平成16(ネ)366 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成17年1月18日 広島高等裁判所 山口地方裁判所 平成11(ワ)28
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判決文本文5,704 文字)

主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は,各控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人らそれぞれに対し,各10万円及びこれに対する平成11年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被控訴人主文同旨第2 事案の概要本件は,控訴人らが,平成10年7月12日に実施された第18回参議院議員の通常選挙(以下「本件選挙」という。)について不在者投票をしたが,同投票が,A選挙管理委員会(ただし,当時はB選挙管理委員会)の事務処理の過誤により,投票終了時刻までに投票管理者に送致されず,有効な投票として扱われなかったことなどから控訴人らの選挙権が侵害されたとして,被控訴人に対し,国家賠償法3条,1条に基づき損害賠償(控訴人ら各10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年2月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払)を求めた事案である。 その余の事案の概要は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 原審は,控訴人らの投票が有効な投票として扱われなかったことの立証がないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。 原判決を不服として控訴人らから提起されたのが,本件控訴事件である。 当審における争点は,原審と同様であり,①不法行為及び被控訴人の責任,②控訴人らの損害,である。 当審における当事者の主張は次のとおりである。 (控訴人ら) 1 本件選挙における不在者投票のうち,選挙区分1507通,比例区分1509通の本件不在者投票が無効となったところ,これらの投票用紙は,A選挙管 ける当事者の主張は次のとおりである。 (控訴人ら) 1 本件選挙における不在者投票のうち,選挙区分1507通,比例区分1509通の本件不在者投票が無効となったところ,これらの投票用紙は,A選挙管理委員会において,段ボール箱3箱に保管されている。当時の不在者投票は,投票用紙を封筒に入れて封をし,その封筒の表に投票者が署名するという形式になっていた。したがって,前記段ボール箱に保管されている不在者投票用紙の入った封筒の表を確認すれば,控訴人らの不在者投票が無効となったかどうかは直ちに明らかになる。そして,被控訴人が,控訴人らの不在者投票が無効となったかどうかについて認否しないことから,控訴人らにとっては,この封筒の表を確認することが唯一の立証方法である。 ところが,A選挙管理委員会は,合理的な理由がないにもかかわらず,原審裁判所によるインカメラ審理手続のための提示命令に応じなかった。仮に同選挙管理委員会がこれに応じ,控訴人らの不在者投票用紙の入った封筒が存在すれば,この分については,直ちに検証のための提示命令がされ,検証が実施されたことは明らかである。このような場合,インカメラ審理手続のための提示命令に対する拒否についても,民訴法(以下「法」という。)224条3項,232条が準用されるべきである。 そして,A選挙管理委員会は,被控訴人との関係では,普通地方公共団体たる被控訴人の執行機関であり,本件においては,控訴人らの選挙権を侵害した当の行為者であって,被控訴人と別個独立の訴訟当事者外の第三者ということはできない。したがって,同選挙管理委員会がインカメラ審理手続のための提示命令に応じなかったことによる控訴人らに対する立証妨害は,訴訟当事者と同視して法224条3項,232条が準用されるべきである。 2 また,控訴人らが唯一の立証 委員会がインカメラ審理手続のための提示命令に応じなかったことによる控訴人らに対する立証妨害は,訴訟当事者と同視して法224条3項,232条が準用されるべきである。 2 また,控訴人らが唯一の立証方法を奪われた結果,控訴人らの投票が無効となったことを立証できない状況においては,不在者投票のうち投票管理者に送致されず無効とされた確率(4117分の1507の割合)をもって,控訴人らの請求をいわば割合的に認定すべきである。 (被控訴人) 1 A選挙管理委員会は,独自の執行権限を持ち,その担任する事務の管理及び執行にあたって自ら決定し,表示しうるところの機関であって,独立の行政委員会であるから,法232条1項,224条にいう「当事者」に該当するとは認められない。 また,前記条項は,本件のようにインカメラ審理手続のための提示命令に従わない場合についての規定ではない(法224条3項は当事者が文書提出命令に従わない場合について規定したもので,法232条1項で,検証物の提示命令についても準用されている。)。 2 本件においては,控訴人らが不在者投票をしたこと,同投票が無効となったことの2点が立証されて初めて控訴人らの選挙権侵害の有無及び損害額が問題となるのであって,少なくとも投票が無効となったことの立証がない以上,割合的・確率的に損害を算定すべきとする控訴人らの主張は失当である。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,控訴人らの請求は理由がないので,本件各控訴を棄却すべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。 1 争点①(不法行為及び被控訴人の責任)について(1) 証拠(甲2ないし14の各1)及び弁論の全趣旨によれば,本件選挙において,控訴人らが不在者投票を行ったこと,不在者投票のうちの選挙区分1507通,比例区分1509通が投票管理 任)について(1) 証拠(甲2ないし14の各1)及び弁論の全趣旨によれば,本件選挙において,控訴人らが不在者投票を行ったこと,不在者投票のうちの選挙区分1507通,比例区分1509通が投票管理者に送致されず,現在はこれらの本件不在者投票を封筒のままA選挙管理委員会が段ボール箱に入れて保管していることは認められるが,本件不在者投票に控訴人らの不在者投票が含まれていると認めるに足りる証拠はない。 ところで,控訴人らは,本件原審において,A選挙管理委員会保管に係る「本件選挙の不在者投票のうち投票管理者に送致されなかった不在者投票封筒(選挙区分1507通,比例区分1509通)」を点検することによって有効無効が明らかになるとして検証を申し立てるとともに,同選挙管理委員会に対してその提示を命ずべき旨を申し立て,原審裁判所は,同選挙管理委員会に対し,法232条1項,223条6項に基づいていわゆるインカメラ審理手続のために前記申立てにかかる封筒の提示を命じたが,同選挙管理委員会は最終的には控訴人ら以外の不在者投票分も明らかにすることは投票の秘密を害することになるとして,これに応じなかった。 控訴人らは,A選挙管理委員会は,合理的な理由もなく裁判所のインカメラ審理手続のための提示命令を拒否して,控訴人らの唯一の立証方法を奪ったのであるから,法232条,224条3項により,控訴人らの不在者投票が本件不在者投票に含まれているとの主張を真実と認めるべきである旨主張する。しかし,法224条3項は,訴訟の当事者が文書提出命令(法232条により検証の目的の提示について準用されている。)に従わないときの効果について規定するものであって,文書提出命令の相手方が訴訟の当事者でない場合や法223条6項のいわゆるインカメラ審理手続のための提示命令に従わない場合 示について準用されている。)に従わないときの効果について規定するものであって,文書提出命令の相手方が訴訟の当事者でない場合や法223条6項のいわゆるインカメラ審理手続のための提示命令に従わない場合には同条項の適用はない。しかるところ,本件では,訴訟の当事者でないA選挙管理委員会(控訴人らは,同選挙管理委員会は,控訴人らの選挙権を侵害した当の行為者であるから,被控訴人と独立別個の訴訟当事者外とはいえない旨主張するが,選挙管理委員会は,公正な選任のために独自の執行権限を有する行政機関であるから,被控訴人と同視することはできない。)がいわゆるインカメラ審理手続のための提示命令に従わないのであるから,前記のとおりいずれの点からも,法224条3項が準用される余地はなく,控訴人らの主張は採用できない。 (2) もっとも,本件選挙のような国政選挙は,民主主義国家において,その存立基盤となるものであって,選挙権は,主権者たる国民にとって,最も重要な権利(憲法15条1項)の一つであり,その行使は当選者の確定との目的のみならず,得票数への反映が国民からの信頼のバロメーターとしての意味合いを有するというべきところ,各国民がこれを適正に行使したにもかかわらず,そして,選挙管理委員会の事務処理の過誤により相当数の投票が無効となったことが明白であるにもかかわらず,投票者が,自らの投票が無効となったかどうかについて知る術がなく,投票が選挙結果に反映されていないかもしれないという不安定な立場におかれることは,選挙人の参加意欲の喪失にもつながるおそれがあるものといわなければならない。控訴人らのこのような不安定な立場は,A選挙管理員会が不在者投票のうち,4割近くという相当数の不在者投票を事務処理の過誤によって無効にした行為によりもたらされたものというほかはない。 らない。控訴人らのこのような不安定な立場は,A選挙管理員会が不在者投票のうち,4割近くという相当数の不在者投票を事務処理の過誤によって無効にした行為によりもたらされたものというほかはない。 2 争点②(控訴人らの損害)について前記のとおり,控訴人らは,自らの投票が有効として処理されたのか,無効として処理されたのか不安定なままの状況とされているところ,控訴人らは投票管理者に送致されず,無効とされた確率をもって損害を割合的に認定すべき旨主張する。 しかしながら,その主張は,有効とされた分があれば,その投票分についても損害を認める結果となる点で採用することができない。 また,損害額算定で斟酌すれば足りるとの主張と解しても,選挙権は,国政に参加する権利としての面が強いものの,他の精神的自由権の保障と異なり,その行使が国民の代表を選出する公務としての一面を有することは否定できないところである(公職選挙法150条,201条の15等によって一定の範囲で公営化が実現されていることからも明らかである。)。もともと,選挙の実施については,憲法に直接規定された事項を除く点については法律に任されたといえるが,選挙手続の瑕疵の補正等の観点から公職選挙法をみると,選挙の効力に関するものと当選に関するもののみを争うことを認め(15章),選挙の規定に違反することがあるときにおいても,結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り選挙の効力の一部又は全部を無効とする旨を規定し(202条ないし205条,なお,本件選挙では当選無効等が問題となる投票結果ではなかったと推認される。),投票については有効無効を区別し,投票録及び開票録と併せて,市町村の選挙管理委員会において保存しなければならない旨を定める(71条)ほかは,選挙人において自らの投票の有効無効を確認できる される。),投票については有効無効を区別し,投票録及び開票録と併せて,市町村の選挙管理委員会において保存しなければならない旨を定める(71条)ほかは,選挙人において自らの投票の有効無効を確認できる趣旨の規定は置かれていないのであり,控訴人らは不在者投票をした選挙人らであって,上封筒に署名をして投票手続をすることになっているために,前記インカメラ等の手法により知り得る状況にあったとはいえるが,他の一般投票の無効等の場合には,これを知ることはできないのであって,その権衡も考慮すべきことなどを考え併せると,前記インカメラ手続において提示命令に応じないA選挙管理委員会の対応も直ちに不当と非難することはできないというべきである。 さらに,甲1及び弁論の全趣旨によれば,平成10年7月12日の本件選挙後,B選挙管理委員会は,同年8月31日付けで関係職員の懲戒処分等をしてこれを発表する一方,委員長C名で,平成10年9月5日付けの「広報B」に「4117名の不在者投票のうち,1509名分について適正な事務手続きを怠ったため,得票数に入れることができなかったことについて,深くおわびする。投票の秘密は,憲法で保障され,個別謝罪は投票に行ったか行かなかったかの広義での投票の秘密に触れ,プライバシーの侵害になる可能性が有る以上,一方的な個別謝罪は行えないとの結論に至った。不在者投票者全員に有効無効の通知や請求のあった者のみに限定して通知をするには,改めて投票状況を調べ,有効無効の一覧表を作成する必要があるが,選挙終了後に投票を取り扱うのは,選挙人と選挙管理委員会の信頼関係を損ない,また,投票の秘密に触れるおそれがあり,これらの通知をしないことにした。多大な迷惑をかけたことを謝罪する。」旨の「第18回参議院議員通常選挙で不在者投票された皆様へのおわび」と題す 頼関係を損ない,また,投票の秘密に触れるおそれがあり,これらの通知をしないことにした。多大な迷惑をかけたことを謝罪する。」旨の「第18回参議院議員通常選挙で不在者投票された皆様へのおわび」と題する記事を掲載したことが認められ,一般市民に対して一応の謝罪の意思表示をしていたことなどを考慮すると,なお控訴人らに前記割合を考慮して賠償すべき程度の損害があると認めることはできないというべきである。 以上の次第で,控訴人らの請求は,理由がなく,これを棄却した原判決は相当であるから,本件各控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部裁判長裁判官牧弘二 裁判官松井千鶴子裁判官工藤涼二

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