平成23年10月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官山下京子 平成22年(ワ)第23188号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年7月20日判決 イギリス国ロンドン <以下略> 原告スミスズグループピーエルシー 同訴訟代理人弁護士片山英二 同北原潤一 同堀口真 同訴訟代理人弁理士小林純子 同補佐人弁理士今里崇之 東京都世田谷区<以下略> 被告コヴィディエンジャパン株式会社 同訴訟代理人弁護士高橋元弘 同渡邊肇 同末吉亙 同補佐人弁理士安島清 同大谷元 同小銭幸恵 主文 1 被告は,別紙物件目録記載の気管チューブを輸入,販売してはならない。 2 被告は,前項記載の気管チューブを廃棄せよ。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 2 被告は,前項記載の気管チューブを廃棄せよ。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の気管チューブを輸入,製造,販売してはならない。 2 主文2項同旨第2 事案の概要本件は,発明の名称を「外科医療用チューブ」とする特許権を有する原告が,被告の輸入,製造,販売に係る別紙物件目録記載の気管チューブが当該特許権を侵害している旨主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく差止請求として当該気管チューブの輸入,製造,販売の禁止を求めるとともに,同条2項に基づく廃棄請求として当該気管チューブの廃棄を求めた事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告は,英国法に基づき設立され,医療機器・器具等の開発,製造,販売を行うスミスメディカルを含む5つの事業部門により構成される会社である(弁論の全趣旨)。 イ被告は,コヴィディエングループの日本法人であり,医療機器,医療用具,医薬品の輸入,製造,販売等を業とする会社である。 (2) 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する(本件特許権に係る特許公報〔甲2〕を末尾に添付する。)。 特許番号特許第3241770号発明の名称外科医療用チューブ出願日平成3年12月2日出願番号特願平3-317917優先権主張平成2年12月5日 称外科医療用チューブ出願日平成3年12月2日出願番号特願平3-317917優先権主張平成2年12月5日イギリス国出願に基づく 登録日平成13年10月19日イ本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の【特許請求の範囲】の【請求項1】の記載は次のとおりである(以下,当該発明を「本件発明」といい,本件発明に係る特許を「本件特許」という。)。 「【請求項1】チューブを挿入する体腔の壁でチューブの外側をシールするように形成した膨脹しうる部分でチューブを包囲し,かつ両端の各カラー部分によりチューブに取付けるカフ,カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する外科医療用チューブで,カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した外科医療用チューブにおいて,吸引管腔(14)をチューブ(1)に沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,カフ(12)を気管(2)に対しシールするように形成し,吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とする外科医療用チューブ。」ウ本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。 A チューブを挿入する体腔の壁でチューブの外側をシールするように る外科医療用チューブ。」ウ本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。 A チューブを挿入する体腔の壁でチューブの外側をシールするように形成した膨脹しうる部分でチューブを包囲し,かつ両端の各カラー部分によりチューブに取付けるカフ,B カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔,およびC 管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引 孔を有するD 外科医療用チューブで,E カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成したF 外科医療用チューブにおいて,G 吸引管腔(14)をチューブ(1)に沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,H カフ(12)を気管(2)に対しシールするように形成し,吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とするI 外科医療用チューブ。 エ本件明細書の【発明の詳細な説明】によると,本件発明の【背景技術】及び【発明の開示】として,「【0002】【背景技術】上述するカフを有するチューブは,気管においてカフ上に,またはチューブを配置する他の体チャンネル(bodychannel) 上に生ずる分泌物がチャンネルに沿う流れから妨げられ,これによって分泌物がカフ上に集まり,細菌の蓄積および感染する部位を形成するという欠点がある。」,「【0003】吸引孔をカフ上に設けることに ) 上に生ずる分泌物がチャンネルに沿う流れから妨げられ,これによって分泌物がカフ上に集まり,細菌の蓄積および感染する部位を形成するという欠点がある。」,「【0003】吸引孔をカフ上に設けることによって分泌物を除去する多くの手段が提案されている。…これらのチューブにおいては,カフのすぐ上に集められた分泌物を除去することができない問題点がある。この事は,カフをチューブの壁に,チューブに付着し,かつカフの上下に延びるカフの両端における短いカラーによって普通のように取付けているためである。カフ上のカラーの長さは短く規定され,これによって吸引孔をカフから離間することがで きる。なぜならば,カラーを貫通する吸引孔が形成されるために,カフのチューブへの接合が弱められ,かつカフから漏れを生ずるためである。…」,「【0004】【発明の開示】本発明の目的は,上述する欠点なく使用できる外科医療用チューブを提供することである。本発明の一つの観点によれば,吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,カフを気管に対しシールするように形成し,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去するようにしたことを特徴とする。」,「【0005】吸引管腔はチューブの壁厚内をチューブに沿って延在させる。近位カラー部分の外面をチューブに付着させる。遠位カラー部分の内面をチューブに付着することができる。カフは気管に対しシールするように形成し,吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められた分泌物をカフの直上部より吸引孔を通じて除去するようにする。」などと記載されている(甲2)。 (3) 被告の行為ア被告は,別紙物件目録記載の気管チューブ(以下「被告製品」という。 )を輸入,販売している。 孔を通じて除去するようにする。」などと記載されている(甲2)。 (3) 被告の行為ア被告は,別紙物件目録記載の気管チューブ(以下「被告製品」という。 )を輸入,販売している。 イ被告製品は,構成要件A,D,F,G及びIを充足する。 (ア) 被告製品は,カフを有しているところ,このカフは,膨張しうる部分を有し,当該部分は,膨張することでチューブを挿入する気管の壁に密着し,チューブの外側をシールするように形成され,また,両端に上部カラー部分と下部カラー部分を有し,これらのカラー部分によってチューブと接合しているから,構成要件Aを充足する。 (イ) 被告製品は,気管チューブであり,外科医療の領域で用いられるものであって,外科医療用チューブであるから,構成要件D,F及びIを充足する。 (ウ) 被告製品は,吸引管腔を有するところ,この吸引管腔は,チューブ に沿ってチューブの壁厚内に延在しているから,構成要件Gを充足する。 ウ被告製品は,管理医療器具である(甲5)。 2 争点以下,文献について証拠番号を付して「乙1文献」などといい,文献に記載された発明について,証拠番号を付して「乙1発明」などという。 (1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。 ア構成要件B及びEの充足性イ構成要件Cの充足性ウ構成要件Hの充足性(2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか。 ア記載要件違反の有無イ乙1文献に基づく無効理由(進歩性)の有無ウ乙2文献に基づく無効理由(新規性・進歩性)の有無(3) 被告が被告製品を製造しているか。 3 争点に関する当事者の主張(1) 被告製品が 基づく無効理由(進歩性)の有無ウ乙2文献に基づく無効理由(新規性・進歩性)の有無(3) 被告が被告製品を製造しているか。 3 争点に関する当事者の主張(1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点(1))。 ア構成要件B及びEの充足性(争点(1)ア)(原告の主張)(ア) 構成要件Bの充足性被告製品は,カフ上部吸引ラインの一部として,吸引管腔を有するところ,この吸引管腔は,カフの上端部分(近位端)の区域にチューブに沿って延在しているから,構成要件B(「カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および」)を充足する。 (イ) 構成要件Eの充足性被告製品のカフにおける上部カラー部分は,構成要件Eの「近位カラー部分」に相当するところ,上部カラー部分は,当該カフの上端部分(近 位端)を裏側に反転させて(折り重ねて)形成されている。また,カフの膨脹しうる部分の1部分たる上部領域と上部カラー部分とは,互いに重なり合う位置関係にある。さらに,上部カラー部分は,カフの膨脹しうる部分の上端部分を越えて外側に延在していないから,被告製品は,構成要件E(「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した」)を充足する。 (被告の主張)原告の主張はいずれも否認する。 イ構成要件Cの充足性(争点(1)イ)(原告の主張)(ア) 構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」の意義本件発明は,従来技術では,カラー部分がカフの膨張 構成要件Cの充足性(争点(1)イ)(原告の主張)(ア) 構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」の意義本件発明は,従来技術では,カラー部分がカフの膨張しうる部分よりも外側(患者の口に近い方向)に延在しており,カラー部分とカフの膨張しうる部分とは互いに重なる位置関係になかった。このため,吸引孔とカフの近位端(カフの上端部分)との間に近位カラー部分が介在して吸引孔とカフの近位端の距離が比較的長くなり,カフのすぐ上に蓄積する分泌物が効果的に除去できないという問題点があったことを前提とし,かかる問題点(課題)を解決することを目的とする。そして,かかる課題解決のため,本件発明は,カフの近位端を裏側に折り重ねて(カフの上端部分を裏側に反転させて)近位カラー部分(24)を形成し,カフの膨張しうる部分(25)の少なくとも1部分(当該膨張しうる部分の上部領域)が近位カラー部分(24)に重なるようにし,近位カラー部分(24)がカフの膨張しうる部分(25)の上端部分を越えて外側に(患者の口に近い方向に)延在しないように構成したものである。 かかる構成により,カフの近位端(近位カラー部分が形成された状態におけるカフの上端部分)と吸引孔(19)と間に近位カラー部分が介在することがなくなり,カフの近位端と吸引孔の距離を,従来のカラー付きカフを有する気管チューブの構成では実現できなかった程度に短くすることが可能となった。このようにして,カフのすぐ上に蓄積する分泌物が効果的に除去できないという従来技術の課題の解決が図られることになったのである。そして,本件発明の実施例を示す本件明細書の図2において,カフの近位端(12又は25の上端)と吸引孔(19)との位置関係をみると,両者間に近位カラー部分(24)は介在しな れることになったのである。そして,本件発明の実施例を示す本件明細書の図2において,カフの近位端(12又は25の上端)と吸引孔(19)との位置関係をみると,両者間に近位カラー部分(24)は介在しないこと,そして,両者間の距離は決してゼロではないこと,つまり,両者間に何らのすき間(空隙)がないとはいえないことがわかる。要するに,本件発明におけるカフの近位端と吸引孔との位置関係については,両者間に近位カラー部分が介在しないことが本質的に重要であって,両者間の距離がゼロであること,両者間に何らのすき間(空隙)がないことは,本件発明に必須の構成ではないことが理解できるのである。 以上に述べた本件発明の目的(解決すべき課題),課題解決手段,作用効果や実施例によれば,構成要件Cは,カフの近位端と吸引孔の相互の位置関係を定めた要件であって,両者間に近位カラー部分が介在せず,両者間の距離を従来技術では実現できなかった程度に短くできることを定めた点にその技術的意義が存するものである。そうとすれば,構成要件Cにいう「直接隣接する」とは,「(カフの近位端と吸引孔が)両者間に近位カラー部分が介在しない状態で隣り合っていること」を意味すると解するのが合理的であり,かかる解釈が当業者の理解に合致するものといえる。 (イ) 被告製品の充足性被告製品は,カフ上部吸引ラインの一部として,カフの上端部分(近 位端)に隣接して吸引管腔からチューブの外部に開口する吸引孔を有するところ,この吸引孔とカフの上端部分(近位端)との間に上部カラー部分は存在しない。そのため,当該吸引孔は,「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔」といえるから,被告製品は,構成要件C(「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブ ー部分は存在しない。そのため,当該吸引孔は,「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔」といえるから,被告製品は,構成要件C(「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」)を充足する。 (ウ) 被告の主張についてa 被告が「空隙(すき間)が存在しないこと」を要求する根拠として挙げる点,すなわち,「吸引孔とカフの近位端との間に空隙が存在する場合には,かかる吸引孔によりカフの最も近い上部においてカフ上の気管に集められる分泌物のすべて,またはそのほとんどをも除去することはできない。」,「吸引孔の下端とカフの近位端との間にすき間が存在する場合には,少なくともそのすき間に残留する分泌物を吸引除去することはできない。」との点は,技術的にも誤っている。 すなわち,従来技術のように,吸引孔の下端とカフの近位端との間に空隙(すき間)があり,この空隙(すき間)が近位カラー部分によって占められている場合,近位カラー部分に吸引孔を開口することができないため,吸引孔の下端からカフのカラー接着部上端(カフと近位カラー部分との境目)までの距離を,近位カラー部分の幅より短くすることはできない。そして,近位カラー部分の幅は,10mm前後であるのが通例であるから,これに応じて,吸引孔下端からカフのカラー接着部上端までの距離も10mm前後に達する(甲7の写真を参照)。これに対し,本件発明においては,たとえ吸引孔の下端とカフの近位端との間に空隙(すき間)が存在するとしても,この空隙(すき間)が従来技術のように近位カラー部分によって占められることがないから,吸引孔の下端からカフのカラー接着部上端までの距離を, 従来技術よりも顕著に短く(例えば4mm前後以下に)することが き間)が従来技術のように近位カラー部分によって占められることがないから,吸引孔の下端からカフのカラー接着部上端までの距離を, 従来技術よりも顕著に短く(例えば4mm前後以下に)することが可能となる。 したがって,被告の主張は,技術的に誤っており,かかる誤った前提に基づく被告の構成要件Cの解釈,すなわち,「直接隣接する」を「直に接する」と読み替え,さらに,「直に接する」の意味を「カフの近位端と吸引孔との間に空隙(すき間)がない」と同義とする解釈もまた,誤りである。 b 仮に,クレーム文言の解釈において辞書的な意味を重視し,構成要件Cの「直接隣接する」を,被告のように「直に接する」と読み替えたとしても,そのことから必然的に,「カフの近位端と吸引孔の下端との距離がゼロであること,つまり,両者間にすき空隙(すき間)が存在しないこと」という解釈が導かれるわけではない。すなわち,「直に接する」にいう「じか」(直)という文言は,「間にへだたりがないこと」を意味し,「接する」という文言は,「互いに隔てなくつながること」を意味するから(広辞苑第6版),「カフの近位端に直に接する…吸引孔」の辞書的な意味は,「カフの近位端に中間に隔てるものがなく,隣り合って形成された吸引孔」といった程度のものである。そして,ここで「中間に隔てるもの」として想定されているものが近位カラー部分であることは,本件明細書における従来技術とその問題点(課題)の説明から明らかである。そうであれば,「直接隣接する」を「直に接する」と読み替えたとしても,「直に接する」とは,「カフの近位端と吸引孔とが,両者間に近位カラー部分が介在しない状態で隣り合っている」といった程度の意味であって,「カフの近位端と吸引孔の下端との間に空隙(すき間)が存在しない 「直に接する」とは,「カフの近位端と吸引孔とが,両者間に近位カラー部分が介在しない状態で隣り合っている」といった程度の意味であって,「カフの近位端と吸引孔の下端との間に空隙(すき間)が存在しないこと」という被告の解釈が必然的に導かれるものではないのである。 c 被告は,吸引孔とカフの近位端との間に近位カラー部分が介在しな いことは,構成要件Cではなく,構成要件Eにおいて記載されていると主張する。しかし,構成要件Eは,近位カラー部分の構造を特徴の一つとする本件発明に特有のカフの構造を規定するものであり,本件発明のもう一つの特徴であるカフの近位端と吸引孔との位置関係を規定する構成要件Cとは,構成要件としての機能が異なる。 d 構成要件Cは,カフの近位端と吸引孔とが,被告のいう意味において「直に接していること」すなわち「両者間に空隙(すき間)が存在しないこと」を意味するものではないから,乙14号証を根拠に,被告製品が構成要件Cを充足していないとすることはできない。かえって,乙14号証によれば,被告製品においては,カフの近位端と吸引孔との間に近位カラー部分が介在せず,両者間の距離は,「吸引孔の下端からカフのカラー接続部上端までの距離」の測定平均値ですら3.6mm~4.2mmであり,被告の従来製品(吸引孔とカフの近位端との間に近位カラー部分が介在する)における当該距離が10mm程度である(甲7の写真を参照)のと比べて,顕著に短くなっていることが明らかである。よって,被告製品が構成要件Cを充足することは,乙14号証によっても裏付けられている。 e 本件発明や被告製品のような気管チューブにおけるカフの上部に蓄積する分泌物の吸引は,乙15号証の実験のように,気管チューブを垂直に立てた状態で行われるのでは っても裏付けられている。 e 本件発明や被告製品のような気管チューブにおけるカフの上部に蓄積する分泌物の吸引は,乙15号証の実験のように,気管チューブを垂直に立てた状態で行われるのではなく,患者が横たわった状態,つまり,気管チューブを水平に近い角度に寝かせた状態で行われる。また,分泌物は相当程度の粘性を有するものであり,全く粘性を有しない着色した蒸留水とは全く異なる。着色した蒸留水を「分泌物に模した…液体」などと評価できないことは当然である。よって,乙15号証の実験は,被告製品の「通常の使用態様に従って」行われた「分泌物に模した液体」の吸引実験とは到底いえないものであり,その結果 をもって,被告製品の現実の使用態様における分泌物除去の可能性や程度を論じることはできない。 (被告の主張)(ア) 原告の主張はいずれも否認する。 (イ) 構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」の意義についてa 「隣接」とは「となりあってつづくこと」をいい,また,「直接」とは「中間に隔てるものがなく,じかに接すること」をいう(広辞苑第6版)から,構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」とは,カフの近位端に中間に隔てるものがなく直に接して,隣り合って形成された吸引孔を意味する。 b 本件発明は構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」などを備えることにより,「カフ(12)を気管(2)に対しシールするように形成し,吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴」(構成要件H)とした発明である。ここに,「直近」とは「すぐ近く。すぐそば。最も近いこと。 管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴」(構成要件H)とした発明である。ここに,「直近」とは「すぐ近く。すぐそば。最も近いこと。」を意味する(広辞苑第6版)。すなわち,構成要件Hのうち「吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去する」は,カフの最も近い上部において,吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物を除去することを意味する。しかしながら,吸引孔とカフの近位端との間に空隙が存在する場合には,かかる吸引孔によりカフの最も近い上部においてカフ上の気管に集められる分泌物のすべて,またはそのほとんどをも除去することはできない。このことからも,構成要件Cの「カフの近位端に直 接隣接する…吸引孔」とは,カフの近位端との間に隔てるものがなく直に接して,隣り合って形成された吸引孔を意味すると解釈せざるを得ない。 c 本件発明は,本件明細書【0010】において,「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」を設けることにより,「極めて少量の分泌物でも」吸引孔を介して吸引除去することを可能にするとされている。 これに対し,吸引孔とカフの近位端との間にすき間が存在する場合には,少なくともそのすき間に残留する分泌物を吸引除去することはできない。したがって,構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」とは,本件明細書の図4に示されているように,カフの近位端に中間に隔てるものがなく直に接して,隣り合って形成された吸引孔を意味することは明らかである。 d 更にいえば,吸引孔とカフの近位端との間に近位カラー部分が介在しないことは,構成要件Cではなく,構成要件Eにおいて記 接して,隣り合って形成された吸引孔を意味することは明らかである。 d 更にいえば,吸引孔とカフの近位端との間に近位カラー部分が介在しないことは,構成要件Cではなく,構成要件Eにおいて記載されている。仮に構成要件Cの解釈が,原告が主張するように「カフの近位端と吸引孔が両者間に近位カラー部分が介在しない状態で隣り合っていること」と解釈されるのであれば,構成要件Eは,既に構成要件Cにおいて記載された事項が,重ねて記載されていることになるのであって,当該記載は全く不必要であることになる。かかる観点からも,構成要件Cを原告の主張のように解釈することはできないのである。 (ウ) 被告製品の充足性についてa 被告製品(内径サイズ〔直径〕6.0mm,6.5mm,7.0mm,7.5mm,8.0mm,8.5mm,9.0mm)について,①吸引孔下端からカフのカラー接着部上端までの距離と,②気管を模した透明アクリル管に挿入した状態における吸引孔の下端から膨張時カフの上端までの距離を,それぞれ10サンプル抽出して測定したところ, ①の各内径サイズに対する測定平均値は,3.6mm~4.2mm,②の各内径サイズに対する測定平均値は,2.7mm~3.9mmであった(乙14)。したがって,被告製品は,カフの近位端と吸引孔の下端との間に隔てるものがなく直に接して,隣り合って形成された製品ではないことは明らかである。 b また,被告製品について,気管を模した透明アクリル管に挿入し,通常の使用方法に従ってカフを膨らませてアクリル管の内壁でチューブの外側をシールし,カフ上に分泌物に模した青色の液体を貯留させ,吸引管腔を通じて吸引孔より青色の液体を吸引したところ,吸引後であっても,分泌物に模した青色の液体が,吸引孔を介し ル管の内壁でチューブの外側をシールし,カフ上に分泌物に模した青色の液体を貯留させ,吸引管腔を通じて吸引孔より青色の液体を吸引したところ,吸引後であっても,分泌物に模した青色の液体が,吸引孔を介して吸引除去されず,気管を模した透明アクリル管に残存している(乙15)。 c これら実験結果より,被告製品では,「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」なる構成要件を充足しないことが裏付けられる。 ウ構成要件Hの充足性(争点(1)ウ)(原告の主張)(ア) 構成要件Hの「カフの直近上部で除去する」の意義「直近」の辞書的意味には,「すぐ近く。すぐそば。」というものもあり,「最も近い」と解釈すべき必然性はない。また,そもそも「最も近い」というのも相対的な表現であり,必ずしも絶対的距離が小さいことを意味するものではない。 いずれにせよ,カフの近位端から4~5mm程度の範囲が,カフの近位端の「すぐ近く。すぐそば。」といえることは明らかであるし,「最も近く」ということもできる。そのような距離の範囲内において分泌物を除去できるのであれば,構成要件Hにいう「直近上部で除去する」を充足すると認めるに十分である。 (イ) 被告製品の充足性 被告製品におけるカフは,「気管に対しシールするよう」形成されている。また,被告製品においては,吸引管腔に導通している吸引孔を介し,吸引管腔を用いて,気管内の分泌物をカフの直近上部で除去するようにしているところ,この分泌物は,「カフ上の気管に集められる分泌物」といえるから,被告製品は,構成要件H(「カフ(12)を気管(2)に対しシールするように形成し,吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の 集められる分泌物」といえるから,被告製品は,構成要件H(「カフ(12)を気管(2)に対しシールするように形成し,吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とする」)を充足する。 被告製品における吸引孔の下端とカフの近位端との距離についてみると,カフを押し上げた状態において1~2mm程度(甲6における「1.4mm~2.3mm」),また,カフを極端に押し下げた状態においてすら,3~4mm程度(乙14における「3.6mm~4.2mm」,甲8の写真3-3)であるから,被告製品において,分泌物の除去は,「カフの直近上部で」行われるものといえる。 (ウ) 被告の主張についてカフの近位端と吸引孔の下端との距離のうち客観性を有する距離といえるのは,カフを自然な状態で膨張させた状態(カフの外側に位置する気管の内壁による制約を受けることなく,カフをシワが寄らない程度に膨張させた状態をいい,以下,このようなカフの状態のことを,便宜上「自由膨張状態」という。)における距離,ないし,カフの近位カラー部分との境界部と吸引孔の下端との距離である。 甲6号証における被告従来品の測定値は,自由膨張状態の測定値でもなければ,カフの近位カラー部分との境界部と吸引孔の下端との距離の測定値でもなく,共通の測定条件下での被告製品と被告従来品との比較を目的として,当該条件下での被告従来品の測定値を示したものにすぎ ない。実際,甲6号証の測定に供された被告従来品における自由膨張状態の測定値は,9.5mmであった(甲9)。このように,甲6号証は,自由膨張状態の距離が9.5mmの被告従来品について,所定の条 ない。実際,甲6号証の測定に供された被告従来品における自由膨張状態の測定値は,9.5mmであった(甲9)。このように,甲6号証は,自由膨張状態の距離が9.5mmの被告従来品について,所定の条件下において3.9mm,4.9mmとの測定値が得られたことを示すものにすぎず,被告従来品の現実の使用態様においては,使用条件次第で,カフの近位端と吸引孔の下端との距離は約9.5mmに達しうるのである。 (被告の主張)(ア) 原告の主張はいずれも否認する。 (イ) 構成要件Hの「カフの直近上部で除去する」の意義についてa 上記イ(被告の主張)(イ)bのとおり,構成要件Hのうち「吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去する」は,カフの最も近い上部において,吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物を除去することを意味する。 b 原告は,カフの近位端から4~5mm程度の範囲がカフの直近上部に当たるとする。しかし,原告は,甲6号証の原告の実験により「Hi-LoEvac」のような従来技術のカフの吸引孔とカフの近位端との距離は3.9mm又は4.9mmであるとしているのである。 したがって,原告の構成要件Hの解釈及び原告の実験によれば,従来技術においてもカフの直近上部において吸引除去することとなるから,原告がなぜカフの近位端から4~5mm程度の範囲がカフの直近上部に当たると解釈できるのか根拠が全く不明である。 原告が主張するようにカフの近位端から4~5mm程度の範囲がカフの直近上部に当たるとすれば,カフの近位端から4~5mmの範囲に残留している分泌物の一部でも除去しただけで構成要件Hを充足 原告が主張するようにカフの近位端から4~5mm程度の範囲がカフの直近上部に当たるとすれば,カフの近位端から4~5mmの範囲に残留している分泌物の一部でも除去しただけで構成要件Hを充足 することになる。換言すれば,原告の解釈を前提とすれば,カフの近位端から6mm以上離れた位置に残置された分泌物を除去はするが,4mm又は5mm離れた位置に残置された分泌物は除去できない製品もまた,構成要件Hを充足することになる。しかし,この程度しか分泌物を除去せず,かつ,カフ上の相当程度の残留物が除去されず残留した場合が,「カフ上に集められる気管の上部からのいかなる分泌物を,たとえカフ上に残留するとしても,極めて少量の分泌物でも孔19を介して吸引除去すること」(本件明細書【0010】)には当たらないことは明らかである。 c 原告は,当初,「カフの近位端」を「カフの外側に位置する気管の内壁による制約」を受けている状態における「患者の口に近い側の端部」とし,「Hi-LoEvac」の吸引孔とカフの近位端との距離は3.9mm又は4.9mmであることを示す甲6号証を提出するとともに,カフの近位端と吸引孔の距離が4~5mmの範囲は,カフの近位端と吸引孔とが直接隣接するとし,また,カフの直近上部で分泌物を除去することにも該当すると主張していたにもかかわらず,「Hi-LoEvac」が,本件発明の優先日以前から公然実施されていたことが判明するや,にわかに「カフの近位端」に関する解釈を変更して,主張の破綻を回避しようとしている。 (ウ) 被告製品の充足性について被告製品は,カフの近位端と吸引孔とが直接隣接していないため,カフの直近上部,すなわちカフの最も近い上部において分泌物を除去するものではない。 (2) 被告製品の充足性について被告製品は,カフの近位端と吸引孔とが直接隣接していないため,カフの直近上部,すなわちカフの最も近い上部において分泌物を除去するものではない。 (2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点(2))。 ア記載要件違反の有無(争点(2)ア) (被告の主張)(ア) 実施可能要件違反構成要件Cに規定する吸引孔の位置が,単にカフの近位端との間に近位カラー部分が介在しないということを意味するにすぎないのであれば,当業者からすると,カフからどの程度離れた位置に吸引孔を形成すれば本件発明が実施できるのかを理解することができない。また,同様の理由で,構成要件Hに規定する分泌物を除去する位置がカフに単に近ければよいと解釈するとすれば,当業者は,どの程度カフに近い位置で吸引すれば本件発明を実施できるのか理解できないのである。 (イ) サポート要件違反特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,を検討して判断すべきものである。 本件発明は,本件明細書【0003】のとおり,従来技術(米国特許4607635号明細書)ではカフのすぐ上に集められた分泌物を除去できないという問題があることに加え,吸引チューブをカフの近位カラー上に突出させることによって,カフ近くの分泌物を除去することのできる手段を有する従来技術(米国特許4840173号明細書)を採用した場合,製品が比 題があることに加え,吸引チューブをカフの近位カラー上に突出させることによって,カフ近くの分泌物を除去することのできる手段を有する従来技術(米国特許4840173号明細書)を採用した場合,製品が比較的複雑で,かつ高価になるという欠点を有しているとの課題を解決するために,本件発明の構成を採用したものである。 そして,本件明細書【0010】によれば,本件発明の構成を採用した結果,「カフ上に集められる気管の上部からのいかなる分泌物を,たとえカフ上に残留するとしても,極めて少量の分泌物でも孔19を介して吸引除去する」という効果を発揮するものである。 他方で,構成要件Cに規定する吸引孔の位置が,原告の主張するように,単にカフの近位端との間に近位カラー部分が介在しないということを意味するにすぎないのであれば,本件発明では,上記の課題を解決し,かつ,「カフ上に集められる気管の上部からのいかなる分泌物を,たとえカフ上に残留するとしても,極めて少量の分泌物でも孔19を介して吸引除去する」という効果を発揮することはできない。のみならず,構成要件Cが単にカフの近位端との間に近位カラー部分が介在しないことを意味するにすぎなければ,カフ上に集められた分泌物を除去できない構成も含むこととなり,発明の詳細な説明として明細書に開示された内容を超えて特許を請求することとなるのである。同様に,構成要件Hに規定する分泌物を除去する位置がカフに単に近ければよいと解釈するとすれば,当該構成要件は,本件発明の課題を解決し得ない構成をも含むこととなる。 (原告の主張)(ア) 被告の主張はいずれも争う。 (イ) 「直接隣接」,「直近上部」といった文言は,被告の主張するような「カフの近位端と吸引孔との距離がゼロであること」といった極 原告の主張)(ア) 被告の主張はいずれも争う。 (イ) 「直接隣接」,「直近上部」といった文言は,被告の主張するような「カフの近位端と吸引孔との距離がゼロであること」といった極端な限定解釈をしない限り,どのように解釈したとしても,当該文言の範囲内にあるものと範囲外にあるものとの限界を定量的に線引きすることは不可能である。しかし,定量的な線引き(区別)が不可能であるからといって,そのことによりクレームが実施可能要件やサポート要件に違反するというのは,著しい論理の飛躍である。他方,仮に被告の解釈のように,「直接隣接」,「直近上部」の意味を限定した場合,本件発明の権利範囲は極めて狭いものとなり(例えば,カフの近位端と吸引孔の距離をわずか1mm設けることで,侵害が回避されることになる。),特許としての有用性がほとんどないものとなってしまう。 イ乙1文献に基づく無効理由(進歩性)の有無(争点(2)イ)(被告の主張)(ア) 乙1発明A チューブ本体11を挿入する体腔の壁でチューブ本体11の外側をシールするように形成した膨脹しうる部分でチューブ本体11を包囲し,チューブ本体11に取付けるカフ5,B カフ5の基端側にチューブ本体11に沿って延在させた第3のサイドルーメン31,及びC カフ5の基端側にチューブ本体11の外部に開口する第2の吸引口30を有する(注記:乙1文献では「吸引孔」ではなく「吸引口」と記載されている。)D 気管内チューブ1において,G サイドルーメン31をチューブ本体11に沿いチューブ本体11の肉厚内に延在させたこと,H カフ5を気管3に対しシールするように形成し,第3のサイドルーメン31に連 て,G サイドルーメン31をチューブ本体11に沿いチューブ本体11の肉厚内に延在させたこと,H カフ5を気管3に対しシールするように形成し,第3のサイドルーメン31に連通している第2の吸引口30を介し第3のサイドルーメン31を用いて,カフ5前方に貯溜する粘液類をサクションするようにしたことを特徴とするI 気管内チューブ1。 (イ) 本件発明と乙1発明との対比乙1発明の「チューブ本体11」,「カフ5」,「第3のサイドルーメン31」,「第2の吸引口30」,「気管内チューブ1」は,それぞれ,本件発明の「チューブ」,「カフ」,「吸引管腔」,「吸引孔」,「外科医療用チューブ」に相当する。 したがって,本件発明と乙1発明とは,A チューブを挿入する体腔の壁でチューブの外側をシールするように 形成した膨脹しうる部分でチューブを包囲し,チューブに取付けるカフ,B カフの基端側にチューブに沿って延在させた吸引管腔,及びC 管腔からカフの基端側のチューブの外部に開口する吸引孔を有するF 外科医療用チューブにおいて,G 吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,H カフを気管に対しシールするように形成し,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物を除去するようにしたことを特徴とするI 外科医療用チューブ。 という点で一致し,以下の点で相違する。 〔相違点1〕本件発明は,「カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および」「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する の点で相違する。 〔相違点1〕本件発明は,「カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および」「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」のに対し,乙1発明は,吸引孔がカフの基端側のカフに近い区域のチューブの外部に開口しているものの,カフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口しているかどうか不明である点。 〔相違点2〕本件発明は,「両端の各カラー部分によりチューブに取付けるカフ」であり,また,「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成」しているのに対し,乙1発明では,吸引孔とカフの近位端との間にカラー部分が描かれていないものの,チューブへのカフの取り付け態様が不明な点。 〔相違点3〕本件発明は,「吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とする」のに対し,乙1発明は,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物を除去するようにしたことを特徴とするものの,分泌物をカフの直近上部で除去するようにしているかどうか不明な点。 (ウ) 相違点の検討a 相違点1乙1発明において,吸引口はチューブ本体の外周のいかなる場所に形成しても良いとされている。また,カフの先端側に位置する吸引口についてではあるが,乙1文献には,カフ5前に貯溜した粘液等を効率よく吸引するために おいて,吸引口はチューブ本体の外周のいかなる場所に形成しても良いとされている。また,カフの先端側に位置する吸引口についてではあるが,乙1文献には,カフ5前に貯溜した粘液等を効率よく吸引するために,吸引口20はカフ5に近いことが好ましいとされている。してみれば,乙1発明において,吸引口20がカフ5に近いことが好ましいとされているのと同様に,吸引口30をカフの近位端に直接隣接する部分に設けることもまた,当該発明を実施する者が自由に選択できる程度の事項であって,吸引口30を管腔からカフ5の近位端に直接隣接するチューブの外部に開口させることは設計的事項であるといえる。 乙1文献に記載された「一般気管内チューブはサクション口がないものであり,体内に留置していると,気管内チューブのカフ付近に粘液,唾液等が貯溜する。特に,カフから空気を抜く時,この貯溜した粘液,唾液,胃液等が気管内を下方に移動し,しばしば肺内に達することもある。その結果,患者は咳きこんだり,肺炎を併発したりすることがある。」という課題は,乙2文献,乙4~6文献にも記載され ているとおり周知である。さらに,カフの直近上部において分泌物を除去すべきことは,乙7~9文献に記載されており,この種の気管チューブに周知の課題であるといえる。そして,カフ上部の分泌物を除去するために,吸引孔をなるべくカフ上部に近づけること,ひいては,カフの近位端に直接隣接して吸引孔を設けることも,乙6~9文献に記載ないし示唆されているとおり,周知技術である。そうすると,当業者は,カフ5の直上部に貯留する分泌物をなるべく多く除去するために,乙1文献に記載の「第2の吸引口30」を,「カフ5」の近位端に直接隣接するように設けること,すなわち相違点1に係る本件発明の構成を採用することは容易 部に貯留する分泌物をなるべく多く除去するために,乙1文献に記載の「第2の吸引口30」を,「カフ5」の近位端に直接隣接するように設けること,すなわち相違点1に係る本件発明の構成を採用することは容易に想到することができたものである。 b 相違点2及び3以下のとおり,当業者であれば,乙1発明において,乙2又は乙3文献のカフを適用して,相違点2及び3に係る本件発明の構成を採用することが容易に想到することができたものである。 乙2文献の図3には,両端の各カラー部分により気管内挿入チューブに取り付けられたカフ30及びカフ30は近位端を裏側に折り重ねられ,カフ30の膨張しうる部分が近位カラー部分に重ねられ,近位カラー部分をカフ30の膨張しうる部分を超えて延ばさないように構成されていることが示されている。そして,カフの直近上部で分泌物を除去することはこの種の気管内チューブに周知の課題であり,そのためにカフの近位端と吸引孔とを近接させることは当業者が当然に想到することである。また,乙1発明と乙2発明のチューブは,いずれも外科医療用チューブという技術分野を同一にする発明であり,カフ上の気管に集められる分泌物を除去するという課題も同一である。さらに,両発明は,カフ上部に形成された吸引孔を介し,チューブ壁厚内の吸引管腔を用いて残留物を除去するという課題解決方 法も共通していることに加え,乙2文献が乙1発明の従来技術として引用されていること等も併せ考えれば,「カフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去する」の構成を得るために,乙2文献のカフ30を本件発明の構成を採用するとすることは何ら困難ではなく,当業者であれば容易に想到し得た程度の事項である。 乙3文献には,膨張したカフ31の る」の構成を得るために,乙2文献のカフ30を本件発明の構成を採用するとすることは何ら困難ではなく,当業者であれば容易に想到し得た程度の事項である。 乙3文献には,膨張したカフ31の遠位端をチューブ13の開口端44にできるだけ近接させるべく,カフ31の遠位端側を裏側に折り返し,その折り返した部分を利用して,カフ31をチューブ13に取付ける技術が開示されている。そして,カフの直近上部で分泌物を除去することはこの種の気管内チューブに周知の課題であり,そのためにカフの近位端と吸引孔とを近接させることは当業者が当然に考えることである。乙1発明と乙3文献に記載されたチューブはいずれも外科医療用チューブという技術分野を同一にする発明であることに加え,乙3文献には,膨張したカフ31の遠位端をチューブ13の開口端44にできるだけ近接させるべく,カフ31の遠位端側を裏側に折り返し,その折り返した部分を利用して,カフ31をチューブ13に取付けることが開示されている。したがって,乙1発明を見た当業者が「カフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去する」構成を得るために,乙1発明に,乙3文献のカフ端部と開口端とを近接させるためのカフ31の取付け態様を適用し,相違点2に係る本件発明の構成とすることは何ら困難ではなく,当業者であれば容易に想到し得た程度の事項である。 さらに,相違点2に係る本件発明の構成は,多数の公知例(乙10~13文献)が存在しており,かかるカフの構成を乙1発明に適用することは何ら困難ではない。 (原告の主張) (ア) 被告の主張はいずれも争う。 (イ) 従来のカフの形状本件特許の出願日前の従来技術に係る外科医療用チューブにおいては,乙4~9文献に開示 の主張) (ア) 被告の主張はいずれも争う。 (イ) 従来のカフの形状本件特許の出願日前の従来技術に係る外科医療用チューブにおいては,乙4~9文献に開示される形状のカフ,すなわち,「近位端および遠位端の両部分において,カフのカラー部分を折り曲げずに,外側に伸ばしたままの状態で本体チューブに取り付けられたカフ」が一般的であった。 (ウ) 乙1発明と乙2文献等の記載を組み合わせる動機がないことa 乙1発明には吸引口以外の構成要素を改良する思想がないこと本件発明は,①「吸引孔付き」の気管内チューブにおいて,②「近位端を裏側に折り重ね」,さらに,③「カフの膨張しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨張しうる部分(25)を越えて延ばさない」という3つの構成要件を同時に組み合わせるという新規な構成により,初めて,吸引孔とカフとの間に介在し,吸引孔をよりカフに近づけることを妨げていたカラーの存在という制約を打ち破るものである。このように,本件発明は,粘液等を効果的に除去するという課題を解決するために,吸引孔の位置がカフの近位端に近いことが好ましいと抽象的に希望するのではなく,特に,吸引孔とは別の構成要件であるカフの形状まで検討し,工夫した点が,本件発明の技術的思想の創作の要点である。 これに対し,乙1発明では,上記課題解決の手段として考慮されていることは,一般的なカフの形状及びそれに起因する制約を温存したまま,吸引口の位置をカフに近づけるという抽象的な概念にとどまるものであり,吸引口以外の発明構成要素,例えば,カフ等の形状を工夫するという次元の技術的思想には何ら至っていないことが明らかであ したまま,吸引口の位置をカフに近づけるという抽象的な概念にとどまるものであり,吸引口以外の発明構成要素,例えば,カフ等の形状を工夫するという次元の技術的思想には何ら至っていないことが明らかである。乙1発明において,課題を解決するために,吸引口以外の発 明構成要素の形状を工夫するという技術的思想が存在しない以上,当業者は,乙1発明と乙2文献等の記載とを組み合わせるよう動機付けられることはあり得ない。 b 当業者は乙2文献のカフを採用しないこと被告の主張に係る「乙1発明において,『カフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去する』の構成を得るため」という発想自体が,既に,乙1発明と乙6~9文献に基づく「カフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去する」の構成とを組み合わせた技術的事項であって,本件特許の優先日前に存在しなかったものであるから,特許法29条2項が引用する同条1項各号に記載の発明とすることはできない。 また,上記aのとおり,乙1発明において,課題を解決するために,吸引口以外の発明構成要素の形状を工夫するという技術的思想が存在しない以上,当業者は,乙1発明に他の文献のカフを適用するよう動機付けられることはあり得ない。 さらに,他の構成要素を工夫することを想到し得たとしても,次のとおり,乙1発明と乙2文献とを組み合わせるよう動機付けられることはない。①乙2文献のカフは,特殊な形状であり,その製造方法及び本体チューブへの取り付け方法も不明であって,複雑な製造過程を強いられる不利益を予想し得るから,乙1発明の外科医療用チューブに,乙2文献のカフを組み合わせるよう動機付けられるとする被告の主張は後知恵に基づくものである。②乙2発明の気管内チューブは 製造過程を強いられる不利益を予想し得るから,乙1発明の外科医療用チューブに,乙2文献のカフを組み合わせるよう動機付けられるとする被告の主張は後知恵に基づくものである。②乙2発明の気管内チューブは,粘液の吸引だけを目的として設計されるものではなく,常に,局所薬剤を噴霧することを前提に設計されている。局所薬剤の噴霧効率を高める場合,噴霧された局所薬剤は,開口部の近くに噴霧の障害となりうる構造(例えば,カフ等)が存在しないことが好ましい。当業者は, 開口部をカフの近くに設置せず,開口部とカフとの間に,噴霧された局所薬剤を効率的に分配するために十分な空間を設けることが予測され,乙2文献の図1~3の気管内チューブにおいても,開口部48は,カフ30の上端から十分に離れた位置に設けられており,乙2文献には,開口部をカフの上端に近づけるという技術的思想が認められない。また,乙2文献には,粘液の吸引効率とカフの形状との関係について,記載も示唆も認められないし,「霧化手段」又は「霧化ノズル」を開口部に設けた場合,当該開口部を介した粘液の吸引効率は著しく低下することは明らかである。このように,乙2文献の記載からは,乙2文献のカフ30の形状が,カフの直近上部で除去するために有効な形状であるという技術的思想が想起され得ない。③乙1文献には,乙2発明はカフ前方に貯溜する粘液等をサクションできない等の問題があるとして引用されており,カフ上の気管に集められる分泌物を除去するという課題を解決することを目的とする当業者が,乙1文献の記載に触れた場合,わざわざ問題があると指摘される乙2発明を参照するよう動機付けられるとは考えられない。また,乙1発明の発明者が乙2発明の存在を知りながら,吸引口をカフにより近づけるため,乙2文献のカフの形状を採用しなかったと があると指摘される乙2発明を参照するよう動機付けられるとは考えられない。また,乙1発明の発明者が乙2発明の存在を知りながら,吸引口をカフにより近づけるため,乙2文献のカフの形状を採用しなかったという事実は,吸引口はカフに近いことが好ましいという要請と,乙2文献のカフの形状との間に何の関連性も見出し得なかったことの証左である。 c 本件発明の構成に到達できないこと乙2文献の図3からも明らかなように,カフ30は,ドーナツ型のチューブで構成された無端状のカフであり,「両端」,「カラー部分」,「近位端」及び「近位カラー部分」のいずれも有していないから,たとえ乙1発明と乙2文献を組み合わせることができたとしても,本件発明の構成は得られない。 (エ) 乙1発明と乙3文献との組み合わせについて本件特許の出願時において,当業者には,乙1発明と乙3文献を組み合わせる動機が存在しなかったことが明らかである。 a 乙1発明には吸引口以外の構成要素を改良する思想がないこと上記(ウ)aのとおり,乙1発明では,課題解決の手段として,吸引口の位置をカフに近づけることまでしか考えが及んでおらず,吸引口以外の発明構成要素,例えば,カフ等の形状を工夫するという次元の技術的思想まで想到していないことが明らかである。乙1発明において,課題を解決するために,吸引口以外の発明構成要素の形状を工夫するという技術的思想が存在しない以上,当業者は,乙1発明に他の文献のカフを適用するよう動機付けられることはあり得ない。 b 被告の主張は完結していないこと上記(ウ)bのとおり,被告の主張に係る「乙1発明において,『カフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去する とはあり得ない。 b 被告の主張は完結していないこと上記(ウ)bのとおり,被告の主張に係る「乙1発明において,『カフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去する』の構成を得るため」という発想自体が,既に,乙1発明と乙6~9文献に基づく「カフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去する」の構成とを組み合わせた技術的事項であって,本件特許の優先日前に存在しなかったものであるから,特許法29条2項が引用する同条1項各号に記載の発明とすることはできない。 c 当業者は乙1発明に乙3文献のカフの取付け態様を適用しないこと乙1発明では,上記のとおり,課題解決の手段として,吸引口の位置をカフに近づけることまでしか考えが及んでおらず,吸引口以外の発明構成要素,例えば,カフ等の形状を工夫するという次元の技術的思想まで想到していないことが明らかである。 また,乙3文献のカフの取付け態様は,その目的とするところが,「開放端が気管壁と接触してその壁により完全または部分的に遮断 される可能性を最小限にすること」であり,「カフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去すること」を目的とするものではない。また,乙3文献の気管内チューブには吸引孔に相当する構成が存在せず,乙3文献全体の記載を通しても,気管の分泌物の吸引についての記載も示唆も認められない。したがって,乙3文献の記載からは,当業者は,乙3文献の図3に開示されるカフ31の遠位端の取付け態様と分泌物の吸引との関連性を想起することができず,カフ上に集まる粘液の効率的な除去という課題を解決することを目的として,その取付け態様を乙1発明のカフの近位端に適用するように動機付けられることはない。 との関連性を想起することができず,カフ上に集まる粘液の効率的な除去という課題を解決することを目的として,その取付け態様を乙1発明のカフの近位端に適用するように動機付けられることはない。 (オ) 乙1発明と乙10~13文献との組み合わせについてa 乙1発明には吸引口以外の構成要素を改良する思想がないこと上記(ウ)aのとおり,乙1発明では,課題解決の手段として,吸引口の位置をカフに近づけることまでしか考えが及んでおらず,吸引口以外の発明構成要素,例えば,カフ等の形状を工夫するという次元の技術的思想まで想到していないことが明らかである。乙1発明において,課題を解決するために,吸引口以外の発明構成要素の形状を工夫するという技術的思想が存在しない以上,当業者は,乙1発明に他の文献のカフを適用するよう動機付けられることはあり得ない。 b 当業者は乙10~13のカフの取付け態様を採用しないこと仮に,当業者が吸引口以外の発明構成要素を工夫することを想到し得たとしても,当業者は,乙1発明と乙10~13文献とを組み合わせるよう動機付けられない。 乙10文献のカフ20及22の形状は,「必要な気管内長さを減少させると共に高分子材料の露出を最小とする」ことを目的とするものであるから,気管の分泌物を効果的に吸引除去することを目的とする ものではないことは明らかである。また,乙10文献には,気管の分泌物の吸引について記載も示唆も認められないから,乙10文献のカフの構成とカフ上に集まる粘液の効率的な除去という課題との技術的関連性が想起され得ることはない。したがって,当業者は,乙1発明に,乙10文献のカフの構成を組み合わせるよう,動機付けられることはない。 乙 る粘液の効率的な除去という課題との技術的関連性が想起され得ることはない。したがって,当業者は,乙1発明に,乙10文献のカフの構成を組み合わせるよう,動機付けられることはない。 乙11文献の風船体は,噴門部や咽頭部などの狭い通路を押し広げ,磁石2に吸着された異物を円滑に取り出すことを目的とするものであることが理解されるから,気管の分泌物を効果的に吸引除去することを目的としていないことは明らかである。また,乙11文献には,気管の分泌物の吸引についての記載も示唆も認められないから,乙11文献の図2及び3の風船体6に開示される構成と,カフ上に集まる粘液の効率的な除去という課題との技術的関連性が想起され得ることはない。したがって,当業者は,乙1発明に,乙11文献の風船体の構成を組み合わせるよう,動機付けられることはない。 乙12発明は,「外科医が外科手術後に,膀胱や同様の人体の嚢を脱水させるのに使用できるようにした」脱水装置であるから,本件発明と乙12発明とは,全く無関係の技術分野に属するものであり,乙12文献の図1~3に開示されるチューブ11の構成と,カフ上に集まる粘液の効率的な除去という課題との技術的関連性が想起され得ることはない。したがって,当業者は,乙1発明に,乙12文献の脱水装置の構成を適用するよう,動機付けられることはない。 乙13発明は,空気又は酸素を気管切開用管と気管との間のシール部材(袖状部材)の上方に導入するようにして,会話を可能にすることを目的とするものであり,気管の分泌物を効果的に吸引除去することを目的としていないことは明らかである。また,乙13文献には, 気管の分泌物の吸引についての記載も示唆も認められないから,乙13文献の図1~3に開示される袖状部材16及び に吸引除去することを目的としていないことは明らかである。また,乙13文献には, 気管の分泌物の吸引についての記載も示唆も認められないから,乙13文献の図1~3に開示される袖状部材16及び18の構成と,カフ上に集まる粘液の効率的な除去という課題との技術的関連性が想起され得ることはない。 ウ乙2文献に基づく無効理由(新規性・進歩性)の有無(争点(2)ウ)(被告の主張)(ア) 新規性違反乙2発明についてみると,カフ30の近位端と開口部48との間には近位カラー部分が存在していない。乙2発明の「カフ30」及び「開口部48」は,本件発明の「カフ」及び「吸引孔」に該当するのであるから,原告の解釈に従えば,乙2発明は構成要件Cにおいて一致する。また,原告は,構成要件Hについても,「カフの直近上部」は相対的な表現であり,絶対的距離が小さいことを意味するものではないと述べているから,本件発明と乙2発明とは構成要件Hについても相違点を有しない。 したがって,本件発明と乙2発明とは相違点は存在しないから,本件発明に新規性はない。 (イ) 進歩性違反a 乙2発明A チューブ10を挿入する体腔の壁で挿入チューブ壁16の外側をシールするように形成した膨張しうる部分で挿入チューブ壁16を包囲し,かつ両端の各カラー部分によりチューブに取付けるカフ30,B カフ30の基端側に挿入チューブ壁16に沿って延在させた送達管腔50,およびC 挿入チューブ壁16のカフ30と後端24との間に設けられた環 状チャンバ44に外部に開口する開口部48を有するD 気管内チューブ10において,E カフ30の近位端を裏 ューブ壁16のカフ30と後端24との間に設けられた環 状チャンバ44に外部に開口する開口部48を有するD 気管内チューブ10において,E カフ30の近位端を裏側に折り重ね,カフ30の膨張しうる部分が近位カラー部分に重ねられ,近位カラー部分をカフ30の膨張しうる部分を超えて延ばさないように構成したF 気管内チューブ10において,G 送達管腔50を挿入チューブ壁16に沿い挿入チューブ壁16の壁厚内に延在させたこと,H カフ30を気管に対しシールするように形成し,送達管腔50に導通している開口部48を介し送達管腔50を用いてカフ30上の気管に集められる分泌物をカフ30の上部で除去するようにしたことを特徴とするI 気管内チューブ10。 b 本件発明と乙2発明との対比乙2発明の「挿入チューブ壁16」,「カフ30」,「送達管腔50」,「開口部48」,「気管内チューブ10」は,それぞれ,本件発明の「チューブ」,「カフ」,「吸引管腔」,「吸引孔」,「外科医療用チューブ」に相当する。 したがって,本件発明と乙2発明とは,A チューブを挿入する体腔の壁でチューブの外側をシールするように形成した膨脹しうる部分でチューブを包囲し,かつ両端の各カラー部分によりチューブに取付けるカフ,B カフの基端側にチューブに沿って延在させた吸引管腔,及びC 管腔からカフの基端側のチューブの外部に開口する吸引孔を有するD 外科医療用チューブで, E カフの近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分の少なくとも1部分を近位カラー部分に重ね,近位カラー部分 する吸引孔を有するD 外科医療用チューブで, E カフの近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分の少なくとも1部分を近位カラー部分に重ね,近位カラー部分をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成したF 外科医療用チューブにおいて,G 吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,H カフを気管にシールするように形成し,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフの上部で除去するようにしたことを特徴とするI 外科医療用チューブ。 という点で一致し,以下の点で相違する。 [相違点1]本件発明は,「カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および」「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」のに対し,乙2発明は,吸引孔がカフの基端側のチューブの外部に開口しているものの,カフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口しているか否かが不明な点。 [相違点2]本件発明は,「吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とする」のに対し,乙2発明は,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物を除去するようにしたことを特徴とするものの,分泌物をカフの直近上部で除去するようにしているか否かが不明な点。 c 相違点の検討気管内に置かれたチューブのカフの直近上部で分泌物を除去するこ とするものの,分泌物をカフの直近上部で除去するようにしているか否かが不明な点。 c 相違点の検討気管内に置かれたチューブのカフの直近上部で分泌物を除去するこ とは,この種の気管内チューブに周知の課題であり,また,かかる課題を解決するために,カフの近位端に直接隣接する吸引孔を形成することも周知技術であるといえる。 とすると,当業者は,カフ30の直上部に貯留する分泌物をなるべく多く除去するために,乙2発明の「開口部48」を,「カフ30」の近位端に直接隣接する挿入チューブ壁16の外部に開口するように設け,また,カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔を設け,そして,カフ30上の気管に集められる分泌物をカフ30の直近上部で除去すること,すなわち相違点1,2に係る本件発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到することができたものである。 (原告の主張)(ア) 被告の主張はいずれも争う。 (イ) 新規性違反について乙2発明における開口部48は,環状チャンバ44の外壁46から外部に開口するものであり,本件発明の構成要件Cのように「吸引管腔からチューブの外部に開口」しているとはいえない。 また,仮に,カフ30と挿入チューブ壁16とが接触する部分の上端を近位端とみた場合,吸引孔48とカフ30の近位端との距離は,カフ30の膨張する部分の長さ(チューブの軸線方向の長さ)の約80%であり,カフ30の上端(挿入チューブ壁16と接着していない部分)を近位端とみた場合には,上記距離は,カフの長さの約60%である。以上の測定結果を現実のカフの通常の長さである3cmに置き換えると,上記距離は,それぞれ24mm,18mmである。カフ30の近位 分)を近位端とみた場合には,上記距離は,カフの長さの約60%である。以上の測定結果を現実のカフの通常の長さである3cmに置き換えると,上記距離は,それぞれ24mm,18mmである。カフ30の近位端とこのような位置関係にある吸引孔48が,本件発明の構成要件Cにいう「直接隣接」に該当しないことは,原告の解釈を前提とした場合でも明 らかである。なぜなら,カフの近位端から2cm近くも離れた位置にある吸引孔が,カフの近位端と「隣り合っている」とは到底評価できないからである。同様の理由により,乙2発明は,本件発明の構成要件Hにいう「直近上部」を充足しない。 以上のとおり,構成要件C,Hの解釈について,原告の主張を前提としても,本件発明が新規性を欠くことはない。 (ウ) 進歩性違反a 開口部をカフの上端に近づけるという技術的思想が存在しないこと乙2発明の気管内チューブは,粘液の吸引だけではなく,局所薬剤を噴霧することを前提に設計されており,噴霧された局所薬剤を効率的に分配するために十分な空間を設けるように設計されると予測される。実際に,乙2文献の図1~3に開示されるいずれの気管内チューブにおいても,開口部48は,カフ30の上端から十分に離れた位置に(カフの上端から下端までの間の距離の半分程度の距離を隔てて)設けられている。 したがって,乙2発明には,開口部をカフの上端に近づけるという技術的思想が存在しない。 b 乙2発明に周知技術を適用するよう動機付けられることはないこと乙2発明の気管内チューブに設けられた開口部48は,吸引孔である以前に,第1の態様として局所薬剤を噴霧するための「噴霧口」として機能することが意図されている点に留意すべきである こと乙2発明の気管内チューブに設けられた開口部48は,吸引孔である以前に,第1の態様として局所薬剤を噴霧するための「噴霧口」として機能することが意図されている点に留意すべきである。また,乙2発明の気管内チューブの好ましい態様として,開口部には,「霧化手段」又は「霧化ノズル」が設けられることが記載されている。このような「霧化手段」または「霧化ノズル」を取り付けた場合,当該気管内チューブの吸引機能が著しく低下することは当業者にとって自明のことである。このことから,乙2発明では,吸引機能よりも噴霧 機能がより重要視されているといえる。 したがって,本件特許の出願時において,当業者は,乙2発明,すなわち,第1の態様として「噴霧口」を有し,好ましい態様において「霧化手段」又は「霧化ノズル」を有する気管内チューブに,「カフの近位端に直接隣接する吸引孔を形成する」という周知技術を適用するよう動機付けられることはない。 c 乙2発明に周知技術を組み合わせても本件発明に到達できないこと乙2文献の図3からも明らかなように,カフ30は,ドーナツ型のチューブで構成された無端状のカフであり,「両端」,「カラー部分」,「近位端」及び「近位カラー部分」のいずれも有していない。したがって,被告が主張する上記一致点「A」及び「E」は存在し得ない。また,被告は,乙2発明の「開口部48」が,本件発明の「吸引孔」に該当すると述べているが,乙2発明の「開口部48」は,第1の態様として局所薬剤を噴霧する機能を有するものであり,本件発明の吸引孔とは,噴霧機能を有する点で相違する。 したがって,被告の主張は,乙2文献の図3に開示されるカフ30の構成に基づくものではなく,架空の構造に基づくものであ ものであり,本件発明の吸引孔とは,噴霧機能を有する点で相違する。 したがって,被告の主張は,乙2文献の図3に開示されるカフ30の構成に基づくものではなく,架空の構造に基づくものであり,この点においても失当である。よって,たとえ乙2文献と被告の述べるところの「周知技術」を組み合わせることができたとしても,本件発明の構成は得られない。 (3) 被告が被告製品を製造しているか(争点(3))。 (原告の主張)被告は,被告製品を製造している。 (被告の主張)原告の主張は否認する。 薬事法2条12項では,「製造販売」を「その製造等(他に委託して製造 をする場合を含み,他から委託を受けて製造をする場合を含まない。以下同じ。)をし,又は輸入をした医薬品(原薬たる医薬品を除く。),医薬部外品,化粧品又は医療機器を,それぞれ販売し,賃貸し,又は授与することをいう。」と定義し,自ら製造等を行う場合のみならず,輸入した医薬品を販売する行為も含めている。甲4号証及び甲5号証における,被告製品の「製造販売元」との記載は,上記の規定に基づく記載であり,被告が実際に被告製品の製造を行っていることを意味するものではない。被告製品を製造しているのは,甲5号証の「外国製造業者名」として記載のある,メキシコ所在の「エムエムジェイ・エスエー・ド・シーブイ」である。 第3 当裁判所の判断 1 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点(1))について被告製品が,構成要件A,D,F,G及びIを充足していることは当事者間に争いがない。 (1) 構成要件B及びEの充足性(争点(1)ア)についてアカフの「近位端」(構成要件B及びE)の意義について「カフ」の意義については争い いることは当事者間に争いがない。 (1) 構成要件B及びEの充足性(争点(1)ア)についてアカフの「近位端」(構成要件B及びE)の意義について「カフ」の意義については争いがない(構成要件A参照)から,「近位端」の意義について検討するに,本件明細書(甲2)においては,「図1~3は患者の気管2における遠位端部10,および患者の口から突出する近位機械端部11」(段落【0006】),「遠位患者端カラー部分23…反対側の近位または機械端カラー部分24」(段落【0010】)と記載されているのであるから,「近位」とは,患者の口に近い側を意味すると解される。 そうすると,カフの「近位端」とは,カフの患者の口に近い側の端部を意味すると解するのが相当である。 イ構成要件Bの充足性について証拠(甲4,5,8)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の構造は別 紙イ号図面のとおりであると認められ,被告製品は,カフ上部吸引ライン(8)の一部として,吸引管腔(7)を有し,当該吸引管腔は,カフの上端部分(3)の区域にチューブに沿って延在している。そして,被告製品の構造上,カフの上端部分(3)が構成要件Bのカフの「近位端」に当たることは明らかである。 そうすると,被告製品は構成要件B(「カフの近位端の区域にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および」)を充足する。 ウ構成要件Eの充足性について別紙イ号図面のとおり,被告製品は,①カフの上端部分(近位端〔3〕)を裏側に折り重ね(図3の上部カラー部分〔5〕参照),②カフの膨脹しうる部分(9)の1部分である上部領域(10)を上部カラー部分と重ね,③上部カラー部分をカフの膨脹しうる部分の上端部分を越えて延ばしていない。そして,被 の上部カラー部分〔5〕参照),②カフの膨脹しうる部分(9)の1部分である上部領域(10)を上部カラー部分と重ね,③上部カラー部分をカフの膨脹しうる部分の上端部分を越えて延ばしていない。そして,被告製品の構造上,カフの上部カラー部分(5)が構成要件Eのカフの「近位カラー部分」に当たることは明らかである。 そうすると,被告製品は,構成要件E(「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した」)を充足する。 (2) 構成要件Cの充足性(争点(1)イ)についてア構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」の意義について(ア) カフの近位端に「直接隣接する」の意義について検討する。 「直接」とは「中間に隔てるものがなく,じかに接すること」をいい,「隣接」とは「となりあってつづくこと」をいう(広辞苑第6版)。 しかし,上記「直接」も「隣接」も技術用語ではなく,日常用語であるから,その語義から本件発明における「直接隣接する」の意義が直ちに明らかになるものではなく,「直接隣接する」の意義は,本件発明の 技術的特徴に照らして,技術的見地から確定されるべきものである。 (イ) 本件明細書によれば,カフを有するチューブについての従来技術として,次の記載がある。 カフを有するチューブには,「分泌物がカフ上に集まり,細菌の蓄積および感染する部位を形成するという欠点」があった(段落【0002】)。 この欠点を改善するために,「吸引孔をカフ上に設けることによって分泌物を除去する多くの手段が提案された」。その例は,米国特許第4,607,635号(乙8 いう欠点」があった(段落【0002】)。 この欠点を改善するために,「吸引孔をカフ上に設けることによって分泌物を除去する多くの手段が提案された」。その例は,米国特許第4,607,635号(乙8),米国特許第4,305,392号である。 しかし,これらは,「カフをチューブの壁に,チューブに付着し,カフの上下に延びるカフの両端における短いカラーによって普通のように取付けているため」,「カフのすぐ上に集められた分泌物を除去することができないという問題点」があった。また,それを避けるためカラーを貫通する吸引孔を設けた場合には,「カフのチューブへの接合が弱められ」,カフから漏れが生じることになる。そこで,米国特許第4,840,173号(乙4)においては,「吸引チューブをカフの近位カラー上に突出させることによって,カフ近くの分泌物を除去する」ものとしたが,吸引チューブが外部に露出されているため,「気管の繊細な表面を刺激する望ましくない突起」が生じるなどの欠点を有していた(以上,段落【0003】)。 (ウ) 上記の本件明細書の記載によれば,分泌物がカフ上に集まり,細菌の蓄積及び感染する部位を形成するという欠点を除去するためには,できるだけカフの上端部に近い位置に吸引孔を設ける必要があるが,①カラーが通常のように,カフに被われずにカフの上部に延在して取り付けられる場合には,カラー取付部分の距離を隔ててその上に吸引孔を設けざるをえず,吸引孔がカフ上端部の直近とはならず,②これを避けるた めにカラーを貫通する吸引孔を設けた場合には,カフのチューブへの接合が弱められ,③カラー取付部と関係なく吸引チューブを外部に突出させれば,カフの上端部に近い位置に吸引孔を設けることはできるものの,気管の繊細な表面を刺激する等の問題があった。 このように, の接合が弱められ,③カラー取付部と関係なく吸引チューブを外部に突出させれば,カフの上端部に近い位置に吸引孔を設けることはできるものの,気管の繊細な表面を刺激する等の問題があった。 このように,本件明細書では,従来技術について,①カラーを普通の方法で取り付ける限りは,カフの上端部に近い位置に吸引孔を設けること自体が難しいという問題点があること,②カフの上端部近くに吸引孔を外部に突出させることにより,吸引孔の上端部への近接という目的は達成できるものの,突出した吸引孔が気管の繊細な表面を刺激する等の問題点が発生したことを指摘している。 (エ) したがって,従来技術の問題点を解決するためには,①カラーの取付部分の存在が障害となって吸引孔がカフ上端部に近接することができないという状態を解消するか,②吸引孔を突出させてチューブの外部で吸引孔をカフ上端部を近接させながらも,吸引孔が気管の繊細な表面を刺激する等の問題点が発生しないような方法を工夫するかのいずれかの方法が考えられるところ,本件発明では,これらの課題の解決方法として,上記①の解決策を提案したものと考えられる。 すなわち,本件発明においては,「吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させ」外部に突出させることとはしないとともに,他方,「カフを気管に対しシールするように形成し,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去するように」した(段落【0004】)。ここで示された「直近上部で除去する」という課題解決による効果をもたらすための具体的な構成が,構成要件Cにおいて,「カフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔」として示されているものと考えられる。 しかし,本件発明における課題解決手段 たらすための具体的な構成が,構成要件Cにおいて,「カフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔」として示されているものと考えられる。 しかし,本件発明における課題解決手段からみて,「直接隣接する」とは,カラー部分の障害による吸引孔とカフ上端部との離間を回避する手段を講じることによって達成されるものであるから,カラー部分の存在による障害をいかなる構成によって回避したかという点の考察と無関係に,「直接隣接する」の具体的な意義を決定することは相当ではない。 したがって,構成要件Cの「直接隣接する」の意義は,カフとカラーとの関係を具体的に示した構成要件Eの内容と切り離してこれを理解することはできないものというべきである。 (オ) そこで,構成要件Eをみると,「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨張しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨張しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した」ものである。すなわち,カフとカラーとの関係に関する構成としては,①カフの近位端が裏側に折り重ねられていること,②近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないように構成されていること,に特徴がある。 言い換えると,本件発明は,カフのカラー部分との関係でのカフの膨張態様に特色のある発明であり,カフの近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないようにされていること,カフの膨張しうる部分が近位カラー部分の先端まで到達している構成とされた発明である。 以上の明細書の記載及びその課題解決のためのカフとカラー部分との関係について示した構成要件Eの記載に照らして,「直接隣接する」の技術的意義を検討すると,本件発明は,従来技術におい た発明である。 以上の明細書の記載及びその課題解決のためのカフとカラー部分との関係について示した構成要件Eの記載に照らして,「直接隣接する」の技術的意義を検討すると,本件発明は,従来技術において,カフ上端部の分泌物を吸引するについて,カラーの延在部よりも上部に吸引孔を設けざるを得ず,その結果,吸引孔とカフ上端部の位置が遠ざけられ, そのためカフ上端部の分泌物を十分吸引できなかったのを,カラーに被せるようにカフを膨らませ,気管をシールすることによって,カラー部分の存在によるカフ上端部からの吸引孔の離間を回避し,カフ上端部と吸引孔の近接を可能にしたことにあると認めるのが相当である。 したがって,「直接隣接する」の意義は,カラー部分の存在による吸引孔とカフ上端部との離間が防止されていること,すなわち,カラー部分の存在によりカラー部分を隔てて吸引孔とカフ上端部が隣接することが回避されていることを意味するものと介される。したがって,カフの近位端と吸引孔の間の空隙の有無が直ちに「直接隣接する」か否かの評価に結び付くのではなく,カラー部分に重なるようにカフが膨らむ構成によって,カラー部分の距離がそのまま吸引孔を設けることの障害となっていた従来技術と比較して,カフの上端部(近位端)と吸引孔の間の空隙を短縮することができているのであれば,「直接隣接する」と評価することができるものというべきである。 この点,被告は,吸引孔とカフの近位端との間に空隙が存在する場合には,かかる吸引孔によりカフの最も近い上部においてカフ上の気管に集められる分泌物のすべて,又はそのほとんどをも除去することはできない旨主張するから,カフの近位端に「直接隣接する」とは,カフの近位端と吸引孔との間に空隙(すき間)が存在しないことをも意味する旨主張するものと解される べて,又はそのほとんどをも除去することはできない旨主張するから,カフの近位端に「直接隣接する」とは,カフの近位端と吸引孔との間に空隙(すき間)が存在しないことをも意味する旨主張するものと解される。 しかし,本件明細書の図2をみるに,カフ(12)の近位端と吸入孔(19)との配置関係は,カラー部分(24)が存在することなく隣り合っているものの,その間隔はゼロではなく,すき間があるものが示されている。加えて,本件明細書【0010】には,「吸引孔19をカフ12の膨脹しうる部分25に直接隣接して配置することができ,このためにカフ上に集められる気管の上部からのいかなる分泌物を,たとえカ フ上に残留するとしても,極めて少量の分泌物でも孔19を介して吸引除去することができる。」と記載されており,カフ上に残留する分泌物を十分に吸引除去できる程度の吸引孔の配置が示唆されているというべきである。 そうすると,カフの近位端に「直接隣接する」とは,カフの近位端と吸引孔とが両者間に近位カラー部分が介在しない状態で隣り合っており,吸引孔がカフ上の残留物を十分に吸引除去できる程度にカフの近位端と隣接していることを意味すると解するのが相当である。そして,カフの近位端と吸引孔との距離は,分泌物の性質,吸引孔からの吸引力,分泌物の除去期待度等に照らして適宜設計されるものであって,どの程度のものであればよいと一概にいえるものではないと解される。 なお,被告は,吸引孔とカフの近位端との間に近位カラー部分が介在しないことは,構成要件Cではなく,構成要件Eにおいて記載されているから,原告が主張するように構成要件Cを解釈すると,構成要件Eは,既に構成要件Cにおいて記載された事項が重ねて記載されていることになる旨主張するが,構成要 ではなく,構成要件Eにおいて記載されているから,原告が主張するように構成要件Cを解釈すると,構成要件Eは,既に構成要件Cにおいて記載された事項が重ねて記載されていることになる旨主張するが,構成要件Eは,主として近位カラー部分の構造を規定するものであるから,構成要件としての機能が異なるというべきである。そして,上記のとおり,当裁判所が構成要件Cの解釈に当たって,構成要件Eを参照したのは,特許請求の範囲の記載全体を整合的に解釈するためであって,構成要件Cと構成要件Eを同様に解釈するものではない。 (カ) 以上をまとめると,構成要件Cの「カフの近位端に直接隣接する…吸引孔」とは,カフの近位端と吸引孔とが両者間に近位カラー部分が介在しない状態で隣り合っており,吸引孔がカフ上の残留物を十分に吸引除去できる程度にカフの近位端と隣接していることを意味するものと解される。 イ被告製品の充足性について別紙イ号図面のとおり,被告製品は,カフ上部吸引ライン(8)の一部として,カフの上端部分(近位端〔3〕)に隣接して吸引管腔(7)からチューブの外部に開口する吸引孔(6)を有し,当該吸引孔とカフの上端部分(近位端)との間に上部カラー部分(近位カラー部分)は存在しない。 ところで,証拠(乙14)によれば,被告製品は,①吸引孔下端からカフのカラー接着部上端までの距離が3.6mm~4.2mm,②気管を模した透明アクリル管に挿入した状態における吸引孔の下端から膨張時カフの上端までの距離が2.7mm~3.9mmであることが認められる。 そして,被告製品は,別紙イ号図面のとおり,本件発明と同様に,カフの上端部分(近位端〔3〕)を裏側に折り重ねて(図3の上部カラー部分〔5〕参照)いるのであって,カフ上の分泌 認められる。 そして,被告製品は,別紙イ号図面のとおり,本件発明と同様に,カフの上端部分(近位端〔3〕)を裏側に折り重ねて(図3の上部カラー部分〔5〕参照)いるのであって,カフ上の分泌物を十分に吸引除去するために,カフの近位端と吸引孔とを近づけて構成しているものと解される。また,カフの近位端と吸引孔との距離が近すぎるとカフの膨張状態によっては,吸引孔が塞がれる可能性もあるから,ある程度両者の距離に余裕を持たせることも必要と解される。 そうすると,被告製品は,カフの近位端と吸引孔とが両者間に近位カラー部分が介在しない状態で隣り合っており,カフの近位端を裏側に折り重ね,カフ上の分泌物を十分に吸引除去するために,カフの近位端と吸引孔とを近づけて構成しているのであるから,カフの近位端と吸引孔との間には距離は存するものの,適度な距離をもって,カフ上の分泌物を十分に吸引除去できる程度にカフの近位端と隣接しているものと認めるのが相当である。 被告は,被告製品は十分な吸引力を有しないものと主張し,その証拠として乙15号証,乙20号証を提出する。これらは,被告製品についての吸引試験を報告したものであるが,被告製品が持続的な吸引の場合は20 mmHgを,間歇的な吸引の場合は150mmHgの吸引圧を超えないこととされている(甲5)ところ,上記試験はどのような吸引であるか明示しないで70mmHgの吸引圧で行われたことが報告されるのみであるから,直ちに採用し難い。 ウ小括以上のとおり,被告製品は,構成要件C(「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」)を充足する。 (3) 構成要件Hの充足性(争点(1)ウ)についてア構成要件Hの「カフの直近上部 要件C(「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」)を充足する。 (3) 構成要件Hの充足性(争点(1)ウ)についてア構成要件Hの「カフの直近上部で除去する」の意義について「直近」とは,「すぐ近く。すぐそば。最も近いこと。」を意味し(広辞苑第6版),「カフの直近上部で除去する」とは,カフのすぐそばの上部で(分泌物を)除去することを意味すると解するのが相当である。 この点,被告は,原告は「Hi-LoEvac」のような従来技術のカフの吸引孔とカフの近位端との距離は3.9mm又は4.9mmであるとしており,従来技術においてもカフの直近上部において吸引除去することとなるから,原告がなぜ従来技術における距離と同程度のカフの近位端から4~5mm程度の範囲がカフの直近上部に当たると解釈できるのか根拠が全く不明である旨主張する。 しかしながら,上記(2)ア(オ)のとおり,カフの近位端と吸引孔との距離は,分泌物の性質,吸引孔からの吸引力,分泌物の除去期待度等に照らして適宜設計されるものであって,どの程度のものであればよいと一概にいえるものではないと解されるから,カフの近位端と吸引孔との距離のみによって「直近」の意義を解することはできないというべきである。 イ被告製品の充足性について別紙イ号図面のとおり,被告製品は,①カフ(2)が気管(15)に対しシールするよう形成され,②吸引管腔(7)に導通している吸引孔(6 )を介し,③吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフの上部で除去するようにしている。 そして,被告製品は,①吸引孔下端からカフのカラー接着部上端までの距離が3.6mm~4.2mm,②気管を模した透明アクリル管 気管に集められる分泌物をカフの上部で除去するようにしている。 そして,被告製品は,①吸引孔下端からカフのカラー接着部上端までの距離が3.6mm~4.2mm,②気管を模した透明アクリル管に挿入した状態における吸引孔の下端から膨張時カフの上端までの距離が2.7mm~3.9mmであるところ,カフの近位端を裏側に折り重ね,カフ上の分泌物を十分に吸引除去するために,カフの近位端と吸引孔とを近づけて構成しているのであるから(上記(2)イ),カフの近位端と吸引孔との間には上記程度の距離は存するものの,カフの「直近」上部で除去するものと認めるのが相当である。 ウ小括以上のとおり,被告製品は,構成要件H(「カフ(12)を気管(2)に対しシールするように形成し,吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とする」)を充足する。 2 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点(2))について(1) 記載要件違反の有無(争点(2)ア)についてア本件明細書の発明の詳細な説明の記載本件明細書には,【発明の詳細な説明】において,「【0003】吸引孔をカフ上に設けることによって分泌物を除去する多くの手段が提案されている。…これらのチューブにおいては,カフのすぐ上に集められた分泌物を除去することができない問題点がある。この事は,カフをチューブの壁に,チューブに付着し,かつカフの上下に延びるカフの両端における短いカラーによって普通のように取付けているためである。カフ上のカラ ーの長さは短く規定され,これによって吸引孔をカフから離間することができる。なぜならば フの上下に延びるカフの両端における短いカラーによって普通のように取付けているためである。カフ上のカラ ーの長さは短く規定され,これによって吸引孔をカフから離間することができる。なぜならば,カラーを貫通する吸引孔が形成されるために,カフのチューブへの接合が弱められ,かつカフから漏れを生ずるためである。 …」として解決すべき課題が示され,「【0004】【発明の開示】本発明の目的は,上述する欠点なく使用できる外科医療用チューブを提供することである。本発明の一つの観点によれば,吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,カフを気管に対しシールするように形成し,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフの直近上部で除去するようにしたことを特徴とする。」,「【0005】吸引管腔はチューブの壁厚内をチューブに沿って延在させる。近位カラー部分の外面をチューブに付着させる。遠位カラー部分の内面をチューブに付着することができる。カフは気管に対しシールするように形成し,吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められた分泌物をカフの直上部より吸引孔を通じて除去するようにする。」として発明が開示されるとともに,図1~3に基づいて,「【0010】カフ12は,通常のチューブとは異なるようにしてチューブ1の外壁に付着させる。 …遠位患者端カラー部分23は普通のようにしてチューブに接合し,このためにカラー部分23は膨脹しうる部分25を越えて突出し,例えば溶剤によりチューブ1の外面に結合する内面を有する。反対側の近位または機械端カラー部分24はそれを裏返す異なる手段で接合し,このためにカラー部分24は膨脹しうる部分25の内側に折り重なり,カラー部分の初めの外面でチューブ1に結合する。この手段において,カフ12の は機械端カラー部分24はそれを裏返す異なる手段で接合し,このためにカラー部分24は膨脹しうる部分25の内側に折り重なり,カラー部分の初めの外面でチューブ1に結合する。この手段において,カフ12の膨脹しうる部分25をカフの近位カラー部分24に重ねる。この事は,吸引孔19をカフ12の膨脹しうる部分25に直接隣接して配置することができ,このためにカフ上に集められる気管の上部からのいかなる分泌物を,たとえカフ上に残留するとしても,極めて少量の分泌物でも孔19を介して吸引 除去することができる。」「【0012】また,カフの他の構造としては,カフの膨張しうる部分を裏側に折り重ねてカラーに重ね,カラーの膨張しうる部分を越えて延びないようにすることができる。例えば,図4には近位端カラー24′がチューブに結合する内面を有するカフ12′を示しており,カフの壁をカラー上に裏側に折り重ねて近位方向に延ばし,次いで反対方向に裏側に折り重ねる。この事は,例えば接着剤27′により閉じるカラー12′間に環状空間26′を形成して分泌物の進入を妨げる。 」等として実施例が記載されている。 イ実施可能要件違反(平成6年法律第116号による改正前の特許法〔以下「旧特許法」という。〕36条4項)について被告は,構成要件C及びHに関し,実施可能要件違反を主張する。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明を実施する方法として,カフの近位カラー部分を裏返す手段又はカフの膨張しうる部分を裏側に折り重ねてカラーに重ねる手段でチューブに接合することによって,吸引孔をカフの膨張しうる部分に直接隣接して配置することができる旨記載されているのであり,これが当業者において実施困難である事情は見当たらないのであるから,本件明細書の発明の詳細な説明は によって,吸引孔をカフの膨張しうる部分に直接隣接して配置することができる旨記載されているのであり,これが当業者において実施困難である事情は見当たらないのであるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をできる程度に記載されていると認められる。なお,被告は,当業者からすると,カフからどの程度離れた位置に吸引孔を形成すれば本件発明が実施できるのかを理解することができないなどと主張するが,前記1(2)ア(オ)のとおり,カフの近位端と吸引孔との距離は,分泌物の性質,吸引孔からの吸引力,分泌物の除去期待度等に照らして適宜設計されるものであって,どの程度のものであればよいと一概にいえるものではないと解される。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載について実施可能要件(旧特許法36条4項)違反は認められない。 ウサポート要件(旧特許法36条5項1号)違反の有無について旧特許法36条5項1号(現行36条6項1号)は,特許請求の範囲の記載について,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要件とし,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除しているのであるから,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比することにより行うべきである。 そこで,本件発明に係る特許請求の範囲の記載(本件明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】)と本件明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比するに,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は前提事実(2)イのとおりであり,本件明細書の発明の詳細な説明には,①(従来の)チューブにおいては,カフのすぐ上に集められた分泌物を除去することができない問題点があ 発明に係る特許請求の範囲の記載は前提事実(2)イのとおりであり,本件明細書の発明の詳細な説明には,①(従来の)チューブにおいては,カフのすぐ上に集められた分泌物を除去することができない問題点があるとして解決すべき課題が示され,②近位カラー部分の外面をチューブに付着させ,カフは気管に対しシールするように形成し,吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められた分泌物をカフの直上部より吸引孔を通じて除去するようにするとして発明が示されるとともに,③カフの近位カラー部分を裏返す手段等でチューブに接合することによって,吸引孔をカフの膨張しうる部分に直接隣接して配置することができる実施例が記載されている。 そうすると,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって,その記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載についてサポート要件(旧特許法36条5項1号)違反は認められない。 これに対し,被告は,被告の構成要件の解釈を前提として,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が本件発明の課題を解決し得ない構成をも含むこととなるなどと主張するけれども,前記1のとおり,被告の構成要件 の解釈は採用できないから,被告の主張は理由がない。 エ小括以上のとおり,本件明細書について記載要件違反は認められない。 (2) 乙1文献に基づく無効理由(進歩性)の有無(争点(2)イ)についてア乙1文献の記載証拠(乙1)によれば,乙1文献(特開昭61-37254号)には,以下の記載が認められる(その第1図及び第4図は別紙乙1文献の図面のとおりである。)。 (ア) 特許請求の範囲「(3)メインルーメン 乙1文献(特開昭61-37254号)には,以下の記載が認められる(その第1図及び第4図は別紙乙1文献の図面のとおりである。)。 (ア) 特許請求の範囲「(3)メインルーメンを有するチューブ本体と,チューブ本体の軸線方向に形成された第1のサイドルーメンと連通する膨張収縮可能なカフをチューブ本体の先端側に有する気管内チューブにおいて,カフとチューブ本体の先端との間に第1の吸引口を設け,この吸引口と連通する第2のサイドルーメンチューブをチューブ本体の軸線方向に設け,さらに該第2のサイドルーメンと連通するサイドルーメンチューブを設け,そして前記カフよりチューブ本体の基端側で,かつカフの近傍に第2の吸引口を設け,この吸引口と連通する第3のサイドルーメンチューブをチューブ本体の軸線方向に設け,さらに該第3のサイドルーメンと連通するサイドルーメンチューブを設けたことを特徴とする気管内チューブ。」(イ) 技術分野「本発明は,手術時の全身麻酔や長期呼吸管理に使用する気管内チューブに関するものである。」(明細書1頁右下欄19行~20行)(ウ) 先行技術およびその問題点「現在,手術時の全身麻酔や長期呼吸管理に関する気管内チューブとしては,種々のものが開発されている。 特に,本発明と関連するものとして,一般気管内チューブがある。一般気管内チューブはサクション口がないものであり,体内に留置していると,気管内チューブのカフ付近に粘液,唾液等が貯溜する。特に,カフから空気を抜く時,この貯溜した粘液,唾液,胃液等が気管内を下方に移動し,しばしば肺内に達することもある。その結果,患者は咳きこんだり,肺炎を併発したりすることがある。 以上のような問題を考慮して く時,この貯溜した粘液,唾液,胃液等が気管内を下方に移動し,しばしば肺内に達することもある。その結果,患者は咳きこんだり,肺炎を併発したりすることがある。 以上のような問題を考慮してなされた発明としては,米国特許第4,327,721号がある。すなわち,チューブ本体とカフとを有する気管内チューブにおいて,カフと人体外部に連通される側の後端との間のカフ付近に環状の壁室を築き,その外壁にカフの後端側で開口を設けたものであり,開口を有する環状の壁室はサイドルーメンを通じて注入チューブと連通させており,注入チューブの注入口から生理食塩水を入れ,開口に達せしめ,カフ後方(チューブ本体後部側を示す)に貯溜する粘液,唾液等を粘性を下げた後,上記のサイドルーメンを通じて,粘性を下げた粘液,唾液等をサクションするものである。 しかし,この方法では,気管内チューブを体内に留置したままで,カフ前方(チューブのカフより先端側をさす)に貯溜する粘液等をサクションできない等の問題がある。」(明細書2頁左上欄2行~右上欄10行)(エ) 発明の目的「本発明は,上記の問題を解決するため,さらに改良を加えたもので,気管内チューブの先端側に形成されているカフの先端側に貯溜する粘液,血液等を吸引除去可能な気管内チューブを,さらに,カフの先端側だけでなく,カフの基部(後端)側に貯溜する粘液,唾液,胃液なども吸引可能な気管内チューブを提供することを目的とするものである。」(明細書2頁右上欄12行~19行) (オ) 発明の具体的構成「本発明の第2の態様によれば,メインルーメンを有するチューブ本体と,チューブ本体の軸線方向に形成された第1のサイドルーメンと連通する膨張収縮可能なカフをチューブ本体の 発明の具体的構成「本発明の第2の態様によれば,メインルーメンを有するチューブ本体と,チューブ本体の軸線方向に形成された第1のサイドルーメンと連通する膨張収縮可能なカフをチューブ本体の先端側に有する気管内チューブにおいて,カフとチューブ本体の先端との間に第1の吸引口を設け,この吸引口と連通する第2のサイドルーメンチューブをチューブ本体の軸線方向に設け,さらに該第2のサイドルーメンと連通するサイドルーメンチューブを設け,そして前記カフよりチューブ本体の基端側で,かつカフの近傍に第2の吸引口を設け,この吸引口と連通する第3のサイドルーメンチューブをチューブ本体の軸線方向に設け,さらに該第3のサイドルーメンと連通するサイドルーメンチューブを設けたことを特徴とする気管内チューブが提供される。」(明細書2頁左下欄13行~右下欄8行)「気管内チューブ1は,第1図に示されるように,患者2の気管3に挿入され,パイロットバルーン4を介して先端のカフ5が膨張させられて気管3内に固定され,その基部に装着されたコネクタ6,湿熱交換器7,蛇管8を経て,人工呼吸器等に接続して使用される。 この時,気管3内に留置された気管内チューブ1のカフ5の付近,すなわち,カフ5上ならびにカフ5の先端側に粘液,血液等が貯留することがある。このような粘液等は種々の弊害を併発するので除去するのが良いのであるが,満足のいく結果が得られていないのは前述の通りで,本発明はこの点を解決しようとするものである。」(明細書2頁右下欄11行~3頁左上欄3行)「吸引口は,カフ5より先端側の粘液等を除去できるよう,カフ5の先端側に少なくとも1個設けられている。そして,吸引口はカフ5に近いことが好ましい。カフ5前に貯溜した粘液等を効率よく吸引でき 「吸引口は,カフ5より先端側の粘液等を除去できるよう,カフ5の先端側に少なくとも1個設けられている。そして,吸引口はカフ5に近いことが好ましい。カフ5前に貯溜した粘液等を効率よく吸引できるから である。」(明細書3頁右上欄1行~5行)「さらに,本願第2の発明は,気管内チューブ1の先端からカフ5までに貯溜した粘液等だけでなく,カフ5のチューブ本体の側付近に貯溜した粘液等をも除去することを目的としている。よって,第2の発明では,上述の本願第1の気管内チューブのカフ5の基端側付近に少なくとも1個の第2の吸引口を設け,さらにこの吸引口と連通する第3のサイドルーメンおよびこれと連通するサイドルーメンチューブを設けている。 」(明細書3頁右上欄13行~左下欄1行)「第4図に示す例は,第3図のようにカフ5の先端側に設けた吸引口20に加えて,さらにカフ5の基端側に第2の吸引口30を形成し,この開口を,チューブ本体11の肉厚内に形成した第3のサイドルーメン31,これに接続されたサイドルーメンチューブ32およびこの先端のコネクタ33を経て,適当なサクション装置に接続できよう構成したものである。 サクション装置は,気管内に貯溜することのある粘液等を開口20,30を経て吸引除去できる能力を有するものであれば何でも良く,注射器,医療用吸引器などが挙げられる。従って,コネクタ23,33も,用いるサクション装置に応じて適宜選択される。 チューブ本体11は,湾曲させることができるやや柔軟な材料で構成され,塩化ビニル樹脂などを用いることができる。 なお,吸引口は,チューブ本体の外周のいかなる場所に形成しても良く,その数も問わない。」(明細書3頁左下欄3行~右下欄1行)(カ) ,塩化ビニル樹脂などを用いることができる。 なお,吸引口は,チューブ本体の外周のいかなる場所に形成しても良く,その数も問わない。」(明細書3頁左下欄3行~右下欄1行)(カ) 発明の具体的作用「第4図に示される本発明の第2の構成の気管内チューブは,吸引口を,チューブ本体のカフより先端部と,チューブ本体のカフより後部のカフ付近とに設けているので,カフ後方に貯溜する胃液,唾液等およびカフ 前方に貯溜する粘液類を併せてサクションすることが可能となる。」(明細書4頁左上欄12行~17行)(キ) 発明の具体的効果「(2)第2の構成の気管内チューブは,吸引口を,チューブ本体の先端部のカフ付近とチューブ本体後部のカフ付近に設けているため,上記(1)の効果のみならず,口腔や食道よりカフ後方に貯留する唾液,胃液等を吸引するという効果を併せもつものである。」(明細書4頁右上欄6行~11行)「(4)上記(1)および(2)の効果により,気管内チューブ体内留置時および気管内チューブ抜去後,体液による肺の合併症を未然に防ぐことができる。」(明細書4頁右上欄15行~18行)イ乙1発明の内容乙1文献の特許請求の範囲(3)に記載された気管内チューブは,カフの先端側だけでなく,カフの基部(後端)側に貯溜する粘液,唾液,胃液なども吸引可能な気管内チューブを提供することを目的とするものであって(上記ア(エ)),メインルーメンを有するチューブ本体と,チューブ本体の軸線方向に形成された第1のサイドルーメンと連通する膨張収縮可能なカフをチューブ本体の先端側に有する気管内チューブにおいて,カフとチューブ本体の先端との間に第1の吸引口を設け,この吸引口と連通する第2のサイドルー れた第1のサイドルーメンと連通する膨張収縮可能なカフをチューブ本体の先端側に有する気管内チューブにおいて,カフとチューブ本体の先端との間に第1の吸引口を設け,この吸引口と連通する第2のサイドルーメンチューブをチューブ本体の軸線方向に設け,さらに該第2のサイドルーメンと連通するサイドルーメンチューブを設け,そして前記カフよりチューブ本体の基端側で,かつカフの近傍に第2の吸引口を設け,この吸引口と連通する第3のサイドルーメンチューブをチューブ本体の軸線方向に設け,さらに該第3のサイドルーメンと連通するサイドルーメンチューブを設けたことを特徴とする気管内チューブであり(上記ア(オ)),その実施例において,患者2の気管3に挿入され,パイ ロットバルーン4を介して先端のカフ5が膨張させられて気管3内に固定され(上記ア(オ)及び第1図),カフ5の先端側に設けた吸引口20に加えて,さらにカフ5の基端側に第2の吸引口30を形成し,この開口を,チューブ本体11の肉厚内に形成した第3のサイドルーメン31,これに接続されたサイドルーメンチューブ32およびこの先端のコネクタ33を経て,適当なサクション装置に接続できよう構成したものである(上記ア(オ)及び第4図)。 そうすると,乙1発明は,「チューブ本体11を挿入する体腔の壁でチューブ本体11の外側をシールするように形成した膨脹しうる部分でチューブ本体11を包囲し,チューブ本体11に取付けるカフ5,カフ5の基端側にチューブ本体11に沿って延在させた第3のサイドルーメン31,およびカフ5の基端側にチューブ本体11の外部に開口する第2の吸引口30を有する気管内チューブ1において,サイドルーメン31をチューブ本体11に沿いチューブ本体11の肉厚内に延在させたこと,カフ5を気管3に対しシール にチューブ本体11の外部に開口する第2の吸引口30を有する気管内チューブ1において,サイドルーメン31をチューブ本体11に沿いチューブ本体11の肉厚内に延在させたこと,カフ5を気管3に対しシールするように形成し,第3のサイドルーメン31に連通している第2の吸引口30を介し第3のサイドルーメン31を用いて,カフ5前方に貯溜する粘液類をサクションするようにしたことを特徴とする気管内チューブ1」であると認められる。 ウ本件発明と乙1発明の対比本件発明は前提事実(2)イのとおりであり,これと乙1発明を対比すると,乙1発明の「チューブ本体11」,「カフ5」,「第3のサイドルーメン31」,「第2の吸引口30」,「気管内チューブ1」は,それぞれ,本件発明の「チューブ」,「カフ」,「吸引管腔」,「吸引孔」,「外科医療用チューブ」に相当するから,本件発明と乙1発明とは,①チューブを挿入する体腔の壁でチューブの外側をシールするように形成した膨脹しうる部分でチューブを包囲し,チューブに取付けるカフ,②カフの基端側 にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および,③管腔からカフの基端側のチューブの外部に開口する吸引孔を有する,④外科医療用チューブにおいて,⑤吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,⑥カフを気管に対しシールするように形成し,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物を除去するようにしたことを特徴とする,⑦外科医療用チューブ,という点で一致する。 他方で,<ア>本件発明は「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」のに対し,乙1発明はチューブの外部に開口している吸引孔がカフの近位端に直接隣接しているか否かが不明であ <ア>本件発明は「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」のに対し,乙1発明はチューブの外部に開口している吸引孔がカフの近位端に直接隣接しているか否かが不明である点(相違点1),<イ>本件発明は「両端の各カラー部分によりチューブに取付けるカフ」であって,「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成」しているのに対し,乙1発明ではチューブへのカフの取り付け態様が不明な点(相違点2),<ウ>本件発明は「吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とする」のに対し,乙1発明は分泌物をカフの直近上部で除去するようにしているか否かが不明な点(相違点3)で相違する。 エ相違点の検討(ア) まず,主引用例である乙1発明について検討するに,乙1文献には,カフの先端部に位置する吸引口について,「吸引口はカフ5に近いことが好ましい。カフ5前に貯溜した粘液等を効率よく吸引できるからである。」(上記ア(オ))と記載されているから,相違点1及び3に関し, カフに貯溜した粘液等を効率よく吸引するために,吸引孔をカフに近づけるという技術的課題が示されているといえる。 しかしながら,証拠(乙4~9)によれば,乙4~9文献においては,従来の気管内チューブでは,カフのカラー部分(端の部分)を裏側に折り重ねる(裏返す)ことなく取り付けたものが示され,かつ,カフの膨張しうる部分を裏側に折り重ねてカラーに重ねる構造のものも示されてい 従来の気管内チューブでは,カフのカラー部分(端の部分)を裏側に折り重ねる(裏返す)ことなく取り付けたものが示され,かつ,カフの膨張しうる部分を裏側に折り重ねてカラーに重ねる構造のものも示されていないことが認められるのであって,このような従来技術の内容に照らすと,吸引孔をカフに近づけるという技術的課題が設定されたからといって,そのことから直ちにカフのカラー部分の存在をその障害として意識し,それを克服するような課題設定がされるとはいえない。 乙1発明では,相違点2のとおり,チューブへのカフの取付け態様が不明であって,乙1文献の記載から吸引孔をカフに近づけるために,カフの取付け態様を工夫することが技術的課題として認識されていることはうかがわれないのであるから,吸引孔をカフに近づけるために,カフの取付け態様を工夫するという動機付けが存在しないというべきである。 (イ) 次に,証拠(乙2)によれば,乙2文献(米国特許第4,327,721号)には,その発明の目的として,「チューブの挿管中に気管壁領域に局所活性薬を投与するための手段を含む,新しい改良された気管内チューブを提供すること」,「挿管中に気管壁に蓄積された粘液が抜管後に気管支に向かって下方へ進むのを妨げるような様式で,新しく改良された気管内チューブ,および同を使用する方法を提供すること」が挙げられ(乙2訳文3頁21行~25行),発明の概要として,「本発明の好ましい実施形態により,チューブ壁に付随する管腔を介して膨張して気管壁との封止を提供できる,従来の円周方向に伸びる拡張可能バルーンまたはカフをその前端または内部端の近くに含むのが好ましい, 気管内チューブまたは挿入チューブであり,挿入チューブの周りにその壁に付随して円周方向に伸びる環状チャンバを伴う,気管内チューブ ンまたはカフをその前端または内部端の近くに含むのが好ましい, 気管内チューブまたは挿入チューブであり,挿入チューブの周りにその壁に付随して円周方向に伸びる環状チャンバを伴う,気管内チューブまたは挿入チューブを提供することにより,これらおよびその他の目的が達成される。環状チャンバは,挿入チューブのカフと後端または外部端との間に設置される。環状のチャンバの外側へ面した壁に,間隔をおいた開口部が提供される。麻酔薬または薬等の局所薬剤の導入のための管腔は,環状チャンバの内部と流体連通する前端と,挿入チューブの後端のすぐ近くに設置される後端とを有し,挿入チューブ壁に付随して提供される。好ましい実施形態においては,環状チャンバの壁の開口部は,局所薬剤をスプレーの形で送達するための霧化手段を含みうる。使用においては,挿管およびカフ膨張の後に,局所薬剤,例えば局所麻酔剤が,双方向注入ポートを伴って提供されるのが好ましい外部送達チューブを介して,管腔に導入される。それから,麻酔薬が管腔により環状チャンバに送達され,環状チャンバ開口部に設置される霧化手段を通して,気管上部の粘膜表面に分配される。効果は,挿管された気管内チューブに対する患者の耐性を,これまでには可能でなかった程度に高めることである。チューブが抜管される前に,膨張したカフの上に蓄積した粘液が,環状チャンバ壁の開口部を介してチューブを通して吸引されうる。 したがって,粘液を薄くするために,最初に環状チャンバ開口部から食塩水が分配されてから,適切な吸引の適用により,薄められた粘液が環状チャンバと連通する管腔を通して吸引されうる。」(同3頁26行~4頁18行)と記載され,その発明の気管内チューブの側横断面図として図3(別紙乙2文献の図面)が示され,好ましい実施形態の詳細な説明として, バと連通する管腔を通して吸引されうる。」(同3頁26行~4頁18行)と記載され,その発明の気管内チューブの側横断面図として図3(別紙乙2文献の図面)が示され,好ましい実施形態の詳細な説明として,「気管内チューブ10は,ポリ塩化ビニル等の可撓性プラスチック材料で形成される挿入チューブ壁16により規定される。」(同5頁9~10行),「チューブ10の前端18に隣接して,膨張時に気 管壁に対して密閉する,プラスチゾルまたはゴム材料で形成される拡張可能バルーンまたはカフ30がある。」(同5頁19行~20行),「本発明は,挿入チューブ壁16のカフ30と後端24との間に環状チャンバ44を提供することにより,これらの問題に対する解決策を提供する。 環状チャンバ44は,外壁46により規定されるが,外壁46は,挿入チューブ壁16と一体であり,挿入チューブ壁16から外側に,その周りに円周方向に伸びるのが好ましい。複数の有窓または開口部48が,チャンバ外壁46の中に形成される。」(同6頁23行~27行),「図3~5を参照すると,挿入チューブ壁16内に形成された送達管腔50は,挿入チューブ壁16に沿って縦方向に伸び,環状チャンバ44と流体連通するその前端52で終端する。」(同7頁5行~7行),「上述のように,チューブの挿管中に,膨張されたカフのすぐ上の領域の気管上部の壁に粘液が蓄積する。本発明は,チューブの抜管前に蓄積した粘液を吸い出すための極めて有利な手段を提供する。より具体的には,デバイスの好ましい使用方法においては,皮下注射器等の適切な手段により管腔50を通じて食塩水に圧力がかけられて,食塩水が環状チャンバ46の開口部48から粘液に適用され,その粘液を薄める。それから,皮下注射器等の適切な吸引源を管腔50に接続することにより,薄められた粘液 50を通じて食塩水に圧力がかけられて,食塩水が環状チャンバ46の開口部48から粘液に適用され,その粘液を薄める。それから,皮下注射器等の適切な吸引源を管腔50に接続することにより,薄められた粘液がチューブに吸い込まれる。それからカフが収縮され,チューブが抜管される。」(同8頁7行~14行)と記載されていることが認められる。 そこで,相違点2について検討するに,乙2文献の記載や図面をみても,そのカフ挿入チューブ壁に対する取付け態様において,近位カラー部分(カフの近位端を裏側に折り重ねたもの)が存在するかは不明であるというほかはない。 また,仮に,乙2文献において相違点2に係る本件発明の構成が示さ れているとしても,乙2文献の気管内チューブでは,環状チャンバ壁に開口部(吸引孔)が設けられ,当該開口部に設置される霧化手段を通して,局所薬剤が気管上部の粘膜表面に分配されるとともに,当該開口部を介して,膨張したカフの上に蓄積した粘液が吸引されるのであって,環状チャンバ壁に設けられた開口部は,局所薬剤を分配する(スプレーする)役割を併せ持つものである。そして,局所薬剤の効率的な分配を考慮するならば,開口部とカフとの間には一定程度の距離が必要と解されるのであって(別紙乙2文献の図面参照),乙2文献をみても,粘液の吸引のために,開口部をカフに近づけるという技術的課題を認識することは困難である。 そうすると,乙2文献では,乙1発明とは異なり,吸引孔をカフに近づけるという技術的課題を有しないのであるから,乙1発明に乙2文献を組み合わせることはできない。 (ウ) さらに,証拠(乙3)によれば,乙3文献(米国特許第4,850,348号)には,その発明は,「物理的問題を最適に利用して,気管チューブ 明に乙2文献を組み合わせることはできない。 (ウ) さらに,証拠(乙3)によれば,乙3文献(米国特許第4,850,348号)には,その発明は,「物理的問題を最適に利用して,気管チューブが気管内に配置されているときに,患者が経験する呼吸に対する抵抗を可能な限り減少させる」(乙3訳文3頁5行~7行)ものであり,「横方向または軸方向に移動するのを防ぐために,気管内チューブを適所に固定することが望ましい。これを達成するために,我々は,サイズが比較的小さく,大多数の患者に快適に適合し,患者の気管に吸引管または外科用ツールを挿入する手段を提供する,改良された口腔内咬合ピースを提供する」(同3頁18行~21行)ものであって,そのカフの重要な特徴及びその構造は,図3(別紙乙3文献の図面)に示され,「カフ31の遠位端は,チューブと接触して固定され,チューブの近位端の方向に向いた,環状端40を有する。カフの材料は,チューブの遠位端の方へ伸びてから,向きを逆転して環状端40を重ね,カフの近位端へ 伸びる。カフの近位端の材料は向きを逆転しない。」(同5頁17行~20行),「カフの遠位端42は,チューブの開放端44に,その開口部を妨げることなく可能な限り近くなる。その理由は,カフを気管内の声帯のすぐ下に挿入してから膨張させることができ,そうすればチューブの端がこの領域を大きく越えて伸びないためである。」(同5頁23行~26行),「チューブの開放端44の最も近くに膨張したカフの最大直径を提供するために,カフの材料は遠位端で折りたたまれる。これにより,その開放端の最適な気管内中央は位置が提供され,開放端44が気管壁と接触してその壁により完全または部分的に遮断される可能性が最小限になる。」(同5頁28行~6頁2行)と記載されていることが認め り,その開放端の最適な気管内中央は位置が提供され,開放端44が気管壁と接触してその壁により完全または部分的に遮断される可能性が最小限になる。」(同5頁28行~6頁2行)と記載されていることが認められる。 そこで,相違点2について検討するに,乙3文献のカフは,その遠位端で折りたたまれて取り付けられたものであり,本件発明のカフの近位端の取付け態様と同様のものである。しかしながら,乙3文献の技術的課題は,気管チューブが気管内に配置されているときに,患者が経験する呼吸に対する抵抗を可能な限り減少させるというものであって,吸引孔とカフとの関係を課題とするものではないから,乙1発明と乙3文献を組み合わせることはできない。 (エ) 最後に,証拠(乙10~13)によれば,乙10文献(特開昭63-226346号)には,患者の気道におけるレーザの外科的利用の間,患者の通気のために使用する装置に関する発明,乙11文献(実開昭59-105142号)には,胃等の体腔内に入った異物を磁石の吸着作用によって引抜き除去するカテーテルに関する考案,乙12文献(米国第特許1,598,283号)には,脱水装置,特に外科医が外科手術後に,膀胱や同様の人体の嚢を脱水させるのに使用できるようにした発明,乙13文献(特開昭59-135064号)には,会話可能な気管 切開用管に関する発明が示され,これらのカフの取付け態様は別紙乙10~13文献の図面のとおりであることが認められる。 そこで,相違点2について検討するに,乙10~13文献には,カフのカラー部分(端の部分)を裏側に折り重ねる技術が示されているものの,いずれも乙1発明とは技術分野の関連性が乏しいものである上,乙1発明には,吸引孔をカフに近づけるために,カフの取付け態様を工夫す のカラー部分(端の部分)を裏側に折り重ねる技術が示されているものの,いずれも乙1発明とは技術分野の関連性が乏しいものである上,乙1発明には,吸引孔をカフに近づけるために,カフの取付け態様を工夫するという動機付けが存在しないのであるから,乙1発明に乙10~13文献に記載された技術を適用することはできない。 (オ) したがって,乙1発明を主引用例として,乙2文献等を組み合わせることによって,本件発明の構成に至ることが容易想到であったとはいえない。 オ小括以上のとおり,乙1発明から本件発明を容易に想到できたとはいえないから,乙1文献に基づく無効理由(進歩性)は理由がない。 (3) 乙2文献に基づく無効理由(新規性・進歩性)の有無(争点(2)ウ)についてア乙2発明の内容上記(2)エ(イ)のとおり,乙2文献の気管内チューブ10は,①前端18に隣接して,膨張時に気管壁に対して密閉する,プラスチゾルまたはゴム材料で形成される拡張可能バルーンまたはカフ30があり,②挿入チューブ壁16内に形成された送達管腔50は,挿入チューブ壁16に沿って縦方向に伸び,環状チャンバ44と流体連通するその前端52で終端し,③挿入チューブ壁16のカフ30と後端24との間に環状チャンバ44が設けられ,複数の有窓または開口部48がチャンバ外壁46の中に形成され,④管腔50を通じて食塩水に圧力がかけられて,食塩水が環状チャンバ46の開口部48から粘液に適用され,その粘液を薄められ,皮下注射 器等の適切な吸引源を管腔50に接続することにより,薄められた粘液がチューブに吸い込まれるように構成したものである。 そうすると,乙2発明は,「チューブ10を挿入する体腔の壁で挿入チューブ壁16の外側をシールす 50に接続することにより,薄められた粘液がチューブに吸い込まれるように構成したものである。 そうすると,乙2発明は,「チューブ10を挿入する体腔の壁で挿入チューブ壁16の外側をシールするように形成した膨張しうる部分で挿入チューブ壁16を包囲し,チューブに取付けるカフ30,カフ30の前端側に挿入チューブ壁16に沿って延在させた送達管腔50,および挿入チューブ壁16のカフ30と後端24との間に設けられた環状チャンバ44のチャンバ外壁46に外部に開口する開口部48を有する気管内チューブ10において,送達管腔50を挿入チューブ壁16に沿い挿入チューブ壁16の壁厚内に延在させたこと,カフ30を気管に対しシールするように形成し,送達管腔50に導通している開口部48を介し送達管腔50を用いてカフ30上の気管に集められる分泌物を除去するようにしたことを特徴とする気管内チューブ10」であると認められる。 イ本件発明と乙2発明の対比本件発明は前提事実(2)イのとおりであり,これと乙2発明を対比すると,乙2発明の「挿入チューブ壁16」,「カフ30」,「送達管腔50」,「開口部48」,「気管内チューブ10」は,それぞれ,本件発明の「チューブ」,「カフ」,「吸引管腔」,「吸引孔」,「外科医療用チューブ」に相当するから,本件発明と乙2発明とは,①チューブを挿入する体腔の壁でチューブの外側をシールするように形成した膨脹しうる部分でチューブを包囲し,チューブに取付けるカフ,②カフの前端側にチューブに沿って延在させた吸引管腔,および,③管腔からカフの前端側のチューブの外部に開口する吸引孔を有する,④外科医療用チューブにおいて,⑤吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,⑥カフを気管にシールするように形成し,吸引管腔 からカフの前端側のチューブの外部に開口する吸引孔を有する,④外科医療用チューブにおいて,⑤吸引管腔をチューブに沿いチューブの壁厚内に延在させたこと,⑥カフを気管にシールするように形成し,吸引管腔に導通している吸引孔を介し吸引管腔を用いてカフ上の気管に集められる分泌物を除去するようにしたこ とを特徴とする,⑦外科医療用チューブ,という点で一致する。 他方で,<ア>本件発明は「両端の各カラー部分によりチューブに取付けるカフ」であるのに対し,乙2発明はカフの各カラー部分(端の部分)が存在するか否かが不明な点(相違点1),<イ>本件発明は「管腔からカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口する吸引孔を有する」のに対し,乙2発明はカフの近位端に直接隣接するチューブの外部に開口しているか否かが不明な点(相違点2),<ウ>本件発明は「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨脹しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨脹しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した」のに対し,乙2発明は近位カラー部分(カフの近位端を裏側に折り重ねたもの)が存在するか否かが不明な点(相違点3),<エ>本件発明は「吸引管腔(14)に導通している吸引孔(19)を介し吸引管腔(14)を用いてカフ上の気管に集められる分泌物をカフ(12)の直近上部で除去するようにしたことを特徴とする」のに対し,乙2発明は分泌物をカフの直近上部で除去するようにしているか否かが不明な点(相違点4)で相違する。 ウ新規性違反について上記イのとおり,本件発明は,乙2発明と対比すると,相違点が認められるのであって,本件発明と乙2発明とは同一の発明ではないから,本件発明の新規性を否定するこ ウ新規性違反について上記イのとおり,本件発明は,乙2発明と対比すると,相違点が認められるのであって,本件発明と乙2発明とは同一の発明ではないから,本件発明の新規性を否定することはできない。 エ進歩性違反について本件発明と乙2発明との相違点について検討するに,被告は,乙2発明と周知技術を適用することによって,本件発明の構成を容易に想到することができた旨主張する。 しかしながら,相違点2及び4について,その構成を開示する文献が見当たらないし,仮に,そのような文献が存在したとしても,上記(2)エ(イ )のとおり,乙2文献では,吸引孔をカフに近づけるという技術的課題を有しないのであるから,上記課題のために周知技術を適用する前提に欠けるというべきである。 したがって,その余について判断するまでもなく,乙2発明を主引用例として,周知技術を適用することによって,本件発明の構成に至ることが容易想到であったとはいえない。 オ小括以上のとおり,本件発明は乙2発明と同一ではなく,乙2発明から本件発明を容易に想到することができたとはいえない。したがって,乙2文献に基づく無効理由(新規性・進歩性)は理由がない。 3 被告が被告製品を製造しているか(争点(3))について証拠(甲4,5)によれば,被告製品のパンフレット及び添付文書には製造販売元として被告が記載され,他方で,上記添付文書には外国製造業者名として,メキシコ所在のエムエムジェイ・エスエー・ド・シーブイが記載されていることが認められる。 そこで検討するに,薬事法2条12項は,「製造販売」を「その製造等(他に委託して製造をする場合を含み,他から委託を受けて製造をする場合を含まない。以下同じ。 載されていることが認められる。 そこで検討するに,薬事法2条12項は,「製造販売」を「その製造等(他に委託して製造をする場合を含み,他から委託を受けて製造をする場合を含まない。以下同じ。)をし,又は輸入をした医薬品(原薬たる医薬品を除く。),医薬部外品,化粧品又は医療機器を,それぞれ販売し,賃貸し,又は授与することをいう。」と定義し,自ら製造等を行う場合のみならず,輸入した医薬品等を販売する行為も含めているから,管理医療機器(同条6項参照)である被告製品のパンフレット及び添付文書に販売製造元として被告が記載されているとしても,被告自らが被告製品を製造しているとは直ちに認められない。他方で,上記添付文書には外国製造業者名としてエムエムジェイ・エスエー・ド・シーブイが記載されていることに照らすと,実際にはエムエムジェイ・エスエー・ド・シーブイが被告製品を製造していると認めるのが相当である。 したがって,被告が被告製品を製造しているとは認められない。 4 まとめ以上のとおり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するところ,本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。他方で,被告は,被告製品を輸入,販売しているものの,その製造をしていないから,原告の請求は,被告に対し,①特許法100条1項に基づく差止請求として被告製品の輸入,販売の禁止,②同条2項に基づく廃棄請求として被告製品の廃棄を求める限度で理由がある。 5 結論よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 裁判官菊池絵理 事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋 裁判官 菊池絵理 裁判官 小川雅敏 (別紙)物件目録「TaperGuardEvac気管チューブ」との名称を有する気管チューブ以上
▼ クリックして全文を表示