令和5年3月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第1551号石炭火力発電所建設等差止請求事件口頭弁論終結日令和4年10月18日判決当事者の表示別紙1当事者目録記載のとおり 主文 1 本件訴訟のうち、別紙2死亡当事者目録記載の原告らに関する部分は、同人らが同別紙記載の各死亡日に死亡したことによりいずれも終了した。 2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由以下、略語については、本文中に記載するほか、別紙3略語一覧記載のとおりとする。 第1 請求 1 主位的請求 ⑴ 被告コベルコパワーは、別紙4発電所概要記載の火力発電所(本件新設発電所)を建設してはならない。 ⑵ 被告神戸製鋼及び被告コベルコパワーは、本件新設発電所を稼働してはならない。 ⑶ 被告関西電力は、被告神戸製鋼及び被告コベルコパワーに対し、本件新設 発電所の発電の指示をしてはならない。 2 予備的請求(上記1⑵及び⑶について)⑴ 被告神戸製鋼及び被告コベルコパワーは、別紙5期間別上限一覧の「期間」欄記載の各期間に、本件新設発電所を稼働させ石炭を燃焼させることにより、本件新設発電所から、同別紙の「二酸化炭素排出量」欄記載の量を超えて、 大気中に二酸化炭素を排出してはならない。 ⑵ 被告関西電力は、本件新設発電所に同発電所から排出される排ガス中から二酸化炭素(CO2)を回収・貯留する設備が設置されていないときは、被告神戸製鋼及び被告コベルコパワーに対し、別紙5期間別上限一覧の「期間」欄記載の各期間に、本件新設発電所について、同別紙の「発電通告量」欄に記載の量を超えて、発電量の通告をし されていないときは、被告神戸製鋼及び被告コベルコパワーに対し、別紙5期間別上限一覧の「期間」欄記載の各期間に、本件新設発電所について、同別紙の「発電通告量」欄に記載の量を超えて、発電量の通告をしてはならない。 第2 事案の概要等 1 事案の概要被告神戸製鋼と被告関西電力は、平成27年3月31日、契約期間を令和3年から30年間とし、被告神戸製鋼が発電した電力を被告関西電力が買い取る旨の電力受給契約(本件電力受給契約)を締結した。被告神戸製鋼は、上記電 力供給のため、本件新設発電所の建設・稼働を予定し、平成30年4月に本件新設発電所事業のため新設分割により被告コベルコパワーを設立し、同事業に係る権利義務を包括承継させた。 本件は、本件新設発電所の建設予定地の近隣に住む原告らが、本件新設発電所に関し、①本件新設発電所の建設予定地は、住宅地から至近の場所にあり、 また従来からNOx、PM2.5等の影響が指摘され、大気汚染物質に係る様々な規制対象となっている場所であるにもかかわらず、本件新設発電所が稼働すれば、NOx、SOx、ばいじん、水銀及びPM2.5が大気中に放出されることとなり、大気汚染が進み原告らに健康被害をもたらすおそれがある、また、②温室効果ガスの削減については国際合意がされているにもかかわらず、石炭 という使用燃料の特性上、大量のCO2が排出されるから、石炭火力発電所の新設は許されず、これが稼働すれば地球温暖化が進み気候変動が生じ災害をもたらすおそれがあるとして、原告らの伝統的人格権又は人格権の一内容である健康平穏生活権若しくは安定気候享受権が受忍限度を超えて違法に侵害されるおそれがあるなどと主張し、人格権に基づく妨害予防又は妨害排除請求として、 ⑴ 主位的に、本件新設発電所を建設・ である健康平穏生活権若しくは安定気候享受権が受忍限度を超えて違法に侵害されるおそれがあるなどと主張し、人格権に基づく妨害予防又は妨害排除請求として、 ⑴ 主位的に、本件新設発電所を建設・所有することになる被告コベルコパワ ーに対し、本件新設発電所の稼働の準備行為としての建設行為の差止め(請求①)を、本件新設発電所を稼働することになる被告コベルコパワー及び同社が本件新設発電所の操業を委託すると考えられる被告神戸製鋼に対し、本件新設発電所の稼働全部の差止め(請求②)を、本件新設発電所の発電する電力を全量買電し、その稼働についても指示を行う予定である被告関西電力 に対し、発電指示全部の差止め(請求③)を、⑵ 予備的に、被告コベルコパワー及び被告神戸製鋼に対し、本件新設発電所の稼働の割合的な差止めを(請求②に係る予備的請求)、被告関西電力に対し、その稼働の指示行為の割合的差止め(請求③に係る予備的請求)をそれぞれ求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、以下、書証の掲記は、枝番号の全てを含むときは枝番号の記載を省略する。)⑴ 当事者等ア原告ら(ただし、別紙2死亡当事者目録記載の者を除く。以下同じ。) のうち、原告番号4番及び21番ないし23番の者は兵庫県外(和歌山県)又は兵庫県朝来市に居住する者であり、その余の者は、いずれも、神戸市、兵庫県芦屋市又は同県西宮市に居住する者である。(弁論の全趣旨)イ被告神戸製鋼は、鉄鋼の製造等を業とする株式会社であり、子会社の株式会社コベルコパワー神戸の委託を受け、その運営する神戸製鉄所の敷地 内において、石炭火力発電所2基(本件既設発電所)を操業(稼働)して 製鋼は、鉄鋼の製造等を業とする株式会社であり、子会社の株式会社コベルコパワー神戸の委託を受け、その運営する神戸製鉄所の敷地 内において、石炭火力発電所2基(本件既設発電所)を操業(稼働)している。 ウ被告コベルコパワーは、本件新設発電所による発電事業のため、平成30年5月11日に被告神戸製鋼からの会社分割(新設分割)により設立され、被告神戸製鋼から、本件新設発電所事業に係る権利義務を承継した、 被告神戸製鋼の100%子会社であり、電力卸供給等を業とする株式会社 である。 エ被告関西電力は、電気の発送電・売電等を業とする電力会社であり、火力発電所、水力発電所、原子力発電所など多数の発電所・発電設備を有している。 ⑵ 被告神戸製鋼の発電事業 ア被告神戸製鋼は、平成7年の電気事業法改正により一般企業等が電力卸供給事業に参入することが可能となったことから、被告関西電力による電力卸売供給入札募集に応募して落札し、神戸製鉄所内に本件既設発電所の1号機、平成16年に同2号機を建設して被告関西電力向けに電力卸売事業を開始した。 イ被告神戸製鋼は、平成25年5月、鋼材事業の構造改革の一環で、神戸製鉄所内に残っていた高炉をはじめとする上工程設備を休止して加古川製鉄所に集約することを決定した。 被告神戸製鋼は、その跡地活用を模索する中、平成26年に被告関西電力が火力電源の入札を実施したことから、同入札に応募してこれを落札し、 平成27年3月31日、被告関西電力との間で、被告関西電力が本件新設発電所で発電される電力を30年間にわたって購入することを内容とする電力受給契約(本件電力受給契約。丙3)を締結した。 ウ被告神戸製鋼は、神戸製鉄所内で廃止した第三高炉の跡地に本件既設発電 設発電所で発電される電力を30年間にわたって購入することを内容とする電力受給契約(本件電力受給契約。丙3)を締結した。 ウ被告神戸製鋼は、神戸製鉄所内で廃止した第三高炉の跡地に本件既設発電所に隣接する形で本件新設発電所を建設することを計画した。被告関西 電力は、本件新設発電所の操業開始後、本件新設発電所から送電を受け、これを事業者・一般家庭に売電することを計画している。 エ被告神戸製鋼の本件新設発電所の建設及び稼働事業(本件事業)に係る権利義務は、平成30年5月11日、会社分割により、被告コベルコパワーに承継された。 ⑶ 本件事業に係る環境影響評価等の実施と工事計画の届出 ア本件新設発電所本件事業について、平成26年から環境影響評価法及び電気事業法に基づく一連の環境影響評価手続(本件アセス)が実施された。 イ経済産業大臣は、平成30年5月22日付けで、被告コベルコパワーに対し、本件アセスに係る環境影響評価書(本件評価書)については、環境の保全について適正な配慮がされており、変更命令をする必要がないと認 められる旨の通知(本件確定通知。乙1)を行った。 ウ被告コベルコパワーは、平成30年8月30日、経済産業大臣に対し、電気事業法48条1項に基づき、本件新設発電所の工事計画の届出をした。 ⑷ 神戸市との間の環境保全協定被告神戸製鋼、被告コベルコパワー及び株式会社コベルコパワー神戸は、 平成30年8月30日、神戸市との間で、環境保全協定書(乙5の2)を取り交わして環境保全協定(本件環境保全協定)を締結した。本件環境保全協定には、本件新設発電所及び本件既設発電所からの排出ガス等に関し、主として別紙6本件環境保全協定(抜粋)記載の条項が定められている。 ⑸ 本件訴訟の提起 保全協定)を締結した。本件環境保全協定には、本件新設発電所及び本件既設発電所からの排出ガス等に関し、主として別紙6本件環境保全協定(抜粋)記載の条項が定められている。 ⑸ 本件訴訟の提起 ア平成29年12月14日、兵庫県公害審査会に対し、被告神戸製鋼、株式会社コベルコパワー神戸、被告関西電力を被申請人として、255名の申請人により、本件新設発電所の設置の差止め等を求める公害調停の申請がされ、その後参加申立てを経て、同公害調停の申請人の人数は481名となった。 イ上記公害調停の申請人らは、上記⑶ウの工事計画の届出を受けて、上記公害調停のうち、本件新設発電所の設置の差止めを求める公害調停の申請を取り下げ(本件既設発電所に係る公害調停については現在も係属中である。)、申請人の一部が原告となって、平成30年9月14日、本件訴訟を提起した。 3 争点 (本案前の争点)⑴ 訴えの利益及び被告適格の有無(被告関西電力に対する訴えについて)(本案の争点)⑵ 大気汚染による権利侵害又はそのおそれに基づく差止請求の可否ア伝統的人格権に基づく差止請求の可否 被侵害利益 侵害の蓋然性ないし具体的危険の有無 受忍限度を超える違法性の有無イ清浄な空気のもとで持続的に健康で平穏に生活する権利(健康平穏生活権)に基づく差止請求の可否 被侵害利益 客観的リスクの存在及び健康被害に対する危機感・不安感の合理性 リスクの不合理性又は受忍限度を超える違法性の有無⑶ 温暖化による権利侵害又はそのおそれに基づく差止請求の可否ア伝統的人格権に基づく差止請求の可否 リスクの不合理性又は受忍限度を超える違法性の有無⑶ 温暖化による権利侵害又はそのおそれに基づく差止請求の可否ア伝統的人格権に基づく差止請求の可否 被侵害利益 侵害の蓋然性ないし具体的危険の有無 因果関係の有無受忍限度を超える違法性の有無他の石炭火力発電所との共同のCO2排出による原告らの権利侵害の おそれの有無イ CO2に関する平穏生活権(安定気候享受権)に基づく差止請求の可否 被侵害利益 客観的リスクの存在及び健康被害に対する危機感・不安感の合理性 リスクの不合理性又は受忍限度を超える違法性の有無 他の石炭火力発電所との共同のCO2排出による原告らの権利侵害又 はそのおそれの有無⑷ 被告関西電力の責任の成否 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(訴えの利益及び被告適格の有無)について(被告関西電力に対する訴えに係る本案前の争点) (被告関西電力の主張)被告関西電力は、本件新設発電所が建設され稼働して初めて電力受給契約に従って発電された電力を購入することにより供給を受け得る関係にある。 そのため、仮に被告神戸製鋼らに対する差止請求が認容されれば、被告関西電力において本件新設発電所から電力の供給を受けることは不可能となるか ら、重ねて被告関西電力に対する発電指示の差止めを求める必要性はない。 また、原告らは、被告神戸製鋼らによる本件新設発電所の建設・稼動が違法であることを不可欠の論理的前提として、被告関西電力の「発電の指示」が違法であると主張するものであるから、被告神戸製鋼らに対する差止請求が棄却され、被告関西電力に対する差 設発電所の建設・稼動が違法であることを不可欠の論理的前提として、被告関西電力の「発電の指示」が違法であると主張するものであるから、被告神戸製鋼らに対する差止請求が棄却され、被告関西電力に対する差止請求のみが認容されることは論理的 にあり得ない。 この点を措くとしても、被告神戸製鋼らは本件新設発電所を建設・稼働させることで発電を行い、被告関西電力以外の者にも発電電力を供給することができるから、被告関西電力による「発電の指示」を差し止めても、本件新設発電所の稼動の停止に繋がるものではなく、原告らが求めている法的紛争 の根本的な解決には至らない。本件電力受給契約13条第1項は、契約上、被告関西電力には、本件新設発電所で発電される電力の全量を買い取る権利があるため、被告関西電力の受電分が優先されるとの趣旨に過ぎず、本件新設発電所の稼動・発電自体を制限するものではない。被告関西電力による通告が行われない場合には、被告コベルコパワーは、発電量の100%を余力 活用できるから、被告関西電力による通告は、本件新設発電所の稼働の有無 や発電量には何ら影響を与えない。 以上のとおり、原告らの被告関西電力に対する差止請求は、法的紛争の解決にとっては全く意味がないから、訴えの利益としての権利保護の利益又は必要が存せず、本案判決をすることの必要性及び実効性がそもそも存しない。 したがって、原告らの被告関西電力に対する差止請求には、訴えの利益がな く、被告関西電力に訴訟追行の負担を強いることになることから、当事者適格の観点からも許されない。 また、原告らが被告関西電力に差止めを求めている「発電の指示」なる概念はその請求内容が不明、不特定というべきであるから、この点からも不適法却下を免れない。 (原告らの主張)本 また、原告らが被告関西電力に差止めを求めている「発電の指示」なる概念はその請求内容が不明、不特定というべきであるから、この点からも不適法却下を免れない。 (原告らの主張)本件新設発電所は、被告関西電力が、火力発電所の老朽化等にともない、新たな火力電源を確保することを目的に実施した入札に応じて計画・建設されるものであり、30年間という長期にわたり、本件新設発電所において発電される電力の全量が被告関西電力に供給される予定となっている。その上、 本件電力受給契約上、被告神戸製鋼(本件事業の会社分割後は被告コベルコパワー)は被告関西電力の通告に従った発電が義務付けられ、30分当たりの通告電力量と、これに対する実績受給電力量の差(未達)が一定の値を超える場合、被告神戸製鋼は未達の電力量に対応する料金をペナルティとして支払わねばならず、未達の多発は契約解除事由となる一方、被告関西電力に は通告に基づき発電された電力の引取りと一定量の通告が義務付けられるなど、被告関西電力は本件新設発電所の建設・稼働において被告神戸製鋼らを本件電力受給契約に基づき非常に強く支配している。 このような被告神戸製鋼らと被告関西電力との間の関係性や本件電力受給契約の存在を前提とすると、被告関西電力が被告神戸製鋼らに対する発電の 指示(発電量の通告)を行わなければ、本件新設発電所は稼働されない関係 にある。そして、違法な行為を行う者と、違法な行為を行わせる(指示する)者に対する差止請求は別個に認容され得るから、被告神戸製鋼らに対する請求とは別途、被告関西電力に対する請求が成り立つ。 本件電力受給契約の発電余力の活用の規定(13条)によれば、「通告電力量が当該期間の基準受給電力を2で除した値に相当する電力量を下回る場 求とは別途、被告関西電力に対する請求が成り立つ。 本件電力受給契約の発電余力の活用の規定(13条)によれば、「通告電力量が当該期間の基準受給電力を2で除した値に相当する電力量を下回る場 合」に、「その差分を上限として」行えるにとどまる。通告がなければ、被告神戸製鋼らが本件新設発電所を稼働して売電できる電力量は少なくなり、通告がないこと又は通告量が減少することは本件新設発電所の稼働を抑制するものとなるから、被告関西電力の主張は理由がない。 ⑵ 争点⑵(大気汚染による権利侵害又はそのおそれに基づく差止請求の可否) について(本案の争点)ア伝統的人格権に基づく差止請求の可否について(原告らの主張)伝統的人格権に基づく差止請求が認められる要件としては、①人格権の保有、②人格権(特に生命・健康)に対する侵害又は侵害の蓋然性ないし 具体的危険、③(受忍限度を超える)違法性が挙げられるところ、本件においては、以下のとおり、いずれの要件も満たされる。 被侵害利益について人格権からは、生命・身体・健康・自由・名誉・プライバシーなどに関する多様な権利が派生するが、その中でも特に生命・健康に関しては、 およそ、個人の生命・身体の安全、精神的自由は、人間の存在に最も基本的なことがらであつて、法律上絶対的に保護されるべきものであることは疑いがない。このような人格権は何人もみだりにこれを侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない。 侵害の蓋然性ないし具体的危険の有無について a 本件新設発電所からのPM2.5等の排出見込み火力発電所の燃料の燃焼に伴い発生する排気ガスには、燃料の性状に応じて、ばいじん、NOx、SOx等の大気汚染物質が含まれる。 本 ついて a 本件新設発電所からのPM2.5等の排出見込み火力発電所の燃料の燃焼に伴い発生する排気ガスには、燃料の性状に応じて、ばいじん、NOx、SOx等の大気汚染物質が含まれる。 本件新設発電所は、石炭の燃焼に伴い、PM2.5(一次生成粒子)を含んだばいじんを排出するほか、NOx、SOxを排出し、これら が大気中の光やオゾンと化学反応することにより、粒子化し、PM2. 5(二次生成粒子)が生成される。 被告神戸製鋼作成の補足説明資料(甲A7)によれば、本件既設発電所からは、SOxが410t/年、NOxが745t/年、ばいじんが116t/年が排出されているところ、これに加え本件新設発電 所からは、SOxが289t/年、NOxが601t/年、ばいじんが80t/年が新たに排出されると試算されている(設備利用率80%の場合)。前記二次生成粒子まで考慮すれば、本件新設発電所の稼働により大量のPM2.5が新たに排出されることになる。 b 原告らの居住地への到達見込み エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)の主席アナリスト作成の報告書(CREA拡散報告書)によれば、大気拡散モデルを活用し、本件新設発電所から排出される二次生成粒子も含めたPM2.5の予測・評価をしたところ、本件評価書に記載された神戸市、芦屋市、西宮市などのいずれの測定局においても、本件新設発電所の稼 働に伴い、PM2.5濃度が増加し、PM2.5が広範囲に拡散することが予測され、本件新設発電所から北東に5ないし15km離れた場所が本件新設発電所の稼働による大気質への影響を最も受けることが判明している。神戸市内では、PM2.5の日平均値は、現状よりも最大4.09㎍/㎥、神戸市内全体の平均では最大1.24㎍/㎥増加す る。神戸市の 所の稼働による大気質への影響を最も受けることが判明している。神戸市内では、PM2.5の日平均値は、現状よりも最大4.09㎍/㎥、神戸市内全体の平均では最大1.24㎍/㎥増加す る。神戸市の年平均PM2.5濃度に対する被告神戸製鋼らの寄与度は、 本件新設発電所が稼働した将来の場合には、現状から60%増加する。 また、CREA拡散報告書によれば、PM2.5の原因物質となるNO2、SO2、ばいじんについても、短期最大排出量は、NO2が0. 24ppb、SO2が0.17ppb、ばいじんが0.19㎍/㎥であり、本件アセスにおける予測の3倍以上(ばいじんについては9.5倍)の 排出が予測されている。 原告らは、いずれも本件新設発電所から排出されるPM2.5が到達する地域に位置するから、本件新設発電所から排出されるPM2.5が原告らの居住地に到達し、その濃度が上昇するといえる。 cPM2.5に係る疫学的知見 PM2.5は、疫学的知見から、短期曝露、長期曝露ともに健康影響があることが判明している。短期曝露は、死亡、循環器系への影響(虚血性変化、不整脈、心拍変動等)、心室性不整脈、血栓リスク等を引き起こし、長期曝露は、死亡、循環器系への影響、発がん、中枢神経システムへの影響(脳の形態学的変化、認知力低下、認知症、自 閉症スペクトラム障害)を生じさせる。特に、小児、高齢者及び呼吸器系・循環器系の疾患を有する者は、大気汚染による健康影響を受けやすい。 そして、PM2.5の曝露量と健康との量反応関係は、線形で閾値がなく、微量の曝露であっても、健康影響を引き起こし、曝露量に応じ て健康被害が増幅することも判明している。PM2.5による健康影響は、環境基準以下の曝露であっても生じ、長期曝露では、8㎍/㎥前後の平 量の曝露であっても、健康影響を引き起こし、曝露量に応じ て健康被害が増幅することも判明している。PM2.5による健康影響は、環境基準以下の曝露であっても生じ、長期曝露では、8㎍/㎥前後の平均濃度であっても、死亡や疾病との有意な関係が認められ、短期曝露についても、循環器や呼吸器の症状で緊急搬送されるリスクが8㎍/㎥前後の濃度で報告されている。 PM2.5に係る環境基準(他の大気汚染物質の環境基準についても 同様である。)は、疫学研究の進展や諸外国での規制の進展があるにもかかわらず見直しがされていないから、環境基本法16条3項に反した状態にあり、環境基準を下回っていることは、PM2.5による健康影響を否定する基準ではない。 d 原告らに対する健康被害のおそれの有無 CREAの主席アナリスト作成の報告書(CREA健康影響報告書)によれば、本件新設発電所の稼働により生ずるPM2.5及びNO2の拡散状況に基づき、住民に対する健康影響を評価すると、本件新設発電所と本件既設発電所の各排出分を合わせると、PM2.5とNO2への曝露により、将来、神戸市内では、年間8人の死亡(95%信頼区 間:5-15人)の死亡をもたらす可能性が高い。令和5年の本件新設発電所の稼働から同発電所の稼働終了までの期間において、神戸市内で242人(95%信頼区間:90-242人)の死亡を引き起こし、全体では3318人(95%信頼区間:2124-5680人)増加することが予測されている。同報告書は、死亡を推計したもので あるが、死亡に至らなくともそのリスクを伴う疾病も、少なくとも死亡と同程度は発生することが推測される。 原告らは、いずれも本件新設発電所から排出されるPM2.5が到達する地域に居住し、同報告書に記載された健康被害が生 くともそのリスクを伴う疾病も、少なくとも死亡と同程度は発生することが推測される。 原告らは、いずれも本件新設発電所から排出されるPM2.5が到達する地域に居住し、同報告書に記載された健康被害が生ずる曝露集団に含まれることから、PM2.5による健康被害を受ける危険性が存在 する。そして、前記のとおり、原告らには、児童及び高齢者が含まれており、これらの者は、特に、PM2.5の健康影響を受けやすい。 e 小括以上によれば、原告らのPM2.5による曝露と健康被害の発生が事実上推定される。これに対し、被告神戸製鋼らは、PM2.5そのもの について、本件新設発電所からの拡散や原告らの居住地域における拡 散・到達の調査、予測、評価を行わず、PM2.5のデータそのものを用いた反論も行わない。 したがって、原告らのPM2.5への曝露による生命・健康の侵害という人格権侵害の高度の蓋然性が事実上推定されるというべきである。 受忍限度を超える違法性の有無について 生命・健康に対する侵害や侵害の具体的危険については、それを被害者において受忍する義務はなく、原則として違法である。したがって、PM2.5という有害物質による原告らの生命・健康の侵害又は侵害の蓋然性がある以上、違法性の要件は満たされる。 被告神戸製鋼らの主張に対する反論 a 被告神戸製鋼らは、PM2.5の生成機構や健康影響などについて科学的に未解明な点が多く、PM2.5の予測手法も確立していないことから、原告らへのPM2.5の到達、原告らの健康影響が受忍限度を超えるものかを予測、評価することは不可能であり、事前差止請求の要件を充足しないと主張する。 しかしながら、前記cのとおりPM2.5の疫学的知見の蓄積から、PM2.5の健康影 受忍限度を超えるものかを予測、評価することは不可能であり、事前差止請求の要件を充足しないと主張する。 しかしながら、前記cのとおりPM2.5の疫学的知見の蓄積から、PM2.5の健康影響は解明されている。また、米国では、2012年(平成24年)以前から、PM2.5の環境影響評価が実施されており、近時は、政府が承認した拡散モデルを利用した二次生成粒子を含むPM2.5の予測・評価を行うことが義務付けられていること、日本にお いても平成24年3月に環境省が実施可能なPM2.5の調査・予測・評価手法を公表しており、これを取り入れた環境影響評価マニュアルを作成した地方自治体が存在すること、本件アセス以前に、日本国内で、PM2.5の予測・評価を実施した事例が複数存在したこと、原告らが依頼した専門家が二次生成粒子を含むPM2.5の予測・評価を実 施していることなどに照らすと、一定の信用性を有するPM2.5の予 測・評価を行うことは可能である。被告神戸製鋼らの上記主張は根拠を欠く。 b また、被告神戸製鋼らは、PM2.5の原因物質であると目されているSO2、NO2及びSPMのバックグラウンド濃度と比較して本件新設発電所からの排出による大気汚染の影響が極めて小さいこと、本 件環境保全協定において、環境影響評価の予測値よりも厳しいSOx、NOx、ばいじんの排出量(年間総排出量、時間最大排出量)に関する協定値を遵守する旨を約していることから、PM2.5の環境影響は極力抑制されており、事前差止請求の要件を充足しないと主張する。 しかしながら、PM2.5の有害性に加え、本件新設発電所付近の地 域性に鑑みれば、そのリスクが社会的に許容できるレベルであることを立証できない限り、排出量の多寡にかかわらず、被告神戸製鋼らが しかしながら、PM2.5の有害性に加え、本件新設発電所付近の地 域性に鑑みれば、そのリスクが社会的に許容できるレベルであることを立証できない限り、排出量の多寡にかかわらず、被告神戸製鋼らがPM2.5を新規に排出することは許容されない。 また、SO2、NO2、SPMは、PM2.5の二次生成粒子の原因物質の一部に留まること、PM2.5は他の大気汚染物質とは粒径、生成 機構、発生源、科学的・物理的・生物学的な性質が異なり、他の大気汚染物質とは別個の環境基準が設けられていることからも、他の大気汚染物質の排出量をもってPM2.5の環境影響が抑制されると評価することはできない。 さらに、本件環境保全協定は、紳士協定にすぎず、その履行を法的 に強制するための仕組みも存在しない上、現状と比べて大気汚染物質排出の増加を認めるものとなっているものであり、これにより環境影響が抑制されるとも評価できない。 したがって、被告神戸製鋼らの主張は、いずれも根拠を欠くものであって、理由がない。 小括 以上によれば、本件新設発電所から排出されるPM2.5によって原告らの伝統的人格権の侵害が推定されるから、本件新設発電所の建設及び稼働の差止めが認められるべきである。 (被告神戸製鋼らの主張)事前差止請求が私法的救済の対象として認められるためには、①排他性 を有する法的権利(私権)又は法的保護に値する利益の存在(権利性)、②上記①の権利又は利益が、客観的かつ具体的に侵害される高度の蓋然性や切迫性があること(侵害の蓋然性ないし具体的危険)、③侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為が有する公共性の内容と程度等を総合的かつ相関的に比較衡量し、侵害の程度が、社会通念上 受忍限度を超えるものであ し具体的危険)、③侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為が有する公共性の内容と程度等を総合的かつ相関的に比較衡量し、侵害の程度が、社会通念上 受忍限度を超えるものであること(受忍限度を超える違法性)が充足される必要がある。 原告らが個々人の身体、健康に関する利益を根拠とする伝統的人格権を有し、当該利益自体に上記①の権利性が認められることについては被告神戸製鋼らとしても特に争うものではないが、以下のとおり、同権利が本件 新設発電所の稼働による大気汚染物質の排出によって侵害される蓋然性ないし具体的危険は認められず、そうである以上、受忍限度を超える違法性も認められず、同権利に基づく差止請求も認められない。 PM2.5に係る一般的知見PM2.5は、その生成機構や健康影響等について科学的に未解明の点 が多く、また、大気中のPM2.5の過半を占めるといわれる二次生成粒子(前駆物質であるガス状物質が大気中で粒子化したもの)は、発生源が多岐にわたり、その生成機構を含めた挙動が非常に複雑で未解明であるなど、その生成機構や健康影響等について科学的に解明すべき課題が多く残されており、それ故、現状、単一の発電所の影響について十分な 予測精度の確保されたPM2.5の予測・評価手法は確立されておらず、 その排出抑制対策も検討の途上にある。環境影響評価手続においても、PM2.5は、環境影響評価に係る技術手法の開発を進めるべきとされる段階にあり、評価項目とされていない。 PM2.5が科学的に未解明な状況にあることを踏まえて、中央環境審議会では、PM2.5の削減対策については、固定発生源や移動発生源に 対してこれまで実施してきた粒子状物質全体の削減対策を着実に進めることがまず重要であるとさ 況にあることを踏まえて、中央環境審議会では、PM2.5の削減対策については、固定発生源や移動発生源に 対してこれまで実施してきた粒子状物質全体の削減対策を着実に進めることがまず重要であるとされている。 侵害の蓋然性ないし具体的危険及び受忍限度を超える違法性が認められないことa 本件新設発電所の稼働によってどの程度のPM2.5が原告ら個々人 に到達し、それが原告ら個々人にどのような健康影響を与えるのか、あるいはそれが受忍限度を超えるものであるのかを予測、評価することは、現在の科学的知見では不可能といわざるを得ない。 被告神戸製鋼らは、一般にPM2.5の原因物質であると目されているSO2、NO2及びSPMについて、その最大着地濃度を予測及び 評価しており、その結果、本件新設発電所の運転に伴うSO2、NO2及びSPMの年平均値の最大着地濃度がバックグラウンド濃度と比較して極めて小さく、その寄与率は、最大でもSO2が2.0%、NO2が0.9%、SPMが0.1%にとどまること、寄与濃度をバックグラウンド濃度に加えた将来環境濃度に関しても、環境基準を十分 下回ることを確認している。さらには、本件環境保全協定において、本件アセスの予測値より厳しいNOx、SOx、ばいじんの排出量(年間総排出量、時間最大排出量)に関する協定値環境基準を遵守する旨を約するなどして、環境保全に努めている。 以上に照らすと、本件新設発電所の稼働によるPM2.5の環境濃度 への影響は可能な限り抑制されていると認められ、(科学的に未解明 であるため定量的な評価はできないものの)PM2.5による原告らの健康への個別的かつ具体的な悪影響について高度の蓋然性及び切迫性は認められず、また、その悪影響の程度が社会通念に照らして受忍 であるため定量的な評価はできないものの)PM2.5による原告らの健康への個別的かつ具体的な悪影響について高度の蓋然性及び切迫性は認められず、また、その悪影響の程度が社会通念に照らして受忍限度を超えるとは認められない。 b 原告らは、独自の大気汚染モデル等を用いて環境影響を分析したと いう「CREA報告」と称する科学論文(CREA拡散報告書)を提出し、これをPM2.5による原告らに対する健康影響の根拠としている。 しかし、CREA拡散報告書はあくまで一つの学術的意見・見解を述べるものに過ぎず、現状においては単一の発電所が排出するPM2. 5の影響について十分な予測精度が確保された予測手法が確立されていないとの客観的状況に影響を及ぼすものではない。 また、CREA健康影響報告書の分析内容は、実質的にわずか2頁に記載されているのみの極めて簡易なものであるうえ、同論文は、疫学的アプローチによる予測に依拠して意見を述べるものであり、個々 人の伝統的人格権の侵害が問題となっている本訴訟における分析手法としては不適切である。 PM2.5以外の大気汚染物質について被告神戸製鋼らは、平成26年以降、本件新設発電所の設置に向けて、関係諸法令等に従って環境影響評価手続を適正に実施し(本件アセス)、 その中で本件新設発電所は大気汚染物質の排出を含めて各法令に基づく基準を遵守しており、本件新設発電所の建設、稼働に伴う周辺環境への影響はほとんどないことが経済産業大臣により確認され、本件評価書について、本件確定通知を受領している。 また、被告神戸製鋼らは、本件新設発電所の設計にあたり、実行可能 な範囲内で環境への影響の低減を図るための措置を講じており、本件環 境保全協定に基づき、大気汚染物質等 を受領している。 また、被告神戸製鋼らは、本件新設発電所の設計にあたり、実行可能 な範囲内で環境への影響の低減を図るための措置を講じており、本件環 境保全協定に基づき、大気汚染物質等の排出について、本件アセスの予測諸元に用いた数値と同等又はより厳しい数値の遵守を誓約し、稼働開始後も当該基準遵守の実効性を確保する各種施策が講じられている。さらに、本件新設発電所の建設、稼働には、高い公共性ないし公益上の必要性が認められる。 これらの事情に照らすと、PM2.5以外の大気汚染物質(SOx、NOx、SPM、水銀)については、本件新設発電所の建設・稼働に伴う排出が、社会生活上受忍すべき限度を超えて原告らの健康被害のおそれを生じさせるものでないことは明らかである。 (被告関西電力の主張) 本件新設発電所の稼働により大気汚染物質が排出され、原告らの生命・身体・健康に健康被害が生ずるおそれがあることについては不知又は争う。 イ清浄な空気のもとで持続的に健康で平穏に生活する権利(健康平穏生活権)に基づく差止請求の可否について(原告らの主張) 被侵害利益について人格権は、個人の私的領域の平穏に対する保護を目的とする面があることから、人格権の中から「私的生活領域の平穏」を守る権利としての平穏生活権が観念され、生命・身体・健康と結びついた平穏に関する権利としての平穏生活権がある。 原告らは、平穏生活権の一種として、清浄な大気のもとで持続的に健康で平穏に生活する平穏生活権(健康平穏生活権)を有する。この場合の平穏生活権の保護法益は、生命・身体に結び付いた不合理なリスクに対する生活上の不安・恐怖という精神的人格権ないし人格的利益である。 前記のとおり、大気汚染物質、特にPM2.5には 有する。この場合の平穏生活権の保護法益は、生命・身体に結び付いた不合理なリスクに対する生活上の不安・恐怖という精神的人格権ないし人格的利益である。 前記のとおり、大気汚染物質、特にPM2.5には、閾値がないとされ、 低濃度曝露であったとしても、ぜん息などの呼吸器系疾患のみならず、 循環器系疾患など命に関わる重大な疾患にり患する確率を有意に上昇させるから、原告らは、大気汚染物質からの重大な健康リスクに曝されないという平穏生活権を有する。 平穏生活権の侵害又はそのおそれに基づく差止請求権の判断枠組み平穏生活権は、生命、身体に対する侵害の危険が、一般通常人を基準 として深刻な危機感や不安感となって精神的平穏や平穏な生活を侵害していると評価される場合、人格権の一つとして差止請求権が認められる。 平穏生活権の侵害は、生命・身体に対する具体的危険を必要条件とせず、人為的に、不可逆又は深刻な損害が生じ得る不合理なリスクが既に存在するか、施設の将来の稼働等を通じてそのリスクが発生する高度の蓋然 性があれば、平穏生活権の侵害ないし侵害の高度の蓋然性があることとなり、差止めの要件を満たす。 そのため、平穏生活権に基づく差止請求の要件は、①施設の稼働により排出されるガスによって、不可逆的又は深刻な生命・健康への侵害発生のリスクが一定の集団に発生しており、原告らがその集団に属してい ること、②原告らが施設の稼働によるリスクにさらされることで、日々生活上の不安・恐怖感が生じており、それが一般通常人を基準としても平穏な生活を損なう不安・恐怖感であることである。これに対し、被告らは、不合理なリスク(許容できないリスク、すなわち、社会通念上、予防原則を踏まえて防止することが適切と考えられているリスク)がな いことの立証責 安・恐怖感であることである。これに対し、被告らは、不合理なリスク(許容できないリスク、すなわち、社会通念上、予防原則を踏まえて防止することが適切と考えられているリスク)がな いことの立証責任を負うことになる。 そして、リスクは個別の住民に高度の蓋然性をもって疾病の発症をもたらすものではないから(そうであれば伝統的人格権の侵害となる。)、差止請求の要件を満たす上で、リスクの客観的評価とともに、リスクの不合理性(規範的評価)が特に争いとなる。この点については、口頭弁 論終結時における当該行為が有するリスクに対する社会通念上の許容性 を中心に、リスクをもたらす行為の性質、リスクが現実化したときの被害の不可逆性・重大性、リスクをもたらす行為の公共性や社会的有用性、立場の交換性(彼此相補性)、リスクの(さらなる)低減のための対策の有無と程度などの考慮を行うべきである。 なお、行政の許認可等があることは、当該行為に係るリスクが私法上 も許されたリスクであることを裏付ける一要素となり得るとしても、そのことが直ちに私法上の適法性を意味するものではない。 客観的リスクの存在及び健康被害に対する危機感・不安感の合理性健康リスクに係る平穏生活権において差止めを認める原因事実となるリスクは、本質的に、疫学や統計学などの科学的手法によって検証され る一定範囲の曝露集団に対して生ずる科学的に有意なリスクである。そこでは、科学的に一定の確率でその集団内の誰かに被害が現実化することが数的に計算されているか、そこまで明確にシミュレーションされていなくても、専門的かつ客観的に同定できるリスクをいう。つまり集団的に見た場合に、一定時間内に、集団を構成する誰かに一定の被害(エ ンドポイント)が現実化することが科学的に予測されてい されていなくても、専門的かつ客観的に同定できるリスクをいう。つまり集団的に見た場合に、一定時間内に、集団を構成する誰かに一定の被害(エ ンドポイント)が現実化することが科学的に予測されているリスクを指す。 これを本件についてみると、本件新設発電所は、30年以上にわたって稼働するところ、被告神戸製鋼らが排出するPM2.5は、周辺住民らに対して、本件新設発電所から一次生成、二次生成されるPM2.5曝露 による健康リスクを有意に上昇させるものである。 原告らは、前記ア(原告らの主張)dのとおり、本件新設発電所から排出され又は大気中で二次生成されるPM2.5が到達することが予想される神戸市、芦屋市、西宮市に居住するから、PM2.5の曝露集団に帰属する。そして、CREA健康影響報告書によれば、本件新設発電所 周辺の住民らについては、PM2.5への曝露レベルが低濃度であっても、 曝露集団内における長期的な健康被害の発生が肯定されており、本件新設発電所のみでも40年間の稼働期間に2082人の過剰死亡が想定されており、兵庫県・大阪府周辺で年間50人に上る過剰死亡が発生することになる。本件新設発電所が、代替策として、少なくとも燃料種として天然ガスを選択すれば、大気汚染物質は周辺に事実上発生・拡散せず、 このような過剰死亡は発生しない。本件新設発電所から排出されるPM2.5の曝露集団は、排出行為がない場合に比して、有意に高い健康リスクが集団的に存しているのであるから、集団に帰属する原告らには健康リスクが推定される。特に若年者や高齢者はより高いリスクを負っている。 そして、原告らは、本件新設発電所から排出されるPM2.5等の排ガスに含まれる大気汚染物質による健康被害について危機感・不安感を抱 る。特に若年者や高齢者はより高いリスクを負っている。 そして、原告らは、本件新設発電所から排出されるPM2.5等の排ガスに含まれる大気汚染物質による健康被害について危機感・不安感を抱いている。原告らが抱く本件新設発電所から排出されるPM2.5による健康被害に対する危機感・不安感は、曝露集団が負う客観的リスクから生じており、一般通常人を基準としても合理的である。 リスクの不合理性ないし受忍限度を超える違法性の有無について原告らが被告神戸製鋼らの行為によって高められた健康リスクを負うこと(本件新設発電所が継続的に長期にわたってPM2.5を排出し、これによって原告らに健康リスクを生じさせること)は、不合理なリスクである。しかも、本件事業は深刻な大気汚染に悩まされてきた地域に1 30万kWもの大規模な石炭火力発電所を建設し、原告らをはじめとする人口密集地における多数の住民を継続的に長期にわたり有害大気汚染物質に曝露させるものである上、原告らは、本件新設発電所の存在を容認して居住を開始したわけではなく、後発的に建設される本件新設発電所により、PM2.5の曝露集団に強制的に帰属させられたものである。 また、被告神戸製鋼らは、大気汚染物質の排出が少ない天然ガスなど の代替手段を検討することなく、石炭を燃料種として意図的に選択し、原告らに不合理な健康リスクを生じさせている。 前記のとおり、被告神戸製鋼らは、二次生成されるPM2.5への住民の曝露と発症可能性についての調査、予測、評価を行っておらず、周辺住民の長期曝露による集団的な健康リスクについて、その健康リスクが 社会的に許容されるリスク内に留まることについて調査、説明を尽くしていない。また、疫学的知見によって、原告らの生命が侵害され、疾病 民の長期曝露による集団的な健康リスクについて、その健康リスクが 社会的に許容されるリスク内に留まることについて調査、説明を尽くしていない。また、疫学的知見によって、原告らの生命が侵害され、疾病を引き起こす可能性が示されているにもかかわらず、これに対する反証活動も行っていない。したがって、被告らは、原告らの健康平穏生活権侵害の違法性を否定できない。 被告神戸製鋼らの主張に対する反論a 被告神戸製鋼らは、不明確かつ抽象的である、実質は環境の保全を求めるものであって個人に帰属する権利ではないなどと主張して、健康平穏生活権の権利性を否定する。 しかしながら、権利の帰属主体は、問題となっている環境リスクの 曝露集団に属する個々人である。曝露集団の特定とその集団内で構成員が負うリスクの評価を行うことは科学的に可能である。 その場合、その個人は、自分の命や健康を失う客観的可能性があるという意味での「自らが負う個別のリスク」からの自由、自らが負うリスクの現実化の早期抑止を主張しているのであり、集団の他の構成 メンバーと共通する権利・利益を主張していることは事実であるが、他人の権利・利益を直接に援用しているのではない。また、あくまでも、自己固有の精神的人格権又は人格的利益を主張しているのであって、集団内での被害者一般を無くす・減らすという公衆衛生一般ないし公益の保護を直接に主張しているものではない。 集団的な曝露とそれによる確率的な被害の発症という場合、リスク の性質上、その被害者を事前(排出時ないし曝露時)に特定することは不可能である。そのため、当該リスクを負う集団に帰属する者であれば、リスクが顕在化して現実の被害を負う者と同じリスクを負っている者として、差止請求権を有すると解すべきである。 時)に特定することは不可能である。そのため、当該リスクを負う集団に帰属する者であれば、リスクが顕在化して現実の被害を負う者と同じリスクを負っている者として、差止請求権を有すると解すべきである。 b また、被告神戸製鋼らは、仮に不安を保護法益とする権利を認め得 るとしても、行政法規等に違反し、又は公序良俗違反や権利の濫用に該当し、環境汚染の態度や程度が特別顕著なものであるなど、当該態様程度が社会的に容認された行為としての相当性を欠くといえる場合にのみ、違法と評価される余地を認め得ると主張するが、原告らの生命・身体という重要な権利と結びついた平穏生活権の侵害については かかる判断枠組みは妥当しない。 さらに、平穏生活権をめぐるリスクの不合理性に係る被告神戸製鋼らの主張に対する反論は、伝統的人格権の侵害に対する受忍限度論に対する反論(前記ア(原告らの主張))が妥当する。 小括 以上によれば、被告神戸製鋼らの排出行為は、疫学的な評価や基準に照らしても不合理なリスクを原告らにもたらすことが認められるから、原告らの健康平穏生活権が侵害されている。PM2.5についての環境影響評価(二次生成を含めたPM2.5の拡散シミュレーションと周辺曝露人口に対する健康影響評価)が行われていない以上、原告らの平穏生活 権侵害を根拠として差止めが認められるべきである。 (被告神戸製鋼らの主張)前記ア(被告神戸製鋼らの主張)において主張したとおり、事前差止請求が私法的救済の対象として認められるためには、①権利性、②侵害の蓋然性ないし具体的危険、③受忍限度を超える違法性が認められる必要があ るところ、原告らの主張する健康平穏生活権は、以下のとおり事前差止請 求の根拠となる上記①の権利性自体が認められず、上記③ ないし具体的危険、③受忍限度を超える違法性が認められる必要があ るところ、原告らの主張する健康平穏生活権は、以下のとおり事前差止請 求の根拠となる上記①の権利性自体が認められず、上記③の受忍限度を超える違法性も認められないから、これに基づく差止請求権を認める余地はない。 権利性が認められないこと事前差止請求権の根拠となる私権又は法的利益は、制約を受ける者に とっても明確かつ具体的で、客観的でなければならず(予測可能性)、かつ、排他的な私法的救済を認めるに値するだけの内実を備えたものでなければならない。また、客観的に権利の存否や侵害の有無等が判定できるだけの客観性がなければならず、原告ら個人に帰属する権利でなければならない。 ところが、原告らの主張する健康平穏生活権は、「不合理なリスクに伴う不安・心配・恐怖」という主観的感情を保護法益とし、生命・健康に対する被害の発生という具体的危険がなくても保護を求められるとするものであるから、不明確かつ抽象的であり、客観的に権利の存否や侵害の有無を判定できるだけの客観性を欠いている上、排他的な私法的救 済を認めるに値するだけの内実を備えたものともいい難い点で、上記①の権利性の要件を充足しないことは明らかである。 また、原告らの健康平穏生活権に関する主張は、PM2.5等の排出と原告ら個々人の健康被害の間の因果の流れが不明又は抽象的である。原告らの主張は、その主張立証が不可能であることを自覚しつつも、「人 格権」に名を借りて、権利侵害を構成しようとする独自のものというほかなく、その内実は、「予防原則」に基づく予防的観点からの環境の保全を求めるものにほかならない。 このような、環境の保全は、社会経済活動の制限を不可避的に伴う以上、環境汚染等のリ のものというほかなく、その内実は、「予防原則」に基づく予防的観点からの環境の保全を求めるものにほかならない。 このような、環境の保全は、社会経済活動の制限を不可避的に伴う以上、環境汚染等のリスクをどう評価して、どの段階でどのような対策を 講じ、社会経済活動と環境の調和をどう保つのかという事前予防の観点 に基づく管理のあり方の問題であり、民主主義の機構を通して、立法府や行政府による政策の中で対応されるべきものであって、司法府(裁判所)による私人間紛争の私法的救済を求める場である本訴訟において審理されるべき事柄ではない。 したがって、健康平穏生活権は、権利性の要件を充たさず、その余の 要件や主張を検討するまでもなく、請求として成り立ち得ないことは自明である。 違法性が認められないこと本来、環境の保全とこれに伴う規制は、第1次的には、民主的手続により定められた行政法規、刑罰法規等によってなされることが予定され ているものであるから、社会公共の利益に鑑み、(原告らのいう)不安を受忍すべき場合があることは当然である。したがって、仮に、上記のような「不安」を保護法益とする権利を認め得るとしても、環境汚染の態様や程度が、行政法規等に違反し、又は公序良俗違反や権利の濫用に該当して、特別顕著なものであるなど、社会的に容認された行為として 相当性を欠くといえる場合にのみ、違法と評価される余地がある。 本件新設発電所については、前記ア(被告神戸製鋼らの主張)のとおり、PM2.5の原因物質であると目されている大気汚染物質について環境への影響が限定的であることが確認されており、また、被告神戸製鋼らは、神戸市と本件環境保全協定を締結することで、より厳しい基準 の遵守を約束するなど、PM2.5の環 る大気汚染物質について環境への影響が限定的であることが確認されており、また、被告神戸製鋼らは、神戸市と本件環境保全協定を締結することで、より厳しい基準 の遵守を約束するなど、PM2.5の環境濃度への影響を可能な限り抑制する措置を講じているのであるから、行政法規等の違反がないことはもちろん、公序良俗に反するような点も一切なく、また、環境汚染の態様や程度が特別顕著なものでないことは明白といえる。 よって、いずれにせよ、PM2.5排出による平穏生活権の侵害に関す る原告らの主張が容れられる余地はない。 (被告関西電力の主張)原告らが主張する清浄な大気のもとで持続的に健康で平穏に生活する平穏生活権(健康平穏生活権)は、実定法上何らの根拠もなく、権利の主体、客体及び内容も不明確なものと言わざるを得ず、排他的効力(侵害に対してこれを排除する権能)を有する私法上の権利であるとは認められない。 また、差止請求は、事後的救済手段としての損害賠償とは異なり、営業の自由や事業活動それ自体を事前にかつ直接に制約するものであるから、差止請求が認容されるのは差止めを認めるに足りる高度の違法性が認められるときであり、違法性の判断にあたっては被侵害利益の性質・内容も具体的に主張立証されていなければならない。しかしながら、上記健康平穏生活権は、 排他的効力を有する私法上の権利であるとは認められない以上、これらを被侵害利益として、差止めを認めるに足りる高度の違法性があるとは到底認められない。 ⑶ 争点⑶(温暖化による権利侵害又はそのおそれに基づく差止請求の可否)について(本案の争点) ア伝統的人格権に基づく差止請求の可否について(原告らの主張)被侵害利益について前記⑵ア(原告らの主張)のとおり、個人 おそれに基づく差止請求の可否)について(本案の争点) ア伝統的人格権に基づく差止請求の可否について(原告らの主張)被侵害利益について前記⑵ア(原告らの主張)のとおり、個人の生命・身体の安全、精神的自由は、人間の存在に最も基本的なことがらであり、このような人 格権は何人もみだりにこれを侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない。 CO2の大量排出はもはや人権侵害であり、気候変動のさらなる悪化を通じて、個々の住民の生命・健康を危険に陥れる「公害」である。政治やビジネスは短期的利益に影響されるため、必ずしも科学(事実)と 人権を尊重しない。科学的に裏打ちされた事実と、進行している深刻な 人権侵害を受け止め、歴史的視野に立って適正な救済を打ち出すのは司法の固有の役割であり、本件訴訟において審理されるべきである。 侵害の蓋然性ないし具体的危険の有無についてa 本件新設発電所からのCO2の排出見込み本件新設発電所は、燃料として用いる石炭を燃焼させることにより、 1年間に692万tもの大量のCO2を排出し、30年間で2億0760万tのCO2を排出する。本件新設発電所にCCSは導入されておらず、被告神戸製鋼らにはその予定もない。上記年間排出量は、日本の令和元年度のエネルギー起源CO2排出量(10億2900万t)の約0.67%に当たり、世界のエネルギー起源CO2排出量(平成 30年時点において約335億t)の約5000分の1にあたる。本件既設発電所からの平成30年のCO2排出量(約675万t)を併せるとそれぞれ、1.3%強及び概ね2300分の1に相当する。 今後、国際的な削減努力の中で総排出量が削減されれば、令和32 既設発電所からの平成30年のCO2排出量(約675万t)を併せるとそれぞれ、1.3%強及び概ね2300分の1に相当する。 今後、国際的な削減努力の中で総排出量が削減されれば、令和32年にかけてその割合はより高くなる。被告神戸製鋼らの本件新設発電 所からのCO2排出量は、世界及び日本の気候変動への影響への寄与について、看過できない割合である。 b 気候変動に関する科学的知見現在の気候変動問題に関して、世界最高水準の科学的知見の総体といえるIPCCから、これまでに第1次ないし第6次評価報告書及び 多くの特別報告書が公表されているところ、IPCC第6次評価報告書では、「人間の影響が大気、海洋、陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。」とされており、人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を 及ぼしていること、熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現 象について観測された変化に関する証拠、及び、特にそれら変化を人間の影響によるとする原因特定に関する証拠は、IPCC第5次評価報告書以降、強化されていること、人が気候の極端現象に影響することで世界中のすべての人間の生活域に既に気候変動が影響していることが明記され、今後の極端現象の出現頻度についても、例えば、産業 革命前に比べて50年に一度の暑い日の発生頻度は、約1℃上昇した現在では4.8倍であるのに対し、1.5℃の上昇で8.6倍、2℃の上昇で13.9倍に増加すると予測されている。 このように、IPCCによって、人間活動すなわちCO2の排出と地球温暖化、気候被害との間の因果関係はすでに明らかにされてお り、排出源 の上昇で13.9倍に増加すると予測されている。 このように、IPCCによって、人間活動すなわちCO2の排出と地球温暖化、気候被害との間の因果関係はすでに明らかにされてお り、排出源(本件では本件新設発電所)からの大量のCO2の排出により大気中のCO2濃度が上昇すると、地球の平均気温が上昇し(地球温暖化)、これにより極端な気象・気候現象が多発・激甚化し(さらに、気温上昇によって、2030年から10年のうちにも、突然、不可逆的な気候変動をもたらすとされるティッピングポイントを超え るおそれがあることも指摘されている。)、原告らを含む人々の生命、身体ないし健康、財産への被害が生ずるという過程をたどることとなる。 個別の極端な気象現象に気候変動がどの程度寄与しているかについて、イベント・アトリビューションの手法による解明が進んでおり、 例えば、平成30年7月の記録的な猛暑に地球温暖化が与えた影響と猛暑発生の将来見通しについても、工業化以降の人為起源による温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化を考慮しなければこのような猛暑は起こり得なかったことが明らかにされ、同年の西日本豪雨についても地球温暖化の寄与があったと考えられると指摘されている。 c 地球温暖化による原告らへの影響・被害 地球温暖化により、神戸市付近においても気温上昇及びこれにともなう熱中症の増加、大雨・台風・洪水などの激甚化・増加(特に、原告らのうち8名(7世帯)は「土砂災害警戒区域」内に、5名(3世帯)は「想定最大規模降雨による浸水想定区域図」内に居住している。)、海面上昇による高潮被害の危険の増加(特に原告らのうち6 名(5世帯)が高潮浸水想定区域内に居住している。)、デング熱等を媒介するヒトスジシマカの生 による浸水想定区域図」内に居住している。)、海面上昇による高潮被害の危険の増加(特に原告らのうち6 名(5世帯)が高潮浸水想定区域内に居住している。)、デング熱等を媒介するヒトスジシマカの生息域の拡大など原告らの居住地に熱帯性感染症拡大の増加のおそれがあることが予測されており、原告らはその被害を受ける危険がある。 d 具体的危険の存在と危険の切迫性について 巨大な影響が想定される気候変動については、被害の発生確率自体の蓋然性を問題とするのではなく、社会通念上、その行為が国際社会が目指す削減目標との関係で許容できないレベルでの危険をもたらす行為に当たるかどうかをもって、具体的危険の有無を判断すべきである。そして、2℃目標と1.5℃目標を掲げるパリ協定やグラスゴー 気候合意は、国際通念上、許容できない気候変動の悪化リスクの上限を示したものといえる。 また、危険な気候変動による人の生命・健康の被害は、現実的、客観的で切迫した危険である。気候変動における被害は、意図的な排出行為の空間的時間的累積による長期にわたる着実な被害の発生、累積、 多発化、巨大化という特徴をもつ。CO2の排出量の累積によってその影響は長期的・継続的に深刻化し、不可逆的な被害をももたらされることが科学的に明らかにされているのであるから、危険な気候変動の被害を防止し、回避する合理的な方法は、できるだけ早い段階において必要な排出削減を行うことである。被害の累積・悪化を待って対 策をとるのでは、手遅れとなり、取返しがつかないこととなる。 本件新設発電所は、前記のとおり、多量のCO2を30年以上にわたり排出し、CO2の濃度上昇に大きく寄与するところ、温暖化に起因する被害に至るプロセスを踏まえても、原告らに今後生ずる上記被害と因果関 本件新設発電所は、前記のとおり、多量のCO2を30年以上にわたり排出し、CO2の濃度上昇に大きく寄与するところ、温暖化に起因する被害に至るプロセスを踏まえても、原告らに今後生ずる上記被害と因果関係を有するから、被告神戸製鋼らによるCO2の排出行為は、原告らの人格権(伝統的人格権)を侵害する。 因果関係の有無について本件新設発電所からのCO2の追加的排出により、世界の大気のCO2濃度はわずかであっても上昇し、それにより気温が上昇して気候変動が激化し、原告らの居住地においても気候変動にさらされることになる。 したがって、本件新設発電所からのCO2の追加的排出がなければ、そ れに伴うCO2濃度への寄与がなく、その結果として気候変動の悪化への寄与がないのであるから、事実的因果関係はある。また、CO2の排出と個々の住民の被害との間の因果関係が間接的であるとしても、上記の因果関係の起点と終点との間の科学的な因果関係は明確である。さらに、本件新設発電所は、日本を代表するCO2の巨大発生源の一つであ り、その気候悪化への寄与は極めて小さいなどと評価し得るものではなく、後記のような他の国内の石炭火力発電所との関連共同性を考慮するとなおさらそのようには評価できない。グラスゴー気候合意では、段階的な削減に向けて努力する対象施設として、石炭火力発電所を名指ししたのであり、このことからしても、本件新設発電所の寄与は大きいと 評価すべきである。したがって、相当因果関係も認められる。 受忍限度を超える違法性の有無についてCO2の排出についても、原告らの生命・健康に対する具体的危険を及ぼすものである以上、原則として、受忍限度論は適用されない。 もっとも、CO2については、通常の有害物質の曝露モデル(直接的 2の排出についても、原告らの生命・健康に対する具体的危険を及ぼすものである以上、原則として、受忍限度論は適用されない。 もっとも、CO2については、通常の有害物質の曝露モデル(直接的 な侵襲モデル)は妥当せず、本件新設発電所から排出されるCO2が原 告らに到達したとしても、直ちに原告らの生命・身体に対する被害が生じ又は生ずる高度の蓋然性がもたらされるものではない一方、原告らに直接到達せずに大気中に拡散したとしても、それにより原告らに被害をもたらさないわけではなく、大気中のCO2濃度の上昇により一定の時間的経過の中で原告らに被害をもたらすという特徴がある。 また、CO2は、人が生活し、産業活動を展開するうえで誰もが大なり小なり必ず排出するものであり、生態系内で、炭素を含む食べ物の体内消費を通じて呼気を通じてCO2を排出する行為は、生態系を通じた大気内での炭素循環が行われているだけであって、違法性の問題は生じず、気候変動のこれ以上の悪化の抑止という世界中の共通目標(法的な 目標でもある。)との関係で、特に優先的に抑止されるべき類型の行為が社会通念上、(強い)違法と評価される。 このような特徴等に照らし、本件新設発電所からのCO2の排出については受忍限度論が適用される余地がある。差止請求における侵害行為の受忍限度を超える違法性の有無の判断については、侵害行為の態様と 侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の有する公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決する(最高裁平成7年7月7日第二小法廷判決・民集4 継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決する(最高裁平成7年7月7日第二小法廷判決・民集4 9巻7号1870頁、2599頁等)。 a 被侵害利益の性質と内容本件における被侵害利益は、原告らの生命・健康に関する人格権であり、CO2排出からもたらされる気候変動は人間社会のみならず、その存続基盤である生態系そのものを破壊するため、CO2の大量排 出は、原告らの生命・身体・財産及び生活等に甚大かつ不可逆的な被 害をもたらす。個体としての人間の生活基盤のみならず、人類そのものの存続基盤が失われるのである。総体としての被侵害利益の巨大さとその深刻さが考慮されるべきである。 b 侵害行為の態様と侵害の程度原告らの健康被害は、いずれも対象の集団性(被害を被る住民の著 しい広範性)と加害行為の著しい長期性と故意性を特徴とする。侵害の態様と程度については、原告ら個々人の保護法益に対する侵害の態様と程度のみに限定して検討するのではなく、侵害行為による影響の総和を考慮すべきである。 パリ協定の下で世界的に石炭火力の新設は許されず先進国において は既存の石炭火力発電所を廃止すべきとされ、世界中でCO2の抜本的削減による大気圏の保護(CO2濃度の維持)が人類共通の緊急課題となっている中で、被告神戸製鋼らは、本件新設発電所を稼働することにより、世界のCO2濃度の上昇に重大な寄与をするレベルである年間692万tものCO2を継続的に30年以上の長期にわたり排 出しようとしている。これは、原告らを含む世界中の者の生命・健康と未来の生存可能性に対する侵害であって、その態様は悪質であり、かつ侵害の程度は甚大である。 c 加害と被害 の長期にわたり排 出しようとしている。これは、原告らを含む世界中の者の生命・健康と未来の生存可能性に対する侵害であって、その態様は悪質であり、かつ侵害の程度は甚大である。 c 加害と被害の彼此相補性原告らの居住地には、気候変動による大雨や台風の激化により、特 に高潮、洪水、がけ崩れなどの災害の危険のある地域が含まれている。 巨大な発電所を通じた30年ないし40年もの間の大量排出と、原告ら個々人との立場の互換性はない。 d 加害行為の公共性・公益性本件事業のように、これによって被害者が直接の利益を受ける関係 がない場合には、受忍限度の判断においては、事業の公共的側面は考 慮要素とすべきではなく、仮に考慮要素とするとしてもその位置づけは極めて限定的なものとして扱うべきである。 この点を措くとしても、被告神戸製鋼らの行う石炭火力による発電事業は、電力自由化のもと、現在電力の需給が安定している中で、より大きな経済的利益を追求するために、あえて環境負荷がもっとも大 きな大規模石炭火力発電を選択しているもので、公共性ないし公益性を欠く。排出行為が社会的な削減努力の成果にフリーライドしその成果を減殺してしまう点でむしろ公共性に反する。 e 加害行為の代替策の可能性や被害防止の努力の程度等⒜ 被告神戸製鋼らは、発電事業・発電方法に係る代替策が存在する にもかかわらず、CO2による気候変動への影響を知りながら、あえて環境負荷がもっとも大きな大規模石炭火力発電を選択し実行するものであり、被害防止のためのCCSなどのCO2の排出削減措置を用いることも予定していない。さらに、住民への情報開示や協議も尽くされないまま、住民の反対を押し切って本件新設発電所の 建設・稼働を進めようとしている。 ⒝ 被 などのCO2の排出削減措置を用いることも予定していない。さらに、住民への情報開示や協議も尽くされないまま、住民の反対を押し切って本件新設発電所の 建設・稼働を進めようとしている。 ⒝ 被告神戸製鋼らが主張するCO2排出削減措置についても、本件アセスにおいて、被告関西電力が行うことを前提としたCO2排出削減措置については、被告関西電力への「全量供給」を被告関西電力が否定している以上、環境保全措置が適切に履行される担保がな い。 また、A教授の意見書(甲A38)が示すとおり、本件事業は、現状においても経済性がなく、大気汚染物質やCO2の排出削減などの環境への影響の軽減について、十分にコストや労力を投じて対策をとり得る事業となっておらず、被告神戸製鋼らは、本件評価書 に記載の環境保全措置すら履行できないことが見込まれる。特に、 CCSの導入には多額の投資を必要とするから、導入に向けた検討等は経済性、事業性の観点からしても非現実的であり、神戸市周辺に貯留に適した自然の適地も存在しない。 f その他(CO2排出削減に係る国際的・国内的公序に基づく事業者のCO2排出削減義務) ⒜ 気候を安全なレベルで安定化するために国際社会の取組みが1980(昭和55)年末から国連を中心に継続され、1992(平成4)年には気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択され、2015(平成27)年にはIPCCの知見に基づき平均気温の上昇を2℃未満に止めるための国際的枠組みの構築の必要性が国際社会の 共通認識となり、全ての締約国の削減行動を求めたパリ協定が採択され、翌2016(平成28)年に発効し、同年日本もこれを批准した。 パリ協定の下、締約国は、気温の上昇を産業革命前から2℃を十分に下回り、1.5℃に抑制するよ の削減行動を求めたパリ協定が採択され、翌2016(平成28)年に発効し、同年日本もこれを批准した。 パリ協定の下、締約国は、気温の上昇を産業革命前から2℃を十分に下回り、1.5℃に抑制するよう努力すること、その目標の実 現に向けて、各国は自国の削減目標(NDC)を提出し、2020(令和2)年から5年毎にこれを引き上げることや目標達成に向けた国内措置をとることが要請されている。 ところが、NDCが全て実施されたとしても、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高い見込みであることが指摘され、 2021(令和3)年11月のCOP26会合でパリ協定の実施に関してグラスゴー気候合意が採択され、平均気温の上昇を世界で産業革命前から1.5℃に抑えることを追求することが確認され、そのために各国のNDC引上げの仕組みとともに、具体的な削減対策として石炭火力の段階的削減(フェーズダウン)が特に明記された。 ⒝ 日本政府は、パリ協定の下で、2030(令和12)年のCO2 の46%削減、2050年(令和32年)、ゼロエミッションを国家目標としてきたが、グラスゴー気候合意に基づき、同目標は1. 5℃目標と整合しているとはいえず、その再検討とさらなる排出削減が求められている。また、CCSを備えていない石炭火力発電所は、段階的削減計画が求められている。 ⒞ また、IPCC第5次評価報告書(2013年)で世界のCO2累積総排出量と世界の平均気温の上昇とがほぼ比例関係にあることが明らかにされ、2℃ないし1.5℃の気温上昇に抑えるために排出できる量(残余のカーボンバジェット)が示され、先進国に有利な基準である一人当たり排出量割(人口割)によっても、日本の残 余のカーボンバジェットは約64億tとなる。日本のCO2 えるために排出できる量(残余のカーボンバジェット)が示され、先進国に有利な基準である一人当たり排出量割(人口割)によっても、日本の残 余のカーボンバジェットは約64億tとなる。日本のCO2排出量はコロナ禍の令和2年においても年約10億550万tであるから、6年分程度しかない。 この日本の残余のカーボンバジェットは、日本の石炭火力発電所が予定された稼働期間を稼働した場合のCO2排出量だけで費消さ れ、本件新設発電所からのCO2排出が大きな割合を占める。 日本がパリ協定を批准した平成28年11月の後の平成30年5月に本件確定通知が発せられる前に、当時のわが国の2030年の削減目標において石炭火力からのCO2の排出量として設定されていた年間2.2億tとの整合性すら調査、予測、評価されることが なかった。 他方、被告神戸製鋼らは、本件アセスにおいて国家目標との整合性を事業存続の前提としている以上、排出削減のための実効的措置を導入、実行しないまま排出行為を継続する場合、かかる義務違反行為は受忍限度論との関係では、侵害行為の態様の悪質性および行 為の公共性の欠如として、総合考慮判断の重要要素とされるべきで ある。 g 小括以上によれば、CO2に関して、被告神戸製鋼らの本件新設発電所の建設・稼働によって、原告らの生命・健康に関する人格権侵害の具体的危険があるから、人格権に基づく差止請求権が認められるべきで ある。 他の石炭火力発電所との共同のCO2排出による原告らの権利侵害のおそれの有無a 連帯差止義務⒜ 他の新設大型石炭火力発電所との連帯責任(強い関連共同性) 平成26年以降に工事中又は建設予定の大規模石炭火力発電所(本件新設発電所を含む。)は合計13か所(15基、 連帯差止義務⒜ 他の新設大型石炭火力発電所との連帯責任(強い関連共同性) 平成26年以降に工事中又は建設予定の大規模石炭火力発電所(本件新設発電所を含む。)は合計13か所(15基、合計991万kW)あり、45年で廃止し、稼働率を70%程度としても、これら新設大型石炭火力発電所のCO2排出量は年間4592万t(現状での日本のエネルギー起源CO2の約4.5%)、令和32 年までの累積排出量は13億5800万tとなり、1.5℃目標とした場合の日本の残余のカーボンバジェットの21%を占める(強い関連共同性)。 ①平成26年時点では、地球温暖化・気候変動による多大な被害が既に発生しており、IPCC第4次評価報告書によって、早急に CO2の大幅排出削減がされなければ気候災害が甚大化してくことが示されていたから、上記各発電所は、地球温暖化に寄与し、気候災害を更に激甚化させるものであることを、容易に予見しえたこと、②CO2排出行為による地球温暖化においては、関連共同性の判断基準として「工場相互の立地状況」や「地域性」は不要であり、パ リ協定上も国の政策としても、日本国内のCO2排出は一体と扱わ れ、特に大量のCO2を排出する石炭火力発電所の一群は、一体としてCO2排出が抑制されるべきであること、③上記各発電所の計画・運営事業者は、あえて石炭火力発電所の設置を計画、実行した者であり、公表されている発電所環境アセスメント情報などを通じて相互に新設計画を認識していたこと(関連共同性の成立に「共同 の意思」は必要条件ではないが、本件では「共同の意思」が認められる。)、④平成28年2月に電気事業連合会に参加する事業者が中心となって電気事業低炭素社会協議会を設立し、電気事業における低炭素社会実行計画を策定し、 件ではないが、本件では「共同の意思」が認められる。)、④平成28年2月に電気事業連合会に参加する事業者が中心となって電気事業低炭素社会協議会を設立し、電気事業における低炭素社会実行計画を策定し、フォローアップをしており、本件新設発電所からのCO2排出行為は、他の石炭火力発電所からのC O2排出行為と強く関連していること、⑤再生可能エネルギーへの転換が世界的に求められる中、上記各石炭火力発電所を稼働させ、莫大なCO2の排出を継続する必要性や公益性はないことに照らすと、上記13か所の新設大型石炭火力発電所からのCO2排出行為は、強い関連共同性を有する。 ⒝ 他の石炭火力発電所との連帯責任(弱い関連共同性)令和2年現在、既設及び新設予定の石炭火力発電所の出力の合計は約5600万kWであり、令和12年のCO2排出量は2億6000万t(令和元年度の日本の排出量(約10.29億t)の約25%)、令和32年までの排出総量(令和27年で廃止し、設備利 用率70%の場合)は65億tに及び、これは1.5℃目標の日本の残余のカーボンバジェットに相当する。 ①石炭火力発電所は令和12年までにフェーズアウトが求められており、平成26年以前に建設・稼働を始めた発電所も令和12年までに稼働を中止しなければならないこと、②各石炭火力発電所が 他の石炭火力発電所のCO2排出行為を明確に認識している関係に あること、③日本の石炭火力発電所からの排出量全体及び本件新設発電所からのCO2排出量とその累積量は、1.5℃目標の実現に向けた努力を無にするものであって容認され得ないことに照らすと、本件新設発電所から予定されるCO2排出行為と、日本全国の他の石炭火力発電所による各CO2排出行為との間には、少なくとも弱 い関連共同性が 力を無にするものであって容認され得ないことに照らすと、本件新設発電所から予定されるCO2排出行為と、日本全国の他の石炭火力発電所による各CO2排出行為との間には、少なくとも弱 い関連共同性が認められる。 ⒞ これらの弱い関連共同性を有する発電所群、少なくとも強い関連共同性を有する発電所群に含まれる各発電所は、民法719条の類推適用により、連帯的差止義務を負う。 そして、上記共同排出と、地球温暖化及びこれによってもたらさ れる気候変動による人(原告らを含む。)に対する気候災害の被害とその激化との間の因果関係は、排出累積総量に気温上昇が比例していることに照らしても認められる。気候変動の激化と個々の損害との因果関係も認められるから、共同排出行為と個々の被害との間に因果関係が認められる。この場合、共同排出行為を構成する個々 の排出行為と被害との間の因果関係が推定される。 ⒟ 以上によれば、他の石炭火力発電所との共同のCO2排出による原告らの権利侵害のおそれがあることが認められる。 この場合、日本国内の全ての石炭火力発電所(弱い関連共同性)又は少なくとも平成26年以降に設置工事に着手し、若しくはその 前段階にある、環境影響評価を要する大規模石炭火力発電所(強い関連共同性)は、連帯的差止義務を負い、これらの発電所群によって被害を受ける者は、各発電所に対して、各自の全排出量を限度として、同発電所群からの総排出量を少なくとも日本政府が目標として掲げる基準(令和12年までに平成25年と比して46%削減、 令和32年にはカーボンニュートラルを実現するもの)まで削減す ることを求め得るところ、かかる不十分な目標についてすら、本件新設発電所の稼働を差し止めるだけでは達成できないから、本件新設発電所の稼働の一切が認 ボンニュートラルを実現するもの)まで削減す ることを求め得るところ、かかる不十分な目標についてすら、本件新設発電所の稼働を差し止めるだけでは達成できないから、本件新設発電所の稼働の一切が認められない。 b 分割的差止義務(予備的請求)仮に連帯差止義務が認められない場合であっても、原告らは共同不 法行為を構成する複数の汚染源である企業群を被告として、汚染を適法レベル(閾値以下)に下げるのに必要な程度に排出量を減少するよう請求し得るが、個々の被告が汚染に対する寄与度を立証した場合、当該被告に対しては寄与度相当の排出量減少を請求し得るにとどまる。 本件新設発電所と少なくとも弱い関連共同性を有する発電所群は、 共同不法行為者として分割的差止義務を負う。日本の全ての石炭火力発電所からのCO2排出は最も遅くとも令和22年までに実質ゼロにすべく現時点から直線的に削減する必要があるから、その排出削減経路が閾値となり、これを超えるCO2排出は違法となる。 そうすると、本件新設発電所の年間CO2排出量は692万tであ るので、各年度における本件新設発電所のCO2排出量の上限量は、別紙5期間別上限一覧記載の量となる。 (被告神戸製鋼らの主張)権利性が認められないこと前記⑵ア(被告神戸製鋼らの主張)のとおり、事前差止請求が私法的 救済の対象として認められるためには、①権利性、②侵害の蓋然性ないし具体的危険、③受忍限度を超える違法性が認められる必要があるところ、CO2による地球温暖化は本件新設発電所の周辺といった特定地域ではなく、地球全体において、原告らという特定の個人ではなく全人類に影響が及ぶ問題であるから、CO2の排出に起因する地球温暖化によ って健康等に係る被害を受け 新設発電所の周辺といった特定地域ではなく、地球全体において、原告らという特定の個人ではなく全人類に影響が及ぶ問題であるから、CO2の排出に起因する地球温暖化によ って健康等に係る被害を受けないという利益は、特定の個人のみが他の 個人から区別されて享受する個別的利益とはなり得ない。 原告らが主張する利益は、それが利益として認められる余地があるとしても、全人類に等しく共有されるべき利益であり、「公益」(「環境」そのものとも言い換えられる)にほかならないのである。このような性質の利益(公益)を根拠とするCO2排出に関する原告らの主張は、権 利性の要件を欠くことが一見して明白である。 CO2による地球温暖化の問題は、気候変動との因果関係も含めて、全人類に関係する問題として、各国政府が協力して世界規模の全体的枠組みとそれを落とし込んだ各国の個別枠組みの中で検討されるべき政策課題であり、民主主義のプロセスを通じた政策全体の中で解決されるべ き問題であって、本訴訟において審理されるべき対象ではない。 侵害の蓋然性ないし具体的危険及び因果関係が認められないことaCO2による伝統的人格権の侵害の主張が認められるためには、本件新設発電所から排出されるCO2が、原告ら個々人の生命・身体等に個別的かつ具体的な悪影響を及ぼす高度の蓋然性と切迫性が認めら れる必要があるが、原告らは、地球規模の温暖化と、原告ら個人に対する被害のおそれという極めて漠然とした主張に終始し、上記蓋然性と切迫性を満たす旨の主張及び立証をしていない。 b また、本件事業は、本件新設発電所の稼働によっても、CO2総排出量を増加させない内容となっており、全体の枠組みの中で達成され るべき地球温暖化問題への対策にも十分寄与するものとなっている。 b また、本件事業は、本件新設発電所の稼働によっても、CO2総排出量を増加させない内容となっており、全体の枠組みの中で達成され るべき地球温暖化問題への対策にも十分寄与するものとなっている。 本件事業によるCO2総排出量の増加がない以上、原告らが地球規模の問題として展開するCO2排出の権利侵害に係る因果の流れのうち、本件事業によるCO2排出と(何らかの原因によりCO2濃度上昇という結果がもたらされると仮定した場合の)CO2濃度上昇との間に は、そもそも因果関係が存在しない。 受忍限度を超える違法性は認められないことa 上記bのとおり、本件事業に係る計画は全体の枠組みの中でCO₂総排出量を増加させない内容となっているため、受忍限度を論じるまでもなく、違法と評価される余地はない。 b その点を措くとしても、本件新設発電所のCO2削減に関する取組 みは、国の方針等に沿ったものである。被告神戸製鋼らは、本件新設発電所の計画において、現時点で利用可能な最高水準の高効率設備(BAT)である超々臨界圧(USC)発電設備を導入し、CO₂排出を含めた環境負荷を可能な限り低減するよう努めているほか、本件環境保全協定に基づき地域的な地球温暖化対策への取組みや、省エネ 法のベンチマーク指標の目標達成に向けた取組み、自主的枠組み参加事業者である被告関西電力への電力の全量供給、CCSの導入に向けた継続的検討、長期的なCO2排出削減対策について、今後の国内外の動向を踏まえ、所用の検討を行い、適切な範囲で必要な措置を講ずることといった環境保全措置を予定している。このような取組みが国 の方針等に沿ったものであることは、火力発電所の施設稼働に伴うCO2の排出を参考項目とする本件アセスにおいて、適切に評価が行われ、本件確 った環境保全措置を予定している。このような取組みが国 の方針等に沿ったものであることは、火力発電所の施設稼働に伴うCO2の排出を参考項目とする本件アセスにおいて、適切に評価が行われ、本件確定通知を受けていることからも確認できる。 c また、本件新設発電所の建設は、これまで以上に安定的かつ効率的な電力供給が望まれる状況下において、火力発電の高経年化への対応 及び経済性向上の観点から実施が計画されたものであり、本件事業には国の政策に沿った高い公共性と公益上の必要性が認められる。 d 原告らは、被告神戸製鋼らは、CCS導入の意思も能力もなく、すなわち被害の防止に関する措置が講じられないものであるなどと論難するが、これは原告らの憶測に基づくもので全く理由がない。そもそ もCCSは、未だ商用化に至っておらず、開発・実証等が進められて いる段階であるため、被告神戸製鋼らは、その動向を注視しながら検討を行うこととしている。被告神戸製鋼らは、本件アセス手続において、CCS以外に取り得る環境保全措置等を可及的に講じたうえで本件事業の実施を計画しているのであり、原告らの主張は、議論の前提を見誤るものである。 共同不法行為が成立しないこと原告らは、連帯的差止めについて主張するが、従来論じられてきた公害問題における共同不法行為論は、複数の行為全体と結果との間に因果関係が存在すること自体は明らかな事案において、個別の行為との個別的因果関係の立証負担を軽減することを目的として提唱されて きたものである。これに対して、本件で原告らが問題とするCO2の排出行為は、それ自体、本来、有害、違法なものではなく、人間等のあらゆる生命活動、社会活動、経済活動に伴って発生するものである。 このようなCO2の排出に上記理屈を当ては で原告らが問題とするCO2の排出行為は、それ自体、本来、有害、違法なものではなく、人間等のあらゆる生命活動、社会活動、経済活動に伴って発生するものである。 このようなCO2の排出に上記理屈を当てはめるのであれば、石炭火力発電所のみならず、あらゆるCO2排出行為の主体全員に共同不法 行為が成立することになるが、いかなる範囲で共同不法行為者が画されるのかについて、原告らは全く明らかにしていない。被告神戸製鋼らと他の石炭火力発電所との間に共同不法行為が成立することはない。 (被告関西電力の主張)石炭火力発電所が大気中にCO2を排出するものであることは認めるが、 本件新設発電所の稼働が原告らに対し地球温暖化に伴う被害を及ぼすことは否認し、本件新設発電所のCO2排出行為が受忍限度を超える違法性を有することは争う。 イ CO2に関する平穏生活権(安定気候享受権)に基づく差止請求の可否(原告らの主張) 被侵害利益について 前記⑵イ(原告らの主張)のとおり、人格権の一つとして、生命・身体・健康と結びついた平穏生活権があるところ、石炭燃焼に由来する大量のCO2からの気候変動とそれがもたらす原告らの生命・健康等への不可逆的な被害に晒される可能性がある中で、原告らは、日常生活においてより安定した気候を享受し、不安や恐怖のない生活を送る権利と して平穏生活権(安定気候享受権)を有する。 客観的リスクの存在及び健康被害に対する危機感・不安感の合理性被告神戸製鋼らが排出するCO2は、長期的に世界の気候変動の激化に有意に寄与して気候変動のリスクを高め、その結果、世界の市民の生命・健康・財産への気候変動による権利侵害のリスクを高める。 原告らは、そのような気候変動のリスクを負い、被告神戸製鋼らが に有意に寄与して気候変動のリスクを高め、その結果、世界の市民の生命・健康・財産への気候変動による権利侵害のリスクを高める。 原告らは、そのような気候変動のリスクを負い、被告神戸製鋼らが排出するCO2によって上昇するCO2濃度に曝露される集団に含まれており、特に若年者や高齢者はより高いリスクを負っている。 したがって、原告らは、被告神戸製鋼らのCO2の大量・長期にわたる排出による気候変動への寄与を通じて、生命・健康・財産へのリスク が高まることについて、一般通常人を基準として合理的な不安を抱いている。 リスクの不合理性ないし受忍限度を超える違法性について被告神戸製鋼らによるCO2の排出行為によってもたらされる生命・健康への客観的リスクは、パリ協定下の気候変動抑止のための国際的な 秩序及びこれに基づく国内秩序に反する不合理なものであり、このことは、前記ア(原告らの主張)において被告神戸製鋼らによるCO2排出行為が伝統的人格権の侵害との関係で受忍限度を超える違法性を有するものであることを裏付ける事実として掲げた各事実によって裏付けられる。 他の石炭火力発電所との共同のCO2排出による原告らの権利侵害の おそれの有無について前記ア(原告らの主張)に記載のとおりである。 (被告神戸製鋼らの主張)前記ア(被告神戸製鋼らの主張)のとおり、安定気候享受権は、CO2排出を問題としている点で、原告ら個々人の利益を基礎付けるものでない のみならず、原告ら個々人の権利利益を超えた他者の権利利益をも含めたリスクを想定し、公益に対する危険を問題とする点で、「環境の保全」を求める主張にほかならないから、事前差止請求の要件である権利性が認められない。「環境の保全」については本件訴訟ではなく民主 も含めたリスクを想定し、公益に対する危険を問題とする点で、「環境の保全」を求める主張にほかならないから、事前差止請求の要件である権利性が認められない。「環境の保全」については本件訴訟ではなく民主主義の機構を通じて立法府や行政府による政策の中で対応されるべきことは、前記ア (被告神戸製鋼らの主張)のとおりである。 (被告関西電力の主張)健康平穏生活権と同様、安定気候享受権は、実定法上何らの根拠もなく、権利の主体、客体及び内容も不明確なものといわざるを得ず、排他的効力を有する私法上の権利であるとは認められない。また、これらを被侵害 利益として、差止請求を認めるに足りる高度の違法性があるとは到底認められない。 ⑷ 争点⑷(被告関西電力の責任の成否)について(本案の争点)(原告らの主張)前記⑴(原告らの主張)のとおり、被告関西電力は、形式的には本件新設 発電所の建設・稼働を被告神戸製鋼らに行わせているものの、これに強く関与し、実質的には本件新設発電所の稼働を共同で運営し、又は支配する立場にある。 また、大手電力会社10社などは、令和12年度の販売電力量のCO2排出係数を0.37kg‐CO2/kWh程度に抑える自主目標を発表してい るところ、被告関西電力のCO2排出係数については、本件新設発電所の排 出係数も踏まえて行われる関係にあり、被告神戸製鋼は、本件新設発電所のCO2排出対策は被告関西電力が行う旨述べ、また、本件電力受給契約の前提となる被告関西電力の火力電源入札は、実質的に落札者(被告神戸製鋼ら)に石炭火力発電所を設置することを容認する内容となっている。 したがって、被告神戸製鋼らと被告関西電力は、共同して本件新設発電所 から大気汚染物質と大量のCO2を排出しているとみることが ら)に石炭火力発電所を設置することを容認する内容となっている。 したがって、被告神戸製鋼らと被告関西電力は、共同して本件新設発電所 から大気汚染物質と大量のCO2を排出しているとみることができ、この侵害行為を惹起する被告関西電力の発電の指示について、被告関西電力は差止義務を負う。したがって、原告らは、被告関西電力に対し、発電指示の差止めを請求することができる。 なお、被告関西電力は請求の趣旨が不特定である旨主張するが、「発電の 指示」は本件新設発電所について被告関西電力が被告神戸製鋼らに対し、本件新設発電所で発電した電力につき自らに供給すべき電力量等を通告することを指すものであり、請求の特定に欠けるところはない。 (被告関西電力の主張)ア原告らの主張には甚だしい事実誤認があり、被告関西電力と被告神戸製 鋼らの行為の「関連共同性」を基礎付けるものではない上、いずれも被告関西電力に対する差止めを認めるに足りる理由ともなり得ない。 イ被告関西電力は、国の定める新しい火力電源入札の運用に係る指針(乙6)に従って、要綱を策定し入札を行って落札者(被告神戸製鋼)との間で本件電力受給契約を締結しただけであり、単なる電力購入者の 1つである。本件新設発電所は被告神戸製鋼らが自らの責任で建設し、稼働するものであり、被告関西電力がその運営に関わることは一切ない。 30年間との契約期間も、確実な投下資本の回収を行いたいという応札者側のニーズにより、被告神戸製鋼が入札時に作成した提案書においてそのように記載されていたことによる。 また、「全量供給」は「常に関西電力に全発電電力を供給する」こと ではなく、「関西電力が全量購入できる権利を有する」ことを意味し、被告コベルコパワーにおいては発電余力の による。 また、「全量供給」は「常に関西電力に全発電電力を供給する」こと ではなく、「関西電力が全量購入できる権利を有する」ことを意味し、被告コベルコパワーにおいては発電余力の活用として、被告関西電力以外の第三者に対する電力供給を行うことも認められている。 被告関西電力による受給電力量の通告も、あくまで取引数量を決めるための一手順に過ぎず、供給電力量の通告が30分単位でなされるのは、 貯蔵ができないという電気の性質上、系統全体の需要と供給(発電)のバランスを常に一致させ、周波数等の品質を保つ必要があるためである。 その他、原告らが指摘する本件電力受給契約の中で定められている各事項は、通常の契約でも当然に求められる一般的な事項か、前記運用指針や一般送配電事業者の送配電設備を利用して電気を託送する場合等に 適用される認可約款である託送供給等約款に従い又は準じて行われるものであり、何ら被告関西電力の「支配」性を基礎付けるものでもない。 さらに、電気事業者のCO2排出係数は、各事業者による対策の立案・実施等を促すために、温室効果ガスを「見える化」することの一環として電気事業者が政府に協力し、政府から公表されるものであり、被 告関西電力は、地球温暖化対策の推進に関する法律の仕組みに従い、被告コベルコパワーからの受電分も含めて全体のCO2排出量をカウントして報告しているだけである。 被告関西電力は、CO2削減への取組みを行っており、2050年ゼロカーボン社会の実現に向けた最適な電源ポートフォリオの構築を目指 す考えであり、その中で、本件電力受給契約の取扱いについても検討していくが、本件新設発電所に係るCO2対策を被告神戸製鋼らとともに被告関西電力が行うという関係にあるものではない。 を目指 す考えであり、その中で、本件電力受給契約の取扱いについても検討していくが、本件新設発電所に係るCO2対策を被告神戸製鋼らとともに被告関西電力が行うという関係にあるものではない。 以上のとおり、被告関西電力は、実質的に本件新設発電所の稼働を共同で運営し、又は支配する立場にあるものではなく、本件新設発電 所からの大気汚染物質とCO2排出行為を被告神戸製鋼らと被告関西電 力との共同排出行為とみなすことなどできず、被告神戸製鋼らと被告関西電力の間になんら関連共同性はない。 ウ加えて、「民法719条における関連共同性」、「関連共同性」は複数行為者の連帯責任を問うための損害賠償法における概念であり、これをそのまま差止法理に援用できるものではない。したがって、関連共同 性を理由に人格権に基づく妨害予防請求権として、被告関西電力に対し、本件電力受給契約に基づく被告神戸製鋼らへの本件新設発電所に対する発電指示の差止請求をすることはできない。 第3 当裁判所の判断 1 訴え提起後に死亡した者の訴えについて 弁論の全趣旨によれば、別紙2死亡当事者目録記載の者は、本件訴訟の提起後、本判決言渡し前である同別紙記載の各死亡日に死亡したことが認められるところ、人格権等に基づく火力発電所の建設及び稼働の差止請求権は、請求権者の一身に専属する権利であって、相続の対象となり得ないものと解されるから、本件訴訟のうち、上記目録記載の者らの差止請求に関する部分は、これら の者の死亡により当然に終了したというべきである(最高裁平成28年12月8日第一小法廷判決・裁判集民事254号35頁参照)。 2 争点⑴(訴えの利益及び被告適格の有無)について(被告関西電力に対する訴えについて)⑴ 本件電力受給契約の締結に至る経緯 成28年12月8日第一小法廷判決・裁判集民事254号35頁参照)。 2 争点⑴(訴えの利益及び被告適格の有無)について(被告関西電力に対する訴えについて)⑴ 本件電力受給契約の締結に至る経緯とその契約内容 前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア本件新設発電所の設置に至る経緯被告関西電力による火力電源入札一般電気事業者(当時)であった被告関西電力は、火力発電所を新設 する場合、資源エネルギー庁「新しい火力電源入札の運用に係る指針 (2次改訂)」(乙6)により、安価な電源の調達のために火力電源入札を実施することが求められていた。 被告関西電力は、火力発電の高経年化への対応、および燃料費の削減による経済性向上の観点から、平成33年4月1日から平成35年7月1日までに供給開始する火力電源150万kWを入札により募集するこ ととし、平成26年8月、同年7月25日付けの火力電源入札募集要綱を公表し、火力電源入札を実施した。同要綱上、燃料種は指定されていなかった。(甲A10)被告神戸製鋼による応札被告神戸製鋼は、平成25年に鋼材事業の構造改革を決定し、神戸製 鉄所の高炉をはじめとする上工程設備を休止し、加古川製鉄所に集約することで鋼材事業の競争力強化を図るとともに、休止する高炉跡地の活用策として火力発電所の増設による電力供給事業の拡大の可能性を検討していた。 そのような中で、上記の火力電源入札が行われた。被告神戸製鋼は、 本件既設発電所で培った大型石炭火力設備の安定操業のノウハウや、製鉄所の岸壁や石炭荷揚げ設備等のインフラを有していたこと、神戸製鉄所の高炉跡地が電力需要地である神戸市及び阪神地域に近接し 、 本件既設発電所で培った大型石炭火力設備の安定操業のノウハウや、製鉄所の岸壁や石炭荷揚げ設備等のインフラを有していたこと、神戸製鉄所の高炉跡地が電力需要地である神戸市及び阪神地域に近接した電源立地であることなどから、電源の高効率化、低炭素化に貢献でき、安価な電力を大量安定的に供給することができるとして、同入札に応札し、こ れを落札した。(甲A3)本件電力受給契約の締結被告神戸製鋼と被告関西電力は、平成27年3月31日、本件電力受給契約を締結した。(丙3)イ本件電力受給契約の内容 本件電力受給契約は、別紙7本件電力受給契約の概要に記載の内容の条 項を含むものであった。(丙3)すなわち、本件新設発電所が稼働した際には、被告コベルコパワーは、本件電力受給契約に基づき、被告関西電力に対し、電力を供給することになる。そして、貯蔵ができないという電気の性質上、系統全体の需要と供給(発電)のバランスを常に一致させ、周波数等の品質を保つ必要がある。 かかる要請から、発電契約者は、計画値同時同量制度において30分ごとの電力量の計画を広域的運営推進機関(電気事業法28条)に提出しなければならないこととされている。そのため、被告関西電力は発電者たる被告コベルコパワーに対して30分ごとの電力量を通告することになる。 (丙1、2) ⑵ 判断被告関西電力は、①被告神戸製鋼らに対する差止請求が認容されれば、被告関西電力において本件新設発電所から電力の供給を受けることは不可能となり、また、被告関西電力に対する差止請求のみが認容されることは論理的にあり得ないから、被告神戸製鋼らに対する差止請求に重ねて被告関西電力 に対する訴えを提起する必要がなく、②被告関西電力による発電の指示を差し止め に対する差止請求のみが認容されることは論理的にあり得ないから、被告神戸製鋼らに対する差止請求に重ねて被告関西電力 に対する訴えを提起する必要がなく、②被告関西電力による発電の指示を差し止めても、被告神戸製鋼らは電力を第三者に売却するだけであって本件新設発電所の稼動の停止に繋がるものではなく、被告関西電力に対する差止請求は、訴えの利益を欠き、当事者適格の観点からも許されないとして、被告関西電力に対する訴えは不適法である旨主張する。 しかしながら、本件において、原告らは、被告関西電力と被告神戸製鋼らとの関係性や本件電力受給契約の内容に照らし、本件新設発電所からのPM2.5やCO2の排出は被告関西電力と被告神戸製鋼らの共同排出行為とみなすことができる、被告関西電力による発電の指示(発電の通告)が原告らの権利に対する侵害行為を惹起すると主張して被告関西電力に対する差止請求 を行っているものである。そして、違法な行為を行う者と、違法な行為を指 示する者に対する差止請求は実体法上別個に成立し得るところであり、本件はそれらの請求権を訴訟物とする給付訴訟であるから、違法な行為を指示する者であるとされる者に対する訴えの利益とその者の被告適格は肯定することができる。被告関西電力の上記主張は、自己の行為を差し止めることによる原告らの救済の実効性を争うものであり、差止めの必要性ないし因果関係 を争うものと理解することができ、その点や、被告関西電力が被告神戸製鋼らに違法な行為を指示していたか否か、被告らによる共同の排出行為があったと認められるか否かは、最終的には本案において審理すべき問題である。 そうすると、被告関西電力に対する訴えに訴えの利益がないとはいえず、また、そうである以上、被告関西電力に当事者適格がないというこ たと認められるか否かは、最終的には本案において審理すべき問題である。 そうすると、被告関西電力に対する訴えに訴えの利益がないとはいえず、また、そうである以上、被告関西電力に当事者適格がないということもできな い。 したがって、訴えの利益及び当事者適格に関する被告関西電力の主張を採用することはできない。 3 争点⑵(大気汚染による権利侵害又はそのおそれに基づく差止請求の可否)について ⑴ 本件新設発電所の大気質への影響と本件アセス前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア本件新設発電所の建設予定地付近の状況本件新設発電所の建設予定地が位置する神戸市の人口は、153万3 290人、世帯数は71万0215世帯、隣接する芦屋市における人口は、9万4812人、世帯数が4万1839世帯である(いずれも平成29年3月1日現在)。また、本件新設発電所の事業実施想定区域周辺には、学校、病院その他の環境保全について配慮が特に必要な施設が多数あり、住宅の配置状況についても、事業実施想定区域の最寄りでは北 約0.6kmの新在家が準住居地域に指定されており、発電設備の設置 予定地から最寄りの住居までの距離は北北西約0.4kmである。(甲A24の4の3〔169頁〕、甲A24の4の5〔186頁〕)神戸市は、現に公害が著しく、かつ、公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが著しく困難であると認められる地域として、県知事による公害防止計画(環境基本法17条)が定め られた、兵庫県地域公害防止計画の対象地域であり、自動車から排出されるNOx及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法の対策地域にも指定されている。神戸市東灘 7条)が定め られた、兵庫県地域公害防止計画の対象地域であり、自動車から排出されるNOx及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法の対策地域にも指定されている。神戸市東灘区及び灘区は、県環境保全条例において、排出基準を満たさない自動車の運行を規制する特別対策地域に指定されている。(甲A24の4の6〔208、210、 232頁〕)イ環境基準等大気汚染に係る環境基準環境基本法16条1項に基づき、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」として、「環境基準」 が設定されているところ、本件新設発電所の建設予定地が位置する神戸市に適用される大気汚染に係る環境基準は別紙8大気汚染に係る環境基準に記載のとおりである。環境基準は、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定をすることが求められている(同条3項)。(甲A24の4の6〔196頁〕) 大気汚染防止法等による規制基準本件事業予定地を含む地域においては、環境基準に加え、大気汚染防止法及び県環境保全条例に基づき規制が行われている。 SOxについては、大気汚染防止法により、地域の区分ごとに定められた規制基準が適用されるほか、神戸市は同法5条の2第1項の規定に 基づく地域に指定されており、SOxの総量規制基準が適用される。 ばいじんについても、大気汚染防止法及び県環境保全条例に基づき、ばい煙発生施設の種類、使用燃料の種類及び規模ごとに定められた排出基準(排出ガス量20万㎥N/h以上の石炭燃焼ボイラーについては、0.10g/㎥N、その他のものについては0.40g/㎥N)が適用される。 NOxについては、大気汚染防止法に基づき、ばい煙発生施設の種類、使用燃料の種類及び規模ご 燃焼ボイラーについては、0.10g/㎥N、その他のものについては0.40g/㎥N)が適用される。 NOxについては、大気汚染防止法に基づき、ばい煙発生施設の種類、使用燃料の種類及び規模ごとに定められた排出基準(排ガス量70万㎥N/h以上の固体燃料の燃焼ボイラーについては、200ppm)が適用される。 水銀については、大気汚染防止法により、施設の種類及び規模ごとに 定められた排出基準(ボイラーのうち石炭を燃焼させるものについては、新規施設の場合8㎍/㎥N(O2=6%換算値))が適用される。(甲A24の4の6〔196、208ないし210頁〕)本件環境保全協定による協定値被告神戸製鋼ら及び株式会社コベルコパワー神戸が神戸市との間で合 意したばい煙の時間最大排出量、ばい煙の年間総排出量、ばい煙の管理目標濃度(年平均値)、ばい煙の最大排出濃度、排ガス中の水銀濃度の値(協定値)は、それぞれ別紙6本件環境保全協定(抜粋)11条、12条、24条、25条の各表に記載のとおりであり、被告神戸製鋼ら及び株式会社コベルコパワー神戸は、①神戸製鉄所、本件既設発電所及び 本件新設発電所の全体から排出するばい煙の値については、後記エの本件アセスの過程での年間総排出量(設備利用率最大80%の場合)及び時間当たり排出量(本件新設発電所100%負荷の場合)の推計値と同様の値以下とし、②本件既設発電所及び本件新設発電所のみの最大排出濃度は後記エの本件アセスの過程での最大排出濃度の推計値と同様 の値以下とし、管理目標濃度はそれらを大幅に下回る値以下に抑制する ものとされている。(乙5)ウ大気質の状況(本件新設発電所稼働前の状況)本件新設発電所の予定地を中心とした半径20㎞の範囲内には、平成27年度末日時点 大幅に下回る値以下に抑制する ものとされている。(乙5)ウ大気質の状況(本件新設発電所稼働前の状況)本件新設発電所の予定地を中心とした半径20㎞の範囲内には、平成27年度末日時点で、大気汚染常時測定局が55局(一般局32局、自排局23局)設置されており、SO2、NO2、SPM、PM2.5等の測 定が行われていた。各測定局の位置及び測定項目は、別紙9-1大気汚染常時測定局の位置、別紙9-2大気汚染常時測定局の測定項目(平成27年度)記載のとおりであり、PM2.5の測定を行っていたのは、35局(一般局19局、自排局16局)であった。(甲A24の4の2〔46ないし49頁〕) 平成27年度のPM2.5の測定結果は、別紙9-3微小粒子状物質の測定結果(平成27年度)のとおりであり、一般局では年平均値は10. 6~16.4㎍/㎥、日平均値の年間98%値は、30.1~38.7㎍/㎥であり、自排局では年平均値は11.3~16.9㎍/㎥、日平均値の年間98%値は30.0~41.0㎍/㎥であった。したがって、 環境基準の長期基準(1年平均値が15㎍/㎥以下であること)には、一般局19局中17局で適合していたものの、年間有効測定日数未満の1局を除く15局中6局の自排局で適合していなかった。また、環境基準の短期基準(1日平均値の年間98%値が35㎍/㎥以下であること)には、一般局19局中13局で適合していたものの、年間有効測定日数 未満の1局を除く15局中10局の自排局で適合していなかった。(甲A24の4の2〔64頁〕)エ本件新設発電所から排出が見込まれる大気汚染物質の量本件新設発電所の環境対策設備被告神戸製鋼らは、本件新設発電所に環境省及び経済産業省が定める 「BATの参考表」(BAT エ本件新設発電所から排出が見込まれる大気汚染物質の量本件新設発電所の環境対策設備被告神戸製鋼らは、本件新設発電所に環境省及び経済産業省が定める 「BATの参考表」(BATとは事業者に利用可能な最良の技術をい う。)の「(A)経済性・信頼性において問題なく商用プラントとして既に運転開始をしている最新鋭の発電技術」以上の発電技術であり、現時点で利用可能な最高水準の高効率設備である超々臨界圧(USC)発電設備を導入する予定である。同発電設備の導入により、設計発電端効率は、同表の「(B)商用プラントとして着工済み(試運転期間等を含 む)の発電技術及び商用プラントとしての採用が決定し環境アセスメント手続きに入っている発電技術」に相当する43%(HHV:高位発熱量基準)となるよう計画している。これにより、本件新設発電所において、化石燃料の使用量を可及的に減少させることが可能となり、ばい煙排出量を可及的に低減することができることが見込まれている。(甲A 24の11の3〔1317頁〕、乙8)また、被告神戸製鋼らは、本件新設発電所に国内最高レベルのばい煙処理施設(排煙脱硫装置、排煙脱硝装置及び集じん装置)を導入する計画としている。(甲A7、甲A24の3〔30頁〕)本件既設発電所及び本件新設発電所の煙源の諸元 本件既設発電所及び本件新設発電所からのSOx、NOx、ばいじんの年間総排出量(現状〔平成19年度ないし28年度実績値〕、将来の試算値)、時間当たり排出量(現状〔平成28年度実績値〕、将来〔平成34年度試算値〕)及び最大排出濃度(平成34年度試算値)は以下のとおりである。なお、将来の試算値は、いずれも被告神戸製鋼が後記 オ及びの本件アセスの過程において試算した値であるが、本 成34年度試算値〕)及び最大排出濃度(平成34年度試算値)は以下のとおりである。なお、将来の試算値はいずれも被告神戸製鋼が後記オ及びの本件アセスの過程において試算した値であるが、本件アセス自体は時間当たり排出量に基づいてされている。 年間総排出量(甲A28〔32、33頁〕) 現状(平成19 年ないし平成28 年度実績)本件新設発電所稼働後(将来)設備利用率最低(50%)設備利用率基準(70%)設備利用率最大(80%)SOx製鉄所123~176 本件既設発電所303~341 本件新設発電所- 合計427~517 t/年 444 t/年 619 t/年 706 t/年NOx製鉄所240~476 本件既設発電所695~858 本件新設発電所- 合計990~1332 t/年 953 t/年 1289 t/年 1457 t/年ばいじん製鉄所11~73 本件既設発電所34~69 本件新設発電所- 合計45~139 t/年 126 t/年 175 t/年 199 t/年時間当たり排出量(甲A24の11の2〔696、697頁〕)(現状)項目単位既設設備神戸製鉄所本件既設発電所1号機2号機煙突種類--2筒身集合型地上高m6.0~100.3 排出ガス量湿り 103 ㎥N/h2.5~ 備神戸製鉄所本件既設発電所1号機2号機煙突種類--2筒身集合型地上高m6.0~100.3 排出ガス量湿り 103 ㎥N/h2.5~7262,4202,420煙突出口ガス温度℃36~360 速度m/s7.7~68.6 SOx排出量㎥N/h37.351.451.4NOx排出量㎥N/h118.854.554.5ばいじん排出量㎏/h75.922.722.7(本件新設発電所稼働後)本件新設発電所項目単位本件新設発電所既設設備100%負荷50%負荷神戸製鉄所本件既設発電所新設 1 号機新設 2 号機新設 1 号機新設 2 号機1号機 2号機煙突種類-2筒身集合型2筒身集合型-2筒身集合型地上高m 6.0~100.3 排出ガス量湿り 103 ㎥N/h 2,2872,2871,6971,6972.5~1722,4202,420煙突出口ガス温度℃ 53~360 速度m/s31.631.623.523.54.3~68.6 SOx排出量㎥N/h25.725.719.119.16.734.334.3 NOx排出量㎥N/h41.941.923.823.849.045.445.4ばいじん排出量㎏/h10.510.56.06.0 NOx排出量㎥N/h41.941.923.823.849.045.445.4ばいじん排出量㎏/h10.510.56.06.035.818.218.2c 最大排出濃度(甲A24の11の2〔697頁〕)項目単位本件新設発電所本件既設発電所現状将来SOxppm NOxppm ばいじんmg/㎥N オ本件アセス環境影響評価手続の対象本件事業は、「出力が15万キロワット以上である火力発電所(地熱を利用するものを除く。)の設置の工事の事業」として「第一種事業」 に該当するため(環境影響評価法2条2項1号ホ、環境影響評価法施行令第1条、同施行令別表第一の五ヘ)、環境影響評価手続の実施対象となる。 発電所に係る環境影響評価手続は、環境影響評価法が一般的な手続を規定し、電気事業法が発電所固有の手続を規定している。 環境影響評価手続a 第一種事業を実施しようとする者は、環境影響評価法及び電気事業法所定の環境計画段階環境配慮書の手続(環境影響評価法2章1節)、環境影響評価方法書の手続(同法3章、電気事業法46条の2、同法46条の4ないし8)、環境影響評価(環境影響評価法4章、電気事 業法46条の9)、環境評価準備書の手続(環境影響評価法5章、電気事業法46条の10ないし14)、環境影響評価書の手続(環境影響評価法6章、電気事業法46条の15ないし19)を順次実施することが求められる。 b 環境影響評価の一連の手続において、検討対象となる項目や評価手 法等の基本的事項については、環境大臣が「環境影響評価法の規定による主務 し19)を順次実施することが求められる。 b 環境影響評価の一連の手続において、検討対象となる項目や評価手 法等の基本的事項については、環境大臣が「環境影響評価法の規定による主務大臣が定めるべき指針等に関する基本的事項」(平成9年環境庁告示第87号。乙18)において定め、これを受けて、発電所については、主務官庁である経済産業省が、発電所アセス省令により、発電所の設置に関する環境影響評価において選定すべき具体的な項目 や手法等を定めている。事業者は、各選定項目に関し、環境の保全の観点からの基準又は目標との整合性が図られているかどうかを検討し、各種規制基準の遵守や、政策的目標値である環境基準との整合性についての確認を受けることになる。 c そして、火力発電所の環境影響評価手続においては、環境影響評価 書が経済産業大臣の確定通知を受けて確定し、公告・縦覧に供されることで環境影響評価の手続自体は終了するが、火力発電所の設置工事を行おうとする事業者については、別途、経済産業大臣に工事計画を届け出なければならない(電気事業法48条1、2項)。工事計画の届出を受けた経済産業大臣は、当該工事計画が所定の要件のいずれか に適合していないと認めるときは、工事計画を変更し又は廃止すべきことを命ずることができるとされている(同条4項、同法47条3項)。 上記要件の一つとして、発電用火力設備に関する技術基準を定める省令に適合していることが求められ、事業者は、公害の防止について 定める同省令4条により、ばい煙量又はばい煙濃度(ばいじん、NOx、SOx)及び指定ばい煙の合計量(NOx、SOx)やダイオキシン類の量が大気汚染防止法やダイオキシン類対策特別措置法に適合していることを求められる。なお、事業者には適合性維持義 (ばいじん、NOx、SOx)及び指定ばい煙の合計量(NOx、SOx)やダイオキシン類の量が大気汚染防止法やダイオキシン類対策特別措置法に適合していることを求められる。なお、事業者には適合性維持義務が課せられ(電気事業法39条1項)、技術基準に適合していなければ、技 術基準適合命令の対象となり(同法40条)、さらに当該命令に違反 すれば罰金に処せられる仕組みが設けられている(同法118条6号)。 本件アセスにおける評価対象の選定被告神戸製鋼は、本件事業について、平成26年以降、本件アセスを実施し、発電所アセス省令及び発電所アセスの手引等に従い、環境基準 との整合性を確認するため、環境基準が設定されているSO2、NO2、SPM、水銀等を環境影響予測及び評価の対象として選定した上、各物質につき、プルーム式、パフ式等の大気拡散予測に基づき、本件新設発電所の運転にともなう排出ガスによる大気質への影響が最大となる場合における着地濃度を算出し、バックグラウンド濃度を加えた将来環境濃 度と環境基準を比較する方法により、環境影響に係る調査・予測・評価を実施した。(甲A24の11の2)本件アセスにおける環境影響評価の結果被告神戸製鋼による上記の環境影響に係る調査、予測評価の結果は、別紙10-1年平均値予測結果と環境基準との対比のとおりである。 (甲A24の11の2〔757、763頁〕、乙2)年平均値の評価は、評価対象地点について将来環境濃度と環境基準を年平均の値に換算した値との比較により行い、SO2の将来環境濃度は、将来寄与濃度が最大となる兵庫南部局、潮見小学校局、打出浜小学校局及び西宮市役所局のうち最大値が0.00304ppm、将来環境濃度が 最大となる灘浜局でも0.00402ppm であり、 度は、将来寄与濃度が最大となる兵庫南部局、潮見小学校局、打出浜小学校局及び西宮市役所局のうち最大値が0.00304ppm、将来環境濃度が 最大となる灘浜局でも0.00402ppm であり、いずれも環境基準の年平均相当値を下回っていた。また、NO2の将来環境濃度は、将来寄与濃度が最大となる長田局及び朝日ヶ丘小学校局のうち最大値が0.01508ppm、将来環境濃度が最大となる灘浜局でも0.02304ppm であり、いずれも環境基準の年平均相当値を下回っていた。さらに、 SPMの将来環境濃度は、将来寄与濃度が最大となる長田局及び朝日ヶ 丘小学校局のうち最大値が0.018020mg/㎥、将来環境濃度が最大となる兵庫南部局でも0.023014mg/㎥であり、いずれも環境基準の年平均相当値を下回っていた。 以上のとおり、選定項目のうち、SO2、NO2、SPMに係る本件新設発電所の運転に伴う年平均値の着地濃度はバックグラウンド濃度と 比較して極めて小さく、その寄与率は、最大でもSO2が2.0%、NO2が0.9%、SPMが0.1%にとどまり、寄与濃度をバックグラウンド濃度に加えた将来環境濃度に関しても、環境基準に適合していた。 (甲A24の11の2〔757頁〕、乙2)また、日平均値についても同様であった。(甲A24の11の2〔7 58及び759頁〕)本件アセスでは、このほかに、特殊気象条件下の予測として、逆転層形成時等の状況下での1時間値の予測を行ったほか、本件新設発電所の周辺の地形の影響について数値モデルにより検討した1時間値の予測も行ったが、その結果は上記と同様で、短期基準又は短期曝露の指針値に 適合するものであった(なお、周辺地形の影響を考慮した結果は別紙10-2地形影響を考慮した1時間値予測結果と 1時間値の予測も行ったが、その結果は上記と同様で、短期基準又は短期曝露の指針値に 適合するものであった(なお、周辺地形の影響を考慮した結果は別紙10-2地形影響を考慮した1時間値予測結果と環境基準等との対比のとおりである。)。(甲A24の11の2〔760ないし763頁〕)また、上記選定項目のうち、水銀に係る水銀排出濃度を予測及び評価した結果、本件新設発電所の計画における水銀排出濃度は、最大で3. 04㎍/N㎥であり、排出基準(8㎍/N㎥)を十分に下回ることが確認された。(甲A24の11の2〔751頁〕、乙3)なお、水銀については、環境基準が設定されていないものの、被告神戸製鋼は、本件アセスにおいて、本件新設発電所の稼働に伴い排出される水銀を含む重金属等の微量物質に関し、将来環境濃度の予測及び評価 を実施した。その結果、灘浜局及び琴ノ浦高校局における最大着地濃度 が1年平均値で0.0122ng/㎥となっており、同地点におけるバックグラウンド濃度2.1ng/㎥に最大着地濃度を加えた将来環境濃度は、最大で2.1122ng/㎥にとどまり、環境省が定める「環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(指針値)」(1年平均値が40ng/㎥以下)を大幅に下回るとの予測結果 であることが確認された。(甲A24の11の2〔764頁〕、乙4)神戸製鉄所の上行程設備の廃止被告神戸製鋼は、平成29年10月31日をもって、神戸製鉄所の上工程設備(高炉~連続鋳造、一部の分塊圧延設備)を廃止し、加古川製鉄所への集約を完了した。これに伴い、神戸製鉄所全体のばい煙 排出量は大幅に減少した。ただし、上記及びのバックグラウンド濃度には、既に廃止した上記上工程設備から排出されていたばい煙に 川製鉄所への集約を完了した。これに伴い、神戸製鉄所全体のばい煙 排出量は大幅に減少した。ただし、上記及びのバックグラウンド濃度には、既に廃止した上記上工程設備から排出されていたばい煙による影響も含まれている。 PM2.5について発電所アセス省令には、PM2.5を予測及び評価の対象項目とすべき 旨の規定はなく、被告神戸製鋼は、PM2.5については、その生成メカニズムが十分解明されておらず、単一の発電所の影響について精度の高い予測方法が確立されていないとして、PM2.5を環境影響予測及び評価の対象として選定しなかった。 ⑵ 微小粒子状物質(PM2.5)に関する一般的知見及び原告ら提出のシミュ レーション前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア PM2.5の特徴等(甲B1、乙27) PM2.5は、大気中に浮遊する粒子状物質のうち、粒径が2.5㎛以 下の粒子である。硫酸塩、硝酸塩、炭素成分、金属成分、土壌成分等か ら構成される混合物で、発生源も多様である。 一次生成粒子は、発生源から直接大気中へ粒子として排出されるものであり、物の破砕や研磨等による細粒化や物の燃焼等に伴って排出される人為起源のものと、土砂の巻き上げ等による自然起源のものがある。 二次生成粒子は、SOx、NOx、HCl及びガス状大気汚染物質が、 主として環境大気中での光化学反応や中和反応などにより蒸気圧の低い物質に変化し、粒子化したものである。二次生成粒子についても、前駆物質が人為起源のもの(燃焼等に伴う揮発性有機酸化物、SOx、NOx、HClなど)と、自然起源のもの(植物からのイソプレンやテルペン類の発生など)がある。 PM2.5は、呼吸器系を通じて生 質が人為起源のもの(燃焼等に伴う揮発性有機酸化物、SOx、NOx、HClなど)と、自然起源のもの(植物からのイソプレンやテルペン類の発生など)がある。 PM2.5は、呼吸器系を通じて生体内に吸入され、粒径に応じて呼吸器部位へ沈着し、ほとんどが肺胞領域に沈着(呼吸器系に吸入された粒子が気道粘膜若しくは肺胞に接着し、再び気流に戻ることがない状態をいう。)をする。 PM2.5を含むSPMの曝露はヒトの気道や肺に炎症反応を誘導し、 動物実験においては、より高濃度のSPMの曝露により抗原反応性を亢進し、ぜん息やアレルギー性鼻炎を悪化させる作用があることが認められており、ヒトについても気道反応性の亢進及びぜん息、鼻アレルギー症状を悪化させる可能性が示されている。 PM2.5を含むSPMの曝露によって、期外収縮や徐脈等、心機能に 明瞭な変化を示す根拠が数多く存在し、SPMの吸入により実験動物に不整脈に関連する変化が生じやすくなることが示唆されている。動物実験の結果から、血液成分に影響が発現するとする報告が多く、多くの実験で、血液凝固系が活性化し、血栓の形成を誘導することが示唆されており、このような血液性状の変化は、冠動脈閉塞や肺塞栓症を起こしや すくし、末梢血管抵抗を増大することで心臓への圧負荷を高める可能性 があるとされている。 イ PM2.5による健康影響に係る疫学的知見PM2.5に関する疫学的知見として、諸外国における知見のほか、日本において行われた以下のような疫学研究がある。 短期曝露影響(死亡) 平成27年国勢調査において人口20万人以上であった110都市のうち100都市を対象に行われた研究では、PM2.5濃度が10㎍/㎥上昇するごとに外因性を除く総死亡が1.3%(95%信頼区間:0 平成27年国勢調査において人口20万人以上であった110都市のうち100都市を対象に行われた研究では、PM2.5濃度が10㎍/㎥上昇するごとに外因性を除く総死亡が1.3%(95%信頼区間:0. 9ないし1.6%)増加することが観察された。また、循環器疾患死亡と呼吸器疾患死亡とも関連していた。(甲B2、15) 平成14年から平成25年の間に、東京23区で死亡した65歳以上の高齢者約66万人を対象にした研究では、PM2.5が10㎍/㎥上昇することにより当日の全死因死亡、心血管系死亡、呼吸器系死亡の死亡率がそれぞれ0.6%、0.8%、1%増加することが観察された。このような短期曝露による健康影響は、国内のPM2.5の1日平均値の基 準値35㎍/㎥以下の濃度でも観察され、基準値よりも低い濃度でも健康影響を無視できないことを物語っているとされている。(甲B3)日本において平成26年、平成27年に総務省消防庁に集められた病院外の心停止(OHCA)の記録(24万9372件)を対象として行われた研究では、心疾患に起因するとみなされた14万9838件につ いて、PM2.5の日平均濃度の10㎍/㎥の増加とOHCAの増加が関連付けられ、PM2.5の短期曝露は、環境基準以下の比較的低濃度でもOHCAのリスク増加と関連付けられるとされている。(甲B16)短期曝露影響(死亡以外)肺機能と呼吸器症状に対するPM2.5の短期曝露影響について、例え ば、長期入院治療中の気管支ぜん息患児等を対象にピークフロー値 (息を吐き出したときの息の速度の最大値)を測定した調査では、PM2.5濃度の増加とピークフロー値の低下との関連が示された。同じ医療機関において実施された研究では、PM2.5濃度が上昇すると、ぜん鳴が出現 き出したときの息の速度の最大値)を測定した調査では、PM2.5濃度の増加とピークフロー値の低下との関連が示された。同じ医療機関において実施された研究では、PM2.5濃度が上昇すると、ぜん鳴が出現しやすくすることも報告されている。(甲B1(3-18))また、大気汚染発生源がない離島の学校に通学する学生(37名)を 対象として行った大気汚染物質の呼吸器系への短期的影響を調査した研究では、PM2.5濃度が増加すると、ぜん息の既往者ではピークフロー値の有意な低下が観察されたが、ぜん息以外のアレルギーの既往がある者、いずれの既往もない者では有意な低下は見られなかったとされた。 (甲B4) 長期曝露影響日本では、環境基準が設定された平成21年以降に地方自治体の常時監視が開始したことから、PM2.5濃度の情報が限られており、長期曝露影響の調査は限定的であるが、3府県において、40歳以上の男女約10万人を対象として10年間、15年間にわたって追跡調査した研究 においては、SPM濃度から推計されるPM2.5濃度と肺がんの間に有意な正の関連性が認められるとされている。(甲B1〔3-22及び23〕)。 また、平成18年又は平成19年に岡山市において健康診断を受けた7万5531人の市民をコホート(集団・曝露群)とするPM2.5の長 期曝露と自然死および心臓呼吸器系疾患等との相関関係の研究においては、PM2.5の濃度が5㎍/㎥が上昇する場合、自然死のハザード比は1. 29、心臓呼吸器系疾患による死亡のハザード比は1.16、肺がん死亡のハザード比は1.63となるとして、PM2.5の長期曝露が比較的低いレベルであったとしても、総自然死亡、心臓呼吸器系疾患、肺がん による死亡リスクを増大させ得るとされている。(甲 肺がん死亡のハザード比は1.63となるとして、PM2.5の長期曝露が比較的低いレベルであったとしても、総自然死亡、心臓呼吸器系疾患、肺がん による死亡リスクを増大させ得るとされている。(甲B18) ウ PM2.5に係る環境基準PM2.5については、平成20年12月、環境大臣が中央環境審議会に対する諮問を行い、同審議会は、大気環境部会に微小粒子状物質環境基準専門委員会及び微小粒子状物質測定法専門委員会を設置した。同環境基準専門委員会は、その時点で利用可能な微小粒子状物質等に関する国内外の 科学的知見を踏まえ、微小粒子状物質に係る特性及び人の生体内での挙動、環境大気中濃度、健康影響に関する定性的評価及び定量的評価、環境基準設定に当たっての指針値、環境基準達成状況の評価の手法等を検討し、同審議会は、同委員会報告に基づき、平成21年9月、環境大臣への答申を行った。これに基づいて、PM2.5に係る環境基準は、長期的な基準とし て1年平均値が15㎍/㎥以下であり、かつ、短期的な基準として1日平均値が35㎍/㎥以下であることと定められた。(甲B1、6、7、乙13)このPM2.5に係る環境基準の考え方について、環境省の微小粒子物質(PM2.5)に関する専門家会合の「最近の微小粒子状物質(PM2.5) による大気汚染への対応」(平成25年2月)では、次のように要約されている。「環境基準は、環境基本法に基づく行政上の目標となる値で、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準として位置づけられているものである。PM2.5については、様々な成分で構成されるとともに、地域や季節、気象条件などによってその組成が変動することもあり、 疫学知見に基づく評価において、集団におけるPM2.5への短期曝露、長期曝露 2.5については、様々な成分で構成されるとともに、地域や季節、気象条件などによってその組成が変動することもあり、 疫学知見に基づく評価において、集団におけるPM2.5への短期曝露、長期曝露に対する健康影響が出現する濃度水準を明確に示すことは困難であると考えられる。このような前提に基づき、PM2.5に係る環境基準については、疫学知見から総合的に判断して長期基準(年平均15㎍/㎥)を定めるとともに、それのみでは十分に低減することが困難である短期的な 高濃度曝露による健康影響を防止する観点から、統計学的な安定性を考慮 したうえで短期基準(日平均値35㎍/㎥)を設定したものである。したがって、PM2.5に係る短期基準を超過したことのみで、健康影響が生じると考えるべきものではない。」(乙14〔3頁〕)同専門家会合では、この考え方を前提としつつ、日本国内において一時的にPM2.5濃度が上昇したことを契機として、PM2.5への短期曝露に よる健康影響に関する知見等を踏まえて、環境基準とは別に、健康影響が出現する可能性が高くなると予測される濃度水準として、注意喚起のための暫定的な指針となる値を1日平均値70㎍/㎥と定めた。 エ PM2.5に係る環境影響評価技術中央環境審議会による検討 a 環境基準設定時の答申(平成21年12月)現在のPM2.5に係る環境基準を作成した際の中央環境審議会の答申(前記ウ)においては、PM2.5の環境基準の設定に伴う課題の一つとして、「微小粒子状物質は、発生源から直接排出される一次生成粒子のみならず、大気中の光化学反応、中和反応等によって生じる二 次生成粒子で構成される。また、我が国では、都市地域のみならず人為発生源由来粒子の影響が少ないと考えられる地域においても硫酸塩 粒子のみならず、大気中の光化学反応、中和反応等によって生じる二 次生成粒子で構成される。また、我が国では、都市地域のみならず人為発生源由来粒子の影響が少ないと考えられる地域においても硫酸塩や土壌粒子等の粒子が相当程度含まれており、海外からの移流分も影響していると推察されるなど、微小粒子状物質の発生源は多岐にわたり、大気中の挙動も複雑である。このため、微小粒子状物質やその原 因物質の排出状況の把握及び排出インベントリの作成、大気中の挙動や二次生成機構の解明等、科学的知見の集積について、地方公共団体、研究機関と連携を取りながら、関係事業者の協力を得つつ、実施する必要がある。その上で、大気汚染の状況を踏まえながら、より効果的な対策について検討する必要がある。」と述べられている。(乙13) b 「PM2.5に関する先行的な環境アセスメントのための手法と課題」 (平成24年3月)環境省は、上記aのとおりPM2.5について予測・評価の困難性が報告されているが、平成21年9月にPM2.5の大気環境基準が設定され、その環境基準は維持され又は早期達成に努めるものとするとされていること、欧米においてPM2.5の環境影響評価の実施事例が報 告されていること等を踏まえると、現状で実施可能な環境影響評価技術を用いてPM2.5の環境影響評価を行うことが、大気環境の保全上極めて重要であるとして、現状において実施可能なPM2.5の環境影響評価技術を示すとともに、その留意点・今後の課題を取りまとめ、平成24年3月に「PM2.5に関する先行的な環境アセスメントのた めの手法と課題」(PM2.5アセス手法と課題。甲B24)として公表した。 同書においては、「PM2.5の予測手法では、基本的に排出源から直接排出粒子・・・を対象 的な環境アセスメントのた めの手法と課題」(PM2.5アセス手法と課題。甲B24)として公表した。 同書においては、「PM2.5の予測手法では、基本的に排出源から直接排出粒子・・・を対象とするので、これまでの環境影響評価で用いられている手法を踏襲し、プルーム式・パフ式などの大気拡散式に 基づく理論計算を基本とする」「なお、二次生成粒子についても予測・評価を実施する場合には、・・・広域大気質シミュレーション等を用いた予測が考えられる。現在のところ、広域大気質シミュレーションをわが国に適用する場合、精度、不確実性の課題等に留意する」「予測には常に計算上発生する誤差と予測手法や予測条件等に起因す る不確実性があることに留意する必要がある」とされており(甲B24〔54頁〕)、今後の課題の一つとして、「PM2.5では、非常に広い範囲で二次生成粒子の生成反応が進むため、他の発生源からの前駆物質との影響を考慮したシミュレーションモデルを開発する必要がある」と指摘されている。(甲B24〔89頁〕) なお、地方自治体の中には、平成29年度「宮城県環境影響評価マ ニュアル(火力発電所設置事業)追補版」(甲B25)のように、PM2.5アセス手法と課題を参照して環境影響評価マニュアルにPM2. 5の予測・評価手法を記載するところも現れ、また、「大月バイオマス発電事業に係る環境影響評価補正評価書」(平成27年7月。甲B26)や長野県の「穂高広域施設組合新ごみ処理施設整備・運営事業 に係る環境影響評価書」(平成30年2月。甲B27)のように、環境影響評価書において、PM2.5の環境影響評価が実施される例もあった。ただし、前者はSPMの予測結果からPM2.5の年平均値を推計したものであり、後者は、焼却施設付近のPM2.5 7)のように、環境影響評価書において、PM2.5の環境影響評価が実施される例もあった。ただし、前者はSPMの予測結果からPM2.5の年平均値を推計したものであり、後者は、焼却施設付近のPM2.5濃度の実測値と発生源別寄与割合から焼却施設によるPM2.5への影響は小さいと評 価したものである。 c 「最近の微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染への対応」(平成25年2月)PM2.5の濃度が上昇した場合における注意喚起の指針化等について検討を行うために設置された微小粒子状物質(PM2.5)に関する 専門家会合が平成25年2月に取りまとめた報告書「最近の微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染への対応」(前記ウ)においても、「注意喚起の正確性を高めるためにシミュレーションモデルを用いることについては、現在のシミュレーションモデルではPM2.5の定量的な予測は困難である。」などと指摘されている。(乙14〔3、7 頁〕)d 「微小粒子状物質の国内における排出抑制策の在り方について中間とりまとめ」(平成27年3月)中央環境審議会が大気・騒音振動部会に設けた微小粒子状物質等専門委員会は、PM2.5の現象解明やこれまでの施策に関する検討を進 め、平成27年3月、PM2.5の国内における排出抑制の在り方につ いて、「微小粒子状物質の国内における排出抑制策の在り方について中間とりまとめ」を作成した。 その中では、「PM2.5の生成機構や発生源の寄与割合について科学的に解明すべき課題が残されていることや、PM2.5を構成する成分が多く種々の対策が必要であることを踏まえ、現時点の知見に基づ き既存の大気汚染防止施策をPM2.5対策の観点を加味して更に推進していく短期的課題と、調査研究等による 、PM2.5を構成する成分が多く種々の対策が必要であることを踏まえ、現時点の知見に基づ き既存の大気汚染防止施策をPM2.5対策の観点を加味して更に推進していく短期的課題と、調査研究等による知見の集積を図りつつ総合的に取り組む中長期的課題を整理し、段階的に対策を検討していく〔べき〕」「PM2.5の排出抑制策を進める上での基礎となる常時監視体制の整備、排出インベントリの整備・更新、シミュレーションモ デルの精緻化、二次生成粒子の生成機構の解明、凝縮性ダストの測定方法の開発、越境汚染の解明等の科学的知見の充実に取り組む必要がある。」などと指摘されている。(乙27)技術検討委員会による検討 環境影響評価の具体的な実施内容の根幹となる事項については、その 基本となる考え方を環境大臣が「基本的事項」として公表することとされており(環境影響評価法13条)、これを受けて「環境影響評価法の規定による主務大臣が定めるべき指針等に関する基本的事項」(平成9年環境庁告示第87号。乙18)が公表されている。上記「基本的事項」の内容全般については、5年程度ごとを目途に点検し、その結果を公表 するものとされ、環境影響評価法に基づく基本的事項等に関する技術検討委員会(技術検討委員会)が専門的・技術的観点からその具体的検討を行い、同委員会が取りまとめた報告書に基づき、基本的事項や環境省令の改正が行われてきた。(乙26〔2頁〕)a 環境影響評価法に基づく基本的事項等に関する技術検討委員会報告 書(平成24年3月) 平成23年6月に環境省総合環境政策局長の委嘱により組織された技術検討委員会が平成24年3月に取りまとめた報告書においては、「個別の環境要素・環境影響評価技術要素に関する課題」として、PM2.5につき 23年6月に環境省総合環境政策局長の委嘱により組織された技術検討委員会が平成24年3月に取りまとめた報告書においては、「個別の環境要素・環境影響評価技術要素に関する課題」として、PM2.5につき、平成21年9月に大気環境基準が設定され、大気環境中濃度の測定法が公的に定められたことなどから、現状においても 「調査」は可能であるが、シミュレーション方法が開発途上であるなど技術的な制約から、「予測・評価」は困難な面があること、固定発生源からの排ガス中の測定方法のISO化・JIS化など、関係する技術動向を見極めつつ、引き続き調査・予測・評価の技術の開発を進め対応を検討する必要があること、その際、PM2.5の排出源側での 測定法は一次粒子のみを対象としており二次粒子は捕捉できないことや、二次粒子については大気中での挙動が複雑であり、シミュレーションでも十分な予測精度が確保されていないことに留意すべきこと、米国においても、環境影響評価制度の中で二次粒子は取り扱われていないこと等が指摘されたが、参考項目にPM2.5を加えるといった提 案はされなかった。(乙26〔17頁〕)b 環境影響評価法に基づく基本的事項に関する技術検討委員会報告書(平成30年11月)平成30年6月に環境省総合環境政策統括官の委嘱により設置された技術検討委員会が平成30年11月に取りまとめた報告書において は、環境影響評価の技術手法等に関する情報収集等について、「事業者により環境影響評価が適切になされるよう、微小粒子状物質(PM2.5)の取扱い、風力発電設備による鳥類・コウモリへの影響、生態系影響の把握に当たっての生物種の選定、海域の環境情報の整備、海域生態系への影響等のテーマについて、環境影響評価に係る技術手 法の開発を進めるべき 電設備による鳥類・コウモリへの影響、生態系影響の把握に当たっての生物種の選定、海域の環境情報の整備、海域生態系への影響等のテーマについて、環境影響評価に係る技術手 法の開発を進めるべきである。」と指摘されるにとどまり、PM2.5 を評価項目(参考項目)に加えるべき旨の提言はされなかった。(乙28〔14頁〕)オ CREA拡散報告書・CREA健康影響報告書CREA拡散報告書(甲B21)a 2019(令和元)年にヘルシンキで設立され、大気汚染の傾向、 原因、健康への影響及びその解決策の明確化に取り組む独立研究機関であるエネルギーとクリーンエア研究センター(CREA)は、原告らの依頼により、本件新設発電所の大気質、毒性、健康への影響のシミュレーションを行った(CREA拡散報告書)。 bCREA拡散報告書のシミュレーションでは、各大気汚染物質の各 地点への着地濃度について、「過去の状況」(本件アセスにおける「現状」に相当し、本件既設発電所及び神戸製鉄所が稼働している状態)、「現状」(本件既設発電所の排出量を平成28年レベルとし、神戸製鉄所の排出量を本件アセスの将来シナリオレベルに削減した状態)、「将来の状況」(神戸製鉄所の高炉廃止後、本件既設発電所の 排出量を本件アセスの将来シナリオレベルに削減し、本件新設発電所が稼働した令和4年の状況。全ての施設は本件アセスにおけるモデリングで用いられている稼働率80%で運転されると仮定)の3つの状況について、短期的な着地濃度として日最大(着地)濃度ないし24時間最大(着地)濃度(dailymax, maximum 24-hour, highest 24-hour) と時間最大濃度(hourlymax, maximum 1-hour, highest 大(着地)濃度(dailymax, maximum 24-hour, highest 24-hour) と時間最大濃度(hourlymax, maximum 1-hour, highest 1-hour)のシミュレーションが行われ、長期的な着地濃度として年平均濃度(annualmean)のシミュレーションが行われた。 そして、そのシミュレーションに用いる排出量としては、短期的な着地濃度については、「短期最大排出量」(前記⑴エbの時間当た り排出量。甲B21の表8の「max」)を用いてモデル化し、長期的 な年平均濃度については、「年間総排出量」(前記⑴エa。同表8の「average」)を用いてモデル化した。 同報告書によれば、これにより、全ての汚染物質について、本件新設発電所の追加は、「現状」よりも年間総排出量及び短期最大排出量が増加し、「過去の状況」よりも年間総排出量が増加するという結果 となり、SO2、NOx、SPMの年間総排出量は、「過去の状況」と比較して、それぞれ40%、15%、300%増加するという結果になったとされている(甲B21の図1、2)。 c シミュレーションに用いる大気拡散モデルについて、CREA拡散報告書は、CALPUFFモデルバージョン7(2015年6月)を 用いた。CALPUFFモデルは、米国環境保護庁が大気質モデルに関するガイドラインにおいて、汚染物質の長距離輸送とその影響を評価する際に推奨するモデルとして採用するオープンソースのモデルであり、ガス状汚染物質(SO2とNOx)のPM2.5二次粒子への変換をモデル化できること、神戸製鉄所の位置する複雑な地形や複雑な 気象条件における拡散をモデル化する機能を備えている点で、本件アセスが用いた大気拡散モデルと異なると のPM2.5二次粒子への変換をモデル化できること、神戸製鉄所の位置する複雑な地形や複雑な 気象条件における拡散をモデル化する機能を備えている点で、本件アセスが用いた大気拡散モデルと異なるとされている。 dCREA拡散報告書によれば、上記シミュレーションの結果について、本件既設発電所及び本件新設発電所からの排出は、神戸製鉄所の北東及び北西約20㎞の範囲で最も大きな影響を及ぼすと考えられ、 短期的な大気汚染物質濃度としては、①「将来の状態」においては、影響が最も大きい発電所から西北西に7㎞離れた地域(人口約1万2000人)では、1時間の最大NO2地上濃度がWHOのガイドラインである200㎍/㎥を超えると予測され、②神戸製鉄所から西と北東にそれぞれ15kmにわたる約44万人が居住する地域では24時 間最大PM2.5濃度が5㎍/㎥又はWHOガイドライン25㎍/㎥の 25%を超え、他の排出源からの影響と合わせてガイドライン超過に寄与する可能性が高いと考えられ、③WHOの24時間平均SO2濃度ガイドラインである7.5ppb(20㎍/㎥)を超えている地域の人口は2700人であるとされている。 また、CREA拡散報告書によれば、長期的な年平均濃度について は、PM2.5、PM10、NO2について、本件アセスの結果と同様に、神戸製鉄所の北東5㎞ないし15㎞の場所で年平均値への影響が最も大きく、SO2については、本件アセスの結果とは異なり、神戸製鉄所周辺1㎞以内の範囲で年平均値への影響が最も大きく、この相違は、本件アセスが本件既設発電所及び本件新設発電所から排出されるガス 状SO2からの二次粒子(硫酸塩)の生成を考慮していないために生じたものとされている。 さらに、CREA拡散報告書は、公衆衛生の観点 が本件既設発電所及び本件新設発電所から排出されるガス 状SO2からの二次粒子(硫酸塩)の生成を考慮していないために生じたものとされている。 さらに、CREA拡散報告書は、公衆衛生の観点から、最も重要な指標は、影響を受ける住民がさらされる汚染物質の年平均濃度であるところ、神戸市内の人口を加重した、人口加重年平均PM2.5濃度に 対する被告神戸製鋼らの寄与度は、「将来の状態」には「現状」から60%増加し、NO2濃度に対する寄与度は変わらないものの、SO2の平均濃度に対する寄与度は25%増加し、本件新設発電所の稼働による悪影響は明らかであるとされている(甲B21の図6)。同報告書によれば、神戸市内では、PM2.5の日最大濃度は、現状よりも 最大4.09㎍/㎥(ただし、特定の測定局における予測値ではなく、測定局を限定しないモデル内での最大値である。)、神戸市内全体の平均では最大1.24㎍/㎥増加するとされている。(甲B21の表8)eCREA拡散報告書は、同報告書による分析と本件アセスとの比較 のため、年平均についても本件アセスと同様に短期最大排出量を用い、 CALPUFFでモデル化した試算も行った。同試算による結果を本件アセスによる結果と比較すると、以下の表のとおり、SO2、NO2及びPM10の地上濃度について、①CALPUFFモデルにより予測した年平均値の最大値を、本件アセスで予測した年平均値と比較すると、前者が後者の3.0倍ないし9.5倍となり、②CALPUF Fモデルにより予測した日最大濃度と、本件アセスにおいて地形影響を考慮した1時間値(別紙10-2)を比較すると、前者が後者の1. 3倍ないし4.3倍となるとされている。同報告書は、この違いは、本件アセスにおいては、逆転層の形成や複雑な 本件アセスにおいて地形影響を考慮した1時間値(別紙10-2)を比較すると、前者が後者の1. 3倍ないし4.3倍となるとされている。同報告書は、この違いは、本件アセスにおいては、逆転層の形成や複雑な地形の特徴など汚染物質の地上濃度の高濃度化につながる要因を「特別な条件」と分類し、 個別にモデル化し、同モデル化は年平均値の決定のためには行っていないこと、大気放出された大気汚染物質は、SO2とNOxが硫酸塩粒子と硝酸塩粒子を形成し、この二次粒子形成がPM2.5の大部分を作り、この経路は、石炭火力発電所からのPM2.5汚染の最も重要な寄与であるが、本件アセスではこの点が無視されているためと説明し ている。 大気汚染物質期間単位CALPUFF本件アセス短期最大排出量比較 年間総排出量短期最大排出量NO2年平均濃度ppb0.0950.240.083.0SO2ppb0.0340.170.053.4PM10㎍/㎥0.0660.190.029.5NO2日最大濃度/1時間値ppb 4.93.621.4SO2ppb 3.02.251.3PM10㎍/㎥ 4.10.954.3CREA健康影響報告書(甲B22)aCREAは、CREA拡散報告書で提示された本件新設発電所稼働による大気質及び毒性への影響の検討結果に基づき、これと既存の疫 学データや文献とを組み合わせて、公衆衛生への影響を予測した(CREA健康影響報告書)。 CREA健康影響報告書は、前記の「過去の状況」「現状」「将来の状況」の3つの状況における健康影響として、日本の大気汚染の健康影 て、公衆衛生への影響を予測した(CREA健康影響報告書)。 CREA健康影響報告書は、前記の「過去の状況」「現状」「将来の状況」の3つの状況における健康影響として、日本の大気汚染の健康影響を評価するために国立環境研究所が平成28年の論文で選択 したものと同様の疫学的根拠を用いて、PM2.5の濃度の上昇に起因する健康影響の評価として、早期死亡者(当該物質への曝露によって発生する追加的な死亡)を推計した。 bCREA健康影響報告書は、評価に当たって、閾値(死亡率への影響が推定される最低濃度)として、PM2.5については上記論文にお いて採用されている5.8㎍/㎥、NO2についてはWHOが採用する20㎍/㎥をそれぞれ採用し、既に閾値を超えるPM2.5濃度にさらされている住民について、本件新設発電所から排出されるPM2.5への追加的曝露による追加的発症人口を計算している。 cCREA拡散報告書によれば、上記分析の結果、「現状」における PM2.5への曝露による追加的死亡者数は、年間約73人(95%信頼区間:47-135人)であり、「将来の状況」においては、本件新設発電所が追加されることにより、死亡者数はさらに年間52人増加し(95%信頼区間:33-91人)、うち約40%が兵庫県と大阪府内で発生する。 本件既設発電所と本件新設発電所の運転寿命をいずれも40年と仮定すると、本件新設発電所を追加せずに本件既設発電所のみを運転すると、施設の残りの稼働期間における累積的な追加的死亡は1240人(95%信頼区間:790-2210人)、本件新設発電所の追加による追加的早期死亡者数は、2023年から発電所稼働終了までの 期間において、推定2080人(95%信頼区間:1330-365 0人)となり、将来 -2210人)、本件新設発電所の追加による追加的早期死亡者数は、2023年から発電所稼働終了までの 期間において、推定2080人(95%信頼区間:1330-365 0人)となり、将来の健康影響(早期死亡者)を170%増加させると推定される(甲B22の2〔13頁〕)。 ⑶ 人格権に基づく差止請求の判断枠組み原告らは、被告らに対し、生命、身体及び健康に係る人格権(伝統的人格権)又は平穏生活権(清浄な大気のもとで持続的に健康で平穏に生活する権 利〔健康平穏生活権〕)に基づき、本件新設発電所の建設及びその稼働の差止めを求めている。 個人の生命、身体の安全は、極めて重大な保護法益であって、各人の人格に本質的なものである。また、環境汚染による生命、身体、健康に対する深刻な不安を抱くことなく日常生活を送るという法益は、生命、身体、健康に 係る法益に密接に関連するものである。したがって、このような生命、身体、健康に係る人格権(原告らの主張するところの伝統的人格権)が侵害され又は侵害される具体的危険があるときや、そのために生命、身体、健康について深刻な不安に曝され、平穏に生活する法益が侵害されるときは、人格権に基づく妨害排除請求又は妨害予防請求として、当該侵害行為の差止めを求め ることができると解される。 以下、まず、伝統的人格権に基づく差止請求の可否について検討し、その後、後記⑸において健康平穏生活権に基づく差止請求の可否について検討することとする。 ⑷ 伝統的人格権に基づく差止請求の可否 ア原告らのうち、原告番号4番及び21番ないし23番の各原告は神戸市から離れた和歌山県又は兵庫県朝来市に居住する者であるから、これらの各原告について本件新設発電所から排出されるPM2.5等の大気汚染物質による ち、原告番号4番及び21番ないし23番の各原告は神戸市から離れた和歌山県又は兵庫県朝来市に居住する者であるから、これらの各原告について本件新設発電所から排出されるPM2.5等の大気汚染物質による生命、身体の安全、健康に係る人格権の侵害のおそれがあるとは認めることができない(なお、原告らも神戸市、芦屋市及び西宮市以外の地 域におけるPM2.5等に係る健康被害のおそれについては特段の主張立証 を行っていない。)。以下では、これらの原告を除いた原告らについて、本件新設発電所からの大気汚染物質の排出、特にPM2.5による人の生命、身体、健康に対する侵害の具体的危険があるか否かについて検討する。 イ前記⑴によれば、本件新設発電所の設備利用率最大80%とした場合、本件新設発電所から排出されるSOx、NOx、ばいじんの年間総排出量 はそれぞれ289t、601t、80tであり、本件新設発電所の稼働により、本件既設発電所及び神戸製鉄所からの年間総排出量と併せた年間総排出量は増加すること(前記⑴エa)が認められるものの、本件事業は環境影響評価手続の対象であり、本件新設発電所の建設に当たって環境影響評価手続(本件アセス)が実施されたこと(前記⑴オないし)、被 告神戸製鋼が、発電所アセス省令及び発電所アセスの手引等に従い、環境基準が設定されているSO2、NO2、SPM、水銀等を環境影響予測及び評価の対象として選定し、環境影響に係る調査・予測・評価を実施したこと(前記⑴オ)、これにより、SO2、NO2、SPMに係る本件新設発電所の運転に伴う年平均値の着地濃度はバックグラウンド濃度と比較 して極めて小さく、その寄与率は、最大でもSO2が2.0%、NO2が0.9%、SPMが0.1%にとどまり、寄与濃度をバックグラウンド濃 転に伴う年平均値の着地濃度はバックグラウンド濃度と比較 して極めて小さく、その寄与率は、最大でもSO2が2.0%、NO2が0.9%、SPMが0.1%にとどまり、寄与濃度をバックグラウンド濃度に加えた将来環境濃度に関しても、環境基準に適合しており、日平均値も同様であったこと(前記⑴オ)、水銀についても、排出基準を大幅に下回ることが確認されたほか、将来環境濃度も指針値を大幅に下回る予測 結果となったこと(前記⑴オ)、本件アセスに係る本件評価書については環境保全についての適正な配慮がされており、変更命令をする必要がないと認められる旨の経済産業大臣の通知(本件確定通知)がされていること(前記前提事実⑶イ)が認められる。 そして、被告神戸製鋼は、PM2.5については、その生成メカニズムが 十分解明されておらず、単一の発電所の影響について精度の高い予測方法 が確立されていないとして、環境影響予測及び評価の対象として選定しなかったが(前記⑴オ)、多様な発生源を有するPM2.5の二次生成粒子は、SOx、NOx、HCl及びガス状大気汚染物質が主として環境大気中で化学反応等により粒子化したものであり、SO2、NO2、SPMはPM2.5の主な原因物質の一部であること(前記⑵ア)、また、「大月 バイオマス発電事業に係る環境影響評価補正評価書」(平成27年7月)のように、SPMの予測結果からPM2.5の年平均値を推計してPM2.5の環境影響評価が実施される例もあったこと(前記⑵エb)が認められる。 これらの事実に照らすと、本件アセスの結果、SO2、NO2、SPM 及び水銀が基準値を超えて原告らの居住地に到達する具体的危険があるとは認められず、また、PM2.5についても、その環境影響に係る直接の調査・予測・評価 件アセスの結果、SO2、NO2、SPM 及び水銀が基準値を超えて原告らの居住地に到達する具体的危険があるとは認められず、また、PM2.5についても、その環境影響に係る直接の調査・予測・評価は行われていないものの、PM2.5の主な原因物質の一部と解されるSOx、NOx及びばいじんについての環境影響に係る調査・予測・評価において、本件新設発電所の稼働により被告神戸製鋼らによる SOx、NOx及びばいじんの排出量自体は増加するが、本件新設発電所の運転に伴うこれらの物質の年平均値及び日平均値の着地濃度はバックグラウンド濃度と比較して極めて小さいと予測され、寄与濃度をバックグラウンド濃度に加えた将来環境濃度も環境基準に適合していると評価されていたものであるから、この結果による限り、本件新設発電所の稼働により 大量のPM2.5が新たに原告らの居住地に到達する具体的危険があるとは認められず、他の原因物質から二次生成した大量のPM2.5が原告らの居住地に到達すると認めるに足りる証拠もない。 以上に加えて、本件新設発電所には、現時点で利用可能な最高水準の高効率設備である超々臨界圧(USC)発電設備が導入される予定であり、 これによる化石燃料の使用量の減少によるばい煙排出量の低減が見込まれ ていること(前記⑴エ)、国内最高レベルのばい煙処理施設(排煙脱硫装置、排煙脱硝装置及び集じん装置)の導入が計画されていること(前記⑴エ)、さらに被告神戸製鋼らが神戸市と本件環境保全協定を締結し、SOx、NOx、ばいじんの時間最大排出量、最大排出濃度等に関する協定値を遵守する旨約していること(前記⑴イ。なお、証拠(乙5)によ れば、被告神戸製鋼らは、時間最大排出量や最大排出濃度に係る協定値を逸脱したときは速やかに必要な措 、最大排出濃度等に関する協定値を遵守する旨約していること(前記⑴イ。なお、証拠(乙5)によ れば、被告神戸製鋼らは、時間最大排出量や最大排出濃度に係る協定値を逸脱したときは速やかに必要な措置又は直ちに応急の措置を講じ、神戸市に報告することが要請されており、神戸市は必要に応じて被告神戸製鋼らに措置を講ずるよう指示することができる(本件環境協定39条)。)にも照らすと、本件新設発電所の建設・稼働により原告らの生命・身体の安 全・健康に係る人格権を侵害する具体的な危険があると認めることはできない。 ウ原告らの主張についてこれに対し、原告らは、PM2.5による汚染について、CREA拡散報告書に基づき、神戸市、芦屋市、西宮市のいずれの測定局においても、 本件新設発電所の稼働に伴い、PM2.5濃度が増加し、PM2.5が広範囲に拡散することが予測され、神戸市内におけるPM2.5の日平均値は、現状よりも最大4.09㎍/㎥、神戸市内全体の平均では最大1.24㎍/㎥増加し、最大着地濃度が数倍となるから、本件新設発電所から排出されたPM2.5が原告らの居住地に到達する旨主張するとともに、C REA拡散報告書で用いたCALPUFFモデルは、本件アセスで用いたモデルと異なり、PM2.5の二次生成もシミュレーションできる点や、本件新設発電所周辺の複雑な地形や気象の考慮がされる点で優れていると主張する。その上で、原告らは、PM2.5には疫学的に閾値が存在せず、環境基準、環境保全協定以下のわずかな数値であっても健康影響が 生じ得るとし、仮にPM2.5の閾値として5.8㎍/㎥を採用するとし ても、その場合についてのCREA健康影響報告書のシミュレーション結果によれば、本件新設発電所の稼働開始により神戸市内で年間8人の とし、仮にPM2.5の閾値として5.8㎍/㎥を採用するとし ても、その場合についてのCREA健康影響報告書のシミュレーション結果によれば、本件新設発電所の稼働開始により神戸市内で年間8人の死亡(95%信頼区間:5-15人の死亡)、本件新設発電所の稼働開始から終了までの間に全体で3318人の死亡(95%信頼区間:90-242人)の増加を引き起こすとして、本件新設発電所が排出するP M2.5により原告らの健康リスクが上昇する旨主張する。 しかしながら、まず、本件新設発電所の周辺の地形や気象の考慮については、前記⑴オのとおり、本件アセスでも行われており、SO2等について環境基準又は短期曝露の指針値に適合する結果が得られている。 また、CREA拡散報告書及びCREA健康影響報告書は、様々な条 件を設定した上でのシミュレーションに基づく試算であり、CREA拡散報告書が採用したCALPUFFモデルが、米国環境保護庁において推奨されたものであるとしても、同モデル自体、予測手法の一つであるにとどまり、米国以外の国・地域での取扱いやわが国における妥当性の検証状況も明らかではない(なお、EUでは承認された大気汚染拡散モ デルを用いた統一した要件を課してはいない。甲B20)。 そして、わが国での議論をみると、PM2.5については、環境基準が設けられた平成21年の中央環境審議会の答申においても、発生源が多岐にわたり、大気中の挙動も複雑であることによる予測・評価の困難性が報告され、PM2.5やその原因物質の排出状況の把握、大気中の挙動 や二次生成機構の解明等、科学的知見の集積の必要性が指摘されていたが(前記⑵エa)、平成24年に環境省から公表された「PM2.5に関する先行的な環境アセスメントのための手法と課題」にお 動 や二次生成機構の解明等、科学的知見の集積の必要性が指摘されていたが(前記⑵エa)、平成24年に環境省から公表された「PM2.5に関する先行的な環境アセスメントのための手法と課題」においても今後の課題の一つとして、PM2.5では、非常に広い範囲で二次生成粒子の生成反応が進むため、他の発生源からの前駆物質との影響を考慮したシ ミュレーションモデルを開発する必要があるとの指摘がされ(前記⑵エ b)、中央環境審議会の専門家会合が平成25年に取りまとめた報告書においても、現在のシミュレーションモデルではPM2.5の予測は困難であるとされ(前記⑵エc)、さらに、中央環境審議会の微粒子状物質等専門家委員会が平成27年に作成した「微小粒子状物質の国内における排出抑制策の在り方について中間とりまとめ」においても、シ ミュレーションモデルの精緻化、二次生成粒子の生成機構の解明等が依然として課題として挙げられている状況にあること(前記⑵エd)が認められる。 また、わが国の環境影響評価手続においても、PM2.5は評価項目・参考項目とされていない。環境影響評価の実施内容の根幹となる「基本 的事項」について専門的・技術的観点から検討を行う技術検討委員会が平成24年に取りまとめた報告書において、PM2.5についてはシミュレーション方法が開発途上であるなど技術的な制約から予測・評価は困難な面があること、二次生成粒子については大気中での挙動が複雑であり、シミュレーションでも十分な予測精度が確保されていないことに留 意すべきこと、米国(当時)においても、環境影響評価制度の中で二次生成粒子は取り扱われていないこと等が指摘されたが、平成30年の報告書においても、PM2.5の取扱いについては、環境影響評価に係る技術手 べきこと、米国(当時)においても、環境影響評価制度の中で二次生成粒子は取り扱われていないこと等が指摘されたが、平成30年の報告書においても、PM2.5の取扱いについては、環境影響評価に係る技術手法の開発を進めるべきである旨記載されているにとどまっている(前記⑵エa)。 確かに、現在では、米国及び英国において、PM2.5の二次生成粒子の予測・評価を行うことを課すようになっている(甲B20)が、EUではそのような統一した要件を課しておらず(甲B20)、他の国・地域での取扱いは明らかでなく、わが国でも自治体の環境影響評価において、CALPUFFモデルによらない二次生成粒子の予測・評価を行っ た例が数例あるにとどまる。 以上のようなわが国におけるPM2.5をめぐる専門家による検討状況や外国等での取扱いの状況を踏まえると、PM2.5について十分な予測精度が確保された予測手法が確立されているとはいえず、また、予測には常に計算上発生する誤差と予測手法や予測条件等に起因する不確実性があることに留意する必要があること(前記⑵エb)にも照らすと、 CREA拡散報告書が行ったシミュレーション結果により、本件新設発電所PM2.5がその結果どおり拡散し、原告らの居住地におけるその濃度が有意に上昇すると認めることはできない。 また、CREA拡散報告書のシミュレーション結果(甲B21の表8)をみても、同報告書が公衆衛生の観点から最も重要な指標とする年平 均濃度は、周辺濃度(measuredambientconcentration、これは本件アセスでいうバックグラウンド濃度に相当すると解される。)のデータがある19の測定局において、本件新設発電所のみからの濃度の周辺濃度に対する割合は、最大でも0.51%(18 ration、これは本件アセスでいうバックグラウンド濃度に相当すると解される。)のデータがある19の測定局において、本件新設発電所のみからの濃度の周辺濃度に対する割合は、最大でも0.51%(18番の測定局)にとどまる上、各測定局における周辺濃度に本件新設発電所の寄与濃度を加え た将来環境濃度は、既に周辺濃度が環境基準を上回っている32番の測定局を除き、いずれも環境基準の範囲内であり、32番の測定局については、CREA拡散報告書により本件新設発電所の稼働による影響が見込まれている神戸製鉄所の北東方向ではなく、神戸製鉄所から海を挟んだ南東約10㎞の大阪市の南港中央公園に所在する測定局で あり(別紙9-1、2)、本件でこの地域に居住する原告はいない。 この点について、原告らは、日本の環境基準は疫学研究の進展や諸外国での規制の進展があるにもかかわらず見直しがされていないと主張するが、確かに、WHOのガイドラインでは10㎍/㎥とされ、米国の環境基準は年平均12㎍/㎥とされている(甲B8及び23)もの の、EUでは限界値として20㎍/㎥とされており(甲B20)、日 本の15㎍/㎥を特に緩やかな基準と評価することは困難である。 また、CREA拡散報告書におけるPM2.5の短期的な濃度である日最大濃度のシミュレーション結果については、これを本件アセスにおける地形影響を考慮した1時間値(別紙10-2)と比較していることからすると、これが環境基準の短期的な基準である日平均濃度を示 すものか明らかでない。もっとも、これが日平均濃度を示すものだとすると、周辺濃度のデータのある各測定局について、周辺濃度が日平均の環境基準を既に超過していることから、本件新設発電所の寄与濃度を周辺濃度に加えた将来環境濃度も環境基準を上回ることにな 示すものだとすると、周辺濃度のデータのある各測定局について、周辺濃度が日平均の環境基準を既に超過していることから、本件新設発電所の寄与濃度を周辺濃度に加えた将来環境濃度も環境基準を上回ることになる。 しかし、上記のとおり、公衆衛生の観点から最も重要な指標とされる 年平均濃度は環境基準を下回っている。また、前記⑵ウのとおり、環境基準については、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい行政上の目標として設定されるものであり、大気環境濃度がPM2.5に係る短期基準を超過したことのみで、健康影響が生ずると考えるべきものではないとされており、その上で、健康影響が出現する可能性 が高くなると予測される濃度水準を注意喚起のための暫定的な指針として、日平均値を70㎍/㎥とされているが、上記シミュレーション結果の日最大濃度を周辺濃度に加えた将来環境濃度はこの濃度水準を十分に下回っている。 なお、上記シミュレーション結果(甲B21の表8)によれば、S O2については、周辺濃度のデータの存する各測定局において、周辺濃度に本件新設発電所の寄与濃度を加えた将来環境濃度は、日最大濃度の最大が30番の測定局の15.22ppb(0.01522ppm)、1時間値の最大が3番の測定局の57.8ppb(0.0578ppm)といずれも環境基準以下であり、NO2についても、日最大濃度の最大が3 番の測定局の59.2ppb(0.0592ppm)と環境基準以下となっ ている(なお、SPMについては同表8中にデータの記載がなく、各測定局における将来環境濃度と環境基準との関係は不明である。)。 PM2.5への曝露による死亡リスクの増加の点についても、CREA健康影響報告書によるシミュレーションについては、前提とされているCREA拡散報告書 環境濃度と環境基準との関係は不明である。)。 PM2.5への曝露による死亡リスクの増加の点についても、CREA健康影響報告書によるシミュレーションについては、前提とされているCREA拡散報告書の数値に依拠することができないことは上記にお いて判示したとおりである。 また、原告らは、PM2.5には疫学的に閾値が存在しないからわずかな増加でも健康への影響があると主張し、確かに、PM2.5に関する疫学的知見によれば、PM2.5には疫学的に閾値が存在しないとされている(前記⑵イ)。しかし、従来から、閾値のない物質については、人の 健康に影響を及ぼすおそれ(健康リスク)が十分低い場合は実質的に安全とみなすことができるとして、そのリスクレベルに対応する曝露量が環境基準の目安として用いられているとされており(甲B1〔4-1ないし4-3頁〕)、PM2.5の環境基準も、「PM2.5については、様々な成分で構成されるとともに、地域や季節、気象条件などによって その組成が変動することもあり、疫学知見に基づく評価において、集団におけるPM2.5への短期曝露、長期曝露に対する健康影響が出現する濃度水準を明確に示すことは困難である」(前記⑵ウ)として、閾値を明確に示すのが困難であるとの認識の下に定められているが、そのようにして定められた環境基準についても、人の健康を保護する上で維持さ れることが望ましい行政上の目標として設定されるものであり、大気環境濃度が基準値を超過した場合でも直ちに人の健康に影響が現れるものではないとされている(前記⑵ウのほか甲B1〔4-1頁〕)。そして、わが国における環境基準が外国と比べて特に緩やかであるとは評価できないこと、CREA拡散報告書によっても、長期的な年平均濃度は環境 基準を下回り、短 記⑵ウのほか甲B1〔4-1頁〕)。そして、わが国における環境基準が外国と比べて特に緩やかであるとは評価できないこと、CREA拡散報告書によっても、長期的な年平均濃度は環境 基準を下回り、短期的な日平均濃度は環境基準を上回るが、健康影響が 出現する可能性が高くなると予測される注意喚起濃度を十分に下回っていることは先に述べたとおりである。そうすると、PM2.5に閾値が存在しないことを前提としても、本件新設発電所の稼働によって、原告らに健康被害が生ずる具体的危険性があるとは認められない。 以上によれば、本件新設発電所の稼働により、排出・拡散されるPM 2.5、SO2、NO2、SPM、水銀が増加するとしても、原告らが提出するCREA拡散報告書及びCREA健康影響報告書によっては、本件新設発電所から排出されたPM2.5等によって原告らに健康被害が生ずる具体的危険性が生じていることを認めることはできない。 エしたがって、本件新設発電所の稼働により原告らの生命、身体、健康が 侵害される具体的危険が存在すると認めることはできず、伝統的人格権に基づく本件新設発電所の建設及び稼働の差止めを求めることはできない。 ⑸ 健康平穏生活権の侵害に基づく差止請求の可否ア本件新設発電所本件新設発電所の稼働により排出されるPM2.5やその原因物質とされるSO2、NO2、SPMのほか、水銀により原告らの生 命、身体、健康が侵害される具体的危険が存在すると認めることはできないことは前記⑷において判示したとおりである。 そして、前記⑵エにおいて判示したとおり、環境省の審議会等の報告書や答申などでPM2.5については二次生成粒子の生成機構の解明等が課題とされており、十分な予測精度が確保された予測手法が確立されている 記⑵エにおいて判示したとおり、環境省の審議会等の報告書や答申などでPM2.5については二次生成粒子の生成機構の解明等が課題とされており、十分な予測精度が確保された予測手法が確立されている とはいえないこと、本件事業については環境影響評価法に従って本件アセスが実施され、その中でSO2、NO2、SPMに係る調査、予測及び評価が行われ、周辺の地形を考慮したものも含めて、本件新設発電所から排出されるこれらの物質の将来環境濃度が環境基準の範囲内に保たれるとの結果となったこと、本件新設発電所において環境対策設備としてUSC発 電設備や高性能のばい煙処理施設の導入が予定されていたことが認められ、 これらが記載された環境影響評価書は公告・縦覧に供されるから(前記⑴オc)、本件アセスの結果や本件事業に係る計画内容も公表されていたことが認められる。 以上によれば、本件新設発電所の稼働によって、本件新設発電所PM2. 5を含む大気汚染物質により原告らに環境汚染による深刻な不安を生じさ せるだけの客観的事実が存在していることを認めることはできず、そうである以上、生命、身体、健康に直結する平穏生活権が侵害されているとは認められない。 イこれに対し、原告らは、平穏生活権の侵害は、生命・身体に対する具体的危険を必要条件とせず、平穏生活権に基づく差止請求の要件は、施設の 稼働によって排出されるガスによって、不可逆的又は深刻な生命・健康への侵害発生のリスクが一定の集団に発生しており、原告らがその集団に属していること、原告らが施設稼働によるリスクにさらされることで、日々生活上の不安・恐怖感が生じており、それが一般通常人を基準としても平穏な生活を損なう不安・恐怖感であることである旨主張する。 しかしながら、本件新設発電 によるリスクにさらされることで、日々生活上の不安・恐怖感が生じており、それが一般通常人を基準としても平穏な生活を損なう不安・恐怖感であることである旨主張する。 しかしながら、本件新設発電所から排出されるガスによって原告らに不可逆的又は深刻な生命・健康への具体的危険が生じているとは認められないことは、先に述べたとおりである。そして、本件アセスが公表されて環境影響評価の結果が示されており、その余の証拠を勘案しても原告らの生命、身体、健康に対する侵害の具体的危険が客観的に認められない場合に まで、健康的な生活に対する不安を理由に差止請求を認めることは、深刻とまではいえない不安感を理由に相手方私人の社会経済活動を規制するものといわざるを得ず、平穏生活権に基づく差止めを認めるだけの違法な侵害として認めることはできないというべきである。原告らの上記主張は採用できない。 ウしたがって、本件新設発電所の稼働により原告らの平穏生活権の侵害を 認めることはできないから、大気汚染による平穏生活権の侵害に基づく本件新設発電所の建設及び稼働の差止めを求めることはできない。 4 争点⑶(温暖化による権利侵害又はそのおそれに基づく差止請求の可否)について⑴ 地球温暖化をめぐる状況 前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア温室効果ガス削減に向けた国内外の取組みパリ協定締結までの経緯IPCCは、気候変動に関する最新の科学的知見を取りまとめた報告 書を作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的として1988(昭和63)年にWMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)のもとに設立された、195か国・地域が参加する、参加国のコンセ の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的として1988(昭和63)年にWMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)のもとに設立された、195か国・地域が参加する、参加国のコンセンサスに基づき意思決定を行う政府間組織である。(甲Cア1) また、気候を安全なレベルで安定化するために国際社会の取組みが1980年末から国連を中心に継続されてきた。1992(平成4)年に気候変動枠組条約(甲Cエ1)が採択され、1994(平成6)年に発効し、1995(平成7)年以降、締約国が地球温暖化を防止するための枠組みを議論する国際会議(COP)が開催されており、1997 (平成9)年12月には、COP3において、締約国に排出削減義務を課した京都議定書(甲Cエ2)が採択され、2005(平成17)年に発効した。 さらに、IPCCの科学的知見に基づき平均気温の上昇を2℃未満に止めるための国際的枠組みの構築の必要性が国際社会の共通認識となり、 2015(平成27)年には、パリで開催されたCOP21において、 全ての締約国の削減行動を求めたパリ協定(甲Cエ3)が採択され、翌2016(平成28)年に発効した。日本も同年に批准している。 パリ協定(甲Cエ3)a パリ協定は、気温の上昇を産業革命前から2℃を十分に下回り、1. 5℃にも抑制することに努力することを目的として、今世紀後半の早 い時期に地球規模での温室効果ガスの排出を実質ゼロとすることを目標とするものである。その目標の実現に向けて、各締約国は、達成を目指す目標を国の定める貢献(NDC)として提出し、これを維持し(4条2項)、2020(令和2)年から5年毎に各国の削減目標を引き上げることが求められている(4条3項、9項)。締約国には目 標達成に向け 国の定める貢献(NDC)として提出し、これを維持し(4条2項)、2020(令和2)年から5年毎に各国の削減目標を引き上げることが求められている(4条3項、9項)。締約国には目 標達成に向けた国内措置をとる義務がある(同条2項)。 bCO2は、伝統的な有害物質と異なり、排出口における排出濃度ではなく、排出の絶対量の削減が求められている。IPCC1.5℃特別報告書(2018(平成30)年10月。甲Cア4)は、1.5℃の気温上昇によっても甚大な気候システムへの影響と被害を及ぼすこ とを示し、66%の確率で1.5℃の上昇に止めるためには世界で2030(令和12)年までに2010(平成22)年比45%削減し、2050(令和32)年までにCO2排出を実質ゼロとする必要があることを明らかにした。(甲Cア4、9)これを受けて、120か国以上が2050年カーボンニュートラル を表明し、2030(令和12)年に目標を引き上げた。もっとも、世界全体でも1.5℃を実現する経路から遠く、2℃目標の経路にも届いておらず、さらに削減目標の引上げを求められる状況にあった。 (甲Cエ5、8)グラスゴー気候合意 2021(令和3)年11月にイギリスのグラスゴーで開催されたC OP26及びパリ協定第3回締約国会合(CMA3)において、パリ協定の実施に関しグラスゴー気候合意(甲Cエ10、11)が採択され、平均気温の上昇を世界で産業革命前から1.5℃に抑えることを追求することが確認され、そのために2050年カーボンニュートラルと、その重要な経過点となる2030(令和12)年に向けて、野心的な対策 を各国に求めることが盛り込まれ、具体的な削減対策として、排出削減対策の講じられていない石炭火力発電所の段階的削減(フェーズダウン) 要な経過点となる2030(令和12)年に向けて、野心的な対策 を各国に求めることが盛り込まれ、具体的な削減対策として、排出削減対策の講じられていない石炭火力発電所の段階的削減(フェーズダウン)への努力を加速させることが明記された。(甲Cエ9、10)日本における取組みa 地球温暖化対策計画 政府は、平成28年5月13日、地球温暖化対策の推進に関する法律8条1項及び「パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取組方針について」(平成27年12月22日地球温暖化対策推進本部決定)に基づき、地球温暖化対策計画(甲Cカ2、乙29)を策定し、中期目標として、温室効果ガスを2030(令和12)年に2013(平成2 5)年比26%削減すること、2020(令和2)年度の温室効果ガス削減目標については、2005(平成17)年度比3.8%減以上の水準にすることとした。 b 2050年カーボンニュートラル及び2030年削減目標の引上げ令和2年10月、日本も、1.5℃目標の実現に向け、2050 (令和32)年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、令和3年4月、2030(令和12)年までに、2013(平成25)年比46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを表明した。 c 地球温暖化対策推進法の改正(令和3年) 令和3年5月には地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律が成 立し、パリ協定に定める目標を踏まえ、2050(令和32)年までの脱炭素社会の実現、環境・経済・社会の統合的向上、国民を始めとした関係者の密接な連携等が、基本理念として規定され(2条の2)、「温室効果ガスの排出の量の削減」等の措置を講ずる努力義務が事業者に課された(5条)。 なお、 社会の統合的向上、国民を始めとした関係者の密接な連携等が、基本理念として規定され(2条の2)、「温室効果ガスの排出の量の削減」等の措置を講ずる努力義務が事業者に課された(5条)。 なお、令和元年時点の日本における電力供給に占める石炭火力発電の割合は31.9%であり、また、日本においては、東日本大震災後、石炭火力発電所の新設計画が進められ、既に建設を終えて稼働した発電所や工事中の発電所もある。(甲Cオ9、甲Cコ1)イ気候変動に関する科学的知見等 IPCCは、5年ないし7年ごとに気候変動に関する科学的知見の評価を行い、その結果をまとめた「IPCC評価報告書」を作成・発表してきた。これまで第1次(1990年)から第6次(2021年)までの報告書が作成されており、IPCCの各報告書は、参加国のコンセンサスで承認・採択されるものであり、各国が承認・採択した最新の科学 的知見として、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)をはじめとする国際交渉や国内政策のための基礎情報として世界中の政策決定者に引用されているほか、一般にも幅広い層から参照されている。(甲Cア1)日本国内の温暖化とその影響についても、気象庁により、日本と世界の気候・海洋・大気環境の観測及び監視結果に基づいた最新の科学的な 情報・知見を取りまとめた年次報告である「気候変動監視レポート」が刊行されているほか、環境省・文部科学省・農林水産省・国土交通省・気象庁が共同で作成する「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート」等にまとめられている。また、兵庫県における地球温暖化とその影響については、大阪管区気象台及び神戸地方気象台が具体的に予測し ている。(甲Cイ1ないし4) ウ地球温暖化・気候変動の影響世界各地における気候災害 における地球温暖化とその影響については、大阪管区気象台及び神戸地方気象台が具体的に予測し ている。(甲Cイ1ないし4) ウ地球温暖化・気候変動の影響世界各地における気候災害の発生近年、世界各地で、極端な高温、極端な豪雨、森林火災、ハリケーンの巨大化などの異常気象が頻発し、氷河の融解や海水温の上昇、生態系への不可逆的変化が現れている。日本においても、猛暑(異常な高温) による被害や豪雨・大雨による被害が報告されている。(甲Cウ1ないし89)地球温暖化・気候変動の原因IPCC第6次評価報告書においては、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷 圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。」とされ、「人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている。熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象について観測された変化に関する証拠、及び、特にそれら変化を人間の影響によるとする原因特定に関する証拠は、AR5 〔判決注:IPCC第5次評価報告書〕以降、強化されている」として、人が気候の極端現象に影響することで世界中の全ての人間の生活域に既に気候変動が影響していることが明記された。そして、同報告書は、今後の極端現象の出現頻度についても、例えば、産業革命前に比べて50年に一度の暑い日の発生頻度は、約1℃上昇した現在では4.8倍であ るのに対し、1.5℃の上昇で8.6倍、2℃の上昇で13.9倍に増加すると予測している。(甲Cウ62、甲Cア12、14〔8頁〕、17〔10枚目表面〕、証人B)CO2排出が生命、身体ないし健康、財産へ被害をもたらすプロセスCO2排出は、以下のプロ に増加すると予測している。(甲Cウ62、甲Cア12、14〔8頁〕、17〔10枚目表面〕、証人B)CO2排出が生命、身体ないし健康、財産へ被害をもたらすプロセスCO2排出は、以下のプロセスで生命、人々の身体ないし健康、財産 へ被害をもたらす。 まず、①排出源からの大量のCO2の排出により大気中のCO2濃度が上昇する。 次に、②CO2は赤外線を吸収し、再び放出する性質があるため、太陽からの光で暖められた地球の表面から熱放射として放出された赤外線の多くが、大気に吸収され、再び射出された赤外線が地球の表面に吸収 される。このため、大気中のCO2濃度が上昇することにより地球の平均気温が上昇(地球温暖化)する。地球の平均気温の上昇は、CO2の累積総排出量にほぼ比例し、この段階で海水温も上昇し、サンゴ礁の絶滅など一部の生態系に不可逆的な悪影響が拡大し、グリーンランドや南極の氷床の不安定化をもたらすこととなる。 さらに、③平均気温が上昇することにより、極端な気象・気候現象が多発・激甚化することになり、極端な高温、極端な大雨、干ばつ等の気象・気候災害の激甚化・発生頻度が増加する。海水温の上昇によって、海面水位が上昇し、台風による高潮被害も激化する。既に世界のほとんどの地域で当該地域における極端な気象現象が確認されており、気温上 昇によって、2030(令和12)年から10年のうちにも、突然、不可逆的な気候変動をもたらすとされるティッピングポイントを超えるおそれがあると指摘されている。 このような気象・気候災害の激甚化・発生頻度の増加が、④人々の生命、身体ないし健康、財産への被害をもたらし、これに相まって、さら に人間の安全保障や経済成長といった人類の生存に対する影響を生ずること な気象・気候災害の激甚化・発生頻度の増加が、④人々の生命、身体ないし健康、財産への被害をもたらし、これに相まって、さら に人間の安全保障や経済成長といった人類の生存に対する影響を生ずることにもなる。(甲Cア3、4、9、10、12、甲Cイ2〔7頁〕)エ 1.5℃(2℃)の気温上昇にとどめるための残余のカーボンバジェットIPCC第6次評価報告書においては、67%の確率で1.5℃の上昇 に留まるための残余のカーボンバジッェトは4000億t、同様に2℃に 抑えるには1兆1500億tであるとされている。(甲Cア17〔16枚目裏面〕、甲Cウ62〔2、7枚目〕)オ予測される地球温暖化による兵庫県への影響気温上昇及び熱中症の増加熱中症の患者数は、1日の最高気温が25℃を超えるあたりから発生 し、31℃を超えると急激に増加するところ、大阪管区気象台及び神戸地方気象台により、兵庫県においては、地球温暖化により、21世紀末において、年平均気温が100年間で約4℃上昇し、神戸市においては現在と比べて年間で猛暑日が約40日、真夏日が55日以上増加(約1. 7~1.8倍)すると予測されている。(IPCC第5次評価報告書に おける温室効果ガス排出シナリオのうち、最も排出量の多いRCP8. 5シナリオによる。甲Cイ4)大雨による土砂災害等の危険の増加21世紀末の西日本太平洋側の降雨量の予想として、1時間降水量30㎜以上が年4回、1時間降水量50㎜以上が年1回発生し、兵庫県に おいても、21世紀末に1時間降水量50㎜以上が年0.3回発生すると予測されている。(いずれもRCP8.5シナリオによる。甲Cイ2〔39ないし41頁〕、4)さらに、台風について、将来的に台風が強大化(最大風速及び降水量が増 量50㎜以上が年0.3回発生すると予測されている。(いずれもRCP8.5シナリオによる。甲Cイ2〔39ないし41頁〕、4)さらに、台風について、将来的に台風が強大化(最大風速及び降水量が増加)し、また日本付近を通過する台風の速度が今より約10%遅く なるといった予測がされている。 原告らのうち8名(7世帯)が「土砂災害警戒区域」内に、原告らのうち5名(3世帯)が「想定最大規模降雨による浸水想定区域図」内に居住している。 高潮被害 海面上昇は、海岸を有する神戸市・芦屋市・西宮市にも高潮被害の危 険を増加させる。原告らのうち6名は、高潮浸水想定区域内に居住している。(甲Cイ5〔70頁〕、甲Cケ4)熱帯性感染症地球温暖化により、21世紀末にデング熱等を媒介するヒトスジシマカの生息域が日本国土全体の75%ないし96%に達する可能性がある など、原告ら居住地に熱帯性感染症が広まるおそれがあるとされている。 (RCP8.5シナリオによる。甲Cイ2〔109頁〕)カ本件新設発電所からのCO2の排出石炭火力発電所は、燃料として用いる、化石燃料である石炭の特性上、これを燃焼させることにより、CO2を大気中に排出する。本件新設発電 所は、年間設備利用率を80%として、年間692万tのCO2を排出することが見込まれている。これは、令和元年の全世界のエネルギー起源CO2排出量335億tの5000分の1(0.02%)に当たる。(甲A24の11の3、甲Cオ8)キ環境影響評価手続におけるCO2の取扱い 経済産業大臣と環境大臣は、平成28年2月、今後の電気事業分野における地球温暖化対策について、環境アセスメントにおけるCO2の取扱いについて、地球温暖化問題の性格上、全体で管理する枠組みにより 経済産業大臣と環境大臣は、平成28年2月、今後の電気事業分野における地球温暖化対策について、環境アセスメントにおけるCO2の取扱いについて、地球温暖化問題の性格上、全体で管理する枠組みにより対策の実効性を確保することが基本となるとされ、そのうえで、火力発電所の個々の建設に係る環境アセスメントにおいて、事業者が利用可能 な最良の技術(BAT)の採用等により可能な限り環境負荷低減に努めているかどうか、また、国のCO2排出削減の目標・計画と整合性を有するかどうかについて、必要かつ合理的な範囲で国が審査するとしてその観点を定める「局長級会議取りまとめ」による旨合意した。(甲A35、乙30、31) 本件アセスの過程では、準備書に対して経済産業大臣から温室効果ガ ス等の点に関して勧告がされた(甲A24の13)。それを踏まえ、本件アセスでは、温室効果ガス等について、①超々臨界圧(USC)発電技術を導入する、②省エネ法に基づくベンチマーク指標の目標達成に向けて計画的に取り組み、2030年度に向けて確実に遵守するとともに、ベンチマーク指標の目標を達成できないと判断した場合には、本件事業 の見直しを検討する、③自主的枠組み参加事業者である被告関西電力に電力を全量供給する、④毎年度CO2排出量を適切に把握する、⑤将来の二酸化炭素回収・貯留(CCS)の導入に向けて、所要の検討を継続的に行う、⑥長期的なCO2排出削減対策について、今後の国内外の動向を踏まえ、所要の検討を行い、適切な範囲で必要な措置を講ずるとさ れた(甲A24の11の3)。 なお、CCSについては、前記地球温暖化対策計画において、2030年を見据えて取り組むこととされ、環境省の「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価の結果について」(20 の11の3)。 なお、CCSについては、前記地球温暖化対策計画において、2030年を見据えて取り組むこととされ、環境省の「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価の結果について」(2019〔平成31〕年3月28日)でも、目標を達成するには火力発電についてはCC Sが必要となるとして、その実用化に向けた技術開発を進める必要があるとされる一方、CCSによる問題解決に悲観的な見通しを述べる意見もある。(甲Cエ21、甲Cカ3、10)⑵ 伝統的人格権に基づく差止請求の可否ア原告らは、本件新設発電所からのCO2の排出により、地球温暖化が進 み、それによる気候変動により、原告らの生命、身体の安全、健康に対する侵害の具体的危険があるとして、伝統的人格権に基づき本件新設発電所の建設及び稼働の差止めを請求する。 イ被侵害利益について前記3⑵において判示したとおり、人の生命、身体の安全、健康は、人 格の根源となる極めて重大な保護法益であり、これらが人格権により保護 されることは明らかであり、これが違法に侵害される具体的危険がある場合には、違法な侵害行為を予防するため、人格権に基づき、当該侵害行為の差止めを求めることができる。 この点について、被告神戸製鋼らは、CO2の排出に起因する地球温暖化によって健康等に係る被害を受けないという利益は権利性が認められな い旨主張する。しかしながら、原告らが主張する法益は人の生命、身体の安全、健康であり、上記のとおりこれらの法益が人格権により保護されることは明らかである。原告らの差止請求の根拠がCO2の排出に起因する地球温暖化による人格権の侵害であるとしても、かかる事情は侵害の具体的危険の有無において考慮されるべきものであり、被侵害利益が人格権に より保護 原告らの差止請求の根拠がCO2の排出に起因する地球温暖化による人格権の侵害であるとしても、かかる事情は侵害の具体的危険の有無において考慮されるべきものであり、被侵害利益が人格権に より保護されるか否かの判断に影響を及ぼすものではない。したがって、被告神戸製鋼らの上記主張は採用することができない。 ウ本件新設発電所の稼働による原告らの生命、身体、健康に対する侵害の具体的危険の有無について 前記⑴イ及びウによれば、気候変動に関する科学的知見を集積したI PCCの各報告書により、人間の影響が大気、海洋、陸域を温暖化させ、人為起源の気候変動が世界中で多くの気象及び気候の極端現象に影響を及ぼしていること、すなわち、大量のCO2の排出に起因する平均気温の上昇(地球温暖化)により極端な気象、気候現象が多発・激甚化し、さらに、気象・気候災害の激甚化・発生頻度の増加が生命、身体、健康 への被害をもたらすことが認められ、平均気温が産業革命から1.5℃上昇することによっても甚大な気候システムへの影響と被害を及ぼすことが認められる。 そして、前記⑴オによれば、地球温暖化の進行にともない、兵庫県においても、21世紀末には、猛暑日・真夏日の増加による熱中症の増加、 大雨による土砂災害等の危険の増加、高潮被害、熱帯性感染症が広まる おそれなどが生ずることが予測されていることが認められる。 しかしながら、地球温暖化による上記のような被害の発生というのは、地球全体の大気中のCO2濃度が上昇して地球全体の温暖化が進行し、地球全体に影響を及ぼすことによるものである。そうすると、兵庫県においても気候変動が予測されており、原告らの居住地においても被害が 発生するおそれはあるが、温暖化が進んだ場合にそれらの予測が現実化 全体に影響を及ぼすことによるものである。そうすると、兵庫県においても気候変動が予測されており、原告らの居住地においても被害が 発生するおそれはあるが、温暖化が進んだ場合にそれらの予測が現実化する確率、現実に発生する災害等の程度、現実に災害等が発生する場所などには様々なものがあり得るのであり、原告らが実際に生命、身体、健康を害されるほどの被害に遭うか否かは、これらの様々な不確定要素に左右されることになる。したがって、現時点において、原告らの生命、 身体、健康に被害が生ずる具体的危険が生じていると認めることはできない。 この点について、原告らは、気候変動による被害の具体的危険性の有無については、国際社会が目指す削減目標との関係で許容できないレベルでの危険をもたらすか否かによって判断すべきであると主張する。し かし、国際社会が目指す削減目標は、地球全体の温暖化を防止するためのものであるのに対し、原告らに生ずる被害の具体的危険性は、地球温暖化の影響が原告ら個々人に実際に生ずることの具体性をもって判断すべきものであるから、地球全体の温暖化の危険性をもって、原告ら個々人に生ずる具体的危険と同一視することはできない。原告らの上記主張 は採用できない。 また、この点を措くとしても、現在、産業革命からの平均気温の上昇を2℃より十分低く、1.5℃にとどめることを目標とするパリ協定やグラスゴー気候合意といった国際的な枠組みの下、各国で温室効果ガスの削減に向けた取組みがされており、わが国でも、地球温暖化対策計画、 2050年カーボンニュートラル、2030年削減目標の引上げ及び地 球温暖化対策推進法の改正等の取組みが進められている。また、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)の研究も進められており、本件アセスにおいても ボンニュートラル、2030年削減目標の引上げ及び地 球温暖化対策推進法の改正等の取組みが進められている。また、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)の研究も進められており、本件アセスにおいても、将来のCCSの導入に向けて、所要の検討を継続的に行うとされている。確かに、1.5℃目標の達成には現行の各国の貢献目標(NDC)では不十分とされ、また、CCSの商用化については悲観的 な見通しの意見もあるが、これらの取組みが国内外でされていることを踏まえると、現在の時点において、目標の達成が不可能であり、上記の予測どおりの事態が現実化すると直ちに認めることはできない。したがって、この点からも原告らの生命、身体、健康が地球温暖化によって害されることについての具体的危険が現に生じているとは認められない。 この点について、原告らは、CO2は、その排出量の累積によってその影響が長期的・継続的に深刻化し、不可逆的な被害をももたらすのであるから、危険な気候変動の被害を防止し、回避する合理的な方法は、できる限り早い段階において必要な排出削減をとることであるとして、危険の切迫性を主張する。しかし、まさにそのような事態を回避するた めに上記のとおり国内外で地球温暖化対策が進められていることからすると、現在の時点において被害発生の具体的危険が生じているとは認めることはできない。 また、原告らは、本件新設発電所は、年間設備利用率を80%として年間692万tのCO2を排出することが見込まれており、30年間稼 働するとすれば、日本の残余のカーボンバジェットの3.2%を占めるから、確実に地球温暖化に寄与すると主張する。しかし、そうであるとしても、現段階での国際合意は、平均気温の上昇が2℃を十分下回り、1.5℃にとどめることを目標とするもので ジェットの3.2%を占めるから、確実に地球温暖化に寄与すると主張する。しかし、そうであるとしても、現段階での国際合意は、平均気温の上昇が2℃を十分下回り、1.5℃にとどめることを目標とするものであるから、気候変動が現在より少しでも悪化することをもって、直ちに受忍限度を超える具体的危 険が生ずるとはいえない。また、上記のような取組みが進められている 中で、本件新設発電所の稼働によって直ちに上記の削減目標の達成が不可能になったと認めることはできない。 以上によれば、本件新設発電所によるCO2の排出は、地球温暖化に寄与し得るものであるということはでき、その意味で、地球温暖化、気候変動への寄与を通じて前記⑴オのような被害を原告らの生命、身体、 健康にもたらす抽象的な危険を有する行為であるとはいい得るものの、本件新設発電所から排出されたCO2によって、原告らの生命、身体、健康に被害が生ずる具体的危険が生じているとまでは認めることはできない。 エ因果関係の有無について さらに、上記具体的危険の有無を措き、因果関係についてみると、CO2は、それ自体直ちに原告らの生命・身体に対する被害を生じさせ、又は生ずる高度の蓋然性をもたらすものではなく、地球温暖化による被害の発生というのは、地球全体の大気中のCO2濃度が上昇して地球全体の温暖化が進行し、地球全体に影響を及ぼすことによるものであり、 個々の排出源からのCO2の排出は、地球全体の温暖化に寄与するものではあっても、大気汚染物質の場合のように、排出源から排出された有害物質が個々の住民の身体に取り込まれることによって被害が生ずるというものとは異なり、個々の被害との間に直接的な関係があるものではない。 したがって、原告らに生ずるおそれのある被害の発 有害物質が個々の住民の身体に取り込まれることによって被害が生ずるというものとは異なり、個々の被害との間に直接的な関係があるものではない。 したがって、原告らに生ずるおそれのある被害の発生を防止するには、地球環境全体の温暖化を防止する以外に方法はなく、そのためには、地球上の人為的なCO2の排出の総量を管理することが必要となるのであり、そのことは、原告らだけでなく、地球上の全人類について同様に生ずるおそれのある被害の発生を防止することについても同様に妥当する ことである。その意味で、CO2の排出と被害の発生との因果関係は、 地球上のあらゆる人為的なCO2の排出の総体と、気候変動によって地球上の人類に生ずるおそれのあるあらゆる被害の総体との間に存するものである。本件新設発電所は、年間設備利用率を80%として年間692万tのCO2を排出することが見込まれており、それ自体としては大量といわざるを得ないとしても、地球規模で比較すれば年間エネルギー 起源CO2排出量の0.02%であるにとどまる。 これらのことからすると、原告らに生ずるおそれのある被害と、本件新設発電所からのCO2の排出との関係性は、極めて希薄であるといわざるを得ず、本件新設発電所からのCO2の排出に、原告ら個々人に生ずるおそれのある被害を当然に帰責できるだけの連関を認めることはで きない。 この点について、原告らは、本件新設発電所からのCO2の追加的排出により、世界の大気のCO2濃度はわずかでも上昇し、それにより気温は上昇して気候変動は激化し、原告らの居住地においても気候変動にさらされることになると主張する。しかし、この考え方によって、わず かでも寄与があれば因果関係を認めるならば、地球上のあらゆる人為的なCO2排出源が、原告ら個々人 の居住地においても気候変動にさらされることになると主張する。しかし、この考え方によって、わず かでも寄与があれば因果関係を認めるならば、地球上のあらゆる人為的なCO2排出源が、原告ら個々人に生ずるおそれのある被害を帰責する対象となり得ることになるのであり、それだけでなく、全世界の個々の人々に生ずるおそれのある被害を帰責する対象ともなり得ることになる。 人格権侵害に基づいて他者の社会経済的活動を差し止めるための因果関 係を認めるためには、被害の発生を帰責できるだけの連関の強さが必要であると解するのが相当であり、本件新設発電所のCO2排出量が多いとしても、全地球的に見て被害の発生を当然に帰責できるだけの連関の強さを認めることはできない。 また、連関の強弱の点を措くとしても、地球温暖化の進行は、CO2 の多様な人為的排出源の全てが寄与して生じているのであるから、原告 らに生ずるおそれのある被害を防止するためのCO2の排出削減方法も、どのような排出源からの排出をどの程度ずつ削減するかによって多様なものがあり得るところであり、排出を削減すべき排出源やその削減量があらかじめ一義的に定まるわけではない。CO2の排出は、この点において、大気汚染物質の排出の場合に、排出される有害物質が人体に取り 込まれて悪影響を及ぼすのを防止するためには、有害物質の排出源による排出を止めることが一義的に必要になるのとは異なる。そして、そのようなCO2の排出削減方法の選択・決定は、本来的に、エネルギー政策等を含めた政策的観点から、民主制の過程によって行われるべきものであり、その選択・決定なしに、多様な排出源のうちの特定のものを、 原告ら個々人に生ずるおそれのある被害を帰責させる対象として法的に選択・特定することはできないという によって行われるべきものであり、その選択・決定なしに、多様な排出源のうちの特定のものを、 原告ら個々人に生ずるおそれのある被害を帰責させる対象として法的に選択・特定することはできないというべきである。 この点について、原告らは、気候変動のこれ以上の悪化の抑止という世界中の共通目標との関係で、特に優先的に抑止されるべき類型の行為は、社会通念上、強い違法と評価されるとし、本件新設発電所のCO2 排出量が大量であることや、グラスゴー気候合意においては、具体的な削減対策として、排出削減対策の講じられていない石炭火力発電所の段階的削減の努力を加速させることが明記されたことを指摘する。しかし、グラスゴー気候合意を踏まえても、各国において、石炭火力発電所をどのようにして段階的に削減し、他の方策と併せてどのようにその達成目 標を実現するかは、各国の政策的判断に委ねられるのであって、そのような政策的判断とそれに基づく各種の措置を抜きにして、当然に本件新設発電所からのCO2の排出が一義的に違法性を帯び、原告ら個々人に生ずるおそれのある被害を帰責させる対象として法的に特定されるとはいえない。 また、原告らは、本件新設発電所は、他の新設大型石炭火力発電所と 強い関連共同性があり、既設及び新設の石炭火力発電所とは弱い関連共同性があるとして、それらの全体と原告ら個々人に生ずるおそれのある被害との間には相当因果関係があると主張する。 しかし、前記のような地球温暖化により被害が発生するプロセスに照らすと、CO2の人為的排出源は、排出量の大小はあるにせよ、そのい ずれもがCO2を排出して地球温暖化に寄与している点で同質であり、上記プロセスとの関係では地理的な近接性や業種的な関連性は無関係である。そうすると、事業上の一体 出量の大小はあるにせよ、そのい ずれもがCO2を排出して地球温暖化に寄与している点で同質であり、上記プロセスとの関係では地理的な近接性や業種的な関連性は無関係である。そうすると、事業上の一体性がないにもかかわらず、全ての人為的な排出源から新設の又は既設を含めた石炭火力発電所のみを取り出して、それらを一括して本件新設発電所との関連共同性を認めるべき理由 があるとはいえない。 以上のことに照らすと、本件新設発電所からのCO2の排出と、前記⑴オにおいて判示した温暖化に起因する気候変動による気象・気候災害の激甚化によって原告ら個々人に生ずるおそれのある被害の間に相当因果関係があるとは認められない。 オしたがって、本件新設発電所の稼働により原告らの生命、身体、健康が侵害される具体的危険が存在すると認めることはできず、また、温暖化に起因する気候変動による気象・気候災害の激甚化によって原告ら個々人に生ずるおそれのある被害との間に相当因果関係があると認めることもできない以上、その余の点について判断するまでもなく、CO2に関する伝統 的人格権に基づく本件新設発電所の建設及び稼働の差止めを求めることはできない。 ⑶ CO2に関する平穏生活権(安定気候享受権)に基づく差止請求の可否原告らは、石炭燃焼に由来する大量のCO2からの気候変動とそれがもたらす原告らの生命・健康等への不可逆的な被害に晒される可能性がある中で、 原告らは、日常生活においてより安定した気候を享受し、不安や恐怖のない 生活を送る権利として平穏生活権(安定気候享受権)を有し、本件新設発電所の稼働によってそれが侵害される旨主張する。 しかしながら、現時点において、地球温暖化により原告らの生命、身体、健康が侵害される具体的危険が存在すると 権(安定気候享受権)を有し、本件新設発電所の稼働によってそれが侵害される旨主張する。 しかしながら、現時点において、地球温暖化により原告らの生命、身体、健康が侵害される具体的危険が存在すると認めることができないことは前記のとおりである。そうすると、地球温暖化による被害についての原告らの不 安は、不確定な将来の危険に対する不安であるというべきであるから、現時点において、法的保護の対象となるべき深刻な不安とまではいえない。また、原告らの主張が、そのような場合であっても地球温暖化に対する恐怖や不安から生活の平穏を保護するための権利として安定気候享受権を認めるべきとするものであるならば、そこにいう安定気候享受権は、原告ら個々人の生活 の平穏という利益を基礎とする形はとっているものの、実質的には、具体的危険が生ずる以前の段階で、安定した気候という環境の保全そのものを求める主張にほかならないというべきである。このような性質を有する原告らの主張する安定気候享受権は、原告らの個々人の人格権により保護されている法益と認めることはできない。 また、この点を措くとしても、地球温暖化による被害について生ずる原告らの恐怖や不安を、本件新設発電所に一義的に帰責することができないことは、先に述べたのと同様である。 したがって、CO2に関する平穏生活権(安定気候享受権)に基づく本件新設発電所の建設及び稼働の差止めを求めることはできない。 5 小括以上によれば、その余の点(争点⑷)について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。 6 結論よって、本件訴訟のうち、別紙2死亡当事者目録記載の者による訴えは、同 人らが本件訴訟の提起後、本判決言渡し前である同別紙記載の各死亡日に死亡 したことに 主文 よって、本件訴訟のうち、別紙2死亡当事者目録記載の者による訴えは、同人らが本件訴訟の提起後、本判決言渡し前である同別紙記載の各死亡日に死亡したことにより当然に終了したから訴訟の終了の宣言をし、その余の原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官髙松宏之 裁判官矢向孝子 裁判官山口大輔
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