令和3(わ)2157 逮捕監禁、強盗傷人、脅迫、生命身体加害略取、逮捕監禁致死、殺人、殺人未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年1月24日 千葉地方裁判所
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判決文本文22,489 文字)

1 令和3年(わ)第2157号、同第1682号、令和4年(わ)第346号、令和5年(わ)第1654号 逮捕監禁、強盗傷人、脅迫、生命身体加害略取、逮捕監禁致死、殺人、殺人未遂被告事件令和7年1月24日 千葉地方裁判所刑事第1部宣告 主 文被告人を懲役28年に処する。 未決勾留日数中930日をその刑に算入する。 5令和5年7月12日付起訴状記載の公訴事実第2の殺人未遂の点については、被告人は無罪。 理 由(罪となるべき事実)被告人は10第1 平成25年7月14日午後8時20分頃、神奈川県逗子市(住所省略)B地下道海水浴場側出入口付近において、C(当時30歳)に対し、殺意をもって、その胸部等を刃物で複数回突き刺すなどし、よって、同日午後10時14分頃、同県横須賀市(住所省略)D病院において、同人を心臓刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害した15第2 E(当時35歳)の身体に対する加害等の目的で同人を略取監禁しようと考え、F、G、H、I及びJと共謀の上、平成26年3月14日午後10時22分頃、千葉県松戸市(住所省略)所在の駐車場及びその付近路上において、前記Eに対し、その頭部等を金属バットで複数回殴打し、前記路上に停車中の自動車まで同人を引きずって連行し、同車後部座席に同人を押し込んで同車を発20進させ、同車内において、同人の両手足をガムテープで緊縛し、同人の顔面にガムテープを巻き付けて目隠しをするなどの暴行を加えて同人を被告人らの支2 配下に置き、同日午後11時30分頃、同県鎌ケ谷市(住所省略)K株式会社所有のレンタルコンテナまで前記Eを連行し、両手足を緊縛して目隠しをした状態の同人を同所に設置されたコンテナ内に閉じ込めて同人の行動を監視し、 日午後11時30分頃、同県鎌ケ谷市(住所省略)K株式会社所有のレンタルコンテナまで前記Eを連行し、両手足を緊縛して目隠しをした状態の同人を同所に設置されたコンテナ内に閉じ込めて同人の行動を監視し、さらに、同月15日午前0時30分頃、前記レンタルコンテナにおいて、前記状態の同人を前記自動車後部に乗車させて同車を発進させ、同日午前1時頃、5同県松戸市(住所省略)所在の有限会社L所有の家屋に同人を連行し、同人が前記自動車内、前記コンテナ内及び前記家屋内から脱出することを著しく困難にし、もって同人を身体に加害する目的で略取するとともに不法に逮捕監禁し、その際、前記一連の暴行により、前記家屋内において、同日午前3時頃、同人を不詳の死因により死亡させた10第3 M(当時41歳)を逮捕監禁して金品を強奪しようと考え、G、N、H及びIと共謀の上、令和2年4月14日午後9時頃から同月15日午前4時頃までの間に、千葉県松戸市(住所省略)О西側路上において、前記Mに対し、その身体を金属バットで殴打するなどして同人を同所に駐車していた自動車の後部座席に押し込んで同車を発進させ、同車内において、同人の両手足を結束バン15ドで緊縛し、同人の顔面にガムテープを巻き付けて目隠しをするなどの暴行を加えるとともに、同人を同車で同市(住所省略)所在の有限会社L所有の家屋に連行し、同家屋内で同人を前記緊縛状態のまま被告人らの支配下に置いて、同人が同車内及び同家屋内から脱出することを著しく困難にさせた上、その間に、同家屋において、同人に対し、「どこに金があんだ。」「2000万円くらい20隠してんだろ。」などと強く申し向けて現金を要求するとともに、更に同人の顔面や腹部を蹴るなどの暴行を加え、その間の前記一連の暴行によりその反抗を抑圧し、同人所有又は管理の現 000万円くらい20隠してんだろ。」などと強く申し向けて現金を要求するとともに、更に同人の顔面や腹部を蹴るなどの暴行を加え、その間の前記一連の暴行によりその反抗を抑圧し、同人所有又は管理の現金5万2000円及び財布等15点(時価合計約98万8500円相当)を強奪し、さらに、同人を両手首を縛り付けて目隠しをしたまま同家屋前に駐車していた前記車両の後部座席に乗車させて、同所25から茨城県取手市(住所省略)P駐車場まで連行し、同日午前4時頃に同所に3 おいて同人を解放するまでの間、同人が前記車両内から脱出することを著しく困難にし、もって人を不法に逮捕監禁するとともに、前記一連の暴行により、同人に全治まで約2週間を要する頭部打撲傷、眼球打撲、右結膜下出血等の傷害を負わせた第4 令和3年8月3日午後3時47分頃、千葉県松戸市(住所省略)先路上にお5いて、A(当時40歳)に対し、同人をにらみ付けながら「ぶっ殺すぞ、この野郎。」などと語気鋭く申し向け、もって同人の生命、身体等に危害を加える旨を告知して脅迫した。 (事実認定の補足説明)第1 本件の争点等10殺人被告事件(判示第1。以下「C事件」という。)及び殺人未遂被告事件(令和5年7月12日付起訴状記載の公訴事実第2。以下「F事件」という。)(以下両事件を併せて「逗子事件」という。)の争点は、犯人性である。生命身体加害略取、逮捕監禁致死被告事件(判示第2。以下「E事件」という。)の争点は、被告人に共同正犯が成立するか、幇助犯にとどまるかである。逮捕監禁、強盗傷人被告事件(判15示第3。以下「M事件」という。)及び脅迫被告事件(判示第4。以下「脅迫事件」という。)の公訴事実に争いはない。 第2 逗子事件について1 当裁判所の判断当裁判所は、逗子事件 (判15示第3。以下「M事件」という。)及び脅迫被告事件(判示第4。以下「脅迫事件」という。)の公訴事実に争いはない。 第2 逗子事件について1 当裁判所の判断当裁判所は、逗子事件のうち、C事件については被告人が犯人であるとして判示20第1の事実を認定したが、F事件については被告人が犯人であることには合理的な疑いが残るとして主文のとおり無罪とした。無罪とした令和5年7月12日付起訴状記載の公訴事実第2(訴因変更後のもの)の要旨は、次のとおりである。 被告人は、平成25年7月14日午後8時20分頃、神奈川県逗子市(住所省略)B地下道において、F(当時28歳)に対し、殺意をもって、その腹部等をナイフ25で多数回突き刺すなどしたが、同人に入院加療13日間を要する小腸損傷、横隔膜4 損傷の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかったものである。 以下、その理由を説明する。 2 前提事実関係証拠によれば、以下の事実を認定できる。 ⑴ 時系列5ア 被告人は、平成25年7月14日午後2時過ぎ頃から同日午後8時頃まで、神奈川県逗子市内の海水浴場にある海の家で開催されていた音楽イベントに、F、R及びS等同じ暴力団組織(Q組)関係者らと参加した(甲205)。 イ 前記音楽イベント参加後の同日午後8時20分頃、被告人は尿意を催し、立小便をするため、前記海水浴場の砂浜から国道X号線の地下を通って、砂浜と同国道10を挟んで対面にある歩道まで移動できるB地下道に向かい、R及びSも被告人に続いた。被告人が、B地下道の歩道側出入口付近で、同地下道南側壁面を向いて立小便をしていると、Cが、被告人の後ろを通過しようとし、被告人とCとの間で口論が始まった。Cが被告人の顔面付近を殴打し、被告人は、その場に尻もちをつい の歩道側出入口付近で、同地下道南側壁面を向いて立小便をしていると、Cが、被告人の後ろを通過しようとし、被告人とCとの間で口論が始まった。Cが被告人の顔面付近を殴打し、被告人は、その場に尻もちをついた(甲205)。 15ウ その後、B地下道歩道側出入口付近から海水浴場側出入口付近までにおいて、何者かが、Cに対しその胸部等をナイフで突き刺す等の暴行を加えて、同人に胸部刺創等の傷害を負わせ、Fに対しその腹部、背部等をナイフで突き刺す等の暴行を加えて小腸損傷、横隔膜損傷等の傷害を負わせた。 エ その後、負傷したFを前記国道の歩道上に残したまま、被告人及びRは、Sが20運転する車で、千葉県松戸市内まで移動した(被告人供述、F供述、R供述、S供述)。 ⑵ C及びFが負った傷害ア Cは、顔面、腹部等に合計23か所の刺創、切創又は刺切創があり、近隣病院に緊急搬送されたが、同日午後10時14分頃、心臓刺創による出血性ショックで25死亡した(甲205)。Cの致命傷は、前胸部左側上端の深さ約12センチメートル5 の心臓左心室を貫通する刺創である。そのほか、前胸部中央左側には、深さ約12センチメートルの心膜、心臓、肝臓を損傷し、肝臓を貫通する刺創があり、これは、致命傷の前記刺創がなければ、致命傷となった可能性が高い刺創である。前胸部右側下端にも、深さ約9センチメートルの肝臓を貫通する刺創があり、これも致命傷である前記刺創がなければ、致命傷となった可能性が高い刺創である。その他、全5身に擦過傷、打撲傷が散在している(甲207)。 イ Fは、腹部、背部等に合計5か所の刺創又は切創があり、近隣病院に緊急搬送され、入院加療13日間を要する小腸損傷、横隔膜損傷と診断された(甲205)。 同人の左上腹部に腹腔内に達し小腸を1.5センチメートル 、腹部、背部等に合計5か所の刺創又は切創があり、近隣病院に緊急搬送され、入院加療13日間を要する小腸損傷、横隔膜損傷と診断された(甲205)。 同人の左上腹部に腹腔内に達し小腸を1.5センチメートル損傷、深さ3センチメートル以上の刺創があり、左側下腹部に深さ9.9センチメートルの刺創がある。 10左背部には、深さ9.2センチメートルの腹腔内に達し、横隔膜を1センチメートル損傷する刺創がある。左肩にも長さ8センチメートルの切創がある(甲207)。 ⑶ B地下道付近の血痕の付着状況等についてア 本件事件当日の平成25年7月14日午後9時40分から同月15日午前5時30分までの間に実施された実況見分の結果によれば、B地下道の血痕の付着状況15は下記のとおりである。 B地下道内北側にある壁には、海水浴場側出入口から0.07メートル、歩道側出入口から0.6メートル、地上0.06メートルから1.61メートルにかけて、多数の飛散した血痕が認められる。なお、上記壁の血痕の中には、擦れたように見える血痕も認められる。 20B地下道の海水浴場側出入口すぐにあり、B地下道北側の壁に隣接する海の家T南側の壁には、数点の飛散した血痕が認められ、同壁から0.3メートル、海水浴場側の通路出入口から5.0メートルの砂地には多量の滴下した血痕が認められる。 Tの南側壁から0.47メートル、海水浴場側の通路出入口から2.6メートルの位置にある木製の白色建て看板にも飛散した血痕が認められる。 25また、歩道側のB地下道出入口前の踊り場の東側のコンクリート壁、B地下道に6 通ずる南側階段の西側コンクリート壁には飛散した血痕、同階段上には滴下した血痕が認められる。B地下道に通ずる南側階段から11.0メートル先にある道路標識のポールの地上から1.2メートル に6 通ずる南側階段の西側コンクリート壁には飛散した血痕、同階段上には滴下した血痕が認められる。B地下道に通ずる南側階段から11.0メートル先にある道路標識のポールの地上から1.2メートルの位置に血痕が認められ、前記階段から56. 3メートルの地点の歩道上には、多量の滴下した血痕が認められる(甲´1)。 イ なお、B地下道付近の血痕がだれの血液が付着したものであるのか、B地下道5付近の遺留品がだれのものであるのか、救急隊到着時に、C及びFが、どの位置にいたのか、また、どのような姿勢・状態であったのかについては、立証がなされておらず、不明である。 3 C事件について⑴ F・R・Sの供述内容等10F、R及びSは、被告人がCに殴打されて尻もちをついた後でFがB地下道歩道側出入口付近に来たこと、被告人がC及びFをB地下道内でナイフで刺すなどしたこと、CはB地下道を海水浴場側出入口の方向へ歩いて行き、それを被告人が追いかけたこと、被告人がCに対しB地下道海水浴場側出入口付近で暴行したこと、R及びSは、B地下道内で刺されるなどしたFを支えてB地下道歩道側出入口付近の15階段を上ったが、歩道に出たところでFが倒れて動けなくなったので、Fをその場に残して、Sが運転する車に被告人とRが乗って現場を離れたことを供述しており、上記の限度では供述内容は大筋で一致している(F3~12頁、R5~11頁、S6~17頁)。 他方で、F、R及びSは、平成25年には、C事件の被疑者として被告人ととも20に逮捕・勾留されており、刑責を免れるため、虚偽の供述をする動機がある。また、Fは、E事件への関与を否定し、自身の裁判で無罪を主張しているところ、被告人が、自身の裁判においてFがE事件の首謀者であるという主張をし、その後Fに対するE事件の 虚偽の供述をする動機がある。また、Fは、E事件への関与を否定し、自身の裁判で無罪を主張しているところ、被告人が、自身の裁判においてFがE事件の首謀者であるという主張をし、その後Fに対するE事件の公判において検察官請求証人としてその旨の供述をしたことからも、Fのみならず、同人と同じQ組に所属するR及びSにも、被告人に不利な虚偽の供25述をする動機があるといえる。そして、F、R及びSは、当時現場にいたことから、7 当時認識した事実に虚偽の事実を混在させて供述することが可能である。実際に、F、R及びSの逗子事件についての各公判供述は、逗子事件から間もない平成25年当時より、詳細で具体的かつ被告人に不利な内容に変遷している。そのため、F、R及びSの供述については、その信用性を慎重に検討する必要がある。 ⑵ F、R及びSの供述の信用性5そこで、まずは、客観的事実との整合性について検討する。前記1の事実によれば、本件事件の発端となったのは、B地下道歩道側出入口付近での被告人とCの口論であり、Cが被告人を殴打したのもその付近であると認められる。そのことと、前記2⑶アの血痕の付着状況及び同2⑵のC及びFの傷害結果を併せ考慮すると、被告人がCに殴打されて尻もちをついた後、C及びFは、B地下道歩道側出入口付10近からB地下道内を同海水浴場側出入口方向へと移動し、その間に傷害を負って出血したと考えられる。そして、B地下道海水浴場側出入口から5.0メートル離れたT南側壁面前付近の砂地に多量の滴下した血痕が認められること、心臓の左心室を貫通する致命傷を負ったCが、その後に歩行できたとは通常考え難いことからすると、この場所付近でCが致命傷である心臓刺創を含む傷害を負ったと考えられる。 15また、B地下道歩道側出入口から歩道へと通じる南側 致命傷を負ったCが、その後に歩行できたとは通常考え難いことからすると、この場所付近でCが致命傷である心臓刺創を含む傷害を負ったと考えられる。 15また、B地下道歩道側出入口から歩道へと通じる南側階段に滴下した血痕があり、歩道上の道路標識や歩道上に滴下した血痕が認められることからすると、Fは出血しながらB地下道歩道側出入口から南側の階段を上がって歩道に出て、更に南側に移動したと考えられる。 このように、血痕の付着状況及びC及びFの負傷状況と、F、R及びSの供述内20容は、誰がC及びFを刺すなどしたのかという点を除けば、客観的な事実に相当程度整合しており、その限りで信用することができる。 ⑶ 犯人性の検討客観的証拠及びこれに整合するF、R及びSの供述から、被告人がCに殴打されて尻もちをついた後でFがB地下道歩道側出入口付近に来たこと、C及びFがB地25下道内で刃物で刺されるなどしたこと、Fは、刺されたことにより、B地下道内で8 一人では動くのが困難な状態になったこと、Cは、B地下道内を海水浴場側出入口の方向へ歩いて行き、同出入口付近で刃物で刺され致命傷を負ったこと、R及びSはFを支えてB地下道歩道側出入口付近の階段を上ったが、歩道に出たところでFが倒れて動けなくなったので、Fをその場に残して、Sが運転する車に被告人とRが乗って現場を離れたことが認められる。 5以上の事実を前提として、Cに致命傷を負わせることができた人物として、被告人以外には、R、S、Fが想定されるので、順次検討する。 まず、R及びSがCに致命傷等を負わせた可能性を検討すると、R及びSは、被告人とCが口論するに至る経緯を認識した上で、口論になった後はSは被告人を止めるためにFを呼びに行っており(この点については、SとFの供述が一致してお10 負わせた可能性を検討すると、R及びSは、被告人とCが口論するに至る経緯を認識した上で、口論になった後はSは被告人を止めるためにFを呼びに行っており(この点については、SとFの供述が一致してお10り、R及び被告人の供述とも整合的であり信用できる。)、Rも、被告人とCとの口論等に積極的に関与していたことをうかがわせる証拠はない。R及びSがCを刃物で刺す等する理由があるとすれば、それはFが刺されたこと以外には考え難いが、R及びSは、Fが刺されるなどした後はFを支えてB地下道から歩道に上がり、Sは車を取りに行っており、Fが刺された後、R及びSがCに致命傷を負わせたとは15考え難い。 Fについては、B地下道内にいた複数の者の中で、刃物による傷を負っている者がFとCであることからすると、FとCが互いに刺し合った可能性があるようにも思われる。しかし、前記のとおり、Cは、FがB地下道内で刺されて傷を負った後、B地下道海水浴場側出入口から5.0メートル離れたT南側壁面前付近において致20命傷を負ったと認められる。Fが、小腸に達するほどの重傷を負った後に、B地下道内から、T南側壁面前付近まで移動した上で、Cに心臓を貫通するほどの致命傷等を負わせることができたとは考え難い。 以上によれば、事件の当時現場にいた人物で、Cに対して致命傷を負わせたのは、被告人の他にいないと考えられる。 25⑷ 被告人の供述等9 これに対し、被告人は、Cに対し、B地下道内で被告人も含めて複数名で暴行していたが、Cが前記の傷害を負った理由について思い当たるところはない旨供述する。しかし、被告人の供述によれば、被告人は、Fが羽交い絞めにしたCのところへ向かい、Cに対し殴る、蹴る等の暴行していたというのであるから、Cが刺される等している状況が見えなかっ ころはない旨供述する。しかし、被告人の供述によれば、被告人は、Fが羽交い絞めにしたCのところへ向かい、Cに対し殴る、蹴る等の暴行していたというのであるから、Cが刺される等している状況が見えなかったということは到底考えられない。被告人の供述内5容は明らかに不自然不合理であって、到底信用できない。被告人の供述を踏まえても、被告人がCに致命傷を負わせたことは、合理的な疑いなく認められる。 なお、弁護人は、F、R及びS以外の被告人側の仲間が本件現場におり、その者による犯行の可能性を指摘する。しかし、被告人、F、R及びS以外の被告人側の仲間が、事件当時、B地下道内にいて、Cに対する暴行に関与したことをうかがわ10せる事情は証拠上何ら見当たらず、被告人も供述していない。弁護人の主張は、抽象的な可能性を指摘するものにすぎない。 ⑸ 以上から、被告人が、B地下道の海水浴場側出入口付近(T南側壁面前付近)において、Cに対し、胸部等を複数回刃物で突き刺し、致命傷を含む傷害を負わせ、殺害したと認められる。 154 F事件について検察官は、F、R及びSの各供述がいずれも信用できるとして、逗子事件の犯人が被告人であるとしているが、同時に、F事件の犯行態様について、量刑に関する主張の中で、被告人は、「Cさんを刺そうと考えて偶然Fも刺したのではなく、目の前に止めている人を認識して刺した」と主張している。この主張は、Fだけが供述20している犯行態様を前提とするものと考えられる。そこで、まずはF供述の信用性を検討する。 ⑴ F供述の信用性についてア Fの供述要旨Fは、逗子事件全体については、概ね前記3⑴のとおり供述しているところ、F25事件、すなわち自身が傷害を負った状況については要旨以下のとおり供述する。 10 (ア)Fは ア Fの供述要旨Fは、逗子事件全体については、概ね前記3⑴のとおり供述しているところ、F25事件、すなわち自身が傷害を負った状況については要旨以下のとおり供述する。 10 (ア)Fは、Sに呼ばれて、B地下道に入り、歩道側出入口の方に近づいた。すると、被告人とCが向かい合って言い合っていた。Fは、被告人とCの間にレフリーのような形で、立っている双方の間に横向きに立ち、被告人に「おい、どうしたんだ」「何やっているんだ」というようなことを言った。すると、間髪入れずに、被告人にナイフで七、八回にわたり刺された。被告人に刺されたとき、殴られたような5衝撃があり、ナイフを被告人が右手に持っているのが見えた(F5~7頁)。被告人は、手をまっすぐ突き出したり、腕を振ったりして、ナイフを刺していた。腹部の左前、左脇腹、左肩を刺された。被告人は、その場で、Cも、七、八回にわたり主に胴体の部分を刺していた(F6~7頁)。被告人に押されるような感じで、トンネルの壁側に移動したが、その間も継続的に刺されていた。被告人は、Fを意図的に10刺したのだと思う。Fは刺された瞬間、Cを引っ張るような感じで触れて、その後しゃがみこんだ(F81、82頁)。 (イ)退院当日、被告人から謝罪を受けた。被告人は、止めに入ったFにむかついた、邪魔だったというような話をしていた。 イ 信用性15(ア) 検察官は、F供述が、R、S各人の供述内容と互いに主要部分が合致していること、平成25年の捜査の際との供述の変遷には合理的な理由があること、Fが本件事件の被害者であり、被害に遭った状況を証言したこと、その供述内容は具体的で迫真性も認められること等から、信用性が認められる旨主張する。以下、供述の信用性を検討する。 20(イ) 虚偽供述の動機前述のとお り、被害に遭った状況を証言したこと、その供述内容は具体的で迫真性も認められること等から、信用性が認められる旨主張する。以下、供述の信用性を検討する。 20(イ) 虚偽供述の動機前述のとおり、Fには、虚偽供述の動機が2点ある。 一つ目は、逗子事件について自身の刑責を免れるという動機である。逗子事件におけるFの関与については、Sが当公判廷において、Cを羽交い絞めにしたのを見た旨供述しており、被告人も同様の供述をしている。Rは、当公判廷ではFがCを25羽交い絞めにしていないと供述している(R26頁)が、捜査段階においてはFが11 Cを羽交い絞めにした旨の供述をしていると弁護人から指摘されて、覚えていないと供述している(この弁護人の質問に対して、検察官は異議を出していない。)。Fが、Cを羽交い絞めにしたとすると、それは被告人とCを止めようとした可能性もあるが、被告人に加勢した可能性もある。Fが、どのような状況で誰に刺されたのかを明確に供述すれば、同時にFが逗子事件にどのように関与したのかについても5明らかになる可能性があり、その結果、FもC事件について刑責を問われる事態になることが十分に考えられる。 二つ目は、E事件の関係である。Fは、自己の第1 審公判でE事件への関与を否定していたが、同公判で、被告人が検察官請求の証人としてFが首謀者である旨証言した。被告人が、E事件におけるFの関与について、そのような供述をすること10は、公判前整理手続等を通じて、Fにおいて事前に把握できたと考えられる。そこで、Fとしては、被告人がE事件におけるFの関与を供述するのであれば、逗子事件について被告人に不利な供述をするとして、被告人をけん制することが考えられる。Uが依頼した弁護士が勾留中の被告人と接見したこと等からすると、その可能 件におけるFの関与を供述するのであれば、逗子事件について被告人に不利な供述をするとして、被告人をけん制することが考えられる。Uが依頼した弁護士が勾留中の被告人と接見したこと等からすると、その可能性は抽象的なものとはとどまらない。もっとも、結果として、被告人は、FのE事15件の第1審公判において、前記のとおり供述し、Fの関与が認められている(F41~46頁、甲227)から、そのような企てが存在したとしても、それは功を奏さなかったことになるが、令和5年になってから行われた取調べにおける供述との整合性をとることや、被告人が前記のような証言をしたことに対する報復として、逗子事件に関し被告人に不利な虚偽の供述をする動機が当公判の時点においてもあ20ると認められる。 (ウ) 供述の変遷の合理性Fは、平成25年9月25日の逮捕前の入院中の聴取においては、酒に酔って詳しいことは覚えていない旨供述していた(F49、50頁)。その後の平成25年の逮捕以降の捜査機関による取調べにおいて、Fは、被告人が一人でCと自分を刺し25たと思う、被告人が刃物を持ち出したところは見てないし、自分を刺した人物も見12 てないが、結果等から考えると、被告人がCと自分を刺したと考えられると供述するようになった(F57、58頁)。現在の供述状況は、上記のとおりであり、平成25年の逮捕当時から変遷している。 Fは、平成25年当時に現在と異なる供述をしていた理由として、逮捕当時は被告人が自らやったことは認めて正直に話すという前提になっており、被告人自らが5話すなら、自分は別に皆まで言わなくていいと思っていた旨や、Fが供述することでチクったと周りに思われるのが嫌だった旨供述する(F59、77頁)。令和5年5月以降に、現在と同様の供述をするに至った理由につい ら、自分は別に皆まで言わなくていいと思っていた旨や、Fが供述することでチクったと周りに思われるのが嫌だった旨供述する(F59、77頁)。令和5年5月以降に、現在と同様の供述をするに至った理由については、証拠隠滅を頼まれた人物が新証拠を出して全てを話すということを聞いたので、自分も話さなければならないと思った旨を供述する(F59頁)。 10しかし、被告人、F等が所属するQ組においては、C事件の犯人が被告人であるという前提でCが所属していた暴力団と手打ちをしていたのであるから、FがC事件の犯人が被告人である旨を供述することが「チクリ」「チンコロ」に当たると思われることを懸念したというのは疑問であるし、そもそもFは被告人の名前を出して被告人が刺したと考える旨を供述していたのであるから、平成25年の逮捕勾留中15の供述内容が前記のようなものであった理由としては、合理的なものとはいえない。 また、令和5年5月以降に、当公判廷と同じ供述をし始めた理由については、後述のような、逗子事件で使用されたナイフの柄の一部として証拠が警察に提出された経緯を考慮すると、むしろ、変遷後の供述の信用性に疑問が生ずる。 (エ) 内容の不自然・不合理性20Fの供述内容を前提とすると、Fは、Sに被告人が喧嘩をしているということで呼ばれてB地下道内に入り、被告人とCの間にレフリーのように立ち、被告人に一言二言何をやっているのかと声をかけただけにもかかわらず、間髪入れずに七、八回意図的に刺され、それとほぼ同時に、Cも七、八回刺される等したことになる。 確かに、突然被告人がナイフを出したのであれば、不意打ちでナイフによる攻撃25を避けられなかったとしても何ら不自然ではないが、Fの供述によれば、Cの目の13 前で被告人がFを刺したことになるから、当然C 告人がナイフを出したのであれば、不意打ちでナイフによる攻撃25を避けられなかったとしても何ら不自然ではないが、Fの供述によれば、Cの目の13 前で被告人がFを刺したことになるから、当然Cとしてはその状況を認識し、逃げる等の対応をすることが考えられる。他方で、被告人がFをナイフで一度刺した後、Cを刺し始めたというのであれば、Fとしても再度刺されないように何らかの対応ができたと考えられる。被告人が、一方的に、F及びCの双方をそれぞれ七、八回ずつ刺すなどしたというFの供述は、不自然である。 5また、元々B地下道内で被告人がもめていた相手は、FではなくCであることからすれば、被告人がCに対してではなく、直前まで共に音楽イベントに参加していたFを、意図的に刺すこと自体不自然である。Fとしては、単に両者の間にレフリーのように立って声をかけただけなのであり、被告人にいきなり複数回意図的に刺される理由は、およそ見当たらない。Fの供述内容は、同人が腹部と背部の両方に10傷害結果を負う経緯として極めて不自然というほかない。 Fは、被告人から刺したことについて謝罪を受けたというが、Fの負った傷害が命の危険もある重大なものであったこと、Fと被告人が逗子事件後にも協力してE事件に及んでいることを考えると、被告人からの謝罪に関するFの供述には強い違和感がある。 15(オ) S及びRの供述内容との不整合後記のとおり、R及びSは、被告人がCを刺そうとして、Fも刺してしまったという趣旨の供述をしており(R5、6、39頁)(S11、12、64、65頁)、両名の供述がF供述と一致しているのは、被告人がFを刺したという部分のみで、Fが刺されることになった経緯について供述内容が整合してしない。 20なお、検察官は、F、R及びSの各供述は、い )、両名の供述がF供述と一致しているのは、被告人がFを刺したという部分のみで、Fが刺されることになった経緯について供述内容が整合してしない。 20なお、検察官は、F、R及びSの各供述は、いずれも信用できるとし、Sの供述について「細かい点の記憶違いは信用性に影響しない」としているが、F、R及びSの各供述が整合していない証拠状況において、最も被告人に量刑上不利と思われるF供述が信用できる理由については説明がない。 (カ) 小括25以上から、被告人とCの間に立ち、一言二言被告人に声をかけたところ、間髪入14 れずに複数回刺されたとするF供述には信用性が認められず、検察官が主張する態様で、被告人がFを刺すなどし、傷害を負わせたとの事実を認定することはできない。 ⑵ R・S供述の信用性R及びSは、被告人がCを刺すなどしようとして、誤ってFを刺すなどしたとい5う趣旨の供述をしている。この事実が認められる場合、故意責任に関するいわゆる法定的符合説によれば、この時点で、仮に、被告人にCに対する殺意が認められるのであれば、被告人に殺人未遂罪が成立する余地があり、この時点での殺意が認められないとしても、傷害罪又は暴行罪が成立する余地がある(なお、このような場合に、Fに対する殺人あるいは暴行の故意を認めない見解もある。大阪高裁平成1104年9月4日判決参照。)。そこで、R及びSの供述の信用性を検討し、両名の供述に依拠し、被告人がFを刺すなどした事実が認められるか検討する。 ア 供述要旨(ア) R供述(5~8、39頁)Cに殴られた被告人が尻もちをついた後、立ち上がってCにタックルするよう15に突っ込んでいった。その後、すぐにFが後ろからきて、被告人とCの間に入り、3人でもみくちゃになった。近づいていくとF Cに殴られた被告人が尻もちをついた後、立ち上がってCにタックルするよう15に突っ込んでいった。その後、すぐにFが後ろからきて、被告人とCの間に入り、3人でもみくちゃになった。近づいていくとFが被告人に刺されているのを見たので、止めに入った。被告人はナイフを右手に持ち、手を前に突き出すような動きを何度もしていた。Rは、被告人を止めに行き、背面から被告人の両脇を羽交い絞めにして、両腕を被告人の脇の下から入れた。Rは、被告人に、「兄貴も刺し20てますよ」と言ったところ、被告人はいったん動きが止まった。被告人は、Cを刺そうとして、Fも刺してしまったように見えた。 (イ) S供述(5~13、64~66頁)被告人とCが喧嘩になり、被告人が尻もちをついた後、被告人は立ち上がってナイフをズボンの中から出した。そして、被告人は、ナイフを持ってCにタック25ル・体当たりするように刺した。被告人が刺した位置はCの胸辺りだったと思う。 15 被告人がCを刺したのを見て、Fであれば止められると思い、Fを呼びに行った。 砂浜の方にいたFに対し、被告人がもめているのですぐ来てくれと言うと、Fはトンネルの方に走っていった。Fがつかみ合っているCと被告人の間に割って入った後、FがCと正対して向き合う体勢になり、もみ合って動いていたときに、被告人がCを刺して偶然Fにも刺さったと認識している。Fは、トンネルに入っ5た後、いつか分からないが、Cを羽交い絞めした。SとRのどちらかが、被告人に「Fさんのことを刺してます」又は「兄貴のことを刺してます」と言った。 イ 信用性(ア)前記のとおり、被告人がCを刃物で刺して致命傷を負わせていることから、被告人は、その直前のB地下道内でFが刺されるなどした時点においても、刃物10を所持していた可能性が高 イ 信用性(ア)前記のとおり、被告人がCを刃物で刺して致命傷を負わせていることから、被告人は、その直前のB地下道内でFが刺されるなどした時点においても、刃物10を所持していた可能性が高い。また、被告人及びSが供述するように、B地下道内で、FがCを羽交い絞めにしていたとすると、その状態で、被告人がCを刃物で刺そうとしたところ、Cの抵抗にあうなどして、Fに刺さってしまったという可能性は認められる。 被告人が誤ってFを刺すなどしたことから、Rが「兄貴も刺してますよ」と言15って被告人を制止した旨のRの供述は、B地下道内での暴行後に、B地下道の海水浴場側出入口付近(T南側壁面前付近)において、被告人が、Cに対し、胸部等を複数回刃物で突き刺し、致命傷を含む傷害を負わせるに至る経緯として自然で、それなりに迫真性もある。 (イ)他方で、Fは、腹部と背部の両方に傷害を負っており、傷の数、位置、形状20からして、複数回刃物による強い暴行を受けたと認められる。被告人としてはCを刺そうとしたのに、目の前のFの腹部と背部の両方に、複数回にわたって誤って刺すということは通常考え難く、被告人がCを刺そうとして、Fを刺してしまったとしても、それにより、Fの傷害の全てが生じたと認めるには十分な供述やその他の証拠があるとはいえない。 25(ウ)R及びSは、被告人がナイフでFを刺すのを見たという割には、その時の、16 F及び被告人の態勢や位置関係、刺突部位、回数などは曖昧である上、両名の供述が整合しているともいえない(R38頁、S66~69頁)。また、FがB地下道内に来た時点で、既に被告人がCのことを刺していたのかどうかといった重要な点についても、両名の供述は整合していない。Sの供述するタイミング、態様で、まず被告人がCを刺したのだとす また、FがB地下道内に来た時点で、既に被告人がCのことを刺していたのかどうかといった重要な点についても、両名の供述は整合していない。Sの供述するタイミング、態様で、まず被告人がCを刺したのだとすると、その後にCと被告人がつかみ合いに5なるのかや、Cの腹腔内の出血量と整合するのかについて、疑問がある。R及びSは、現時点においてQ組組員かつFの舎弟で、RはFの実弟でもある。そのため、Fの虚偽供述の動機は、R及びSにも当てはまり、C事件についてFが刑責を問われることがないように、あるいはE事件について被告人がFに不利な供述をしたことへの報復等から、Fがどのような態様で、誰に刺されたのかについて、10真実を隠し、意図的に曖昧な供述をしている疑いがある。 (エ)R及びSは、B地下道内でC及びFがナイフで攻撃されたことや、CがB地下道の海水浴場側出入口付近で刺されたことといった大筋については真実を供述しているとしても、核心部分であるFが負傷した状況に関する供述については信用性に疑義があると言わざるを得ない。 15ウ CがFを刺すなどした可能性について弁護人は、CやCの仲間がFを刺した可能性を指摘しているところ、被告人自身、複数人でC一人を攻撃していたと供述しており、C事件と同様、被告人とCとのもめ事に加勢したC側の人物がいることをうかがわせる証拠はなく、Cの仲間がFを刺したというのは抽象的な可能性の指摘にとどまる。 20Cについても、本件は被告人が立小便をしている後ろをCが通過したことに起因する被告人との一対一の口論及び素手での喧嘩であり、かつ、Cが被告人を殴って尻もちをつかせた状況からは、Cから刃物を持ち出す必要があったとは考え難い。 しかし、Fの登場により一対二の数的不利な状況となり、さらに、Fに羽交い絞めにされるに 喧嘩であり、かつ、Cが被告人を殴って尻もちをつかせた状況からは、Cから刃物を持ち出す必要があったとは考え難い。 しかし、Fの登場により一対二の数的不利な状況となり、さらに、Fに羽交い絞めにされるに至り、身体に危険を感じたCが刃物を用いた可能性は否定できない。R25及びSが供述するように、被告人が刃物を持ち出し、Cがその刃物で攻撃されてい17 る状況があったとすれば、身を守るためなどに、Cが被告人から刃物を奪い、あるいは自ら刃物を出して、被告人に加勢しているFを刺すなどしたという可能性は十分に考えられる。CがFを刺して傷害を負わせたとすると、被告人が逃げ出したCを追いかけて、執拗に攻撃したことについても整合的に理解できる(対して、被告人が殴られて尻もちをつかされたことに激高してCに対し執拗に攻撃したというの5は、考えられないこととまではいえないが、動機と行為・結果との間にやや乖離があることも否定できない。)。 これに対しては、CがFを刃物で刺すなどしたのであれば、被告人、F、R及びSは、なぜその事実を供述しないのかという疑問が生じる。確かに、それだけを見れば、被告人らにとって有利な事実であるように思われるが、CがFを刺すなどし10た旨供述すれば、被告人は、その前後の自身の行動についても説明を求められ、結果として、被告人がCを殺害した事実について嫌疑を深めるおそれがある。Fにとっても、なぜCがFを刺すなどしたのかについて説明を求められ、FがCを羽交い絞めにした事実などが明らかになり、C事件について刑責を問われるおそれがある。 そのため、CがFを刺すなどした事実があったとしても、それを被告人らが供述し15ないことが一概に不合理であるとはいえない。 以上から、CがFを刃物で刺すなどし、Fに傷害を負わせたという合理的な疑 のため、CがFを刺すなどした事実があったとしても、それを被告人らが供述し15ないことが一概に不合理であるとはいえない。 以上から、CがFを刃物で刺すなどし、Fに傷害を負わせたという合理的な疑いは排除できない。 エ 被告人によるFに対する暴行の有無についてもっとも、FがCに刺された可能性があるとしても、Fは複数箇所に刃物による20傷を負っているから、被告人も、Fに羽交い絞めにされているCに対し、刃物で攻撃をした際に、Cの抵抗等にあってFに刃物が刺さった可能性も考えられる。このように、被告人が、B地下道内において、Fに対し、刃物を用いた暴行を行ったのであれば、殺意の有無、同時傷害の成否、暴行と傷害との因果関係の有無等に応じて、殺人未遂罪、傷害罪又は暴行罪が成立する余地がある。 25しかし、検察官はこのような犯行態様や傷害の機序を主張しておらず、いずれの18 証人も、そのような経緯でFが刺されたとは供述していない。本件の証拠関係において、上記の態様で被告人がFを刺したことは一つのありうる可能性に過ぎない。 他方で、Cにとっては、Fは喧嘩の相手方であるから、被告人とは異なり、Fに対して複数回刃物で刺すなどしても不自然とはいえない。 客観的な証拠が乏しい本件において、F及びCが刃物で負傷した事実以上にB地5下道内で何があったのかを客観的な事実から推認することは困難である。加えて、弁護人が指摘するとおり、逗子事件で用いられたナイフが何本であったかも不明な上、後記のとおり、Uにより逗子事件で用いられたものであるとしてナイフの柄が提出された経緯等にも疑問がある。被告人が、B地下道内でFに対して刃物で刺すなどして傷害を負わせた、あるいはFに対して刃物を用いて暴行を行ったという疑10いはあるが、証明できているとはいえない 提出された経緯等にも疑問がある。被告人が、B地下道内でFに対して刃物で刺すなどして傷害を負わせた、あるいはFに対して刃物を用いて暴行を行ったという疑10いはあるが、証明できているとはいえない。 ⑶ 検察官は、F事件の犯人性を推認させる事情として、F、R及びSの供述の他に、被告人が犯行後、逗子事件について、R、J及びVに告白したこと、被告人が犯行後Jに使用した凶器及び犯行時に着ていた衣服の処分を依頼したこと、犯行当日、折りたたみナイフを所持し、日常的に所持していたことを挙げる。 15このうち、衣服の処分、日常的なナイフの所持、Rに対する発言(二人とも死んじゃったかな)、Vに対する発言(人を刺した、殺した)については、Cを刺し、重傷のFを残して逃げてきた被告人の言動として自然なものであるが、それを超えて、被告人がFを刺したことまで推認させるものではない。 また、Jに対する発言(Fを殺してしまったかもしれない)については、11年20前の会話について「殺してしまった」という部分まで正確に記憶できているのか疑問である上、仮に同人が供述する事実があったとしても、重傷のFを現場に残してきたことで、同人が死んでしまうのではないかという思いから発言をしたと解する余地もあり、被告人がFを刺したことまで推認させるものではない。 加えて、Jが、処分を依頼された凶器であるナイフの柄の片側だけを保管してお25り、Uにその事実を伝え、Uがこれを逗子事件の凶器であるとして警察に提出した19 というJとUの供述内容は、Jがナイフの柄を保管することになった経緯や、Uにこれを託した経緯など、重要な部分において整合していない。Jは、被告人を牽制し、自分の身を守るためにナイフの柄を保管していたと述べながら、それだけでは逗子事件で使用されたナイフ になった経緯や、Uにこれを託した経緯など、重要な部分において整合していない。Jは、被告人を牽制し、自分の身を守るためにナイフの柄を保管していたと述べながら、それだけでは逗子事件で使用されたナイフであるとも、被告人のナイフであるとも特定することが困難な柄の片側のみを保管していたという供述内容自体が、直ちには信用できな5い。被告人が、E事件の首謀者はFであるという主張を提出した後の令和5年1月に、Uが上記ナイフの柄を逗子事件で使用されたナイフの柄であるとして警察に提出したことや、その頃、Uが依頼した弁護士が被告人に接見して被告人の裁判の方針を尋ねるなどしたことからすると、UとJのナイフの柄に関する供述は、Fに不利な主張をする被告人に対する牽制等のための虚偽である疑いも生じる。ひいては、10Jの供述全体の信用性にも疑問があると言わざるを得ない。 ⑷ 以上より、F事件については、被告人がFに対し刃物を用いて暴行を加えたと認めるには合理的な疑いが残る。(なお、C事件についても、F、R及びSの供述の信用性に疑義があることから、B地下道内でCが負った傷害の全てが被告人の刃物での攻撃によるものとまでは認定できないので、判示第1の限度の事実を認定した。)15第3 E事件について(共同正犯の成否)1 被告人は、E事件に関与したことについては認めているところ、被告人の供述を前提としても、以下の事実が認められる。 ア 被告人は、Fから被告人及びFが所属するQ組の上位者であるEを暴力団から引退させるため拉致して暴行する計画の誘いを受けた。被告人は、従前からEの指20示で行う強盗の報酬がリスクに見合わないものであったこともあって、Eに不満を持っており、Fの誘いに応じることとした。 イ 実行犯は、H、G、J、Wの4名に決まり、被告人は、上記 前からEの指20示で行う強盗の報酬がリスクに見合わないものであったこともあって、Eに不満を持っており、Fの誘いに応じることとした。 イ 実行犯は、H、G、J、Wの4名に決まり、被告人は、上記4名に連絡して、Fの名前を出して前記計画に誘った。 ウ 前記計画を実行するに当たり、Eの行動確認をすることとなり、被告人は、実25行役のHに、Eの行動確認をすること及び機会があればその場で拉致する旨のFの20 指示を伝えた。しかし、実行役のHは、当初指示された場所では、人通りが多く、昼間ということもあって拉致を実行できないと考え、その旨を被告人に伝えた。Hから連絡を受けた被告人は、Fにその内容を報告した。その後、被告人は、直接実行役のHとFに会ってもらうことにして、被告人、F及びHが、居酒屋で会った。 居酒屋では、前記計画を実行できない理由、他に場所がないかについて話をした。 5エ 平成26年1 月になり、Fから、被告人に再度計画を持ち掛けられ、再開することになった。実行役は、Wが抜けて、代わりにIが入ることになり、Eを拉致する場所は、Fの指示でEの実家近くの駐車場となった。 オ E事件当日、被告人は、Fから、Eが海外旅行から帰国したこと、帰国後のEの動きを聞いて、G又はHにその内容を伝えた。被告人は、Eを拉致する現場や監10禁したコンテナに行っておらず、自宅にいたところ、H、Gから、コンテナでは声が漏れてしまうことやEを拉致した際に大声を出されて警察が来ているかもしれないから、場所を変えてほしいと言われた。そこで、被告人は、Fに連絡して指示を受け、Vに電話で被害者の名前は出さずに部屋を使わせてほしいことを頼み、了承を受けた。その後、被告人もVの家(以下「V宅」という。)へ向かったところ、H、15G、I及びJがおり、Fは して指示を受け、Vに電話で被害者の名前は出さずに部屋を使わせてほしいことを頼み、了承を受けた。その後、被告人もVの家(以下「V宅」という。)へ向かったところ、H、15G、I及びJがおり、Fは後から来た。 カ Eの死亡後、被告人、F、H、G、I及びJは、V宅2階で、遺体の処理について話をし、遺体を埋めることに決まった。被告人は、H、G、F、I、Jと埋める場所の下見に行った。下見した1か所目においては、全員で、スコップで掘れるかを確認したができず、Hの提案した別の場所に行くこととなった。被告人、H、20Gで、Hの提案した場所に向かい、掘ることができるかを確認し、埋める場所を決めた。 2 前記1の事実によれば、E事件においては、F、被告人、実行役の順で、指示連絡系統があったと認められる。被告人は、E事件について計画段階から犯罪の実行、犯罪後の証拠隠滅に至るまでの全過程に関与している。また、被告人は、計画25を実行するのに必要不可欠な実行役に声をかけ集める役割を担うのみならず、実行21 に当たっては、現場の実行役から報告を受けた上で、Fに現場の状況を伝え指示を仰ぎ、その指示を実行役に伝えるなどして、犯罪を完遂すべく事態に即した対応をしている。被告人は、指示連絡の順序によれば、Fよりは下の立場にあったとはいえるものの、実行役よりは上の立場で関与したと認められる。被告人は、単にFから指示があればそれをそのまま伝えるだけの伝言役ではなく、両者間の意思疎通を5能動的に担い、現場の実行役らを監督する重要な役割を担っていたと認められる。 また、被告人の役割は、本件のような組織的な犯行において、組織の上位者(E事件でいえばF)が検挙されることを防ぐという点においても重要な意義を有しており、そのことは、FがE事件への関与を否認している また、被告人の役割は、本件のような組織的な犯行において、組織の上位者(E事件でいえばF)が検挙されることを防ぐという点においても重要な意義を有しており、そのことは、FがE事件への関与を否認していることによく表れている。 したがって、被告人はE事件において重要な役割を果たしたと認められ、被告人10には、生命身体加害略取罪、逮捕監禁致死罪の共同正犯が成立する。 第4 結論以上のとおり、逗子事件のうちC事件については、被告人が犯人であると認められ、被告人に殺人罪が成立し、E事件については、被告人に生命身体加害略取罪、逮捕監禁致死罪の共同正犯が成立する。 15また、逗子事件のうちF事件については、被告人が犯人であるとは認められず、被告事件について犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し、無罪の言渡しをする。 (量刑の理由)第1 C事件について20C事件は、被告人と面識のなかった通りすがりの被害者との些細な口論が喧嘩に発展し、逃げて行った被害者を、被告人が追いかけて刃物で複数回刺して殺害したというものである。 本件の犯行態様は、既に刃物による傷を負い、被告人らから逃げた被害者をわざわざ追いかけ、複数回にわたって刃体の長さ10センチ以上の刃物で刺し、心臓を25貫通する致命傷等を負わせたというものであり、強固な殺意に基づく、執拗かつ残22 忍な犯行である。被害者が、当時30歳の若さで死亡したという結果は、極めて重大である。 本件犯行に至る経緯を見ると、被告人が被害者に因縁をつけた後、被害者の方から先に手を出し、尻もちをつかせる程度の強さで被告人を殴ったことが認められ、被害者側にも危険を招来した側面があったといえる。また、前記のとおり、Fの傷5害結果は、被害者の行為による可 害者の方から先に手を出し、尻もちをつかせる程度の強さで被告人を殴ったことが認められ、被害者側にも危険を招来した側面があったといえる。また、前記のとおり、Fの傷5害結果は、被害者の行為による可能性も否定できず、被告人が被害者にとどめを刺すがごとく致命傷を負わせたのは、Fが刺されたことに対する報復である可能性も否定はできない。しかし、そうであるとしても、被害者は、被告人側複数名と対峙する状況となって抵抗せざるを得なかったと認められる上、被害者が逃げ出したのであるから、それ以上に被害者に攻撃を加えることを正当化する理由はない。本件10犯行に至る経緯に被告人のために酌むべき事情は認められない。 第2 E事件及びM事件E事件は、同じ暴力団組織の上位者である被害者Eに対し、同人の指示による強盗の報酬が少ないなどの金銭的な不満から、同人に暴行を加えて暴力団を引退させるなどの目的で、被害者Eの居場所や行動を把握し、帰宅途中の路上で待ち構え、15金属バットで頭部を殴打するなどの苛烈な暴行を加えて複数名で拉致、監禁の末に死亡させたというものである。犯行態様は粗暴かつ危険で、結果が重大であることは言うまでもない。M事件も、E事件と同様の複数名による粗暴な犯行で、被害者Mが、所持金品(被害額合計約104万円)を奪われ、全治約2週間を要する頭部打撲傷等の怪我を負っているのであり、結果も軽視できない。 20被告人の役割についてみるに、E事件で、被告人は、犯罪の計画当初から、実行、罪証隠滅段階に至るまでの全ての過程に関与し、実行役を集めて監督するというFに次ぐ立場にあったと認められ、果たした役割は大きい。M事件については、被告人自身が首謀者であることを認めているとおり、犯罪の実行の決定、計画、実行に至るまでの一連の犯行に主導的に関与したと認 うFに次ぐ立場にあったと認められ、果たした役割は大きい。M事件については、被告人自身が首謀者であることを認めているとおり、犯罪の実行の決定、計画、実行に至るまでの一連の犯行に主導的に関与したと認められる。 25いずれの事件も、金銭的な不満等を解決する手段として、被害者を複数名で拉致23 して一方的に暴力を加えて痛めつけるという方法をとったもので、暴力団特有の反社会的な発想に基づく犯行である点でも、強く非難される。そして、被告人は、逗子事件で被害者Cを殺害したにもかかわらず、同事実で起訴されずに釈放されるや、逗子事件前から計画していたE事件の計画を再開して逗子事件の8か月後に犯行に及び、被害者Eを死亡させたにもかかわらず、さらに、同様の方法でM事件を起こ5している。被告人がこのように犯行を繰り返したのは、生命を軽視する態度が顕著であるからというほかない。 第3 小括以上の犯情を前提に、殺人、逮捕監禁致死、強盗致傷の各量刑傾向も参照すると、被告人の刑事責任は相当に重く、E事件、M事件について共犯者との刑の均衡を考10慮しても、有期懲役刑の上限に近い刑に処するべきである。そのほか、M事件及び脅迫事件について事実を認めており、脅迫事件については示談が成立していること、E事件については、自己の関与を軽く主張しているものの、Fの関与を供述したことにより事案の解明に寄与した面があることや、被害者の母親に対して謝罪の手紙を送ったこと、勾留中に家族の協力を得て暴力団から脱退するための手続をとり、15出所後は家族の支援のもとで更生する意欲を示していること等の被告人に有利な情状も考慮した上で、主文の刑を科すことが相当であると判断した。 (求刑 無期懲役、弁護人の科刑意見 懲役11年6月)令和7年1月30日千葉地方裁 する意欲を示していること等の被告人に有利な情状も考慮した上で、主文の刑を科すことが相当であると判断した。 (求刑 無期懲役、弁護人の科刑意見 懲役11年6月)令和7年1月30日千葉地方裁判所刑事第1部20 裁判長裁判官 新 井 紅 亜 礼裁判官 土 倉 健 太裁判官 原 亜 香 里 25

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