平成24年1月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成22年(ワ)第9102号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年10月18日判決原告田岡化学工業株式会社同訴訟代理人弁護士松本司同田上洋平被告大阪ガスケミカル株式会社同訴訟代理人弁護士石川正同畑郁夫同重冨貴光同黒田佑輝同訴訟代理人弁理士北村修一郎同東邦彦同太田隆司 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1) 被告は,別紙製品目録記載の製品を製造し,譲渡し又は譲渡の申出をしてはならない。 (2) 被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。 (3) 被告は,原告に対し,3億円及びこれに対する平成22年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は被告の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 被告主文と同旨 第2 事案の概要 1 前提事実(証拠の掲記がない事実は当事者間に争いがない。) (1) 本件特許権原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の【特許請求の範 告主文と同旨第2 事案の概要 1 前提事実(証拠の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)(1) 本件特許権原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の【特許請求の範囲】【請求項1】に係る発明を「本件特許発明1」,同【請求項7】に係る発明を「本件特許発明2」といい,併せて「本件各特許発明」という。また,本件特許に係る出願明細書を「本件明細書」といい,優先権主張に係る先の出願明細書を「本件基礎出願明細書」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。 特許番号 4140975号発明の名称フルオレン誘導体の結晶多形体およびその製造方法出願日平成20年2月8日優先権主張番号特願2007-34370(以下「本件基礎出願」という。)優先日平成19年2月15日登録日平成20年6月20日特許請求の範囲【請求項1】「ヘテロポリ酸の存在下,フルオレノンと2-フェノキシエタノールとを反応させた後,得られた反応混合物から50℃未満で9,9-ビス(4- (2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させることにより9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物を得,次いで,純度が85%以上の該粗精製物を芳香族炭化水素溶媒,ケトン溶媒およびエステル溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒に溶解させた後に50℃以上で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させる9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体の製造方法。」【請求項7】「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃である9,9-ビス(4- 始させる9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体の製造方法。」【請求項7】「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃である9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体。」(2) 9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(甲2,3,乙1,2。以下「BPEF」という。)BPEFは,高耐熱性や優れた光学特性(高屈折率,低複屈折率),電気特性(低誘電率等)を有し,ポリマー(エポキシ樹脂,ポリエステル,ポリエーテル,ポリカーボネートなど)の原料として有用な物質である。 ポリマーは,光学レンズ,フィルム,プラスチック光ファイバー,光ディスク基盤,耐熱性樹脂やエンジニヤリングプラスチックなどの原料となる。 (3) 被告の行為被告は,別紙製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造し,譲渡し又は譲渡の申出を行っている。 被告製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属するものである。 2 原告の請求原告は,被告に対し,被告の行為(前提事実(3))が本件特許権を侵害するものであるとして,本件特許権に基づき,被告製品の製造等の差止め及び廃棄 を求めるとともに,被告の行為により11億0100万円の損害を被ったとして,不法行為に基づき,上記損害の一部である3億円の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成22年7月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。 3 争点(1) 被告製品は,本件特許発明1の方法により生産したものであるか(争点1)(2) 本件特許発明2は,特許無効審判により無効とされるべきものであるかア本件特許発明2は,公然実施をされた発明 (1) 被告製品は,本件特許発明1の方法により生産したものであるか(争点1)(2) 本件特許発明2は,特許無効審判により無効とされるべきものであるかア本件特許発明2は,公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)であるか(争点2-1)イ本件特許発明2は,優先日前に頒布された特開平10-45655号公報(以下「乙1公報」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)又は特開2005-104898号公報(以下「乙2公報」という。)に記載された発明(以下「乙2発明」という。)と同一のもの(特許法29条1項3号)であるか(争点2-2)ウ本件特許発明2は,特開2007-23016号公報(以下「乙41公報」という。)に記載された発明(以下「乙41発明」という。)と,乙1発明又は周知技術に基づき,当業者が容易に発明することができたものであるか(争点2-3)(3) 被告は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか(争点3)(4) 損害額(争点4)第3 争点に係る当事者の主張 1 争点1(被告製品は,本件特許発明1の方法により生産したものであるか)について【原告の主張】本件特許発明1は,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを生産す る方法の発明であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFは,優先日(平成19年2月15日)前に日本国内において公然知られた物ではない。 そして,被告製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFと同一の物であるから,本件特許発明1の方法により生産したものと推定される(特許法104条)。 よって,被告製品は,本件特許発明1の方法により生産したものである。 【被告の主張】被告製品は,本件特許発明 ,本件特許発明1の方法により生産したものと推定される(特許法104条)。 よって,被告製品は,本件特許発明1の方法により生産したものである。 【被告の主張】被告製品は,本件特許発明1の方法により生産したものではない。 また,後記2のとおり,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFは,優先日前に日本国内において公然知られた物であるから,特許法104条による推定は及ばない。 2 争点2(本件特許発明2は,公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)であるか)について【被告の主張】以下のとおり,本件特許発明2は,公然実施をされた発明である。 (1) 原告による公然実施ア本件特許発明2に係る優先権主張の無効(ア) 化学物質の構造が明細書に特定して記載されていたとしても,現実に製造できなければ,架空の化学物質にすぎない。 したがって,当該物質の製造方法が優先権主張に係る先の明細書に記載されていない限り,当該物質は先の明細書に記載された発明ではない。 (イ) 本件基礎出願明細書には,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFについて,結晶の析出開始温度や粗精製物の純度に関する記載は全くない。 (ウ) 原告は,審査官から,平成20年4月1日付けで,特許法29条1項3号及び同条2項を理由とする拒絶理由通知を受けており,本件明細書 に記載されたBPEPの製造方法は,ほぼすべて公知文献に記載されていること,公知文献との相違点は本件明細書において析出開始温度が特定されている点のみであることを指摘された。 原告は,同年5月15日,手続補正書及び意見書を提出し,新規な結晶多形体を見出して安定的に当該物質を得るには,結晶の析出開始温度と粗精製物の純度が重要な要因であるところ,公知文献には析出開始温度の記載がな 同年5月15日,手続補正書及び意見書を提出し,新規な結晶多形体を見出して安定的に当該物質を得るには,結晶の析出開始温度と粗精製物の純度が重要な要因であるところ,公知文献には析出開始温度の記載がないと主張し,これにより本件特許について登録を受けることができた。 (エ) 以上のとおり,原告の主張によれば,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを製造するには,析出開始温度と粗精製物の純度が重要であるにもかかわらず,本件基礎出願明細書には,これらに関する記載や示唆が全くない。 そうすると,本件特許発明2は,本件基礎出願明細書に記載された発明ではなく,本件特許発明2に係る優先権主張は無効であるから,特許法29条の適用に当たっては,実際の出願日である平成20年2月8日が基準日となる。 イ原告による公然実施原告は,●●●●●●●●●●(以下「●●●●●●」という。)に対し,平成12年ころ,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを譲渡した。 また,原告は,本件特許の出願日(平成20年2月8日)より前の平成19年4月から本件特許発明1の製造方法により製造した製品を譲渡していた。 したがって,本件特許発明2は,本件特許の出願日より前に原告によって公然実施をされたものである。 (2) 東京化成工業株式会社による公然実施 ア本件特許発明2に係る優先権主張の無効上記(1)アと同じ。 イ東京化成工業株式会社による公然実施東京化成工業株式会社は,遅くとも平成19年10月17日ころまでに,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFの試薬に関する譲渡の申込みをしていた。 したがって,本件特許発明2は,本件特許の出願日より前に東京化成工業株式会社によって公然実施をされたものである。 本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFの試薬に関する譲渡の申込みをしていた。 したがって,本件特許発明2は,本件特許の出願日より前に東京化成工業株式会社によって公然実施をされたものである。 (3) 大阪ガス及び被告による公然実施ア被告の親会社である大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)は,遅くとも平成8年6月ころまでに,BPEFの精製過程における溶媒としてトルエン及び水を利用する方法(以下「トルエン加水分解法」という。)を開発し,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFの製造・販売事業を継続していたが,被告は,大阪ガスから平成11年4月に本件特許発明2に係る発明を知得するなどしてBPEFの製造・販売事業を行うようになった。 イ被告製品の製造販売に関する具体的な状況は,以下のとおりである。 (ア) 大阪ガス及び被告は,平成11年3月から4月までの間,B社に委託して合計1662.76㎏の被告製品を製造した。 被告は,●●●●●●(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。以下「●●●●」という。)に対し,平成11年6月,上記被告製品のうち300㎏を譲渡し,同年11月,残りの一部を譲渡した。 (イ) 大阪ガスは,B社に委託して3951㎏の被告製品を製造し,●●●●●●に対し,平成14年3月29日,このうち合計2700㎏の被告製品を譲渡した。 (ウ) 被告は,平成14年3月6日から同年4月13日までの間,A社に委 託して合計8330㎏の被告製品を製造した。 被告は,三菱ガス化学株式会社(以下「三菱ガス化学」という。)に対し,同年7月30日,上記被告製品のうち100㎏を譲渡した。また,●●●●●●に対し,同年8月12日,上記被告製品のうち4500㎏を譲渡した。 (エ) 被告は,●●●●●●● 化学」という。)に対し,同年7月30日,上記被告製品のうち100㎏を譲渡した。また,●●●●●●に対し,同年8月12日,上記被告製品のうち4500㎏を譲渡した。 (エ) 被告は,●●●●●●●●●●●●●(以下「●●●●●●●●●」という。)に対しても,平成14年ころから被告製品を譲渡していた。 (オ) 被告は,平成14年10月ころ,A社に委託して合計8413㎏の被告製品を製造し,●●●●●●に対し,平成15年6月5日,このうち合計4140㎏の被告製品を譲渡した。 (カ) 被告は,平成15年2月27日までに,A社に委託して合計8019㎏の被告製品を製造し,●●●●●●に対し,同年8月19日,上記被告製品を含む合計9910㎏のBPEFを譲渡した。 (キ) 被告は,平成16年以降,株式会社フルファイン(以下「フルファイン」という。)に委託して被告製品を製造し,化学メーカーに販売していた。 例えば,●●●●●●に対し,平成17年5月17日ころ,合計6750㎏の被告製品を譲渡し,●●●●●●●●●●●●●●●●●(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)に対し,平成19年2月1日,合計5100㎏の被告製品を譲渡した。 ウ上記のとおり,大阪ガス及び被告は,累計100トン以上の被告製品を製造して化学メーカーに譲渡しており,その出荷量は一回当たり約10トンにも上っていた。そして,譲受人である化学メーカーが被告製品に関する秘密保持義務を負っていなかったことからすれば,本件特許発明2は本件特許の優先日前に被告によって公然実施をされたものである。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明2は,公然実施をされた発明ではない。 (1) 原告による公然実施についてア本件特許発明2に係る優先権主張 公然実施をされたものである。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明2は,公然実施をされた発明ではない。 (1) 原告による公然実施についてア本件特許発明2に係る優先権主張の有効析出開始温度や粗精製物の純度は,本件特許発明1に係るものである。 本件特許発明2に係る製造方法については本件基礎出願明細書に具体的に記載されており,本件特許発明2の化合物に係る示差走査熱量測定曲線,融解吸熱最大値,粉末エックス線回折パターン及び嵩密度等の物性についても具体的に記載されている。 したがって,本件特許発明2は,本件基礎出願明細書に記載されたものであり,仮に本件特許発明1に係る基準日が実際の出願日となるとしても,本件特許発明2に係る基準日が実際の出願日となることはない。 イ原告による公然実施BPEFは,ポリマーの原料(モノマー)であり,ポリマーが合成された後は,BPEFの結晶形を特定することは不可能であるから,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを譲渡したからといって,公然実施には当たらない。 また,原告がBPEFを譲渡した相手方は,信義則上,原告製品に関する秘密保持義務を負うから,原告が本件特許の出願日より前に本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを譲渡していたとしても,公然実施には当たらない。 (2) 東京化成工業株式会社による公然実施について上記(1)イと同様に,同社がBPEFを譲渡した相手方は,BPEFに関する秘密保持義務を負うことなどからすれば,同社による実施は公然実施に当たらない。 (3) 大阪ガス及び被告による公然実施について上記(1)イと同様に,被告が被告製品を譲渡した相手方は,BPEFに関 する秘密保持義務を負うことなどからすれば, に当たらない。 (3) 大阪ガス及び被告による公然実施について上記(1)イと同様に,被告が被告製品を譲渡した相手方は,BPEFに関 する秘密保持義務を負うことなどからすれば,被告による実施は公然実施には当たらない。 3 争点2-2(本件特許発明2は,乙1発明又は乙2発明と同一のもの(特許法29条1項3号)であるか)について【被告の主張】以下のとおり,本件特許発明2は,乙1公報又は乙2公報に記載された製造方法により製造されたBPEFについて,示差走査熱分析による融解吸熱最大という特性を特定したものにすぎない。 したがって,乙1発明又は乙2発明と同一のものである。 (1) 乙1発明についてア乙1公報の内容乙1公報には,以下の発明(乙1発明)が記載されている。 「【0024】【実施例】実施例1攪拌機,冷却管及び滴下ロートを備えた内容積1000mlの4つ口フラスコに,純度99.5重量%のフルオレノン(フルオレンを液相空気酸化して得たもの)45g(0.25mol)とフェノキシエタノール(四日市合成株式会社製,PHE-G)138g(1.00mol),β-メルカプトプロピオン酸0.2mlを仕込み,均一に溶解させてから95%硫酸45mlを30分かけて滴下した後,反応温度を65℃で4時間保温し,反応を続けて完結させた。 【0025】次いで,反応液に水90ml,トルエン450mlを加え,80~85℃で30分間攪拌,水洗後,30分間静置して,下層の水層を分離した。 更に2回同量の水を加えて水洗を繰り返し,硫酸を除去した。反応液を 室温まで冷却して結晶を析出させ,濾過後,70℃で1日間減圧乾燥した。得られた粗結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度 返し,硫酸を除去した。反応液を 室温まで冷却して結晶を析出させ,濾過後,70℃で1日間減圧乾燥した。得られた粗結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は98.5%,収量は82.3g,収率74.5%であった。また,結晶中の残存硫酸は600ppmであった。 【0026】得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌,加熱下に溶解させた後,室温まで徐々に冷却して結晶を析出させる。該結晶を濾過し,70℃で1日間減圧乾燥した。得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99.5%,収量は43.8g,収率65.9%であった。また,結晶中の残存硫酸は150ppmであった。」イ本件特許発明2との対比次のとおり,本件特許発明2は,乙1発明と同一のものである。 (ア) 一致点乙1発明は,BPEFの製造方法に関する発明であり,本件特許発明2も,BPEFに関する発明である。 (イ) 形式上の相違点1乙1公報にはBPEFの「結晶」は記載されているものの,「結晶多形体」は記載されていない。 しかし,本件明細書では,「結晶多形体」について,異なる結晶形が存在することを前提として,そのうちの特定の結晶をいうものとして用いられているから,本件特許発明2の「結晶多形体」は「結晶」と同義のものである。 (ウ) 形式上の相違点2乙1公報には,本件特許発明2に係るBPEFの特質である「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃である」については, 記載されていない。 しかし,乙1公報に記載された製造方法(乙1発明)により製造したBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は,160.9℃ないし161.0℃であり,本件特許発 ては, 記載されていない。 しかし,乙1公報に記載された製造方法(乙1発明)により製造したBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は,160.9℃ないし161.0℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものである。 (2) 乙2発明についてア乙2公報の内容乙2公報には,以下の発明(乙2発明)が記載されている。 「【0061】実施例1攪拌機,冷却管及びビュレットを備えたガラス製反応器に,純度99.5重量%のフルオレノン350g(1.94モル)とフェノキシエタノール1070g(7.78モル)を仕込み,β-メルカプトプロピオン酸2.3gを加えて撹拌した混合液に,反応温度を50℃に保持しつつ,98重量%の硫酸570gを60分かけて滴下した。滴下終了後,反応温度を50℃に保ち,さらに5時間撹拌することにより反応を完結させた。 【0062】反応終了後,反応混合液に48重量%水酸化ナトリウム水溶液920gを温度80℃を保持しつつ滴下した。滴下終了後のpHは約8であった。メタノール2.5㎏を加えて,10℃まで冷却したところ,9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンと硫酸ナトリウムの混合結晶が析出した。ろ過により混合結晶を取り出したのち,トルエン3.5㎏,水1.0㎏を加えて85℃に加熱して硫酸ナトリウムを溶解させた。水相を除去したのち,有機相をさらに85℃の水で2回洗浄した。トルエン相を10℃に冷却することにより,9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン700g(使 用したフルオレノンに対する収率82%)が得られた。生成物を150℃に溶融させて,着色度を測定したところ,APHA値は10であり,光学樹脂原料として使用できる高い透明性を有することを確認した。 用したフルオレノンに対する収率82%)が得られた。生成物を150℃に溶融させて,着色度を測定したところ,APHA値は10であり,光学樹脂原料として使用できる高い透明性を有することを確認した。」イ本件特許発明2との対比次のとおり,本件特許発明2は,乙2発明と同一のものである。 (ア) 一致点乙2発明は,BPEFの製造方法に関する発明であり,本件特許発明2も,BPEFに関する発明である。 (イ) 形式上の相違点1乙2公報にはBPEFの「結晶」は記載されているものの,「結晶多形体」は記載されていない。 しかし,上記(1)イ(イ)のとおり,本件特許発明2の「結晶多形体」は「結晶」と同義のものである。 (ウ) 形式上の相違点2乙2公報には,本件特許発明2に係るBPEFの特質である「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃である」について,記載されていない。 しかし,乙2公報に記載された製造方法(乙2発明)により製造したBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は,161.0℃ないし163.3℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものである。 【原告の主張】以下のとおり,本件特許発明2は,乙1発明又は乙2発明と同一のものではない。 (1) 乙1発明についてア相違点1について「結晶多形体」とは,異なる結晶形が存在することを前提として,その うちの特定の結晶をいうことについては認める。 イ相違点2について乙1公報に記載された製造方法(乙1発明)により製造したBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は,追試した結果によると,108.4℃ないし108.5℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものではない。 (2) 乙2発明についてア相違点1について 査熱分析による融解吸熱最大は,追試した結果によると,108.4℃ないし108.5℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものではない。 (2) 乙2発明についてア相違点1について上記(1)アと同じ。 イ相違点2について乙2公報に記載された製造方法(乙2発明)により製造したBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は,追試した結果によると,107.1℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものではない。 4 争点2-3(本件特許発明2は,乙41発明と,乙1発明又は周知技術に基づき,当業者が容易に発明することができたものであるか)について【被告の主張】以下のとおり,本件特許発明2は,乙41公報に記載された発明(乙41発明)と,乙1発明又は周知技術に基づき,当業者が容易に発明することができたものである。 (1) 乙41発明の内容乙41公報には,【発明の名称】を「フルオレン誘導体の製造方法」とする発明(乙41発明)が記載されている。 乙41発明の具体的内容は,ケイタングステン酸の存在下,フルオレノンとフェノキシエタノールを反応させて,BPEFの粗結晶を得るというものである。 (2) 本件特許発明2と乙41発明の対比 ア本件明細書には以下の記載がある。 「【実施例4】【0038】粗精製物の製造攪拌機,窒素吹込管,温度計および冷却管を付けた水分離器を備えたガラス製反応器に,フルオレノン86.4g(0.48モル),フェノキシエタノール663.2g(4.80モル),トルエン350gおよび100℃で減圧乾燥し結晶水を除いたケイタングステン酸[(H4SiW12O40)]4.3gを加え,トルエン還流下,生成水を反応系外に除去しながら8時間攪拌した。得られた反応液を高速液 350gおよび100℃で減圧乾燥し結晶水を除いたケイタングステン酸[(H4SiW12O40)]4.3gを加え,トルエン還流下,生成水を反応系外に除去しながら8時間攪拌した。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィ-で分析した結果,9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが201.5g(0.46モル)生成していた。この反応液にトルエン300gを加え,水100gを用いて80℃で水洗をおこなった。得られた有機層を減圧濃縮してトルエンおよび過剰のフェノキシエタノールを除去した。 得られた混合物にトルエン600gを加え,80℃で約1時間加熱攪拌して均一溶液とした後,徐々に冷却したところ,38℃で結晶が析出し始め,そのまま室温まで冷却した。析出した結晶を濾過により取り出し,該結晶を乾燥させることにより,9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物の白色結晶162.1g(収率92.0%,LC純度96.2%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は104℃,嵩密度は0.23g/㎝3であった。 【実施例5】【0039】多形体Bの製造実施例4で得た9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物80gとトルエン640gの懸濁液を90℃に 加熱し,同温度で1時間攪拌して均一な溶液とした。この溶液を徐々に冷却したところ,65℃で結晶が析出し始め,そのまま30℃まで冷却し,同温度で1時間保温攪拌した。析出した結晶を濾過により取り出し,該結晶を減圧乾燥させることにより,9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶70.4g(収率88.0%,純度98.2%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融 を減圧乾燥させることにより,9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶70.4g(収率88.0%,純度98.2%)を得た。得られた結晶の融点(示差走査熱分析による融解吸熱最大)は163.5℃,嵩密度は0.70g/㎝3であった。」イ一致点上記アによれば,本件特許発明2と乙41発明とは,ケイタングステン酸の存在下,フルオレノンとフェノキシエタノールを反応させて,BPEFの粗結晶を得る点で一致する。 ウ相違点上記アによれば,本件特許発明2では,粗結晶の析出開始温度が38℃とされているのに対し,乙41公報では粗結晶の析出開始温度が記載されていない(相違点1)。 また,本件特許発明2では,粗精製物をトルエンに溶解し,冷却してBPEFの結晶を析出させる工程が記載されているのに対し,乙41公報には記載されていない(相違点2)。 (3) 乙1発明及び周知技術上記3【被告の主張】(1)のとおり,乙1公報には,トルエンにBPEFの粗精製物を溶解し,冷却してBPEFを精製する発明(乙1発明)が記載されている。また,トルエンをBPEFの結晶の析出溶媒として用いることは周知技術でもある。 (4) 容易想到性ア相違点1について乙41公報の記載と上記(2)アの本件特許発明2に係る実施例の記載と を対比すると,フルオレノンとフェノキシエタノールの仕込量から反応の諸条件及びBPEFの収量まで,すべての数値が完全に一致している。 このことからすれば,乙41公報には,粗結晶の析出開始温度が記載されていないものの,その温度が38℃であることには疑いの余地がない。 したがって,相違点1は実質的には相違点ではない。 イ相違点2について当業者が乙41発明によりBPEFの粗精製物を製造し れていないものの,その温度が38℃であることには疑いの余地がない。 したがって,相違点1は実質的には相違点ではない。 イ相違点2について当業者が乙41発明によりBPEFの粗精製物を製造した上,これに前記(3)で述べた周知技術ないし乙1発明を組み合わせるなどして,周知の溶媒であるトルエンを用いてBPEFを精製することは,容易に発明することができたことである。 本件特許発明2は,このように容易に発明できた方法で製造されたBPEFについて,その物性値である示差走査熱分析による融解吸熱最大を測定し,特定しただけのものにすぎないから,当業者が容易に発明することができたものである。 【原告の主張】以下のとおり,本件特許発明2は,乙41発明と,乙1発明又は周知技術に基づき,当業者が容易に発明することができたものではない。 (1) 本件特許発明2と乙41発明の対比について本件基礎出願明細書には,粗精製物80gとトルエン640gの懸濁液を90℃に加熱し溶解させた後同温で1時間攪拌し,この液を30℃まで徐冷して結晶を析出させ,同温度で1時間保温攪拌し,析出した結晶を濾過後減圧乾燥する工程が記載されている。これに対し,乙41公報には,この工程が記載されていない。 被告は,上記相違点を抽象化して,再結晶化の溶媒のみを相違点として主張しているが,結晶多形の析出条件は様々な要素により異なりうるものであり,当業者の知見に反する主張である。 (2) 乙1発明及び周知技術について乙1公報や被告が周知技術に関するものとして引用する各文献には,トルエンをBPEFの再結晶化溶媒として用いる旨の記載はあるものの,上記(1)の相違点に係る溶解温度や,冷却工程において30℃で1時間保温攪拌することなどに関する記載はない。 (3) 各文献には,トルエンをBPEFの再結晶化溶媒として用いる旨の記載はあるものの,上記(1)の相違点に係る溶解温度や,冷却工程において30℃で1時間保温攪拌することなどに関する記載はない。 (3) 容易想到性について乙1公報や被告が周知技術に関するものとして引用する各文献には,上記(1)の相違点に係る記載や示唆がないから,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFは,当業者が乙41発明に乙1発明ないし周知技術を組み合わせることにより容易に発明することができたものではない。 5 争点3(被告は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について【被告の主張】以下のとおり,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有する。 (1) BPEFを合成する過程は,原料となる化学物質からBPEFの粗結晶を合成する過程と,製造されたBPEFの粗結晶を基に純度の高いBPEFを精製する過程の2つに分けられる。 前記2【被告の主張】(3)アのとおり,被告の親会社である大阪ガスは,遅くとも平成8年6月ころまでに,トルエン加水分解法を開発した。本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFは,トルエン加水分解法により得ることができるものであるから,本件特許発明2は同月時点で完成していたものである。 大阪ガスは,同月,トルエン加水分解法を利用したBPEFの量産に向け た準備として,A社に3種類の実験を行わせ,大規模製造が可能であるかを確認した。その後,同年7月及び10月の2回にわたり,A 阪ガスは,同月,トルエン加水分解法を利用したBPEFの量産に向け た準備として,A社に3種類の実験を行わせ,大規模製造が可能であるかを確認した。その後,同年7月及び10月の2回にわたり,A社に委託して製造のための予備試験を行った上,同年12月から平成9年2月までの間,A社に委託して合計約14トンの被告製品を製造した。 したがって,大阪ガスは,遅くとも平成9年2月までに本件特許発明2の実施である事業をしていたものである。 その後も,大阪ガスは,BPEFの製造・販売事業を継続しており,被告は,大阪ガスから平成11年4月に本件特許発明2に係る発明を知得するなどしてBPEFの製造・販売事業を承継して行うようになったものである。 (2) 前記2【被告の主張】(3)イのとおり,大阪ガス及び被告は,本件特許の優先日前から本件特許発明2の実施である事業をしていた。 したがって,被告は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有する。 【原告の主張】(1) 大阪ガス又は被告による本件特許発明2の実施について先使用が成立するには,優先日前に本件特許発明2に係る発明を完成したことが必要である。 発明の完成とは,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで,具体的・客観的なものとして構成されていることを要する。 被告が本件特許の優先日前に本件特許発明2の技術的範囲に属さないBPEFも製造販売していたことからすれば,大阪ガス又は被告は,本件特許の優先日前に本件特許発明2に係る発明を完成してはいなかった。 (2) 先使用が成立するには,発明の実施である事業をし,又は事業の準備をしていた必要もある。 被告が本件特許の優先日前に「事業」に の優先日前に本件特許発明2に係る発明を完成してはいなかった。 (2) 先使用が成立するには,発明の実施である事業をし,又は事業の準備をしていた必要もある。 被告が本件特許の優先日前に「事業」に当たる程度まで,被告製品を製造,販売していたことは否認する。BPEFを原材料とするポリマーの商業的製 造には,年間100ないし1000トン以上のBPEFが必要であるところ,被告が主張する被告製品の製造・販売量は,これを下回るものである。また,被告はサンプルとして被告製品を販売していたものであり,これは事業には当たらない。 事業の準備とは,事業の実施の段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることをいうものであるところ,上記(1)のとおり,被告が優先日前に本件特許発明2の技術的範囲に属さないBPEFも製造販売していたことなどからすると,本件特許の優先日前には事業の準備の段階にも至っていなかったものである。 6 争点4(損害額)について【原告の主張】被告は,平成20年6月21日から平成22年6月20日までの間に,少なくとも734トンの被告製品を製造し,1㎏当たり3000円で販売しており,その利益率は50%であったから,少なくとも11億0100万円の利益を受けている。 これにより,原告は,同額の損害を被った(特許法102条2項)。 【被告の主張】否認し又は争う。 第4 当裁判所の判断 1 はじめに本件事案の内容に鑑み,まず,争点3について検討すると,被告は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するものと認めることができる。 そうすると,本件特許発明1に係る本件特 まず,争点3について検討すると,被告は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するものと認めることができる。 そうすると,本件特許発明1に係る本件特許権の侵害(争点1)を認めることもできない。 以下,詳述する。 2 争点3(被告は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について(1) 前提事実に加え,弁論の全趣旨及び後掲各証拠によれば,以下の各事実が認められる。 アトルエン加水分解法の開発と量産計画大阪ガスは,コールタールの有効利用をするため,コールタール中の成分であるフルオレンを使用してBPEFを製造していたところ,平成8年6月ころまでに,BPEFの精製過程における溶媒としてトルエン及び水を利用する方法(トルエン加水分解法)を開発した。 大阪ガスは,トルエン加水分解法を利用したBPEFの量産を計画し,A社に委託して,合計約14トンのBPEFを試作した(乙14)。 イ B社への委託による製造大阪ガスと被告は,複数会社にBPEFの製造を委託することが望ましいと考え,次のとおり,B社に対しても,BPEFの製造を委託した。 (ア) 大阪ガスは,平成11年3月ころ,B社に委託して合計1662.76㎏のBPEFを製造した(乙17)。 その際に行われた測定の結果(乙15の2)によると,これらのBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は162.5℃ないし163.8℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった(乙16,47)。 被告は,同年6月,上記BPEFのうち300㎏を大阪ガスから購入した上,●●●●に譲渡し(乙51の1・2),同年11月にも,上記BPEFのうち50㎏をサンプルとして譲渡した (乙16,47)。 被告は,同年6月,上記BPEFのうち300㎏を大阪ガスから購入した上,●●●●に譲渡し(乙51の1・2),同年11月にも,上記BPEFのうち50㎏をサンプルとして譲渡した(乙50の1~4)。 (イ) 大阪ガスは,平成14年3月ころ,B社に委託して合計3951㎏のBPEFを製造した(乙56の4)。 その際に行われた測定の結果(乙56の3)によると,これらのBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は162.8℃ないし163.2℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった。 被告は,平成14年3月ころ,このうち合計2700㎏を大阪ガスから購入した上,●●●●●●に譲渡した(乙56の5)。 ウ A社への委託による製造被告は,次のとおり,再びA社にBPEFの製造を委託することとした。 (ア) 被告は,平成14年3月6日から同年4月13日までの間,A社に委託して合計8330㎏のBPEFを製造した(乙20)。 その際に行われた測定の結果(乙20)によると,これらのBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は162.3℃ないし163.8℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった。 被告は,三菱ガス化学に対し,同年7月ころ,上記BPEFのうち100㎏を譲渡した(乙21の1~5)。 また,被告は,●●●●●●に対し,同年8月ころ,上記BPEFのうち4500㎏を譲渡した(乙52の1~3)。 (イ) 被告は,平成14年10月ころ,A社に委託して合計8413㎏のBPEFを製造した。 その際に行われた測定結果(乙57の3)によると,上記BPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は161.9℃ないし162.8℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった(乙57の その際に行われた測定結果(乙57の3)によると,上記BPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は161.9℃ないし162.8℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった(乙57の1~4)。 被告は,●●●●●●に対し,平成15年5月ころ,上記BPEFのうち合計4140㎏を譲渡した(乙57の5~7)。 (ウ) 被告は,平成15年2月ころ,A社に委託して合計8019㎏のBPEFを製造した(乙23,24)。 その際行われた測定結果(乙25,26)によると,上記BPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は162.1℃ないし164.6℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった。 被告は,●●●●●●に対し,同年8月19日,上記BPEFのうち1510㎏を含む合計9910㎏のBPEFを譲渡した(乙53の1・2)。 エ ●●●●●●●●●に販売したBPEFについて被告は,●●●●●●●●●に対し,BPEFを譲渡していたが,平成14年5月,同年10月ころ,平成15年3月ころ,BPEFのサンプル(これらのBPEFの製造元は,その時期から考えて,A社であると推定される。)をそれぞれ送付した(乙59,乙60の1,乙61の1,乙62)。 上記送付されたサンプルのうち残っていたものを,平成23年6月28日,改めて測定したが,その測定結果(乙63)によると,これらのBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は,160℃から166℃の範囲内であり,いずれも本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった。 オフルファインへの委託による製造被告は,平成16年ころ,JFEケミカル株式会社との合弁でフルファインを設立し,同社による量産をすることとなった。 被告は,フルファインに委託して合計6750㎏の ルファインへの委託による製造被告は,平成16年ころ,JFEケミカル株式会社との合弁でフルファインを設立し,同社による量産をすることとなった。 被告は,フルファインに委託して合計6750㎏のBPEFを製造し,●●●●●●に対し,平成17年5月17日ころ譲渡した(乙58の4)。 これに先立って,●●●●●●に送付したサンプルの測定結果(乙58の3)によると,上記サンプルの示差走査熱分析による融解吸熱最大は162.9℃であり,本件特許発明2の技術的範囲に属するものであった。 (2) 測定結果の信用性被告は,先使用の根拠である,優先日(平成19年2月15日)以前から,被告が,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを製造,販売してい た証拠として,上記BPEFの測定結果を提出したところ,当初提出した測定結果にかかる証拠は,乙15の2と乙20,26のみであった。これらは,A社,B社,またはこれらの業者から委託を受けて測定を行った業者が測定した結果を記載したものであるところ,被告は,業者の情報は,重要な営業秘密であるとして,作成名義を黒塗りにして提出した。原告は,上記各乙号証が真正に成立したことを争い,上記各乙号証には形式的証拠力がなく,上記先使用は立証されていないと主張していた。 たしかに,上記各乙号証(乙15の2,乙20,26)は,いずれも作成名義が開示されていない。しかし,上記書証は,いわゆる処分証書とは異なり,被告が譲渡するBPEFについて,示差走査熱分析による融解吸熱最大を測定した結果を報告する文書であり,その文書の内容及び体裁自体から,その測定した者が作成した文書であることを十分に認めることができる。 また,上記書証の作成者が特定されていないため,上記書証の作成者に対する反対尋問も実施することができな の内容及び体裁自体から,その測定した者が作成した文書であることを十分に認めることができる。 また,上記書証の作成者が特定されていないため,上記書証の作成者に対する反対尋問も実施することができない。しかし,これらの書証は,相互に内容を補強しているということができ,その後,提出された同様の測定結果(乙56の3,乙57の3,乙63。いずれも作成者が明記されており,原告は,真正に成立したことを争っていない。また,その信用性を疑わせる事情も見あたらない。)とも符合する。さらに,上記(1)イ(ア),同ウ(ア)及び(ウ)のとおり,上記各乙号証(乙15の2,乙20,26)に係るBPEFについては,上記書証が提出されてから相当期間を経た後,譲渡先の了解を得られたことから譲渡に係る書証が提出されており,このような提出の経過等も考慮すれば,これらの測定結果は,いずれも,実質的証拠力を認めることができ,上記(1)において,大阪ガス又は被告が製造に関与したBPEFが,いずれも本件特許発明2の技術的範囲に属することを認めることができる。 他に,上記(1)の事実認定を左右する証拠はない。 (3) 先使用の成否上記(1)のとおり,大阪ガスは,遅くとも平成11年3月からは本件特許発明2の技術的範囲に属する被告製品を製造していたこと,その後も,大阪ガス及びその事業を承継した被告は,複数の譲渡先に対し,反復,継続して被告製品を譲渡してきたこと,本件特許の優先日前に,被告らが委託するなどして製造した被告製品の数量は少なくとも合計約40トンを超えており,譲渡した数量も少なくとも約25トンを超えることが認められる。 これらのことからすれば,被告は,本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者に当たると優に認めることができ した数量も少なくとも約25トンを超えることが認められる。 これらのことからすれば,被告は,本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者に当たると優に認めることができる。 なお,原告は,被告がこれまで本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFも製造していたことからすれば,被告において本件特許の優先日前には本件特許発明2に係る発明を完成していなかったし,事業又は事業の準備の程度には至っていなかったなどと主張する。しかしながら,大阪ガス又は被告が,本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFを,被告製品と平行して製造・販売していたとしても,そのことのみをもって,被告が本件特許発明2に係る発明を完成していなかったとか,被告製品について本件特許発明2に係る発明を反復実施することができなかったなどと推認するべき事情は見当たらない。むしろ,上記(1)のような被告製品の製造数量や譲渡数量からすれば,被告らは,本件特許発明2について反復・継続して実施してきたものというほかない。 また,大阪ガスが本件特許の優先日より約8年も以前から被告製品を製造してきたことなどからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであること,被告は,大阪ガスから被告製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。 したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発 明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。 3 争点1(被告製品は,本件特許発明1の方法により生産した物であ 事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。 3 争点1(被告製品は,本件特許発明1の方法により生産した物であるか)について仮に,被告製品について特許法104条に基づく推定が及ぶとすると,上記1で検討したところによれば,被告は,本件特許発明1に係る本件特許権についても,先使用による通常実施権(特許法79条)を有することになるというべきである。 逆に,この推定が及ばないとすると,本件では,他に,被告製品が本件特許発明1の方法により生産した物であることに関する主張立証はないから,被告製品が本件特許発明1の方法により生産した物であるとは認めることができない。 そうすると,いずれにしても,被告の行為について,本件特許発明1に係る本件特許権の侵害が成立するとは認めることができない。 第5 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはいずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官山田陽三 裁判官達野ゆき 裁判官西田昌吾 (別紙)製品目録示差走査熱分析による融解吸熱最大が160℃ないし165℃のビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)
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