平成30(し)76 再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件

裁判年月日・裁判所
令和3年4月21日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 福岡高等裁判所 平成26(く)56
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判決文本文5,896 文字)

- 1 -平成30年(し)第76号再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件令和3年4月21日第一小法廷決定 主文 本件抗告を棄却する。 理由 本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。 なお,所論に鑑み記録を調査しても,職権で原決定を取り消すべき事由があるとは認められない。以下,付言する。 1 確定判決(第1審判決)が認定した罪となるべき事実の要旨は,申立人(再審請求人)の夫である被告人(当時54歳。以下「事件本人」という。)が,平成4年2月20日,福岡県飯塚市内の道路において,小学校に登校中のⅤ1(当時7歳)及びV2(当時7歳)を認め,両名が未成年者であることを知りながら,自己の運転する普通乗用自動車(以下「事件本人車」という。)に乗車させ,通学路外に連れ出して,未成年者である両名を略取又は誘拐し,同市内又はその周辺において,殺意をもって,両名の頸部を手で絞め付け圧迫し,両名をいずれも窒息により死亡させて殺害し,同県甘木市内の国道沿いの山中に,両名の死体を投げ捨てて遺棄したというものである。 2 事件本人は,確定審において,犯人ではないと主張したが,確定判決は,①S1らの目撃供述によれば,本件犯行に犯人が使用したと疑われる車両は,M1製の紺色ワゴンで,後輪がダブルタイヤであり,リアウインドウにフィルムが貼ってあるなどの特徴を有しており,犯人は被害者両名の失踪場所等に土地鑑を有する者であると推測されるところ,事件本人は前記車両と特徴を同じくする事件本人車を所有し,かつ,前記失踪場所等に土地鑑を有すること,②被害者両名の着衣 ており,犯人は被害者両名の失踪場所等に土地鑑を有する者であると推測されるところ,事件本人は前記車両と特徴を同じくする事件本人車を所有し,かつ,前記失踪場所等に土地鑑を有すること,②被害者両名の着衣から発- 2 -見され,被害者両名が犯人使用車両に乗せられた機会に付着したと認められる繊維片は,事件本人車と同型のWに使用されている座席シートの繊維片である可能性が高いこと,③事件本人車の後部座席シートからⅤ1と同じ血液型(ABO式。以下同じ。)であるz1型の血痕と人の尿痕が検出されているところ,被害者両名ともに殺害された時に生じたと認められる失禁と出血があり,事件本人が犯人であるとすれば,前記血痕及び尿痕の付着を合理的に説明できること,④警察庁科学警察研究所(以下「科警研」という。)が実施した血液型鑑定及びDNA型鑑定によれば,V2の遺体付近にあった木の枝に付着していた血痕並びに被害者両名の膣内容物及び膣周辺付着物の中に,犯人に由来すると認められる血痕ないし血液が混在しており,仮に犯人が1人であるとした場合には,その犯人の血液型はz2型,MCT118型はm1-m5型であり,いずれも事件本人の型と一致していること,⑤事件本人は,本件当時,亀頭包皮炎に罹患しており,外部からの刺激により亀頭から容易に出血する状態にあったから,事件本人が犯人であるとすれば,被害者両名の膣内容物等に犯人に由来すると認められる血液等が混在していたことを合理的に説明できること,⑥被害者両名が失踪した時間帯及び失踪場所は,事件本人が申立人を通勤先に事件本人車で送った後,事件本人方に帰る途中の時間帯及び通路に当たっていた可能性があり,他方で,事件本人にアリバイが成立しないことなどが認められ,以上の諸情況を総合すれば,事件本人が犯人であることについて,合理的な疑いを超えて 方に帰る途中の時間帯及び通路に当たっていた可能性があり,他方で,事件本人にアリバイが成立しないことなどが認められ,以上の諸情況を総合すれば,事件本人が犯人であることについて,合理的な疑いを超えて認定することができるとし,事件本人を死刑に処した。事件本人が控訴を申し立てたが棄却され,上告も棄却されて,第1審判決が確定した。 3 本件再審請求は,新証拠である日本大学文理学部心理学研究室嚴島行雄教授の鑑定書,捜査官の報告書等によれば,①のS1の目撃供述の信用性が否定され,また,新証拠である筑波大学社会医学系法医学教室本田克也教授の鑑定書等によれば,④の科警研が実施した血液型鑑定及びDNA型鑑定の各証拠能力ないし信用性が否定され,その余のいかなる情況証拠を総合しても,事件本人を犯人と認めることはできないから,以上の新証拠は確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるも- 3 -のであり,再審を開始すべきであるなどというものである。 4 原々決定は,MCT118型鑑定において塩基配列の反復回数の測定方法が改善された結果,本田教授の鑑定書等によって事件本人の正確なMCT118型はm2-m8型であることが明らかとなったものの,犯人の正確なMCT118型はm2-m7型,m2-m8型又はm2-m9型のいずれかに当たり得ることから,科警研のMCT118型鑑定によって,犯人と事件本人のMCT118型が一致したと認めることはできないが,他方で,これが一致しないと認めることもできないとした。その上で,原々決定は,以上のほかに,新証拠によって旧証拠の証明力や信用性が減殺されることはなく,確定判決が認定した情況事実は,各々独立した証拠によって認められるものであって,それらのうちから犯人と事件本人のMCT118型が一致したことを除いたその余の情況事実を総合した場 減殺されることはなく,確定判決が認定した情況事実は,各々独立した証拠によって認められるものであって,それらのうちから犯人と事件本人のMCT118型が一致したことを除いたその余の情況事実を総合した場合であっても,事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がされていることに変わりはなく,新証拠はいずれも確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるものではないとして,再審請求を棄却した。 5 これに対し,申立人が即時抗告を申し立て,新証拠によってその立証命題に関連する旧証拠の証明力が減殺された場合には,そのことのみによって確定判決に合理的な疑いが生じない場合であっても,新証拠の立証命題とは無関係に,新証拠と旧証拠とを総合評価することによって,確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生ずるか否かを判断すべきであり,その際には,旧証拠それぞれの証明力を再評価すべきであるのに,原々決定は,個々の旧証拠の証明力に関する原々審弁護人の主張について何一つ判断を示していないなどと主張した。 6 この点に関し,原決定は,原々決定が新証拠の立証命題と関連しない旧証拠の証明力に関する原々審弁護人の主張について明示的に判断を示していないことに誤りはなく,旧証拠の証明力に関する判断を原々決定が遺脱しているとの所論は理由がないとして,原々決定の判断を是認し,即時抗告を棄却した。 7 以上の原決定の判断は,正当なものとして是認することができる。 - 4 -(1) これに対し,所論は,まず,次のようにいう。 ア旧証拠のうち,科警研が実施したHLADQα型鑑定並びに帝京大学法医学教室石山昱夫教授が実施したミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定は,本田教授の鑑定書等によって証明力が減殺された科警研のMCT118型鑑定と立証命題が有機的に 型鑑定並びに帝京大学法医学教室石山昱夫教授が実施したミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定は,本田教授の鑑定書等によって証明力が減殺された科警研のMCT118型鑑定と立証命題が有機的に関連しているのであるから,前記3つの鑑定についてそれらの証明力を再評価しなければならない。 イそこで,HLADQα型鑑定の証明力を再評価すると,Ⅴ1の膣内容物(資料(2)),同人の膣周辺付着物(資料(3)),V2の膣内容物(資料(4))及び同人の膣周辺付着物(資料(5))から,科警研の血液型鑑定でz2型が検出され,MCT118型鑑定でm1型及びm5型が検出されているところ,確定判決は,これらの型は犯人由来の型であるとして,資料(2)から(5)までの全てに犯人の血液が混入していたと認定しているのであるから,HLADQα型鑑定においても,資料(2)から(5)までの全てから犯人由来の型が検出されるはずである。そして,HLADQα型鑑定において,資料(2)及び(3)からはⅤ1の型であるα1-α3型が検出され,資料(4)及び(5)からはV2の型であるα2-α3型が検出されており,資料(2)から(5)までの全てに共通して検出された型はα3型であるから,犯人の型はα3-α3型であると考えるほかなく,事件本人の型であるα2-α3型はこれと一致せず,資料(2)及び(3)から検出されていないから,事件本人は犯人ではないといえる。 ウまた,ミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定の証明力を再評価すると,いずれの鑑定においても,資料(2)から(5)までの全てから,事件本人の型が検出されていない。しかも,ミトコンドリアDNA型鑑定においては,資料(3)から,Ⅴ1の型のほかに,V2の型,更に別の型が検出されている。そして,資料(3)からは,Ⅴ1の血液型 から,事件本人の型が検出されていない。しかも,ミトコンドリアDNA型鑑定においては,資料(3)から,Ⅴ1の型のほかに,V2の型,更に別の型が検出されている。そして,資料(3)からは,Ⅴ1の血液型であるz1型及びV2の血液型であるz3型のほかに,z2型が検出され,確定判決は,z2型は犯人由来のものであると認定しているのであるから,ミトコンドリアDNA型鑑定で検出されたⅤ1及びV2並びに事- 5 -件本人とは別の型が犯人の型というべきであり,事件本人は犯人ではないといえる。 エそうであるのに,原決定がこのような再評価をしなかったことは,新証拠が確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるか否かの判断方法を誤ったものである。 (2) この点に関し,確定判決は,前記3つの鑑定の証明力について,次のように評価している。 ア HLADQα型鑑定は,単独資料の型判定用に開発されたものであり,その鑑定方法に照らし,混合資料については,多くの場合,その各々の型を判定することが困難であること,MCT118型鑑定に比べると多くのDNA量を必要とし,資料からMCT118型が検出できたからといって常にHLADQα型が検出できるとは限らないことなどからすると,HLADQα型鑑定の結果は,事件本人が犯人であることと矛盾するものであるとはいえない。 イ石山教授の指摘によれば,ミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定は,科警研において先行して実施されたMCT118型鑑定等で多くが費消され,かつ,状態が極めて不良となっていた資料(2)から(5)までを鑑定資料として実施したものであり,資料(2)から(5)までの全てに共通するミトコンドリアDNA型が検出されていないことからも,既に犯人のDNAが存在していなかった可能性があること,また,ミトコンドリ 資料として実施したものであり,資料(2)から(5)までの全てに共通するミトコンドリアDNA型が検出されていないことからも,既に犯人のDNAが存在していなかった可能性があること,また,ミトコンドリアDNA型鑑定は,僅かな汚染であっても資料に付着したミトコンドリアDNAを鋭敏に検出してしまうことがあり,本件においても,資料(2)から(5)までが採取の時から科警研の鑑定を経て石山教授の鑑定に供されるまでの間に汚染され,被害者両名及び犯人とは別の型が検出された可能性が十分に考えられることなどからすると,ミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定の結果は,事件本人が犯人であることと矛盾するものであるとはいえない。 (3) そこで,所論について検討すると,MCT118型鑑定の証明力減殺は,- 6 -同鑑定の手法が改善されたことによるものであるのに対し,HLADQα型鑑定並びにミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定の証明力は,確定判決が説示するとおり,鑑定資料のDNA量や状態の不良,更にはこれらの鑑定自体の特性等に基づいて評価されるべきものであって,MCT118型鑑定の証明力減殺が,HLADQα型鑑定並びにミトコンドリアDNA型鑑定及びHLADQB型鑑定の証明力に関する評価を左右する関係にあるとはいえないから,それらの再評価を要することになるものではない。以上によれば,原々決定がこれらの鑑定の証明力を再評価しなかったことに誤りはない旨判示した原決定の判断は正当である。 (4) そのほか,所論は,本田教授の見解に基づき,科警研の血液型鑑定及びMCT118型鑑定の手法は科学的に誤っており信用することができないなどというが,科警研の各鑑定に関する前記4の原々決定の信用性評価を是認した原決定の判断に誤りがあるとはいえない。 ( 鑑定及びMCT118型鑑定の手法は科学的に誤っており信用することができないなどというが,科警研の各鑑定に関する前記4の原々決定の信用性評価を是認した原決定の判断に誤りがあるとはいえない。 (5) さらに,所論は,新証拠によって,科警研のMCT118型鑑定の証明力が減殺されたほか,S1の目撃供述の信用性も否定されたから,同鑑定及び同供述を除いたその余の情況証拠によっては,事件本人が犯人であるということはできないなどという。しかし,新証拠によってS1の目撃供述の信用性が否定されたとはいえず,犯人と事件本人のMCT118型鑑定が一致したことを除いたその余の情況事実を総合した場合であっても,事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がされており,新証拠はいずれも確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるものではないという原々決定の判断を是認した原決定の判断は,正当である。 (6) 以上によれば,所論は,いずれも採用することができない。 よって,刑訴法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官小池裕裁判官池上政幸裁判官木澤克之裁判官山口厚裁判官深山卓也)

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