令和5(ネ)10087 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和6年1月31日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 大阪地方裁判所 令和3(ワ)11286
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令和6年1月31日判決言渡令和5年(ネ)第10087号損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所令和3年(ワ)第11286号〔第1事件〕、令和4年(ワ)第9132号〔第2事件〕)口頭弁論終結日令和5年12月12日 判決 控訴人(第1審第1事件被告兼第2事件原告)株式会社マルカン 同訴訟代理人弁護士上田裕康同下尾 裕同和田林 熙 被控訴人(第1審第1事件原告兼第2事件被告) 株式会社ボスケシリコン(以下「被控訴人ボスケシリコン」という。) 被控訴人(第1審第2事件被告) 株式会社KIT(以下「被控訴人KIT」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士岡本成史同児谷創記 同米森大知 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 (略語は、原判決の例による。) 第1 事案の要旨被控訴人ら及び被控訴人KIT代表者は、生体内で水素を発生させるシリコン製剤に関する特許ないしノウハウ(本件知的財産権)を有していた。控訴人は、上記シリコン製剤のサプリメントを商品化し海外展開する計画の下、被控訴人らとの間で、①令和元年6月18日にペットフード及びペット用サプリメ ントの製造販売に関する甲1契約を、②令和2年6月10日に人用サプリメントの製造販売に関する乙3契約及び乙4契約を、それぞれ締結した(なお、甲1契約及び乙3契約 トフード及びペット用サプリメ ントの製造販売に関する甲1契約を、②令和2年6月10日に人用サプリメントの製造販売に関する乙3契約及び乙4契約を、それぞれ締結した(なお、甲1契約及び乙3契約の控訴人側当事者には、控訴人のグループ会社レナトスを含む。)。これらの契約を通じて、被控訴人らは控訴人側にシリコン製剤を最優先で供給し、本件知的財産権の実施許諾をする一方、控訴人側は販売計画達成 義務を負うものとされ、販売計画未達の場合には、控訴人が以下の未達補償金等を支払う旨の条項が合意された。 ① 甲1契約の第16条(本件補償条項1/第1事件請求関係)控訴人の被控訴人ボスケシリコンに対する未達補償金の支払② 乙3契約の第16条(本件補償条項2/第2事件請求ア関係) 控訴人の被控訴人KITに対する未達補償金の支払③ 乙4契約の第6条(本件保証条項/第2事件請求イ関係)控訴人の被控訴人ボスケシリコンに対する保証金名目での支払第2 当事者の求めた裁判 1 請求 (1) 第1事件(被控訴人ボスケシリコンの請求) 控訴人は、被控訴人ボスケシリコンに対し、1億7325万円及びこれに対する令和3年11月11日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。(主請求は甲1契約の本件補償条項1に基づく補償金請求、附帯請求は支払期限翌日を起算日とする民法所定利率による遅延損害金請求)(2) 第2事件(控訴人の請求) ア控訴人と被控訴人KIT間において、控訴人と被控訴人らとの間の令和2年6月10日付け乙3契約(本件補償条項2)に基づく控訴人の被控訴人KITに対する補償金債務1920万円が存在しないことを確認する。 イ控訴人と被控訴人ボスケシリコン間において、控訴人と被控訴人ボスケ シリ 契約(本件補償条項2)に基づく控訴人の被控訴人KITに対する補償金債務1920万円が存在しないことを確認する。 イ控訴人と被控訴人ボスケシリコン間において、控訴人と被控訴人ボスケ シリコンとの間の令和2年6月10日付け乙4契約(本件保証条項)に基づく控訴人の被控訴人ボスケシリコンに対する支払債務1920万円が存在しないことを確認する。 2 原審の判断及び控訴の提起原審は、被控訴人ボスケシリコンの控訴人に対する第1事件に係る請求を 全部認容し、控訴人の被控訴人らに対する第2事件に係る請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として下記のとおり控訴した。 【控訴の趣旨】(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人ボスケシリコンの請求を棄却する。 (3) 上記1(2)ア及びイに同旨第3 前提事実前提事実は、原判決の第2の2(3頁~)に記載するとおりであるから、これを引用する。 第4 争点及び争点に関する当事者の主張 1 当審における本件の中心的な争点は、以下のとおりである。 (1) 控訴人の錯誤関係ア本件補償条項1に係る意思表示の錯誤無効の成否(平成29年法律第44号による改正前の民法95条に基づくもの)(原審における争点1)イ本件補償条項2及び本件保証条項に係る意思表示の錯誤取消しの成否(現行民法95条1項1号に基づくもの)(原審における争点3) (2) 被控訴人らの債務不履行(供給品の契約不適合又は供給義務の履行不能)による甲1契約等の解除及び損害賠償請求権との相殺(当審における控訴人の新主張) 2 当事者の主張(1) 原審における争点1~3についての当事者の主張は、当審における控訴 人の補充的主張を下記のとおり加えるほか、原判決第 請求権との相殺(当審における控訴人の新主張) 2 当事者の主張(1) 原審における争点1~3についての当事者の主張は、当審における控訴 人の補充的主張を下記のとおり加えるほか、原判決第3の1~3(7頁~)のとおりであるから、これを引用する。 【当審における控訴人の補充的主張(上記1(1)に関し)】ア本件製品は、ペット又は人の腸内で持続的に水素を作り出すこと、具体的には、本件製品の含有量に応じて、ペット用について24時間で本件 製品を含む商品1単位(SD-1の場合1粒=ペット用本件物質1g)当たり22ℓ分の飽和水素水(約1.6ppm。乙21)、及び人用につき24時間で本件製品を含む商品1単位(本件物質0.35g)当たり飽和水素水約15ℓ(1g 当たりの水素発生量44ℓ×0.35g=15.4ℓ)分の水素を発生させること(乙20)を前提に販売されている。かかる水素 が発生しないのであれば、本件製品を購入することはない。しかし、控訴人が本件製品について水温約37°C、pH8.2ないしpH7.0の各環境下で24時間後の水素発生量を測定したところ、pH7.0の環境下ではほとんど水素は発生しなかった(乙31、46)。本件製品を用いた商品を製造販売する控訴人としては、本件製品を摂取したペット又は人の 腸内で予定されている水素が発生するかは決定的に重要であり、想定し た水素が出ないことは、そのことのみをもって契約の重要な前提を欠くものである。本件補償条項1,2及び本件保証条項を含む甲1契約等の要素に錯誤があることに他ならない。 イ原判決は、甲1契約等の締結過程で腸内pH に関するやりとりがされておらず、本件契約の契約書においてもその点が明記されていないことを 強調するが、このような認定は素人で ことに他ならない。 イ原判決は、甲1契約等の締結過程で腸内pH に関するやりとりがされておらず、本件契約の契約書においてもその点が明記されていないことを 強調するが、このような認定は素人である控訴人に被控訴人KIT代表者又は大阪大学教授と同程度の科学的知識を要求するに等しく、不合理である。控訴人は、原審での訴訟係属中に、山形大学のA准教授からの指摘(乙15、16)によってようやくpH 設定に問題があることを把握するに至ったのであり、それまでは腸内pH 値の問題、すなわち本件の核 心部分について疑問を持つことすらできなかった。 (2) 被控訴人らの供給義務の債務不履行(供給品の契約不適合又は供給義務の履行不能)による甲1契約等の解除及び損害賠償請求権との相殺(当審における控訴人の新主張)についてア控訴人の主張 (ア) 解除被控訴人らは、甲1契約等、更には本件製品に関する個別の売買契約に基づく本旨履行として、控訴人に対し、上記(1)ア記載の水素量を発生させる本件製品を供給する義務があったのに、これを怠った。腸内pH に関する被控訴人らの主張によるなら、今後、甲1 契約等に適合し た本件製品が供給される可能性はなく、供給義務が履行不能になっている。このような状況において、経済的一体性を有する甲1契約等を存続させる意味は乏しい。 控訴人は、被控訴人らに対し、甲1契約等を解除する旨の意思表示をし、これは令和5年9月8日に被控訴人らに到達した(乙35)。 (イ) 相殺(予備的主張) 控訴人は、被控訴人らの上記債務不履行により、仕掛品在庫分合計●●●●●●●●●●●●●逸失利益(営業利益の損失)合計8767万1616円、残存する包装資材分2040万1801円、以上●●●●●●● 訴人は、被控訴人らの上記債務不履行により、仕掛品在庫分合計●●●●●●●●●●●●●逸失利益(営業利益の損失)合計8767万1616円、残存する包装資材分2040万1801円、以上●●●●●●●●●●●●●●の損害を被った。 控訴人は、被控訴人らに対し、上記損害に係る損害賠償請求権をもっ て、被控訴人ボスケシリコンの第1事件に係る請求債権、被控訴人KITの第2事件に係る対象債権(上記第2の1(2)ア)及び被控訴人ボスケシリコンの第2事件に係る対象債権(上記第2の1(2)イ)とその対当額において相殺するとの意思表示をし、これは令和5年9月8日に被控訴人らに到達した(乙35)。 イ被控訴人らの主張被控訴人らは、当事者間で合意された規格に基づき本件物質を供給しており、供給義務の履行をしている。被控訴人らの債務不履行に基づく解除及び相殺という控訴人の主張は理由がない。 第5 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被控訴人ボスケシリコンの控訴人に対する第1事件の請求は理由があり、控訴人の被控訴人らに対する第2事件の債務不存在確認請求はいずれも理由がないと判断する。 その理由は、後記2のとおり、当審における控訴人の補充的主張に対する判断を加え、後記3のとおり、当審における控訴人の新主張に対する判断を 加えるほかは、原判決の第4(11頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決15頁9行目の「同年」を「令和元年」に改め、18頁8行目の「動機の」を削る。 2 当審における控訴人の補充的主張に対する判断(1) 控訴人は、本件製品はペット又は人の腸内で持続的に水素を発生させる こと、具体的には24時間以内で本件製品1g 当たり飽和水素水22ℓ (ペット用)又は約15ℓ(人用 断(1) 控訴人は、本件製品はペット又は人の腸内で持続的に水素を発生させる こと、具体的には24時間以内で本件製品1g 当たり飽和水素水22ℓ (ペット用)又は約15ℓ(人用)に相当する水素を発生させることを前提に販売しており、このような水素が発生しないのであれば、本件製品を購入することはないところ、実際には本件製品はほとんど水素を発生しないものであったとして、甲1契約等について要素に錯誤があると主張する。 しかしながら、原判決(17頁~)でも指摘されているように、控訴人 が主張する本件物質や本件製品の効能や生体内での作用機序、水素発生量等は、甲1契約等における契約書上で何ら明記されておらず、本件において、当該効能や作用機序、水素発生量等が契約交渉過程において具体的に契約内容として合意されたことを認めるに足りる証拠はない。 本件製品の水素発生能に関する控訴人の上記主張は、控訴人が被控訴人 KIT代表者に対し、本件製品の販売のためのホームページ原案について確認を求めた際、当該原案には、ペット用につき24時間で水素水(1.6ppm)約22ℓ分、人用につき同約15ℓ分との記載があったにもかかわらず、被控訴人KIT代表者はこれらの部分について何ら修正意見を述べなかったといった程度のことを根拠とするものと解され、確かに、そのような経緯が あったことは、証拠(乙38、40~43)によって認められる。しかし、これらのやり取りはいずれも本件契約締結後にされたものにすぎない上、こうした宣伝広告文書は最終的には控訴人がその作成に責任を持つべきものであり、被控訴人KIT代表者が修正意見を出さなかったからといって、この一事をもって控訴人主張の上記水素発生量を保証することが契約の内容に なっていたと認めることはで 作成に責任を持つべきものであり、被控訴人KIT代表者が修正意見を出さなかったからといって、この一事をもって控訴人主張の上記水素発生量を保証することが契約の内容に なっていたと認めることはできない。 しかも、証拠●●●●●●●●によれば、●●●●●が作成した控訴人宛ての本件製品の●●●●●では、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●とされていることが認められる。これを飽和水素水の 量に換算すると(1ℓの飽和水素水に含まれる水素量は18mℓである〔甲1 9〕)、●●●における規格では、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であるにすぎず、控訴人の主張する水素発生量を大きく下回る水準となっているが、これについて控訴人が異議を述べるなどした形跡もない。 そうすると、本件製品の水素発生能につき控訴人が主張するような思い 違いがあったとしても、甲1契約等の意思表示の内容となっていないものであり、民法95条1項1号所定の「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」があったとはいえない。また、甲1契約の適用対象となる平成29年法律第44号による改正前の民法95条の解釈としても、錯誤無効の成立は認められない。 (2) ところで、控訴人は、自ら実験した結果(乙31、46)、pH7.0の環境下でほとんど水素が発生しなかった旨主張するが、被控訴人KIT代表者のB(大阪大学名誉教授)は、pH6.74~8.22の範囲における4種類のpH を持つ水溶液と本件製品が36°C で反応した場合、すべてのpHについて人用シリコン製剤1g 当たり1000mℓ以上の水素の発生が観測さ れたとの報告をしている(甲28)。両者の実験結果の相 を持つ水溶液と本件製品が36°C で反応した場合、すべてのpHについて人用シリコン製剤1g 当たり1000mℓ以上の水素の発生が観測さ れたとの報告をしている(甲28)。両者の実験結果の相違が生じた理由は判然としないが、少なくとも、甲28の実験の条件下においては、前記●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●を大きく上回る水素発生量が確認されたものと認められる。したがって、仮に、前記●●●●●記載の最小量が契約内容になっていたとして も、控訴人の錯誤を認めることはできない。 さらに、控訴人は、本件物質や本件製品の効能等が契約書上で明記されていないことで契約内容になっていないと認定することは、いわば素人である控訴人に対して高度の科学的知識を要求するに等しい旨主張するが、本件物質や本件製品の効能等を明確にすべく契約内容として規定すること自体に 高度の科学的知識が必要になるわけでもない。実際、控訴人代表者は、甲1 契約の締結に先立って、被控訴人ら側からシリコン製剤の提供を受け、犬猫に対する臨床試験を実施するなどしてその効能の検証作業を行っているところである(引用に係る原判決第4の1(1)イ参照)。控訴人の主張は採用することができない。 (3) 以上により、本件補償条項1に係る錯誤無効、本件補償条項2及び本件 保証条項に係る錯誤取消しをいう控訴人の主張は採用できない。 3 被控訴人らの債務不履行(供給品の契約不適合又は供給義務の履行不能)による甲1契約等の解除及び損害賠償請求権との相殺(当審における控訴人の新主張)について控訴人は、被控訴人らが契約に適合する本件製品の供給義務を怠った旨主張 するが、上記2記載のとおり、控訴人が主張する本件物質や本件製品の効 求権との相殺(当審における控訴人の新主張)について控訴人は、被控訴人らが契約に適合する本件製品の供給義務を怠った旨主張 するが、上記2記載のとおり、控訴人が主張する本件物質や本件製品の効能や生体内での作用機序、水素発生量が甲1契約等の内容になっていたということはできない。 よって、控訴人の解除及び相殺の主張は、被控訴人らが負うとする供給義務及び契約不適合の事実が認められないから、その前提を欠くものとして、いず れも採用できない。 第6 結論よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきであり、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官宮坂昌利 裁判官 岩井直幸 裁判官頼晋一

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