主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告らに対し、それぞれ1100万円及びこれに対する令和2年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、平成8年法律第105号による改正前の優生保護法(以下「旧優生保護法」という。)に基づく不妊手術(以下「優生手術」という。)を受けさ せられたとする原告1及びその配偶者である原告2が、旧優生保護法が子を産み育てるか否かについて意思決定をする自己決定権、リプロダクティブ・ライツ、平等権等の憲法上の権利を侵害する違憲な法律であるにもかかわらず、国会議員において、旧優生保護法を立法したこと及び被害救済法の立法をしなかったことがいずれも違法である旨主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項 に基づく損害賠償として、それぞれ慰謝料及び弁護士費用相当額である1100万円ずつ(ただし、いずれも一部請求である。)及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である令和2年1月28日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下、特に断らない限り、同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実等(証拠等を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。) 旧優生保護法の定め旧優生保護法の定めのうち、優生手術に関する部分の概要は、以下のとおりである。 ア目的(1条) この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、 母性の生命健康を保護することを目的とする。 イ定義(2条 下のとおりである。 ア目的(1条) この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、 母性の生命健康を保護することを目的とする。 イ定義(2条1項)この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもって定めるものをいう。 ウ本人の同意による優生手術(3条1項1号及び2号) 医師は、本人若しくは配偶者が遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患若しくは遺伝性奇型を有し、又は配偶者が精神病若しくは精神薄弱を有しているもの、本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているものに対して、本人の同意並びに配偶者があるときはその同意を得 て、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。 エ都道府県優生保護審査会の審査を要件とする優生手術(4条ないし13条)医師は、診断の結果、「遺伝性精神病」、「遺伝性精神薄弱」、「顕 著な遺伝性精神病質」、「顕著な遺伝性身体疾患」又は「強度な遺伝性奇型」の各疾患に罹っていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請しなければならない(4条参照)。 都道府県優生保護審査会は、上記申請を受けたときは、所定の要件を備えているかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を申請者及び優生手術を受けるべき者に通知し、優生手術を行うことが適当である旨の決定をしたときは、申請者及び関係者の意見を聞いて、その どうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を申請者及び優生手術を受けるべき者に通知し、優生手術を行うことが適当である旨の決定をしたときは、申請者及び関係者の意見を聞いて、その手術を行うべき医師を指定し、申請者、優生手術を受ける べき者及び当該医師に、これを通知する(5条参照)。 優生手術を行うことが適当である旨の決定に対する異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、医師は優生手術を行う(6条ないし10条参照)。 医師は、遺伝性のもの以外の精神病又は精神薄弱にかかっている者について、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第 123号)第20条(後見人、配偶者、親権を行う者又は扶養義務者が保護者となる場合)又は同法第21条(市長村長が保護者となる場合)に規定する保護者の同意があった場合には、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる(12条参照)。 都道府県優生保護審査会は、上記申請を受けたときは、本人が所定の精神病又は精神薄弱にかかっているかどうか及び優生手術を行うことが本人保護のために必要であるかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者及び上記同意者に通知し、医師は、上記優生手術を行うことが適当である旨の決定があったときは、優 生手術を行うことができる(13条参照)。 優生手術の術式の定め旧優生保護法施行規則(昭和27年8月4日厚生省令第32号)1条は、優生手術の術式のうち、卵管についての手術につき、以下の2種類を規定していた。 ア卵管圧ざ結さつ法(マドレーネル氏法)卵管をおよそ中央部では持し、直角又は鋭角に屈曲さ 優生手術の術式のうち、卵管についての手術につき、以下の2種類を規定していた。 ア卵管圧ざ結さつ法(マドレーネル氏法)卵管をおよそ中央部では持し、直角又は鋭角に屈曲させて、その両脚を圧ざかん子で圧ざしてから結さつするものをいう。 イ卵管間質部けい状切除法卵管峡部で卵管を結さつ切断してから子宮角にけい状切開を施して間質 部を除去し、残存の卵管断端を広じん帯又は腹膜内に埋没するものをいう。 旧優生保護法の改正旧優生保護法は、平成8年6月18日に成立した平成8年法律第105号によって改正された(以下、同法に基づく改正を「平成8年改正」という。)。 これにより、旧優生保護法は、その題名が「母体保護法」に改められるとともに、目的について「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するととも に」との文言が「不妊手術及び人工妊娠中絶に関する事項を定めること等により」に、「優生手術」の語が「不妊手術」に改められ、遺伝性疾患等の防止のための手術及び精神病者等に対する本人の同意によらない手術に関する規定が削除されるなどした。(乙5ないし8) 当事者 ア原告1は、昭和●年●月●日に●●●内で出生した女性であり、生後約50日の時に発症した高熱が原因で耳が聞こえなくなり、後に聴覚障害2級(両耳全ろう)、言語機能喪失3級(言語機能喪失)の認定を受けた。 原告1は、現在は、手話、指文字、口話によって他者との意思疎通を行っている。(甲6の1、甲7、甲8) イ原告2は、昭和●年●月●日に●●●内で出生した男性であり、先天的な聴覚障害を有しており、聴覚障害2級(両耳全ろう)、言語機能喪失3級(言語機能喪失)の認定を受けた。さらに、原告2は、38歳の頃から 原告2は、昭和●年●月●日に●●●内で出生した男性であり、先天的な聴覚障害を有しており、聴覚障害2級(両耳全ろう)、言語機能喪失3級(言語機能喪失)の認定を受けた。さらに、原告2は、38歳の頃から視力が低下し、50歳で全盲になり、視力障害1級の認定を受けており、現在は、触手話によって他者との意思疎通を行っている。(甲6の1、甲 9、甲10)ウ原告1と原告2は、昭和●年●月●日、婚姻した。(甲6の1及び2)訴訟提起原告らは、令和元年12月13日、本件訴訟を提起した。(顕著な事実) 2 争点 原告1に対する優生手術の有無(争点1) 国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性(争点2) 国会議員による被害救済法の立法不作為の違法性(争点3) 原告らに対する損害の発生及びその額(争点4) 除斥期間の適用による原告らの損賠賠償請求権の消滅の有無(争点5) 3 争点に対する当事者の主張 原告1に対する優生手術の有無(争点1)【原告らの主張】ア原告1は、昭和49年●月●日、A県内で旧優生保護法12条に基づく優生手術を受けた。その経緯は、以下のとおりである。 原告1は、生後間もない時期に発症した高熱が原因で聴覚障害を有す るようになり、原告2は、先天的な聴覚障害を有していた。原告1と原告2は、いずれも言語能力に問題があるが、これらは、いずれも当時のろう学校での教育が不十分であったためにすぎないものであった。 原告1と原告2は、昭和49年●月当時、●●●内に生活の本拠を置いていたが、原告1は、原告2との間の長男(以下「原告ら長男」とい う。)の出産準備のため、A県内の実家に帰省し、同年●月●日、原告ら長男を出産した。とこ 年●月当時、●●●内に生活の本拠を置いていたが、原告1は、原告2との間の長男(以下「原告ら長男」とい う。)の出産準備のため、A県内の実家に帰省し、同年●月●日、原告ら長男を出産した。ところが、原告1の母は、原告1の言語能力の問題から原告1に知的障害ないし精神障害があるものと認識していたため、旧優生保護法12条に基づく優生手術について同意をしたことから、原告1は、原告ら長男の出生後間もない同月●日、何の事前の説明もなく 優生手術を受けさせられた。 イ仮に、原告1に対する優生手術が、旧優生保護法12条に基づくものでなかったとすれば、旧優生保護法3条に基づくものとみることになるが、そうであるとしても、原告らの真摯な同意など存在しないまま、同意があるものとみなして強行されたものにすぎない。 ウ被告は、本件訴訟において、当初は、原告1が優生手術を受けたことに つき、積極的に争う姿勢を示していなかったにもかかわらず、訴え提起から1年半以上を経過してから、突如としてこの点を積極的に争い始めたのであって、訴訟遅延を目的とすることは明らかである。したがって、原告1が優生手術を受けたことを否認する被告の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。 エ被告の上記主張が時機に後れた攻撃防御方法として却下されないとしても、原告1が優生手術を受けたことは、証拠により十分裏付けられている。 すなわち、原告1の腹部には、切開創が残存しており、その位置や形状は優生手術の術式の手術痕と合致している旨の医師による診断書(甲11、以下「本件診断書」という。)がある。 また、原告らが記憶する原告ら長男の出産後の経緯についてのエピソードや、原告ら長男が記憶する原告らの親族 ている旨の医師による診断書(甲11、以下「本件診断書」という。)がある。 また、原告らが記憶する原告ら長男の出産後の経緯についてのエピソードや、原告ら長男が記憶する原告らの親族との会話についてのエピソードは、いずれも上記アの経緯と整合するし、A県において昭和49年に実際に旧優生保護法12条に基づく優生手術が実施されたという記録(甲4の4参照)とも合致する。 オなお、原告1には、腹部に手術痕を残すような、子宮及び卵巣に係る疾患やイレウス等の既往歴はない。 カよって、原告1が昭和49年●月●日に優生手術を受けたことは明らかである。 【被告の主張】 ア原告1が優生手術を受けたことを否認する。 イ原告らは、原告1が優生手術を受けた裏付けとして、本件診断書を提出するが、原告1の腹部に残っているという切開創は、子宮及び卵巣に係る疾患やイレウス等の治療のための外科的手術によっても生じ得るものである。 なお、本件診断書には、原告1には既往歴がない旨の記載があるが、原 告らの主張によっても原告1は生後間もなく高熱を発症したというのであるのに、その旨の記載もなく、本件診断書をもって、原告1には、子宮及び卵巣に係る疾患やイレウス等がないということはできず、そうすると、他に原告1の既往歴について立証されていない本件において、原告1が優生手術を受けたことは、高度の蓋然性をもって立証されたものということ はできない。 国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性(争点2)【原告らの主張】ア旧優生保護法は、優生思想という誤った理念に基づき制定されたものであり、以下のとおり、憲法が定めた国民の人権規定に根底から違反するも のであ 性(争点2)【原告らの主張】ア旧優生保護法は、優生思想という誤った理念に基づき制定されたものであり、以下のとおり、憲法が定めた国民の人権規定に根底から違反するも のであって、その違憲性は明白である。 a 子を産むか否かは、人としての生き方の根幹に関わる意思決定であって、これを自らの自由な意思によって決定することは、自己決定権又は性と生殖に関する人格権として憲法13条によって保障されるとともに、性と生殖に関する自然権的な権利である、いわゆるリプロダ クティブ・ライツとして憲法13条、24条によって保障される。 b しかし、旧優生保護法が定める優生手術のうち、都道府県優生保護審査会の審査を要件とする優生手術については、一定の要件の下、本人の同意なく優生手術を行い得る旨を定めているのであるし、本人の同意による優生手術についても、国家から不良とみなされた対象者が 同意を求められる立場に置かれるものであり自由な意思決定に基づく同意があったと到底評価することはできないものであるから、それらのいずれもが対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ライツを侵害するものとして憲法13条、24条に違反している。 憲法13条は、全ての国民が個人として尊重されるべきという個人の 尊厳の原理を定めているが、個人の身体の統合性・完全性を維持するこ とは、個人の尊厳にとって最も基底的な要素の1つであり、個人の身体を他者が侵襲することは、憲法13条が規定する個人の尊厳の原理そのものに対する重大な侵犯であるというべきところ、旧優生保護法は、上記bのとおり、都道府県優生保護審査会の審査を要件とする優生手術のみならず、本人の同意による優生手術についても自由な意思決定に基 づく同意 重大な侵犯であるというべきところ、旧優生保護法は、上記bのとおり、都道府県優生保護審査会の審査を要件とする優生手術のみならず、本人の同意による優生手術についても自由な意思決定に基 づく同意があったと到底評価することはできないものであるから、いずれの場合についても、対象者の身体内部に強制的に侵襲し、身体に重大な改変を加えることを認めるものであるというべきであって、憲法13条に違反している。 人は、全て法の下に平等に扱われるべきであり、合理的な理由なく他 者と異なる扱いをすることは憲法14条によって保障された平等権を侵害するものであるところ、旧優生保護法は、特定の疾患や障害を負っている者を合理的な理由なく不良であるものと評価して優生手術の対象として扱い、差別するものであるから、憲法14条に違反している。 イそして、旧優生保護法が明白に違憲であることは、その制定当時におい ても同様であるのに、当時の国会議員において、このような明白に違憲な立法を行ったことで、原告らは、このような違憲な法律によって優生手術を受けることを強制されて、憲法が定めた種々の人権を侵害されたのであるから、その立法行為は、原告らに対する関係において、国家賠償法上違法であるというべきである。 【被告の主張】原告らの主張を争う。 国会議員による被害救済法の立法不作為の違法性(争点3)【原告らの主張】ア優生手術の被害者らは、上記【原告らの主張】のとおり、違憲無効な 法律によって、重大な人権侵害を受けたところ、被告は、旧優生保護法の 平成8年改正の後、以下のとおり種々の被害救済の要求等を受けてきた。 優生手術に対する謝罪を求める会(以下「求める会」という。)が平成9 を受けたところ、被告は、旧優生保護法の 平成8年改正の後、以下のとおり種々の被害救済の要求等を受けてきた。 優生手術に対する謝罪を求める会(以下「求める会」という。)が平成9年9月に結成されて、断続的に厚生労働省との面談が続けられ、平成11年には、被害者からの被害申告を前提として、厚生労働省に対して、被害の実態調査を実施するよう求めるなどした。 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)28条に基づき設置される人権委員会(以下「国際人権(自由権)規約委員会」という。)は、平成10年11月、日本政府に対し、強制不妊手術の対象となった者が補償を受ける権利を法律で規定するよう勧告を行った。 熊本地方裁判所は、平成13年5月11日、ハンセン病患者が国によ る隔離政策が人権侵害であるとして国家賠償を求めた裁判の判決を言い渡し、理由中において、ハンセン病患者が施設入居の条件として優生手術を半ば強制されていたことを指摘した。 平成16年3月24日に行われた参議院厚生労働委員会で、当時の厚生労働大臣は、優生手術の実態を調査し被害救済制度を導入すべきでは ないかという国会議員からの質問に対し、優生手術が行われた事実を踏まえて、優生手術の被害の実態調査や被害に対する補償の必要性を認める答弁(以下「本件答弁」という。)をした。 イ優生手術の被害の実態及び上記アのような経緯に照らせば、国会議員は、遅くとも平成16年3月24日の厚生労働大臣による本件答弁があ った時点において、優生手術による人権侵害の重大性と被害回復の必要性を認識し得た。 そして、優生手術の被害救済のためには、単に被害者からの申請をまって金銭給付を行うというものでは不十分であり、優生手術の被害者である障害 侵害の重大性と被害回復の必要性を認識し得た。 そして、優生手術の被害救済のためには、単に被害者からの申請をまって金銭給付を行うというものでは不十分であり、優生手術の被害者である障害者が救済手続に現実にアクセスすることができるよう、障害者 にとって容易かつ認識可能な手段・態様によって、救済内容や手続等に ついて積極的な広報・情報提供を行うことが内容とされなければならない。このことからも明らかなとおり、優生手術の被害の実態に照らせば、国家賠償法の規定では、優生手術の被害救済の手段として不十分である。 以上によれば、当時の国会議員は、本件答弁があった平成16年3月24日には、優生手術の被害者を救済するため、金銭的な補償のほか、 障害者である被害者らにも容易に認識できる手段・態様による積極的な広報・情報提供を盛り込んだ立法措置を講ずべき義務を負っていたというべきである。 ウそして、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであること が明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、その立法不作為は、国家賠償法上違法であるというべきところ、被告は、これまで、平成31年4月に施行された旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下「一時金法」という。)を制定しただけで、 現在に至るまで上記イの立法措置がなされていない。 そうすると、この点についての立法不作為は、憲法17条で国民に保障されている国家賠償請求権の行使の機会を合理的な理由なく制約するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわ うすると、この点についての立法不作為は、憲法17条で国民に保障されている国家賠償請求権の行使の機会を合理的な理由なく制約するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠っているものというべきである。そして、原告らは、この 立法不作為により、被害回復がされずにいることから、この立法不作為は、原告らに対する関係で国家賠償法上違法であるというべきである。 【被告の主張】ア一般に、不法行為に基づく損害賠償制度は、金銭賠償の方法による損害賠償義務が発生するものの特段の定めのない限りそれ以外の作為義務は生 じないのであり、民法上の不法行為制度の規律を国家賠償制度に導入した 国家賠償法においても同様である。 したがって、ある不法行為を先行行為として、これと相当因果関係にある損害を回復する措置を怠る不作為が先行行為とは別の不法行為を構成する余地はなく、そのような損害は先行行為についての不法行為責任として回復が図られるべきである。そのように解釈しなければ、不法行為に基づ く損害賠償請求権について消滅時効・除斥期間の適用があるとされた趣旨が没却される。 本件においても、原告らは、旧優生保護法の立法行為が国家賠償法上、違法である旨を主張しているのであるから、これと別個に、被害回復の措置の不作為が原告らに対する不法行為を構成するという原告らの主張は失 当である。 イ仮に、そうでないとしても、当時の国会議員が優生手術を受けた者に対する救済のための立法措置をとらなかったことが国家賠償法上違法と評価することはできない。 すなわち、原告らが主張する立法措置は、既にある違憲な立法の改正 を怠るような場合ではなく、国民に権利行使の機会を与えるた 置をとらなかったことが国家賠償法上違法と評価することはできない。 すなわち、原告らが主張する立法措置は、既にある違憲な立法の改正 を怠るような場合ではなく、国民に権利行使の機会を与えるための立法の不作為であって、このような立法不作為における違法性の有無は、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合に当たるか否 かによって判断されるべきである。 しかし、優生手術を受けた者の被害を救済するための金銭的補償の制度としては、国家賠償法が既に存在しており、原告らには、国家賠償法により優生手術の被害に係る国家賠償請求権を行使する機会が確保されていた。そうすると、原告らが主張する事情を前提としても、旧優生保 護法が改正された後に、国家賠償法とは別に優生手術の被害に対して金 銭的補償等を行う立法措置や、国家賠償請求の手段等について広報・情報提供をする立法措置を講ずることが必要不可欠であり、それが明白であったとはいえない。 したがって、国会議員が本件立法措置を講ずべき義務を負うということはできず、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法と評価 されることはない。 原告らに対する損害の発生及びその額(争点4)【原告らの主張】ア原告1は、意に反する優生手術を受けさせられたことにより、性と生殖に関わる基本的な人権を根底から侵害されるとともに、身体への強制的侵 襲・不可逆的改変を受け、個人の尊厳を踏みにじられた。このことによる身体的苦痛及び精神的苦痛は甚大である。また、原告2も、原告1と同様に、性と生殖に関わる基本的な とともに、身体への強制的侵 襲・不可逆的改変を受け、個人の尊厳を踏みにじられた。このことによる身体的苦痛及び精神的苦痛は甚大である。また、原告2も、原告1と同様に、性と生殖に関わる基本的な人権を根底から侵害されて甚大な精神的苦痛を受けた。 そして、これら原告らの身体的苦痛ないし精神的苦痛を慰謝するに足り る金額は、原告らそれぞれにつき、3000万円を下らず、これと相当因果関係のある弁護士費用は、原告らそれぞれにつき、300万円が相当である。 イそこで、原告らは、被告に対し、これらの損害の一部請求として、それぞれ慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の1100万円ずつ及 びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 【被告の主張】原告らの主張を争う。 除斥期間の適用による原告らの損賠賠償請求権の消滅の有無(争点5) 【被告の主張】 仮に、原告らが国会議員による旧優生保護法の立法行為によって被告に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得したとしても、原告1に対する手術は、原告らの主張によっても昭和49年●月●日に実施されたものであるというのであるから、同請求権は、以下のとおり、既に20年の除斥期間を経過しており、国家賠償法4条及び民法724条後段により、 当然に消滅している。 ア除斥期間の起算点について 民法724条後段の規定の法的性質が除斥期間を定めたものであることは確立した判例法理であり、その趣旨は、不法行為を巡る法律関係の速やかな確定を意図して、同条後段所定の20年の期間は、被害者側の 認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律 ものであることは確立した判例法理であり、その趣旨は、不法行為を巡る法律関係の速やかな確定を意図して、同条後段所定の20年の期間は、被害者側の 認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものである。 そして、このような規定の趣旨や「不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」との規定の文言に照らして、その起算点は、加害行為時とみるべきことは明らかであり、不法行為により発生する損 害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生するという客観的な関係が認められる例外的な場合を除いて、起算点を被害者側の権利行使の可能性の観点から解釈することはできないものというべきである。 本件についてみると、原告1の主張を前提としても、国会議員による 違法な旧優生保護法の立法によって、原告1が昭和49年●月●日に意思に反して優生手術を受けさせられて損害を受けたというのであるから、同日の優生手術という一回的な行為によって加害行為があったのであり、同日が除斥期間の起算点となることは明らかである。 原告らは、不法行為の時から除斥期間の進行を認めると被害者にとっ て著しく酷であり、加害者としても、自己の行為により生じ得る損害の 性質からみて、不法行為の時から相当の期間が経過した後に、被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきと評価される場合には、除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とすべきであり、本件では、厚生労働大臣による本件答弁があった平成16年3月24日が起算点である旨を主張するが、独自の見解というほかなく失当である。 イ除斥期間の適用の制限について旧優生保 り、本件では、厚生労働大臣による本件答弁があった平成16年3月24日が起算点である旨を主張するが、独自の見解というほかなく失当である。 イ除斥期間の適用の制限について旧優生保護法の立法行為の違法に基づく原告らの損害賠償請求権について、除斥期間の適用制限が認められるか否かについてみると、除斥期間の適用制限を例外的に認める判例法理は、除斥期間について、時効停止に係る規定が適用されないことを前提に、民法158条ないし160 条において定められている時効停止事由のように法に定められた権利行使等の措置を執ることが不可能又は著しく困難といえる客観的な事由があり、かつ、それらの事由が債務者の不法行為に起因するため、時効停止に係る規定が適用されないことによる不利益を甘受させることが著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある場合に限り、上記時効停 止事由等を定めた民法の規定の法意を参照することにより除斥期間の効果が生じないようにしたものである。 a しかし、本件においては、原告らが除斥期間内に損害賠償請求をすることができなかった事情について、時効停止事由に該当するような除斥期間の規定の適用を制限する根拠となる法の規定も、そのような 根拠規定に定められた権利行使等の措置を執ることが不可能又は著しく困難といえる客観的な事由は何ら存在しない。 原告らは、原告らの障害、日本社会に残存する優生思想や差別意識等の事情を基に、除斥期間の規定の適用を制限する根拠となる法の規定がなくとも上記特段の事情があるものとみるべき旨を主張するが、 上記判例法理は、極めて例外的な場合に除斥期間の適用の制限を認め たものであり、原告の主張は相当でない。 b さらに、原告らにおいて除斥期間内に損害賠償請求をすることがで るが、 上記判例法理は、極めて例外的な場合に除斥期間の適用の制限を認め たものであり、原告の主張は相当でない。 b さらに、原告らにおいて除斥期間内に損害賠償請求をすることができなかった事由を被告が積極的に作出したこともない。 原告らは、被告が障害者に対する差別・偏見を蔓延・増幅させた旨主張するが、むしろ被告は、かつての民法(明治29年法律第89号) で「聾者、唖者、盲者」について行為能力を制限されていたところ、昭和54年の改正により、これらの者は私法上の制限能力者ではないものとされ、昭和56年以降、法令上の障害に関する用語の整理のため、順次法改正等を行い、昭和59年には身体障害者福祉法を、昭和62年には精神衛生法を、平成5年には精神保健法及び心身障害者対 策基本法をそれぞれ改正して障害者の社会参加を促し、平成8年改正によって旧優生保護法を改正し、その後も、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律の制定、障害者自立支援法、障害者の雇用の促進等に関する法律の改正、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の制定を行う等、旧優生保護法に基づく優生 手術の対象であった障害者等に対する差別等の温床ともなり得る法律について必要な改正を行うなどし、旧優生保護法の平成8年改正の前後を通じて、一貫して障害者等に対する差別の解消のための取組を行ってきたのであって、少なくとも平成8年改正以降、被告が障害者等に対する差別・偏見を蔓延・増幅した事実はない。 したがって、本件は除斥期間の適用を制限すべき例外的な場合には該当しない。 ウ除斥期間の規定の法令違憲について 除斥期間の規定が憲法17条の規定との関係で、意味上の一部違憲であるか否かについてみると、そもそも民法7 べき例外的な場合には該当しない。 ウ除斥期間の規定の法令違憲について 除斥期間の規定が憲法17条の規定との関係で、意味上の一部違憲であるか否かについてみると、そもそも民法724条後段を適用する国家 賠償法4条は、民法上の不法行為制度の規律を国家賠償制度に導入して 公務員の不法行為に基づく損害賠償の制度を構築したものであり、憲法17条が要請する国家賠償制度の本旨の一つを成す規定というべきものであって、何ら憲法17条に反するものではない。 また、仮に、国家賠償法4条、民法724条後段の各規定が、憲法17条において要請される損害賠償請求権を制約するものであったとして も、法律関係を確定させるために請求権の存続期間を画一的に定めるという上記各規定の趣旨・目的は正当である上、20年という期間が相当程度長期間であることを踏まえると、上記各規定は、上記目的を達成するための手段として不合理とはいえないし、そもそも憲法17条は、国会に対し、民法上の不法行為制度を超える保護を国民に付与することま で要請し又は義務付けているとは解し得ない。 そうすると、国家賠償法4条が、民法724条後段を適用して国家賠償法に基づく損害賠償責任につき、民法上の不法行為に基づく損害賠償責任と同じ存続・消滅に係る規律に服するものとしたことも合理的である。 原告らは、国家賠償法4条、民法724条後段の各規程のうち、「優生手術の被害者らの国に対する損害賠償請求権」に適用される部分が違憲であるとし、上記各規程について意味上の一部違憲を主張するが、法令の規定のうちいかなる部分が違憲無効というのか不明であって、合憲部分と違憲部分との線引きが不明確であるから、意味上の一部違憲の判 断手法自体に誤 規程について意味上の一部違憲を主張するが、法令の規定のうちいかなる部分が違憲無効というのか不明であって、合憲部分と違憲部分との線引きが不明確であるから、意味上の一部違憲の判 断手法自体に誤りがある。 したがって、国家賠償法4条、民法724条後段の規定は、憲法17条に違反して違憲とはいえない。 エ除斥期間の規定の適用違憲について上記ウのとおり、憲法17条は、国又は公共団体が公務員の行為によ る不法行為責任を負うことを原則とした規定であって、違法行為の態様や その違法性の強弱等といった個別事情に応じて異なった規律を設けることまで要請するものではないのであって、国家賠償法4条、民法724条後段を原告らに適用することが違憲であるとはいえない。 【原告らの主張】ア除斥期間の起算点について 最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁(筑豊じん肺訴訟)及び最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁(水俣病関西訴訟)の2つの最高裁判例で確立された判例法理によれば、①不法行為の時から除斥期間の進行を認めると被害者にとって著しく酷であり、②加害者としても、自己の 行為により生じ得る損害の性質からみて、不法行為の時から相当の期間が経過した後に、被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきと評価される場合には、除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とすべきである。 本件についてみれば、原告らは、いずれも聴覚障害及びそれに伴う発 達上の障害を有しており、除斥期間内に、旧優生保護法の違憲性やそれに基づく優生手術の違法性を自ら理解し、国家賠償請求訴訟という救済手段があることを 原告らは、いずれも聴覚障害及びそれに伴う発 達上の障害を有しており、除斥期間内に、旧優生保護法の違憲性やそれに基づく優生手術の違法性を自ら理解し、国家賠償請求訴訟という救済手段があることを認識し、実際にこれを提起することは不可能又は著しく困難である。 そして、障害者にとって、司法アクセスに対する制約は、現在でも残 存しているところ、優生手術が実施された昭和49年当時の司法を巡る状況に照らせば、その制約の程度は、より一層大きかったし、当時のろうあ者に対する社会的差別や偏見の風潮を併せ考慮すれば、司法アクセスへの制約は極めて大きなものであった。 そうすると、原告1に対して優生手術が実施された時を除斥期間の起 算点として除斥期間の進行を認めることは、被害者である原告らにとっ て著しく酷であるというべきである。 一方、被告は、旧優生保護法が障害者を対象とするものであり、当該障害者が優生手術の意味、違法性、救済手段の有無等を容易に理解できないことを想定しており、損害賠償請求がなされるとすれば、旧優生保護法や優生手術が違法であるとの認識が世間に広く共有された時点、す なわち優生手術が行われていた当時から相当の期間が経過した後であることを予期すべきであった。 以上によれば、原告1に対して優生手術が実施された時を除斥期間の起算点とすべきではなく、原告らが優生手術による損害について損害賠償請求権を行使することができるようになった時から除斥期間は進行す るとすべきであり、それは、早くとも、厚生労働大臣が本件答弁において優生手術の実態調査・補償の必要性に言及し、原告らにおいて優生手術の被害が重大な人権侵害であって救済を受けるべきものであると認識し得た平成16年3 、それは、早くとも、厚生労働大臣が本件答弁において優生手術の実態調査・補償の必要性に言及し、原告らにおいて優生手術の被害が重大な人権侵害であって救済を受けるべきものであると認識し得た平成16年3月24日と解すべきである。 したがって、国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法に係る国 家賠償請求については、除斥期間が経過していない。 イ除斥期間の適用制限について 仮に除斥期間の起算点が平成16年3月24日よりも以前であるとしても、最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁及び最高裁平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻 4号853頁の2つの最高裁判例で示されたとおり、当該事案に除斥期間の適用を認めることが正義・公平に反する結果となる場合には、除斥期間の適用は制限されるものと解すべきである。 そして、上記2つの最高裁判例において、個別の事案において解決を図るに当たり、民法158条及び160条の法意を参照した趣旨は、当 該事案において、損害賠償請求権の債務者が、権利者による権利行使の 合理的期待可能性がない状態を作り出したにもかかわらず、除斥期間の経過により損害賠償請求権が消滅するという帰結が著しく正義・公正に反するものであって、損害賠償請求権の行使につき合理的期待可能性がない点に消滅時効の停止に関する規定との共通点を見出して、これらの条文を参照したものであり、その背景にある考え方からすれば、必ずし も消滅時効の停止に関する条文を参照できることが除斥期間の適用の制限の条件ではないし、仮に、参照すべき条文がない場合であっても、除斥期間の経過により損害賠償請求権が消滅するという帰結が著しく正義・公正に反するものであったときには、 できることが除斥期間の適用の制限の条件ではないし、仮に、参照すべき条文がない場合であっても、除斥期間の経過により損害賠償請求権が消滅するという帰結が著しく正義・公正に反するものであったときには、個別の事案毎に除斥期間の適用を制限すべきである。 本件についてみれば、まず、本件における被告の加害行為は、違憲な立法に基づいた原告1の意思に反する優生手術であり、これ自体が極めて悲惨かつ凄惨な人権侵害を伴うものである。 そして、原告らが、障害者による司法アクセスの障害があったこと及び旧優生保護法の制定により社会的差別や偏見が強化・増幅されたこと などの要因により、本件の訴訟提起をすることが不可能又は著しく困難であったことは、上記アのとおりであるが、この要因を作出したのは、旧優生保護法を制定して、その後も必要な被害調査やその結果の公表を含む司法アクセスの障害の除去について何ら積極的な対策を行わなかった被告である。 加えて、除斥期間の制度趣旨は法律関係の速やかな確定にあると解されるが、私人間の法律関係の調整を超えて、本件のように国家が重大な人権侵害を行った場合において、法律関係を速やかに確定することにより、被害者である原告らの犠牲の下、加害者である被告の利益を保護することを許容する趣旨とは解されない。 上記の各事情に鑑みれば、本件に除斥期間の規定を適用すれば、著し く正義・公平に反する結果となることは明らかであるから、民法158条ないし161条の法意を参照して、又は、参照すべき条文がないとしても、除斥期間の適用は制限されると解すべきである。 ウ除斥期間の規定の法令違憲について仮に、除斥期間の起算点や適用の制限についての原告の主張が採用され 、又は、参照すべき条文がないとしても、除斥期間の適用は制限されると解すべきである。 ウ除斥期間の規定の法令違憲について仮に、除斥期間の起算点や適用の制限についての原告の主張が採用され ない場合には、以下のとおり、除斥期間の規定が、意味上の一部違憲となるべきことを主張する。 本件において、民法724条後段を理由に損害賠償義務が免除されることになれば、国家賠償法4条及び民法724条後段によって、障害者を一律に不良と断じ、その子孫の出生を防止するという非人道的でその目的自 体違憲であることが明らかな法律を制定し、それに基づいて実際に、本人の同意なく、卵管を縛るなどの身体への侵襲を伴う手術を実施し、被害者に不可逆的な身体的変更を強いておきながら当該違憲な法令によって増幅した優生手術対象者に対する社会的差別・偏見及びこれに起因する司法アクセスへの障害によって、同手術の被害者らが国家賠償請求訴訟を提起し ないことを奇貨として、優生手術の被害等について、調査・公表することなく、同手術から20年の経過を待った事案において加害者たる被告の損害賠償義務が免除されることになる。すなわち、国家賠償法4条によって準用される民法724条後段には、「障害者を一律に不良と断じ、その子孫の出生を防止するという非人道的でその目的自体、違憲であることが明 らかな法律を制定し、それに基づいて、実際に、本人の同意なく、卵管を縛る等の身体の侵襲を伴う手術を実施し、被害者に不可逆的な身体的変更を強いておきながら、当該違憲な法令によって増幅した優生手術対象者に対する社会的差別・偏見及びこれに起因する司法アクセスへの障害によって同手術の被害者らが国家賠償請求訴訟を提起しないことを奇貨として、 優生手術の被害等について、調査・公表すること 術対象者に対する社会的差別・偏見及びこれに起因する司法アクセスへの障害によって同手術の被害者らが国家賠償請求訴訟を提起しないことを奇貨として、 優生手術の被害等について、調査・公表することなく、同手術から20年 の経過を待った事案においても同様とする」という不文のなお書きがあるのと同じ結果になる。 そして、このような不文のなお書きが、憲法17条との関係での憲法適合性の審査の在り方を判示した郵便法違憲判決(最高裁平成14年9月11日大法廷判決・民集56巻7号1439頁)に照らし、憲法17条が定 める立法裁量を逸脱するものであって、違憲無効であることはいうまでもない。したがって、民法724条後段は、憲法17条に反して意味上の一部違憲である。 エ除斥期間の規定の適用違憲について仮に、国家賠償法4条、民法724条後段が、法令違憲(意味上の一部 違憲)ではないとしても、原告らは、優生手術によって不可逆的かつ重大な人権侵害を受けたにもかかわらず、同優生手術の時点では、旧優生保護法により蔓延、増幅されたスティグマと司法アクセス障害により、国家賠償請求権を行使することが著しく困難であったのであるから、本件において、原告らの取得した国家賠償請求権について除斥期間の規定を適用する ことは、原告らの有する国家賠償請求権を不当に制約するものとして、憲法17条に違反して違憲である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記争いのない事実等に後掲各証拠等を併せ考慮すれば、以下の事実が認め られる。 旧優生保護法の成立旧優生保護法は、昭和23年7月13日、成立した。 旧優生保護法は、戦後の食糧不足の状況の中、国会に提出されて審議された法案で、同年6月19日開催の 旧優生保護法の成立旧優生保護法は、昭和23年7月13日、成立した。 旧優生保護法は、戦後の食糧不足の状況の中、国会に提出されて審議された法案で、同年6月19日開催の参議院厚生委員会において、立案者の一人 が、提案の理由について、「対策として考えらるることは産児制限問題であ ります。併しこれは余程注意せんと、子供の将来を考えるような比較的優秀な階級の人々が普通産児制限を行い、無自覚者や低脳者などはこれを行わんために、国民素質の低下すなわち民族の逆淘汰が現れてくるおそれがあります。」、「先天性の遺伝病者の出生を抑制することが、国民の急速なる増加を防ぐ上からも、また民族の逆淘汰を防止する点からいっても、極めて必要 であると思いますので、ここに優生保護法案を提出した次第であります。」などと説明していた。(甲1の1、甲2、弁論の全趣旨) 昭和50年頃までの優生政策についての状況等ア昭和45年当時の高等学校用の保健体育の教科書には、国民優生の意義について説明する部分があり、その中で、「劣悪な遺伝素質をもっている 人びとに対しては、できるかぎり受胎調節をすすめ、必要な場合は、優生保護法により、受胎・出産を制限することができる。また、国民優生思想の普及により、人びとがすすんで国民優生政策に協力し、劣悪な遺伝病を防ぐことがのぞましい。」との記載がされている。(甲37の1)イ昭和47年当時の高等学校用の保健体育の教科書にも、国民優生の意義 についての説明の中で、「劣悪な遺伝は社会生活を乱し、国民の健康の水準を低下させる。」、「劣悪な遺伝を除去し、健全な社会を築くために優生保護法があり」、「国民優生の目標は、国民の資質向上を図ることで、母体の健康および経済的保護と、不良な子 活を乱し、国民の健康の水準を低下させる。」、「劣悪な遺伝を除去し、健全な社会を築くために優生保護法があり」、「国民優生の目標は、国民の資質向上を図ることで、母体の健康および経済的保護と、不良な子孫の出生を予防するという二つの目的が含まれる。第1の目的は、家族計画により達成される。第2の目 的は、国民優生本来のもので、精神分裂症、躁鬱病、先天性白内障、全色盲、血友病、遺伝性奇形などの悪質な遺伝性疾病が子孫にあらわれるのを予防するために、優生保護法により、優生手術や人工妊娠中絶を行ないうることとなった」、「すぐれた才能の人が正しい結婚によって優秀な子孫をもうけた例は少なくない。逆に、悪質の遺伝によって精神病者や犯罪者 を出した例もある。」、「国民優生においては、とくに悪質な遺伝性疾患 が伝えられることを防止することが重要とされている。遺伝性疾患のなかでも、精神分裂症や躁うつ病などの精神病・精神病質・精神薄弱などはその影響が大きい。遺伝性の身体疾患としては、色盲・血友病・先天性ろうあ・多指症・小頭症などがある。アルコール中毒も劣悪なこどもを出生させるのでとくに注意しなければならない。」、「優生結婚の立場からは自 らの家系の遺伝病患者の有無を確かめるとともに、相手の家系についてもこのことをよく確かめることが先決問題である。」などの記載がされている。(甲37の2ないし4)ウ兵庫県は、昭和41年4月から、優生思想に基づいた「不幸な子どもの生まれない施策」を実施し、5年後には、同施策で提唱された「不幸な子 どもの生まれない運動」が全国的な運動になるなどした。(甲40、弁論の全趣旨)エ知的障害を持つ親同士によって結成された知的障害者の支援団体である全国手をつなぐ育成会連合会の当時の機関紙「手 もの生まれない運動」が全国的な運動になるなどした。(甲40、弁論の全趣旨)エ知的障害を持つ親同士によって結成された知的障害者の支援団体である全国手をつなぐ育成会連合会の当時の機関紙「手をつなぐ」においても、昭和31年から昭和46年にかけて、複数回にわたり、知的障害者の出産 を認めず、知的障害者同士の結婚について不妊手術を条件とする学識者による記事や上記「不幸な子どもを産まない運動」を肯定的に取り上げた当時の厚生省の技官による記事等が掲載されていた。(甲38、証人B、弁論の全趣旨)オ婦人生活社が昭和47年2月に発行した大衆雑誌「婦人生活」に掲載さ れた国立遺伝研究所人類遺伝部長による「結婚生活と遺伝」と題する記事中には、「一人の異常児はその子や家族の不幸だけでなく、社会全体の負担になることも考えれば、私たちは良識をもって、少しでもこの不幸を少なくする義務があります」、「悪性遺伝を防ぐためには、配偶者を選ぶ段階で充分に注意してほしいのです」等の記述がある。(甲39) 昭和50年代以降の法改正等 被告は、昭和50年代に入って、従前は、知的障害を持つ児童について認められていた就学免除の制度の廃止や、民法上の行為能力の規定に関し、ろうあ者等を準禁治産者から除外するなどの改正をしたほか、障害に関する用語の整理や障害者の社会参加を促す各種の法改正や法整備を行うなどした。 (証人B、顕著な事実) 平成8年改正優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)は、平成8年6月18日、成立し、平成8年改正がされた。 上記改正法の法案審議に際しては、同月17日開催の参議院厚生委員会において、立案者の一人が「本案は、現行の優生保護法の目的その他の規定の 成8年6月18日、成立し、平成8年改正がされた。 上記改正法の法案審議に際しては、同月17日開催の参議院厚生委員会において、立案者の一人が「本案は、現行の優生保護法の目的その他の規定の うち不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく部分が障害者に対する差別となっていること等にかんがみ、所要の規定を整備しようとするもの」などと説明した。(乙5、7、弁論の全趣旨) 全国における優生手術の実施旧優生保護法が施行後、昭和24年から平成8年までの間に、旧優生保護 法4条ないし13条に基づいて行われた優生手術の数は、同法4条の審査申請によるものが合計1万4566件、同法12条の審査申請によるものが合計1909件であり、同期間中に、同法3条に基づいて行われた優生手術の数は、遺伝性疾患等を理由とするものが6965件、ハンセン病を理由とするものが1551件であった。(甲4の1ないし5) ⑹ 原告1が原告ら長男を出生した前後の状況等ア原告1と原告2は、ろう学校時代の教師の紹介で知り合い、原告1の母の反対はあったものの、昭和●年●月に結婚式を挙げ、昭和●年●月●日に入籍して、●●●で同居生活をするようになった。 原告1は、同年、原告ら長男を懐妊した。原告1の母方の親族は、聴覚 障害を持った原告1が子を生み育てることについて反対していたものの、 原告1は、同年●月頃、出産準備のため原告1の実家に帰省し、同年●月●日、原告ら長男を自然分娩で出産した。(甲6の1及び2、甲8、10、33、証人原告ら長男、原告1本人、原告2本人)イ原告1は、昭和49年●月●日、原告ら長男を出産した産婦人科で事前に何の説明もなく、手術を受けさせられた。原告1は、手術後、原告1の 母から、子ど 証人原告ら長男、原告1本人、原告2本人)イ原告1は、昭和49年●月●日、原告ら長男を出産した産婦人科で事前に何の説明もなく、手術を受けさせられた。原告1は、手術後、原告1の 母から、子どもは一人いればよい旨の発言を聞いて、母の判断で自分が不妊手術を受けたものと認識した。原告2は、その後、原告1及び原告ら長男の面会に訪れ、その際に初めて原告1が不妊手術を受けたことを聞いた。 原告らは、いずれも、それらの不妊手術が旧優生保護法に基づく優生手術であることは知らされていなかった。(甲8、10、32、33、原告1 本人、弁論の全趣旨)ウ原告1の身体には、下腹部の臍下11cm、恥骨上6.5cmの正中線上の位置に長さ4.0cm、幅0.1cmの横切開創が残存している。一般に、不妊手術には、卵管圧ざ結さつ法、卵管結さつ切断法、卵管間質部けい状切除法、卵管部分切除法などの様々な方法があり、さらに卵管に到 達する方法として、腹式、膣式、鼠径式がある。腹式を採用する場合、開腹操作は、他の手術に併用するものでなく、小切開で足りるときは、臍と恥骨結合の間で子宮底の高さに応じてなるべく皮膚横皺壁に一致させて約2~3cmの横切開を行うこととされている。令和元年に原告1を診察した医師は、同年8月5日付けで、原告1について、一時金法に基づく一時 金支給請求のための定型の診断書を作成し、その中で、原告1の下腹部の切開創が優生手術の術式の1つであった腹式両側卵管結紮術の痕跡として矛盾はない旨を記載した。 また、同診断書には、原告1について、既往歴はない旨が記載されている。(甲11、26、27、弁論の全趣旨) エ原告ら長男は、平成31年4月頃、原告1の母に架電して、原告1の不 妊手術について事情を確認した。その際、 往歴はない旨が記載されている。(甲11、26、27、弁論の全趣旨) エ原告ら長男は、平成31年4月頃、原告1の母に架電して、原告1の不 妊手術について事情を確認した。その際、原告1の母は、原告ら長男に対し、原告1について不妊手術がされたこと、子宮は切除せずに結さつしたこと、子供が1人いるからこれ以上はいらないと思ったこと、事前に原告1の同意を得ていないことなどを説明した。また、原告1の母は、不妊手術について事前に原告1の同意を得ていない理由について、「あの子は頭 がおかしい」旨の発言をしており、原告1の母は、原告1について、知的障害があるものと認識していた。(甲12、甲36、証人原告ら長男、弁論の全趣旨)オ A県では、昭和29年から平成8年までに旧優生保護法12条に基づく優生手術は、全部で2件しか実施されていないところ、そのうち1件が昭 和49年に実施された。(甲4の4)⑺ 平成8年改正後の優生手術の被害救済の要請等に関する事実経過ア優生手術の被害者の支援者等は、平成9年9月に求める会を結成し、断続的に厚生労働省との会合を続けるようになり、平成11年10月に行われた会合では、求める会が優生手術による被害申告をするとともに、厚生 労働省に実態調査をするよう求めたが、厚生労働者はその求めには応じなかった。(弁論の全趣旨)イ国際人権(自由権)規約委員会は、平成10年11月19日、日本政府に対し、同委員会は、障害を持つ女性の強制不妊の廃止を認識する一方、法律が強制不妊の対象となった人達の補償を受ける権利を規定していない ことを遺憾に思い、必要な法的措置がとられることを勧告する旨の見解(以下「平成10年勧告」という。)を示した。(甲15)ウ日弁連は、被告に た人達の補償を受ける権利を規定していない ことを遺憾に思い、必要な法的措置がとられることを勧告する旨の見解(以下「平成10年勧告」という。)を示した。(甲15)ウ日弁連は、被告に対し、平成13年11月に、平成10年勧告に関する優生手術の対象者に対する補償措置を講ずるべきである旨の意見表明をした。(甲22) エ厚生労働大臣は、平成16年3月24日の参議院厚生労働委員会におい て、優生手術の実態調査及び救済制度の導入の必要性についての国会議員からの質問に対し、「こういう歴史的な経緯がこの中にあったということだけは、これはもう、ほかに言いようのない、これはもう事実でございますから、そうした事実を今後どうしていくかということは、今後私たちも考えていきたいと思っております。」との本件答弁をした。(甲5、弁論 の全趣旨)オ被告は、平成18年12月、国際人権(自由権)規約委員会において、平成10年勧告を踏まえ、「旧優生保護法に基づき適法に行われた手術については、過去にさかのぼって補償することは考えていない」旨の報告を行い、国際人権(自由権)規約委員会は、平成20年10月30日及び平 成26年8月20日、日本政府に対し、いずれも、平成10年勧告を念頭に置いて、勧告の多くが履行されていないことの懸念と同委員会の見解における勧告を実施すべきである旨の見解を示した。しかし、被告は、これらの勧告に対し、当時、その内容を踏まえた措置を講ずることはなかった。 (甲16、17、弁論の全趣旨) カ国連女性差別撤廃委員会は、平成28年3月7日、被告に対し、旧優生保護法に基づき行った女性に対する強制的な優生手術について実態の調査を行った上で、加害者を訴追し、有罪の場合は適切な処罰を行うこと カ国連女性差別撤廃委員会は、平成28年3月7日、被告に対し、旧優生保護法に基づき行った女性に対する強制的な優生手術について実態の調査を行った上で、加害者を訴追し、有罪の場合は適切な処罰を行うこと、被害者を支援し、被害者が法的救済を受け、補償とリハビリテーションの措置の提供を受けられるようにするための具体的な取組を行うことを勧告す る旨の見解を示した。(甲18)キ日弁連は、平成19年12月、平成27年3月、同年12月に、いずれも被告が平成10年勧告以降、強制不妊措置に関する何らの実態調査や補償を行っていないことなどを指摘して、それらを実施するよう求める意見表明などを行い、平成29年2月16日には、旧優生保護法に基づく優生 手術及び人工妊娠中絶が、対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ラ イツを侵害し、遺伝性疾患、ハンセン病、精神障害等を理由とする差別であったことを認め、被害者に対する謝罪、補償等の適切な措置を速やかに実施すべきこと、旧優生保護法に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に関連する資料を保全し、これら優生手術及び人工妊娠中絶に関する実態調査を速やかに行うべきことなどを内容とする意見書を発表した。(甲19、2 1、22)⑻ 優生手術の対象者による国家賠償請求訴訟の提起の状況ア優生手術の対象者だったとする者の1人が、平成30年1月30日、仙台地方裁判所に対し、被告を相手方として優生手術による被害について国家賠償を求める訴訟を提起(以下「仙台訴訟」という。)した。(顕著な 事実)イそれまで、優生手術による被害について国家賠償を求める訴訟が提起されたことはなかったが、平成30年中に、同様の訴訟が他の複数の地方裁判所にも提起された。(弁論の全趣旨、顕著な事実)⑼ 仙台訴訟 それまで、優生手術による被害について国家賠償を求める訴訟が提起されたことはなかったが、平成30年中に、同様の訴訟が他の複数の地方裁判所にも提起された。(弁論の全趣旨、顕著な事実)⑼ 仙台訴訟の提起後の被害救済についての措置等 ア被告は、平成30年3月28日、都道府県、保健所設置市及び特別区に対し、優生手術の関係資料の保全を依頼し、同年4月25日に同資料の保管状況に関して調査を開始した後、同年9月6日に同調査の結果を公表した。また、被告は、同年4月25日、医療機関等に対し、優生手術の関係資料の保全を依頼し、同年7月13日に医療機関等における同資料の保管 状況に関して調査を開始した後、同年10月31日に同調査結果を公表した。(弁論の全趣旨)イ一時金法は、平成31年4月に成立、施行された。(弁論の全趣旨) 原告らが本件訴訟を提起するに至った状況等ア原告1は、原告ら長男の妻が子を出産した後、2人目の子の話題になっ た際、原告ら長男の妻に対し、原告1が不妊手術をしたことを伝えていた が、原告1、2、原告ら長男、原告ら長男の妻は、それまでいずれも旧優生保護法の存在を知らず、それが優生手術であることについては認識していなかった。(甲36、原告1本人)イ原告ら長男及びその妻は、平成30年頃に仙台訴訟が始まった旨のニュースを見て、原告ら長男又はその妻において、原告1に対し、原告1が優 生手術の被害者でないか指摘するなどしたが、原告1は、その話題をしばらく避けていた。 ウ原告2は、38歳の頃から視力が低下して、50歳で全盲になってからは、原告1やそれ以外の人とは、触手話で意思疎通をしていた。原告2も、原告ら長男及びその妻が仙台訴訟のニュースを見たことを契機として、原 告1が優 から視力が低下して、50歳で全盲になってからは、原告1やそれ以外の人とは、触手話で意思疎通をしていた。原告2も、原告ら長男及びその妻が仙台訴訟のニュースを見たことを契機として、原 告1が優生手術を受けたことを知った。(甲10、33、弁論の全趣旨)エ原告ら長男は、平成31年4月9日、旧優生保護法の被害者についての救済訴訟の大阪弁護団の窓口の事務所に電話をかけて本件の訴訟に関する相談をし、原告1は、同月10日、原告ら長男からその報告を受けて、訴訟を提起する意向を固め、同じころ、原告2も同様の意向を固めた。(甲 8、10、12、32、33、弁論の全趣旨) 2 争点1(原告1に対する優生手術の有無)について 検討前記認定事実⑹ウによれば、原告1の下腹部には切開創が残存しているところ、その形状及び位置は、臍と恥骨結合の間で子宮底の高さに応じて約2 ~3cmの横切開を行うこととされている腹式の不妊手術の場合の手術痕と一致し、優生手術で指定されていた不妊手術の術式の1つであった腹式両側卵管結紮術の手術痕として矛盾はないものと認められる。そして、前記認定事実⑹ア、エ、オによれば、原告1は結婚式を挙げた直後に原告ら長男を懐妊していて、原告らが子を産み育てることを希望していたのに対し、原告1 の母は、そもそも原告らの婚姻に反対するなど、原告1の母方の親族は、聴 覚障害を持った原告1が子を生み育てることに反対していたこと、原告1の母は、原告1について、聴覚障害だけでなく知的障害があったものと認識し、不妊手術を受けた理由について、原告らの子供は1人いるからこれ以上は不要であるなどと説明していたと認められることからすれば、原告1の同意のないまま、原告1の母の同意により、原告1が旧優生保護法12条に基づく た理由について、原告らの子供は1人いるからこれ以上は不要であるなどと説明していたと認められることからすれば、原告1の同意のないまま、原告1の母の同意により、原告1が旧優生保護法12条に基づく 優生手術を受けるに至ったとの経過は、極めて自然であるというべきであるし、A県内で旧優生保護法12条に基づく手術が1件実施された年と原告1が不妊手術を受けた年が一致することとも整合する。 他方で、一件記録によっても原告1には、他に、開腹手術を要するような既往歴があったことをうかがわせる事情は何ら見いだせないのであり、そう すると、原告1の下腹部の切開創は、原告ら長男を出産した直後に受けた優生手術によるものとみるのが相当である。 小括そうすると、原告1の母は、原告1が旧優生保護法12条所定の事由のうちの「精神薄弱」に該当するものとして、原告1の保護者として、原告1の 不妊手術をすることを自ら判断し、昭和49年●月●日、同条の申請に基づく優生手術が実施されたと認めるのが相当である。 3 争点2(国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性)について判断枠組み国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が 個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ、国会議員の立法行為又は立法不作為が同法1条1項の適用上違法となるかどうかは、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規 定に違反するものであるとしても、直ちに違法の評価を受けるものではない。 しかし、その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保 べきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規 定に違反するものであるとしても、直ちに違法の評価を受けるものではない。 しかし、その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障され、又は保護されている権利利益を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、国会議員の立法又は 立法不作為は、例外的に、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。(最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁、最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照) 旧優生保護法4条ないし13条の違憲性について ア子を産み育てるか否かは、個人の生き方や身体の健康、家族としての在り方のみならず、生命の根源にも関わる個人の尊厳に直結する事項である。したがって、子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由は、個人の人格的な生存に不可欠なものとして、私生活上の自由の中でも特に保障される権利の一つというべきであり、幸福追求権ないし人格 権の一内容を構成する権利として憲法13条に基づいて保障されるというべきである。 また、人がその意思に反して身体への侵襲を受けない自由もまた個人の人格的生存に不可欠な利益であることは明らかであり、人格権の一内容を構成する権利として憲法13条によって保障されているというべ きである。 そして、憲法14条1項は、国民に対して法の下の平等を保障した規定であって、同項後段列挙の事項は例示的なものであり、この平等の要請は、事柄の性 によって保障されているというべ きである。 そして、憲法14条1項は、国民に対して法の下の平等を保障した規定であって、同項後段列挙の事項は例示的なものであり、この平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきである(最高裁昭和 39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和4 8年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。 イところで、都道府県優生保護審査会の審査を要件とする旧優生保護法4条ないし13条の立法目的は、専ら優生上の見地から不良の子孫の出生を防止するというもの(同法1条)であるが、これは特定の障害ないし疾患を有する者を一律に「不良」であると評価して、その子孫の出生 を制限しようとするものであり、それ自体非人道的かつ差別的であって、個人の尊重という日本国憲法の基本理念に照らし是認できないものといわざるを得ない。 そして、手段の合理性についてみても、遺伝性疾患等についての優生手術(旧優生保護法4条ないし11条)は、一定の遺伝性疾患等の兆候 がある者について、医師の申請と都道府県優生保護審査会の審査によって、本人の同意がなくても身体的侵襲を伴う不妊手術を行って不可逆的に生殖機能を失わせるという非人道的かつ強力な手段を許容するものであって、たとえ、一定の不服申立ての手続を規定していたとしても、そもそも対象となる者が障害ないし疾患を有していることからすると、そ の不服申立てに実効性があるとは考え難く、手段の合理性を欠いているといわざるを得ないし、非遺伝性の疾患等についての優生手術(旧優生保護法12条ないし13条)は、対象者の疾患等は非遺伝性であるというのであるのに、本人の同意なく は考え難く、手段の合理性を欠いているといわざるを得ないし、非遺伝性の疾患等についての優生手術(旧優生保護法12条ないし13条)は、対象者の疾患等は非遺伝性であるというのであるのに、本人の同意なく優生手術の実施を認めるものであり、そもそも立法目的との合理的関連性を欠いているといわざるを得ない。 また、被告においても、旧優生保護法4条ないし13条の各規定の立法目的の合理性や手段の合理性、それらを支える立法事実について何ら主張立証をしないことも併せ考慮すれば、これらの規定の立法目的にも手段にも合理性がないことは明らかであるものといわざるを得ない。 そうすると、旧優生保護法4条ないし13条の各規定は、その立法目 的も手段も合理性を欠きながら、特定の障害等を有する者に対して優生 手術を受けることを強制するもので、子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由及び意思に反して身体への侵襲を受けない自由を明らかに侵害するとともに、特定の障害等を有する者に対して合理的な根拠のない差別的取扱いをするものであるから、公共の福祉による制約として正当化できるものではなく、明らかに憲法13条、14条1項に反し て違憲であるというべきである。 旧優生保護法4条ないし13条の立法行為の違法性について上記において説示したとおり、上記各規定は、その内容に照らして明らかに憲法13条、14条1項に違反しているのであるから、国会議員による上記各規定に係る立法行為は、当該立法の内容が国民に憲法上保障されてい る権利を違法に侵害するものであることが明白であるにもかかわらずこれを行ったものといわざるを得ない。 そして、原告1は、上記各規定のうちの旧優生保護法12条に基づく優生手術を受けさせられて、意思に反して身体への侵襲を るものであることが明白であるにもかかわらずこれを行ったものといわざるを得ない。 そして、原告1は、上記各規定のうちの旧優生保護法12条に基づく優生手術を受けさせられて、意思に反して身体への侵襲を受けない自由を侵害されて不可逆的に生殖機能を失うという被害が生じ、原告らについては、子を 産み育てるか否かについて意思決定をする自由等を侵害され、合理的な理由なく健常者と差別されたのであるから、国会議員による上記各規定に係る立法行為は、原告らとの関係において、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるというべきである。したがって、旧優生保護法3条の同意に基づく優生手術の立法行為の違法性の点について判断するまでもなく、 被告は、原告らに対し、上記各規定の立法行為の違法性について、国家賠償法上の責任を負うというべきである。なお、上記各規定がその内容に照らして明らかに違憲である以上、上記各規定の立法を行った国会議員には、少なくとも過失があると認められる。 4 争点3(国会議員による被害救済法の立法不作為の違法性)について 判断枠組について 国会議員の立法不作為の違法性の判断枠組みは、前記3において説示したとおりである。 立法措置の不可欠性及び明確性についてア前記説示したとおり、旧優生保護法4条ないし13条の立法行為は、国家賠償法上違法との評価を受けるものであるから、上記各規定に基づく優 生手術により被害を受けた障害者は、これによって生じた損害について、被告に対して同法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得するものというべきである。 イところで、原告らは、優生手術の被害実態に照らせば、国家賠償法の規定では、優生手術の被害救済の手段として不十分であるとして、厚生 く損害賠償請求権を取得するものというべきである。 イところで、原告らは、優生手術の被害実態に照らせば、国家賠償法の規定では、優生手術の被害救済の手段として不十分であるとして、厚生 労働大臣による本件答弁があった平成16年3月24日までに、金銭的な補償のほか、障害者である被害者らにも容易に認識できる手段・態様による積極的な広報・情報提供を盛り込んだ立法措置を講ずべき義務があった旨を主張する。 前記認定・説示した優生手術による加害行為の態様からうかがわれる 被害の実態について、前記認定事実⑺アないしエのとおりの優生手術の被害救済に係る要求等の経緯に照らして、厚生労働大臣の本件答弁の頃までに、被害救済の方法についての議論の必要性については認識し得たというべきである。他方で、前記前提事実⑴のとおり、優生手術の対象となる障害は、精神疾患、身体疾患及び奇形など様々であり、その障害 の内容・程度においても多種多様であるところ、優生手術の被害者を救済する立法を実現するに当たっては、このような障害者の特性や被害実態等にも配慮しながら、損害額の算出方法や給付の財源も含めて、実体法及び手続法の観点から立法措置の在り方を幅広く検討する必要があって、そこには、一定の立法裁量が認められるべきである。 したがって、少なくとも平成16年3月24日の時点において、国会 議員において、優生手術の被害者についての被害救済のために必要不可欠な立法の内容がどのようなものであったかが明白であったということはできない。 立法不作為の違法性について以上のとおりであって、厚生労働大臣が本件答弁を行った平成16年3月 当時、優生手術の被害救済として、障害者である被害者らにも容易に認識できる手段及び態様に 。 立法不作為の違法性について以上のとおりであって、厚生労働大臣が本件答弁を行った平成16年3月 当時、優生手術の被害救済として、障害者である被害者らにも容易に認識できる手段及び態様による積極的な広報・情報提供を盛り込んだ立法措置を執らなかったことが、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではないというべきである。 なお、前記認定事実⑺オないしキによれば、被告は、平成16年3月24 日以降も、優生手術の被害救済の必要性について、国連や日弁連から勧告や意見表明をされていたにもかかわらず、一時金法の制定まで、何らの立法措置が執られなかったことが認められるが、この点を踏まえても、優生手術の被害救済法について、国会に委ねられた立法裁量の当不当の問題を生じ得ることは格別として、国会議員に立法すべき内容が明らかであったということ ができず、立法不作為の違法性が認められないという結論を覆すに足りない。 5 争点4及び5(原告らに対する損害の発生及びその額、除斥期間の適用による原告らの損賠賠償請求権の消滅の有無)について 損害賠償請求権の発生について前記3で説示したとおり、国会議員による旧優生保護法4条ないし13条 の立法行為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上違法と評価されるものであるところ、原告1は、昭和49年●月●日、旧優生保護法12条に基づく優生手術を受けたことにより、生殖機能を不可逆的に失い、子を産み育てるかどうかについて意思決定をする自由を侵害されて個人の尊厳を著しく損なわれ、精神的・身体的被害を受けたものと認められる。そして、原告2もま た、原告1の夫として、昭和49年●月●日、原告1が旧優生保護法12条 に基づく優生手術を受けて生殖機能を不可逆的に失ったこと 身体的被害を受けたものと認められる。そして、原告2もま た、原告1の夫として、昭和49年●月●日、原告1が旧優生保護法12条 に基づく優生手術を受けて生殖機能を不可逆的に失ったことで、子を産み育てるかどうかについて意思決定をする自由を侵害されて個人の尊厳を著しく損なわれ、精神的苦痛を受けたというべきである。したがって、原告らは、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を取得したものと認められる。 ところで、原告らの上記損害賠償請求権については、被告が、国家賠償法4条及び民法724条後段の規定により、除斥期間が経過したものとして、請求権の消滅を主張しているので、以下、検討する。 民法724条後段の法的性質について民法724条後段の規定の法的性質は、不法行為による損害賠償請求権の 除斥期間を定めたものと解される(最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)。 除斥期間の起算点についてア民法724条後段は、その除斥期間の起算点について、「不法行為の時」と定めているところ、前記⑴の認定判断のとおり、国会議員による旧優生 保護法4条ないし13条の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法であると認められ、上記の違法な立法行為の結果、原告1は、昭和49年●月●日、旧優生保護法12条に基づく優生手術を受けさせられたものと認められる。そして、上記優生手術の実施という加害行為によって、原告1については、意思に反して身体への侵襲を受けない自由を侵害されて不 可逆的に生殖機能を失うという被害が生じ、原告らについては、子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由等が侵害されるという被害が発生したものと認められる。 したがって、本件にお れて不 可逆的に生殖機能を失うという被害が生じ、原告らについては、子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由等が侵害されるという被害が発生したものと認められる。 したがって、本件においては、除斥期間の起算点である民法724条後段の「不法行為の時」とは、原告1に対する旧優生保護法12条に基づく 優生手術が実施された昭和49年●月●日であると認められる。 イ原告らは、①不法行為の時から除斥期間の進行を認めると被害者にとって著しく酷であり、②加害者としても、自己の行為により生じ得る損害の性質からみて、不法行為の時から相当の期間が経過した後に、被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきと評価される場合には、除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とすべきもの であることは確立された判例法理であるとした上で、本件において、原告らが優生手術による損害について損害賠償請求権を行使することができるようになったのは、早くとも、厚生労働大臣による本件答弁があった平成16年3月24日であって、除斥期間の起算点も同日とすべき旨を主張する。 しかし、民法724条後段の除斥期間の制度の目的は、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図して、被害者側の認識のいかんを問わず、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるから(前記最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決参照)、原告らについての損害賠 償請求権の行使可能性を前提に除斥期間の起算点を決定することは、上記除斥期間の制度の目的に反するし、原告らが主張する上記のような要件の下で除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とみることが確立された判例法理であるとい 前提に除斥期間の起算点を決定することは、上記除斥期間の制度の目的に反するし、原告らが主張する上記のような要件の下で除斥期間の起算点を不法行為の時以外の時点とみることが確立された判例法理であるということもできない。 したがって、原告らの上記主張は、採用することができない。 ウ以上によれば、原告らの被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権については、原告らによる本件訴訟の提起の時点(令和元年12月13日)では、既に除斥期間の起算点(昭和49年●月●日)から20年が経過していたというべきである。 除斥期間の適用の制限について ア原告らは、除斥期間内に被告に対する権利行使ができなかったのは、被 告が作出した社会的差別や司法アクセスに対する制約によるものであり、このような場合に、除斥期間を適用して、本件のような国家による重大な人権侵害の被害者である原告らの犠牲の下、加害者である被告の利益を保護することは、著しく正義・公平に反する結果となるから、その適用は制限されるべきである旨を主張する。 イところで、民法724条後段の除斥期間の制度の目的は、前記⑶イのとおりであり、その趣旨は、不法行為をめぐる権利関係を長く不確定の状態に置くと、その間に証拠資料が散逸し、加害者ではない者が反証の手段を失って訴訟上加害者とされるという事態を招くなどの問題が生じ得るため、被害者側の認識を問題とせずに一定の時の経過により法律関係を確定 させ、被害者の保護とその加害者と目される者の利害との調整を図ったものであると解するのが相当である。このような除斥期間の制度目的・趣旨に鑑みれば、基本的には、被害者側の固有の事情を考慮して除斥期間の規定の適用を制限するような例外を認めることは相当ではない。 たものであると解するのが相当である。このような除斥期間の制度目的・趣旨に鑑みれば、基本的には、被害者側の固有の事情を考慮して除斥期間の規定の適用を制限するような例外を認めることは相当ではない。 もっとも、このような除斥期間の規定も例外を一切許容しないものでは なく、不法行為の被害者が当該不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合(最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁参照)や、被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人がその事実を知ることができず、民法915 条1項所定のいわゆる熟慮期間が経過しないために相続人が確定しないまま、上記殺害の時から20年が経過した場合(最高裁平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号853頁参照)など、被害者や被害者の相続人による権利行使を客観的に不能又は著しく困難とする事由があり、しかも、その事由が、加害者の不法行為に起因している場合のように、例 外的に、正義・公平の観点から、時効停止の規定の法意(民法158ない し160条)等に照らして除斥期間の適用が制限される場合があることは、法解釈上想定されるところである。 ウこれを本件についてみれば、前記3の認定判断のとおり、そもそも旧優生保護法12条に基づく優生手術の規定自体、非人道的なものであって、原告らが受けた人権侵害の程度は、非常に大きいものであると言わ ざるを得ない。一方で、前記認定事実、⑹イ、⑻、アのとおり、都道府県優生保護審査会の審査を要件とする優生手術は、昭和24年から平成8年までに1万5000件以上実施されてきたにもかかわらず、旧優生保護法の優生思想等が問 記認定事実、⑹イ、⑻、アのとおり、都道府県優生保護審査会の審査を要件とする優生手術は、昭和24年から平成8年までに1万5000件以上実施されてきたにもかかわらず、旧優生保護法の優生思想等が問題視された平成8年改正の後も、平成30年1月の仙台訴訟まで、優生手術に係る国家賠償請求訴訟の提起は一切 なかったこと、原告らも、原告1が不妊手術を受けたことは知っていたものの、それが優生手術であったことについては長期間知らされていなかった上、原告1は、自らが障害者であるために原告1の母の判断で不妊手術を受けさせられたものと理解していたために、不妊手術を受けさせられたことを家族以外には打ち明けることもできず、それが旧優生保 護法に基づく優生手術であったことを知り得る状況になかったことが認められる。そして、このような事情の背景としては、原告らが有していた聴覚障害等のほか、優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別・偏見やこれを危惧する家族の意識・心理の下、原告らが、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあっ たことが大きな要因であったものとみるのが相当である。 そして、原告らが有する障害そのものは勿論のこと、障害者一般に対する差別や偏見についても、様々な歴史的・社会的要因、当時の科学的知見の不足等が複合的に影響して創出・助長されたと考えられるのであって、被告において、原告らが優生手術に係る国家賠償請求訴訟の提起 ができない状況を意図的・積極的に作出したと認めることはできない。 しかし、日本国憲法は、個人の尊重を基本理念として、特定の障害ないし疾患を有する者も人は平等に取り扱われることを明らかにしているものであり、被告は、その趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位 しかし、日本国憲法は、個人の尊重を基本理念として、特定の障害ないし疾患を有する者も人は平等に取り扱われることを明らかにしているものであり、被告は、その趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあったにもかかわらず、前記認定事実⑴、⑵のとおり、非人道的な優生手術を制度化して、優生思想に基づく優生政策を積極的に推進し、こ れによって、高等学校で用いられる教科書や大衆雑誌にも優生思想や優生政策を推奨する記事が掲載されるなど、広く優生思想及び優生政策の正当性を国民に認識させる状況を作出したことが認められる。 そうすると、国家によるこのような立法及びこれに基づく施策が、広く国民に対し、旧優生保護法の規定の法的効果をも超えた社会的・心理 的影響を与え、同法の優生手術の対象となった障害ないし疾患につき、かねてからあった差別・偏見を正当化・固定化した上、これを相当に助長してきたものとみるのが相当である。 加えて、前記認定事実⑶、⑺、⑼のとおり、被告は、旧優生保護法の平成8年改正後も種々の被害救済の要請があったものの、被害救済の具 体的な措置をすることについては仙台訴訟が提起されるまで長らく消極的であったといわざるを得ないことも併せ考慮すれば、昭和50年代以降の各種法改正、旧優生保護法の平成8年改正等を踏まえても、なお、その後も被告が正当化・固定化し、相当に助長した社会的差別・偏見による影響が大きく作用して、原告らにおいて、優生手術に係る国家賠償 請求訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が続いたものというべきである。 以上によれば、原告らについて、除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反するというべきであり、権利行使を不能又は著しく困難とする事由がある場合に、 いうべきである。 以上によれば、原告らについて、除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反するというべきであり、権利行使を不能又は著しく困難とする事由がある場合に、その事由が解消されてか ら6か月を経過するまでの間、時効の完成を延期する時効停止の規定(民 法158ないし160条)の法意に照らし、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過するまでの間、除斥期間の適用が制限されるものと解するのが相当である。 エそこで、原告らについて、上記6か月が経過する前に本件訴えが提起さ れたものと認められるかについて検討すると、前記認定事実⑹、⑺、によれば、原告らは、以前から原告1が不妊手術を受けたことを知っていたものの、それが優生手術によるものであることは認識していなかったところ、原告ら長男の妻が、仙台訴訟が始まった旨のニュースを見て、原告1も優生手術の被害者ではないかと思ったことを契機として、原告らは、原 告ら長男及びその妻から原告1が受けたのが優生手術である旨を伝えられたというのであるから、その時期は、仙台訴訟の訴えが提起された平成30年1月30日から間もない時期であると認められる。そして、仙台訴訟の訴え提起を受けて複数の同様の訴訟が平成30年中には提起されていることなどに照らせば、原告らが聴覚障害等に起因する意思疎通の困難性や 社会的差別・偏見への躊躇があったことを考慮しても、原告らにおいて、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境そのものは、平成30年1月30日から間もない時期には解消されたものとみるのが相当である。 そうすると、令和元年12月13日に訴えが提起された本件については、 のアクセスが著しく困難な環境そのものは、平成30年1月30日から間もない時期には解消されたものとみるのが相当である。 そうすると、令和元年12月13日に訴えが提起された本件については、 訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過する前に訴訟提起がされたとは認められず、除斥期間の適用を制限するのは相当であるということはできない。 したがって、この点に関する原告らの上記主張は、採用することができない。 オなお、原告2は、平成31年4月に手話サークルの学習会で、旧優生保 護法の存在を知り、その後に、家族から原告1が優生手術を受けたことを知らされた旨を供述するが、同月9日には、原告ら長男は、優生手術についての救済訴訟の弁護団に連絡を取っていること、本件のように原告らが一体的な被害を受けた事案において、原告2の意向を差し置いたまま、原告1や原告ら長男において話を進めるとは考え難いことに照らせば、前記 エの認定判断のとおり、原告2も原告1と同時期に原告1の優生手術についての事実を知らされていたものとみるのが相当である。 カ原告らは、除斥期間の規定を適用すれば、著しく正義・公平に反する結果となる場合には、参照すべき条文がないとしても除斥期間の適用は制限されるべきである旨主張する。 しかし、著しく正義・公平に反する結果となる場合には、参照すべき条文がないとしても除斥期間の適用を制限するとした場合、権利者において権利行使ができなかった事情が一時的なものか、恒久的なものか、一時的なものであるとすると、事情が止んだ後いつまで権利行使することができるのかを検討しないまま、適用制限の範囲を拡大することにつながり、前 記イのとおりの除斥期間の制度趣旨に照 的なものか、一時的なものであるとすると、事情が止んだ後いつまで権利行使することができるのかを検討しないまま、適用制限の範囲を拡大することにつながり、前 記イのとおりの除斥期間の制度趣旨に照らして相当でないというべきである。 したがって、上記原告らの主張を採用することはできない。 除斥期間の規定の法令違憲について原告らは、除斥期間の規定が憲法17条に反し、意味上の一部違憲である 旨を主張する。すなわち、原告らは、被告が非人道的でその目的自体違憲であることが明らかな法律を制定し、それに基づいて優生手術を実施して非人道的な人権侵害を行い、被害者が被害救済の行使を不可能ないし著しく困難にする状況を作出しながら、同手術から20年の経過を待った事案において加害者たる被告の損害賠償義務が免除されることになるのは、国家賠償法4 条によって準用される民法724条後段には、「障害者を一律に不良と断じ、 その子孫の出生を防止するという非人道的でその目的自体、違憲であることが明らかな法律を制定し、それに基づいて、実際に、本人の同意なく、卵管を縛る等の身体の侵襲を伴う手術を実施し、被害者に不可逆的な身体的変更を強いておきながら、当該違憲な法令によって増幅した優生手術対象者に対する社会的差別・偏見及びこれに起因する司法アクセスへの障害によって同 手術の被害者らが国家賠償請求訴訟を提起しないことを奇貨として、優生手術の被害等について、調査・公表することなく、同手術から20年の経過を待った事案においても同様とする」という不文のなお書きが付記されているのと同じ結果になるところ、このような不文のなお書きは、憲法17条が定める立法裁量を逸脱するものであって、違憲無効であるから、国家賠償法4 条によって準用される民法724 書きが付記されているのと同じ結果になるところ、このような不文のなお書きは、憲法17条が定める立法裁量を逸脱するものであって、違憲無効であるから、国家賠償法4 条によって準用される民法724条後段の規定は、意味上の一部違憲になる旨を主張する。 しかし、本件に国家賠償法4条、民法724条後段が適用されることをもって、同条後段の規定に上記のような不文のなお書きが付記されているのと同じ結果になるということはできないし、原告が主張する上記のような本件 に特有の事情は、除斥期間の適用制限の問題として検討されるべきものであり、本件において、原告らについて除斥期間の適用制限がされることが相当であるということはできないことは、前記⑷の認定判断のとおりである。 したがって、国家賠償法4条、民法724条後段の規定が意味上の一部違憲であるということはできない。 除斥期間の規定の適用違憲について原告らは、優生手術によって不可逆的かつ重大な人権侵害を受けたにもかかわらず、同優生手術の時点では、旧優生保護法により蔓延、増幅されたスティグマと司法アクセス障害により、国家賠償請求権を行使することが著しく困難であったのであるから、本件において、原告らの取得した国家賠償請 求権について除斥期間の規定を適用することは、原告らの有する国家賠償請 求権を不当に制約するものとして、憲法17条に違反して違憲である旨主張する。 しかし、国家賠償法は憲法17条の規定を受けて制定されたものであり、国家賠償法4条、民法724条後段の規定は憲法17条との関係において合憲であることは前記の認定判断のとおりであるところ、本件において、原 告らの国家賠償請求権について、国家賠償法4条、民法724条後段が適用されることについても、前 憲法17条との関係において合憲であることは前記の認定判断のとおりであるところ、本件において、原 告らの国家賠償請求権について、国家賠償法4条、民法724条後段が適用されることについても、前記⑶及び⑷の認定判断のとおり、除斥期間の目的及び趣旨に従って適用されているから、適用違憲にはならないというべきである。 原告らの損害賠償請求権の存否について 以上によれば、原告らの損害賠償請求権は、いずれも、その余の点(損害額等)について判断するまでもなく、除斥期間の経過によって消滅している。 第4 結論以上のとおりであって、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第18民事部 裁判長裁判官横田典子 裁判官玉田雅義 裁判官中山周子
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