令和5(わ)314 傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年3月14日 大津地方裁判所
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判決文本文10,875 文字)

令和5年(わ)第314号、第495号傷害被告事件判決要旨【主文】被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 【理由】(罪となるべき事実)被告人は、滋賀県野洲市a 番地所在のグループホームAにおいて、第1 令和4年11月30日午後6時30分頃から同年12月1日午前8時頃までの間、B(当時92歳)に対し、何らかの暴行を加え、よって、Bに加療約1か月間を要する顔面打撲及び急性硬膜下血腫の傷害を負わせた。 第2 令和5年5月18日午後7時頃から同月19日午前7時30分頃までの間、C(当時89歳)に対し、何らかの暴行を加え、よって、Cに加療約6週間を要する右上口唇上部挫傷、胸部挫傷、右第3肋骨骨折、胸骨骨折、右尺骨遠位端骨折及び右肩関節脱臼の傷害を負わせた。 【争点に対する判断】第1 争点等 1 被告人、弁護人の主張判示第1及び第2の各事実につき、被告人は、いずれも被害者らに暴行を加えたことはない旨述べ、これに沿って、弁護人は、いずれについても、①事件性、②犯人性を争う。すなわち、①被害者らの各負傷は、他者の暴力によってではなく、転倒や介助行為で生じた可能性があるとか、②仮に事件性が認められても、被告人は犯人ではない旨を主張する。 2 当裁判所の判断概要本件は、いずれも判示施設(グループホームA。以下、「本件施設」ともいう。)における施設利用者である高齢者の負傷に係るものであり、目撃者等も存在せず、被害者らは認知症を抱えるなどしており、その供述調書等も提出されていないが、当裁判所は、①事件性については、被害者両名の負傷を直接又は写真等により検分した法医学の専門家(医師であり大学教授である証人D。以下、「D医師」ともいう。)の供述等(同医師の公 提出されていないが、当裁判所は、①事件性については、被害者両名の負傷を直接又は写真等により検分した法医学の専門家(医師であり大学教授である証人D。以下、「D医師」ともいう。)の供述等(同医師の公判供述及び同人作成の鑑定書等。以下、これらをまとめて「D供述」ともいう。)により、また、②犯人性については、推認される受傷時間帯に犯行可能性があった者が被告人以外に存在しないことを、被告人以外の施設職員の供述その他の関係証拠により、それぞれ認定できると判断したので、順次、分説する(なお、以下では各被害者は姓のみを記載し、判示第1の事実を「B事件」、同第2の事実を「C事件」ともいう。その余の人名についても、2回目以降は姓のみを記載する。)第2 事件性について 1 Bの負傷についてのD医師の供述等令和4年12月1日午前8時頃、本件施設に出勤した施設職員らがBの負傷を認め、施設の顧問医の指示により119番通報し、Bは直ちに救急搬送された。 D医師は、同日から同月3日までの間に撮影されたBの受傷部位の写真や頭部CT画像等を検討し、Bのけがは判示第1のとおりであるとした上、大要、次のとおり述べている。 すなわち、Bの左右の上下眼瞼部等、顔面各部の打撲は、硬い物体がぶつかった際に生じる特徴的な形状が見当たらないほか、損傷の辺 縁も明瞭でなく、表皮剥脱は左鼻翼下方にしか生じていないことから、作用面が滑らかな鈍体による打撲圧迫によって生じたものと考えられ、例えば、拳などの体の一部で殴打したり足で蹴ったりしたことによって生じたものと考えて矛盾しない。損傷が転倒により床などの作用面の広いものにぶつけたことによって生じる場合、体の出っ張った部位を損傷するし、その作用面は広範囲となるはずであるところ、Bの顔面の各損傷について見ると各損傷より ない。損傷が転倒により床などの作用面の広いものにぶつけたことによって生じる場合、体の出っ張った部位を損傷するし、その作用面は広範囲となるはずであるところ、Bの顔面の各損傷について見ると各損傷より出っ張った部位は損傷しておらず、このような損傷の分布からすると、Bの顔面の各損傷は、転倒により床などにぶつけたことによって生じたものではないと考えられる。 また、損傷が転倒により机などの硬い物体がぶつかって生じた場合には、ぶつかった物体が硬ければ硬いほど、皮膚の外表に物体の形状がより明瞭に現れ、損傷の辺縁もより明瞭になるし、摩擦で表皮剥脱が生じることが多いところ、Bの顔面の各損傷にそのような特徴は認められないから、Bの顔面の各損傷が、転倒により机などにぶつけたことによって生じたものとも考えにくい。 急性硬膜下血腫は、外力が加わらないと生じないものであり、Bに生じた左前頭部、右小脳テント部分及び大脳鎌の各部位の硬膜下血腫のうち、大脳鎌のものは、脳に回転外力が加わり脳と硬膜をつなぐ架橋静脈が剪断されたことにより、左前頭部のものは、外力によって脳が動いて前頭葉の脳表面の血管が損傷したことによりそれぞれ生じたものである。血小板の数値が正常範囲内であるという血液検査の結果などを踏まえても、回転外力は、首を基点として頭部が激しく揺さぶられて生じたと考えられる。そして、急性硬膜下血腫を生じさせるような外力が加わった痕跡としては、顔面打撲以外に見当たらないため、Bの急性硬膜下血腫は、顔面打撲時に生じたものと考えられる、など というのである。 2 Cの負傷についてのD医師の供述等令和5年5月19日午前7時30分頃、施設職員がCの異常を認め、施設の顧問医の指示により119番通報し、Cは直ちに救急搬送された。 D医師は、その4日後に自ら直接 の負傷についてのD医師の供述等令和5年5月19日午前7時30分頃、施設職員がCの異常を認め、施設の顧問医の指示により119番通報し、Cは直ちに救急搬送された。 D医師は、その4日後に自ら直接Cを診察し、Cの写真やレントゲン検査及びCT検査時の画像等の資料も踏まえ、Cのけがは、判示第2のとおりであるとした上、大要、次のように述べている。 すなわち、Cの右上口唇上部挫傷及び胸部挫傷は、いずれも、硬い物体がぶつかった際に生じる特徴的な形状が見当たらないほか、損傷の辺縁も明瞭でなく、表皮剥脱も認められないことから、作用面が滑らかな鈍体による打撲や圧迫により生じたものと考えられ、例えば、拳や平手で殴ったり足で蹴ったりするなどして生じたものと考えて矛盾しない。右上口唇上部挫傷より出っ張った部位に損傷がないこと等も踏まえると、右上口唇上部挫傷が転倒により机や床にぶつかって生じたとは考えにくい。 右第3肋骨骨折、胸骨骨折については、各骨折箇所に相当する外表部位にそれぞれ胸部挫傷があり、また、レントゲン検査時の画像上、各骨折は体の正面からの外力によって生じたと認められることからすれば、右前胸上部の胸部挫傷は、右第3肋骨骨折に伴い、前胸上部及び前胸下部の各胸部挫傷は、2か所の胸骨骨折に伴いそれぞれ生じたものと考えられる。各骨折は、複数回殴打等して胸部挫傷を生じさせた際に生じたものである。このような同方向の外力による3か所もの胸部挫傷が偶然の転倒によって生じるとは考えがたい。 右尺骨遠位端骨折は、レントゲン検査時の画像や、診察時に右前腕 後面の紫色調や腫脹が顕著で、右手背も紫色調や腫脹が認められたことから、右前腕下部において尺骨側から(斜め方向に)極めて強力な外力が直接作用して形成されたものと考えられる。したがって、例えばCが車椅子 の紫色調や腫脹が顕著で、右手背も紫色調や腫脹が認められたことから、右前腕下部において尺骨側から(斜め方向に)極めて強力な外力が直接作用して形成されたものと考えられる。したがって、例えばCが車椅子から立ち上がろうとする際に転倒して手をついたという程度で生じるとは考え難い。 右肩関節脱臼は、右肩関節の正常な可動域を超えた範囲にまで強制的に動かされることによって生じたものと考えられ、例えば、右腕を上に上げた状態から、強力な外力で上方から後方へ変位させたことにより生じたと考えられる。右肩関節脱臼が転倒や接触等によって生じるには、相当強い外力が加わる必要があるところ、そのような外力に伴って生じるはずの激しい皮下出血を伴う損傷や鎖骨の骨折は見られないから、同損傷が転倒や接触等によって生じたとも考えられない、などというのである。 3 D供述の信用性D医師は、2500件以上の法医解剖に携わり、人体にどのような外力が加われば、どのようなけがが生じるのかを科学的に研究する傷害バイオメカニクス等を専門とし、虐待が疑われる高齢者の診察や鑑定の経験も有するところ、その供述等の内容は、高度な専門的知見と豊富な経験に裏付けられたものといえる。 そして、Bの損傷については、頭部CT画像等の客観的な資料をもとに、硬膜下血腫の色調の変化を指摘するといった医学的知見に基づいて述べられたものであって、不自然、不合理な点は認められず、その信用性に疑問を差し挟むべき事情は認められない。 Cの損傷については、客観的な資料のみならず、D医師が自ら直接診察した上でその医学的知見に基づいて述べられたもので、Cに関す る供述にも特に不自然、不合理と見るべき点はなく、やはりその信用性に疑問の余地はない。 4 小括以上によれば、被害者らの負傷は、偶然の転倒といった に基づいて述べられたもので、Cに関す る供述にも特に不自然、不合理と見るべき点はなく、やはりその信用性に疑問の余地はない。 4 小括以上によれば、被害者らの負傷は、偶然の転倒といった不慮の事故によるものではなく、誰かが、意図的に手拳で殴打したり足で蹴ったりするなどの何らかの暴力を加えたことによって生じたものと認めることが相当であり、いずれについても事件性があるといえる。 第3 犯人性について 1 B事件における被告人の犯人性⑴ Bの受傷時期について前記認定のとおり、令和4年12月1日午前8時頃、本件施設の職員がBのけがを確認している一方で、その前日(同年11月30日)の日中に本件施設の職員3名がBの世話をした際、Bの顔面にけが等は確認されておらず、同人らのうち2名が同日午後5時ないし午後6時頃及び午後6時30分頃にそれぞれ退勤した際にもBの顔にけがは確認されていなかった(証人E、同F、同M)。 上記3名の職員らは、本件施設利用者の負傷の有無については職務上相応の注意をもって観察しているものと考えられるし、その各供述には時間の経過に伴い記憶が減退している部分も見受けられるものの、同一場面に関する供述では概ね一致しており、同僚や部下であった被告人にあえて不利な虚偽供述をする動機等も見当たらず、また、ケア記録等の客観的な証拠とも合致しているから、その信用性に疑問を差し挟む事情は見当たらず、十分に信用できるものである。 以上によれば、Bの受傷時期は、最後に異常のないことが確認さ れた搬送前日の午後6時30分頃から顔のけがが確認された搬送当日午前8時頃までの間であると認められる。 加えて、本件施設の各フロアは、さほど広くはなく、各利用者の居室等、死角になる個所もあるが、大声を出したり大きな物音がすれ から顔のけがが確認された搬送当日午前8時頃までの間であると認められる。 加えて、本件施設の各フロアは、さほど広くはなく、各利用者の居室等、死角になる個所もあるが、大声を出したり大きな物音がすれば施設内の者に聞こえるであろうといった距離感であり、そのような施設において、他の職員らの目のある日中や通退勤時間に激しい暴行がなされたというのは通常考え難いと思われることをも併せれば、犯行時間帯は、夜勤時間帯、すなわち午後7時から翌日午前7時までの間と認めることが相当である。 D医師も、写真で確認されるBの顔面打撲の各損傷は、紫色調で腫脹していたことから、その受傷時期は搬送当日から2日以内であり、急性硬膜下血腫はこれと同時期に生じたものと考えられると供述しており、上記認定は医学的にも裏付けられているといえる。 ⑵ 外部者等による犯行可能性本件施設は2階建てであり、外部からの出入口は、非常口と正面玄関だけであるが、これらは常時施錠されており、日中は職員のみが正面玄関の暗証番号の入力により解錠できるが、夜間(午後7時頃から翌朝午前7時頃まで)は、夜勤者が内側からレバー式の鍵をかけており、内部にいる者に施錠を解いてもらわなければ外部からは出入りができない(証人E等)。 また、本件施設の1階及び2階(以下、単に「1階」、「2階」ともいう。)の各フロアの利用者らの入居スペース手前には引き戸が設置され、各階の引き戸には、複数の鍵がかけられており、1階の引き戸には鈴が、2階の引き戸にはセンサーがそれぞれ設置され、開けると音が鳴る仕組みになっていた。なお、職員(証人F)が搬送当日午 前8時頃出勤した際、2階の引き戸は施錠されていたことを確認している。 したがって、同年11月30日午後6時30分頃から同年12月1日午前8時頃までの間、職員 職員(証人F)が搬送当日午 前8時頃出勤した際、2階の引き戸は施錠されていたことを確認している。 したがって、同年11月30日午後6時30分頃から同年12月1日午前8時頃までの間、職員以外の第三者が夜勤担当の職員に気付かれることなく本件施設内に侵入することは極めて困難であり、当時、本件施設建物には窓ガラスや鍵の破損などの侵入をうかがわせる形跡はなかった。そうすると、犯行時間帯に外部の者が侵入して犯行に及んだ可能性は事実上ないというべきである。 また、D供述によれば、Bのけがを生じさせるには、相当強い外力を加える必要があり、加害者において両足を踏ん張るなどして体を安定させた上で、殴打する等の外力を加える必要があるというのであるが、本件当時、Bの居室のあった2階には、Bのほか8名の高齢者が入居していたところ、そのうち車椅子で移動する者が4名、歩行器を使用して移動する者が1名、立位保持に介助が必要な者が3名であり、力の強い者や強い力を出せる者はいなかった(証人F)というのであるから、そのような入居者らに犯行は不可能であったと認められる。 ⑶ 被告人以外の職員による犯行可能性犯行時間帯に本件施設にいた職員は、Bの居室のあった2階で夜勤勤務していた被告人と1階にいた職員(証人G)のみである。夜勤時には、特別な連絡がない限り、それぞれのフロアで夜勤する職員が担当外のフロアに立ち入ることはない運用になっており、実際に上記1階担当の職員は2階には立ち入っていないと供述し、被告人も同職員が2階に上がってくることがあったとは述べていない。前記認定のように1階及び2階の入居スペース手前の引き戸ドアには 施錠がされ、開けると音が鳴る仕組みになっていたのであるから、同職員が、被告人の知らない間に2階に立ち入り、犯行に及ぶことは 記認定のように1階及び2階の入居スペース手前の引き戸ドアには 施錠がされ、開けると音が鳴る仕組みになっていたのであるから、同職員が、被告人の知らない間に2階に立ち入り、犯行に及ぶことは想定できない。 ⑷ 小括以上によれば、B事件につき、犯行の機会があり、なおかつ現実的にこれが可能であったと考えられる人物は、犯行時間帯に2階で夜勤勤務をしていた被告人しかいない。よって、被告人が犯人であることは合理的な疑いを容れることなく認められる。 2 C事件における被告人の犯人性⑴ Cの受傷時期についてア Cが救急搬送された時の状況は前記認定のとおりであるが、これを若干敷衍すると、令和5年5月19日午前7時45分頃、本件施設の職員(H。ケア記録の記入者)がCの異常(座位がとれず椅子から落ちそうになっていること、呼吸が浅くて早く、やや呂律も回っていないこと、左口角が少し下がっているようであること)を認め、本件施設の顧問医に電話連絡し、その指示を受けて119番通報し、Cは救急搬送され、D医師により、その際にCが判示第2のけがを負っていたものと判断された。 なお、上記ケア記録には、Cの顔面の負傷(右上口唇上部挫傷)については触れられていないが、搬送当日の午前7時30分頃にCの両頬が赤く唇が切れかかっており腫れている様子に気付いたとする本件施設の職員(証人I)の供述に加え(なお、Iが真犯人などと認められないのは後述のとおりであり、また、あえて被告人に不利な虚偽供述をする動機等も見当たらない。)、救急搬送後にそのけがが生じたことを疑わせる事情が見当たらないことをも併せれ ば、上記搬送時にCが上記右上口唇上部挫傷を負っていたことが推認できる(D供述によると、挫傷による変色等が生じるまで多少時間がかかるようである を疑わせる事情が見当たらないことをも併せれ ば、上記搬送時にCが上記右上口唇上部挫傷を負っていたことが推認できる(D供述によると、挫傷による変色等が生じるまで多少時間がかかるようであるから、後述の犯行時間帯を踏まえれば、搬送時点では負傷による目立つ変色等を生じていなかったとみても不合理ではない。)。 イ上記搬送の前日(令和5年5月18日)、本件施設職員(証人G)が日中、Cのトイレ介助をした時も、同職員が同日午後5時頃退勤した時も、Cの顔面のけがや異常な様子は確認しておらず、別の職員(証人F)が、同日午後6時45分頃にCの顔の左側を見た際にも、同様にけが等の異常は見つかっていない。 この各職員らの供述は、時間の経過に伴い部分的な記憶の減退もないではないが、先にも述べたとおりその供述は職務上の出来事に関するもので、同僚や部下であった被告人にあえて不利な虚偽供述をする動機等も見当たらず、ケア記録等の記載と合致していること等からすれば、信用性に欠けるところはない。 ウ以上によれば、Cの右上口唇上部挫傷の受傷時期は、最後に異常のないことが確認された搬送前日の午後7時頃から搬送当日午前7時30分頃までの間であり、Bの場合と同様に他の職員の目に付く可能性等をも考慮すれば、犯行時間帯は、搬送前日の午後7時から搬送当日の午前7時までの夜勤時間帯であると認めることが合理的である。また、各職員らの供述に現れた本件施設の見守り体制をも踏まえれば、複数の骨折や脱臼が見過ごされたまま日中の介助が行われたとは考えにくく、これらを疑わせるような事情はなかったことから、顔以外の負傷についても同時期に生じたものと認められる。そして、D医師は、右上口唇上部挫傷や胸部挫傷の受傷時期 は、Cに処方されていた抗血小板剤により出血しやすかった はなかったことから、顔以外の負傷についても同時期に生じたものと認められる。そして、D医師は、右上口唇上部挫傷や胸部挫傷の受傷時期 は、Cに処方されていた抗血小板剤により出血しやすかったという点を踏まえても、色調の変化から、5月19日を基準として3日以内と考えられ、1日以内と考えるのがより整合性がとれていること、胸骨骨折と肋骨骨折は胸部挫傷と同時に生じたものと考えられること、右尺骨遠位端骨折は、レントゲン画像上、仮骨形成が認められず、右腕小指側の外表の状態も踏まえると急性期と認められることなどを供述しているところ、先に述べた受傷時期は、このような医学的所見からも裏付けられている。 ⑵ 外部者等による犯行可能性Bの場合と同様に、外部の第三者が侵入したことを疑わせる事情はなく、当時の夜間における本件施設の施錠状況等に照らせば、外部者による犯行可能性は事実上ない。 また、本件施設1階の入居者は8名であるところ、滋賀県野洲市役所が認定した身体機能によれば、そのうち車椅子移動の者が4名、歩行器を使用して移動する者が2名、歩行に介助が必要な者が2名であるところ、D医師は、Cに生じた損傷を生じさせるには、相当な外力が必要な暴行があったと推認され、加害者は両足を踏ん張れるほど体が安定している必要があると供述するところ、同供述も踏まえると、上記の入居者らによる犯行は不可能であったと認められる。 ⑶ 被告人以外の職員による犯行可能性Cの搬送前夜、その居室のある1階で夜勤をしていたのは被告人であり、2階フロアで夜勤をしていた職員(証人J)は、1階へは立ち入っていない旨供述し、被告人もその職員の立入りがあったとは述べていない。その他、その立入りをうかがわせる事情は見当たらない。 ⑷ 小括以上によれば、C事件につき、 、1階へは立ち入っていない旨供述し、被告人もその職員の立入りがあったとは述べていない。その他、その立入りをうかがわせる事情は見当たらない。 ⑷ 小括以上によれば、C事件につき、犯行の機会があり、現実的にこれが可能であったと考えられる人物は、被告人しかいない。よって、被告人が犯人であることは合理的な疑いを容れることなく認められる。 第4 まとめ以上の次第であり、B事件、C事件共に事件性があり、かつその犯人は被告人であると認められ、この認定に合理的な疑いを容れる余地はない。 第5 K医師の供述及び被告人、弁護人の主張について 1 弁護側証人のK医師は、被害者らの各損傷の診断内容について、過去に負ったけがで出血した個所から転倒などの軽い外傷で再出血した可能性や、介護の現場ではイレギュラーな転倒がある可能性があるなどと、事件性を否定する旨の意見を種々述べている。K医師は、臨床医として約20年にわたり、老人ホームなどの在宅医療に携わってきた経験を有しているが、同医師自身も認めるように、損傷から客観的及び科学的にその発生機序を鑑定する法医学的な専門知識等は有しておらず、また、各被害者の負傷が暴行によるものであるとすれば、犯人は被害者らに相当強い恨み等を持つ者で介護職員による暴行とは考え難いなどと、医学的な専門的知見とは無関係と思われる説明や、被害者らの負傷はいずれも1回限りの転倒では生じないことは認めながら、搬送当日以前に負傷していたのに施設職員らがこれに気付いていなかった可能性があるなどと仮定に仮定を重ねるような説明もしており、総じてその指摘は抽象的可能性をいう域を出るものではなく、D医師の供述に疑問を差し挟むものとはいえない。 2 弁護人は、本件の事件性及び犯人性を否定する様々な主張をするが、 もしており、総じてその指摘は抽象的可能性をいう域を出るものではなく、D医師の供述に疑問を差し挟むものとはいえない。 2 弁護人は、本件の事件性及び犯人性を否定する様々な主張をするが、 いずれも採用できるものではない。すなわち、B事件及びC事件につき、転倒によりベッドの柵や机等の硬い物にぶつかった可能性があるとする点は、D医師が、硬い物体がぶつかった際に生じる特徴的な形状が見当たらないとしてこれを否定しているし、血液移動の可能性をいう点もやはりD医師が明確に否定している。B事件につき、転倒した際等に自らの手が顔面に当たってあざができたなどという点も、顔面に複数個所にあざができていることを合理的に説明できていないし、ベッドの上に立ち上がって転倒した可能性をいう点はまさに抽象的可能性をいうにすぎない。またC事件につき、D供述に照らし、肋骨骨折及び胸骨骨折は、その外力が加えられた方向やその強さからして偶然の転倒等によって生じたとは考え難いし、Cが令和5年5月5日から右手の痛みを訴えていたとする点も、施設職員の供述(L)によれば、当時、Cの右腕上腕にあざがあったが、C自身がどこかにぶつけた旨を述べ、自らはしを使って食事をしたり、手すりを持って立ち上がったりしていたというのであり、その時点で骨折が生じていたとは考えられず、その後に本件犯行以外の原因で骨折を生じたとみるべき事情もない。 3 被告人は、B事件は、当時、転倒ということで決着がついているなどとも主張するが、当時そのような判断がなされたのだとしても、上記の信用できるD供述等の関係証拠に照らせば、それは誤ったものであったというほかない。 また、被告人は、C事件については、別の職員(I)が真犯人であるなどと主張するが、その職員が、出勤して本件施設に到着したわずかの間に 関係証拠に照らせば、それは誤ったものであったというほかない。 また、被告人は、C事件については、別の職員(I)が真犯人であるなどと主張するが、その職員が、出勤して本件施設に到着したわずかの間に、何らかの事情でCに対し激高するなどし、被告人に気付かれないようにCに判示第2の負傷を生じさせるほどの激しい暴力を振る ったというのは、被告人が当時複数の入居者の介助を担当していたことを踏まえても、現実味に乏しい。 4 小括被告人、弁護人の主張は、その余のものも含め、すべて採用できない。 【量刑の理由】本件は、グループホームの介護職員である被告人が、2回にわたって、同施設で勤務中、高齢の入居者ら2名に対し何らかの暴行を加えて加療約1か月ないし6週間の傷害を負わせたという事案である。 犯行動機等の詳細は明らかでないが、同情すべき事情があるとはうかがわれず、介護職員として本来、入居者らの生命・身体の安全を守るべき立場にある被告人において、夜勤の際、同じフロアに他の職員が誰もいない状況を利用し、被害者らの身体や認知機能の低下等により抵抗したり、被害を訴えるのが困難なことを十分認識しながらあえて各犯行に及んだものと認められ、卑劣というほかなく、その犯行態様等は傷害事案の中でも悪質な部類に属する。被害者らはグループホームで平穏な余生を送りたいと願っていたであろうにもかかわらず、介護職員として信頼していた被告人の各犯行により肉体的苦痛を強いられたものであって、被害者らがそれぞれ負ったけがも相応に重く、被害の結果は重大である。 以上によれば、被告人の刑事責任は重く、相応の期間の実刑を免れない。 その上で、被告人が各犯行を否認して不合理な弁解に終始しており、反省の態度は皆無であること、他方で、被告人に前科がないこと等の事情を 以上によれば、被告人の刑事責任は重く、相応の期間の実刑を免れない。 その上で、被告人が各犯行を否認して不合理な弁解に終始しており、反省の態度は皆無であること、他方で、被告人に前科がないこと等の事情を考慮した上、主文の刑を量定した。 (検察官の求刑―懲役4年)令和7年3月18日 大津地方裁判所刑事部裁判長裁判官畑口泰成裁判官大嶋真理子裁判官松倉梨香

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