平成24(行ケ)10215 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年2月14日 知的財産高等裁判所 4部 判決 請求棄却
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- 1 -平成25年2月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(行ケ)第10215号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年1月31日判決原告株式会社KBC(旧商号:株式会社カルゥ)同訴訟代理人弁理士宮崎伊章的場照久被告株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ同訴訟代理人弁護士山田威一郎同弁理士田中順也同訴訟復代理人弁理士水谷馨也 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2011-800244号事件について平成24年5月11日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯- 2 -(1) 被告は,平成10年10月5日,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする国際出願(特願2000-520135号。優先権主張:平成9年(1997年)11月7日,日本)をし,平成23年1月7日,設定の は,平成10年10月5日,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする国際出願(特願2000-520135号。優先権主張:平成9年(1997年)11月7日,日本)をし,平成23年1月7日,設定の登録(特許第4659980号。請求項の数13)を受けた。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲25)を「本件明細書」という。 (2) 原告は,平成23年11月24日,本件特許の請求項1ないし13に係る特許について,特許無効審判を請求し,無効2011-800244号事件として係属した。 (3) 特許庁は,平成24年5月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,同月21日,その謄本が原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりのものである(以下,請求項1ないし13記載の発明を併せて「本件発明」という。)。なお,文中の「/」は原文の改行箇所を示す。 【請求項1】部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,/1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は/2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ/からなり,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,/含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット【請求項2】得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5~90容量%含有するものである,請求項1に記載の 泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット【請求項2】得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5~90容量%含有するものである,請求項1に記載のキット【請求項3】含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後に- 3 -メスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上の容量を保持できるものである,請求項1又は2に記載のキット【請求項4】含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請求項1乃至3のいずれかに記載のキット【請求項5】含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項1乃至4のいずれかに記載のキット【請求項6】請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を有効成分とする,水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物【請求項7】請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料【請求項8】顔,脚,腕,腹部,脇腹,背中,首,又は顎の部分肥満改善用である,請求項7に記載の化粧料【請求項9】部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって,/1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤;又は/2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物;/を用いて,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状 する含水粘性組成物;/を用いて,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものである,二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法【請求項10】調製される二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5~90容量%含有するものである,請求項9に記載の調製方法【請求項11】含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上の容量を保持できるものである,請求項9又は10に記載の調製方法- 4 -【請求項12】含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法【請求項13】含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項9乃至12のいずれかに記載の調製方法 3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件発明に関する特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は,平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「法」という。)36条4項及び同条6項1号に掲げる要件を満足しないものとすることはできない,などとしたものである。 4 取消事由サポート要件及び実施可能要件に係る判断の誤り第3 当事者の主張〔原告の主張〕 1 本件発明に係るサポート要件及び実施可能要件について(1) 本件審決は,甲12ないし17を根拠に,「二酸化炭素が血行促進作用を示すこと」及び「血行が促進されることにより痩身作用を示すこと」は,いずれも当業者に周知の事項であると判断した。 しかし,甲12ないし14には,二酸化炭素が血行促進作用を有することが記載されてい 示すこと」及び「血行が促進されることにより痩身作用を示すこと」は,いずれも当業者に周知の事項であると判断した。 しかし,甲12ないし14には,二酸化炭素が血行促進作用を有することが記載されているが,痩身作用については記載されていない。また,甲15ないし17には,血行促進による痩身作用が記載されているが,血行促進は二酸化炭素ではなくマッサージ等の皮膚への強い刺激によるものである。 よって,二酸化炭素による血行促進作用により痩身作用を示すことは,当業者が認識しているとはいえず,むしろマッサージ等の皮膚への刺激等による強い刺激による血行促進があって初めて痩身作用が起こると理解されるべきである。 (2) 従来は二酸化炭素が血行促進作用を有すると考えられていたが,1980年代における発見以降,血行を促進するのは一酸化窒素によるものであることが徐- 5 -々に認識されるようになった。 以上のとおり,当業者は,二酸化炭素は血行促進作用を有さず,痩身作用も当然有しないと認識しているから,部分肥満改善作用は,二酸化炭素含有粘性組成物のうち二酸化炭素に基づく作用であるとした本件審決の判断に誤りがある。 (3) よって,二酸化炭素による部分肥満改善作用は当業者が当然に認識するものといえない以上,クエン酸そのものを用いた試験例8,9及び13により,「酸と他の成分を含む顆粒(細粒,粉末)剤」を用いた場合にも同様の部分肥満改善効果がサポートされているものといえない。また,「酸と他の成分を含む顆粒(細粒,粉末)剤」を製造し,これを用いて,クエン酸そのものを用いた場合と同様の部分肥満改善効果を発揮させることができたものといえないから,発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 したがって,本件発明は発明 た場合と同様の部分肥満改善効果を発揮させることができたものといえないから,発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 したがって,本件発明は発明の詳細な説明に記載したものであり,発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとした本件審決の判断には誤りがある。 2 被告の主張について(1) 被告は,本件発明は,皮膚への二酸化炭素の浸透量を増大させ,部分肥満の改善という効果を発揮できるものである旨主張する。 しかし,本件発明の二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚に塗布したとしても,粘性組成物内の二酸化炭素が皮膚を透過して体内に吸収されることはなく,被告が主張するような効果は生じない。 (2) 被告は,二酸化炭素の血行促進作用が公知であると主張するが,二酸化炭素は皮膚を通って体内に吸収されることがない以上,二酸化炭素の血行促進効果は公知とはいえない。 また,被告が主張するように,二酸化炭素が皮膚から吸収されてボーア効果をもたらし,血行が良くなると仮定しても,二酸化炭素濃度の高い血液は粘性組成物を塗布した箇所にとどまらないから,塗布した箇所の血行が良くなるわけではない。 - 6 -また,ボーア効果に関わる血液ガスは,空気呼吸によるものであって,皮膚から吸収される二酸化炭素ではない。そして,血流量の定義に酸素飽和度やヘモグロビンからの酸素放出が関係ないことからしても,ボーア効果により血行が促進されるわけではない。 (3) 被告は,本件発明の部分肥満改善効果が二酸化炭素に起因している旨主張する。 二酸化炭素は皮膚を通って体内に吸収されることはないから,被告の上記主張は前提を欠く。また,脂肪燃焼とは脂肪酸のβ酸化であるところ,それを引き起こすホルモ が二酸化炭素に起因している旨主張する。 二酸化炭素は皮膚を通って体内に吸収されることはないから,被告の上記主張は前提を欠く。また,脂肪燃焼とは脂肪酸のβ酸化であるところ,それを引き起こすホルモン感受性リパーゼは低血糖により活性化されるものである。血行が良くなったとしても低血糖になるわけではないから,脂肪酸のβ酸化は起こらず,脂肪は燃焼しないのである。 〔被告の主張〕 1 本件発明に係るサポート要件及び実施可能要件について(1) 本件発明によって部分肥満改善効果が奏されることは,本件明細書の試験例8,9及び13において,明確に実証されている。したがって,本件発明によって部分肥満改善効果が奏されることが本件明細書において十分に裏付けられており,当業者が本件明細書の記載から,本件発明を実施できることは,疑いの余地はない。 (2) 本件明細書の試験例8,9及び13では,それぞれ実施例8,20及び18に記載の含水粘性組成物と酸の組合せから得られた二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚に塗布することにより,塗布部において部分痩せが認められたことが実証されている。また,実施例8,20及び18は,いずれも,「炭酸水素ナトリウム(炭酸塩),アルギン酸及び水を含む含水粘性組成物」と「クエン酸」の組合せであり,これらを混合して得られた二酸化炭素含有粘性組成物は,気泡の持続性が優れており,二酸化炭素を効果的に保持できる。そして,二酸化炭素の効能として血行促進作用や細胞への酸素供給量の増大作用(ボーア効果)等が知られていることに鑑みれば,当業者であれば,本件明細書の試験例8,9及び13では,十分量の二酸化- 7 -炭素を局所的(部分的)に経皮吸収させることにより,当該局所において血流量や酸素濃度を増加させ,それに伴って細胞の新陳代謝を活性化して,その結果,当 験例8,9及び13では,十分量の二酸化- 7 -炭素を局所的(部分的)に経皮吸収させることにより,当該局所において血流量や酸素濃度を増加させ,それに伴って細胞の新陳代謝を活性化して,その結果,当該局所における脂肪細胞の燃焼を生じさせていることにより,部分肥満改善効果が実現されていると認識できる。さらに,当業者であれば,本件明細書の上記各試験例で認められた部分肥満改善効果は,二酸化炭素の作用に起因していることを明確に把握できるといえる。 このように,本件明細書の試験例8,9及び13で認められている部分肥満改善効果は,クエン酸を使用したことによるものではなく,十分量の二酸化炭素を局所的に経皮吸収させたことに基づくものである。そして,「炭酸塩,アルギン酸及び水を含む含水粘性組成物」と混合される顆粒剤として「クエン酸以外の酸からなる顆粒剤」又は「酸とその他の物質を含んだ顆粒剤」を用いた場合であっても,「クエン酸」を用いた場合と同様に,酸と炭酸塩との間で反応が生じ,二酸化炭素が発生するというメカニズムは同様であり,発生した二酸化炭素がアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物の中で効果的に保持されるという仕組みに関しても何ら違いはない。 そうすると,本件発明において,使用される顆粒剤は,酸単独からなるもの,酸と他の成分を含むもののいずれであっても,二酸化炭素の効能を効果的に利用して部分肥満改善効果を奏し得るといえるから,クエン酸を用いた試験例8,9及び13により,「酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤」を用いた場合にも,同様の部分肥満改善効果はサポートされている。したがって,本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものということができる。 また,クエン酸を用いた試験例8,9及び13を含む本件明細書の開示内容を見た当業者であれば,「酸を含む顆粒(細粒 ている。したがって,本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものということができる。 また,クエン酸を用いた試験例8,9及び13を含む本件明細書の開示内容を見た当業者であれば,「酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤」を用いて,クエン酸そのものを用いた場合と同様の部分肥満改善効果を発揮させることができるため,発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。 - 8 -よって,本件特許が,サポート要件及び実施可能要件を満たすとした本件審決の判断に誤りはない。 2 原告の主張について(1) 原告は本件審決の認定の一部にしか反論をしていないこと原告は,本件審決のうち,二酸化炭素の痩身効果に関する認定部分に関して縷々反論を述べるが,本件審決の認定のうちのごく一部の点の不備を主張するものにすぎず,本件審決の認定の違法性を基礎付ける理由にはなり得ない。 (2) 二酸化炭素の痩身効果に関する原告の主張が失当であることア原告の主張は,甲12ないし17の開示内容と本件発明の技術的意義を的確に理解していないものであり,本件審決の認定を覆す根拠にはなり得ない。 甲15ないし17においては,二酸化炭素については言及されていないが,マッサージ効果等による強い血行促進作用に基づいて痩身効果が認められ得ることを示している。一方,甲12ないし14に開示されているような従来の二酸化炭素を利用する皮膚外用剤では,わずかな血行促進作用しか認められないため,痩身効果までは実現できていないのである。 これに対し,本件発明では,発生した気泡状の二酸化炭素を含水粘性組成物中に封じ込めて,当該含水粘性組成物中の二酸化炭素含量を高めることができ,ひいては皮膚への二酸化炭素の浸透量を増大させることが可能になっており,従来の二酸化炭素を 気泡状の二酸化炭素を含水粘性組成物中に封じ込めて,当該含水粘性組成物中の二酸化炭素含量を高めることができ,ひいては皮膚への二酸化炭素の浸透量を増大させることが可能になっており,従来の二酸化炭素を利用する皮膚外用剤よりも,二酸化炭素の効能を格段に向上させることができている。その結果,本件発明では,本件明細書の試験例8,9及び13で実証されているように,優れた部分肥満改善効果を実現できている。甲12ないし14に痩身効果が示されていないことは,むしろ本件発明の革新性を示しており,従来の二酸化炭素を利用する皮膚外用剤よりも二酸化炭素の効能を格段に向上できていることの証左ともいえる。 このように,甲12ないし17は,二酸化炭素による効能には部分肥満改善効果がないことを示すものでないことは明らかであり,これを斟酌しても,本件審決の- 9 -認定に誤りがあるとはいえない。 イ原告は,あたかも二酸化炭素と血行促進効果が無関係であるかのような主張をしている。 しかしながら,原告が提出した甲18ないし24は,二酸化炭素が血行促進作用を備えていないことを示すものではない。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について(1) 本件明細書の記載本件発明の特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりのものであり,本件明細書には,おおむね以下の記載がある(甲25)。 ア本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,抗炎症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども有することを発見して本件発明を完成した。 イ本件発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場 イ本件発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。該組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず,通常の医薬品,化粧品,食品等で使用される増粘剤を制限なく使用でき,剤形としてもジェル,クリーム,ペースト,ムースなど皮膚粘膜や損傷組織,毛髪などに一般的に適用される剤形が利用できる。 ウ本件発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のアルギン酸系高分子としてはアルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステルなどが挙げられる。 エ本件発明の含水粘性組成物に二酸化炭素を保持させる方法としては,該組成物に炭酸ガスボンベなどを用いて二酸化炭素を直接吹き込む方法がある。また,反- 10 -応により二酸化炭素を発生する物質を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させるか,又は含水粘性組成物を形成すると同時に二酸化炭素を発生させて二酸化炭素含有粘性組成物を得ることも可能である。二酸化炭素を発生する物質としては,例えば炭酸塩と酸の組合せがある。具体的には,炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組合せ,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組合せ等により二酸化炭素含有粘性組成物を得ることが可能であるが,本件発明は二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物が形成される組合せであれば,これらの組合せに限定されるものではない。 オ本件発明に用いる炭酸塩としては,炭酸アンモニウム,炭酸カリウム,炭酸カルシウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,セスキ炭酸カリウム,セスキ ば,これらの組合せに限定されるものではない。 オ本件発明に用いる炭酸塩としては,炭酸アンモニウム,炭酸カリウム,炭酸カルシウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,セスキ炭酸カリウム,セスキ炭酸カルシウム,セスキ炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウムなどが挙げられ,これらの1種又は2種以上が用いられる。 本件発明に用いる酸としては,有機酸,無機酸のいずれでもよく,これらの1種又は2種以上が用いられる。有機酸としては,ギ酸,酢酸,プロピオン酸,酪酸,吉草酸等の直鎖脂肪酸,シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,フマル酸,マレイン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸等のジカルボン酸,グルタミン酸,アスパラギン酸等の酸性アミノ酸,グリコール酸,リンゴ酸,酒石酸,クエン酸,乳酸,ヒドロキシアクリル酸,α-オキシ酪酸,グリセリン酸,タルトロン酸,サリチル酸,没食子酸,トロパ酸,アスコルビン酸,グルコン酸等のオキシ酸などが挙げられる。無機酸としてはリン酸,リン酸二水素カリウム,リン酸二水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,亜硫酸カリウム,ピロ亜硫酸ナトリウム,ピロ亜硫酸カリウム,酸性ヘキサメタリン酸ナトリウム,酸性ヘキサメタリン酸カリウム,酸性ピロリン酸ナトリウム,酸性ピロリン酸カリウム,スルファミン酸などが挙げられる。 カ本件発明の二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚粘膜疾患若しくは皮膚粘膜障害の治療や予防目的,又は美容目的で使用する場合は,該組成物を直接使用部位に塗- 11 -布するか,あるいはガーゼやスポンジ等の吸収性素材に含浸させるか,又はこれらの素材を袋状に成形してその中に該組成物を入れて使用部位に貼付してもよい。該組成物を塗布又は貼付した部位を通気性の乏しいフィルム,ドレッシング材などで覆う閉鎖療法を併用すれ 含浸させるか,又はこれらの素材を袋状に成形してその中に該組成物を入れて使用部位に貼付してもよい。該組成物を塗布又は貼付した部位を通気性の乏しいフィルム,ドレッシング材などで覆う閉鎖療法を併用すれば更に高い効果が期待できる。該組成物を満たした容器に使用部位を浸すことも有効である。その場合,炭酸ガスボンベなどを用いて該組成物に二酸化炭素を補給すればより効果が持続する。 キ実施例を示して本件発明を更に詳しく説明するが,本件発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1ないし84の炭酸塩含有含水粘性組成物と酸との組合せよりなる二酸化炭素含有粘性組成物を表1ないし表7に示す。 ク実施例8炭酸塩含有含水粘性組成物(炭酸塩:炭酸水素ナトリウム2.4,増粘剤:アルギン酸ナトリウム3.0,カルボキシメチルセルロースナトリウム2.0,精製水92.6),酸(クエン酸2.0),発泡性(+++),気泡の持続性(++)ケ実施例18炭酸塩含有含水粘性組成物(炭酸塩:炭酸水素ナトリウム2.4,増粘剤:アルギン酸ナトリウム2.0,カルボキシメチルスターチナトリウム2.0,カルボキシメチルセルロースナトリウム2.0,精製水91.6),酸(クエン酸2.0),発泡性(+++),気泡の持続性(++)コ実施例20炭酸塩含有含水粘性組成物(炭酸塩:炭酸水素ナトリウム2.4,増粘剤:アルギン酸ナトリウム2.0,カルボキシメチルスターチナトリウム3.0,カルボキシメチルセルロースナトリウム3.0,精製水89.6),酸(クエン酸2.0),発泡性(+++),気泡の持続性(++)サ試験例8(顔と腹部の部分痩せ試験)41歳男性。ふっくらした頬と太いウエストを痩せさせたいと希望し,実施例8の組成物を1日1回15分間右頬に30g,腹部に100g塗布した。 の持続性(++)サ試験例8(顔と腹部の部分痩せ試験)41歳男性。ふっくらした頬と太いウエストを痩せさせたいと希望し,実施例8の組成物を1日1回15分間右頬に30g,腹部に100g塗布した。2ヶ月後に- 12 -右頬が5名の評価者全員により明らかに小さくなったと判断された。腹部はウエストが6㎝減少した。 シ試験例9(肌質改善及び顔痩せ試験)37歳女性。ふっくらした頬と荒れ肌,肌のくすみに悩み,種々の化粧品を試したが効果が得られなかった。実施例20の組成物50gを1日1回10分間顔全体に塗布したところ,1回目の塗布で肌のくすみが消えて白くなり,きめ細かい肌になった。2週間後には3名の評価者全員により,顔が小さくなったと判断された。 ス試験例13(腕の部分痩せ試験)36歳女性。二の腕の太さを気にしていたため,実施例18の組成物30gを左の二の腕に塗布し,食品包装用フィルム(商品名サランラップ,旭化成社製)をその上からまいて6時間放置したところ,二の腕の周囲長が2㎝減少した。 (2) 前記(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,二酸化炭素含有粘性組成物が部分肥満解消作用等を示すこと(前記(1)ア),発明の一態様として含水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有させたものが挙げられていること(前記(1)イ),含水粘性組成物は,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持するものであって,使用部位に塗布又は貼付した二酸化炭素含有組成物にガスボンベなどを用いて二酸化炭素を補給すれば効果が持続すること(前記(1)イ,カ)等が記載された上で,二酸化炭素を発生し気泡として保持する粘性組成物を塗布することにより部分肥満改善効果が奏されたこと(前記(1)エ,キないしス)が具体的な試験例8,9及び13(実施例 (1)イ,カ)等が記載された上で,二酸化炭素を発生し気泡として保持する粘性組成物を塗布することにより部分肥満改善効果が奏されたこと(前記(1)エ,キないしス)が具体的な試験例8,9及び13(実施例8,20及び18)として記載されている。 これらの記載によれば,本件特許に係る二酸化炭素含有粘性組成物の有効成分は二酸化炭素であって,その部分肥満改善効果は二酸化炭素の作用によるものであると解するのが相当である。 2 サポート要件について(1) 特許請求の範囲の記載が,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明- 13 -に記載したものであることを要するとするサポート要件(法36条6項1号)に適合することを要するとされるのは,特許を受けようとする発明の技術的内容を一般的に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかにするという明細書の本来の役割に基づくものである。この制度趣旨に照らすと,明細書の発明の詳細な説明が,出願時の当業者の技術常識を参酌することにより,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されていることが必要である。 (2) 本件明細書には,前記1(1)のとおり,炭酸塩と酸を反応させて二酸化炭素を発生させることができること,そのための組合せとして,具体的な試験例で用いた炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組合せのほか,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組合せが記載され,アルギン酸ナトリウムが増粘剤であることや,用いることのできる炭酸塩や酸として具体的化合物が,多数記載されている。 本件明細書のこれらの記載に接した当業者であれば,アルギン酸ナトリウムと各種炭酸塩及び各種酸を,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉 。 本件明細書のこれらの記載に接した当業者であれば,アルギン酸ナトリウムと各種炭酸塩及び各種酸を,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ」として任意に組み合わせて用いることで,酸としてクエン酸を用いた試験例8,9及び13(実施例8,20及び18)と同様に,二酸化炭素を発生させることができ,部分肥満改善効果が得られることを理解することができる。 (3) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されており,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができるから,本件特許は,サポート要件を満たすものである。 3 実施可能要件について- 14 -(1) 物の発明において,その発明を実施することができるとは,その物を作ることができ,かつその物を使用できることを意味する。 (2) 当業者であれば,前記1(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された各種炭酸塩や各種酸をアルギン酸ナトリウムと組み合わせることにより,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ」を製造することができ,これらを混合することにより二酸化炭素を発生させて部分肥満改善用に使用することができる。 (3) したがって,発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから, ことにより二酸化炭素を発生させて部分肥満改善用に使用することができる。 (3) したがって,発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,本件特許は,実施可能要件を満たすものである。 4 原告の主張について原告は,当業者は,二酸化炭素は血行促進作用を有さず,痩身作用も当然有しないと認識していた旨主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,二酸化炭素が部分肥満改善効果を有しないことを具体的あるいは合理的に主張するものではない。そして,本件発明が,発明の詳細な説明に記載したものであり,発明の詳細な説明が,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていることは,前記2及び3に判断したとおりであって,二酸化炭素が生体に及ぼす作用を当業者がどのように認識していたのか,また,本件発明の作用機序がいかなるものであるのかは,この判断に影響を及ぼすものではない。 5 結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 - 15 -裁判長裁判官土肥章大 裁判官髙部眞規子 裁判官齋藤巌

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