【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 理 由 本件控訴の趣意は、弁護人国府敏男作成ならびに弁護人石川才顕、同増田弘麿共 同作成の各控訴趣意書に記載のとおりであるからこ
主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人国府敏男作成ならびに弁護人石川才顕、同増田弘麿共同作成の各控訴趣意書に記載のとおりであるからこれを引用し、これに対して当裁判所が、本件訴訟記録ならびに原審において取り調べた証拠および当裁判所のなした事実取り調べの結果にもとづきなした判断は、次のとおりである。 以下においてはAタクシー株式会社をAタクシーとBタクシー株式会社をBタクシーとAタクシー株式会社代表取締役C作成の第一次の株券を第一の株券と同第二次の株券を第二の株券とD信用金庫E支店を信用金庫とF銀行G支店をF銀行とそれぞれ略称する。 弁護人石川才顕、同増田弘麿の控訴趣意第一点訴訟手続の法令違反の主張について所論は要するに、検察官の本件訴追は、裁量に不当な差別がある。すなわち、起訴猶予処分に付すべき事由の存しないことが訴訟条件をなすものであるところ、本件事犯においてHは重要な役割を分担していたものであつたにかかわらず、捜査機関に対し極めて協力的であつた。しかるに被告人は暴力団I組の法律顧問として誤認され、暴力団一掃の不当な見込捜査が行なわれた結果起訴されたものである。Hのみは不起訴処分となつたが、一般起訴基準をもつてすれば、有価証券行使の段階に至つていない本件は、被告人に対しても起訴猶予処分に付するのが相当であつて、不当な差別意思の存在することが明らかな本件起訴は、訴訟条件を欠ぐことが明らかであるから、公訴棄却の判決をなすべきである。しかるに、原判決はこの点を看過した訴訟手続に法令違背の違法があり、破棄を免れ難い、というのである。 案ずるに、論旨は検察事務の取扱い就中公訴について、起訴の基準のあることを前提とするものであるが、しかしたとい検察内部に起 を看過した訴訟手続に法令違背の違法があり、破棄を免れ難い、というのである。 案ずるに、論旨は検察事務の取扱い就中公訴について、起訴の基準のあることを前提とするものであるが、しかしたとい検察内部に起訴の基準が定められているとしても、それは起訴の公平を内部的に調整し規制することを目的としたものであるというべく、その限度を超えて、起訴の適法性の限界を画する一般的法規範と同等視することはできないので、かかる内部的基準に抵触するとの理由のみをもつて、直ちに当該公訴を不適法と断じ得る訳のものではない。ところで、検察官が公訴権を行使するについては、刑事訴訟法二四八条により広汎な自由裁量権を有することは多く説明するまでもない。しかしこの自由裁量権といえども無制限のものではなく、起訴の対象とされた者に対し、不法な害意や極端な偏見若しくは私怨私恨等著しく不当な意図、目的をもつて公訴を提起したときは、当該犯罪の違法性ならびに責任の程度とも関連して、その公訴を不適法ならしめる場合のあることを肯定しなければならない。そこで本件起訴について考察すると、Hが本件と関連する同人の事件につき、起訴猶予処分を受けたことを認め得る資料はなく、仮りに同人が起訴猶予処分に付せられていたとしても、ただそれだけで検察官が被告人に対し不浅な害意や著しく不当な意図、目的をもつて本件公訴を提起したと断ずることはできない。本件記録に現れた全資料および被告人の当公廷における供述によるも起訴検察官が被告人に対し、暴力団I組の法律顧問として極端な偏見や差別意思をいだいていたり、その他不法な害意や、私怨私恨等著しく不当な意図、目的をいだいていた事実を認めることはできない。(本件犯行につき、その違法性ならびに責任の程度に、犯行の動機、態様、被告人の年令、職業、境遇、犯罪後の情況その他の情状をかれ 私恨等著しく不当な意図、目的をいだいていた事実を認めることはできない。(本件犯行につき、その違法性ならびに責任の程度に、犯行の動機、態様、被告人の年令、職業、境遇、犯罪後の情況その他の情状をかれこれ総合して考察しても、到底被告人を起訴猶予処分に付するを相当とするものとは考えられない。)これを要するに、本件公訴を不適法ならしめる事由はないので、所論は採用の限りでない。 弁護人国府敏男の控訴趣意第一点理由不備の主張について所論は要するに、原判決は、発行ずみの正規の株券と重複する内容虚偽の株券一二六枚を作成した事実を認定し、別紙に真正株券としてその内容を掲記しているが、証拠上その記載内容を認定し得るものは一切挙示していない。原判決は証拠に基づかないで事実を認定したもので、判決に理由を付さない違法がある、というのである。 案ずるに、原判決挙示の各証拠によると、本件株券作成前被告人の依頼によりJ、Hの両名が信用金庫に赴いて第一の株券の記載内容を詳細メモして来て被告人に渡しており、被告人はこれらの内容をもとにして本件株券の原稿を作成してKに手交し、同人はその原稿によつて本件株券をL印刷所に依頼して作成せしめた事実が認められ、しかも右証拠中原審証人Cの第三回公判における供述によれば、第一の株券と押収にかかる本件株券との詳細な対比を実物に即して説明しているのであつてこれらを総合すると、本件株券と第一の株券とは本質的な部分においてその内容を同一にしていることが認められ、原判決が第一の株券の記載内容を認定するについて、証拠理由の掲記に欠けるところはないので、判決に理由を付しない違法があるということはできない。論旨は理由がない。 弁護人国府敏男の控訴趣意および同石川才顕、同増田弘麿の控訴趣意各第二点中事実誤認等の主張について各所論は要するに、原 、判決に理由を付しない違法があるということはできない。論旨は理由がない。 弁護人国府敏男の控訴趣意および同石川才顕、同増田弘麿の控訴趣意各第二点中事実誤認等の主張について各所論は要するに、原判決は、被告人に共謀共同正犯の成立を肯定しているが、共謀の事実は存在しない。 すなわち、昭和四五年一月七日のM荘およびその翌八日の被告人方における被告人、K、N、J、Hの間において行なわれた談合の趣旨は、AタクシーにおけるKの有する株主権を確保するため、Cが二重に発行した株券を回収するときに備えて、予めK代表名義の予備株券を作成してこれを厳重に保管し、Aタクシーが株主名簿、株式台帳の備付けを欠いでおり、そのため株主権の帰属が不明確となつていた同会社の株式関係を明確にすることを謀つたに過ぎず、これを共謀と認めることはできない。しかも共謀の事実と相容れない証拠が他に存在していたのであるから、原審がこれを共謀と認定するには矛盾を排除するためさらに審理を尽す必要があつたのであつて、原判決には審理不尽の違法があり、これを前提とする事実誤認、または理由不備、さらには法令を不当に適用した違法がある、というのであり、弁護人石川才顕、同増田弘麿は、右に付加してさらに、原判決は印刷業者Oによつて本件株券が印刷された旨認定しているが、本件関係者のうち何人がOに命じて印刷させたかは明らかにされていない。しかして被告人については前記のごとく共謀の成立が否定される以上、被告人に本件株券作成の刑責を問うためには、Oを使用して犯罪を遂行させたとする間接正犯の理論によるほかはない。しかるに被告人は株券の原稿をKに交付した事実はないので、本件株券の作成は、Kの行為支配下において行なわれたものであつて、被告人が本件株券作成の刑責を問われる筋合はない。原判決はこの点の判断を遺脱し かるに被告人は株券の原稿をKに交付した事実はないので、本件株券の作成は、Kの行為支配下において行なわれたものであつて、被告人が本件株券作成の刑責を問われる筋合はない。原判決はこの点の判断を遺脱し、ひいては事実誤認の違法を犯している、というのである。 案ずるに、原判決挙示の証拠によると、被告人は、昭和四四年一二月二七日頃I組事務所においてP、N、J、K、H等と相会してN、JのAタクシーに対する債権の取立について話し合い、その際PからN、Jの債権取立に協力するよう要求され、被告人はこれを了承し、当時Aタクシーの代表取締役に就任していたKがその席上同会社の営業をBタクシーに譲渡し、その代金を得てNおよびJに対する債務を支払う旨弁済を約してその場は別れた。しかるにKは福岡に帰つたまま年末を過ぎても弁済しようとしなかつた。そして昭和四五年一月七日に至り漸く別府に来てM荘に宿泊している旨連絡があつたので、被告人はN、Jと共にKをM荘に訪ね、弁済の遅滞を難詰したところ、同人は種々陳弁した後、同人もAタクシーに対し二、〇〇〇万円の債権を有する債権者であつてその回収に腐心している旨、ならびに前社長Cとの間に同会社の株式を担保とする契約をしたが、未だ株券の引渡しを受けていないこと、第一の株券は既にD信用金庫に担保に入つていることなどを説明し、Cとの間に交された公正証書を示すなどして、被告人の協力を求めるに至つた。被告人はこの申し出を了承し、Kから紹介状を貰つてN、J、Hらと共に、Q百貨店にBタクシーの社長Rを訪ね、同会社がAタクシーの営業を譲り受ける可能性を質したところ、同社長から、Aタクシーの経営が荒れているのですつきりとしたものになれば買い取る可能性もある旨の答を得たので、一旦M荘に引き返えし、さらに話し合いを続け、その翌八日も、被告人方において 質したところ、同社長から、Aタクシーの経営が荒れているのですつきりとしたものになれば買い取る可能性もある旨の答を得たので、一旦M荘に引き返えし、さらに話し合いを続け、その翌八日も、被告人方において、被告人、K、N、J、Hらが相会し、話し合いを進めたが、右両日に亘る話し合いの内容は、被告人およびNがAタクシーの取締役に就任することによつて同会社の経営陣に参加することとしたが、信用金庫が担保にとつている第一の株券を処分して債権の回収を計ろうとしていることおよび第二の株券もF銀行に担保に入つていることを既に知つていた被告人は、前記公正証書の内容を検討して、KもAタクシーの株券を所有する権利があると考え、既に二重に株券が発行されている事実とも考え併せ、同人らに対し、吉野義之がAタクシーの株券を所持していても誰が真正の株主かはたやすく決することはできなくなり、結局訴訟による以外には、何れが真正な株券か確定されない。株主名簿や株式台帳を備え付けておけば、これを証拠として訴訟上十分に対抗できる趣旨を話して聞かせ、Kに対しなおも言葉を継いで、あなたも株券を所有することができるので、株券を作りなさい。とすすめ、これを聞いたKは、かねて株券を所有していないことでAタクシーにおける代表取締役社長である自己の地位に不安を感じていたことではあり、自己の地位の安全と、AタクシーのN、Jに対する債務の弁済や同会社に対する自己の債権の回収を終極の目的とするBタクシーに対する営業の譲渡ならびにこれと共に行うべき株券の譲渡が容易に行なえるようになると信じて被告人の意見に賛成し、またNおよびJの両名も株券の作成によつて結局自己の債権の回収が確実になると信じて被告人の意見に賛成するとともに、その作成に協力することを申し出たのである。これらの談合に引き続き、さらに被告人は右 またNおよびJの両名も株券の作成によつて結局自己の債権の回収が確実になると信じて被告人の意見に賛成するとともに、その作成に協力することを申し出たのである。これらの談合に引き続き、さらに被告人は右のごとく、Aタクシーの株券を営業と共にBタクシーに譲渡する意図がKにあることを十分に知りかつこれに協力する意図のもとに前記CがKに対するAタクシーの債務の弁済のため作成してHに託していた白紙委任状二通を同人が差し出したので、K、N、Jらと合意のうえ、右白紙委任状を利用して、CがKに宛て、Aタクシーの株券の発行を委任する趣旨の委任状の文案を作成し、さらにHに依頼してS教習所で右文案どおりタイプ印刷させたこと、これらの事実に続いて、被告人が指図して、JおよびHをして信用金庫に赴かしめて第一の株券の記載内容を全部書き写させたこと、次でKの求めにより被告人は、作成すべき株券の記載内容や株主名簿の原稿を準備してこれを携え、Jは株券に刷り込むAタクシーの社章を写真撮影した生のネガフイルムを携え、N、Hと共に同月一八日頃福岡市a町b番地のcのK方を訪れ、同人に右原稿や写真の生不ガフイルムを渡し、同人はこれらの資料を基にしてL印刷所に委嘱して本件株券を印刷さぜ、同月二一日これをその手中に収めて本件株券の作成を遂げた事実を認めることができる。以上の各事実を総合すると、被告人は、昭和四五年一月七日から同月八日にかけ、前記ホテルM荘および被告人の自宅の両所において、K、N、Jと共に、BタクシーにAタクシーの営業と共に譲渡する目的および万一訴訟ともなれば株主名簿と共にその証拠に供する目的で、本件株券の作成を謀議した事実を認めることができる。被告人の原審公判廷および当審公判廷における各供述には、本件株券はKの代表名義でかつKがAタクシーの代表取締役に就任後の日付をもつ に供する目的で、本件株券の作成を謀議した事実を認めることができる。被告人の原審公判廷および当審公判廷における各供述には、本件株券はKの代表名義でかつKがAタクシーの代表取締役に就任後の日付をもつていわゆる予備株券的趣旨目的をもつて作成すべきことをKに進言した旨、恰も弁護人らの主張に副うごとき趣旨の供述や、原審証人Nの供述には、被告人の右供述に照応する部分があるけれども、この供述は原判決挙示の証拠と対比してたやすく措信し難く、さらに、被告人ら関係人の間で、本件株券を予備株券として作成する旨の話は、何人からもなされていなかつた旨原審証人Kの断言するところであつて、前記認定の妨げとなるものではない。他に共謀の事実の認定を妨げる証拠はないので、原判決には所論のごとき審理不尽、これを前提とする事実誤認または理由不備、さらには法令を不当に適用したいずれの違法もなく、論旨は理由がない。 なお所論中共同謀議の不成立を前提とする間接正犯理論による判断の遺脱、理由不備の主張は、多言するまでもなくその前提を欠ぎ、理由のないことが明らかである。 弁護人国府敏男の控訴趣意第二点中、弁護人石川才顕、同増田弘麿の控訴趣意第二点中各事実誤認の主張について所論は要するに、検察官が本件の共謀の成立を主張する昭和四五年一月七日頃には、既にAタクシーのBタクシーに対する身売り工作は失敗に帰していたのであるから、被告人はAタクシーの再建に奔走したのに過ぎない。かかる情況に照らし、被告人が本件株券を作成した動機は、予備株券として使用する以外になかつたのである。仮りに被告人についてK、N、Jらとの共同謀議の成立があつたとしても、被告人は、AタクシーをBタクシーに売却するために行使する目的で本件株券の作成を企図したものではない。被告人の行為は、行使の目的を欠ぎ構成要件を充足 てK、N、Jらとの共同謀議の成立があつたとしても、被告人は、AタクシーをBタクシーに売却するために行使する目的で本件株券の作成を企図したものではない。被告人の行為は、行使の目的を欠ぎ構成要件を充足していないのである。原判決は以上につき重大な事実誤認を犯している、というのである。 案ずるに、行使の目的については、被告人らはAタクシーの営業と共に株券をBタクシーに譲渡する意図をもつて本件株券を作成したものであることは前叙のとおりであつて、かかる意図の中に行使の目的が存在することはいうまでもないが、株券作成の意図はその他にも副次的ながら、被告人は、昭和四五年一月七日頃には既に、信用金庫が担保にとつていた第一の株券を処分してAタクシーに対する債権の回収を企図していることを知つていたので、第一の株券の処分によつて新たに第三者が株主として表れる可能性があり、既に第一、第二の株券が発行されている以上、KがAタクシーの株券を所持していても誰が真正の株主であるかはたやすく決することはできなくなり、結局訴訟による以外に何れが真正な株券か確定されない、株券のほかだに主名簿や株式台帳を備え付けておきこれらを証拠とすれば十分に対抗できると考え、万一の場合は証拠として使用する目的をも有していたものであることは、前段説示によつて既に明かなとおりである。行使の目的を欠ぎ構成要件を充足しないとの主張は理由がない。 さらに、当審において取り調べた被告人作成の更生手続開始の申立と題する書面、被告人の当公判廷における供述ならびに記録中の被告人の逮捕状によると、被告人が本件で逮捕された同年四月一〇日頃、被告人がAタクシーの再建を図つて同会社のため会社更生手続開始の申請手続をなすべく、その準備を進めていたことを認めることができるので、この事実は、Aタクシーの営業譲渡の意図や された同年四月一〇日頃、被告人がAタクシーの再建を図つて同会社のため会社更生手続開始の申請手続をなすべく、その準備を進めていたことを認めることができるので、この事実は、Aタクシーの営業譲渡の意図や同会社の株式の譲渡の意図とは明らかに矛盾するもののようであり、この矛盾により、恰も被告人らの本件株券作成当時に遡つて、行使の目的などの意図の存在を否定し得るかのような印象を与えるけれども、次のごとき経過的事実に照らして、否定的推理の根拠となし得るものではない。すなわち、前段説示するところによつて明らかなように、被告人は当初の間(昭和四四年末頃から昭和四五年一月七日頃にかけて)は、専らN、JのAタクシーに対する債権の取立に協力していたが、同月七日から八日にかけてKから協力を要請されるや、これを容れて同人への協力態勢を作つていたのであるが、さらに、原審証人K、同Hの各供述、Tの司法警察員に対する供述調書事よび押収にかかるAタクシー株式会社登記簿謄本(昭和四七年押第六六号符号三〇)によると、被告人は昭和四五年一月二一日、本件株券が作成された後において、Nと共に同会社の取締役に選任されたが、本件株券の作成によつてK、被告人およびNらの株主としての地位や会社機関としての地位が一応安定したものとなつたと考え得るところから、被告人らの間に従来いだいていた営業譲渡や株式譲渡の意図について、気持の変化が起り、Aタクシーの営業を続けてこれを建て直す方が得策と考えるに至つたこと、次で、被告人はKが福岡に帰る機会が多く、別府に常駐していないので渉外関係の事務処理上必要ということで、被告人が専ら対外関係において会社を代表することとし、内部関係は専らKが処理することにしてはとの意見を出し、同人との協議のうえ、同年二月一六日被告人も同会社の代表取締役に就任したが、その頃 ことで、被告人が専ら対外関係において会社を代表することとし、内部関係は専らKが処理することにしてはとの意見を出し、同人との協議のうえ、同年二月一六日被告人も同会社の代表取締役に就任したが、その頃社内で朝礼の際従業員多数に対し爾後被告人が会社の代表者である旨を告げ内部的にも会社を取り仕切ろうとした様子があり、さらには、被告人において信用金庫の支店長に対し、Kは能力がないからこれを追い出さなければ会社の営業は出来ない、と告げるなど、次第にKをAタクシーの経営の外に押しやろうとする態度を露骨に示し始めるに至つた事実が認められる。これらの事実や前記証人Hの証言に徴すると、本件株券作成後、被告人にはAタクシーの営業に関し企図するところに従来とは異る重大な変化を生じていたのであり、しかも新たな意図や目的に応じて具体的行動を示していたのであつて、かような変化を生じた後の行動の一たる前記更生手続の申立の準備に内在する会社経営継続の意図から遡及的に変化前の企画も同様のものであつたと推測することは経験則上許されないところといわねばたらない。論旨はいずれも理由がない。 弁護人石川才顕、同増田弘麿の控訴趣意第三点法令適用の誤の主張中行為類型について所論は要するに、原判決は被告人の行為を有価証券虚偽記入として刑法一六二条二項を適用しているが、被告人らの行為は、有価証券偽造に当るものというべく、原判決には法令の適用の誤りがある、というのである。 案ずるに、原判決は、被告人がAタクシーの代表取締役K、NならびにJと共謀のうえ、行使の目的をもつて、既に発行ずみの正規の株券と重複する内容虚偽の同会社社長の印影のある同会社代表取締役C作成名義の株券一二六通を作成して有価証券に虚偽の記入をしたとの趣旨の事実を認定し、これに刑法一六二条二項を適用しているが、なるほど 株券と重複する内容虚偽の同会社社長の印影のある同会社代表取締役C作成名義の株券一二六通を作成して有価証券に虚偽の記入をしたとの趣旨の事実を認定し、これに刑法一六二条二項を適用しているが、なるほど共犯の一人Kは同会社の代表取締役であるので、同会社を代表する権限があり、本件株券の作成行為は無形偽造との印象を与えなくもないが原判決の右判断は次の諸点において誤りがあるものである。すなわち(一) 株券の作成名義について考えると、商法二二五条によれば、株券には(会社を代表すべき)取締役が署名すべきことを法定しているところであるが、株式の発行主体は、同法一九九条の定めるところでは、会社であつて取締役ではないことが明らかである。しかるに、原判決が恰も代表取締役が株券の作成名義であるがごとき表現を用いているのは誤りというほかはない。 <要旨>(二) しかして、右のごとく、会社を代表すべき取締役が株券に署名すべきことを法定の要件としていること</要旨>は、他の必須要件とともに、要式行為としてその方式を厳格に要求されているところであり、かつ、当該会社の代表資格を表示することは、株券の名義人たる会社を特定明示するとともに、その代表資格の表示によつて会社を代表する意思をも表示するものである。従つて会社の代表者が当該会社を代表する資格を有しない第三者の署名を用いて株券を作成することは、当然のことながら、自己の有する会社代表資格とは無縁の行為となり、会社代表権を行使したものと認め得べき余地の全然ない行為であつて、無権限の者がほしいままに会社の作成名義を用いて株券を作成するのと選ぶところがなく、いわゆる有形偽造の行為といわねばならない。しかるに被告人らの本件株券作成行為は、Aタクシーの代表者Kの代表名義を用いず、行為当時は既に同会社の代表資格を喪失していたCの するのと選ぶところがなく、いわゆる有形偽造の行為といわねばならない。しかるに被告人らの本件株券作成行為は、Aタクシーの代表者Kの代表名義を用いず、行為当時は既に同会社の代表資格を喪失していたCの代表名義を冒用して本件株券を作成したのであるから、会社の作成名義を偽るもので、刑法一六二条一項に定める有価証券偽造に該当する行為といわねばならない。しかるに、原判決が前記のごとく、本件株券作成行為を有価証券虚偽記入と認定したことには、事実を誤認したか法令の解釈適用を誤つた違法があるものである。しかしながら、刑法一六二条一項の有価証券偽造罪と同条二項の有価証券虚偽記入罪とは、法定刑を全く同じくするので、右誤りは結局判決に影響をおよぼすものとは認め難く、判決破棄の理由とはなし難い。 弁護人国府敏男の控訴趣意第三点および第二点中ならびに弁護人石川才顕、同増田弘麿の控訴趣意第二点中法令適用の誤りまたは事実誤認の主張について所論は要するに、原判決は第一の株券につき有効に発行されている旨を認定しているが、株券の発行は株主に株券を交付することによつて効力を生ずるものである。第一の株券はAタクシー設立の際の原始株主宛作成されたものであるが、同株主に対し株券が交付された事実はない。しかるときは、第一の株券は未だ株券として効力を生じているものとはいい難い。たといCが事実上全株式の所有者であるとしても、株券の発行前においては、自らの引受限度三〇〇株の範囲においてのみ会社に対抗し得るに過ぎない。原始株主に対する交付を欠ぐ以上、同株主らの譲渡証を添付し、これと共に株券をCに交付しても、これによつて株券の発行を有効ならしめる交付があつたということにはならない。原判決は商法二二六条および刑法一六二条の解釈適用を誤つたか、または株券の発行の事実認定を誤つたものである。 さ 交付しても、これによつて株券の発行を有効ならしめる交付があつたということにはならない。原判決は商法二二六条および刑法一六二条の解釈適用を誤つたか、または株券の発行の事実認定を誤つたものである。 さらに、被告人はかように無効な株券につき信用金庫において善意取得することはできないと信じていたのであつて、被告人が本件株券を作成するについては、不正な株券を作成するという意識は全くなく、違法の意識を欠いでいたのである。仮りに第一の株券が有効なものであつたとしても、被告人には法律的事実の錯誤があり、故意を阻却すべきである。原判決はこの点についても重大な事実誤認を犯している、というのである。 案ずるに、株券の発行が原始株主に対する株券の交付によつてその効力を生ずるものであることは所論のとおりである。しかし本件株券の作成行為は前叙のごとく有価証券の偽造であるから、第一の株券の存否ならびにその効力の有無が本件犯罪の成否に直接影響を及ぼすものではない。既に有効な株券が存在するのに、その株券の表象する株式について二重に株券を発行することは、有価証券の虚偽記入罪を成立せしめるものではあるが、しかし本件株券の作成行為が、仮りに原審の認定のように有価証券虚偽記入罪の構成要件に該当するものであるとしても、株券発行の責任者たる会社代表名義人の署名の偽造のみによつても成立し得るのであつて、かような場合は、既に有効な株券の存在することが、全的に犯罪成否の前提条件をなすものとは解し難いので、第一の株券の存否ならびにその効力の有無は、本件犯罪の成否に直接影響を及ぼすものではない。しかるときは、第一の株券を無効として原判決破棄の理由を主張する論旨は理由のないことが明らかである。従つてまた、たとい第一の株券の効力について被告人の認識に錯誤があつたとしても、その錯誤は犯意を阻却 かるときは、第一の株券を無効として原判決破棄の理由を主張する論旨は理由のないことが明らかである。従つてまた、たとい第一の株券の効力について被告人の認識に錯誤があつたとしても、その錯誤は犯意を阻却する理由となり得るものではなく、この点の論旨も理由のないことが明らかである。(もつとも、Cの引受にかかる三〇〇株は、株券作成当時同人に交付された事実を肯定し得るところであつて、有効性に欠けるところのないものであるが、その他の五五〇株の株券は、原始株主に対する交付を欠ぎ未だ有効に発行されたものとは認め難い。原判決が事実上の株主において株券を占有した事実を認め、これをもつて株券の交付と擬制したことは、法を正当に解釈適用したものということはできない。しかし右五五〇株については、原始株主に対する交付を欠いでいたというに止まり、株券が具有すべき記載要件は全て具備して欠けるところのないものである。しかも信用金庫が、Aタクシーに対し有する債権の担保として、前記有効な株券が表象する三〇〇株の株式とともに、右五五〇株の株券に対応する株式についても過失なくして担保権の設定を受け、株券全部の引渡を受けたうえこれを保管しているので、信用金庫は、Aタクシーの全株式について正当にしてかつ重要な利害関係を有しているものといわねばならない。従つてAタクシーの会社機関は勿論その他の者といえども信用金庫の有する右利益を不当に侵害することは許されないものといわねばならない。しかるときは、Aタクシーと信用金庫との間には、右五五〇株の株券に対応する株式についても、有効に株券が発行されたと略同様の法律関係を生じているものと解するのが相当であつて、右五五〇株の株式についても二重に株券を発行することは、信用金庫の正当な利益を害することとなり、も早や許されないところといわねばならない。果して 様の法律関係を生じているものと解するのが相当であつて、右五五〇株の株式についても二重に株券を発行することは、信用金庫の正当な利益を害することとなり、も早や許されないところといわねばならない。果してそうであるならば、原判決のこの点につき説示するところは推論の過程に齟齬するところがあるとはいえ、その結論においては結局第一の株券の発行を全て有効とするものであつて、強ちこれを不当として非難することはできない。第一の株券を無効とする論旨は理由のないものといわねばならない。さらに被告人が、本件株券の作成当時において既に、第一の株券が原始株主に対する交付を欠ぎ無効であることを知つていた旨の被告人の当公判廷における供述は、原審証人K、同H、同Jらの各供述と比照してたやすく措信し難いばかりでなく、前叙のごとき被告人が本件株券作成についていだいた動機、目的ならびに、本件株券が、Cの代表名義でしかも同人の署名を冒用し、かつ株券の日付も同人がAタクシーの代表取締役として在任中に遡及して作成された事実を併せ、総合考察すると、被告人が本件株券作成当時第一の株券を有効なものと信じていたと認め得るところであつて、これを無効のものと信じていたとは到底認めることはできない。結局、被告人には第一の株券の効力について認識するところに錯誤はなかつたのであり、この点の論旨も理由がないといわねばならない。)弁護人石川才顕、同増田弘麿作成の控訴趣意第三点法令適用の誤の主張中罪数について所論は要するに、同一の日時、場所において同一の機会に連続して多数の株券を作成する行為は、接続犯的包括一罪をもつて問擬すべきである。仮りに株券一通毎に一罪が成立するとしても、一所為数法の関係にあるので、科刑上の一罪として処断されるべきものである。原判決がこれと異り併合罪をもつて処断したことは、法 一罪をもつて問擬すべきである。仮りに株券一通毎に一罪が成立するとしても、一所為数法の関係にあるので、科刑上の一罪として処断されるべきものである。原判決がこれと異り併合罪をもつて処断したことは、法令の適用を誤つたものといわねばならない。原判決はこの点においても破棄を免れ難い、というのである。 案ずるに、有価証券の偽造または虚偽記入の犯罪における保護法益は、証券に対する公信性にあることはいうまでもないが、記名株式にあつては、さらに会社ならびに各株主の利益もまたともに保護を受くべき法益であることもいうまでもない。 従つて、たとい犯人を同一にしかつ同一の機会に多数の株式について偽造または虚偽記入が行なわれたとしても、被害法益の帰属主体を異にしかつ株券を異にする毎に、別個の犯罪が成立するものというべく、本件株券の作成がC以下八名の株主に別れ、しかも一二六通の株券を作成したものである以上、包括一罪として一罪を構成するに過ぎないものではない。また行為の個数についても、株券一通の作成毎に一個の実行行為があるものというべく、従つて一所為数法の科刑上一罪となるものでもない。本件は一二六個による有価証券偽造罪が成立するものといわねばならない。原判決が、偽造の点は別として、罪数については右と同旨の併合罪として処断したことには何等の違法もない。論旨は理由がない。 よつて、本件控訴は、理由がないので刑事訴訟法三九六条により棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官中村荘十郎裁判官真庭春夫裁判官仲江利政)
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