は、約223時間であって同年11月の時間外労働時間を大きく上回った(同認定事実。なお、認定基準は、直前の2箇月間に1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するもの であった場合には、強い心理的負荷が生じるとする(甲4、5)。)。 以上の事情に鑑みれば、被告は、同年12月1日の時点で、原告の平成25年11月の時間外労働時間が、原告に対して相当程度の心理的負荷を生じさせるものであることを認識し、かつ、原告の同年12月の時間外労働時間も、原告に対して相当程度の心理的負荷を生じさせ得るものであることを認識する ことができたというべきである。そうすると、被告は、同年12月1日時点で、 原告に対し、当該業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して原告の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っていたにもかかわらず、その後何らの対策を講じることなく、これを怠ったというべきであるから、安全配慮義務に違反したと認められる。 ⑶ア被告は、平成25年及び平成26年の賃金台帳によれば、原告が1箇月当 たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から同年12月15日までの間のみであるから、原告において恒常的に長時間の時間外労働があったわけではないと主張する。 しかし、上記各賃金台帳(乙3の1及び2)に記載された時間外労働時間の算定根拠は明らかにされていない。原告の労働時間は、原告に交付された 社員証(ICカード)を本件事業所内に設置された専用のパソコンに読み込ませることによって管理されており、春日部労基署長は、原告の本件期間における時間外労働時間を、同社員証(ICカード)を通した管理に基づく就業週報及び就業月 事業所内に設置された専用のパソコンに読み込ませることによって管理されており、春日部労基署長は、原告の本件期間における時間外労働時間を、同社員証(ICカード)を通した管理に基づく就業週報及び就業月報等により把握していたところ(認定事実⑴ウ)、被告は、春日部労基署長による原告の時間外労働時間の認定が事実と異なることに ついて、上記各賃金台帳を提出する以外に何ら具体的な主張立証をしていない。 したがって、被告の上記主張は、上記認定を左右するものでなく、採用することができない。 イ被告は、平成25年11月、原告から、業務量が過重であることや業務の 改善を求めるなどの申告がなかったと主張する。 しかし、原告の同月時点での時間外労働時間は、前記⑵で認定・説示したとおり、相当程度の過重性を有していたことからすれば、被告は、原告から上記申告がなかったとしても、原告の心身の健康を損なうことがないようにすべきであったと認めるのが相当であるから、被告の上記主張は、採用する ことができない。 ウ前記ア及びイのほか、被告が前記第2の2⑴(被告の主張)イにおいて主張する各事情は、いずれも被告による安全配慮義務違反の状態が一定期間継続した後のものであり、かつ、被告が安全配慮義務を十分に履行したと評価できるものでもないから、前記⑵の判断を左右するものではない。 3 争点⑵(被告による安全配慮義務違反と原告の鬱病の発症の間の因果関係の有 無)について⑴ 認定事実⑴ウによれば、①原告は、平成25年11月から業務量が著しく増加し、同年12月には、約223時間の時間外労働をしていたことが認められる。また、②原告は、平成25年11月11日から同月23日までの13日間、同月26日から同年12月14日までの19日間及 しく増加し、同年12月には、約223時間の時間外労働をしていたことが認められる。また、②原告は、平成25年11月11日から同月23日までの13日間、同月26日から同年12月14日までの19日間及び平成26年2月10日 から同月25日までの16日間、それぞれ休日をとることなく連続して勤務していたことが認められる。以上の事情に鑑みれば、原告の本件期間における労働時間は、原告に対して強い心理的負荷を生じさせるものであったと認めることができる。さらに、③原告は、平成26年2月頃、本件プロジェクトの現場のリーダーを任された(認定事実⑴イ)。本件プロジェクトが本件事業所にお ける新規のプロジェクトであることや(認定事実⑴イ)、現場のリーダーはその他の従業員と異なり重い責任を負う立場であることなどを踏まえると、原告の同時期の業務内容は、同時期の労働時間とあいまって、原告に対して強い心理的負荷を生じさせるものであったと認めることができる。春日部労基署長が、認定基準に照らし、上記①ないし③の総合評価をいずれも「強」とし、上記① ないし③を総合的に考慮して全体の評価を「強」とした上で、原告が鬱病を発症したことにつき、業務起因性を認めたこと(前提事実⑵オ、甲2)も併せて考慮すれば、被告による安全配慮義務違反と原告の鬱病の発症の間に因果関係を認めることができる。 ⑵アこの点について、被告は、①原告は、鬱病を発症する前に肝機能に異常が あった可能性があり(乙2)、また、睡眠薬を常用していたから、健康状態に 問題があったこと、②原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から同年12月15日のみであり(乙3の1及び2)、本件事業所に勤務していた従業員及びアルバイト7名で原告と同時期に鬱病を 原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日から同年12月15日のみであり(乙3の1及び2)、本件事業所に勤務していた従業員及びアルバイト7名で原告と同時期に鬱病を発症した者はいないこと、③原告は、本件事業所に勤務する前から軽度のストレスに耐えられない性格であり、平成26年2月頃に原告の業 務内容が変更され、その後の仕事をうまくできなかったことが、鬱病の発症の原因と考えられること、④原告は、本件事業所で勤務していた際、被告の従業員と交際していたが、平成26年5月以降に破局したこと、⑤原告が鬱病を発症した後に受診した病院の診療録等によれば、原告は、鬱病を発症した後1箇月程度で復職可能な程度に回復していたことや、原告と家族の関係 及び原告と担当医師の相性などにより、鬱病が発症し、長期化したことなどが認められることなどの各事情に鑑みれば、被告による安全配慮義務違反と原告の鬱病の発症の間に因果関係は認められないと主張する。 イ上記①について、証拠(乙2)によれば、原告が平成26年1月23日付けの人間ドック報告書において指摘を受けた肝機能異常は、経過観察にとど まるものであったから、上記異常が鬱病の発症の原因となったと認めることはできない。また、原告が、鬱病を発症する前に睡眠薬を常用していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。 上記②については、前記2⑶アにおいて認定・説示したとおり、原告が1箇月当たり100時間を超える残業をしたのは、平成25年11月16日か ら同年12月15日のみであったとはいえず、上記③については、前記⑴において認定・説示したとおり、平成26年2月頃の業務内容の変更は、同時期における非常に長い労働時間を差し置いて原告に心理的負荷をかけるものではない。 たとはいえず、上記③については、前記⑴において認定・説示したとおり、平成26年2月頃の業務内容の変更は、同時期における非常に長い労働時間を差し置いて原告に心理的負荷をかけるものではない。 上記④及び⑤は、いずれも原告が鬱病を発症した後の事情であるから、前 記⑴の判断を左右するものではない。 以上によれば、被告が主張する上記①ないし⑤は、いずれも被告による安全配慮義務違反と原告の鬱病の発症の因果関係を否定する事情とはいえず、また、上記①ないし⑤について認められる事実を含めて考慮したとしても、上記因果関係は否定されないから、被告の前記アの主張は、採用することができない。 4 争点⑷(過失相殺)について本件では,損害等に関するものとして,損害額の確定と損益相殺に関する主張がまとめてされていることから,過失相殺について先に判断することとする。 ⑴ 被告は、原告が、平成26年3月28日、本当は働けない状態であるのに、職場に戻れるようB医師に頼み、同医師をして、同年4月4日以降の復職が可 能である旨の診断書(乙5の2)を作成させており、B医師は、上記原告の発言により、適切な治療を行うことができなかったと主張する。 しかしながら、B医師による診察時の原告の説明内容及びB医師の所見(認定事実⑶)並びに原告が派遣社員から復職を求められていたこと(認定事実⑵オ)を踏まえると、原告は、B医師に述べているように「どうしてよいか分か らない」状態にあったというべきであって、積極的に虚偽の説明をして適切な治療を妨げたと認めることはできないものである。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 ⑵ 被告は、原告が、東北会病院の担当医師の勧めに反し、障害者向けの作業所に して適切な治療を妨げたと認めることはできないものである。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 ⑵ 被告は、原告が、東北会病院の担当医師の勧めに反し、障害者向けの作業所に行かず、原告が社会復帰のための活動を試みなかったことが、鬱病の治癒を 遅延させていることは否定できないと主張する。 確かに、原告は、平成30年4月11日の通院の際、「作業所にいくと労災が打ち切られる。なのでなかなか通いにくい。」と発言していたものである(認定事実⑵ク)。しかし、同事実のみで、原告が作業所に行かなかったことが鬱病の治癒を遅らせたとまで認めることはできない。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 ⑶ 被告は、①原告は、平成26年5月下旬頃から、仙台の実家での生活を開始したが、家族と過ごすことにストレスを感じながら生活をしていたのであるから、その生活環境が、鬱病の治癒を遅延させていることは否定できないこと、②原告は、平成26年2月に新規プロジェクトのリーダーを申し出た一方で、上司及び同僚に対し、原告の業務状況の改善を相談したことがなかったことか らすれば、仕事を抱え込む性格を有し、かかる性格が、鬱病の治療を遅延させていることは否定できないこと、③原告が平成26年5月以降に交際相手と破局したことが、原告に精神的影響を与えたことは否定できないことなどを主張する。 しかしながら、仮に原告に仕事を抱え込む性格があったり、原告が上記各事 情により精神的な影響を受けたことがあったとしても、かかる事情は、いずれも同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないというべきである。 したがって、被告が主張する上記各事情は、いずれも原告の しても、かかる事情は、いずれも同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないというべきである。 したがって、被告が主張する上記各事情は、いずれも原告の過失として考慮すべき事情とはいえず、被告の上記主張は、採用することができない。 5 争点⑶(損害額)について⑴ 休業損害ア基礎収入について原告は、原告が鬱病を発症した日の直近3箇月間の賃金の平均である、1日当たり2万1267円(甲6。労働基準法12条1項参照。)を基礎収 入とすべきであると主張する。他方で、被告は、原告の本件期間における時間外労働時間を含まない平成24年の収入(344万7957円)を基準とすべきであり、基礎収入は1日当たり9446円(3,447,957 円÷365日)とすべきであると主張する。 原告が鬱病を発症した日の直近3箇月間の賃金に基づく基礎収入額は、 クリスマス商戦による業務量の増加や本件プロジェクトによる業務量の 増加が年間を通じて存在することを前提とした金額であるが、その前提が相当でないことは明らかであるから、原告の上記主張は、採用することができない。 また、被告が主張する平成24年の収入を基準とすべき合理的な理由も見当たらない。 そうすると、原告の鬱病発症の直近1年間(平成25年3月から平成26年2月まで)の収入を基準とすることが、実情を最も適切に踏まえたものであるというべきである。上記期間の原告の収入は、538万9152円(給与513万9152円及び賞与25万円の合計。甲3の1ないし3並びに乙3の1及び2。)であるから、基礎収入は、1日当たり1万476 5円(5,389,152 円÷365 日。1円未満四捨五入。)が相当と認められる。 賞与25万円の合計。甲3の1ないし3並びに乙3の1及び2。)であるから、基礎収入は、1日当たり1万476 5円(5,389,152 円÷365 日。1円未満四捨五入。)が相当と認められる。 イ休業期間原告が平成26年2月頃に鬱病を発症した後、同年3月3日にAメンタルクリニックを受診して鬱病と診断され、同月4日、今後1箇月間の自宅療養が必要であると診断されたこと(認定事実⑵ア及びイ)からすれば、原告の 休職は同月3日以降であると認めるのが相当であるから、休業期間は、同日から症状固定日である平成30年9月26日までの間の合計1669日と認めるのが相当である。 ウ小括以上より、原告の休業損害は、2464万2785円(14,765 円×1,669 日)と認められる。 ⑵ 逸失利益ア労働能力喪失率原告は、平成30年9月26日、後遺障害等級9級と認定されていること(前提事実⑵キ)及び原告の鬱病の症状(認定事実⑵)などに照らせば、原 告の労働能力喪失率は35%とするのが相当である。 イ労働能力喪失期間 証拠(甲20、原告本人(12頁))によれば、原告は、現在も東北会病院に通院をし、薬物療法によって鬱病の治療をしており、症状が遷延化していることが認められる。 もっとも、難治性鬱病相の持続期間につき、平均5年長期にわたるもの で11年から13年という報告がされている(乙15)。また、原告は、現在、薬物療法による鬱病の治療のみを行っており(原告本人(12,13頁))、ほかの薬物の投与や、反復経頭蓋磁気刺激法及び電気けいれん療法といった薬物療法以外の治療法を行うことによって、今後鬱病を完治する可能性があることが認められる(乙16,17、18の1) ,13頁))、ほかの薬物の投与や、反復経頭蓋磁気刺激法及び電気けいれん療法といった薬物療法以外の治療法を行うことによって、今後鬱病を完治する可能性があることが認められる(乙16,17、18の1)。 以上の事情に鑑みれば、原告の労働能力喪失期間は10年とするのが相当であり、これに対応するライプニッツ係数は、7.7217である。 この点について、被告は、本件意見書(乙16)によれば、原告の労働能力喪失期間は長くても症状固定後5年であると主張する。しかし、本件意見書は、原告がこれまで受けてこなかった薬剤の投与や電気けいれん療 法などの治療を受けていた場合でも、鬱病発症から10年までの間に治癒する可能性も否定できない旨の見解を示していること(認定事実⑷)からすれば、本件意見書の内容を踏まえたとしても、原告の鬱病が5年で完治するとはいえず、被告の上記主張は、採用することができない。 ウ小括 以上より、原告の逸失利益は、1456万4695円(5,389,152 円×7.7217×0.35。1円未満四捨五入。)と認めるのが相当である。 ⑶ 入通院慰謝料ア原告は、鬱病の治療のために、1週間の入院及び約54箇月の通院をしており(認定事実⑵ア、カないしケ)、原告の鬱病の症状やその程度などを考慮 すれば、原告の入通院慰謝料は248万3000円と認めるのが相当である。 イ被告は、1週間の入院は原告が希望したものであるから、入院慰謝料は発生しないと主張する。 しかし、原告は、鬱病の症状が改善されないことから、鬱病以外の原因があるかもしれないと考え、検査を行うために上記入院をしたこと(認定事実⑵ケ)からすれば、上記入院は、原告の鬱病の治療方針を検討するうえで必 告は、鬱病の症状が改善されないことから、鬱病以外の原因があるかもしれないと考え、検査を行うために上記入院をしたこと(認定事実⑵ケ)からすれば、上記入院は、原告の鬱病の治療方針を検討するうえで必 要な入院であったと認めることができる。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 ウまた、被告は、原告の通院期間は長期にわたるから、実通院日数(74日)の3倍である222日を慰謝料算定のための通院期間とすべきであると主張する。 しかし、原告の鬱病の症状やその治療内容(乙8ないし11)、通院頻度を考慮すれば、原告は、担当医の治療・指導方針に従って通院し、現に診断、治療を受けているものと認められ、慰謝料額の算定に当たっては、通院期間である54箇月を基礎とするのが相当であり、これを大幅に短縮し、実通院日数の3倍を基礎として算定するのは相当ではなく、被告の上記主張は、採 用することはできない。 エなお、原告は、時間外労働が最大223時間にも及んだこと、被告から一切の謝罪がないばかりか、逆に不適切な発言があったことなどを理由として入通院慰謝料を2割増額すべきであると主張するが、そのような事情を踏まえたとしても、上記の慰謝料額が相当であるというべきであり、原告の主張 は採用することはできない。 ⑷ 後遺障害慰謝料原告の鬱病の症状が平成30年9月26日に固定し、原告が後遺障害等級9級と認定されたこと(前提事実⑵キ)などを考慮すると、原告の後遺障害慰謝料は、690万円と認めるのが相当である。 なお、原告は、時間外労働が最大223時間にも及んだこと、被告から一切 の謝罪がないばかりか、逆に不適切な発言があったことなどを理由として後遺 るのが相当である。 なお、原告は、時間外労働が最大223時間にも及んだこと、被告から一切 の謝罪がないばかりか、逆に不適切な発言があったことなどを理由として後遺障害慰謝料を2割増額すべきであると主張するが、前記⑶エで説示したとおり、そのような事情を踏まえたとしても、上記の慰謝料額が相当であるというべきであり、原告の主張は採用することはできない。 ⑸ 前記⑴ないし⑷の合計額 前記⑴ないし⑷の合計額は、4859万0480円(24,642,785 円+14,564,695 円+2,483,000 円+6,900,000 円)である。 ⑹ 損益相殺原告は、休業補償給付として1810万0078円、障害補償一時金として844万0908円の支給をそれぞれ受けているから(前提事実⑵カ、キ)、各 給付の合計2654万0986円を前記⑸の金額から控除するのが相当であり、上記控除後の金額は、2204万9494円(48,590,480 円-26,540,986円)である。 ⑺ 弁護士費用原告は、本件訴訟を追行するために弁護士に委任しているところ、被告の安 全配慮義務違反と相当因果関係のある弁護士費用は、220万4949円と認めるのが相当である。 ⑻ まとめ以上より、原告の損害額は、前記⑹及び⑺の各金額の合計2425万4443円(22,049,494 円+2,204,949 円)である。 ⑼ なお、被告による安全配慮義務違反は,原告が鬱病を発症して休職するまで継続的に行われていたのであるから,最後の行為が終了した平成26年3月3日をもって,不法行為に基づく損害賠償債務が遅滞となるものと解すべきである。 第4 結論 よって、原告の請求は まで継続的に行われていたのであるから,最後の行為が終了した平成26年3月3日をもって,不法行為に基づく損害賠償債務が遅滞となるものと解すべきである。 第4 結論 よって、原告の請求は、2425万4443円及びこれに対する平成26年3 月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第12部 裁判長裁判官小田正二 裁判官馬場潤 裁判官町田翼

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