- 1 - 主文 原判決主文第1項から第3項までを破棄する。 被上告人の控訴を棄却する。 被上告人が原審において拡張した請求を棄却する。 2 本件附帯上告を棄却する。 3 原審及び当審における訴訟費用は被上告人の負担とする。 理由 第1 事案の概要 1 内国法人である被上告人は、平成27年4月1日から同28年3月31日までの事業年度又は課税事業年度(以下、併せて「本件事業年度」という。)に係る法人税及び地方法人税(以下「法人税等」という。)の申告をしたところ、処分行政庁から、租税特別措置法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下「措置法」という。)66条の6第1項の規定により、ケイマン諸島において設立された被上告人の子会社であるMHBKCapitalInvestment (JPY) 4 Limited 及びMHCBCapitalInvestment (JPY) 4 Limited(以下、併せて「本件各子会社」という。)の後記2の課税対象金額に相当する金額が、被上告人の本件事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入されるなどとして、法人税等の各増額更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受けた。また、被上告人は、本件事業年度の法人税等について更正の請求をしたが、処分行政庁から、更正をすべき理由がない旨の各通令和4年(行ヒ)第228号、第229号法人税更正処分等取消請求事件令和5年11月6日第二小法廷判決(処分行政庁の表示)上告人国処分行政庁 9号法人税更正処分等取消請求事件令和5年11月6日第二小法廷判決(処分行政庁の表示)上告人国処分行政庁麹町税務署長 A- 2 -知処分(以下「本件各通知処分」という。)を受けた。 本件は、被上告人が、上告人を相手に、上記各増額更正処分(ただし、後記3イの各減額更正処分により一部取り消された後のもの)の一部及び上記各賦課決定処分(ただし、後記3イの各変更決定により一部取り消された後のもの)並びに本件各通知処分の取消しを求める事案である。 2 関係法令の定めは、次のとおりである。 措置法66条の6第1項(以下「本件委任規定」という。)は、同項各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等が、各事業年度において適用対象金額(基準所得金額を基礎として所定の調整を加えた金額)を有する場合には、その適用対象金額のうち、その内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等(株式又は出資をいう。以下同じ。)の請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。以下同じ。)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象金額」という。)に相当する金額を、その内国法人の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨を規定する。 これを受け、租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39条の16第1項(以下「本件規定」という。)は、上記の政令で定めるところにより計算した金額は、上記特定外国子会社等の各事業年度の適用対象金額に、当該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了の時における当該内国法人の有す 上記の政令で定めるところにより計算した金額は、上記特定外国子会社等の各事業年度の適用対象金額に、当該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合(以下「請求権勘案保有株式等割合」という。)を乗じて計算した金額とする旨を規定する。請求権勘案保有株式等とは、内国法人が直接に有する外国法人の株式等の数又は金額等をいい、当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算した数又は金額等をいう(同条2項1号)。 - 3 - 3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 被上告人による資金調達ア本件各子会社は、平成20年に、ケイマン諸島の法令に基づいて設立された外国法人であって、被上告人(旧商号は、株式会社みずほコーポレート銀行。以下、同銀行に吸収合併される前の株式会社みずほ銀行と併せて、単に「被上告人」という。)に係る特定外国子会社等であった。 MizuhoCapitalInvestment (JPY) 4 Limited(以下「MCI」という。)は、同年にケイマン諸島の法令に基づいて設立された外国法人であり、その発行する普通株式の全部を株式会社みずほフィナンシャルグループが有していた。 イ MCIは、平成20年12月29日、額面1億円の優先出資証券3550口(以下「MCI優先出資証券」という。)を発行し、投資家に販売した。本件各子会社は、同日、合わせて額面1億円の優先出資証券3550口(以下「本件優先出資証券」という。)を発行し、MCIは、MCI優先出 以下「MCI優先出資証券」という。)を発行し、投資家に販売した。本件各子会社は、同日、合わせて額面1億円の優先出資証券3550口(以下「本件優先出資証券」という。)を発行し、MCIは、MCI優先出資証券の発行により調達した資金を原資として本件優先出資証券の全部を購入した。本件優先出資証券の保有者は、原則として、普通株主に優先して配当受領権を有する一方、議決権を有しないものとされていた。 本件各子会社は、同日、本件優先出資証券の発行により調達した資金を原資として、被上告人に対し、劣後ローン(以下「本件劣後ローン」という。)により金銭を貸し付けたところ、本件劣後ローンの利息の発生期間の終期は、本件優先出資証券及びMCI優先出資証券に係る配当の支払日の前日とされていた。本件劣後ローンの利息は、ほぼ全て本件優先出資証券への配当に充てられ、本件各子会社に利益が留保されたり本件各子会社の発行する普通株式に配当がされたりすることは予定されていなかった。 本件優先出資証券の償還等本件各子会社は、平成27年6月30日、被上告人から本件劣後ローンの全額の返済を受けた上で、これを原資として、本件優先出資証券に係る出資金及び配当金- 4 -をMCIに送金し、本件優先出資証券を償還した。この結果、本件各子会社の平成26年12月30日から同27年12月3日までの事業年度(以下「本件各子会社事業年度」という。)の終了の時における発行済株式等は、被上告人が有する普通株式のみとなった。 課税の経過等ア被上告人は、本件各子会社の本件各子会社事業年度終了の時における発行済株式等のうちに被上告人の有する本件各子会社の請求権勘案保有株式等の占める割合(以下「本件保有株式等割合」という。)は0%であり、したがって本件各子会社事業年度における課税対象金額は0円 ける発行済株式等のうちに被上告人の有する本件各子会社の請求権勘案保有株式等の占める割合(以下「本件保有株式等割合」という。)は0%であり、したがって本件各子会社事業年度における課税対象金額は0円であるとして、本件事業年度に係る法人税等の申告をした。 イ処分行政庁は、平成29年11月7日付けで、被上告人に対し、本件保有株式等割合は100%であり、本件各子会社の適用対象金額の全額が課税対象金額となるなどとし、法人税等の各増額更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。その後、処分行政庁は、令和元年7月29日付けで、被上告人に対し、上記各処分に係る法人税等の各減額更正処分及び過少申告加算税の各変更決定をした(以下、上記各減額更正処分により一部が取り消された後の上記各増額更正処分を「本件各増額更正処分」といい、上記各変更決定により一部が取り消された後の上記各賦課決定処分と併せて「本件各増額更正処分等」という。)。 ウ被上告人は、上記各減額更正処分がされたことを踏まえ、第1審の口頭弁論終結後の令和3年1月27日付けで、上記アの申告において法人税等の控除の計算を誤るなどした結果、納付すべき法人税等の額を過大に申告したとして、国税通則法23条1項1号の規定により、本件各増額更正処分後の法人税等の額につき、申告額を下回る額に更正をすべき旨の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をしたところ、処分行政庁から、同年4月26日付けで、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(本件各通知処分)を受けた。 エ被上告人は、第1審においては、本件各増額更正処分のうち申告額を超える- 5 -部分及び上記各賦課決定処分(ただし、上記イの各変更決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求めていたところ、原審において、本件各増額更正処分に係る取消請求 分のうち申告額を超える- 5 -部分及び上記各賦課決定処分(ただし、上記イの各変更決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求めていたところ、原審において、本件各増額更正処分に係る取消請求を本件各更正の請求に係る額を超える部分の取消しを求めるものに拡張するとともに、本件各通知処分の取消しを求める訴えを追加した。 第2 上告代理人武笠圭志ほかの上告受理申立て理由について 1 原審は、前記事実関係等の下において、本件規定を適用すれば本件保有株式等割合は100%となるとした上で、要旨次のとおり判断し、本件各子会社事業年度における適用対象金額のうちに課税対象金額は存在しないなどとして、本件各増額更正処分等に係る取消請求を認容した。 被上告人が本件各子会社から剰余金の配当等を受けることは想定されていなかったため、内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するという、いわゆるタックス・ヘイブン対策税制の下での合算課税の合理性を基礎付ける事情は見いだせない上、本件各子会社事業年度における処理につき、租税回避の目的も、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められない。そうすると、本件規定を本件に形式的に適用することは、本件委任規定の趣旨及びタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨に反するから、その限度で本件規定を本件に適用することはできないというべきである。 2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 本件では、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かが問題となるところ、この点を判断するに当たり、まず、本件規定の内容が、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するか否かにつき検討する。 本件委任規定は、私 とが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かが問題となるところ、この点を判断するに当たり、まず、本件規定の内容が、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するか否かにつき検討する。 本件委任規定は、私法上は特定外国子会社等に帰属する所得を当該特定外国子会社等に係る内国法人の益金の額に合算して課税する内容の規定である。これは、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に設- 6 -立した子会社を利用して経済活動を行い、当該子会社に所得を発生させることによって我が国における租税の負担を回避するような事態を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解される。 また、本件委任規定は、課税対象金額について、内国法人の有する特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して計算すべきものと規定するところ、これは、請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の割合を持株割合よりも大きくしてかい離を生じさせる方法による租税回避に対処することを目的とするものと解される。 そして、本件委任規定が課税対象金額の具体的な計算方法につき政令に委任したのは、上記のような目的を実現するに当たり、どの時点を基準として株式等の請求権の内容を勘案した計算をするかなどといった点が、優れて技術的かつ細目的な事項であるためであると解される。したがって、上記の点は、内閣の専門技術的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。 このような趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を特定外国子会社等の事業年度終了の時とするものであるところ、本件委任規定において課税要件の な趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を特定外国子会社等の事業年度終了の時とするものであるところ、本件委任規定において課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されており、事業年度終了の時という定め方は一義的に明確であること等を考慮すれば、個別具体的な事情にかかわらず上記のように基準時を設けることには合理性があり、そのような内容を定める本件規定が本件委任規定の目的を害するものともいえない。 そうすると、本件規定の内容は、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するものということができる。 以上を前提として、次に、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かにつき検討する。 前記事実関係等の下において本件規定を適用した場合には、本件各子会社事業年- 7 -度における本件各子会社の利益は本件優先出資証券にのみ配当されたにもかかわらず、本件優先出資証券が同事業年度の途中で償還されたために本件保有株式等割合が100%となり、被上告人に対して合算課税がされることとなる。 もっとも、前述のとおり、個別具体的な事情にかかわらず基準時を設ける本件規定の内容が合理的である以上、上記のような帰結をもって直ちに、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱することとはならないところ、特定外国子会社等の事業年度の途中にその株主構成が変動するのに伴い、剰余金の配当等がされる時と事業年度終了の時とで持株割合等に違いが生ずるような事態は当然に想定されるというべきである。また、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等は、原則として、内国法人の所得金額の計算上、益金の額には算入されない以上(平成27年法律 いが生ずるような事態は当然に想定されるというべきである。また、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等は、原則として、内国法人の所得金額の計算上、益金の額には算入されない以上(平成27年法律第9号による改正前の法人税法23条の2第1項等)、本件委任規定につき、特定外国子会社等において剰余金の配当等が留保されることにより内国法人が受ける剰余金の配当等への課税が繰り延べられることに対処しようとするものと解することはできないから、前記事実関係等の下において剰余金の配当等に係る個別具体的な状況を問題とすることなく本件規定を適用することによって、本件委任規定において予定されていないような事態が生ずるとはいえない。加えて、前記事実関係等の下においては、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなどの方法を採り、本件各子会社の適用対象金額が0円となるようにする余地もあったと考えられるから、本件規定を適用することによって被上告人に回避し得ない不利益が生ずるなどともいえない。 そうすると、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではないというべきである。 したがって、前記事実関係等の下において本件規定を適用することができないとした原審の判断には、本件委任規定の解釈適用を誤った違法がある。 3 以上によれば、原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法- 8 -令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記事実関係等の下においては、本件各増額更正処分等にその他の違法事由も見当たらず、これらは適法というべきである。そうすると、被上告人の第1審における請求は理由がないから、これらを棄却した第1審判 前記事実関係等の下においては、本件各増額更正処分等にその他の違法事由も見当たらず、これらは適法というべきである。そうすると、被上告人の第1審における請求は理由がないから、これらを棄却した第1審判決は正当であって、被上告人の控訴を棄却すべきであり、また、被上告人が原審において拡張した請求も理由がないから、これらを棄却すべきである。 第3 附帯上告代理人田路至弘ほかの附帯上告受理申立て理由について 1 原審は、前記事実関係等の下において、被上告人は、本件各増額更正処分に係る取消請求において本件各更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることが可能であるから、重ねて本件各通知処分の取消しを求める利益を有しておらず、本件訴えのうち本件各通知処分の取消しを求める部分は不適法であるとして、これを却下した。 2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定によりされた更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分は、上記増額更正処分により一旦確定した税額について、更正の請求の理由を踏まえて改めて調査がされた上で、上記増額更正処分後の税額を減額すべき理由はないとしてされる処分である(同項、同条4項)。そうすると、上記通知処分は、上記増額更正処分とは別個にされた新たな処分であることが明らかであり、上記増額更正処分に吸収され、又はその内容が実質的に包摂されるということもできないのであって、上記更正の請求をした者は、上記通知処分が取り消された場合には、減額更正処分を受ける可能性を回復することができる以上、上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきである。 本件のように上記増額更正処分後に上記更正の請求がされた場合、これに係る税額が申告税 分を受ける可能性を回復することができる以上、上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきである。 本件のように上記増額更正処分後に上記更正の請求がされた場合、これに係る税額が申告税額を下回るときであっても、上記増額更正処分に係る取消訴訟におい- 9 -て、上記増額更正処分のうち上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることができるものの、このことから直ちに上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定することはできない。 したがって、増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有すると解するのが相当である。 以上に説示したところによれば、被上告人は、本件各通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するものということができるから、これと異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。 もっとも、前記第2のとおり、本件各増額更正処分は適法であり、本件各通知処分に固有の違法事由が争われていない本件において、本件各通知処分を違法とすべき事由は見当たらない。そうすると、本件各通知処分の取消しを求める請求は理由がなく、これらを棄却すべきものであるが、不利益変更禁止の原則により、附帯上告を棄却するにとどめるほかなく、原判決の上記違法は結論に影響を及ぼすものではない。 以上の次第で、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官草野耕一の補足意見がある。 裁判官草野耕一の補足意見は、次のとおりである。 私は法廷意見に賛同するものであるが、法廷意見第2について異なる視点から補足して述べておきたいことがあるので、以下これを敷衍する。 1 一般に、我が国の税法は、世界的にも稀有といえ とおりである。 私は法廷意見に賛同するものであるが、法廷意見第2について異なる視点から補足して述べておきたいことがあるので、以下これを敷衍する。 1 一般に、我が国の税法は、世界的にも稀有といえるほどに緻密で合理的な条文の集積から成り立っており、このことが税制に対する国民の信頼や我が国企業の国際競争力の礎となってきたことは税法の研究や実務に携わる者が均しく首肯するところではないかと推察する。 しかしながら、本件委任規定を受けて設けられた本件規定について子細にみてみると、いささか精緻さに乏しいとの見方ができることは否定し難い。なぜならば、- 10 -これらの規定の適用下にある外国法人について、当該外国法人がその事業年度終了時とは異なる日を基準日として剰余金の配当等(以下、本補足意見においては、単に「配当」という。)を支払ったところ、これを受け取った当該外国法人の株主(以下「受取株主」という。)がその直後に到来する事業年度終了時(以下「直近年度末」という。)にはもはや当該外国法人の株主ではない場合において、①当該外国法人が上記基準日においては特定外国子会社等であり、受取株主が当該特定外国子会社等に係る内国法人(以下、本補足意見においては「特定親会社」という。)であるとすれば、当該配当の原資として用いられた当期純利益の額(以下「配当原資金額」という。)につき、経済実態からすれば、当該特定親会社に対し合算課税をすることが相当であるにもかかわらず、合算課税をなし得ない事態(以下、本補足意見においては、このような事態を「過少課税」という。)が発生し得る一方、②当該外国法人が直近年度末においては特定外国子会社等であるが、受取株主は特定親会社と資本関係のない者であるとすれば、配当原資金額につき、経済実態からすれば、当該特定親会社に対し合算課 生し得る一方、②当該外国法人が直近年度末においては特定外国子会社等であるが、受取株主は特定親会社と資本関係のない者であるとすれば、配当原資金額につき、経済実態からすれば、当該特定親会社に対し合算課税をすることは相当でないにもかかわらず、合算課税がされる事態(以下、本補足意見においては、このような事態を「過剰課税」という。)が発生し得るところ、仮に、本件委任規定を受けて政令の定めを設けるに当たり、「事業年度」の意義につき、特定外国子会社等が、その財産及び損益の計算の単位となる期間(以下「会計期間」という。)の末日以外の日を基準日として配当を行った場合には、当該会計期間の始期から当該配当の基準日までの期間をもって一つの事業年度とみなした上で、その翌日から当該会計期間の末日までの期間をもって次の事業年度とみなす(会計期間の末日以外の日を基準日とする配当の支払が一つの会計期間中に複数回なされた場合には各配当の基準日の翌日から次の配当の基準日までの期間も一つの事業年度とみなす)ことにすれば、過少課税も過剰課税も回避することができると解されるからである。 - 11 - 2 しかしながら、以上の事実を斟酌しても、本件規定の内容は一般に本件委任規定の趣旨に適合する旨の法廷意見の判断(第2の2参照)を覆すことはできない。以下、そう考える理由を、いわゆるタックス・ヘイブン対策税制一般に当てはまる理由(後記)と本件規定に固有の理由(後記)の二つに分けて述べたいと思う。 タックス・ヘイブン対策税制は、税負担の軽減を企業の積極的行動原理の一つとして国際的活動を展開する我が国企業に対して我が国が課し得る税額が過少となるような事態を可及的に回避することを目的として作り出された税制であると解される。しかるところ、このような企業が実施する取引は複雑 国際的活動を展開する我が国企業に対して我が国が課し得る税額が過少となるような事態を可及的に回避することを目的として作り出された税制であると解される。しかるところ、このような企業が実施する取引は複雑多様でかつ可変性の高いものであり、そうである以上、発生し得るいかなる事態に対しても合理的な帰結(過少課税にも過剰課税にもならないような帰結)をもたらし得る税制を立案することは(理想論としてはともかく)実際には期待し難く、加えて、制度の精緻さを過度に追求することは、効率的で公平な徴税手続の実現という点からみれば望ましくない場合があることも否定できない。 上記の一般論を本件規定との関係で敷衍すると、課税対象金額の計算を特定外国子会社等の事業年度終了時における特定親会社の請求権勘案保有株式等割合を用いて行うものとする本件規定の在り方は、特定外国子会社等がその会計期間の末日を基準日として配当を支払うという典型的な配当支払実務を前提とすれば、十分に合理的であり、かつ、本件委任規定の趣旨を実現するための税制を簡便なものにするという目的にも合致している。確かに、本件規定は、会計期間の末日以外の日を基準日として配当を支払った特定外国子会社等(当該配当の支払日後直近年度末までの間に特定外国子会社等となった外国法人を含む。以下、同じ。)に関して過剰課税を発生させることがあるというある種の難点を抱えていることは事実である。しかしながら、配当をいつ支払うかあるいは事業年度終了時をいつとするかは、実質的には当該特定外国子会社等の配当支払決定時における支配株主の判断によって決め得ることであると考えられるから、当該特定外国子会社等の配当支払決- 12 -定時における支配株主と過剰課税によって不利益を受け得る者が同一である場合には、専らその判断により、両者が異なる場 て決め得ることであると考えられるから、当該特定外国子会社等の配当支払決- 12 -定時における支配株主と過剰課税によって不利益を受け得る者が同一である場合には、専らその判断により、両者が異なる場合には両者の協議により、過剰課税の発生はほとんど常に回避し得るはずである(なお、過少課税については、もとより関係当事者がこれを回避するように行動することは期待し難いであろうが、この点は本件の判断に影響しない。)。 3 もっとも、本件各子会社事業年度における本件各子会社の利益に関し、現に過剰課税が発生していることは否定し難い事実であり(法廷意見第2の2参照)、しかもこの事態は本件各子会社の設立、本件優先出資証券の発行及び本件劣後ローンによる貸付けの実施という一連の手続(以下、本補足意見においては「本件資金調達手続」という。)がなされた平成20年当時においては起こり得ないものであった(当時の租税特別措置法施行令39条の16第1項の下では、特定外国子会社等が株主に配当として支払った金額は、同項にいう適用対象留保金額に含まれず、合算課税の基礎となる余地がなかったからである。)。しかしながら、この点を斟酌してもなお、本件の事実関係の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものとはいえない旨の法廷意見の判断(第2の2参照)を覆すことはできない。そう考える理由は以下のとおりである(なお、後記及びは、飽くまでも本件に即して十分な理由付けを示すためのものであって、例えば、以下に示す事情の一部が欠けるような事案の場合に、当然に、その事案の事実関係の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するとの結論に結び付くことを含意するものではない。)。 被上告人は、利払の損金算入効果を享受しつつ国際金融市場から自 案の事実関係の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するとの結論に結び付くことを含意するものではない。)。 被上告人は、利払の損金算入効果を享受しつつ国際金融市場から自己資本を調達しようという意図の下に本件資金調達手続を立案しこれを実行したものであるとうかがわれる。しかるところ、被上告人のような我が国を代表する金融機関が本件資金調達手続を立案するに当たっては、当然関係各国の税制を詳細に調査研究し、その内容を知悉することが前提であろうから、被上告人は、我が国のタックス・ヘイブン対策税制についても十分な調査を行い、かつ、(タックス・ヘイブン対- 13 -策税制は頻繁に改正されるものであることは周知の事実であるから、)必要に応じて、本件資金調達手続の実施後においても最新のタックス・ヘイブン対策税制の内容を調査し、本件資金調達手続によって生み出された会社法や契約法上の権利義務関係に合理的な変更を加えることによって、予期せざる税務上の不利益が発生することがないよう注意を払い続けることを期待され得る立場にあった。 しかるところ、本件各子会社の利益に関して過剰課税が発生する余地が生ずることとなったのは、いわゆる外国子会社受取配当益金不算入の制度の導入に伴う平成21年の関係規定の改正によって、合算課税の基礎となる金額(適用対象金額)から、特定外国子会社等がその株主に支払った配当を控除することができなくなったためであるところ、その改正に係る改正法の施行の時から本件優先出資証券の償還がなされた平成27年6月30日までの間には6年余りの期間があった。しかも、本件優先出資証券の償還は本件各子会社(実質的には被上告人とみてよいであろう。)の任意の判断によりなされたものであるから、被上告人において、上記償還に当たって、任意償還が りの期間があった。しかも、本件優先出資証券の償還は本件各子会社(実質的には被上告人とみてよいであろう。)の任意の判断によりなされたものであるから、被上告人において、上記償還に当たって、任意償還がもたらす税効果を検討し、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなどの方法を採ることによって合算課税を回避することは、さしたる取引費用をかけることもなく容易にできたはずである(法廷意見第2の2参照)。 4 以上の次第により、私は法廷意見の結論及び理由付けに全面的に賛成するものである。 (裁判長裁判官草野耕一裁判官三浦守裁判官岡村和美裁判官尾島明) - 1 -
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