平成16(行ウ)15 労働者災害補償保険法による保証給付等不支給決定取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年9月28日 津地方裁判所 その他
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判決文本文45,147 文字)

- 1 -高血圧症,高脂血症といった基礎疾患を有する家電販売店従業員が,勤務終了後に帰省した実家で虚血性心疾患を発症して死亡したことにつき,長期間にわたる加重労働があったとして,同疾病が業務上の疾病に当たるとされた事例。 平成18年9月28日判決言渡平成16年(行ウ)第15号労働者災害補償保険法による補償給付等不支給決定取消請求事件判決主文 被告が,原告に対し,平成15年7月22日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料の不支給決定をいずれも取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 請求の趣旨主文同旨 請求の趣旨に対する答弁(1)原告の請求を棄却する。 (2)訴訟費用は原告の負担とする。 第2事案の概要本件は,株式会社X(以下「X」という。)に勤務していたA(以下「亡A」という。)が虚血性心疾患を発症して死亡したことにつき,亡Aの母である原告が,亡Aの虚血性心疾患の発症は,Xにおける業務に起因するとして,被告に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を求める旨の申請(以下「本件労災申請」という。)をした- 2 -ところ,被告が平成15年7月22日付けでいずれも不支給とする旨の決定(以下「本件決定」という。)を行ったため,原告がその取消しを求めた事案である。 前提となる事実当事者間に争いのない事実と証拠(略)により認められる。 (1)原告は,亡Aの母である。 (2)Xは,昭和36年に設立された一般家電製品,AV機器,パソコン,家具インテリア等の販売を業とする資本金15億6000万円の株式会社であり,本社は兵庫県尼崎市で,関西地区を中心に店舗を展開している。 Xの平成16年5月6日現在におけ 家電製品,AV機器,パソコン,家具インテリア等の販売を業とする資本金15億6000万円の株式会社であり,本社は兵庫県尼崎市で,関西地区を中心に店舗を展開している。 Xの平成16年5月6日現在における店舗数は88店舗,従業員は正社員2357名,契約社員・パート等3512名である(証拠略)。 (3)亡AのXにおける業務ア亡Aの職歴亡Aは,大学を卒業後,平成4年3月26日にXに入社し,平成4年6月1日から平成9年10月15日まで八尾店に,同月16日から平成11年10月16日まで泉大津店に,同月17日から平成13年5月15日まで河内長野店に,同月16日から平成14年5月19日まで堺店に勤務した後,同年5月20日からは,同年6月新規開店する鈴鹿店で勤務していた。 イ亡Aの職務Xにおける従業員の職務は,おおむね①商品販売業務と②管理業務とに分類できる。このうち①商品販売業務を主な職務とするのが「営業職」であり,また,②管理業務には,金銭管理・レジ管理・パート管理及び在庫管理等といった作業が含まれるが,在庫管理等を除いた管理業務を取り扱うものとして「システム職」が置かれている。 亡Aは,平成9年10月に転勤した泉大津店で勤務当時,営業職からシステム職に配置換えになり,以後,システム職に従事していた。 - 3 -ウシステム職の業務内容一般的なシステム職の業務内容は次のとおりである。Xにおいては,システム職に関連する業務のうち,売上金,在庫商品,備品,パート等の出退勤の管理は,POSシステムにより行われている。 (ア)金銭等の管理a売上金・釣銭の管理システム職は,開店時に当日必要となる釣銭を用意し,各レジに定額の金額を入れる。 閉店時間近くになると,順次レジを締めて,レジ内にある売上金及び釣銭とレジ画面に表示される売上伝票(入金明細伝票 管理システム職は,開店時に当日必要となる釣銭を用意し,各レジに定額の金額を入れる。 閉店時間近くになると,順次レジを締めて,レジ内にある売上金及び釣銭とレジ画面に表示される売上伝票(入金明細伝票)とが合致するかを2人1組で突き合わせて確認する。突き合わせ作業終了後は,事務所において,店長ないし店長代行といった管理者と共同で,各レジからの売上伝票(入金明細伝票)の合計額と売上金及び釣銭の合計額とを突き合わせて確認する。パートの交替時にも,仮締めとして,同様にレジ内の金額を確認する作業を行う。 b収入印紙・切手の管理(イ)伝票の作成・管理システム職は,売上伝票により在庫確認を行うほか,その商品につき配達,工事,取寄せ等が必要な場合は,配達伝票,工事伝票,注文伝票等を作成する。客からの修理依頼を受けたときは,修理伝票を作成し,修理部門へ連絡する。 また,販売した商品の返却,交換の申出があったときは,レジの打ち換えを行う。配達日又は工事費の変更等の申出があったときも,当初の配達伝票又は工事伝票の内容を確認の上で,所要事項についてレジの打ち換えを行う。 (ウ)パート・アルバイト従業員(以下「パート等」という。)の監督指導- 4 -システム職は,主にレジ係のパート等を監督指導し,朝礼で商品の金額の変動等について指示するとともに,店舗の営業中はレジ操作及び接客状況を確認し,必要に応じて指導や助言を行う。 (エ)クレーム処理パートで対応できないクレームは,商品関連のクレームは商品販売員である売場のチーフが,また,レジ・配達等関連のクレームはシステム職が対応する。 (オ)パート等のシフト編成及び出退勤の管理システム職は,主にレジ関係のパート等を出勤日,勤務時間,レジの配置場所等を勘案して組み合わせてシフトを編成する。 (カ)その他レジにお 職が対応する。 (オ)パート等のシフト編成及び出退勤の管理システム職は,主にレジ関係のパート等を出勤日,勤務時間,レジの配置場所等を勘案して組み合わせてシフトを編成する。 (カ)その他レジにおいて使用するレシート,各種伝票用紙,ビニール袋,包装紙,手鉤,FAX用紙類等の消耗品を管理し,適宜備品チェックシートで残数を確認し,不足するものの注文を行う。 (4)亡Aは,平成14年7月10日(水)午前10時ころ,大阪府羽曳野市にある実家の原告宅において,虚血性心疾患を発症(以下,同疾患を「本件疾病」といい,本件疾病の発症を「本件発症」という。)し,そのころ死亡した。当時,亡Aは,勤務する鈴鹿店の近くで一人暮らしをしていたが,同日が休日であったため,実家に帰省していた(証拠略)。 (5)本件労災申請等ア原告は,被告に対し,労災保険法による遺族補償給付及び葬祭料の支給を求める旨の申請(本件労災申請)を行ったところ,被告は,平成15年7月22日付けで「業務に起因することの明らかな疾病に該当するものとは認められない」として,いずれも不支給とする本件決定を行った(証拠略)。 イ原告は,本件決定を不服として,平成15年9月1日付けで審査請求を- 5 -行ったが,三重労働者災害補償保険審査官Bは,同年12月15日付けで審査請求を棄却する決定をした(証拠略)。 ウ原告は,上記イの決定を不服として,平成16年1月26日,労働保険審査会に対し審査請求を行った(証拠略)。 原告は,再審査請求をした日から3か月を経過しても裁決がなされなかったため,平成16年7月1日,本件訴訟を提起した。 エ労働保険審査会は,平成17年6月17日,再審査請求を棄却する旨の決定をした(証拠略)。 (6)厚生労働省の認定基準等(証拠略)ア労災保険法上の保険給付は,労働者の業 日,本件訴訟を提起した。 エ労働保険審査会は,平成17年6月17日,再審査請求を棄却する旨の決定をした(証拠略)。 (6)厚生労働省の認定基準等(証拠略)ア労災保険法上の保険給付は,労働者の業務上の死亡等に対して補償を行うことを目的とするものであり(労災保険法1条,7条1項1号),同法12条の8第2項により,労働基準法に規定する災害補償の事由が生じた場合(労基法75条1項)に保険給付が行われる。 労働基準法75条2項は,「前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は,厚生労働省令で定める」と規定し,労働基準法施行規則(以下「労基規則」という。)35条は,このうちの業務上の疾病につき,別表第1の2でその範囲を具体的に定めているところ,同表第9号には「その他業務に起因することの明らかな疾病」との規定がある。 イ厚生労働省(中央省庁等改革基本法の実施に伴う厚生労働省設置法施行以前においては労働省をいう,以下同じ。)では平成12年11月から臨床,病理学,公衆衛生学,法律学の合計10名の専門家で構成される「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」(座長は当時埼玉医科大学教授のD,以下「専門検討会」という。)を設置し,脳・心臓疾患の認定に係る諸点についての検討を行った。そして,専門検討会が取りまとめた専門検討会報告書(証拠略)を踏まえ,厚生労働省労働基準局長は,脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発症が業務上か否かを判断するための認定基準- 6 -として,平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」と題する通達を発出し,これにより新たな認定基準が策定された(証拠略,以下「新認定基準」という。)。 ウ新認定基準では,認定要件として,次の(ア),(イ)又は(ウ)の業務 。)の認定基準について」と題する通達を発出し,これにより新たな認定基準が策定された(証拠略,以下「新認定基準」という。)。 ウ新認定基準では,認定要件として,次の(ア),(イ)又は(ウ)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は,労基規則35条別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱うものとされる。 (ア)発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(以下「異常な出来事」という。)に遭遇したこと。 (イ)発症に近接した時期において,特に過重な業務(以下「短期間の過重業務」という。)に就労したこと。 (ウ)発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という。)に従事したこと。 エ上記(ウ)の長期間の過重業務に関し,新認定基準では,認定要件の運用として次のとおり定めている。 「ウ評価期間発症前の長期間とは,発症前おおむね6か月間をいう。 なお,発症前おおむね6か月より前の業務については,疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり,付加的要因として考慮すること。 エ過重負荷の有無の判断(ア)著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚等にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断すること。 - 7 -(イ)業務の過重性の具体的な評価に当たっては疲労の蓄積の観点から,労働時間のほか前記(2)のウの(ウ)のbからgまでに示した負荷要因について十分検討すること。 その際,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると,その時間が長いほど,業務の過重性が増すところであり ウの(ウ)のbからgまでに示した負荷要因について十分検討すること。 その際,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると,その時間が長いほど,業務の過重性が増すところであり,具体的には,発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性が弱いが,おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性が除々に強まると評価できること②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。 ここでいう時間外労働時間数は,1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。 また,休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり,逆に,休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すものである。」 争点及びこれに関する当事者の主張亡Aの本件疾病が業務に起因するものといえるか。 (原告の主張)新認定基準は,行政内部における通達にとどまり裁判所の判断を拘束するも- 8 -のではないが,本件疾病は,新認定基準によっても業務との関連性が強いとして,業務上の疾病と判断される事案である。 (1)亡Aの発症前6か月間の時間外労働時間は80時間を優に超えるものである。 ア亡Aの本件発症前の鈴鹿店及び堺店での労働時間は,以下のとおり,新認定基準の定める「発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間」を優に超える時間外労働が認められるものである。 かつ,新規開 の鈴鹿店及び堺店での労働時間は,以下のとおり,新認定基準の定める「発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間」を優に超える時間外労働が認められるものである。 かつ,新規開店した鈴鹿店での業務は,初期トラブルの多発等,新人パートへの対応におわれるものであったことからすれば,本件発症の業務起因性は明らかである。 イ鈴鹿店での労働時間及び業務の過重性(ア)被告は,鈴鹿店勤務時の本件発症前1か月の時間外労働時間を44時間07分であるとし,堺店勤務時と比べ半分程度として算出するなど,鈴鹿店における労働時間を過小に評価している。 しかし,鈴鹿店では2交替勤務制がとられていたものの,亡Aと同じシステム職であったCの聴取書等の内容からすれば,実態としては2交代勤務制は名目だけのもので,亡Aが,開店時間の1時間前には出勤して業務についており,警備会社の警備記録上の施錠時刻に店長らとともに退勤していた蓋然性が十分考えられる。また,新規開店した鈴鹿店での亡Aの業務量が堺店を上回るものであったことは,鈴鹿店と堺店の売上金額・レジ回数との比較からして明らかである。レジ台数は両店とも同じであるところ,開店時の土日祝日の鈴鹿店における1日当たりレジ回数は,堺店の3倍を超える回数となっており,売上金額も4倍にのぼる。平日についても,1日当たりレジ回数は堺店の2倍を超え,売上金額も4倍に達している。新規開店の繁忙が落ち着いたのちの鈴鹿店のレジ回数,売上金額についても堺店を上回ることはあっても下回るもので- 9 -はない。加えて,亡Aが勤務していた平成14年5月1日当時の社員実人数(未配属分を含む)は36名であるのに対し,同年6月16日当時の鈴鹿店の社員数は32名にとどまる。店の営業時間も鈴鹿店の方が堺店よりも1時間長く,システム職1人 た平成14年5月1日当時の社員実人数(未配属分を含む)は36名であるのに対し,同年6月16日当時の鈴鹿店の社員数は32名にとどまる。店の営業時間も鈴鹿店の方が堺店よりも1時間長く,システム職1人当たりの業務量は鈴鹿店の方が重かった。 このような鈴鹿店での業務量からして,亡Aの時間外労働時間が堺店勤務時と比べて,半分程度になるようなことはあり得ない。 (イ)また,業務内容についても,鈴鹿店での業務は,堺店勤務時に加えて密度の高いものであった。店舗の新規開店時においては,多数の顧客が来店し多額の売上げがあるとともに,初期トラブルが多発するものである。新規採用されたパートが仕事に不慣れなため,レジミスが生じることが多く,レジ等の処理ができないときは,亡Aらがレジに出向いて指導するなどの業務が加わった。かつ,鈴鹿店開店時はエアコンが売れる時期という点でも多忙を極めていた。 亡Aの鈴鹿店開店当初である平成14年6月1日から同月9日までの労働時間は,被告主張どおりであるとしても,所定労働時間の2倍以上にも達する常軌を逸した長時間労働となっていることに留意すべきである。なお,亡Aは,鈴鹿店勤務により単身赴任となったため,食事や家事の負担も生じている。 (ウ)鈴鹿店における亡Aの業務の過重性は,フルタイムのパートの勤務実態からも推認できる。新規開店の繁忙が落ち着いた後の平成14年7月1日から同月14日までの間においても,フルタイムのパートは,パートであるのに勤務時間は9時20分ころより22時30分過ぎに及び,同期間の労働時間は150時間であるところ,1か月換算をすると優に100時間を超える時間外労働となる。また,同パートの休憩は,ない日もあり,あっても20分前後にとどまっている。 - 10 -正社員のシステム職である亡Aの業務が,フルタイムのパー 換算をすると優に100時間を超える時間外労働となる。また,同パートの休憩は,ない日もあり,あっても20分前後にとどまっている。 - 10 -正社員のシステム職である亡Aの業務が,フルタイムのパートの業務よりも軽いことは考え難い。 ウ堺店での労働時間及び業務の過重性(ア)亡Aは,堺店勤務当時,母親である原告と居住する実家から通勤しており,夕食は勤務が遅くなっても帰宅してからとることが多く,自宅で帰宅を待つ原告に夕食の準備をしてもらうため,終業直後に自宅に電話をかけることが多かった(以下,このための電話を「帰るコール」という。)。原告は,この帰るコールを受けて,通勤時間の約1時間を考えて夕食の準備を整えていた。 堺店勤務時の終業時刻について,帰るコールがある日はその10分前とし,帰るコールがない日は被告主張の終業時刻として,亡Aの時間外労働を計算すると,別紙1(別紙省略,以下別紙は全て省略)のとおり,発症前2か月が67時間59分,発症前3か月が126時間03分,発症前4か月が104時間21分,発症前5か月が106時間24分,発症前6か月が99時間55分となる。発症前1か月の時間外労働時間を被告主張のとおり44時間07分としても,発症前4か月間,同5か月間,同6か月間のいずれの期間についても月当たりの時間外労働が80時間を超えているのは明らかである。 (イ)そのほか,勤務時間外の連絡業務も存していた。 亡Aは,被告が主張する勤務時間外にも,業務に関して他の社員,パートや上司に電話で連絡をとっていた。また,亡Aは,休日にもパートから問い合わせ等を受けており,電話では通じないときには出社して対応していた。これらの勤務時間外や休日の連絡,さらには休日に出社しての対応の時間を考慮すれば,亡Aの本件発症前の時間外労働が月80時間を超えていたこ を受けており,電話では通じないときには出社して対応していた。これらの勤務時間外や休日の連絡,さらには休日に出社しての対応の時間を考慮すれば,亡Aの本件発症前の時間外労働が月80時間を超えていたことは明らかである。 (ウ)鈴鹿店におけるのと同様,堺店のフルタイムのパートの勤務実態から- 11 -して亡Aの勤務の過重性は推認できる。 (2)本件では,被告主張の労働時間によっても新認定基準における基準は満たされている。 ア新認定基準は,発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は業務と発症との関連が強いとして,業務上の疾病であると判断している。ここで「2か月間ないし6か月間」とは,発症前2か月間から6か月間のうちいずれかの期間をいうものであり,いずれかの期間で「おおむね80時間を超える」時間外労働が認められればよいのである。 イ本件は,被告主張によっても発症前6か月間の期間において79時間08分という「おおむね80時間を超える」時間外労働が認められる事案である。79時間08分は,80時間との比較では52分不足するにすぎない時間であり,「おおむね80時間」と評価される。 なお,「労災認定実務要領」(証拠略)第3の4(3)エは「おおむね80時間」の時間外労働に就労したと認められる場合でも,「労働基準法第41条第3号の監視又は継続的労働に相当する業務,すなわち,原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし,常態として身体の又は精神的緊張の少ない場合や作業自体が本来間歇的に行われるもので,休憩時間は少ないが,手待ち時間が多い場合等,労働密度が特に低いと認められるものについては,直ちに業務と発症との関連が強いと評価することは適切でないことに留意する必要がある」としている。しかし で,休憩時間は少ないが,手待ち時間が多い場合等,労働密度が特に低いと認められるものについては,直ちに業務と発症との関連が強いと評価することは適切でないことに留意する必要がある」としている。しかし,亡Aの従事していたシステム職の業務は,休憩時間もまともにとることができずに業務におわれる,過重な連続的な業務であった。 ウこのように,被告主張の労働時間を前提としても,新認定基準に照らし,本件発症の業務起因性は認められる。 (3)本件では,発症前6か月より前の業務についての付加的な評価を勘案す- 12 -れば,業務起因性はより明白である。 ア新認定基準は,発症前6か月より前の業務の過重性の評価について,「就労実態を示す明確で評価できる資料がある場合には付加的な評価となり得る」としている。長期間の過重負荷による発症過程を認める新認定基準の考え方からするなら,それによる血管病変等の基礎疾病の増悪過程は,発症前6か月間に限らず,業務に就労後全部を評価する必要が出てくるのは当然であり,主に6か月間について評価し,それより前については付加的に評価するとしたのは,6か月より前については就労実態を示す明確で評価できる資料が少ないため,判定者の負担を考慮してのことである。 本件のように,発症前6か月間の業務の過重性が認められる事案について,それ以前の業務の過重性を考慮すべきなのは当然である。 イ被告が提出したD博士の意見書(証拠略)は,新認定基準において採用された発症前6か月より前の業務の過重性についての考え方とは異なるものであるし,発症前6か月より前の業務過重性を勘案する必要がないという意見は,発症前6か月に業務過重性がない事案,すなわち月々の時間外労働が60時間未満の事案についての意見といえ,本件のように,発症前6か月間において,月当たりの時間外 重性を勘案する必要がないという意見は,発症前6か月に業務過重性がない事案,すなわち月々の時間外労働が60時間未満の事案についての意見といえ,本件のように,発症前6か月間において,月当たりの時間外労働が60時間を大きく上回り80時間にわずかに満たないという業務過重性の存する事案にはあてはまらない。 かえって,同意見書の内容に依拠しても,本件は「前6か月間の仕事で,高血圧を増加させる月々の時間外労働60時間以上」の事案であるから,発症前6か月より前の業務の過重性を付加的に考慮すべき事案である。 ウ亡Aの発症前6か月より前の1か月当たり平均時間外労働時間数は,被告主張の労働時間の計算方法によっても,別紙2のとおり,発症前7か月が83時間10分,発症前8か月が85時間16分,発症前9か月が131時間45分,発症前10か月が85時間46分,発症前11か月が88- 13 -時間48分,発症前12か月が65時間28分であり,1か月当たり80時間以上の時間外労働(週60時間以上の労働)となっている。さらに,帰るコールのある日についてその10分前を終業時刻として計算すると,別紙3のとおり,発症前7か月が92時間47分,発症前8か月が93時間50分,発症前9か月が142時間50分,発症前10か月が99時間47分,発症前11か月が101時間24分,発症前12か月が74時間15分となる。 亡Aは,このような過重な業務が続くなか,「職務に耐えられない」として退職を考え,平成13年9月30日付けの退職届を用意していた。 エこのような発症前6か月より前の亡Aの業務過重性を勘案すれば,本件疾病が業務に起因するものであることは明白である。 (4)亡Aのリスクファクターについてア基礎疾病のリスクファクターの評価について,厚生労働省労災補償部補償課長による通達で 重性を勘案すれば,本件疾病が業務に起因するものであることは明白である。 (4)亡Aのリスクファクターについてア基礎疾病のリスクファクターの評価について,厚生労働省労災補償部補償課長による通達である「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点について」(基労補第31号平成13年12月12日,証拠略)では,「脳,心臓疾患は,主に加齢,食生活等の日常生活による諸要因等の負荷により,長い年月の生活の営みの中で極めて除々に血管病変等が形成,進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するもので,その発症には,高血圧,飲酒,喫煙,高脂血症,肥満,糖尿病等のリスクファクターの関与が指摘されており,特に多数のリスクファクターを有するものは,発症のリスクが極めて高いとされている。このため,業務起因性の判断に当たっては,脳・心臓疾患を発症した労働者の健康状態を定期健康診断結果や既往歴等によって把握し,リスクファクター及び基礎疾患の状態,態度を十分検討する必要があるが,認定基準の要件に該当する事案については,明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り,業務起因性が認- 14 -められるものである」とされている。 本件では,亡Aの本件疾病について,明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情は何ら存しない。業務起因性が争われる事案の多くは被災者がリスクファクターを有するケースであるが,業務起因性を肯定した他の裁判例の事案と比べれば,亡Aのリスクファクターの程度は低い。本件発症時において,亡Aが本件疾病のリスクファクターを有していたとしても,日常業務を支障なく遂行している労働者の健康状態の多様性から逸脱するようなものではなく,基礎疾病の自然増悪による発症 低い。本件発症時において,亡Aが本件疾病のリスクファクターを有していたとしても,日常業務を支障なく遂行している労働者の健康状態の多様性から逸脱するようなものではなく,基礎疾病の自然増悪による発症と評価できないことは明らかである。 なお,被告提出のE医師の意見書(証拠略)は,リスクファクターは高度に存在したとするが,同意見書における亡Aのリスクファクターに関する数値は,恣意的に選択されている。 イよって,亡Aが私的リスクファクターを有していたとしても,本件疾病の業務起因性が否定されることはない。 (被告の主張)(1)亡Aの労働時間ア労働時間の算定根拠Xにおける社員の出退勤等にかかる時間管理は,社員自ら作成する「出勤状況表」によって行われ,時間外労働については,社員自ら申請時間等を記入し,管理者の承認を受ける「時間外勤務申請書」によって行われている。被告は,亡Aの出勤状況表(証拠略)及び時間外勤務申請書(証拠略)をもとに,関係者からの聴取事項等をも勘案して亡Aの労働時間を算定した。 イ鈴鹿店における亡Aの労働時間について(ア)勤務実態亡Aが勤務していた当時の鈴鹿店では,「早番」,「遅番」からなる- 15 -2交代勤務制が採られており,早番の勤務時間は9時35分から19時まで,遅番の勤務時間は13時から22時10分までが所定の労働時間とされていた。加えて,月によって日数は異なるが,勤務割りの中で,早番及び遅番を通しで勤務する通し勤務も存在した。 (イ)始業時刻亡Aは,平成14年5月20日から同月31日までは開店準備業務に従事していたところ,上記期間中の始業時刻は,開店前の作業を要しないことから,出勤状況表記載の8時40分である。 新規開店日(同年6月1日)以降の始業時刻については,早番の勤務日は,開店のための準備作業を考慮し ところ,上記期間中の始業時刻は,開店前の作業を要しないことから,出勤状況表記載の8時40分である。 新規開店日(同年6月1日)以降の始業時刻については,早番の勤務日は,開店のための準備作業を考慮して,出勤状況表記載の午前9時35分の15分前の9時20分,遅番の勤務日は,引継業務を考慮して同表記載の13時00分の10分前の12時50分とそれぞれ認定するのが相当である。ただし,開店日の同年6月1日から同月15日までは特に多忙であった事情を考慮し,この期間の遅番勤務日である4日間は,約1時間ほど前に出勤していたとみて,その始業時刻を12時とし,早番の勤務日のうち,出勤状況表に通常の始業時刻より早い時刻が記載された日については,記載時刻を始業時刻とした。 (ウ)終業時刻開店準備期間中の終業時刻は,閉店処理に伴う業務は必要ないから,出勤状況表記載の19時25分であると認められる。 新規開店日である平成14年6月1日以降の終業時刻は,早番の勤務日は,閉店に伴う業務は必要ないから,出勤状況表に記載された時刻をもって終業時刻とみるのが相当である。これに対し,遅番の勤務日は,第2の1(3)ウ(ア)で記載されているレジ締め作業に15分程度,事務所での突合せ作業に15分程度を要すること,システム職と共同でレジ締め作業を行うレジ係のパート等は同作業を終えて退勤する際,レ- 16 -ジを締めて間もなくレジへ退勤時刻を入力し,その時刻はPOSシステムで管理されていることから,パート等が退勤した時刻に15分を加えた時刻,すなわち,該当期間中のパート等の退勤時刻のデータである「店別パート・アルバイト勤怠データ」(証拠略)から各勤務日における最も退勤時刻が遅い退勤時刻を把握し,これにレジ締め後の事務処理に通常要するとみられる時間である15分を加えた時刻をもって亡 である「店別パート・アルバイト勤怠データ」(証拠略)から各勤務日における最も退勤時刻が遅い退勤時刻を把握し,これにレジ締め後の事務処理に通常要するとみられる時間である15分を加えた時刻をもって亡Aの終業時刻とみるのが相当である。ただし,勤怠データには,もとよりレジ係以外のパート等のデータも混在しており,例えば,特売日及びその前後日には,販売又は品出係のパート等の方が,レジ係のパート等よりも遅い退勤時刻であった可能性もあるが,合理的に推測し得る最大値を採って亡Aの労働時間を算定した。 (エ)休憩時間亡Aの出勤状況表には,休憩時間はすべて「1時間」と記載されているが,鈴鹿店の開店直後の期間における休憩時間については,商品販売という特性から,来客等の様子を見ながらの適宜の休憩とならざるを得ないこと等の事情を考慮し,これを控え目に算定することとして,1日当たり30分程度であったとみるのが相当である。もっとも,関係者の供述を総合すれば,開店直後の期間であっても1日当たり30分以上の休憩時間が確保されていた可能性は高い。他方,開店準備期間中については,上記のような考慮は不要となるから,1日当たり1時間の休憩時間が確保されていたとみるのが相当である。 (オ)休日休日については,鈴鹿店では1週平均40時間となるようなシフト編成が組まれ,その関係で所定の休日は月平均9日を取得できるよう,総年間休日を107日(閏年は108日)として各人別の勤務割が定められていた。そして,当時の鈴鹿店の従業員に確認を求めても,休日に亡- 17 -Aが出勤している姿を見た者が誰もいないこと,システム職の業務は,いずれも勤務時間内で終えることができる業務であり,勤務時間外の業務が必要となることは考えられないことを考慮すれば,亡Aは,鈴鹿店において休日出勤の事実はな 者が誰もいないこと,システム職の業務は,いずれも勤務時間内で終えることができる業務であり,勤務時間外の業務が必要となることは考えられないことを考慮すれば,亡Aは,鈴鹿店において休日出勤の事実はなく,出勤状況表に記載されたとおりの休日をとっていたと認めるのが相当である。 ウ堺店における亡Aの労働時間について(ア)勤務実態亡Aが勤務していた当時の堺店の勤務形態は,基本的には9時30分から21時30分までの「通常勤務」と,月によって日数が異なるが,勤務割りの中で定められる「遅番勤務」とがあった。 (イ)始業時刻通常営業日の始業時刻については,堺店においても開店前20~30分に朝礼があり,システム職は,開店に向けてのレジの準備作業(釣銭の準備)等を行う必要があったこと等からすると出勤状況表(証拠略)記載の9時20分とみるのが相当である。 また,早朝開店日の始業時刻については,出勤状況表には,開店時刻より1時間前の時刻が記載されており,システム職の業務は店舗開店の1時間前に出勤していれば充分に対応することが可能であることから,同表記載の時刻をもって始業時刻とするのが相当である。 遅番の勤務日における始業時刻については,開店準備に伴う業務は必要ないこと等から,出勤状況表に記載された時刻をもって始業時刻とするのが相当である。 (ウ)終業時刻出勤状況表には,終業時刻として21時00分ないし21時30分と記載されているが,鈴鹿店と同様に閉店に伴う業務を考慮し,パート等のうち最も遅い退勤者の退勤時刻に15分を加えた時刻をもって終業時- 18 -刻とするのが相当である。 (エ)休憩時間堺店においても,鈴鹿店と同様,所定の休憩時間は1時間であり,出勤状況表には,店舗の通常営業日及び早朝開店日の勤務における休憩時間は1時間,遅番勤務日の休憩時間は0 のが相当である。 (エ)休憩時間堺店においても,鈴鹿店と同様,所定の休憩時間は1時間であり,出勤状況表には,店舗の通常営業日及び早朝開店日の勤務における休憩時間は1時間,遅番勤務日の休憩時間は0時間と記載されている。しかし,鈴鹿店において述べたところと同様の考慮から,控えめに休憩時間を算定して,亡Aが実際に休憩することのできた時間は,平均すると1日当たり30分程度であったとするのが妥当である。 (オ)休日堺店においても,鈴鹿店と同様,1か月単位の変形労働時間制により,1週の平均所定労働時間は40時間,休日は年間107日となるように毎月1度のローテーションが編成され,同表に則った勤務が行われていた。そして,システム職の業務は,すべて通常の勤務時間内で終えられる業務であり,翌日まで持ち越す業務はないこと,亡Aは,その休日に店舗にいるところを他の従業員から目撃されているが,所定の制服を着用しておらず,それを見たF店長から帰宅するよう言われていることを考慮すれば,亡Aは,堺店においても休日出勤の事実はなく,出勤状況表に記載されたとおりの休日をとっていたと認めるのが相当である。 これに対し,原告は,パートから応援や相談の電話を受けるなどして,店舗に出向くことが頻繁にあり,完全に丸一日休暇をとることはほとんどなかった旨主張しているが,堺店には,システム職として,亡AのほかにGもおり,さらに,管理部門を統括するH店次長もいたのであるから,レジ係のパート等からの相談等があったとしても,わざわざ休日中の亡Aを呼び出すことは考え難く,原告の上記主張を裏付ける証拠は何もない。 エ小括- 19 -以上のような観点から,亡Aの労働時間を整理すると,別紙4「被災者の勤務状況」(証拠略)の右欄のとおりとなり,また,これを時間外労働時間数等を把握しやすい 証拠は何もない。 エ小括- 19 -以上のような観点から,亡Aの労働時間を整理すると,別紙4「被災者の勤務状況」(証拠略)の右欄のとおりとなり,また,これを時間外労働時間数等を把握しやすいように一覧性を持たせて整理したものが,別紙5である。 (2)業務起因性についてア判断枠組み脳・心臓疾患の発症と業務との相当因果関係が認められるためには,まず,①当該業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢・経験を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者にとって,血管病変等その自然経過を超えて著しく増悪させ得る程度の負荷であると認められること(危険性の要件),さらに,②当該業務による負荷が,その他の業務外の要因(当該労働者の私的リスクファクター等)に比して相対的に有力な原因となって,当該脳・心臓疾患を発症させたと認められること(危険の現実化の要件)が必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決参照)。 そして,専門検討会報告書は,最新の医学的知見に基づき,どのような場合に,脳・心臓疾患の発症が「業務に内在する危険の現実化」と認められるかについて評価要因を検討したものであり,医学的に極めて信頼性の高い資料であるから,業務起因性の有無は,同報告書に示された最新の医学的知見に基づいて判断されるべきである。 イ発症に近接した時期における過重負荷の有無(ア)異常な出来事の遭遇について本件発症直前から前日までの亡Aの業務において,極度の緊張,興奮,恐怖,驚愕等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態,緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常等の出来事は認められないし,また,その間に亡Aが就労した業務- 20 -も,日常業務に比較して特 起こす突発的又は予測困難な異常な事態,緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常等の出来事は認められないし,また,その間に亡Aが就労した業務- 20 -も,日常業務に比較して特に過重な精神的,身体的負荷を生じさせたと客観的に認められるような業務であったとも認められない。 (イ)短期間の過重負荷について本件発症1週間前の期間(7月3日ないし7月9日)の総時間外労働時間は,12時間20分であるが,1日当たりの時間外労働時間は,ほぼ2時間程度にとどまっていること,本件発症の2日前と5日前は公休日であったこと,システム職の業務内容からみてその労働密度は必ずしも高いものではないことを斟酌すれば,本件発症前1週間以内の時間外労働が本件発症に結びついたと認めることは困難である。 ウ長期間にわたる過重負荷の有無(ア)評価期間について「長期間にわたる過重負荷の有無」を判断する際に問題となる就労状況の評価期間については,発症前6か月間(本件発症の日である平成14年7月10日から遡り6か月間)とみるのが相当である。専門検討会報告書を座長としてとりまとめたD博士も,多数の医学的資料を摘示した上,業務過重性の評価期間について,基本的には,6か月の観察で十分と考えられるとしている(証拠略)。 また,例外的に,6か月より前の過重性を考慮すべき場合について,D博士は,「①発症前6か月間の明確なデータがない場合,または不正確である場合で,判断できず,6か月より前の過重性などの間接的なデータによって,前6か月にかなりの過重労働があったことが示唆される場合,②発症前6か月以前に極めて過重な労働があって,その後の6か月間で月100時間ないし2~6か月の平均80時間以下の時間外労働であるものの,前6か月間の過重労働による影響が改善されない,ある 場合,②発症前6か月以前に極めて過重な労働があって,その後の6か月間で月100時間ないし2~6か月の平均80時間以下の時間外労働であるものの,前6か月間の過重労働による影響が改善されない,あるいは徐々に増強することが医学的に考えられる場合,この場合,前6か月間の仕事で,高血圧を増加させる月々の時間外労働60時間以上- 21 -などが考えられる。前6か月間で,それ以前の過重労働による影響が直後の発症に結びつかなくて,その後,十分な回復の時間的余裕があると判断される場合は,6か月以前の過重労働は考慮する必要はないと考えられる,③発症前1年半~3年近い調査で,その間一貫して週の労働時間が60時間以上の群で血圧上昇,高血圧発症が見られる場合」としている(証拠略)。 D博士の上記見解は,同博士自身,我が国の公衆衛生学の権威であることに加え,多数の医学的資料を示していること,専門検討会報告書の内容とも齟齬はないこと等に照らし,専門的知見として十分合理性を有するものというべきである。 なお,原告は,専門検討会の第3回議事録におけるD博士の発言をとらえ,業務過重性の評価期間を6か月に限定したのは,科学的根拠からというよりも業務上外を,それを判定する労基署の負担を考慮しての結果であるなどと主張しているが,D博士が明確に述べるとおり,業務過重性の評価期間を発症前6か月とすることは医学的根拠によるものであり,決して労働基準監督署の業務の負担を考慮しているのではなく,医学的にみて6か月で十分なのである。 (イ)以上を本件についてみると,まず,亡Aの発症前6か月間の労働時間については,前記のとおり明確なデータが存在するから,上記①には当たらない。 また,上記②についても,本件発症前の2か月間においては,時間外労働時間は減少し,とりわけ,鈴鹿店に異動後 月間の労働時間については,前記のとおり明確なデータが存在するから,上記①には当たらない。 また,上記②についても,本件発症前の2か月間においては,時間外労働時間は減少し,とりわけ,鈴鹿店に異動後本件発症までの期間は,それ以前の長時間労働によって生じた疲労の蓄積が徐々に解消されるような勤務状態にあったことが明らかであるから,D博士が述べる「前6か月間の過重労働による影響が改善されない,あるいは徐々に増強することが医学的に考えられる場合」に当たるともいえない。 - 22 -さらに,亡Aにつき,発症前1年半~3年近く一貫して週の労働時間が60時間以上であったことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件においては,発症前6か月間の期間をもって亡Aの業務過重性を評価するのが相当である。 (ウ)本件における検討以上に述べた点を踏まえ,亡Aの長時間にわたる業務負荷の有無について検討するに,亡Aの発症前1か月間の時間外労働時間は,44時間07分であり,認定基準において発症との関連性が強いと評価できる目安とされた「発症前1か月間におおむね100時間」のレベルに至っていないこと,発症前2か月間ないし6か月間における1か月当たりの平均時間外労働時間数についてみても,それぞれ55時間19分(発症前2か月間),72時間33分(発症前3か月間),77時間55分(発症前4か月間),77時間55分(発症前5か月間),79時間08分(発症前6か月間)であり,認定基準において発症との関連性が強いと評価できる目安とされた「発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間」のレベルに達していない。なお,上記労働時間は合理的に推測し得る最大値であって,実際にはこれを下回っていた可能性もあり,「おおむね80時間」といえないことは明らかである。 当たりおおむね80時間」のレベルに達していない。なお,上記労働時間は合理的に推測し得る最大値であって,実際にはこれを下回っていた可能性もあり,「おおむね80時間」といえないことは明らかである。 さらに,勤務形態の不規則性,拘束時間の長さ,交替制勤務及び深夜勤務といった諸要素を勘案しても,本件において業務の危険性を認定することはできない。 エ危険の現実化について以上のとおり,業務の危険性が認め難い以上,業務起因性も認められないことは明らかであるが,さらに,本件疾病の原因となったと考えられる業務外の要因(当該労働者の私的リスクファクター等)を多く指摘するこ- 23 -とができ,危険の現実化も認めることはできない。亡Aの私的リスクファクターについては,以下のとおりである。 (ア)飲酒による睡眠不足が顕著であったこと専門検討会報告書は,長期間の過重業務を判断する上での時間外労働時間数の基準等を示しているところ,そこでの基準等の基礎となっているのが,脳・心臓疾患の罹患と「睡眠時間」との関係である。 そして,亡Aは,業務終了後に,度々,勤務先の友人等と飲酒する習慣を有しており,これは十分な睡眠を阻害する業務以外の要因と認められる。 (イ)血圧について高血圧は,粥状硬化により細小動脈硬化を起こしやすく,虚血性心疾患との関連がみられる。 亡Aは,本件発症の5年前である平成9年の定期健康診断で高血圧及び肥満を指摘され,平成11年9月に,羽曳野市所在の医療法人Y病院(以下「Y病院」という。)を受診して「高血圧症」,「高脂血症」と診断されており,平成12年12月まで通院治療を受けた結果,平成12年の定期健康診断では,高血圧はやや改善している。ところが,平成13年の定期健康診断では,収縮期血圧及び拡張期血圧ともに再び高値を示しており,高血圧症が長期 12月まで通院治療を受けた結果,平成12年の定期健康診断では,高血圧はやや改善している。ところが,平成13年の定期健康診断では,収縮期血圧及び拡張期血圧ともに再び高値を示しており,高血圧症が長期間にわたって持続していた。 また,平成11年9月25日にY病院を受診した際の血圧は170/106で,頭痛もあったこと,担当医師は,高血圧性緊急症を疑い,アダラート(高血圧治療薬)を通常の治療法ではない舌下投与という手段を用いて緊急的な降圧治療を行っていることからすると,軽度の高血圧症であったとはいい難い。 (ウ)肥満について肥満の人の虚血性心疾患の発症率を標準体重の人に比べると,約2倍- 24 -高くなるといわれている。 定期健康診断における検査結果によると,亡Aの肥満度を表すBMI(体重を身長の2乗で割った数値,正常値は22)は,平成9年11月6日から平成13年10月5日までいずれも高値(26~27)を示しており,肥満の状態が長期間にわたって継続していた。 (エ)高脂血症について専門検討会報告書は,虚血性心疾患のリスクファクターの中で,高脂血症を特に強い関係がある「+++」に位置付けている(証拠略・122頁「表6-6」参照)。 亡Aに対する脂質検査は,Y病院において平成11年10月6日及び平成12年4月6日に2回実施されているところ,いずれの検査でも総コレステロール及び中性脂肪の各値は高値を示しており,とりわけ,平成11年10月6日の検査では,総コレステロール値が280㎎/dlという高値であった。この点,Z医療センターのE医師は,「長期間高脂血症に暴露され続けていたと判断される。・・・亡Aの場合には,ある時は総コレステロールが,他の時は中性脂肪が高値であることから,高脂血症が継続していたのは紛れもない事実である」(証拠略)と所見を述べ 症に暴露され続けていたと判断される。・・・亡Aの場合には,ある時は総コレステロールが,他の時は中性脂肪が高値であることから,高脂血症が継続していたのは紛れもない事実である」(証拠略)と所見を述べており,高脂血症の状態が長期間にわたって継続していた。 (オ)糖尿病について糖尿病患者では,虚血性心疾患を発症する頻度は,男性で2倍高いとされる。定期健康診断における検査結果によると,亡Aは,平成10年の定期健康診断で尿糖が「+」であり,平成12年の定期健康診断では「++」であった。この点について,E医師は,「亡Aの場合には,この期間における健康診断時に,2回血糖値が160㎎/dl以上の高血糖があったと推察される。この健康診断における採血が・・・仮に食後に行われたものであったとしても,食後高血糖がみられる患者,すなわ- 25 -ち耐糖能の異常を示す糖尿病予備軍(正常人では食後血糖値は140㎎/dlを超えない。)であった」との所見を述べており(証拠略),亡Aは,糖尿病の可能性があり,そうでなくても糖尿病予備軍であった。 (カ)その他の因子について亡Aの高血圧症及び高脂血症について,Y病院の担当医師は,食事療法及び運動療法の適応としているが,亡Aは平成13年1月以降,本件発症に至るまで,これらの疾病については全く治療を受けていない。加えて,亡Aには勤務終了後に高い頻度で飲酒する習慣があり,喫煙も継続していたことが認められる。喫煙について専門検討会報告書は,「紙巻たばこの喫煙は,・・・急性心筋梗塞や急死のリスクファクターともなる。喫煙習慣と虚血性心疾患の発症率には,強い相関が認められている。禁煙による虚血性心疾患の発症減少効果も,数年後には得られることが証明されている。喫煙は冠〔状〕動脈攣縮の引き金になる。」としている。また,E医師も,「喫煙 の発症率には,強い相関が認められている。禁煙による虚血性心疾患の発症減少効果も,数年後には得られることが証明されている。喫煙は冠〔状〕動脈攣縮の引き金になる。」としている。また,E医師も,「喫煙の危険性について,肺がんでは,1日の喫煙本数とがん発生の関係が証明されているが,冠動脈疾患では,喫煙の有無で評価されており,喫煙本数と冠動脈疾患の発生を明確にした世界的な論文はない。」との所見を述べている(証拠略)。 オまとめしたがって,本件発症前6か月間の時間外労働時間数は,発症との関連性が強いと評価できる目安とされたレベルに達しておらず,勤務形態の不規則性,拘束時間の長さ,交替制勤務及び深夜勤務といった諸要素を勘案しても,本件において業務の危険性を認定することができないから,業務の危険性は認められない。 また,亡Aについては,本件疾病の原因となったと考えられる業務外の要因が多数認められ,しかも,その程度は軽度ではないことから,その業務による負荷が,これら業務外の要因に比して相対的に有力な原因となっ- 26 -て,本件疾病を発症させたとは認め難く,危険の現実化も認められない。 以上の次第で,本件疾病が別表第9号所定の「業務に起因することの明らかな疾病」と認めることは困難であり,被告が原告に対してした遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の本件決定は適法である。 第3当裁判所の判断 亡Aの本件発症までの業務内容等前提となる事実と証拠(略),原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると,亡Aが本件発症時までの間に従事していた業務内容等につき,次の事実が認められる。 (1)概要亡Aは,羽曳野市の実家から通学に片道3時間以上をかけて和歌山県下の大学を卒業した後の平成4年3月26日,尼崎市に本社があるXに入社し,八尾店勤務を経て,平成9年10 実が認められる。 (1)概要亡Aは,羽曳野市の実家から通学に片道3時間以上をかけて和歌山県下の大学を卒業した後の平成4年3月26日,尼崎市に本社があるXに入社し,八尾店勤務を経て,平成9年10月から平成11年10月までの泉大津店勤務時に営業職からシステム職となった。以後,亡Aは,システム職に従事しており,平成13年5月16日から平成14年5月19日までは堺店に勤務し,平成14年5月20日からは本件発症時まで,同年6月1日に新規開店した鈴鹿店で勤務していた。 (2)堺店における勤務状況(平成13年5月16日から平成14年5月19日まで)ア堺店は,南海本線堺駅に隣接したテナントビルの3階にある店舗であり,営業時間は,10時から21時までとなっている(証拠略)。 堺店は従来家具と家電を販売していたが,平成13年10月に家電販売専門となった。以降の堺店の組織体制は,店長のFの下に,店次長のI及びH,各売場のチーフが3~4名,システム職には亡AとGの2名,その他の正社員等の合計25~30名がおり,正社員以外にはパート等が約30名いた。I店次長は営業部門を,H店次長は管理部門を,それぞれ担当- 27 -しており,システム職は管理部門に属し,亡AとGの両名の直接の上司はH店次長であった(証拠略)。 イ堺店における勤務形態亡Aが勤務していた当時の堺店の勤務形態は,9時30分から21時30分までを通常勤務としていたが,勤務割りの中で,就業規則で定められている労働時間となるよう月に数日程度の遅出勤務があった(証拠略)。 ウ堺店における業務内容等(証拠略)亡Aが堺店においてシステム職として従事していた業務内容は,おおむね次のようなものであった。 (ア)始業時刻及び開店業務堺店では,システム職は,朝9時30分から行われる朝礼には参加しないで, 略)亡Aが堺店においてシステム職として従事していた業務内容は,おおむね次のようなものであった。 (ア)始業時刻及び開店業務堺店では,システム職は,朝9時30分から行われる朝礼には参加しないで,店長又は店次長から釣銭の入った袋や,レジで使用する収入印紙,受払簿を受け取り,各レジを回ってレジ係のパート等に釣銭や収入印紙を配付し,9時45分ころから5ないし10分程度パート等を集めて朝礼を行っていた。 亡Aは,堺店勤務時は羽曳野市の実家に原告と同居していたが,家を出るのは8時すぎころであり,約1時間の通勤時間を経て,9時20分ころには出勤していた(証拠略)。 (イ)売上金等の管理システム職は,レジ係のパート等と2名で,レジを締める際の売上金と売上伝票の突き合わせ作業を担当する。閉店時には,稼動しているレジ数は1,2台となっているため,この1,2台についてレジ締めを行うこととなり,レジ内にある売上金及び釣銭と売上伝票の突き合わせ作業に要する時間は15分程度である。この作業が終わると,売上伝票を出力してパート等の業務は終了となり,パート等は終業時刻をPOSシステムに入力した後,私物チェックを受けて退勤する。 - 28 -堺店では,その後システム職は,売上金と釣銭を再確認し,仕分けして袋に詰め,売上伝票とともに事務所まで運ぶ。この作業の所要時間も10ないし15分程度である(証拠略)。 (ウ)レジ回りの業務とパート等の教育・指導システム職は,営業時間中は主に,稼動しているレジを回りながら,パート等の接客やレジ操作の状況を確認して,必要に応じて助言・指導を行い,販売した商品の在庫確認をする。 (エ)伝票に関する業務システム職は,売上伝票,配達伝票,工事伝票,注文伝票といった各種伝票につき,内容について配達や工事の場所,日時等に誤りがないかを確 を行い,販売した商品の在庫確認をする。 (エ)伝票に関する業務システム職は,売上伝票,配達伝票,工事伝票,注文伝票といった各種伝票につき,内容について配達や工事の場所,日時等に誤りがないかを確認する業務と,伝票を整理して管理する業務を担当している。 (オ)クレーム等の処理システム職が対応するクレームは,レジにおける商品と現金の受渡しや配達の約束時間のミスに関するものであり,電話での受付対応も行っていた。 (カ)収入印紙等の管理と備品の発注レジにおいて収入印紙や切手を使用した場合は,システム職が使用枚数等を受払簿に記入し,レジ業務の終了後,残った収入印紙等を受払簿とともに店次長に手渡すこととなっていた。 また,システム職は,レジにおいて使用するレシート,各種伝票用紙,ビニール袋,包装紙,手鉤,FAX用紙類等の消耗品を管理し,適宜備品チェックシートで残数を確認し,不足するものの注文を行っていた。 (キ)終業時刻堺店の営業時間は21時までであるが,顧客が帰るまでは閉店できないため,閉店時刻が遅くなることがある。 亡Aが勤務していた当時,堺店のパート等のうち最も遅い退勤者の退- 29 -勤時刻は,21時30分ころから22時30分ころであることがほとんどであった(証拠略)。レジ係のパート等には閉店後のレジ締め作業があるため,商品販売係やサービスカウンターのパート等よりも早く業務が終わるということは基本的にない(証拠略)。 エ堺店は,ターミナル店で規模が大きかったことから,販売社員の不手際で処理に時間がかかったりレジでの打ち間違いなどにより,レジでの顧客対応が多く必要となり,システム職としては,顧客からのクレーム対応に相当の負担感があった。亡Aは,クレーム対応として顧客に謝罪に出向いたり,不具合の生じた商品を自分で引取って新品を顧客に渡す の顧客対応が多く必要となり,システム職としては,顧客からのクレーム対応に相当の負担感があった。亡Aは,クレーム対応として顧客に謝罪に出向いたり,不具合の生じた商品を自分で引取って新品を顧客に渡すなどしたこともあった(証拠略)。 なお,クレーム対応に関して,F店長やJシステムマネージャーの聴取書(証拠略)には,対応の困難なものについては,管理者である店長や店次長が対応していたから,亡Aの負担は多くなかった旨の記載がある。しかし,Jマネージャーは,亡Aがクレーム処理をして,以前2回ぐらいトラブルになったことがあると述べているし(証拠略),F店長は,亡Aにつき「仕事にミス等はありました。人には能力の差がありますのでやむを得ないと思います。私は,店長として,全社員に対してですが,サービス業でありますのでお客様と約束等をした場合は必ず実行すべきだと考えておりますので,それが本人にしかわからない場合には,休日であれ履行すべきだと考えていますので,私も含め社員に指導等はしています。」と述べており(証拠略),かかる供述からは,亡Aが顧客からのクレームに適切に対応できなかった事例があることが窺われる。そうすると,亡Aが顧客のクレーム対応に負担感をもっていたことは想像に難くないというべきであり,これを否定する上記各聴取書の記載は採用できない。 オ亡Aは,堺店勤務時に,上司との折り合いが悪かったことと仕事の負担が多いことを理由に退職を考えたことがあり,「職務に耐えられない」と- 30 -の理由で平成13年9月30日付けの退職届を作成している(証拠略)。 (3)鈴鹿店における勤務状況(平成14年5月20日から本件発症時の同年7月10日まで)ア鈴鹿店は,鈴鹿市a町b丁目所在のショッピングセンター2階フロアーに平成14年6月1日に新規開店した店舗である )鈴鹿店における勤務状況(平成14年5月20日から本件発症時の同年7月10日まで)ア鈴鹿店は,鈴鹿市a町b丁目所在のショッピングセンター2階フロアーに平成14年6月1日に新規開店した店舗である。営業時間は,同センターの営業時間に合わせて10時から22時までとなっている。 亡Aが勤務していた当時の鈴鹿店の組織体制は,店長のK,店長代行のL,各売り場のチーフにMほか2名,亡Aを含む一般社員25名,パート等13名であった。システム職としては,亡Aのほか,Cがいた。L店長代行は,店長の不在時に店長の職責を代行していたが,それ以外に,システム職のチーフがいなかったことから,システム職のまとめ役としての役割を担っていた。また,Mチーフは,次期店長候補であり,他の売場チーフよりもランクが上であったことから,店舗の鍵,POSキー,予算及び売上成績の管理も担当し,管理者として扱われていた(証拠略)。 イ開店準備期間中の鈴鹿店における業務内容亡Aは,鈴鹿店に平成14年5月20日から勤務しているが同日から同月31日までの間は,鈴鹿店の新規開店準備に従事していた(証拠略)。 開店準備期間におけるシステム職の具体的な業務の内容は,レジ係のパート等の研修であった。具体的には,朝9時から職員の朝礼が15分程度あり,その後は,レジの操作,接客,各伝票の処理方法等について,10名程度の班別でパート等に指導を行うというものであった。パート等への研修は,研修スケジュールに基づいて実施されており,その終了後にはシステム職の業務は終了した(証拠略)。 ウ鈴鹿店開店直後2週目までの状況(ア)鈴鹿店は,新規開店後の平成14年6月1日から同月15日までの間,土曜,日曜を中心として開店セールを行った。開店した土曜日の同月1- 31 -日と翌日の日曜日である同月2日,開店翌週 の状況(ア)鈴鹿店は,新規開店後の平成14年6月1日から同月15日までの間,土曜,日曜を中心として開店セールを行った。開店した土曜日の同月1- 31 -日と翌日の日曜日である同月2日,開店翌週の週末の金曜日の同月7日から日曜日である同月9日まで,開店翌々週の土曜日の同月15日については,社員総出の体制であり,システム職も通し勤務であった。 この期間は,来店客数も通常の2倍くらい,売上げは3から4倍にものぼり,特に多忙であった。堺店における1日当たり平均売上金額は,土日祝祭日で1600万円から2000万円,平日で500万円から600万円程度であり,1日当たり平均レジ回数は,土日祝祭日で1300回から1500回,平日で600回から700回程度であるところ,鈴鹿店の新規開店直後の状況は,平成14年6月1日(土)と同月2日(日)は両日とも,売上金額が8200万円超,レジ回数が5000回超であり,次の週末の同月7日(金)は,売上金額が2200万円超でレジ回数が2100回超,同月8日(土)は,売上金額が4200万円超でレジ回数が3300回超,同月9日(日)は,売上金額が4800万円超でレジ回数が3400回超となっており,その翌週末の同月15日(土)は,売上金額が2300万円超でレジ回数が1700回超,同月16日(日)は,売上金額が2700万円超でレジ回数が2000回超となっている(証拠略)。 (イ)こうした繁忙状況に加え,開店当初はレジ係パート等も不慣れであったため,過不足金が多く発生し,システム職は,その処理のために終業が遅くなるなどした。また,レジ係のパート等がレジにおける高度な処理ができず,システム職である亡AやC,L店長代行に聞いたり,レジまで来てもらうなどして作業を進めており,その分,システム職の業務負担が増加していた。さらには レジ係のパート等がレジにおける高度な処理ができず,システム職である亡AやC,L店長代行に聞いたり,レジまで来てもらうなどして作業を進めており,その分,システム職の業務負担が増加していた。さらには,レジ,工事伝票,配達伝票の打ち間違えが多く発生したことで,客からのクレーム対応に苦慮する状況であった(証拠略)。 その結果,亡Aの労働状況は,出勤状況表記載時刻によっても,平成- 32 -14年6月1日,同月2日,同月8日,同月9日,同月15日の5日間は,終業時刻が深夜の0時30分であり,そのうち始業時刻が朝7時20分とされる3日については1日の拘束時間が17時間を超え,残りの2日も始業時刻が朝8時あるいは朝9時とされていることから,1日の拘束時間が15時間30分あるいは16時間30分にのぼった。いずれも休憩時間を30分として計算すると,1日の労働時間は15時間から16時間を超えるものとなる(証拠略)。なお,鈴鹿店では警備会社に警備を委託しており,K店長,L店長代行及びMチーフが鍵の管理をしていたところ,警備会社の警備記録では,平成14年6月1日は,開錠時刻が朝6時41分で施錠時刻が深夜2時,同月2日は,開錠時刻が朝6時11分で施錠時刻が深夜0時56分となっていて,店舗は,亡Aの出勤状況表記載時刻を上回る時間で稼動していた(証拠略)。 エ開店後の鈴鹿店における勤務形態開店後の鈴鹿店では,システム職の勤務時間は,亡AとCが同じ日に勤務する日は,早番と遅番に分け,早番は,午前9時35分から19時まで,遅番が13時00分から22時10分までの2交替制勤務として組まれていた。土日については,所定勤務時間が午前9時35分から22時10分までの通し勤務も存在した(証拠略)。 オ開店後の鈴鹿店における業務内容等(証拠略)開店後の鈴鹿店で亡Aがシ 制勤務として組まれていた。土日については,所定勤務時間が午前9時35分から22時10分までの通し勤務も存在した(証拠略)。 オ開店後の鈴鹿店における業務内容等(証拠略)開店後の鈴鹿店で亡Aがシステム職として従事していた業務内容は,基本的には堺店におけるのと同じであったが,次の点が異なっていた。 (ア)始業時刻及び開店業務鈴鹿店では,システム職は,出勤後,定額の金額をレジに入れて開店の準備をし,9時35分から職員の朝礼に参加し,9時45分からパートの朝礼を5分から10分程度行い,その後それぞれの担当場所に就く(証拠略)。 - 33 -亡Aは,鈴鹿店勤務時は1人暮らしをしており,9時20分ころには出勤していた。居住場所から鈴鹿店までの所要時間は,車で約15分弱であった(証拠略)。 (イ)売上金等の管理における事務所での突き合わせ作業鈴鹿店では,レジ締め作業において,レジ係のパート等と突き合わせ作業を行った後,システム職が事務所で管理者3名のうち1名とペアを組んで売上伝票と現金等の突き合わせ作業を行っていた。この作業の所要時間は15分程度であった。 (ウ)勤務シフト表等の作成亡Aは,Cよりもシステム職の経歴が長かったことから,事前に各パート等から勤務日の希望を聞いた上で,来客者数の予想を加味して,パート等の勤務時間の割振りや各レジへの配置を決定し,1日単位で記載した「勤務シフト表」と2週間分を取りまとめた「パートレーバー表」の作成を担当していた。 (エ)電話対応係のパート等の指導等亡Aは,鈴鹿店では,レジ係のパート等のほか,電話対応係のパート等の指導を担当していた。そのため,電話対応係のパート等で対応できない案件につき相談にのって指示したり,代わって対応することもあった。 (オ)終業時刻鈴鹿店は,営業時間が22時までであるため, ト等の指導を担当していた。そのため,電話対応係のパート等で対応できない案件につき相談にのって指示したり,代わって対応することもあった。 (オ)終業時刻鈴鹿店は,営業時間が22時までであるため,パート等のうち最も遅い退勤者の退勤時刻は,23時前後となっている(証拠略)。 (4)本件発症当日の経緯ア亡Aは,平成14年7月9日23時,羽曳野市内の実家に「明日休みがとれたので今晩帰る」との電話をし,同日23時15分,鈴鹿店での通常勤務が終了してから,翌10日0時24分,鈴鹿市内のコンビニエンスス- 34 -トアで切手を購入後,自家用車を運転して実家へ帰省し,深夜の同日午前3時30分ころ,羽曳野市の実家に到着して,原告と少し会話をした後,就寝した(証拠略)。 原告は,同月10日正午ころ,亡Aに食事をするか聞きに行ったところ,静かに寝ている様子であったため,声をかけなかった。原告は,同日15時30分ころ再度,亡Aの様子を見に行ったところ,昼と同じ状態であったので声をかけたものの返事がなく,顔に触れると冷たくなっていたため,直ちに救急車を呼んだ(証拠略)。 亡Aは,近畿大学医学部附属病院に搬送されたが既に死亡しており,法医学解剖により,死亡推定時刻は同日午前10時ころ,直接死因は虚血性心疾患,解剖による所見として肺膨大,浮腫状,心冠動脈硬化狭窄状,左心室拡張,左心室後壁心筋内出血巣存在とされた(証拠略)。 イ亡Aの鞄の中には,パート数人分のシフト表(平成14年7月6日から同月9日までの分),鈴鹿のコンビニエンスストアにおける切手購入の領収書,宛名書きされた封筒が1通入っていた。同領収書には,「平成14年7月10日(水)0:24」と記載され,80円切手を40枚購入していた(証拠略)。 ウ本件発症の前日あるいは近接した時期において,亡Aの鈴 書きされた封筒が1通入っていた。同領収書には,「平成14年7月10日(水)0:24」と記載され,80円切手を40枚購入していた(証拠略)。 ウ本件発症の前日あるいは近接した時期において,亡Aの鈴鹿店での業務内容には,特に通常と異なる点はなかった(証拠略)。 亡Aの労働時間(1)証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,Xにおける所定労働時間は本社で作成された就業規則に基づき,1か月単位の変形労働時間制により,週平均40時間として,休日は年間107日となっていること,Xでは,社員の出退勤等にかかる時間管理は,社員自らが作成する出勤状況表によってのみ行われており,時間外労働については,社員自ら申請時間等を記入し,管理者の承認を受ける時間外勤務申請書が作成されていることがそれぞれ認められる。 - 35 -しかし,亡Aの出勤状況表(証拠略)の記載内容は,出勤時刻及び退勤時刻にほとんど変動がなく,例えば堺店勤務時の退勤時刻はほぼ一律21時30分とされるなど,形式的に記入されていたことが窺われ,実際の勤務時間を表すものとは考え難い。 (2)被告が主張する労働時間の算出方法について被告は,こうした点も踏まえ,第2の2(被告の主張)(1)エのとおり終業時刻をパート等のうち最も遅い退勤者の退勤時間に15分を加えた時刻とし,休憩時間を30分間とするなどして,出勤状況表の記載内容を修正して亡Aの労働時間を別紙5のとおり算出している。 そこで,別紙5の算出方法の合理性について検討する。 ア第3の1のとおり,鈴鹿店及び堺店ともに,システム職は,売上金等の管理業務として,レジ係のパート等と突き合わせ作業を行った後の作業に15分程度がかかること,レジ係のパート等には閉店後のレジ締め作業があるため,商品販売係やサービスカウンターのパート等よりも早く業務が終わると て,レジ係のパート等と突き合わせ作業を行った後の作業に15分程度がかかること,レジ係のパート等には閉店後のレジ締め作業があるため,商品販売係やサービスカウンターのパート等よりも早く業務が終わるということは基本的になく,パート等のうち最も遅い退勤者はレジ係であると考えられることからすると,亡Aの終業時刻をパート等のうち最も遅い退勤者の退勤時間に15分を加えた時刻とすることには基本的に合理性があるといえる。また,休憩時間についても,鈴鹿店で亡Aと同じシステム職であったCが,休憩時間は来客が多く対応に追われゆっくり取ることはできず,13時30分から14時ころに15分から20分ですませ,後は夕方近くに缶コーヒー等で休憩していた旨供述していること(証拠略)からすれば,休憩時間を30分間とすることは実態に即したものといえる。その他の被告主張の労働時間の算出方法についても,第3の1で認定した勤務状況に基本的に沿うものというべきである。 したがって,被告主張の算出方法には合理性が認められ,亡Aの労働時間は基本的には被告主張時間程度であったと認められる。 - 36 -イなお,被告は,休憩時間につき,関係者の供述を総合すれば実際には1日当たり30分以上確保されていた可能性は高いが,控えめに算出したとするが,休憩時間に関する関係者の供述をみると,まとまった休憩は2~30分程度しかとれないとする点は共通している。来客数が減る時間帯に缶コーヒーを飲んだり喫煙したりする時間については,頻度や1回当たりの時間も明確ではなく,休憩時間として考慮するほどの性質を有するものかは疑問である。そうすると,休憩時間を30分間として労働時間を算出することは,控えめの算出にはならないというべきである。 (3)一方,原告は,鈴鹿店及び堺店における亡Aの労働時間につき,被告主張 かは疑問である。そうすると,休憩時間を30分間として労働時間を算出することは,控えめの算出にはならないというべきである。 (3)一方,原告は,鈴鹿店及び堺店における亡Aの労働時間につき,被告主張の算出方法は実態に即していないとして次の点を主張している。 ア原告は,鈴鹿店における労働時間については,同じシステム職であったCの津労働基準監督署での供述内容からして2交替勤務制が名目的なものであった蓋然性が高く,鈴鹿店と堺店の売上金額・レジ回数の比較からしても鈴鹿店での時間外労働時間数が堺店勤務時の半分程度になることはあり得ないし,フルタイムのパートの勤務時間と比べても被告主張時間は過小すぎるなどとしている。 しかし,原告が2交替勤務制が名目的なものであった根拠として指摘するCの津労働基準監督署での供述は,「Aさんとは勤務もたいへんでしんどいのでシフトどおりの勤務にしようと話し合ったこともありました。」(証拠略)とする部分であるが,同部分では,続いて「実際にAさんが遅番の日に早く出勤していたところを見た記憶はありません。」と述べられており,原告指摘部分の供述が2交替勤務制が名目的であったことを示すものとは評価できない。「勤務もたいへんでしんどい」との供述から鈴鹿店におけるシステム職の業務が多忙であったことは窺われるものの,文脈からすれば,Cは,2交替勤務制が機能していたことの裏付けとして同供述をしたものである。その他,鈴鹿店における2交替勤務制が名目的であ- 37 -ったことを示す証拠はないから,この点に関する原告の主張は採用できない。 また,鈴鹿店と堺店の売上金額・レジ回数については,証拠(略)によれば,亡A勤務時の鈴鹿店の売上金額・レジ回数は堺店を上回ることはあっても大きく下回るようなことはなかったことが認められるが証拠(略)によ 鈴鹿店と堺店の売上金額・レジ回数については,証拠(略)によれば,亡A勤務時の鈴鹿店の売上金額・レジ回数は堺店を上回ることはあっても大きく下回るようなことはなかったことが認められるが証拠(略)によると,鈴鹿店での亡Aの時間外労働時間数が堺店勤務時と比べてかなり減少しているのは,2交替勤務制によるところが大きいものと看取できる。そうすると,上記のとおり2交替勤務制が名目的であったとはいえない以上,鈴鹿店と堺店の売上金額・レジ回数に差がないからといって,鈴鹿店勤務時の時間外労働時間数が堺店勤務時と同程度であるということはできない。同じく,2交替勤務制のもとで遅番勤務があった亡Aの労働時間について,フルタイムのパートの勤務時間をそのまま比較することもできないものである。 イ次に,原告は,亡Aは,堺店勤務時には終業後に原告に帰るコールを架けていたから,携帯電話の通話記録(証拠略)上の帰るコールの時刻の約10分前が終業時刻であり,これをもとに時間外労働時間数を算出すると別紙1のとおりになるとし,かつ,同時間外労働時間数に加えて,堺店勤務時には休日でも連絡を受け店舗に出勤し,休日はほとんどなかったと主張し,陳述書(証拠略)及び原告本人尋問において,これに沿う供述をしている。 (ア)まず,帰るコールに関しては,原告の供述内容によっても,亡Aの携帯電話の通話記録(証拠略)上,自宅に発信された電話のうち原告が帰るコールであると主張するものが,全て帰るコールであったと認めるには足りないし,そこに帰るコールが含まれていたとしても,亡Aが電話を架けた時刻と終業時刻との時間的な関係は不明というほかない。原告は,亡Aが仕事を終えてすぐ架けていると言っていた旨供述するが,毎- 38 -回終業後10分程度で帰るコールを架けていたと認めることは困難である。 そ 刻との時間的な関係は不明というほかない。原告は,亡Aが仕事を終えてすぐ架けていると言っていた旨供述するが,毎- 38 -回終業後10分程度で帰るコールを架けていたと認めることは困難である。 そうすると,携帯電話の通話記録をもとに亡Aの労働時間を算出することには無理があるといわざるを得ず,原告主張の別紙1の時間外労働時間数を採用することはできない。 (イ)また,休日などの勤務時間外の労働については,証拠(略)によれば堺店で亡Aとともにシステム職をしていたGから,亡Aの休日に業務に関し問い合わせの電話があったことが認められ,同僚のNの供述(証拠略)や原告の供述を勘案すると,亡Aが休日にも電話連絡を受けて対応したり,店舗に出向くことはあったものと認められる。もっとも,その頻度や休日出勤の実態は不明であり,亡Aの休日が殆どなかったとまでは認められない。 なお,休日出勤に関しては,堺店のF店長は,亡Aが休日に出勤して業務を行っているところをみたことはない旨供述している(証拠略)が同僚のNは,休日に上司から出勤するような指示はないが業務の確認のための電話はあること,パート等から電話があったときに亡Aは店舗に赴いて指導することもあったこと,亡Aと食事に行ったときに長時間ではないが堺店によったこともあることを述べていること(証拠略)に照らし,F店長の上記供述は採用できない。 ウ以上からすれば,被告の労働時間の算出方法が実態に即していないとする原告の主張は採用できないが,堺店勤務時には休日にも業務に従事した時間があることが認められるから,亡Aの時間外労働時間数は,被告主張時間を多少上回る可能性はあるというべきである。 (4)以上の次第であって,亡Aの時間外労働時間数は,基本的には別紙5のとおり,発症前1か月が44時間07分,発症前2か月が66時間 時間数は,被告主張時間を多少上回る可能性はあるというべきである。 (4)以上の次第であって,亡Aの時間外労働時間数は,基本的には別紙5のとおり,発症前1か月が44時間07分,発症前2か月が66時間31分,発症前3か月が107時間02分,発症前4か月が94時間,発症前5か月- 39 -が77時間56分,発症前6か月が85時間14分程度であったと認められ,これを前提に算出した1か月当たりの平均時間外労働時間数は,発症前1か月間が44時間07分,発症前2か月間が55時間19分,発症前3か月間が72時間33分,発症前4か月間が77時間55分,発症前5か月間が77時間55分,発症前6か月間が79時間08分となるが,堺店勤務時の休日の時間外業務などを勘案すると,実際には上記時間を多少上回っている可能性がある。 また,発症前6か月よりも前についても,被告主張の算出方法で亡Aの時間外労働時間数を算出すると,別紙2のとおり,発症前7か月が83時間10分,発症前8か月が85時間16分,発症前9か月が131時間45分,発症前10か月が85時間46分,発症前11か月が88時間48分,発症前12か月が65時間28分となる。ただし,同計算においては,平成13年12月15日以前の通常時の始業時刻は9時30分とし,パート等のうち最も遅い退勤者の退勤時間に15分を加えた時刻よりも出勤状況表に記載された終業時刻が遅いときは,出勤状況表記載時刻を終業時刻としている。 上記認定の労働時間について具体的に検討すると,亡Aの堺店勤務時の終業時刻は,おおむね22時前後で23時近くなることもあり,月に数日程度ある遅番の日を除いて1日の労働時間は12時間前後にのぼっている。堺店勤務時の通勤時間約1時間を考慮すると,亡Aは,朝8時すぎには家を出て23時あるいは24時を超えて帰宅する ともあり,月に数日程度ある遅番の日を除いて1日の労働時間は12時間前後にのぼっている。堺店勤務時の通勤時間約1時間を考慮すると,亡Aは,朝8時すぎには家を出て23時あるいは24時を超えて帰宅するという生活を恒常的に続けていたものといえる。また,鈴鹿店勤務時は,開店準備期間中は1日当たりの労働時間は9時間45分であるが,開店直後の繁忙期には,15時間あるいは16時間を超える労働に従事していた。その後の1日当たりの労働時間は,通し勤務以外の日は10時間程度であり,通し勤務の日は13時間前後にのぼっている。開店直後の繁忙期を過ぎても,鈴鹿店は閉店時刻が遅いため,遅番あるいは通し勤務の日の終業時刻は23時をすぎることがほとんどであり,- 40 -車で約15分弱の通勤時間を経て24時近くに帰宅する生活であったといえる。 亡Aの身体状況等と虚血性心疾患のリスクファクター前提となる事実と証拠(略),原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると,亡Aの身体状況等と虚血性心疾患のリスクファクターに関し,次の事実が認められる。 (1)亡Aの身体状況等ア定期健康診断結果(証拠略)亡Aは,毎年1回10月か11月ころに定期健康診断を受けており,W健康管理センターが実施した平成9年から平成13年の診断結果は次のとおりである。 亡Aは身長が168.5センチメートルであり,体重は,平成9年は75.0キログラムでBMIが26,平成10年は76.5キログラムでBMIが27,平成11年は77.0キログラムでBMIが27,平成12年は76.0キログラムでBMIが27,平成13年は74.0キログラムでBMIが26.1であった。 血圧は,平成9年が1回目183/102㎜Hg,2回目183/104㎜Hg,平成10年が1回目163/100㎜Hg,2回目163/100㎜ 成13年は74.0キログラムでBMIが26.1であった。 血圧は,平成9年が1回目183/102㎜Hg,2回目183/104㎜Hg,平成10年が1回目163/100㎜Hg,2回目163/100㎜Hg,平成11年が降圧剤服薬中で1回目166/100㎜Hg,2回目148/96㎜Hg,平成12年も降圧剤服薬中で137/79㎜Hg,平成13年が1回目150/100㎜Hg,2回目146/98㎜Hgであった。 検尿における糖の検出については,平成10年に「+」,平成12年に「++」とされているが,その他の年はいずれも「-」であった。 既往歴として高血圧症・腎疾患,現疾病として高血圧症があるとされている。平成13年の指導管理指示区分は,要医師指導であった。 - 41 -イY病院における診療状況(証拠略)亡Aは,平成11年9月25日から平成12年11月30日までの間,Y病院に高血圧症の治療のために通院している。 亡Aは,平成11年9月25日に頭痛を主訴としてY病院を受診し,血圧を測定したところ170/106㎜Hgであったため降圧剤の投与を受けた。同月27日に心電図,胸部エックス線検査を実施したところ異常は認められなかったが,血圧が142/94㎜Hgと高値であったため,降圧剤による内服治療が開始された。血液検査の結果では,総コレステロール280㎎/dl,中性脂肪251㎎/dlと上昇していたが,まずは食事運動療法の適用とされた。同検査でのHDLコレステロールは56㎎/dlであった。 以後は,1~2か月間に1回の受診を行っていたが,内服薬がなくなった状態での受診が多く,血圧は140~150/85~95㎜Hg程度であった。 平成12年4月の血液検査の結果では,総コレステロール238㎎/dl,中性脂肪404㎎/dl,HDLコレステロール56㎎/dlであり 診が多く,血圧は140~150/85~95㎜Hg程度であった。 平成12年4月の血液検査の結果では,総コレステロール238㎎/dl,中性脂肪404㎎/dl,HDLコレステロール56㎎/dlであり食事,運動による改善が指示された。カルテには,総コレステロール高値が続けば,投薬も検討する旨の記載があるが,投薬治療には至っていない。 平成12年5月には,心エコー検査,眼底検査が実施されているが,いずれも異常は認められなかった。 最終受診時である平成12年11月30日には,血圧140/86㎜Hg,心拍数80/分で,体重も初診時80キログラムから75キログラムに減少していた。 Y病院のO医師は,亡Aの約1年の診療経過では胸痛等の狭心症を疑わせる症状はなかったとしている。 ウ生活習慣- 42 -亡Aは,喫煙習慣があり,キャスターマイルドを1日10本程度吸っていた(証拠略)。Cや堺店の上司であったF店長からは飲酒好きであったと言われている(証拠略)。 エ家族歴亡Aの父親は,47歳で急性心筋梗塞を発症し,急性心不全で死亡している。亡Aの母親である原告も,高血圧症であり,投薬を受けている(証拠略,原告本人)。 オ業務への影響亡Aは,通常の業務に特に支障なく従事しており,その身体状況を考慮して業務が軽減されるなどの措置はとられていなかった。 (2)虚血性心疾患等のリスクファクター専門検討会報告書では,虚血性心疾患等のリスクファクターについて報告がまとめられており本件発症に関連する部分は次のとおりである(証拠略)。 ア虚血性心疾患虚血性心疾患とは,血液を供給する導管としての冠[状]動脈の異常によって,心筋の需要に応じた酸素の供給不足が生じ,その結果心筋が酸素不足(虚血)に陥り,心筋機能が障害される疾患である。 イリスクファクターの概要虚血性 を供給する導管としての冠[状]動脈の異常によって,心筋の需要に応じた酸素の供給不足が生じ,その結果心筋が酸素不足(虚血)に陥り,心筋機能が障害される疾患である。 イリスクファクターの概要虚血性心疾患は,冠[状]動脈粥状効果が原因となって発症してくる。 粥状硬化は,短期間に発症するものではなく,長い年月をかけて除々に進行する。 ウリスクファクター各論発症危険度は,リスクファクターの影響の強さとその期間に関連する。 主なリスクファクターは次のとおりである。 (ア)是正不可能なリスクファクターa性- 43 -虚血性心疾患では,男性が女性の3から10倍程度の発症率である。 b年齢加齢により,虚血性心疾患発症頻度は増加してくる。虚血性心疾患発症例において,高齢者は若年者に比して,他のリスクファクターを有する率が低下することが知られており,加齢のみが危険因子であると判断せざるを得ない例も存在する。心臓性突然死の年齢分布では,45~75歳にピークがある。 c家族歴(遺伝)家族の中から同じ疾患が続発しても,これだけではこの疾患が遺伝性であることを意味しない。「家族集積性」の原因は,しばしば遺伝であるよりも共通の生活習慣にある。若年時に共通の疾患を発症した場合は,遺伝的影響についても検討する必要があり,虚血性心疾患の場合,50歳程度を基準として判定するのが一般的である。 (イ)是正可能なリスクファクターa高血圧高血圧は,粥状硬化から細小動脈硬化を起こしやすく,虚血性心疾患との関連がみられる。一般に軽症高血圧では関連が低いが,重症高血圧では重要な因子となるとされている。降圧療法の効果を検討した多くの研究からは,治療により虚血性心疾患の発症が著しく減少するという報告もある一方で発症の減少効果はわずかであるとの報告もある。 なお,成人に 要な因子となるとされている。降圧療法の効果を検討した多くの研究からは,治療により虚血性心疾患の発症が著しく減少するという報告もある一方で発症の減少効果はわずかであるとの報告もある。 なお,成人における血圧の分類は下記のとおりである。 記分類収縮期血圧(㎜Hg)拡張期血圧(㎜Hg)正常血圧130未満かつ85未満正常高値血圧130~139又は85~89- 44 -軽症高血圧140~159又は90~99中等症高血圧160~179又は100~109重症高血圧180以上又は110以上b喫煙紙巻たばこの喫煙は,肺がんや慢性気管支炎の原因となるのみでなく,急性心筋梗塞や急死のリスクファクターともなる。喫煙習慣と虚血性心疾患の発症率には,強い相関が認められている。 c肥満肥満は,高血圧,高脂血症,低HDLコレステロール血症,耐糖能障害などを合併することが多く,減量によりリスクファクターの改善が得られる。 肥満の人の発症率を標準体重の人に比べると,虚血性心疾患は約2倍高くなるといわれている。 d糖尿病糖尿病患者では,虚血性心疾患の発症する頻度は男性で2倍,女性では3倍高い。その機序には,高血糖,血小板機能亢進,酸化ストレス糖の多くの要因が関連していると考えられている。 e高脂血症血清総コレステロールあるいは高LDLコレステロール値と虚血性心疾患発症率には,正の相関がみられる。血清コレステロール値が220mg/dlを超えると,虚血性心疾患の発症率が増加してくる。HDLに含まれるコレステロールは,末梢組織からコレステロールを除去する働きを有しており,これが抗動脈硬化作用として働く。HDLコレステロール値低下によっても,虚血性心疾患発症率が増加することが認められており,HDLコレステロールの低値(35 コレステロールを除去する働きを有しており,これが抗動脈硬化作用として働く。HDLコレステロール値低下によっても,虚血性心疾患発症率が増加することが認められており,HDLコレステロールの低値(35mg/dl以下)もリスクファクターとして評価される。 - 45 -なお,正常値は,総コレステロールが120~220㎎/dl,HDLコレステロールは38~65㎎/dlである(証拠略)。 エ虚血性心疾患に対するリスクファクターの相対リスクないしオッズ比軽症の高血圧の虚血性心疾患に対する影響はそれほど大きくないが,重症の高血圧の相対リスク(疾病の発生状況を比較するに当たり,危険因子を持つ実験群における結果因子である転帰が起きた人の割合を,危険因子を持たない対照群における結果因子が起きた人の割合で割り算した値)ないしオッズ比(症例対照研究において,結果因子を持つ疾病群における危険因子を持つ人の割合を危険因子を持たない人の割合で割り算した値であるオッズを,結果因子を持たない対照群における危険因子を持つ人の割合を危険因子を持たない人の割合で割り算した値であるオッズで割り算した値)は3~7倍という報告もある。 飲酒は,脳血管疾患と異なって,リスクを低下させる報告が多い。これに対し,喫煙の影響は大きく,1日20本以上の喫煙のリスクは7~8倍である。 肥満及び糖尿病の影響はそれほど大きくないが,女性では2~4.5倍という報告もある。高脂血症のリスクは1.2~2.6倍との報告が多い。 業務起因性の有無について以上の認定事実を前提に,亡Aの本件発症につき業務起因性が認められるかを判断する。 (1)業務起因性の判断基準脳・心臓疾患の発症が労災保険法7条1項1号にいう「業務上の疾病」と認められるためには,当該業務と結果との間に条件関係があるだけでは足りず,両 認められるかを判断する。 (1)業務起因性の判断基準脳・心臓疾患の発症が労災保険法7条1項1号にいう「業務上の疾病」と認められるためには,当該業務と結果との間に条件関係があるだけでは足りず,両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係があることが必要である。そして,労災補償制度が業務に内在ないし随伴する危険が現実化した場合に労働者に発生した損失を補償するものであることに鑑みれば,- 46 -かかる相当因果関係が肯定されるためには,当該発症が業務に内在ないし随伴する危険が現実化したことによるものとみることができるかによって判断するのが相当である。 そして,第2の1(6)のとおり,新認定基準は,医師を中心とした専門家で構成された専門検討会における検討結果を取りまとめた報告書を踏まえたものであるから,新認定基準の認定要件に該当する場合には,労基規則35条別表第1の2第9号所定の疾病として,労災保険法7条1項1号の「業務上の疾病」に該当すると考えるのが合理的である。そこで,以下,新認定基準の認定要件に即して業務起因性を検討することするが,本件では,長期間の過重業務として業務起因性が認められるかが争われていることから,この点について検討する。 (2)亡Aが長期間の過重業務に従事したかについてア第2の1(6)のとおり,新認定基準では,長期間の過重業務に関し,過重負荷の有無の判断として,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間については,その時間が長いほど,業務の過重性が増すところであり,具体的には,発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性が弱いが,おおむね45時間を超えて時間 単位の連続した期間をみて,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性が弱いが,おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性が除々に強まると評価できること,②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。 イ第3の2のとおり,亡Aの時間外労働時間数は,発症前1か月が44時間07分,発症前2か月が66時間31分,発症前3か月が107時間02分,発症前4か月が94時間,発症前5か月が77時間56分,発症前- 47 -6か月が85時間14分程度であったと認められ,これを前提に算出した発症前6か月間までの亡Aの1か月当たりの平均時間外労働時間数は,発症前1か月間が44時間07分,発症前2か月間が55時間19分,発症前3か月間が72時間33分,発症前4か月間が77時間55分,発症前6か月間が79時間08分である。 ここで,原告は,上記「79時間08分」は,「おおむね80時間」という認定要件を満たすし,発症前6か月より前の業務についての付加的な評価を勘案すれば,業務起因性はより明白であると主張している。これに対し,被告は,上記「79時間08分」は合理的に推測し得る最大値であるから,実際の時間外労働時間はこれを下回っていた可能性もあり,「おおむね80時間」とはいえないし,本件は,発症前6か月より前の業務については業務過重性の評価対象とすべき事案ではないと主張しているので,以下,検討する。 ウ発症前6か月間の1か月当たり平均時間外労働時間まず,上記発症前6か月間の1か月当たり平均 月より前の業務については業務過重性の評価対象とすべき事案ではないと主張しているので,以下,検討する。 ウ発症前6か月間の1か月当たり平均時間外労働時間まず,上記発症前6か月間の1か月当たり平均時間外労働時間については,前記2で検討したとおり,堺店勤務時の休日の時間外業務などを勘案すると,亡Aの労働時間は被告主張の上記労働時間を多少上回っている可能性があるのであり,上記労働時間が合理的に推測し得る最大値であるということはできない。 そうすると,亡Aの発症前6か月間の1か月当たり平均時間外労働時間数である「79時間08分」は,基準である80時間にその約1%の52分満たないだけであり,実際の労働時間は被告主張時間を多少上回っている可能性があることや,本件における後記のとおりの業務内容等を勘案すれば,「おおむね80時間」に当たるというのが相当である。 エ発症前6か月より前の業務次に,本件において,発症前6か月より前の業務について,これを評価- 48 -対象として勘案すべきか検討する。 (ア)第2の1(6)エのとおり,新認定基準では,発症前おおむね6か月より前の業務については,疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり,付加的要因として考慮することとされている。 そして,専門検討会で座長を務めたD博士の意見書(証拠略)では,発症前6か月より前の過重性を考慮すべき場合として,次のとおり述べられている。 ①発症前6か月間の明確なデータがない場合,または不正確である場合で,判断できず,6か月より前の過重性などの間接的なデータによって,前6か月にかなりの過重労働があったことが示唆される場合②発症前6か月以前に極めて過重な労働があって,その後の6か月間で月100時間ないし2~6か月の平均80時間以下の時間外労働であるものの,前6か月間の かなりの過重労働があったことが示唆される場合②発症前6か月以前に極めて過重な労働があって,その後の6か月間で月100時間ないし2~6か月の平均80時間以下の時間外労働であるものの,前6か月間の過重労働による影響が改善されない,あるいは除々に増強することが医学的に考えられる場合,この場合,前6か月間の仕事で,高血圧を増加させる月々の時間外労働60時間以上などが考えられる。 前6か月間で,それ以前の過重労働による影響が直後の発症に結びつかなくて,その後,十分な回復の時間的余裕があると判断される場合は,6か月以前の過重労働は考慮する必要はないと考えられる。 これは,また,発症前1年半から3年近い調査で,その間一貫して週の労働時間が60時間以上の群で血圧上昇,高血圧発症がみられることにもよる。この場合,発症前6か月より先1年以上の週60時間以上の労働の有無が判断のもととなる。 (イ)これを本件についてみると,亡Aの時間外労働時間数は,発症前1か月が44時間07分,発症前2か月が66時間31分,発症前3か月が107時間02分,発症前4か月が94時間,発症前5か月が77時間- 49 -56分,発症前6か月が85時間14分程度であったのだから,発症前1か月を除き,いずれも月々の時間外労働が60時間を超えており,とりわけ発症前3か月,同4か月は100時間前後にまで達している。そして,比較的労働時間の少ない発症前1か月間から2か月間についても鈴鹿店開店時の繁忙期が含まれており,第3の1(3)認定のとおり同期間は特に多忙で,レジ係パート等が不慣れであったため過不足金が多く発生するなどし,システム職で初めて一人暮らしを始めた亡Aはその処理のために終業が遅くなるなどして,1日の労働時間数が15時間から16時間以上にもなる日が続いたり,繁忙期が過ぎた後 め過不足金が多く発生するなどし,システム職で初めて一人暮らしを始めた亡Aはその処理のために終業が遅くなるなどして,1日の労働時間数が15時間から16時間以上にもなる日が続いたり,繁忙期が過ぎた後も,通し勤務のために13時間前後の労働に従事している日が散見され,かなりの過重労働があったと推認される。 D博士は,「前6か月間の過重労働による影響が改善されない,あるいは除々に増強することが医学的に考えられる場合」の例示として「前6か月間の仕事で,高血圧を増加させる月々の時間外労働60時間以上」の場合をあげているのであって,上記の亡Aの発症前6か月の労働状況からすれば,発症前1か月の時間外労働時間が45時間に満たない程度であったことを勘案しても,その間に「十分な回復の時間的余裕」があったとは到底いえず,発症前6か月より前の過重労働の影響が改善されるような状況になかったことは明らかである。 これに反する被告の主張は鈴鹿店勤務時における業務負担を過小評価するもので採用できない。 (ウ)以上からすれば,本件では,発症前6か月より前の業務についても,これを評価対象から外す合理的な理由はなく,発症前6か月と同様に労働時間を算出し,その評価対象として勘案すべきである。 そして,第3の2のとおり,発症前6か月よりも前について,ほぼ被告主張の算出方法で亡Aの時間外労働時間数を算出すると,発症前7か- 50 -月が83時間10分,発症前8か月が85時間16分,発症前9か月が131時間45分,発症前10か月が85時間46分,発症前11か月が88時間48分,発症前12か月が65時間28分程度となり,発症前11か月までの間,恒常的に業務と発症との関連性が強いとされる80時間を超える時間外労働が認められるところである。発症前6か月の1か月当たり平均時間外労働時間 か月が65時間28分程度となり,発症前11か月までの間,恒常的に業務と発症との関連性が強いとされる80時間を超える時間外労働が認められるところである。発症前6か月の1か月当たり平均時間外労働時間数が79時間08分であることに,かかる発症前6か月より前の時間外労働時間数を付加的要因として考慮すれば,亡Aは,本件発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事していたといえる。 オ業務の内容第3の1で認定したとおり,亡Aは,売上金の管理やパート等の管理を担当しており,その業務の内容は,管理職のような責務はなくとも,精神的負担や労働密度が軽いといった内容ではない。とりわけ,堺店勤務時には顧客からのクレーム対応に苦慮したり,鈴鹿店勤務時にはレジ係のパート等が不慣れであったことに伴う各種トラブルへの対処におわれていた。 そして,亡Aは,堺店勤務時の平成13年9月ころには職務に耐えられないとして退職を考えたこともあるのであり,相当の肉体的・精神的負担を感じていたものと推認できる。 カ以上からすれば,亡Aの業務は,新認定基準の定める長期間の過重性の認定要件を満たすものと認められ,虚血性心疾患に至る血管病変等を自然的経過を超えて増悪させ,本件発症に至らしめる危険性があったものといえる。 (3)亡Aの業務の本件発症への影響(危険の現実化)の有無ア亡Aの私的リスクファクター(ア)高血圧,高脂血症第3の3(1)のとおり,亡Aは,高血圧症,高脂血症の基礎疾患を- 51 -有していた。 しかし,亡Aの高血圧は,平成9年時は重症高血圧の状態であったが,平成11年時に中等症高血圧の状態でY病院への通院を開始し,投薬治療を受けて以後は,治療中断後の平成13年まで軽症高血圧の範囲で推移していた。そして,軽症高血圧については,第3の の状態であったが,平成11年時に中等症高血圧の状態でY病院への通院を開始し,投薬治療を受けて以後は,治療中断後の平成13年まで軽症高血圧の範囲で推移していた。そして,軽症高血圧については,第3の3(2)のとおり,専門検討会報告書で虚血性心疾患に対する影響はそれほど大きくないとの医学的報告がなされているところである。また,亡Aの高脂血症については,総コレステロールの値が平成11年9月に280㎎/dl平成12年4月に238㎎/dlとされ,いずれも正常値を上回っているものの,Y病院の医師は,食事運動療法の適応と判断し,投薬治療には至っていない。HDLコレステロールについては,正常値の範囲内であった。平成12年5月に実施された心エコー検査でも異常は認められていないし,亡Aは通常の業務に特に支障なく従事していた。 そうすると,亡Aは,高血圧症や高脂血症といった本件発症のリスクファクターとなる基礎疾患を有しており,これが本件発症に関与した可能性は否定できないものの,その経過や症度からして,亡Aの基礎疾患につき,その自然的な経過のみで当然に本件発症に至るほどのものであったと評価することはできない。 (イ)喫煙,飲酒第3の3(1)のとおり,亡Aには喫煙の習慣があったものであるが,その本数は1日10本程度であった。本数にかかわらず喫煙は,虚血性心疾患のリスクを高めるといえるが,リスクが7~8倍とされる1日20本以上の喫煙習慣には至っていない。 また,飲酒については,そもそも脳血管疾患と異なって虚血性心疾患についてはリスクを低下させる報告が多いし,被告は,飲酒が十分な睡眠の阻害要因となったと主張するが,亡Aの飲酒の頻度や量が過度で,- 52 -飲酒のために十分な睡眠が阻害されていたとの事情を認めるに足りる証拠はない。 (ウ)肥満,糖尿病第3の3 酒が十分な睡眠の阻害要因となったと主張するが,亡Aの飲酒の頻度や量が過度で,- 52 -飲酒のために十分な睡眠が阻害されていたとの事情を認めるに足りる証拠はない。 (ウ)肥満,糖尿病第3の3(1)のとおり,亡Aは,BMIが26から27であり肥満体型であったことが認められる。もっとも,肥満が虚血性心疾患のリスクファクターとされるのは,高血圧,高脂血症,低HDLコレステロール血症,耐糖能障害などを合併することが多いからであり,虚血性心疾患との相関性は,高血圧や高脂血症の程度を勘案すべきと考えられる。 また,前記3(1)のとおり,健康診断において亡Aから平成10年と12年に尿糖が検出されたことはあるが,平成9年,11年,13年は「-」となっており,亡Aが糖尿病に罹患していたことを認めるに足りる証拠はない。 そして,専門検討会報告書では,肥満及び糖尿病の虚血性心疾患への影響は2倍程度とされ,総括としてはそれほど大きくないと報告されている。 (エ)年齢亡Aは,本件発症時33歳であったから,加齢が本件発症の危険因子となったとはいえない。 (オ)家族歴第3の3(1)のとおり,亡Aの父親は47歳で急性心不全で死亡していること,母親である原告も高血圧症であることが認められる。したがって,亡Aに本件発症に関する遺伝的な要素が存在していた可能性はあるが,遺伝的影響があったと断定するまでの的確な立証はない。 イ以上の亡Aの私的リスクファクターを総合考慮すると,複数の私的リスクファクターが存在しており,とりわけ高血圧症や高脂血症といった基礎疾患が本件発症に関与した可能性は否定できないものの,その経過や症度- 53 -からすると,亡Aの基礎疾患が,その自然的な経過のみで当然に本件発症に至るほどのものであったとは評価できないし,その他のリスクファクタ 関与した可能性は否定できないものの,その経過や症度- 53 -からすると,亡Aの基礎疾患が,その自然的な経過のみで当然に本件発症に至るほどのものであったとは評価できないし,その他のリスクファクターについても突出したものは見当たらないというべきである。 そして,前記のとおり,亡Aは,本件発症までの長期間にわたって,時間外労働時間数が1か月当たり80時間前後という,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事しており,しかも本件発症前2か月間は,初めての一人暮らしの上,鈴鹿店開店に伴う繁忙期が含まれていたから,このような長期間の過重労働は,血管病変等を自然的経過を超えて増悪させ,虚血性心疾患の発症に至らしめる危険性を有するものであるところ,本件発症について他に確たる発症因子があったことは窺われない。そうすると,本件発症は,亡Aの有していた基礎疾患等が長期間の過重業務の遂行によりその自然の経過を超えて増悪したことにより発症したものとみるのが相当であって,本件発症は亡Aの業務に内在する危険が現実化したものといえる。 したがって,亡Aの業務の遂行と本件発症との間には,相当因果関係の存在が認められる。 ウE医師の意見書についてこれに対し,Z医療センターのE医師は,亡Aは,肥満,中等症高血圧,高脂血症であった上,糖尿病の可能性があり,喫煙習慣,家族歴等があって,冠動脈硬化の危険因子をほぼ有していたと認められ,冠動脈疾患の高リスク群に属していたと判断されることから,臨床的には,このような高リスク患者の心筋梗塞による突然死は決して稀なことではなく,本例の死亡は,亡Aが多重に有していた私的危険因子を原因とする急性心筋梗塞によるものと評価するのが妥当で,自然死と判断される旨の意見書(証拠略)を提出している。 そこで検討するに,新認定基準のもとで, の死亡は,亡Aが多重に有していた私的危険因子を原因とする急性心筋梗塞によるものと評価するのが妥当で,自然死と判断される旨の意見書(証拠略)を提出している。 そこで検討するに,新認定基準のもとで,業務起因性の有無については,- 54 -当該労働者が有する基礎疾患等が自然の経過に従って増悪し発症に至ったにすぎないのか,業務上の精神的,身体的な過重負荷によりその自然の経過を超えて増悪し発症したのかによって判断されるべきところ,本件においては,亡Aの基礎疾患等がその自然的な経過のみで当然に本件発症に至るほどのものであったとの的確な立証はなされていない。そして,新認定基準の上記趣旨からすれば,過重な業務の他に,確たる発症因子の存在が認められない亡Aの本件発症については,亡Aに私的リスクファクターが多重にあり冠動脈疾患の高リスク群に属していることだけから,業務起因性を否定することはできないというべきである。E医師の上記意見書は,このような業務起因性に関する法的観点を踏まえたものではなく,専ら臨床的見地から,冠動脈疾患の高リスク群に属している患者の急性心筋梗塞の発症が稀ではないことを述べるものというべきであるから,前記判断を左右するものではない。 (4)以上からすれば,本件疾病は労基規則別表第1の2第9号に規定する「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当し,労災保険法7条1項1号にいう「業務上の疾病」に当たると認められる。 結論 以上の次第であるから,本件疾病が業務に起因するものではないとした本件決定は違法であり,取り消されるべきであるから,原告の請求を認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 津地方裁判所民事第1部裁判長裁判官水谷正俊- 55 -裁判官 ,原告の請求を認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 津地方裁判所民事第1部裁判長裁判官水谷正俊- 55 -裁判官薄井真由子裁判官上野泰史は差し支えのため,署名押印できない。 裁判長裁判官水谷正俊(別紙は全て省略)

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