平成16(ワ)21241 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成18年5月17日 東京地方裁判所
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判決文本文20,309 文字)

- 1 -平成18年5月17日判決言渡平成16年(ワ)第21241号損害賠償請求事件判決主文 被告は,原告A及び原告Bに対し,それぞれ170万円及びこれに対する平成15年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用はこれを5分し,その4を原告らの,その余を被告の負担とする。 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求 被告は,原告Aに対し,1979万6051円及びこれに対する平成15年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,1909万0114円及びこれに対する平成15年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,亡C(昭和14年8月12日生)が,平成15年7月29日,脳。 出血に罹患して被告設置に係る病院(以下「被告病院」という)に入院した。 ところ,同病院の医師が脳出血の程度に応じた血圧コントロール又は外科的治療のできる県立病院への転医を行うべき注意義務を怠ったため死亡するに至ったとして,その子である原告らが,被告に対し,診療契約上の債務不履行又は不法行為(民法715条)に基づき,損害賠償及びこれに対する同月30日- 2 -(亡Cの呼吸が停止した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 前提となる事実(証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いがない)。 (1)当事者ア原告A及び原告Bは,いずれも亡Cの子である(甲B2。 )イ被告は,被告病院を経営する医療法人である。 (2)被告病院における診療経過亡Cは,平成15年7月29日(以下,平成15年については月日のみを記 原告Bは,いずれも亡Cの子である(甲B2。 )イ被告は,被告病院を経営する医療法人である。 (2)被告病院における診療経過亡Cは,平成15年7月29日(以下,平成15年については月日のみを記載する)から8月5日までの間,被告病院に入院していた。そのうち,。 亡Cの被告病院における7月29日から翌30日の間の診療経過は,別紙診療経過一覧表記載のとおりである(同一覧表中の証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いがない。 。)亡Cは,同月30日午前3時10分に呼吸が停止し,以後意識を回復することなく,8月5日午後5時10分,脳出血が直接原因となって死亡した。 争点 本件の争点は,弁論準備手続の結果(特に,第5回弁論準備手続期日における原告ら代理人の陳述等)に基づくと,次の4点である。 (1)初期対応としての血圧コントロールに関する過失の有無(争点1)(2)7月29日午後6時又は翌30日午前0時における血圧コントロール又は外科的治療のための転医に関する過失の有無(争点2)(3)因果関係の有無(争点3)(4)損害額(争点4) 争点に関する当事者の主張(1)争点1(初期対応としての血圧コントロールに関する過失の有無)について(原告らの主張)- 3 -以下の点にかんがみれば,被告病院のD医師は,亡Cに対し,脳出血の初期対応としての血圧コントロールを行い,その収縮期血圧を150mmHg以下にする注意義務があったにもかかわらず,これを怠った点において過失がある。 アD医師による亡Cの脳出血の確認D医師は,7月29日午後2時55分,救急外来において,亡Cが吐き気,めまい及び前額部から頭頂部にかけての疼痛を訴えていること,血圧の値が194/100であること並びに左半身不全麻痺の状態にあることを確認した。そのため,D医師は, ,救急外来において,亡Cが吐き気,めまい及び前額部から頭頂部にかけての疼痛を訴えていること,血圧の値が194/100であること並びに左半身不全麻痺の状態にあることを確認した。そのため,D医師は,同日午後3時07分に亡Cの頭部CT撮影を行い,右視床に25mm×15mm大の出血があることを確認した。 なお,このとき亡Cの意識レベルはクリアであった。 イ血圧コントロールの必要性及びその内容脳出血に対する手術の適応は比較的限られており,意識障害を伴わない小出血例の場合には,保存的治療の方が外科的治療よりも治療成績が良い。 そのため,脳出血の患者に対する初期治療は,再出血が起こらないようにすることが何よりも重要であり,これを目的として血圧コントロールを行う必要がある。 原告らが主張する血圧コントロールは,患者の血圧の変化を常時観察し続け,それに応じて降圧剤を投与することにより,血圧を患者にとって適正な範囲にコントロールすることである。具体的には,患者の橈骨動脈に動脈ラインを確保し,血圧を24時間モニターすることが望ましいが,これができない場合には,脳出血の発症当初は自動血圧計により時間間隔を狭めて血圧を測定する。降圧を行う際には,急激に行うと脳の血液循環を悪化させるため,点滴により降圧剤であるCa拮抗薬やトリメタファンを徐々に投与し,いつでも中止できるようにする。 被告は,原告らが提出した医学文献において「降圧すべし」と断定的に- 4 -記載したものがないことから,上記血圧コントロールを行わなかったことについて過失がない旨主張するが,いずれの文献も血圧コントロールをしなくて良い又は血圧が上昇しても良いとは記載していないのであるから,血圧コントロールが必要であることは明らかである。 ウD医師らが行った治療の内容D医師は,亡Cに関する治療とし 圧コントロールをしなくて良い又は血圧が上昇しても良いとは記載していないのであるから,血圧コントロールが必要であることは明らかである。 ウD医師らが行った治療の内容D医師は,亡Cに関する治療として,看護師に対し「4検(6時間お」きに血圧を測定すること)を指示したのみであり,7月29日午後3時07分から同日午後4時までの間亡Cの血圧を測定せず,その後に行った血圧測定も24時間モニター監視又は自動血圧計による時間間隔を狭めての測定ではなかった。また,降圧についても,アポプロンの筋肉注射を1度行っただけで,点滴投与ではなかった。 (被告の主張)ア血圧コントロールについて脳出血により高血圧を呈した患者に対する人為的降圧は,脳循環の悪化等を招く等の危険がある。そのため,血圧コントロールが患者の病態改善(止血完成又は再出血防止)にとって有効か否かは,現在も専門家の間で議論が続いている状況であり,明らかでない。 仮に降圧を行うべきであるとしても,降圧治療の適応及び降圧目標について一致した見解はないのであるから,亡Cの収縮期血圧を150mmHg以下にコントロールすべきであったとする原告らの主張は,医学的論拠がない。 イ被告病院における血圧管理の十分性被告病院の医師らは,7月29日午後2時55分以降,おおむね30分から2時間間隔で定時的に亡Cの血圧測定を行っていた。亡Cの収縮期血圧は,同日午後4時に200mmHgとなったが,速やかな降圧剤(アポプロン)投与により,それ以後は,160ないし180mmHgの範囲に- 5 -治まっている。このように,被告病院の医師らは,亡Cに対し,十分な血圧管理を行った。 原告らは,亡Cの血圧を24時間モニター監視し,その変動に応じて降圧剤を点滴投与すべきである旨主張する。しかしながら,原告らが証拠として提出 告病院の医師らは,亡Cに対し,十分な血圧管理を行った。 原告らは,亡Cの血圧を24時間モニター監視し,その変動に応じて降圧剤を点滴投与すべきである旨主張する。しかしながら,原告らが証拠として提出した文献にそのような治療方法を記載しているものはない。また,絶対安静が求められる脳出血急性期の患者に対し,血圧が変動するたびに降圧剤を投与することは,かえって病態の悪化を招くことになる。脳出血の患者に対しては,一定期間の経過を見て,それに応じた処置を考えるのが一般である。したがって,被告病院の医師らの対応に何ら過失はない。 (2)争点2(7月29日午後6時又は翌30日午前0時における血圧コントロール又は外科的治療のための転医に関する過失の有無)について(原告らの主張)亡Cは,7月29日午後6時に看護師から鎮痛剤であるソセゴンの筋肉注射を受けた直後,身体の動き及び顔の表情が一切なくなり,まるで死んだようになった。また,亡Cの意識レベルは,同日午後2時55分の時点において,ジャパン・コーマ・スケール(刺激による開眼状態により,大きくⅠ,Ⅱ,Ⅲの3段階に分類し,更にそれぞれを3段階に細分化して意識レベルを評価する方法)で,Ⅰ-1だったにもかかわらず,翌30日午前0時の時点では,Ⅲ-200に進行した(このことは,同時点で,亡Cが「痛覚で顔をしかめるも開眼せず」という状態だったことからも明らかである。 。)亡Cの症状にこのような重大な変化が生じたのであるから,被告病院の医師は,亡Cに対し,上記各時点において,直ちにCT撮影をして脳出血の状態を確認し,①血圧又は脳圧の降下などで対処できるものであれば,直ちに血圧について24時間モニター監視を開始し,血圧コントロールを行うべきであり,また,②それでは対処できないものであれば,直ちに外科的治療ので 血圧又は脳圧の降下などで対処できるものであれば,直ちに血圧について24時間モニター監視を開始し,血圧コントロールを行うべきであり,また,②それでは対処できないものであれば,直ちに外科的治療のできる県立病院に転医の手続を行うべき注意義務があった。しかるに,- 6 -被告病院の医師は,これらの義務を怠った。 (被告の主張)亡Cは,ソセゴンの投与を受けた後,頭痛が沈静化したことにより入眠したのであり,原告らが主張するような急激な意識レベルの変化は生じていないのであるから,原告らが主張する各時点において,亡Cに対し頭部CT撮影を行うべき所見は認められない。 また,上記(1)ア主張のとおり,原告らが主張する方法による血圧コントロールが有効であるとの医学的根拠はない。上記ソセゴン投与の前後における亡Cの収縮期血圧は,180mmHg(7月29日午後5時30分)及び170mmHg(同日午後7時)であり,7月30日の収縮期血圧も160mmHg(同日午前0時,164mmHg(同日午前1時)及び170m)mHg(同日午前3時)という特段問題のない範囲で推移しているのであるから,これを超えて原告ら主張に係る血圧コントロールを実施すべき注意義務はない。 さらに,上記(1)イ主張のとおり,被告病院の医師らは,亡Cに対し,十分な血圧管理を行っていたこと及び視床出血は基本的に外科的手術の適応がないことからすれば,被告病院の医師らに亡Cを外科的治療のために転医させるべき注意義務は生じない。 (3)争点3(因果関係の有無)について(原告らの主張)被告病院の医師らが上記各注意義務を怠らなければ,亡Cは死亡しなかった。 被告は,亡Cの血腫が徐々に増大していた旨主張するが,7月29日及び翌30日のCT写真は,それぞれの時点における血腫の大きさを示すのみであり,そ 記各注意義務を怠らなければ,亡Cは死亡しなかった。 被告は,亡Cの血腫が徐々に増大していた旨主張するが,7月29日及び翌30日のCT写真は,それぞれの時点における血腫の大きさを示すのみであり,その間に血腫が持続的に増大していたことを示すものではないから,被告の主張は誤りである。 - 7 -(被告の主張)以下の点からすれば,亡Cの脳出血は,入院後も持続していたのであり,血腫の増大を人為的に止めることは,現在の医学では極めて困難であるから,原告らが主張する過失と亡Cの死亡との間に因果関係はない。 ア亡Cの血腫の持続的増大亡Cは,入院時に前額部から頭頂部にかけて疼痛を訴え,その後,悪心及び唾液様の嘔吐などの症状が生じている。このような症状は,脳圧亢進に伴う脳膜刺激症状であり,その原因は,血腫の持続的な増大以外にない。 また,亡Cの血腫は,25×15mm大(7月29日午後3時07分撮影の頭部CT写真)から40×30mm大(翌30日午前4時50分撮影の頭部CT写真)に拡大した。 亡Cは,このような血腫の持続的増大により脳圧亢進症状が重篤化し,7月30日午前3時10分に脳ヘルニアを起こして心肺停止に至ったものである。 イ脳出血急性期の患者に対する治療手段原告らが主張する方法による血圧コントロールが有効であるとの医学的根拠がないことは,上記(1)ア主張のとおりである。 脳出血急性期の患者に対しては,脳内出血の止血及び再出血の予防のため,絶対安静の上,血圧を異常に高い状態に置かないこと以外に有益な治療手段はなく,患者の予後は,出血の部位,程度及び患者の体力などにより大きく左右される。被告病院の医師らは,亡Cに対し,上記(1)イ主張のとおり,十分な血圧管理を行っていたのであるから,現在の医学において,亡Cの血腫の増大を防ぐことは極めて困難であっ 体力などにより大きく左右される。被告病院の医師らは,亡Cに対し,上記(1)イ主張のとおり,十分な血圧管理を行っていたのであるから,現在の医学において,亡Cの血腫の増大を防ぐことは極めて困難であった。 (4)争点4(損害額)について(原告らの主張)ア逸失利益875万1552円- 8 -亡C(死亡時63歳)は,年94万9800円の国民年金を受け取っていたから,生活費控除率を30%として,その平均余命までの逸失利益相当額の現価をライプニッツ方式(その係数は13.163)により算定すると,次のとおり,875万1552円となる。 94万9800円×(1-0.3)×13.163=875万1552円イ慰謝料2500万円全く予想外の死による亡Cの精神的苦痛は重大であり,その慰謝料の額は,2200万円を下らない。 また,原告らは,突然の母親の死によって,重大な精神的苦痛を被ったのであるから,原告ら固有の慰謝料の額としては,少なくとも各150万円が相当である。 ウ原告Aの積極損害115万2722円原告Aは,以下のとおり,経済的出捐を余儀なくされた。 (ア)交通費20万0090円(イ)宿泊費2万0475円(ウ)葬儀関係費73万9152円(エ)病院関係費19万2605円(オ)除籍謄本取得費400円エ原告Bの積極損害44万6785円原告Bは,以下のとおり,経済的出捐を余儀なくされた。 (ア)交通費26万8150円(イ)宿泊費2万0475円(ウ)事実調査経費15万8160円オ弁護士費用353万5106円被告が負担すべき弁護士費用は,353万5106円が相当である。 第3争点に対する判断- 9 - 亡Cの受傷及び治療の経緯前記前提となる事実及び証拠(甲A1ないし4,11ないし19,甲B4, 被告が負担すべき弁護士費用は,353万5106円が相当である。 第3争点に対する判断- 9 - 亡Cの受傷及び治療の経緯前記前提となる事実及び証拠(甲A1ないし4,11ないし19,甲B4,5,乙A1ないし18,証人D,証人E,証人F)によれば,次の事実を認めることができる。 (1)被告病院受診に至る経緯亡Cは,7月29日午後2時15分ころ,スポーツアカデミーGのプールサイドに腰をかけ,うずくまっているところを発見された。このとき,亡Cは,意識はしっかりしており,気分が悪く,左手がしびれている旨述べていた。また,しばらくして,亡Cは,左手及び左足の感覚がおかしい旨述べた。 亡Cは,着替えを自らすることが困難であったため,上記スポーツアカデミーの女性職員2名にしてもらった。このころ,亡Cは,左手及び左足の感覚が全くなく,触れていても気がつかない状態となっていたため,救急車により同日午後2時53分被告病院に搬入された。 (2)被告病院における診療経過亡Cの被告病院における7月29日から翌30日の間の診療経過の概要は以下のとおりであり,その詳細は別紙診療経過一覧表記載のとおりである。 ア亡Cの容態の経過亡Cは,被告病院に搬入された直後の4月29日午後2時55分ころ,D医師が診察したところ,左上肢が麻痺し,左下肢も麻痺が進んでいた。 前額部から頭頂部にかけて疼痛があり,めまいがしていた。血圧は194/100であった。また,午後3時7分に行った頭部CT検査の結果,脳出血(右視床に径25×15mm大の血腫あり。脳室穿破なし)が認め。 られたため,入院することとなり,ナースステーションの向かいにある306号室に搬入された。 同日午後4時ころ,亡Cは,意識レベルはクリアであり,左半身に不全麻痺があった。握力は,右手よりも左手が弱く,下肢の め,入院することとなり,ナースステーションの向かいにある306号室に搬入された。 同日午後4時ころ,亡Cは,意識レベルはクリアであり,左半身に不全麻痺があった。握力は,右手よりも左手が弱く,下肢の動きも左側は鈍か- 10 -った。血圧が200/136と高かったので,看護師が,降圧剤であるアポプロン1Aを筋肉注射したところ,午後4時30分には166/96まで低下した。 その後,亡Cが,頭頂部から前額部にかけて痛みを訴えていたため,E看護師は,同日午後6時ころ,その旨を医師に報告した上で,同医師の指示のもと,ソセゴン(鎮痛剤)15mg及びアタラックスP(抗不安薬)25mgを筋肉注射した。同看護師は,これらの薬剤を注射してから同日午後7時までの間,2回程度亡Cの様子を見に行ったが,亡Cは,いずれの時も,まだ注射が効かないなどと述べるなど,入眠してはいなかった。 同日午後7時ころ,同看護師が訪床したところ,亡Cは,入眠中であり,つきあげ(苦しそうにしている様子)はなかった。また,右手足は動かしていたが,左は動きがなかった。その後,同看護師は,30分ないし1時間程度の間隔で訪床したが,呼吸は安定しており,収縮期血圧は140ないし160台で推移しており,同日午後9時ころも同様であった。 7月30日午前0時ころ,同看護師が訪床し,亡Cの体をつねり,目の動きを見るなどしたところ,痛覚で顔をしかめ,右半身を動かす等の反応は見られたものの,開眼しない状態であった。なお,つきあげはなかった。 同日午前1時ころ,同看護師が訪床したところ,亡Cの呼吸は安定しており,つきあげはなく,手足に動きがあった。 その後,同看護師が,同日午前3時ころ定時巡回した際,亡Cは,右手を動かしていたものの,体に力が入っており苦しそうな様子であり,体熱感があった(体温40.9度。そ きあげはなく,手足に動きがあった。 その後,同看護師が,同日午前3時ころ定時巡回した際,亡Cは,右手を動かしていたものの,体に力が入っており苦しそうな様子であり,体熱感があった(体温40.9度。その際,亡Cが歯を食いしばって,義歯)が取れそうになっていたため,同看護師が取り外そうとしたところ,チアノーゼが見られ,同日3時10分に呼吸が停止した。同看護師は,直ちに当直医に連絡し,酸素投与及び挿管等の措置がとられたが,亡Cの意識が回復することはなかった。なお,同日午前4時50分に行われた頭部CT- 11 -検査で,出血の広がりがあった(右視床の血腫は径40×30mm大に増大。脳室内に穿破し、水頭症を来たしていた。 )その後,亡Cは,全身状態が徐々に悪化していき,8月5日午後5時10分,脳出血が直接原因となって死亡した。 イ亡Cに対する血圧測定7月29日午後2時53分(被告病院搬送時)から翌30日午前3時までの間,亡Cに対し,少なくとも,以下のとおり血圧測定が行われた。 (ア)7月29日午後2時55分血圧194/100(イ)同日午後4時血圧200/136(ウ)同日午後4時30分血圧166/96(エ)同日午後5時30分血圧180/90(オ)同日午後7時血圧170/90(カ)同日午後7時から9時までの間収縮期血圧140~160台(キ)7月30日午前0時血圧160/84(ク)同日午前1時血圧164/80(ケ)同日午前3時血圧170/80(3)なお,原告らは,亡Cは,7月29日午後6時に看護師から鎮痛剤であるソセゴンの筋肉注射を受けた直後,身体の動き及び顔の表情が一切なくなり,まるで死んだようになった旨主張する。そして,証人Fは,それに沿う供述をし,また,陳述書中でも同様(具体的には,顔や筋肉が意 るソセゴンの筋肉注射を受けた直後,身体の動き及び顔の表情が一切なくなり,まるで死んだようになった旨主張する。そして,証人Fは,それに沿う供述をし,また,陳述書中でも同様(具体的には,顔や筋肉が意識とは関係なくけいれんするように動くことはあっても,自分の意思で反応するということはなくなった旨)の記載をしている。 ところで,証人Fは,その供述等の中で,上記注射後,看護師が何度も病室を訪れ,脈をとったり,眼を開いたりする動作をしていたこと自体は認めているところである(もっとも,血圧を測るところは見ていないと供述等している。そうすると,仮に亡Cが原告ら主張のごとき容態に陥っていた。)- 12 -のであれば,看護師は,そのことに気づいて,何らかの措置に出るのが通常であるが,本件においては,そのようなことはなかったし,Fも,そのことに関して看護師らに格別報告や申入れをしなかった(証人F,同E。 )また,上記注射後しばらくの間の亡Cの容態に関しては,見舞いに来ていたFの夫等が,注射後「楽になって静かになりましたので,大丈夫」など,と言って,安心して帰宅する状況にあったものと認められる(甲A21,証人F。 )さらに,被告病院の看護記録(乙A6)中には,次の各記載がされており,これらの記載は,証人Eの証言と符合している。すなわち,7月29日午後7時の項には,血圧,体温及び尿量に関する記載のほか「一般観察事項」,欄に「つきあげなし注射后より入眠している右手足は動かしていると,左動きない」との,午後9時の項には,血圧について「140~160代」との記載(これは,上記(2)ア及びイのとおり収縮期血圧の趣旨と認定される)のほか「一般観察事項」欄に「様子みてよいと(これは,その。 ,,記載内容からすると,医師からの指示に関する記載と判断 」との記載(これは,上記(2)ア及びイのとおり収縮期血圧の趣旨と認定される)のほか「一般観察事項」欄に「様子みてよいと(これは,その。 ,,記載内容からすると,医師からの指示に関する記載と判断される)R。 (呼吸)安定している」との,7月30日午前0時の項の「一般観察事項」欄に「入眠中つきあげなし痛覚で顔をしかめるも開眼せず右半身動,かすも左は動きなし」との,午前1時の項の「一般観察事項」欄に「R,(呼吸)安定つきあげなし右手足動きあり」との各記載がされている。 こうした事実のほか,証人Eの証言により認められる同人の看護師としての経験に徴すると,亡Cが,ソセゴンの筋肉注射を受けた直後,身体の動き及び顔の表情が一切なくなり,まるで死んだようになった旨のFの供述等,ひいては,原告らの上記主張は,たやすく採用できないというべきである。 そして,他に,上記(2)の認定を覆すに足りる証拠はない。 脳血管障害の治療に関する医学的な知見証拠(甲B7ないし15,乙A14,乙B1,証人D,証人H及び証人I)- 13 -によれば,次の事実を認めることができる。 (1)血圧の管理の在り方脳血管障害(脳梗塞及び脳出血等を含む脳血管の異常により虚血又は出血を起こし,脳が機能的又は器質的に侵された状態)の急性期における降圧等の血圧管理の在り方に関しては,確立した見解はない。 もっとも,降圧は脳血流を減少させることから,既に出血により乏血状態となっている病変部の脳組織の障害を更に増大させる危険があること及び降圧を行わなくとも,安静並びに疼痛及び不安の除去等の対症的処置により自然に降圧することが多いことなどから,積極的な降圧治療は原則として行わない。この点について,高血圧治療ガイドライン2000年版(甲B11。 日本高血圧学会高血圧治療ガイド の除去等の対症的処置により自然に降圧することが多いことなどから,積極的な降圧治療は原則として行わない。この点について,高血圧治療ガイドライン2000年版(甲B11。 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編集)中でも,脳卒中(その記載内容から,脳梗塞及び脳出血を含む脳血管障害の趣旨で用いられているものと認められる)の急性期において,積極的な降圧治療は原則と。 して行わないとされているところである。 脳血管障害のうち脳出血に関しては,血腫の拡大を防止する目的で降圧を行うことが少なくないが,この処置については,上記のとおり,降圧により脳循環が悪化する危険があることなどから,臨床的に有効か否かについては明らかではなく,確立した見解はない。そのため,脳出血急性期の患者に対しては降圧を行ってもよいされるにとどまっている。 (2)降圧治療対象,降圧目標及び方法についてア脳血管障害における降圧治療対象,降圧目標についても,上記(1)説示のところから,確立した見解はないが,おおむね収縮期血圧が220mmHg又は平均血圧が130mmHg以上の場合は,降圧治療対象とされることが多い。上記高血圧治療ガイドライン2000年版でも「著しく血,圧が高い場合は脳卒中急性期であっても降圧治療を行うが,どの血圧レベルから降圧治療を開始するかについては正確な成績がないのが現状であ- 14 -る」としつつ,上記の場合に加え,拡張期血圧140mmHg以上持続。 を降圧治療対象としている。 イ脳出血についても降圧治療対象,降圧目標について確立した見解はないが,脳梗塞に比してやや低い血圧レベルから治療を開始するとされる。具体的には,おおむね収縮期血圧が200mmHg以上の場合を降圧治療対象として,20%程度又は160ないし180mmHgを目標に降圧を考慮する に比してやや低い血圧レベルから治療を開始するとされる。具体的には,おおむね収縮期血圧が200mmHg以上の場合を降圧治療対象として,20%程度又は160ないし180mmHgを目標に降圧を考慮するとされており,上記ガイドラインにおいては「脳出血に関しては,(脳梗塞に比し)更に異論が多いが,脳梗塞に比しやや低い血圧レベルから治療を開始する」として,その場合の降圧目標は上記アの値の80%とされている。 なお,5学会合同脳卒中治療ガイドライン(暫定版(甲B7。日本脳)卒中学会,日本脳神経外科学会,日本神経学会,日本神経治療学会及び日本リハビリテーション医学会で構成される脳卒中合同ガイドライン委員会が平成15年に発表した脳卒中の治療ガイドライン)中では,脳出血の血圧の管理に関して「脳出血急性期の血圧に関しては,収縮期血圧>18,0mmHg,拡張期血圧>105mmHg,または平均血圧>130mmHgのいずれかの状態が20分以上続いたら降圧を開始すべきである。収縮期血圧<180mmHgかつ拡張期血圧<105mmHgでは降圧薬をすぐに始める必要はない」旨をグレードC1の推奨(行うことを考慮し。 ても良いが,十分な科学的根拠がない類型)としている。 (3)降圧及び血圧測定の方法降圧は,急激な血圧の低下に注意して行うこととされ,その方法としては降圧剤の持続静注,経口投与及び注射投与がある。もっとも,注射による降圧治療は可能な限り短期間とし,経口治療に変えるべきとされる。 降圧治療を行うに当たり,血圧は頻回に測定することとされるが,明確な基準はなく,脳血管障害の場合の目安として,拡張期血圧が140mmHg- 15 -以下の場合は,一応の安静が得られた後に,20分以上の間隔をおいて少なくとも2回の計測を行うとされている。その際は,観血持続測定によ 管障害の場合の目安として,拡張期血圧が140mmHg- 15 -以下の場合は,一応の安静が得られた後に,20分以上の間隔をおいて少なくとも2回の計測を行うとされている。その際は,観血持続測定によるのが理想であるが,無理な場合には携帯型自動血圧計などの使用を考慮する。 (4)脳出血における外科的治療の適応脳出血に対する外科的治療の適応は,出血部位,血腫量及び神経学的重症度などにより決まる。視床出血の場合は,脳深部の出血であるため,一般的に手術適応はない。血腫が脳室に穿破して急性水頭症が起きた場合は脳室ドレナージを行う。 (5)脳浮腫及び頭蓋内圧亢進の管理高張液グリセロールの静脈内投与は,脳浮腫を改善し,脳代謝を改善することから,頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳出血の急性期に推奨される(その推奨レベルは,行うよう勧められるとするグレードBである。 ) 争点1(初期対応としての血圧コントロールに関する過失の有無)について(1)前記前提となる事実(第2の1)並びに上記1及び2で認定した事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,降圧治療は,脳循環を悪化させる危険があることなどから,脳血管障害においては原則として行わないとされており,脳出血においても,臨床的に有効か否かは明らかでないため,行ってもよいとされるにとどまる(上記2(1) 。そのため,脳出血におけ)る降圧治療の対象についても確立した見解はないが,おおむね収縮期血圧が200mmHg以上の場合とされる(上記2(2) 。亡Cの被告病院におけ)る血圧は前記1(2)イ認定のとおりであり,7月29日午後4時に収縮期血圧が200mmHgとなった際,看護師は,降圧剤であるアポプロンを投与し,その結果,午後4時30分には166mmHgまで降下しており,その後収縮期血圧が180mmHgを 7月29日午後4時に収縮期血圧が200mmHgとなった際,看護師は,降圧剤であるアポプロンを投与し,その結果,午後4時30分には166mmHgまで降下しており,その後収縮期血圧が180mmHgを超えることはなかった(上記1(2)イ。 )このように,被告病院においては,少なくとも上記1(2)イ認定のとおり亡Cの血圧を測定し,その状況に応じて降圧剤であるアポプロンを投与して- 16 -いるのであるから,前記2認定の医学的知見に徴すると,D医師に,亡Cに対する脳出血の初期対応としての血圧コントロールに関し,過失があったと認めることはできない。 (2)ところで,原告らは,この点について次のアないしウの主張をしているので,以下検討する。 アまず,原告らは,脳出血の患者に対しては,再出血を防ぐため,血圧コントロールを行う必要があり,本件では亡Cの収縮期血圧を150mmHg以下にすべきであった旨主張し,証人Hは,これに沿う供述をし,同人作成に係る意見書(甲B6)中にも,これに沿う記載がある。 しかしながら,上記2(1)認定のとおり,脳出血に関する降圧治療の是非については,これにより脳循環が悪化する危険があることなどから,確立した見解がないため,臨床的に有効か否かについては明らかではないことを前提に,おおむね収縮期血圧が200mmHg以上の場合を降圧の対象とされるのが一般であるところ,亡Cの収縮期血圧は,7月29日午後4時の時点を除き,200mmHgよりも低い値で推移していた。なお,原告らが提出した医学文献中,収縮期血圧が180mmHgを基準とするような記載があるが(甲B7,9,15,これらのうち,甲B9及び1)5は,降圧治療対象値(降圧を開始すべき値)ではなく降圧目標値(降圧後の目標値)の趣旨の記載であるから,同数値を超えたとしても降圧を うな記載があるが(甲B7,9,15,これらのうち,甲B9及び1)5は,降圧治療対象値(降圧を開始すべき値)ではなく降圧目標値(降圧後の目標値)の趣旨の記載であるから,同数値を超えたとしても降圧を開始すべきことにはならず,甲B7についても,推奨レベルが「グレードC1(行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠がない」であるこ)とからすれば,上記認定を覆すに足りないというべきである。 こうしたことに加え,証人Hの供述及び同人作成に係る意見書(甲B6)は,収縮期血圧を140mmHg程度を目安に管理するという帝京大学医学部附属市原病院集中治療センター等における自らの実践に基づいたものである(証人H)が,その見解は,同意見書において引用されている- 17 -医学文献(甲B7ないし15。その記載内容は上記認定事実2記載のとおりである)と必ずしも見解を同一にするものでなく,それをもっていわ。 ゆる臨床医学の実践における医療水準とすることはできないというべきことをも考え併せると,原告らの上記主張は,採用できない。 イまた,原告らは,血圧測定の方法は,患者の橈骨動脈に動脈ラインを確保し,血圧を24時間モニターすることが望ましいが,これができない場合には,脳出血の発症当初は自動血圧計により時間間隔を狭めて血圧を測定すべき旨主張し,証人Hは,これに沿う供述をし,同人作成に係る意見書(甲B6)及び原告らが提出した医学文献(甲B9ないし11)中にも,これに沿う記載がある。 しかしながら,甲B9及び10以外に血圧測定の方法を具体的に記載した文献はなく,これらの文献においても自動血圧計などの使用を「考える(甲B10)とされており,必ずしもその使用を必須のものとはして」いない。また,上記2(3)認定のとおり,血圧測定の頻度は,拡張期血圧が140mmHg 文献においても自動血圧計などの使用を「考える(甲B10)とされており,必ずしもその使用を必須のものとはして」いない。また,上記2(3)認定のとおり,血圧測定の頻度は,拡張期血圧が140mmHg以下の場合は,一応の安静が得られた後に20分以上の間隔をおいて少なくとも2回の計測を行うとされているところ,亡Cの拡),張期血圧は140mmHgを超えたことはない(上記1(2)イ。そして被告病院の医師らは,7月29日午後2時55分から翌30日午前3時までの間,亡Cに対し,上記1(2)イ認定のとおり,少なくとも9回血圧の測定を行っており,しかも,その間の亡Cの血圧及び容態の推移は同認定のとおりであった。こうしたことに,上記2(1)認定の脳血管障害及び脳出血に対する血圧の管理の在り方に関する医学的知見にも徴すると,被告病院の医師らに血圧測定の点において過失があったものと認めることはできない。 ウさらに,原告らは,降圧を行う際には,点滴により降圧剤を徐々に投与し,いつでも中止できるようにすべきところ,被告病院の医師らは,この- 18 -ような措置を採らなかった旨主張し,証人Hは,これに沿う供述をし,同人作成に係る意見書(甲B6)及び原告らが提出した医学文献(甲B9)中にも,これに沿う記載がある。 しかしながら,上記2(3)認定のとおり,降圧剤の投与方法は,持続静注,経口投与及び注射投与があり,必ずしも点滴による持続静注が必要とされているわけではない。また,本件においては,収縮期血圧が200mmHgとなった7月29日午後4時に亡Cに対し降圧剤が投与されているが,その結果,同日午後4時30分には同血圧が166mmHgまで降下しており,その後の経過も前記1(2)ア認定のとおりであるから,上記降圧剤の投与に格別問題があったと認めることはできない。 れているが,その結果,同日午後4時30分には同血圧が166mmHgまで降下しており,その後の経過も前記1(2)ア認定のとおりであるから,上記降圧剤の投与に格別問題があったと認めることはできない。 したがって,原告らの上記主張は,採用できない。 争点2(7月29日午後6時又は翌30日午前0時における血圧コントロール又は転医に関する過失の有無)について(1)前記1及び2で認定した事実によれば,次のことが明らかである。 亡Cは,7月29日午後6時ころ,頭頂部から前額部にかけて痛みを訴えていた。そのため,E看護師は,その旨を医師に報告し,その指示を受けて,ソセゴン(鎮痛剤)及びアタラックスP(抗不安薬)を筋肉注射した。同看護師は,その後,午後7時までの間,2回程度亡Cの様子を見に行ったが,いずれの時も,亡Cは「まだ注射が効かない」などと述べるなど,入眠し,てはいなかったが,同看護師が午後7時ころ訪床したところ,入眠していた。 その際,つきあげはなく,また,右手足は動かしていたが,左は動きがなかった。その後,同看護師は,30分ないし1時間程度の間隔で訪床したが,呼吸は安定しており,収縮期血圧は140ないし160台で推移しており,午後9時ころにも同様であった。 7月30日午前0時ころ,同看護師が訪床し,亡Cの体をつねり,目の動きを見るなどしたところ,痛覚で顔をしかめ,右半身を動かす等の反応は見- 19 -られたものの,開眼しない状態であった。 同日午前1時ころ,同看護師が訪床したところ,亡Cの呼吸は安定しており,つきあげはなく,手足に動きがあった。その後,同看護師が,同日午前3時ころ定時巡回した際,亡Cは,右手を動かしていたものの,体に力が入っており苦しそうな様子であり,体熱感があった。その際,亡Cが歯を食いしばって,義歯が取れそうになっ その後,同看護師が,同日午前3時ころ定時巡回した際,亡Cは,右手を動かしていたものの,体に力が入っており苦しそうな様子であり,体熱感があった。その際,亡Cが歯を食いしばって,義歯が取れそうになっていたため,同看護師が取り外そうとしたところ,チアノーゼが見られ,同日3時10分に呼吸が停止した。同看護師は,直ちに当直医に連絡し,酸素投与及び挿管等の措置を行ったものの,意識が回復することはなかった。なお,同日午前4時50分に行われた頭部CT検査で,出血の広がりがあった(右視床の血腫は径40×30mm大に増大。脳室内に穿破し、水頭症を来たしていた。 )(2)上記(1)の事実によれば,7月29日午後6時ころの時点で,亡Cに原告らが主張するような急激な意識レベルの変化が生じていたものと認めることはできないので,上記時点において,直ちにCT撮影をし,脳出血の状態を確認すべき注意義務をいう原告らの主張は,その前提において,失当である。 そして,他に,上記原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。 (3)次に,上記(1)の事実によれば,7月30日午前0時ころの亡Cの容態については,E看護師が訪床し,亡Cの体をつねり,目の動きを見るなどしたところ,痛覚で顔をしかめ,右半身を動かす等の反応は見られたものの,開眼しない状態であったことが明らかである。これは,ジャパン・コーマ・スケール(意識障害の評価分類。痛み刺激に対する開眼状況を評価するもので,数値が大きいほど重症である。甲B15)では,Ⅲ-200に該当するものであり(甲B15,乙B1及び証人I,それまで亡Cが呈していた症)状とは明らかに異なるものであった。 また,上記(1)の事実によれば,次のことが明らかである。7月29日午- 20 -後3時7分に撮影した頭部CT検査で脳出血(右視床に径25×15 呈していた症)状とは明らかに異なるものであった。 また,上記(1)の事実によれば,次のことが明らかである。7月29日午- 20 -後3時7分に撮影した頭部CT検査で脳出血(右視床に径25×15mm大の血腫あり。脳室穿破なし)が認められたが,翌30日午前4時50分の。 段階で撮影した頭部CT検査では,血腫の広がりが見られ(右視床の血腫は径40×30mmに増大,それが脳室内に穿破し,水頭症を来していた。 )そして,頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳出血の急性期には,高張液グリセロールの静脈内投与が推奨されており,また,視床出血の場合は一般的に手術適応はないが,血腫が脳室に穿破して急性水頭症が起きた場合は脳室ドレナージを行うとされている(上記2(4)及び(5) 。 )このような事実に徴すると,E看護師が訪床した7月30日午前0時ころの亡Cの容態は,それまで呈していたものとは明らかに異なるものであったというべきであり,被告病院の医師は,亡Cに対し,同時点において,直ちにCT撮影をして脳出血の状態を確認し,①脳圧の降下などで対処できるのであれば,直ちにこれを行うべきであり,また,②それでは対処できないのであれば,直ちに外科的治療等のできる県立病院に転医の手続を行うべき注意義務があったにもかかわらず,これらを怠った過失があるというべきである。 (4)なお,被告は,被告病院の医師らが,亡Cに対し,十分な血圧管理を行っていたこと及び視床出血は基本的に外科的手術の適応がないことからすれば,原告ら主張に係る注意義務はない旨主張する。 しかしながら,上記(3)説示のとおり,亡Cは,7月30日午前0時の時点で,痛み刺激に対して顔をしかめ,右半身を動かすものの,開眼しない状態となっていた。また,7月30日午前4時50分撮影のCT画像を,その前日午後3時7 説示のとおり,亡Cは,7月30日午前0時の時点で,痛み刺激に対して顔をしかめ,右半身を動かすものの,開眼しない状態となっていた。また,7月30日午前4時50分撮影のCT画像を,その前日午後3時7分撮影のものと比較すると,血腫に増大が見られ,しかも,それが脳室内に穿破し,水頭症を来していたのであり,被告も,亡Cは,血腫の持続的増大により脳圧亢進症状が重篤化し,心肺停止に至った旨主張しているところである(上記第2の3(3)の被告の主張。そして,一般的に)- 21 -視床出血の場合には手術適応はないが,血腫が脳室に穿破して急性水頭症が起きた場合は脳室ドレナージを行うとされている。 こうしたことを総合的に考察すると,被告の上記主張は採用できない。 争点3(因果関係の有無)についてそこで,進んで,上記4(3)認定の被告病院の医師らの過失と亡Cの死亡との間の因果関係について検討する。 (1)被告病院の医師らの過失の具体的な内容は,上記4(3)説示のとおり,亡Cに対し,7月30日午前0時の時点において,直ちにCT撮影をして脳出血の状態を確認し,①脳圧の降下などで対処できるのであれば,直ちにこれを行うべきであり,また,②それでは対処できないのであれば,直ちに外科的治療等のできる県立病院に転医の手続を行うべき注意義務があったにもかかわらず,これらを怠ったというものである。 したがって,これと,亡Cの死亡との間の因果関係の有無については,被告病院の医師らが,上記注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば,8月5日午後5時10分における亡Cの死亡を回避することができたことが高度の蓋然性をもって認められるか否かが問題になる。 (2)そこで,上記観点に立って検討するに,視床出血の場合は一般的に手術適応はないが,血腫が脳室に穿破して急性水頭症が起 避することができたことが高度の蓋然性をもって認められるか否かが問題になる。 (2)そこで,上記観点に立って検討するに,視床出血の場合は一般的に手術適応はないが,血腫が脳室に穿破して急性水頭症が起きた場合は脳室ドレナージを行うとされ,視床出血であっても,外科的治療の適応があること及び高張液グリセロールの静脈内投与は,脳浮腫を改善し,脳代謝を改善することから頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳出血の急性期に推奨されることは,上記2(4)及び(5)認定のとおりである。 したがって,被告病院の医師が,上記4(3)説示に係る注意義務を尽くして,亡Cに対し,7月30日午前0時の時点において,直ちにCT撮影をして脳出血の状態を確認し,①脳圧の降下などで対処できる場合には,直ちにこれを行い,また,②それでは対処できない場合には,直ちに外科的治- 22 -療等のできる県立病院に転医の手続を行うなど,当時の亡Cの脳出血の症状に対して適切に対処していれば,8月5日午後5時10分における亡Cの死亡を回避することができた可能性があったものといえる。 しかしながら,前記認定のとおり,亡Cは,7月30日午前3時10分に呼吸が停止し,午前4時50分の時点においては脳出血の血腫が径40×30mm大に増大して脳室内に穿破し,水頭症を来たしていた。また,高張液グリセロールの静脈内投与については,前記5学会合同脳卒中治療ガイドライン(甲B7)中でも,脳出血急性期には有意な効果を認めなかったとする報告もあるとして,その効果は世界で一致しているとは言えないとされており,また,脳室ドレナージを行うことによる具体的な治療効果についても,証拠上必ずしも明らかではない。 また,同日午前3時10分に亡Cの呼吸が停止した際には,既に脳幹部(生命中枢と呼ばれる)に障害が及んでいたと考えられ,同 ジを行うことによる具体的な治療効果についても,証拠上必ずしも明らかではない。 また,同日午前3時10分に亡Cの呼吸が停止した際には,既に脳幹部(生命中枢と呼ばれる)に障害が及んでいたと考えられ,同時点での救命は困難であるとされるところ(甲B6,証人H,仮に亡Cを転医させるとす)れば,J市所在のJ県立中央病院が考えられるが,そこへの搬送に1時間位掛かるのであるから(証人D,7月30日午前0時の時点又は上記県立病)院へ転医された時点での亡Cの脳出血の状況がいまだ救命可能なものであったか否かについても,本件証拠上,必ずしも明らかではない。 以上のような亡Cの症状の経過,脳出血の血腫の増大の程度,さらには,上記各治療を尽くした場合の効果の有無及びその程度に関する予測等をも総合的に考察すると,仮に被告病院の医師が,亡Cに対し,7月30日午前0時の時点において,直ちにCT撮影をして脳出血の状態を確認の上,それに応じた適切な医療行為をしていたとしても,本件と異なる転帰となったと認めることについては,合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 原告らは,被告病院の医師らが,7月30日午前0時の時点において,上記注意義務を怠らなければ,亡Cは死亡しなかった旨主張し,証人Hは,こ- 23 -れに沿う供述をし,同人作成に係る意見書(甲B6)にも,これに沿う記載がある。しかしながら,上記説示の諸点に照らすと,8月5日午後5時10分における亡Cの死亡を回避することができた高度の蓋然性を直ちには認めることはできないというべきであり,原告らの上記主張は採用できない。 (3)以上の認定説示を総合的に考察すると,仮に被告病院の医師が,亡Cに対し,7月30日午前0時の時点において,上記認定の注意義務を尽くしていたならば,8月5日午後5時10分において亡Cが死亡しなかっ )以上の認定説示を総合的に考察すると,仮に被告病院の医師が,亡Cに対し,7月30日午前0時の時点において,上記認定の注意義務を尽くしていたならば,8月5日午後5時10分において亡Cが死亡しなかったことについて,相当程度の可能性があったものと認めることができるが,それ以上に,高度の蓋然性が存在することの証明が尽くされたということはできない。 争点4(損害額)について以上認定説示したところによれば,被告は,亡Cが適切な医療行為を受けていたならばその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を免れない(最高裁平成12年9月22日第二小判決・民集54巻7号2574頁参照。原告ら)の本件請求は,このような請求をも包含するものと解される。 そして,亡Cが死亡しなかったことの相当程度の可能性を侵害され,その結果被った精神的苦痛に関する損害については,以上認定説示した本件事案の内容,被告の過失の態様,上記時点において亡Cが死亡しなかった可能性の程度等のほか,本件に顕れた一切の事情を総合考慮して,300万円をもって相当と認める。原告らは,この2分の1である150万円ずつを相続により取得したことになる。 弁護士費用に関する損害については,本件事案の性質・難易,訴訟の経過,認容額などを考慮して,原告らそれぞれについて20万円をもって相当と認める。 なお,原告らは,以上のほか,亡Cの逸失利益,原告らの交通費,宿泊費,病院関係費,葬儀関係費,固有の慰謝料等についても損害賠償を請求している- 24 -が,これらは,亡Cが上記可能性を侵害されたことによって生じた損害と認めることはできないので,失当である。 結論 以上によれば,不法行為に基づく原告らの請求は,主文の限度で理由があるからこ -が,これらは,亡Cが上記可能性を侵害されたことによって生じた損害と認めることはできないので,失当である。 結論 以上によれば,不法行為に基づく原告らの請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当として棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第35部裁判長裁判官金井康雄裁判官小津亮太裁判官森脇江津子は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官金井康雄

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