令和6(行ケ)10033 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年5月27日 知的財産高等裁判所 2部 判決 請求棄却
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判決文本文36,105 文字)

令和7年5月27日判決言渡 令和6年(行ケ)第10033号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和6年12月18日判決 原告沢井製薬株式会社 同訴訟代理人弁護士小松陽一郎 同原悠介 同千葉あすか 同小山秀 同中田健一 被告東レ株式会社 同訴訟代理人弁護士重冨貴光 同長谷部陽平 同秋田康博 同水野真孝 同訴訟代理人弁理士皆川量之 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2021-800083号事件について令和6年2月28日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、特許権の存続期間延長登録の無効審判請求について請求不成立とした審決に対する取消訴訟である。争点は、無効理由(平成28年法律第108号による改正前の特許法125条の2第1項1号、3号(現行法の125条の3第1項1号、3号)該当性)についての審決の判断の誤りの有無である。関連する条文は、別紙「関連法令」記載のとおりである。 2 特許庁における手続の経緯等 2第1項1号、3号(現行法の125条の3第1項1号、3号)該当性)についての審決の判断の誤りの有無である。関連する条文は、別紙「関連法令」記載のとおりである。 2 特許庁における手続の経緯等⑴ 被告は、発明の名称を「止痒剤」とする発明について、平成9年11月2 1日(優先権主張・平成8年11月25日、日本)を国際出願日とする特許出願(特願平10-524506号。以下「本件特許出願」という。)をし、平成16年3月12日、設定登録を受けた(乙6。特許第3531170号〔請求項の数36〕。以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」といい、本件特許の特許請求の範囲各請求項に係る発明を、請求 項の番号を付して「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書(甲2)を「本件明細書」という。)。 ⑵ 被告は、厚生労働大臣に対し、平成28年3月31日付けで、「ナルフラフィン塩酸塩」を成分に含むレミッチOD錠2.5㎍について、令和元年法律 第63号(令和2年9月1日施行)による改正前の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」という。)14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認を申請し、平成29年3月30日、当該承認(以下「本件承認」という。)を得た(甲96)。 ⑶ 被告は、平成29年6月29日、本件特許権について存続期間延長登録の 出願(甲3。出願2017-700154号。以下「本件延長登録出願」と いう。)をし、拒絶査定、拒絶査定不服審判請求の不成立審決(甲4)、当該審決の取消判決(甲32)等を経て、令和3年8月11日、延長登録(以下「本件延長登録」という。)がされた。 なお、平成28年法律第108号附則 絶査定、拒絶査定不服審判請求の不成立審決(甲4)、当該審決の取消判決(甲32)等を経て、令和3年8月11日、延長登録(以下「本件延長登録」という。)がされた。 なお、平成28年法律第108号附則2条により、同法の施行日(平成30年12月30日)以前にした特許出願に係る特許権の存続期間の延長につ いては、なお従前の例によることとされるので、本件特許権の存続期間の延長については、同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)の例によることになる。 ⑷ ①本件延長登録に係る延長の期間及び②特許法67条2項(現行法の67条4項)の政令(平成30年政令第325号(同年12月1日施行)による 改正前の特許法施行令2条2号イ)で定める処分(以下「本件処分」という。)の内容は次のとおりである(甲1、96)。 ①延長の期間 4年11月26日②本件処分の内容ア特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分 本件承認イ処分を受けた日平成29年3月30日ウ処分を特定する番号22900AMX00538000 エ処分の対象となった医薬品(以下「本件医薬品」という。)販売名レミッチOD錠2.5㎍有効成分ナルフラフィン塩酸塩(一般名称 INNnalfurafine)(有効成分に関し、レミッチOD錠2.5㎍の添付文書〔延長の理由を記載した資料の参考文献4〕[組成・性状]には、ナルフラフィン塩 酸塩2.5㎍[ナルフラフィンとして2.32㎍]と記載されている。) オ処分の対象となった医薬品について特定された用途次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者、慢性肝疾 フィンとして2.32㎍]と記載されている。) オ処分の対象となった医薬品について特定された用途次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者、慢性肝疾患患者⑸ 原告は、令和3年9月29日、被告を被請求人として、本件延長登録につき延長登録無効審判(以下「本件無効審判」という。)を請求した(甲164)。 特許庁はこれを無効2021-800083号事件として審理し、令和4年8月19日には口頭審理を実施した(甲172)。 ⑹ 特許庁は、令和6年2月28日、本件無効審判の請求につき請求不成立との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年3月7日、原告に送達された。 ⑺ 原告は、令和6年4月3日、本件審決の取消を求める本件訴訟に係る訴えを提起した。 3 特許請求の範囲⑴ 本件特許の特許請求の範囲の記載(請求項の数36)は、別紙特許公報中の「特許請求の範囲の記載」のとおりである。 ⑵ このうち、請求項1は、一般式(I)で表される「オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」とするものである。 また、請求項10は、一般式(Ⅱ)で表される「オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」とするものである。 また、請求項15は、一般式(Ⅲ)で表される「オピオイドκ受容体作動 性化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする止痒剤」とするものである。 一般式(Ⅰ) 一般式(Ⅱ) 一般式(Ⅲ) 4 本件審決の理由の要旨原告が主張した無効理由1から無効理由3までのうち、無効理由1及び無効理由3に対する本件審決の理由の要旨は、次のとおりである(原告は、無効理由2については 式(Ⅲ) 4 本件審決の理由の要旨原告が主張した無効理由1から無効理由3までのうち、無効理由1及び無効理由3に対する本件審決の理由の要旨は、次のとおりである(原告は、無効理由2については、本件訴訟において本件審決の取消事由としては主張しないこ とを明らかにしているので、その理由の要旨の記載は省略する。)。 ⑴ 無効理由1(特許法125条の2第1項1号該当性)ア本件医薬品の成分と請求項1に記載された化合物の一般式の対応関係について本件医薬品の成分である塩酸ナルフラフィンは、ナルフラフィンの塩酸 塩であって、本件明細書において、実施例10及び12で止痒効果を示すことが確認された、実施例9の右の式で示される化合物7に相当するものである。 そして、ナルフラフィンは、本件特許の請求項1の一般式(Ⅰ)において、式中の・・・が「単結合」を表し、R¹が「炭素数4のシクロアルキルアル キル」である「シクロプロピルメチル」を表し、R²及びR³が「ヒドロキシ」を表し、Aが「-XC(=Y)-」であって、Xが「NR⁴」を表し、 Yが「O」を表し、R⁴が「炭素数1の直鎖アルキル」である「メチル」を表し、Bが「2重結合を1個含む炭素数2の直鎖の非環状不飽和炭化水素」である「-CH=CH-」を表し、R⁵がであって、Qは「O」を表す有機基である「フラン-3-イル」を表し、R⁶とR⁷が一緒になって「-O-」を表し、R⁸が「水素」を表す、次の構造の化合物に相当する。 イ塩基性の医薬化合物とその酸付加塩の関係について塩基性の医薬化合物の溶解性や安定性を向上させるために塩酸等により 付加塩を形成することは、医薬品分野の技術常識であり、塩化薬物 イ塩基性の医薬化合物とその酸付加塩の関係について塩基性の医薬化合物の溶解性や安定性を向上させるために塩酸等により 付加塩を形成することは、医薬品分野の技術常識であり、塩化薬物では、投与後の生体内で、酸付加塩から遊離塩基が解離し、遊離塩基の形態で粘膜に吸収され、薬効・薬理作用を奏することも、医薬品分野の技術常識である。 ウナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩について ナルフラフィン塩酸塩は、ヒトに投与されると体内で直ちに遊離塩基であるナルフラフィンと塩化物イオンに解離し、ナルフラフィンは吸収され、作用部位である中枢神経系に到達してオピオイドκ受容体と結合し薬効薬理作用を奏する一方、塩酸部分は薬効の存否や薬理作用には影響を及ぼさず、原薬の溶解性や安定性等の物性の改善のために付されたものである。 このことは、本件承認の申請がされた平成28年3月31日までには当業者には広く知られており、本件承認の審査もそのことを前提とする。レミッチの解説においても、κ受容体作動薬であるナルフラフィンがかゆみを 抑制する成分であることが記載されている。 エ本件発明1の実施をするための本件処分の必要性について以上から、本件医薬品は、ナルフラフィンのオピオイドκ受容体作動薬という性質を利用して止痒剤の用途に用いられるものである。 そうすると、本件医薬品は、請求項1の一般式(Ⅰ)で表されるオピオ イドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤であるという、本件発明1の発明特定事項の全てを備えているといえるから、本件発明1の実施に本件処分を受けることが必要であったと認められる。 オよって、本件延長登録は、無効理由1により無効とすべきものではない。 ⑵ 無効理由3(特許法125条の2第1項 いえるから、本件発明1の実施に本件処分を受けることが必要であったと認められる。 オよって、本件延長登録は、無効理由1により無効とすべきものではない。 ⑵ 無効理由3(特許法125条の2第1項3号該当性) ア本件処分は、薬機法14条1項に規定する医薬品製造販売承認であり、医薬品の製造販売については、行政処分である医薬品製造販売承認を受けなければ、特許発明を実施することができず、存続期間の延長登録制度の趣旨を踏まえると、延長登録における特許発明の実施をすることができなかった期間は、承認申請から承認までの期間のほか、承認申請に必要な評 価資料として提出する資料を得るための試験期間を含むと解される。 イ販売名を「レミッチOD錠2.5 ㎍」とする医薬品(本件医薬品)の医薬品製造販売承認申請書資料CTD第1部「行政情報及び添付文書に関する情報」の目次(甲126〔審決乙84〕)、以下「CTD目次」という。)には、本件医薬品の承認申請が「剤形追加に係る医薬品」を申請区分とする ものであることが記載されており、薬食発1121第2号平成26年11月21日厚生労働省医薬食品局長通知(甲123〔審決乙81〕。以下「本件局長通知」という。)によれば、「剤形追加に係る医薬品」とは、既承認医薬品等と有効成分、投与経路、効能・効果及び用法・用量は同一であるが、剤形又は含量が異なる医薬品であること及び「生物学的同等性に関す る資料」の提出が求められていることが記載されている。また、本件医薬 品の承認申請時に提出された書類を示す前記CTD目次の記載により、本件医薬品の承認申請時には、「既承認医薬品に係る資料」として、既承認医薬品であるレミッチカプセル2.5㎍についての医薬品製造販売承認書(写し)、審査報告書、資料概要、 前記CTD目次の記載により、本件医薬品の承認申請時には、「既承認医薬品に係る資料」として、既承認医薬品であるレミッチカプセル2.5㎍についての医薬品製造販売承認書(写し)、審査報告書、資料概要、添付資料一覧や添付文書(案)等が提出されたことが認められる。そして、この「レミッチカプセル2.5㎍」の審査 報告書(甲127〔審決乙85〕)によれば、その承認申請時には、臨床薬理試験である820CPC01試験等が評価資料として提出され、それら評価試料が審査の対象とされて、「血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の効能・効果で承認されたことが認められる。 本件医薬品は、その承認申請の際に、「レミッチカプセル2.5㎍」の申請時に提出された臨床薬理試験の評価資料が提出され、当該評価資料が審査の対象となって、「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者、慢性肝疾患患者」の効能・効果で承認(本件処分)を受けたのであるから、少なくとも本件特許設定登録日以降 に当該試験が行われた期間は、本件処分を受ける必要があるために特許発明の実施をすることができなかった期間に含まれるというべきである。 ウよって、本件延長登録は、無効理由3により無効とすべきものではない。 第3 審決取消事由に関する当事者の主張 1 取消事由1(無効理由1〔特許法125条の2第1項1号該当性〕の判断の 誤り)⑴ 原告の主張ア判例(最高裁平成21年(行ヒ)第326号同23年4月28日第一小法廷判決・民集65巻3号1654頁〔以下「平成23年最判」という。〕、最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判 決・民集69巻7号1912頁〔以下「平成27 第一小法廷判決・民集65巻3号1654頁〔以下「平成23年最判」という。〕、最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判 決・民集69巻7号1912頁〔以下「平成27年最判」という。〕)によ れば、延長登録制度は、延長登録出願が特許発明を「実施」しているものであることを要するものとし、特許・実用新案審査基準「Ⅸ部第2章医薬品等の特許権の存続期間の延長」も同様とするから、本件では、本件処分の対象となった本件医薬品(レミッチOD錠2.5㎍)が本件発明の技術的範囲に属するものでなければ無効な延長登録となる。 イ本件において、本件発明全体から発明特定事項の用語の意義を解釈し、出願経過も参酌すれば、本件発明1の一般式(Ⅰ)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物の薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする止痒剤は、本件発明の技術的範囲には含まれないものと解される。 すなわち、本件発明では、「オピオイドκ受容体作動薬」は、フリー体と その薬理学的に許容される酸付加塩が明確に区別されており、本件特許発明における有効成分とは、医薬品の投与前に原薬の形態で含まれるこの区別された化合物と理解され、投与後に体内に吸収された薬効を奏する形態と捉えることはできないから、双方の形態を区別しつつ双方を含むとすることはできない。 仮に、本件特許請求の範囲の文言解釈上、① 投与前のナルフラフィン塩酸塩、② 投与前のナルフラフィン(フリー体)、③ 投与後に体内で吸収されるナルフラフィン(フリー体)が含まれるとしても、平成13年7月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、一般式(Ⅰ)で表される化合物の場合(請求項1)のみ、薬理学的に許容される塩を有 効成分とする止痒剤が特許請求の範囲 ても、平成13年7月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、一般式(Ⅰ)で表される化合物の場合(請求項1)のみ、薬理学的に許容される塩を有 効成分とする止痒剤が特許請求の範囲から削除され、外形的・意識的に除外されているから、出願経過参酌の原則(禁反言)から、①は除外され、①に起因し服用・投与により付加塩から解離し薬効及び薬理作用を奏する③も、信義則により除外されることとなる。そうすると、① ナルフラフィン塩酸塩ではなく、② ナルフラフィン(フリー体)だけの原薬が本件 発明1の技術的範囲に属することになり、①が本件発明1の発明特定事項 を全て備えるとする本件審決の判断には誤りがある。 ウ本件発明1の発明特定事項である「止痒剤」は、「剤」の用語の意義(各種の薬を調合したもの)から投与前の医薬品を前提とする。米国特許法上も、医薬品は、患者に投与する前の最終剤形にみられる有効成分を意味するとされる(甲25)。本件明細書等で、有効成分の薬効等が説明されると しても、用途の有用性を根拠づけるための説明にすぎず、投与後に体内で吸収されるフリー体を「剤」の技術的範囲に含める根拠にはならない。「止痒剤」は投与前の医薬であり、体内での効果は、特許請求の範囲の解釈や承認申請書の記載とは切り離されなければならない。 エ平成27年最判が製造販売承認書の「有効成分」の記載のみから形式的 に判断すべきでないとするのは、先行処分と後行処分の包含関係であり、処分対象物と発明の技術的範囲の属否の関係ではない。処分内容を実質的に捉えても、処分対象物が本件発明の技術的範囲に属さないという結論は変わらない。フリー体と酸付加塩とが別々に承認されているのが実務の運用であるし、後発医薬品の承認申請において、先発医薬品と異な 質的に捉えても、処分対象物が本件発明の技術的範囲に属さないという結論は変わらない。フリー体と酸付加塩とが別々に承認されているのが実務の運用であるし、後発医薬品の承認申請において、先発医薬品と異なる塩形態 の有効成分を含有することは認められない(甲177、179)。薬機法14条1項、9項の承認(処分)では、処分対象物と用途と形とで出願・登録されるから、特許法67条2項の関係では、出願・登録された「有効成分」の記載が第1に重視されるべきである。承認に当たっては、製造販売の対象医薬品に原薬として含まれる成分に着目して承認が与えられるから、 処分対象物の有効成分も、製造販売の対象医薬品に原薬として含まれる成分と捉えるべきである。薬機法の承認の観点からも、処分対象物の有効成分はナルフラフィン塩酸塩である(甲178、180)。 ⑵ 被告の主張ア延長登録出願に係る医薬品は、当該延長登録出願に係る特許発明の発明 特定事項を全て備える必要があるところ、本件医薬品は本件発明1の発明 特定事項の全てを備えている。 イ本件明細書の記載からすると、本件発明1における「有効成分」は、オピオイドκ受容体作動性という属性に基づき、投与対象において止痒という薬効を生ずるものとして本件明細書に記載される物質と理解し得る。用途発明である本件発明における「有効成分」との文言につき、本件発明の 止痒剤を組成する際に用いられる原料形態(原薬)、製剤中の存在形態、製剤投与後にオピオイドκ受容体作動性を発揮する際の形態等のうちのいずれか特定のものに限定・特定するものと解すべき事情はない。 そして、本件明細書の記載等によれば、一般式(Ⅰ)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする本件発明1の止痒剤は、 ずれか特定のものに限定・特定するものと解すべき事情はない。 そして、本件明細書の記載等によれば、一般式(Ⅰ)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする本件発明1の止痒剤は、それ を組成する際においては上記化合物のフリー体を用いてもその酸付加塩を用いても提供され得るもので、そのフリー体がオピオイドκ受容体作動性という属性に基づき投与対象において止痒という薬効を生ずる止痒剤である。よって、本件発明1における上記化合物を有効成分とする止痒剤の構成は、ナルフラフィン(フリー体)が原薬として配合されている場合 だけでなく、ナルフラフィン塩酸塩が原薬として配合されナルフラフィン(フリー体)が体内で止痒作用を発揮する場合も含む。 ウ包袋禁反言については、本件明細書の記載等から、本件発明1における上記化合物を有効成分とする止痒剤という構成が原薬としてはナルフラフィン塩酸塩が配合され、ナルフラフィン(フリー体)が体内で止痒作用 を発揮する場合も含むと一応解されるにもかかわらず、ナルフラフィン塩酸塩を原薬とする場合が本件発明1の構成に含まれると特許権者が主張することが信義に反するというべき事情はない。 2 取消事由2(無効理由3〔特許法125条の2第1項3号該当性〕の判断の誤り) ⑴ 原告の主張 ア審査基準は、実施することができなかった期間の算定について、3要件(❶処分を受けるために必要不可欠であること、❷その試験の遂行に当たって方法、内容等について行政庁が定めた基準に沿って行う必要があるため企業の試験に対する自由度が奪われていること、❸処分を受けることに密接に関係していること)を定め、裁判例も「特許発明を実施する意思及 び能力があってもなお、特許発明を実施すること 必要があるため企業の試験に対する自由度が奪われていること、❸処分を受けることに密接に関係していること)を定め、裁判例も「特許発明を実施する意思及 び能力があってもなお、特許発明を実施することができなかった期間」などとする。そして、臨床試験では、治験薬の有効性や安全性だけでなく、投与剤形の妥当性等も評価されるから、カプセル投与を定めた臨床試験において、計画書に記載のないOD錠(カプセル以外の剤形)は、処分を受けるための試験とは関係がなく、企業は計画書に拘束されず自由に研究を することができる。そうすると、先行剤形の承認から剤形追加の本件承認までの間も、継続して、❷企業の試験に対する自由度は奪われていない。 イ本件では、OD錠に限り実施することができない期間の回復の必要があったことを要するところ、被告がOD錠として実施する意思や能力がありながら、実施することができなかった期間の開始日は、OD錠として初め ての試験である生物学的同等性試験の開始日とすべきである。OD錠の承認に伴う本件延長登録に軟カプセル剤の臨床試験期間を再度算定することは、実質的に2重に臨床期間を回復することになり制度趣旨に反する。 ⑵ 被告の主張ア 「剤形追加に係る医薬品」で提出を求められる生物学的同等性試験とは、 投与経路、効能・効果及び用法・用量を同じくする既承認医薬品と同様の有効成分血中濃度推移を示すことを確認することができれば、「剤形追加に係る医薬品」の医薬品としての有効性及び安全性は、既承認医薬品と同等であると評価するための試験である。「剤形追加に係る医薬品」の製造販売承認申請で、「生物学的同等性に関する資料」(及び品質に関する一部資料) の提出のみが求められている(甲123)、「剤形追加に係る医薬品」の有 験である。「剤形追加に係る医薬品」の製造販売承認申請で、「生物学的同等性に関する資料」(及び品質に関する一部資料) の提出のみが求められている(甲123)、「剤形追加に係る医薬品」の有 効性及び安全性を確認するに際し、既承認医薬品に係る臨床試験成績及びその確認結果を用いることが制度上予定されているためであり、それが存在しなければ、「剤形追加に係る医薬品」の製造販売承認は、され得ない仕組みとなっている。したがって、当該臨床試験は、「剤形追加に係る医薬品」に係る処分を受けるのに必要な試験であり、当該臨床試験を開始した日が 「その特許発明の実施をすることができない期間」の始期となり、当該臨床試験に要した期間が実施することができない期間に算入される。 イ被告は、本件処分に係る製造販売承認申請に際し、厚生労働省の通知に従い(甲123、125)、既承認医薬品(軟カプセル剤)に関する審査報告書やCTDの概要(サマリー)、本件医薬品の添付文書(案)等を提出し、 これらには、軟カプセル剤の臨床試験の概要・成績が記載されており、厚生労働省及びPMDAにおける本件処分の承認審査の対象となっている。 ウ本件処分を受けるためには、軟カプセル剤を用いた健康成人を対象とする経口単回投与試験(C82001試験)から始まる複数の試験が必要であり、C82001試験は「血液透析患者におけるそう痒症」及び「慢性 肝疾患患者におけるそう痒症」を適応症とする臨床開発における第1相臨床試験として位置づけられる。したがって、本件処分を受けるために必要であった試験の開始日は、C82001試験の治験計画変更届書(甲144)記載の平成10年3月17日であり、その後の必要な試験に要した期間だけでも4年11月26日を超えるから、本件特許発明の実施をす であった試験の開始日は、C82001試験の治験計画変更届書(甲144)記載の平成10年3月17日であり、その後の必要な試験に要した期間だけでも4年11月26日を超えるから、本件特許発明の実施をするこ とができなかった期間はこれを下らない。 エ本件医薬品の延長登録期間に軟カプセル剤の臨床試験期間を算入することは、薬事制度、特許延長登録制度とも整合する。すなわち、延長登録要件である「特許発明の実施をすることができなかった期間」は、「処分」ごとに、当該処分を受けるために必要と認められる試験の期間が認定される べきところ、OD錠の承認審査では、軟カプセル剤に係る臨床試験成績が 存在しなければ、承認され得なかったものであるから、軟カプセル剤に係る臨床試験期間は、OD錠の処分を受けるために必要と認められる試験の期間となる。当該試験に要する期間は、特許発明の実施をすることができなかった期間であるから、これを算入することは延長登録制度の趣旨に適う。 オ審査基準における3要件は、存続期間延長の期間の判断を直ちに妨げるものにはならない。既承認医薬品に係る前記の臨床試験なくして「剤形追加に係る医薬品」に係る承認を受けることはできないから、本件医薬品の延長登録において、軟カプセル剤の臨床試験は、ⅰ)本件処分を受けるために必要不可欠であり、臨床試験であるから、ⅲ)本件処分を受けること に密接に関係したものであり、また、その軟カプセル剤の臨床試験は、厚生労働省令に基づく基準に従って収集され、作成されたものでなければならない治験であったため、ⅱ)企業の試験に対する自由度が奪われているものであるといえる。 また、特許発明を実施することができない期間は、政令で定める処分を 受けるのに必要な試験を開始した 治験であったため、ⅱ)企業の試験に対する自由度が奪われているものであるといえる。 また、特許発明を実施することができない期間は、政令で定める処分を 受けるのに必要な試験を開始した日又は特許の設定登録の日のうちのいずれか遅い方から、処分の効力が発生した日の前日までの期間を意味するから、「特許発明を実施する意思及び能力」自体を延長登録要件充足のメルクマールとする必要はないし、前記薬事制度からすると、本件の軟カプセル剤等の臨床試験は、剤形追加に係る本件医薬品の承認取得を行うために 必要な試験であるから、上記意思及び能力は否定されていない。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所は、本件審決に判断の誤りはなく、原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。 2 取消事由1(無効理由1〔特許法125条の2第1項1号該当性〕の判断の 誤り)について ⑴ 特許権の存続期間の延長制度は、特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とし、特許権の存続期間の延長登録出願は、その特許発明の実施に特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないときは拒絶査定がされ、延長登録についても無効理由となるから(同法 67条の3第1項1号、125条の2第1項1号参照)、特許権の存続期間の延長が認められるためには、延長登録出願の理由となった当該処分の対象が、延長登録出願に係る特許権の請求項に係る特許発明を実施するものであること、すなわちその技術的範囲に属することを要するものと解される(平成23年最判、平成27年最判参照)。 本件では、延長登録出願の理由となった本件処分の対象である本件医薬品が、延長登録 ること、すなわちその技術的範囲に属することを要するものと解される(平成23年最判、平成27年最判参照)。 本件では、延長登録出願の理由となった本件処分の対象である本件医薬品が、延長登録出願に係る特許権の請求項に係る特許発明の技術的範囲に属しているか、具体的には、「ナルフラフィン塩酸塩」を成分に含む本件医薬品(レミッチOD錠)が、「一般式(Ⅰ)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」であり、本件発明の技術的範囲に属し、その製 造販売が本件発明の実施となるのかどうかが問題となる。なお、本件処分に係る医薬品製造販売承認申請書添付資料の添付文書案(甲131)の【薬効薬理】の2「作用機序」によれば、ナルフラフィン塩酸塩は、選択的なオピオイドκ受容体作動薬と記載されていることが認められ、甲127及び弁論の全趣旨によれば、「ナルフラフィン」は、本件発明1の一般式(Ⅰ)で表さ れる「オピオイドκ受容体作動性化合物」に該当することが認められる。以下、これを前提に検討する。 ⑵ 本件発明 ア特許請求の範囲の記載前記第2の3⑴のとおり、本件特許の特許請求の範囲のうち請求項1の記載は、一般式(I)で表される「オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」とするものである。請求項1には、「オピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩」との表現は 用いられていない。 イ本件明細書(甲2)の記載本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 (ア) 技術分野「本発明は、各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療に有用なオピ オイドκ受容体作動性化合物およびこれを含んでなる止痒剤に関する。」(本件明細書(甲2)の12頁 がある。 (ア) 技術分野「本発明は、各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療に有用なオピ オイドκ受容体作動性化合物およびこれを含んでなる止痒剤に関する。」(本件明細書(甲2)の12頁9、10行目。以下、特に断らない限り、頁数及び行数は、本件明細書のものを指す。)(イ) 背景技術「痒み(そう痒)は、皮膚特有の感覚で、炎症を伴う様々な皮膚疾患に 多く見られるが、ある種の内科系疾患(悪性腫瘍、糖尿病、肝疾患、腎不全、腎透析、痛風、甲状腺疾患、血液疾患、鉄欠乏)や妊娠、寄生虫感染が原因となる場合や、ときには薬剤性や心因性で起きることもある。 痒みは主観的な感覚であるため数量的に客観的に評価することが難しく、痒みの発現メカニズムはまだ十分に解明されていない。 現在のところ、痒みを引き起こす刺激物質としては、ヒスタミン、サブスタンスP、ブラジキニン、プロテイナーゼ、プロスタグランジン、オピオイドペプチドなどが知られている。……そう痒の治療には、内服剤として抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤などが主に用いられ、また外用剤としては、抗ヒスタミン剤、副腎皮質 ステロイド外用剤、非ステロイド系抗消炎剤、カンフル、メントール、 フェノール、サリチル酸、タール、クロタミトン、カプサイシンなど保湿剤(尿素、ヒルドイド、ワセリンなど)が用いられる。しかし内服剤の場合、作用発現までに時間のかかることや、中枢神経抑制作用(眠気、倦怠感)、消化器系に対する障害などの副作用が問題となっている。一方、外用剤の場合では、止痒効果が十分でないことや特にステロイド外用剤 では長期使用における副腎機能低下やリバウンドなどの副作用が問題となっている。 オピオイドと痒みについては、オピオイドが鎮痛作用を有する一方で痒みのケミ 十分でないことや特にステロイド外用剤 では長期使用における副腎機能低下やリバウンドなどの副作用が問題となっている。 オピオイドと痒みについては、オピオイドが鎮痛作用を有する一方で痒みのケミカルメディエーターとしても機能することが知られていた。 …その一方で、モルヒネの髄腔内投与によって惹起された痒みがモルヒ ネ拮抗薬であるナロキソンによって抑制されたこと…や肝障害の胆汁鬱血患者で内因性オピオイドペプチドの上昇によって惹起された強い痒みが、オピオイド拮抗薬であるナルメフェンによって抑制されたこと…も明らかとなり、統一的見解として、オピオイド系作動薬は痒みを惹起する作用があり、逆にその拮抗薬には止痒作用があるとされた。… このように、従来よりオピオイド系作動薬は痒みを惹起し、その拮抗薬が止痒剤としての可能性があるとされてきた。しかし、オピオイド系拮抗薬を止痒剤として応用することは現在までのところ実用化されていない。 本発明の目的は、上記の問題点を解決した止痒作用が極めて速くて強 いオピオイドκ受容体作動薬およびこれを含んでなる止痒剤を提供することにある。」(12頁12行目~13頁23行目)(ウ) 発明の開示「本発明はオピオイドκ受容体作動性化合物およびこれを有効成分とする止痒剤である。」(13頁25行目) (エ) 発明を実施するための最良の形態 「本発明でいうκ受容体作動薬はオピオイドκ受容体に作動性を示すものであればその化学構造的特異性にとらわれるものではないが、μおよびδ受容体よりもκ受容体に高選択性であることが好ましい。より具体的には、オピオイドκ受容体作動性を示すモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩が挙げられ、中でも一般式(I)…で 表され 体よりもκ受容体に高選択性であることが好ましい。より具体的には、オピオイドκ受容体作動性を示すモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩が挙げられ、中でも一般式(I)…で 表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩であり、または一般式(II)…で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物であり、または一般式(III)…で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩である。 モルヒナン誘導体以外の止痒用途に用いる物質としては一般式(IV)… で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩であり、または一般式(Ⅴ)…で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩であり、または一般式(Ⅵ)…で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩であり、または一般式(Ⅶ)…で 表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩である。これらκ受容体作動薬は一種のみならず数種を有効成分として使用され得る。」(13頁35行目~17頁7行目)「治療対象となる具体的なそう痒を伴う皮膚疾患としては、アトピー性皮膚炎、神経性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、自己感作性皮膚 炎、毛虫皮膚炎、皮脂欠乏症、老人性皮膚そう痒、虫刺症、光線過敏症、蕁麻疹、痒疹、疱疹、膿痂疹、湿疹、白癬、苔癬、乾癬、疥癬、尋常性座瘡などが挙げられる。また、そう痒を伴う内臓疾患としては、悪性腫瘍、糖尿病、肝疾患、腎不全、腎透析、妊娠に起因するそう痒が特に対象として挙げられる。さらに、眼科や耳鼻咽喉科の疾患に伴うで痒みに も適用し得る。」(17頁8~13行目) ては、悪性腫瘍、糖尿病、肝疾患、腎不全、腎透析、妊娠に起因するそう痒が特に対象として挙げられる。さらに、眼科や耳鼻咽喉科の疾患に伴うで痒みに も適用し得る。」(17頁8~13行目) 「上記κ受容体作動薬の中で、一般式(I)、(III)、(IV)、(V)、(VI)および(VII)で表される物質に対する薬理学的に好ましい酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、マレイン 酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩等の有機カルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンセンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機スルホン酸塩等があげられ、中でも塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩等が好まれるが、もちろんこれらに限られるものではない。 これらκ受容体作動薬は、医薬品用途にまで純化され、必要な安全性試験に合格した後、そのまま、または公知の薬理学的に許容される酸、担体、賦形剤などと混合した医薬組成物として、経口または非経口的に投与することができる。」(51頁25~36行目)「医薬組成物中のκ受容体作動薬の含量は特に限定されないが、経口 剤では1服用あたり通常0.1 ㎍~1000mg、外用剤では1回塗布あたり通常0.001ng/㎡~10mg/㎡となるように調製される。」(52頁13~15行目)(オ) 実施例「実施例9 選択的なκ受容体作動性オピオイド化合物である(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス 例「実施例9 選択的なκ受容体作動性オピオイド化合物である(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩7を生理食塩水に溶解し、40 ㎍/㎖濃度の水溶液を調製した。 この水溶液を成人男子下肢に生じた蕁麻疹の発赤部位3か所に、薬物濃 度0.2 ㎍/㎠で塗布した。 その結果、塗布前、中等度の痒み(グレードとして++と設定)を感じていたが、塗布5分で痒みを全く感じなくなった(グレードとして-と設定)。痒みのない状態は約5時間持続した。 実施例10 女性アトピー性皮膚炎患者の腕および脚で強い痒み(グレードとして+++と設定)を感じる皮膚表面病巣に化合物7水溶液を塗布した。塗布部位は5ヶ所で、10 ㎠に約50μℓ溶液で、塗布薬物濃度は0.2 ㎍/㎠であった。また比較として、インドメタシン・クリーム(薬物濃度7.5mg/g)を同様に75 ㎍/㎠で塗布した。 その結果、表5のように、全塗布部分において、化合物7水溶液では塗布後5分で痒みは完全になくなり、強力な止痒作用を有することが判明した。また、痒みのない状態は少なくとも3時間は持続した。一方、インドメタシン・クリームでは痒みが残る感じがあり、止痒作用は化合物7の方が優れていることが判明した。」(58頁1~18行目、59頁) 「実施例12 …被験薬物あるいは溶媒のいずれかをマウスの吻側背部皮下に投与し、その30 分後に生理食塩水に溶解したCompound48/80(100 ㎍/site)を50μℓの用量で除毛部位に皮内投与した。その後直ちに観察用ケージ(10x7x16cm)に入れ、…マウ 与し、その30 分後に生理食塩水に溶解したCompound48/80(100 ㎍/site)を50μℓの用量で除毛部位に皮内投与した。その後直ちに観察用ケージ(10x7x16cm)に入れ、…マウスが後肢でCompound48/80 投与部位の近傍を引っかく行動の回数をカウントした。…引っかき行動を減らす作用を もって被験化合物の止痒効果の指標とした。」(59頁25~31行目)「試験に用いた化合物は用いた用量で止痒効果を示した。」(化合物8~23略)(62頁1行目)(カ) 産業上の利用可能性「本発明の止痒剤は、オピオイドκ受容体作動薬を有効成分とするこ とを特徴とし、各種の痒みを伴う皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎、 神経性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、自己感作性皮膚炎、毛虫皮膚炎、皮脂欠乏症、老人性皮膚そう痒、虫刺症、光線過敏症、蕁麻疹、痒疹、疱疹、膿痂疹、湿疹、白癬、苔癬、乾癬、疥癬、尋常性座瘡など、および、痒みを伴う内臓疾患、例えば悪性腫瘍、糖尿病、肝疾患、腎不全、腎透析、妊娠などの痒みの治療に有用である。」(63頁2~7行目) (キ) 本件特許出願の日(平成9年11月2日)において、請求項1の一般式(Ⅰ)に示すκ受容体作動薬及びその酸付加塩は既に公知の物質であった(18頁41~42行目)。 ウ 「有効成分」に関する文献の記載等(ア) 「有効成分」の用語に関して、本件特許出願の日(平成9年11月2 1日)以前に頒布・刊行された文献等には、次のような記載がある。 すなわち、❶「医薬品の有効性とは治療効果であり、治療効果は医薬品の臨床試験結果より評価されるのが通常であるが、臨床試験の前段階として、製剤より有効成分がどの程度生体内へ利用されているかを測定 すなわち、❶「医薬品の有効性とは治療効果であり、治療効果は医薬品の臨床試験結果より評価されるのが通常であるが、臨床試験の前段階として、製剤より有効成分がどの程度生体内へ利用されているかを測定する必要がある。有効成分そのものがいかに利用率がよくても、製剤に 加工する過程で利用されにくい形に変えられていれば、利用率が減少し、ひいては薬効の発現がおくれたり、小さくなったりするおそれがある。 この生体への医薬品有効成分の利用率を、Bioavailability と称し、通常は投薬後一定時間おきに血液や尿を採取し、血清中や尿中に存在する(吸収され、代謝をうけ、また排泄された)有効成分の含量の時間的推 移をしらべることにより測定され、いろいろのパラメータを用いて、もっとも吸収されやすい形で投与した場合(一般には、水溶液)や他の剤形との相対的比較で評価される。」(甲50、塩路雄作「続・医薬品工業と粉体工学」・粉体工学研究会誌Vol.14 No.7(1977)409頁)、❷「米国FDAの定義では、「生物学的利用能とは、活性を有する薬物成分ある いは治療有効成分が医薬品製剤から吸収され、薬の作用部位で利用され るようになる速さや量である」とされている。具体的には、有効成分の血中濃度、尿中排泄あるいは薬理効果を測定することが定められているが、前述の定義で血中濃度を指標にするとAUC(areaundertheconcentration-timecurve)の測定に他ならない。」(甲51、ファルマシアレビュー編集委員会編「ファルマシアレビュー No.1 薬が世に出 るまで」社団法人日本薬学会(昭和53年)39頁)、❸「薬が体に働いて効果を発揮するまでに、いくつもの問題がある。たとえば錠剤を内服したとき、胃とか腸とかで シアレビュー No.1 薬が世に出 るまで」社団法人日本薬学会(昭和53年)39頁)、❸「薬が体に働いて効果を発揮するまでに、いくつもの問題がある。たとえば錠剤を内服したとき、胃とか腸とかで崩れて、効きめをもった成分が放出されることが第一段階になる。有効成分が吸収され、血流で体内に広く分布され、一部は血中のタンパク質と結びつき、また脂肪組織などに貯えられるか もしれない。肝臓を通過するとき化学的な変化をうけて活性を失ったり、ときに活性が強められるかもしれない。腎臓を通過するときその成分は体外に排泄されるかもしれない。このような吸収、代謝、分布、排泄(ADME)といった体内での運命に関する面は、ファルマコキネティックス、薬動態学と呼ばれ…る」(甲52、佐久間昭「薬の効果・逆効果臨 床薬理学入門」ブルーバックスB-449、講談社(昭和56年)21~22頁)等の記載がある。 これらの文献の記載によれば、本件特許出願の日以前において、「有効成分」とは、体内(血中)で溶出し作用する物質の意味で用いられる場合等が一般的に見られたことが認められる。 (イ) 「有効成分」の用語に関して、本件特許出願の日(平成9年11月21日)以後に頒布・刊行された文献等には、次のような記載がある。 すなわち、❶「有効成分〔医薬品の〕」「単体又は1種類以上の他の成分と組み合わせ、1つの医薬品の意図された作用を起こす物質。また、成分の中で薬効を示す成分。例えば生薬の薬効をもつ成分をいうことが 多く、生薬中の有効成分の分離は新薬開発の一方法」(甲49、薬科学大 辞典編集委員会「廣川薬科学大辞典〔第5版〕-普及版-」廣川書店(平成25年第5版)1584頁)、❷「製剤中に含まれている有効成分は、投与された後に、製剤か 発の一方法」(甲49、薬科学大 辞典編集委員会「廣川薬科学大辞典〔第5版〕-普及版-」廣川書店(平成25年第5版)1584頁)、❷「製剤中に含まれている有効成分は、投与された後に、製剤から放出あるいは溶出される必要があります。 そのため、試験管内での放出速度や溶出速度を比較検討することで、それら製剤を投与後の有効成分の血中濃度や作用発現部位中の濃度は推定 でき、ヒト試験の代わりになるのではと期待される面があります。」(甲16、緒方宏泰「先発医薬品と臨床上の有効性・安全性が『同等』であるジェネリック医薬品の評価~生物学的同等性を考える~」厚生労働省医薬食品局審査管理課編集発行「後発医薬品質情報No.2」(平成26年)3~4頁)、❸「レミッチ錠のようないわゆる低分子医薬品の経口剤にお いては、錠剤(OD錠)又はカプセルから溶け出した有効成分が消化管(主に小腸)から吸収されて、循環血液中に移行し、薬効を発揮します。循環血液中の有効成分が血流によって全身の組織・器官へ運ばれ、標的となる細胞に存在する受容体などのタンパク質と結合し、それによって薬効が現れます。このような医薬品の薬物動態は技術常識であり、この技 術常識のもとで、この薬効を発揮する有効成分の体内での存在状態を確認するため、有効成分の血中濃度が測定され、また、有効成分の消化管での溶出挙動を確認するために溶出試験が実施されます。これらの試験は、医薬品の製造販売承認申請において重要な基礎データとなります。」「一方、医薬品の製剤開発において、上記の有効成分を効率よく消化管 で吸収させ、薬効を発揮させるために、血中に移行する有効成分に対して、原薬として溶解度を上げることが一般的によく行われています。例えば、有効成分は脂溶性であることが多いですが、小腸で有効 管 で吸収させ、薬効を発揮させるために、血中に移行する有効成分に対して、原薬として溶解度を上げることが一般的によく行われています。例えば、有効成分は脂溶性であることが多いですが、小腸で有効成分を効率的に吸収させるためには、水に溶けやすくして、小腸に効率よく有効成分を届ける必要があります。したがって、錠剤(OD錠)又はカプセ ルのような経口剤とする場合には、そのままでは、水に溶けにくい有効 成分の場合には、これを解消するために、原薬として塩の形態とすることで水に対する溶解度を向上させ、効率よく体内に有効成分を届けることが行われます。…このように有効成分の溶解度向上を目的とした塩種の検討は一般的によく行われています。」「…最終的に、所望の溶解度、安定性を得た塩などの有効成分の付加形態が医薬品における原薬となり ます。医薬品としての製造・販売を目的とした製剤の開発においては、さらに、この原薬に、添加剤を加えて錠剤又はカプセル剤などの経口剤として飲みやすさや安定性などの機能が付与されます。」「…有効成分、原薬及び添加剤の関係については…体内に移行し薬効を発揮する化学物質が有効成分であることを表し…原薬と添加剤との区別としては、有効 成分を含む原薬が有効成分として取り扱われることを説明しています。 すなわち、…有効成分を含み、溶解性・安定性を得るため塩などを付加した形態が原薬であることから、…有効成分を含むことから効能、効果に直接関係する原薬が、効能、効果として直接の関係のない添加剤と区別されて取り扱われるものとされています。もっとも、上記で説明した 医薬品における技術常識からして、原薬中の、消化管から吸収され血流に含まれ、受容体などと結合するものを有効成分として表していることは明らかです。」「したがって ます。もっとも、上記で説明した 医薬品における技術常識からして、原薬中の、消化管から吸収され血流に含まれ、受容体などと結合するものを有効成分として表していることは明らかです。」「したがって、医薬品における「有効成分」とは、消化管から吸収され、循環血液に移行し、受容体などのタンパク質と結合することで薬理作用を発揮する化学物質を表すことが昭和49年から現在 に至るまでの技術常識です。」(甲116、A「鑑定意見書」令和2年6月17日付け3~5頁。なお、同鑑定意見書4頁で言及する厚生省薬務局編「逐条解説薬事法」ぎょうせい(昭和58年3版)365頁〔甲114〕は、同法50条7号に関して「「有効成分」とは、医薬品の目的たる効能、効果を薬理的に生ぜしめる有効な成分を意味する。したがっ て、効能、効果と直接の関係のない賦形剤、安定剤、溶剤等の製剤補助 剤は含まれない。」などと解説する。)等の記載がある。 これらの文献の記載によれば、本件特許出願の日以後においても、「有効成分」とは、前記(ア)と同様、体内(血中)で溶出し作用する物質の意味で用いられてきていることが認められる。 エ 「塩基性薬物」に関する文献の記載等 (ア) 「塩基性薬物」に関して、本件特許出願の日(平成9年11月21日)以前に頒布・刊行された文献等には、次のような記載がある。 すなわち、❶「有機酸、有機塩基である多くの薬物の溶解は、また液のpHによって著しく左右される…このように溶解度(飽和溶液の濃度)に影響をうけた薬物は、当然溶解速度にも変化が現れる。」「このような 薬物を塩として投与すると、その溶解特性はそれぞれもとの薬物とは違ってくる。有機酸のNa塩やK塩はいずれのpHの液性からの溶解速度も、遊離酸に比べて大きい。有機塩 化が現れる。」「このような 薬物を塩として投与すると、その溶解特性はそれぞれもとの薬物とは違ってくる。有機酸のNa塩やK塩はいずれのpHの液性からの溶解速度も、遊離酸に比べて大きい。有機塩基の塩酸塩にように強酸による塩の場合もこれと同様である。これらの塩を経口投与すると、血中濃度は著しく速く最高が現れる。」(甲14、大塚昭信、池田憲、村西昌三編「製 剤学(改訂第2版)」南江堂(1992年)224頁)、❷「2.2薬物の塩化」「薬物には中性・塩基性・酸性のものがあり、ことに塩基性の薬物はなんらかの酸との塩にして用いられるものが多い。」「遊離塩基は通常液体や低融点のものが多く、一般に空気酸化や光で分解されたり、空気中の二酸化炭素と塩を形成したりして不安定である。また、塩の方が 再結晶などでの精製が容易である場合が多い。このような理由から塩基が塩化されることが多いのであるが、薬物を塩にするとこれら以外にも多くの利点が得られる。」「<薬物を塩化することの意味>1)水溶性になる。2)結晶性となり取扱いやすくなる。3)光・空気・熱などに対する安定性が増す。4)中和により殊に注射時の刺激性・疼痛を和らげ る。5)矯味・矯臭」「塩に変えたからといっても、服用または投与後の 生体内でもなお塩のままで存在するわけではない。たとえば、塩基性薬物の希薄溶液では塩と遊離塩基の間に平衡関係がある。粘膜からは当然この遊離塩基が吸収されてゆく。」「塩基性物質を塩にするために用いる酸としては、塩酸が最も多く用いられる。」(甲73、太田俊作「薬品製造学」さんえい出版(1990年)235、236頁)等の記載がある。 これらの文献を含む多くの文献(甲66、68~71)の記載によれば、本件特許出願の日以前においても、製剤の技術分 製造学」さんえい出版(1990年)235、236頁)等の記載がある。 これらの文献を含む多くの文献(甲66、68~71)の記載によれば、本件特許出願の日以前においても、製剤の技術分野において、「薬物の溶解性や安定性を向上させるために付加塩を構成すること」が紹介されていることが認められる。 (イ) また、文献(甲85~92)によれば、3級アミン(第三級窒素)を 含む塩基性化合物についても、塩酸等により酸付加塩を形成したものが原薬として医薬品に配合されていたことが開示されている。 オ本件特許の出願経過(ア) 被告は、平成9年11月21日本件特許出願をしたところ、平成13年4月24日付けで拒絶理由通知(甲28)を受け、「発明の詳細な説明 の記載からでは、オピオイドκ受容体作動薬活性を有するすべての化合物が止痒活性を奏するものと認めることはできない。よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1、2、12-21、23、26-29、40、41に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(理由2。なお、これらは一般式(Ⅱ)、(Ⅲ)、 (Ⅴ)に係る請求項である。)、「請求項2には「モルヒナン誘導体」と記載されているが…当該誘導体の意味する範囲が明らかでない。」(理由3)、「この拒絶理由通知書中で指摘した請求項以外の請求項に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。」などの指摘を受けた(甲28)。 (イ) 被告は、平成13年7月16日付けで意見書(甲29)及び手続補正 書(甲30)を提出し、前記指摘を受けた請求項について削除又は補正等の意見を述べ、補正後の請求項を提示した。このうち、補正前の請求項1~3(甲27)において けで意見書(甲29)及び手続補正 書(甲30)を提出し、前記指摘を受けた請求項について削除又は補正等の意見を述べ、補正後の請求項を提示した。このうち、補正前の請求項1~3(甲27)においては、拒絶理由通知(甲28)で指摘を受けた請求項1及び2を削除し、これに伴い、請求項3を補正後の請求項1に改めるなどしたが、本件補正の補正後の請求項1においては、補正前 の請求項3で引用していた補正前の請求項2の「またはその薬理学的に許容される酸付加塩」の文言が欠落している。 〔補正前の請求項1~3〕(甲27)請求項1 オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤請求項2 オピオイドκ受容体作動性化合物がモルヒナン誘導体または その薬理学的に許容される酸付加塩である請求項1記載の止痒剤請求項3 モルヒナン誘導体が下記一般式 (Ⅰ)…[式中、…は…を表す。また、一般式(Ⅰ) は(+) 体、(-)体、(±)体を含む]で表されるものである請求項2記載の止痒剤〔補正後の請求項1〕(甲30) 補正前の請求項1、2は削除され、補正前の請求項3の冒頭「モルヒナン誘導体が下記一般式(Ⅰ)」を「下記一般式(Ⅰ)」と、また、補正前の請求項3の末尾「で表されるものである請求項2記載の止痒剤。」を、「で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。」としたものが、新たな請求項1とされた。 (ウ) 前記(ア)のとおり、拒絶理由通知(甲28)には、一般式(Ⅰ)を含む補正前の請求項3に係る発明に対する拒絶理由は記載されていない。 また、被告が提出した意見書(甲29)においても、一般式(Ⅰ)を含む補正前の請求項3が拒絶の対象となっていることの認識は示されておらず、一般式(Ⅰ)の化合物に対する する拒絶理由は記載されていない。 また、被告が提出した意見書(甲29)においても、一般式(Ⅰ)を含む補正前の請求項3が拒絶の対象となっていることの認識は示されておらず、一般式(Ⅰ)の化合物に対する言及を含め、補正後の請求項1に おいて、「またはその薬理学的に許容される酸付加塩」の文言を欠落させ たことについての説明はされていない。 カ検討(ア) 本件特許の特許請求の範囲請求項1には、「κ受容体作動性化合物又はその薬理学的に許容される酸付加塩」を有効成分とする止痒剤との表現は用いられていない。しかし、本件明細書の記載(前記イ(イ)(エ)(カ)) によれば、「オピオイドκ受容体作動薬」は、「オピオイドκ受容体作動性を示すモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩」であり、「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物」、その「酸付加塩」、「一般式(II)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物」、「一般式(III)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物」、 その「酸付加塩」等とされている。また、本件明細書の実施例9においても、「選択的なκ受容体作動性オピオイド化合物である…モルヒナン塩酸塩7」と記載されており、化合物とその酸付加塩の形態とは厳密に区別されていない。 (イ) しかるところ、「有効成分」の用語は、前記ウのとおり、本件特許出 願の日の前後を通じて、体内(血中)で溶出し薬理作用を発揮する化学物質の意味で用いられる場合が一般的に見られていたものであり、本件明細書において、これと異なる解釈をとるべき理由は見当たらない。確かに、製剤開発の観点から、最終的に所望の溶解度、安定性を得るために酸付加塩の形態にしたものを原薬とし、配合目的が添加剤(甲96参 照)である構成成分 なる解釈をとるべき理由は見当たらない。確かに、製剤開発の観点から、最終的に所望の溶解度、安定性を得るために酸付加塩の形態にしたものを原薬とし、配合目的が添加剤(甲96参 照)である構成成分と区別するために、酸付加塩の形態を含めて「有効成分」と呼ぶ取扱いが存在することは認められるが、付加された塩の部分が体内で薬理作用を発揮する化学物質になるわけではない。 (ウ) もともと、本件発明の目的は、止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬及びこれを含んでなる止痒剤を提供することにある。 前記エによれば、製剤の技術分野において、本件特許の出願当時、薬物 の溶解性や安定性を向上させるために酸付加塩の形態をとることは、技術常識であったと認められ、本件明細書の記載によっても、酸付加塩の形態について、それ以外の技術的意義があることを認めるに足りない。 したがって、本件明細書をみた当業者は、本件発明の目的である止痒作用を発揮する化学物質は「κ受容体作動性化合物」であって、「薬理学的 に許容される酸付加塩」の形態は、物質の止痒作用自体を変化させるためのものではなく、薬としての溶解性や安定性を向上させるための形態にすぎないことは容易に理解することができたはずである。そうすると、製剤開発の分野で、添加剤と区別するため、化合物とその薬理学的に許容される酸付加塩を含めて「有効成分」と呼ぶ場合があることを踏まえ たとしても、当業者において、請求項1に「オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」とだけ記載されていることを理由に、その趣旨が、「これと薬理学的に許容される酸付加塩」は、本件発明1でいう有効成分には当たらず、特許の技術的範囲外であると解釈するとは考えられない。止痒剤に関する特許において、合理的理由もないのに 、その趣旨が、「これと薬理学的に許容される酸付加塩」は、本件発明1でいう有効成分には当たらず、特許の技術的範囲外であると解釈するとは考えられない。止痒剤に関する特許において、合理的理由もないのに、 わざわざ酸付加塩の形態という薬としての溶解性や安定性を向上させるために通常よく用いられる構成を除外して、特許請求の範囲を決めることは不自然だからであり、むしろ、本件明細書の前記各記載によれば、「κ受容体作動性化合物の薬理学的に許容される酸付加塩」の形態は、κ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤の実施形態の一つである ことを容易に理解することができるというべきである。 (エ) 前記オの本件特許の出願経過を参酌しても、被告は、本件補正により、補正前の請求項3の一般式(Ⅰ)を含む発明を補正後の請求項1に補正し、その際「またはその薬理学的に許容される酸付加塩」の文言を欠落させたことが認められるが、拒絶理由通知(甲28)においては、補正 前の請求項3は拒絶の対象にされておらず、被告の意見書(甲29)に おいても、一般式(Ⅰ)の化合物に対する言及を含め、補正後の請求項1において「またはその薬理学的に許容される酸付加塩」の文言を欠落させたことについての説明はされていない。そうすると、本件特許の出願経過において、被告が、本件補正の際に、補正後の請求項1から「酸付加塩」の文言を意識的に除外したと認めることはできないというべき である。 (オ) 以上のとおり、特許請求の範囲及び本件明細書の記載、本件特許の出願経過及び本件特許出願日当時の技術常識によれば、本件発明1は、酸付加塩の形態をとるか否かにかかわらず、一般式(Ⅰ)で表される化合物が、生体内において吸収され、そのオピオイドκ受容体作動性という 属性に基 特許出願日当時の技術常識によれば、本件発明1は、酸付加塩の形態をとるか否かにかかわらず、一般式(Ⅰ)で表される化合物が、生体内において吸収され、そのオピオイドκ受容体作動性という 属性に基づき「有効成分」としての薬理作用を発揮するような止痒剤をいうものと解するのが相当である。 キ原告の主張について(ア) 原告は、本件特許発明における有効成分とは、医薬品の投与前に原薬の形態で含まれる化合物と理解され、投与後に体内に吸収された薬効を 奏する形態と捉えることはできないなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、本件明細書の記載によれば、本件発明における「有効成分」の用語が、原薬としての化合物を指すものに限定されていると解することはできないから、原告の主張は前提を欠く。 (イ) 原告は、本件補正により、請求項1の薬理学的に許容される塩を有効 成分とする止痒剤が削除され、外形的・意識的に除外されているから、出願経過参酌の原則(禁反言)及び信義則から、投与前のナルフラフィン塩酸塩の形態(投与後にナルフラフィン(フリー体)として体内で吸収される場合も含む。)は除外されるなどと主張する。しかしながら、前記のとおり、本件補正により、請求項1の薬理学的に許容される塩を有 効成分とする止痒剤が意識的に除外されたものとはいえず、原告の主張 を採用することはできない。 (ウ) 原告は、本件発明1の発明特定事項である「止痒剤」は、「剤」の用語の意義から投与前の医薬品を前提するなどと主張する。しかし、本件発明1における「有効成分」の用語の前記解釈を踏まえれば、「オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」が医薬品の原薬それ 自体に限定されるものとはいえず、原告の主張を採用することはできない。 効成分」の用語の前記解釈を踏まえれば、「オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」が医薬品の原薬それ 自体に限定されるものとはいえず、原告の主張を採用することはできない。 (エ) 原告は、医薬品の製造販売承認等における実務の運用からすると、製造販売の対象医薬品に原薬として含まれる成分に着目し、フリー体と酸付加塩は別々に承認されているなどとして、本件医薬品の処分対象物の 有効成分はナルフラフィン塩酸塩であると主張する。しかしながら、そのような実務の運用があるとしても、それは薬機法の解釈運用の問題である。本件発明における前記の「有効成分」に関する解釈は、特許請求の範囲の解釈問題であり、あくまでも特許法の観点から検討すべきものであるから、原告の主張を採用することはできない。 ⑶ 本件医薬品が本件発明1を実施するものか否かア本件医薬品(ア) 本件医薬品は、第2の2⑷のとおり、平成29年3月30日付け医薬品製造販売承認(承認番号22900AMX00538000。本件処分)の対象となった医薬品であり、販売名を「レミッチOD錠2.5㎍」、 有効成分を「ナルフラフィン塩酸塩」(一般名称 INNnalfurafine)とするものである(甲1、96)。 (イ) 本件医薬品の医薬品製造販売承認書(甲96)の「成分及び分量又は本質」欄には、配合目的が「有効成分」の成分としてナルフラフィン塩酸塩2.5㎍が記載されている。また、「規格及び試験方法」欄では、溶 出試験において、ナルフラフィンのピーク面積に基づいて、ナルフラフ ィン塩酸塩の溶出率が算定されている。 (ウ) 本件医薬品の添付文書(甲22)の「組成・性状」の項には、組成として、有効成分が1錠中「ナルフラフィン塩酸塩2.5㎍(ナ に基づいて、ナルフラフ ィン塩酸塩の溶出率が算定されている。 (ウ) 本件医薬品の添付文書(甲22)の「組成・性状」の項には、組成として、有効成分が1錠中「ナルフラフィン塩酸塩2.5㎍(ナルフラフィンとして2.32㎍)」との記載がある。 イ一方、ナルフラフィン塩酸塩は、ヒトに投与されると体液に溶解してナ ルフラフィンと塩化物イオンに解離し、解離してフリー体となったナルフラフィンは、消化管上皮細胞膜を透過して全身循環に移行し、作用部位である中枢神経系に到達する。中枢神経系では、フリー体のナルフラフィンがオピオイドκ受容体に選択的に結合して薬効を奏するが、ナルフラフィンの受容体への結合に、塩は直接関わっておらず、止痒作用を発揮する有 効成分はナルフラフィンであり、酸付加塩は薬効の存否に影響を及ぼさないことは技術常識である(甲93B「鑑定意見書」令和2年2月7日付け1頁、甲94C「鑑定意見書」同日付け1頁、甲116A「鑑定意見書」令和2年6月17日付け5頁)。 なお、ナルフラフィンが、本件発明1の一般式(Ⅰ)で表される「オピ オイドκ受容体作動性化合物」に該当することは、前記のとおりである。 ウそうすると、本件医薬品は、生体内において吸収され、オピオイドκ受容体作動性という属性に基づき止痒作用を及ぼし薬効を奏するナルフラフィンが、その酸付加塩であるナルフラフィン塩酸塩の形態で配合された医薬品であると認められるから、本件医薬品は、本件発明1の「一般式(Ⅰ) で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」の発明特定事項を備えるものと認められる。 ⑷ 以上によれば、本件医薬品は、本件延長登録出願に係る特許権の請求項1に係る本件発明1の技術的範囲に属するものと認めるのが相当であり、かつ、本 止痒剤」の発明特定事項を備えるものと認められる。 ⑷ 以上によれば、本件医薬品は、本件延長登録出願に係る特許権の請求項1に係る本件発明1の技術的範囲に属するものと認めるのが相当であり、かつ、本件医薬品の製造販売という具体的な実施行為を行うためには、薬機法の定 めるところに従い、本件処分を受ける必要があったことが認められるから、 特許法67条2項(現4項)の延長登録の要件が満たされていたというべきである。そうすると、本件延長登録は、本件医薬品の製造販売による本件発明1の実施について、本件医薬品の製造販売承認(本件処分)を受けることが必要であったとは認められない場合の出願に対してされたものとは認められない(特許法125条の2第1項1号)。よって、この点に関する本件審決 の判断に誤りはなく、原告の主張する取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(無効理由3〔特許法125条の2第1項3号該当性〕の判断の誤り)について⑴ 前記2⑴のとおり、特許権の存続期間の延長制度は、特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期 間を回復することを目的とし、特許権の存続期間の延長登録出願は、その延長を求める期間がその特許発明の実施をすることができなかった期間を超えているときは拒絶査定がされ、延長登録についても無効理由となる(同法67条の3第1項3号、125条の2第1項3号参照)。したがって、特許権の存続期間の延長が認められるためには、延長登録出願において延長登録を求 める期間が、前記政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を超えないことを要するものと解される。 しかるところ、薬機法所定の製造等の承認を受けることが必要である医薬品の場合、申請者は 定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を超えないことを要するものと解される。 しかるところ、薬機法所定の製造等の承認を受けることが必要である医薬品の場合、申請者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に所定の資料を添付して申請しなければならないとされている(同法14条3項参照。 なお、具体的には、本件局長通知(甲123)のほか、薬食審査発1121第12号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知〔甲125。以下「本件課長通知」という。〕、薬機法施行規則40条2項ただし書参照)。 そして、「特許発明の実施をすることができなかった期間」は、承認を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか 遅い方の日から、承認が申請者に到達することにより処分の効力が発生した 日の前日までの期間であると解される(最高裁平成10年(行ヒ)第43号平成11年10月22日第二小法廷判決・民集53巻7号1270頁)、。本件において、原告は、前記政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間は、OD錠に係る生物学的同等性試験の開始日から本件処分に係る承認日の前日までの1年11月26日であるなどと主張 するので、以下、検討する。 ⑵ 本件処分に係る本件医薬品の承認申請時の提出資料等ア本件処分に係る本件医薬品(レミッチOD錠2.5㎍)等の承認申請は、「申請書等行政情報及び添付文書に関する情報」(甲126)によれば、「⑻剤形追加に係る医薬品(再審査期間中のもの)」の申請区分でされている。 本件局長通知によれば、承認申請にあたっては、その時点における医学薬学等の学問水準に基づき、倫理性、科学性及び信頼性の確保された資料により、申請に係る医薬品の品 」の申請区分でされている。 本件局長通知によれば、承認申請にあたっては、その時点における医学薬学等の学問水準に基づき、倫理性、科学性及び信頼性の確保された資料により、申請に係る医薬品の品質、有効性及び安全性を立証するための十分な根拠が示される必要があり、このことは、剤形追加に係る医薬品の承認申請にも妥当する。そして、本件局長通知によれば、「剤形追加に係る医 薬品」とは、既承認医薬品等と有効成分、投与経路、効能・効果及び用法・用量は同一であるが、剤形又は含量が異なる医薬品を意味し、承認申請書に添付すべき資料としては、「ホ吸収、分布、代謝、排泄に関する資料」のうちの「5 生物学的同等性」資料や、「チ法第五十二条第一項に規定する添付文書等記載事項に関する資料」等の提出が求められる一方、「ト 臨床試験の成績に関する資料」等の提出は求められていない。他方、本件課長通知の「7 申請資料の編集方法等」によれば、既承認医薬品等の効能追加、用法・用量の変更等に係る申請の場合には、承認時の資料(承認書の写し、承認時の審査報告書、資料概要、添付資料一覧表等)を添付することとされている(その他、再審査期間中の新医薬品その有効成分、分 量、 用法、用量、効能及び効果が同一性を有すると認められる医薬品に関 する薬機法施行規則40条2項ただし書参照)。 イ実際に、本件処分に係る本件医薬品の承認申請時に提出された資料等については、「申請書等行政情報及び添付文書に関する情報」(甲126)に開示されているところ、これによれば、本件医薬品の承認申請時には、「【m1-08】添付文書(案)」が提出されるとともに、「【m1-13】その他」 資料である「【m1-13-01】既承認医薬品に係る資料」として、既承認医薬品「レミッチカ 品の承認申請時には、「【m1-08】添付文書(案)」が提出されるとともに、「【m1-13】その他」 資料である「【m1-13-01】既承認医薬品に係る資料」として、既承認医薬品「レミッチカプセル2.5㎍(初回承認:平成21年1月21日付承認)」及び「ノピコールカプセル2.5㎍(初回承認:平成26年12月26日付承認)」に係る「医薬品製造販売承認書(写)」(初回申請)や「医薬品製造販売承認事項一部変更承認書(写)」(効能追加申請)、「審査報告 書」(甲127、128)、「資料概要」、「添付資料一覧」、「申請添付資料」等が提出されたことが認められる。 このうち、【m1-08】添付文書(案)(甲131)には、OD錠と軟カプセル剤の生物学的同等性試験の成績とともに、カプセルで実施された血液透析患者や慢性肝疾患患者での臨床試験の成績の概要が、【薬物動態】 及び【臨床試験】の項に示されている。また、【02】審査報告書(甲127)や【11】審査報告書(甲128)には、被告の行った臨床試験の概要や成績が記載されている。 ウ証拠(甲127、128、133から153の2まで)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、OD錠及び軟カプセル剤を包含する経口剤の開発の ため、(ア) まず、軟カプセル剤を用いて健康成人を対象とした臨床試験(経口単回投与試験:C82001試験)を行い、(イ) 以後、次の各試験を行った。 ○健康成人を対象とした臨床試験(経口反復投与試験:820P1C0 1試験、食事の影響試験:820P1C02試験)、 ○血液透析患者を対象とした臨床試験(臨床薬理試験:820UPC01試験)、第Ⅱ相試験:820UPC02試験、用量探索試験:820UPC03試験、検証的試験:820UPC04試験、長期投 ○血液透析患者を対象とした臨床試験(臨床薬理試験:820UPC01試験)、第Ⅱ相試験:820UPC02試験、用量探索試験:820UPC03試験、検証的試験:820UPC04試験、長期投与試験:820UPC05試験、臨床薬理試験:820UPC06試験)、○代償性肝硬変患者を対象とした試験(臨床薬理試験:820CPC0 1試験)、○慢性肝疾患患者を対象とした臨床試験(第Ⅱ相試験:820HPC01試験、臨床薬理試験:820HPC02試験、検証的試験:820HPC03試験、長期投与試験:820HPC04試験)(ウ) そして、これらの試験により、ナルフラフィン塩酸塩の軟カプセル剤 の安全性、血液透析患者におけるそう痒症に対する有効性、慢性肝疾患におけるそう痒症に対する有効性が確認されたこと、その上で、健康成人を対象としたナルフラフィン塩酸塩の口腔内崩壊錠と軟カプセル剤との生物学的同等性を確認するための生物学的同等性試験(820BED01試験)が行われたことが認められる。 エすなわち、本件処分に係る本件医薬品(レミッチOD錠2.5㎍)の承認申請においては、「剤形追加に係る医薬品」の承認申請時に提出を求められる「生物学的同等性」資料だけでなく、既承認医薬品につき実施されたこれらの試験に関する記載のある添付文書(案)や、既承認医薬品(レミッチカプセル2.5㎍等)に関する審査報告書等の資料が提出されたこと で、被告の行った前記ウの各臨床試験が、本件処分に係る医薬品の有効性及び安全性を検証及び確認するために必要な資料として各審査時点で評価試料として審査に用いられ、その結果、本件医薬品について「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者、慢性肝疾患患者」との用途で 必要な資料として各審査時点で評価試料として審査に用いられ、その結果、本件医薬品について「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者、慢性肝疾患患者」との用途で承認されたことが推認され、これを覆 すに足りる証拠はない。 ⑶ 延長登録を認めるべき期間についてア 「特許発明の実施をすることができなかった期間」は、承認を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか遅い方の日から、承認が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間である(前掲最判平成11年10月22日)。 イ本件処分において、承認を受けるのに必要な試験は、前記⑵エの経緯を考え合わせると、前記⑵ウに示された各試験であり、よって、「承認を受けるのに必要な試験を開始した日」は、C82001試験の治験計画変更届出日の、平成10年3月17日である(甲143、144)。 ウその後、前記各試験が行われてきたところ、本件特許権設定登録日は平 成16年3月12日であるので、本件特許権の設定登録日以降の前記各試験の試験期間を考慮すると、本件延長登録を認めることが可能な期間は、以下の①から⑤までの各期間の合計となる(甲127、128、133から153の2まで。なお、前記⑵ウの各試験のうち、以下の①から⑤までに言及されていない試験は、本件特許権の設定登録日前に終了している試 験又は以下の各期間内にその一部又は全部が包含されており、始期や終期を区切る指標としなかったものである。)。 ①本件特許権の設定登録日から820CPC01試験の終了届出日まで(10月13日)。 ②820UPC04試験の治験計画届出日から820UPC05試験の 治験終了届出日まで(2年8月 。)。 ①本件特許権の設定登録日から820CPC01試験の終了届出日まで(10月13日)。 ②820UPC04試験の治験計画届出日から820UPC05試験の 治験終了届出日まで(2年8月22日)。 ③820HPC01試験の治験計画届出日から治験終了届出日まで(2年3月10日)。 ④820HPC04試験の治験計画届出日から治験終了届出日まで(3年4月19日)。 ⑤820BED01試験の治験依頼日から本件医薬品製造販売承認日の 前日まで(1年11月26日)。 エそうすると、本件延長登録によって延長された期間(4年11月26日)は、前記ウの各期間を合計した期間を超えるものではないから、当該延長された期間は、前記政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を超えるものということはできない。 ⑷ 原告の主張についてア原告は、被告がOD錠として実施する意思や能力がありながら実施することができなかった期間の開始日は、OD錠として初めての試験である生物学的同等性試験の開始日とすべきであるなどと主張するが、本件において、被告は、当初からカプセル剤とOD錠を包含する経口剤の開発を企図 していたことが推認され、前記生物学的同等試験の開始日まではOD錠として特許発明を実施する意思及び能力がなかったものと認めることはできないから、原告の主張を採用することはできない。 イ原告は、カプセル投与を定めた臨床試験の計画書には、OD錠(カプセル以外の剤形)の記載はなく、企業は計画書に拘束されず自由にその研究 をすることができるから、カプセルに関する試験期間を、OD錠に係る処分を受けるための試験期間に算入することはできないなどと主張する。しかしながら、カプセル剤に関する臨 束されず自由にその研究 をすることができるから、カプセルに関する試験期間を、OD錠に係る処分を受けるための試験期間に算入することはできないなどと主張する。しかしながら、カプセル剤に関する臨床試験は、OD錠である本件医薬品と内容を同じくする有効成分について、その薬理作用に関する試験として実施されたものであり、本来、当初からカプセル剤ではなく、OD錠の承認 を求める場合には、当然に必要とされていたはずのものである。現に、カプセル剤に関する試験結果や効能・効果等に関する審査経過は、OD錠である本件医薬品に係る本件処分の承認申請手続においても資料が提出されて審査対象とされたことが認められる。そうすると、カプセル剤に関する臨床試験は、本件処分を受けるためにも必要なものであったと評価し得 る一方、本件において、その試験期間を「前記政令で定める処分を受ける ために特許発明を実施することができなかった期間」に算入することが不合理であることを窺わせるような個別具体的な事情は見当たらない。よって、原告の主張を採用することはできない。 ウ原告は、OD錠の承認に伴う本件延長登録に軟カプセル剤の臨床試験期間を再度算定することは、実質的に2重に臨床試験期間を回復することに なり制度趣旨に反するなどと主張する。しかしながら、医薬品における「前記政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間」は、薬機法に基づく当該医薬品の承認手続の内容、承認による禁止解除の範囲についての解釈を踏まえ、特許法の観点から個別に判断されるものであるから、本件医薬品の延長登録に関し、およそ既承認の医薬品 の臨床試験期間を考慮することが許されないなどということはできない。 軟カプセル剤の承認による禁止解除の範囲は当該軟カプセル剤 るものであるから、本件医薬品の延長登録に関し、およそ既承認の医薬品 の臨床試験期間を考慮することが許されないなどということはできない。 軟カプセル剤の承認による禁止解除の範囲は当該軟カプセル剤の剤形に限定され、直ちにはOD錠には及ばないのであり、原告において、同じ有効成分・分量、用法・用量及び効能・効果であっても、軟カプセル剤の承認を受けただけで、本件処分等を受けることなくOD錠の剤形で本件特許を 実施することができるわけではない。少なくとも、本件の事実関係に照らすと、前記⑵ウに示された各試験が「承認を受けるのに必要な試験」であったと認められることは、前記⑶イのとおりである。よって、原告の主張を採用することはできない。 ⑸ 以上によれば、本件延長登録によって延長された期間が、前記政令で定め る処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を超えるものと認めることはできない。よって、この点に関する本件審決の判断に誤りはなく、原告の主張する取消事由2は理由がない。 4 小括以上によれば、本件延長登録に無効理由は認められないとして本件審判請求 を不成立とした本件審決の判断に誤りはない。 第5 結論よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水響 裁判官菊池絵理 裁判官 菊池絵理 裁判官頼晋一 (令和7年7月9日付け更正決定により、上記判決の6頁及び15頁の表記を一部更正) 別紙 関連法令 1 平成28年法律第108号(平成30年12月30日施行)による改正前の 特許法(旧特許法)の条文(存続期間)第六十七条特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。 2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的、手続等からみて 当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。 (延長登録無効審判) 第百二十五条の二特許権の存続期間の延長登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その延長登録を無効にすることについて延長登録無効審判を請求することができる。 一その延長登録がその特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められない場合の出願に対してされ たとき。 二その延長登録が、その特許権者又はその特許権についての専用実施権若しくは通常実施権を有する者が第六十七条第二項の政令で定める処分を受けていない場合の出願に対してされたとき。 三その延長登録により延長された期間がその特許発 権についての専用実施権若しくは通常実施権を有する者が第六十七条第二項の政令で定める処分を受けていない場合の出願に対してされたとき。 三その延長登録により延長された期間がその特許発明の実施をすること ができなかつた期間を超えているとき。 四その延長登録が当該特許権者でない者の出願に対してされたとき。 五その延長登録が第六十七条の二第四項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとき。 2~4 (略) 2 平成28年法律第108号附則(特許法の一部改正に伴う経過措置)第二条この法律の施行の日(以下「施行日」という。)又は環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定が署名された日から二年を経過した日のいずれか遅い日以前にした特許出願に係る特許権の存続期間の延長については、 第二条の規定による改正後の特許法の規定にかかわらず、なお従前の例による。 3 令和元年法律第63号による改正前の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律(医薬品、医薬部外品及び化粧品の製造販売の承認) 第十四条医薬品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬品を除く。)、医薬部外品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬部外品を除く。)又は厚生労働大臣の指定する成分を含有する化粧品の製造販売をしようとする者は、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。 2 (略) 3 第一項の承認を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない。この場合において、当該申請に係る医薬品が厚生労働省令で定める医薬品であるときは、当該 省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない。この場合において、当該申請に係る医薬品が厚生労働省令で定める医薬品であるときは、当該資料は、厚生労働省令で定める基準に従つて収集され、かつ、作成されたものでなければならない。 4~11 (略) 4 特許法施行令2条(平成30年政令第326号による改正前のもの)(延長登録の理由となる処分)第二条特許法第六十七条第二項の政令で定める処分は、次のとおりとする。 一 (略)二次に掲げる処分 イ医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第十四条第一項に規定する医薬品に係る同項の承認、同条第九項(医薬品医療機器等法第十九条の二第五項において準用する場合を含む。)の承認及び医薬品医療機器等法第十九条の二第一項の承認 ロ~ニ (略)以上

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