平成11(ワ)976 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成15年4月2日 岡山地方裁判所
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判決文本文12,978 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,金170万円及びこれに対する平成7年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを6分し,その5を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 ただし,被告が金130万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告は,原告に対し,994万7348円及びこれに対する平成7年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 (3) 予備的に仮執行免脱宣言第2 事案の概要本件は,被告経営の病院で受けた大腸内視鏡検査において,主治医が同検査の危険性を説明することを怠り,また,同検査を担当した医師が不注意によりS状結腸付近に穿孔を生じさせたために,開腹手術を余儀なくされ,その結果,手術跡に腹壁瘢痕ヘルニアが発生し,治療費等の損害が生じたとして,原告が,被告に対し,債務不履行又は不法行為(民法715条)に基づく損害の賠償(付帯請求は,債務不履行ないし不法行為の日である平成7年10月17日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。)を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 被告は,A病院(以下「被告病院」という。)を経 17日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。)を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 被告は,A病院(以下「被告病院」という。)を経営する法人である。 (2) 原告(大正15年3月22日生)は,平成7年9月30日から,肺炎のため,被告病院で入院治療を受けていた。 (3) 原告は,被告病院で,胃及び大腸の内視鏡による検査をすることになったが,18歳の時に虫垂炎とそれによる腹膜炎の既往があり,腸が癒着している懸念があったため,大腸の内視鏡検査は困難ではないかと主治医であるB医師に尋ねた。B医師は,原告に対し,検査を担当するC医師に相談した上で,その心配はないと説明したため,原告は,被告との間で,大腸内視鏡検査を実施する診療契約を締結した。 (4) 同年10月17日,C医師が,原告に対し,大腸内視鏡検査を施行した(以下「本件検査」という。)。 本件検査中,原告の大腸に穿孔が生じたため(以下「本件穿孔」という。),原告は,下腹部開腹手術を受け,同年11月11日に被告病院を退院した。 (5) 原告は,平成11年2月12日,被告病院を受診し,上記下腹部手術創に腹壁瘢痕ヘルニアがあると診断された。 2 主たる争点(1) 本件検査における手技上の過失の有無ア原告の主張大腸内視鏡検査においては,腸管癒着の有無にかかわらず,被検者の苦痛や状態に注意を払い,内視鏡の挿入を続けると危険があると感じた場合には,一旦内視鏡を抜去して,エックス線透視下で用手圧迫を行いながら,内視鏡ができるだけ大きなループを作らないようにして挿入を試みたり, 鏡の挿入を続けると危険があると感じた場合には,一旦内視鏡を抜去して,エックス線透視下で用手圧迫を行いながら,内視鏡ができるだけ大きなループを作らないようにして挿入を試みたり,内視鏡を軟らかい機種に替えて試みるなどし,これらの方法でも被検者が苦痛を訴えて挿入が困難と判断した場合には,内視鏡検査を中止し,注腸検査に切り替えるなどの必要がある。また,被検者の苦痛に注意を払うためには,被検者に痛みを我慢しないように申し出るよう説明するとか,絶えず痛みの具合を問いかけるなどして被検者の苦痛の程度を確認する必要がある。 そして,虫垂炎及び腹膜炎の既往がある場合には,半数以上の症例で腸管癒着を生じていると推測され,腸管癒着がある場合には,内視鏡を挿入することにより大腸が押し上げられ,癒着が無理にはがれると,腸壁に穴が開くことがあり,腸管癒着がない場合に比べて穿孔を引き起こす確率は高いといえるから,術者は,腸管癒着を疑い,大腸のいかなる部位においても,手元に感じる力と内視鏡に加えた力の腸管への作用点を思い描きながら,内視鏡をゆっくり進める必要がある。 そして,C医師は,本件検査において,原告の虫垂炎及び腹膜炎の既往を聞いていたのであるから,一層,原告の苦痛や状態及び内視鏡モニターの画面に注意を払いながら,内視鏡を挿入・進行させなければならなかったにもかかわらず,モニターの画面の確認や原告の苦痛に十分な注意を払わずに内視鏡の操作をし,かつ内視鏡を無理に挿入した過失があり,これにより原告の大腸に穿孔を生じさせたものである。 よって,被告は,履行補助者であ 痛に十分な注意を払わずに内視鏡の操作をし,かつ内視鏡を無理に挿入した過失があり,これにより原告の大腸に穿孔を生じさせたものである。 よって,被告は,履行補助者であるC医師の行為につき債務不履行責任ないしC医師の使用者として民法715条の使用者責任を負う。 イ被告の主張ページ(1)腸管癒着の可能性があっても,そのこと自体が理由で大腸内視鏡検査が絶対的禁忌に該当するというのではなく,大腸内視鏡検査を行う際には,医師は,粗暴な操作をしないこと,不自然なループ形成をしないこと,挿入が困難な場合には無理な操作をしないこと等,大腸内視鏡検査のガイドライン(乙6)の趣旨に沿って検査を実施する注意義務があるにすぎない。 また,内視鏡検査において,穿孔を含めた偶発事故は一定の割合で発生していることが事実として報告されており(乙7),現在の先進医学をもってしても内視鏡検査による偶発事故は完全に避けられない実情にある。 本件検査において,C医師は,粗暴な操作や不自然なループ形成を行っておらず,また,内視鏡の挿入が困難であったわけでもないから,無理な操作をしたこともない。 よって,C医師が,上記注意義務に違反した事実はなく,本件穿孔は,不可抗力によって発生した内視鏡検査特有の偶発症である。 (2) 説明義務違反の有無ア原告の主張意義を有する承諾があったというためには,その前提として医師がその患者(場合によってはその家族)に対して,疾患の病状,治療方法の内容,その必要性,予後及び想定される生命・身体に対する危険性等の事 承諾があったというためには,その前提として医師がその患者(場合によってはその家族)に対して,疾患の病状,治療方法の内容,その必要性,予後及び想定される生命・身体に対する危険性等の事柄について,当時の医療水準に照らして相当と認められる程度,方法による説明を施すことによって,患者がその手術等を応諾するかどうかを自ら決断する上で,比較検討のために必要な資料の提供が必要である。 そして,大腸内視鏡検査においては,合併症として内視鏡挿入中に腸管穿孔が生じる危険性があり,特に下腹部の手術を受けた既往症のある被検者においては,腸管癒着が生じている可能性があるため,腸管癒着が生じていない場合に比べてより穿孔が発生しやすいことなどを具体的に説明すると同時に,他の検査方法(注腸検査)についても説明しなければならない。 ところが,B医師は,原告が虫垂炎と腹膜炎の既往があることを申し出たにもかかわらず,「その心配はない。」と抽象的に説明したのみで,大腸内視鏡検査を行った場合に穿孔が起こるとか,手技によっては出血が起こるとか,その他合併症があること,場合によっては開腹手術をしなければならないこと等の説明をしなかった。 そのため,原告は,B医師が十分に説明義務を尽くしていれば回避したであろう本件検査を受けることにした。 よって,被告は,履行補助者であるB医師の不作為につき債務不履行責任ないしB医師の使用者として民法715条の使用者責任を負う。 イ被告の主張被告病院医師は,原告に対し,癒着があることだけで内視鏡検査の適応がないことには 任ないしB医師の使用者として民法715条の使用者責任を負う。 イ被告の主張被告病院医師は,原告に対し,癒着があることだけで内視鏡検査の適応がないことにはならないし,これまで,多数の術後癒着がある患者の内視鏡検査を施行してきたが,多くの場合,患者の疼痛の訴え,更には内視鏡挿入時の抵抗感で癒着の有無は判断でき,慎重に無理をせず施行することで,これまでトラブルの発生は一度もなく,過去に心配することはなかったことを説明した。 原告は,大腸内視鏡検査を勧められた時点では,既に自己の既往症から,大腸内視鏡検査の困難性を認識していたものである。したがって,上記程度の説明をすれば,癒着による危険性の説明としては,格別その趣旨に反しているとはいえない。また,注腸検査は,選択肢として考慮されたとしても,注腸検査のための前処置,原告の腹部愁訴及び同人の腹部についての情報提供の精度等を勘案すると,注腸検査も選択肢としてある旨を原告に告げなくても,説明義務に違反しているとは評価できない。これらは,抽象的危険性について双方共通認識をもち,その上で検査を実行するか否かにつき,それぞれの立場で言葉を交わし,原告の同意の上で実行に踏み切ったということであり,説明の段階ではなく,説得の段階の問題である。 (3) 原告の損害原告の主張合計994万7348円原告は,本件穿孔により,開腹術の緊急手術及びその後の入院治療を余儀なくされた。また,手術後1年ほどして,手術創に腹壁瘢痕ヘルニアが発生し(自動車損害賠償保障法施行令11級11号胸腹部臓器に障害を残 穿孔により,開腹術の緊急手術及びその後の入院治療を余儀なくされた。また,手術後1年ほどして,手術創に腹壁瘢痕ヘルニアが発生し(自動車損害賠償保障法施行令11級11号胸腹部臓器に障害を残すものに該当する。),1日何回も腹痛が発生し,日々苦痛の連続である。 よって,これらの損害についての損害額は,以下のとおりである。 ア治療費21万7821円イ入院雑費 3万3800円一日当たり1300円平成7年10月17日から同年11月11日までの26日間ウ慰謝料合計400万円(ア) 傷害分 100万円(イ) 後遺障害分  300万円エ逸失利益 479万5727円事故当時年齢 68歳就労可能年数(平均余命年数の2分の1) 8年新ホフマン係数 6.589平成7年賃金センサス産業計・企業規模計・全労働者・65歳以上1か月30万3266円労働能力喪失率 20パーセントオ弁護士費用 90万円第3 当裁判所の判断ページ(2) 1 前記第2,1の争いのない事実,証拠(甲1ないし5,13ないし16,乙1ないし10〔枝番を含む。〕,証人C医師,同B医師,原告本人,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨よると,以下の事実が認められる。 (1)  原告は,平成7年9月26日ころから,食欲不振,悪寒,発熱の症状 し10〔枝番を含む。〕,証人C医師,同B医師,原告本人,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨よると,以下の事実が認められる。 (1)  原告は,平成7年9月26日ころから,食欲不振,悪寒,発熱の症状が発生し,軽快しなかったため,同月29日に,D内科医院にて診察を受けたところ,胸部エックス線にて右肺上葉に肺炎陰影等が認められたことから,肺炎と診断され,同医院の医師に入院を勧められたが,入院を希望せずに,一旦は自宅に戻った。しかし,その後,悪寒等が激しくなったため,原告は,同医院から,被告病院を紹介してもらい,同月30日に被告病院に入院した。 (2)  被告病院では,B医師が原告の主治医となって,抗生剤を投与するなどして,原告の肺炎の治療を行った。肺炎の治療は順調であったが,一方で,原告には,平常時と異なる腹部の膨満感及び蠕動音があり,便潜血が陽性を示したため,胃内視鏡検査及び大腸内視鏡検査を行うこととなった。 (3)  そこで,B医師は,看護師を通じて,原告に対し,胃内視鏡検査前調査用紙を渡し,記入してもらった。同用紙には,胃内視鏡の経験,麻酔の経験,副作用の経験,ぜんそく・アレルギー等の経験などの問診のほか,検査に対する気持ちなどの項目があり,原告は,胃内視鏡の経験があること,麻酔等の副作用の経験がないこと,検査に対しては気にしないとの回答をした。 そして,B医師は,その胃内視鏡検査前調査用紙をもとに,原告に対し,胃及び大腸の内視鏡検査の説明をしたところ,原告は,胃内視鏡検査については何度か経験があるが,大腸内視鏡検査については して,B医師は,その胃内視鏡検査前調査用紙をもとに,原告に対し,胃及び大腸の内視鏡検査の説明をしたところ,原告は,胃内視鏡検査については何度か経験があるが,大腸内視鏡検査については,18歳のころに虫垂炎と腹膜炎を併発しており,腸が癒着している懸念があったため,同検査は困難ではないか,とB医師に尋ねた。 そこで,B医師は,C医師にその旨相談し,C医師が,癒着の存在を念頭において,注意して検査すれば大腸内視鏡検査は可能であるし,実施できると返答したことから,B医師は,その旨,原告に対して説明したところ,原告は大腸内視鏡検査に同意し,その後,不安等を感じている様子はなかった。 なお,C医師は,本件検査当時,3000例以上の大腸内視鏡検査の経験があった。 (4)  B医師は,同月16日,原告に対し,胃内視鏡検査を実施したところ,胃潰瘍瘢痕,十二指腸潰瘍瘢痕,6か所程度のポリープ等が発見され,ポリープ等は切除した。 (5)  原告は,同月17日,看護師がもってきた大腸内視鏡検査の同意書に署名して提出し,内視鏡専属の看護師2名及びE医師のアシスタントのもと,エックス線透視下で,C医師の一人法による大腸内視鏡検査(本件検査)を受けた。本件検査では,看護師が,原告の表情及び血圧を観察し,変化があれば,原告に声をかけることで,検査を行っているC医師に,原告の変化を知らせる態勢になっていたが,本件検査中,看護師が原告に声をかけることはなかった。 (6)  内視鏡挿入開始後しばらくして,内視鏡先端部についているカメラからの映像モニターに, なっていたが,本件検査中,看護師が原告に声をかけることはなかった。 (6)  内視鏡挿入開始後しばらくして,内視鏡先端部についているカメラからの映像モニターに,原告の腹腔内臓器が映ったため,C医師は,同人の腸壁に穿孔を生じたと考え,本件検査を中止して,B医師に連絡してその状況を見てもらった後,内視鏡を抜去した。 (7)  そして,B医師が,原告とその妻に,穿孔をきたしたために手術が必要であることの説明をした後に,両人の同意書を得て,同日午後5時30分に被告病院の外科医による手術が行われた。 外科医は,下腹部正中切開によって開腹し,S状結腸と側壁腹膜が癒着していたため,それをはがし,また,直腸とS状結腸の移行部に穿孔が認められたため,これを6針で縫合し,さらに内視鏡検査にて大腸全体を検索し,1か所ポリープが発見されたが切除できず,他に異常がなかったため,同手術を終了した。この手術により,原告大腸の回盲部と上記穿孔部が癒着していたことが認められた。 (8)  原告は,同年11月11日,被告病院から退院した。 (9)  原告は,平成11年2月4日付けで,被告に対し,説明を求める旨の内容証明郵便を送付した。 また,原告は,平成11年2月12日に,再び被告病院内科で受診し,腹部CT検査の結果,下腹部手術創瘢痕部の皮膚が菲薄化していることが認められ,この部位が,腹壁瘢痕ヘルニアの部位であると診断された。原告は,同月19日に再度受診したが,その後は被告病院を受診していない。 原告は, ていることが認められ,この部位が,腹壁瘢痕ヘルニアの部位であると診断された。原告は,同月19日に再度受診したが,その後は被告病院を受診していない。 原告は,同年5月4日,被告に対し,本件の賠償を求める旨の内容証明郵便を送付し,同月12日,被告に到達した。 原告は,同年10月14日,本件訴えを提起した。 (10) 一般に,大腸は,肛門から直腸,S状結腸,下行結腸,横行結腸,上行結腸,回盲部と続く。そして,S状結腸は,個人によって走行が異なり,三次元的にα状,逆α(γ)状,N状などを示す。 大腸の検査には,造影剤を大腸に注入しエックス線で検査する注腸検査法と大腸に内視鏡を挿入し検査する内視鏡検査法がある。注腸検査法は,診断精度が内視鏡検査に比べて低い反面,術者の手技にかかわらず回盲部までの観察が可能であり,患者の苦痛が比較的少ない。また,内視鏡検査は,術者の手技の巧拙により患者の苦痛の程度,検査の成功の有無,要する時間が異なる反面,診断精度が高い。なお,穿孔,出血などの合併症が,注腸検査法には0.02ないし0.04パーセント,内視鏡検査には0.23ないし0. 49パーセントの割合で発生するとされている。 ページ(3) 2 争点(1)(手技上の過失の有無)について(1)  前記1(6)(7)のとおり,本件検査において内視鏡により腸壁が見えることなく,腹腔内臓器が見えたこと,S状結腸と回腸部が癒着していたこと,また,内視鏡の操作により,上記癒着がはがれると同時に内視鏡が腹腔内臓器をとらえる状況も十分ありう く,腹腔内臓器が見えたこと,S状結腸と回腸部が癒着していたこと,また,内視鏡の操作により,上記癒着がはがれると同時に内視鏡が腹腔内臓器をとらえる状況も十分ありうること(鑑定の結果)からすれば,本件穿孔は,本件検査において内視鏡の操作により,原告の大腸に存在した癒着がはがれて生じたものと認められる。 そして,証拠(鑑定の結果)によれば,大腸に癒着がある場合には,癒着がない場合よりも,合併症の発生の割合が高いことが認められ,癒着の可能性が存在する患者に対して大腸内視鏡検査を行う場合には,癒着をはがすことによる大腸の損傷を避けるべく,慎重に内視鏡の操作を行うべき注意義務があるといえる。 よって,前記1(3)のとおり,C医師は,原告の大腸に癒着が存在する可能性を認識していたといえるから,本件検査を行うに当たっては,癒着がはがれることによる大腸の損傷を避けるべく,慎重に内視鏡の操作を行い,癒着による抵抗がある場合にはそれ以上内視鏡の挿入を続けることがないようにすべき注意義務を負うものである。 (2)アそこで,まず,内視鏡の操作において,癒着による抵抗の変化が客観的にも認識されない場合について検討するに,このような場合,C医師に回避可能性が認められず,C医師の手技に過失があったと認めることはできない。 イ次に,内視鏡の操作において,癒着による抵抗の変化が客観的に認識できる場合において,それにもかかわらず,C医師が,その抵抗の変化を認識せず,内視鏡の操作を続行 イ次に,内視鏡の操作において,癒着による抵抗の変化が客観的に認識できる場合において,それにもかかわらず,C医師が,その抵抗の変化を認識せず,内視鏡の操作を続行した場合には,その操作に過失があると評価することができる。そして,証拠(鑑定の結果)によれば,大腸に癒着が存在し,内視鏡操作に抵抗の変化がある場合には,被検者は痛みとして,少なくとも苦痛の表情を表すものであると認められるから,本件検査において,C医師が原告に苦痛の表情があるにもかかわらず,内視鏡の操作を続行したといえる場合には,過失があると評価できる。 この点,原告は,自分は痛みがあっても我慢する性格であると供述しており,看護記録上(乙4)も,原告が苦痛を我慢する性格のため,肺炎の苦痛を素直に言っていない可能性がある旨の記載があることから,原告が痛みに敏感で,痛みがある場合にはすぐその旨告げる性格であると思ったと証言するC医師が,原告の苦痛の表情を軽視して,内視鏡の操作を続行した可能性も否定はできない。 しかし,本件検査においては,前記(5)のとおり,C医師による一人法による検査で,他に2人の看護師と1人の医師がついており,看護師が原告の表情を見て,表情が苦痛により変わった場合には,看護師が原告に声をかけることで,C医師に,原告が苦痛を感じていることを認識させる態勢をとっていたことが認められ,本件検査では,一度も看護師の声をかけることがなかったことが認められる。この点,原告は,看護師は他の作業 痛を感じていることを認識させる態勢をとっていたことが認められ,本件検査では,一度も看護師の声をかけることがなかったことが認められる。この点,原告は,看護師は他の作業をしており,看護師が自己の表情を見るため対面していたことはなかったとするが,本件検査においては2人の看護師がついていたこと,穿孔が生じたのは,検査の早期の段階であり,一般に内視鏡の操作が難しいとされるS状結腸部で,被検者の痛みが生じやすいところであることからすれば,看護師が1人も原告の表情を観察していなかったとは考えにくく,原告は本件検査中,横になっていたのであるから,看護師の動静を全て把握できたとは考えにくいことなどからすると,原告の供述は採用できない。 また,前記1(6)のとおり,本件検査において,内視鏡を挿入してしばらくして穿孔が生じ,その後,C医師は,B医師が来るまで,内視鏡をそのままにしておいたことが認められ,原告も,内視鏡を挿入してしばらくは痛みがなく,しばらくしてから突然痛みが生じ,その痛みにずっと我慢していた旨供述していることからすれば,本件検査においては,痛みと穿孔はほぼ同時に生じたといえるのであって,このことは,癒着による抵抗の変化と穿孔も同時に生じたことを意味するものと考えられる。 以上からすれば,C医師は,癒着による抵抗の変化を認識し,より慎重に内視鏡を操作したり,内視鏡検査をやめることはできなかったものといえるから,C医師には,結果の回避可能性はなかったものと認められ 着による抵抗の変化を認識し,より慎重に内視鏡を操作したり,内視鏡検査をやめることはできなかったものといえるから,C医師には,結果の回避可能性はなかったものと認められる。 ウさらに,内視鏡の操作において,癒着による抵抗の変化を認識できない程の強い力で内視鏡を操作し,癒着の抵抗により患者の表情が苦痛を表すより以前に又は同時に癒着をはがした場合について検討する。このような場合,上記のような操作を行った場合には,その操作に過失があると評価することができる。 しかし,C医師が原告の癒着を軽視して,慎重さを欠いた操作を行ったと認めるに足る証拠はなく,前記1(3)のとおり,C医師は,本件検査当時,大腸内視鏡検査を3000例以上経験したことがあり,原告の大腸には癒着が存在する可能性があることを認識し,原告が内視鏡検査に対して不安をもっていたことを認識していたことから,全く慎重さを欠いた内視鏡操作を行ったとは認めがたい。 よって,C医師が,癒着による抵抗の変化を認識できないほどの強い力で内視鏡を操作したと認めることはできない。 (3) 以上のとおり,C医師に手技上の過失があったとは認められない。 3 争点(2)(説明義務違反の有無)について(1) 前記1(10)のとおり,大腸内視鏡検査においては,穿孔・出血等の合併症の発生が一定の割合で生じており,その中には明らかに過失と評価できるものも含まれているとはいえ,注意義務を尽くしたとしてもその発生をページ(4)完全に避けられないものが依然存在する の割合で生じており,その中には明らかに過失と評価できるものも含まれているとはいえ,注意義務を尽くしたとしてもその発生をページ(4)完全に避けられないものが依然存在するといえるから,医師が同検査を行うに当たっては,最善の注意を尽くしても穿孔・出血等の発生がありうることの説明を行うべき診療契約上の義務があるといえる。 (2) この点,B医師は,原告は胃の内視鏡検査の経験があるため,大腸内視鏡検査の方を詳しく説明し,穿孔等の合併症についても説明した記憶があり,原告の癒着があるかもしれないから大腸内視鏡検査は困難ではないかという質問は,合併症を起こす危険があることに対しての不安であると理解したと証言する。 しかし,前記1(3)のとおり,原告が記入した胃内視鏡検査前調査用紙は,B医師の説明の前に看護師から書くように言われたもので,大腸内視鏡検査の問診も兼ねており,同用紙には,「検査に対する気持ちを○で囲んでください。」との項目があり,原告は「気にしない」に丸をしていることからすれば,この問診の結果を知ったB医師が,原告が癒着があるかもしれないから大腸内視鏡検査は困難ではないかと質問したことのみから,開腹手術をしなければならないような重大な合併症を起こす危険性を認識した上での大腸内視鏡について不安を抱いていると理解したというのは軽率であったといわざるを得ない。しかも,B医師の証言によっても,原告の癒着があるかもしれないから大腸内視鏡検査は困難ではないかとの質問は,B医師による大腸内視鏡検査に伴う合併症の説明を ざるを得ない。しかも,B医師の証言によっても,原告の癒着があるかもしれないから大腸内視鏡検査は困難ではないかとの質問は,B医師による大腸内視鏡検査に伴う合併症の説明を受けてなされたものとは認められない。また,前記1(5)のとおり,本件検査の同意書は,本件検査の直前に作成されたにすぎず,このことから本件検査の説明が十分であったものと推認することはできず,B医師の合併症の説明を行った記憶があるとの証言も,本件検査の時から約5年の年月を経た後の証言であるとはいえ,曖昧にすぎる。 (3) 以上からすれば,B医師は,原告に対し,穿孔等の可能性を具体的に説明したとは認められず,B医師を履行補助者とする被告は,診療契約上の義務に違反する債務不履行責任ないし不法行為責任を負う。 なお,被告は,原告が,癒着により大腸内視鏡検査が困難であることを認識しており,同検査の危険性を認識していたから,説明義務に違反するものではないと主張するが,大腸内視鏡検査において不可避的に生じる合併症は,単なる痛み,出血だけではなく,穿孔という重大な結果を生じさせるものであるから,同検査に当たっては,その危険性について具体的な内容について説明し,被検者に判断の資料を与えるべきであるといえるから,被告の主張は採用できない。 また,被告は,医師とすれば,胃と大腸の内視鏡検査は危険性の程度においてさほど差はないという認識であること,B医師及びC医師は合併症の経験がないこと,原告が胃内視鏡検査については経験があり,不安を感じていなかったこと, おいてさほど差はないという認識であること,B医師及びC医師は合併症の経験がないこと,原告が胃内視鏡検査については経験があり,不安を感じていなかったこと,大腸内視鏡検査についても癒着の点以外不安を示していなかったことなどから,B医師が,原告は内視鏡検査の危険性についてある程度知っていたと考えたことは非難できず,原告としても,具体的に疑問を提示すべきであったと主張する。確かに,医療行為において,あらゆる可能性を説明すべき義務があるとはいえないとしても,一定の割合で不可避な合併症が発生する本件検査においては,前記のとおりの範囲で説明すべき義務があるものと認めるのが相当である。そして,専門家である医師の説明義務を履行する前提として,患者から疑問を提示すべきであるとすることは相当でない。 よって,被告の上記主張は採用できない。 4 争点(3)(損害)について(1) 前記3のとおり,被告は,原告に対する説明義務を怠り,それによって,原告は,大腸内視鏡検査の危険性について十分把握した上で,自らの責任において,同検査を受けるか否かを決定する機会を奪われたといえ,被告は,これによって被った原告の精神的損害を賠償する義務がある。 (2) 次に,原告は,本件検査による穿孔により開腹手術を受け,腹壁瘢痕ヘルニアの後遺症を負ったものであるところ,上記説明義務違反とこれらの損害との間に因果関係があるか検討する。 この点,原告は,肺炎のために被告病院に入院したものであり,大腸内視鏡検査は主目的ではなかったこと, 記説明義務違反とこれらの損害との間に因果関係があるか検討する。 この点,原告は,肺炎のために被告病院に入院したものであり,大腸内視鏡検査は主目的ではなかったこと,原告は,膨満感や便鮮血などの本件検査の必要性を基礎づける事情を認識していなかったこと,過去に虫垂炎及び腹膜炎の経験があり,開腹手術は絶対に避けたいと考えていたことから,説明義務が履行されていれば本件検査を受けなかったと供述する。 しかし,仮に,原告が,平成7年10月15日ころの説明時において本件検査に同意しなかったとしても,原告は,前記1(4)のとおり,本件検査の前日である同月16日に,胃の内視鏡検査を受け,胃にポリープが6か所程度発見されたことからすれば,その後,医師により本件検査の必要性を更に指摘されれば,本件検査に同意した蓋然性が高いこと,前記1(10)のとおり,内視鏡検査の代替措置である注腸検査においても穿孔等の合併症は一定の割合で存在すること,大腸に癒着が存在する場合には,注腸検査においても,その発生の可能性は高いといえること,原告が注腸検査を選択しても,更に詳細な検査のため内視鏡検査を必要とする可能性も高いことからすれば,説明義務が履行されたとしても本件検査を受けず,その結果,本件穿孔を避けられたものであるとはいえない。 よって,説明義務違反と開腹手術等の損害との間に因果関係は認められない。 (3) しかし,本件検査に不可避な合併症は,大腸に穿孔を生じさせ,開腹手術を余儀なくされる重大な結果をもたらすものであること,本件検査の実 は認められない。 (3) しかし,本件検査に不可避な合併症は,大腸に穿孔を生じさせ,開腹手術を余儀なくされる重大な結果をもたらすものであること,本件検査の実施が緊急を要するものでなかったことなどに照らせば,原告は,前記のような説明を受けなかったことから,自己決定の機会が奪われたことは否定ページ(5)することはできない。そして,このことにより原告は精神的損害を被ったといえ,これを慰謝するための慰謝料は,150万円と認めるのが相当である。 また,本件の内容,認容額などを総合考慮すれば,弁護士費用を20万円と認めるのが相当である。 5 結論以上のとおり,原告の請求は,被告に対し,診療契約上の説明義務違反に基づき170万円及びこれに対する不法行為の日である平成7年10月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法64条,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項,仮執行免脱宣言につき同条3項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所第2民事部裁判長裁判官小野木等 裁判官政岡克俊裁判官永野公規 裁判官政岡克俊 裁判官永野公規

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