平成26年2月14日判決言渡平成23年(行ウ)第56号一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の変更認可申請却下処分取消等請求事件主文 1 本件訴えのうち一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可申請に係る認可処分の義務付けを求める部分を却下する。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 近畿運輸局長が平成23年3月28日付けで原告に対してした一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可申請を却下する旨の処分を取り消す。 2 近畿運輸局長は,原告の平成22年4月9日付け一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可申請に係る認可処分をせよ。 第2 事案の概要大阪市及びその周辺区域においてタクシー事業を営む原告が,中型車及び小型車の初乗運賃を2.0㎞まで500円などと設定する一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定認可の申請(以下「本件申請」という。)をしたところ,近畿運輸局長は,本件申請は道路運送法9条の3第2項1号に適合するものと認められないとして,本件申請を却下する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。本件は,原告が,本件処分は裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるから違法であると主張して,被告に対し,本件処分の取消し及び近畿運輸局長において本件申請に係る認可処分をすることの義務付けを求める事案である。 1 法令の定め(1)一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及 ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を定め,又はこれを変更しようとするときは,国土交通大臣の認可(以下「運賃等設定認可」という。)を受けなければならない(道路運送法9条の3第 比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を定め,又はこれを変更しようとするときは,国土交通大臣の認可(以下「運賃等設定認可」という。)を受けなければならない(道路運送法9条の3第1項)。 (2)国土交通大臣は,運賃等設定認可をしようとするときは,次の基準によって,これをしなければならない(同条2項)。 ア能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること(同項1号)。 イ特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(同項2号)。 ウ他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(同項3号)。 エ運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(同項4号)。 (3)上記(2)アの規定の適用については,当分の間,「加えたものを超えないもの」とあるのは,「加えたもの」とする(附則2項。なお,同項は,特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(平成21年法律第64号。以下「特措法」という。)附則5項による改正により設けられたものである。)。 (4)運賃等設定認可に関する国土交通大臣の権限は,地方運輸局長に委任する(道路運送法88条2項,道路運送法施行令1条2項)。 2 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 (1)当事者等ア原告は,大阪市及びその周辺区域において一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)を営む株式会社である。 イ近畿運輸局長は,大阪府等における運賃等設定認可に関する国土交通大臣の権限の委任を 阪市及びその周辺区域において一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)を営む株式会社である。 イ近畿運輸局長は,大阪府等における運賃等設定認可に関する国土交通大臣の権限の委任を受けた地方運輸局長である。 (2)審査基準公示近畿運輸局長は,道路運送法9条の3第2項の審査基準として,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(平成14年近運旅二公示第11号。以下「審査基準公示」という。)を定め,これを公示しているところ,審査基準公示のうち本件に関係する部分の概要は,以下のとおりである(甲20)。 ア自動認可運賃に該当する運賃の申請について申請運賃が特定の地域の自動認可運賃(近畿運輸局長が特定の地域(以下「運賃適用地域」という。)ごとに一定の方法で算定した上限運賃及び下限運賃により設定する運賃をいう。以下同じ。)に該当する運賃等設定認可の申請については,速やかに運賃等設定認可を行う(審査基準公示4(1),別紙4第2。なお,本件処分当時の大阪地区(大阪府全域)における自動認可運賃は,中型車の初乗運賃が2.0㎞まで640~660円であり,小型車の初乗運賃が2.0㎞まで620~640円であった(乙3,弁論の全趣旨)。)。 イ自動認可運賃に該当しない運賃の申請について申請運賃が当該運賃適用地域の自動認可運賃に該当せず,かつ,運賃改定(当該運賃適用地域において普通車の最も高額の運賃よりも高い運賃を設定することをいう。以下同じ。)に当たらない運賃等設定認可の申請については,次の要領により,適正な原価に適正な利潤を加えたものであること等の認可要件を個別に審査する(審査基準公示4(2),別紙4第3)。 (ア)原価及び収入の査定a 申請者は,実績年度(最近の実績年度1年 の要領により,適正な原価に適正な利潤を加えたものであること等の認可要件を個別に審査する(審査基準公示4(2),別紙4第3)。 (ア)原価及び収入の査定a 申請者は,実績年度(最近の実績年度1年間をいう。以下同じ。)の原価及び収入を基に所定の方法により算定し,又は合理的な理由を 付してこれに準じた方法で算定した原価及び収入を記載した書類を作成の上,これを申請書に添付して提出する。 b 近畿運輸局長は,上記aの書類を基に平年度(実績年度の翌々年度1年間をいう。以下同じ。)における申請者の原価及び収入を査定する。ただし,人件費については,運転者一人当たり平均給与月額(基準賃金,基準外賃金及び賞与(一時金を含む。)の年間総額を12で除したものをいう。以下同じ。)が標準人件費(後記ウの要領で選定される原価計算対象事業者の運転者一人当たり平均給与月額の平均の額をいう。以下同じ。)を下回るときは標準人件費により査定し,人件費以外の原価については,燃料油脂費,車両償却費,車両リース料,役員報酬,営業外費用及び適正利潤は実績値により,上記以外は原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価(ただし,実績値により査定することに十分な合理性が認められる場合には,実績値によることも妨げられない。)によりそれぞれ査定する。 (イ)運賃査定額の算定近畿運輸局長は,上記(ア)による査定に基づき,平年度における収支率が100%となる変更後の運賃額(以下「運賃査定額」という。)を算定する。ただし,運賃査定額が自動認可運賃となる場合にあっては申請に係る運賃の額に最も近い自動認可運賃額をもって運賃査定額とする。 (ウ)申請に対する処分a 近畿運輸局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額以上である場合は,申請額で運賃等設定認可をする。 b 近畿運輸局長は も近い自動認可運賃額をもって運賃査定額とする。 (ウ)申請に対する処分a 近畿運輸局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額以上である場合は,申請額で運賃等設定認可をする。 b 近畿運輸局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額に満たない場合は,運賃査定額を申請者に通知し(申請者は通知後2週間以内に申請額を運賃査定額に変更することができる。),申請者から申請額を運 賃査定額に変更する旨の申請がない場合は,当該申請を却下する。 ウ標準能率事業者及び原価計算対象事業者の選定について(ア)標準能率事業者近畿運輸局長は,運賃適用地域内において,運賃改定の申請事業者の中から,①原価標準基準(1人1車制個人タクシー事業者及び小規模個人経営者(5両以下),3年以上存続していない事業者等),②サービス標準基準(事業用自動車の平均車齢が当該運賃適用地域の全事業者の平均値に比較して特に高いと認められる事業者,タクシーサービスの著しく不良な事業者及び安全運行を怠り事故を多発している事業者)又は③効率性基準(運賃適用地域の事業者のうち年間平均実働率又は生産性(従業員1人当たりの営業収入)の水準が,当該地域内の全事業者の上位から概ね80%の順位にある水準以下の事業者)に該当する者を除き,標準的経営を行っている事業者を標準能率事業者として選定する(審査基準公示別紙1第1)。 (イ)原価計算対象事業者近畿運輸局長は,運賃適用地域の事業者のうち前記(ア)の標準能率事業者の中から,①車両規模別にそれぞれ50%を抽出すること,②その抽出に当たっては,各運賃額別,車両数規模別に申請事業者全体に対する車両数比率を算出し,その比率をもって事業者を抽出すること,③抽出事業者数の最低は10社とし,30社を超える場合は30社を限度と の抽出に当たっては,各運賃額別,車両数規模別に申請事業者全体に対する車両数比率を算出し,その比率をもって事業者を抽出すること,③抽出事業者数の最低は10社とし,30社を超える場合は30社を限度とすること及び④抽出事業者の実績加重平均収支率が標準能率事業者の実績加重平均収支率を下回らないように抽出することという基準により,原価計算対象事業者を抽出する(審査基準公示別紙2第1)。 (3)本件処分の経緯等ア原告は,平成20年2月27日付けで,近畿運輸局長に対し,営業区域を大阪市域交通圏(大阪市及びその周辺区域)とする一般乗用旅客自動車 運送事業の許可並びに中型車及び小型車の初乗運賃を2.0㎞まで500円などと設定する運賃等設定認可の申請をし,近畿運輸局長は,同年6月27日付けで,原告に対し,上記申請に係る一般乗用旅客自動車運送事業の許可及び運賃等設定認可(以下「本件原認可」という。)をした(甲1,乙1)。 イ原告は,平成21年9月15日付けで,近畿運輸局長に対し,本件原認可と同じ初乗運賃等を設定する運賃等設定認可の申請をし,近畿運輸局長は,平成22年2月10日付けで,上記申請を却下する旨の処分をした(甲2,8)。 ウ原告は,同月15日付けで,近畿運輸局長に対し,中型車及び小型車の初乗運賃を1.0㎞まで320円などと設定する運賃等設定認可の申請をし,近畿運輸局長は,同年3月15日付けで,上記申請に係る運賃等設定認可(以下「本件変更認可」という。)をした(甲9,10)。 エ原告は,同年4月9日付けで,近畿運輸局長に対し,中型車及び小型車の初乗運賃を2.0㎞まで500円などと設定する本件申請をした(甲14)。 オ近畿運輸局長は,平成23年3月11日付けで,原告に対し,本件申請に係る中型 畿運輸局長に対し,中型車及び小型車の初乗運賃を2.0㎞まで500円などと設定する本件申請をした(甲14)。 オ近畿運輸局長は,平成23年3月11日付けで,原告に対し,本件申請に係る中型車及び小型車の初乗運賃の運賃査定額が2.0㎞まで590円である旨及び2週間以内に運賃申請額を大阪地区の中型車及び小型車の上限運賃から上記運賃査定額の間の額に変更することができるが,同変更の申請がない場合には本件申請を却下する旨を通知した(甲18)。 カ近畿運輸局長は,原告から上記オの変更の申請がされなかったことから,同月28日付けで,本件申請は道路運送法9条の3第2項1号に適合するものと認められないとして,本件申請を却下する旨の本件処分をした(甲19)。 キ原告は,同年4月1日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 (4)本件申請に係る添付書類の概要原告は,本件申請の際,本件の実績年度(平成21年3月1日~平成22年2月末日)の収支(その概要は,別紙「原価・収入計算表」の「平成21年度」欄に記載のとおりである。)及び平年度(平成23年3月1日~平成24年2月末日)の収支予測(その概要は,同別紙「事業者申請値」欄に記載のとおりである。)を記載した収支見積書を含む「平成22年度一般乗用旅客自動車運送事業原価計算書」(以下「本件原価計算書」という。)を提出した(甲17,26,弁論の全趣旨)。 (5)近畿運輸局長による査定の概要近畿運輸局長が本件処分の際に本件申請について審査基準公示の定めにより行った平年度における原告の原価及び収入の査定の結果(本件申請に係る運賃の額を前提としたもの)は,別紙「原価・収入計算表」の「査定数値」欄に記載のとおりであり,そのうち本件において査定の合理性について争いのある運送収 原告の原価及び収入の査定の結果(本件申請に係る運賃の額を前提としたもの)は,別紙「原価・収入計算表」の「査定数値」欄に記載のとおりであり,そのうち本件において査定の合理性について争いのある運送収入,人件費,一般管理費及び営業外費用の算定過程は,以下のとおりである(甲17,26,乙4,5,弁論の全趣旨)。 ア運送収入 2億2055万7000円以下のとおり,車種区分別の車キロ当たり収入(実績値)に実車走行距離(査定値)を乗じたものを合計して求めた。 中型車 262.94 円×798,881 ㎞≒210,057,770 円小型車 256.15 円×40,986 ㎞≒10,498,564 円合計 210,057,770 円+10,498,564 円≒220,557,000 円なお,上記の車キロ当たり収入(実績値)は,以下のとおり,車種区分別の実績年度運送収入を実績年度実車走行距離で除して求めた。 中型車 212,656,000 円÷808,764 ㎞≒262.94 円小型車 7,936,000 円÷30,982 ㎞≒256.15 円また,上記の実車走行距離(査定値)は,以下のとおり,実働1日1車 当たり実車距離に実働車両数(査定値)及び車種別車両数比を乗じて求めた(なお,実働1日1車当たり実車距離は,実車距離(申請値)を実働車両数(実績値)で除して求めた。)。 中型車 85.50 ㎞×9,823 両×95.12%≒798,881 ㎞小型車 85.50 ㎞×9,823 両×4.88%≒40,986 ㎞(85.50 ㎞≒844,484 ㎞÷9,877 両)イ人件費 1億6399万9000円 ㎞小型車 85.50 ㎞×9,823 両×4.88%≒40,986 ㎞(85.50 ㎞≒844,484 ㎞÷9,877 両)イ人件費 1億6399万9000円以下のとおり,運転者人件費と技工・事務員等人件費を合計して求めた。 149,312,000 円+14,687,000 円=163,999,000 円(ア)運転者人件費 1億4931万2000円以下のとおり,平均給与月額(福利厚生費を含む。以下同じ。)(申請値)に支給延人員数(査定値)を乗じて求めた。 280,661 円×532 人≒149,312,000 円なお,上記の平均給与月額については,総人件費(実績年度総給与月額から一定の方法で算出した平年度の平均給与月額に支給延人員数(査定値)を乗じ,さらに,一定の方法で算出した退職金支給率及び厚生費支給率を加味したもの)を支給延人員数(査定値)で除して査定値を求めたところ,以下のとおり申請値が査定値及び標準人件費を上回ったことから,より高い申請値を採用した。 申請値 280,661 円査定値 132,406,000 円÷532 人≒248,883 円標準人件費 259,121 円また,上記の支給延人員数(査定値)は,以下のとおり,実績年度支給延人員数(実績値)に,実働車両数(査定値)を実績年度延実働車両数(実績値)で除して得た数値を乗じて求めた(なお,実働車両数(査定値)は,実在車両数に実働率(申請値は申請後の実績に照らし実現困 難と認め,実績値を採用した。)を乗じて求めた。)。 480 人×(9,823 両÷8,859 両)≒532 人 車両数に実働率(申請値は申請後の実績に照らし実現困 難と認め,実績値を採用した。)を乗じて求めた。)。 480 人×(9,823 両÷8,859 両)≒532 人(9,823 両≒14,965 両×65.64%)(イ)技工・事務員等人件費 1468万7000円以下のとおり,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に走行距離(査定値)を乗じて求めた。 7.67 円×1,914,896 ㎞≒14,687,000 円ウ一般管理費 2428万7000円以下のとおり,人件費(役員報酬その他),諸税及びその他経費を合計して求めた。 12,874,000 円+900,000 円+10,513,000 円=24,287,000 円なお,上記の人件費(1287万4000円)のうち役員報酬については,申請値は0円であるが,経理上の実績値(515万7000円)を計上し,その他の管理部門人件費(771万7000円)については,以下のとおり,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に走行距離(査定値)を乗じて求めた。 4.03 円×1,914,896 ㎞≒7,717,000 円エ営業外費用 403万1000円以下のとおり,金融費用,車両売却損及びその他を合計して求めた。 3,918,000 円+113,000 円+0 円=4,031,000 円なお,上記の金融費用については,申請値は0円であるが,実績年度の実績値を基にした査定値(391万8000円)を計上した。 3 争点及び当事者の主張本件の主たる争点は,本件処分の違法性(具体的には,近畿運輸局長が本件申請を却下したことに裁量権の範囲の逸 度の実績値を基にした査定値(391万8000円)を計上した。 3 争点及び当事者の主張本件の主たる争点は,本件処分の違法性(具体的には,近畿運輸局長が本件申請を却下したことに裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか)であり,この点についての当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張)近畿運輸局長による原告の平年度における原価及び収入の査定は,以下のとおり不合理であるから,近畿運輸局長が本件申請は道路運送法9条の3第2項1号に適合する(能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものである)と認められないとして本件申請を却下したことには裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり,本件処分は違法である。そして,本件申請は認可されるべきものであるから,本件処分を取り消した上,近畿運輸局長において本件申請に係る認可処分をすることを義務付けるべきである。 (1)運送収入の査定についてア原告が申請した運送収入(2億5186万4000円)は,原告が,実績年度の運送収入(実績値)を基に過去の実績から実働1日1車当たり2万5500円の運送収入を上げ得ると見込み,これに,延実在車両数(実在車両数41両に365日を乗じた1万4965両)に実績年度を参考に算出した実働率(66%)を乗じた9877両を乗じて算出したものであり,原告と同一場所において本件申請と同じ運賃で営業していたA株式会社B営業所(以下「別会社営業所」という。)の平成22年度の実績(実働1日1車当たり運送収入2万5615円)に照らしても,将来の予測値としてそれなりに合理的である。そうすると,原告の上記申請値を採用しなかった近畿運輸局長の査定は,不合理というべきである。 イまた,運送収入の査定に用いられた実車走行距離(査定値)の前提となっている てそれなりに合理的である。そうすると,原告の上記申請値を採用しなかった近畿運輸局長の査定は,不合理というべきである。 イまた,運送収入の査定に用いられた実車走行距離(査定値)の前提となっている実車距離(申請値)は,近畿運輸局長の指導により,実績年度ではなく翌年度のうちの6か月(平成22年3月1日~同年8月末日)の実績に基づく数値を申告させられたものであるところ,原告においては,同年4月以降,本件変更認可に伴う値上げの影響により,多くの乗務員が退職して実働率が低下し,客離れが起きて実車率及び走行距離が低下していたため,上記申請値は不当に低くなっている。よって,上記申請値を,値 上げ前の本件原認可と同じ運賃を設定する本件申請の査定の根拠にすることは,不合理というべきである。 さらに,原告においては,同年1月以降,近畿運輸局長がした日勤勤務運転者の1乗務当たりの乗務距離の最高限度を250㎞とする定め(以下「本件乗務距離規制」という。)を含む公示により,乗務距離が抑制されていたため(誤差の大きいメーターによる乗務距離測定によって処分を受けることを恐れた運転者が走行距離をかなり抑えていた。),上記申請値は低く抑えられている(なお,近畿運輸局長は,実車距離の査定においても,実績値から上記乗務距離の最高限度を超えた部分を日報調査修正として差し引いている。)が,本件乗務距離規制については,これを違法であるとする判決が確定しているのであるから,上記申請値を採用すること(及び上記のとおり日報調査修正を行った査定値を採用すること)は不合理というべきである。 (2)人件費の査定についてア運転者人件費について近畿運輸局長は,運転者人件費の基礎となる運転者の平均給与月額について,原告の申請値を採用しているが,当該申請値は,運送 きである。 (2)人件費の査定についてア運転者人件費について近畿運輸局長は,運転者人件費の基礎となる運転者の平均給与月額について,原告の申請値を採用しているが,当該申請値は,運送収入の査定において合理性がないとして否定された高い運送収入(申請値)を前提とする高いものであるから,運送収入について申請値を認めないのであれば,平均給与月額について申請値を採用することは不合理であり,査定値又は標準人件費によるべきである(原価計算対象事業者は,勤続年数の長い乗務員を多く抱えていることが想定され,年功序列制の下,手当や退職金も多く,平均給与月額も高くなるはずであるから,原告のように開業間もない事業者とは状況が異なるし,赤字の者や既に廃業した者も含まれているなど,効率的な営業をしているか不明であり,その平均給与月額である標準人件費により査定するのも本来不当であるが,少なくともこれによるべ きである。)。 また,支給延人員数の査定値(532人)は,平成22年度の給与支給対象となる運転者が484人であることに照らすと,過大である。申請値(516人)は,保有する41両の車両を運転者43人で運用することを目安に算出した数字であって,実績に照らし十分達成可能であり,当該数値が特に不合理でない以上は,申請値が採用されるべきである。原告は,平成20年度には少ない運転者で高い実働率(75.5%)をあげており,実働車両数の増加の割合を平年度支給延人員数に直ちに反映させる理由はない。また,支払延人員数の基礎となる実働車両数を査定する際に用いる実働率は,本件変更認可に伴う値上げにより本件申請の後に低下しているのであるから,実績年度の実績値を採用するのは不合理である。 イ技工・事務員等人件費について近畿運輸局長は,原価計算対象 実働率は,本件変更認可に伴う値上げにより本件申請の後に低下しているのであるから,実績年度の実績値を採用するのは不合理である。 イ技工・事務員等人件費について近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に原告の走行距離(査定値)を乗じて技工・事務員等人件費を算出しているが,原価計算対象事業者は,いずれも自動認可運賃で営業しており,少ない走行距離で収入を得られるため,原価が同じでも走行キロ当たりでは割高になるから,その走行キロ当たり原価に,低い運賃で比較的長い距離を走行することを前提とする原告の走行距離(査定値)を乗じては,原価計算対象事業者とはビジネスモデルが異なる原告について,不当に過大な原価が査定される結果となりかねない。このような査定方法は,申請事業者の合理的な経費削減に向けた経営努力を全く無視するものであり不合理である(低額運賃で営業している事業者だからといって安全やサービス,労働条件がおろそかになっているという傾向は認められず,初乗運賃を2.0㎞まで500円を下回るものとするような運賃値下げ競争も存在しないから,労働条件の確保や安全性・サービスの低下防止のために原価計算対象事業者の数値に基づいて原価を査定すべきとはいえない。)。むしろ,個別申請・ 個別審査・個別認可方式を採用している道路運送法の下では,申請値に特段不合理な点がなければ申請値に基づいて原価を査定すべきである(申請者が自ら赤字になるような運賃を申請するとは考えられないから,申請値には合理性があるといえる。)。 また,近畿運輸局長は,実績年度直近の平成21年度の原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いず,それよりも高い平成20年度の数値を用いて査定をしており,不合理である。 (3)一般管理費の査定についてア役員報酬に 年度直近の平成21年度の原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いず,それよりも高い平成20年度の数値を用いて査定をしており,不合理である。 (3)一般管理費の査定についてア役員報酬について近畿運輸局長は,一般管理費のうちの役員報酬について,実績値(515万7000円)を計上しているが,原告の役員は,運行管理者及び整備管理者を兼務してその給与を受け,他方,役員報酬を受領していない(運行管理者等を役員が兼務することは法律上禁じられていないから,このような取扱いは企業努力として認められるべきである。)から,前記前提となる事実(5)イ(イ)のとおり,技工・事務員等人件費(運行管理者,整備管理者等の人件費)として査定値(1468万7000円)を計上しながら,別途,実績値を役員報酬として計上することは,二重計上であり,不合理である。 イその他の管理部門人件費について近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に原告の走行距離(査定値)を乗じて役員以外の管理部門人件費を算出しているが,この点は,前記(2)イのとおり,不合理である。 (4)営業外費用の査定について近畿運輸局長は,翌年度(実績年度の翌年度1年間をいう。以下同じ。)である平成22年度以降は借入金の利息の支払がないにもかかわらず,実績年度の実績値(391万4000円)に基づく査定値(391万8000円) を計上しており,不合理である。原告は,当該借入れの元本を,平成23年10月25日及び平成24年1月25日の2回に分けて返済しているが,利息については,平成22年度以降は支払わない旨を債権者と合意している。 (被告の主張)近畿運輸局長による原告の平年度における原価及び収入の査定は,以下のとおり合理的であり,近畿運輸局長が 息については,平成22年度以降は支払わない旨を債権者と合意している。 (被告の主張)近畿運輸局長による原告の平年度における原価及び収入の査定は,以下のとおり合理的であり,近畿運輸局長が本件申請は道路運送法9条の3第2項1号に適合する(能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものである)と認められないとして本件申請を却下したことに裁量権の範囲の逸脱又はその濫用はないから,本件処分は適法であり,その取消請求は棄却されるべきである。そして,本件申請に係る認可処分の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,本件処分の取消請求は上記のとおり認容されるべきものではないから,上記義務付けの訴えは,同法37条の3第1項2号の要件を満たさず不適法である。 (1)運送収入の査定についてア近畿運輸局長は,原告の申請後の経営状況を勘案しつつ,申請値及び実績値に基づき運送収入を査定しており,その査定は合理的である。他方,原告の申請値は,その達成に必要な実車キロ当たり運送収入(298.25円)が実績年度の実績値(262.69円)とかけ離れており,別会社営業所の実績と比較しても,前提となる実働1日1車当たり実車距離が別会社営業所の実績(95.85~96.60km)と原告の実車距離(申請値)に基づく値(85.50㎞)とでは大きく異なるから,合理的な予測を基にした数値であるということはできない。 なお,審査基準公示は,申請者独自の算式による運送収入の算出を認めているが,その場合には,審査基準公示の算式ではなく自己の算式によることの「合理的な理由」を付さなければならないとされているところ,本件申請については,そのような「合理的な理由」も付されていないのであ るから,仮に,原告 示の算式ではなく自己の算式によることの「合理的な理由」を付さなければならないとされているところ,本件申請については,そのような「合理的な理由」も付されていないのであ るから,仮に,原告の算定方法に合理性が認められるとしても,これを採用しなかった査定が不合理ということにはならない。 イまた,近畿運輸局長は,運送収入の算定に用いる実車距離について,原告に対し,平成22年3月1日~同年8月末日の実績を申請値とするように指導したことはなく,申請値を採用したことが不合理ということはできない(そもそも自ら申請した申請値が採用されたことを論難すること自体不合理というべきである。)。 そして,実働1日1車当たり実車距離に係る申請値(85.50㎞)は,査定値(87.74㎞)と比べても大きな乖離がないところ,この査定値は,値上げ前である実績年度(平成21年3月1日~平成22年2月末日)の実績値から本件乗務距離規制違反等の法令違反に係る走行距離を差し引いた上,統計学上合理的な手法であるとされる最小二乗法により数値化された変動傾向を乗じて計算した合理的なものであるから,上記申請値を採用したことが不合理であるとはいえない(なお,仮に,本件乗務距離規制を超える走行部分を実績から差し引かずに算定すると,原告の実働1日1車当たり実車距離は90.40㎞となるが,その場合も,自ら申請した申請値がこれを下回っており達成可能と判断される以上,申請値を採用することが不合理であるとはいえない。)。 (2)人件費の査定についてア運転者人件費について運転者の労働条件確保という政策的要請(特措法の趣旨)からすれば,申請者が充てる用意があるとして申請した人件費(申請値)が運転者の収入の改善に資するものであればこれを尊重し,そのような人件費の裏付けと 者の労働条件確保という政策的要請(特措法の趣旨)からすれば,申請者が充てる用意があるとして申請した人件費(申請値)が運転者の収入の改善に資するものであればこれを尊重し,そのような人件費の裏付けとなるだけの収入を確保できる運賃水準を査定すべきである(逆に,申請値が実績値や標準人件費を下回るものであった場合には,運転者の労働条件確保の観点から,実績値や標準人件費を採用して査定すべきである。) から,平均給与月額について,実績値や標準人件費より高い申請値を採用したことは合理的である。運送収入の低下に連動して運転者人件費を低下させることは,上記の政策的要請に反するから,運送収入を申請値よりも低く査定するのであれば平均給与月額も低く査定する必要があるとはいえないし,運送収入の低下が人件費の低下に単純に連動するものでもない。 なお,原価計算対象事業者は,実働率や従業員一人当たりの営業収入額の面で効率性が悪い事業者を除くといった基準で選定されているから,当該運賃適用地域において標準的・能率的な経営を行っている事業者であるといえる(一部の原価計算対象事業者は赤字であるが,大阪地区全体において赤字傾向が見られるので,赤字というだけで直ちに標準的・能率的な経営を行っていないということはできない。)。 また,支給延人員数は,実働車両数とある程度相関関係にあると考えられるから,実働車両数の増減の割合を平年度支給延人員数に反映させる査定方法は合理的である。そして,労働条件の確保の観点から必要な運転者人件費を確保できるような運賃を査定するためには,事業者の最近の営業の状況を端的に反映している実績年度の実働車両数と運転者数(支給延人員数)の比率と同程度以上になるよう計算すべきであるし,原告の平成22年3月~平成23年1月頃の乗務員数は41~50名であ 近の営業の状況を端的に反映している実績年度の実働車両数と運転者数(支給延人員数)の比率と同程度以上になるよう計算すべきであるし,原告の平成22年3月~平成23年1月頃の乗務員数は41~50名であり,隔勤・昼勤の乗務員も増員予定であったというのであるから,査定値が過大であるとはいえない。 イ技工・事務員等人件費について運転者の労働条件の確保及び安全性やサービスの低下防止という政策的要請(特措法の趣旨)に照らせば,下限割れ運賃の認可申請に係る査定において,競争を促進することが望ましくない費目につき,事業者の申請値を採用せず,原価計算対象事業者(前記アのとおり,当該運賃適用地域において標準的・能率的な経営を行っている事業者であるといえる。)の平 均値を採用することは合理的である(タクシー事業は,運賃原価を構成する要素がほぼ共通と考えられる上,人件費が原価の相当部分を占めるものであり,同一地域では賃金水準や一般物価水準といった経済情勢はほぼ同じと考えられるから,同一地域内では適正な原価に事業者による差異が生ずる余地が少ないし,走行距離が長ければ一般に多くの費用が必要となるから,走行距離の短い事業者の走行キロ当たり原価が割高になるともいえない。そして,低額運賃事業者が安全やサービス面で問題の少ない事業者であるとはいえないし,大阪地区においては運賃競争が存在するから,コスト削減競争に歯止めをかける必要があるといえる。)。他方,申請者は,希望額で運賃等設定認可を受けられるよう,収入を高く,支出を低く予測するインセンティブが働きやすいので,その申請値が最も確からしい数値であるとは限らない。 なお,本件申請の査定に平成20年度の原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いたのは,査定が終了した平成23年3月までに平成2 やすいので,その申請値が最も確からしい数値であるとは限らない。 なお,本件申請の査定に平成20年度の原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いたのは,査定が終了した平成23年3月までに平成21年度分の集計(平成23年6月頃完成)ができていなかったからにすぎない上,平成20年度~平成22年度の各原価合計に大きな差異はない。 (3)一般管理費の査定についてア役員報酬について役員のうち1名以上は専従であることが必要であるから,原告が役員報酬を支払っていないとは考え難いところ,原告が運行管理者及び整備管理者各1名の給与として申請している額は,経理上役員報酬として支払われているというのであるから,同額を役員報酬として査定することは合理的であり,他方,運行管理者及び整備管理者の人件費については,安全性やサービスの確保に必要な経費であるから,実績値や申請値を前提とせず,原価計算対象事業者の平均値に基づき査定するのが合理的である。よって,役員報酬に上記実績値を計上した上で,運行管理者及び整備管理者の人件 費を,同額又は0円と査定せず,原価計算対象事業者の平均値により査定することが不合理であるとはいえない(なお,少なくとも,運行管理者については,役員との兼務は,利益相反の可能性や兼務に伴う業務量増加により運行管理業務の適切な実施が困難になるおそれを生じさせ,安全管理上不適切といえるから,役員との兼務を認めない前提での査定は不合理ではない。)。 イその他の管理部門人件費について近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に原告の走行距離(査定値)を乗じて役員以外の管理部門人件費を算出しているが,この点は,前記(2)イのとおり,合理的である。 (4)営業外費用の査定について原告は,実績年度( 行キロ当たり原価に原告の走行距離(査定値)を乗じて役員以外の管理部門人件費を算出しているが,この点は,前記(2)イのとおり,合理的である。 (4)営業外費用の査定について原告は,実績年度(平成21年度)には391万4000円の利息を支払っており,その翌年度・平年度に元本が完済されるとは考え難いことから,これに基づいて利息支払を見込んだものである。原告は新たに借入れをしていないというのみであり,本件処分までに従前の借入金を完済していなかったから,実績年度の利息支払額に基づく査定値を計上することは合理的である。 第3 当裁判所の判断 1 判断枠組み(1)証拠(乙6~16)及び弁論の全趣旨によれば,特措法の制定の経緯に関し,以下の事実が認められる。 ア平成12年法律第86号による改正前の道路運送法9条2項1号は,運賃等設定認可の認可基準の一つとして,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」との基準を定めていたところ,上記改正後の同法9条の3第2項1号においては,上記基準は,利用者の経済的利益の保護を図る観点から,「能率的な経営の下における適正 な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの」と改められた。 イ上記アの改正後,タクシー事業については,待ち時間の短縮,多様なサービスの導入等の効果が現れる一方で,長期的な需要の減少傾向の中,タクシーの経営環境は総じて非常に厳しい状況に置かれ,特に運転者の賃金等の労働条件の著しい悪化傾向がタクシーの安全性や利便性を低下させているのではないかといった指摘がされ,交通政策審議会の小委員会において検討が行われるなどした。 ウ交通政策審議会は,国土交通大臣の諮問を受け,平成20年12月,タクシーの運賃について,過度な低額運賃競争が行わ かといった指摘がされ,交通政策審議会の小委員会において検討が行われるなどした。 ウ交通政策審議会は,国土交通大臣の諮問を受け,平成20年12月,タクシーの運賃について,過度な低額運賃競争が行われた場合,運転者の労働条件や安全性の確保のための経費の削減が生じやすく,安全性やサービスの質の低下を通じて利用者に不利益をもたらすおそれがあるとした上,適正な運賃水準の下限を下回るいわゆる下限割れ運賃については,ガイドライン等の形で基準を明確化した上で,その適否を個々に判断する必要があるなどとする答申をした。 エ政府は,平成21年2月,上記ウの答申を受けて,特措法に係る法案を第171回国会に提出したが,同法案には,道路運送法9条の3第2項1号所定の基準を変更する規定は含まれていなかった。 オ上記エの法案は,同年6月10日,衆議院国土交通委員会において,過当な競争によって利用者の安全性や利便が損なわれる事態を防ぐためには道路運送法9条の3第2項1号所定の基準を改める必要があるといった議論を踏まえ,同号の規定の適用については,当分の間,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものとすること等を内容とする修正を加えた上で可決され(タクシーの安全を確保するための適切な運賃水準が確保されるよう下限割れ運賃の審査を厳格化する措置を講ずること等を政府に求める附帯決議がある。),同月11日,衆議院本会議において可決された。さらに,同法案は,同月18日,参議院国土交通委員会に おいて可決され(適切な運賃水準の趣旨を逸脱した下限割れ運賃等の防止に必要な措置を講ずること等を政府に求める附帯決議がある。),同月19日,参議院本会議において可決され,特措法が成立した。 (2)上記(1)のような特措法の制定の経緯等に照らすと,特 れ運賃等の防止に必要な措置を講ずること等を政府に求める附帯決議がある。),同月19日,参議院本会議において可決され,特措法が成立した。 (2)上記(1)のような特措法の制定の経緯等に照らすと,特措法による改正後の道路運送法附則2項によって読み替えられる同法9条の3第2項1号が,運賃等設定認可の認可基準の一つとして,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの」との基準を定めている趣旨は,一般旅客自動車運送事業の有する公共性・公益性に鑑み,安定した事業経営の確立を図るとともに,運転者等の労働条件を確保し,安全性や利用者に対するサービスの質の低下を防止することにあると解するのが相当である。そして,同号の基準は抽象的,概括的なものであり,同基準に適合するか否かは,行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし,ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない(最高裁平成11年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事193号571頁参照)。 そうすると,上記基準に適合すると認められないことを理由として運賃変更に係る運賃等設定認可の申請を却下する処分は,変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものと認められないとする地方運輸局長の判断が,上記の規定の趣旨等に照らして合理性を欠くこと等により,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものと認められる場合に違法となると解するのが相当である。 2 検討(1)運送収入の査定についてア申請値を採用しなかった点について(ア)原告は,本件申請において原告が申請した運送収入(2億5186万4000円)は将来の予測値としてそれなりに合理的であり,これを採用しなかった近畿運輸局長の査定は不合理であると主張する。 (イ)しか 申請において原告が申請した運送収入(2億5186万4000円)は将来の予測値としてそれなりに合理的であり,これを採用しなかった近畿運輸局長の査定は不合理であると主張する。 (イ)しかしながら,原告の上記申請値を達成するために必要な実車キロ当たり収入(上記申請値を実車距離(申請値)である84万4484㎞で除したもの)は,約298円(実車距離につき,後記イのとおり,実績年度の実績値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに算出した88万7999㎞を前提としても,約284円)と算出されるところ,証拠(甲21,乙27)によれば,原告が本件申請に係る運賃と同じ運賃(本件原認可に係る運賃)で営業していた平成21年3月~平成22年2月の各月の実車キロ当たり収入は,おおむね260円程度で推移していたものと認められる。そうすると,上記申請値は,実績と大きく乖離しているというべきであり,達成可能性が十分に認められる合理的な予測値であるということはできない。 この点,原告は,原告と同一場所において本件申請に係る運賃と同じ運賃で営業していた別会社営業所は,平成22年度に実働1日1車当たり2万5615円の運送収入を得ていたから,上記申請値(実働1日1車当たり2万5500円の運送収入を前提とする。)は合理的であると主張する。しかしながら,その前提となる実働1日1車当たり実車距離を見ると,証拠(甲29)によれば,別会社営業所の平成22年度の実績値は96.60㎞であると認められるのに対し,原告の実車距離(申請値)に基づく値は,85.50㎞(後記イのとおり,実績年度の実績値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに算出しても,90.40㎞)にとどまるのであるから,原告が同一場所において同一運賃で営業したとしても, (後記イのとおり,実績年度の実績値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに算出しても,90.40㎞)にとどまるのであるから,原告が同一場所において同一運賃で営業したとしても,直ちに別会社営業所と同程度の実働1日1車当たり運送収入を得られるということはできない。よって,原告の上記主張は,採用することができない。 (ウ)そして,証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件申請の際に,その申請する運送収入の算出方法について,実働1日1車当 たり運送収入2万5500円に実働車両数9877両を乗じた旨を本件原価計算書に記載するのみで,当該算出方法の合理性について何ら説明していないものと認められるのであり,この点をも併せ考慮すれば,近畿運輸局長が上記申請値を採用しなかったことが不合理であるということはできない。 イ実車距離について(ア)前記前提となる事実のとおり,近畿運輸局長は,本件申請に係る運送収入の査定に用いる実車距離として,原告の申請値(84万4484㎞)を採用しているところ,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 近畿運輸局長は,乗務距離の最高限度を定める旅客自動車運送事業運輸規則に基づき,平成21年12月16日付けで,大阪市域交通圏等を指定地域とし,当該地域における日勤勤務運転者の乗務距離の最高限度を1乗務当たり250㎞とする本件乗務距離規制を含む公示をし,原告は,平成22年1月以降,本件乗務距離規制の適用を受けていたところ,大阪地方裁判所は,平成25年7月4日,近畿運輸局長が上記公示をしたことが,本件乗務距離規制を定めた点等において裁量権の範囲を逸脱し,違法であるなどとして,原告を含むタクシー事業者らと被告との間において,当該タクシー事業者らが,その営業 畿運輸局長が上記公示をしたことが,本件乗務距離規制を定めた点等において裁量権の範囲を逸脱し,違法であるなどとして,原告を含むタクシー事業者らと被告との間において,当該タクシー事業者らが,その営業所に属する日勤勤務運転者を,それぞれ,1乗務当たりの乗務距離が250㎞を超えても事業用自動車に乗務させることができる地位にあることを確認する旨の判決を言い渡し,同判決は,その後,確定した(甲40,41)。 b 原告が本件申請において申請した実車距離(84万4484㎞)は,平成22年3月1日~同年8月末日の実績に基づき,かつ,本件乗務距離規制の存在を考慮して算出されたものである(甲17,証人C)。 c 近畿運輸局長は,本件申請の査定において,原告の平年度における実車距離につき,実績年度(平成21年3月1日~平成22年2月末日)の実績値(実働1日1車当たり94.79㎞)に,本件乗務距離規制の最高限度を超えないものの割合(97.06%)を乗じた上で,一定の統計学的手法により算出された変動傾向を乗じて査定値(実働1日1車当たり87.74㎞)を算出したところ,申請値(実働1日1車当たり85.50㎞)が,上記査定値を下回り,その達成が可能であると判断されたことから,申請値を採用した(乙5,52~54)。 d 上記cの実績年度の実績値から本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに実車距離を算出すると,実働1日1車当たり90.40㎞となる(乙5,52~54)。 (イ)前記認定のとおり,原告が本件申請において申請した実車距離(実働1日1車当たり85.50㎞)は,原告が本件乗務距離規制により走行距離を制限されることを前提に算出されたものであるところ,原告については,被告との間で,日勤勤務運転者に本件乗務距離規制の最高限度を超 日1車当たり85.50㎞)は,原告が本件乗務距離規制により走行距離を制限されることを前提に算出されたものであるところ,原告については,被告との間で,日勤勤務運転者に本件乗務距離規制の最高限度を超える乗務をさせることができる地位にあることを確認する旨の判決が確定している。そして,原告の実績年度の実績値に基づいて,本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに一定の統計学的手法(その手法に特に不合理な点があるとは認められない。)により数値化された変動傾向を乗じて算出される実車距離の予測値が,前記認定のとおり,実働1日1車当たり90.40㎞であることからすれば,上記申請値はもともと過小であったというべきであり,上記予測値を採用せず,申請値を採用することは,合理性を欠くものといわざるを得ない。 (ウ)この点,被告は,原告自らが申請した申請値を採用することが不合理であるということはできないと主張するが,上記申請値は,上記のとおり,本件乗務距離規制により走行距離が制限されることを前提とするも のであるところ,本件申請後,原告が日勤勤務運転者に本件乗務距離規制の最高限度を超える乗務をさせることができる地位にあることを確認する旨の判決が確定していることからすれば,原告自らが申請した申請値であるからといって,これを採用することは,事後的・客観的には不当であったというほかない。よって,被告の上記主張は,採用することができない。 他方,原告は,本件申請における実車距離(申請値)は,近畿運輸局長の指導により,平成22年3月1日~同年8月末日の実績に基づく数値を申告させられたものであるところ,当該数値は,本件乗務距離規制のほか,本件変更認可に伴う値上げの影響によっても低く抑えられているから,値上げ前の運賃を前提とする実車距離は更に高く査 績に基づく数値を申告させられたものであるところ,当該数値は,本件乗務距離規制のほか,本件変更認可に伴う値上げの影響によっても低く抑えられているから,値上げ前の運賃を前提とする実車距離は更に高く査定されるべきと主張する。しかしながら,上記のような近畿運輸局長の指導があったと認めるに足りる証拠はないし,上記(イ)のとおり採用すべき実車距離の予測値は,本件変更認可前である実績年度の実績に基づくものであるから,原告の上記主張は,採用することができない。 ウ小括以上によれば,運送収入の査定のうち,前提となる実車距離につき,実績年度の実績値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに算出した予測値(実働1日1車当たり90.40㎞)を採用せず,当該規制により走行距離が制限されることを前提とする申請値(実働1日1車当たり85.50㎞)を採用した点は,合理性を欠くものというべきであるが,その他に不合理な点は認められない。 (2)人件費の査定についてア運転者人件費について(ア)平均給与月額についてa 前記前提となる事実のとおり,近畿運輸局長は,運転者人件費の基 礎となる運転者の平均給与月額について,原告の申請値(28万0661円)を採用しているところ,証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば,当該申請値は,実働1日1車当たり2万5500円の運送収入があることを前提に算出されたものであり,原告の実績に基づく査定値(24万8883円)及び標準人件費(25万9121円)よりも高額であることが認められる。そうであるところ,近畿運輸局長は,前記のとおり,運送収入の査定において,原告が申請した実働1日1車当たり2万5500円の運送収入を高額すぎるとして否定しているのであるから,原告が当該運送収入を前提として申請し ろ,近畿運輸局長は,前記のとおり,運送収入の査定において,原告が申請した実働1日1車当たり2万5500円の運送収入を高額すぎるとして否定しているのであるから,原告が当該運送収入を前提として申請した平均給与月額を採用し,運転者人件費を高く査定することは,恣意的な操作であるといわざるを得ない。 b この点,被告は,運転者の労働条件の確保という政策的要請からすれば,申請者が充てる用意があるとして申請した人件費(申請値)が運転者の収入の改善に資するものであればこれを尊重すべきであり,運送収入の低下に連動して運転者人件費を低下させるべきではないなどと主張する。しかしながら,タクシー運転者の給与は歩合制を中心とし(弁論の全趣旨),運転者の平均給与月額が運送収入の増減にある程度連動すること自体は否定できないから,その申請値を,運送収入の査定に関係なく人件費として充てる前提で申請されたものと見ることはできない。そして,運転者の労働条件の確保を含む道路運送法9条の3第2項1号の趣旨に照らせば,運送収入にかかわらず確保すべき平均給与月額を査定することは合理的ということができるとしても,その下限は,当該運賃適用地域において標準的・能率的な経営を行う原価計算対象事業者の運転者一人当たり平均給与月額の平均の額である標準人件費(実績に基づく査定値がこれを上回る場合は,現状維持の観点から,当該査定値)であると考えられるから,これを上回 る申請値を,運送収入にかかわらず,労働条件確保の観点から採用すべきということもできない(なお,原告は,原価計算対象事業者の平均給与月額は原告のように開業間もない事業者より高くなるはずであるし,原価計算対象事業者が効率的な営業をしているかも不明であるから,標準人件費により査定することは不当であると主張するが,原価 の平均給与月額は原告のように開業間もない事業者より高くなるはずであるし,原価計算対象事業者が効率的な営業をしているかも不明であるから,標準人件費により査定することは不当であると主張するが,原価計算対象事業者は,後記イ(ア)bのとおり,当該運賃適用地域において標準的・能率的な経営を行う事業者であると認められ,その平均給与月額が開業間もない事業者よりも類型的に高いと認めるに足りる証拠もないから,標準人件費によって査定を行うことが不合理であるとはいえない。)。 c そうすると,運送収入の査定において原告の申請値を否定した近畿運輸局長が,平均給与月額の査定において,より低額の標準人件費を採用するなどせず,当該運送収入を前提とする申請値を採用した点は,合理性を欠くというほかない。 (イ)支給延人員数についてa 原告は,運転者人件費の基礎となる支給延人員数の査定値(532人)は,平成22年度の実績に照らすと過大であり,特に不合理でない以上は申請値(516人)が採用されるべきであると主張する。 b しかしながら,支給延人員数と実働車両数の間にある程度の相関関係があること自体は否定することができないから,実績年度の支給延人員数(実績値)に実働車両数の増減の割合を乗じて平年度の支給延人員数を算出する査定方法が不合理であるとはいえないし,証拠(乙40)によれば,原告の平成22年3月~同年9月の各月の乗務員数は平均41人(年換算492人)であったものが,同年10月~平成23年1月の各月の乗務員数は平均48.5人(年換算582人)となるなど増員傾向にあったと認められること等に照らすと,査定値(5 32人)が過大ということもできない。 c この点,原告は,平成20年度には少ない運転者で高い実働率をあげており,実働車両数の増加の割合を平 ったと認められること等に照らすと,査定値(5 32人)が過大ということもできない。 c この点,原告は,平成20年度には少ない運転者で高い実働率をあげており,実働車両数の増加の割合を平年度支給延人員数に直ちに反映させる理由はないと主張するが,仮にその主張するような事情があるとしても,上記の査定方法の合理性自体を否定するに足りるものではないというべきである。また,原告は,支給延人員数の基礎となる実働車両数を査定する際に用いる実働率は,本件変更認可に伴う値上げの影響で本件申請の後に低下しているから,実績年度の実績値を採用するのは不合理であると主張するが,本件申請に係る運賃の査定において,当該運賃と同じ運賃(本件原認可に係る運賃)で営業していた実績年度の実績値を採用し,本件変更認可後である本件申請後の実績値を採用しなかったことが,不合理であるということはできない。 よって,原告の上記各主張は,いずれも採用することができない。 d そして,証拠(甲17)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件申請の際に,その申請する支給延人員数の算出方法について,43人に12か月を乗じた旨を本件原価計算書に記載するのみで,当該算出方法の合理性について何ら説明していないものと認められること等をも併せ考慮すれば,近畿運輸局長が,上記申請値を採用せず,査定値を採用したことが不合理であるとは認められない。 イ技工・事務員等人件費について(ア)原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いた点についてa 原告は,原価計算対象事業者は,いずれも自動認可運賃で営業しており,少ない走行距離で収入を得られるため,原価が同じでも走行キロ当たりでは割高になるから,その走行キロ当たりの原価に,低い運賃で比較的長い距離を走行することを前提とする原告の走行距 運賃で営業しており,少ない走行距離で収入を得られるため,原価が同じでも走行キロ当たりでは割高になるから,その走行キロ当たりの原価に,低い運賃で比較的長い距離を走行することを前提とする原告の走行距離(査定値)を乗じて技工・事務員等人件費を算出すると,不当に過大な原 価が査定される結果となりかねないと主張する。 b 運転者等の労働条件を確保し,安全性や利用者に対するサービスの質の低下を防止するという道路運送法9条の3第2項1号の趣旨に照らせば,タクシーの運行に携わる運行管理者,整備管理者等に係る技工・事務員等人件費について,一定の適正な額が確保されるように査定を行うことは合理的というべきである。 そうであるところ,原価計算対象事業者は,前記前提となる事実のとおり,運賃適用地域内の事業者からサービス,効率性等に着目した基準によって不適当な事業者を除外した標準能率事業者の中から選定されており,その基準に不合理な点があるとは認められないから,当該運賃適用地域において標準的・能率的な経営を行う事業者であるということができる(仮に,一部の原価計算対象事業者が赤字経営状態であるとしても,証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば,大阪地区においては法人タクシー事業者全体に赤字傾向が認められるから,赤字経営であるというだけで直ちに標準的・能率的な経営を行っていないということはできない。)。そして,同じ運賃適用地域内では,賃金水準や一般物価水準といった経済情勢はほぼ同じであると考えられるから,適正な人件費に事業者による差異が生ずる余地は少ないし,走行距離が長くなれば一般に多くの費用が必要となるといえること等からすれば,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価が,走行距離が短いことによって割高になるとも認められない。 そうすると,技工・事務 走行距離が長くなれば一般に多くの費用が必要となるといえること等からすれば,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価が,走行距離が短いことによって割高になるとも認められない。 そうすると,技工・事務員等人件費について,原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を査定に用いた点が不合理であるということはできない。 c この点,原告は,低額運賃で営業している事業者だからといって安全やサービス,労働条件がおろそかになっているという傾向は認めら れず,運賃値下げ競争も存在しないから,労働条件の確保や安全性・サービスの低下防止のために原価計算対象事業者の数値に基づいて原価を査定すべきとはいえないと主張し,「低額運賃事業者」の車両100両当たりの事故件数等が全事業者のそれよりも少ない旨の調査結果(甲35)を提出する。しかしながら,同調査結果においても,監査10件当たりの行政処分件数や車両100両当たりの苦情件数は,「低額運賃事業者」の方が全事業者よりも多いとされている上,ここでいう「低額運賃事業者」は,「上限運賃以外の運賃を適用している事業者」を広く含むものであるから,上記調査結果によって,適正な原価を支出せずに下限割れ運賃で営業している事業者に限ってみた場合にも問題がないということはできず,一定の原価を原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価により査定することの合理性が否定されるものでもない。 また,原告は,申請者が自ら赤字になるような運賃を申請するとは考えられないから申請値には合理性があり,個別申請・個別審査・個別認可方式を採用している道路運送法の下では,申請値に特段不合理な点がなければ申請値に基づいて原価を査定すべきであると主張する。 しかしながら,申請値が安全性やサービスの質を確保する上で問題がないか否かを個別に把握することは性 運送法の下では,申請値に特段不合理な点がなければ申請値に基づいて原価を査定すべきであると主張する。 しかしながら,申請値が安全性やサービスの質を確保する上で問題がないか否かを個別に把握することは性質上困難であるところ,低額運賃の申請者には,赤字となることを避けるために,安全性やサービスの質の確保に必要な経費を削減する誘因があるといえるから,原価に係る申請値が適正であると推定することはできないし,個別の申請について上記のような査定を行うことが個別審査であることと矛盾するものでもない。 よって,原告の上記各主張は,いずれも採用することができない。 (イ)平成20年度の数値を用いた点について 原告は,近畿運輸局長は,実績年度直近の平成21年度の原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いず,それよりも高い平成20年度の数値を用いて査定をしており,不合理であると主張する。 しかしながら,弁論の全趣旨によれば,大阪地区の平成21年度の原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価の集計が完了したのは,本件処分よりも後の平成23年6月頃であると認められる。そうすると,本件申請の査定において,平成20年度の原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いた点が不合理であるとは認められない。 ウ小括以上によれば,人件費の査定のうち,運転者人件費の前提となる平均給与月額につき,より低額の標準人件費(25万9121円)を採用するなどせず,申請値(28万0661円)を採用した点は,合理性を欠くというべきであるが,その他に不合理な点は認められない。 (3)一般管理費の査定についてア役員報酬について(ア)被告は,原告が運行管理者及び整備管理者各1名の給与として申請している額は,経理上役員報酬として支払われているから,同額を ない。 (3)一般管理費の査定についてア役員報酬について(ア)被告は,原告が運行管理者及び整備管理者各1名の給与として申請している額は,経理上役員報酬として支払われているから,同額を役員報酬として査定することは合理的であり,他方,運行管理者及び整備管理者の人件費については,安全性やサービスの確保に必要な経費であるから,原価計算対象事業者の平均値に基づき査定するのが合理的であると主張する。 (イ)証拠(甲17,37,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,原告においては,実績年度において,役員1名が運行管理者及び整備管理者を兼務しており,当該役員は,合計515万7000円の給与(決算書上は役員報酬として計上されている。)を受領したが,他に給与・報酬等を受領していないことが認められる。 ところで,前記(2)イのとおり,運転者等の労働条件を確保し,安全性や利用者に対するサービスの質の低下を防止するという道路運送法9条の3第2項1号の趣旨に照らせば,タクシーの運行に携わる運行管理者,整備管理者等に係る技工・事務員等人件費について,一定の適正な額が確保されるように査定を行うことは合理的というべきであり,近畿運輸局長が,上記の実績値ではなく,これを上回る査定値(原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価に走行距離(査定値)を乗じたもの)を計上した点が不合理であるということはできない。しかしながら,役員報酬については,上記のような適正額確保の要請があるということはできないところ,原告は,上記のとおり,運行管理者及び整備管理者を兼務する役員に対して,上記の実績値以外に給与・報酬等を支給していないのであるから,上記の実績値を上回る査定値を技工・事務員等人件費に計上しながら,更に実績値を役員報酬として計上することは,二重計上とい る役員に対して,上記の実績値以外に給与・報酬等を支給していないのであるから,上記の実績値を上回る査定値を技工・事務員等人件費に計上しながら,更に実績値を役員報酬として計上することは,二重計上というべきであり,当該実績値が決算書上は役員報酬とされているとしても,合理性を欠くものといわざるを得ない。 (ウ)この点,被告は,少なくとも運行管理者については,役員との兼務は,利益相反の可能性や兼務に伴う業務量増加による運行管理業務の適切な実施が困難になるおそれを生じさせ,安全管理上不適切といえるから,役員との兼務を認めない前提での査定は不合理ではないと主張する。 しかしながら,役員が運行管理者を兼務することを禁止する法令の規定は見当たらず,兼務によって直ちに運行管理業務の適切な実施が困難になるということもできない。そうすると,車両数,運転者数,他の運行管理者の有無等の事情を考慮することなく,一律に,役員が運行管理者を兼務することを認めず,それを前提として技工・事務員等人件費と役員報酬の査定を行うことは,不合理というべきである。 よって,被告の上記主張は,採用することができない。 イその他の管理部門人件費について原告は,近畿運輸局長が,一般管理費のうち役員報酬以外の管理部門人件費を原価計算対象事業者の走行キロ当たり原価を用いて査定することは不合理であると主張するが,前記(2)イのとおり,この点を不合理であるということはできない。 ウ小括以上によれば,一般管理費の査定のうち,人件費(役員報酬)につき,実績値(515万7000円)を計上した点は,合理性を欠くものというべきであるが,その他に不合理な点は認められない。 (4)営業外費用の査定についてア原告は,近畿運輸局長が,平成 につき,実績値(515万7000円)を計上した点は,合理性を欠くものというべきであるが,その他に不合理な点は認められない。 (4)営業外費用の査定についてア原告は,近畿運輸局長が,平成22年度以降は借入金の利息の支払がないにもかかわらず,実績年度の実績値に基づいた額を金融費用として計上しており,不合理であると主張する。 イしかしながら,証拠(甲37~39,証人C)によれば,原告は,実績年度である平成22年度に借入金利息391万4000円を支払っているところ,当該借入金の元本を,本件処分よりも後である平成23年10月25日及び平成24年1月25日の2回に分けて返済したことが認められる。そうすると,本件処分の時点においては,上記利息に係る借入金元本は返済されていなかったのであるから,近畿運輸局長が,原告について,平年度に実績年度の実績値に基づいた額の利息支払があるものとして金融費用を査定したことは,事実誤認に基づく不合理なものであるということはできない。 この点,原告は,当該借入金利息について平成22年度以降は支払わない旨を債権者と合意したと主張し,これに沿う証言(証人C)もある。しかしながら,上記証言は,元本返済時期が最後に利息を支払ったとする時期から相当後である点等において不自然である上,原告が,本件処分前に 利息の支払について近畿運輸局から問合せを受けた際には,当該合意の存在に何ら言及していないこと(乙35の3)等に照らして信用することができず,他に上記合意を認めるに足りる証拠はない。よって,原告の上記主張は,採用することができない。 (5)まとめ以上のとおり,近畿運輸局長による本件申請の査定は,①運送収入の査定の前提となる実車距離について,申請値(実働1日1車当たり85.50㎞)を採用 は,採用することができない。 (5)まとめ以上のとおり,近畿運輸局長による本件申請の査定は,①運送収入の査定の前提となる実車距離について,申請値(実働1日1車当たり85.50㎞)を採用した点,②人件費のうちの運転者人件費の前提となる平均給与月額について,申請値(28万0661円)を採用した点及び③一般管理費のうちの人件費(役員報酬)について,実績値(515万7000円)を計上した点において合理性を欠くといわざるを得ないが,他にその算定過程に不合理な点があるとは認められない(なお,原告は,審査基準公示自体が合理性を欠くとも主張するが,その実質は,既に判示した審査基準公示による具体的な査定の合理性に関する主張と同旨であると解されるところ,これらの主張をいずれも採用することができないことは,前記のとおりである。)。 そうであるところ,仮に,上記①の実車距離について,実績年度の実績値に基づき本件乗務距離規制の最高限度を超える走行距離を除かずに算出した予測値(実働1日1車当たり90.40㎞)を採用し,上記②の平均給与月額について,標準人件費(25万9121円)を採用し,上記③の役員報酬を0円とした上で,前記前提となる事実2(5)の方法により,運送収入,人件費及び一般管理費を算出し,これらを前提とする収入合計,原価等合計及び収支率を計算した場合,各数値は,それぞれ別紙「原価・収入計算表」の「備考」欄に記載のとおりとなるのであって,本件申請に係る運賃の額を前提とした場合の収支率は,いずれにしても,100%に満たないことになる。そうすると,本件申請に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものと認められないとの地方運輸局長の判断は, 結論において不合理なものということはできないから,その裁量権 ,本件申請に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものと認められないとの地方運輸局長の判断は, 結論において不合理なものということはできないから,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものと認めるに足りないというべきである。 よって,本件処分が違法であるということはできず,その取消しを求める原告の請求は,理由がない。 3 義務付けの訴えについて本件訴えのうち本件申請に係る認可処分をすることの義務付けを求める部分は,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,前記2(5)のとおり,本件処分の取消請求は認容されるべきものではない。そうすると,上記義務付けの訴えは,同法37条の3第1項2号の要件を満たさないから不適法であり,却下を免れない。 4 結論以上のとおりであって,本件訴えのうち本件申請に係る認可処分をすることの義務付けを求める部分は不適法であるから却下し,その余の部分に係る原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官西田隆裕 裁判官山本 拓 裁判官佐 藤 しほり 別紙原価・収入計算表 (単位:千円) 平成21年度事業者申請値査定数値備考運送収入220,592251,864220,557233,196運送雑収 営業外収益9,9433,0001,373 収入合計230,535254,864221,930234,569 人件費124,148153,101163,99 益9,9433,0001,373 収入合計230,535254,864221,930234,569 人件費124,148153,101163,999152,539 燃料油脂費17,51118,42020,099 車両修繕費12,26415,25212,466 車両償却費8,6941,8481,014 その他運送費29,10931,07733,385 一般管理費30,73729,64524,28719,130 営業外費用3,9144,031 適正利潤1,0781,450 原価等合計226,377250,421260,731244,114 収支率101.84101.7785.1296.1
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