主文 本件異議の申立てを棄却する。 理由 1 事案の概要等⑴ 確定審の経過請求人は、受託収賄、事前収賄、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件につき、平成27年3月5日、名古屋地方裁判所(以下「第1審」という。)で無罪の言渡しを受けたが、検察官から控訴の申立てがあり、名古屋高等裁判所は、平成28年11月28日、第1審判決を破棄し、請求人を懲役1年6月、3年間執行猶予に処し、請求人から30万円を追徴する旨の有罪判決(確定判決)を言い渡し、同判決は平成29年12月27日確定した。 ⑵ 確定判決の認定・判断の骨子確定判決は、罪となるべき事実として、要旨次の事実を認定した。すなわち、請求人は、平成22年10月13日から平成25年5月8日までの間、A市議会議員として同市議会における質問、質疑及び発言等の権限を有し、同年6月2日施行の同市長選挙に当選して同市長に就任した後は、同市長として同市が行う契約締結等の事務を統括掌理する職務を行うものであるが、①同年3月7日、名古屋市内の飲食店「B」において、株式会社C代表取締役Dから、CがA市との間で災害時の給水設備(自然循環型雨水浄水プラント)を同市立学校に設置する契約を締結できるように同市議会議員としての権限を行使するとともに同市職員に働き掛けるなど有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けてこれを承諾し、同月14日の同市議会本会議で同市に対する質疑を行い、同市での浄水プラントの導入を検討されたい旨発言し、同月22日、名古屋市内の飲食店「E」において、Dから前同様の請託を受けてこれを承諾し、同月25日頃、A市役所において、防災対策、消防防災施設の設置及 び管理等の職務に従事していた同市職員に対し 日、名古屋市内の飲食店「E」において、Dから前同様の請託を受けてこれを承諾し、同月25日頃、A市役所において、防災対策、消防防災施設の設置及 び管理等の職務に従事していた同市職員に対し、浄水プラントの資料を交付して検討を促し、同市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して、同市がCと浄水プラント設置契約を締結するように申し入れてあっせんした上、同年4月2日、同市内の飲食店「F」において、Dから、前記質疑、発言及びあっせんをしたことの報酬並びに今後も同様の取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金10万円の供与を受け(第1授受)、もって自己の職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受するとともに、自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき、その報酬として財産上の利益を収受し、②①のとおり、Dから、CがA市との浄水プラント設置契約を締結できるように同市職員に働き掛けるなど有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けて承諾していたところ、同月15日頃、同市役所において、前記市職員に対し、浄水プラントの件を早急に取り組むよう要望する文書を送付し、同市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して、同市がCと浄水プラント設置契約を締結するように申し入れてあっせんした上、同月25日、名古屋市内の飲食店「G」において、Dから、A市議会議員として引き続き同市職員に働き掛けてCが同市と浄水プラント設置契約を締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けるとともに、A市長選挙に立候補して同市長になろうとしていた請求人が同市長就任後も前記契約ができるように有利かつ便宜な取 設置契約を締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けるとともに、A市長選挙に立候補して同市長になろうとしていた請求人が同市長就任後も前記契約ができるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けて承諾し、同日、同店において、Dから、同市議会議員として前記あっせんをしたことの報酬、今後も同様のあっせんをすることの報酬及び同市長就任後も前記の有利かつ便宜な取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、現金20万円の供与を受け(第2授受)、もって自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様に あっせんをすることにつき、その報酬として財産上の利益を収受するとともに、公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受した。 前記罪となるべき事実の認定に当たり、確定判決は、各現金授受を明確に認めたDの第1審公判証言(D証言)の信用性を認め、同証言により各現金授受の存在を認めることができるとした。 ⑶ 本件再審請求請求人は、令和3年11月30日、前記被告事件について、刑訴法435条6号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したとして、本件再審の請求をしたが、原裁判所は、令和5年2月1日、本件再審請求を棄却する原決定をした。請求人は、これを不服として、同日、即時抗告に代わる異議の申立て(本件異議の申立て)をした。 2 本件異議の申立ての趣意本件異議の申立ての趣意は、主任弁護人郷原信郎作成の異議申立書に記載のとおりである(なお、主任弁護人は、おって提出するとしていた異議理由補充書を提出しない旨釈明した。)。 論旨は、要するに、請求人が再審請求審(以下「原審」という。)に提出したH 異議申立書に記載のとおりである(なお、主任弁護人は、おって提出するとしていた異議理由補充書を提出しない旨釈明した。)。 論旨は、要するに、請求人が再審請求審(以下「原審」という。)に提出したHの陳述書(令和2年10月6日付けのもの(原審弁1)、令和4年4月1日付けのもの(原審弁4)。以下、これらを併せて「H陳述書」という。)、Iの陳述書(原審弁2。以下「I陳述書」という。)並びにJ及びK連名作成の鑑定書(原審弁3。以下「鑑定書」といい、H陳述書及びI陳述書と併せて「新証拠」という。)について、いずれも刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした原決定は誤っているから、これを取り消し、再審を開始するとの決定を求める、というのである。 3 証拠の明白性に関する原決定の判断の要旨原決定は、新証拠について、要旨次のように説示し、いずれも無罪を言い渡す べき明らかな証拠に該当しないものと判断した。 ⑴ H陳述書について主任弁護人がHから聴取した内容をまとめ、Hが署名押印した形式であるH陳述書は、Dに「何百万か渡したの?」と聞くと、「30万くらい」というのを聞いて、少ないなと思った旨のHの第1審公判証言と異なる内容を含み、その部分について証拠の新規性が認められる。 しかし、H陳述書によっても、直ちにHの第1審公判証言の信用性に影響するとはみられないだけでなく、平成25年8月の体験時からH陳述書作成までに相当長期間(原審弁4で8年数か月、原審弁1で7年余)が経過していることからすれば、その間に記憶が減退するのは当然であり、2通の陳述書の間でも、検察官の令和4年3月3日付け意見書の指摘を受けて合理的な理由なく供述を後退させ、不自然な供述をしていることに照らしても、H陳述書の根幹をなす新規供述部分はにわか 当然であり、2通の陳述書の間でも、検察官の令和4年3月3日付け意見書の指摘を受けて合理的な理由なく供述を後退させ、不自然な供述をしていることに照らしても、H陳述書の根幹をなす新規供述部分はにわかに信用できない。加えて、Hの第1審公判証言から認められる事実は、D証言の信用性を高めるものとはいえ、飽くまで周辺的な一事情にすぎないという確定判決の証拠構造に鑑みると、H陳述書は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない。 ⑵ I陳述書についてIは、第1審公判において、融資詐欺の警察の捜査上でDに金を貸した経緯についての説明を求められ、請求人に渡す金としてDに50万円を貸したとの話を警察官にした旨供述していたところ、主任弁護人がIから聴取した内容をまとめ、Iが署名押印した形式であるI陳述書は、そのような話をしたのはDの弁護人だったL弁護士が、融資詐欺ではなく贈収賄の方に捜査を向けようとして絵を描いたものだった旨述べており、この部分について証拠の新規性が一応認められる。 しかし、L弁護士の死後に唐突に述べられた新規供述部分はにわかに信用し難いのみならず、発案者が同弁護士だったかどうかはともかく、Dが自らの融 資詐欺から捜査機関の目をそらすなどするために本件を話し出した可能性は否定できないが、そのことからD証言が虚偽とは推認されず、虚偽だとするとかえって説明困難な点が存在するとした確定判決において織り込み済みの事情といえる。I陳述書によっても、なおD証言と整合するから、同証言の信用性を揺るがせるものではない。加えて、Iの第1審公判証言から認められる事実は、D証言の信用性を高めるものとはいえ、飽くまで周辺的な一事情にすぎないという確定判決の証拠構造に鑑みると、I陳述書は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない。 ⑶ 鑑定書につ められる事実は、D証言の信用性を高めるものとはいえ、飽くまで周辺的な一事情にすぎないという確定判決の証拠構造に鑑みると、I陳述書は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない。 ⑶ 鑑定書について鑑定書は、主任弁護人の依頼を受けた大学教授2名が、Dの捜査段階の供述の変遷が体験記憶の忘却と回復の過程の反映として理解可能か否かを検討したいわゆる供述心理鑑定書であるところ、証拠の新規性は認められる。 しかし、確定判決は、供述経過のみならず、供述内容自体や情況証拠との整合性等多角的な観点から検討してD証言の信用性を判断している。また、確定判決は、Dの捜査段階の供述書・供述調書、取調べ警察官の証人尋問や取調べメモ等の証拠を踏まえて、Dがその時々の記憶に従って供述したものと推認し、その結果としてのD証言も供述経過を理由に信用性を否定されることはない旨判断しており、認知心理学の専門知見に基づく意見と位置付ける鑑定書を踏まえても、D証言の信用性に及ぼす影響は相当限定的である。さらに、賄賂授受場面におけるDと請求人との言語的やり取りについての説明が希薄であるとか、請求人の行為と意図の解釈についての供述が欠けているといったDの供述の特徴は、体験に基づかない供述であるために生じた可能性がある旨の鑑定書の指摘も、確定判決におけるD証言の信用性評価に対する説得的な非難となっていない。鑑定書は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない。 ⑷ 以上によれば、確定審で取り調べた旧証拠に新証拠を加えて検討しても、D証言に信用性を認め、同証言により各現金授受の存在を認めることができると した確定判決の事実認定に合理的疑いが生じる余地はなく、新証拠はいずれも刑訴法435条6号所定の明白な証拠に該当しない。 4 当裁判所の判断⑴ 記録を検討しても、原決 めることができると した確定判決の事実認定に合理的疑いが生じる余地はなく、新証拠はいずれも刑訴法435条6号所定の明白な証拠に該当しない。 4 当裁判所の判断⑴ 記録を検討しても、原決定の前記3の認定及び判断に不合理なところは認められず、全て正当として是認することができる。 ⑵ 所論は種々主張して原決定の判断を論難するので、以下検討する。 ア所論は、原決定は、H陳述書が作成された経緯を正しく評価せず、また、Hの証言に取調べを担当した伊藤検事の用いた詐術の影響があることを考慮していない点で誤っている旨主張する。しかしながら、H陳述書の供述経過をみると、Hは、Dが「そんなに渡しとらんよ」と言ったことを覚えていたとしていたが(原審弁1)、より少額の現金を渡した趣旨と解される旨の検察官の指摘を受け、その発言が「そんなに渡しとらんよ」だったのか「そんな。渡しとらんよ」だったのかはっきりしない(原審弁4)と述べるに至ったというのであり、いずれも体験時から相当長期間が経過した段階で作成されたものであることを踏まえると、場当たり的に供述を後退させたもので合理的な理由もうかがえない不自然な供述経過というべきであって、この点に関する原決定の評価に誤りはない。また、原決定は、伊藤検事の詐術に関する主任弁護人らの主張を受けて、H陳述書によっても、Hは第1審公判証言時に自己の記憶に反する証言をしたわけではないなどというのであるから、検察官の発言から請求人が30万円を受け取ったことは間違いないだろうと思っていたからといって、直ちに第1審公判証言の信用性に影響しないと説示しており、その内容に不合理なところはない。所論は採用できない。 イ所論は、L弁護士の発案でIが警察に話したことは、同弁護士の対応が弁護士倫理に反するものであるし、融資詐欺の容疑 影響しないと説示しており、その内容に不合理なところはない。所論は採用できない。 イ所論は、L弁護士の発案でIが警察に話したことは、同弁護士の対応が弁護士倫理に反するものであるし、融資詐欺の容疑で捜査対象となっていたIの利益にもなっていたから、このことを同弁護士の死後になって供述したことだけでI陳述書の信用性を否定すべきでない旨主張する。しかしながら、 Iは、L弁護士が平成29年に死亡したので、本当のことを話すことにしたというのであり、もはや同弁護士に真偽を確認できない段階になってから供述を始めた経緯自体、唐突さが否めないことは原決定が指摘するとおりであり、I陳述書に至るIの供述経過に疑問を差し挟む事情といえる。そして、I陳述書にあるように、Iが警察で請求人に渡す金としてDに50万円を貸した旨供述した動機が自らの依頼によりDの弁護人となっていた同弁護士の示唆によるものであったとしても、「A市長になる請求人に金を渡したいから金を貸してほしいと言ってきて、貸してやった記憶」があったという点はIの第1審公判証言と一貫し、かつ、D証言と整合するものであるから、Iの第1審公判証言を補助証拠の一つとしてD証言の信用性を肯認した確定判決の判断に誤りはない。そうすると、I陳述書の内容の信用性について更に検討するまでもなく、無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらないとした原決定の判断に誤りはない。所論は採用できない。 ウその他所論が種々指摘する点を検討しても、前記認定判断を左右するものはない。 ⑶ 論旨は理由がない。 5 結論よって、刑訴法428条3項、426条1項により、主文のとおり決定する。 令和5年12月25日名古屋高等裁判所刑事第1部 裁判長裁判官杉山愼治 裁判官後 主文 428条3項、426条1項により、主文のとおり決定する。 理由 令和5年12月25日名古屋高等裁判所刑事第1部 裁判長裁判官杉山愼治 裁判官後藤 裁判官谷口吉伸
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