平成13(わ)437 殺人未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年2月20日 神戸地方裁判所 姫路支部
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判決文本文7,585 文字)

主文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中270日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成13年6月17日午前零時10分ころ,アスファルト舗装され,最高速度が時速30キロメートルに規制されている,兵庫県姫路市A町a番地先の直線道路上において,普通乗用自動車(長さ4.52メートル,幅1.69メートル,高さ1.34メートル,車両重量1120キログラム)を運転して北から南に向けて直進中,同車両の追跡から逃走するため,東側にコンクリートブロック塀(高さ約2.15メートル)が存在する同道路上を,ヘルメットを装着せずに北から南に向けて直進中のX(当時19歳)が運転し,同様にヘルメット未着用のY(当時18歳)が後部座席に同乗していた自動二輪車(長さ2.06メートル,幅0.72メートル,高さ1.08メートル,車両重量180キログラム)の右側に併走した後,同二輪車の転倒による衝撃などにより上記Xらが傷害を負うかもしれないことを認識しながら,あえて,時速約70キロメートルで約31.3メートルにわたって同二輪車の方向へ幅寄せをする暴行を加え,自車左側面を同二輪車右側面に衝突させ,さらにバランスを崩した同二輪車をコンクリートブロック塀に衝突させ,上記両名を同二輪車ごと同道路上に転倒させるなどし,よって,上記Xに対して,入院加療370日間を要する前頭骨陥没骨折,脳挫傷,上顎骨骨折,左大腿裂創,左大腿骨骨折,左下腿開放性骨折,左膝挫創,左母指伸筋腱開放性断裂,左環指挫滅創,左示指小指中手骨骨折,左踵骨骨折等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)省略(補足説明) 1 本件公訴事実は,X及びYに対する殺人未遂であるところ,被告人は,本件犯行 裂,左環指挫滅創,左示指小指中手骨骨折,左踵骨骨折等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)省略(補足説明) 1 本件公訴事実は,X及びYに対する殺人未遂であるところ,被告人は,本件犯行時,Xらが死亡するかもしれないことを認識したことも,死んでもいいと考えたこともない旨供述し,弁護人も被告人には殺意がなく,傷害罪が成立するに過ぎないと主張し,当裁判所は,判示のとおり,Xに対する傷害及びYに対する暴行の限度で認めたので,以下補足して説明する。 2 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,暴走族に対する嫌悪感を持ち,暴走族のことを虫けらや世の中のクズなどと蔑視していたところ,これまでに,暴走族のバイクを後ろからあおるなどといったいわゆる「族狩り」行為を3回ほど行っていた。 (2) 被告人は,本件犯行前日である平成13年6月16日午後10時ころまで遊び仲間であるZらと居酒屋で飲酒した後,翌17日午前零時過ぎころ,自己の運転する判示の普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)にZらを乗せ,片側2車線の国道312号線を南下していたところ,自動二輪車数台がその道路を低速度で蛇行運転しながら北上してきたのを見て,暴走族が集団で暴走しているものと認識し,族狩り行為しようと考え,いきなり対向車線に飛び出してその集団に突入した。集団で暴走していたXらは,これを見て,その道を北上して逃走した。被告人車両は,この暴走族を追い掛ける過程で,順次3台の自動二輪車と接触ないし追突しているが,いずれの場合も自動二輪車は転倒することなく逃走を続けた。 (3) 被告人は,蔑視していた暴走族が無事に逃走する一方で,最後の接触の際に自車が壊れてしまったことに腹を立て,ますます気持ちが高ぶり,加速して逃走した暴走族を追いかけたところ, 走を続けた。 (3) 被告人は,蔑視していた暴走族が無事に逃走する一方で,最後の接触の際に自車が壊れてしまったことに腹を立て,ますます気持ちが高ぶり,加速して逃走した暴走族を追いかけたところ,1台の自動二輪車(Xが運転,Yが後部に同乗。)が路地を右折したため,この自動二輪車にねらいを付け,この路地を右折して追いかけた。この路地は,南北に通じ,車道の幅約4メートル,車道東側の有蓋側溝約1.85メートル,車道西側の有蓋側溝約0.4メートルで,最高速度が時速30キロメートルに規制されたアスファルト道路(アスファルト道路と有蓋側溝は平面上一体となっていて,いずれも車両が走行できる状態であり,これらを合計すると約6.25メートルの幅員となる。)で,この路地の東側には,高さ約2.15メートルのコンクリートブロック塀が存在していた。 (4) 被告人は,加速してX運転の自動二輪車を北から南へ追尾している際,ヘルメットをかぶっていない二人の者がこの自動二輪車に乗車していることを分かっていたが,この自動二輪車に追いつくや,なおも被害者らを怖がらせようと,この自動二輪車が自車とコンクリートブロック塀の間にいる状態で,時速約70キロメートルの速度で,コンクリートブロック塀方向に幅寄せを開始し,約30メートル進行して自車左側面がコンクリートブロック塀の縁石まで約1.5メートルに迫った地点で,自車左側面を自動二輪車の右側面に衝突させた。その直後,被告人は,このままでは被害者らを自車とコンクリートブロック塀との間に挟み込んでしまうと危険を感じ,ハンドルを右に切ったものの,前記衝突地点からなお約30メートル進行して被告人車両の左側面がそのままコンクリートブロック塀の約50センチメートルのところまで近付いた地点で,右へ行き,コンクリートブロック塀から離れてい ものの,前記衝突地点からなお約30メートル進行して被告人車両の左側面がそのままコンクリートブロック塀の約50センチメートルのところまで近付いた地点で,右へ行き,コンクリートブロック塀から離れていった。Xは,被告人車両と衝突した直後,バランスを崩して縁石に自動二輪車をぶつけ,その後約6.5メートル走行した後,再び縁石に自動二輪車をぶつけるとともにコンクリートブロック塀にもぶつけて転倒した。 (5) 被告人は,本件犯行後一旦停止して,ルームミラーで被害者両名が転倒しているのを確認したが,救護措置をとることなく直ちに逃走した。 3 殺意の有無(1) 被告人の行為は,アスファルト道路上において,時速約70キロメートルの高速度(被告人の捜査段階の供述(検110等)やYの捜査供述(検44)により認める。)で運転する被告人車両を,ヘルメットを装着していない被害者2名が乗車している自動二輪車に対し,自車とコンクリートブロック塀との間に挟み込むような形で幅寄せをし,被告人車両及びその塀に接触させて転倒させたものである。 客観的にみて,このような行為が相手に大怪我をさせ,場合によっては死亡させることもある危険な行為であることは明らかである。 被告人は,このような外形的状況を認識した上で,あえて実行に及んでおり,しかも被告人には普通乗用車との衝突事故で原動機付自転車に乗っていた身内を失った経験があるのであるから,このような行為の危険性を十分認識し得たはずである。 (2) しかし,ア被告人は,普段は強がっているくせに普通乗用車で追い掛けるような族狩り行為を行えば逃げ回るなどする暴走族を虫けらのようなものと蔑視していた上,本件の幅寄せに至るまでの族狩り行動の中において暴走族に逃げられたり自車が壊されるといった状況があり,本件の自動二輪 な族狩り行為を行えば逃げ回るなどする暴走族を虫けらのようなものと蔑視していた上,本件の幅寄せに至るまでの族狩り行動の中において暴走族に逃げられたり自車が壊されるといった状況があり,本件の自動二輪車に関しては,被告人車両の執ような追跡併走にもかかわらず,その走行を中止しようとしなかったことなどから,著しく腹を立て,興奮する経過があったことは否めないが,人命を奪うことに対する規範を乗り越えられるほどのものであったとはいい難く,被害者らを死亡させることまでも認識,認容させるまでの十分な動機が見受けられない。 イそして,被告人が本件の幅寄せ行為をした意図について検討するに,関係証拠上優に認めることのできる以下の諸事情,すなわち,被告人車両と自動二輪車との接触は,被告人車両の左側面部と自動二輪車の右側との強度のものとはいい難い接触であったこと,現場に残されたタイヤ痕が,いわゆるブレーキ痕であるにせよ,コーナーリング痕であるにせよ,被告人は,上記接触の直後ころに,このままでは被害者らを潰してしまうと考え,ハンドルを右に切る回避行動をとって,大事に至る結果を避ける態度を見せていることなどからしても,被告人がはたして自動二輪車を転倒させるという重大な結果を引き起こす積極的な意図まで有していたかは疑問となる。被告人は,これまでにも,何回か族狩りをしたことがあったが,車をあえてぶつけたり,幅寄せしたりしたことはなく,せいぜい,警笛を鳴らしてあおり,逃げる暴走族のバイクを追いかけ,これにより暴走集団をバラバラにさせ,暴走できない状態にして,気分を発散させていた程度であり(検92,93,110),本件犯行に至る直前の族狩り行動の中でも,前記のとおり,何台かの自動二輪車に転倒させない程度の接触ないし追突させているが,これらがあえて意図した結果である せていた程度であり(検92,93,110),本件犯行に至る直前の族狩り行動の中でも,前記のとおり,何台かの自動二輪車に転倒させない程度の接触ないし追突させているが,これらがあえて意図した結果であるとはいい難い。 被告人は,当公判廷において,「少々当たるか当たらんかというぐらいまでびびらせてやろうと思っておった」旨供述しているが(第5回公判),この程度の気持ちであったとしても特に不自然ではない。 ウそもそも,本件のような幅寄せ行為は,例えば,鋭利な刃物で相手の身体の枢要部を突き刺したり,普通乗用車であえて轢過するような,その身体に致命傷となるような直接的な攻撃を加え,かつ,殺人行為としての類型性もある行為と異なり,自らの行為により相手を死に至らしめる可能性を認識するにはいくつかの段階があるといえるのであって,冷静に考えれば認識できることでも,高揚した気分の中では死の結果までは認識できないこともあり得る。本件においては,まず強度のものとはいい難い接触が場合によって相手を転倒させる可能性を認識し,それに続いて,強打,重傷,死亡といういくつかの段階を認識しなければならない。被告人の当初の意図,認識が主として相手をビビらせることであったことからすると,接触から始まる因果の流れの究極にある相手の死亡という結果は,その認識上相当な飛躍があるというべきである。そのような飛躍的認識を,自動二輪車に追いついてから衝突するまでわずか1.6秒程度に過ぎない(31.3m÷19.4m/s)一瞬の間に,しかも,興奮し冷静さを欠く精神状態の中で,これを抱き得たかは相当に疑問といわざるを得ない。 (3) 他方,被告人は,警察に出頭した平成13年6月18日当初から,相手の自動二輪車を「こかしてやろう」「転倒させてやろう」との意図があったことを認め き得たかは相当に疑問といわざるを得ない。 (3) 他方,被告人は,警察に出頭した平成13年6月18日当初から,相手の自動二輪車を「こかしてやろう」「転倒させてやろう」との意図があったことを認めるとともに,被害者らが死亡するかもしれないことを認識していたかのように述べ,その後,これとほぼ同旨を述べる供述もそれなりに見られる。 しかし,ア転倒させる意図に関する部分について,被告人は,捜査段階の後半では,この「転倒させる」意図のあったことを明確に否定し,その後の検察官の取調べにおいても,「相手をビビらせる,すなわち,相手に恐怖感を与えようという気持ちから幅寄せを続けていった」などと供述するにとどまっており(検110),「転倒させる」意図があったということで一貫しているわけではない。また,未必的殺意に関する部分についても,同月19日の調書では「被害者を転倒させ,大きな怪我を負わせるかも知れないとは思ったが,死亡するかも知れないということまでは考えていなかった」旨述べており(検157),同年7月4日には「ビビらせてやろうとは考えていたが,転倒させる気もなかった。常識で考えれば,場合によっては転倒し,死亡するかもしれないことも考えるであろうが,その当時はそこまで考えていなかった」旨述べている(検96)のであって(なお,検察官に対する供述調書の中には,犯行時において,明確に死亡することを認識していたとの記載はない。),被害者らの死亡を意識していたかどうかについての供述についても必ずしも一貫していない。 そして,被告人の殺意に関する一連の供述を子細にみると,「私の兄も単車で転倒する事故で死亡しておりますので,怪我ではすまず,場合によっては死亡してしまうという事は十分判っておりました」(検86)などというもので,必ずしも,幅 一連の供述を子細にみると,「私の兄も単車で転倒する事故で死亡しておりますので,怪我ではすまず,場合によっては死亡してしまうという事は十分判っておりました」(検86)などというもので,必ずしも,幅寄せ行為当時の現実の心理状態を具体的に語るものではなく,一般的認識を語っているに過ぎない表現も散見される(検85,88,93など)。これらが真に殺意を自白した供述とみることができるかどうか疑問の余地がある。 イもとより,通常は,被疑者の言い分をそのまま録取することから信用性が高いはずの自首調書(検86)において,「転倒させる」意図があったこと及び未必的殺意があったことを認めるかのような供述をしている点は,それなりに重視すべきであるが,被告人は,警察に出頭したものの,当初は,暴走族から逃げる際の事故であった旨を述べていたが,警察官から現場の痕跡との矛盾を指摘されたことから,ついに族狩りを行ったことなど本件の大筋を自白するに至ったもので,警察官から追及が行われた結果によるものであることは明らかであり,自首調書を特に信用できるとするための前提を欠いている。被告人の公判供述からも窺われるように,警察官の理詰めの追及に対して,合理的に反論することができず,やむなくこれを認めたことも十分に考えられる。 以上のことからすると,被告人の捜査段階における転倒させる意図に関する部分及び殺意に関する自白部分をたやすく信用することはできないというべきである。 4 以上の諸点に照らすと,本件犯行時に被告人が被害者らの死の結果を未必的にも認識し,これを認容して犯行に及んだとするには未だ合理的な疑いを抱かざるを得ず,殺人の故意を認めることはできないのであって,本件行為の客観的態様等からすると,被告人は,上記の幅寄せ行為に際して,被害者らの自動二輪車と接触 犯行に及んだとするには未だ合理的な疑いを抱かざるを得ず,殺人の故意を認めることはできないのであって,本件行為の客観的態様等からすると,被告人は,上記の幅寄せ行為に際して,被害者らの自動二輪車と接触する可能性を認識しながら,あえてこれを敢行したものというべきであり,せいぜいこれにより傷害の結果が生じることについての未必的な認識の限度で故意が認められるというべきである。 (法令の適用) 1 罰条Xに対する傷害は刑法204条Yに対する暴行は刑法208条 2 科刑上一罪刑法54条1項前段,10条(重いXに対する傷害罪の刑で処断) 3 刑種の選択懲役刑 4 未決勾留日数の算入刑法21条 5 訴訟費用不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,暴走族に嫌悪感を抱いていた被告人が,暴走族に対する嫌がらせ行為,挑発行為として,いわゆる族狩り行為に及んでいる中で,判示のような犯行に及んだものであるが,集団で迷惑運転等をしていた被害者らにも責められるべき点はあろうが,だからといってかかる暴走により自らが直接迷惑を被ったわけでもない被告人が,被害者らの生命にまで危険を及ぼすような行為を行ったことを正当化できるはずもなく,あまりに短絡的かつ自己中心的なものであるといわざるを得ない。 その態様は前記のとおりであり,左側にコンクリートブロック塀が続くアスファルト道路において,外部からの衝撃に対して不安定な自動二輪車に対し,高速度でしかも乗車している被害者両名がヘルメットを被っていないことを認識しながら,あえて,上記コンクリートブロック塀側に幅寄せ行為を行った挙げ句,自車に接触させ,バランスを崩して転倒させたもので,まことに危険かつ悪質な犯行である。 また,被告人は,被害者両名が転倒し 識しながら,あえて,上記コンクリートブロック塀側に幅寄せ行為を行った挙げ句,自車に接触させ,バランスを崩して転倒させたもので,まことに危険かつ悪質な犯行である。 また,被告人は,被害者両名が転倒したことを認識しながら救護活動をすることなく逃走している上,罪証隠滅工作や口裏合わせなども行っており,犯行後の状況も悪い。 本件犯行により被害者両名に与えた恐怖感は計り知れず,特にXは,死の危険にさらされ,緊急手術により何とか一命を取り留めたものの,入院加療370日間を要する前頭骨陥没骨折等の重傷を負わされ,左手指機能障害及び左下肢機能障害などの後遺症が残っているのであって,その結果はあまりに重大である。被害者両名又はその家族の被害感情は厳しく,被告人の厳罰を望んでいる。 そうすると,被告人が被害者両名に対する謝罪の言葉を述べて反省の態度を示していること,被害者Xに対し,治療費の一部として300万円を支払っているほか,さらに合計1400万円を支払うという内容の和解が成立し,その旨本件公判調書に記載して債務名義としていること,被告人には前科がないこと,被告人の実父や雇主が当公判廷に出廷し,今後の監督を誓っていること,被告人には養育すべき妻や幼い子供がいることなど被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても,なお,主文掲記の実刑を免れないものと判断した。 (検察官萩原良典,私選弁護人前田知克(主任),森川正章各出席)(求刑懲役5年)平成15年2月20日神戸地方裁判所姫路支部刑事部 裁判長裁判官伊東武是 裁判長 裁判官伊東武是 裁判官小倉哲浩 裁判官平城文啓

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