平成14(ネ)474 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成15年7月15日 福岡高等裁判所 長崎地方裁判所 平成12(ワ)545
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判決文本文12,846 文字)

主文 1 原判決主文第1項を,次のとおり変更する。 (1) 被控訴人は,控訴人に対し,金1245万円及びこれに対する平成11年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じて10分し,その7を控訴人の,その3を被控訴人の各負担とする。 3 この判決は,第1項(1)に限り仮に執行することができる。ただし,被控訴人が金400万円の担保を供するときは,同仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,4000万円及びこれに対する平成11年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(基礎となる事実及び争点)は,次のとおり補正するほか,原判決2ページ12行目から5ページ25行目までと同じであるから,これを引用する(なお,引用に係る原判決中の各「グレーチング」を各「グレーチング蓋」に改める。)。 1 2ページ15行目の次に,改行して,「原審は,国道の設置又は管理の瑕疵を認めず,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。」を加える。 2 3ページ末行末尾の「できた」の次に,「ところ,本件集水ますの開口部は,容易に人がはまり込む大きさで,底部は深く,下流暗渠の径は人を呑む込むに充分な大きさであり,本件グレーチング蓋が外れれば,人が転落し,流れがあれば暗渠に吸い込まれることが容易に予測できた」を加える。 3 4ページ10行目末尾に,「本件側溝の集水域の上流部には,無蓋側溝が存在し,廃材や木の枝等が入り込むとはいえ,側溝の開渠部については,未供用区間であり,現在,車両,歩行者等の通行の用に供している箇所ではなく,ガードレール等を設置して進入防止 上流部には,無蓋側溝が存在し,廃材や木の枝等が入り込むとはいえ,側溝の開渠部については,未供用区間であり,現在,車両,歩行者等の通行の用に供している箇所ではなく,ガードレール等を設置して進入防止策を講じ,歩行者等の進入を禁止している区間であり,道路未供用部分については完成前であって予定された道路の高さよりも低くなっているため,側溝の側壁が道路未供用部分に対して50センチメートル程度の高さの壁となって,未供用部分からの異物の混入を阻んでいる構造となっている。そこで,本件側溝内に廃材や木の枝等が入り込んだとしても本件グレーチング蓋の網目が目詰まりするほどの量が入ってくる可能性は著しく低いものと考えられる。」を加える。 4 同12行目の「認めれなかった」を「認められなかった」に改める。 5 同18行目末尾に,次を加える。 「本件集水ますには,北側から南側に流れる本件側溝と東側の歩道から完成形の側溝(直径30センチメートルの鉄筋コンクリート管。以下「歩道側側溝」という。)が取り付けられている。歩道側側溝の計画流水量は0.007立方メートル/秒であるのに対し,本件側溝の計画流水量は0.990立方メートル/秒であり,実際の排水能力についても,歩道側側溝が0.118立方メートル/秒であるのに対し,本件側溝は,上流部側溝が1.478立方メートル/秒,下流部円管が1.106立方メートル/秒であり,歩道側側溝の流量は,本件側溝と比較して極めて小さい。こうした場合,本件側溝から質量の大きい本流が激しい勢いで流れることとなり,この流れは,力の弱い質量の小さな歩道側側溝に逆流し,歩道側側溝は,本件側溝の本流の流出エネルギーを削ぐことになり,歩道側側溝の排水と本件側溝の排水とが合流して大きな流出エネルギーを生じることはない。」 6 5ページ初行の「101 側側溝に逆流し,歩道側側溝は,本件側溝の本流の流出エネルギーを削ぐことになり,歩道側側溝の排水と本件側溝の排水とが合流して大きな流出エネルギーを生じることはない。」 6 5ページ初行の「101メートル」を「101ミリメートル」に改める。 第3 争点(1)(公の営造物の設置又は管理の瑕疵の有無)についての判断 1 当事者間に争いない事実に,証拠〔甲1~3,4の1~24,乙1~18,19の1・2,20~22,23の1,23の2の1~9,23の3,24,控訴人本人,証人B〕及び被控訴人の主張を加えれば,次のとおり認められる。 (1) 本件事故当日(平成11年7月23日),A(中学3年生)は,中学校が夏休み中で,本件事故現場南方の学習塾に赴いたが,大雨のため帰宅することになり,午前10時10分ころ,大雨の中,同学年の男子3名とともに徒歩で歩車道の区別のある本件道路の東側歩道を通って本件事故現場北方にある自宅に向かった。 途中,Aを含む4名は,y交差点東側横断歩道を渡り,本件事故現場付近に差しかかった際,本件側溝内の流水が本件集水ます(「集水ます」とは,側溝を流れてきた雨水をいったん集め,配水管へ流し込むための構造物である。道路構造令26条に根拠がある。)の開口部から溢れ出て,本件グレーチング蓋がその水圧によって3分の2くらい下流側(南方)に外れて浮き上がっているのを認めて,歩道からそこに立ち入り(原判決別紙1参照),Aが浮いている本件グレーチング蓋を足で押したり,他の少年らが開口部から溢れ出る水を蹴ったりしていた午前10時35分ころ,Aは,突然,本件集水ますの開口部に足のほうから吸い込まれ,他の少年らが救助しようとしたが奏功せず,本件側溝内に流されて行方不明となり,午後零時5分ころ,本件事故現場から約1.1キロメートル下流(南方)のz ,本件集水ますの開口部に足のほうから吸い込まれ,他の少年らが救助しようとしたが奏功せず,本件側溝内に流されて行方不明となり,午後零時5分ころ,本件事故現場から約1.1キロメートル下流(南方)のz都市下水路で遺体で発見された。 〔甲1~3,4の1~24,乙6~8,10,証人B,控訴人本人,被控訴人の平成14年8月29日付け準備書面2ページの1〕(2) 本件グレーチング蓋が外れたのは,雨水が濁流となって本件側溝を流れ,樹木の枝や廃材等が本件グレーチング蓋の格子目に詰まって下からの水圧を受けたためである。本件グレーチング蓋のほか,その上流約22.2メートル地点の集水ますでも同様にグレーチング蓋が外れていた。 〔乙8,10,証人B〕(3) 本件事故当日,午前9時10分過ぎころ,現場付近の道路工事に従事していた建設会社の現場代理人が巡回した際,本件グレーチング蓋より飲み込みきれない排水が交差点に流れ出しているのを目視したが,その時点では本件グレーチング蓋が持ち上がるようには出ていなかった(乙17の7月23日欄参照)。諫早市は,午前9時ころ,市内を流れる本明川の水位が警戒水位を超え,氾濫のおそれが出たため,午前9時15分,災害対策基本法に基づき,市内全域の約3万2000世帯に対し避難勧告を発令し,サイレンを鳴らして市民に周知するなど避難誘導に努めていた。 本件事故当時の降雨状況は,長崎海洋気象台諫早地域雨量観測所の観測記録によれば,日降水量342ミリメートル,午前10時の時間降水量101ミリメートルであって,同観測所における過去約20年間の観測記録中,日降水量は第2位の,時間降水量は第1位の数値であり(原判決別紙3参照),本件道路上は雨水が川のように流れていた。 〔甲1,乙4,8,17,18,1 って,同観測所における過去約20年間の観測記録中,日降水量は第2位の,時間降水量は第1位の数値であり(原判決別紙3参照),本件道路上は雨水が川のように流れていた。 〔甲1,乙4,8,17,18,19の1・2,22,証人B〕(4) 本件集水ますは,縦横各0.7メートル,深さ1.19メートルのコンクリート製の構造物であり,本件側溝である上流側(北方)側溝(U型側溝で,断面0.7メートル×0.7メートル)と下流側(南方)側溝(円管で,直径0.7メートル)が接続し,さらに,東側の歩道から歩道側側溝(直径30センチメートルの鉄筋コンクリート管)が取り付けられており,本件道路南方にあるz都市下水路に排水を行っている。 本件集水ます並びに上流側側溝及び下流側側溝の上記構造からすれば,本件グレーチング蓋が外れれば,本件集水ます開口部は,大人であっても身体が完全に入り込める状況にあり,もし,水流が十分あるとき人が転落すれば脱出することができず,そのまま暗渠に吸い込まれてしまうおそれがある。 〔乙8,10,14,22,23の1,23の2の1~9,23の3〕(5) 本件側溝の計画・設計の際に指針とされた雨水流出量(以下「計画流出量」という。)は,社団法人日本道路協会が発行した「道路排水工指針」(乙9)所定の合理式(ラショナル式)により,0.990立方メートル/秒と計算されたが,本件側溝の実際の排水能力は,上流側側溝(U型側溝)が1.478立方メートル/秒,下流側側溝(円管)が1.106立方メートル/秒であった。(なお,各数値は,土砂等の堆積による通水断面の縮小を勘案し,「道路排水工指針」所定の計算式によって算出された数値の80パーセントとなっている。)〔乙3,9,15,被控訴人の平成13年5月25日付け準備書面〕(6) 本件集水ますは,諫早市 勘案し,「道路排水工指針」所定の計算式によって算出された数値の80パーセントとなっている。)〔乙3,9,15,被控訴人の平成13年5月25日付け準備書面〕(6) 本件集水ますは,諫早市内から大村市に通じる本件道路(国道34号線)のy交差点の外延部に位置し,本件道路と歩道の間には植込みが植栽されているが,同交差点のガードレールの内側にあるので,本件側溝部分は車両の通行ができず,したがって,y交差点を通行する者が容易に立ち入ることができる場所(原判決別紙1,2参照)にある。 本件集水ますがある本件道路の周辺地域は,相当に密集した住宅街(乙8の現場見取図第2図参照)であり,Aは,本件道路が塾通いの通常のルートであった。 〔乙6~8,10,控訴人本人〕(7) 本件側溝は,y交差点の北側約2.1キロメートルにわたって本件道路沿いに設置された側溝により集水される排水系統(乙10参照)にある。本件集水ます上流部(北側)には,無蓋側溝が多く,本件側溝の開渠部は,ガードレール等を設置して進入防止策を講じるなど歩行者等の進入を禁止している未供用区間にあり,道路未供用部分については完成前であって予定された道路の高さよりも低くなっているため,側溝の側壁が道路未供用部分に対して50センチメートル程度の高さの壁となって,未供用部分からの異物の混入を阻んでいる構造となっているが,広範囲の側溝開渠部からゴミ,草,木枝,葉などが流れ込むのを防げない。しかも,本件集水ますに接続された本件側溝(U型側溝。断面0.7メートル×0.7メートル)北側(上流)は,約350メートルの蓋付側溝と暗渠部分(乙10の集水域平面図④参照)からなっている。 歩道側側溝は,y交差点北側の本件道路の歩道に沿った約300メートルに集水され 0.7メートル)北側(上流)は,約350メートルの蓋付側溝と暗渠部分(乙10の集水域平面図④参照)からなっている。 歩道側側溝は,y交差点北側の本件道路の歩道に沿った約300メートルに集水された系統(乙10の集水域平面図④参照)の蓋付き側溝である。歩道側側溝(円管。直径0.3メートル)の計画流出量は0.007立方メートル/秒であるのに対し,本件側溝の計画流出量(下流側側溝は円管。直径0.7メートル)は0.990立方メートル/秒(乙15)であり,実際の排水能力も,歩道側側溝が0.118立方メートル/秒,本件側溝の上流部側溝が1.478立方メートル/秒,下流部円管が1.106立方メートル/秒である。 〔乙10,14,15,23の1,23の2~9,23の3,被控訴人の平成13年5月25日付け及び平成14年10月31日付け各準備書面〕(8) 本件グレーチング蓋は,一般構造用圧延鋼材SS400を材料とし,主部材5本,横部材7本,補助部材16本,エンドプレート2本,サイドプレート2本によって構成され,その形状は,上面部が1辺約80センチメートルの正方形で格子状,高さが約10.5センチメートルであり,総重量は約62キログラム(この重量は,自動車総重量14トンに耐える設計である。 被控訴人の平成13年3月12日付け準備書面2ページ(4)及び同14年8月29日付け準備書面5ページ)であった。本件グレーチング蓋は,落とし蓋方式であり,ボルト等で固定されていなかったが,本件事故当時,関係法令上,グレーチング蓋をボルト等で固定することを指示する規定はなかった。 本件事故後,本件事故の重大性にかんがみ,本件グレーチング蓋はボルトで固定された。同固定に要した費用は,約13万2000円であった。 〔乙1~3,11,12,20,被控訴人の平成13年3月12日付 本件事故後,本件事故の重大性にかんがみ,本件グレーチング蓋はボルトで固定された。同固定に要した費用は,約13万2000円であった。 〔乙1~3,11,12,20,被控訴人の平成13年3月12日付け及び同14年8月29日付け各準備書面〕(9) 被控訴人は,本件事故以前には,降雨による増水の際,本件側溝付近一帯に設置されたグレーチング蓋が外れたことはもちろん,同開口部から側溝内に人が転落したという事故の発生の報告を受けたことはなかった。 しかしながら,次の事情もあった。 ア本件側溝上流部の無蓋部には,ゴミ,ビニール傘,枯れ草などが散乱しており,集水域からゴミ,草,木,特にビニール袋,瓶,空缶等が流れ込んでいる現状にある。 イ諫早市土木部は,本件事故以前,大雨のため溢水によりニュータウン地域のコンクリート製側溝蓋が浮き上って外れたという報告を受けていたし,市道側溝のグレーチング蓋については,重点的に調査し,車両が走行して危険な箇所とか排水が溢れてグレーチング蓋が外れそうな箇所を発見したときは,その都度,これらを固定している。 ウ平成11年4月20日,首都高速道路で走行中の車両に反対車線の集水ますの蓋が中央分離帯を越えてフロントガラスを破って車内に飛び込み,運転手が死亡する事故が発生したのを契機に,建設省(当時)内に設置された調査委員会は,同年11月22日,事故の第1原因は,蓋が集水ますから外れたことにあるので,たとえ蓋の上を相当の速度で車両が通過したとしても,集水ますから蓋が外れないような構造とするように提言し,建設省道路局は,同提言を全国の道路管理者に通知し(乙21),以降,車道部については,順次グレーチング蓋を固定する取扱いを行っている。 〔甲5,乙13,16,17,21,証人B,被控訴人の平成14年10月31日付け準備書面6 国の道路管理者に通知し(乙21),以降,車道部については,順次グレーチング蓋を固定する取扱いを行っている。 〔甲5,乙13,16,17,21,証人B,被控訴人の平成14年10月31日付け準備書面6ページ第3の2項〕(10) 諫早市の気象は,3つの海に囲まれ,夏場には非常に海面が高くなって,背後地の多良岳山系の五ヶ原岳に気流がぶつかり,これが上昇気流に乗って雨雲が発生し,大雨を降らすという特徴があり,多くの豪雨を経験している。長崎海洋気象台諫早地域雨量観測所の観測記録(昭和54年1月から平成12年12月まで)によると,日降水量及び時間降水量の第1位から第10位までは原判決別紙3の表のとおりであり,本件事故当日の日降水量342ミリメートルは第2位,本件事故発生時の午前10時台の時間降水量101ミリメートルは第1位であった。 〔甲1,乙4,19の1・2,証人B〕 2 国賠法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵についての判断基準は,原判決7ページ25行目から8ページ3行目までと同じであるから,これを引用する。 3 本件道路の設置又は管理の瑕疵の有無前記認定の事実に基づき,本件事故発生に至る経緯の認定・判断を要約すれば,次のとおりである。 (1) 本件集水ますは,縦横0.7メートル,深さ1.19メートルのコンクリート造りで,流水は,本件側溝上流部から底部に落ち込む構造になっている。同ますが開口すれば,容易に人がはまり込む大きさであり,下流暗渠円管(直径0.7メートル)も人を呑み込むに充分である。もし,水流が十分あるとき人が転落すれば,水流に呑み込まれて脱出することができず,そのまま暗渠に吸い込まれてしまうおそれのある構造であったし,このことは,容易に予測できた。 (2) 本件事故当時,本件グレーチング蓋(総重量は約62キログラム)は, 込まれて脱出することができず,そのまま暗渠に吸い込まれてしまうおそれのある構造であったし,このことは,容易に予測できた。 (2) 本件事故当時,本件グレーチング蓋(総重量は約62キログラム)は,ボルト等で本件集水ますに固定されていなかったところ,雨水が濁流となって本件側溝を流れ,樹木の枝や廃材等が本件グレーチング蓋格子目に詰まり,下からの水圧を受けて本件グレーチング蓋が浮き上がる事態になった。 (3) Aは,本件側溝内の流水が本件集水ますの開口部から溢れ出て,本件グレーチング蓋がその水圧によって3分の2くらい下流側(南方)に外れて浮き上がっているのを認め,本件グレーチング蓋を足で押したりしていたところ,突然,同開口部に足のほうから水流に吸い込まれて行方不明となり,溺死する本件事故に遭遇した。 (4) 本項のまとめ以上によれば,ア一応の推定本件グレーチング蓋がボルト等で本件集水ますに固定されていれば,本件事故は起きなかったと認められるから,上記固定されていなかったことは,被控訴人の営造物である本件側溝,本件集水ます及び本件グレーチング蓋を含む本件道路(国賠法2条1項にいう公の営造物に当たる。)の設置又は管理に瑕疵があったものと一応推定するのが相当である。 イ本件事故当時,行政関係法令上,グレーチング蓋をボルト等で固定することを指示する規定がなかったことは,同法令上違法でなかったことを意味するが,そのことは,損害賠償法の上でも違法性が阻却されることに直結するものではなく,アの推定を左右しない。行政法理と損害賠償法理とは,そもそも法原理が異なるからである(最高裁第1小法廷昭和37年11月8日判決・民集16巻11号2216ページ,同第2小法廷昭和46年4月23日判決・民集25巻3号351ページ参照)。 4 本件グレーチング蓋の浮 理が異なるからである(最高裁第1小法廷昭和37年11月8日判決・民集16巻11号2216ページ,同第2小法廷昭和46年4月23日判決・民集25巻3号351ページ参照)。 4 本件グレーチング蓋の浮き上がりと本件集水ます開口の予見可能性しかしながら,被控訴人において,本件グレーチング蓋が浮き上がって,本件集水ますが開口する3(2)(3)の事態を予見することができなければ,3(4)アの推定は覆えるので,その点につき検討を進める。 (1) 前記認定の事実によれば,次のとおりである。 ア本件事故当時の降雨状況は,日降水量342ミリメートル,午前10時の時間降水量101ミリメートルであって,長崎海洋気象台諫早地域雨量観測所における過去約20年間の観測記録中,日降水量は第2位,時間降水量は第1位であった。 イ被控訴人は,過去,本件側溝の使用が開始されてから本件事故までの間,降雨による増水の際,本件側溝付近一帯に設置されたグレーチング蓋が外れたことはもちろん,同開口部から側溝内に人が転落したという事故の発生の報告を受けたことはなかった。 ウ本件側溝の実際の排水能力は,合理的な根拠に基づいて算出された計画流水量を上回っており,通常の降雨量であれば,本件集水ますの開口部から流水があふれ出ることは考えられなかったし,流水があふれた場合でも,本件グレーチング蓋の形状や重量等からして,これが下方からの水圧によって浮き上がるとは考えられなかったと判断していたと推測される。 エ以上によれば,記録的な豪雨のため,本件側溝の流水により本件グレーチング蓋が外れたもので,このような事態を予測することは困難であったと考えられないでもない。 (2) 他方,前記認定の事実によれば,次のとおりである。 ア本件側溝上流部の無蓋部には,ゴミ,ビニール傘,枯れ草などが散乱し ,このような事態を予測することは困難であったと考えられないでもない。 (2) 他方,前記認定の事実によれば,次のとおりである。 ア本件側溝上流部の無蓋部には,ゴミ,ビニール傘,枯れ草などが散乱し,集水域からゴミ,草,木,特にビニール袋,瓶,空缶等が流れ込んでいる現状にある。 イ本件集水ます上流にある側溝開渠部は,ガードレール等を設置して進入防止策を講じるなど歩行者等の進入を禁止している未供用区間にあり,道路未供用部分については完成前であって予定された道路の高さよりも低くなっているため,側溝の側壁が道路未供用部分に対して50センチメートル程度の高さの壁となって,未供用部分からの異物の混入を阻んでいる構造となっているものの,広範囲の側溝開渠部からゴミ,草,木枝,葉などが流れ込むのを防げない。 ウ本件集水ますの深さは1.19メートルで,本件側溝上流部から底部に落ちるように入り込む構造であること,本件側溝である上流側本件側溝はU型側溝で,断面が0.7メートル×0.7メートル(断面積は0.49平方メートル)であるのに対し,下流側本件側溝が円管で,直径0.7メートル(断面積は0.38平方メートル)と形状が異なり,その断面積も狭くなることから,ゴミ,草,木枝,葉などが下流円管側溝にスムーズに流れ込まず,廃材やゴミなどが本件側溝下流部の排水を妨げるようになり,排水能力の低下を招くおそれが高い。 エ諫早市は,地域的な特徴から原判決別紙3のとおり,過去多くの豪雨を経験しているところ,諫早市土木部は,本件事故以前,大雨のため溢水によりニュータウン地域のコンクリート製側溝蓋が浮き上って外れたという報告を受けていたし,市道側溝のグレーチング蓋については,重点的に調査し,車両が走行して危険な箇所とか排水が溢れてグレーチング蓋が外れそうな箇所を発見したと クリート製側溝蓋が浮き上って外れたという報告を受けていたし,市道側溝のグレーチング蓋については,重点的に調査し,車両が走行して危険な箇所とか排水が溢れてグレーチング蓋が外れそうな箇所を発見したときは,その都度,これらを固定している。 (3) 本項のまとめア (1)(2)の事実等を併せ考慮すれば,通常の降雨量であれば,本件集水ますの開口部から流水が溢れ出ることがなかったとしても,記録的な豪雨の時に限らず,諫早市における地域的特徴ともいえる豪雨が発生すれば,本件集水ますに,本件側溝上流部から,ゴミ,草,木枝,葉や廃材等が流入し,これらが本件側溝下流部の排水を妨げ,排水能力の低下を招き,流水が本件集水ますから流れ出すようになり,さらに,本件グレーチング蓋の格子目に詰まって下からの水圧を受けることにより,本件グレーチング蓋が浮き上って,本件集水ますが開口する事態を予見することは不可能ではなかったと解される。 イ被控訴人は,本件集水ます等の排水施設は,前掲「道路排水工指針」に従って設置していること,同指針は,グレーチング蓋が格子の目詰まり状態によって,浮き上がり状態になるようなことを規定していなかったことから,上記事態を想定していなかったし,予見不可能であったと主張する(被控訴人の平成14年8月29日付け準備書面3~5ページ)。しかしながら,同主張は,前記認定の本件事故態様・原因を直視すれば,採用できない。 5 Aの行動の予見可能性次に,Aの3(3)の行動が,被控訴人にとって予見することができなければ,3(4)アの推定は覆えるので,その点につき更に検討を進める。 (1) 前記認定の事実によれば,次のとおりである。 ア本件集水ますがある本件道路の周辺地域は,相当に密集した住宅街であり,Aにとっては,本件道路が塾通いの通常のルートであっ つき更に検討を進める。 (1) 前記認定の事実によれば,次のとおりである。 ア本件集水ますがある本件道路の周辺地域は,相当に密集した住宅街であり,Aにとっては,本件道路が塾通いの通常のルートであった。 イ本件集水ますは,y交差点のガードレール内側にあり,車両の通行はなく,場所的構造上も歩行者が容易に立ち入ることができる場所にある。 ウ Aは,本件当時,前記認定のとおり,浮いている本件グレーチング蓋を足で押したりしていたというのであるが,中学3年生といえば,好奇心旺盛であり,成人からみれば危険と思われる行動を試みる年頃である。本件側溝での水遊びの類は,誘惑的存在であったろう。一緒にいた友人3名が同様の仕草で遊んでいたと推測されるのは,このことを裏付ける。 (2) 本項のまとめそうであれば,Aが,3(3)のような行動に出たからといって,同行動が通常予測しうる限度を明らかに逸脱した異常事態であり,設置・管理者である被控訴人にとって予測を超えた行動であったというほどでもない(最高裁第1小法廷昭和56年7月16日判決・判例タイムス452号93ページ,同第3小法廷平成5年3月30日判決・民集47巻4号3226ページ参照)。 6 本件道路の設置又は管理の瑕疵の有無についての結論そして,他に3(4)アの推定を動揺させるに足りる証拠はない。 (1) したがって,本件グレーチング蓋がボルト等で本件集水ますに固定されていなかったことは,被控訴人の営造物である本件側溝,本件集水ます及び本件グレーチング蓋を含む本件道路が,通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり,国賠法2条1項にいう公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったものということができる。 (2) 被控訴人は,全国のグレーチング蓋をボルト等で固定するとすれば,莫大な予算を必要とする(被控訴人の であり,国賠法2条1項にいう公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったものということができる。 (2) 被控訴人は,全国のグレーチング蓋をボルト等で固定するとすれば,莫大な予算を必要とする(被控訴人の平成14年8月29日付け準備書面)ことを考慮すべきであると主張するかのようであるが,本件事実関係のもとで,同主張は採用できない(最高裁第1小法廷昭和45年8月20日判決・民集24巻9号1268ページ,前掲第2小法廷昭和46年4月23日判決参照)。ちなみに,前記認定のとおり,被控訴人は,本件事故後,本件グレーチング蓋を本件集水ますに固定する措置をとったが,その費用は約13万2000円であった。 7 過失相殺の法理以上の認定・判断によれば,更に,次のとおり解される。 (1) 本件事故は,記録的な豪雨の際に起きたものである。いかに好奇心旺盛とはいえ,中学3年生のAは,一緒にいた友人3名とともに,本件グレーチング蓋がその水圧によって3分の2くらい下流側(南方)に外れて浮き上がっている異常事態に遭遇し,本件グレーチング蓋を足で押したりすれば,突発的に本件集水ますの開口部に吸い込まれる危険があることを認識することもできたし,認識すべきであった。にもかかわらず,この危険性を十分認識しないまま,Aは上記行動に出たものと推認される。本件事故発生については,Aにも大きな責任(過失)があったといわなければならない。 (2) あまつさえ,記録的な豪雨といういわば自然災害的な事実も競合して発現した本件道路の瑕疵の内容,本件事故当時,関係法令上,グレーチング蓋をボルト等で固定することを指示する規定はなかったこと,その他前記認定の諸般の事情を総合考慮すれば,Aの損害額を最終的に算定するに当たっては,過失相殺の法理に従って裁量減額するのが相当である。 (3) そして,裁 定することを指示する規定はなかったこと,その他前記認定の諸般の事情を総合考慮すれば,Aの損害額を最終的に算定するに当たっては,過失相殺の法理に従って裁量減額するのが相当である。 (3) そして,裁量減額するに当たっての責任の負担割合は,被控訴人25%,A75%とするのが相当である。 第4 争点(2)(損害額)についての判断 1 裁量減額前のAの損害額(1) 慰謝料 2000万円本件事故によるAの死亡による慰謝料は,控訴人主張の2000万円が相当である。 (2) 逸失利益 2440万円Aは,本件事故当時中学3年生(14歳)であったから,18歳になる4年後から67歳になる53年後まで49年間,稼働して収入を得ることができたであろうと推定される。そこで,A死亡による逸失利益を,控訴人主張(訴状参照)のとおり,18歳男子の平均月収18万5800円を基礎に,生活費控除を5割とし,中間利息を新ホフマン式により控除して算定する(なお,控訴人主張と同じく10万円未満を切り捨てる。)と,2440万円となる。 185,800×12×(25.5353-3.5643)×0.5=24,493,270(3) 葬儀費用 100万円標記費用は,控訴人主張の100万円が相当である。 (4) (1)ないし(3)の小計は4540万円となる。 2 被控訴人が負担すべき裁量減額後の損害額(弁護士費用を除く)1(4)の4540万円に,第3の7(3)で説示した25%を乗じた1135万円が,標記損害額である。 3 控訴人本人尋問の結果及び控訴人の主張によれば,控訴人は,Aの損害について夫のCと協議し,その請求権を単独で承継したことが認められる。 4 弁護士費用本件訴訟を概観すれば,標記費用は110万円が相当である。 5 まとめ2と4を合計す 訴人は,Aの損害について夫のCと協議し,その請求権を単独で承継したことが認められる。 4 弁護士費用本件訴訟を概観すれば,標記費用は110万円が相当である。 5 まとめ2と4を合計すれば1245万円となる。 第5 結論 1 したがって,控訴人は,被控訴人に対し,国賠法2条1項に基づき,損害賠償として1245万円及びこれに対する本件事故日である平成11年7月23日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるから,この限度で控訴人の本件請求は理由があり,その余は理由がない。これと一部異なる原判決は一部不当であり,本件控訴は一部理由がある。 2 よって,(1) 1の趣旨に従って,原判決主文第1項を,本判決主文第1項(1)(2)のとおり変更し,(2) 訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条,64条を,(3) 仮執行の宣言及びその免脱宣言につき同法259条1項,3項,310条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官簑田孝行裁判官駒谷孝雄裁判官藤本久俊

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