平成6(行ウ)31 平成6年(行ウ)第31号 公金支出差止請求事件(以下「甲事件」という。)平成12年(行ウ)第7号 損害賠償等代位請求事件(以下「乙事件」という。)

裁判年月日・裁判所
平成13年1月17日 横浜地方裁判所 住民訴訟
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判決文本文65,041 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 甲事件関係ア被告神奈川県知事は,同被告が平成5年3月23日にした横浜国際港都建設計画都市高速鉄道第1号市営地下鉄1号線に関する都市計画変更決定に基づく鉄道建設事業のうち伊勢山シールド立坑から境川までの区間及び同被告が同日にした藤沢都市計画都市高速鉄道1号都市高速鉄道1号線に関する都市計画決定に基づく鉄道建設事業のうち境川から湘南台駅手前までの区間の各工事につき,神奈川県の公金を支出してはならない。 イ被告横浜市長は,同神奈川県知事が平成5年3月23日にした横浜国際港都建設計画都市高速鉄道第1号市営地下鉄1号線に関する都市計画変更決定に基づく鉄道建設事業のうち伊勢山シールド立坑から境川までの区間横浜地方裁判所の工事につき,横浜市の公金を支出してはならない。 ウ被告藤沢市長は,同神奈川県知事が平成5年3月23日にした藤沢都市計画都市高速鉄道1号都市高速鉄道1号線に関する都市計画決定に基づく鉄道建設事業のうち境川から湘南台駅手前までの区間の工事につき,藤沢市の公金を支出してはならない。 (2) 乙事件関係ア被告P1は,横浜市に対し,416億3462万6000円及びこれに対する平成12年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 イ被告P2は,神奈川県に対し,17億9845万4000円及びこれに対する平成12年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ウ被告P3は,藤沢市に対し,3億7071万8000円及びこれに対する平成12年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 エ被告P4は,藤沢市に対し,11億1350万8000円及びこれに 告P3は,藤沢市に対し,3億7071万8000円及びこれに対する平成12年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 エ被告P4は,藤沢市に対し,11億1350万8000円及びこれに対する平成12年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 両事件共通訴訟費用は被告らの負担とする。 2 請求の趣旨に対する答弁(全被告らの答弁)(1)本案前の答弁ア本件訴えをいずれも却下する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 (2) 本案の答弁ア原告らの請求をいずれも棄却する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要本件の甲事件は,被告神奈川県知事がした横浜市営地下鉄1号線に係る都市計画決定に基づく鉄道建設工事について,原告らが被告神奈川県知事,同横浜市長及び同藤沢市長に対して公金の支出の差止めを求めた住民訴訟である。 また,本件の乙事件は,被告P1が横浜市長として上記鉄道建設事業費に充てる目的で横浜市の一般会計出資金,一般会計補助金及び負担金として支出した金員,被告P2が県知事として同一の目的で横浜市に対し補助金として支出した金員,被告P3及び同P4が藤沢市長として同一の目的で横浜市に対し補助金として支出した金員について,原告らが横浜市,神奈川県,藤沢市に代わって,上記被告らに対して支払を求めた住民訴訟である。 第3 当事者の主張 1 請求原因(1) 当事者ア原告番号1ないし57の原告ら(以下「横浜市原告ら」という。)は,横浜市の住民である。 イ原告番号58ないし150の原告ら(以下「藤沢市原告ら」という。)は,神奈川県藤沢市(以下,単に「藤沢市」という。)の住民である。 ウ乙事件被告P2は,平成7年4月1日当時から口頭弁論終結日である平成12年5月24日まで神奈川県知事の,同被告 原告ら」という。)は,神奈川県藤沢市(以下,単に「藤沢市」という。)の住民である。 ウ乙事件被告P2は,平成7年4月1日当時から口頭弁論終結日である平成12年5月24日まで神奈川県知事の,同被告P1は,同期間横浜市長の職にあった。 エ乙事件被告P3は,平成7年4月1日当時から平成8年1月末日まで,同被告P4は,平成8年2月1日から口頭弁論終結日である平成12年5月24日まで,それぞれ藤沢市長の職にあった。 (2) 本件事業内容ア本件都市計画決定等横浜市は,神奈川県知事により既に都市計画決定のされていた横浜国際港都建設計画都市高速鉄道第1号市営地下鉄1号線(以下「市営地下鉄1号線」又は「本件鉄道」ということがある。)の既設の部分を,戸塚駅から西に7.39キロメートル(横浜市域に所在する分が6.35キロ,藤沢市域に所在する部分が1.04キロ)延伸して(以下,この本件鉄道の延伸部分を「本件延伸部分」ということがある。)小田急電鉄江ノ島線湘南台駅に接続する都市高速鉄道延伸事業(以下「本件事業」ということがある。)計画を立て,藤沢市との間で地方自治法244条の3第1項に基づく協議をし,平成2年11月20日,これを藤沢市域内の今田から湘南台1丁目までに延伸して設置することの了解を得,平成3年4月19日,戸塚から湘南台に及ぶ区間について鉄道事業法に基づく鉄道事業の免許を取得し,同年9月5日,運輸大臣による工事施行の認可を受けた。 被告神奈川県知事(以下「被告知事」という。)は,平成5年3月23日,市営地下鉄1号線を横浜市泉区下飯田町,和泉町及び中田町並びに戸塚区汲沢8丁目,汲沢2丁目,汲沢1丁目,矢部町及び戸塚町地内に延伸することを内容とする横浜国際港都建設計画都市高速鉄道第1号市営地下鉄1号線に関する都市計画の変更決定(以下「横浜都市計 町並びに戸塚区汲沢8丁目,汲沢2丁目,汲沢1丁目,矢部町及び戸塚町地内に延伸することを内容とする横浜国際港都建設計画都市高速鉄道第1号市営地下鉄1号線に関する都市計画の変更決定(以下「横浜都市計画変更決定」という。)をし,その旨告示した。また被告知事は,同日,本件延伸部分の藤沢市域内の今田から湘南台1丁目の区間について,藤沢都市計画都市高速鉄道1号都市高速鉄道1号線として都市計画決定(以下「藤沢都市計画決定」といい,横浜都市計画変更決定と併せて「本件都市計画決定等」という。)をし,同日その旨告示した。 横浜市は,平成5年8月31日,本件都市計画決定等について,被告知事から認可を受け,本件事業に関する工事を都市計画事業として施行することになった。 イ相模鉄道の鉄道事業相模鉄道株式会社は,相模鉄道いずみ野線(以下「相鉄いずみ野線」という。)をいずみ中央駅(高架)から西南に3キロメートル延伸して湘南台駅に接続し,湘南地区まで路線を延伸する事業計画を有しており,昭和40年代に上記計画について鉄道事業免許を受けた。 その一区間として,いずみ中央駅から湘南台駅までの延伸の工事について運輸大臣の工事施行認可を受けている。 ウ本件事業計画(一部地上式の採用)本件延伸部分のうち,戸塚から立場駅までの区域(横浜市域)は,市街化が進んだ台地である。立場駅から湘南台駅までの区域(横浜市域及び藤沢市域)は,和泉川,境川を跨ぎ,郊外の田園の広がる和泉)地区,下飯田地区を経て,市街地の湘南台地区を繋ぐ,やや起伏のある地形である。そして,上記3つの地区はいずれも台地であって,境川が両市の境であり,境川以東の横浜市域部分は,田園地帯の中に所々住宅密集地が点在し,道路としても農道を利用したものが多い地域である。 本件事業は,戸塚駅から立場駅までを地下シールド 台地であって,境川が両市の境であり,境川以東の横浜市域部分は,田園地帯の中に所々住宅密集地が点在し,道路としても農道を利用したものが多い地域である。 本件事業は,戸塚駅から立場駅までを地下シールドトンネルを主体とした地下構造とし,立場駅から湘南台駅までを地上式の開削掘割構造及び高架構造(橋梁)として計画された(以下「本件計画」といい,路線の一部を地上面に敷設する計画内容を「一部地上式」と,地上部分を「本件地上施設部分」ということがある。別紙1参照。)。ただし,本件訴訟提起後,本件計画では開削掘割構造で建設される予定であった区間の一部(下飯田地区及び泉ヶ丘地区における740メートルの区間)が開削埋戻工法(開削トンネル)による地下式構造に変更された。なお,藤沢市の部分は相鉄いずみ野線と湘南台の地下駅で連結し,それぞれ小田急線湘南台駅に地下から連絡する構造になっており,湘南台地下駅部分及び地上から地下駅に至る線路部分は,開削埋戻工法(地下式)で建設される計画であり,境川を横断する高架橋付近から,本件鉄道は相鉄いずみ野線と並走する構造となっている(以下,本件鉄道が相鉄いずみ野線と並走する区間を「本件並走区間」という。)。 (3) 本件都市計画決定等の違法ア手続的違法性(ア) 被告らによる事業費算定の誤り地下式構造は,地上式構造に比べ,環境維持保全等の点で優れているから,鉄道敷設事業である本件事業を策定する場合には,まず路線のすべてを地下化する可能性を検討すべきであり,技術的に可能であれば合理的な理由がない限り,すべての路線を地下化する方式(以下「全線地下式」ということがある。)による事業計画を採用しなければならない。 被告らは,全線地下式を採用しなかったが,その理由につき,もっぱら事業費が増大するとしている。すなわち,被告らは,甲事 下「全線地下式」ということがある。)による事業計画を採用しなければならない。 被告らは,全線地下式を採用しなかったが,その理由につき,もっぱら事業費が増大するとしている。すなわち,被告らは,甲事件の提起された時において,既に開通していた路線のうち上永谷駅から戸塚駅間(シールドトンネルによる地下式構造の区間である。)の事業費の1キロメートル当たりの単価(以下「1キロ単価」という。)約230億円を本件事業における予想単値の基準として,本件延伸部分に全線地下式を採用した場合,一部地上式の本件計画と比べて,事業費が約300億円増加すると試算していた。 しかしながら,地上式の計画の場合は,多額の用地費や土地取得に関する交渉のための費用がかかるが,地下化によりその費用を大幅に削減することができ,総事業費としては本件計画とほぼ同程度か,より低額で施工できる可能性さえあり,上記試算は明らかに不合理である。 (イ) 虚偽の事業費試算に基づく欺罔被告知事らは,本件都市計画決定等を行うに際して,事業地及びその沿線に居住する住民らの全線地下化の要望に対して,総事業費が300億円増加し,事業が不可能になるとして,その要望を拒絶し,一部地上式を採用した本件都市計画等を行った。しかし,前記のとおり,被告らの試算は極めて不合理であるから,被告らは,意図的に虚偽の試算を行い,横浜市議会,環境影響評価審査会,神奈川県都市計画地方審議会並びに説明会及び公聴会に参加した住民らを欺罔していたのであって,本件都市計画決定等に至る手続きは,著しく不公正である。 (ウ) 都市計画地方審議会における適正な審議の阻害都道府県知事が都市計画決定等をするときは,都市計画地方審議会の議を経なければならず(都市計画法18条1項),都道府県知事は,同審議会における検討に際して,当該都市 審議会における適正な審議の阻害都道府県知事が都市計画決定等をするときは,都市計画地方審議会の議を経なければならず(都市計画法18条1項),都道府県知事は,同審議会における検討に際して,当該都市計画案に対する住民及び利害関係人の意見を参考にさせるために,同法17条2項によって提出された関係市町村の住民及び利害関係人の「意見書の要旨」を同審議会に提出しなければならない(同法18条2項)。しかしながら,本件都市計画決定等における都市計画地方審議会に対して提出された「意見書の要旨」(以下「本件意見書の要旨」という。)(甲40)では,現計画に反対する意見や構造形式(一部地上式)に反対する意見が,冒頭で「賛成意見」又は「その他」に分類されており,著しく誤謬に満ちている。被告らは,意図的に住民らの意見を歪曲して同審議会に示し,同審議会における適正な審議を阻害したもので,到底住民らの意見が適正に同審議会に示されたとはいえない。 イ実体的違法性(ア) 環境破壊・公害発生a 自然環境,眺望・景観の破壊平成5年11月に施行された環境基本法は,自然環境保全のため,環境への負荷が少ない社会経済活動の構築を求め,国及び地方公共団体に対して,その理念にのっとった施策の策定,実施を義務づけている(同法6・7条)。 神奈川県は昭和58年にかながわ環境プランを策定し,横浜市も昭和61年に環境管理計画(環境プラン21)を策定している。双方に共通した理念は,環境基本法の理念を先んじて取り入れ,都市化の進展の中で残り少ない貴重な自然を保全しようというものである。したがって,上記計画を自ら策定した県及び市は他の事業者や住民の模範として自然の保全を守る責務があるというべきである。 本件地上施設部分の周辺の地域(以下「本件地上施設周辺区域」という。)は,横浜市においては 上記計画を自ら策定した県及び市は他の事業者や住民の模範として自然の保全を守る責務があるというべきである。 本件地上施設部分の周辺の地域(以下「本件地上施設周辺区域」という。)は,横浜市においては残り少ない田園及び山林の残る丘陵地帯が広がっており,和泉川,境川の周辺には,自然の花,草地が存在している。上記農地及び山林等は,緑地として保全されるべき貴重な自然であり,このような地域に地上式の高速鉄道を通すことは,回復し難い自然破壊につながり,かつ良好な眺望・景観を損なうこととなり,原告ら多くの市民が損害を負うといわざるを得ない。 b 騒音・振動等の公害の発生本件地上施設周辺区域は,いずれも閑静な住宅地ないし田園地帯である。横浜市は,昭和49年7月30日横浜市公害対策審議会建議において,鉄道騒音のレベルを70デシベル以下にすることを保全目標として掲げ,本件事業についても,横浜市,藤沢市共にそれぞれの環境アセスの評価書や審査過程などでは,70デシベル以下を騒音の基準目標としている。 しかしながら,まず,昭和49年の保全目標を基準目標として設定することは,それ自体環境保全の努力を怠ったもので,不作為の違法がある。また,仮に本件鉄道の走行だけで70デシベルを超える騒音被害が発生しないとしても,本件並走区間では本件鉄道と相鉄いずみ野線とが同時に走行することが起こり得るため,それによって70デシベルを超える騒音被害が発生することが強く予測される。さらに,本件地上施設周辺区域では,沿線住民に列車の走行に伴う振動の被害が生ずることも予想される。 c 都市計画基準違反都市計画は,本件鉄道のような都市施設について良好な都市環境を保持するように定めなければならず(都市計画法13条1項6号(甲事件の訴えの提起当時は5号)),また,当該都市に公害防止計画が 基準違反都市計画は,本件鉄道のような都市施設について良好な都市環境を保持するように定めなければならず(都市計画法13条1項6号(甲事件の訴えの提起当時は5号)),また,当該都市に公害防止計画が定められているときは,都市計画は当該公害防止計画に適合したものでなければならない(同条1項柱書)。一部地上式を採用した本件計画は,上記自然環境の破壊及び公害の発生を伴うものであるから,都市計画法13条が定める都市計画基準に反し,違法かつ無効である。 (イ) 震災被害拡大の可能性横浜市と藤沢市は,近い将来東海地震ないし首都圏直下地震に見舞われると予想されている。しかしながら,本件延伸部分のうち,本件地上施設部分の構造は,関東大震災クラスの震度6の地震を念頭においた旧来の耐震基準によったものであるため,平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震クラスの地震に耐える構造になっていない。したがって,かかる大規模地震が発生した場合,本件地上施設周辺区域においては,沿線住民及び本件鉄道利用者の生命,身体,財産等に甚大な被害が発生するおそれがある。他方,地下構造物は,地上構造物に比べて震災の際の被害が少ないことは実証済みであり,本件地上施設部分を地下化すれば震災による被害を予防することができる。 本件事業は,県民,市民に責任を持つべき被告ら地方公共団体の計画する事業として,より一層の安全への配慮,検討がなされるべきであり,現計画による本件地上施設部分が危険であることが明白であれば,その都市計画は無効とされるべきである。 (ウ) 本件都市計画決定等による土地利用制限の不合理性本件事業は一部地上式を採用したため,本件地上施設周辺区域の土地については,鉄道建設予定地であることを理由に,土地建物の所有者等に対して利用制限及び譲渡制限等の各種制限を課されること 限の不合理性本件事業は一部地上式を採用したため,本件地上施設周辺区域の土地については,鉄道建設予定地であることを理由に,土地建物の所有者等に対して利用制限及び譲渡制限等の各種制限を課されることになる(都市計画法57条の3第1項,57条の4)。しかし,このような制限は全線を地下式にすれば本来必要のないものである。そして,本件鉄道は,全線を地下化することが技術的にも経済的にも可能であり,また,その方が事業全体のコストも低額に済む可能性が高い。したがって,本件事業における上記制限は公共の福祉に適合する合理的な制限ということはできず,かかる本件地上施設部分の建設を内容とする本件都市計画決定等は憲法29条に違反する。 (4) 本件公金支出の違法性ア本件公金支出の確実性前記のとおり,本件事業については,被告知事によって,都市計画決定等及びその認可が行われており,横浜市は,既に民間企業に対して工区ごとに発注契約を締結している。したがって,本件事業に対して,甲事件被告らがそれぞれ,神奈川県,横浜市及び藤沢市(以下「本件各自治体」という。)の公金を支出することは相当の確実さをもって予測され,甲事件提起後後記(6)のとおり現実のものとなった。(以下,この公金の支出を「本件公金支出」という。)イ原因行為(本件都市計画決定等)の違法による本件公金支出の違法本件都市計画決定等には前記のとおり重大かつ明白な違法があるから,本件公金支出は,それを承継し違法となる(最高裁判所昭和52年7月13日大法廷判決,最高裁判所昭和57年7月13日第3小法廷判決,最高裁判所昭和60年9月12日第1小法廷判決参照)。 ウ本件公金支出自体の違法性被告らが主張するように,本件事業に関して甲事件被告らが支出する公金が地方自治法232条の2の補助金又は地方公営企業法1 所昭和60年9月12日第1小法廷判決参照)。 ウ本件公金支出自体の違法性被告らが主張するように,本件事業に関して甲事件被告らが支出する公金が地方自治法232条の2の補助金又は地方公営企業法17条の2の負担金もしくは同法17条の3の補助金に該当するもので,本件都市計画決定等はその支出根拠とならず,その支出とは無関係であるとしても,次のとおり,本件公金支出は違法である。 (ア) 地方自治法232条の2違反地方公共団体が補助金を支出するには,公益上の必要性があることが必要である(地方自治法232条の2)。しかし,本件事業は,前記のとおり,その沿線地域の環境を著しく破壊し,また騒音・振動・日照阻害や震災時の高架橋倒壊等により沿線住民の生命・身体に危害を与え,事業予定地及び沿線に居住する住民の権利を侵害する違法な鉄道建設事業である。そして,全線地下式による鉄道建設が技術的にも経済的にも可能であるから,全線地下化すれば上記違法事由が解消される。それにもかかわらず,甲事件被告らは全線地下式の採用を検討せずに,一部地上式を内容とする本件事業に対して公金を支出しようとしている。よって,被告らは,要考慮事項の考慮を尽くすべき義務を果たしておらず,「公益上の必要性」の判断において,その裁量権を逸脱した違法がある。 (イ) 地方公営企業法17条の2・3違反地方公営企業に関しては,独立採算性の原則の下,一般会計からの繰入金に対しては厳格な規制が加えられており(地方財政法6条),この原則の例外である地方公営企業法17条の2は,鉄道事業である本件事業に適用されない。また,同法17条の3は本件事業に適用されるが,補助金の支出は「災害復旧その他特別の理由により必要がある場合」に限られている。その趣旨は,その支出を欠くと企業の公益目的が阻害されるとか事業規 ない。また,同法17条の3は本件事業に適用されるが,補助金の支出は「災害復旧その他特別の理由により必要がある場合」に限られている。その趣旨は,その支出を欠くと企業の公益目的が阻害されるとか事業規模の縮小を余儀なくされるような事態が到来するという場合に限定して,補助金の支出を許容することにある。 ところが,甲事件被告らは高架式を含む路線延長が企業の公益目的維持に必要であるとの説明をしておらず,これを考慮していない。また,同被告らは,最近の技術水準を前提にして全線を地下化した場合の経費について試算をしていない。このような被告らによる横浜市の地方公営企業(その管理者は横浜市交通局長)たる鉄道事業に対する補助金等の公金支出は,同法17条の2に該当せず,また同法17条の3所定の要件を欠くものであり,違法である。 (ウ) 地方財政法4条1項違反地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない(地方財政法4条1項)。したがって,被告らが本件事業に対して公金を支出する場合は,その支出が必要かつ最少の限度であるか否かを判断する前提として,一部地上式だけではなく,全線地下式を採用した場合の事業費の試算を行わなければならない。 さらに,本件事業においては,本件地上施設部分を地下化した場合,総事業費としては現計画とほぼ同程度か,より低額で施工できる可能性があった。にもかかわらず,被告らは,本件地上施設部分を地下化した場合には,事業費が大幅に増額となることが明らかであると断定し,全線地下式を採用した場合の具体的な事業費を試算することなく,一部地上式のルートを策定して公金を支出しようとしており,考慮すべき事項を考慮していない重大かつ明白な違法がある。 (5) 回復し難い損害の発生本件都市計画事業費の総額は,12 試算することなく,一部地上式のルートを策定して公金を支出しようとしており,考慮すべき事項を考慮していない重大かつ明白な違法がある。 (5) 回復し難い損害の発生本件都市計画事業費の総額は,1237億4400万円であり,便宜平成7年7月21日時点でみると,横浜市は,本件延伸部分の約52パーセントにあたる区間の土木工事(契約金額にして465億2700万円)について発注済みである。このような額の公金が支出されれば,本件各自治体の財政に与える影響は甚大であり,本件各自治体には回復困難な損害が発生するおそれがある。 (6) 乙事件被告らによる公金の支出ア被告P2は,神奈川県知事として,本件鉄道建設事業費に充てる目的で,横浜市に対し,平成7年4月1日から平成11年3月末までの間に,神奈川県の公金より補助金として合計17億9845万4000円を支出した。 イ被告P1は,横浜市長として,本件鉄道建設事業費に充てる目的で,平成7年4月1日から平成11年3月末までの間に,横浜市の公金より一般会計出資金として194億0818万4000円,一般会計補助金として190億2644万2000円,負担金として32億円の合計416億3462万6000円を支出した。 ウ被告P3は,藤沢市長として,本件鉄道建設事業費に充てる目的で,横浜市に対し,平成7年4月1臼から平成8年1月末までの間に,藤沢市の公金より補助金として1億5371万8000円,負担金として2億1700万円の合計3億7071万8000円を支出した。 エ被告P4は,藤沢市長として,本件鉄道建設事業費に充てる目的で,横浜市に対し,平成8年2月1日から平成11年3月末までの間に,藤沢市の公金より補助金として7億4550万8000円,負担金として3億6800万円の合計11億1350万8000円を支出した。 で,横浜市に対し,平成8年2月1日から平成11年3月末までの間に,藤沢市の公金より補助金として7億4550万8000円,負担金として3億6800万円の合計11億1350万8000円を支出した。 (7) 監査請求の前置平成6年7月7日,原告らは神奈川県の監査委員に対し,横浜市原告らは横浜市の監査委員に対し,及び藤沢市原告らは藤沢市の監査委員に対し,それぞれ,地方自治法242条1項に基づいて本件公金支出の差止め等を求める住民監査請求(以下まとめて「本件各監査請求」と,個別には「本件監査請求」という。)をした。しかしながら,横浜市監査委員は同年8月4日,藤沢市監査委員は同月5日,神奈川県監査委員は同月8日,それぞれ上記監査請求を却下する旨の決定をし,その通知書は同月5日,同月8日,同月9日にそれぞれの請求人らに到達した。 上記の通知書には,本件各監査請求を却下した理由として,いずれも,高速鉄道事業の事業計画は一般行政上の行為であり,財務会計上の行為ではないので,住民監査請求の対象とはならない旨が記載されている。 (8) 結語よって,原告らは被告知事,横浜市原告らは被告横浜市長,藤沢市原告らは被告藤沢市長に対し,それぞれ地方自治法242条の2第1項1号に基づき,本件事業のうち伊勢山シールド立坑から湘南台駅手前までの区間の工事につき,一切の公金の支出をしないように命ずる判決を求める。 また,地方自治法242の2第1項4号に基づき,不法行為による損害賠償として,乙事件原告らは神奈川県に代位して被告P2に対し17億9845万4000円,原告番号15,17,24,48ないし51,53及び57の横浜市原告らは横浜市に代位して被告P1に対し416億3462万6000円,原告番号58,70,76,77及び106の藤沢市原告らは藤沢市に代位して被告 5,17,24,48ないし51,53及び57の横浜市原告らは横浜市に代位して被告P1に対し416億3462万6000円,原告番号58,70,76,77及び106の藤沢市原告らは藤沢市に代位して被告P3に対し3億7071万8000円,及び被告P4に対し11億1350万8000円,並びに上記各金員に対する乙事件の訴状送達の日の翌日である平成12年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を,それぞれ求める。 2 被告らの本案前の主張(1) 監査請求の対象行為の不適法性(下記アに係る主張は被告藤沢市長,同P4及び同P3,同イに係る主張は全被告)本件各訴えは地方自治法242条の2に基づくものであり,同法242条1項に基づく適法な住民監査請求を経なければならない。しかしながら,原告らが行った本件各監査請求は,いずれも次の理由により不適法である。したがって,本件各訴えは,適法な住民監査請求を経ておらず,不適法である。 ア監査請求の対象行為の不特定住民監査請求においては,対象となる行為の特定を要するのであり(最高裁判所平成2年6月5日第3小法廷判決・民集44巻4号719頁),支出の差止めを求めるのであれば,それぞれの支出を他の事項から区別して特定認識できるよう個別具体的に摘示した上で,その支出ごとの違法性,不当性の判断を求めなければならない。本件において,被告藤沢市長は,神奈川県及び横浜市との覚書に基づいて,横浜市に対して公金を支出しているのであって,工事費自体を支出しているわけではない。監査請求人の原告らは,本件各監査請求で「戸塚から湘南台間の横浜市営地下鉄の延長工事」のように工事名を摘示することで差止めの対象を特定しようとしているが,これでは差し止めるべき藤沢市長の公金支出が特定されているといえない。したがって,本件各監査請 南台間の横浜市営地下鉄の延長工事」のように工事名を摘示することで差止めの対象を特定しようとしているが,これでは差し止めるべき藤沢市長の公金支出が特定されているといえない。したがって,本件各監査請求は対象の特定を欠いている。 イ財務会計上の行為性の欠如監査請求人の原告らは,本件都市計画決定等の内容及び手続きが違法であるから,それを基礎とする本件事業に対し被告らが公金を支出することも違法であると主張するが,その主張の実質は,本件都市計画決定等の変更及び本件事業の計画変更を求めるものである。しかしながら,本件都市計画決定等及び本件事業内容の決定は,一般行政上の行為であって財務会計上の行為ではないから,住民監査請求の対象とならないというべきである。 (2) 住民訴訟の対象性(財務会計上の行為性)の欠如(被告知事,同P2の主張)住民訴訟の目的は地方財務行政の適正な運営を確保することにあり,住民訴訟の対象は普通地方公共団体の機関及び職員の財務会計上の行為に限られる。しかしながら,原告らが本件公金支出の違法事由として主張する本件都市計画決定等及び本件事業は,いずれも財務会計上の行為に当たらない。本件各訴えは,財務会計上の行為以外の行政行為一般を対象としており,住民訴訟の趣旨を逸脱した不適法なものである。 (3) 訴えの対象の不特定(被告横浜市長の主張)原告らは,本件事業の横浜市域部分のうち「伊勢山シールド立坑から境川までの区間」及び藤沢市域部分のうち「境川から湘南台駅の手前までの区間」の工事に対する公金の支出の差止めを求めているが,被告らが実際に支出した公金は,横浜市域部分ないし藤沢市域部分に対する支出というように特定されることはあっても,より詳細に各区間(工区)の工事に対する支出として特定されているわけではない。したがって,原告らが差止 出した公金は,横浜市域部分ないし藤沢市域部分に対する支出というように特定されることはあっても,より詳細に各区間(工区)の工事に対する支出として特定されているわけではない。したがって,原告らが差止めを求めている上記区間の工事に対して支出される公金を特定することは不可能であるから,甲事件の訴えの対象は特定されていないといわざるを得ない。 (4) 監査請求の非前置(乙事件におけるもの)ア監査請求と乙事件との対象の非同一性(被告P1の主張)監査請求前置の要件を満たすためには,監査請求の対象とされた行為又は事実と住民訴訟の対象とされた行為又は事実とが同一であることを要する。しかしながら,本件各監査請求と乙事件の訴えとでは相手方が異なり,また,本件各監査請求が公金の差止めを求めるのに対して,乙事件の請求の趣旨が損害賠償代位請求であって,両者の請求の内容が異なっている。以上の点に照らせば,本件各監査請求の対象と乙事件の対象とは同一ではないというべきである。したがって,乙事件の訴えは監査請求を前置していない。 イ監査請求の不存在(市長就任前の監査請求。被告P4の主張)被告P4が藤沢市長に就任したのは,平成8年2月26日であるから,原告らが平成6年7月7日付けでした藤沢市監査委員に対する住民監査請求は,被告P4に対する訴えの前提要件にはならないというべきである。 (5) 出訴期間の徒過(被告P1の主張)仮に,本件各監査請求と乙事件の訴えとの間に同一性が肯定され,乙事件提訴に際し新たな監査請求が必要ないとしても,遅くとも,原告らが当該公金の支出があったことを知り得た日から30日以内に損害賠償代位請求に係る訴え(乙事件の訴え)を提起すべきである。ところで,原告らは,甲事件の審理中の平成12年1月24日には,被告横浜市長から丙第37号証の送付を受 たことを知り得た日から30日以内に損害賠償代位請求に係る訴え(乙事件の訴え)を提起すべきである。ところで,原告らは,甲事件の審理中の平成12年1月24日には,被告横浜市長から丙第37号証の送付を受け,平成7年度ないし同10年度における合計416億3462万6000円の本件公金の支出を知り得たのであるから,遅くとも同日から30日以内に提起すべきであるのに,乙事件の訴えは平成12年2月29日に提訴されているから不適法である。 3 被告らの本案前の主張に対する原告らの反論(1)監査請求の対象行為の適法性(被告らの本案前の主張(1)に対するもの)監査請求が本来適法であるにもかかわらず,監査委員がそれを不適法であるとして却下した場合には,監査委員が監査の請求があったにもかかわらず監査又は勧告を行わない場合に該当し,地方自治法242条の2第1項本文に基づいて,住民訴訟を提起することができるというべきである。 そして,次のとおり,原告らは適法な監査請求を行っているから,被告らの本案前の主張は理由がない。 ア監査請求の対象行為の特定原告らは,本件各監査請求において,「戸塚から湘南台間の横浜市営地下鉄の延長工事」に対する「公金支出」に限定してその差止めを求めており,他の事項から区別して監査請求の対象を特定している。 また,被告らの引用する判例は,当該行為等の性質,目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合には他の行為などと区別して特定認識できるように個別的,具体的に摘示する必要はない旨判示していると考えられる。本件各監査請求では,本件事業に対する公金の支出の違法性を指摘しているのであるから,公金支出の違法性又は不当性について一体的に判断するのが相当な場合というべきであって,個々の公金の支出を1件ずつ個別的, 各監査請求では,本件事業に対する公金の支出の違法性を指摘しているのであるから,公金支出の違法性又は不当性について一体的に判断するのが相当な場合というべきであって,個々の公金の支出を1件ずつ個別的,具体的に摘示する必要はない。 イ財務会計上の行為原告らは,本件計画どおり本件事業が遂行され,被告らが本件事業に対して公金を支出した場合は,本件各自治体に財務会計上の損害を及ぼすおそれがあるという理由で,本件各監査請求において本件事業内容に対する監査と本件事業に対する公金の支出の差止めを求めたものであるから,本件各監査請求は「財務会計上の行為」に関する適法な請求である。 (2) そのほかの被告らの本案前の主張については,すべて争う。 4 請求原因に対する被告らの認否及び主張(1) 被告知事及び同P2の認否及び主張ア請求原因(2)(本件事業内容)の事実は認める。 イ同(3)(本件都市計画決定等の違法)ア(手続的違法性)の主張は争う。 ウ同(3)イ(実体的違法性)のうち,法規の内容,環境プラン21の策定及びその趣旨,横浜市が鉄道騒音のレベルを70デシベル以下にすることを目標としており,本件事業についても70デシベル以下を騒音の基準目標としていることを認め,その余の主張は争う。 エ同(4)(本件公金支出の違法性)のうち,イ(違法の承継)及びウ(支出自体の違法性)の主張は争う。次のとおり原因の違法は承継されないし,支出自体に違法はない。 (ア) 本件都市計画決定等の違法性の非承継本件都市計画決定等は,一般行政上の行為であって,財務会計上の行為ではない。そして,一般行政上の行為の違法性が財務会計上の行為に承継されるためには,前者と後者との間に前者が後者の直接の原因ということができるような密接な関係があることが必要である。 しかしながら,本件 い。そして,一般行政上の行為の違法性が財務会計上の行為に承継されるためには,前者と後者との間に前者が後者の直接の原因ということができるような密接な関係があることが必要である。 しかしながら,本件事業のような鉄道建設事業は,鉄道事業法3条により,運輸大臣の免許を受ければ用地取得などの事業に着手することができ,また,同法8条により運輸大臣の工事施行認可を受ければ,建設工事に着手することができるとされており,都市計画法に基づく都市計画決定を受けることは要件とされていない。さらに,本件では,被告知事が本件都市計画決定等を行った日よりも前の平成3年4月19日に,横浜市は運輸大臣の工事施行の免許を受け,本件事業に着手しており,また,被告知事はこの着手に伴って平成3年度から補助金を支出してきた。 以上から,本件公金支出は本件都市計画決定等に基づくものではなく,本件都市計画決定等は本件公金支出の先行行為に当たらないといえる。したがって,仮に本件都市計画決定等に違法があったとしても,本件公金支出はその違法性を承継しない。 (イ)地方自治法232条の2違反の不存在本件事業に対する本件公金支出は,公共交通機関である鉄道の整備を促進し,神奈川県民の交通利便性を図る目的でなされている。本件鉄道の終点駅となり,小田急江ノ島線と接続する予定の湘南台駅は,藤沢市,横浜市,綾瀬市及び大和市の行政境付近に位置し,小田急江ノ島線の同駅付近には大学の校舎及び多数の企業などが存在することから,藤沢市民はもとより,神奈川県民多数が本件鉄道を利用すると見込まれる。したがって,本件事業は,本件鉄道の利便性を著しく向上させるという公共目的と明らかに合致する。 (ウ) 地方公営企業法17条の2・3違反の不存在地方公営企業法17条の2・3及び地方財政法6条は,公営企業を経営してい 業は,本件鉄道の利便性を著しく向上させるという公共目的と明らかに合致する。 (ウ) 地方公営企業法17条の2・3違反の不存在地方公営企業法17条の2・3及び地方財政法6条は,公営企業を経営している地方公共団体の一般会計と特別会計との関係及び当該特別会計と他の特別会計との関係を定めたものであり,特別会計とこれに対する補助金を支出する国又は他の地方公共団体との関係を定めたものではない。したがって,少なくとも被告知事及び同P2との関係では,この点に関する原告らの主張は失当である。 (エ) 地方財政法4条1項違反の不存在地方財政法4条により,地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えてはならないとしても,他の地方公共団体である横浜市における地方公営企業(横浜市交通局)が長期的な計画の下に行っている鉄道建設事業に対する補助金支出については,当該地方公営企業による計画を前提として,社会的,政策的,経済的見地からその適否を判断すべきであって,当該地方公営企業が選択していない工事方法による場合の経費と比較して,必要かつ最小の限度であるか否かを判断する必要はないというべきである。 オ請求原因(5)(回復しがたい損害の発生)の主張は争う。 力同(7)(監査請求の前置)のうち,原告らが本件各監査請求をしたか否かについては不知。その余の事実は認める。 (2) 被告横浜市長及び同P1の認否及び主張ア請求原因(2)(本件事業内容)の事実は認める。 イ同(3)(本件都市計画決定等の違法)ア(手続的違法性)の主張は争う。本件都市計画決定等の手続きは次のとおり適法にされている。 (ア) 本件都市計画決定等の手続き被告知事は,平成3年11月26日から同年12月10日にかけて,本件都市計画決定等に係る各都市計画案を縦覧に供し(都市計画法1 手続きは次のとおり適法にされている。 (ア) 本件都市計画決定等の手続き被告知事は,平成3年11月26日から同年12月10日にかけて,本件都市計画決定等に係る各都市計画案を縦覧に供し(都市計画法17条),平成4年11月20日,横浜市及び藤沢市に対して,それぞれの都市計画案について意見を求め,平成5年2月9日,縦覧期間中に出された住民らの意見書の要旨を神奈川県都市計画地方審議会に提出するとともに各都市計画案を神奈川県都市計画地方審議会に付議し(同法18条参照),それぞれ原案どおり可決された。このように,被告知事は,手続きを遵守した上で本件都市計画決定等を行ったのであって,後記のとおり環境影響評価手続きも尽くしているから,本件都市計画決定等に至る手続きに違法はない。 (イ) 事業費の試算被告らは,市営地下鉄1号線の沿線の地形及び地象,現状及び将来の土地利用状況等を勘案し,過去の鉄道建設の実績や経験等を踏まえ,鉄道計画の専門的立場から総合的に判断した結果,泉ヶ丘地区から境川付近については,地上式構造の方が地下式構造より経済的であることが具体的な検討を行うまでもなく明らかであったから,一部地上式の本件計画を採用したものである。 さらに,被告らは,一部地上式の本件計画と全線地下式の計画とどちらがより経済的かという点を大局的に判断するために,本件計画の路線をすべて地下化した場合の事業費の増加を試算したところ,約300億円の増額になることが判明した。 この試算は,地下鉄の建設費が高騰を続けていた当時の実情を考慮して,最も新しい実績であった本件鉄道の上永谷から戸塚間の事業費を基準にしたものであって,合理性・相当性が認められる。 なお,横浜市は本件鉄道の一部を地上に建設することを前提に,本件路線のルート等を選択して,本件計画を策定したのであるから から戸塚間の事業費を基準にしたものであって,合理性・相当性が認められる。 なお,横浜市は本件鉄道の一部を地上に建設することを前提に,本件路線のルート等を選択して,本件計画を策定したのであるから,仮にすべての路線を地下化するのであれば,ルート選択からやり直す必要がある。ただ仮に,現在の路線ルートを前提として全線を地下化した場合は,概算であるが,簡略な試算方法で約377億円の増額となり(別紙5計算書(4)参照),線路部及び駅部の単価を個別に計算する方法で約248億円の増額となる(別紙5計算書(5)参照)。このことから上記試算の正しさを裏付けることができる。 (ウ) 都市計画地方審議会における審議本件意見書の要旨では,別紙2の都市計画(案)に対する意見書の区分欄における「賛成」「反対」「その他」の記載を尊重して,そのまま分類して総数を集計しており,被告らが住民らの意見を歪曲したという事実はない。 ウ請求原因(3)(本件都市計画決定等の違法)イ(実体的違法性)のうち,法規の内容,環境プラン21の策定及びその趣旨,横浜市が鉄道騒音のレベルを70デシベル以下にすることを目標としており,本件事業についても70デシベル以下を騒音の基準目標としていることを認め,その余の主張は争う。本件都市計画決定等は,次のとおり実体的に適法である。 (ア) 自然環境の保全全般についてa 環境影響評価手続き本件事業では,別紙3のとおり,横浜市域部分については横浜市環境影響評価指導指針に基づき,藤沢市域部分については神奈川県環境影響評価条例に基づいて,それぞれ環境影響評価手続きを行っている。 都市計画決定権者としての神奈川県知事は,本件事業の影響について多角的に検討した結果を,神奈川県知事には環境影響予測評価書案として,横浜市長には環境影響評価準備書としてそれ 価手続きを行っている。 都市計画決定権者としての神奈川県知事は,本件事業の影響について多角的に検討した結果を,神奈川県知事には環境影響予測評価書案として,横浜市長には環境影響評価準備書としてそれぞれ提出した。そして,それらに対して,学識経験者等で構成される環境影響評価審査会が科学的・専門的な見地から審査し,その審査の報告を受けて,被告知事及び被告横浜市長が環境保全の見地から審査書を作成して,本件事業における環境保全上の指摘事項を述べ,それに適する建設を行うことを明らかにしている。 このように,被告らは,本件都市計画決定等に際して,十分に環境影響を調査したうえで,環境に付加の少ない計画内容を作成したものである。 b 騒音・振動対策改良された防音壁を設置し,鉄道軌道の構造を工夫するなどの具体策を講じている。また,相鉄いずみ野線との並走による被害の増大については,ダイヤ調整を行うことにしており,騒音・振動等の被害はいずれも社会的受忍限度の範囲内にとどまる。 c 景観対策高架橋の高さを低くし,橋脚,橋桁等のデザインも曲線を生かすなど周辺の景観と調和するように十分検討して設計した。 (イ) 耐震構造の採用兵庫県南部地震では,地下構造物(特に開削工法による駅等)に被害が生じており,地下構造物に被害が生じた場合は地上構造物の場合よりも危険性は大きく,利用者の救出及び路線の復旧が困難となり,重大な事態となることが予測される。したがって,地下建造物であっても地上式と同様に耐震性能の強化が重要であることに違いはない。本件事業では,関東大震災クラスの地震を耐震基準とした法令等に従って事業が進められてきたが,横浜市は,平成7年8月に運輸省が出した新しい耐震設計基準に従って耐震設計の見直しを行い,この新しい設計に基づいて工事を行ったもので,既に兵庫 を耐震基準とした法令等に従って事業が進められてきたが,横浜市は,平成7年8月に運輸省が出した新しい耐震設計基準に従って耐震設計の見直しを行い,この新しい設計に基づいて工事を行ったもので,既に兵庫県南部地震クラスの地震に耐え得るような対応をしている。 (ウ) 土地利用の制限都市計画法に基づく土地利用の制限は,当該計画の円滑な遂行に対する障害を除去するために法律によって付与された付随的な法的効果であり,利害関係人一般に対して発生する性質のもので,何ら不合理なものではない。 エ請求原因(4)(本件公金支出の違法性)のうち,イ(原因の違法の承継)及びウ(支出自体の違法)の主張は争う。次のとおり原因の違法は承継されないし,支出自体に違法はない。 (ア) 先行行為の違法性の非承継地下鉄建設事業は都市計画決定がなくても行うことができる(都市計画法11条1項参照)。横浜市では,運輸大臣から工事施行の免許を受けた平成3年4月19日から用地の取得などの本件事業に着手しており,仮に本件都市計画決定等が違法無効とされても,法律上は本件事業を施工することができる。また,横浜市は,本件事業に関して,平成3年度より,横浜市都市交通基盤整備基金条例に基づく都市交通基盤整備基金負担金として一般会計予算から補助金を支出してきており,この支出は本件都市計画決定等に基づくものではない。 したがって,本件都市計画決定等は本件公金支出の先行行為に当たらないというべきであり,仮に本件都市計画決定等に違法があるとしても,本件公金支出には承継されない。 (イ) 地方自治法232条の2違反の不存在本件鉄道は,横浜市南西部の交通不便地域の解消を図るとともに,都心部と郊外地域(横浜市戸塚区・泉区)及び隣接都市(藤沢市湘南台方面)とを直結し,広域交通ネットワークの強化を図ること 違反の不存在本件鉄道は,横浜市南西部の交通不便地域の解消を図るとともに,都心部と郊外地域(横浜市戸塚区・泉区)及び隣接都市(藤沢市湘南台方面)とを直結し,広域交通ネットワークの強化を図ることを目的として計画されたものであり,本件事業には,市民の交通の利便性の向上を図るという公益上の必要性がある。 (ウ) 地方公営企業法17条の2・3違反の不存在地方公営企業法17条の3は,一般会計に帰属すべき公共的利益を確保するために,応分の経費を公営企業に補助して当該事業を実施・経営しなければならない合理的理由ないし公共的必要性が一般的に認められる場合については,同法17条の2の原則の例外として,一般会計が特別会計に対して補助することを認めている。 そして,同法17条の3の「特別の理由」とは,災害の復旧に準ずるような要請があるために,当該地方公営企業の特別会計における独立採算性,受益者負担の原則又は料金決定原則などを維持しながら経費を捻出することが客観的に困難ないし不適当な場合をいうと解すべきであり,都市高速鉄道の建設は,都市全体にとって極めて公共性の高い重要な役割を担う公共交通機関の整備である一方で,その建設には巨額の資金,長期間にわたる工事を要し,また,投資の回収期間が長期間にならざるを得ないから,上記場合に当たるというべきである。 本件事業が都市高速鉄道の整備事業に該当し,かつ,その公益上の必要性が高いことは前述したとおりである。また,本件事業については,巨額の建設資金を必要とし,長期間にわたる工事を伴う。したがって,被告横浜市長が本件事業について,一般会計から高速鉄道事業会計へ,出資金,補助金及び横浜市都市交通基盤整備基金条例に基づく負担金を支出すること(本件公金支出)は,同法17条の3の「特別の理由」に該当するというべきである(なお, て,一般会計から高速鉄道事業会計へ,出資金,補助金及び横浜市都市交通基盤整備基金条例に基づく負担金を支出すること(本件公金支出)は,同法17条の3の「特別の理由」に該当するというべきである(なお,自治省財政局長通知「地方公営企業繰出金について」参照)。 (エ) 地方財政法4条1項違反の不存在地方財政法4条1項は,予算が策定された後の執行面における基本原則を定めたものであって,本件公金支出の対象・額を決める段階(予算策定段階)で適用される規定ではない。 また,本件計画に代えて,全線地下式を採用した場合には大幅に事業費が増大することは前記のとおりであるから,全線地下式を採用した場合と比較して,一部地上式を採用した本件事業に対する本件公金支出が地方財政法4条1項に違反するという原告らの主張は理由がない。 オ請求原因(5)(回復しがたい損害の発生)の主張は争う。 力同(6)(被告らによる公金の支出)の事実は認める。 キ同(7)(監査請求の前置)の事実は認める。ただし,原告らが本件各監査請求をしたか否かについては不知。 (3) 被告藤沢市長の認否及び主張ア請求原因(2)(本件事業内容)の事実は認める。 イ同(3)(本件都市計画決定等の違法)ア(手続的違法性)の主張は争う。 ウ同(3)イ(実体的違法性)のうち,法規の内容,環境プラン21の策定及びその趣旨,横浜市が鉄道騒音のレベルを70デシベル以下にすることを目標としており,本件事業についても70デシベル以下を騒音の基準目標としていることを認め,その余の主張は争う。 エ同(4)(本件公金支出の違法性)のうちイ(原因の違法の承継)及びウ(支出自体の違法)の主張は争う。次のとおり原因の違法は承継されないし,支出自体に違法はない。 (ア) 先行行為の違法性の非承継a 先行行為と公金支出との 違法性)のうちイ(原因の違法の承継)及びウ(支出自体の違法)の主張は争う。次のとおり原因の違法は承継されないし,支出自体に違法はない。 (ア) 先行行為の違法性の非承継a 先行行為と公金支出との一体性の欠如先行行為の違法が後行行為に承継されるためには,両者が一体のものとして評価されるような密接不可分の関係が必要である。 藤沢市は,横浜市が行う本件事業の藤沢市域部分に関して,神奈川県との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市延伸に係る補助金に関する覚書」に基づいて,補助金を横浜市に対して支出するとともに,横浜市との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市域整備に係る負担金に関する覚書」に基づいて,負担金を横浜市に支払ったものであり,上記補助金及び負担金の支出はいずれも本件都市計画決定等に基づくものではない。 さらに,先行した行政行為の主体とその後の公金支出の主体が異なる場合には,両行為の間に一体として評価されるような密接不可分の関係がないというべきである。本件では,先行した本件都市計画決定等を行ったのは被告知事であるから,被告藤沢市長が行った公金の支出行為との関係では,主体が異なる場合にあたる。 以上から,本件都市計画決定等は,本件公金支出の先行行為ではないというべきであり,仮に本件都市計画決定等に違法があるとしても,本件公金支出行為に承継されることはない。 b 重大かつ明白性の欠如仮に先行行為の違法性の承継が肯定されるとしても,先行行為に重大かつ明白な違法がある場合に限って公金支出が違法になるというべきである。そして、重大かつ明白な違法とは,その違法が行政機関の責任ある判断とはいえない程度まで著しく,専門的知識を有しない通常人にとっても容易に認識できるほど明白なことをいうと解すべきであり,本件において原告らがかかる程度の重大かつ明白 その違法が行政機関の責任ある判断とはいえない程度まで著しく,専門的知識を有しない通常人にとっても容易に認識できるほど明白なことをいうと解すべきであり,本件において原告らがかかる程度の重大かつ明白な違法事由まで主張していないことは明らかである。 よって,原告らの主張は失当である。 (イ) 地方自治法232条違反の2の不存在藤沢市は,本件鉄道の藤沢市域内への延伸が藤沢市民の交通の利便を著しく向上させるという意味で公益上高度の必要性があると考えて,これに対して建設費を一部負担し,補助金を支出することとしたものであるから,本件公金支出は地方自治法232条の2に反しない。 (ウ) 地方公営企業法17条の2・3違反の不存在地方財政法6条,地方公営企業法17条の2・3は,同一の地方公共団体内の一般会計と特別会計の関係を律する規定であり,藤沢市の横浜市交通事業管理者に対する支出には適用がないから,藤沢市による本件事業に対する公金の支出は,上記規定に反しない。 (エ) 地方財政法4条1項違反の不存在いかなる方式による鉄道を建設するかは,本件鉄道の建設及び経営の主体たる横浜市交通事業管理者がその裁量により定めるべきであって,被告藤沢市長としては,その計画内容を前提として,支出の適否を決定せざるを得ない。したがって,本件事業の事業費と全線地下式を採用した場合の事業費との比較の問題は,被告藤沢市長による支出の適否には関係がない。 被告藤沢市長にとっては,藤沢市が自ら高速鉄道を建設経営する場合と比較して,横浜市が策定した本件事業に対して公金を支出することが目的を達成するための必要かつ最小の限度の支出であることは明らかであるから,このことが地方財政法4条1項に違反するとはいえない。 オ請求原因(5)(回復しがたい損害の発生)の主張は争う。 力同(6) を達成するための必要かつ最小の限度の支出であることは明らかであるから,このことが地方財政法4条1項に違反するとはいえない。 オ請求原因(5)(回復しがたい損害の発生)の主張は争う。 力同(6)(被告らによる公金の支出)の事実は認める。 キ同(7)(監査請求の前置)の事実は認める。ただし,原告らの中に住民監査請求をしていない者がいる。 (4) 被告P3の認否ア請求原因(1)(当事者)のうち,原告らが藤沢市に居住するとの事実は不知。 イ同(2)(本件事業内容)のうち,ア(本件都市計画決定等)の事実及びウ(本件事業計画)のうち藤沢市に関する部分の事実は認め,その余の事実は不知。 ウ同(3)(本件都市計画決定等の違法)ア(手続的違法性)の主張は争う。 エ同(3)イ(実体的違法性)のうち,法規の内容は認め,その余の事実は不知,主張は争う。 オ同(4)(本件公金支出の違法性)イ(原因の違法の承継)は争う。藤沢市は,横浜市が行う本件事業の藤沢市域部分に関して,神奈川県との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市延伸に係る補助金に関する覚書」に基づいて,補助金を横浜市に対して支出するとともに,横浜市との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市域整備に係る負担金に関する覚書」に基づいて,負担金を横浜市に支払ったものであり,上記補助金及び負担金の支出はいずれも本件都市計画決定等に基づくものではない。したがって,本件都市計画決定等は,本件公金支出の先行行為ではない。 力同(7)(監査請求の前置)の事実は認める。 (5) 被告P4の認否ア請求原因(1)(当事者)のうち,原告らが藤沢市に居住するとの事実は不知。なお,被告P4が藤沢市長に就任した日は平成8年2月26日である。 イ同(2)(本件事業内容)のうち,ア(本件都市計画決定等)の事実及びウ(本件事業計画 ち,原告らが藤沢市に居住するとの事実は不知。なお,被告P4が藤沢市長に就任した日は平成8年2月26日である。 イ同(2)(本件事業内容)のうち,ア(本件都市計画決定等)の事実及びウ(本件事業計画)のうち藤沢市に関する部分の事実は認め,その余の事実は不知。 ウ同(3)(本件都市計画決定等の違法)ア(手続的違法性)の主張は争う。 エ同(3)イ(実体的違法性)のうち,法規の内容は認め,その余の事実は不知,主張は争う。 オ同(4)(本件公金支出の違法性)イ(原因の違法の承継)の主張は争う。 藤沢市は,横浜市が行う本件事業の藤沢市域部分に関して,神奈川県との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市延伸に係る補助金に関する覚書」に基づいて,補助金を横浜市に対して支出するとともに,横浜市との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市域整備に係る負担金に関する覚書」に基づいて,負担金を横浜市に支払ったものであり,上記補助金及び負担金の支出はいずれも本件都市計画決定等に基づくものではない。したがって,本件都市計画決定等は,本件公金支出の先行行為ではない。 力同(6)(被告らによる公金の支出)のうち,被告P4が藤沢市長として支出した公金は,補助金として7億4550万8525円,負担金として3億6800万円の合計11億1350万8525円である。 キ同(7)(監査請求の前置)の事実は認める。 第4 主要な争点 1 本件各訴えの適法性の有無(本案前の争点)(1) 監査請求の対象行為の適否(両事件共通の争点)ア対象行為の特定の有無イ財務会計上の行為性の有無ウ監査請求をしていない原告らの有無(2) 訴えの対象の特定性の有無(甲事件における争点)(3) 住民訴訟の対象性(財務会計上の行為性)の有無(両事件共通の争点)(4) 監査請求前置の有無(乙事件における争 をしていない原告らの有無(2) 訴えの対象の特定性の有無(甲事件における争点)(3) 住民訴訟の対象性(財務会計上の行為性)の有無(両事件共通の争点)(4) 監査請求前置の有無(乙事件における争点)出訴期間の遵守の有無(乙事件における争点) 2 公金支出の違法事由(本案の争点)(1)非財務会計行為の違法を原因とする公金支出(一般論)(2) 本件事業内容(3) 本件都市計画決定等の重大明白な違法の有無(4) 本件公金支出の地方自治法232条の2違反の有無(5) 本件公金支出の地方公営企業法違反の有無(6) 本件公金支出の地方財政法4条1項違反の有無 理由 (証拠により直接認定する事実は,当該事実の前後に,適宜主な証拠を略記する。 書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。一度説示した事実は,原則としてその旨を断らない。)第1 訴えの適法性の有無 1 判断の順序本件は,原告ら住民が,本件事業に対して被告らが公金を支出することの差止めを求め(甲事件),また,既に支出された公金について自治体に代位して損害賠償を求める(乙事件)ものである。これに対して,被告らから種々の本案前の主張がされているところ,その内容は,監査請求及び差止請求における対象行為の財務会計行為性の有無,その特定性の有無等であり,その判断のためには,本件事業内容,事業主体,本件事業に対する公金の支出の仕組み,本件事業と公金の対応関係等について,検討することが不可欠である。そこで,本案問題にも関係するものの,この点を次の2及び3において先に検討する。 なお,当事者の関係が請求原因(1)のとおりであること及び乙事件被告らが同(6)のとおりに本件公金を支出したことは,弁論の全趣旨により認められる(事項によっては,認否のない当事者もあるし,明示的に争わない当 事者の関係が請求原因(1)のとおりであること及び乙事件被告らが同(6)のとおりに本件公金を支出したことは,弁論の全趣旨により認められる(事項によっては,認否のない当事者もあるし,明示的に争わない当事者又は明示的に不知と述べる当事者もある。)。 2 市営鉄道の制度の概要(1) 事業主体市営地下鉄の名称から明らかなとおり,本件鉄道は,地方公共団体である横浜市が経営する鉄道事業であり,地方公営企業法の適用を受ける(同法2条1項5号)。地方公共団体が地方公営企業を経営しようとする場合には,その設置条例を定めなければならない(同法4条)ところ,横浜市においては,交通事業(自動車運送事業及び鉄道事業)を行うために,横浜市交通事業の設置等に関する条例(丙6)を制定している。地方公営企業を経営する地方公共団体には,地方公営企業の業務を執行させるため,事業毎に管理者を置き,管理者の権限に属する事務を処理させるため,条例で必要な組織を設けることとされており(同法7条,7条の2,14条),横浜市の交通事業に関しては,横浜市交通局において鉄道事業の管理事務を行い,横浜市交通局長が横浜市長から任命されて横浜市交通事業管理者となっている(同条例4条,5条)。地方公営企業は,常に企業の経済性を発揮するとともに,その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならず(同法3条),その経理は,特別会計を設けて行う(同法17条)。管理者は,地方公営企業の業務を執行し,当該業務の執行に関し当該地方公共団体を代表する(同法8条)。 鉄道事業の免許や本件事業に関する工事施行の認可は横浜市長において取得した(争いがない。)が,本件鉄道事業の業務執行権限は横浜市長にはなく,横浜市交通局長にあり,地権者との土地買収契約,工事請負人との請負工事契約は管理者である る工事施行の認可は横浜市長において取得した(争いがない。)が,本件鉄道事業の業務執行権限は横浜市長にはなく,横浜市交通局長にあり,地権者との土地買収契約,工事請負人との請負工事契約は管理者である横浜市交通局長がその名において締結し,その代金は管理者たる横浜市交通局長が横浜市高速鉄道事業会計(以下「本件特別会計」という。)から支出している(丙24・32,証人P5,弁論の全趣旨)。 (2) 建設財源(丙9・32,証人P5,弁論の全趣旨)ア国の補助金本件との関係では詳細は省略するが,本件事業の横浜市域及び藤沢市域に係る事業資金として国の補助金が出され使用されている。 イ県の補助金地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる(地方自治法232条の2)。また,地方公営企業の経営の健全化を促進し,その経営基盤を強化するため,自治省財政局長通知(丙34)により,毎年度地方財政計画において地方公営企業繰出金を計上する旨の基準(地方公営企業繰出基準)が定められており,これらに基づき,県の補助金(以下「県補助金」という。)が横浜市交通局の本件特別会計に支出されて,一部は本件鉄道の藤沢市域分の事業費の財源に,残部は横浜市高速鉄道1号線3号線の建設に伴い発行した横浜市交通局の企業債の利息の返済に充当されている。 ウ横浜市の財政支援(ア) 横浜市の一般会計出資金地方公共団体は,災害の復旧その他特別の理由により必要がある場合には,一般会計又は他の特別会計から地方公営企業の特別会計に補助をすることができるとされており(地方公営企業法17条の3),この規定及び地方公営企業繰出基準に基づき,横浜市は,平成3年度より一般会計から高速鉄道事業出資金(以下「横浜市出資金」という。)を本件特別会計に支出している。この出資 (地方公営企業法17条の3),この規定及び地方公営企業繰出基準に基づき,横浜市は,平成3年度より一般会計から高速鉄道事業出資金(以下「横浜市出資金」という。)を本件特別会計に支出している。この出資金は,本件事業の横浜市域及び藤沢市域に係る事業資金として使用されている。 (イ) 横浜市の一般会計補助金地方公営企業法17条の3及び地方公営企業繰出基準に基づき,横浜市は,平成3年度より地下鉄建設費補助金(以下「横浜市補助金」という。)を本件特別会計に支出し,この補助金は本件事業の横浜市域に係る事業資金として使用されている。 (ウ) 横浜市負担金横浜市の都市の骨格をなす鉄道及び軌道の建設等の交通基盤の整備の促進に資することを目的として横浜市都市交通基盤整備基金条例(丙8)が設けられており,横浜市は,地方自治法232条の2及び上記条例に基づき,平成3年度より都市交通基盤整備基金負担金(以下「横浜市負担金」という。)として一般会計予算から本件特別会計に支出し,この負担金は本件事業の横浜市域に係る事業資金として使用されている。 エ藤沢市の財政支援(ア) 藤沢市補助金地方自治法232条の2,地方公営企業繰出基準及び藤沢市と神奈川県との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市延伸に係る補助金に関する覚書」に基づき,藤沢市の補助金(以下「藤沢市補助金」という。)が平成3年度より横浜市交通局の特別会計に支出されて,本件鉄道の藤沢市減分の事業費の財源に使用されている。 (イ) 藤沢市負担金地方自治法232条の2及び藤沢市と横浜市交通事業管理者との間の「横浜市高速鉄道1号線の藤沢市域内整備に係る負担金に関する覚書」に基づき,藤沢市の負担金(以下「藤沢市負担金」という。)が平成4年度より横浜市交通局の特別会計に支出されて,本件鉄道の藤沢市域分の事業費の財 速鉄道1号線の藤沢市域内整備に係る負担金に関する覚書」に基づき,藤沢市の負担金(以下「藤沢市負担金」という。)が平成4年度より横浜市交通局の特別会計に支出されて,本件鉄道の藤沢市域分の事業費の財源に使用されている。 3 本件事業の内容((4)を除き,争いがない。)(1) 本件事業計画の内容横浜市は,市営地下鉄1号線(本件鉄道)を,戸塚駅から西に7.39キロメートル(横浜市域に所在する分が6.35キロ,藤沢市域に所在する部分が1.04キロ)延伸して小田急電鉄江ノ島線湘南台駅に接続する本件事業計画を立てた。 (2) 鉄道事業免許及び都市計画決定横浜市は,藤沢市との間で地方自治法244条の3第1項に基づく協議をし,平成2年11月20日,本件鉄道を藤沢市域までに延伸して設置することの了解を得,平成3年4月19目,戸塚から湘南台に及ぶ区間について鉄道事業法3条に基づく第一種鉄道事業の免許を取得し,同年9月5日,運輸大臣から工事施行の認可を受けた。 被告知事は,平成5年3月23日,市営地下鉄1号線を本件延伸部分の横浜市域部分まで延伸することを内容とする横浜都市計画変更決定及びその藤沢市域部分まで延伸する旨の藤沢都市計画決定を行った。 (3) 本件事業計画中の係争部分(一部地上式の採用)本件延伸部分のうち,戸塚から立場駅までの区域(横浜市域)は,市街化が進んだ台地である。立場駅から湘南台駅までの区域(横浜市域及び藤沢市域)は和泉川,境川を跨いでおり,境川以東が横浜市域,以西が藤沢市域である。 市営地下鉄1号線の戸塚以東(上永谷・戸塚間)は本件事業以前に既に完成しており,本件事業は,戸塚駅から湘南台までを延伸しようという目的のもので,工法的には,建築物が密集している戸塚駅から立場駅までを地下シ一ルドトンネルを主体とした地下構造とし,郊外部の 前に既に完成しており,本件事業は,戸塚駅から湘南台までを延伸しようという目的のもので,工法的には,建築物が密集している戸塚駅から立場駅までを地下シ一ルドトンネルを主体とした地下構造とし,郊外部の立場駅から湘南台駅までを地上式の開削掘割構造及び高架構造(橋梁)として計画された(別紙1参照)。ただし,本件訴訟提起後,本件計画では開削掘割構造で建設される予定であった区間の一部(下飯田地区及び泉ヶ丘地区における740メートルの区間)が開削埋戻工法(開削トンネル)による地下式構造に変更された。なお,藤沢市の部分は相鉄いずみ野線と湘南台の地下駅で連結し,それぞれ小田急線湘南台駅に地下から連絡する構造になっており,湘南台地下駅部分及び地上から地下駅に至る線路部分は,開削埋戻工法(地下式)で建設される計画であり,境川を横断する高架橋付近から,本件鉄道は相鉄いずみ野線と並走する構造となっている。 (4) 工事の進行工事は平成6年2月4日に着工された(丙29)。計画に従って必要な用地の取得は,藤沢市域で平成10年7月に,横浜市域で同年10月に終了し(丙32),その後,本件口頭弁論終結時までには開業するに至った。 4 監査請求の対象行為の適否(両事件共通の争点)(1) 対象行為の特定の有無ア被告藤沢市長,同P4及び同P3の主張標記の被告らは,「標記被告らに対する本件監査請求は工事名で差止めを求める公金支出を特定しようとしているところ,それでは公金支出が特定しておらず,監査請求は特定していないために不適法である。」旨を主張する。 イ監査請求における対象行為の特定の程度住民監査請求は,対象とする当該行為等について監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく,当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別 為の特定の程度住民監査請求は,対象とする当該行為等について監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく,当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的,具体的に摘示することを要する。ただし,住民監査請求において,複数の行為を包括的にとらえて差止めを求める場合,その1つ1つの行為を他の行為と区別して特定し認識することができるように個別,具体的に摘示することまでが常に必要とされるものではない。この場合においては,監査請求の対象となる行為とそうでない行為とが識別できる程度に特定されていることが必要であることはいうまでもないが,事前に行為の差止めを求める監査請求をするにあたっては,当該行為の適否の判断のほか,さらに,当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点及び当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かの点に対する判断が必要となることからすれば,これらの点について判断することが可能な程度に,その対象となる行為の範囲等が特定されていることが必要であり,これをもって足りるというべきである(差止めの訴えに関するものであるが,最高裁判所平成5年9月7日第3小法廷判決・民集47巻7号4755頁参照)。 ウ本件各監査請求の特定の有無これを本件について見ると,本件各監査請求は,前記(1)のとおり,本件事業に対する公金支出自体が違法であるとして,その差止めを求め,全線地下式にするように工事計画を見直すことを求めたのであり,一部地上式を採用した本件計画に対して,包括的に一切の公金の支出を差し止める趣旨でされたと解することができる。 もっとも,甲事件提起当時は戸塚から伊勢山シールド立坑までは着工済みであり,原告らとしては,その部分についてはさして異論は ,包括的に一切の公金の支出を差し止める趣旨でされたと解することができる。 もっとも,甲事件提起当時は戸塚から伊勢山シールド立坑までは着工済みであり,原告らとしては,その部分についてはさして異論はなく,未着工の部分である伊勢山シールド立坑から湘南台までにつき,地上式ではなく地下式の建設をすることを求めて,その部分の建設工事のために本件公金支出をしない旨の差止訴訟を提起した。これに対し,本件各監査請求は,着工部分も未着工部分も含めた戸塚から湘南台までの全線を対象として,その工事のための公金を支出することの差止めを求めたものである。 したがって,甲事件の訴えは,本件各監査請求が対象とした工事のうちの一部の工事(地上部分に係る工事)に対応する公金の支出の差止めを求めたものである。 このような点に留意する必要はあるが,本件各監査請求の対象が特定しているかという争点については,本件事業全体あるいは本件鉄道全線の建設工事のために公金の支出をすることを差し止めるという監査請求により,請求が特定しているかが問題とされるわけである。そうすると,このように公金支出の原因として,本件事業に関する工事あるいは本件計画というものが特定されているから,本件各監査請求が求められた差止めの対象となる公金支出行為の範囲を識別することができる。 また,原告らは,本件事業の適否ないし本件事業に先行する本件都市計画決定等の違法性を本件公金支出の具体的な違法事由として主張するのであるから,本件公金の支出行為を一体とみてその適否等を判断することができる。換言すれば,本件のような場合は「当該行為等の性質,目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合」に該当するといえ,本件各監査請求の対象は特定されているというべきである。 エ被告藤沢市長の主張に 当該行為等の性質,目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合」に該当するといえ,本件各監査請求の対象は特定されているというべきである。 エ被告藤沢市長の主張に対する判断監査請求の対象の特定の有無について,藤沢市長は,神奈川県及び横浜市との間の覚書に基づいて公金を支出しており,本件事業の工事費として公金を支出したのではないから,本件監査請求において本件事業の工事名を特定する程度では監査請求の対象の特定として不十分である旨主張する。 しかしながら,上記覚書(丁1はそのうちの1つである。)によれば,藤沢市は,横浜市高速鉄道1号線の湘南台延伸に係る藤沢市域内における建設費の一部を負担するというのであるから,公金支出の根拠が覚書にあるということはできるものの,公金支出の最終的な目的・使途が本件事業の実現にあることが覚書自体に記載されていると認められる。このように公金支出が本件事業に対するものという目的が明確で,かつ,前記のとおり,本件各監査請求において,被告らによる本件事業に対する公金の支出の差止めを求めているのである(甲8)から,本件監査請求に対象の特定に欠けるところはないというべきである。したがって,被告藤沢市長の上記主張は採用できない。 オ乙事件被告P4及び被告P3の同旨の主張に対する判断乙事件被告P4及び被告P3も甲事件被告藤沢市長と同様に本件監査請求に対象の特定を欠く点がある旨を主張する。乙事件の監査請求前置の問題は,甲事件を予定してされた本件各監査請求をその後に提起した乙事件にとっての監査請求として流用できるかを主たる問題とするものである。したがって,後記7で上記の問題を扱うが,そこで流用できるとの肯定的判断がされれば,標記の主張に対する判断も甲事件被告らの主張に対する上記判断をもって足り 流用できるかを主たる問題とするものである。したがって,後記7で上記の問題を扱うが,そこで流用できるとの肯定的判断がされれば,標記の主張に対する判断も甲事件被告らの主張に対する上記判断をもって足りることになると考えられる。 (2) 財務会計上の行為性の有無ア監査請求と財務会計上の行為甲事件被告らは,本件各監査請求の実質は,本件都市計画決定等及び鉄道建設事業(本件事業)の計画変更を求めるものであり,本件都市計画決定等及び本件事業計画の決定は,一般行政上の行為であって財務会計上の行為ではないから,本件各監査請求が不適法である旨主張する。 そこで,検討するに,地方自治法242条に定める住民監査請求は,地方公共団体における財務会計上の違法又は不当な行為について,住民が監査委員の監査を通じてこれを是正し,もって地方公共団体の適正な財務運営を確保し,住民全体の財務的な利益を擁護することを目的としている。そして,その対象事項は,同条1項に定める公金の支出,財産の取得・管理・処分,契約の締結・履行,債務その他の義務の負担,公金の賦課・徴収又は財産の管理を怠る事実に限られ,いずれも財務会計上の行為又は怠る事実(以下「財務事項」ということがある。)としての性質を有するものである。したがって,監査請求の対象は財務事項でなければならない。 イ本件各監査請求の対象行為の財務会計行為性の有無アの考え方に基づいて,本件各監査請求を見ると,本件各監査請求は,被告知事らによる本件事業(延伸の工事)への公金支出の差止め及び工事計画の全線地下式への見直しを求めているから(甲8ないし11,弁論の全趣旨),地方自治法242条1項が定める住民監査請求の対象事項となる公金支出を問題としている。したがって,本件各監査請求は,監査対象の点では適法であるというべきである。 ウ (甲8ないし11,弁論の全趣旨),地方自治法242条1項が定める住民監査請求の対象事項となる公金支出を問題としている。したがって,本件各監査請求は,監査対象の点では適法であるというべきである。 ウ甲事件被告らの主張に対する判断甲事件被告らは,本件各監査請求の実質が本件都市計画決定等及び鉄道建設事業(本件事業)の適否という一般行政上の行為であるから,本件各監査請求が不適法である趣旨を主張するものと解される。 確かに,原告らは,本件各監査請求において,本件事業計画を見直し,全線地下式への変更を求めていることが認められる(甲8,弁論の全趣旨)。しかし,本件各監査請求の内容は,公金支出の差止めという財務事項を是正することを求め,その理由あるいは原因となっている事柄について問題を指摘し,その是正のための手段を提示するものである。のみならず,監査請求者は,住民監査請求の手続きにより,監査委員の監査を求めるとともに,監査の結果により必要な措置を講ずべきことを請求することができ(地方自治法242条1項),その「必要な措置」には,当該行為又は事実の予防,是正のために必要と認められる措置が広く含まれるというべきであるから,上記の財務事項を是正するための手段を監査請求において求めること自体が「必要な措置」として法律で認められているのである。したがって,本件各監査請求において,是正のために必要な措置として本件事業の見直し等を求めていることをもって,監査請求として不適法であるということはできない。 そして,本件各監査請求では,第一次的には本件事業に対する公金支出という財務事項そのものの差止めが求められている。その意味からも,本件各監査請求が本件事業の変更を求めていることを理由にこれを不適法ということはできない。 したがって,この点に関する被告らの主張は という財務事項そのものの差止めが求められている。その意味からも,本件各監査請求が本件事業の変更を求めていることを理由にこれを不適法ということはできない。 したがって,この点に関する被告らの主張は採用できない。 エ監査結果と監査前置の有無なお,監査委員は,被告らの上記主張と同様に,本件各監査請求がいずれも財務会計上の行為を対象としておらず不適法であるとの理由でこれを却下している(甲9ないし11)。しかし,これは,適法な住民監査請求を誤って不適法として却下したことに帰するから,このような場合の本件各監査請求は住民監査請求前置の要件を満たしているとして扱うのが相当である。 オ乙事件被告らの同旨の主張に対する判断乙事件被告らも甲事件被告らと同様に本件各監査請求に財務会計行為性がない旨を主張する。この点の判断は,(1)オと同様である。 (3) 監査請求をしていない原告らの有無被告らは,原告らの中には,本件各監査請求をしていない者がいる旨を主張する。 県の監査通知(甲9)には,「P6ほか169人請求人代理人P7,P8,P9,P10」と記載されており,P6が原告番号58の者であり,上記代理人が本件の原告ら代理人であること,169人という数字が本件の原告ら150名よりも多いこと,そして,前記の被告らの主張があるだけで他に双方から何らの立証もされないこと,以上からすると,本件の原告ら150名は全員上記の県に対する監査請求をした者であると推認するのが相当である。 次に,横浜市の監査通知(甲10)には,「P11ほか67人請求人代理人P9様」と記載されており,P11が原告番号23の者であり,上記代理人が本件の原告ら代理人であること,67人という数字が本件の横浜市住民たる原告ら57名よりも多いこと,そして,前記の被告らの主張があるだけで他に双方から何 り,P11が原告番号23の者であり,上記代理人が本件の原告ら代理人であること,67人という数字が本件の横浜市住民たる原告ら57名よりも多いこと,そして,前記の被告らの主張があるだけで他に双方から何らの立証もされないこと,以上からすると,本件の横浜市住民たる原告ら57名は全員上記の横浜市に対する監査請求をした者であると推認するのが相当である。さらに藤沢市の監査通知(甲11)には,請求代理人P7,P8,P9,P10様」と記載されている。そして,前記の被告らの主張があるだけで他に双方から何らの立証もされないことからすると,本件の藤沢市住民たる原告ら93名は全員上記の藤沢市に対する監査請求をした者であると推認するのが相当である。 (4) まとめ以上から,本件各監査請求はいずれも適法であるということができる。5 訴えの対象の特定性の有無(1) 被告横浜市長の主張の趣旨被告横浜市長は,「被告らの支出する公金は,例えば伊勢山工区の建設工事に対する支出として特定されるものではない。したがって,原告らの請求の趣旨は不特定である。」旨を主張する。 (2) 住民訴訟における差止請求の特定の程度この問題は,差止めを求める監査請求における特定の程度の問題(前記4(1))と共通する点を含んでいる。すなわち,地方自治法242条の2第1項1号の規定による住民訴訟の制度は,普通公共団体の執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為を予防するため,一定の要件の下に,住民に対し,当該行為の全部又は一部の事前の差止めを裁判所に請求する権能を与え,もって地方財政行政の適正な運営を確保することを目的としたものである。このような事前の差止請求において対象が特定されているというためには,前に検討した監査請求における特定の問題の場合と同様に,差止請求の て地方財政行政の適正な運営を確保することを目的としたものである。このような事前の差止請求において対象が特定されているというためには,前に検討した監査請求における特定の問題の場合と同様に,差止請求の対象となる行為とそうでない行為とが識別できる程度に特定されていることのほか,当該行為の適否,当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点及び当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かの点について判断することが可能な程度に,その対象となる行為の範囲等が特定されていることが必要であり,これをもって足りるというべきである(前掲最高裁判所平成5年9月7日第3小法廷判決)。 (3) 甲事件における特定の有無の問題の捉え方(2)の基準により本件について見ると,甲事件の請求の趣旨は,本件事業のうち,横浜市域部分の「伊勢山シールド立抗から境川までの区間」及び藤沢市域部分の「境川から湘南台駅の手前までの区間」の各工事に関する公金支出を対象としている。これは,戸塚駅から立場駅までの区間の本件事業内容が地下式による鉄道敷設であり,原告らとしては,それにつき異論がなかったため,異論のあるその余の区間を特定してその区間に係る工事を地下式にするように変更するという目的を背景にして,その区間の地上式でされる工事のための公金の支出の差止めを求めたものであると解される。したがって,少なくとも,工事単位では,差止請求の対象となる行為とそうでない行為とが識別できる程度に特定され,当該行為の適否,当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点及び当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かの点について判断することが可能である。 被告横浜市長が主張する趣旨は,特定の工事と公 をもって予測されるか否かの点及び当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かの点について判断することが可能である。 被告横浜市長が主張する趣旨は,特定の工事と公金の支出とを結びつけることは困難であるから,公金の支出単位で考えると甲事件の請求における差止めの対象は特定していないという点にある。住民訴訟は財務事項を対象とするものであるから差止めの対象の適否は工事単位で考えるのではなく,公金支出単位で考えるべきことは当然であり,被告の主張はその限度では正当である。 (4) 本件事業における特定の工事と公金支出との結びつきの可否そこで,工事と公金支出との対応関係を検討する。前記2(1)のとおり,本件鉄道は,地方公共団体が経営する鉄道事業であり,地方公営企業法の適用を受け,交通事業管理者としての横浜市交通局長が管理者の名と責任において本件鉄道に関する業務を執行し,横浜市を代表して工事に関する発注や用地の買収のための契約を締結し,その代金は,地方公営企業法に基づいて特別会計として設けられた本件特別会計から横浜市交通局長の名と責任で支出されている(丙24・32,証人P5,弁論の全趣旨)。 本件事業の事業費及び建設財源は,まず本件延伸部分を横浜市域部分と藤沢市域部分に分け,それぞれ予算が定められて,これにより事業が執行されている。財源としては,前記のとおり,横浜市出資金,横浜市補助金,横浜市負担金,県補助金,藤沢市補助金,藤沢市負担金のほか,国庫補助金及び企業債が存在する。横浜市出資金,国庫補助金及び企業債は本件延伸部分全域の建設工事費用(用地取得費を含む直接間接の工事費用)の財源に,横浜市補助金及び横浜市負担金は横浜市域部分の建設工事の財源に,県補助金の一部(藤沢市減分)は藤沢市域部分の建設工事の財源に,県補 全域の建設工事費用(用地取得費を含む直接間接の工事費用)の財源に,横浜市補助金及び横浜市負担金は横浜市域部分の建設工事の財源に,県補助金の一部(藤沢市減分)は藤沢市域部分の建設工事の財源に,県補助金の残部(横浜市域分)は本件鉄道等の建設に伴って発行した企業債の利息の返済に,藤沢市補助金及び藤沢市負担金は藤沢市域部分の建設工事の財源に,それぞれ充てられている。(丙9・29・37,丁1,証人P5,弁論の全趣旨)横浜市交通局長は,本件事業の土木工事について,戸塚西口工区から湘南台駅工区の14の工区に分けて,別紙4のとおり,それぞれ別の事業者との間で個別に建設請負契約を締結し,各工区ごと(境川工区については上部と下部とで分割している。)に代金を支出している(丙24,弁論の全趣旨)。ただし,前記のとおり,本件各自治体の公金の使途は,横浜市域部分ないし藤沢市域部分として特定されることがあっても,各工区ごとに使途が特定された財源となっていない。 (5)甲事件の訴えにおける請求の特定の有無(4)のとおりであるから,被告横浜市長らは,公金の具体的な使途について地上部分と地下部分といった指定をせずに,本件特別会計に対して補助金等を支出しており,横浜市交通局長が本件特別会計から請負業者等へ具体的な金員を支出している。しかも,請求の趣旨にある伊勢山シールド立抗から湘南台駅手前までの区間といっても,伊勢山工区,泉ヶ丘工区,下飯田工区,境川工区(下部・上部),湘南台工区(相鉄委託工区)の5工区に分けられているので(甲13・14,丙17・18・24,弁論の全趣旨),被告らの支出する公金がいずれの工区の地上・地下のどの工事に充てられるのかを直接的に対応する形で特定することはできない。 しかし,他方では,金額面で考えれば,特定の工区の特定の工事に要する費用は 被告らの支出する公金がいずれの工区の地上・地下のどの工事に充てられるのかを直接的に対応する形で特定することはできない。 しかし,他方では,金額面で考えれば,特定の工区の特定の工事に要する費用は特定され,それに充てられるべき性質の金員が前記の財源の中から支出されることも判明している。このような場合には,複数の財源のそれぞれの支出額を必要な費用に満つるように案分することにより,計算上は,どの財源からのいくらの金額がどの工区のどの工事に使用されるという方法で観念的ながら特定することができる。 本件各監査請求のように本件事業全部に対する公金支出全部の差止めを求める場合には,全体を対象とするために不特定の非難を受けなかった(前記4(1))。ところが,原告らは,甲事件の請求において,この監査請求の場合と異なり,伊勢山シールド立坑から境川までの区間及び境川から湘南台駅手前までの区間の各工事につき,公金を支出してはならない旨の請求の趣旨により訴えを提起した。これは,戸塚駅から立場駅までの区間の本件事業内容が地下式による鉄道敷設であり,原告らとしては,それにつき異論がなかったため,異論のある区間を特定しその区間に係る工事を地下式にするように変更する目的を背景にして,その区間の地上式でされる工事のための公金の支出の差止めを求めたものであると解される。その結果,監査請求が特定していると判断されながら,監査請求よりもはるかに具体的に必要な範囲を特定してされた甲事件の請求が反対に不特定であるというのは,いかにも不合理である。 したがって,公金支出単位で,算術的には特定できるのであるから,これをもって,甲事件の請求は特定していると解するのが相当である。 (6) 差止めの対象の存否なお,甲事件は,本件公金支出の差止めを求めるものであるところ,甲事件提訴ころ 特定できるのであるから,これをもって,甲事件の請求は特定していると解するのが相当である。 (6) 差止めの対象の存否なお,甲事件は,本件公金支出の差止めを求めるものであるところ,甲事件提訴ころに未着工であった伊勢山シールド立坑から湘南台駅までの区間の本件事業に関する工事も施行され,少なくとも本件口頭弁論終結時には本件事業が全線について完成し,市営地下鉄1号線の延伸部分が開業するに至っていることは公知の事実である。また,これに伴い,本件公金支出も甲事件提訴時には将来の予定であったものが既に支出され,そのために乙事件が提訴されるに至っている。 ただし,本件公金支出が全部終了済みというわけではない。すなわち,横浜市交通局長による本件特別会計からの工事請負人等に対する支払は本件事業に関する工事の完了後ころには終了しているはずであるが,本件各自治体からの本件特別会計に対する補助金等の支出が未だ完了していない。したがって,既に終了した本件事業に対する支出に充てるための補助金,負担金がなお今後本件特別会計に対して支出(本件公金支出)される予定である。したがって,本件公金支出の差止めを求める甲事件の訴えがその対象を完全に失ったというわけではない。その意味での訴えの利益は残存している。そして,その差止めの趣旨は,伊勢山シールド立坑から湘南台駅までの間の建設工事に関する費用を補填するために本件公金を特別会計に支出することの差止めを求めるということになる。このような相当程度算術的,観念的な仕方による特定をもって足りると判断することになるが,これも致し方ないと解する。 6 住民訴訟の対象性(財務会計上の行為性)の有無(1) 被告知事及び同P2の主張の内容被告知事及び同P2は,原告らが本件公金支出の違法事由として具体的に主張する点は,いずれも本件都市計 する。 6 住民訴訟の対象性(財務会計上の行為性)の有無(1) 被告知事及び同P2の主張の内容被告知事及び同P2は,原告らが本件公金支出の違法事由として具体的に主張する点は,いずれも本件都市計画決定等及びそれに基づく本件事業という非財務会計上の行為であるから,本件各訴えは,住民訴訟の趣旨を逸脱した不適法なものである旨主張する。 (2) 判断地方自治法242条の2に定める住民訴訟は,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としており,その対象とされる事項が同法242条1項に定められた財務会計上の行為又は怠る事実(財務事項)に限られるという点では,住民監査請求の場合と同様である。両者が異なるのは,訴訟は違法な財務会計行為に限定される(同法242条の2第1項)のに対して,監査請求は不当な財務会計行為も含まれる(同法242条1項)点である。したがって,この問題に対する考え方は,住民監査請求における場合(前記4(2))と趣旨において変わらない。 そこで,これを本件について見ると,甲事件の訴えは,結論として公金支出の差止めを求めているのであり,乙事件の訴えも公金の支出に基づく損害賠償を求めるものであるから,その理由として都市計画決定の問題等を指摘していても,両訴とも財務会計行為を対象としているというべきである。したがって,甲乙事件の訴えは,住民訴訟の対象として財務会計行為を取り上げているので,その点に不適法はないというべきである。上記被告らの主張は,財務事項の違法事由として,当該財務事項の原因又は目的となった非財務事項の違法性・不当性を主張できるかという違法性の判断に係る問題であって,本案で検討すべき問題である。 したがって,この点に関する被告らの主張は理由がない。 7 監査請求前置の有無(乙事件における争点)(1) 被告P1の主張 るかという違法性の判断に係る問題であって,本案で検討すべき問題である。 したがって,この点に関する被告らの主張は理由がない。 7 監査請求前置の有無(乙事件における争点)(1) 被告P1の主張 被告P1は,原告らの乙事件の訴えと本件各監査請求との間には同一性がないため,乙事件の訴えは監査請求前置主義に反し不適法である旨主張する。 (2) 差止めの監査請求と損害賠償代位請求訴訟との関係確かに,乙事件の請求と同一の内容を求める監査請求があったわけではなく,原告らは,本件各監査請求をもって,乙事件についての監査請求の前置も満たされているという立場を採っていると解される。そこで,検討するに,住民訴訟について監査請求が前置されているというためには,原則として,監査請求の対象となった財務会計上の行為又は怠る事実(財務事項)と住民訴訟の対象となった財務事項との間に同一性があることが必要である。本件各監査請求は,一部地上式を採用した本件事業に対する公金の支出が違法であるとして,本件事業に対する公金の支出の全部の差止めを求めたものであることは前記のとおりであり,他方,乙事件は,被告P1らによる本件事業に対する公金支出が違法であるとして,その賠償を求めるものである。 以上によれば,乙事件とそれに先立つ本件各監査請求は,いずれも本件事業に対する本件公金支出の違法性を問題とするものであるから,求める行為が賠償か差止めかの違いはあるものの,対象につき同一性があるというべきである。したがって,本件各監査請求をもって,乙事件についての監査請求前置の要件を満たしていると認めるのが相当である。 さらに付言すれば,同一住民が同一の財務事項を対象として再度の監査請求をすることは許されないのであるから,本件において,原告らが損害賠償代位請求(乙事件請求)を提起する ると認めるのが相当である。 さらに付言すれば,同一住民が同一の財務事項を対象として再度の監査請求をすることは許されないのであるから,本件において,原告らが損害賠償代位請求(乙事件請求)を提起する前提として,本件公金支出について本件各監査請求とは別に再度の監査請求をすることは許されない。そうすると,仮に本件で乙事件と本件各監査請求との請求事項の同一性が否定された場合には,本件公金支出行為について新たな監査請求もできないために,原告らが争う余地がなくなることになり,不合理な結果となる。したがって,本件各監査請求と乙事件の訴えの対象との間に同一性があるとされることは合理的な結果ももたらすものである。 (3) 被告P4の主張に対する判断なお,被告P4は,同人が藤沢市長に就任する前になされた藤沢市監査委員に対する監査請求は,被告P4に対する損害賠償代位請求の前提要件とならない旨主張する。 しかし,前記のとおり,住民訴訟の対象と監査請求の対象とが同一であれば,監査請求の前置を満たすと解されるのであり,本件公金支出が本件各監査請求の対象でもあり,かつ乙事件の対象でもある以上,乙事件と本件各監査請求との間には対象の同一性が認められ,被告P4の就任前の公金支出も乙事件において同被告との関係で監査前置を満たすこととされる。差止めの監査請求の対象となった財務会計上の行為を誰が行ったかどうかということは,監査請求前置の有無の判断に影響を与えるものではない。ただし,賠償責任を負うかどうかの本案の問題においては,被告P4が自己のしていない行為について責任を負うことはまず考えられない。 8 出訴期間の遵守の有無(乙事件における争点)(1) 事実の経緯本件各監査請求について,横浜市監査委員は平成6年8月4日に,藤沢市監査委員は同月5日に,神奈川県監査委員は はまず考えられない。 8 出訴期間の遵守の有無(乙事件における争点)(1) 事実の経緯本件各監査請求について,横浜市監査委員は平成6年8月4日に,藤沢市監査委員は同月5日に,神奈川県監査委員は同月8日に,それぞれ監査請求を却下する旨の通知を発し,この通知が同月5日,8臥9日にそれぞれ請求人らに到達したことは,当事者間に争いがない。そして,甲事件提起以後の訴えの追加的変更等の経過が次のとおりであることは,本件記録により明らかである。 ア原告らは,平成6年9月1日,被告知事,被告横浜市長,被告藤沢市長に対し,本件事業のうち一部区間(主として本件地上施設部分)の工事に対する公金支出の差止めを求める甲事件訴状を当裁判所に提出した。 イ甲事件において被告横浜市長が提出した横浜市交通局作成の丙第37号証(「戸塚~湘南台年次表(決算)と題する一覧表」)には,平成7年度ないし同10年度における被告らによる本件事業への支出金が記載されており,被告横浜市長は原告らの訴訟代理人弁護士であるP9に対し,平成12年1月24日,上記書証をファックスで直送し,同日P9が受け取った。 ウ上記丙第37号証は,平成12年2月9日の第31回口頭弁論期日に,当裁判所で取り調べられた。 エ乙事件原告らは,平成12年2月29日,神奈川県,横浜市及び藤沢市(本件各自治体)にそれぞれ代位して,神奈川県知事の職にある被告P2,横浜市長の職にある被告P1,藤沢市長の職にあった被告P3及び藤沢市長の職にある被告P4に対し,既に支出された金員のうち合計449億1730万6000円の損害賠償を求める乙事件を行訴法19条の追加的併合の訴えとして当裁判所に提起した。 (2) 追加的併合の訴えの出訴期間上記経過によれば,後に追加された乙事件については,出訴期間の遵守が問題となる(甲事件が を求める乙事件を行訴法19条の追加的併合の訴えとして当裁判所に提起した。 (2) 追加的併合の訴えの出訴期間上記経過によれば,後に追加された乙事件については,出訴期間の遵守が問題となる(甲事件が出訴期間を遵守していることは明らかである)。 そこで検討するに,一般に,行政事件訴訟法に定める追加的併合の訴えであっても,新たな訴えの提起にほかならないから,この追加的併合事件についても出訴期間の制限は加わり,その遵守の有無は,当該追加的併合事件の訴えの提起時を基準としてこれを決すべきである(行訴法42条,地方自治法242条の2第2項)。 ただし,基本事件と追加的併合事件との間に訴訟物の同一性が認められるとき,又は両者の間に存する関係から追加的併合事件に係る訴えを当初の訴えの提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときは,別個に考える必要があるというべきである。 (3) 乙事件と出訴期間これを本件について見ると,前記認定事実のとおり,原告らが甲事件を提訴して,被告横浜市長らに対し本件事業の一部区間に対する公金支出の差止めを請求していたところ,その係属中に被告らにより合計449億1730万6000円の公金が支出された(概ね争いがない。)ことを知ったため,改めて原告らが,被告P1ら個人を被告として損害賠償代位請求の乙事件を提起したものである。このように,公金支出の差止訴訟が適法に係属している間に公金の支出がなされ,当該公金支出等を理由とする損害賠償等の訴えが提起された場合には,前訴と後訴とは,被告は異なるものの,その対象とする行為自体は,本件では公金の支出という同一の行為であるということができる。なお,本件では,少なくとも甲事件がその提訴時には一部区間に対する公金支出を対象とし,乙事件が本件 異なるものの,その対象とする行為自体は,本件では公金の支出という同一の行為であるということができる。なお,本件では,少なくとも甲事件がその提訴時には一部区間に対する公金支出を対象とし,乙事件が本件事業全体に対する公金支出を対象としているという違いはある(さらに,口頭弁論終結時には本件事業が完成したことに伴う相違点も生じていることは,前記第1の5(6)のとおりである。)が,いずれも一部地上式を採用した本件事業の適否が問題となっており,原告らが主張している違法事由,争点は同一である。また,甲事件は,差止請求であるから本件公金支出前に提訴せざるを得ないのであり,公金を特別会計に全部支出後には訴えを維持する実益がなくなるものである。これに対し,乙事件は,損害賠償請求であり,本件公金支出前には提訴することができず,本件公金支出後に初めて提起することができるものである。このように甲乙事件は,表裏一体のものである。さらに,そもそも本件公金支出について再度の監査請求をすることが許されないのは前記のとおりである。上記のような事情の下においては,出訴期間との関係では,前訴の提起時に後訴の提起がされていたものと同視することができるというのが相当である(最高裁判所昭和61年2月24日第2小法廷判決・民集40巻1号69頁参照)。したがって,乙事件は公金の支出後に提起されたわけであるが,その提起は,出訴期間の関係では,公金支出があってから適法な監査請求を経て適法な出訴期間内に提起されていたものと同視するのが相当である。 この点に関して被告P1は,出訴期間は,遅くとも原告らが本件公金支出の存在を知ったときから進行するものであり,原告らは遅くとも平成12年1月24日までに本件公金支出の事実を知ったのであるから,乙事件の訴え(平成12年2月29日提起)は,その出訴 告らが本件公金支出の存在を知ったときから進行するものであり,原告らは遅くとも平成12年1月24日までに本件公金支出の事実を知ったのであるから,乙事件の訴え(平成12年2月29日提起)は,その出訴期間を徒過しており不適法である旨主張する。しかし,本件においては,上記のとおり,乙事件の訴えは,出訴期間の遵守に欠けるところはないと解すべきである。 第2 本案についての判断(両事件における争点) 1 判断の順序・方法前記第1の5(6)のとおり,甲事件は,伊勢山シールド立坑から湘南台駅までの本件事業に関する工事のために横浜市交通局長が本件特別会計から支出した費用を補填するために,甲事件被告らは本件公金を本件特別会計に支出してはならないとの趣旨の訴えと解される。他方,乙事件は,本件事業に伴い本件各自治体が既に本件特別会計に支出した公金のうち平成7年4月1日から平成11年3月末日までに支出した分について,それが違法であるとして,本件各自治体に代位して支出の責任者である自治体の長に損害の賠償を求めるものである。 以上のように,甲事件と乙事件とは,訴えの対象行為の範囲(本件地上施設部分に係るものか全線に係るものか),捉え方(今後の特別会計に対する支出の差止めか,過去の一定時期に特別会計に支出した金員に相当する金額の賠償か)の点で異なるが,違法事由としては,(1)本件都市計画決定等の違法が公金支出の違法をもたらすか,(2)公金の支出自体が地方自治法232条の2,地方公営企業法17条の3,地方財政法4条1項に違反するかという点で共通している。そして,原告らがいずれの事件においても違法事由として最も問題としているのは,地上部分を認め全線地下式にしなかったという点である。したがって,以下では,甲乙事件共通に地上式の採否を含む違法事由の存否を検討することと ずれの事件においても違法事由として最も問題としているのは,地上部分を認め全線地下式にしなかったという点である。したがって,以下では,甲乙事件共通に地上式の採否を含む違法事由の存否を検討することとする。 2 非財務会計行為の違法を原因とする公金支出(1) 原告らの主張甲乙両事件とも,本件公金支出が違法であるとしてその支出分につき,差止め(甲事件)又は代位による損害賠償(乙事件)を求めるものであり,原告らの主張する第一次的な違法事由は本件都市計画決定等の違法性及びそれに基づく本件事業の適否であり,主として非財務会計上の行為を問題としている。そこで,まず,これが許されるかを検討する。 (2) 本件都市計画決定等の違法の公金支出への影響の有無・内容地方自治法242条の2に規定された住民訴訟の制度は,地方公共団体の執行機関又は職員による同法242条1項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実(財務事項)が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであることから,これを防止するため,住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する機能を与え,もって地方財政の適正な運営を確保することを目的とした制度である(最高裁判所昭和53年3月30日第1小法廷判決・民集32巻2号485頁)から,住民訴訟において主張することができるのは,原則として財務事項の違法事由に限られるということができる。 ただし,住民訴訟において主張できる違法事由を直接の財務会計法規違反に限定すると,住民訴訟の持つ地方財務行政の適正な運営確保の目的を図る機会は著しく少なくなる。他方,公金の支出を伴わない行政行為はおよそ存在しないのが実情であるから,公金の支出を伴うとして行政行為の適法性を争う途を無限定に認めると,住民訴訟は広く行政一般を対象とし得ることになり,地 くなる。他方,公金の支出を伴わない行政行為はおよそ存在しないのが実情であるから,公金の支出を伴うとして行政行為の適法性を争う途を無限定に認めると,住民訴訟は広く行政一般を対象とし得ることになり,地方自治法が住民訴訟の対象を財務事項に限った趣旨を逸脱することになる。また,非財務会計上の行為が行政処分である場合には,無限定にその違法性を争う余地を認めると行政処分の公定力を否定する結果になりかねない。 したがって,住民訴訟において主張し得る違法事由は,当該財務事項自体に財務会計法規上の違法がある場合のほか,財務事項と事実上直接的な関係に立つ非財務会計上の行為(以下「原因行為」ということがある。)に法令違反があってこれを看過しては執行機関の誠実管理執行義務(地方自治法138条の2)違反をもたらすような場合であると解するのが相当である。そして,上記「事実上直接的な関係」に該当する場合とは,原因行為を行うことの主たる目的が実質的に見て後行する公金の支出に向けられていると評価できる場合及び原因行為を直接の目的として公金を支出する場合,並びに原因行為を行うことによって法令上当然に公金の支出義務を負担する場合などであると解するべきである。 (3) 本件における判断のあり方これを本件について見ると,本件公金支出は,前記のとおり地方公営企業法17条の3,横浜市都市交通基盤整備基金条例又は本件各自治体間の覚書に基づいて,一般会計からの補助金等として支出されたものであるから,本件都市計画決定等は本件事業に対する関係で原因行為となっているにすぎず,本件公金支出との結びつきは本件事業を介在させているだけ間接的である。 したがって,本件公金支出行為は,本件都市計画決定等を直接の原因行為とはしていないというべきである。ただし,仮に本件都市計画決定等に強度の違法があ つきは本件事業を介在させているだけ間接的である。 したがって,本件公金支出行為は,本件都市計画決定等を直接の原因行為とはしていないというべきである。ただし,仮に本件都市計画決定等に強度の違法がある場合には,本件事業を通じて本件公金支出が違法になる余地を否定することはできないであろう。そこで,本件都市計画決定等を含めた本件事業内容を検討し,その後に,本件都市計画決定等に重大かつ明白な違法があるかどうか等についてさらに検討を加えていくことにする。 3 本件事業内容(1) 概要本件事業内容が請求原因(2)のとおりであることは,弁論の全趣旨により認められる(被告P3及び同P4との関係では弁論の全趣旨,その余の被告らとの関係では争いがない。)。また,本件鉄道に関する制度の概況等は第1の2,3のとおりである。 (2) 基本的なルート及び駅位置の選定等本件延伸部分周辺の地域は,近時急激に人口が増加し,また今後も増加が見込まれる地域であり,従来から鉄道,道路等の整備が遅れ,特に横浜伊勢原線(長後街道)の道路混雑は深刻な状況にあった。横浜市交通局は,この地域の交通不便を解消し,横浜市の都市部(横浜,関内地区)とを直結することによって,市域の一体化を図ると共に,既設の他鉄道路線との連絡を強化し,有機的な鉄道網を形成する重要路線として,昭和57年度から,市営地下鉄1号線の湘南台までの延伸を計画してきた。そして,横浜市交通局は,路線及び駅位置選定のための基礎調査を実施し,戸塚・湘南台間の鉄道路線として考えられるルートについて,地形及び地質,地域の状況並びに他鉄道との関係等を勘案して比較検討を行った。(丙17・29・32,証人P12・P5,弁論の全趣旨)運輸大臣の諮問機関である運輸政策審議会は,昭和57年9月に「東京圏における高速鉄道を中心とする 他鉄道との関係等を勘案して比較検討を行った。(丙17・29・32,証人P12・P5,弁論の全趣旨)運輸大臣の諮問機関である運輸政策審議会は,昭和57年9月に「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画」について諮問を受け,審議会内に東京圏都市交通部会を設置して,調査審議等を行い,昭和60年7月11日に答申(丙30。以下「審議会答申」という。)を出したところ,この答申では,平成12年までに整備すべき10路線のうちの1つとして本件鉄道が位置づけられた。なお,審議会答申は「鉄道を円滑に建設・運営するための方策」の1つとして「建設費の低減化」を掲げており,「建設費の低減化を図る観点からは,環境問題に配慮しつつ,可能な限り地下ではなく高架又は地上等に路線を設置することが望ましく」としている。 横浜市交通局は,審議会答申の趣旨に沿って,本件鉄道延伸のルート選定等の作業に入り,(1)戸塚から湘南台間を直線で結ぶコース,(2)長後街道沿いに延伸し,戸塚区中和田支所から南西に向かうコース,(3)長後街道沿いに延伸し,中和田支所より戸塚寄りである長後街道の立場交差点から湘南台に向かうコースの3ルートに絞って検討を進めたところ,相鉄いずみ野線との重複競合が避けられ,地域の開発計画と整合しており,バスと鉄道との有機的結合による総合的な地域交通体系の実現性が高く,経営採算制が他より高く,早期に免許が取得できる可能性が最も高いとの理由で,(3)のルート(以下「本件ルート」ということがある。)を基本的に採用することとし,横浜市議会への説明を経て,昭和61年7月18日に公表した。その際,本件鉄道の構造については,建築物が密集している市街地では地下構造,建設費の削減をはかるために郊外では可能な限り地上構造を採用することを基本とし,基本ルートの 和61年7月18日に公表した。その際,本件鉄道の構造については,建築物が密集している市街地では地下構造,建設費の削減をはかるために郊外では可能な限り地上構造を採用することを基本とし,基本ルートの公表とともにこれらの構造計画の概要についても公表した。(丙22・29,証人P12)その後,横浜市交通局は,具体的な平面線形及び横断線形,駅の位置,構造形式等についての計画案の策定作業を進め,戸塚から伊勢山地区までの区間は既に市街化が進んでいることから,都市計画道路である横浜伊勢原線の道路下に鉄道路線を敷設することにして,駅部は開削トンネル,駅間の路線部分はシールドトンネルを採用することとした。他方,泉ヶ丘地区から湘南台地区までの区間は,市街化調整地域であり,農地又は山林が大部分を占めること,地域的には途中和泉川と境川の2つの河川と交差すること,同地区には「いずみ田園文化都市構想」による開発計画が予定されていることなど,上記区間における以上のような土地利用状況,地形及び将来の沿線の開発計画等について考慮し,横浜市交通局は,和泉川及び境川の横断箇所は高架橋,その前後区間は掘割式(掘割式の区間とは,線路の施工基面が地表面よりおおむね5メートル以下である区間が350メートル以上連続している区間で地下式の区間以外のものをいう。丙28)及び地表式(地表式の区間とは,線路の施工基面がおおむね地表面にある区間で,嵩上式,掘割式,地下式以外の区間をいう。丙28)等の構造を採用し,特に,下飯田駅付近の台地部については,いずみ田園文化都市構想区域内にあるため,将来の開発の中で計画される道路との立体交差に支障のない深さの構造とし,地域分断を生じないよう町づくりとの整合性をはかることとした。湘南台駅付近の区間については,すでに市街化が進んでいることから,境川を横断 発の中で計画される道路との立体交差に支障のない深さの構造とし,地域分断を生じないよう町づくりとの整合性をはかることとした。湘南台駅付近の区間については,すでに市街化が進んでいることから,境川を横断した後,市街地に極力影響を与えないよう最急勾配で地上から地下に移行するとともに,湘南台駅前の駅前広場及び道路下等は開削トンネルとする構造とされた。(丙22・29,証人P12,弁論の全趣旨)(3) 都市計画決定及び環境影響評価手続き等の概要横浜市交通局は,平成3年4月19日本件鉄道について鉄道事業免許を取得し,その後,本件計画の確定に向けた諸手続きを開始し,同年7月ないし8月に事前地元説明会(以下「説明会」という。)を実施した。一方,被告知事は,都市計画変更手続きと並行して別紙3のとおりの環境評価手続きを経た上で,本件都市計画決定等をした。 説明会に出席した住民らの意見は,基本的には本件鉄道の早期整備を期待するものが多数であったが,地上構造部分,特に藤沢市域部分について,環境保全の見地から地下構造に変更して欲しい旨の沿線の住民からの要望が強く,その後も同趣旨の意見書,要望書及び陳情などが横浜市長及び横浜市議会はじめ各関係機関充てに提出された。 そこで,横浜市及び神奈川県は,上記要望について検討を行ったが,結論的には全線地下化は困難であり,一部地上式にして環境対策を可能な限り講じる旨を説明した。 その内容の詳細は,後記(4)(5)のとおりである。(丙12・29,証人P12,弁論の全趣旨)(4) 全線を地下化した場合の影響ア事業費の変動横浜市及び神奈川県は,(3)のとおりの要望について検討したが,現状のルートのまま地下構造に変更するためには,和泉川と境川の地下を横断する方法により地下深くに路線を敷設しなければならないこと,そのために 市及び神奈川県は,(3)のとおりの要望について検討したが,現状のルートのまま地下構造に変更するためには,和泉川と境川の地下を横断する方法により地下深くに路線を敷設しなければならないこと,そのためには,本件鉄道をすべて地下構造にして建設する必要があること,全線を地下化した場合には,建設費が大幅に増額すること,その金額等について次のように判断されること,以上のような説明をした。 すなわち,まず,神奈川県は,当時既に完成し,開通していた本件鉄道の上永谷から戸塚駅までの区間の過去の事業費を参考に,地下式を採用した場合の事業費の1キロ単価を約230億円と想定して,環境影響評価審査会において,本件延伸部分をすべて地下化した場合には,一部地上式の本件計画と比較して約300億円の増加となると説明した(丙10,証人P12)。 次に,横浜市は,全線を地下化する場合には,鉄道計画上の前提条件が大きく変わるため,本件延伸部分のルート・構造形式・施工方法等について全面的に再検討することが必要であるが,過去の路線の建設実績や本件計画策定段階での検討結果などから,全線地下式は明らかに大幅な事業費の増額を招くことから比較検討の対象にはならないとした上で,新たに具体的なルート選定等の検討は行わなかった。 ただし,地下化の要望に対して答えるために,仮に本件ルートをそのまま地下化した場合における費用を試算したところ,神奈川県による試算と同様,本件計画と比較して約300億円程度の増額となったため,住民らに対して,その旨,市長名で回答した。(丙12・29・35,証人P12,弁論の全趣旨)イ下飯田駅の利便性の悪化また,横浜市及び神奈川県は,(3)のとおりの要望について検討した結果,全線を地下化した場合には,下飯田駅は,和泉川と境川との間で地上から20メートル以上の深さの 旨)イ下飯田駅の利便性の悪化また,横浜市及び神奈川県は,(3)のとおりの要望について検討した結果,全線を地下化した場合には,下飯田駅は,和泉川と境川との間で地上から20メートル以上の深さの位置に設けられることになり,同駅の利便性が悪化し,いずみ田園文化都市構想と合致しないことになる旨の見解を述べた。(丙12・29・35,証人P12,弁論の全趣旨)ウ立場・下飯田間の中間駅の設置構想との関係本件ルートのうち,立場駅から下飯田駅間は,約2.1キロメートルであり,他の駅間と比較してやや距離が長いことから,従来から両駅間に駅(以下「中間駅」という。)の設置を求める要望が強かった(甲40,丙1・29,弁論の全趣旨)。そこで,横浜市は,本件計画では中間駅の設置を見送ったものの,将来の建設を容易にするために,中間駅建設が予定される区間では地上式構造で路線を建設するとともに線路の勾配等について配慮した計画内容とした。そして,横浜市は,仮に地下構造を採用した場合,その後に中間駅を建設するには,営業線の脇を掘削し,それを拡幅して駅を増設する必要があるから,地上式の場合と比較して相当の時間と費用がかかることになり,全線地下式は困難であるとの考え方を示した。(丙12・29,証人P12)。 (5) 環境対策・耐震設計等ア環境評価審査会の審査内容前記(3)で触れたとおり,都市計画変更手続きと並行して,平成3年から環境影響評価手続きが採られていたが・騒音,振動,日照障害,電波障害及び景観等について環境保全目標を満たすことが確認され,環境評価審査会による審査を経て,平成5年3月に同手続きが終了した(別紙3参照。丙17・18・29,証人P12・P5,弁論の全趣旨)。 上記の環境評価審査会の審査に供された県の評価書案・準備書及び同審査会の審査を踏まえ を経て,平成5年3月に同手続きが終了した(別紙3参照。丙17・18・29,証人P12・P5,弁論の全趣旨)。 上記の環境評価審査会の審査に供された県の評価書案・準備書及び同審査会の審査を踏まえた被告知事及び同横浜市長の審査書の内容は,次のとおりである。(甲13ないし16,丙17・18,弁論の全趣旨)(ア) 騒音神奈川県が行った環境影響評価では,本件地上施設部分の騒音レベルは,路線に最も近接する住居において70デシベルを下回ると予測されたが,その後,藤沢市域部分の相鉄いずみ野線との並走区間(本件並走区間)において,相鉄いずみ野線と本件鉄道とが同時に並走した場合の騒音レベルが,軌道中心から30メートルの地点で71デシベルとなる可能性が指摘されている(甲45,証人P12)。 地下部分のトンネル振動により発生する家屋内の騒音は,振動対策の実施により直上部で42デシベルほどであると予測された。 (イ) 振動本件地上施設部分の振動レベルは,バラストマットの敷設によりすべての地域で63デシベルを下回ると予測された。また,地下部分でも,同じくバラストマットの敷設によって,51デシベル以下になると予測された。 (ウ) 景観本件地上施設周辺区域のうち,低床高架部で建設される予定であった泉ヶ丘地区は,路線を建設する場所が谷部になっていることから景観の影響は少ないと予測された。また和泉川及び境川を横断する区間は,高架橋となるため,建造物によって視界が遮られるが,背景に優れた景観がないから,景観変化による影響は少ないと予測された。 (エ) 日照被害下飯田地区の一戸の住居に対して日照障害が生じることが予測された。 イその後の環境対策環境評価審査において,審査会は本件事業について,さらにでき得る限りの環境対策を検討するように指摘し,横浜市は,そ 田地区の一戸の住居に対して日照障害が生じることが予測された。 イその後の環境対策環境評価審査において,審査会は本件事業について,さらにでき得る限りの環境対策を検討するように指摘し,横浜市は,その指摘を受けて次のような具体策を採った(丙29,証人P12,弁論の全趣旨)。 (ア) 防音壁の設置等本件並走区間では,採用した逆L字型防音壁の防音効果を高めるために,吸音板を合成した上で,その高さを1メートル85センチメートルから3メートルに変更し,さらにその上部については透明板を内側45度に傾けるような工夫を行った。 そして,上下線の路線の間にも防音壁を設置し,路線建造物にはコンクリート箱桁を採用して,構造物を重量化することで,騒音・振動の低減を図ることとした(別添図1参照)。 さらに,本件地上施設部分には,路盤コンクリートとコンクリートまくら木との間にバラストを敷設するとともに,騒音の低減をはかるために路盤コンクリートの上に防振マットを敷設することとした(別添図2参照)。 そして,レールは,継ぎ目を溶接したロングレールを採用し,トンネルの出入りロ付近には吸音材を設置することとした。なお,本件並走区間や横浜市の本件地上施設部分の一部については,地域内の交通上の問題の解消のほか,騒音・振動・日照障害などに対する緩衝地帯としての役割を果たすために,線路の両脇に道幅6メートルほどの道路を新設することとした。 (イ) 運行後の対策摩耗による車輪の偏平化に伴って発生する騒音(いわゆるタイヤフラット音)を防止するため,運行後も各種の検査を実施するとともに,損傷摩耗が生じた車輪及びレールを随時削正・交換する旨の車両整備基準を定めた。また,本件並走区間における騒音・振動の影響を緩和するために,相鉄いずみ野線と本件鉄道とが極力並走しないようにダイヤ調整 損傷摩耗が生じた車輪及びレールを随時削正・交換する旨の車両整備基準を定めた。また,本件並走区間における騒音・振動の影響を緩和するために,相鉄いずみ野線と本件鉄道とが極力並走しないようにダイヤ調整を行うことが確認された。 (ウ) 景観対策周辺景観との調和をはかるため,和泉川及び境川の高架橋の高さをできるだけ低くすることとした。また,圧迫感を少なくするため,橋脚,橋桁のデザインについて曲線を生かしたものにするなどの検討を行い,特に本件並走区間では,景観との調和を保つようデザインを工夫して,全体的に周辺環境に調和させるようにすることとした。 ウ新たな耐震基準の策定横浜市交通局は,平成4年から7年ごろ(藤沢市域の高架区間(境川工区)は,平成5年から6年にかけて)「国鉄建造物設計基準昭和58年」(以下「昭和58年設計基準」という。)に準拠して,本件鉄道構造物についての詳細設計を行った。昭和58年設計基準は,昭和53年に発生した宮城県沖地震による被害経験を受けて,それ以前の「建造物設計基準(国鉄昭和45年3月)」の耐震性能を強化すべく改訂したものであり,兵庫県南部地震においても昭和58年設計基準に準拠した構造物には大きな被害を生じていなかったという鉄道施設耐震構造検討委員会(運輸省の設置機関)の報告(丙31)がある。 運輸省は,平成7年8月,今後新設する鉄道建造物について新たな耐震設計の実施を定めたが,これは関東運輸局長の通達によると「今後,詳細設計に着手する鉄道施設を対象とする」ものであり(関鉄技一第126号「鉄道施設耐震構造検討委員会の提言に基づく鉄道構造物の耐震性能に係る当面の措置について」(丙25)参照),既に詳細設計を完了していた本件鉄道は対象外であった。しかし,横浜市交通局は,上記通達の趣旨を踏まえて兵庫県南部地震クラスの 言に基づく鉄道構造物の耐震性能に係る当面の措置について」(丙25)参照),既に詳細設計を完了していた本件鉄道は対象外であった。しかし,横浜市交通局は,上記通達の趣旨を踏まえて兵庫県南部地震クラスの地震に耐えられることを目標とした耐震設計の見直しに着手し,財団法人鉄道総合技術研究所が平成8年3月に発行した「新設構造物の当面の耐震設計に関する参考資料」に準拠した具体的な設計寸法を採用した。そのため,本件延伸部分の鉄道建造物は,この新たな耐震設計に準拠して設計・建設された。(ウ全体について,丙29,証人P12,弁論の全趣旨) 4 本件都市計画決定等の重大明白な違法の有無(1) 虚偽の事業費試算による欺罔の有無ア原告らの主張の骨子原告らは,本件鉄道について全線を地下化した場合でも事業費は増大せず,むしろ減少するのであるから,被告らが行った前記(3(4)ア)試算は,虚偽のものである旨主張する。そこで,この点について,原告らの主張に沿って個別に検討することにする。同発注済みの地下式区間工事における発注価格による試算について原告らは,当時,既に発注済みであったシールドトンネルによる工事区間(戸塚西口工区,矢沢工区及び広町工区)における土木工事費の1キロ単価の平均が約100億円であることから(別紙4。丙24の1から13),被告らが・前記のとおり,地下化の場合の1キロ単価を230億円と想定すること自体が誤りである旨主張する。 しかしながら,まず,上記1キロ単価約100億円というのは本件事業における土木工事の発注金額に過ぎないのに対し,上記1キロ単価230億円というのは,当時既に完成していた上永谷・戸塚間(市営地下鉄1号線の区域ではあるが,本件事業とは別区域である。)の建設費総額を基礎とした金額であり,比較する費用の性質が異なるので,適切な議論 0億円というのは,当時既に完成していた上永谷・戸塚間(市営地下鉄1号線の区域ではあるが,本件事業とは別区域である。)の建設費総額を基礎とした金額であり,比較する費用の性質が異なるので,適切な議論ではない。また,上記100億円は3工区を基礎とした数値であるが,元となった資料(丙24及び別紙4)により発注済みのシールドトンネルの工事区間全体について見ると,その1キロ単価は,100億円ではなく,123億円である。また,これらの発注済みの金額はトンネル(ずい道)部分の工事費だけであり,地下化により増大することが予想される駅の施設の建造,電気・ガス等の設備,内装費,換気設備及び排水設備等にかかる費用はこの金額に含まれていない(証人P12・P5,弁論の全趣旨)。のみならず,係争の本件地上施設部分には和泉川及び境川があるため,川がない地域の地下工事よりもトンネル工事の費用が一般に多くかかると想定される。また,本件計画策定当時,地下式の事業費の1キロ単価が約200億円前後であって,地下鉄建設費が上昇していたことは,関係者には一般に認識されていたことである(丙11,証人P12)。 他方,横浜市交通局の担当者は,原告らから全線地下化の要望を受けて本件ルートをそのまま地下化した場合における費用を試算した(3(4)ア)が,その際の内部の検討の機会に用いられたという資料(丙35の1)によれば,想定土木費用は1キロ当たり154億円,同その他費用(駅の施設費,設備・内装費等をいうものと解される。)は38億円,同建設費(用地・権利取得費をも含む。)は207億円となる(3155メートルの区間についてのものである(丙35の2)ので,これを1キロ単価に換算して,丙35の1の「地下案」の「ずい道費」,「その他」及び「計」欄の各数値から割り出した。)。また,上永谷・戸塚の実 55メートルの区間についてのものである(丙35の2)ので,これを1キロ単価に換算して,丙35の1の「地下案」の「ずい道費」,「その他」及び「計」欄の各数値から割り出した。)。また,上永谷・戸塚の実績額よりも相当に低い実績額もあるが,これは,上永谷・戸塚に比べると10年古い工事の金額ではある(丙10)。 そうすると,1キロ当たりの地下化想定建設費用について,上永谷・戸塚の実績額を採用して230億円とする試算は,見方によればやや高めの想定であったかもしれないということはできる。しかし,この230億円は,根拠のない金額ではなく,その当時最も新しく,かつ,近接する区間に係る同じ市営1号線の実績額であり,それなりの重みはあるし,上記の諸事情に照らすと,見方によってはやはり合理性において優れるといえるものである。このようなことを総合すると,本件地上施設部分を地下化した場合における建設費用について被告らがした想定価格に虚偽があるということはできない。 (イ) 「改訂新鉄道システム工学」の数値による試算について原告らは,「改訂新鉄道システム工学」(丙13)に基づいて,本件地上施設部分を地下化した場合の事業費を試算すると,59億2731万円程度の増額にしかならないはずであり(別紙5計算書(1)の(3)参照),また,下飯田駅を開削埋戻工法で建設することを考慮するとより相当額減額することができる旨主張する(別紙5計算書(2)参照)。 しかしながら,原告らの上記試算方法は,地上式を採用した際の掘割式構造部分の土木工事費について,「開削埋戻し工法から屋根部及び支柱の建設費と埋戻費を除いたものとみなし,開削埋戻し工法による地下線路部の土木工事費の半額として試算」しているが,この試算は原告らの独自の予測に基づくものであって「改訂新鉄道システム工学」に基づく 柱の建設費と埋戻費を除いたものとみなし,開削埋戻し工法による地下線路部の土木工事費の半額として試算」しているが,この試算は原告らの独自の予測に基づくものであって「改訂新鉄道システム工学」に基づくものではなく,試算の客観性・合理性に欠ける面がある。 なお,「改訂新鉄道システム工学」に基づいて,被告横浜市長が行った試算では,約248億円の増額になるとの結果が出ている(別紙5計算書(5)参照)。 そして,この試算内容が不正確であることを認めるに足りる証拠はない。 (ウ) 地上式の環境対策等によるコストの増大の主張について原告らは,地上式より環境負荷及び耐震機能の点で優れている地下式を採用すれば,前記3(5)で検討したような,騒音・振動対策ないし耐震設計の見直しのための補強工事が不要になったのであり,環境コストを考慮すると,地上式の場合と比べて,数十億円ないしそれ以上の費用を削減できる旨主張する(別紙5計算書(3)参照)。 確かに,地上式構造では用地取得費が地下式構造による場合と比較して増大すること,環境保全のためのコストの費用がかかること,一般的には地下空間(特にシールド式トンネルによる地下空間)が耐震機能の点で高架式建造物や地上空間の建造物より優れていることが認められる(甲24,証人P5,弁論の全趣旨)。 また,前記3(5)のとおり,本件地上施設周辺区域の一部においては騒音・日照障害を軽減するための緩衝帯としての道路を建設したり,本件地上施設部分の防音壁等を強化していることが認められるから,本件地上施設部分の区間の環境対策には相当程度の費用をかけていることが認められる。さらに,実際の費用を検討するに,1400億円と予定されていた当初の総事業費が,最終的には1650億円となる見込みであり,増額された250億円の内訳は,耐震設計の見直しに約 けていることが認められる。さらに,実際の費用を検討するに,1400億円と予定されていた当初の総事業費が,最終的には1650億円となる見込みであり,増額された250億円の内訳は,耐震設計の見直しに約20億円,環境対策(土木費)に約45億円,サービス改善・福祉対策に約75億円,工期の遅れに伴う経費に約110億円であって,当初予算から比較すると,環境・地震対策等のために約65億円の費用が費やされていることが認められる(証人P5,弁論の全趣旨)。 しかしながら,上記環境対策の増額の大部分は,本件鉄道が住民の私有地の下を通過する部分の振動対策に費やされたものであり,地下式区間の工事費に充てられている(証人P5)。また,地震対策の増額部分は開削埋戻工法による構造物の耐震機能の強化に費やされたものであり(証人P5),地上部分の構造物(特に高架橋)に対する耐震機能の強化のために費用が増大したことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,地下式を採用すればそれだけですべての環境・地震問題が解消されるというものではなく,地下式構造部分についても,環境・地震対策に費用がかかることが認められる。 なお,原告らは,環境保全,公害防止の予算は事業の採算性とは別に考えても良いはずであり,現在及び将来の国民,住民のために,予算が高くなっても環境保全のためには,最良の方式を採るべきであると主張する。しかし,環境保全を事業の効率化より常に無条件に優先させるべきであるとまでいうことはできないのであり,その調和こそが重要である。 (エ) 本件計画の変更実績からする地下式の事業費の微増の主張について横浜市長は,下飯田地区及び泉ヶ丘地区において,当初掘割式構造で計画していた区間の一部である740メートルの区間を開削埋戻しによる地下式構造に変更し,その際,(1)将来の効率 の微増の主張について横浜市長は,下飯田地区及び泉ヶ丘地区において,当初掘割式構造で計画していた区間の一部である740メートルの区間を開削埋戻しによる地下式構造に変更し,その際,(1)将来の効率的な土地利用を図ることが可能となる,(2)線路の深さを変更しない場合には構造変更による事業費の増加が生じない,(3)騒音対策としてもより効果的である,と説明している(甲29,弁論の全趣旨)。原告らは,この点に着目した上,前記「改訂新鉄道システム工学」によると,開削トンネルによる地下式構造とシールドトンネルによる地下式構造では,1キロ当たりの工事費が後者が前者より5億円高い程度にとどまるから,シールドトンネルにした場合でも事業費がそれほど増加しないというべきであって,全線地下式を採用した場合に事業費が大幅に増大するとしてきた被告横浜市長の説明は誤りである旨主張する。 しかしながら,本件事業では,上記740メートルの区間は当初は,掘割式構造とされていた区間であり,これを開削埋戻式構造にした場合には,掘割部分に天井部分をかぶせることになるから,その建設費用が増加するが,用地費が減額となる(開削埋戻式構造の場合には,通常は地上権の取得で足り,所有権の取得まで要しない。)ので,建設事業費は合計ではそれほど増額にはならないというのが横浜市長の説明の(2)の趣旨と解される。そして,掘割式構造を開削埋戻式構造ではなく,シールドトンネルにする場合には,費用の増額の程度が前者における増額の程度で済むという保障はない。この点に関し,原告らは,1キロ当たり5億円程度しか増加しない旨を主張するが,裏付けとなる的確な証拠はない。しかも,上記740メートルの区間以外の本件地上施設部分はもともと地上式を計画していた部分であるから,この部分を開削トンネルやシールドトンネル式 加しない旨を主張するが,裏付けとなる的確な証拠はない。しかも,上記740メートルの区間以外の本件地上施設部分はもともと地上式を計画していた部分であるから,この部分を開削トンネルやシールドトンネル式にする場合には,より事業費が増加するものと見込まれる。 (オ) 小田急本線における事業費の試算との比較について原告らは,小田急本線梅ヶ丘から喜多見間の鉄道建設事業について,東京都が全線を地下式にした場合を想定して作成した事業費の試算に関する資料(甲41・42)によれば,1キロメートル当たりの土木工事費は約65億円であるから,これに基づいて試算すると,本件延伸部分の地上区間(2.2キロメート)の事業費総額は305億4980円(キロ当たり単価は138億8627円)となり,むしろ全線地下式の方が本件計画より低額である旨主張する。 しかしながら,シールドトンネルによる工事費は,トンネルを建設する土地の地質,形状等により大きく左右されるものであり,小田急本線における場合と本件鉄道の場合とを単純に比較することは適切ではない。なお,原告らは,本件事業のシールドトンネル部分の入札実績が1キロメートル当たり約100億円となっていることについて,小田急本線の場合の65億円と相当の乖離があり,その理由として本件事業では工区を14に分割したこと,14工区について28もの業者が受注したことなどからシールド立抗の兼用やシールド機械の合理的利用ができなかったこと,さらには談合の結果,公示価格が高騰したことなどを主張するが,これら事実を認めるに足りる的確な証拠は存在しない。 イ小括以上検討した結果を総合すると,結局のところ,全線地下式を採用した場合に事業費がむしろ減少するとか,被告横浜市長らが意図的に虚偽の試算を行ったといった原告らの主張事実を認めるに足りる的確な 小括以上検討した結果を総合すると,結局のところ,全線地下式を採用した場合に事業費がむしろ減少するとか,被告横浜市長らが意図的に虚偽の試算を行ったといった原告らの主張事実を認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。 なお,被告横浜市長らは,本件ルートを選定し,一部地上式構造を採用する際,全線地下式によるルート選定,事業費の試算等を行わなかったところ,それは,地下式の方が地上式より事業費が大幅に増加するとの認識から,環境に配慮しつつできる限り地上式を採用するとの前提でルート等を選定していたためであったと認められるが,前記3(2)のとおり審議会答申で地上路線が望ましいとされていたことやそのような認識が当然視されていた当時の状況等に照らすと,そのような認識・判断に基づく被告横浜市長の対応に誤りがあるとすることはできない。この点,原告らは,シールドトンネルの技術革新によって,シールドトンネル掘削に係る土木費が減少し,地下化による事業費の増加が抑えられたと主張するが,この事実を認めるに足りる的確な証拠はなく,また仮に時の進展・技術革新による費用の減少が現実にはあり得たとしても,本件都市計画決定等の当時,被告らに対してそのことを予想して計画を策定すべき義務があったと認めることまではできない。 (2) 都市計画審議会における適正な審議の阻害の有無原告らは,被告らが神奈川県都市計画地方審議会に提出した関係市町村及び利害関係人の「都市計画に対する意見書の要旨」(本件意見書の要旨)は,本件延伸部分の構造形式について反対の趣旨の意見が「賛成意見」ないし「その他」に分類されており,著しく誤謬に満ちているから,住民らの意見が適正に示されていない旨主張する。 確かに,本件意見書の要旨には,全線地下式を求める意見のうち多くが「賛成意見」ないし「その他 その他」に分類されており,著しく誤謬に満ちているから,住民らの意見が適正に示されていない旨主張する。 確かに,本件意見書の要旨には,全線地下式を求める意見のうち多くが「賛成意見」ないし「その他」に分類されていることが認められる(甲40)。しかしながら,住民らが記入した「都市計画(案)に対する意見書」(別紙2)は,「賛成」「反対」「その他」の区分欄のいずれかに〇を付けるような形式になっており,意見書の「賛成」「反対」「その他」の分類は,その住民のした記載に応じて分類したことが認められる(丙36,証人P12)。したがって,分類が著しく誤謬に満ちているということはできない。また,本件意見書の要旨は,賛成・反対・その他といった分類のみならず,理由欄に記載された内容もまとめられており,賛成に分類されている意見が必ずしも現計画に無条件に賛成するものではないことが明らかとなるものであり,全線地下化を求める意見が多数寄せられていることは,本件意見書の要旨に反映されているから,原告らのいうように,住民らの意見が適正に審議会に示されていないということはできない。 したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。 (3) 都市計画法13条違反の有無原告らは,一部地上式の採用に伴う自然環境の破壊及び公害の発生は,都市計画法13条の「良好な都市環境の保持」に反すると主張する。 しかし,環境破壊・公害については,いずれもおよそ受忍限度を超えるものではないことは前記3(5)アのとおりである。よって,原告らのこの主張は理由がない。 (4) 憲法29条違反の有無原告らは,本件都市計画決定等により,本件地上施設部分の軌道敷等の土地所有者について都市計画法上の利用制限・譲渡制限が課せられることになるところ,全線地下式によればおよそ不要な制限であるから,この制 原告らは,本件都市計画決定等により,本件地上施設部分の軌道敷等の土地所有者について都市計画法上の利用制限・譲渡制限が課せられることになるところ,全線地下式によればおよそ不要な制限であるから,この制限は公共の福祉に適合する合理的な制限とはいえない旨主張する。 しかしながら,原告らは,一部地上式による本件事業においては,一般的・抽象的に都市計画法上の制限がある旨主張するに過ぎず,かつ都市計画法のこの規定が憲法29条に反すると主張するわけでもないから,主張自体失当である。また,後記5のとおり,一部地上式による本件事業が,全線地下式との比較において,公益上の必要性があるとする被告らの判断に裁量権を逸脱した違法はないから,本件地上施設部分の周辺に加えられる都市計画法上の制限が本来およそ不要なものであるということはできない。 よって,原告らの主張は理由がない。 (5) まとめ以上検討したことに照らせば,本件都市計画決定等に重大かつ明白な違法があると認めることはできない。したがって,その見地から本件公金支出が違法となるものではない。 5 本件公金支出の地方自治法232条の2違反の有無地方自治法232条の2は,地方公共団体が補助金を交付する場合に,公益上の必要性があることを要するとしている。この公益上の必要性の有無については,第一次的には,当該地方公共団体の議会や首長の裁量的な判断に委ねられていると解すべきである。 そして,地方公共団体の議会や首長が補助金交付の際に行った公益上の必要性があるとの判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かは,特に本件のような地方公共団体が行う事業に対する支出については,当該補助金交付の目的と効果,政策の優先順位,地方公共団体の財政事情,事業内容の適否等諸般の事情を考慮して,これを決すべきものである。 本件につい な地方公共団体が行う事業に対する支出については,当該補助金交付の目的と効果,政策の優先順位,地方公共団体の財政事情,事業内容の適否等諸般の事情を考慮して,これを決すべきものである。 本件についてこれを見るに,原告らは,一部地上式にして本件地上施設部分を建設することに公益性がないと主張するが,本件事業自体の公益性についてはむしろ肯定するのである。そこで,一部地上式の本件事業が,全線を地下化した場合との比較において,公益性がないといい得るかが補助金交付の裁量判断の適否についての重要な判断事項となる。一般的には地下式の方が騒音・振動の被害は少ないと想定されるが,地下式であっても地下の振動の発生もあるからその対策を講ずることが必要であること,他方,本件地上施設周辺区域については,前記3(5)のとおり環境評価審査会の審査結果によれば,騒音・振動は受忍限度内であること,景観への悪影響が少ないこと,以上のとおり見込まれている。また,前記3(4)のとおり,全線地下化する場合に一部地上式にする場合よりも事業費が少なくなるとまでは認められないこと及び地下化すると中間駅を将来建設する場合に支障となることが認められるから,これらの諸事情を総合すると,いずれか一方の方式が他方と比較して圧倒的に優れているとまでは認めることができない。そうすると,一部地上式を採用するか全線地下式を採用するかは,まさしく本件事業主体(横浜市交通局)の裁量の範囲に属する事項であるということができ,一部地上式とした本件事業に補助金を交付するとした被告らの判断には裁量権の逸脱又は濫用があるとは認められない。 したがって,本件公金支出が地方自治法232条の2に違反するとの上記原告らの主張は理由がない。 6 本件公金支出の地方公営企業法違反の有無(1) 地方公営企業法上の補助の制度の 認められない。 したがって,本件公金支出が地方自治法232条の2に違反するとの上記原告らの主張は理由がない。 6 本件公金支出の地方公営企業法違反の有無(1) 地方公営企業法上の補助の制度の趣旨地方公営企業は,経営主体は地方公共団体であるが(同法1条),一定の事業目的のために地域住民に財貨やサービスを供給し,その費用を受益者から料金の形で回収することにより生産活動を継続する点では民間企業と同様であり,一般行政活動とは異なる性質をもつことから,常に企業の経済性をも発揮することが要請されている(同法3条)。そこで,地方公営企業の経営成績と財務状況とを常に明確に把握することが必要となり,それを可能ならしめるため,その経理については一般会計とは区別して事業ごとに特別会計を設けることを原則とし(同法17条1項),会計処理の方法も一般会計のそれとは異なり企業会計に準拠した扱いをし(同法20条,同法施行令9条等),さらに,公益性の高い特定の経費を一般会計又は他の特別会計により義務的に負担させるとした上で(同法17条の2第1項),それ以外の経費は当該公営企業の経営に伴う収入をもって充てなければならないとすることによって(同法17条の2第2項),当該公営企業特別会計が安易に一般会計に依存しないようにし,いわゆる独立採算制を採用している。 独立採算制の見地からは,地方公営企業が,企業としての合理性及び効率性の追求をなおざりにし,安易に一般会計に依存することは許されないというべきであり,しかもその財源となる当該地方公共団体の一般財源が主に住民により納付される税金により調達されているものであることから考えると,補助を行うに当たっては,それによって,独立採算制の原則の例外として公共目的が達成されるか,負担の公平を害することを正当化するだけの高度の必要 る税金により調達されているものであることから考えると,補助を行うに当たっては,それによって,独立採算制の原則の例外として公共目的が達成されるか,負担の公平を害することを正当化するだけの高度の必要性や合理的根拠がなければならないものである。 そこで,同法17条の3は「災害の復旧その他特別の理由により必要がある場合」には当該地方公共団体の一般会計等から地方公営企業特別会計に対して補助することができる旨定め,本来任意的な財政援助である一般会計等からの補助について制限を加えている。ここに「災害の復旧」とあるのは,多少の内部留保では巨大な災害の復旧事業を当該公営企業自身の力によって行うことが不可能な場合があり,また,災害復旧財源を料金原価に織り込むと住民の日常生活に不可欠なサービス等の提供に支障を来す場合もあるし,また,単に受益者のみによっては災害復旧経費をまかなうことは衡平ではないなど,当該補助を行う高度の必要性,合理性があると考えられることに基づく。 したがって,同法17条の3にいう「特別の理由」とは,災害の復旧に準じるような公営企業外の要因又は要請があるために,当該地方公営企業会計において独立採算制,受益者負担の原則又は料金決定原則という法の諸原則を維持しながら所要経費をまかなうことが客観的に困難な場合をいうと解すべきである。そして,この場合に当たるか否かは,具体的事案により個別の検討を要するものであり,当該補助を必要とするに至った理由を中心に,補助が達成しようとする直接の目的,補助の規模及び態様,これらと独立採算制等の諸原則との乖離の程度,当該補助の諸効果,地方公営企業に関する事情(負担能力等)等の諸般の事情を相関的に考慮して判断すべきである。 (2)本件公金支出の「特別の理由」の有無前記認定事実のとおり,本件事業は,横浜市及び 当該補助の諸効果,地方公営企業に関する事情(負担能力等)等の諸般の事情を相関的に考慮して判断すべきである。 (2)本件公金支出の「特別の理由」の有無前記認定事実のとおり,本件事業は,横浜市及び藤沢市にまたがる高速鉄道の延伸工事であって,本件延伸部分の開通自体は周辺地域の住民らのかねてからの要望であったと認めることができ,原告らも本件鉄道の延伸自体の必要性・公益性について肯定するものである。そして,本件事業は,上記地域における交通の利便を向上させるのみならず,上記地域と横浜市の都市部(横浜,関内地区)とを直結することによって,市域の一体化を図ると共に,小田急湘南台駅と連結することによって,有機的な鉄道網を形成し,JR東日本の藤沢駅・横浜駅間の恒常的な通勤混雑被害の緩和にも役立つものである。さらに,横浜市においては,本件計画を「よこはま21世紀プラン」等の総合計画における重要事業の1つとして位置づけてきた。(甲屯0,丙32,弁論の全趣旨)他方,本件事業費の総額は当初1400億円と予測されていたものであり,本件事業主体である横浜市交通局の本件特別会計上,累積赤字は平成8年度当時において既に約1650億円に達しており(既に完成して開通していた本件鉄道の戸塚以東の工事にかかった事業費によるものを含む。),横浜市交通局の起債のみで本件事業を行うことは,大幅な運賃の増額等を招き,事業そのものが成立しないおそれがある(丙32・33,証人P5)。 このように本件事業の必要性は極めて高い。そして,事業が完成し,利用者からの料金収入が増加すれば,事業収支は黒字となると見込まれる。しかし,当初建設資金全部を借入金によることは,金利負担に耐えられないので,まず不可能である。したがって,本件事業を行う以上,出資に相当する補助が不可欠である。 以上を総 黒字となると見込まれる。しかし,当初建設資金全部を借入金によることは,金利負担に耐えられないので,まず不可能である。したがって,本件事業を行う以上,出資に相当する補助が不可欠である。 以上を総合すると,本件特別会計に対する補助金の支出には,地方公営企業法17条の3の「特別の理由」があるというべきである。したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件公金支出が地方公営企業法17条の2・3に違反するとの上記原告らの主張は採用することができない。 なお,災害は,突然襲うものであるから,地方公営企業法17条の3の『災害の復旧」のための補助金支出は,予期せずに被った災害の復旧のために補助金を支出することを念頭においた規定である。それに対し,市営地下鉄を敷設するというのは,人為的に予め計画して行うものであり,災害の復旧とは性質が異なるというのが適切であろう。したがって,本件事業のために補助金を支出することが同条の「災害の復旧その他特別の理由」の「特別の理由」に該当するかどうかについては,法解釈上はいささか疑問がないではない。しかし,原告らも,地下式にしてそのために補助金を支出することには異論はないとしており,既に被告らにおいても特別の理由に該当するとの解釈を積み重ねてきているので,少なくとも,被告らが本件においてこのような解釈をすることには責に帰すべき事由はないというべきである。 7 本件公金支出の地方財政法4条1項違反の有無普通地方公共団体は,事務を処理するにあたっては,最小の経費で最大の効果を上げるようにする義務があり(地方自治法2条14項),経費はその目的を達成するために必要かつ最小の限度を超えて支出してはならないとされている(地方財政法4条1項)から,この規定に抵触する公金の支出は,違法と評価され得るものというべきである。 4項),経費はその目的を達成するために必要かつ最小の限度を超えて支出してはならないとされている(地方財政法4条1項)から,この規定に抵触する公金の支出は,違法と評価され得るものというべきである。もっとも,予算の執行において,事務の目的に従った最大効果を達成するために何をもって必要かつ最小の限度というべきかは,当該事務の目的,当該経費の額のみならず,予算執行時における経済状態,住民の消費及び生活の水準等の諸般の事情の下において,社会通念に従って決定されるべきものであるから,第一次的には,予算の執行権限を有する財務会計職員の社会的,政策的又は経済的見地からする裁量に委ねられているものと解するほかはない。したがって,具体的な公金の支出が当該事業の目的,効果との均衡を欠いているときは不当の評価に止まるものであるとしても,具体的な支出が当該事務の目的,効果と関連せず,又は社会通念に照らして目的,効果と著しく均衡を欠き,予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた前記裁量を逸脱してされたものと認められるときは,違法というべきである。 原告らは,本件事業において,本件地上施設部分を地下化した場合,総事業費として現計画とほぼ同程度か,より低額で施工できる可能性があったにもかかわらず,被告らが全線地下式の採用を検討せずに,一部地上式の計画を策定したことについて重大明白な違法がある旨主張するが,前記のとおり,全線地下式を採用した場合,一部地上式より事業費が減少することを認めるに足りる的確な証拠はない。 さらに,本件計画を策定した当時,通常地下式より地上式の方が工事費が軽減されるとの認識が一般的であった(丙29・30,証人P12,弁論の全趣旨)から,横浜市が全線地下式を採用した場合との詳細な比較を行わなかったことに,重大明白な違法があるということはでき 工事費が軽減されるとの認識が一般的であった(丙29・30,証人P12,弁論の全趣旨)から,横浜市が全線地下式を採用した場合との詳細な比較を行わなかったことに,重大明白な違法があるということはできない。 なお,仮に,原告らが主張するように,全線地下式を当初から採用していた場合には,本件計画による場合より,多少の事業費が減少すると想定しても,本件公金を支出する時点においては,計画が確定し,既に工事に着手していたのであるから,その時点で事後的に計画を大幅に変更し,全線地下化に踏み切ることは,計画の変更に伴う大幅な工事費の増大,工事期間の大幅な遅れが生ずることは明らかである。したがって,公金の支出機関としてはそのまま事業費を支出することが,本件においてはむしろ財務会計上の誠実管理執行義務に適する判断であるというべきであって,これを違法であるということはできない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件公金支出が地方財政法4条1項に違反するとの上記原告らの主張は採用することができない。 8 結び以上のとおり,本件公金支出に違法は認められない。 第3 結論そうすると,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所第1民事部裁判長裁判官岡光民雄裁判官窪木稔裁判官家原尚秀

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