判決平成14年1月25日神戸地方裁判所姫路支部平成12年(ワ)第141号損害賠償請求事件 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告に対し,各自金1330万9316円及び被告Aは同金額に対し平成12年3月3日から,被告Bは同金額に対し同月4日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,ボランタリーチェーンに属する原告が,同チェーンから受けた除名処分が会則に基づかない違法なものであるとして,同チェーン及びその代表者を被告として,同処分の結果被った損害の賠償(遅延損害金を含む。)を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 被告Aは,自動車指定整備事業者を会員とし,自動車整備事業に関する調査,研修,情報交換等を行い,会員の所有する整備工場が長期安定成長することを目的として組織化された任意団体で,会則を備え,会の代表者として会員によって選任された会長を有する権利能力なき社団である。 被告Bは被告Aの代表者会長の地位にある者である。 原告は,自動車整備を業とする株式会社であり,平成9年4月ころ被告Aに入会し会員となった者である。 (2) 被告Aは,原告に対し,平成11年12月24日付け内容証明郵便で,同被告の競業グループに原告が重複加盟しているとして,平成12年1月6日までにこれを解消しない場合は原告を除名する旨を通知し,同月7日以降,原告を除名したものとして取り扱っている。 (3) 被告Aの会則13条本文及び1,2項には次のとおりの定めがある。 日までにこれを解消しない場合は原告を除名する旨を通知し,同月7日以降,原告を除名したものとして取り扱っている。 (3) 被告Aの会則13条本文及び1,2項には次のとおりの定めがある。 「会員が次の各項に該当するときは,役員会議かつ支部会議の決議によりこれを除名する事ができる。1項本会則・細則・運用規定に違反し,または義務を履行しないとき。2項会員として,本会の信用・品位を傷つけ,又は秩序を乱す行動があった時。」 2 争点及び当事者の主張(1) 原告に除名事由が認められるか。 【原告】ア被告らは,重複加盟が除名事由であるとするが,まず,除名事由を定めた被告Aの会則13条には重複加盟が除名事由にあたる旨の記載がない。次に,原告自身はなんら重複加盟をしていない。すなわち,原告代表者が別に経営する訴外有限会社FがEという会に加盟した事実はあるが,同訴外会社は自動車の販売を業とする会社であって,自動車整備事業を業とするものではない。 イ被告らは,原告が重複加盟したというが,被告Aの加盟店中には従来からコープ車検グループに加盟している者や,エコクリーン大阪と称するグループに加盟している者があるが,同被告はこれらに対し何らの処分をしていない。 ウ被告Aのした除名処分は会則に基づかないもので違法な処分である。 【被告ら】ア被告Aの目的等被告Aは,平成6年ころに,自動車整備事業者を構成員(加盟店)として結成されたものであり,自動車整備事業にかかわる調査,研修,情報交換,事業活動を通じて,同被告加盟店全体が長期的に安定成長することを目的としている。 すなわち,多数の加盟店による調査,情報交換等を通じて,グループ内で独自のノウハウを蓄積し,他の競業グループもしくは非会員である競業 じて,同被告加盟店全体が長期的に安定成長することを目的としている。 すなわち,多数の加盟店による調査,情報交換等を通じて,グループ内で独自のノウハウを蓄積し,他の競業グループもしくは非会員である競業企業と差別化し,グループ事業の拡大とこれによる及び加盟店の顧客の増大をはかるのである。 被告Aは,自動車の検査(以下「車検」という。)につき,各加盟店がユーザー本位の1時間車検(同被告はこれを「チャレンジ車検」と名付けている。)を実施することをグループにおける最大の特色としている。チャレンジ車検は,ユーザーの立ち会いのもとで,同被告が作成したマニュアルにそって点検し,作業料金一覧表に基づき見積書を作成し,ユーザーの了解を得て車検整備を実施するものでその作業も1時間程度で完了するというものである。このため,被告Aでは次のようなシステムをとっている。 (ア) フリーダイヤルによる完全予約制。 (イ) 土,日,祝日も車検を行う。 (ウ) 原則として1時間で車検を終了する。 (エ) 資格のある検査員,整備士等による作業。 (オ) ユーザー立ち会いのもとでの車検実施。 (カ) 明瞭で安価な料金体系。 (キ) 6か月または走行距離が1万キロメートルまでの整備保証。 (ク) ユーザーはその日の内に車を持ち帰る。 このチャレンジ車検のシステムは,被告Aの発起人であるC株式会社代表取締役のDが中心となって完成させたものである。Dは車検に2,3日を要するのが常識であったころから,1日車検を実施していたが,近年規制緩和の波が押し寄せる中,車検業界の対策として1時間車検を構想し,試行錯誤を経て平成5年ころ,ほぼ現在のチャレンジ車検に近いシステムを作り上げた。同システムは独自のもの 検を実施していたが,近年規制緩和の波が押し寄せる中,車検業界の対策として1時間車検を構想し,試行錯誤を経て平成5年ころ,ほぼ現在のチャレンジ車検に近いシステムを作り上げた。同システムは独自のものであって,他の車検システムの盗用でないことはもちろん,公刊されている資料から直ちに導き出されるものではなく,誰でもが考案し得るものでもない。このシステムは,従来の車検と異なり,電話による受付,問診の段階から,合理化,効率化を目指して後の作業の準備をし,作業工程の無駄を省く工夫を重ね,合理化した作業指図書を作成して作業時間の短縮をはかる等様々な考案に基づいて構築された。その成果は,行程表,作業指図書,電話問診,受付票等マニュアル化された文書となっている。そして原告が重複加盟したE(以下その加盟店が実施する車検を「E車検」という)は,この被告Aの作成したマニュアルを使用している。 イ原告とE原告は,平成9年に被告Aに加盟した。原告代表者は,平成11年6月ころEを設立し,その代表世話人の地位についた。E車検の内容は,車検基本料金総額が若干異なるだけで,その他は特色も,モットーとするところも,具体的なシステムも,広告方法もチャレンジ車検と全く同じであって,E車検を行うグループが被告Aの競業グループであることは疑いの余地がない。なおE車検の料金体系は,被告Aの料金よりすべての面で1500円ずつ安価になっている。 ウ競業他グループへの重複加盟が許されない理由被告Aは,その加盟店全体が長期にわたり安定して成長することを目指すが,同被告の加盟店が他の競業グループを組織し,あるいは重複加盟すれば,被告A加盟店の長期安定成長が阻害される。具体的に予想される弊害は以下のとおりである。 (ア) 重複加盟を認め を目指すが,同被告の加盟店が他の競業グループを組織し,あるいは重複加盟すれば,被告A加盟店の長期安定成長が阻害される。具体的に予想される弊害は以下のとおりである。 (ア) 重複加盟を認めると,被告Aが培ってきたノウハウが競業グループに流れる。これにより,競業グループ参加企業はなんらの努力を要せずして,同被告のノウハウを利用することができる。ちなみにE車検の広告を見ても,すでに同被告のノウハウが利用されていることが明らかである。 (イ) 被告Aに申し込んだつもりのユーザーが,重複加盟している業者の恣意によって,競業グループの顧客に取り込まれてしまうおそれがある。重複加盟店の側からいうと,同被告による広告の効果を不当に利用できることになる(すなわち,「A」の広告を見て来店したユーザーを奪うことができる。)。 (ウ) 被告A加盟店間では出店規制がなされている。重複加盟店は,実質的に別グループの会員として営業をしていても,「A」の看板を掲げている限り,同被告加盟店が近隣に開業することを免れる。被告A加盟店側からすると,実質的な競争者が「A」の看板を出しているためにその近隣での営業ができないという弊害が生じる。 (エ) 被告Aはその会員を増加させることによって,そのスケールメリットを利用して他の競業グループとの競争に勝つことを目的としている(この点は原告が重複加盟したEも同様である。)。したがって,被告Aの立場からして,原告の行動は「本会の秩序を乱す行動」に該当することが明らかである。 原告は,被告Aの加盟店で,他の車検グループに加盟している者があるという。しかし,コープ車検は,生協がコープ車検の名の下に車検業者を集め,ユーザーに紹介するもので被告Aの最大の特徴である1時間車検とは関係のないグルー 店で,他の車検グループに加盟している者があるという。しかし,コープ車検は,生協がコープ車検の名の下に車検業者を集め,ユーザーに紹介するもので被告Aの最大の特徴である1時間車検とは関係のないグループである。エコクリーン大阪は地球環境汚染防止活動の推進や環境対応型商品の研究開発といった活動が事業内容をなしており,いずれも被告Aと競業するグループではない。また被告Aの発起人のDはロータス・クラブに加盟しているが,同クラブ自体は1時間車検を実施していない。被告Aとしては,1時間車検を実施する企業及びそのグループを競争者とみなしており,自動車販売企業及びそのグループはもとより,1日車検をするグループなども競争者ではなく,これらに加盟することは問題視していない。 エ原告と有限会社Fとの関係原告と有限会社Fはいずれも代表者が同一人であり,両社とも原告代表者が主宰する山本技研グループの一員である(このことは名刺にも,広告にも表示されている。)。両社の営業所は道路を隔てただけで存し,被告Aのグループの広告でも,E車検の広告でも常に両社の場所と名称が同時に表示されている。両社の車検に関する屋号は,被告Aの広告上は「車検センターあこう」であり。E車検の広告上は「Eあこう」であって類似している。前記ウで述べた,重複加盟による弊害は,本件ではそのまま当てはまるのである。このようなことは自由競争のルールを逸脱し許されない。 オ除名手続き(ア) 原告は,被告Aで価格統制をしており,原告がこれに実質的に反したことが除名の理由となっているかのようにいう。しかしそのような事実はない。 原告の除名事由は,原告が競業他グループを組織し,これに重複加盟したことである。原告の行為は,同被告の根幹を揺るがす行為であって,同被告の目的にも反 ているかのようにいう。しかしそのような事実はない。 原告の除名事由は,原告が競業他グループを組織し,これに重複加盟したことである。原告の行為は,同被告の根幹を揺るがす行為であって,同被告の目的にも反する。重複加盟は会則13条の「本会則・細則・運用規定に違反し」または「本会の秩序を乱す行動」に該当する。なおその他にも原告については,「被告Aによって知り得た情報やノウハウ等の漏洩禁止義務(会則11条)」に違反していると認められる点,あるいは「積極的に協力しなければならない義務(会則6条)」に違反している点でも,会則違反に該当する。本件のような問題は会費未納のような会則違反と異なり,放置すれば,同被告にとって重大な悪影響を及ぼす事柄であって,同被告としては,重大かつ緊急に対処する必要があった。 (イ) 被告Aは平成11年12月22日,役員会議を開催し,「原告が,平成12年1月6日までに,①競業他グループへの加盟を解消するか,②被告Aを退会する手続きをしない限り,平成12年1月7日付けで原告を除名する」旨の決議をした。続いて平成11年12月24日,原告の所属していた被告A兵庫支部において,支部会議が開催された。この支部会議には原告代表者も出席し,被告Aは原告代表者から事情を聴取した。その上で同支部会も原告に除名事由があるものと認め,役員会と同様の決議をした。同各決議の後,被告Aは原告に対し,決議の内容を平成11年12月26日到達の書面をもって通知したが,原告は平成12年1月6日までに,被告Aを退会せず,競業グループからも退会しなかった。よって同月6日の経過をもって,除名の効力が生じた。 (ウ) ちなみに,原告と同じく,Eに重複加盟した会員は他に3者存したが,これらは,前記原告と同様の除名決議後,被告Aから退会し,解決した。 【 月6日の経過をもって,除名の効力が生じた。 (ウ) ちなみに,原告と同じく,Eに重複加盟した会員は他に3者存したが,これらは,前記原告と同様の除名決議後,被告Aから退会し,解決した。 【原告(被告の主張に対する反論)】ア被告Aの目的及びその団体としての性格等被告Aの目的は,自動車整備事業に関わる調査・研修・情報交換・事業等の活動を通じて,被告A加盟店全体が長期・安定成長することを最大の目的とする(会則3条)ものであって,被告らの主張するように営利を目的とした特定の事業を行うものではない。車検事業は,同被告の個々の加盟店の事業であるが,同被告自体の事業ではない。したがって,各加盟店の事業が被告Aの事業と競業することはない。会員相互間についても,同被告の組織はいわゆるボランタリーチェーンであって,会員相互間の競業を規制するものではない。 被告Aの事業は,車検制度の調査研究を主体とし,その得られた成果を自らの事業で実施するか否かは,各会員の自由な判断にゆだねられており,事業の共同化といっても,現実には「A」の広告を共同で行うのにとどまる。Eは,車検だけでなく,トータルな整備工場の経営の確立を目指すもので,新車販売,中古車販売,自動車リース,整備,板金塗装用品販売等の調査研究を行うとともに,事業の共同化を目指すもので,そのためにE会員を株主として,株式会社オートリバーを設立し,将来的な事業の共同を指示している。被告AとEの事業が競合することはあり得ない。 イ被告Aの会員が行っていると称する車検システムは,特にノウハウというものではなく,自動車整備事業場を経営する者であれば誰でも知っているいわば公知の事実である。 平成8年11月8日の運輸省の通達によって,規制緩和の流れが自動 検システムは,特にノウハウというものではなく,自動車整備事業場を経営する者であれば誰でも知っているいわば公知の事実である。 平成8年11月8日の運輸省の通達によって,規制緩和の流れが自動車整備事業にも及び,運輸大臣の諮問に基づいて平成5年6月17日運輸技術審議会がした答申により,指定自動車整備事業における運輸自動車交通局長の「ニューサービスの導入促進」についての通達が出され,自動車整備事業者に対しては,社団法人自動車整備振興会連合会を通して周知徹底がはかられている。また同社団法人は,ニューサービス(短時間車検)の実施について各種のマニュアルを考案して自動車整備事業者に呈示してきた。このように車検制度にも自由化の波が押し寄せ,短時間車検が常識となり,ほとんどの整備事業者が被告Aのような車検を行っている。同被告がノウハウと主張するマニュアルも,前記自動車整備振興会連合会の各種マニュアルを基本として作成されたものであり,特に新規性,特異性があるわけではない。 被告ら主張のノウハウが,作業工程に関するマニュアル文書の内容等であるとすると,被告Aの加盟店でユーザーとして一度車検を受ければ,入手可能であって,秘密とはいえない。なお,被告らは,Eが,被告Aのマニュアルを使用していると主張する。Eのマニュアルは「E車検 60分車検帳票類マニュアル」と題する文書(甲18)であるが,必ずしもE各会員がこのマニュアルを使用しているわけではなく,各整備事業者が各自の判断に基づいて短時間車検を実施している。 仮に被告Aが発明の部類に属するノウハウを有するのなら,会員に対して守秘義務を強調して教示することによって重複加盟した会員にも秘密が保たれるはずである。 ウ被告らは,重複加盟が許されないと主張するが,会則上の 部類に属するノウハウを有するのなら,会員に対して守秘義務を強調して教示することによって重複加盟した会員にも秘密が保たれるはずである。 ウ被告らは,重複加盟が許されないと主張するが,会則上の根拠を欠いている。被告らの主張に,被告Aの車検につき,「グループで作成した作業料金一覧表に基づき見積書を作成し」とあるとおり,同被告の真意は,グループ内で統一料金を実施させる点にある。独占禁止法8条1項1号は,事業団体は,一定の取引分野における競争を実質的に制限してはならない旨規定している。価格や数量に関する情報交換活動が独占禁止法に違反するものであることは否定できない。グループ内の料金一覧表に基づいて見積書を作成することは,構成事業者間における価格制限の暗黙の了解,又は共通の意思を形成するもので同法に違反する。同被告は,グループ内の価格統制を維持しようとし,原告がこれに従わなかったため除名したのである。しかしこのような価格統制は独占禁止法上許されないものであり,したがって本件で被告Aのした除名処分も許されないものである。 (2) 損害について【原告】ア原告は,被告Aに加盟した平成9年4月以降,同グループに属する者の活動として,「A」を冠した車検の宣伝広告等をし,その費用の累計は2061万8632円にのぼる。除名処分を受けたことで,原告が投下したこれらの広告費用は無効なものとなった。少なくとも同広告等に投下した金額の2分の1程度は,除名処分と因果関係のある損害というべきである。 イ原告は,除名処分により業界において著しく名誉,信用を毀損された。 その信用等毀損を評価すると損害は200万円を下らない。 ウ原告は本訴提起を原告代理人に委任したが,本訴の内容に鑑み,その弁護士費用の内少なくとも100万円は被告らが賠償 ,信用を毀損された。 その信用等毀損を評価すると損害は200万円を下らない。 ウ原告は本訴提起を原告代理人に委任したが,本訴の内容に鑑み,その弁護士費用の内少なくとも100万円は被告らが賠償すべき損害にあたる。 【被告ら】ア原告は被告Aに加盟することで大きな利益を上げ,しかも,同被告と同様のシステムを利用してE車検をしており,なんの不利益を受けていない。原告の宣伝広告費の出費というものの内,看板については,同被告はその設置を義務づけておらず,設置する場合には,各加盟店で統一できるようデザインの参考基準を示しているに過ぎない。原告は看板を自主的に設置したものであるから,被告らが損害として賠償責任を負うべきものではない。 イ宣伝費用の内,チラシについても,確かに被告Aでは,加盟店にノルマとしての配布義務を課しているが,原告のノルマ分については原告は除名時までに配布済みであり,その余の分は,原告が自主的に発注したものであるからやはり被告らが賠償すべき損害ということはできない。 第3 争点に対する判断 1 争いのない事実及び証拠によれば以下の事実が認められる。 (1) 被告A被告Aは,自動車指定整備事業者を会員(加盟店)として,組織されたボランタリーチェーンであるが,会則を備え,会の代表者として会員によって選任された会長を有する権利能力なき社団であり(争いのない事実),現在77の加盟店を擁している(乙21,28)。同被告は,自動車整備事業に関する調査,研修,情報交換,事業等の活動を通じて,会員全体が長期,安定成長することを目的とし,①顧客の多様なカーライフに対する安心と安全・利便性のトータルサービスの提供並びにサービスの向上,②経営技術研修などによる会員のレベルアップ,③共同PR,共同企画の推進に関する事 ることを目的とし,①顧客の多様なカーライフに対する安心と安全・利便性のトータルサービスの提供並びにサービスの向上,②経営技術研修などによる会員のレベルアップ,③共同PR,共同企画の推進に関する事項,④グループの事業拡大等を事業目的として掲げている(会則3,4条。乙1)。 しかし,同被告の活動としてもっとも重要なのは,会員にチャレンジ車検を実施させていることであり,これは同被告の会員の義務とされている(同被告の細則3条1項。甲5)。チャレンジ車検は,ユーザーの立ち会いのもと,点検,整備を実施し,作業時間を1時間程度で終了させるものであり,このために,被告Aの作成した各種マニュアルが存する(乙10ないし16の各1)。被告Aの細則には,「チャレンジ車検にのみ偏ることなく任意保険・火災保険の拡販などの新しい企画をすること」とされているが,現在のところ,こういった自動車整備事業に関するその他の活動等をすることはなく,もっぱら1時間車検をするグループとして,特化したボランタリーチェーンとなっている(乙3,4)。 (2) 原告会社原告代表者は,個人で自動車販売業を営んでいたが,昭和58年4月,自動車販売,自動車の分解整備及び車検代行等を目的とする原告を設立し,以後代表者となって現在に至っている。原告代表者は,平成8年12月に被告Aの設立の趣旨の説明を受け,平成9年4月同被告に入会し,その兵庫支部会の会員となった(争いがない事実,甲1,13)。原告は,遅くとも平成9年10月ころまでには1時間車検を実施するようになった(乙26)。原告代表者は,原告だけでなく,自動車販売等を目的とする有限会社Fの代表者ともなっており,同会社の営業所は,原告の営業所と道路を挟んで向かいあっている(乙4,7,原告代表者)。 (3) E 代表者は,原告だけでなく,自動車販売等を目的とする有限会社Fの代表者ともなっており,同会社の営業所は,原告の営業所と道路を挟んで向かいあっている(乙4,7,原告代表者)。 (3) E原告代表者は,遅くとも平成11年3月ころから,新車・中古車販売,自動車リース,整備,板金塗装,車検等の事業を営む者によって構成されるボランタリーチェーンEの設立を構想し,同年5月ころ,自らが代表世話人となってこれを設立した。Eは,本部,事務局を,原告の本店所在地に置き,会則を備え,会の代表者会長を置くものと定めている(甲13ないし15,乙7)。有限会社FはEの設立当初からこれに加盟している。Eは,平成11年秋ころから,ユーザー立ち会いで1時間程度で作業を終えるE車検を実施している(原告代表者,甲27,33)。 (4) 除名決議被告Aは,原告が同被告と競業するEに重複加盟したもの及びその行動が会則に照らし除名理由にあたるものとみなして,会則の手続規定に基づき,平成11年12月22日役員会議を,同月24日兵庫支部会会議をそれぞれ開催し,原告が平成12年1月6日までに,競業他グループへの加盟を解消するか,被告Aを退会しない限り,平成12年1月7日付けで原告を除名する旨の決議をした(甲33,乙2の1,弁論の全趣旨)。 2 原告は,重複加盟自体は被告Aの除名事由とされておらないという。原告を除名した当時の同被告の会則上,除名事由として「重複加盟」が明示されてはいないところ,被告らは,「重複加盟」は,会則13条2項の「本会の秩序を乱す行為」に該当するという。そこでこの点につき以下に検討する。 (1) 被告Aは,1時間車検を実施する整備業者が,グループ化により,広告費用等の経費削減と知名度の増加や,相乗効果としての各会員の売上増大を目 該当するという。そこでこの点につき以下に検討する。 (1) 被告Aは,1時間車検を実施する整備業者が,グループ化により,広告費用等の経費削減と知名度の増加や,相乗効果としての各会員の売上増大を目的として結成された(甲6)。被告Aは,加盟店の拡大(チャレンジ車検を実施する業者を増加させること)を目標にしており,他の競業企業や他の車検業者のグループとグループとして競争するものである。 (2) 被告らは,1時間車検が,被告Aの発起人Dの独自の構想によるものであることをいうが,この点を的確に認定し得る証拠はない。しかし,証拠(乙19,21)によれば,後記(4)の「ニューサービス車検」の促進がいわれる以前,遅くとも平成5年ころから,Dが,協力者もあったが,1時間で車検を行うために,試行錯誤,工夫を重ね,作業工程の合理化,効率化したシステムを作ったこと,その成果として,車検に要する時間を大幅に短縮するための作業行程表等のマニュアルを作成し,被告Aの会員らがこれにしたがって1時間車検を実施していることが認められる。 被告Aは,会員に対し,同被告に加盟することによって知り得た情報やノウハウを漏洩することを禁止している(会則11条6項。乙1)。前記各マニュアルは,同被告内でマル秘扱いがなされている(甲33,乙21,28)が,文書化された内容は,この会則11条にいうノウハウに該当するものと認められる。 (3) 原告は,車検の適正化,迅速化のため,整備業者は各自工夫をして短時間車検を試みており,また日本自動車商工組合連合会などにおいても短時間車検のための整備業者用のマニュアルを作成しているのであって,被告主張のマニュアルなどはノウハウに当たらないと主張する。また,そもそも被告Aの会員の実施する車検のノウハウは,同被告の加盟店で一度車検 検のための整備業者用のマニュアルを作成しているのであって,被告主張のマニュアルなどはノウハウに当たらないと主張する。また,そもそも被告Aの会員の実施する車検のノウハウは,同被告の加盟店で一度車検を受ければ入手可能であって,秘密とはいえないとも主張する。 (4) 自動車検査及び点検整備のあり方をめぐっては,平成4年に運輸大臣から,運輸技術審議会に対する諮問がなされ,これに対し同審議会は平成5年6月に答申をし,その中で整備料金,整備内容の適正化を指摘した(甲20の1,2)。 また平成7年の日米自動車協議において日本が規制緩和に合意し,運輸省はニューサービス(情報提供によるユーザー選択型指定整備)の導入を促進することとした。これを受けて社団法人日本自動車整備振興会連合会・日本自動車整備商工組合連合会は「ニューサービスの導入と検査の合理化措置マニュアル(運輸省自動車交通局技術安全部整備課監修)」と題する冊子を作成し,また前記日本自動車整備商工組合連合会は「ジャスト・イン・サービスの提案」と題する冊子を作成した。これらの冊子には,車検を合理化,効率化するために,具体的な提言,ユーザーへの対応のアドバイス,マニュアルが内容として盛り込まれている(甲21の1ないし3,甲22の1,2,甲23ないし26)。すなわち,近年,従来の車検方法の見直しが官民双方によって推進され,新しい車検のためのマニュアルが業界団体によって作成されてきたことは原告主張のとおりである。 (5) しかしながら,これら業界団体の冊子の内容は,1時間で車検の工程を終えることを直接目的とするものではなく,これらの冊子によって,被告Aが作成したようなマニュアルを作成することが容易であるとはいえない。原告は,Eではマニュアル(甲18)を別に作成したというが,同マニュアルに含まれる「E するものではなく,これらの冊子によって,被告Aが作成したようなマニュアルを作成することが容易であるとはいえない。原告は,Eではマニュアル(甲18)を別に作成したというが,同マニュアルに含まれる「E車検(60分)行程表」,「E,グループ(60分)車検のご案内」,「E車検電話問診,受付票」,「E車検ご予約受け賜り書」,「メッセージ欄の挿入語句又は説明語句」,「E車検アンケートの記入お願い」といった文書は,その内容,体裁が被告Aの作成したマニュアル(乙10ないし15の各1)と酷似しているだけでなく,その文章,言い回しまでもほぼ同様である。E車検のマニュアルが被告Aのマニュアルをまねることで簡便に作成されたものであることは明らかであって,被告Aのマニュアルと同程度のものが容易にできるとの原告の主張は採用し難い。 原告は,被告ら主張のノウハウなるものは,被告Aの加盟店に一度でも車検を依頼すれば,入手可能でありなんら秘密といい得るものではないと主張するが,同被告のマニュアル自体がマル秘とされていることは,前記認定のとおりである。被告Aの加盟店が実施する1時間車検は,点検作業にユーザーを立ち会わせ,作業の内容や修理,部品交換の必要性をユーザーに納得させながら行うものであるから,ユーザー自身,その作業内容や工程を知ることになり,その意味で作業工程自体は秘密とはいえない。しかし,1時間という短時間で車検を実施するには,電話申し込み時等準備段階での応対手順や留意すべき事項をあらかじめマニュアル化し,系統立てた作業工程表を作成し,これに基づいて作業する必要がある。こうしてなされる作業がユーザーに公開されているからといって,その作業をすすめるためのノウハウまでが周知のものであるとはいえない。これらの構築されたシステム及びその文書化されたものは,不正競 ある。こうしてなされる作業がユーザーに公開されているからといって,その作業をすすめるためのノウハウまでが周知のものであるとはいえない。これらの構築されたシステム及びその文書化されたものは,不正競争防止法第2条4項にいう「営業上の秘密」に該当するか否かはともかく,企業として外部に流出することを禁じる利益は存するというべきである。なお,証拠(乙28)よれば,被告Aは,他府県の同業者の依頼で1時間車検の作業を見学させていることが認められるが,そのような見学を許容しているからといって,被告Aの管理するノウハウがみだりに流出することまでも許容するものとは認められない。 (6) 被告Aの加盟店が実施する1時間車検と同様の車検を実施する業者によって構成されるEのようなボランタリーチェーンに属する各加盟店は,被告Aの加盟店と競争関係に立つものである。同被告に加盟しながら,別の競争グループに加盟することは,その重複加盟した加盟店を通じて,同被告のノウハウが競争グループに流出する危険が存するのであって,この観点から重複加盟が,同被告の会則の「本会の秩序を乱す行為」に該当するとの被告らの主張は理由がある。 (7) また,被告Aは,チャレンジ車検を宣伝及び実績によりユーザー間に浸透させ,各加盟店の顧客を増加させることを目的としている。同被告に加盟しながら,他のEなど他の競争グループに重複加盟することにより,重複加盟店を訪ねたユーザーが,Eの顧客として取り込まれ,以後同車検を利用するようになるおそれが存することも,被告ら指摘のとおりである。現に,原告は,被告AとE両方の宣伝をしていたが,その料金はE車検の方が1500円廉価に設定されており(甲27,乙4,5),原告のもとに同被告の宣伝を見てあるいは評判を聞いて訪れた顧客が,E車検を選択することは容易に想 E両方の宣伝をしていたが,その料金はE車検の方が1500円廉価に設定されており(甲27,乙4,5),原告のもとに同被告の宣伝を見てあるいは評判を聞いて訪れた顧客が,E車検を選択することは容易に想像されるところである(乙29)。この意味で,重複加盟により,被告Aの宣伝効果が希薄化することが予想される。そしてこのような実態に鑑みれば,重複加盟店は,被告Aの加盟店にとって,潜在的な競争相手となっているといい得るのに,被告Aの加盟店同士は競争をさけるための出店規制をしているため(乙1),これとの競争ができないことになる。これらの観点からしても,重複加盟は,被告主張のとおり「本会の秩序を乱す行為」に該当するものと思料する。 (8) 原告は,被告Aの加盟店中には,なんらとがめられることなく,E以外のグループに重複加盟している加盟店があるという。しかし証拠(乙21,28)によれば,同被告は,現在のところ,1時間車検を行うグループとして特化しており,自動車販売グループはもとより1日車検を行うグループも同被告とは競争関係に立たないとの方針を有していることが認められる。したがって,同被告は,原告が単に他のグループに重複加盟したことを問題にするのではなく,原告が1時間車検を行うグループを組織し,重複加盟したが故に,同被告は原告を除名処分にしたこものと認められる。 3 原告は,Eグループに加盟したのは,有限会社Fであって,原告ではないという。しかしながら,有限会社Fは,前記認定のとおり,原告代表者が経営する会社であり,しかも同会社は,自動車分解整備事業の認証を受けておらず指定自動車整備事業の指定を受けていないから,自らは車検をなすことができない。このため,有限会社Fが受けたE車検の申し込みは,原告に下請けに出されているのであって(原告代表者),前記( 受けておらず指定自動車整備事業の指定を受けていないから,自らは車検をなすことができない。このため,有限会社Fが受けたE車検の申し込みは,原告に下請けに出されているのであって(原告代表者),前記(6)及び(7)の弊害が生じうるという点では,実質的に,原告が重複加盟した場合と変わりがない。 4 以上検討したところによれば,原告が被告Aに加盟しながら,同被告と競争関係に立つEを設立しこれに加盟したことが,被告Aの秩序を乱すものとしてなした除名処分は有効であって,同処分に違法事由は見出し難い。そうすると処分の違法を理由に損害賠償を求める原告の請求は失当であるから棄却すべきである。 よって,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所姫路支部裁判官三木昌之
▼ クリックして全文を表示