令和6(行ヒ)94 行政文書不開示処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年6月6日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所 令和4(行コ)295
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判決文本文8,154 文字)

- 1 - 主文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人中下裕子ほかの上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について 1 本件は、上告人が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成28年法律第51号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき、消費者庁長官に対し、平成27年度に消費者庁が外部の機関(以下「本件検証機関」という。)に委託した、機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業(以下「本件検証事業」という。)の報告書(以下「本件文書」という。)の開示を請求したところ、本件文書の一部に記録された情報が情報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するなどとして、当該一部を開示しないなどとする決定を受けたため、被上告人を相手に、上記決定のうち、第1審判決別紙「取消請求部分一覧表」の通番2、3、5、6、10、11、14~16、19~21、24~26、29(本件文書64頁の「実験材料」に係る箇所を除く。)、30~33、36(同78頁の「実験材料」に係る箇所を除く。)及び37~39の各「不開示箇所」欄記載の箇所(以下「本件各不開示箇所」という。)における「取消請求部分」欄記載の事項(以下「本件各取消請求事項」という。)に係る部分の取消し及び本件文書の本件各取消請求事項に係る部分の開示決定の義務付けを令和6年(行ヒ)第94号行政文書不開示処分取消等請求事件令和7年6月6日第三小法廷判決(処分行政庁の表示)被上告人国処分行政庁消費者庁長官 務付けを令和6年(行ヒ)第94号行政文書不開示処分取消等請求事件令和7年6月6日第三小法廷判決(処分行政庁の表示)被上告人国処分行政庁消費者庁長官 A- 2 -求める事案である。 2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ア機能性表示食品とは、疾病に罹患していない者(未成年者等を除く。)に対し、機能性関与成分によって健康の維持等に資する特定の保健の目的(疾病リスクの低減に係るものを除く。以下同じ。)が期待できる旨を科学的根拠に基づいて容器包装に表示をする食品(特別用途食品等を除く。)であって、安全性及び機能性の根拠に関する情報等を販売日の60日前までに消費者庁長官に届け出たものをいい(食品表示基準(平成27年内閣府令第10号。平成29年内閣府令第43号による改正前のもの。以下同じ。)2条1項10号)、食品関連事業者がこれを販売する際には、機能性表示食品である旨、科学的根拠を有する機能性関与成分及び当該成分又は当該成分を含有する食品が有する機能性等を表示すべき義務等が課されている(食品表示法5条、食品表示基準3条2項、18条2項)。 イ消費者庁は、「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」(平成27年3月30日付け消食表第141号。平成29年12月27日付け消食表第634号による改正前のもの。以下「本件ガイドライン」という。)において、機能性関与成分等につき、概要、次のとおり定めている。 (ア) 機能性関与成分とは、特定の保健の目的に資する成分をいい、直接的又は間接的な定量確認及び定性確認が可能な成分である(なお、本件ガイドラインには、定量確認及び定性確認が可能な成分の考え方の例として、「機能性関与成分の考え方(例)」が添付されている。)。 (イ) 間接的な定量確認及び定性確認が可能な成分である(なお、本件ガイドラインには、定量確認及び定性確認が可能な成分の考え方の例として、「機能性関与成分の考え方(例)」が添付されている。)。 (イ) 機能性表示食品に求められる科学的根拠の水準は、我が国の消費者の意向、科学的な観点等を十分に踏まえ、消費者の誤認を招くものではなく、消費者の自主的かつ合理的な食品選択に資するものである必要があり、科学的根拠は、この観点から、安全性の確保及び機能性の表示に当たって本件ガイドラインで示された方法に基づき、説明されたものであることとする。 (ウ) 機能性表示食品の届出に当たっては、食品中の機能性関与成分等の分析に- 3 -関する事項を説明し、次の資料を添付する。 ① 届出をしようとする食品を用いた機能性関与成分等に関する定量試験の分析方法を示す資料(届出者において試験機関の標準作業手順書を入手することができる場合は当該標準作業手順書、これを入手することができない場合は操作手順、測定条件など試験方法についてできる限り具体的に記載した資料)② 届出をしようとする食品に表示された量の機能性関与成分が含まれていること等について第三者機関が実施した分析試験の成績書。ただし、第三者機関において分析することができない合理的な理由がある場合は届出者自ら又は利害関係者において分析することも可能とする。 ウ内閣総理大臣から権限の委任を受けた消費者庁長官は、機能性表示食品に係る食品表示基準違反について、食品関連事業者に対し、食品表示法6条1項の規定による指示及び同条5項の規定による命令をすることができる。また、消費者庁においては、届出の撤回や内容の変更を促すなどして、機能性表示食品の届出に関する事後監視に係る事務を行っている。 ⑵ 本件検証事業は、機能性表示食品 規定による命令をすることができる。また、消費者庁においては、届出の撤回や内容の変更を促すなどして、機能性表示食品の届出に関する事後監視に係る事務を行っている。 ⑵ 本件検証事業は、機能性表示食品制度の施行(平成27年4月1日)後に現に届け出られた機能性表示食品に係る機能性関与成分の分析方法について、試験機関の標準作業手順書が添付されておらず、届出をした者が独自に定めた方法が示されていることも多く、第三者機関において分析することができない等の問題があったことから、上記分析方法に係る届出資料の質の向上を図るとともに、より適切な事後監視を行うために必要な基礎資料を得る目的で実施されたものである。その主な内容は、①機能性関与成分の分析方法に関する検証(届け出られた分析方法により当該機能性関与成分の定量及びその定性的な同定が可能か否かの検証)と、②機能性表示食品の買上調査(本件検証機関が購入した機能性表示食品における6種類の機能性関与成分に係る容器包装の表示値が妥当か否かの検証)である。 本件文書は、消費者庁から本件検証事業の委託を受けた本件検証機関においてその結果を取りまとめた報告書である。 - 4 -消費者庁は、本件検証事業の結果を踏まえ、機能性表示食品の届出をした者に対し、分析方法についての追加資料の提出を求めるなどした。 ⑶ 消費者庁長官は、上告人から、本件文書の開示請求を受け、平成28年11月18日付けで、その一部を開示しないなどとする決定をしたが、その後、平成29年3月3日付けで、上記決定を変更し、本件各不開示箇所に記録された情報が情報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するなどとして、本件各不開示箇所等を開示しないものとし、その余を開示する決定をした。 3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判 報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するなどとして、本件各不開示箇所等を開示しないものとし、その余を開示する決定をした。 3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件各不開示箇所に記録された検証の手法や基準、検証結果(データ)、考察内容、問題点等の情報は情報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するとして、上告人の前記1の取消請求を棄却し、これに係る開示決定の義務付けを求める訴えを却下すべきものとした。 本件各不開示箇所を開示することにより、消費者庁が本件ガイドラインのいかなる部分を中心に事後監視を行っているかのほか、本件検証機関が、機能性関与成分の分析方法に関する検証において、届け出られた分析方法につき、いかなる部分にどの程度の不備がある場合にこれを問題視したかや、機能性表示食品の買上調査において、機能性関与成分の含有量につき、表示値からのかい離や同一製品における数値のばらつきなどを、どの範囲でどのように問題視したかが推知され、事業者において消費者庁の事後監視や検証機関による問題点の指摘を免れることを容易にさせるおそれがあり、また、検証機関による忌たんのない検討結果の指摘を困難にするおそれもある。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ア本件ガイドラインは、機能性関与成分につき定量確認及び定性確認が可能な成分である旨定めているが、本件ガイドライン中に、特定の分析方法が機能性関与成分に関する分析方法として妥当なものであるか否かを判断する際の基準となる- 5 -ような具体的な記載があるとはうかがわれない。また、本件検証事業は、消費者庁自らが行ったものではなく、その委託を受けて本件検証機関が行ったものであるところ、消費者庁 断する際の基準となる- 5 -ような具体的な記載があるとはうかがわれない。また、本件検証事業は、消費者庁自らが行ったものではなく、その委託を受けて本件検証機関が行ったものであるところ、消費者庁が本件検証機関に対し本件ガイドラインのいかなる部分を中心に検証を行うかについて具体的に指示したなど、本件文書に、本件検証機関が本件ガイドラインにどのように依拠したかを示すような情報が記録されていることをうかがわせる事情は見当たらない。 そうすると、上記事実関係等のみから、本件各不開示箇所を開示することにより、消費者庁が本件ガイドラインのいかなる部分を中心に事後監視を行っているかが推知されるおそれがあるものと直ちにいうことはできない。 イまた、本件検証事業において、届け出られた分析方法につき、いかなる部分にどの程度の不備がある場合にこれを問題視するかや、機能性関与成分の含有量につき、表示値からのかい離等をどの範囲でどのように問題視するかについても、消費者庁から本件検証機関に対し具体的な基準が示されたなどの事情はうかがわれず、これらについては主に本件検証機関の有する知見を用いて判断されたものとも考えられる。しかし、当該知見が、本件検証機関の有する独自のものであって、事業者において通常知り得ないものであるか否かは明らかでなく、本件ガイドラインにおいて、機能性表示食品に求められる科学的根拠の水準は、我が国の消費者の意向、科学的な観点等を十分に踏まえたものでなければならないなどとされるにとどまっていることも考慮すると、本件検証事業において用いられた上記の知見が事業者においても通常知り得るような一般的なものである可能性は否定し難い。そうすると、本件検証機関において、機能性関与成分の分析方法や機能性表示食品の表示内容につき、どのような場合に問題視したか が事業者においても通常知り得るような一般的なものである可能性は否定し難い。そうすると、本件検証機関において、機能性関与成分の分析方法や機能性表示食品の表示内容につき、どのような場合に問題視したか等が事業者に推知されたとしても、そのことによって、事業者において消費者庁の事後監視や検証機関による問題点の指摘を免れることを容易にさせるおそれがあるものと直ちにいうことはできない。 ウそして、原審は、上記ア及びイの点のほかには、本件各不開示箇所を開示することにより検証機関による忌たんのない検討結果の指摘を困難にするおそれがあ- 6 -るものといえる理由を示していない。 ⑵ 以上によれば、上記の諸点について認定説示することなく、本件各不開示箇所を開示することにより事業者において消費者庁の事後監視や検証機関による問題点の指摘を免れることを容易にさせるおそれがあるなどとして、本件各不開示箇所に記録された情報が情報公開法5条6号柱書き及び同号イ所定の不開示情報に該当するとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 5 論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。 そして、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官宇賀克也の補足意見がある。 裁判官宇賀克也の補足意見は、次のとおりである。 私は、原判決を破棄差戻しとすべきとする法廷意見に賛同するものであるが、情報公開法5条6号該当性の判断の在り方について、補足的に意見を述べておきたい。 1 情報公開法5条6号の趣旨情報公開法5条6号イの「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」は、名目的なもの ておきたい。 1 情報公開法5条6号の趣旨情報公開法5条6号イの「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」は、名目的なものでは足りず、実質的なものであることが必要であり、「おそれ」も、抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する程度の蓋然性が要求されること、「おそれ」の判断について行政機関の長の裁量は認められず、また、この不開示情報該当性について、被告となる国が立証責任を負うこと、同号柱書きの「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の「適正」の要件の判断に際して、開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす公益も比較衡量しなければならないことについては異論がない。 2 事務又は事業に関する情報該当性事業者からの届出に係る分析方法については、「定性」、「定量」における「〇」「△」「×」の評価は開示されており、報告書における問題点の記載は、- 7 -「△」「×」の評価がされたものについて、届出に係る分析方法では不十分であることについての指摘がされているものと推認される。 事業者が行った分析方法について、その方法では定性確認、定量確認が十分にできないことは、「△」や「×」の表示で既に開示されており、本件検証機関が、ある事業者が用いた分析方法について、「△」や「×」の表示となった理由について、「定量分析用標品の情報がない」、「クロマトグラフィ上の保持時間情報がない」、「開示された情報が不十分で、第三者が自分で論文等を調べて分析する必要がある」等の指摘をした旨が開示された場合、かかる指摘を受けた事業者は、その指摘に沿って、不十分とされた点を補うような分析方法を届け出れば足りるのであって、実際、平成27年度において定性又は定量に関する分析方法の情報に不足等があ れた場合、かかる指摘を受けた事業者は、その指摘に沿って、不十分とされた点を補うような分析方法を届け出れば足りるのであって、実際、平成27年度において定性又は定量に関する分析方法の情報に不足等があったとされた68件のうち、62件では変更の届出がされ、6件では撤回の届出がされており、行政指導や行政処分に至った例はない。また、平成28年度において定性又は定量に関する分析方法の情報に不足等があったとされた242件のうち、144件では変更の届出がされ、13件では撤回の届出がされ、残る85件では対応中であり、行政指導や行政処分に至った例はない。このように、検証報告書で情報に不足等があったと指摘されても、当該指摘に沿って、不足している情報を補う分析方法への変更の届出をすれば、行政処分はおろか行政指導を受けたこともないのであり、また、不足している情報を補えるような変更の届出ができない例外的場合には、撤回の届出をすれば足りるのであって、その場合であっても、行政指導や行政処分が行われたことはない。そうすると、定性又は定量に関する分析方法の情報の不足等に係るコメントを開示することにより、事業者がそもそも問題点の指摘を受けない分析方法を選択することを容易にし、検証事務の適正な遂行に支障を及ぼす法的保護に値する程度の蓋然性があることについて、原審は審理を尽くしていないといわざるを得ない。 また、事業者が問題点の指摘を受けないような脱法的方法を届け出ることができると仮定しても、事業者が届け出た分析方法は公表されるのであるから、その方法- 8 -が妥当なものかは、当然、多数の専門家が検証することになり、それが脱法的な方法であれば、そのことが明らかにされることになると考えられる。その場合のレピュテーション・リスクは甚大であるから、あえて時間とコストをかけて、かか 、多数の専門家が検証することになり、それが脱法的な方法であれば、そのことが明らかにされることになると考えられる。その場合のレピュテーション・リスクは甚大であるから、あえて時間とコストをかけて、かかる脱法的な方法を考案しようとする事業者がいることは、容易に想定し難い。届け出た分析方法に不備がある旨指摘された事業者は、そのことのみでは法的に責任を問われることはなく、変更の届出をするか、それができない場合には届出を撤回すれば足りるのに対して、あえて検査で問題点を指摘されないような脱法的な方法を用いて、科学的根拠に基づかずに機能性を表示するなどして機能性表示食品を販売すれば、不当景品類及び不当表示防止法5条1号の優良誤認表示として、同法7条1項の規定により措置命令を受けたり、同法8条1項1号の規定により課徴金納付を命じられたりするおそれがある。届出の変更又は撤回をすれば足りるのに、あえてそのような危険を冒して脱法的行為をする者が存在することは容易に想定し難い。したがって、「△」や「×」の表示となった理由について開示することにより、消費者庁の監査の事務の遂行に支障を及ぼす「法的保護に値する程度の蓋然性」があることについて、原審は審理を尽くしていないと考えられる。 さらに、情報公開法5条6号柱書きの「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の「適正」の要件の判断に際して、開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす公益も比較衡量しなければならないことは、異論のないところであるが、原審は、一方において、開示のもたらす支障について、抽象的なおそれを過大に評価しながら、開示がもたらす公益については、全く考慮した形跡が窺われない。「△」や「×」の表示となった理由について開示することがもたらす公益は大きい。すなわち、「△」や「×」の表示となった理由 に評価しながら、開示がもたらす公益については、全く考慮した形跡が窺われない。「△」や「×」の表示となった理由について開示することがもたらす公益は大きい。すなわち、「△」や「×」の表示となった理由について開示されれば、予測可能性を向上させ、他の事業者が、あらかじめ分析方法の不備を認識して同様の指摘を受けないように分析方法を改善する端緒になり、事業者全般にとってメリットが大きい。また、行政にとっても、それによって、不備な分析方法について問題を指摘する行政コストの軽減を図ることができる。さらに、事業者や行政に限らず、- 9 -食品分析の研究者等の専門家も、「△」や「×」の表示となった理由について開示されれば、分析方法の改善を提言する資料が得られることになる。また、国民一般にとっても、食品行政の透明性が向上することになり、それへの信頼を高めることができる。 原審は、開示のもたらす支障が、法的保護に値する蓋然性に当たるかについての審理を尽くしておらず、かつ、開示がもたらす多面的な利益を考慮していない点で、審理不尽といわざるを得ないと思われる。 (裁判長裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官石兼公博裁判官平木正洋)

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