- 1 -令和元年11月7日宣告平成31年(わ)第169号殺人被告事件判決 主文 被告人を懲役8年6月に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,一人暮らしをしていた母親であるA(当時70歳。以下「被害者」という。)の身の回りの世話等に当たっていたところ,平成30年12月30日午後零時10分頃から同日午後零時59分頃までの間に,北海道岩見沢市a条bc丁目d番地e被害者方において,被害者に対し,殺意をもって,頸部をドライヤーの電源コードで絞め付け,よって,その頃,同所において,被害者を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。 (証拠の標目)(略)(争点に対する判断) 1 弁護人は,被告人が,本件犯行時,アルコール依存症及び酩酊のため,善悪の判断をし,これに従って行動を制御する能力が著しく弱くなっていた状態(心神耗弱)にあった疑いがある旨主張する。 2 証人B医師の証言によれば,被告人の精神障害の有無及び本件犯行との関係については,次のとおりであったと認められる。すなわち,本件犯行当時,被告人はアルコール依存症に罹患していたが,これは酒類を飲みたいとの欲望に抵抗できないというものであって,普通の日常生活を送ることができており,認知や思考に障害が生ずるような精神障害を来してはいない。また,被告人は,本件犯行 - 2 -当時,酩酊状態にあったが,摂取したアルコールの量は多量ではなく,自分が置かれている状況や自らが及ぼうとしている行動についての意識に誤りを生じさせる程度ではなかった。被告人は,些細な - 2 -当時,酩酊状態にあったが,摂取したアルコールの量は多量ではなく,自分が置かれている状況や自らが及ぼうとしている行動についての意識に誤りを生じさせる程度ではなかった。被告人は,些細な葛藤を契機に怒りやすくなったり,衝動の抑制に欠けたりする状態に陥ったことから,本件犯行に至ったものであるが,その原因としては,アルコールによる面もさることながら,被告人の性格傾向による面も多分にある。 このような被告人の精神状態や本件犯行との関係に照らすと,被告人は,善悪を判断し,それに従って行動を制御する能力に著しい障害はなかったといえる。 そして,このことは,①犯行態様について,いったんビニールひもを用いようとしながらも,丈夫なドライヤーの電源コードを持ち出して用いるなど殺害の目的に沿った行動をしていること,②被告人は,犯行後には,その発覚を遅らせるために被害者宅の訪問者を追い返した後,知人に犯行を打ち明け,自首を勧められて,警察に通報して自首するなど自分の置かれた状況を認識して合理的な行動をとっていること,③被告人は,犯行状況について明確な記憶を保ち,比較的詳細に供述をしていること等の事情によっても裏付けられている。 3 弁護人は,被告人が犯行の前後に異常な電話をかけ,又は異常な電子メールを送信するなどの異常行動を繰り返していた点や,日頃おとなしい被告人が大好きな母親を殺害することは理解し難く,その動機についての記憶をなくしているといった点などから,本件はアルコールの影響を著しく受けた結果の犯行であると主張する。 しかしながら,犯行前の電話や電子メールといった行動については,携帯電話を的確に操作していたことをも考慮すると,行動の意図,目的が不明であるとしても,被告人がアルコールによって抑制を欠き,衝動的な性格や思考が表に出たにす 話や電子メールといった行動については,携帯電話を的確に操作していたことをも考慮すると,行動の意図,目的が不明であるとしても,被告人がアルコールによって抑制を欠き,衝動的な性格や思考が表に出たにすぎないものと理解することができるのであって,精神障害の影響をうかがわせるという意味での異常なものとはいえない。また,犯行後の行動についても,冷静なものとはいえないが,これは,犯行後に摂取したアルコールの影響に加え, - 3 -母親を殺害したことによる様々な感情やそれに基づく精神的に不安定な状態に起因するものと理解できる。したがって,本件犯行の前後の行動は,精神障害に基づく異常なものではなかったといえる。さらに,動機についても,被告人が本件犯行前の具体的状況や自己の心理状況を供述していない以上,不明なものであるといわざるを得ないが,被告人がこれまで親族に対して首を絞めようとする行動にも出ていたことに加え,被告人は被害者に対して単純には整理しきれない様々な感情を抱いていたと考えられるから,さしたる大きな契機がない中でも本件犯行を衝動的に思い立つこともあり得るといえる。そして,アルコールによる健忘をも考慮すると,衝動的な思考まで覚えていないというのも不自然なものではなく,動機が明確でないことを理由に被告人が異常な精神状態にあったということはできない。 したがって,弁護人の指摘はB医師の証言に疑問をもたらすものではなく,上記2の認定に疑いを生じさせるものでもない。 4 以上によれば,被告人は,本件犯行時,善悪を判断し,これに従って行動を制御する能力が著しく弱くなっていた状態にはなかったと認められる。 (法令の適用)罰条刑法199条刑種の選択有期懲役刑未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費 力が著しく弱くなっていた状態にはなかったと認められる。 (法令の適用)罰条刑法199条刑種の選択有期懲役刑未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(量刑の理由)殺害の方法は,丈夫な電源コードを持ち出し,逃げようとした被害者の首にかけて絞め付け続けたというものであって,強固な殺意に基づく危険なものであったといえる。 本件に至る動機は必ずしも明らかでないが,被告人が,被害者との関わりの中で,衝動を抑制できず,突発的に犯行に及んだものと考えられる。その背景には,被告 - 4 -人が,母親との関係について長年悩みながらも,その関係を良好にしようと努力していたことがうかがわれ,このような悩みや努力には一定程度理解できるところもある。しかしながら,被害者には殺害されるような落ち度は何ら見当たらず,被告人が殺害を決意し,実行した点は厳しい非難に値する。また,飲酒による酩酊をもって非難の程度が弱まるものではない。 そうすると,本件は,前科のない者が凶器(ひも・ロープ類)を用いて行った親に対する殺人1件(「その他の家族関係」を動機とするもの)という類型の中では,やや重いものと位置づけられる。 その上で,被告人が,自首をし,深く反省しており,本件犯行の背景にもなったアルコール依存症からの回復に向けた取組みを誓っていること,その治療等を提供する支援団体も存在することを踏まえ,被告人について主文の刑を科することとした。 (検察官志村康之,横田英剛,弁護人三上直子(主任),伊藤良各出席)(求刑懲役12年)令和元年11月15日札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官島戸 純 上直子(主任),伊藤良各出席)(求刑懲役12年) 令和元年11月15日 札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長 裁判官島戸純 裁判官平手健太郎 裁判官大木峻
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