平成12(ワ)3828 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年12月25日 名古屋地方裁判所
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判決文本文39,842 文字)

主文 1被告は,原告に対し,1397万7507円及びこれに対する平成12年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2原告のその余の請求を棄却する。 3訴訟費用はこれを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求1被告は,原告に対し,2024万5364円及びこれに対する平成12年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2訴訟費用は被告の負担とする。 3仮執行宣言第2事案の概要本件は,原告が,運転中の原動機付自転車の転倒事故により右上腕骨骨折の傷害を負い,被告の開設するD病院(以下「被告病院」という。)において,上記骨折に対する治療として整復固定術及びリハビリテーションを受け,その後,京都府立医科大学附属病院(以下「府立医大病院」という。)に転医して,髄内釘固定術及びリハビリテーションを受けたものの,右肩関節の拘縮が十分改善せず,不可逆的な可動域の制約が残存したのは,被告病院の担当医師が骨折部位の回復の程度を厳重に経過観察するとともに,回復の程度に応じてリハビリを適切に実施すべき注意義務等を怠ったためであると主張して,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として,2024万5364円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年9月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1前提となる事実等当事者間に争いのない事実のほか,摘示した各証拠及び弁論の全趣旨によると,以下のとおり認めることができる。 (1)原告(昭和40年1月29日生)は,平成9年1月20日(以下,月日のみ記載するものは平成9年を意味する。)午後6時50分ころ,京都市a区b町c番地において原動機付自転車 り認めることができる。 (1)原告(昭和40年1月29日生)は,平成9年1月20日(以下,月日のみ記載するものは平成9年を意味する。)午後6時50分ころ,京都市a区b町c番地において原動機付自転車を運転中に転倒事故を起こし,被告病院に救急車で搬送された。被告病院では,右上腕骨近位端骨折(以下「本件骨折」といい,そのうち最も大きい骨折線を「本件骨折部位」という。)等と診断されたが,ベッドの空きがなかったため,翌日,被告病院の整形外科を外来受診し入院した。被告病院の整形外科のA医師が原告の主治医となった。 (甲1,3,15号証)(2)1月28日,本件骨折部位に対し整復固定術が施行された(以下,これを「本件整復固定術」という。)。本件整復固定術における内固定の術式は,骨折部を展開せず,三角筋の付着部から3本の2.4ミリのキルシュナー鋼線(以下「ピン」ともいう。)を挿入して骨折部を可及的整復位で固定する方法であり,術後は,外固定として,肘関節を90°に屈曲して肩関節を内旋位にし,体幹に上肢を固定するデゾー固定がされた。(乙1号証,証人A)2月5日,A医師は,原告に対し,リハビリテーションとして固定した位置で腕に力を入れ緩める上腕二頭筋及び上腕三頭筋の等尺性収縮訓練を開始するよう指示した。 3月4日,A医師は,原告の腕の外固定をデゾー固定から,首に回して手首をつり上げる形(カラーアンドカフ)に変更し,原告に対し,リハビリテーションとして腕を前後左右に振る自動の振り子運動を開始するよう指示した(以下,単に「リハビリ」という場合は,振り子運動などの可動域拡大訓練を指す。)。(乙1号証)(3)3月28日,A医師は,原告に対し,本件骨折部位に挿入したピンを抜く抜釘術を施行し,同月31日からリハビリとして右肩関節の自動及び他動運動を被告病院のリハビリ室で行 練を指す。)。(乙1号証)(3)3月28日,A医師は,原告に対し,本件骨折部位に挿入したピンを抜く抜釘術を施行し,同月31日からリハビリとして右肩関節の自動及び他動運動を被告病院のリハビリ室で行うことを指示した(乙1号証)。 (4)4月24日,原告は被告病院を退院し,以後も,被告病院に通院して右肩関節のリハビリを継続した。 5月30日,原告が被告病院の整形外科を外来受診し,レントゲン検査を受けたところ,本件骨折部位の転位が進んでいることが認められたため,A医師は原告に対し,骨癒合を得ることが困難であり,手術をする必要があることを説明した(甲3,15号証,乙2,22号証)。 (5)原告は,被告病院に不信感を抱いたため,6月2日,府立医大病院の整形外科を受診し,以後,同病院において,入通院治療を受けることとなった(甲3,9,15号証)。 6月11日,府立医大病院の整形外科を受診し,B医師の診察を受け,右上腕骨近位端骨折後遷延治癒骨折,右肩関節拘縮及び右肩関節周囲炎と診断された(甲9号証)。 原告は,7月16日に府立医大病院に入院し,同月24日,右上腕骨髄内釘横螺子固定骨接合術,骨移植術を受け(以下,これを「本件髄内釘固定術」という。),8月11日の退院後も,府立医大病院に通院してリハビリを継続し,平成10年8月19日に抜釘術を受け,その後もリハビリを継続していたが,平成11年4月27日,原告の右肩関節の可動域は,屈曲(前方挙上)115°,伸展(後方挙上)40°,外転(側方挙上)100°,内転0°,外旋45°,内旋は第11胸椎の高さでそれぞれ固定した(以下,上記の右肩関節可動域の制約を「本件後遺障害」という。)(甲6号証の2,甲9号証)。 (6)遷延治癒とは,骨の再生機転が低下している状態で,再生機転を促す適当な治療法を施すことにより骨癒合を得るも ,上記の右肩関節可動域の制約を「本件後遺障害」という。)(甲6号証の2,甲9号証)。 (6)遷延治癒とは,骨の再生機転が低下している状態で,再生機転を促す適当な治療法を施すことにより骨癒合を得るものをいう。一方,偽関節とは骨の再生機転の活力が全く消失している状態をいう。このため,偽関節では,閉鎖した骨髄腔の再開放,骨移植など骨癒合能を賦活する操作が必要となる。(乙4号証)2争点(1)原告に対する経過観察及びリハビリの実施における注意義務違反の有無(原告の主張)ア本件骨折は,骨折の部位及び程度,転位の程度,患者の年齢からすれば,特段の事情のない限り,後遺症を残すことなく回復可能な骨折であった。 A医師には,本件整復固定術が実施された1月28日以後,骨折部位の回復の程度を厳重に経過観察するとともに,回復の程度に応じて,抜釘の時期,リハビリの内容を選択すべき注意義務があったのに,これらを怠った。 イ抜釘前における注意義務違反(ア)ピンによる刺激痛を除去すべき注意義務違反本件整復固定術が実施された後,原告は,一貫してピンによる刺激痛を訴えていたのであり,ピンによる刺激痛のためにリハビリの開始が遅れ,リハビリ開始後も十分なリハビリが実施できなかったものである。 上腕骨近位端骨折は拘縮が生じやすい部位とされているから,できるだけ早期にリハビリを実施する必要がある。本件整復固定術後の2月8日以降,ピンによる刺激痛が存在したことは原告の訴えから明らかであり,自動の振り子運動が開始された3月4日には,疼痛が強くなり振り子運動がほとんどできない状態であったから,A医師は,ピンによる刺激痛によってリハビリの実施が困難になることを早期に予見できたものである。そうすると,本件において,A医師は,遅くとも自動の振り子運動を開始した3月4日にはピンによる刺激痛に A医師は,ピンによる刺激痛によってリハビリの実施が困難になることを早期に予見できたものである。そうすると,本件において,A医師は,遅くとも自動の振り子運動を開始した3月4日にはピンによる刺激痛に対して何らかの対策を採るべき注意義務があったというべきである。 しかし,A医師は,ピンによる刺激痛に対する問題意識が極めて乏しく,適切な経過観察を行っていなかったために,上記の注意義務を怠り,3月28日の抜釘以外に何らの処置も採らなかった。 (イ)リハビリを適切に実施すべき注意義務違反振り子運動はねじれの動きをもたらしやすいから,A医師には,原告に振り子運動を行わせる際に,腕をねじらないように指導するとともに,原告の訴えを聞きながら無理な力を加えずにリハビリを進めるべき注意義務があったのに,A医師がこれを怠ったため,不適切なリハビリが行われた。 (ウ)固定力低下及びリハビリの実施状況に対する経過観察義務違反ピンによる固定力が不十分な場合,仮骨形成が遅れるとともに適切なリハビリを実施する上での障害にもなる。本件において,A医師は,適切な経過観察を行って固定力が十分であるか否かを確認し,不十分な場合には,仮骨形成の遅れや不適切なリハビリが行われることを防ぐために再度の固定を行う等の措置を採るべきであった。しかし,A医師は,適切な経過観察を怠り,仮骨形成の遅れの原因がピンの固定力低下又は不適切なリハビリであることを認識しなかったため,これらに対し何らの措置も採らなかった。 ウ抜釘に関する注意義務違反本件のように,仮骨形成が不十分な状態で抜釘をすれば,骨折部位が転位したり偽関節化を招くおそれがあり,また,骨折部が不安定となるためリハビリを実施することが困難となり後遺障害を残す原因となるから,本件では,ピンによる刺激痛に対し何らかの措置を採るか,別途固定術 位したり偽関節化を招くおそれがあり,また,骨折部が不安定となるためリハビリを実施することが困難となり後遺障害を残す原因となるから,本件では,ピンによる刺激痛に対し何らかの措置を採るか,別途固定術を施すなどして固定を継続し,リハビリを実施しながら仮骨が形成されるまで抜釘を待つべきであった。 仮骨形成が不十分な症例においては,①ピン先端部を入れ直す等の刺激を軽減する措置を採ることが可能か否か,②拘縮に対する手術が存在するか否か,③仮骨形成が不十分なままリハビリを実施して骨癒合を犠牲にした場合のリスクなど,拘縮が生じることと骨癒合が遅れることとのリスクを考量して抜釘をするか否かを判断することが必要となる。しかし,A医師は,仮骨形成が不十分な状態であることを認識していたにもかかわらず,上記の諸要素に関する検討を行わないまま安易に抜釘を選択した。 エ抜釘後における注意義務違反(ア)リハビリの実施及び経過観察における注意義務違反固定が行われていない場合のリハビリの方法は,骨癒合の有無によって異なるが,専門家が当該患者に見合った方法をきめ細かく決めた上で実施されなければならない。 仮骨形成が不十分な状態でリハビリを行った場合,癒合の遷延,変位,転位が生じやすくなり,また,関節が動かずに骨折部位が動いてしまう可能性もあるから,リハビリを実施するに当たっては,患部の腫脹,熱感の有無等を確認し,定期的にレントゲン検査を行って経過を観察し,場合によっては,髄内釘固定術等の実施も考慮すべきである。そして,患者が患部の疼痛を訴えた場合には,担当医師はその訴えに対し真摯に対応する必要がある。 本件において,A医師は,仮骨形成が不十分なまま抜釘をしたのであるから,このままリハビリを実施すれば,本件骨折部位に力が作用して同部位が動く可能性のあることなどを予見することが 応する必要がある。 本件において,A医師は,仮骨形成が不十分なまま抜釘をしたのであるから,このままリハビリを実施すれば,本件骨折部位に力が作用して同部位が動く可能性のあることなどを予見することができた。したがって,A医師には,原告に対してリハビリを実施する際に,仮骨形成が不十分であることを前提にして,適切な方法の選択及び経過観察を行ってきめ細かな指導をする注意義務があった。しかし,A医師は,上記の注意義務を怠り,専門の教育を受けたことのないリハビリ担当者に,原告の状況を伝えないまま,漫然と定型化した内容でリハビリを実施させた。 また,転位を起こして偽関節が生じたとの本件の経過からすれば,抜釘後のリハビリにおいて本件骨折部位に異常な動きが加わったものと考えざるを得ないから,原告が抜釘後のリハビリの際に訴えていた激しい疼痛は,リハビリによる異常な可動性による疼痛であったと考えられるが,A医師は,原告の訴える疼痛を痛みに対する閾値が低いことによるものと考え,その原因を究明するなどの対応を採らなかった。 (イ)4月17日に固定術を実施すべき注意義務違反レントゲン検査の結果からすれば,本件骨折部位のゆがみが時間の経過とともに拡大し,4月17日時点では,偽関節化の可能性が極めて高くなっているものと考えられる。A医師は,上記の時点でリハビリが適切に行われていないことを認識し,偽関節を防止するために髄内釘等による固定術を実施すべきであったのに,漫然とリハビリを実施するだけで,髄内釘等による固定術を実施しなかった。 (被告の主張)ア本件骨折は,骨折線が上腕骨外科頚よりやや遠位の骨軸に対し横に走るもので,転位がみられ,その近位が縦割れして数個に分解している粉砕型の骨折であり,本件骨折部位は,解剖学的には骨幹部であるために元来骨幹端部よりも血流が乏しく,もと 頚よりやや遠位の骨軸に対し横に走るもので,転位がみられ,その近位が縦割れして数個に分解している粉砕型の骨折であり,本件骨折部位は,解剖学的には骨幹部であるために元来骨幹端部よりも血流が乏しく,もともと骨癒合がしにくい骨折であった。また,上記の骨折の状態からすると,原告の受けた外力は相当に大きなものであったと推測され,もともと可動域制限の生じる可能性があった。 本件骨折に対する治療については,適時に適切な経過観察,治療及びリハビリの指示が行われていたものであり,A医師に原告の主張する注意義務違反はない。 イ抜釘前における注意義務違反について本件では,3月4日から,肩関節の拘縮を防止するために,自動の振り子運動を開始したが,その際,A医師は,骨折部に負担のかからない方法で回旋の動作を加えないように腕を前後左右に振る運動を始めるように指示している。A医師は,2月3日,6日,12日,19日,24日,3月3日,11日,17日,28日とレントゲン検査を行って骨癒合の状態,転位の有無等を確認しており,十分な経過観察を行っていた。 肩関節のように,関節可動域が大きな関節では,骨癒合の進行を阻害しないような方法によって可動域の拡大訓練を早期から行うことが重要であるところ,原告が自動の振り子運動をするとピン突出部に疼痛があると訴えたため,リハビリが進まなかった。なお,ピンの入れ直し等の措置は,患者に負担をかけ,容易にはできないものであるから,これらの措置を採るべき注意義務までA医師が負うものではない。 ピンが刺入された状態で骨折部に異常可動性が生じた場合,ピンの周囲に骨透亮像が生じるところ,本件では,3月3日のレントゲン写真や抜釘時点のレントゲン写真においても上記の像は認められないから,抜釘前に骨癒合を阻害するほど骨折部が動いていたとは考えられない。 ウ抜釘 骨透亮像が生じるところ,本件では,3月3日のレントゲン写真や抜釘時点のレントゲン写真においても上記の像は認められないから,抜釘前に骨癒合を阻害するほど骨折部が動いていたとは考えられない。 ウ抜釘に関する注意義務違反についてA医師は,リハビリを円滑に進めて肩関節の拘縮を防止するために,3月28日に抜釘したものであるが,固定後2か月程度経過した上記の時点においては,明らかな仮骨が認められないとしても,原告の年齢,骨折部位及び状況からすれば,ある程度は骨癒合が進行しているものと推測し得るものであり,また,本件骨折はもともと保存的にも骨癒合させ得る骨折であり,加えて,時間の経過とともにピン自体が緩んでくるために,これによる固定を継続させる意味があまりなかった。したがって,骨癒合を期待しつつ,ピンによる刺激痛を除去してより積極的にリハビリを行うために抜釘をしたA医師の判断に誤りはない。 3月28日の抜釘時には,仮骨形成が不十分な状態が偽関節化であるのか遷延治癒骨折であるのか判断できなかったものであり,抜釘してもその後に骨癒合されればよく(遷延治癒),仮に偽関節が生じた場合には骨移植等が必要となるが,関節が一旦拘縮した場合にはこれをもとに戻すことは極めて困難であるから,この時点での抜釘は,拘縮を避けるために必要な措置である。 エ抜釘後における注意義務違反について肩関節のリハビリの方法は,その可動域の程度によってほぼ決まっているのであって,担当医師が毎回リハビリに立ち合うことはない。本件では,抜釘後のリハビリの際に,リハビリ担当者が原告について問題があると感じたことはなく,リハビリに伴う疼痛についても,他の患者と同程度の痛みを訴えていたものである。 また,A医師は,3月28日,4月7日及び同月17日にレントゲン検査を行って,適時に経過観察を行ってい 感じたことはなく,リハビリに伴う疼痛についても,他の患者と同程度の痛みを訴えていたものである。 また,A医師は,3月28日,4月7日及び同月17日にレントゲン検査を行って,適時に経過観察を行っていたものである。 (2)因果関係(原告の主張)A医師が,抜釘前にピンによる刺激痛を除去する処置を採った上で,適切なリハビリを実施して肩関節の拘縮を回避しつつ,仮骨形成が得られるまで固定を継続し,又は,仮骨形成が不十分なまま抜釘した場合においても原告の骨癒合の進行に応じたリハビリを実施していれば,骨癒合の遅れ及び肩関節の拘縮のいずれをも回避することができた。また,4月17日に骨癒合を得るために,髄内釘などの固定術を選択していれば,上記の障害を回避することができた。 しかし,A医師の抜釘前における前記注意義務違反により,原告は十分なリハビリを受けることができずに肩関節の拘縮が始まり,また,ピンによる固定力が不十分な状態で,必要とされる指導のないままリハビリが実施されたことによって本件骨折部位が動き,仮骨形成が遅れたものである。そして,抜釘時における前記注意義務違反により,仮骨形成が不十分な状態で固定がないままリハビリを実施することになり,更に,抜釘後における前記注意義務違反によって,拘縮が亢進するとともに,骨折部位の転位が生じて偽関節化し,治療が長期化した結果,原告の右肩関節に不可逆的な可動域の制約が生じ,本件後遺障害が残存したものである。 (被告の主張)本件では,受傷後2か月以上経過した抜釘時点においても,明らかな仮骨形成が認められない状況であったが,抜釘前のリハビリによって本件骨折部位に過大な外力が加わって骨癒合が阻害された形跡は認められないから,A医師の治療行為が骨癒合の遷延した原因ではない。本件骨折部位が偽関節の好発部位であったこと,粉砕型 釘前のリハビリによって本件骨折部位に過大な外力が加わって骨癒合が阻害された形跡は認められないから,A医師の治療行為が骨癒合の遷延した原因ではない。本件骨折部位が偽関節の好発部位であったこと,粉砕型の骨折であったこと,受傷時に受けた外力が相当大きく,そのため,骨片間に軟部組織が介在した可能性があること等の事情から偽関節が生じたものと考えられるのであり,また,原告が嗜好していた喫煙も骨癒合を遷延させる原因となり得る。なお,明らかな原因が指摘できない場合でも,骨癒合が遷延して偽関節が生じることもある。 骨折を生じたこと自体若しくは内固定材料の影響等によって骨折後に可動域全域にわたって関節を動かすことができない場合,又は患者の疼痛に対する閾値が低い場合などには,適切に治療が行われても関節の拘縮が生じることは珍しくない。本件においても,原告は疼痛を強く訴えており,閾値が低かったと考えられるから,骨癒合の遷延とあいまって肩関節の拘縮が生じたものと解されるのであり,A医師の治療行為が拘縮の原因ではない。 仮に,抜釘後の対応に関し注意義務違反があったとしても,抜釘時点では既に肩関節の拘縮が生じていたから,上記の注意義務違反と本件後遺障害の間に因果関係は認められない。そして,抜釘時点ではいまだ偽関節と診断することはできないから,髄内釘等の強固な固定術を実施することはできず,また,仮骨形成が不十分な状態で強度のリハビリを実施することも困難であるから,抜釘後にリハビリが適切に行われていたとしても,肩関節の拘縮が飛躍的に改善されたとは考え難い。さらに,抜釘時点で既に仮骨形成が不良であったことからすれば,その後に適切なリハビリが行われていたとしても骨癒合が進んだかどうか不明であり,結局,骨癒合が得られずに再手術が必要となった可能性が高く,その場合は本件と同様の経 形成が不良であったことからすれば,その後に適切なリハビリが行われていたとしても骨癒合が進んだかどうか不明であり,結局,骨癒合が得られずに再手術が必要となった可能性が高く,その場合は本件と同様の経過をたどったものと考えられる。したがって,抜釘後のリハビリに関する注意義務違反と原告の後遺障害との間に因果関係は認められない。 (3)損害(原告の主張)被告の前記注意義務違反により,原告は次のとおり合計2024万5364円の損害を被った。 ア逸失利益1164万8920円原告の右肩関節には障害等級12級6号に相当する後遺障害が残存したから,労働喪失能力喪失率14パーセント,本件当時から67歳までの就労可能年数に相当する新ホフマン係数20.275,本件当時の原告の年収410万3900円により逸失利益を計算すると,410万3900円×0.14×20.275=1164万8920円となる。 イ後遺障害慰謝料300万円原告の後遺障害に対する慰謝料としては300万円が相当である。 ウ入通院慰謝料300万円1月21日から4月24日までの94日間の被告病院での入院,6月2日から平成10年9月30日までの間の府立医大病院への入通院(通院実日数189日。入院日数27日)及び同年7月24日から平成11年4月30日までの間における済生会吹田病院での19日間の入院等に対する慰謝料としては300万円が相当である。 エ入院雑費21万円入院雑費としては1日1500円が相当であり,被告病院及び府立医大病院の入院日数の合計は140日であるから,入院雑費相当額の損害は,1500円×140日=21万円となる。 オ休業損害634万3040円原告は,1月21日から平成11年1月10日までの704日間休業した。原告の1日当たりの平均賃金は9010円であるから,休業損害は,9010円 40日=21万円となる。 オ休業損害634万3040円原告は,1月21日から平成11年1月10日までの704日間休業した。原告の1日当たりの平均賃金は9010円であるから,休業損害は,9010円×704日=634万3040円となる。 カ弁護士費用300万円キ損益相殺原告は,労働者災害補償保険より,休業給付として505万2608円,障害給付(後遺症12級6号)として190万3988円の合計695万6596円の給付を受けた。 (被告の主張)原告の前記主張のうちキについては認めるが,その余は不知。 第3争点に対する判断1前記前提となる事実,甲1ないし3号証,甲6号証の2,甲9,15号証,乙1,2,9ないし22,証人Aの証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると以下のとおり認めることができる。 (1)原告は,1月20日,運転中の原動機付自転車の転倒事故を起こし,同月21日,被告病院の整形外科を外来受診してA医師の診察を受け,右上腕骨近位端骨折(本件骨折),右眼打撲,左膝打撲及び挫創と診断され,同日入院した。 A医師は,本件骨折に対する治療として,できる限り侵襲が少なく可及的に固定できるという利点から,キルシュナー鋼線による固定術を採ることとし,1月25日,原告及びその母親に,整復固定術の術式,目的,術後の治療法及び合併症等について説明を行い,原告らから承諾を得た。 (2)1月28日,A医師が術者となって,原告に対し,本件整復固定術が施行された。本件骨折部位には転位が生じていたため,A医師は,まず,転位がない位置に骨片を整復した後,本件骨折部位を整復位に固定するため,3本のピンを挿入した。1本目のピンは,三角筋付着部近傍から強斜位で上腕骨頭を狙い刺入したものの,ピンの先端が内方へ向かい,挿入が困難であったため,ピンの先端を曲げ,近位骨片 を整復位に固定するため,3本のピンを挿入した。1本目のピンは,三角筋付着部近傍から強斜位で上腕骨頭を狙い刺入したものの,ピンの先端が内方へ向かい,挿入が困難であったため,ピンの先端を曲げ,近位骨片に対して皮質の外から内部へ挿入した。2本目のピンは,上記とほぼ同じ部位から先端にフックをつけて近位骨片の前方へと挿入し,3本目のピンは前内方から神経及び血管束を避けて上腕骨頭の後側方へ刺入したが,刺入点が近位に寄りすぎ,固定性が極めて不良であったため,さらに遠位から刺入して固定し直した。X線撮影により固定状態を確認した後,デゾー固定による外固定を行った。 翌1月29日,A医師は,原告及びその母親に対し,術後のレントゲン写真を示しながら本件整復固定術の結果について説明するとともに,今後の治療計画として,3ないし4週間のデゾー固定の後,自動運動のリハビリを開始する旨を説明した。 (3)2月3日のレントゲン検査の結果,本件骨折部位に引き離れ(透き間)が認められた。 同日,A医師は,原告に対し,上腕二頭筋及び上腕三頭筋の等尺性収縮訓練を開始するよう指示した。 2月8日,創部の直下にピンの突出がみられ,原告は「ピリピリ痛いんです。」とピンによる刺激痛が自制できない旨を訴え,ロキソニン(解熱,鎮痛作用を併せ持つ抗炎症薬)1錠を服用した。 2月9日,原告はピンによる刺激痛について「腕を変な動かし方をすると痛みが増すんです。今も痛いので薬下さい。」旨訴え,ロキソニン1錠を服用したが,同日夜にも原告はピンによる刺激痛を訴えていた。 2月10日,原告は,A医師の回診の際にピンによる刺激痛があることを訴え,同月11日にもピンによる刺激痛を訴えていたが,包帯を締め直したところ上記刺激痛が軽減した。その後,原告は,しばしばピンによる刺激痛又は右肩から右上腕にかけての疼痛を訴 よる刺激痛があることを訴え,同月11日にもピンによる刺激痛を訴えていたが,包帯を締め直したところ上記刺激痛が軽減した。その後,原告は,しばしばピンによる刺激痛又は右肩から右上腕にかけての疼痛を訴え,デゾー包帯等の巻き直しを頻繁に施行されていたが,回診の医師や看護師に対して「ちゃんと固定されていれば痛くないです。」などとデゾー包帯等の巻き直し後には疼痛が軽減する旨述べていた。 2月12日のレントゲン検査の結果,本件骨折部位に仮骨形成は認められず,また,同月19日及び同月24日の各レントゲン検査の結果でも仮骨は乏しいままであったが,本件骨折部位の更なる転位は認められなかった。 (4)3月3日のレントゲン検査の結果,仮骨形成は明確には確認されなかったが,A医師は,デゾー固定の期間が長くなると拘縮のおそれがあると考えて,3月4日,外固定をデゾー固定からカラーアンドカフに変更して,原告に対し,自動の振り子運動の開始を指示した。同日午後,原告に対し,振り子運動の説明をしたものの,疼痛が増強してほとんど振り子運動を行うことができなかった。 しかし,3月5日ころから,原告は,ピンによる刺激痛又は右肩から右上腕にかけての疼痛を訴えながらも,徐々に回数を増やしつつ振り子運動を行うことができるようになり,その後も,ピンによる刺激痛又は右肩から右上腕にかけての疼痛を訴えながら振り子運動を行い,同月16日には「前と比べるとだいぶ動くようになってきました。」などと看護師に話していた。しかし,3月19日,原告は,右肩周囲の疼痛のために振り子運動ができない旨訴え,その後も振り子運動時のピンによる刺激痛及び右肩から右上腕にかけての疼痛を訴え,振り子運動をほとんど行うことができなかった。 (5)3月28日,局所麻酔下に抜釘が行われた。 3月31日,A医師は,原告を回診し,創部 運動時のピンによる刺激痛及び右肩から右上腕にかけての疼痛を訴え,振り子運動をほとんど行うことができなかった。 (5)3月28日,局所麻酔下に抜釘が行われた。 3月31日,A医師は,原告を回診し,創部に特に問題がなかったため,リハビリ室でのリハビリの開始を指示した。同日,原告は,リハビリ室で可動域テスト及び筋力テストを受け,リハビリを開始した。同日の右肩関節の可動域は,屈曲20°,伸展25°,外転15°であった。 翌4月1日午後7時30分ころ,原告は,ロキソニンを服用しても疼痛が自制できない旨訴え,坐薬の投与を受けたが,同日午後11時30分ころ,疼痛が再び自制できなくなったため,メナミン(解熱,鎮痛作用を併せもつ抗炎症薬)1アンプルが投与された。翌4月2日,午前10時ころ,原告は,ロキソニン2錠を服用したものの,右肩の疼痛が軽減せず,回診の医師に対し,リハビリを再開してから肩の疼痛が増悪した旨を訴えた。ボルタレン坐薬(消炎,鎮痛坐薬)の投与を受けた後,疼痛が軽減したが,医師と相談して同日のリハビリは休むこととした。しかし,同日午後10時ころ,再び疼痛が自制できなくなったため,メナミン1アンプルの投与を受けた。その後,頭痛,発熱等の症状が併発したこともあり,原告は4月6日までリハビリを休み,同月7日から再開した。 4月8日,A医師が原告を回診した際,本件骨折部位の異常可動性は明らかには認められず,また,同月7日のレントゲン検査の結果からも転位は大きくは認められないと判断した。 4月10日,原告は看護師に「リハビリは今日は痛かった。」などと話していたが,疼痛は自制できる範囲であった。 4月11日,原告が右上腕痛が自制できない旨訴えたので,ボルタレン坐薬が投与され,その後,疼痛は軽減してリハビリ後の疼痛の増悪もなかったが,夜間に疼痛が増強してきたた 痛は自制できる範囲であった。 4月11日,原告が右上腕痛が自制できない旨訴えたので,ボルタレン坐薬が投与され,その後,疼痛は軽減してリハビリ後の疼痛の増悪もなかったが,夜間に疼痛が増強してきたため,再度ボルタレン坐薬が投与された。 4月12日,A医師が原告を回診し,肩の可動域を測定したところ屈曲が他動的に20°と,運動性が不良であったため,温熱療法としてホットパックを追加することとした。その後,右肩の疼痛が増加し,原告の希望によりボルタレン坐薬が投与されたが,2時間も経たないうちに原告は再び右肩の疼痛が自制できない旨訴え,ロキソニン1錠を内服した。 4月14日以降,リハビリ室でリハビリを行う前に温熱療法としてホットパックが施行されるようになり,その後,リハビリが楽に行えるようになったため,原告は,病室で振り子運動を300回行うなど意欲的にリハビリを行っていた。 4月17日,右肩の可動域を確認したところは,他動的に屈曲が80°,外転が40°であり,同月19日には,仰臥位で他動的に屈曲が100°まで動くようになった。 4月21日,原告は骨折部の疼痛が増悪している旨訴えて朝及び昼に鎮痛剤を服用していたが,リハビリ室及び自室でのリハビリは継続しており,同月23日,原告はリハビリ担当者から,自室で振り子運動を行う際に300回連続せず分けてするように言われたため,100回ずつ3度実施したところ,リハビリ後の疼痛が軽減した。 (6)4月24日,原告は被告病院を退院した。退院時に原告は,A医師から退院後の治療については,外来でのリハビリを継続し,自宅でも同様のリハビリを実施するよう指示されるとともに,積極的にリハビリを施行し,5キログラム以上のものを右手で扱うことは控えるよう指導された。 4月28日以後,原告は,被告病院の外来でのリハビリとして,右肩のホット リを実施するよう指示されるとともに,積極的にリハビリを施行し,5キログラム以上のものを右手で扱うことは控えるよう指導された。 4月28日以後,原告は,被告病院の外来でのリハビリとして,右肩のホットパック並びに右肩可動域訓練及びプーリー訓練(滑車運動)を実施していた。 5月16日,原告は被告病院の整形外科を受診し,A医師の診察を受けた。右肩関節の可動域は拡大しているものの,レントゲン検査の結果から本件骨折部の転位が進んでいることが認められたため,A医師は,本件骨折部位が偽関節に至る可能性が高く,いずれ再手術をする必要があると判断し,その旨を原告に説明した。同月30日,原告は被告病院の整形外科を再度受診し,レントゲン検査を受けたところ,本件骨折部の転位が更に進んでいることが認められ,他方,右肩関節の可動域に変化はなかったため,A医師は,このままでは骨癒合を得ることが困難であり,手術をする必要があると判断し,その旨を原告に説明した。 (7)原告は,被告病院での入院期間中や退院後のリハビリ通院期間中に,A医師らから偽関節の可能性について説明が全くなかったことなどから被告病院に不信感を抱き,6月2日,府立医大病院の整形外科を受診し,B医師の診察を受けたところ,B医師に被告病院からレントゲン写真を借りてくるよう指示されたため,原告は,被告病院から借り出したレントゲン写真及びA医師作成の医療機関用診療情報提供書を持参して,同月11日,再度,B医師の診察を受けた。B医師は,上腕骨骨頭の骨萎縮並びに本件骨折部位の転位及び変位を認めたことから偽関節と判断したが,受傷後の期間を考慮して診断名としては,右上腕骨近位端骨折後遷延治癒骨折とした。B医師は,府立医大病院のリハビリテーション部(以下「リハビリ部」という。)に対し,診断名,経過要約,診療科治療計画,リハ 後の期間を考慮して診断名としては,右上腕骨近位端骨折後遷延治癒骨折とした。B医師は,府立医大病院のリハビリテーション部(以下「リハビリ部」という。)に対し,診断名,経過要約,診療科治療計画,リハビリの目標,注意・禁忌事項等を記載したリハビリテーション依頼書を渡して,原告の肩関節可動域改善のためのリハビリを依頼し,翌12日からリハビリ部において上記のリハビリが開始された。 7月2日,原告は府立医大病院の整形外科を受診し,B医師の診察を受けた。右肩関節の可動域は,屈曲105°,伸展25°,外転100°,外旋20°,内旋は第4腰椎の高さまでであった。 7月16日,原告は府立医大病院に入院した。同月17日,B医師は,原告及びその妹に対し,レントゲン写真を示しながら,同日までの経過として,本件骨折部位の転位は6月以降進んでいないこと,肩関節の可動域は拡大していること,偽関節と診断した理由などを説明するとともに,手術の術式について,髄内釘を挿入してボルトでしっかり留める方法である旨を説明した。そして,同日から,リハビリ部で術前のリハビリを開始するよう指示した。 (8)7月24日,原告に対し,本件髄内釘固定術が施行され,同日,B医師らは,リハビリ部に対し,「7月28日からstoopingエクササイズを開始。8月4日から疼痛が出現するところまでの持続他動運動及び内外旋運動を開始し,可能であれば肩を動かさずに三角筋訓練を行う。」などと記載したリハビリテーション依頼書を作成し,上記のリハビリを依頼した。本件髄内釘固定術後,原告は右肩の疼痛を訴えていたが,7月29日ころから上記疼痛が軽減し,8月1日ころにはほとんど認められなくなった。 7月28日から,右肩関節のリハビリが開始されたが,8月6日には,リハビリ部から整形外科に対して内外旋運動を開始するか否かについ ろから上記疼痛が軽減し,8月1日ころにはほとんど認められなくなった。 7月28日から,右肩関節のリハビリが開始されたが,8月6日には,リハビリ部から整形外科に対して内外旋運動を開始するか否かについて問い合わせがあったため,同科からは,B医師に相談した上で,内外旋運動は行わずに他動的な屈曲伸展運動のみ行う旨の回答がされた。 8月8日,退院オリエンテーションが原告に対して行われ,看護師から,退院後の生活に関し,車の運転は禁止であること,安静度は必ず守ることなどの説明が行われた。 (9)8月11日,原告は,府立医大病院を退院し,その後,同病院に通院してリハビリを継続した。 8月20日,原告は府立医大病院の整形外科を受診し,B医師の診察を受けた。レントゲン検査を行ったところ本件骨折部位に仮骨が認められ,肩関節の可動域は,介助して屈曲が90°であった。B医師は,以後のリハビリとして介助の屈曲運動及び自動の内外旋運動を開始することとし,リハビリ部に対し,仮骨形成が認められたことを伝えるとともに,上記のリハビリを開始するよう依頼した。 原告は,その後も月に1ないし4回,府立医大病院の整形外科を受診し,平成10年7月ころには右肩関節の可動域及び筋力のいずれも自覚的にも相当改善した状態になっていたため,同年8月17日,B医師の転勤先である大阪府済生会吹田病院(以下「吹田病院」という。)に入院し,同月19日,同病院において抜釘術を受け,平成10年9月4日,同病院を退院した。同月16日,原告は府立医大病院の整形外科を最終受診し,以後は,吹田病院に通院してリハビリを継続していたが,平成11年4月27日,右肩関節の可動域が制約された状態で症状が固定したものと診断され,本件後遺障害が残存した。 2争点(1)(経過観察及びリハビリの実施における注意義務違反の有無)につい ていたが,平成11年4月27日,右肩関節の可動域が制約された状態で症状が固定したものと診断され,本件後遺障害が残存した。 2争点(1)(経過観察及びリハビリの実施における注意義務違反の有無)について(1)本件骨折について被告は,本件骨折は粉砕型の骨折であり,本件骨折部位は解剖学的には上腕骨骨幹部である旨主張し,A医師も上記主張に沿う旨述べている(乙22,23号証,証人A)。 しかし,被告病院のカルテには,原告の傷病名について一貫して「上腕骨近位端骨折」と記載されており(乙1号証),甲9,14号証によれば,原告が府立医大病院に転医した際に,B医師は,本件骨折が,上腕骨近位端骨折のNeer分類のうち,外科頚部の2-part骨折に当たると判断したものと認められ,この点についてB医師は,「本件骨折部位は,組織的には外科頚を中心とした骨幹端部に属し,大結節部が縦割れしているために,通常の外科頚骨折と比べると外側の一部が骨幹部に近い位置に存在しているが,外科頚骨折と異なる範疇に入るものとは評価できない。大結節部の転位が非常に少ないことから,本件骨折は大まかにいえば2つに分かれた骨折であり,粉砕骨折とは評価できない。」旨述べている(証人B)。また,東京海上メディカルサービス株式会社医療部長のE作成の意見書(以下「本件意見書」という。乙27号証)においても,本件骨折は上腕骨外科頚骨折と評価されている。以上の各事情に受傷時のレントゲン写真(乙9,10号証)を併せ考慮すれば,本件骨折を粉砕型の骨折と認めることはできないし,また,本件骨折部位が上腕骨骨幹部であると評価することはできず,本件骨折部位を含めて本件骨折は,上腕骨近位端骨折で外科頚部の2-part骨折と評価するのが相当である。 (2)上腕骨近位端骨折の治療における一般的な注意義務ア骨折の治療法及び合 価することはできず,本件骨折部位を含めて本件骨折は,上腕骨近位端骨折で外科頚部の2-part骨折と評価するのが相当である。 (2)上腕骨近位端骨折の治療における一般的な注意義務ア骨折の治療法及び合併症乙3号証及び弁論の全趣旨によれば,骨折は,骨の損傷のみでなく,関節及びこれに属する腱,腱鞘,筋間組織,神経,血管及び皮膚等に原因を有する機能障害をも招来するから,これらの機能障害を残さず,標準的な期間内に良好な形態で骨を癒合させることを目標として治療しなければならないものであるところ,そのための治療の3原則は,整復,固定及びリハビリテーションであり,具体的には,骨折部の骨癒合を促進するために可能な限り転位がない位置(整復位)に骨片を持ち来して整復し,骨癒合が得られるまでその骨片を整復位に固定するとともに,機能障害を迅速に回復させ,又は機能障害を最小限度にとめるためにリハビリテーションを行うべきものであることが認められる。 骨折の合併症としては,関節拘縮,偽関節などがあり(甲10号証,乙3ないし5号証,乙25号証),また,「肩のリハビリテーション」(1999年。甲10号証)に「肩関節の拘縮が上腕骨頚部骨折の主な合併症である。」旨の指摘があることからすれば,本件骨折のような上腕骨近位端骨折の治療においては,特に肩関節の拘縮に注意するとともに,偽関節等の他の合併症の発生にも注意して治療を行う必要があるものと解される。 イ拘縮の防止又は改善のためのリハビリについて(ア)リハビリの開始時期「肩のリハビリテーション」(甲10号証)には,「肩関節は拘縮の起こりやすい関節であるから,できる限り早期からの運動が必要である。」旨の指摘があり,「神中整形外科学」(1985年。乙3号証)には「大抵の骨折後には多少とも関節可動性の制限がみられ,軽度のものは後療法に すい関節であるから,できる限り早期からの運動が必要である。」旨の指摘があり,「神中整形外科学」(1985年。乙3号証)には「大抵の骨折後には多少とも関節可動性の制限がみられ,軽度のものは後療法によって完全に治癒するが,強度のものは非回復性の機能障害を残す。」旨指摘されており,また,「整形外科」(1998年。乙25号証)には「骨癒合が完了した後に機能回復に着手したのでは成績は劣る。骨癒合の進行と並行してリハビリテーションを進めるのが肝要である。」旨の記載もあることなどによれば,肩関節の拘縮を改善又は防止するためには,できる限り早期からリハビリを開始する必要があるものと認められる。 (イ)リハビリの実施方法「肩-その機能と臨床」(2001年。甲11号証)は,「肩は多くの関節の複合体で球関節を中心としているため,可動範囲が広く,その理学療法も複雑で容易ではない。具体的にはそれぞれの症状に応じた処方が必要で,臨床医と理学療法士,看護師などの綿密な連携医療を必要とする。」旨指摘するとともに,運動療法を実施する際の原則として,運動中は安定した肢位をとらせ支点を要する部位は確実に固定すること,疼痛のある場合は物理療法を優先させ,ゆっくり訓練に移っていくこと等を挙げている。また,「肩のリハビリテーション」(甲10号証)には,リハビリを実施する際には疼痛に対しては常に注意を払わなければならない旨の指摘があり,B医師は「リハビリの実施方法は骨折部位や骨癒合の状況等により異なるから,個々の患者ごとにリハビリの実施方法をきめ細かく検討した上で実施する必要がある。」旨述べている(証人B)。以上によれば,肩関節の拘縮の防止又は改善のためにリハビリを実施する場合においては,患者の状況に応じた方法を検討した上で,医師,理学療法士及び看護師等が連携してこれを行うとと 述べている(証人B)。以上によれば,肩関節の拘縮の防止又は改善のためにリハビリを実施する場合においては,患者の状況に応じた方法を検討した上で,医師,理学療法士及び看護師等が連携してこれを行うとともに,疼痛等の患者の訴えに注意して慎重に経過観察を行う必要があるものと解される。 なお,骨折の場合における肩関節のリハビリの手順はほぼ決まっており,実施するリハビリの程度も可動域からおおむね分かる旨の証人Aの証言は,上記の文献の指摘及びB医師の意見と整合せず,採用し難いといわざるを得ない。 ウ偽関節の発生の防止について偽関節の発生原因について,「神中整形外科学」(乙3号証)は,過半数が局所的要因によるもので,その多くが整復及び固定法の不備,不適当な手術法など治療法が当を得なかったものといい得る旨指摘しており,「整形外科」(1998年。乙4号証)では,不適当な外固定の範囲及び期間,内固定力の不足などが発生原因として挙げられている。また,証人Bの証言によれば,ピンによる固定等の内固定力が低下した場合,骨折部位に異常な動きが加わって骨癒合が遅れるものと解される。以上によれば,固定の方法及び程度が不適切であることが偽関節の主たる発生原因の1つであると解されるから,偽関節の発生を防止するためには,適切な固定方法を選択し,十分な固定力を維持させる必要があるというべきである。 そして,証人Bの証言によれば,固定力が低下した場合にそのままリハビリを継続できるか否かは仮骨形成の状況によって異なり,仮骨形成が不良な場合はより慎重にリハビリを行うなどの対応が必要となるものと認められるから,偽関節の発生を防止するためだけでなく,適切にリハビリを実施するためにも,固定力の低下が確認された場合には,仮骨形成の状況等に応じた適切な処置を採ることが必要になるものと解される。 な められるから,偽関節の発生を防止するためだけでなく,適切にリハビリを実施するためにも,固定力の低下が確認された場合には,仮骨形成の状況等に応じた適切な処置を採ることが必要になるものと解される。 なお,A医師は,固定力の程度はリハビリの実施方法に影響を与えず,また,骨折部位の固定が不十分であるために仮骨が形成されないことはなく,骨折部に異常な動きが加わることと固定力とは無関係である旨述べている(証人A)が,同医師は,固定を強化する利点は骨折部が安定化されることであり,骨折部が安定化すれば,近隣関節の運動を早期に開始し,かつ円滑に行うことができるなどとも述べているのであって,固定力の程度がリハビリの実施方法や仮骨形成に影響を与えることはない旨のA医師の上記証言を直ちに採用することはできない。 (3)本件におけるピンによる固定に対する処置についてア3月28日の抜釘の前の状況(ア)前示のとおり,原告は,1月28日に本件整復固定術を受けたが,2月8日以降,ピンによる刺激痛を訴えるようになり,3月4日にはデゾー固定からカラーアンドカフに変更されて自動の振り子運動を開始するよう指示されたが,同日は,疼痛が増悪して振り子運動をほとんど行うことができず,その後,徐々に振り子運動を行うことができるようになったものの,ピンによる刺激痛又は右肩から右上腕にかけての疼痛をしばしば訴え,3月19日以降は上記の疼痛のために振り子運動をほとんど実施できない状況であった。 (イ)リハビリの開始時期について前示のとおり,肩関節は拘縮を生じやすい部位であるからできる限り早期にリハビリを実施する必要があり,「骨折治療学」(2000年。甲14号証)には「術後のリハビリテーションは,骨折部の固定性にもよるが,2ないし3週間後に振り子運動を開始する。」旨指摘されている。また,本件の を実施する必要があり,「骨折治療学」(2000年。甲14号証)には「術後のリハビリテーションは,骨折部の固定性にもよるが,2ないし3週間後に振り子運動を開始する。」旨指摘されている。また,本件の場合,当初は本件整復固定術後3ないし4週間のデゾー固定を行ってから自動の振り子運動を開始する予定とされていたものであるところ,実際は約5週間経過してから自動の振り子運動が開始されたものであり,この点について,A医師は,デゾー固定の期間が通常より長く,リハビリの開始時期が遅れた旨述べている(乙22号証,証人A)から,本件ではリハビリの開始が通常より遅れたものと認めることができる。そして,前示のとおり,2月8日以降,原告がしばしばピンによる刺激痛又は右肩から右上腕にかけての疼痛を訴えていたこと,当初は,疼痛が軽減したら徐々に自動の振り子運動を開始する予定とされていたこと(乙1号証),本件整復固定術後4週間経過した2月25日の回診時に,レントゲン検査の結果から仮骨形成の乏しいことが確認されたため,デゾー固定の期間が延長されたこと(乙1号証)などの各事情によれば,リハビリの開始が遅れた原因は,ピンによる刺激痛及び右肩から右上腕にかけての疼痛がなかなか軽減しなかったこと,並びに,仮骨形成が進まずにデゾー固定が長引いたことにあると認めることができる。 (ウ)リハビリの進行状況について前記認定事実及び乙1号証によれば,自動の振り子運動が開始された3月4日の翌日以降は,原告は,ピンによる刺激痛を訴えながらも徐々に回数を増やして振り子運動を行うことができるようになり,3月7日には振り子運動を相当頻回に行うことができるようになって,同月16日には,看護師に対し,以前と比べて可動域が増してきており疼痛及びしびれはない旨話していたことが認められるから,同月5日以降は徐 月7日には振り子運動を相当頻回に行うことができるようになって,同月16日には,看護師に対し,以前と比べて可動域が増してきており疼痛及びしびれはない旨話していたことが認められるから,同月5日以降は徐々にリハビリを実施することができるようになっていたものと解し得る。 しかし,抜釘後の3月31日時点では肩関節の拘縮が相当進んだ状態であったこと,「処方・実施・記録表」(乙1号証47丁裏ないし49丁裏)によれば,自動の振り子運動を開始した3月4日以降も,ロキソニンが毎日定期的に投薬されていたことが認められること,並びに,3月19日以降はピンによる刺激痛及び右肩から右上腕にかけての疼痛のためにほとんど振り子運動ができない状況であったことなどを考慮すれば,3月4日以降のリハビリは円滑に進んでいなかったものと解するのが相当である。そして,前記認定事実及び乙1号証によれば,原告がピンによる刺激痛及び右肩から右上腕にかけての疼痛を訴えていたことが,3月4日以降のリハビリが円滑に進まなかった主たる原因の1つであると認めることができる。 イピンによる刺激痛に対する対応について前示のとおり,抜釘前のリハビリの開始が遅れ,かつリハビリが円滑に進まなかった主たる原因の1つはピンによる刺激痛であったと解されるが,この点について,原告は,遅くとも3月4日にはピンによる刺激痛に対して何らかの処置を採るべき注意義務があった旨主張し,被告は,ピンの入れ直し等の処置は,患者に負担をかけ,容易に行うことができないものであるから,本件においては上記の処置を採るべき注意義務までは負っていない旨主張する。 乙22号証及び証人Aの証言によれば,本件当時,A医師は,ピンによる刺激痛がリハビリの障害になっているとの認識を有していたが,上記の刺激痛に対しては,ピンの先端部分を曲げ,抜きやすいよ 旨主張する。 乙22号証及び証人Aの証言によれば,本件当時,A医師は,ピンによる刺激痛がリハビリの障害になっているとの認識を有していたが,上記の刺激痛に対しては,ピンの先端部分を曲げ,抜きやすいように外から触れて分かる位置に留置してあるため,ピンの先端が刺激を与えるのは当然であると考え,神経又は血管の圧迫若しくは感染のおそれがなく,物理的な刺激があるにすぎない場合はピンを入れ直すなどの処置を採る必要はないとの認識から,原告に対しピンによる刺激痛を除去するために上記の処置を採ることは全く考えていなかったものと認められる。 確かに,証人Bの証言によれば,ピンを入れ直すなどの処置は,全身麻酔で行う必要があり,患者に相応の負担をかけるものであることが認められるから,容易に行い得るものではなく,上記の処置を採るべき必要性等を十分検討すべきものと解される。しかし,B医師は,「本件のようにピンによる固定を行った症例において,ピンによる刺激痛のためにリハビリの実施が困難となることはしばしば経験し,リハビリを円滑に進める必要があって,これを阻害する主たる原因が疼痛である場合には疼痛を除く工夫をするから,ピンの位置をずらしたり,ピンを短くするなどの処置を採ることは珍しくない。」旨述べており(証人B),また,A医師もピンの位置をずらすなどの処置をした経験はある旨述べている(証人A)から,ピンによる刺激痛に対し,ピンを入れ直すなどの処置を採ることが,A医師が述べるように非常にまれなことであるとも,困難なものであるとも認め難いというべきである。そうすると,ピンを入れ直すなどの処置を採ることが患者に相応の負担をかけるものであることを考慮しても,リハビリを円滑に進める必要性が高く,かつリハビリを円滑に進めるために上記の処置を採る必要性が高いと判断される場合には,上記の どの処置を採ることが患者に相応の負担をかけるものであることを考慮しても,リハビリを円滑に進める必要性が高く,かつリハビリを円滑に進めるために上記の処置を採る必要性が高いと判断される場合には,上記の処置を採るのが相当というべきである。したがって,A医師としては,ピンによる刺激痛によってリハビリの円滑な実施が阻害されている程度,ピンによる刺激痛を除去するために採り得る処置等を具体的に検討した上で,原告に対し,ピンを入れ直すなどの処置を採るか否かを判断すべき注意義務を負っていたものと解される。 なお,被告は,原告がピンによる刺激痛などの疼痛を頻繁に訴えていたのは,原告の疼痛に対する閾値が低いためである旨主張し,A医師もこれに沿う旨述べる(証人A)。確かに,府立医大病院で本件髄内釘固定術を受けた後,原告が医師や看護師にしばしば疼痛を訴えていたこと(甲9号証)などを考慮すれば,原告は通常よりも疼痛に対し敏感であったと解する余地もなくはないが,仮にそうであったとしても,実際に原告が疼痛を訴え,そのためにリハビリが円滑に進まない状況が生じている以上,原告が訴える疼痛を除去してリハビリを円滑に進める必要があるから,上記認定は左右されないというべきである。 ウ固定力の低下に対する対応について(ア)本件におけるピンによる固定力の低下について乙11ないし16号証及び証人Bの証言によれば,本件におけるピンによる固定は,3本のピンのいずれもが本件骨折部位に対して斜めに刺入されているため骨折線に対して均等な圧迫力がかかりにくい状態になっており,特に先端を曲げて刺入したピンは本件骨折部位に対する力がかかりにくくなる可能性があるものと解され,加えて,乙1号証によれば,2月3日のレントゲン検査の結果から本件骨折部に透き間が確認されたことが認められるから,そもそも,当初 は本件骨折部位に対する力がかかりにくくなる可能性があるものと解され,加えて,乙1号証によれば,2月3日のレントゲン検査の結果から本件骨折部に透き間が確認されたことが認められるから,そもそも,当初から十分な固定力を有していなかったものとも考えられる。また,乙22号証及び証人Aの証言によれば,ピンによる固定は,時間の経過とともにその固定力が低下する場合が多いものと認められるのであり,前示のとおり,固定力が低下すると,骨折部位に異常な動きが加わりやすくなって,骨折部位の骨癒合が遅れるものであるところ,本件では,前示のとおり,2月12日,同月19日,同月24日及び3月3日の各レントゲン検査のいずれの結果においても,本件骨折部位の仮骨形成は乏しい状況だったものである。さらに,骨折部位に異常な動きが加わった場合には患者は疼痛を感じるものである(証人B)ところ,本件整復固定術後,原告は,ピンによる刺激痛とともに右肩から右上腕にかけての疼痛をしばしば訴えて,2月9日以降はデゾー包帯等を頻繁に巻き直され,回診の医師又は看護師に対し「ちゃんと固定されていれば痛くないです。」などとデゾー包帯等の巻き直しにより疼痛が軽減する旨述べていたのである(乙1号証)。 以上の各事情を総合すれば,本件では,ピンによる固定力が低下していたために,外固定のデゾー包帯等が多少緩むと本件骨折部位に異常な動きが加わりやすくなり,そのために原告が右肩から右上腕にかけての疼痛を訴えていたものと考えられるのであり,自動の振り子運動を開始する前からピンによる固定力が低下していたものと解するのが相当である。 (イ)ピンによる固定力の低下に関する注意義務前示のとおり,偽関節の発生を防止するためには適切な固定方法を選択するとともに,十分な固定力を維持させる必要があり,固定力の低下が確認された場 当である。 (イ)ピンによる固定力の低下に関する注意義務前示のとおり,偽関節の発生を防止するためには適切な固定方法を選択するとともに,十分な固定力を維持させる必要があり,固定力の低下が確認された場合には,仮骨形成の状況等に応じた適切な処置を採る必要があるところ,証人Bの証言によれば,本件のようにピンによる固定をした場合にピンの緩みにより固定力が低下しているか否かは,患者の訴え,触診所見及びレントゲン検査の所見によって判断することが可能であるものと認められるから,A医師としては,ピンによる固定力が低下しているか否か慎重に経過観察を行い,固定力の低下が確認された場合には適切な処置を採るべき注意義務を負っていたものと解される。 なお,ピンによる固定力が低下すると骨折部位に異常な動きが加わり,これによって疼痛が生じたり,骨癒合が遅れたりするが,これらによって,リハビリの進行が更に阻害されるものと解されるから,円滑にリハビリを実施するためにも,上記の注意義務を尽くす必要があるというべきである。 エピンによる固定に対する処置における注意義務違反の有無について本件ではそもそもリハビリの開始が遅れていたから,リハビリを円滑に進める必要性はより高かったものと解され,したがって,リハビリの円滑な実施を阻害する原因はできる限り早く的確に除去する必要性があったというべきである。加えて,前示のとおり,本件においては,ピンによる刺激痛がリハビリの円滑な実施を阻害する主たる原因の1つとなっていたものであるが,仮骨形成が不十分な状態が続いていたことからすれば,ピンによる固定はできる限り継続させる必要があったものと認められる。したがって,ピンによる刺激痛を除去するために早期に抜釘をすることは不適当であったと解されるから,ピンによる刺激痛を除去してリハビリを円滑に実施する できる限り継続させる必要があったものと認められる。したがって,ピンによる刺激痛を除去するために早期に抜釘をすることは不適当であったと解されるから,ピンによる刺激痛を除去してリハビリを円滑に実施するためにピンを入れ直すなどの処置を採る必要性が高かったものというべきである。 そして,本件においては,自動の振り子運動開始前からピンによる固定力が低下している状態にあって,本件骨折部位に異常な動きが加わりやすくなっていたために骨癒合が更に阻害され,また,異常な動きが加わることによって疼痛が生じ,これらがリハビリの進行を更に阻害することになり得る状況であったから,骨癒合を進めて偽関節の発生を防止し,かつリハビリを阻害する原因をできる限り除去するために,ピンを入れ直すなどの処置により固定力を高める必要性が高かったものと解される。 他方,本件において,ピンを入れ直すなどの処置を採ることによって,原告に深刻なダメージを与える可能性があったことをうかがわせる事情は認められない。 以上によれば,本件においては,リハビリを円滑に実施して関節の拘縮を改善し,かつ,偽関節の発生を防止するために,ピンを入れ直すなどの,ピンによる刺激痛を抜本的に除去するとともに固定力を高める処置を採る必要があったものと認めることができる。 しかし,前示のとおり,A医師は,原告の訴えていたピンによる刺激痛に対しては,鎮痛剤の投与による対症療法に終始し,ピンを入れ直すなどの処置を採る必要性の程度等について何ら検討していなかったものであり,また,乙1,22号証及び証人Aの証言によっても,ピンによる固定力が低下しているか否か慎重に経過観察を行っていたとも,固定力の低下に対する処置を検討していたとも認められないから,A医師には,ピンによる固定に対する処置に関し,注意義務違反があったものと認めること 力が低下しているか否か慎重に経過観察を行っていたとも,固定力の低下に対する処置を検討していたとも認められないから,A医師には,ピンによる固定に対する処置に関し,注意義務違反があったものと認めることができる。 (4)抜釘前のリハビリの実施及び経過観察についてア抜釘前のリハビリに関する注意義務前示のとおり,骨折の治療としてリハビリを実施する際には,患者の状況に応じた方法を検討した上で,医師,理学療法士及び看護師等が連携してこれを行うとともに,疼痛等の患者の訴えに注意して慎重に経過観察を行う必要がある。本件においては,仮骨形成が乏しい状況のまま3月4日から自室での自動の振り子運動が開始されたものであるが,「骨癒合が不十分な場合に骨折部に無理な力が加わると,骨折部に変位又は転位が生じたり,骨癒合が阻害されたりする。」旨の証人Aの証言,及び「骨折部にねじれの動きが加わると骨癒合が得られにくくなり,ねじれの動きが加わった場合に骨癒合が遅れやすいことは一般的に予想できるから,リハビリを実施する場合には骨折部にねじれの動きが加わらないように注意して行う必要があり,患者に自室でリハビリをさせる場合には,患者にリハビリの方法をしっかり教える必要がある。」旨の証人Bの証言等を考慮すれば,A医師には,原告に自室でリハビリを実施させる際に,骨折部位にねじれの動きなど無理な力が加わらないように,原告に対し事前に十分な指導を行うとともに,原告が適切にリハビリを行っているか否か慎重に経過観察をすべき注意義務があったものと認めることができる。加えて,証人Bの証言によれば,本件骨折部位は,肩関節を挙上する際に動かす方向によっては必然的にねじれの動きがかかり,特に,本件骨折部位に刺入された3本のピンが,同部位に対してねじれの力が加わりやすい状態になっていたものと認められる 折部位は,肩関節を挙上する際に動かす方向によっては必然的にねじれの動きがかかり,特に,本件骨折部位に刺入された3本のピンが,同部位に対してねじれの力が加わりやすい状態になっていたものと認められるから,本件の場合は,特にねじれの動きなど無理な力が加わって骨癒合が阻害されないように,原告に対し,してはいけない動きを具体的に説明するなどして,リハビリの実施方法について十分な指導をする必要があったものと認めることができる。 イ抜釘前のリハビリにおける注意義務違反の有無について乙22号証及び原告本人尋問の結果によれば,A医師は,3月4日に自動の振り子運動の開始を指示した際,原告に対して,体をやや前傾させて腕を前後左右に振るという口頭の説明をしたことが認められ,また,A医師は,骨折部に回旋の力がかからないように原告に注意した旨述べる(乙22号証)が,骨折部に回旋の力がかからないような腕の動かし方等について具体的に説明したことをうかがわせる事情は認められない。 また,A医師らは,抜釘までの間にしばしば右肘関節の可動域を確認していた(乙1号証)ものの,右肩関節の可動域を確認していたことをうかがわせる事情は認められない。加えて,3月11日及び同月17日に実施されたレントゲン検査の結果から仮骨形成が不良であることが確認されていた(乙22号証)ものの,A医師らがその原因について,リハビリの実施方法が不適切である可能性を念頭に置いて検討していたものとも認められない。 そして,前示のとおり,本件においては,骨折部位にねじれ等の無理な動きが加わりやすい状況であったこと,骨折部に異常な動きが加わった場合に患者は疼痛を訴えるものであるところ,原告はリハビリの実施期間中にピンによる刺激痛のほか右肩から右上腕にかけての疼痛をしばしば訴えており,ロキソニンの服用によってこれ 折部に異常な動きが加わった場合に患者は疼痛を訴えるものであるところ,原告はリハビリの実施期間中にピンによる刺激痛のほか右肩から右上腕にかけての疼痛をしばしば訴えており,ロキソニンの服用によってこれを軽減させていたものと解されること(乙1号証)などを考慮すれば,原告の行っていたリハビリの実施方法が不適切であったために,本件骨折部位に異常な動きが加わっていた可能性が高いというべきである。 以上によれば,A医師は,抜釘前のリハビリに関し,その実施方法等について原告に対し十分な指導を行うとともに,その実施状況を慎重に経過観察すべき前記の注意義務を怠ったものと認めることができる。 (5)抜釘以降の状況についてア抜釘時及び抜釘後のリハビリの各状況本件においては,3月28日に抜釘が行われたが,乙1,17,18,22号証並びに証人A及び同Bの各証言によれば,同日時点では,本件骨折部位に転位は生じていないものの明らかな仮骨形成は認められない状況であったものと認められる。 そして,3月31日からリハビリ室でのリハビリが開始されたが,原告は,その翌日の4月1日から,数種類の鎮痛剤を投与されても抑制できないほどの右肩から右上腕にかけての疼痛を訴えてリハビリを中断し,これを再開した同月7日以後もほぼ毎日上記の疼痛を訴え,自制できない場合にはロキソニンに加えてボルタレン坐薬の投与を受け,ホットパックによる温熱療法が追加された同月14日以降はリハビリを楽に実施できるようになり自室でのリハビリも積極的に行っていたが,右肩から右上腕にかけての疼痛は継続していたものである。 なお,本件当時,被告病院のリハビリ室では3ないし4人程度のリハビリ担当者がいたが,理学療法士はおらず,リハビリ担当者らが専門家からリハビリの実施方法や骨癒合の遅れ,変形治癒等について教育を受ける機会は ,本件当時,被告病院のリハビリ室では3ないし4人程度のリハビリ担当者がいたが,理学療法士はおらず,リハビリ担当者らが専門家からリハビリの実施方法や骨癒合の遅れ,変形治癒等について教育を受ける機会はなかった。そして,リハビリ室では患者ごとに担当者を決めることなく手の空いた者が順次,患者のリハビリの介助,指導等に当たっていた(証人C,原告本人)。 イ抜釘について(ア)仮骨形成が不十分な状態での抜釘について仮骨形成が不十分な状態で抜釘するか否かを判断する際に考慮すべき事項として,B医師は,骨癒合の可能性の有無,骨癒合が得られるのに要する見込みの期間,治療を円滑に進めるために骨癒合と拘縮防止のいずれを優先させるべきかの比較検討などを挙げており,また,仮骨形成が不十分な状態で関節拘縮の改善を目的とするリハビリを,自信を持って進めていくことは非常に難しい旨も述べている(証人B)。加えて,「肩のリハビリテーション」(甲10号証)には「骨折が安定し中等度の運動に対する反応性が減少したら他動運動を注意深く開始する。」などの指摘があることを考慮すれば,拘縮改善のためのリハビリを積極的に実施するには骨折部が安定していることが必要であり,仮骨形成が不十分な状態で固定を外して積極的にリハビリを実施することは非常に難しいものと認められるから,本件のように仮骨形成が不十分な場合には,骨癒合の見込み,適切なリハビリを実施し得る可能性等を十分慎重に検討した上で抜釘をするか否か判断する必要があるものと認めることができる。 (イ)本件における抜釘について本件意見書並びに証人A及び同Bの各証言によれば,3月28日の時点の本件骨折部位の状況は,わずかに仮骨が形成されつつあって更に数週間の内固定によって骨癒合を得られる可能性も認め得るものであったと解することができ,A医師として 同Bの各証言によれば,3月28日の時点の本件骨折部位の状況は,わずかに仮骨が形成されつつあって更に数週間の内固定によって骨癒合を得られる可能性も認め得るものであったと解することができ,A医師としても,本件骨折部位が骨癒合に向かって進んでいる状況であるとの認識は有していたことが認められる。 乙22号証及び証人Aの証言によれば,A医師は,ピンによる刺激痛がリハビリの障害になっていたこと,固定力が低下していたためにピンによる固定を継続させる必要性は低いと判断したこと,及び偽関節の場合には手術的治療が可能であるが拘縮は事後的に回復させる手段がないとの認識から抜釘を決断したものと認められる。しかし,前示のとおり,ピンによる刺激痛及びピンによる固定力の低下に対しては,ピンを入れ直すなどの処置を採ることによって対応できたものであり,また,「1か月程度で骨癒合が得られる見込みがあれば,骨癒合を優先させることもあり得る選択であり,拘縮に対する手術的な治療を事後的に行うことも可能である。」旨の証人Bの証言によれば,必ずしも拘縮に対する事後的な回復手段がないものとは解し難い。そして,本件全証拠によっても,A医師が抜釘を決断するに際し,わずかに進みつつある骨癒合を犠牲にしてまでリハビリを優先させるのが適当か否か,仮骨形成が不十分な状態で抜釘をした場合に拘縮改善のための積極的なリハビリを適切に実施し得るか否か等について具体的に検討したことをうかがわせる事情は認められない。 以上によれば,A医師は,仮骨形成が不十分な原告の状態を前提として抜釘の当否につき十分な検討をしないまま,抜釘を決断したものといわざるを得ない。 ウ抜釘後のリハビリについて(ア)抜釘後のリハビリに関する注意義務前示のとおり,骨折の治療としてリハビリを実施する際には,医師,理学療法士及び看護師等 まま,抜釘を決断したものといわざるを得ない。 ウ抜釘後のリハビリについて(ア)抜釘後のリハビリに関する注意義務前示のとおり,骨折の治療としてリハビリを実施する際には,医師,理学療法士及び看護師等が連携して患者の状況に応じた方法で実施するとともに,疼痛等の患者の訴えに注意して慎重に経過観察を行う必要があり,加えて,「骨癒合が不十分なままリハビリを実施する場合には,疼痛並びに骨折部位の腫脹及び熱感などに留意し,定期的にレントゲン検査を行ってその結果を十分確認していくことが必要であり,患者が疼痛を訴えた場合には,担当医師としては,拘縮による疼痛であるのか,骨癒合が遷延して生じている疼痛であるのか,その原因を判断する必要がある。」旨の証人Bの証言を考慮すれば,仮骨形成が不十分な状態で抜釘してリハビリを実施する際には,特に疼痛などに注意して慎重に経過観察を行い,患者が異常を訴えた場合にはその原因を検討し,リハビリの実施方法の適否等を判断すべき注意義務があるというべきである。 (イ)A医師からリハビリ担当者等への指示及び情報提供について前示のとおり,被告病院のリハビリ担当者は,理学療法士の資格を有しておらず,専門家による教育を受けていなかったものであるから,医師によるリハビリ担当者への指示及び指導はより入念に行われる必要があったというべきである。 前示のとおり,府立医大病院では,担当医師からリハビリ部への指示及び情報提供は,診断名,経過要約,診療科治療計画,既往歴,合併症,感染症,リハビリテーションの目標並びに注意及び禁忌事項が記載されたリハビリテーション依頼書や,仮骨形成の状況又はリハビリ部からの問い合わせ等に応じて担当医師が個別に指示をする方法により行われており,甲9号証によれば,7月24日付けのリハビリテーション依頼書の「リハビリテーションの 頼書や,仮骨形成の状況又はリハビリ部からの問い合わせ等に応じて担当医師が個別に指示をする方法により行われており,甲9号証によれば,7月24日付けのリハビリテーション依頼書の「リハビリテーションの目標」欄には,「7月28日からstoopingエクササイズ開始。8月4日から持続他動運動開始(疼痛出現するところまで)。内外旋運動開始(疼痛出現するところまで)。できれば,三角筋訓練(肩は動かさないで)。」などと具体的な記載がされていることが認められる。 これに対し,乙1号証並びに証人A及び同Cの各証言によれば,被告病院では担当医師からリハビリ担当者への指示及び情報提供は,理学療法指示録(乙1号証の70頁)のみによって行われていたものであり,原告に関しては,「右肩上腕骨近位端骨折」との診断名,「1月28日手術,3月28日抜釘」との治療方針及びリハビリの内容として「自動運動,右肩の他動運動,4月14日からの右肩のホットパック」との指示が伝えられたにすぎないことが認められるから,リハビリ担当者に対して十分な指示及び情報提供が行われていたものとは認め難い。また,「骨癒合が進んでいない患者にリハビリを実施させる場合,リハビリを介助する側にも患者本人にも,骨癒合が不十分であるが故に注意すべき事項は特にない。」旨の証人Aの証言によれば,A医師が,原告の骨癒合の状況に応じたリハビリの実施方法を適宜に検討していたものとも認め難い。 なお,前示のとおり,原告は,抜釘後も自室でのリハビリを継続していたものであり,原告本人尋問の結果によれば,A医師は,上記の自室でのリハビリに関し,原告に対し,肩を無理に動かすようなきつい運動は避けるようにとの注意を与えたことが認められる。しかし,A医師は,原告から自室で振り子運動を300回行ったことなどの報告を受けていた(乙1号証,原 し,原告に対し,肩を無理に動かすようなきつい運動は避けるようにとの注意を与えたことが認められる。しかし,A医師は,原告から自室で振り子運動を300回行ったことなどの報告を受けていた(乙1号証,原告本人)ものの,これについて原告に何らかの具体的な指導等を与えたことをうかがわせる事情は認められないことなどによれば,抜釘後の自室でのリハビリについてA医師が原告に対し具体的な指導をしていたものとは認められない。 (ウ)リハビリ担当者及び看護師等との連携前示のとおり,A医師からリハビリ担当者への情報提供は理学療法指示録によってのみ行われていたことに加え,「本件においてはリハビリ室から医師や看護師に報告をしたことはなかったと思う。」旨の証人Cの証言,「リハビリ室では指示どおりのリハビリが行われていたと思うが,実際に確認したことはない。」,「看護記録をみることはほとんどない。」旨の証人Aの証言,「リハビリの担当者が患者個人個人の状態を把握している様子はなかった。」旨の原告本人の供述などを総合すれば,A医師が,リハビリ担当者及び看護師と連携して抜釘後のリハビリを進めていたものとは認められない。 (エ)リハビリの実施状況に対する経過観察について原告は,リハビリ室でのリハビリについて,「リハビリ担当者の介助により自力で動かすことのできる範囲以上に動かされた際に骨折部位に相当な疼痛を感じた。」,「リハビリ担当者によっては手のひらの向きが変わるような力の入れ方をする人もおり,この場合には骨折部位がひねられているように感じ,相当な疼痛があった。」などと述べており(原告本人),また,リハビリ室でのリハビリが開始されてからほぼ毎日,原告は,右肩から右上腕にかけての疼痛を訴え,しばしばボルタレン坐薬等の投与を受けていたのである。前示のとおり,本件当時における被告病院の 人),また,リハビリ室でのリハビリが開始されてからほぼ毎日,原告は,右肩から右上腕にかけての疼痛を訴え,しばしばボルタレン坐薬等の投与を受けていたのである。前示のとおり,本件当時における被告病院のリハビリ担当者は,専門家による教育を受けていなかったものであり,証人Cの証言によれば,疼痛又は可動領域の最後の抵抗性を超えてリハビリを実施した場合の弊害や骨癒合が遅れている患者に対しリハビリを行う場合に注意すべき事項等について十分な知識を有していなかったものと認められる。加えて,骨折部位に異常な動きが加わった場合,患者は疼痛を感じるものであること,原告については抜釘以後4月17日までの間に本件骨折部位に転位が生じたこと(乙17ないし20号証,証人A,同B)などを考え併せれば,原告が訴えていた上記疼痛は,リハビリの実施方法が不適切であったために本件骨折部位に異常な動きが加わったことによるものと認めるのが相当である。なお,原告が訴えていた疼痛に関し,A医師は,既に生じていた拘縮をほぐす際にも疼痛が伴われ,また,骨癒合が進んでいないために骨折部以外の疼痛が起こることもあり得るなどと述べている(証人A)が,仮にA医師の述べるような上記の疼痛が生じていたとしても,それ以外の疼痛の存在が直ちに否定されるものではないから,前記認定は左右されないというべきである。 本件においては,抜釘後退院までの間に,4月7日及び同月17日にレントゲン検査が行われており(乙1号証),A医師は,1日1回は原告の病室を訪れて疼痛の程度及び可動域を確認し,疼痛の原因も常に確かめていた旨述べる(証人A)。確かに,証人Bの証言によれば,上記のレントゲン検査の回数が少ないとまでは評価できず,また,A医師は4月12日及び同月17日に肩関節の可動域を計測している(乙1号証)。しかし,証人Aの (証人A)。確かに,証人Bの証言によれば,上記のレントゲン検査の回数が少ないとまでは評価できず,また,A医師は4月12日及び同月17日に肩関節の可動域を計測している(乙1号証)。しかし,証人Aの証言によれば,A医師は,原告が訴えていた疼痛について,その正確な部位及び原因等を把握していなかったものと認められるのであり,また,疼痛は,リハビリが適切に実施されているか否かの他覚的なモニターになるものであるのに(証人B),前記認定事実及び乙1号証によれば,原告の疼痛の訴えに対しては,ロキソニン,ボルタレン坐薬,セデス等の鎮痛剤を頻繁に投与することによってのみ対応していたものと認められ,疼痛の部位及び原因を特定する前にこれを除去又は軽減させてしまっていたものである。 加えて,「リハビリ室でのリハビリがきつくて痛いことをA医師に言ったところ,A医師から,今は動かさなければならない時期だから,リハビリをやらないのであれば退院してほしいと言われた。」旨の原告の供述,「痛みに負けずに続けるように常に指導していた。」旨の証人Aの証言等を考慮すれば,A医師は,原告の訴える疼痛について,その部位及び原因を検討し,その結果に応じた対応を採るべき必要性すら認識していなかったものと認め得る。 そして,4月17日のレントゲン検査の結果によれば3月28日の抜釘時の状態と比べて明らかに本件骨折部位の転位及び変位が進んだことが確認でき(乙17ないし20号証,証人A,同B),これについて,B医師は「非常に心配な状況であるから,多方向からレントゲン写真を撮って異常可動性の有無などを確認する必要がある。」旨述べ(証人B),同月18日に回診を担当した医師も偽関節の可能性を疑っていたものである(乙1号証)が,A医師が上記のレントゲン検査の結果から原告のその後の治療方針等について検討し る必要がある。」旨述べ(証人B),同月18日に回診を担当した医師も偽関節の可能性を疑っていたものである(乙1号証)が,A医師が上記のレントゲン検査の結果から原告のその後の治療方針等について検討したことをうかがわせる事情は認められず,看護記録には「17日上腕近位2R(方向)前回と変わりない」との記載があること(乙1号証)などを考え併せれば,経過観察として行っていたレントゲン検査の結果に対し,A医師が十分な確認及び検討を行っていたとは認め難いといわざるを得ない。 (オ)以上のとおり,A医師は,抜釘後は,骨癒合の状況等に応じた方法でリハビリを行うとともに疼痛等の訴えに注意しながら経過観察を行うべき注意義務を負っていたものであるが,十分な検討をしないまま抜釘を行った後,原告の骨癒合の状況に応じた実施方法を検討することなく,リハビリ担当者や原告に対し十分な指示及び情報提供をすることも,リハビリ担当者及び看護師等と連携をとることもなくリハビリを実施し,原告の訴える疼痛の原因等を検討したり,レントゲン検査の結果からリハビリ方法の適否を検討することもなかったのであるから,A医師は,抜釘後のリハビリに関する前記の注意義務を怠ったものと認めることができる。 (6)以上のとおりであり,本件において,A医師には,ピンによる固定に対する処置,抜釘及び抜釘前後のリハビリに関し,注意義務違反があったものと認めることができるから,この点に関する原告の主張は理由がある。 3争点(2)(因果関係)について(1)本件においては,3月28日の抜釘時点で既に相当程度の拘縮が生じており,抜釘後の被告病院でのリハビリ及び府立医大病院に転医してからのリハビリによっても完全には回復せず,本件後遺障害が残存したものである。この原因として,A医師は,関節内での骨折であったために組織の癒着が 釘後の被告病院でのリハビリ及び府立医大病院に転医してからのリハビリによっても完全には回復せず,本件後遺障害が残存したものである。この原因として,A医師は,関節内での骨折であったために組織の癒着が生じたこと,当初からリハビリが円滑に進まなかったことを挙げている(乙22号証,証人A)が,本件において,肩関節内の組織の癒着が生じ,これが拘縮の発生に相当程度の影響を与えたことを認めるに足りる証拠はない。 右肩関節の可動域は,抜釘後の3月31日の時点では,屈曲20°,伸展25°,外転15°と拘縮が相当程度進んだ状態であったが,その後の被告病院でのリハビリにより,4月17日には他動で屈曲80°,外転40°と改善し,府立医大病院の初診時の6月2日には屈曲90°,伸展35°,外転70°,7月2日には屈曲105°,伸展25°,外転100°と徐々に改善していたものの,7月24日の本件髄内釘固定術後,8月20日には介助で屈曲90°,9月10日には介助で屈曲80°,外転60°,9月24日には介助で屈曲90°,外転90°と,本件髄内釘固定術前と比べて悪化している(甲9号証)。以上の経過に加えて,「神中整形外科学」(乙3号証)の「大抵の骨折後には多少とも関節可動性の制限がみられ,軽度のものは後療法によって完全に治癒するが,強度のものは非回復性の機能障害を残す。」旨の指摘,及び「肩関節の可動域制限が生じる原因で最も多いのは長期の固定であり,拘縮の期間が長くなればなるほど回復の条件は悪くなる。」旨の証人Bの証言を考慮すれば,本件後遺障害が残存した主たる原因は,抜釘時点で既に相当程度の拘縮が生じていたこと及び偽関節の発生により拘縮に対する治療が長期化したことにあると解することができる。 (2)偽関節の発生についてア被告は,本件において偽関節が生じたのは,本件骨折部位が 相当程度の拘縮が生じていたこと及び偽関節の発生により拘縮に対する治療が長期化したことにあると解することができる。 (2)偽関節の発生についてア被告は,本件において偽関節が生じたのは,本件骨折部位が上腕骨骨幹部で偽関節の好発部位であったこと,粉砕型の骨折であったこと,骨折の際に受けた外力が相当大きかったために骨片間に軟部組織が介在した可能性があることなどが原因である旨主張し,A医師は上記主張に沿う旨述べる(乙22号証,証人A)。しかし,前示のとおり,本件骨折は,本件骨折部位を含めて上腕骨近位端の2-part骨折であり,粉砕型の骨折には当たらないものと解されるのであり,「転位の程度及びピンによる固定後の整復位の形からすると骨片間に軟部組織が介在していることは考えにくい。」旨の証人Bの証言によれば,本件骨折部位に軟部組織が介在した可能性は低いものと認められるのであって,上記のA医師の陳述等を採用することはできず,他に被告の上記主張を採用するに足りる証拠は存しない。 「四肢骨折」(1998年。乙6号証)は,上腕骨近位端骨折は骨癒合の良好な部位であるとしており,本件骨折部位について,B医師は,血流が非常に豊富な部位であり,骨癒合が非常に得られやすい場所である旨述べ(証人B),本件意見書でも「上腕骨外科頚のように海綿骨の豊富な部位であれば,骨折の程度がかなり酷くとも骨折部に仮骨形成が生じてくることが多いものである。」とされていることによれば,本件骨折は,本来骨癒合が得られやすいものであったと認めることができる。 イ本件における骨癒合の遅れの原因本件においては,抜釘までの2か月間,仮骨形成がほとんど進まない状況であったが,前示のとおり,ピンによる固定力が当初から必ずしも十分でなく,加えて,自動の振り子運動を開始する前からピンによる固定力が低下していた は,抜釘までの2か月間,仮骨形成がほとんど進まない状況であったが,前示のとおり,ピンによる固定力が当初から必ずしも十分でなく,加えて,自動の振り子運動を開始する前からピンによる固定力が低下していたために,本件骨折部位に異常な動きが加わりやすい状態であったところ,A医師は,ピンによる固定力が低下したまま,十分な指導及び経過観察を行わずに,原告に自室で自動の振り子運動を行わせていたものであり,抜釘までの間に原告が右肩から右上腕にかけての疼痛をしばしば訴えていたことを考慮すれば,ピンによる固定力が低下した状態で,かつ,十分な指導及び経過観察を受けることなくリハビリを実施したために本件骨折部位に異常な動きが加わり,骨癒合が遅れたものと解するのが相当である。なお,被告は,ピンが刺入された状態で骨折部に異常可動性が生じた場合,ピンの周囲に骨透亮像が生じるところ,本件ではこれが認められないから,抜釘前に骨癒合を阻害するほど骨折部が動いていたとは考えられない旨主張し,本件意見書も上記の主張に沿う旨の指摘をしているが,ピンによる固定において骨折部位に骨癒合を阻害するほどの異常な動きが加わった場合には,必ず骨透亮像が生じるものであることを認めるに足りる証拠は存しないから,上記の被告の主張は直ちに採用できないというべきである。 また,前示のとおり,抜釘後には本件骨折部位の転位及び変位が進み,骨癒合の状態も抜釘前と比べてかえって悪化したものと解される(証人B)が,この点について,B医師は「抜釘により固定力がなくなったために本件骨折部位に異常なストレスが加わり,微妙な可動性が生じ,徐々に大きくなって,抜釘時点までに僅かに生じていた仮骨が吸収されてしまったと思われる。」旨述べている(証人B)。前示のとおり,A医師は,十分な検討をしないまま抜釘を行った後,原告の骨癒 動性が生じ,徐々に大きくなって,抜釘時点までに僅かに生じていた仮骨が吸収されてしまったと思われる。」旨述べている(証人B)。前示のとおり,A医師は,十分な検討をしないまま抜釘を行った後,原告の骨癒合の状況に応じたリハビリの実施方法を検討することなく,十分な指導及び経過観察を怠ってリハビリを実施させていたものであり,他方,甲9号証によれば,府立医大病院においては,本件髄内釘固定術を施行する前に固定のない状態で,可動域改善のためのリハビリが1か月程度行われたが,本件骨折部位の転位は進まなかったことが認められる。そうすると,抜釘後に本件骨折部位の転位,変位が進み,骨癒合の状態が悪化したのは,リハビリが不適切に行われたために本件骨折部位に異常な可動性が生じたことによるものと認めるのが相当である。 ウ前示のとおり,本件骨折部位は本来骨癒合が得られやすい場所であり,また,上腕骨近位端骨折の場合,一般的にはおおよそ2ないし4週間程度で仮骨が形成されるものと解される(乙6号証,証人B)ところ,原告が府立医大病院で本件髄内釘固定術を受けた4週間後には仮骨形成が認められている(甲9号証)から,原告側に特に骨癒合が得られにくい要因があったものとは認め難い。そうすると,本件の場合も,A医師が,注意義務を尽くして,抜釘前及び抜釘後のそれぞれの状況に応じて,適切なリハビリの実施方法を検討し,十分な指導及び経過観察を行うとともに,ピンによる固定力の低下など骨癒合を阻害する原因に対して適切な処置を採っていれば,本件のように抜釘前から仮骨形成が遅れることはなく,通常通りに骨癒合が得られたものと認めることができる。 なお,被告は,原告の喫煙が骨癒合を遷延させた原因となり得る旨主張するが,前示のとおり,府立医大病院においては一般的な期間内に仮骨が形成されたものであり,被告の上 得られたものと認めることができる。 なお,被告は,原告の喫煙が骨癒合を遷延させた原因となり得る旨主張するが,前示のとおり,府立医大病院においては一般的な期間内に仮骨が形成されたものであり,被告の上記の主張を的確に認定するに足りる証拠は存しない。 (3)抜釘時点での拘縮について前記認定事実によれば,本件においては,リハビリの開始が遅れ,かつリハビリが円滑に進まなかったために,抜釘時点までに相当程度の拘縮が生じたものと考えられるのであって,A医師が,前記の注意義務を尽くし,ピンによる刺激痛及びピンによる固定力の低下に対しピンを入れ直すなどの適切な処置を採っていれば,ピンによる刺激痛及び右肩から右上腕にかけての疼痛が抜本的に軽減又は除去され,抜釘前からリハビリを円滑に実施することができたものと解される。そして,乙1号証によると,原告はリハビリに対して意欲的であったものと認められるのであり,また,前示のとおり,府立医大病院では,骨折部位の転位を進めることなくリハビリを実施して拘縮の改善を図ることができたものであるから,ピンによる刺激痛及び右肩から右上腕にかけての疼痛並びに内固定力の低下に対して適切な処置が採られていれば,仮骨形成が順調に進むとともに,予定通りにリハビリが開始されて,抜釘までに相当程度の拘縮の改善を図ることができたものと認めることができる。 (4)以上のとおり,A医師が注意義務を尽くしていれば,抜釘時点までに相当程度の拘縮が生じることも,偽関節の発生によって拘縮の治療が長期化することもなかったものと認められるのであり,抜釘後のリハビリにおいても,A医師が前記の注意義務を尽くし,原告に適切なリハビリを実施させていれば,拘縮が更に改善されて可動域の制約が残存することはなかったものと認めることができる。 よって,本件後遺障害とA医師の前記 ても,A医師が前記の注意義務を尽くし,原告に適切なリハビリを実施させていれば,拘縮が更に改善されて可動域の制約が残存することはなかったものと認めることができる。 よって,本件後遺障害とA医師の前記注意義務違反との間に相当因果関係を認めることができるから,その余の点について判断するまでもなく,争点(2)に関する原告の主張は理由がある。 4争点(3)(損害)について前示のとおり,A医師には経過観察を怠り,リハビリを円滑に進めるために必要な処置及び指導を行わなかった注意義務違反があるから,A医師の使用者である被告は,不法行為責任に基づき,原告に対し,上記注意義務違反と相当因果関係のある損害を賠償すべき責任を負う。以下,被告が賠償責任を負うべき損害の範囲及び額について検討する。 (1)休業損害原告は,本件事故による受傷に対する治療に伴い,1月21日から平成11年1月10日まで704日間休業したものであり(甲4号証),同期間の休業損害として634万3040円を主張しているが,本件事故による受傷に当然伴う休業については本件と相当因果関係のある損害には含まれないものと解するのが相当であり,乙6号証及び弁論の全趣旨によれば,原告が適切な治療を受けていれば遅くとも被告病院を退院した4月24日の翌日以降には再び勤務することが可能であったものと推認されるから,704日間の上記休業日数から,原告が被告病院に入院していた1月21日から4月24日までの94日間を除いた610日間の休業日数につき,1日あたりの平均賃金を9010円(甲4号証)として9010円×610日=549万6100円を本件と相当因果関係のある休業損害と認めるのが相当である。 (2)逸失利益甲4号証によれば,本件後遺障害は障害等級12級6号に該当し,労働能力喪失率14パーセントと認められるとこ 49万6100円を本件と相当因果関係のある休業損害と認めるのが相当である。 (2)逸失利益甲4号証によれば,本件後遺障害は障害等級12級6号に該当し,労働能力喪失率14パーセントと認められるところ,原告が被告病院で治療を受けていた当時,原告は32歳で,年収410万3900円を得ていた(甲5号証)ものであるから,労働能力喪失期間を前記休業期間を控除した34年とし,これに対するライプニッツ係数16.1929として本件後遺障害による逸失利益を計算すると410万3900円×0.14×16.1929=930万3565円となる。 (3)後遺障害慰謝料前示のとおり,本件後遺障害は障害等級12級6号に該当するものであるから,これに対する慰謝料は270万円が相当である。 (4)入通院慰謝料原告は,1月21日以降のすべての入通院に対する慰謝料を損害として主張しているが,本件事故による受傷に対し通常必要となる入通院については,本件と相当因果関係のある入通院慰謝料の対象には含まれないと解するのが相当である。したがって,本件においては,府立医大病院転医後の実通院期間の約7.7月及び実入院期間の約1.5月(甲4号証)に対する入通院慰謝料として150万円を認めるのが相当である。 (5)入院雑費原告は,1月21日以降のすべての入院について,入院雑費を損害として主張しているが,本件事故による受傷に対し通常必要となる入院期間については本件と相当因果関係のある損害の対象に含まれないと解するのが相当であるから,府立医大病院転医後の合計実入院日数46日(甲4号証)につき,1日当たりの入院雑費を1300円として1300円×46日=5万9800円を本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 (6)弁護士費用本件訴訟の事案の内容,審理経過,認容額,その他の事情を考慮す の入院雑費を1300円として1300円×46日=5万9800円を本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 (6)弁護士費用本件訴訟の事案の内容,審理経過,認容額,その他の事情を考慮すると,本件において原告が被告に対し賠償請求し得る弁護士費用は120万円とするのが相当である。 (7)損益相殺原告は,労働者災害補償保険から,704日間の休業に対する休業給付として505万2608円,障害給付として190万3988円の合計695万6596円の給付を受けているが,前示のとおり,原告が被告病院に入院していた94日間については本件事故による受傷に当然伴う休業と推認すべきものであって,上記休業給付のうち上記の94日間に相当する67万4638円は本件の損害とは無関係のものと解すべきであるから,同金額を上記合計金額から差し引いた628万1958円を,前記(1)ないし(6)の損害額の合計から控除するのが相当である。 (8)よって,本件と相当因果関係のある損害の合計額は,1397万7507円となる。 5結論以上のとおりであるから,原告の被告に対する本訴請求は,1397万7507円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年9月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官佐久間邦夫裁判官倉澤守春裁判官松田敦子 官松田敦子

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