令和6年7月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第70513号不正競争等に対する損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和6年5月23日判決原告 A 同訴訟代理人弁護士 中澤佑一同船越雄一同松本紘明被告 B同訴訟代理人弁護士 別城尚人 主文 1 被告は、原告に対し、28万円及びこれに対する令和5年9月4日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを14分し、その13を原告の負担とし、その余を 被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、380万円及びこれに対する令和5年9月4日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、空手道場を経営する原告が、同じく空手道場を経営する被告に対し、被告による別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件各投稿」といい、同目録記載の番号に合わせて「本件投稿1」などという。)の投稿が、原告の名誉権及び名誉感情を侵害するとともに、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布す る行為(不正競争防止法〔以下「不競法」という。〕2条1項21号)に当たる として、民法709条及び不競法4条に基づき、損害賠償金380万円(慰謝料150万円、信用毀損による無形損害200万円及び弁護士費用30万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である令和5年9月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分 万円(慰謝料150万円、信用毀損による無形損害200万円及び弁護士費用30万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である令和5年9月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者等原告は、「C」の名称で空手道場(以下「本件道場」という。)を運営している空手道場主である。 被告は、「D」の名称で空手道場(以下「被告道場」という。)を運営している空手道場主である。 訴外Eは、訴外Fの妻である。EとFは、いずれも本件道場に所属していた。 ⑵ 事故の発生(甲3)平成29年12月12日、原告が、本件道場において、稽古の一環としてE のスパーリングの相手を務めている際、原告の左脚上段回蹴りがEの右頭部に当たるという事故(以下「本件事故」という。)が発生した。 ⑶ Eによる訴訟提起(甲3)Eは、令和2年12月11日付けで、本件事故によって傷害を負ったと主張し、原告を被告とする損害賠償請求訴訟を提起した(さいたま地方裁判所令和 2年(ワ)第2857号)。さいたま地方裁判所は、令和5年6月16日、Eの請求を棄却する旨の判決(以下「別件判決」という。)を言い渡した。Eは、同判決に対して控訴したが、控訴審は和解により終了した。 ⑷ 本件各投稿(甲4)ア Fは、ソーシャルネットワーキングサービス「Facebook」(以下 「フェイスブック」という。)において、令和5年6月24日頃、「F」名 義のアカウントで別件判決に関する投稿(以下「元投稿」という。)をした。 元投稿の内容は、別紙投稿記事目録記載1の「F」以下の記載のとおり 」という。)において、令和5年6月24日頃、「F」名 義のアカウントで別件判決に関する投稿(以下「元投稿」という。)をした。 元投稿の内容は、別紙投稿記事目録記載1の「F」以下の記載のとおりであり、誰もが閲覧可能な公開の設定で投稿された。 イ被告は、令和5年6月24日、元投稿を引用の上、「この判決っておかしくないですか? 道場内は治外法権という事でしょうか?」というコメント を付した投稿(本件投稿1)を、誰もが閲覧可能な公開の設定で投稿し、同日及び同月25日、これに対する第三者からのコメントに返信する形式で、別紙投稿記事目録記載2から5までに記載のとおり、本件投稿2から5までを投稿した。なお、元投稿を含め、本件各投稿に原告の氏名の記載はない。 2 争点 ⑴ 本件投稿1、2、4及び5についての同定可能性の有無⑵ 本件投稿1、2、4及び5についての名誉毀損の成否⑶ 本件投稿1、2、4及び5の各投稿が不競法2条1項21号所定の不正競争に当たるか⑷ 本件投稿3及び4についての名誉感情侵害の成否 ⑸ 損害の発生の有無及びその額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点⑴(本件投稿1、2、4及び5についての同定可能性の有無)について(原告の主張)本件各投稿に原告の氏名の記載はないが、本件各投稿を閲覧した者の中には相 当な割合で原告とFの関係を認識している者が含まれ、このような者にとっては、元投稿における「道場主」が原告を指すものであることは容易に認識可能である。 また、本件各投稿からFの存在を認識した者であっても少し調べれば、本件各投稿における「道場主」が原告を指すことは容易に理解可能である。したがって、本件投稿1、2、4及び5の対象とする「道場主」を原告と同定することは可能 で 識した者であっても少し調べれば、本件各投稿における「道場主」が原告を指すことは容易に理解可能である。したがって、本件投稿1、2、4及び5の対象とする「道場主」を原告と同定することは可能 である。 (被告の主張)否認ないし争う。 本件各投稿の内容から、不特定多数の者が原告について記載されたものと認識することは不可能である。すなわち、本件各投稿の内容から「道場主」が原告であると特定するためには、Fと面識があり、Fが所属していた道場が本件道場で あり、本件道場の道場主が原告であることの各事情を前提知識として知っている必要がある。 しかし、被告と原告のフェイスブック上の「共通の友達」16名についてみると、Fを除く15名のうち12名は上記のような前提知識を有さず、残りの3名は元投稿の前に本件事故について認識していた。また、被告とFのフェイスブッ ク上の「共通の友達」7名のうちEを除く6名についてみても、うち2名は上記の前提知識を有さず、うち4名は本件事故について認識していた。 以上によれば、本件各投稿を見ても原告に関する投稿であると認識することはできない。なお、本件各投稿によりFの存在を認識した者も少し調べることで、容易に本件各投稿が原告に関するものであると理解できるという原告の主張は、 同定可能性の判断の基準時が表現時であることを無視した独自の見解である。 2 争点⑵(本件投稿1、2、4及び5についての名誉毀損の成否)について(原告の主張)本件投稿1、2、4及び5のうち別紙対象記載部分は、いずれも、「原告が空手の稽古中にEに対して上段回し蹴りを行い後遺症が残るほどの大けがを負わ せた」という事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させる。しかし、Eは、本件事故によって通常の空 「原告が空手の稽古中にEに対して上段回し蹴りを行い後遺症が残るほどの大けがを負わ せた」という事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させる。しかし、Eは、本件事故によって通常の空手稽古に随伴する範囲内の軽傷を負ったにすぎず、上記摘示事実は、後遺症が残るほどの大けがを負ったという点で真実に反する。したがって、上記の各投稿は、原告の名誉権を侵害する。 そして、被告は、Fによる一方的な投稿を盲信し、事実関係の確認等をするこ となく上記の各投稿をしているから、真実と信じるについて相当な理由があると はいえない。 (被告の主張)否認ないし争う。 本件投稿1、2、4及び5は、別件判決の結果に疑義を呈する文脈で記載されたものであり、被告は、元投稿における「道場主」が原告であるという認識はな く、本人を特定する意図もなかったから、金銭による慰謝を要するほど原告の権利を侵害するものではない。 上記の各投稿は、被告による意見論評であり事実摘示ではない。仮に事実摘示であったとしても、社会的に正当と認められる公共性を有し、公益性を備えている。また、Eは、本件事故によって受傷し5年以上経った現在もリハビリ通院を する生活であることをブログに記載しており、Eの診断書の内容等を踏まえても、後遺症が残るほどの大けがを負ったといえるから、上記の各投稿の内容は真実であり、少なくとも真実と信ずるについて相当の理由がある。 3 争点⑶(本件投稿1、2、4及び5の各投稿が不競法2条1項21号所定の不正競争に当たるか)について (原告の主張)前記1のとおり、本件投稿1、2、4及び5については、不競法2条1項21号の対象としての「他人」が特定されている。また、原告と被告は、共に空手道場を経営しており、不競法上の「競争 (原告の主張)前記1のとおり、本件投稿1、2、4及び5については、不競法2条1項21号の対象としての「他人」が特定されている。また、原告と被告は、共に空手道場を経営しており、不競法上の「競争関係」にあるところ、被告は、前記2のとおり、上記各投稿によって原告の空手道場主としての営業上の信用を害する虚偽 の事実を流布した。したがって、上記各投稿は、同号所定の虚偽事実の流布に当たる。 (被告の主張)否認ないし争う。 前記1のとおり、本件投稿1、2、4及び5について、「他人」が特定されて いるとはいえない。また、世界総極真の空手ルールの競技のための指導を行う本 件道場と、沖縄剛柔流空手拳法の技術の伝承のための指導を行う被告道場とでは市場における競合が生じるおそれはなく、原告と被告は「競争関係」にはない。 さらに、前記2のとおり、Eは後遺症が残るほどの大けがを負ったといえるから、上記の各投稿は、虚偽の事実の流布には当たらない。 4 争点⑷(本件投稿3及び4についての名誉感情侵害の成否)について (原告の主張)本件投稿3及び4は、別紙対象記載部分記載のとおり、原告がEに後遺症を負わせたことを前提に、「鬼畜道場主」、「鬼畜の所業」などと原告の人格を激しく否定する侮辱的文言を記載したものであり、社会通念上許容できる限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものである。 (被告の主張)否認ないし争う。 本件投稿3及び4は、原告に直接伝達されたものではなく、フェイスブックの友人間での会話にすぎないから、名誉感情侵害には当たらない。また、本件投稿3及び4は、Eが原告から上段回し蹴りを受けて後遺症が残るほどの大けがを負 ったことを前提に、一般論として門下生に対してはけがをさせないように細心の注意を払うべ には当たらない。また、本件投稿3及び4は、Eが原告から上段回し蹴りを受けて後遺症が残るほどの大けがを負 ったことを前提に、一般論として門下生に対してはけがをさせないように細心の注意を払うべきであり、特に女性や子供に対しては注意すべきであるという被告の意見論評を表示するにすぎないから、社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たらない。 5 争点5(損害の発生の有無及びその額)について (原告の主張)本件各投稿によって、原告には、次のとおり合計380万円の損害が発生した。 ⑴ 虚偽の事実の流布によって被った無形損害の額 200万円⑵ 名誉権損害によって被った精神的損害の額 100万円⑶ 名誉感情侵害によって被った精神的損害の額 50万円 ⑷ 弁護士費用 30万円 (被告の主張)争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認め られる。 ⑴ 本件道場は、極真空手の流派である国際空手道連盟極真会館世界総極真の道場であり、(住所は省略)において、相手に直接打撃を与えるフルコンタクト制の空手を指導している(甲1、3)。 これに対し、被告道場は、(住所は省略)において、沖縄剛柔流の空手の指 導を行う道場である(甲2)。 ⑵ Fは、遅くとも平成23年頃には、本件道場に所属し、指導員として活動するとともに、多数の空手大会に出場して入賞するなどしており、これらの活動を通じて、本件道場が加盟する上部団体である「世界総極真」の関係者のほか、他の流派や道場の関係者とも交流があった(甲3、8ないし13)。 本件道場のウェブサイトには、Fが指導員であることやFの大会実績が掲載されている(甲10)。 ⑶ Fは、令和 のほか、他の流派や道場の関係者とも交流があった(甲3、8ないし13)。 本件道場のウェブサイトには、Fが指導員であることやFの大会実績が掲載されている(甲10)。 ⑶ Fは、令和2年5月頃、本件道場を辞め、その後、自ら空手道場を開いた。 Fが主宰する「G」のウェブサイトには、本件道場に所属していた当時の大会実績が掲載されている。(甲2、3、18) ⑷ 被告のフェイスブックのアカウントには、他の流派の空手関係者を含む515人のフォロワーがいる。そのうち相互フォローの関係にある「友達」には、原告の「友達」と「共通の友達」が16名、Fの「友達」と「共通の友達」が7名存在しており、その中にはFのほか、複数の空手関係者も含まれている。 また、Fのフェイスブックには、本件道場に所属していた当時の投稿も残って いる。(甲6、乙4、弁論の全趣旨) ⑸ H整形外科のI医師の作成の令和2年4月4日付けの診断書によると、Eについて、病名「頚椎捻挫」、「右上肢末梢神経障害」のほか、「平成29年12月12日受傷。平成29年12月18日当科初診。頚部痛、右上肢痛、右上肢しびれあり現在理学療法物理療法を行っているが、現在症状残存している。」との記載がある。また、同院のカルテには、Eが自覚症状を訴えて令和 5年時点でもリハビリ通院を継続していたことの記載があるが、「XPC5/6 骨棘+」という記載のほか、本件事故に起因すると考えられる客観的、他覚的な所見の記載は見当たらない。(甲5、乙6)⑹ 別件判決は、本件事故の態様について、Eはヘッドギアなどのサポータを装着しており、原告は「『はい、上段』などと事前に上段蹴りが向かうことを予 告した上、力を加減して本件上段回し蹴りをしたところ、これが原告の右頭部に当たっ いて、Eはヘッドギアなどのサポータを装着しており、原告は「『はい、上段』などと事前に上段蹴りが向かうことを予 告した上、力を加減して本件上段回し蹴りをしたところ、これが原告の右頭部に当たった」と認定し、本件事故に起因するEの傷害の程度について、「本件事故によって負った傷害は、重くはなかった」と認定した。(甲3) 2 争点1(本件投稿1、2、4及び5についての同定可能性の有無)について⑴ ある投稿における匿名の人物が原告であると同定できるか否かについては、 原告と面識がある又は原告に関する知識を有する者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。 そして、上記人物が原告であると同定された上記投稿の内容が、上記人物の社会的評価を低下させる場合には、上記者が不特定若しくは多数であるとき又 は特定少数であってもこれを流布するおそれがあるときは、原告の名誉を毀損するものと認めるのが相当である。 これを本件についてみると、前記前提事実及び前記認定事実によれば、本件投稿1、2、4及び5には、単に空手道場の「道場主」である旨の記載があるにとどまり、原告の氏名は記載されていない一方、元投稿には、上記にいう「道 場主」とは、Fが過去に所属していた道場の道場主である旨の記載があること が認められる。そうすると、原告と面識がある又は原告がFの所属していた道場の道場主であるという知識を有する者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、当該知識を手掛かりにして本件投稿1、2、4及び5における「道場主」は、原告をいうものであると十分に同定することができると認めるのが相当である。 そして、前記前提事実及び前記認定 とすれば、当該知識を手掛かりにして本件投稿1、2、4及び5における「道場主」は、原告をいうものであると十分に同定することができると認めるのが相当である。 そして、前記前提事実及び前記認定事実によれば、本件各投稿は一般に公開されているところ、被告のフェイスブックには、他の流派の空手関係者を含む多数のフォロワーがおり、その中には、Fや原告と面識がある者も複数人含まれていることが認められる。そうすると、本件道場の指導員をも務めていたFの際立った活躍ぶりに照らしても、本件各投稿の閲覧者には、原告と面識があ る又は原告がFの所属していた道場の道場主であるという知識を有する者が多数存在したものと認めるのが相当である。 仮に、上記者が特定少数であったとしても、本件各投稿の内容が特定の空手道場の信用性や安全性に疑義を呈するものであることを考慮すれば、上記者が、本件各投稿の内容を空手関係者に流布するおそれがあることを認めることが できる。 したがって、本件投稿1、2、4及び5については、後記3のとおり、名誉を毀損する内容を含むものである以上、原告に対する名誉毀損が成立すると認めるのが相当である。 ⑵ これに対し、被告は、上記各投稿を閲覧した不特定多数の者において、上記 各投稿にいう「道場主」が原告であると同定することはできないと主張する。 しかしながら、ある投稿における匿名の人物が原告であると同定できるか否かについては、必ずしも不特定多数の者を基準として判断すべきものではなく、原告と面識がある又は原告の属性に関する知識を有する者を基準として判断すれば足りることは、上記において説示したとおりである。そうすると、被告 の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。 また、被告は、被告のフェイスブック上の「 を基準として判断すれば足りることは、上記において説示したとおりである。そうすると、被告 の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。 また、被告は、被告のフェイスブック上の「友達」のうち、原告やFと「共通の友達」について、本件事故について既に知っていた者を除くと、本件各投稿の対象者が原告であると同定するのに必要な前提知識を有する者はいないと主張する。しかしながら、同定可能かどうかは、原告と面識がある又は原告がFの所属していた道場の道場主であるという知識を有する者を基準とすべ きことは、前記において説示したとおりである。そして、本件各投稿の閲覧者には、原告と面識がある又は原告がFの所属していた道場の道場主であるという知識を有する者が多数存在したものと認めるのが相当であり、仮に、上記者が特定少数であったとしても、上記者が本件各投稿の内容を空手関係者に流布するおそれがあることを認めることができることは、前記のとおりである。 そうすると、被告の主張は、名誉毀損の成否を左右するものといえない。したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。 その他に、被告は、本件投稿3(「鬼畜道場主」又は「鬼畜の所業」をいう部分)の同定可能性をも問題とするものの、本件投稿3は名誉感情侵害の成否が問題となるものであって、客観的名誉ではなく主観的名誉の侵害が問題とな るものであるから、当該投稿の対象者である原告が自身に関する投稿であると認識している以上、被告の主張は、名誉感情侵害の成否を直ちに左右するものとはいえず、採用の限りではない。 3 争点2(本件投稿1、2、4及び5についての名誉毀損の成否)について⑴ 社会的信用の低下の有無について ある表現の内容が他人の社会的評価を低下させるか否かについては の限りではない。 3 争点2(本件投稿1、2、4及び5についての名誉毀損の成否)について⑴ 社会的信用の低下の有無について ある表現の内容が他人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものである(前掲最高裁昭和31年7月20日判決)。この理は、フェイスブック投稿の内容が他人の社会的評価を低下させるか否かについても、異なるところはない。 これを本件についてみると、前記前提事実によれば、本件投稿1は、元投稿 を引用した上、「この判決っておかしくないですか? 道場内は治外法権とい う事でしょうか?」というコメントを付したものである。そして、引用された元投稿の内容をみるに、前記前提事実によれば、大要、①Fの妻がスパーリングを行っている際に、道場主である指導者から上段回し蹴りを受け、後遺症が残るほどの大けがを負い、裁判を起こしたが、F側が敗訴したこと、②裁判において、F側は指導者である以上力を加減して稽古を行うべきだったと主張し たのに対し、相手方はフルコンタクト空手を習う以上は危険を引き受けて稽古に臨むべきであり安全に配慮して指導する義務を怠ったとはいえないなどと反論し、最終的に裁判官が相手方の主張のみを認めたこと、③このままでは空手の指導者は、力の弱い子供や女性に対して自らがけがを負わせても何らおとがめなしということになってしまうということ、以上が記載されたものである ことが認められる。 上記認定事実によれば、本件投稿1は、上記①に係る事実経過を所与の前提として元投稿を引用した上、上記②に係る裁判所の判断に疑問を呈するとともに、治外法権という言葉を用いて、上記③に係るFの意見に同調するものと認められる。 これらの事情の下においては、一 提として元投稿を引用した上、上記②に係る裁判所の判断に疑問を呈するとともに、治外法権という言葉を用いて、上記③に係るFの意見に同調するものと認められる。 これらの事情の下においては、一般の読者(原告を同定可能な者においては当該者をいう。)の普通の注意と読み方を基準とすると、本件投稿1は、Fの妻がスパーリングを行っている際に、道場主である指導者から上段回し蹴りを受け、後遺症が残るほどの大けがを負ったという事実(以下「本件摘示事実」という。)の摘示をも含むものと認めるのが相当であり、このことは、その後 において一連に投稿された後記認定に係る本件投稿2、4及び5の内容からみても、明らかである。 そして、本件摘示事実は、一般の読者(原告を同定可能な者においては当該者をいう。)の普通の注意と読み方を基準とすると、原告の道場主ないし空手指導者としての資質及び道場の安全性等に関する信用を明らかに損なうもの といえるから、原告の社会的評価を低下させることは、自明である。 その後に投稿された本件投稿2、4及び5についても、元投稿を含む本件投稿1を所与の前提として、これに対する第三者のコメントへの返信として投稿されたものであり、その記載内容は、「相手が大怪我をして後遺症に苦しんでいるにも関わらず開き直っている態度は武道家・格闘家以前の問題だと思います。」(本件投稿2)、「帯下の相手を後遺症が残る怪我をさせる」(本件投 稿4)、「実力差がある相手に後遺症が残る怪我をさせた」及び「完全なる故意の傷害罪」(本件投稿5)というものである。そうすると、上記各投稿の記載内容を踏まえると、上記と同様に、本件摘示事実をいう上記各投稿の内容が、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。 これに対し、被告は、上記各投稿の内容 のである。そうすると、上記各投稿の記載内容を踏まえると、上記と同様に、本件摘示事実をいう上記各投稿の内容が、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。 これに対し、被告は、上記各投稿の内容は、意見論評であると主張するもの の、前記認定に係る元投稿の内容及びこれを引用した一連の上記各投稿の内容を総合考慮すれば、本件投稿1を含め、本件摘示事実を含む事実も併せて摘示したものと解するのが相当であり、本件摘示事実が原告の名誉を毀損すると認められる以上、被告の主張は、名誉毀損の成否を左右するものといえない。 また、被告は、上記各投稿は、別件判決の結果に疑義を呈する文脈で記載さ れたものであり、道場主が原告を指すという認識はなく、原告を特定する意図もなかったのであるから、金銭による慰謝を要するほどの権利侵害には当たらないと主張する。しかしながら、被告の主張を慰謝料の算定において斟酌するのは格別、被告の主張は、少なくとも、上記各投稿による社会的評価の低下の有無に係る前記認定自体を左右するものとはいえない。 したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。 ⑵ 真実性、相当性の抗弁の成否について事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときは、上記行為 には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行 為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10 るについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁、最高裁平成15年(受)第1793号・第1794号同16年7月15日第一小 法廷判決・民集58巻5号1615頁各参照)。 これを本件についてみると、前記前提事実、前記認定事実及び証拠(甲3、5、乙6)並びに弁論の全趣旨によれば、原告がFの妻であるEのスパーリングの相手を務めている際、Eの右頭部に原告の回し蹴りを当てるという本件事故が発生したこと、Eは、本件事故時にはヘッドギアを装着しており、原告は 事前に上段蹴りが向かうことを予告した上、力を加減して上段回し蹴りをしたこと、Eは本件事故後に頚部痛や右上肢の痛み、しびれの症状を訴えて、整形外科を受診し、「頸椎捻挫」、「右上肢末梢神経障害」との診断を受けたこと、Eはその後も数年間にわたって痛みやしびれの自覚症状を訴えてリハビリ通院を継続していたが、カルテには他覚的、客観的な所見の記載はなく、別件判 決でも「本件事故によって負った傷害は重くはなかった」と認定されていること、以上の事実が認められる。 上記認定に係る本件事故の態様、医師による診断内容及びカルテの記載によれば、Eがけがを負った事実までは認められるものの、これを超えて、後遺症の残る大けがであったことまでを的確に裏付ける他覚的、客観的所見が認めら れない事情を踏まえると、後遺症の残る大けがを負わせたという事実は、真実であると認めるに足りないというべきである。そうすると、本件摘示事実の重要な部分について、真実であることの証明があったものと認めることはできない。 そして の残る大けがを負わせたという事実は、真実であると認めるに足りないというべきである。そうすると、本件摘示事実の重要な部分について、真実であることの証明があったものと認めることはできない。 そして、被告は、Eのブログの内容(乙1)を根拠として、Eが後遺症の残 る大けがを負ったことを、真実であると信じるにつき相当の理由があった旨主 張するものの、上記内容は飽くまで一方当事者のブログの記載にすぎず、これを軽信したことをもって、被告において本件摘示事実を真実と信ずるについて相当の理由があったものと認めることはできない。 したがって、その余の点につき判断するまでもなく、被告の主張は、いずれも採用することができない。 ⑶ 小括以上によれば、本件投稿1、2、4及び5の各投稿は、名誉毀損が成立するものと認められる。 4 争点3(本件投稿1、2、4及び5の各投稿が不競法2条1項21号所定の不正競争に当たるか)について ⑴ 前記3によれば、道場主が稽古の相手方に対し後遺症の残る大けがを負わせたという本件摘示事実は、真実であると認めることはできないから、本件投稿1、2、4及び5に係る本件摘示事実は、不競法2条1項21号にいう「虚偽の事実」であるといえる。他方、本件投稿1、2、4及び5は、上記にいう「道場主」を明らかにしていないものの、原告と面識がある又は原告がFの所属し ていた道場の道場主であるという知識を有する者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、本件投稿1、2、4及び5における「道場主」は、原告をいうものであると十分に同定できることは、前記2において説示したとおりである。 そうすると、少なくとも上記者との関係では、同号にいう「他人」とは、原告をいうものとして十分に特定できるものといえる。そして、本件摘示事 と十分に同定できることは、前記2において説示したとおりである。 そうすると、少なくとも上記者との関係では、同号にいう「他人」とは、原告をいうものとして十分に特定できるものといえる。そして、本件摘示事実は、 原告の道場主ないし空手指導家としての資質及び道場の安全性等に関する信用を損なうものといえるから、原告の営業上の信用を害することは、明らかである。 したがって、本件投稿1、2、4及び5の各投稿は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を、上記者に対し告知し又は流布するものといえるから、不 競法2条1項21号所定の不正競争に当たるものと認めるのが相当である。 ⑵ これに対し、被告は、原告と被告には、不競法2条1項21号にいう「競争関係」がない旨主張するものの、前記認定事実によれば、本件道場と被告道場は、その流派や所在地を異にするものの、空手の指導という役務を広く提供する点において共通することが認められる。そうすると、原告と被告とは、需要者又は取引者を共通にする可能性を直ちに否定することはできず、同号にいう 「競争関係」にあるものと認めるのが相当である。したがって、被告の主張は、採用することができない。 ⑶ 小括以上によれば、本件投稿1、2、4及び5の各投稿は、不競法2条1項21号所定の不正競争に当たるものと認められる。 5 争点⑷(本件投稿3及び4についての名誉感情侵害の成否)について⑴ 人を侮辱する行為は、社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、その人の名誉感情を侵害するものと解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第3小法廷判決・民集64巻3号758頁)。 これを本件についてみると、前記前提事実によれば、本件投稿3及び4の内 容は、「鬼畜道場主」又 (最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第3小法廷判決・民集64巻3号758頁)。 これを本件についてみると、前記前提事実によれば、本件投稿3及び4の内 容は、「鬼畜道場主」又は「鬼畜の所業」という表現で原告を批判するものであることが認められる。そうすると、鬼畜とは、一般に残酷で非道な行為をする者を指す表現であり、空手道場を経営する原告の空手指導者としての立場に鑑みると、本件投稿3及び4は、社会通念上許容される限度を超えて原告を侮辱するものといえる。 したがって、本件投稿3及び4の各投稿は、原告の名誉感情を侵害するものと認めるのが相当である。 ⑵ これに対し、被告は、本件投稿3及び4はフェイスブックの友人間での会話にすぎず、被告の意見論評を表示するにすぎないため、名誉感情侵害には当たらない旨主張する。しかしながら、上記にいう「鬼畜」という表現の意味内容 に鑑みると、社会通念上許容される限度を超えるというのが相当であり、被告 の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、被告の主張は、採用することができない。 6 争点⑸(損害の発生の有無及びその額)について⑴ 名誉毀損による損害の額前記3のとおり、本件投稿1、2、4及び5の一連の投稿内容は、受傷の程 度について過剰な表現をしたことは否定し難く、原告の社会的評価を低下させるものではあるが、対象者の実名を正面から挙げたものではないこと、元投稿を所与の前提としてその真偽の確認を怠ったという点において落ち度はあるものの、故意に真実とは異なる事実を摘示したものではないこと、以上の事実が認められる。上記認定事実のほか、本件に顕れた一切の事情を総合考慮する と、原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料の額は、合計5万円の限度で認 は異なる事実を摘示したものではないこと、以上の事実が認められる。上記認定事実のほか、本件に顕れた一切の事情を総合考慮する と、原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料の額は、合計5万円の限度で認めるのが相当である。 ⑵ 虚偽事実の流布による無形損害の額被告が流布した内容は、原告が空手道場の道場主であるにもかかわらず、道場に通う女性に対して後遺症が残るような大けがを負わせたというものであ り、当該道場を経営する原告の営業上の信用に与える影響の程度は小さいものとはいえない。他方、本件全証拠によっても、被告が上記内容を流布したことによって原告の営業活動に具体的な支障が生じたものと直ちに認めるに足りない。これらの事情も含め、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、原告に生じた無形損害の額は、合計10万円の限度で認めるのが相当である。 ⑶ 名誉感情侵害によって被った精神的損害の額前記5のとおり、本件投稿3及び4は、原告の名誉感情を著しく貶める表現であり、原告の空手指導者としての尊厳を損なうものと認められるから、その損害の額は、合計10万円の限度で認めるのが相当である。 ⑷ 弁護士費用について 本件訴訟の難易度、審理の経過、認容する請求の内容その他本件において認 められる諸般の事情を考慮すると、被告による不法行為及び不正競争行為と相当因果関係にある弁護士費用相当額は、合計3万円の限度で認めるのが相当である。 7 その他その他に、被告提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、被告の行為 は、原告の空手指導家としての信用及び誇りを損なうものとして、軽率の誹りを免れず、被告主張に係る事情は、損害額の算定において十分に斟酌したものの、被告の侵害論に係る主張は、上記において説示したところを踏ま 告の空手指導家としての信用及び誇りを損なうものとして、軽率の誹りを免れず、被告主張に係る事情は、損害額の算定において十分に斟酌したものの、被告の侵害論に係る主張は、上記において説示したところを踏まえると、いずれも採用することができない。 第5 結論 よって、原告の請求は主文掲記の限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 武富可南 裁判官尾池悠子は差支えのため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 中島基至 別紙投稿記事目録閲覧用URL(URLは省略) 投稿日 2023年6月24日投稿内容投稿内容:この判決っておかしくないですか? 道場内は治外法権という事でしょうか? F お久しぶりです。 久々の投稿失礼します。 以前、自分が道場をやめた理由として、妻がスパーリングを行っている際に、妻の相手をした道場主である指導者から上段回し蹴りをもろに食らってしまい、後遺症が残る程の大けがを負わされ裁判を起こしたことをお伝えしました。 この発信の際に裁判での証人尋問に参加される方を募ったところ、何人かの師範や先生方にご参加いただきました。 この証人尋問の際に和解の話が出ましたが、結局相手が和解を拒否し、先日判決が下さ した。 この発信の際に裁判での証人尋問に参加される方を募ったところ、何人かの師範や先生方にご参加いただきました。 この証人尋問の際に和解の話が出ましたが、結局相手が和解を拒否し、先日判決が下されました。 判決の結果、こちらの完敗です。 この裁判においてこちらからは、「指導者たるものは、稽古の際に道場生の安全を優先し、スパーリングでも相手の技量、 年齢、性別を考慮した上で力を加減して行うことは立場上あたりまえのことであり、特に上段回し蹴りという危険な技を出す場合は細心の注意が必要である」旨主張しました。 これに対し相手方は、「フルコンタクト空手を習うものは危険を引き受けて稽古に臨むべきであり、ましてや上段回し蹴りはルール上禁止されていない正当な技である。指導者である自分は相手が負傷することを予見することができなかったのであるから、安全に配慮して指導する義務を怠ったとは言えない。」と反論しました。 この相手方の主張について知り合いの多くの空手関係者に聞いてみたところ、皆「おかしい」と言って応援もしていただきましたが、裁判官は相手方の主張のみを認め、こちらの主張は全く認めてもらえませんでした。 こちらの主張をひとつでも認めると、すべての損害賠償請求に対してひとつひとつ審査して金額を決めなければならず、仕事量が増えるのを嫌った裁判官が、相手方が認めていることもなかったことにして、一番楽な判決に沿う主張だけを認めそれ以外は認めない、という印象です。 裁判官の見識を疑いますし、非常に残念です。 しかし、当然このままあきらめるわけには行きませんのでこの判決に対し控訴することに決めました。 このままでは、空手の指導者は、力の弱い子供や女性に対して自らがケガを負わせても、何らおとがめなしということになってしまいます。 るわけには行きませんのでこの判決に対し控訴することに決めました。 このままでは、空手の指導者は、力の弱い子供や女性に対して自らがケガを負わせても、何らおとがめなしということになってしまいます。 そんな空手界であってはならないと思います。 投稿日 2023年6月25日 投稿内容J K先生、その通りだと思います。 相手が大怪我をして後遺症に苦しんでいるにも関わらず開き直っている態度は武道家・格闘家以前の問題だと思います。 門下生たちがいずれ年老いて空手の世界から身を引いた時に空手を経験した事が良い思い出にならなければ指導者としては失格だと思います。 投稿日 2023年6月25日投稿内容L さん、この裁判官も一度体験入門で組手を経験すれば良いのでは? 鬼畜道場主と世間知らずの裁判官のタッグなら裁判なんてアテにできません。 投稿日 2023年6月24日投稿内容M さん、その通りですよね。 帯下の相手の技は全て受けるのが黒帯です。 帯下の相手を後遺症が残る怪我をさせるのは鬼畜の所業です。 投稿日 2023年6月24日投稿内容N さん、戦わずして勝つが目標の武の世界で戦う前から実力差がある相手に後遺症が残る怪我をさせたなら武の世界から身を引くべきです。 完全なる故意の傷害罪です。 以上 別紙対象記載部分 不競法及び名誉毀損に係る部分名誉感情侵害に係る部分本件投稿1 「以前、自分が道場をやめた理由として、妻がスパーリングを行っている際に、妻の相手をした道場主である指導者から上段回し蹴りをもろに食らってしまい、後遺症が残るほどの大けがを負わされ裁判を起こしたことをお伝えしました。 理由として、妻がスパーリングを行っている際に、妻の相手をした道場主である指導者から上段回し蹴りをもろに食らってしまい、後遺症が残るほどの大けがを負わされ裁判を起こしたことをお伝えしました。」 本件投稿2 「相手方が大怪我をして後遺症に苦しんでいるにも関わらず開き直っている態度は武道家・格闘家以前の問題だと思います。」 本件投稿3「鬼畜道場主」本件投稿4 「帯下の相手を後遺症が残る怪我をさせる」「鬼畜の所業」本件投稿5 「実力差がある相手に後遺症が残る怪我をさせた」「完全なる故意の傷害罪」 以上
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