令和4(わ)119 強要、逮捕監禁致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年9月11日 岡山地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93427.txt

判決文本文19,069 文字)

- 1 – 主文 被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中600日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、A(以下「A」という。)と共謀の上、第1 被告人の実子であるB(当時5歳、令和3年9月24日以降は6歳、以下「B」という。)がAを畏怖していることに乗じ、Bに義務なきことを行わせようと考え、 1 令和3年9月(以下、日付については断りのない限り令和3年9月のことである。)10日午後10時45分頃、岡山市a 区所在の被告人方において、Bに対し、その頭髪をつかんで引っ張り、その胸ぐらをつかんで同人を持ち上げて椅子の上に立たせる暴行を加え、よって、その頃から同日午後11時44分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、さらに、同日午後11時44分頃から同日午後11時48分頃までの間に、前記被告人方において、Bに対し、そのパンツをつかむなどして同人を持ち上げて椅子の上に置いた両手鍋の中に入れて立たせるなどの暴行を加え、よって、同日午後11時46分頃から11日午前2時21分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせるなどし、もって同人に義務のないことを行わせた。 2 11日午後8時57分頃から同日午後11時9分頃までの間に、前記被告人方において、Bに対し、その頭髪をつかんで引っ張り、その頸部等をつかんで同人を持ち上げて椅子の上に置いた両手鍋の中に入れて立たせた上、その鼻孔に手指を挿入するなどの暴行を加え、よって、同日午後8時57分頃から12日午前0時24分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、さらに、同日午前2時46分頃から同日午前2時52分頃までの間に、- 2 – 前記被告人方において、床上にいたBに対し、 0時24分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、さらに、同日午前2時46分頃から同日午前2時52分頃までの間に、- 2 – 前記被告人方において、床上にいたBに対し、その頭髪をつかんで立ち上がらせ、その身体をつかんで同人を持ち上げて前記両手鍋の中に入れて立たせるなどの暴行を加え、よって、その間、同人を同所に立ち続けさせて同所に留まらせ、さらに、同日午前3時36分頃から同日午前3時42分頃までの間に、前記被告人方において、床上にいたBに対し、その頭髪をつかんで同人を持ち上げて前記両手鍋の中に入れて立たせた上、濡れた上衣を着せるなどの暴行を加え、よって、同日午前3時36分頃から同日午前4時3分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、もって同人に義務のないことを行わせた。 3 17日午後9時57分頃から同日午後10時頃までの間に、前記被告人方において、Bに対し、その頭髪をつかんで同人を引き上げて椅子の上に置いた両手鍋の中に入れて立たせた上、その頭髪をつかんで同人を上下に揺さぶるなどの暴行を加え、よって、同日午後9時57分頃から18日午前3時47分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせるなどし、もって同人に義務のないことを行わせた。 4 18日午後9時47分頃から同日午後10時頃までの間に、前記被告人方において、Bに対し、その口腔内に手指を差し入れて下顎部をつかんで同人を持ち上げて立たせ、その身体をつかんで同人を持ち上げて椅子の上に置いた両手鍋の中に入れて立たせる暴行を加え、よって、同日午後10時頃から19日午前1時29分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、もって同人に義務のないことを行わせた。 5 21日午前2時25分頃、前記被告 加え、よって、同日午後10時頃から19日午前1時29分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、もって同人に義務のないことを行わせた。 5 21日午前2時25分頃、前記被告人方において、Bに対し、両手鍋の中に立たせた同人を両手鍋ごと持ち上げて、これをそのまま椅子の上に置く暴行を加え、よって、その頃から同日午前3時31分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、もって同人に義務のないことを行わせた。 6 21日午後6時54分頃から同日午後8時3分頃までの間に、前記被告人方- 3 – において、Bに対し、その口腔内に手指を差し入れて下顎部と頭部をつかんで同人を持ち上げて椅子の上に置いた両手鍋の中に入れて立たせた上、同人にどんぶりを持たせて胃内容物をその中に嘔吐するよう要求し、同人の手指をつかんでその口腔内に押し込むなどの暴行を加え、よって、同日午後6時54分頃から同日午後9時42分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせて同所に留まらせるとともに、前記どんぶりの中に胃内容物を嘔吐させるため同人の手指をその口腔内に差し入れさせるなどし、さらに、同日午後10時35分頃、前記被告人方において、床上にいたBに対し、同人の身体を持ち上げて前記両手鍋の中に入れて立たせる暴行を加え、よって、その頃から同日午後10時37分頃までの間、同所に立ち続けさせて同所に留まらせ、さらに、同日午後11時8分頃、前記被告人方において、床上にいたBに対し、その身体をつかんで同人を持ち上げて前記両手鍋の中に入れて立たせる暴行を加え、よって、その頃から22日午前0時15分頃までの間、同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、もって同人に義務のないことを行わせた。 7 22日午後9時3分頃から同日午後9時52分頃までの間に よって、その頃から22日午前0時15分頃までの間、同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせ、もって同人に義務のないことを行わせた。 7 22日午後9時3分頃から同日午後9時52分頃までの間に、前記被告人方において、Bに対し、その着衣をつかんで同人を持ち上げて椅子の上に置いた両手鍋の中に入れて立たせるなどの暴行を加えた上、同人にどんぶりを持たせて胃内容物をその中に嘔吐するよう要求し、よって、同日午後9時5分頃から同日午後10時3分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせて同所に留まらせるとともに、前記どんぶりの中に胃内容物を嘔吐させるため同人の手指をその口腔内に差し入れさせるなどし、さらに、同日午後11時27分頃から23日午前2時29分頃までの間に、その頭髪をつかんで引っ張り、その身体をつかんで持ち上げて椅子の上に載せた板の上に置いた両手鍋の中に同人を入れて立たせるなどの暴行を加えた上、同人にどんぶりを持たせて胃内容物をその中に嘔吐するよう要求し、よって、22日午後11時27分頃から23日午前3時33分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせると- 4 – ともに、前記どんぶりの中に胃内容物を嘔吐させるため同人の手指をその口腔内に差し入れさせるなどし、もって同人に義務のないことを行わせた。 8 23日午前7時15分頃から同日午前10時40分頃までの間に、前記被告人方において、Bに対し、同人の着衣をはぎ取って全裸にし、その顔面を右手で殴り、その頭髪をつかんで引っ張り、その身体をつかんで同人を持ち上げて椅子の上に載せた板の上に置いた両手鍋の中に同人を入れて立たせるなどの暴行を加え、同人にどんぶりを持たせて胃内容物をその中に嘔吐するよう要求し、よって、同日午前7時20分頃から同日午後0時33分頃までの間、同人を た板の上に置いた両手鍋の中に同人を入れて立たせるなどの暴行を加え、同人にどんぶりを持たせて胃内容物をその中に嘔吐するよう要求し、よって、同日午前7時20分頃から同日午後0時33分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせて同所に留まらせるとともに、前記どんぶりの中に胃内容物を嘔吐させるため同人の手指をその口腔内に差し入れさせるなどし、もって同人に義務のないことを行わせた。 9 24日午前2時24分頃から同日午前2時34分頃までの間に、前記被告人方において、Bに対し、その身体をつかんで同人を持ち上げて椅子の上に載せた板の上に置かれたポリタンクの上に同人を立たせるなどの暴行を加え、よって、同日午前2時34分頃から同日午前3時17分頃までの間、同所に立ち続けさせるなどして同所に留まらせるなどし、もって同人に義務のないことを行わせた。 10 25日午後0時55分頃、前記被告人方において、Bに対し、その身体をつかんで同人を持ち上げて椅子の上に重ねて置いたポリタンクの上に立たせる暴行を加え、よって、その頃から同日午後1時2分頃までの間、同人を同所に立ち続けさせて同所に留まらせ、もって同人に義務のないことを行わせた。 第2 25日午後1時3分頃から同日午後2時25分頃までの間、前記被告人方において、Bに対し、その全身を掛け布団及び敷き布団で巻き付け、その状態の同人を押入の中に入れて放置し、同人を同所から脱出することを著しく困難な状態にし、もって同人を不法に逮捕監禁し、よって、令和4年1月12日午前11時41分頃、b 病院において、同人を低酸素脳症により死亡させた。 - 5 – (事実認定の補足説明)第1 事案の概要及び争点等被告人の二女である被害者に対し、判示記載の各強要行為及び逮捕監禁行為に及んだのは、当時被告人と交際し、被告人 亡させた。 - 5 – (事実認定の補足説明)第1 事案の概要及び争点等被告人の二女である被害者に対し、判示記載の各強要行為及び逮捕監禁行為に及んだのは、当時被告人と交際し、被告人方に頻繁に出入りしていたAであるが、被告人は、被害を受けている被害者の状況を認識しながら、Aのこれら行為を制止したり、被害者を助けたりしなかった。以上は、被告人方に設置されていた見守りカメラの映像等の関係証拠から明らかであり、当事者間に争いはない。 検察官は、被告人がAの一連の犯行を制止せず、被害者を助けなかったのは、被告人がAとの間で各犯行に関する意思を通じ合い、本来母親として被害者を保護すべき被告人がAの行為を黙認したからこそ、Aの各犯行を実行することができたことからすれば、自分たちの犯罪を一緒にやったと評価するにふさわしい重要な寄与をしているとして、被告人には、各強要罪及び逮捕監禁致死罪の共謀共同正犯が成立すると主張する。これに対し、弁護人は、被告人がAの一連の犯行を制止等しなかったのは、被告人がAから継続的にDVを受けており、被告人の持病、障害、心理的特性も相まって、Aの各犯行を止めることは容易でなく不可能であったからであるとして、被告人がAの各犯行を制止せず、被害者を助けなかったことは、Aの犯行を手伝っただけとしか評価できないので、幇助犯が成立するにとどまる旨主張する。 当裁判所は、被告人には、一連の犯行につき共謀共同正犯が成立し、幇助犯への訴因変更の促しをする必要がないと判断した。その理由は次のとおりである。 第2 前提事実関係証拠によれば、以下の事実は優に認められ、当事者間にも概ね争いはない。 被告人は、4人の子どもの母親であり、被害者は末っ子にあたる。令和3年9月25日当時の子どもたちの年齢は、長男が12歳( 係証拠によれば、以下の事実は優に認められ、当事者間にも概ね争いはない。 被告人は、4人の子どもの母親であり、被害者は末っ子にあたる。令和3年9月25日当時の子どもたちの年齢は、長男が12歳(中学1年生)、二男が11歳(小学5年生)、長女が9歳(小学4年生)、被害者が6歳であった。 被告人には、軽度の知的能力障害があるほか、てんかんや1型糖尿病等の既- 6 – 往歴がある。また、精神疾患に関する通院歴があり、平成31年1月9日から令和2年10月31日まで、精神障害者保健福祉手帳(障害等級2級)の発行を受けていた。 2 平成31年2月頃、被告人はAと交際を開始し、程なくしてAは頻繁に被告人方に出入りするようになった。また、Aは、被告人に自身の予備の携帯電話機を渡し、仕事に行っていて被告人と一緒にいない時間は、自身の使用する携帯電話機と常時接続して通話できる状態にしていた。 3 令和元年6月16日、被害者は迷子になり警察官に保護された。その際、被告人は、こども相談所の福祉司に、「(Bは)一人で外に出て警察官に保護された」「私が家事をしているときにも勝手に家を出ていき困っている」「何度注意して叱っても理解しないので困る」などと述べていた。 (なお、被告人は、公判廷において、このようなことは述べたものの、その内容は真実ではない旨供述するが、後述のとおり被告人の供述は全体として信用できず、前記供述には他に何らの裏付けもないため、採用し難い。) 4 令和2年9月23日、Aと被告人が、被害者を全裸で墓地に立たせていたことから、被害者は一時保護された。その際、被告人は、こども相談所の福祉司に対し、被害者を墓地に立たせた経緯等につき、概要、きょうだい4人が風呂で騒いでおり、注意しても被害者だけ静かにならなかったので、被害者がお 者は一時保護された。その際、被告人は、こども相談所の福祉司に対し、被害者を墓地に立たせた経緯等につき、概要、きょうだい4人が風呂で騒いでおり、注意しても被害者だけ静かにならなかったので、被害者がお化け嫌いなことを踏まえて被害者を墓地で叱ることを提案したと述べ、「(Bは)昨年よりも問題行動が増え、例えば、お金をとるようになったり、家では服を着なかったり、兄姉に向かって唾を吐くなど、叱っても効果がない」と述べていた。 また、被害者の一時保護が解除された後の、同年11月11日には、被告人は、同福祉司に対し、「心配なことはB1人で勝手に家を出て行くこと」「注意してもいけないと思い、Bが出て行く時は後ろからついていくようにしている」「(Bは)鍵を閉めていても勝手に鍵を開けて出て行く」と話していた。(なお、被告人が公判廷においてその内容は真実を述べたものではない旨供述していること、それが採用し- 7 – 難いということは前記3のなお書きで記載したのと同様である。) 5 令和3年2月28日から同年5月4日までの間、被告人は、LINEのメッセージ機能を用いて、Aに対し、「午前中はBが2回外に出て 2回目は門出たとこのガードレールのとこの崖を降りてて」(令和3年2月28日のLINE)、「今日はほんとにいまのとここれと言った問題は起きてないよ」(同年3月18日のLINE)、「Bの午前中の報告物を取ったりとかはないけど普通に喋ったりしてていまは2階に上がってる」(同月21日のLINE)、「(被告人の名前)が起きるまでBは勝手に外出て(中略)窓から出て屋根に登ったって言う報告受けて」「昼寝してってよんのに言うこと聞かない」(同年4月18日のLINE)、「昼から起きていまの現状報告 B お腹すいたって泣き叫ぶ(中略)キッチン覗き見トイレから脱走」「 に登ったって言う報告受けて」「昼寝してってよんのに言うこと聞かない」(同年4月18日のLINE)、「昼から起きていまの現状報告 B お腹すいたって泣き叫ぶ(中略)キッチン覗き見トイレから脱走」「うるさくしたり(被告人の名前)の言う事聞かなかったりしたら即2階ねって釘さしてる」(同年5月4日のLINE)等と、Bの問題行動等について報告していた。 6 令和3年5月頃、Aは、被告人方のリビングと寝室のそれぞれに見守りカメラを設置した。同見守りカメラは、専用のアプリケーションソフト(以下「専用アプリ」という。)を携帯電話機にダウンロードして使用するものであり、カメラで撮影した映像は、カメラ本体にマイクロSDカードを挿入して保存したり、保存した映像を視聴したり、携帯電話機で、インターネット回線を利用してリアルタイムに映像を視聴したりすることができるものであった。また、専用アプリを通じてカメラの画角を調整することができ、携帯電話機から、音声をカメラ本体のスピーカーに送信することも可能であった。Aの設置した前記2台の見守りカメラは、被告人方のリビング及び寝室のほぼ全体が撮影範囲となっており、内蔵されたマイクロSDカードに撮影された映像が保存されていた。そして、Aは、自己の使用する携帯電話機に専用アプリをダウンロードしており、前記各見守りカメラで撮影された映像をリアルタイムに視聴したり、録画された映像を視聴したりすることが可能であった。 7 令和3年8月1日、被告人は、LINEのメッセージ機能を用いて、Aに対- 8 – し、「ドア開けたらイスの上ちゃんと立ってたよ」とメッセージを送った。 また、同年9月8日、被告人方寝室において、二男が被告人に対し、「Bがチョコとりよるよ」と言ったところ、被告人は、二男に対し、「手叩いた?」「叩いて」「B ちゃんと立ってたよ」とメッセージを送った。 また、同年9月8日、被告人方寝室において、二男が被告人に対し、「Bがチョコとりよるよ」と言ったところ、被告人は、二男に対し、「手叩いた?」「叩いて」「B」などと述べて、被害者がチョコを取った行為に対し、二男に被害者の手を叩くことを要求した。 8 Aは、令和3年9月10日から25日にかけて、判示第1の1ないし10記載のとおり、被害者に対し強要行為を行った。本件各強要行為の際、被告人は、立たされている被害者の傍を通り過ぎたり話しかけたりするのみで、被害者を椅子の上から降ろすなど助ける行為はしなかった。 このうち、同月18日の朝、被告人は、A不在時に、被害者に対し、「昨日言いました、鍋に立ってくださいと」「(Aの名前)君に聞いてください」「夜知らんよ、知らんよ、ええんじゃな」などと話していた。 9 令和3年9月25日、被告人は、Aがポリタンクに立たせた被害者を降ろし、大声で泣く被害者を被告人方北側和室に連行する様子(この後、Aは判示第2の逮捕監禁行為を行った。)を見ていたが、北側和室まで被害者の様子を見に行くことはせず、同日午後2時23分頃、Aに対し、「Bちゃん見てくる」と言って被害者の様子を見に行くまで、Aを制止したり、被害者を助けに行くことはしなかった。 なお、寝室での見守りカメラの映像には、同日午後1時54分頃、Aが、被告人に対し、「あの例の部屋の、この、この扉あるが。あの中にBちゃんしまっとる。」と話したところ、すぐに被告人が「ああ、今日布団ぐるぐるだね」と話した場面が映っていた。 第3 A及び被告人供述の検討 1 被害者に対する各強要行為は、いずれも見守りカメラの設置されていたリビングで行われた。その映像等によれば、被害者は長時間にわたり被害を受け続けているにもかかわらず、被告 及び被告人供述の検討 1 被害者に対する各強要行為は、いずれも見守りカメラの設置されていたリビングで行われた。その映像等によれば、被害者は長時間にわたり被害を受け続けているにもかかわらず、被告人は、被害者の傍を何度も通りつつも、その被害状況にほぼ全く関心を示さず、Aを制止したり、被害者を助けるようなことはしていない。 - 9 – また、被害者に対する逮捕監禁行為自体は、見守りカメラの設置されていない北側和室で行われたためその映像はないが、被告人は、Aから被害者が布団でぐるぐる巻きにされていることを伝え聞いても、同様に、制止することや助けることを行っていない。 他方、見守りカメラの映像等には、各強要行為や逮捕監禁行為を行うことについて、Aと被告人が話し合った場面は存在しない。そこで、各強要行為や逮捕監禁行為が行われるに至る事情について、Aや被告人が供述する内容についてそれぞれ検討する。 2 Aの供述について⑴ Aは、公判廷において、被害者への虐待をするようになった経緯及び本件各犯行の経緯に関し、要旨、以下のとおり供述した。 ア被害者に虐待を始めたのは平成31年4月頃からである。そのきっかけは、被告人から子どもたちのしつけについて相談を受けたからであり、最初は、被害者が言うことを聞かなかったりした場合に、軽く叩くということから始めた。 その後、被告人から、自分の家庭では子どもに手を上げないのに、被告人の子どもたちに手を上げるのはおかしいという話があり、令和元年6月頃から令和2年の七、八月頃まで被害者への虐待はやめ、口頭注意にとどめていた。 しかし口頭で注意しても子どもたちが言うことを聞かない、どうしたらいいかと被告人から相談を受け、被告人が、罰を与えた方がいいのでは、などと言ったことに同意し、令和2年七、八月頃か にとどめていた。 しかし口頭で注意しても子どもたちが言うことを聞かない、どうしたらいいかと被告人から相談を受け、被告人が、罰を与えた方がいいのでは、などと言ったことに同意し、令和2年七、八月頃から、虐待を再開した。 イ被害者を椅子の上に立たせるような虐待を始めたのは令和3年5月頃からである。被害者が、日中暴れて言うことを聞かない、人のものを取った、壊す、冷蔵庫のものを勝手にあさって食べる等といったことをしたというような被害者の素行について、被告人が報告してくるとともに、しつけを自分ではできないのでどうにかしてほしいと頼んでくることがあった。そのような相談を受けて、虐待に当たる行為をしていた。被告人から具体的に、被害者を叩いてくれ、椅子の上に立たせて- 10 – くれというようなことを頼まれたことはない。 ウ本件各強要行為については、事前に、被告人と一緒に買い物に行った際や被告人との電話において、被告人から、被害者が悪いことをしたり言うことを聞かないといった被害者の素行に関する報告を受けており、それが各行為のきっかけだった。 エ被告人から、被害者の素行について報告を受けた際、被害者にどのような罰を与えるかについては、自分で考えていた。最初の頃は、どういう罰をしようとしているか、被告人に事前に伝えることもあったが、本件各強要行為の頃は、被告人から報告を受けたら椅子の上に立たせるなどのことをすることが当たり前の流れになっており、被告人から止められるようなこともなかったため、事前に、被害者に対してすることについて被告人に確認してはいなかった。 オ本件逮捕監禁行為については、令和3年9月25日の強要行為の際、被害者が泣きやまなかったことから、北側和室に連れていった。被害者は北側和室に連れていってから静かになったが、連 はいなかった。 オ本件逮捕監禁行為については、令和3年9月25日の強要行為の際、被害者が泣きやまなかったことから、北側和室に連れていった。被害者は北側和室に連れていってから静かになったが、連日言うことを聞いていなかったことから何もしないのはどうかと思い、言うことを聞いていなかった罰として、被害者を布団で巻くことにした。被害者を布団で巻いた後、同日午後1時11分頃、台所において、被告人に対し、被害者を布団で巻いているということを伝えるため、被害者をぐるぐるにしていると言ったが、被告人は納得している感じで聞き流していた。 Aの前記供述の信用性について本件各行為の実行者であるAは、既に自身の裁判が確定し、服役中であるとはいえ、引っ張り込みの危険がないとは言えないので、その供述の信用性については慎重に検討する必要があるが、以下のとおり、その供述は信用することができる。その理由は次のとおりである。 ア被告人から被害者のしつけに関し相談を受けていた旨の供述について、前記前提事実記載のとおり、被告人は、被害者が迷子になり警察官に保護された令和元年6月頃や、被害者が全裸で墓地に立たされ、一時保護された令和2年9月下旬以- 11 – 降頃、いずれもこども相談所の福祉司に対し、繰り返し被害者の問題行動に困っている旨話しており(前記第2(以下、括弧内の番号については断りのない限り前記第2記載の各番号のことである。)の3、4)、被害者のしつけに悩んでいたといえるところ、このような状況にあった被告人が、唯一の身近な大人であるAに対し、被害者のしつけに関し相談することは自然である。また、被害者が一時保護された前記の令和2年9月下旬以降には、被告人が被害者を叱っても効果がないとこども相談所の福祉司に訴えていたこと(4)からすれば、被告人 のしつけに関し相談することは自然である。また、被害者が一時保護された前記の令和2年9月下旬以降には、被告人が被害者を叱っても効果がないとこども相談所の福祉司に訴えていたこと(4)からすれば、被告人からAに対し、被害者に口頭での注意を超えて何らかの罰を与える必要がある旨の相談をするのは自然な流れである。さらに、被告人が令和3年8月1日にAに対しLINEで「イスの上ちゃんと立ってたよ」と被害者の様子を伝えていたこと(7)、同年9月8日に二男に対し「叩いて」と被害者の手を叩くよう発言したこと(7)、同月18日に被害者に対し「昨日言いました、鍋に立ってくださいと」と発言したこと(8)等からすれば、被告人は、Aが罰を与えることを容認していたことがうかがわれ、Aの供述する、被告人がAに被害者のしつけに関し相談し、被告人の意向も踏まえてAが虐待を再開したという経緯(なお、被告人もAが虐待をしていなかった時期があること自体は認めている。)と整合する。 イ次に、本件各強要行為の際、被告人から被害者の素行に関する報告を受けたことをきっかけに虐待に及んだ旨の供述について、被告人がAに対し被害者のしつけに関し相談していたことからすれば、しつけの理由となる被害者の素行をAに伝えることは自然な流れであるし、何度もAに対しLINEで「報告」という文言を使うなどして被害者の具体的な行動を伝えていたこと(7)とも整合する。また、本件各強要行為に係る見守りカメラの映像によれば、本件各強要行為前の多くの場面でAは被告人と一緒に被告人方に帰宅していることや、Aが仕事に行っていて被告人と一緒にいない時間は被告人と電話を繋ぎっぱなしにしていたこと(2)は、Aが、被告人方に来る前の時間帯において、一緒に買い物に行った際に直接あるいは電話で被告人から被害者の素行について話を聞 被告人と一緒にいない時間は被告人と電話を繋ぎっぱなしにしていたこと(2)は、Aが、被告人方に来る前の時間帯において、一緒に買い物に行った際に直接あるいは電話で被告人から被害者の素行について話を聞いたとする供述と整合的である。 - 12 – 実際、Aは、被害者がした悪いことの内容に応じて虐待をしていた旨供述しており、現に、見守りカメラの映像によれば、本件各強要行為以外にも、エレクトーンの椅子の汚れを拭かせる、被害者の手を噛む、被害者が着ていた兄姉の服を脱がせる等しており、被害者がしたことに応じて虐待の内容を変えていることがうかがわれる。 これは、被害者の素行について被告人からの報告があったからこそできたことであるといえる。 ウさらに、本件逮捕監禁行為についての供述についてみると、被告人は、令和3年9月25日午後1時54分頃、寝室において、Aから単に「Bちゃんしまっとる」と言われたのに対し、「ああ、今日布団ぐるぐるだね」と言っている(9)が、同発言からすれば、Aの供述するとおり、同会話に先立ってAから被害者を布団で巻いている旨伝えられていたものと理解できる。 エなお、弁護人は、Aが令和3年9月15日に、被告人からの報告をきっかけとせずに被害者の頭部を殴打する暴行をしているにもかかわらず、公判廷において同月12日から16日までは虐待をしていなかったと明らかに矛盾する供述をしていることからA供述は信用できないと指摘する。しかし、前記供述は前記の期間虐待がなかったことを前提にされた検察官からの質問に対し(従って、この質問は検察官の誤導であった。)、その前提を否定しなかったというものであるところ、約3年前の出来事について細かい日付を含め記憶を保持した上、検察官の質問が誤っていると指摘することは一般に困難であるといえる。また、同月15日 た。)、その前提を否定しなかったというものであるところ、約3年前の出来事について細かい日付を含め記憶を保持した上、検察官の質問が誤っていると指摘することは一般に困難であるといえる。また、同月15日の見守りカメラの映像等によれば、被告人とAが一緒に被告人方に帰宅しているところ、本件各強要行為の際と同様に、帰宅前における買い物の際に被告人から被害者の素行の報告を受けたことも十分に考えられるのであるから、同日における事実は、Aの供述内容の信用性を減ずるものではない。とすれば、弁護人指摘の事情は、A供述の信用性に影響を与えるものであるとはいえない。 以上によれば、Aの供述は信用することができる。 3 被告人の供述について- 13 – 被告人は、Aが本件各強要行為及び逮捕監禁行為をしていた当時の自らの言動について、記憶になく、後から見守りカメラの映像を見ても当時の気持ちを思い出すことができないと述べている一方で、本件に至る経緯やAに関する事柄について、以下の供述をしているため、その信用性について検討する。 ⑴ Aとのやり取り等に関する供述についてア被告人は、公判廷において、子どもたちの養育に関するAとのやり取り及び本件頃のAとのやり取り等について、以下のように述べている。 被害者を含む子どもたちが言うことを聞かないこと等について、世間話として話す以上にAに相談したことはなく、Aに被害者を含む子どもたちのしつけをしてほしいと頼んだこともない。被害者は、きちんと話せば分かる子であり、悪いことをしても言葉で諭すようにしていた。自分一人で子ども4人をちゃんと育てていくことはできたと思う。 本件各強要行為に先立って、買い物の際等にAに対し被害者の様子を報告したことはない。Aから被害者の様子を聞かれたことはあるが、みんな良い 一人で子ども4人をちゃんと育てていくことはできたと思う。 本件各強要行為に先立って、買い物の際等にAに対し被害者の様子を報告したことはない。Aから被害者の様子を聞かれたことはあるが、みんな良い子だったと報告していた。 イ信用性について被告人の前記供述は、信用できるA供述と矛盾するものであるが、そのほか、以下の点からも信用できない。 被告人は、前記のとおり、Aが本件各強要行為及び逮捕監禁行為をしていた当時の自らの言動について、記憶にない等と述べているほか、Aから被害者に対する虐待が日常的に行われており、やめてほしいという気持ちがあったが、Aが被害者への虐待を開始したきっかけや虐待をしている理由は分からないと述べている。この点、被告人には、同じ本件各犯行時頃の出来事について、前記のとおり記憶がないと述べる部分がある一方で、被害者の素行に関するAへの報告に係る事情等、記憶に基づいて述べる部分もあり、記憶があることとないことには、合理的な区別が見出し難い。また、本件逮捕監禁行為が行われていた際のことについて、見守りカメ- 14 – ラの映像を見た後でさえ、被害者が昼寝をしているか確認するため北側和室を見に行った旨述べるなど、明確に事実に反する供述もしている。そうすると、本件当時あるいはそれ以前の出来事に関する被告人の供述は、そもそも確かな記憶に基づくものであるか疑わしいものであるといえ、信用性に疑いがある。 他の証拠との整合性についてみると、こども相談所の福祉司に対する発言や、AとのLINEでのやり取りからすれば、被害者を含む子どもたちの養育に苦労しており、Aに助言を求めていたことは明らかであるから、前記被告人の供述は係る事情と整合しない。また、前記のとおり(前記2⑵)、Aの被害者に対する虐待の内容は、事前に被告人 む子どもたちの養育に苦労しており、Aに助言を求めていたことは明らかであるから、前記被告人の供述は係る事情と整合しない。また、前記のとおり(前記2⑵)、Aの被害者に対する虐待の内容は、事前に被告人から被害者の素行について報告を受けていなければ説明がし難いのであり、Aに被害者の素行について報告をしていなかったという前記被告人供述は、係る事実関係と整合しない。 ⑵ 当時の精神状況等に関する供述についてア被告人は、公判廷において、本件当時の精神状況やAとの関係性等について、以下のように述べている。 本件当時の住居に引っ越して以降、Aから様々な行動を制約された上、寝室やリビングに設置された見守りカメラや繋ぎっぱなしの携帯電話機により監視されていたこと等から自分も子どもたちも精神的におかしくなっていた。 Aの意向に反するようなことをすると何をされるか分からない恐怖から、Aの被害者に対する虐待を止めたり、児童相談所や警察に助けを求めたりすることができない状況だった。 イ信用性について被告人の前記供述は、被告人が理由が分からないままAによる被害者への虐待が行われ続けていたことを前提とするものであるが、虐待の経緯に関する被告人供述が信用できないことは前記のとおりであり、Aによる虐待を止めたかったのに止められなかったなどとする被告人の供述はそもそも信用し難い。 係る点を措くとしても、被告人自身が、Aから身体的な暴力等を受けた旨の供述- 15 – をしていないこと、子どもたちがAから食事等の行動を禁止・制約され、これに反すると罰を受けることがあった一方で、被告人がこれらの禁止・制約に反して子どもたちに食事を与える等してもAから被告人に制裁等はなかったこと、被告人が、見守りカメラの設置や携帯電話機の常時接続に関してその導入 を受けることがあった一方で、被告人がこれらの禁止・制約に反して子どもたちに食事を与える等してもAから被告人に制裁等はなかったこと、被告人が、見守りカメラの設置や携帯電話機の常時接続に関してその導入当初から異を唱えたり反対した事情が一切うかがわれず、見守りカメラの映像によっても被告人が見守りカメラや常時接続の携帯電話機を気にしていたり嫌がっている様子が一切うかがわれないこと、被告人が、Aの意向に反した場合に自らが被り得る不利益について具体的に述べることができていないこと等の事情からすれば、被告人としては、被害者を含む子どもたちのしつけをAに任せ、その具体的方法についてもAに任せて自らは口出しをしていなかったと考えられる一方、被告人がAの意向に反することができないような精神状態だったことをうかがわせるような事情は見当たらず、同旨を言う被告人の前記供述は信用できない。 第4 争点に対する検討 1 本件各強要行為の共謀共同正犯の成否について信用できるAの前記供述によれば、具体的な強要行為の内容自体は、Aが自己の判断で行っており、被告人と何ら相談していないものの、Aは、被告人から子育てについて相談を受けたことをきっかけとして被害者に対して虐待をするようになったのであり、殊に令和3年5月以降は、被告人が被害者の素行をAに報告し、それに応じてAが被害者に対して、椅子の上に立たせる等の本件各強要行為と類似する虐待をすることが繰り返されており、本件各強要行為も、被告人による被害者の素行の報告をきっかけとして、その報告内容に応じた罰としての虐待が行われていたものといえる。 そうすると、被告人は、本件各強要行為の頃において、Aに被害者の素行について報告すると、Aが被害者に対して、椅子の上に立たせるなどの虐待をすることを十分に認識していたといえる いたものといえる。 そうすると、被告人は、本件各強要行為の頃において、Aに被害者の素行について報告すると、Aが被害者に対して、椅子の上に立たせるなどの虐待をすることを十分に認識していたといえる。 その上で、被告人は、本件各強要行為に先立ち、Aに被害者の素行について報告- 16 – をし、それに応じた虐待が行われているのに対して、全く止めることなく無視していた。とすれば、被告人は、言うことを聞かなかったり、いたずらをする被害者に対して、Aが、それまでと同様のやり方でしつけをすることを期待して容認した上で、被害者の素行をAに報告していたというべきである。 他方、Aもまた、被告人からの相談をきっかけとして、被害者のしつけのために被害者に対する虐待を始め、被告人から被害者の素行に関し報告を受けるたびに虐待を繰り返している上、強要行為の内容自体はAが自己の判断で決めていたものの、被告人から止められることも否定されることもなかったのであるから、Aとしては、被告人が自己の「しつけ」に承諾ないし賛成していると考えていたと認められ、被告人とAは、「しつけ」として被害者を虐待するという意思を通じ合っていたと認められる。そして、被告人とAは、このような意思のもと、本件各強要行為に至っているのであるから、本件各強要行為を「しつけ」の趣旨のもと一緒にやるという意思を通じ合っていたと認められる。 ⑵ また、既に述べたとおり、Aに支配されていたからAの行為を止めることができなかったとの被告人の供述が信用できない上、被告人方においてA以外の成人は被告人しかおらず、Aによる本件各強要行為を制止できるのは被害者の母親である被告人のみであるのに、被告人はAと本件各強要行為を一緒にやるという意思を通じ合って、被害を受け続ける被害者の目の前を何度も通り過ぎるなど ず、Aによる本件各強要行為を制止できるのは被害者の母親である被告人のみであるのに、被告人はAと本件各強要行為を一緒にやるという意思を通じ合って、被害を受け続ける被害者の目の前を何度も通り過ぎるなどするのみで、Aを制止することや被害者を助けることもなく、そのような素振りすら一切していないのであるから、本件各強要行為の実現に重要な寄与をしたというべきである。 そうすると、被告人は、自分の犯罪として、Aと意思を通じ合って、本件各強要行為の実現に重要な寄与をした、すなわち共謀共同正犯が成立するものと認められる。 2 本件逮捕監禁致死の共謀共同正犯の成否について信用できるAの供述や見守りカメラの映像等の関係証拠を総合すると、被告人は、令和3年9月25日午後1時11分頃、台所で、Aから、被害者をぐるぐるにしと- 17 – るよと伝えられ、さらに同日午後1時54分頃にも、寝室で、Aから、被害者を縦にぐるぐる巻きにした状態で、押入の扉を開けた状態で入れているとの趣旨の話をされながら、「ああ、今日布団ぐるぐるだね」と言うのみで、それ以上に関心を示さず、同日午後2時23分に「Bちゃん見てくる」と言って被害者の様子を見に行くまで、約1時間10分余りもの長時間にわたって、Aを制止したり、被害者を助けたりするような行為を一切していないことが認められる。 本件逮捕監禁行為は、判示第1の10の強要行為に引き続いて行われているところ、前記認定のとおり、同強要行為は、被告人が被害者の素行を報告したことによることがきっかけになっていることからすれば、その報告をした時点では、Aが被害者を布団でぐるぐる巻きにするということまでは予期していなかったとしても、Aから、被害者を布団でぐるぐるにしていることを伝えられた時点以降においては、判示第1の10の強要行為の「し 点では、Aが被害者を布団でぐるぐる巻きにするということまでは予期していなかったとしても、Aから、被害者を布団でぐるぐるにしていることを伝えられた時点以降においては、判示第1の10の強要行為の「しつけ」の延長として本件逮捕監禁行為が行われていることを被告人は認識し、そうでありながら、Aを制止したり、被害者を助けたりするような行為を長時間にわたってしていないのであるから、被告人とAは、「しつけ」の趣旨として本件逮捕監禁行為をなすという意思を通じ合っていたものといえ、被告人が制止することや助けることをしなかったことは、本件逮捕監禁行為の実現に重要な寄与をしたものと認められる。 そうすると、被告人は、自分の犯罪として、Aと意思を通じ合って、本件逮捕監禁行為の実現に重要な寄与をし、その結果、意図はしないものの、被害者が死亡するに至ったのであるから、本件逮捕監禁致死の共謀共同正犯が成立するものと認められる。 (法令の適用)罰条第1の1ないし10の各行為いずれも刑法60条、223条1項第2の行為刑法60条、221条、220条- 18 – 刑種の選択第2の罪について刑法10条により同法220条所定の刑と同法205条所定の刑とを比較し重い傷害致死罪の刑により処断併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(重い第2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の処理刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由)本件は、被告人とその交際相手であるAが、被告人の子どもである被害者に対し、虐待を繰り返していた末に死亡させた事案である。 被告人は、4人きょうだいの末っ子である被害者の養育に苦労しており、交際相手であるAに相談し 交際相手であるAが、被告人の子どもである被害者に対し、虐待を繰り返していた末に死亡させた事案である。 被告人は、4人きょうだいの末っ子である被害者の養育に苦労しており、交際相手であるAに相談した結果、Aが被害者に対して身体的暴力を含む虐待行為を行うようになった。いつしか被告人がAに対して被害者の素行を報告し、Aがそれに応じた虐待を行うことが、被告人とAにとって当たり前の日常になり、そのような中で、判示第1の1ないし10の各強要事件が起きた。その態様を見ると、連日連夜、被害者を椅子の上に置いた両手鍋の中に入れるなどして長時間立たせ続けたり、どんぶりを持たせて胃内容物をその中に嘔吐するよう要求するなどしたというものであり、幼い被害者にとってあまりに過酷なものであった。他の家族が寝静まった自宅内で、ただ一人椅子の上に立ち続け、寝てしまい落下しても再び椅子の上に戻ろうとする被害者の姿は、それだけ同種の虐待が繰り返され、日常に溶け込んでいたということを物語っている。本来最も安心できる場所であるべき自宅内で、自らを守ってくれる存在であるはずの母親である被告人すら助けの手を差し伸べてくれない状況で、終わりの見えない虐待にさらされ続けた被害者の絶望は察するに余りあり、被害者が受けた身体的、精神的苦痛は計り知れない。 そして、Aは、それまでと同じように、椅子の上に置いたポリタンクの上に立たせる強要行為(判示第1の10)をした後、泣き叫ぶ被害者を和室に連れていき、- 19 – 被害者の全身に布団を二重にして巻き付け、逆さにして押入の中に入れて放置し、低酸素脳症により死亡させた。その態様は、被害者が容易に脱出できず、呼吸すら困難にさせるものであり、極めて危険である。被害者は、けなげにも虐待行為に耐え続けて6歳の誕生日を迎えたその翌日に、身動きが 低酸素脳症により死亡させた。その態様は、被害者が容易に脱出できず、呼吸すら困難にさせるものであり、極めて危険である。被害者は、けなげにも虐待行為に耐え続けて6歳の誕生日を迎えたその翌日に、身動きが取れない中で気を失い、遂には目覚めることがなかったのであり、かくも残酷な結末には、無念の情を禁じ得ない。 本件各犯行の具体的内容を考えたのも、実行したのも全てAであり、被告人は、実行行為を一切行っておらず、虐待をするようAに直接頼んだこともない。しかし、被告人は、しつけを任せることでAが虐待に及ぶきっかけを作り、Aがどのような虐待行為を行うことになるか認識した上で、それを期待してAに被害者の素行に関し報告をし続け、Aが本件各犯行に及んでも全く無視して一切制止しなかったのである。被告人はAによる本件各強要及び逮捕監禁の直接のきっかけとなっており、また、被告人がAを制止したり、被害者を救出したりしていれば、このような被害が生じなかったであろうから、被告人が各犯罪の実現に当たって極めて重要な役割を担っていたといえる。被告人が、4人の子どもたちを育てる苦労の中で当時最も身近な大人であったAにしつけを任せることになった経緯それ自体は理解できるし、逮捕監禁致死事件の際、遅きに失したとはいえ、布団にくるまれた被害者の様子を見に行き119番通報をしていることからも、被告人が被害者を可愛がっていたであろうことを否定するものではないが、家庭という閉ざされた世界の中で、被害者を守ることができたのは母親である被告人だけだったにもかかわらず、いたずら等をする被害者に対するしつけを放棄してAに委ね、しつけという名の虐待を繰り返すAに対し、不干渉を決め込んだその意思決定は到底許されるものではなく、厳しい非難に値する。 以上の犯情によれば、本件は、児童虐待を動機として、 つけを放棄してAに委ね、しつけという名の虐待を繰り返すAに対し、不干渉を決め込んだその意思決定は到底許されるものではなく、厳しい非難に値する。 以上の犯情によれば、本件は、児童虐待を動機として、殺意なく被害者を死亡させたという逮捕監禁致死、保護責任者遺棄致死、傷害致死のような事案(その他の条件としては、共犯、前科等なし。)の量刑傾向に照らしても、相当に重い部類の事- 20 – 案と評価できる。 そして、被告人は、被害者を守れなかったことに対する後悔の気持ちを述べる一方で、自らはAによるDVの被害者であるとの立場からの発言に終始しており、本件における自らの責任を理解した上で事件に向き合えているとは到底いえず、反省の深まりは甚だ不十分である。被告人の社会復帰に関しては、社会福祉士により更生支援計画が作成され、被告人の兄も更生への支援を表明しているが、被告人の反省の深まりがなければ同計画も絵に描いた餅にすぎない。今の被告人に必要なのは、早期の社会復帰ではなく、自らの犯した罪と十分に向き合う時間である。以上のほか、被告人に前科がないことを考慮しても、求刑どおりの刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑:懲役10年)令和6年9月18日岡山地方裁判所第1刑事部 裁判長裁判官本村曉宏 裁判官石黒史岳 裁判官杉浦一輝

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る