令和5(行ツ)52 選挙無効請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年10月18日 最高裁判所大法廷 判決 その他 仙台高等裁判所 令和4(行ケ)1
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判決文本文44,505 文字)

- 1 - 主文 1 原審被告らの上告に基づき、原判決を次のとおり変更する。 原審原告らの請求をいずれも棄却する。 2 原審原告らの上告を棄却する。 3 訴訟の総費用は原審原告らの負担とする。 理由 令和5年(行ツ)第52号上告代理人升永英俊ほかの上告理由及び同年(行ツ)第53号上告代理人春名茂ほかの上告理由について 1 本件は、令和4年7月10日に行われた参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について、青森県選挙区、岩手県選挙区、宮城県選挙区、福島県選挙区及び山形県選挙区の選挙人である原審原告らが、公職選挙法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下、数次の改正の前後を通じ、平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め、「定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから、これに基づいて行われた本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙について、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして、選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選令和5年(行ツ)第52号、第53号選挙無効請求事件令和5年10月18日大法廷判決- 2 -すると定めていること(46条)に応じて、各選挙 、憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選令和5年(行ツ)第52号、第53号選挙無効請求事件令和5年10月18日大法廷判決- 2 -すると定めていること(46条)に応じて、各選挙区においてその選出議員の半数が改選されることとなるよう、定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に、各選挙区の人口に比例する形で、2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。 昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は、上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり、その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは、平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで、上記定数配分規定に変更はなかった。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により、参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが、この選挙区選出議員は、従来の地方選出議員の名称が変更されたものである。 その後、平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により、参議院議員の総定数が242人とされ、比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。 参議院議員選挙法制定当時、選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下、各立法当時の「選挙区間の最大較差」というときは、この人口の最大較差をいう。)は2.62倍(以下、較差に関する数値は、全て概数である。)であったが、人口変動により次第に拡大を続け、平成4年に行われた参議院議員通常選挙(以下、参議院議員通常選挙のことを単に「通常選挙」という。)当時、選挙区間における議員1人当たりの選挙 数である。)であったが、人口変動により次第に拡大を続け、平成4年に行われた参議院議員通常選挙(以下、参議院議員通常選挙のことを単に「通常選挙」という。)当時、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下、各選挙当時の「選挙区間の最大較差」というときは、この選挙人数の最大較差をいう。)が6.59倍に達した後、平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減とする措置により、同2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小した。その後、平成12年改正における3選挙区の定数を6減とする措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正における4選挙区の定数を4- 3 -増4減とする措置の前後を通じて、同7年から同19年までに行われた各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。 しかるところ、当裁判所大法廷は、定数配分規定の合憲性に関し、平成4年に行われた通常選挙について、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁)、平成6年改正後の定数配分規定の下で行われた2回の通常選挙については、上記の不平等状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁、最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後、平成12年改正後の定数配分規定の下で行われた2回の通常選挙及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正後の定数配分規定の下で同19年に行われた通常選挙のいずれについても、当裁判所大法廷は、結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとは び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正後の定数配分規定の下で同19年に行われた通常選挙のいずれについても、当裁判所大法廷は、結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁、最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁、最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。もっとも、上記最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては、投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の、上記最高裁同21年9月30日大法廷判決においては、当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって、最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど、選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で、較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。 平成22年7月11日、選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において行- 4 -われた通常選挙につき、最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)は、結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、長年にわたる制度及び社会状況の変化として、①参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度が同質的なものとなってきているとともに、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における にわたる制度及び社会状況の変化として、①参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度が同質的なものとなってきているとともに、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきていること、②衆議院については、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口の較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていること等を挙げた上で、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く、都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており、都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし、上記通常選挙当時の選挙区間の最大較差が示す投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。 平成24年大法廷判決の言渡し後、平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第94号。以下「平成24年改正法」という。)が成立し、同月26日に施行された。同法は、選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減とすることを内容とするものであった。 平成25年7月2 年法律第94号。以下「平成24年改正法」という。)が成立し、同月26日に施行された。同法は、選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減とすることを内容とするものであった。 平成25年7月21日、平成24年改正法による改正後の定数配分規定の下- 5 -での通常選挙(以下「平成25年選挙」という。)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。 最高裁平成26年(行ツ)第155号、第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下「平成26年大法廷判決」という。)は、結論において平成25年選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、平成24年大法廷判決の判断に沿って、平成24年改正法による上記4増4減の措置は、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差については上記の改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、同法による上記措置を経た後も、選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。 平成27年7月28日、公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第60号。以下「平成27年改正法」という。)が成立し、同年11月5日に施行された。同法による公職選挙法の改正(以下「平成27年改正」という。)の結果、平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙 以下「平成27年改正法」という。)が成立し、同年11月5日に施行された。同法による公職選挙法の改正(以下「平成27年改正」という。)の結果、平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2. 97倍となった。平成27年改正法は、選挙区選出議員の選挙区及び定数について、鳥取県及び島根県、徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに、3選挙区の定数を2人ずつ減員し、5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり、その附則7条には、平成31年に行われる通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。 - 6 - 平成28年7月10日、平成27年改正後の定数配分規定の下での通常選挙(以下「平成28年選挙」という。)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であった。 最高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁(以下「平成29年大法廷判決」という。)は、平成27年改正法につき、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、参議院創設以来初めての合区を行うことにより、長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり、これによって、数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(選挙当時は3.08倍)まで縮小するに至ったのであるから、平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができるとし、また、その附則において上記のとおり規定され、 2.97倍(選挙当時は3.08倍)まで縮小するに至ったのであるから、平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができるとし、また、その附則において上記のとおり規定され、今後における較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに、再び大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができるなどとして、平成28年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。 平成28年選挙において、合区の対象となった4県のうち島根県を除く3県では、投票率が低下して当時における過去最低の投票率となったほか、無効投票率が全国平均を上回り、高知県での無効投票率は全国最高となった。なお、平成25年選挙においては、無効投票率が全国平均を上回っていたのは、上記4県のうち高知県のみであった。 全国知事会は、平成28年7月29日、平成28年選挙において投票率の著しい低下等の様々な弊害が顕在化したなどとして、合区の早急な解消を求める決議を行った。また、全国都道府県議会議長会や全国市長会等においても、合区の早急な解消に向けた決議等が行われた。 - 7 -平成29年2月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が設置され、同年4月、同協議会の下に参議院選挙制度改革について集中的に調査を行う「選挙制度に関する専門委員会」が設けられた。同委員会は、参議院選挙制度改革に対する考え方について、一票の較差、選挙制度の枠組みとそれに基づく議員定数の在り方、選挙区の枠組み等について協議を行った上で、選挙区選出議員について、全ての都道府県から少なくとも1人の議員が選出される都道府県を単位とする選挙区とすること、一部合区を含む都 基づく議員定数の在り方、選挙区の枠組み等について協議を行った上で、選挙区選出議員について、全ての都道府県から少なくとも1人の議員が選出される都道府県を単位とする選挙区とすること、一部合区を含む都道府県を単位とする選挙区とすること、又は選挙区の単位を都道府県に代えてより広域のものとすることの各案について検討を行ったほか、選挙区選出議員及び比例代表選出議員の二本立てとしない場合を含めた選挙制度の在り方等についても議論を行った。しかしながら、これらの議論を経た上で各会派から示された選挙制度改革の具体的な方向性についての意見の内容は、選挙区の単位、合区の存廃、議員定数の増減等の点において大きな隔たりがある状況であった。 平成30年6月、参議院改革協議会において、自由民主党から、選挙区の単位を都道府県とすること及び平成27年改正による4県2合区は維持した上で、選挙区選出議員の定数を2人増員して埼玉県選挙区に配分するとともに、比例代表選出議員の定数を4人増員し、政党等が優先的に当選人となるべき候補者を定めることができる特定枠制度を導入するとの案が示された。その後、協議が行われるなどしたものの、各会派間に意見の隔たりがある状況であったため、各会派が参議院に法律案を提出し、参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会において議論が進められることとなり、上記の自由民主党の提案内容に沿った法律案のほか、現在の選挙区選出議員の選挙及び比例代表選出議員の選挙に代えてより広域の選挙区による選挙を導入することを内容とする法律案等が提出された。同年7月11日、上記特別委員会において、上記の自由民主党の提案内容に沿った公職選挙法の一部を改正する法律案が可決すべきものとされ、その際、「今後の参議院選挙制度改革については、憲法の趣旨にのっとり、参議院の役割及び在 特別委員会において、上記の自由民主党の提案内容に沿った公職選挙法の一部を改正する法律案が可決すべきものとされ、その際、「今後の参議院選挙制度改革については、憲法の趣旨にのっとり、参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこと」との附帯決議がされた。 - 8 -平成30年7月18日、上記法律案どおりの法律(同年法律第75号。以下「平成30年改正法」という。)が成立し、同年10月25日に施行された(以下、同法による改正後の定数配分規定を「本件定数配分規定」という。)。同法による公職選挙法の改正(以下「平成30年改正」という。)の結果、平成27年10月実施の国勢調査結果による日本国民人口に基づく選挙区間の最大較差は2.99倍となった。 令和元年7月21日、本件定数配分規定の下での初めての通常選挙(以下「令和元年選挙」という。)が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3. 00倍であった。 最高裁令和2年(行ツ)第78号同年11月18日大法廷判決・民集74巻8号2111頁(以下「令和2年大法廷判決」という。)は、立法府においては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが求められているところ、平成30年改正において、こうした取組が大きな進展を見せているとはいえないとしながらも、平成30年改正法につき、数十年間にわたって5倍前後で推移してきた最大較差を3倍程度まで縮小させた平成27年改正法における方向性を維持するよう配慮したものであるということができ、また、参議院選挙制度の改革に際しては、事柄の性質上慎重な考慮を要することに鑑み、その実現は漸進的にならざるを得ない面があることからすると、立法府の 維持するよう配慮したものであるということができ、また、参議院選挙制度の改革に際しては、事柄の性質上慎重な考慮を要することに鑑み、その実現は漸進的にならざるを得ない面があることからすると、立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできないなどとして、令和元年選挙当時の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえないとした。 令和元年選挙において、合区の対象となった徳島県での投票率は全国最低となり、鳥取県及び島根県の投票率もそれぞれ過去最低となった。また、合区の対象となった4県での無効投票率はいずれも全国平均を上回り、徳島県では全国最高と- 9 -なった。 令和元年選挙の後も、全国知事会等において、合区の解消を求める決議等が行われている。 令和3年5月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が改めて設置され、参議院の組織及び運営の改革に関する検討項目の一つとして、較差の是正を含む選挙制度改革についての議論がされた。合区については、何らかの形で解消することを目指す意見が多かったものの、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持するか、選挙区の単位を都道府県に代えてより広域のものとするか、議員の総定数を増やすか等の点について意見の隔たりがあり、最終的に、参議院選挙制度改革の具体的な方向性についての各会派の意見が一致するには至らなかった。令和4年5月及び同年6月に開かれた参議院憲法審査会における参議院選挙制度改革をめぐる議論の状況も、上記と同様であった。 令和4年7月10日、本件定数配分規定の下での2回目の通常選挙として、本件選挙が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.03倍であった。 本件選挙にお る議論の状況も、上記と同様であった。 令和4年7月10日、本件定数配分規定の下での2回目の通常選挙として、本件選挙が行われた。同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.03倍であった。 本件選挙において、合区の対象となった鳥取県での投票率は、令和元年選挙時を更に下回って過去最低を更新し、また、徳島県での投票率は、令和元年選挙時より上昇したものの、なお全国最低であった。合区の対象となった4県での無効投票率は、いずれも全国平均を上回った。 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。他方、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであって、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値- 10 -の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。 前記2においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員(昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に 参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員(昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け、前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。 以上は、最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。 憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認める反面、参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、- 11 -衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようと 権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、- 11 -衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。そして、いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられており、参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し、国民各層の多様な意見を反映させて、参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも、選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。 また、具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず、投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて、このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。 参議院議員の選挙制度と衆議院議員の選挙制度は、選出方法等に係るこれまでの変遷を経て同質的なものとなってきているところ、衆議院議員選挙については、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにする旨の区割りの基準が定められ、少なくとも長期間にわたり2倍以上の較差が放置されることはないような措置が講じられている(衆議院議員選挙区画定審議会 して、選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにする旨の区割りの基準が定められ、少なくとも長期間にわたり2倍以上の較差が放置されることはないような措置が講じられている(衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条、4条参照)。また、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に、国政の運営における参議院の役割は大きなものとなってきている。 そうすると、二院制に係る憲法の趣旨や、半数改選などの参議院の議員定数配分に当たり考慮を要する固有の要素を勘案しても、参議院議員選挙について直ちに投票価値の平等の要請が後退してもよいと解すべき理由は見いだし難い。したがっ- 12 -て、立法府においては、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる中で、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが引き続き求められているというべきである(令和2年大法廷判決参照)。 この観点からみると、本件選挙までの間、令和3年に設置された参議院改革協議会等において、参議院議員の選挙制度の改革につき、各会派の間で一定の議論がされたものの、較差の更なる是正のための法改正の見通しが立つに至っていないのはもとより、その実現に向けた具体的な検討が進展しているともいい難い。 しかしながら、4県2合区を導入すること等を内容とする平成27年改正により、数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は3倍程度まで縮小し、平成24年大法廷判決等で指摘された著しい不平等状態はひとまず解消されたところ、同改正がされてから本件選挙までの約7年間、同改正後の定数配分規定及び本件定数配分規定の下で上記の合区は維持され、選挙区間の最大較差は3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるともいえない。 このよ 正がされてから本件選挙までの約7年間、同改正後の定数配分規定及び本件定数配分規定の下で上記の合区は維持され、選挙区間の最大較差は3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるともいえない。 このような中で、立法府においては、較差の更なる是正を図る観点から、都道府県より広域の選挙区を設けるなどの方策について議論がされてきたところであり、こうした方策によって都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みを更に見直すことも考えられる。もっとも、合区の導入後に、その対象となった4県において、投票率の低下や無効投票率の上昇が続けてみられること等を勘案すると、有権者において、都道府県ごとに地域の実情に通じた国会議員を選出するとの考え方がなお強く、これが選挙に対する関心や投票行動に影響を与えていることがうかがわれる。このような状況は、上記の仕組みを更に見直すに当たり、代表民主制の下で国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる観点から慎重に検討すべき課題があることを示唆するものと考えられる。加えて、立法府においては、較差の更なる是正をめぐって、参議院の議員定数の見直しなどの方策についても議論がされてきたが、こうした方策を採ることにも様々な制約が想定される。 - 13 -そうすると、立法府が上記是正に向けた取組を進めていくには、更に議論を積み重ねる中で種々の方策の実効性や課題等を慎重に見極めつつ、広く国民の理解も得ていく必要があると考えられ、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することが見込まれる。 以上に述べたような状況の下、立法府が、参議院議員の選挙制度の改革に向けた議論を継続する中で、較差の拡大の防止等にも配慮して4県2合区を含む本件定数配分規定を維持したという経緯に鑑みれば、立法府が、較差の更なる是正を図るとともに、これ 参議院議員の選挙制度の改革に向けた議論を継続する中で、較差の拡大の防止等にも配慮して4県2合区を含む本件定数配分規定を維持したという経緯に鑑みれば、立法府が、較差の更なる是正を図るとともに、これを再び拡大させずに持続していくための具体的な方策を新たに講ずるに至らなかったことを考慮しても、本件選挙当時の選挙区間の最大較差が示す投票価値の不均衡が、憲法の投票価値の平等の要求に反するものであったということはできない。 したがって、本件選挙当時、平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。 なお、これまで人口の都市部への集中が生じており、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれるところ、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきである。 立法府において議論がされてきた上記のような種々の方策に課題や制約があり、事柄の性質上慎重な考慮を要するにせよ、立法府においては、より適切な民意の反映が可能となるよう、社会の情勢の変化や上記課題等をも踏まえながら、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが求められる。 4 原判決は、本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するものであったと- 14 -しつつ、行政事件訴訟法31条1項に示された一般的な法の基本原則に従い、原審原告らの請求をいずれも棄却した上で、前記1の各選挙区における 分規定が本件選挙当時憲法に違反するものであったと- 14 -しつつ、行政事件訴訟法31条1項に示された一般的な法の基本原則に従い、原審原告らの請求をいずれも棄却した上で、前記1の各選挙区における本件選挙が違法であることを主文において宣言したものであるが、原判決は、前記判示と抵触する限度において変更を免れないというべきであって、原審被告らの論旨は上記の趣旨をいうものとして理由がある。 他方、原審原告らの論旨は、前記判示に照らし、採用することができない。なお、原審原告らの論旨は、憲法56条2項、1条、前文第1文前段等を根拠として、本件選挙は憲法の保障する1人1票の原則による人口比例選挙に反して無効であるなどというが、所論に理由のないことはこれまでに述べたところから明らかである。 以上の次第で、原審被告らの上告に基づき、原判決を変更して、原審原告らの請求をいずれも棄却するとともに、原審原告らの上告を棄却することとする。 よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官三浦守、同草野耕一、同尾島明の各意見がある。 裁判官三浦守の意見は、次のとおりである。 私は、結論において多数意見に賛同するが、本件選挙当時、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(以下、本意見において「違憲状態」ともいう。)にあったものと考えるので、意見を述べる。 1 私は、令和2年大法廷判決において、その多数意見の結論に賛成したが、令和元年選挙当時、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は違憲状態にあった旨の意見を述べた。その理由として述べたことは、本件選挙当時についても基本的に当てはまるものであり、これを前提にしつつ、同判決及びその 分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は違憲状態にあった旨の意見を述べた。その理由として述べたことは、本件選挙当時についても基本的に当てはまるものであり、これを前提にしつつ、同判決及びその後の事情等を踏まえた考察を中心として、今回の意見を述べる。 憲法が国会の二院制を採用し、衆議院と参議院の権限及び任期等に差異を設けた趣旨等を踏まえ、参議院の性格や機能等をどのように位置付け、どのような- 15 -選挙制度によって投票価値の平等の要請と調和させていくかについては、国会の合理的な裁量に委ねられている。 しかし、参議院は、憲法上、衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙について、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。 そして、衆議院については、その要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口較差が2倍未満となるようにする旨の区割りの基準が定められていることにも照らせば、参議院についても、適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められる。 参議院においては、憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされるなど、定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があり、それが制度設計上の技術的な制約となり得るにしても、そのことが衆議院に比して格段に大きな投票価値の不均衡を許容する理由となるものではない。 本件選挙当時の選挙区間の最大較差は、3.03倍であり、較差が3倍を超える選挙区は3選挙区であって、これらの選挙区の選挙人数の合計が総選挙人数に占める割合は約20.1%であり、令和元年選挙当時において較差が3倍を超える選挙区に係る上記割合である約1.8%から大幅に拡大した。 投票価値の平等は、国 れらの選挙区の選挙人数の合計が総選挙人数に占める割合は約20.1%であり、令和元年選挙当時において較差が3倍を超える選挙区に係る上記割合である約1.8%から大幅に拡大した。 投票価値の平等は、国民主権及び議会制民主政治の基盤に関わるものであり、3倍を超える投票価値の不均衡は、1人1票という選挙の基本原則に照らし、決して看過できるものではない。多数意見も、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきであるとしており、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡が是正を要する状態にあることを前提とするものと解される。 参議院における選挙制度の変遷は多数意見2記載のとおりであるが、これまでの人口変動により都道府県間の人口較差が著しく拡大したにもかかわらず、選挙- 16 -区選出議員の総定数をおおむね維持したまま、都道府県を各選挙区の単位とすることを基本とし、定数の偶数配分を前提に、人口の少ない選挙区についても2人の定数を維持しながら、他の選挙区について個別に定数を増減させるとともに、平成27年改正において4県を2選挙区に合区したにとどまる。 都道府県を各選挙区の単位として定数を定めるという仕組みについては、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し、政治的に一つのまとまりを有する単位として捉えられることに照らし、それを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとするものと解される。 しかし、上記のような経緯の下で定められた各選挙区の定数は、一定の計算方式等に基づいて、現在の人口に比例する形で配分されたものではない。そして、本件選挙当時の全国の しようとするものと解される。 しかし、上記のような経緯の下で定められた各選挙区の定数は、一定の計算方式等に基づいて、現在の人口に比例する形で配分されたものではない。そして、本件選挙当時の全国の議員1人当たりの選挙人数は約70万9589人であるが、人口の特に少ない福井県、山梨県及び佐賀県の3選挙区(いずれも定数2人)は、選挙人数が63万人余ないし68万人余にとどまる。そうすると、これらの選挙区は、人口に比例する定数配分という意味では、本来、定数1人分に満たないにもかかわらず、全く実体のない1人分を上乗せして、2人の定数が配分されていることになる。合区された4県についても、合区の前には同様の問題があったが、合区は、それ自体、都道府県を各選挙区の単位とする上記の趣旨に整合しておらず、公平性の点でも問題がある(令和2年大法廷判決に係る私の意見2ウ参照)。 また、現在、人口の少ない32選挙区の定数は2人であって、3年ごとに1人が改選されるのに対し、人口の多い都市部を含む13選挙区の定数は4人ないし12人であって、3年ごとに複数人が改選される。昭和22年の参議院議員選挙法制定当時と異なり、各選挙区について現在の人口に比例する形で定数が配分されていない上、全く実体のない1人分の定数を上乗せした選挙区が存在し、都道府県の単位性を否定する合区までが設けられている状況において、3年ごとに1人を改選する小選挙区的な仕組みと複数人を改選する中選挙区的な仕組みを併存させることは、- 17 -国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために合理的な政策的目的ないし理由に基づくものと理解することが困難になっているというべきである。 このように、現在の選挙区選出議員の総定数を維持したまま、定数の偶数配分を前提に、都道府県を各選挙区の単位の基本とする仕 的ないし理由に基づくものと理解することが困難になっているというべきである。 このように、現在の選挙区選出議員の総定数を維持したまま、定数の偶数配分を前提に、都道府県を各選挙区の単位の基本とする仕組みが、上記投票価値の不均衡を生じさせる主要な要因となっていることは明らかである。また、このことは、今後も不断に人口変動が生ずることが見込まれる状況において、投票価値の不均衡の是正を図りつつ合理的な選挙制度の仕組みを定める上で、その実現を著しく困難にする要因となっているということができる。 投票価値の平等は、国民主権及び議会制民主政治の基盤に関わる憲法の直接の要請であり、その一方で、都道府県は、憲法が定める概念ではなく、これを各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はない。 また、都道府県を各選挙区の単位とする場合でも、選挙区選出議員の総定数を増加させることにより、投票価値の不均衡が相応に改善されるが、これを制限する憲法上の要請はない。そのような総定数の増加には財政上の負担を伴い、国民の理解も必要であるが、参議院議員の総定数は248人であり、衆議院議員の総定数465人と比較して、相当に少ないという見方もできる。 さらに、参議院の比例代表選出議員の選挙は、選挙区選出議員の選挙(以下、本意見において「選挙区選挙」という。)と異なる性質を有するにしても、その定数の割合等が憲法上定められているわけでもない。 憲法上3年ごとに議員の半数を改選するものとされ、各選挙区に偶数の定数を配分することが原則的な方法として想定されるものの、それ自体が憲法上の要請というわけではなく、3年ごとに異なる選挙の仕組みとすること(例えば、都道府県を各選挙区の単位とする選挙区選挙と都道府県より広域の選挙区を設ける選挙区選挙を隔回で実施する仕組みとすること)が の要請というわけではなく、3年ごとに異なる選挙の仕組みとすること(例えば、都道府県を各選挙区の単位とする選挙区選挙と都道府県より広域の選挙区を設ける選挙区選挙を隔回で実施する仕組みとすること)が憲法上否定されるものとはいえない。 もとより、どのような選挙制度によって投票価値の平等の要請との調和を実現させていくかについては、国会の合理的な裁量に委ねられているが、参議院の性- 18 -格や機能等を踏まえて、様々な課題等を見極めつつ、高度の政治的、政策的な考慮の下に、各会派の合意を形成するには相応の手続と時間を要し、また、その実現は漸進的にならざるを得ない面がある。 これまでの経緯をみると、参議院の選挙制度の改革については、選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で、多数意見が引用する前掲最高裁平成16年1月14日大法廷判決を受けて協議が始められ、累次の大法廷判決を踏まえつつ、平成30年改正に至るまで十数年にわたり継続的に、様々な角度から検討及び議論が積み重ねられてきた。その間、平成18年改正(平成18年法律第52号による公職選挙法の改正をいう。以下同じ。)及び平成24年改正(平成24年改正法による公職選挙法の改正をいう。以下同じ。)を経ながらも選挙区間の最大較差は5倍前後で推移し、平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は、投票価値の不均衡は違憲状態にあったものとした上で、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。 その後、平成27年改正は、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、参議院創設以来初めての合区を行うことにより、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕 解消する必要がある旨を指摘した。 その後、平成27年改正は、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、参議院創設以来初めての合区を行うことにより、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり、これによって、選挙区間の最大較差は3倍程度にまで縮小するに至った。平成29年大法廷判決は、同改正は平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができるとし、また、平成27年改正法附則7条が平成31年に行われる通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めていること等を指摘した上で、今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されているなどとして、投票価値の不均衡が違憲状態にあったものとはいえないとした。 更にその後、平成30年改正は、上記合区を維持して1選挙区の定数を2人増員- 19 -すること等を内容とするものであり、これによって、選挙区間の最大較差は僅かではあるが更に縮小した。令和2年大法廷判決は、立法府においては、較差の更なる是正を図るために必要となる方策等について議論し、取組を進めることが求められているところ、同改正において、こうした取組が大きな進展を見せているとはいえないとしながらも、その経緯及び内容等を踏まえ、同改正が平成27年改正法における方向性を維持するよう配慮したものであること等を指摘した上で、立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできないなどとして、投票価値の不均衡が違憲状態にあったものとはいえないとした。 このように、選挙区間の最大較差は5倍前後から3倍程度に縮小しているが、平成29年大法廷判決及び令和2年大法廷判決は、いずれも、引き続き較差の 価値の不均衡が違憲状態にあったものとはいえないとした。 このように、選挙区間の最大較差は5倍前後から3倍程度に縮小しているが、平成29年大法廷判決及び令和2年大法廷判決は、いずれも、引き続き較差の更なる是正を図る必要があることを前提としながら、平成27年改正及び平成30年改正が較差の是正を指向するものと評価できること等を併せ考慮して、違憲状態がひとまず解消され又はその状態が維持されているとの判断をしたものと解される。取り分け、平成30年改正については、平成27年改正法における方向性を前提にして、選挙制度について様々な議論、検討を経たものの、各会派の意見の隔たりが大きく、一致する結論を得ることができないまま、令和元年選挙に向けて平成30年改正法が成立するに至ったという経緯及びその内容等を踏まえ、立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われたと断ずることはできないというぎりぎりの評価をもって、上記判断をしたものということができる。 投票価値の平等が国民主権及び議会制民主政治の基盤に関わる憲法上の要請であること等を考慮すると、上記のような投票価値の不均衡について、引き続き長年の協議等を踏まえ、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきである。 以上を前提にして、平成29年大法廷判決及び令和2年大法廷判決の判示した事情を踏まえ、本件選挙当時の国会における較差の是正を指向する姿勢について検討する。なお、私は、令和2年大法廷判決に係る意見2エにおいて、平成30年改正が較差の更なる是正を指向するものとは評価できない旨を述べたが、ここで- 20 -は、その点をひとまず措いて、両判決の判示した事情を踏まえて検討する。 平成30年改正法には、平成27年改正法の上記附則のような規定は設けられておらず、その審議において、今後の参議 で- 20 -は、その点をひとまず措いて、両判決の判示した事情を踏まえて検討する。 平成30年改正法には、平成27年改正法の上記附則のような規定は設けられておらず、その審議において、今後の参議院選挙制度改革について憲法の趣旨にのっとり引き続き検討する旨述べる附帯決議がされたが、その中では較差の是正等について明確には言及されていない。 そして、令和元年選挙を経て令和3年5月、参議院の各会派代表による参議院改革協議会が改めて設置され、令和4年6月までの間、参議院の組織及び運営の改革に関する検討項目の一つとして、較差の是正を含む選挙制度改革についての議論がされたが、最終的に、選挙制度改革の具体的な方向性についての各会派の意見が一致するには至らず、他の検討項目とともに、本件選挙後に設けられる次の協議会に引き継ぐこととされた。 選挙制度の仕組みを改める法改正は、必要な準備期間等を考慮すると、選挙の相当前に成立する必要があり、これまで、沖縄の復帰に伴う場合を除き、定数配分規定を改める公職選挙法の改正(平成6年改正、平成12年改正、平成18年改正、平成24年改正、平成27年改正及び平成30年改正)は、いずれも通常選挙の前年に法改正が行われている。ところが、平成30年改正の後は、本件選挙の約1年2か月前に至るまで協議の場が設けられず、同改正から3年近く協議が行われなかった上、参議院改革協議会が設置された後も、これまでと異なり、選挙制度について専門的に協議する場は設けられなかった。本件選挙に向けて立法的措置等の方策を講ずるための具体的な取組が進められたということもできない。 こうして、本件選挙までの間に、較差の更なる是正のための立法的措置が何ら講じられなかったものであり、その見通しが立つに至っていないのはもとより、その実現に向けた具体的な検討が いうこともできない。 こうして、本件選挙までの間に、較差の更なる是正のための立法的措置が何ら講じられなかったものであり、その見通しが立つに至っていないのはもとより、その実現に向けた具体的な検討が進展しているともいい難い。 平成30年改正については、平成27年改正における方向性を前提にして、立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われたものと断ずることはできない旨の評価がされたが、本件選挙までの間にその実現のための具体的な方策が- 21 -講じられなかったこと及びその経緯等に鑑みると、国会が選挙制度改革に向けた議論を継続する中で合区を含む本件定数配分規定を維持したことを考慮しても、本件選挙当時において、国会における上記姿勢がなお維持されていると評価することは困難である。 なお、私が令和2年大法廷判決に係る意見において述べたように、平成30年改正が較差の更なる是正を指向するものとは評価できないという立場に立っても、本件選挙当時における評価に変わりがないことはいうまでもない。 ア多数意見は、較差の更なる是正のための法改正の見通しが立つに至っていないのはもとより、その実現に向けた具体的な検討が進展しているとはいい難い旨を指摘するものの、本件選挙当時の国会における較差の是正を指向する姿勢については、その評価を明示していない。 しかしながら、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡について、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題であるが、選挙制度改革の具体的な方向性についての各会派の意見の隔たりが大きい中で、平成27年改正及び平成30年改正という具体的な立法的措置によって示された上記姿勢がなお維持されていると評価することができなければ、上記投票価値の不均衡について、是正のための方策が講じられる客観的な見込みがあるということ 0年改正という具体的な立法的措置によって示された上記姿勢がなお維持されていると評価することができなければ、上記投票価値の不均衡について、是正のための方策が講じられる客観的な見込みがあるということもできない。本件選挙に関し本件定数配分規定の違憲無効を理由とする選挙無効訴訟において、高等裁判所の多くが上記姿勢に関する評価を示したのは、令和2年大法廷判決等の判示を前提とすれば当然のことであろう。本件選挙当時における上記姿勢がに述べたとおりであることにも鑑みると、多数意見がこの点に関する評価を明示しなかった趣旨については少なからず疑問がある。 イその一方で、多数意見は、都道府県より広域の選挙区を設けるなどの方策によって、都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みを更に見直すことについて、合区の対象となった4県における投票率の低下や無効投票率の上昇等を指摘するなどして、このような状況は、代表民主制の下で国民の利害や意見を公- 22 -正かつ効果的に国政に反映させる観点から慎重に検討すべき課題があることを示唆するものと考えられるとしている。 しかしながら、合区の導入後における4県の投票率等の状況は、合区という仕組み自体に前記の問題があることを示すものと考えられる。そのことは、合区を更に拡大することが相当ではなく、これを解消する方向で検討すべき理由となり得るものであるが、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを更に見直すことの課題と直ちに結び付くものとはいい難い。例えば、都道府県より広域の選挙区を設ける場合には、地域的なまとまりを考慮しながら、一定の計算方式等に基づき、人口に比例する形で定数を配分することができ、全ての選挙区において3年ごとに複数人が改選される仕組みとすることができるなど、国民の利害や意見を公正かつ効果 を考慮しながら、一定の計算方式等に基づき、人口に比例する形で定数を配分することができ、全ての選挙区において3年ごとに複数人が改選される仕組みとすることができるなど、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる観点からも相応に合理的なものとして評価する余地があるように思われる。そして、そのような広域の選挙区を設けて3年ごとに複数人が改選される場合には、合区において3年ごとに1人を改選する仕組みの下での投票率の低下等と同じように、選挙人の選挙に対する関心や投票行動の問題が現れるとは考え難い。令和2年大法廷判決も、合区の解消を強く望む意見の指摘との関連で上記の投票率の低下等に触れたにとどまり、これが都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みの見直しの課題と結び付くことを示したものではないと解される。 都道府県より広域の選挙区を設けるなどの方策によって現行の選挙制度の仕組みを見直すことの課題については、累次の大法廷判決を踏まえ、長年にわたり、参議院の選挙制度の改革に関する中心的な問題の一つとして、様々な角度から検討及び議論が続けられてきた。この点に関し、較差の是正に向けた取組を妨げるべき特段の事情が新たに生じたとは考えられない。参議院の議員定数の見直しなどの方策についても同様である。 ウまた、多数意見は、立法府が較差の更なる是正に向けた取組を進めていくには、更に議論を積み重ねる中で種々の方策の実効性や課題等を慎重に見極めつつ、- 23 -広く国民の理解も得ていく必要があると考えられ、合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することが見込まれるとしている。 しかしながら、参議院の選挙制度の改革については、国会における協議が開始されてから本件選挙までに既に18年を超える年月が経過している。その間、累次の大法廷判決を踏まえ、様 が見込まれるとしている。 しかしながら、参議院の選挙制度の改革については、国会における協議が開始されてから本件選挙までに既に18年を超える年月が経過している。その間、累次の大法廷判決を踏まえ、様々な角度から検討及び議論が積み重ねられ、4回の法改正が行われてきたが、各法改正後も引き続き較差の更なる是正を図る必要があることは、大法廷判決がその都度示してきたところである。その中で、平成24年改正法が、平成28年に施行される通常選挙に向けて、選挙制度の抜本的な見直しについて結論を得るものとする旨を定めてから、本件選挙までに約9年8か月が経過し、さらに、平成27年改正法が、平成31年に行われる通常選挙に向けて、選挙制度の抜本的な見直しについて必ず結論を得るものとする旨を定めてからも約7年が経過している。平成30年改正においても、それらの目的が達せられたということはできず、それから約4年が経過している。 その一方で、平成30年改正については、平成27年改正法における方向性を前提に、立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われたものと断ずることはできない旨の評価がされたが、その後は、本件選挙に向けて更なる協議の行われない空白期間が長く続き、選挙制度改革を検討項目の一つとする協議も1年程度にとどまる中で、本件選挙までの間に較差の是正の実現のための具体的な方策が講じられなかったものであり、本件選挙当時において、上記姿勢がなお維持されているとはいい難い。 このような事情の下で、「合理的な成案に達するにはなお一定の時間を要することが見込まれる」といっても、各会派の意見の隔たりが大きい中で、現に成案に達する見通しが立っておらず、いつになればその見通しが立つとも知れない。平成27年改正及び平成30年改正によって示された上記姿勢に係る状況にも鑑み っても、各会派の意見の隔たりが大きい中で、現に成案に達する見通しが立っておらず、いつになればその見通しが立つとも知れない。平成27年改正及び平成30年改正によって示された上記姿勢に係る状況にも鑑みると、本件定数配分規定の下での投票価値の不均衡について、是正のための方策が講じられる客観的な見込みがあるともいえない。 - 24 -そもそも、立法的措置を講ずるか否か、そのために、どのような検討や議論をいつまで行い、どのようにして成案を得るかというのは、国会の政治的、政策的な考慮を含む広範な裁量に属する立法過程そのものである。具体的な立法的措置によって較差の更なる是正の内容や方向性等が示されるという事情もない場合に、裁判所が、これまでの立法過程の全体を踏まえ、合理的な成案に達するために要する時間を見込んで考慮することは、上記裁量を前提にする以上、客観的な不平等状態の評価という点からみて相当とはいい難い。これまで、衆議院及び参議院における投票価値の平等に関する選挙無効訴訟に係る大法廷判決において、投票価値の不均衡が違憲状態にあったものとはいえないとする判断の理由として、上記のような見込みを明示した例は見当たらない。こうした見込みは、違憲状態を是正すべき国会の責務を前提として、当該選挙までの間にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かについて判断する際に考慮されてきたものである(平成26年大法廷判決等参照)。 以上に鑑みれば、多数意見が指摘する上記の見込みは、これを考慮すべき事情として掲げるだけの合理的な理由を認めることはできない。 エ以上のとおり、多数意見は、具体的な立法的措置を踏まえて較差の是正の方向性やこれを指向する姿勢についての評価を明示することもなく、国会の広範な裁量に属する立法過程における見込みを考慮してい 。 エ以上のとおり、多数意見は、具体的な立法的措置を踏まえて較差の是正の方向性やこれを指向する姿勢についての評価を明示することもなく、国会の広範な裁量に属する立法過程における見込みを考慮している。投票価値の不均衡が違憲状態に至っているか否かについての判断は、当該選挙当時における投票価値の較差の状況やその要因となっていた事情などを総合考慮して判断されるが、多数意見による考慮事情の選択は、平成29年大法廷判決及び令和2年大法廷判決と異なるものであり、較差の是正を指向する状況の如何にかかわらず、違憲状態にあることが否定される可能性を広げるものといわざるを得ない。このように、多数意見の判示は、令和2年大法廷判決と同じく本件定数配分規定を対象としながら、同判決の判示との間に隔たりがあり、本件選挙に向けて行われるべき協議の空白等を経て、較差の是正の実現に向けた具体的な進展もみられない中で、その趣旨について多くの国民- 25 -の理解を得ることは困難であるように思われる。 また、多数意見の判示は、本件選挙に至るまでの国会の不作為だけでなく、今後「なお一定の時間」の不作為が容認されることを示唆するものと受け止められかねない。それによって、令和7年に行われる通常選挙までの間に較差の更なる是正が図られないまま、「なお一定の時間を要する」状態が継続することも懸念される。 投票価値の平等を要求する憲法の下において、最高裁判所自身の、較差の更なる是正に対する姿勢が問われるというべきである。 以上の事情の下で、本件選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡は、憲法の投票価値の平等の要求に照らして看過することができない状態にあり、本件選挙までの約7年間、合区が維持され、選挙区間の最大較差が3倍程度で推移し、有意な拡大傾向にあるともいえないこと等を考慮して 憲法の投票価値の平等の要求に照らして看過することができない状態にあり、本件選挙までの約7年間、合区が維持され、選挙区間の最大較差が3倍程度で推移し、有意な拡大傾向にあるともいえないこと等を考慮しても、この不均衡を正当化すべき理由を見いだすことはできない。 このような事情を総合すれば、本件選挙当時、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったというべきである。 3 次に、本件選挙までの期間内に上記の違憲状態が是正されなかったことが、国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かについて検討する。 令和2年大法廷判決は、令和元年選挙当時、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲状態にあったものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないとの判断を示したが、その際、上記判断について特段の留保や条件を付すこともなかった。 本件選挙は、同じ本件定数配分規定の下で施行されたものであるが、上記のような令和2年大法廷判決を前提にすると、国会において、本件選挙までの間に、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったことを具体的に認識する事情があったと認めることは困難である。 - 26 -そうすると、本件選挙までの期間内に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態の是正がされなかったことが、国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。 裁判官草野耕一の意見は、次のとおりである。 私は多数意見の結論に賛同するものであるが、それに至る理由についてはいささか見解を異にしているので、以下、私の思うところを詳らかにしたい とはできない。 裁判官草野耕一の意見は、次のとおりである。 私は多数意見の結論に賛同するものであるが、それに至る理由についてはいささか見解を異にしているので、以下、私の思うところを詳らかにしたい。 1 参議院議員通常選挙における投票価値の不均衡の問題を論じるための指標として、当審は、これまで一貫して最大較差という概念を用いてきた。確かに最大較差は簡便で訴求力のある概念であり、投票価値の不均衡の問題に関する判例法の形成において果たしてきたその歴史的役割は評価に値する。 しかしながら、最大較差は最大の投票価値を与えられている有権者と最小の投票価値しか与えられていない有権者を比較するにとどまる概念であるがゆえに、本件選挙において投票価値が最小の選挙区であった神奈川県選挙区の有権者が、投票価値が最大の選挙区であった福井県選挙区の有権者と比べて差別的不利益を受けていたという事実を主張立証するための指標としてこれを用いるのであれば格別(ただし、その場合には、神奈川県選挙区と福井県選挙区の各有権者につき認められる他の諸事情も加えて両者間における差別的取扱いの存否が論じられるべきであろう。)、全選挙区を視野に入れて投票価値の不均衡の問題を論じるための指標としてはいささか精度を欠いているといわざるを得ない(最大較差を使って投票価値の不均衡の問題を論じることは、社会の中で最も所得の高い人と最も所得の低い人を比較して社会全体における所得の配分の不均衡を論じる所為になぞらえ得る。)。 思うに、投票価値の不均衡を測るための指標は全選挙区における投票価値のばらつきを過不足なく計算の対象に組み入れたものでなければならない。そして、この要請を満たす指標は統計学上幾つか存在しているが、人類にとって有用なあらゆる事物(投票権もその一つであろう。)において数量の増加が 過不足なく計算の対象に組み入れたものでなければならない。そして、この要請を満たす指標は統計学上幾つか存在しているが、人類にとって有用なあらゆる事物(投票権もその一つであろう。)において数量の増加がもたらす効用増加の変化率は逓減する(換言すれば、数量の減少がもたらす効用減少の変化率は逓増す- 27 -る)という経験則(以下「限界効用逓減の法則」という。)を計算原理の中に取り入れている点において、ジニ係数は投票価値の不均衡の問題を論じる上で最も合理的な指標といえるのではないであろうか(社会全体における所得の配分の不均衡を論じる指標としてもジニ係数が広く用いられていることは周知のとおりである。)。 ジニ係数を用いて投票価値の不均衡を論じる場合の具体的な方法論は、基本的には、「条件付き合憲論」という呼称を付して令和2年大法廷判決(以下、本意見において「前回判決」という。)に記した私の意見(以下「前回意見」という。)のとおりであるが、一点、前回意見から見解を改めた点がある。 すなわち、前回意見においては、飽くまでも選挙区選挙に限定してジニ係数を計算したところであり、このように限定する方がこれまでの当審の考え方と整合的であるようには思われる。しかしながら、改めて考えてみると、比例代表選挙と選挙区選挙とで選出方法に違いがあるとはいえ(選挙区選挙においては立候補者各自が得票を競うのに対し、比例代表選挙では一次的には政党が得票を競うものとなっている。)、①全ての有権者は、同一の日時に、同一の場所で、選挙区選挙と比例代表選挙のそれぞれについて、互いに独立した(すなわち、一方での投票行動によって他方での投票行動が拘束されることのない)投票を行うことが制度的に保障されており、②選出された議員は、選挙区選挙と比例代表選挙のいずれによって選出されたか 立した(すなわち、一方での投票行動によって他方での投票行動が拘束されることのない)投票を行うことが制度的に保障されており、②選出された議員は、選挙区選挙と比例代表選挙のいずれによって選出されたかにかかわらず、参議院議員として全く同一の資格を有するものであるから、本件のような選挙無効請求訴訟において、選挙人の行う投票が選挙結果に対して与える影響力を数量的に表現するという目的との関係では、選挙区選挙と比例代表選挙とを切り離して考えることに合理性があるとは考え難い。もとより、この点は、最大較差を用いるかジニ係数を用いるかという問題と連動する論点ではないが、これまでの当審の考え方にとらわれずにジニ係数を用いるのであれば、この点についても考え方を改めることはより説明しやすいと考えるし、また、そのように考え方を改める実際上の必要性も大きいところである。というのも、最大較差を用いる場- 28 -合には、「1人が2票以上持つかのような制度は不当である」などといったある種の修辞的言説により、他の選挙制度との比較を経ずとも数値の適否を論じる余地がある(ただし、私自身は、そのような言説の在り方に与するものではない。)のに対し、ジニ係数を用いる場合には、投票価値の不均衡につき、国内又は国外における他の選挙制度との比較によってしかその多寡を客観的に論じることはできないものであるところ、比較の対象とされる選挙制度には比例代表選挙が含まれている場合と含まれていない場合とが想定されるために、比較の単位を選挙制度全体の中の一部の選挙に限定してしまうと、他の制度との比較を的確に行うことが困難となってしまうからである。 以上のことを前提とすると、ジニ係数を計算するに当たっては、選挙区選挙における有権者1人当たりの議員数に比例代表選挙における有権者1人当たりの議員数( に行うことが困難となってしまうからである。 以上のことを前提とすると、ジニ係数を計算するに当たっては、選挙区選挙における有権者1人当たりの議員数に比例代表選挙における有権者1人当たりの議員数(参議院においては、比例代表選挙は全国単位で行われるから、この値は全有権者について同一となる。)を加えた値(以下、この値を「総合的投票価値」という。)を用いてこれを計算すべきである。 総合的投票価値を用いて計算した本件選挙のジニ係数は8.73パーセント(0.0873)である(なお、総合的投票価値を用いて本件選挙の最大較差を計算すると、2.06倍となる。)。 このジニ係数の値は、前回判決の対象となった令和元年選挙の(総合的投票価値を用いて計算した)ジニ係数である8.49パーセント(0.0849)とほぼ同じ値であり、したがって本件選挙に対する評価が令和元年選挙に対する評価と一致することは怪しむに足らない。 3 しかしながら、本件選挙当時における投票価値の不均衡が令和元年選挙当時におけるそれとおおむね同様であることは、その合憲性を疑問視しなくてよいことを示唆するものではない。否、それどころか、我が国の参議院議員通常選挙のジニ係数は、①過去一貫して衆議院議員総選挙のそれを上回っており(ちなみに、総合的投票価値を用いて計算した令和3年施行の衆議院議員総選挙のジニ係数は6.1- 29 -9パーセント(0.0619)であり、いわゆる新区割制度が導入される次回総選挙以降の数値は更に改善されることが期待されている。)、②諸外国の代表議会と比べても、(我が国の参議院議員通常選挙よりも高いジニ係数となる国も少なくないようにうかがわれるとはいえ)決して良好な水準にあるとは断じ難いように思われる。 以上の事実に鑑みるならば、本件選挙当時における投票価値の不均衡は 議員通常選挙よりも高いジニ係数となる国も少なくないようにうかがわれるとはいえ)決して良好な水準にあるとは断じ難いように思われる。 以上の事実に鑑みるならば、本件選挙当時における投票価値の不均衡は憲法14条違反の疑念を惹起するに十分なものであり、この点についての真摯な検討を促すに値するものといえるであろう。 4 しかしながら、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効率的に国政に反映させるために選挙制度をどのようなものにするのかの判断を国会の裁量に委ねているのであって、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する上で絶対の目標とすべきものではなく、選挙制度に内在する政策的諸問題の解決を図りつつ可及的に実現されるべきものである(投票価値の均衡に至高の価値を見いだす論者にとってこのような表現は「逃げ口上」のごとき印象を与えるかもしれないが、選挙制度を多角的視点から論じることは重要であり、投票価値の不均衡の問題の重要性のみを必要以上に強調することは、現行の選挙制度に内在する他の重要な諸問題を論じる機会を奪ってしまう危険性を内包している。飽くまでも一例であるが、現在の国民と将来の国民との間における福利の適切な配分の観点から選挙権に係る年齢制限の問題につきどのように考えるか、などといった問題も重要であろう。)。したがって、本件選挙当時における投票価値の不均衡につき、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(以下、本意見において「違憲状態」という。)にあったと判断するためには、選挙制度に内在する政策的諸問題をいかに解決するかという点に関する国会の裁量権に掣肘を加えることなく投票価値の不均衡を改善し得る制度改革案を模索し、そのような改革案が存在するにもかかわらず国会がその実施を怠っているといえることをもってその前提条件とすべきである(なお、そのような改 を加えることなく投票価値の不均衡を改善し得る制度改革案を模索し、そのような改革案が存在するにもかかわらず国会がその実施を怠っているといえることをもってその前提条件とすべきである(なお、そのような改革案の存在は当審が現行の選挙制度が違憲状態であると判断するために必要とするもので- 30 -あって、国会が自ら裁量権を行使して他の改革案を実施し、もって違憲状態を解消することを妨げるものではない。この点を含意させるべく、以下、上記の改革案を「デフォルト改革案」という。)。 しかるところ、①都道府県は憲法が制定される以前から一貫して社会的・行政的単位として重きをなしてきた存在であり、②その結果として都道府県は国民の地理的アイデンティティの源泉としても少なからぬ役割を果たしており、さらに、③国政選挙に係る選挙区を地方政治の単位と一致させることは、この二つの政治の紐帯としての機能を果たしている政党の運営を円滑ならしめるものであること等に鑑みるならば、公職選挙法が参議院議員全体の約6割の議員に関して都道府県をもってその選挙区の単位としていることには十分な合理性が認められてしかるべきである。したがって、デフォルト改革案を考えるに当たっては、少なくとも上記と同数程度の参議院議員に係る選挙区の単位としてできる限り都道府県を用い続ける制度を優先させて検討を行うべきである(以下、本意見において、そのような選挙制度を「都道府県本位選挙制度」という。)。 5 以上の点を踏まえてデフォルト改革案を模索するに(詳しい分析は前回意見で述べたのでここでは省略する。)、思い至るデフォルト改革案候補のほとんど全ては、都道府県本位選挙制度の理念に反するか(ブロック選挙区、合区の拡大等)、あるいは都道府県本位選挙制度の理念には反しないものの選挙制度に内在する政策的諸問題をい デフォルト改革案候補のほとんど全ては、都道府県本位選挙制度の理念に反するか(ブロック選挙区、合区の拡大等)、あるいは都道府県本位選挙制度の理念には反しないものの選挙制度に内在する政策的諸問題をいかに解決するかという点に関する国会の裁量権に掣肘を加えるものであるといわざるを得ない(比例代表制の廃止又は大幅な縮小、奇数定数案等)。そのような中にあって、唯一首肯し得るデフォルト改革案は、総定数を増やし、増加分を投票価値の低い選挙区に優先的に割り当てるというものであろう(以下、これを「定数増加案」という。)。 確かに定数増加案を実施すれば選挙制度のジニ係数を効率的かつ(少なくとも理論上は)無限定に改善することができるし、(増加される議員数が極端に大きな数とならない限り)議員数の増加によって立法府としての活動能力が低下することは- 31 -なく(したがって憲法43条2項の趣旨に反するとも思えない。)、むしろ、(定数増加案の実施に伴い新たに選ばれた国会議員も真摯に国政に当たると期待し得る以上)国会の機能は全体としてより向上すると考えることが合理的である。しかしながら、参議院議員の総定数は長きにわたり250人程度にとどまっていることを考えると、現状の議員数によって既に規模のメリットは達成されており、したがって、定数増加案を実施して総定数を増加させる場合には限界効用逓減の法則が働く可能性が高いと考えざるを得ない。しかりとすれば、定数増加案の実施によって国会の活動能力は上昇するとしてもその上昇率は逓減することを免れず、したがって議員1人当たりの歳費が同額である限り(歳費の減額を強要することは憲法49条に照らして不可能であろう。)、定数増加案は国会の活動の効率性(国会の運営費用1円当たりの活動成果)の悪化という具体的不利益を国民にもたらす可能性が高 ある限り(歳費の減額を強要することは憲法49条に照らして不可能であろう。)、定数増加案は国会の活動の効率性(国会の運営費用1円当たりの活動成果)の悪化という具体的不利益を国民にもたらす可能性が高いといわざるを得ない。 以上を要するに、定数増加案は都道府県本位選挙制度の理念も(国会自体には不利益が生じないために)国会の立法裁量権も否定することなくジニ係数を効率的に改善し得るという点において最適なデフォルト改革案といい得るが、国会活動の効率性の低下という具体的不利益を国民にもたらすものでもある。この点に鑑みるならば、定数増加案の存在を根拠として投票価値の不均衡が違憲状態にあるというためには、投票価値の不均衡が存在することによって一部の国民が実際に不利益を受けているという疑念(以下「不利益疑念」という。)の根拠となる事実が立証されるべきであろう(これを立証するためには投票価値の不均衡と一部の国民が受ける不利益との間に有意な相関関係がある程度の立証で足りると解すべきであることは前回意見で詳述したのでここでは繰り返さない。なお、不利益疑念の根拠となる事実が立証されることは、どの選挙区の定数をどれだけ増加させれば不利益疑念が解消され、ひいては違憲状態が解消されるのかを見極める上においても有用である。)。しかるに、本件においては、不利益疑念の根拠となる事実の立証は一切なされていない(なお、最近公表された研究論文では、少なくとも交付金の配分に関- 32 -する限り不利益は生じていないことを示唆する検証結果が報告されている。齋藤宙治・田中亘「参議院議員定数不均衡と交付金配分-草野耕一裁判官の「条件付き合憲論」を踏まえた統計分析の試み-」『社会科学研究』第74巻参照)。 6 以上によれば、本件選挙当時における投票価値の不均衡は違憲状態にあったものと 不均衡と交付金配分-草野耕一裁判官の「条件付き合憲論」を踏まえた統計分析の試み-」『社会科学研究』第74巻参照)。 6 以上によれば、本件選挙当時における投票価値の不均衡は違憲状態にあったものとはいえないと解するのが相当である。よって、私は、多数意見の結論に賛成する次第である。 裁判官尾島明の意見は、次のとおりである(なお、意見中の定義語及び略称については、多数意見のものを使用している。)。 1 はじめに私は、多数意見とは異なり、平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は本件選挙当時違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)にあったと考える。 もっとも、私の考えを構成する判断枠組み自体は、多数意見とほとんど同じである。すなわち、多数意見2記載の事実関係等の概要を前提とし、投票価値の平等についての合憲性の審査は同3及び記載のとおりの判断基準で行うこと、そして、同の第1段落から第3段落までに記載のとおり、参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなってきて、国政の運営における参議院の役割が大きなものとなっている中で、衆議院議員選挙については投票価値の平等の要請に配慮した選挙区割りの基準が法定されるに至り、参議院議員選挙についての投票価値の平等の要請に関しても較差の更なる是正を図るなどするための議論と取組が求められているが、参議院改革協議会等において、参議院議員の選挙制度の改革につき、各会派の間で一定の議論がされたものの、較差の更なる是正のための法改正の見通しが立つに至っておらず、その実現に向けた具体的な検討が進展しているともいい難いと現状が評価されることなどについては、いずれも多数意見と見解を一にしている。 そうであるにもかかわらず、どのような理由によって、本件定 らず、その実現に向けた具体的な検討が進展しているともいい難いと現状が評価されることなどについては、いずれも多数意見と見解を一にしている。 そうであるにもかかわらず、どのような理由によって、本件定数配分規定の下で- 33 -の選挙区間における投票価値の不均衡が本件選挙当時違憲状態であったと考えるのかについて、以下私の意見を述べる。その中核となるところは、3倍程度という選挙区間の最大較差についての評価及び国会における較差是正への取組状況についての評価である。 2 3倍程度という選挙区間の最大較差について本件選挙当時の選挙区間の最大較差は、3.03倍であった。本件で問題になるのは、この較差が他の諸要因と併せて総合考慮した上で憲法14条違反の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったか否かであるが、私はこれは肯定せざるを得ないと考える。 当審判決は、当初から定数配分規定の合憲性を審査するに当たって選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(選挙区間の最大較差)をまず問題にしている。これは、上記選挙人数が最大の1選挙区と最小の1選挙区だけを取り出して比較するものであるが、憲法14条の平等原則違反の有無を審査する以上、これらの間にどの程度の相違が生ずるかに着目することは、正しい分析の視点ということができる。なお、選挙区間の最大較差以外の指標をも考慮して総体としての投票価値の不均衡を測る見解(草野裁判官の意見のように比例代表選挙における有権者1人当たりの議員数をも加味した値を用いてジニ係数を計算するものを含む。)は、国会がその広範な裁量権を行使し、様々な利害を調整して諸要因を考慮する際に検証のために用いるツールとしては有用であるかもしれない。しかし、裁判所が定数配分規定が平等原則に違反するか否かを審査する際に使用するツールと 量権を行使し、様々な利害を調整して諸要因を考慮する際に検証のために用いるツールとしては有用であるかもしれない。しかし、裁判所が定数配分規定が平等原則に違反するか否かを審査する際に使用するツールとしては最大較差の方を用いるべきであると考える。 憲法が前提とする国政における民主主義は、国権の最高機関としての国会(41条)がその機能を十全に発揮しなければ実現できないものであり、したがって、その構成員は、正当に選挙された代表者(前文)、すなわち公正かつ平等な選挙によって全国民を代表する者(43条)として選出された議員でなければならない。選挙権は、国民にとって最も基本的な憲法上の権利の一つであり、選挙において全国- 34 -民を代表する議員を選ぶという全選挙人にとって同一の権能を行使するものであるにもかかわらず、本件選挙当時のように、ある1選挙区の選挙人の投票価値が他の1選挙区の選挙人のそれと比較すると僅か3分の1程度しかないということは、平等原則という観点からすると、それだけで、議院の構成員が正当に選挙された者であるといえるのかに疑問が付くし(裁判所が違憲立法審査権を行使するに当たっても、憲法上の権利の種別やその制約の態様いかんによっては、裁判所の判断ではなく民主主義的なプロセスに委ねるのを相当とする場合もあるのであり、そのプロセスが正常に機能するには、議院の構成員が正当に選挙された者であることが必須である。)、個々の選挙人にとっても、自ら特定の住所地を選んだなどという理由では正当化できない理不尽なことでもある。 したがって、選挙区間の最大較差がどの程度開いた場合に違憲状態となるかを一義的に明らかにすることはできないとはいえ、少なくとも、本件選挙当時におけるように3倍程度まで開いているという状況がある場合には、裁判所は、まず違憲状態では どの程度開いた場合に違憲状態となるかを一義的に明らかにすることはできないとはいえ、少なくとも、本件選挙当時におけるように3倍程度まで開いているという状況がある場合には、裁判所は、まず違憲状態ではないかとの疑いをもって審査に臨まなければならない。そして、その審査に当たっては、他の憲法上の権利が問題になる場合と同様に、状況に応じて権利の種別やその制約の態様等の諸要素を総合的に考慮しなければならないものであるが、選挙権の憲法上の基本権としての重要性に鑑みると、その最大較差以外の諸要素との関係でやむを得ない事情があると認められない限り、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあるものというべきである。 参議院議員通常選挙における選挙区間の最大較差については、数十年間にわたって5倍前後で推移してきたものを平成27年改正法が3倍程度にまで縮小させた。この平成27年改正後の定数配分規定について、平成29年大法廷判決は、平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができると評価しているが、飽くまで「較差の是正を図ったもの」としているのであって、「較差の是正が達成されたもの」と評価していないことも明らかである。このことは、平成29年大法廷判決が、平成27年改正法附則7条に、平成31年に行われ- 35 -る通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとするとの規定が置かれたことで、今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに、再び5倍前後という大きな較差を生じさせることのないよう配慮されていることをも併せて考慮し、違憲状態にあったものとはいえないと判示 の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに、再び5倍前後という大きな較差を生じさせることのないよう配慮されていることをも併せて考慮し、違憲状態にあったものとはいえないと判示していることからも分かる。 平成27年改正法が選挙区間の最大較差を3倍程度に縮小させたことについては、過去長期間にわたって続いていた投票価値の不均衡の大幅な是正を図ったものとして、国会における取組を高く評価すべきものとはいえるが、数値的にみた場合には、ここまで較差が縮小されたことのみをもって著しい不平等状態はひとまず解消されたとまで評価することには躊躇せざるを得ない。3倍程度の最大較差は、そこから有意な拡大傾向にあるといえないからといって、そこで一旦満足して足踏みをすることが許される程度のものということはできないからである。 3 国会における較差是正への取組状況についてそこで、平成27年改正法施行後の国会における取組状況について更にみてみる。 平成27年改正法は、初めて合区を行い、一部の選挙区の定数も変更することで選挙区間の最大較差を2.97倍にまで縮小させた上、附則において、平成31年に行われる通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとするとの規定を置いた(7条)。 その後、平成28年選挙(同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍)を経て、参議院改革協議会の設置と平成29年大法廷判決があり、同協議会で選挙制度改革についても協議が続けられたが、各会派に意見の隔たりがあった。そして、平成30年改正法では、埼玉県選挙区の定数を2人増員し、選挙区間の最大較差は2.99倍になり、参議院政治倫理の確立及び選挙制 改革についても協議が続けられたが、各会派に意見の隔たりがあった。そして、平成30年改正法では、埼玉県選挙区の定数を2人増員し、選挙区間の最大較差は2.99倍になり、参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会におい- 36 -ては「今後の参議院選挙制度改革については、憲法の趣旨にのっとり、参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うこと」との附帯決議がされた。令和元年選挙(同選挙当時の選挙区間の最大較差は3.00倍)を経て、令和2年大法廷判決があり、改めて参議院改革協議会が設置され、同協議会のほか参議院憲法審査会における選挙制度改革をめぐる議論でも各会派の意見が一致せず、法制的な措置がとられないまま本件選挙に至っている。 参議院議員の選挙制度をどういうものにするかは、国会に広範な裁量が認められ、憲法上は、投票価値の平等を害してはならないこと(14条)、成年者による普通選挙であること(15条3項)、投票の秘密が保障されること(15条4項)、議員が全国民を代表するものであること(43条1項)、議員と選挙人の資格を人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならないこと(44条ただし書)及び議員の任期が6年で、3年ごとに議員の半数を改選すること(46条)などという制約があるだけである。もっとも、選挙区間の最大較差の数値だけが選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、都道府県制という地方自治制度との関係、全国的な人口の変動状況、時々の社会的な課題等の国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由を考慮して調整すべきこともあって、自らの地位にも関係する議員を構成員とする国会が、種々の検討を経て法律によって作り出し、幾多の改正をしてきた選挙制度について、これを抜本的に見直 策的目的ないし理由を考慮して調整すべきこともあって、自らの地位にも関係する議員を構成員とする国会が、種々の検討を経て法律によって作り出し、幾多の改正をしてきた選挙制度について、これを抜本的に見直し、改めることに相当の困難が伴うことは理解できる。しかしながら、それでも選挙権という重要な憲法上の権利が毀損されていて、これが訴訟において争われているときに、裁判所がその困難さに配慮して国会の不作為に対し過度に寛容な姿勢をみせることは、違憲立法審査の在り方として相当とはいえないであろう。困難があっても可能なことを実行するのは広範な裁量権を有する国会の責務であり、裁判所の違憲立法審査の役割は、そのような過程で制定された法令が憲法に適合するか否かを審査することにあり、裁判所がその困難の程度を過度に斟酌することは三権分立の観点からも慎重であるべきである。 - 37 -都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを一部改めて合区を導入した後に対象となった4県で投票率の低下や無効投票率の上昇がみられることについては、これが合区の導入と結び付いているものか否かは客観的に明らかでないものの(近時、選挙人にとっては身近なはずの地方議会議員の選挙や首長選挙でも投票率の低下が指摘されているということがある。)、選挙人の政治参加の観点から懸念され、憂慮されていることも確かである。他方で、投票価値が他の選挙区に比べて著しく低いことが、選挙人の投票行動を含む政治参加に悪影響を与えないかどうか等についても気になるところである。このような、特定の選挙制度の実施に伴い生ずる可能性のある弊害は、第一次的には国会において検討されるべき事柄である。 投票価値の不均衡についていかなる方法でこれを是正するかは、国会の広範な裁量に委ねられており、裁判所がその具体的な方法等について示 性のある弊害は、第一次的には国会において検討されるべき事柄である。 投票価値の不均衡についていかなる方法でこれを是正するかは、国会の広範な裁量に委ねられており、裁判所がその具体的な方法等について示唆するようなことは、これも三権分立の原則からいって避けるべきことである(もっとも、投票価値の著しい不均衡をもたらしているものが、特定の制度、例えば衆議院議員選挙における1人別枠方式や、参議院議員選挙における都道府県を各選挙区の単位とする仕組みであるときに、その問題点を指摘することは、当然に違憲立法審査権の範囲内の権限行使である。)。 選挙制度改革は、その性質上漸進的なものにならざるを得ず、また、裁判所が定数配分規定を違憲無効と判断しても、自らの手で適切と考える選挙区割りを定めてしまうようなことも不可能であることから、本件のような選挙訴訟においては、「違憲状態であるが合憲である」と判断するという他の憲法訴訟においては通常用いられない手法を判例上認め、裁判所と国会との間でのキャッチボールとも評される状況が続けられてきたものと理解することができる。 以上のようなことを総合して平成27年改正法施行以後の状況をみると、平成27年改正法で投票価値の不均衡を大幅に縮小し、平成31年の通常選挙に向けて抜本的な見直しを検討し、結論を得ることを約したものの、種々の困難が顕在化し、平成30年改正法においては漸進的な改善途上のものといえる部分的な改正に- 38 -とどまり、その後は、残念ながら法制上の措置のみならず、立法府全体における制度改正に向けた議論の進捗も停滞していると評価せざるを得ない。平成27年改正法施行後は、選挙区間の最大較差が3倍程度で推移しており、有意に拡大していないことが制度改正に取り組む動きが鈍っていることの原因であるのかもしれないが、選 ていると評価せざるを得ない。平成27年改正法施行後は、選挙区間の最大較差が3倍程度で推移しており、有意に拡大していないことが制度改正に取り組む動きが鈍っていることの原因であるのかもしれないが、選挙権の憲法上の基本権としての重要性に鑑みると、3倍程度という選挙区間の最大較差が原則として憲法が許容しない程度の不均衡であることは上記2で述べたとおりである。選挙制度の是正につきその実現を図ることについては、これが漸進的にならざるを得ない点を考慮しても、憲法が国会に広範な裁量権を付与していることを踏まえれば、速やかに議論を尽くし、様々な取組の在り方を検討することで可能なはずである。 4 結論上記2及び3のとおり、3倍程度という選挙区間の最大較差の不均衡が平等原則からすると依然として深刻な状況であること、及び上記に述べた国会における是正への取組に、衆議院議員の選挙制度とは異なる制約があるとはいえ、平成27年改正法施行後、2回の参議院議員通常選挙を経て約7年の期間が経過したにもかかわらず、はかばかしい進展がみられていないという状況を総合すると、選挙区間の最大較差が3倍程度まで開いていることにつきやむを得ない事情があるとは認め難く、私は、本件選挙当時、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(違憲状態)にあったといわざるを得ないと考える。 以上のとおりであるが、令和2年大法廷判決が本件定数配分規定について違憲状態とはいえないと判断したこと(この判断については私も異論がない。)に鑑みると、本件選挙当時、まだ是正のための十分な期間が経過したということはできず、本件選挙までの期間内に是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとまではいえないので、本件定数配分規定が憲法に違反するとは 選挙当時、まだ是正のための十分な期間が経過したということはできず、本件選挙までの期間内に是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとまではいえないので、本件定数配分規定が憲法に違反するとはいえないと考える。 したがって、理由は異なるものの、結論は多数意見と同じである。 - 39 -裁判官宇賀克也の反対意見は、次のとおりである。 私は、多数意見と異なり、本件定数配分規定は遺憾ながら違憲といわざるを得ないと考える。その理由等は、以下のとおりである。 1 憲法は、有権者に単に形式的に同数の投票権を付与するのみならず等価値の投票権を付与していると考えられるので、投票価値が等しいことをデフォルトとして選挙制度を設計する必要がある。公共の福祉のためにやむを得ない範囲で、投票価値に一定の不均衡をもたらすことが許容されるとしても、等価値の投票権が基本権として保障されていること、そしてそのことが国民主権原理の下における国民代表としての国会の民主的正統性の基盤であることに鑑みれば、投票価値に著しい不均衡が生ずることを回避することが最優先されなければならない。憲法47条は、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しているが、この規定も、憲法上の原則である投票価値の平等の要請に合致するように、法律で所定の事項を定めることを前提としている。そして、投票価値の不均衡が真にやむを得ないことについては、国会が説明責任を負うことになると考えられる。 2 憲法は、内閣に対する信任、不信任の決議に係る権限を衆議院にのみ与え(69条)、予算の議決等(60条)、条約締結の承認(61条)、内閣総理大臣の指名(67条)について衆議院の優越を認め、また、法律案については、衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をしたと え(69条)、予算の議決等(60条)、条約締結の承認(61条)、内閣総理大臣の指名(67条)について衆議院の優越を認め、また、法律案については、衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をしたときは、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは法律となると定めている(59条2項)。 しかし、国会の最も中心的な活動といえる法律案の審議・可決について、両議院の議決が異なったとき、衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再び可決するハードルは極めて高い。そのため、過去において、参議院が衆議院で可決された法律案を修正したときは、衆議院に回付され、衆議院で参議院の修正どおりの案が可決されて法律案が成立することが多く、また、参議院の意向を受けた修正を行わない限り、参議院で可決されない状況の場合、衆議院で参議院の意向を酌んだ修正が行- 40 -われた事例もある。衆議院で可決されたが、参議院で否決されたため、法律案が成立しなかった事例もある。こうしたことに加えて、予算・条約についても、それを執行するために法律の制定・改廃が必要になることが多く、内閣総理大臣の指名に当たっても、参議院で過半数の支持が得られる見通しを考慮に入れざるを得ないことに鑑みれば、参議院は、実際上、衆議院にかなり近い権限を与えられているといってよいと思われる。したがって、参議院についても、基本的に国民に等価値の選挙権が保障されなければならず、そうでなければ、参議院の民主的正統性が疑問視されざるを得ない。 なお、参議院については解散がなく、その議員の任期は6年とされ、3年ごとに議員の半数を改選するものとされる点で(憲法46条)、衆議院と異なる仕組みが憲法上採用されているが、そのこと自体は、投票価値の平等の要請と矛盾するものではなく、平成24年大法廷判決、平成26年大法 議員の半数を改選するものとされる点で(憲法46条)、衆議院と異なる仕組みが憲法上採用されているが、そのこと自体は、投票価値の平等の要請と矛盾するものではなく、平成24年大法廷判決、平成26年大法廷判決及び平成29年大法廷判決も、参議院議員選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いと判示しているところである。 3 本件選挙当時、投票価値の最大較差が3倍を超える選挙区は3選挙区あり、当該3選挙区の有権者数は2100万人を超過し、全有権者数の20%を超えている。しかも、このような投票価値の著しい不均衡は、恒常的に人口ちゅう密地域の有権者の1票の価値を低くする形で生じている。国会は、選挙制度を設計するに当たり、様々な事情を考慮することができるが、それは、投票価値の不均衡が憲法上許容される範囲内においてであるところ、本件選挙当時の1票の価値の不均衡は、明らかに憲法上許容される範囲を超えており、こうした不均衡が真にやむを得ないことについての説明もされていないのであるから、本件定数配分規定は違憲であるといわざるを得ないと考える(私は、最高裁令和4年(行ツ)第130号同5年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁において、当審が選挙無効訴訟で採用しているいわゆる合理的期間論は、国家賠償請求においては、過失の有無の判断との関係で考慮要素となるものの、選挙無効訴訟において妥当させるべきものではな- 41 -く、違憲状態であれば直ちに違憲と判断してよい旨とその理由を述べたが、参議院選挙と衆議院選挙でこの点についての判断を異にする理由はないと考える。)。なお、投票価値の平等が国会の民主的正統性の基盤であることに鑑みれば、自己の投票価値が相対的に低い状態に置かれた有権者が、そのことを認識していなかったり、 ての判断を異にする理由はないと考える。)。なお、投票価値の平等が国会の民主的正統性の基盤であることに鑑みれば、自己の投票価値が相対的に低い状態に置かれた有権者が、そのことを認識していなかったり、認識しつつ甘受していたりしても、それによって、違憲審査の基準を緩めてよいことにはならないのは当然であるし、投票価値が毀損されていること自体が重大な基本権侵害なのであるから、投票価値が低い地域が、財政上の不利益を受けていないとしても、それによって、公共の福祉による制約として正当化できる範囲を超えた投票価値の不平等が許容されることになるわけではないと考えられる。 4 本件定数配分規定の憲法適合性に関する私の見解は以上のとおりであるが、ここで、私見に対して想定される指摘を念頭に置きつつ、更に敷衍しておくこととする。 選挙無効訴訟における司法府の役割は、当該選挙当時の1票の価値の不均衡が憲法上許容される限界を超えるか否かを判断することにあり、いかなる方法で違憲状態を解消するかが国会の判断に委ねられることはいうまでもない。私は、令和2年大法廷判決の反対意見で、違憲状態を解消するための幾つかの方法を例示したが、解消の方法がそれに尽きるわけではなく、司法府があらゆる選択肢を網羅的に検討することは、そもそもできないと思われる。例えば、国会は、平成29年大法廷判決の後、既存の合区を維持した上で、比例代表選出議員の定数を4人増員して特定枠制度を導入したところであり、同制度の利用により、合区の対象となった4県の全てから地元出身の参議院議員が選出されやすくなったと考えられるが、このような選択肢(その是非についての評価には、ここでは立ち入らない。)は、平成29年大法廷判決時に、司法府において必ずしも想定されていたわけではないように思われる。 この点にも関係して、 るが、このような選択肢(その是非についての評価には、ここでは立ち入らない。)は、平成29年大法廷判決時に、司法府において必ずしも想定されていたわけではないように思われる。 この点にも関係して、選挙無効訴訟において、違憲状態を解消するための方法として司法府において考え得る代表的なものにつき、政治的に困難であるなど、憲法- 42 -上の直接的な制約以外の理由によりその実現が実際上困難であるか否かという点を、合憲状態である理由として考慮すべきではないと思われる。司法府が、選挙制度の改正について想定される選択肢のそれぞれについて、その実現の実際上の困難さまで評価することは、むしろ立法権への過剰な介入にならないかが懸念される。 そもそも、選挙制度改革は、政党や各国会議員の利害に関わるため、いかなるものであっても、実際上の困難を伴い、そのため、参議院においても、長年にわたり、投票価値の大きな不平等が是正されなかったのであり、平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が違憲状態であるという判示をしたことによりようやく、大きな困難を乗り越えて、投票価値の著しい不平等状態の解消に向けた重要な前進があったということができる。他方、平成29年大法廷判決においては、「今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示され」ていることも合憲状態とする理由の一つとされていたものの、その後、「投票価値の較差の更なる是正」が進んだとは評価できず、令和2年大法廷判決においても、「取組が大きな進展を見せているとはいえない」と指摘されている。そして、令和2年大法廷判決において合憲状態とする判示がなされて以降、本件選挙に至るまで、投票価値の較差の是正は進まず、むしろ拡大している。これは、令和2年大法廷判決において林景一裁判官が、当審が、約3倍 令和2年大法廷判決において合憲状態とする判示がなされて以降、本件選挙に至るまで、投票価値の較差の是正は進まず、むしろ拡大している。これは、令和2年大法廷判決において林景一裁判官が、当審が、約3倍という較差をいわば「底値」として容認し、あとは現状を維持して較差が再び大きく拡大しなければよいというメッセージを送ったものと受け取られ、今後の較差是正の努力が止まり、3倍もの較差が永続するような結果となることを懸念されたことが杞憂ではなかったことを示していると思われる。 以上述べたように、投票価値の較差の是正は、いかなる方法であれ、多かれ少なかれ実際上の困難を伴うものであり、当審が少なくとも違憲状態の判決を出さない限り、そうした困難を乗り越えた是正策は選択されず、約3倍の較差から大きくかい離しないように一部の選挙区の定数を増減する方策が講じられるにとどまり、投票価値が最大の選挙区と比較して1票の価値が約3分の1にとどまる有権者がかな- 43 -りの割合を占めるという現状が固定化することが懸念される。 なお、合区の対象となった4県で投票率が低下するなどしたことから、国民の投票への意欲をより喚起する選挙制度を志向すべきであるという議論には傾聴すべき点があるものの、1票の価値が恒常的に低い状態に置かれている選挙区の住民は、そのことを認識すれば、やはり投票への意欲を削がれることになると思われる。したがって、国民の投票への意欲を喚起する選挙制度を志向するという観点からも、投票価値の平等を軽視することはできないと考える。 5 最後に、本件選挙の効力に関して検討すると、私は、令和2年大法廷判決では、本件定数配分規定を違憲としたものの、無効判決についての議論の蓄積が十分とは必ずしもいえないこともあり、事情判決を行うべきものとした。しかし、平成 して検討すると、私は、令和2年大法廷判決では、本件定数配分規定を違憲としたものの、無効判決についての議論の蓄積が十分とは必ずしもいえないこともあり、事情判決を行うべきものとした。しかし、平成27年改正法附則7条において、平成31年に行われる通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとすると規定されたにもかかわらず、平成30年改正では「選挙制度の抜本的な見直し」は行われず、今後の参議院選挙制度改革については、憲法の趣旨にのっとり、参議院の役割及び在り方を踏まえ引き続き検討を行うという附帯決議がされるにとどまった。その後、令和3年5月から同4年6月にかけて、13回にわたって参議院改革協議会が開会され、選挙制度改革もそこでのテーマの一つとされたが、同月にまとめられた参議院改革協議会報告書においては、参議院選挙制度の在り方についての具体的な改革の方向性は示されず、次期協議会で更に議論が深めていかれることを切望すると述べられるにとどまっている。このような状況に鑑みると、参議院(選挙区選出)議員に係る議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、今後もほぼ現状のまま継続する可能性が高いように思われる。 したがって、今回は、私は、事情判決にとどめるのではなく、本件選挙は無効であるとせざるを得ないと考える。ただし、直ちに無効とするのではなく、違憲状態を是正するための合理的期間を認めるべきであるから、無効の効果が発生するの- 44 -は、本件判決から2年後とし、かつ、無効の効果は遡及せず、本件選挙において当選した議員による国会での審議・投票は、将来、本件選挙が無効となっても、無効判決の影響を受けないこと 生するの- 44 -は、本件判決から2年後とし、かつ、無効の効果は遡及せず、本件選挙において当選した議員による国会での審議・投票は、将来、本件選挙が無効となっても、無効判決の影響を受けないこととすべきであると考える。 (裁判長裁判官戸倉三郎裁判官山口厚裁判官深山卓也裁判官三浦守裁判官草野耕一裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官岡村和美裁判官長嶺安政裁判官安浪亮介裁判官渡惠理子裁判官岡正晶裁判官堺徹裁判官今崎幸彦裁判官尾島明)

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