平成24(ネ)10011 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成24年6月27日 知的財産高等裁判所 2部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成22(ワ)32858
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平成24年6月27日判決言渡 平成24年(ネ)第10011号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(ワ)第32858号) 口頭弁論終結日平成24年5月23日判決 控訴人(原告) 株式会社エムケイテック 訴訟代理人弁護士 石下雅樹 恩田俊明 秋本恵理 弁理士 工藤一郎 恒田勇 被控訴人(被告) 酒井容器株式会社 被控訴人(被告) マルイ包裝株式会社 両名訴訟代理人弁護士 稲元富保 弁理士 宮田信道 被控訴人(被告) 明太化成株式会社 訴訟代理人弁護士 熊倉禎男 渡辺光 小林正和 弁理士 村社厚夫 渡邊徹 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人酒井容器株式会社は,控訴人に対し,2500万円及びこれに対する平成22年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人明太化成株式会社は,控訴人に対し,5000万円及びこれに対する平成22年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被控訴人マルイ包裝株式会社は,控訴人に対し,2500万円及びこれに対する平成22年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被控訴人マルイ包裝株式会社は,控訴人に対し,2500万円及びこれに対する平成22年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 控訴人(原告)は,発明の名称を「開蓋防止機能付き密閉容器」とする本件特許権(特許第3155677号のうち特許請求の範囲【請求項1】に係る特許権)の特許権者であり,かつ,包裝用容器に係る本件意匠権(意匠登録第984276号)の意匠権者であるが,被控訴人(被告)らの製造・販売に係る別紙イ号製品目録及び別紙ロ号製品目録記載の被告製品が本件特許権又は本件意匠権を侵害していると主張し,不法行為に基づく損害賠償の一部請求として,被控訴人酒井容器株式会社及び被控訴人マルイ包裝株式会社に対してはそれぞれ2500万円,被控訴人- 3 -明太化成株式会社に対しては5000万円の各支払を求めた。 なお,別紙イ号製品目録及び別紙ロ号製品目録に記載された被告製品のうち,被控訴人酒井容器株式会社は品番Kで始まる製品を製造し,被控訴人明太化成株式会社は品番Pで始まる製品を製造し,被控訴人らはいずれも全製品を販売している。 なお,イ号製品については特許権,意匠権の双方の侵害が主張され(選択的併合),ロ号製品については特許権侵害のみが主張されている。 2 原判決は,被告製品について,本件発明(本件特許権に係る発明)の構成要件を充足せず,本件意匠とも類似しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 3 前提事実は,原判決3頁20行目以下の「2 前提事実」記載のとおりであり,そのうち,本件発明の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(A~Hの項目は原判決が付したものである。)。 【請求項1】A 容器本体としての身と,B 周縁部に身の 事実」記載のとおりであり,そのうち,本件発明の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(A~Hの項目は原判決が付したものである。)。 【請求項1】A 容器本体としての身と,B 周縁部に身の上端の起立口縁部に反転して密嵌する被着縁部片を有する蓋とを,C それぞれ軟質または半硬質のプラスチックにより形成し,D 身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突設することにより,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁落し溝を形成し,E 環状突片の突出基端にそれを欠除するための切取溝を形成し,F 外側の一部にはその切取りのための摘みを垂設し,G 且つ,摘みの一側において切取溝に至る切口を設けたことを特徴とするH 開蓋防止機能付き密閉容器。 第3 当事者の主張次のとおり付加するほかは,原判決8頁10行目以下の「4 争点に関する当事者の主張」記載のとおりである。 1 控訴人の主張(1) 特許権の文言侵害の有無について- 4 -ア構成要件Cの充足の有無について(ア) 原判決は,本件明細書も,「軟質または半硬質」及び「硬質」という用語を,材質,すなわち材料それ自体が有する硬さ(硬度)によって使い分けていることからして,構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」は硬質のプラスチックであるポリスチロール(PS)を明示的に除外しているものと解されるから,蓋がポリスチロール(PS)により形成されている被告製品は構成要件Cを充足しないと判断した。 しかしながら,構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」という文言は,本件発明の権利範囲を限定するための記載である。このため,この文言の解釈に当たっては,出願人がいかなる技術的思想について特許権を取得しようとしたのかという点を考慮しなければならない。 本 文言は,本件発明の権利範囲を限定するための記載である。このため,この文言の解釈に当たっては,出願人がいかなる技術的思想について特許権を取得しようとしたのかという点を考慮しなければならない。 本件発明の技術的思想の本質的部分は,①壊れたりひび割れしたりするおそれがなく安全であり,②こじ開けられることのないように密閉が確実な,開蓋防止機能付き密閉容器を提供することにある(本件明細書段落【0006】)。 開蓋のために蓋の縁部片を切り取る際の衝撃によって身が壊れたりひび割れが生じたりするというトラブルは,身の弾性が小さいことに起因するものである。したがって,上記①の機能の観点からは,身の弾性が開蓋の際に縁部片を切り取る衝撃に耐えられないような製品が除外される。また,密閉を確実にするためには,蓋の弾性が重要である。なぜなら,蓋が係合部分の身の形状に合わせて変形することによって,蓋と身との間に生じる空間の体積を小さくすることが可能となるためである。したがって,上記②の機能の観点からは,蓋が密閉を確実とする程度の弾性を有していない製品が除外される。 以上のような観点から「軟質または半硬質のプラスチック」という文言を解釈すれば,上記①②の機能を十分に発揮できないような製品が除外されると解すべきである。 (イ) また,本件発明は,控訴人が開発した密閉容器であるMHシリーズを- 5 -改良して発明されたものであるところ,このMHシリーズの開発工程における素材の変遷も,上記(ア)の解釈の有力な根拠となる事実である。 すなわち,控訴人は,MHシリーズの開発工程において,当初,蓋をポリエチレン(PE)にすることを要求されていたが,ポリエチレン(PE)では反りや歪みが強かったため,ポリエチレン(PE)よりも曲がりにくい素材であるポリプロピレン(PP)を 程において,当初,蓋をポリエチレン(PE)にすることを要求されていたが,ポリエチレン(PE)では反りや歪みが強かったため,ポリエチレン(PE)よりも曲がりにくい素材であるポリプロピレン(PP)を用いることとした。ポリエチレン(PE)の硬度はポリプロピレン(PP)よりも小さいため,原判決の解釈によれば,ポリエチレン(PE)はポリプロピレン(PP)よりも「軟質」の素材である。それにもかかわらず,ポリエチレン(PE)を蓋の素材として用いることは,MHシリーズの開発工程において既に排除されているのである。本件発明の前身であるMHシリーズの開発工程において上記のような考慮がなされている以上,本件発明についても,硬度が小さすぎる素材は反りや歪みが強いため蓋には適さないという思想が前提とされているというべきであり,構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」という文言も,上記前提に立って用いられたものであるから,この文言を,硬度が小さければよいという趣旨に理解するべきではない。控訴人は,MHシリーズの開発から本件発明に至るまで一貫して,密閉容器としての機能の観点から蓋の素材を選択しており,その上で,密閉容器としての機能を実現できないような素材を蓋の素材から除外する意図で,「軟質または半硬質のプラスチック」という文言を用いて本件発明の権利範囲を限定したのである。 よって,身又は蓋に用いられたプラスチックが,上記①②の機能を実現する上で不都合のないものであれば,そのプラスチックは,硬度にかかわらず,「軟質または半硬質のプラスチック」に含まれると解すべきである。 (ウ) なお,本件明細書段落【0004】は,従来技術の問題点を述べるに当たって,「身が硬質の例えばポリスチロール等のプラスチックである」製品を例に挙げており,身にポリスチロール(PS)を用 る。 (ウ) なお,本件明細書段落【0004】は,従来技術の問題点を述べるに当たって,「身が硬質の例えばポリスチロール等のプラスチックである」製品を例に挙げており,身にポリスチロール(PS)を用いた製品が本件発明の権利範囲から除外されることは読み取れる。しかしながら,この記載は,蓋については言及し- 6 -ていない。蓋にポリスチロール(PS)を用いた被告製品は,これまでも通常の流通過程において流通しており,最低限実用に耐えうる密閉性は有していると考えられるから,上記の機能を実現する上で不都合はなく,蓋にポリスチロール(PS)を用いた場合も,構成要件Cを充足する。 (エ) 以上のとおりで,蓋がポリスチロール(PS)により形成されている被告製品は,構成要件Cを充足する。 イ構成要件Dの充足の有無について原判決は,構成要件Dの「その上に」とは「環状突片の上に」を意味すると判断した。 しかしながら,「上」という用語は,通常「高い位置。高い場所。」を意味するから,縁落し溝が環状突片の上に形成されているのであれば,縁落し溝は下記の図の「環状突片の上」として示した場所にあることになる。しかるに,実際には,縁落し溝は,下記の図のように,まさに身の起立口縁部の下端部の上というべき場所に形成されている。したがって,「その上に」とは,「身の起立口縁部の下端部の上に」を意味すると解すべきである。 (本件発明の【図4】に控訴人が説明を加えた図) また,原判決は,縁落し溝が環状突片によって形成されるものであることを要する旨判示する。しかしながら,一般に,AがBを形成するという場合には,AはB- 7 -の構成要素の一部をなすものであって,溝については,底面より高い周囲の部分も溝の一部であるから,被告製品の環状突片に相当する部分も縁落し溝を形 般に,AがBを形成するという場合には,AはB- 7 -の構成要素の一部をなすものであって,溝については,底面より高い周囲の部分も溝の一部であるから,被告製品の環状突片に相当する部分も縁落し溝を形成しているといえる。 したがって,原判決の上記判断は誤りであり,被告製品は構成要件Dを充足する。 ウ構成要件Fの充足の有無について原判決は,構成要件Fにおける「摘みを垂設」について,垂れ下がるように,下向きに摘みが形成されていることを意味すると解している。 しかしながら,「垂直」には,「重力の方向。鉛直。」という意味の他に,二つの直線が互いに90度で交わる場合を表す意味がある。この場合,ある物が他の物に対して角度が90度となるように配置されていれば足りるのであって,鉛直方向に配置されている必要はない。 被告製品の摘みは,容器側面に対して垂直に配置されており,このような配置角度も「垂直」の一形態であって,「垂設」に含まれると解すべきである。 (2) 特許権の不完全利用による侵害の有無について特許権侵害訴訟において,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,一定の要件があるときは,相手方が製造等をする製品又は用いる方法が,特許発明の不完全利用として,特許発明の技術的範囲に属するものと解する余地がある(知財高裁平成17年7月12日判決(平成17年(ネ)第10056号))。 被控訴人らは,被告製品の蓋が輸送時に破損するという事態が現実に生じているにもかかわらず,破損を防ぐための蓋の材質の変更をせずに,その製造販売を続けている。このような被控訴人らの行為は,密閉容器の製造業者として合理性を欠いたものであり,そのような行為をするのは特許権侵害の責任を免れるためである。 そして,被告製品は本件発明と同様,身 販売を続けている。このような被控訴人らの行為は,密閉容器の製造業者として合理性を欠いたものであり,そのような行為をするのは特許権侵害の責任を免れるためである。 そして,被告製品は本件発明と同様,身の縁落し溝に蓋の被着縁部片の最端周縁が落ち込む構造となっており,こじ開けられることのないように密閉を確実にするという本件発明の作用効果を享受するものである。 - 8 -すなわち,蓋をポリスチロール(PS)によって成形するという変更点は,食品用密閉容器という製品としての作用効果を低下させる以外には他に何らの優れた作用効果を伴わないにもかかわらず,被控訴人らは,もっぱら権利侵害の責任を免れるために,ことさら本件発明の構成要件の一部を変更した技術を用いて本件発明の実施品に類似した製品を製造し,本件発明の作用効果を享受しているものである。 かかる行為は,本件発明の構成要件にむしろ有害的事項を付加してその技術的思想を用いるものに他ならず,本件発明の保護範囲を侵害するものと解すべきである。 (3) 意匠の類否についてア原判決は,本件意匠を包装用容器一般に係る公知意匠と対比し,その外形をありふれた態様と判断した上で,本件意匠の要部は摘みであると判断した。 しかしながら,本件意匠は,単なる容器ではなく,「開蓋防止機能付密閉容器」に係るものである。従来の密閉容器は,外周部分で接する身と蓋との摩擦力を利用することにより密閉性を実現するものであり,身と蓋との接触によって生じる応力が全ての身と蓋との接触領域において均等になる形状が円形であることから,機能上,円形であることが常識的であった。これに対して,控訴人は,円形以外の外形でありながら漏れの生じない密閉容器の形状に関し創意工夫を重ねた結果,本件意匠を考案したのである。したがって,本件意匠の要部はその外部輪郭 ことが常識的であった。これに対して,控訴人は,円形以外の外形でありながら漏れの生じない密閉容器の形状に関し創意工夫を重ねた結果,本件意匠を考案したのである。したがって,本件意匠の要部はその外部輪郭にあり,このような密閉容器とは機能が異なる物品に係る公知意匠を比較の対象とすべきではない。 なお,本件意匠に係る物品は「包装用容器」であるが,「シール解除状態を示す参考図」からして,開蓋防止機能を有する構造であることは明らかである。また,控訴人は,本件意匠に係る物品を「開蓋防止機能付密閉容器」として出願したところ,この物品名が経済産業省令で定める物品名として列挙されていないことから,「包装用容器」と補正したにすぎない。 イ本件意匠に係る物品は,店頭に並ぶ際の容器としては密閉を目的としており,家庭にて開蓋する際にこの密閉が解放されるような,開蓋防止機能を有する- 9 -密閉容器である。これに対し,被控訴人らが主張する公知意匠に係る物品は,密閉機能を有するものではないか,開蓋防止機能が付いていないものである。このように,本件意匠に係る物品は,被控訴人ら主張の公知意匠に係る物品とは異なる機能を有している。 密閉容器であることは,意匠の形態に大きな影響を及ぼす。すなわち,密閉容器であるためには身と蓋との境界線が非常に薄く,ぴったりと固く合わさっていることになる。一方,密閉機能を有しない容器の意匠においては身と蓋との境界線は比較的緩やかで柔らかく合わさっていることが想定できる。つまり,図面に現れていない範囲でも密閉容器の意匠と非密閉容器の意匠とでは明らかな相違が生まれる。 さらに開蓋防止機能はおのずとシールを必要とし,その厚みが生まれるので,その点でさらに非密閉容器に係る意匠と本件意匠との差が顕著となる。 このように,物品の機能の面から検討する かな相違が生まれる。 さらに開蓋防止機能はおのずとシールを必要とし,その厚みが生まれるので,その点でさらに非密閉容器に係る意匠と本件意匠との差が顕著となる。 このように,物品の機能の面から検討すると,本件意匠には,被控訴人らの主張に係る公知意匠とは異なる創作性を見出すことができる。 したがって,公知意匠の存在をもって,本件意匠が「ありふれた態様であった」などとは認められない。 ウ被控訴人らの主張に係る公知意匠は,溝,キャラクター,花柄等の模様を備えており,このような特徴が意匠の要部に当たる。 これに対し,本件意匠は無模様であるから,その形状に創作性が発揮される。 したがって,本件意匠については,その形状,特に上部の外部輪郭が意匠の要部である。 エ原判決は,容器の側面に突出している摘み部分のみが要部に当たるとしている。 しかしながら,本件意匠のように比較的背の低い包装用容器で包装された食品等が店頭で平積みに陳列された場合,一般消費者は真上ないし斜め上方から容器を眺めることになり,容器の側面は蓋近辺を除いて全く見えないか,少なくともほとんど強調されない。このように,需用者は容器の側面を重視していないから,側面の- 10 -形状に創作性が入ることはなく,側面は容器に係る意匠の要部にはなりえない。 2 被控訴人らの主張(1) 特許権の文言侵害の有無に対してア構成要件Cの充足の有無について控訴人は,壊れやすさ,ひび割れやすさ,安全性,(こじあけが容易か否かという観点からの)密閉性などといった機能の観点から,ポリスチロール(PS)を「軟質または半硬質のプラスチック」に含めようとするが,構成要件Cの文言である「軟質ないし半硬質のプラスチック」という,プラスチックの材質とは大きくかけ離れた概念を持ち出して独自の解釈を展開す )を「軟質または半硬質のプラスチック」に含めようとするが,構成要件Cの文言である「軟質ないし半硬質のプラスチック」という,プラスチックの材質とは大きくかけ離れた概念を持ち出して独自の解釈を展開するものである。 また,控訴人は,開発工程における素材の変遷等について主張するが,このような事情は本件明細書には何ら記載されておらず,第三者には窺い知れない控訴人の自社開発製品の開発過程が,本件発明の技術的範囲の確定に影響を及ぼすことはない。 控訴人は,本件明細書段落【0004】の記載は,蓋にポリスチロール(PS)を用いた製品について言及していないと主張する。しかしながら,本件発明は,身と蓋とを「それぞれ軟質または半硬質のプラスチック」とするものであって,身と蓋を峻別して解釈することは,特許請求の範囲の第三者に対する公示機能を害する。 イ構成要件Dの充足の有無について控訴人は,構成要件Dの縁落し溝が身の起立口縁部の下端部の上に形成されると主張する。 しかしながら,構成要件Dの文言から,環状突片の上に縁落し溝が形成されることは明らかである。本件明細書の実施例においても,環状突片11の上に,縁落し溝12が形成されたものが開示されている。したがって,構成要件Dの「その上に」は,「環状突片の上に」と解される。 また,控訴人は,被告製品の環状突片に相当する部分が縁落し溝を構成すると主- 11 -張するが,上記のとおり,本件発明の環状突片は,その上に縁落し溝が形成されるものであるから,控訴人の主張は前提を欠く。加えて,本件発明の縁落し溝は,「被着縁部片の最端周縁」を「落ち込ませる」溝でなければならないのであり,高い周囲の部分も溝であるという控訴人の主張は,本件発明の構成に反する。被告製品の環状突片に相当する部分は,縁落し溝よりも上部の先端に設け の最端周縁」を「落ち込ませる」溝でなければならないのであり,高い周囲の部分も溝であるという控訴人の主張は,本件発明の構成に反する。被告製品の環状突片に相当する部分は,縁落し溝よりも上部の先端に設けられており,「縁落し溝」を形成するものではなく,「起立口縁部の下端部」に形成されたものでもない。 したがって,被告製品は構成要件Dを充足しない。 ウ構成要件Fの充足の有無について構成要件Fの「垂設」の意義は,請求項の文言及び明細書の記載等の参酌により解釈すべきところ,本件明細書には,「…摘み15が下向き…に形成される。」などと記載されている。また,本件発明では,容器側面に対して水平方向に設けられた環状突片については「突設」と表現している。 さらに,控訴人が主張するように「垂直」を鉛直以外の方向に用いる場合には,「~に対して垂設」ないし「~から…垂設」と記載されており,その基点が明確になっている。これに対し,本件発明の「垂設」にはそのような基点が明記されていないから,通常の文言どおり,垂れる方向すなわち下向きと解するのが自然である。 したがって,摘みを水平に設けた被告製品は,構成要件Fを充足しない。 (2) 不完全利用による侵害の有無に対して不完全利用に関する控訴人の主張は,訴訟提起から約1年8月後に,しかも,控訴審の段階に至って初めて提出されたものであり,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。 不完全利用論については,判例・学説において定説を見ず,明確な要件が定立されているとはいい難いのであって,この点を明確にせずに展開された控訴人の主張は,不完全な主張であって,主張自体失当である。 控訴人が主張する蓋の材質については,本件発明の構成要件Cで,「軟質及び半- 12 -硬質のプラスチック」と限定されている。本件明細 た控訴人の主張は,不完全な主張であって,主張自体失当である。 控訴人が主張する蓋の材質については,本件発明の構成要件Cで,「軟質及び半- 12 -硬質のプラスチック」と限定されている。本件明細書の段落【0004】,【0006】の記載によれば,本件発明は,従来技術である硬質プラスチックからなる身と軟質プラスチックからなる蓋の組み合わせについて,硬質プラスチックによって容器を形成した場合の「壊れたりひび割れが生じたりする」という課題に着目し,当該課題解決の手段として,蓋と身をいずれも「軟質ないし半硬質のプラスチック」で形成したのであるから,蓋の材質を「軟質及び半硬質のプラスチック」とすることは本件発明の本質的部分である。他方で,被告製品が蓋に用いたポリスチロール(PS)は,透明度が高く,光沢があることから,中身の食品を引き立てる効果がある。したがって,「蓋をポリスチロール(PS)によって成形するという変更点は,食品用密閉容器という製品としての作用効果を低下させる以外には他に何らの優れた作用効果を伴わない」との控訴人の主張は誤りである。 控訴人は,構成要件Cについてのみ言及し,構成要件D,Fについて何ら言及しておらず,その主張は不完全である。 (3) 意匠の類否に対してア本件意匠に係る物品と,公知意匠に係る物品は,いずれも「包装用容器」であり,意匠法上同一の物品である。また,包装用容器の分野に属する意匠の創作者は,開封防止機能付密閉容器の意匠を突然に創作したのではなく,本件意匠の出願前から長い間,開封防止機能なしの容器又は密封容器の意匠を創作してきて,その背景の下に,容器又は密封容器に開封防止機能を追加したと考えられる。したがって,本件意匠に係る容器が,「包装用容器」に密封機能及び開蓋防止機能の付加された「開蓋防止機能付密閉容器 創作してきて,その背景の下に,容器又は密封容器に開封防止機能を追加したと考えられる。したがって,本件意匠に係る容器が,「包装用容器」に密封機能及び開蓋防止機能の付加された「開蓋防止機能付密閉容器」であったとしても,本件意匠の要部を判断するにあたり,「包装用容器」に係る公知意匠が参酌されるべきである。 イ密閉等の機能は,控訴人が本件意匠の要部と主張する「平面視における外部輪郭は全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する部分は程度の差はあるもののいずれも膨らみを帯びた弧状をなし,かつ,略補正方形の角に相当する部分は,各辺に相当する部分よりも曲率の大きな弧状をなしている」形状に対して何- 13 -らの影響を与えていないのであって,この形状がありふれた形状ではないとする根拠にはならない。 意匠に係る物品の機能がいかなるものであれ,それが「物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」(意匠法2条1項)に現れていなければ,意匠として考慮される余地はない。また,物品の機能が意匠に影響するとしても,願書に添付されている図面等に現されていなければ,これを考慮することはできない(意匠法24条1項参照)。しかしながら,控訴人は,「図面に現れていない範囲」の相違を主張しており,その主張は失当である。 また,控訴人は,シールによる厚みについて主張するが,図面上,そのような厚みは現されていない。また,本件意匠の説明書には,「横長の帯状」と表現されており,その幅や公知意匠との差違については表現されていない。 ウ控訴人は,模様などといった公知意匠の要部を抽出し,そのような公知意匠の要部が本件意匠に存するか否かを問題にしているが,本件意匠の要部認定において公知意匠を参酌するのは,「公知意匠にない新規な創作部分の存否」を判断するためであって,「公知意匠 し,そのような公知意匠の要部が本件意匠に存するか否かを問題にしているが,本件意匠の要部認定において公知意匠を参酌するのは,「公知意匠にない新規な創作部分の存否」を判断するためであって,「公知意匠の要部にない新規な創作部分の存否」を判断するためではない。公知意匠の存在により,公知ないし周知の(ありふれた)形状が本件意匠の要部から排除されるのであって,公知意匠の要部が何かは関係がない。 そして,公知意匠は,いずれも,「上部の外部輪郭」が,「全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する部分についてはふくらみを帯びた弧状を成しておりかつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当する部分よりも曲率の大きな弧状を成して(いる)」のであるから,このような形状は,ありふれた形状であって,本件意匠の要部とはなり得ない。 エ包装用容器について,未開封であることは,毒物混入等の観点から食品の安全性を示す重要な指標であり,需要者は未開封であることを確認して商品を購入する。また,開封されている場合には,食品の劣化が早く進むなど,食品の品質に悪影響を与えるおそれがあり,開封の有無は,消費者にとって重要な関心事であ- 14 -る。 このように,消費者は,未開封であることを確認するために摘みに注目するのであって,摘みは,本件意匠の要部を構成する。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件C,D,Fを充足せず,かつ,本件意匠とも類似しないものと判断する。その理由は,不完全利用にも該当しないとの点を含めて,次のとおり付加するほかは,原判決51頁20行目以下の「第3 当裁判所の判断」のとおりである。 2 控訴人の当審主張について(1) 文言侵害の有無についてア構成要件Cの充足の有無控訴人は,構成要件Cの「 ほかは,原判決51頁20行目以下の「第3 当裁判所の判断」のとおりである。 2 控訴人の当審主張について(1) 文言侵害の有無についてア構成要件Cの充足の有無控訴人は,構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」について,本件発明の技術的思想を斟酌し,①壊れたりひび割れしたりするおそれがなく安全であり,②こじ開けられることのないように密閉が確実である,という2つの機能を発揮できない製品を除外するものと解すべきである旨主張する。 しかしながら,文言侵害の有無を判断する前提となる特許発明の技術的範囲は,基本的に,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるのであるから(特許法70条1項),本件明細書に記載された本件発明の技術的思想を斟酌するとしても,「軟質または半硬質のプラスチック」という文言から離れて,機能面からのみ技術的範囲を定めることはできないし,上記の文言に含まれない事項が特許請求の範囲に記載されているものと解することもできない。そして,「軟質または半硬質のプラスチック」という文言からして,少なくとも硬質のプラスチックが除外されるのは明らかであること,本件明細書の記載や周知技術を斟酌するとポリスチロール(PS)は硬質のプラスチックに含まれること,被告製品の蓋が硬質のプラスチックであるポリスチロール(PS)により形成されていることは,原判決が51頁26行目か- 15 -ら52頁26行目までにおいて判示するとおりであるから,被告製品は構成要件Cを充足しないというべきであり,この点に関する原判決の判断に誤りはない。 控訴人はまた,控訴人の製品の開発過程を斟酌して構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」を解釈すべきであると主張する。しかしながら,そのような第三者が知り得ない事情を斟酌することは,特許請求の範囲を公示する 控訴人の製品の開発過程を斟酌して構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」を解釈すべきであると主張する。しかしながら,そのような第三者が知り得ない事情を斟酌することは,特許請求の範囲を公示することによって禁止権の範囲を明らかにする特許法の趣旨に反するものであって,控訴人の上記主張は採用し得ない。 控訴人は,本件明細書段落【0004】の記載は,身が硬質のプラスチックである容器についてしか言及していないので,蓋にポリスチロール(PS)を用いた被告製品は構成要件Cを充足すると主張する。しかしながら,構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」は,「蓋」(構成要件B)にも係っているのであるから,控訴人の上記主張は,本件発明の構成に基づかないものであり,採用することができない。 イ構成要件Dの充足の有無控訴人は,構成要件Dの縁落し溝について,身の起立口縁部の下端部の上に存在するのであって,これが環状突片の上に存在するとした上で,被告製品が構成要件Dを充足しないと判断した原判決は誤りである旨主張する。 しかしながら,原判決が53頁21行目以下の「(2) 構成要件Dの充足性」において判示するとおり,構成要件Dの「環状突片を突設することにより,その上に…縁落し溝を形成し,」との文言や,本件明細書の「…環状突片11の形状によりその上に蓋3の捲りを防止する縁落し溝12が形成されている。」(段落【0013】)との記載等に照らし,本件発明の縁落し溝は,環状突片の上に形成されることを要するものと認められる一方で,被告製品の環状突片に相当する部分は,その上に縁落し溝が形成されていないことが明らかであるから,被告製品が構成要件Dを充足しないとした原判決に誤りはない。 なお,控訴人は,環状突片が縁落し溝の一部を構成すれば足りるとも主張してい- に縁落し溝が形成されていないことが明らかであるから,被告製品が構成要件Dを充足しないとした原判決に誤りはない。 なお,控訴人は,環状突片が縁落し溝の一部を構成すれば足りるとも主張してい- 16 -るが,この主張は,縁落し溝が環状突片の上に形成されていなくてもよいという控訴人の上記主張を前提とするものであり,前提となる主張を採用し得ない以上,この主張についても採用することはできない。 ウ構成要件Fの充足の有無控訴人は,構成要件Fの「垂設」について,鉛直方向に限らず,2つの物が90度の角度になるよう配置されている場合も含まれる旨主張する。 しかしながら,「垂設」の語を鉛直方向以外の方向に用いる場合には,「基板に対して垂設」(甲46),「定盤に対して垂設」(甲47)のように,垂設の基準となる物が特定されている。これに対し,本件発明については,特許請求の範囲においてそのような基準となる物は特定されていない。また,そもそも本件明細書において,「…摘み15が下向きの舌片状に形成される…」(段落【0014】)と記載されていることなどに照らすと,原判決が,構成要件Fの「摘みを垂設」について,摘みを下向きに形成することを意味すると解したことに誤りはなく,控訴人の主張は採用することができない。 (2) 不完全利用による侵害の有無について控訴人は,被告製品の蓋がポリスチロール(PS)により形成されている点について,不完全利用として本件発明の技術的範囲に属すると主張する。 しかしながら,控訴人の当該主張は,蓋をポリスチロール(PS)により形成する点,すなわち構成要件Cのみに関するものであるから,被告製品が本件発明の構成要件D,Fを充足することを前提とするものであると解されるところ,これまで説示してきたとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Cの すなわち構成要件Cのみに関するものであるから,被告製品が本件発明の構成要件D,Fを充足することを前提とするものであると解されるところ,これまで説示してきたとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Cのみならず,構成要件D,Fについても充足していないから,構成要件Cの不完全利用について判断するまでもなく,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属しない。 なお,被控訴人らは,控訴人の当該主張について,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきであると主張するが,当裁判所は上記のとおり判断するものである。 (3) 意匠の類否について- 17 -ア控訴人は,本件意匠の要部を認定する際に,その出願前における密閉容器の外形は円形であることが常識的であったことからして,これと機能の異なる密閉機能を有しない公知意匠を本件意匠と対比すべきではないのに,そのような対比をして,本件意匠の要部は,外部形状ではなく,摘み部分であると認定した原判決には誤りがある旨主張する。 しかしながら,本件意匠の出願前における密閉容器の外形は円形であることが常識的であったという事実を認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠(乙ロ2)によれば,本件意匠の出願(平成7年1月20日)から6年以上前の昭和63年10月19日に出願された考案に係る公開実用新案公報には,外部輪郭が全般的に略正方形であって,角に相当する部分が弧状をなしている気密性を有する包装用容器の図面が記載されていることが認められるのであり,控訴人の上記主張は,その前提を欠く。 イ控訴人は,本件意匠に係る包装用容器は開蓋防止機能を有するのに対し,公知意匠に係る包装用容器はそのような機能を有しないことから,本件意匠には公知意匠にはない創作性が認められるのであり,そのような公知意匠の存在をもって本件意匠がありふれた態様で 能を有するのに対し,公知意匠に係る包装用容器はそのような機能を有しないことから,本件意匠には公知意匠にはない創作性が認められるのであり,そのような公知意匠の存在をもって本件意匠がありふれた態様であったとはいえないと主張する。 しかしながら,仮に開蓋防止機能を有するが故に創作性が認められるとすれば,それは,開蓋防止機能に関連する部分の意匠について認められるのであって,そのような機能と関連しない形状についてまで創作性が認められる根拠にはならないと解されるところ,控訴人が本件意匠の要部と主張する「外部輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する部分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)を成しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当する部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を成している。このため,本件意匠は,全体として膨らみを帯びることとなる。」という形状は,原判決が57頁10行目以下の「(2) 公知意匠」で判示するとおり,開蓋防止機能の有無にかかわらず,包装用容器の意匠としてありふれたものと認められるか- 18 -ら,そのような外部形状は本件意匠の要部には当たらないとした原判決の判断に誤りはない。 ウ控訴人は,公知意匠の要部は模様等であるとした上で,これを本件意匠と対比し,本件意匠は無模様であることから,その形状,特に上部の外部輪郭が要部に当たる旨主張する。 しかしながら,公知意匠を参酌することによって本件意匠の要部から除外したのは,公知意匠におけるありふれた形状であり,控訴人の上記主張は採用することができない。 エ控訴人は,需要者である一般消費者は,容器の側面を重視しないから,側面の摘みを本件意匠の要部と認定した原判決は誤りである旨主張する。 しかしながら,原判決が5 主文 主張は採用することができない。 理由 控訴人は,需要者である一般消費者は,容器の側面を重視しないから,側面の摘みを本件意匠の要部と認定した原判決は誤りである旨主張する。 しかしながら,原判決が58頁22行目から59頁22行目にかけて判示するとおり,開蓋防止機能のある包装用容器について,一般消費者は,未開封であること(食品の安全性)の確認等の観点から,摘み部分の形状に着目するものと認められるのであって,摘み部分が本件意匠の要部であるとした原判決の認定に誤りはない。 第5 結論 よって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものではなく,本件意匠と類似するものでもないから,本訴請求を棄却した原判決は相当であるので,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官池下朗 裁判官古谷健二郎 (平成24年(ネ)第10011号判決別紙) イ号製品目録番号品番幅奥行き高さ KV-100 24.5 KV-160 KV-200 34.5 KV-230 KV-300 KS-100 KS-20 KV-200 KV-230 KV-300 KS-100 KS-200 KS-230 KS-300 (欠番) KS-550 KS-1100 PH-80 PH-100 PH-120 PH-200 PH-220 18-1PH-300 18-2PH-300 PH-330 PH-500 ※単位はいずれも㎜(ミリメートル)。※18-1及び2は,同一の品番だが摘みの形状が異なる。 - 21 -(平成24年(ネ)第10011号判決別紙) ロ号製品目録番号品番幅奥行き高さ KVL-300 PH-600 PH-7S 4~10(欠番) KS-500 PH-500K ※単位はいずれも㎜(ミリメートル)。

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