平成19年12月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第14120号損害賠償等請求事件口頭弁論終結日平成19年10月1日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告らは,原告a に対し,連帯して2785万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告bに対し,連帯して1392万5000円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告cに対し,連帯して1392万5000円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,d(昭和2年○月○○日生まれ,男性,以下「d」という。)が,平成14年1月30日,被告e(以下「被告法人」という。)の開設するf病院(以下「被告病院」という。)において,弓部大動脈瘤及び腹部大動脈瘤の治療のため,弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を受けたところ,同年3月5日,MRSA感染に基づく敗血症性ショックにより死亡するに至ったことについて,dの相続人である原告らが,被告病院の担当医師には,手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施したなどの注意義務違反があると主張して,被告法人に対しては不法行為(使用者責任)又は診療契約の債務不履行に基づき,被告g医師(以下「被告g医師」とい う。)に対しては不法行為に基づき,損害賠償を請求する事案である。 前提事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告ら原告a(以下「原告a」という。)は,dの妻であり,原告b(以下「原告b」という。)及び原告c( 事案である。 前提事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告ら原告a(以下「原告a」という。)は,dの妻であり,原告b(以下「原告b」という。)及び原告c(以下「原告c」という。)は,いずれもdと原告a との間の子である。 イ被告ら被告法人は,被告病院を開設する社会福祉法人である。 被告g医師は,平成13年12月から平成14年3月当時,被告病院に勤務し,dに対する診療を担当した心臓血管外科医師である。 (2)診療経過ア平成8年11月ころ,dは,h病院において,直径5cmの腹部大動脈瘤があると診断された(乙A5の1)。 イ平成9年6月2日,dは,朝から背部痛や悪心が続き,夜には失神,失禁したため,被告病院に救急搬送され,心筋梗塞と診断された。そして,翌3日,心筋梗塞のバルーンカテーテル治療を受け,同月24日,被告病院を退院した。 ウ退院後,dは,定期的に被告病院に通院し,狭心症,血圧のコントロール,高脂血症に対する投薬等の治療を受けるとともに,以前からあった腹部大動脈瘤等についても定期検査,診察を受けた。 エ平成13年12月14日,dは,被告病院でCT検査を受けたところ,腹部大動脈瘤が直径6cmであることを指摘された。 オ平成14年1月12日,dは,腹部大動脈瘤手術の検査目的で被告病院に入院し,病棟担当のi医師から,腹部大動脈瘤に対する人工血管手術を行うことの説明を受け,同月28日に同手術を施行することとされ た。ここに,dと被告との間で,腹部大動脈瘤手術等についての診療契約が成立した(以下,特に年を示さない限り,すべて平成14年のことである。)。 カ1月15日以降,dは,術前の検査として,心臓カテーテル検査,超音波検査,MRI検査等を受けた。その結果,dは,大動脈弓部(左鎖骨下 ,特に年を示さない限り,すべて平成14年のことである。)。 カ1月15日以降,dは,術前の検査として,心臓カテーテル検査,超音波検査,MRI検査等を受けた。その結果,dは,大動脈弓部(左鎖骨下動脈分岐部より遠位)と,上腸間膜動脈分岐部(腎動脈や腹腔動脈分岐部も近い)から腸骨動脈分岐部直上までの胸腹部大動脈に大動脈瘤が認められ(以下,大動脈弓部の大動脈瘤を「弓部大動脈瘤」と,胸腹部大動脈の大動脈瘤を「腹部大動脈瘤」という。),腹部主要分枝は開存しているものの下腸間膜動脈は瘤から出ていることが判明した。そこで,dは,弓部大動脈瘤についても腹部大動脈瘤と同時に手術を行うこととなった。なお,1月18日施行のMR検査では,腹部大動脈瘤の最大径は5cm程度であるとの所見が報告された(乙A1・136頁)。 キ1月30日,被告g医師の執刀により,dに対し,弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術(以下「本件手術」という。)が施行された。同手術においては,超低体温循環停止法(HCA)がとられ,循環停止時間は,午後1時3分から午後2時20分までの77分間であった。 ク本件手術後,dは,一時的に声かけにてわずかに開眼したことがあったが,意識状態は概ねJCSⅢ群(刺激を受けても覚醒しない状態)で経過した。 ケ2月7日,dは,胸部レントゲン上,左肺に胸水貯留が認められ,胸腔ドレーンが挿入された。ドレナージされた胸水を培養したところ,グラム陽性球菌が検出(2+)されたため,dに対し,バンコマイシン1gの投与が開始された(乙A1・25頁)。 コ3月3日,dは,敗血症性ショック,DIC(播種性血管内凝固症候群)が明らかな状態となり,3月5日,死亡が確認された。 サ被告病院におけるその余の診療経過は,別紙「診療経過一覧表」(略)記載のとおりである(ただし,当 ショック,DIC(播種性血管内凝固症候群)が明らかな状態となり,3月5日,死亡が確認された。 サ被告病院におけるその余の診療経過は,別紙「診療経過一覧表」(略)記載のとおりである(ただし,当事者の主張に争いがある部分を除く。)。また,1月21日から3月5日までの検査結果等については,別紙「検査結果等一覧表」(略)記載のとおりである(当事者間に争いがない。)。 (3)医学的知見(甲B38,乙B19等)弓部大動脈置換術では,弓部分枝再建操作中,脳への血流が遮断されるため,脳保護が必要となる。手術時の脳保護法には,以下のものがある。 ア超低体温循環停止法(HypothermicCirculatoryArrest,以下「HCA」という。)脳は低温にすることで虚血許容時間が延長されるとされていることを利用して,脳を冷却して低温にすることで,循環停止とした際の虚血性障害を防止しようとする方法。 イ選択的脳分離体外循環法(順行性脳灌流法,SelectiveCerebralPerfu-sion,以下「SCP」という。)脳を体循環とは別に分離して灌流する方法。脳の環流方法については様々な工夫がなされており,左右の鎖骨下動脈や腋窩動脈を使用する方法,直接に弓部分枝にタバコ縫合をかけてカニューレを挿入する方法,弓部大動脈あるいは弓部分枝をオープンして内腔からカニューレを挿入する方法などがある。 ウ逆行性脳灌流法(RetrogradeCerebralPerfusion,以下「RCP」という。)上大静脈から低圧で送血して,脳を静脈側から逆行性に灌流しようとする方法。この方法によれば,弓部分枝の入り口部から逆行性に血液が流出してくるので,弓部分枝内に塞栓物質の混入する危険が少なく,循環停止法と同様に視野がよい。 争点 (1) 性に灌流しようとする方法。この方法によれば,弓部分枝の入り口部から逆行性に血液が流出してくるので,弓部分枝内に塞栓物質の混入する危険が少なく,循環停止法と同様に視野がよい。 争点 (1)注意義務違反の有無ア手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反の有無(原告らの主張)(ア)弓部大動脈瘤及び腹部大動脈瘤の人工血管置換の同時手術は,侵襲性が高く,患者の身体に大きな負担を招き,易感染性等のリスクが高い。 したがって,同時手術を行うことについては,身体的負担,血栓や解離の進行等の観点から,分割手術が不可能な形状であって,破裂等の危険があり,緊急性を要する場合に限られる。 文献上,一般的には二期的手術でかつ腹部大動脈瘤を優先して行うことの有用性を報告するものが多いとされ,また,例外的に同時手術の適応があるのは,解剖学的形態から分割不可能な形状を有する広範型大動脈瘤で,①疼痛など破裂切迫症状のあるもの,②最大瘤径が6cm以上のもの,③最大瘤径が5cm以上で6か月間に0.5cm以上拡大するものとされている。 (イ)本件では,疼痛など破裂切迫症状はなく,最大瘤径5cm以上で6か月間に0.5cm以上拡大するものでもなかった。また,両大動脈瘤の間には正常な下行大動脈が存在しており,連続した動脈瘤ではなく,解剖学的には分割手術が困難でもなかった。 よって,本件では同時手術の適応はなかったものであり,被告病院の担当医師には,手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反がある。 (被告らの主張)(ア)遠位弓部大動脈瘤については,直径5cm以上の紡錘状動脈瘤又 は嚢状動脈瘤であれば手術適応があり,腹部大動脈瘤については直径4cm以上の紡錘状動脈瘤又は嚢状動脈瘤であれば手術適応があ 張)(ア)遠位弓部大動脈瘤については,直径5cm以上の紡錘状動脈瘤又 は嚢状動脈瘤であれば手術適応があり,腹部大動脈瘤については直径4cm以上の紡錘状動脈瘤又は嚢状動脈瘤であれば手術適応がある。 そして,これらの重複大動脈瘤に対する同時手術の適応については,いずれの手術適応をもみたしていれば,適応があるとされている。 (イ)本件では,弓部大動脈瘤と腹部大動脈瘤の位置が近接し,アプローチ方法が同じであるため,解剖学的形態からは分割手術が困難であり,また,sealedrupture(封じられた破裂)又はchroniccontainedrupture(慢性の包含型破裂)が疑われ,ようやく大動脈瘤周辺の臓器に包含されることで破裂を免れている腹部大動脈瘤及び腹部と違って他の臓器が周辺にないことから,破裂すると内圧の勢いで血液が噴出し致命傷になる可能性がある弓部大動脈瘤にとって,分割手術は,血圧等の血行動態の変動が著しく,どちらを先に手術するにしても破裂の危険性を大きく高めること,さらには患部の癒着や体力の回復の問題からも分割手術の適応はなかった。また,弓部大動脈瘤の最大瘤径は6.5cmで,形態は嚢状であり,腹部大動脈瘤は直径が6cmで,それぞれの手術適応を満たしていた。 よって,同時手術の適応があった。 イ脳等の臓器の保護が不十分なもとで弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反の有無(原告らの主張)(ア)注意義務被告病院の担当医師には,本件手術に当たり,HCAの循環停止許容時間を超過せず,またこれを超過するのであれば脳等の保護措置をとるべき注意義務があった。 aHCAにおける循環停止許容時間HCAの下で循環停止を行う場合,循環停止は,論者によって多 少異なるが,おおむね20~40分程度の許容時間があり,こ 等の保護措置をとるべき注意義務があった。 aHCAにおける循環停止許容時間HCAの下で循環停止を行う場合,循環停止は,論者によって多 少異なるが,おおむね20~40分程度の許容時間があり,これを超過してはならず,これを超過すると致命的な脳障害発生の危険性が生じ,60分を超えると死亡率が高まる。 b脳等の保護措置実施の必要性循環停止時間が前記許容時間を超える場合には,脳にダメージを与えないため,SCPなどの保護措置をとることにより許容時間の延長を図る必要がある。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,本件手術において,HCAの下で77分間の循環停止を行い,しかもSCPなどの保護措置をとらなかった。 (ウ)被告らの主張について被告らの主張するチオペンタールをはじめとする薬剤の使用は,適応外使用であり,それぞれの薬剤,その併用による循環停止時間の延長効果についてはエビデンスがなく,むしろ全脳虚血や脳波が平坦の場合の脳保護効果はない。 (被告らの主張)(ア)HCAにおける循環停止許容時間の不存在弓部大動脈瘤手術後に起こる脳梗塞の発生機序については,脳保護方法の相違や長時間の循環停止時間よりも,大動脈内のアテローム塞栓が脳血管に飛来することの方がより強く関与しているというのが最近の知見であり,循環停止時間と脳障害との関連を否定する見解が数多く出されている。 また,弓部大動脈瘤手術後の脳合併症の発生要因として重要なことは,大動脈内にあった血栓やアテロームが脳血管に飛来して起こる脳塞栓を予防することであり,高齢で大動脈の動脈硬化が強度で,大動 脈内にアテロームや血栓が存在するような場合には,たとえ循環停止時間が延長しても病変が及んでいた大動脈をすべて人工血管で置換した方が,塞栓による脳合併症は起こりにくい 脈の動脈硬化が強度で,大動 脈内にアテロームや血栓が存在するような場合には,たとえ循環停止時間が延長しても病変が及んでいた大動脈をすべて人工血管で置換した方が,塞栓による脳合併症は起こりにくいとの研究結果も報告されている。 以上のように,HCAにおいて60分という循環停止許容時間が存在するとは考えられておらず,これを超過してはならないという注意義務は存在しない。 (イ)脳等の保護措置の実施HCAを行うこと自体が脳の保護措置であり,それに加えて,本件では,循環停止時間の延長に効果がある脳保護剤としてチオペンタール(全身麻酔薬,商品名ラボナール),ニカルジピン(Ca 拮抗薬,商品名ペルジピン),マンニトール,ラジカット(脳保護剤)を使用していた。 脳保護措置の選択については,他に比べて明らかに優れている方法があるわけではなく,それぞれの施設が慣れた方法を用いて手術を行っているというのが実情である。 よって,被告病院の担当医師は,十分な保護措置をとったものであり,注意義務違反はない。 ウアテローム飛散の防止義務違反の有無(原告らの主張)(ア)注意義務仮に脳梗塞の原因がアテロームによるものであるとしても,腹部大動脈瘤の患者に対して手術を行う場合,術者はアテロームを飛ばさないように注意すべき義務がある。 腹部大動脈瘤に対する手術においては,左開胸,右側臥位で手術を行った場合,遊離したアテロームが上行大動脈に落ち,血流を再開さ せた際,これが心臓や脳に飛散し,塞栓症を起こす危険がある。これに対し,胸骨正中切開,仰臥位で手術を行った場合は,循環停止中に遊離したアテロームは下行大動脈に落ち,順行性に血流を再開すれば,脳や心臓にアテロームが飛散することはなく,塞栓に至ることもない。 よって,被告病院の担当医師には,本件手術を行うに当た ,循環停止中に遊離したアテロームは下行大動脈に落ち,順行性に血流を再開すれば,脳や心臓にアテロームが飛散することはなく,塞栓に至ることもない。 よって,被告病院の担当医師には,本件手術を行うに当たり,アテローム飛散を防ぐために,胸骨正中切開,仰臥位によるべき注意義務があった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,左開胸,右側臥位で本件手術を行った。 (被告らの主張)被告病院の担当医師に,胸骨正中切開,仰臥位により本件手術を行うべき注意義務はなかった。 (ア)遠位弓部大動脈瘤の手術アプローチには,胸骨正中切開(仰臥位)によるアプローチと左開胸(右側臥位)によるアプローチがあり,いずれの方法も一般的に採用されている。左開胸(右側臥位)によるアプローチが禁忌とされていることはない。 (イ)仮に胸骨正中切開(仰臥位)によるアプローチをすると,腹部大動脈瘤の左開胸と合わせて2か所を切開することになり,侵襲性が高くなる。さらに,同時手術を行うと,胸骨正中切開のために,手術途中に体位変換をしなければならず,創が汚染される危険が高まり,片方の創から手術を行っている最中に他方の創から血液が流出することを防止できず,出血量も多量になるおそれがある。これらの点からして,本件手術において胸骨正中切開(仰臥位)によるアプローチは適切ではない。 エ説明義務違反の有無 (原告らの主張)(ア)手術リスクに関する説明義務について被告病院の担当医師は,本件手術前に,d及び原告らに対し,dの年齢,身体状況を踏まえた本件手術のリスク(殊に死亡リスク)及び分割手術のメリット,デメリットを説明し,dらに手術法の選択を委ねるべき義務を負っていた。 ところが,被告病院の担当医師は,上記の点について,適切な説明を行わなかった。 被告g医師は 亡リスク)及び分割手術のメリット,デメリットを説明し,dらに手術法の選択を委ねるべき義務を負っていた。 ところが,被告病院の担当医師は,上記の点について,適切な説明を行わなかった。 被告g医師は,dの腹部大動脈瘤は,4年前からほとんど変わっておらず,切迫破裂の状態でなかったにもかかわらず,dに対し,いつ破裂してもおかしくないと説明した。 また,被告g医師は,dらに対し,本件手術のリスクは10%であると説明したが,被告病院循環器センターのウェブサイトには,弓部大動脈瘤手術の手術リスクが10%である旨掲載されており,また被告g医師の論文でも,弓部大動脈瘤手術を受けた患者88人のうち10人(11.4%)が手術中に死亡したと述べられている。したがって,上記説明は,弓部大動脈瘤手術のリスクを説明したものにすぎず,同時手術のリスクを説明したものとはいえない。 (イ)脳保護法に関する説明義務についてさらに,被告g医師は,本件手術の脳保護方法について,HCA単独以外にも,SCPやRCPがあるにもかかわらず,これらの術式の内容,利害得失,予後について全く説明しなかった。また,本件手術で行ったHCA単独でチオペンタールなどを投与して循環時間を引き延ばす方法については,これを行うものはほとんどおらず,しかもチオペンタールなどを循環停止時間の延長に用いることは適応外使用であり,その効果についてはエビデンスがないことなどについても,説 明をしなかった。 (被告らの主張)(ア)手術リスクに関する説明義務について本件手術は,遠位弓部大動脈瘤の手術であるところ,被告病院における平成14年1月までの遠位弓部大動脈瘤手術の死亡率は4.4%であり,平成17年6月までの全統計では2.5%である。被告g医師は,dに対し,仮にdが遠位弓部大動脈瘤だけであれば2. ,被告病院における平成14年1月までの遠位弓部大動脈瘤手術の死亡率は4.4%であり,平成17年6月までの全統計では2.5%である。被告g医師は,dに対し,仮にdが遠位弓部大動脈瘤だけであれば2.5%から4.4%のリスクにすぎなかったところ,同時手術のリスクとして本件手術のリスクを10%と説明したのであり,適切な説明を行ったものである。 なお,被告病院循環器センターのウェブサイトに弓部大動脈瘤手術のリスクが10%と掲載されているのは,あくまで弓部大動脈瘤手術一般についての死亡率を掲載したものにすぎず,被告g医師の説明はこれに矛盾するものではない。 (イ)脳保護法に関する説明義務についてHCAは,大動脈瘤手術における脳保護の補助手段として用いられる方法の1つであり,大動脈瘤手術の際に付随して行われるものにすぎず,このような手術に付随して行われる補助手段についてまで法的な説明義務が生じるものではない。 また,世界的にはHCAが広く用いられていること,これが他の方法に比べて劣っているという根拠もないこと,被告病院においてはHCAが慣れた方法として利用されていることからすれば,あえて他の補助手段との違いについて説明し,患者にそれを選択させる法的義務があるとはいえない。 さらに,チオペンタールの投与についても,少しでも脳保護に資する薬剤があれば,それを追加的,補助的に投与することは当然のこと であり,それらについて逐一説明する義務など存しない。 オMRSA感染防止策を怠った注意義務違反の有無(原告らの主張)被告病院の担当医師には,以下のとおりMRSA感染防止策についての注意義務違反がある。 (ア)一般的な予防策についてa患者がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に感染すると治療が著しく困難になり死に至ることもあるから,MR りMRSA感染防止策についての注意義務違反がある。 (ア)一般的な予防策についてa患者がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に感染すると治療が著しく困難になり死に至ることもあるから,MRSA感染に対しては最大限の防止策をとる義務がある。具体的には,手洗い・消毒,室内清掃・消毒,発症患者に接する際の手袋・マスク・ガウン着用等をはじめとする標準予防策,接触防止策に加え,発症者がいる場合には個室での隔離が必要になる。 bdは,本件手術後,MRSAに感染したが,本件手術前にはMRSAの保菌者ではなかったこと,及び当時MRSAに感染していた患者と看護師を通じて複数回接点があったことからすれば,dは,被告病院の人や物を通じてMRSAに感染したとしか考えられない。 被告病院では,当時CCU内にすでにいたMRSA感染者に対して,隔離者看護用のガウンやマスクを着用している看護師を見かけることはなく,感染の原因は,被告病院においてdの治療,看護に従事した者が手洗い,消毒をはじめとする標準予防策や接触防止策を怠ったことにある。 (イ)術前の黄色ブドウ球菌保菌検査等についてa黄色ブドウ球菌は,健常者の約30%が鼻腔などに保菌しており,黄色ブドウ球菌保菌者は,心臓や大血管の置換術等の開胸手術後に術後感染を起こす危険性が高く,術後感染を予防する上で必要な検査,処置をとる必要がある。 したがって,被告病院の担当医師には,dに対し,本件手術前に黄色ブドウ球菌保菌検査を行い,陽性であればムピロシンなどの薬剤で除菌を行うべき義務があった。 bにもかかわらず,被告病院の担当医師は,dに対し,本件手術前に黄色ブドウ球菌保菌検査を実施しなかった。 (ウ)術後における抗生剤の予防投与について開胸手術後24時間までは,感染予防のために抗菌薬の予防投与が らず,被告病院の担当医師は,dに対し,本件手術前に黄色ブドウ球菌保菌検査を実施しなかった。 (ウ)術後における抗生剤の予防投与について開胸手術後24時間までは,感染予防のために抗菌薬の予防投与が一般的に行われるが,術後24時間を越えると耐性菌選択による院内感染を助長するため,予防投与を行うべきではないとされている。 ところが,被告病院の担当医師は,dに対して,セファメジンを1月30日から2月3日まで,シプロキサンを1月30日から2月1日までそれぞれ投与した。大血管手術後感染予防として通常用いられることのないシプロキサンを同時投与する必要性はなかったのみならず,両剤の投与期間も,抗菌薬の予防投与として不必要に長かったものであり,不要な抗菌薬の投与がdのMRSA感染を助長した可能性が高い。 (被告らの主張)患者をMRSAに感染させてはならないなどという注意義務はない。 被告病院では,適切なMRSA感染防止策がとられていたものであり,MRSA感染についての注意義務違反はない。 (ア)一般的な予防策についてa感染症対策について(a)被告病院では,本件当時,院内の感染症マニュアル(乙B21)に基づいて,ガウンやマスクの着用等,MRSA感染患者,保菌者に対する対策を徹底していた。 (b)被告病院において,dがCCUに入室していた1月30日か ら2月9日までの間,CCUにはMRSA感染患者がいたが,同患者は個室におり,部屋の奥のオープンスペースにいたdとは隔離されており,担当科,担当医師,担当看護師も異なっていた。 なお,原告らは,看護師の担当が持ち回りになっていたと主張するが,異なる時間帯に個別に対応していれば,感染の危険性にほとんど影響はないものである。 bMRSAの感染原因について(a)dがMRSA患者と同じCCU内に滞 担当が持ち回りになっていたと主張するが,異なる時間帯に個別に対応していれば,感染の危険性にほとんど影響はないものである。 bMRSAの感染原因について(a)dがMRSA患者と同じCCU内に滞在していた期間は,1月30日午後9時から2月1日午後までの48時間以内であった。 そして,MRSAが原因の血流感染症に罹患しやすくなる因子としては,先に抗生剤治療を受けた経験があること,入院期間が長いこと,血管内カテーテルを留置されていること,重症基礎疾患を有していること,MRSAを鼻腔内に保菌していることが挙げられている。また,MRSA菌血症を発症するのは入院後平均37日後であり,入院から72時間以内に発症することは珍しく,たとえそのような場合があったとしても,それらはすべてそれまでの1年間に長期療養施設等への入院歴があったと指摘されている。 よって,dが,手術後に他の患者からMRSAが運ばれてきて感染したとは考えられず,むしろdの治療歴から考えれば,手術時点でdはMRSAの保菌者であって,手術後抵抗力が低下したなどの理由で感染症を引き起こしたと考えるのが自然である。 (b)MRSAは常在菌の1つであり,院内MRSA感染症の起因菌については,分子生物学的同定をもって院内生息のMRSAと同一菌であるかないかを明らかにしなければ,入院後に獲得されたMRSAか,入院時にすでに患者に獲得されていたMRSAか は判別できない。 (イ)術前の黄色ブドウ球菌保菌検査等について術前に黄色ブドウ球菌のスクリーニングを行うことは一般的でなく,保険適用も認められていない。 また,ムピロシンの予防的投与については,その適否について議論があるところであり,耐性菌を生じさせるというデメリットを上回るだけのメリットがある標準的治療法として確立していない。 よ られていない。 また,ムピロシンの予防的投与については,その適否について議論があるところであり,耐性菌を生じさせるというデメリットを上回るだけのメリットがある標準的治療法として確立していない。 よって,術前に黄色ブドウ球菌のスクリーニングを行うべき注意義務はなく,黄色ブドウ球菌陽性の場合にムピロシンを予防的に投与すべき注意義務もない。 (ウ)術後における抗生剤の予防投与について本件手術のような大規模な手術を施行する例では,合併症発生の危険が高いことから,抗生剤の予防的投与を術後24時間以内に限定するのは一般的でない。 また,被告g医師は,以下のような事情からセファメジン及びシプロキサンを投与したものであり,その投与は不適切ではない。 adにはペニシリンアレルギーがあったが,平成9年6月2日に急性心筋梗塞にて被告病院に入院した際,セファメジンを投与されたにもかかわらずアレルギー反応が認められなかったという経歴があり,グラム陽性球菌に対する第一選択であるセファロスポリン系薬剤のうちセファメジンが安全に使える抗生剤であった。 bdには腎機能障害があり,腎臓に負担のかかる抗生剤の投与には慎重にならざるを得なかった。そのため,本来であればアミノグリコシド系抗生物質を使用するところ,それよりは副作用の低いシプロキサンを選択した。 c術中の血流途絶のために腸管虚血を生じざるを得ず,これにより 腸内細菌(大腸菌等のグラム陰性桿菌を主体とする細菌群)が腸管壁を越えて血中へ移行する可能性があったため,腸内細菌にもできるだけ広く有効なシプロキサンを使用することが効果的であった。 カMRSA感染に対する治療義務違反の有無(原告らの主張)被告病院の担当医師には,dのMRSA感染の発見が遅れ,しかもそれに対して十分な治療を行わなかった注意義務違反 することが効果的であった。 カMRSA感染に対する治療義務違反の有無(原告らの主張)被告病院の担当医師には,dのMRSA感染の発見が遅れ,しかもそれに対して十分な治療を行わなかった注意義務違反がある。 (ア)MRSA感染の発見が遅れたことについてa①被告病院における2月3日の診療録(乙A1・24頁)に「左前腋窩線付近のwound(創部)でdischarge(浸出)」と記載されているとおり,同日,dには左腋窩付近からの滲出液漏出が認められたこと,②同日の経過記録表(乙A1・513頁)にも「創部G汚染拡大,膿様」と記載されていることからすれば,被告病院の担当医師は,2月3日時点で,dについて,感染徴候を認識し,浸出液のグラム染色等の必要な検査を実施して,感染症に対する適切な治療を開始すべきであった。 bにもかかわらず,被告病院の担当医師が,dのMRSA感染を認識したのは2月7日のことであり,MRSA感染の発見が遅れたものである。 (イ)感染症の治療が不十分であったことについてaMRSA感染に対する治療としてのバンコマイシン投与は,高齢者に対しては,1回0.5gを12時間毎又は1回1gを24時間毎に投与するものとされている。また,高齢者や腎機能障害のある患者については,投与量,投与間隔の調節を行い,血中濃度をモニタリングする必要がある。そして,バンコマイシンの有効治療域は,ピーク値(投与後1時間の値)25~40μg/mL,トラフ値 (投与直前の値)5~10μg/mLである。 被告病院の担当医師は,以上に従い,2月3日から,血中濃度をモニタリングしながら,少なくとも1日につき1gのバンコマイシン投与を開始すべきであった。 bにもかかわらず,被告病院の担当医師は,dに対して,2月7日から7日間につき1gのバンコマイシンを 度をモニタリングしながら,少なくとも1日につき1gのバンコマイシン投与を開始すべきであった。 bにもかかわらず,被告病院の担当医師は,dに対して,2月7日から7日間につき1gのバンコマイシンを投与したにすぎなかった。 しかも,その間,血中濃度のモニタリングは2月18日及び同月27日にしか行われなかった。加えて,2月18日におけるバンコマイシン投与後の血中濃度は,ピーク値22.9μg/mL,トラフ値3.5μg/mLであり,有効な治療域に達していなかった。 (被告らの主張)被告病院の担当医師には,MRSA感染に対する治療義務違反はない。 (ア)MRSA感染の発見についてa2月3日,dには左腋窩付近からの浸出液漏出は認められなかった。同日における診療録(乙A1・513頁)の記載は「左前腋窩線付近のwound(創部)でdissect(離開)」であり,原告らはその記載を読み誤ったものである。このことは,discharge(浸出)があれば浸出しているものが何かを記載するはずであること,左前腋窩部は離開を起こしやすい部位であることからも裏付けられる。 bなお,仮に術後4日目の創から,血液,リンパ液その他の体液の流出がみられたとしても,直ちに感染の徴候があると判断すべきものではない。 また,術後創感染は,手術日以降に菌が創から侵入し,その後その菌が増殖し,感染徴候を示すまでには通常1週間以上は要すると考えられており,仮に本件において2月3日に浸出があったとしても,それが術後感染創によるものとは考えにくい。 cよって,2月3日の時点で術後感染を疑う根拠はなく,同日時点で培養検査を行う必要はなかった。 (イ)バンコマイシンの投与について被告病院の担当医師は,dの腎機能及び血液中濃度を考慮して,投与量を適宜調節しながら,適切にバンコマイ 疑う根拠はなく,同日時点で培養検査を行う必要はなかった。 (イ)バンコマイシンの投与について被告病院の担当医師は,dの腎機能及び血液中濃度を考慮して,投与量を適宜調節しながら,適切にバンコマイシンを投与した。 aバンコマイシンは,腎臓で代謝される薬剤であることから,腎機能低下例では投与量を減量しなければならない。dは,術前(1月21日),Ccr(クレアチニンクリアランス)0.46mL/min/kgであったから,同時点におけるバンコマイシン投与量は6.2~7.1mg/kg/日,すなわち422~483mg/日となる。 しかるに,dは,2月7日時点で,BUN(尿素窒素)98,Cr(クレアチニン)3.3であり,腎機能が悪化していたため,422~438mg/日を超えるバンコマイシンの投与は,腎機能をさらに低下させる危険があった。 そのため,被告病院の担当医師は,同日,様子をみるためにまずは1gのバンコマイシン投与から開始し,これにより白血球数及びCRP(C反応性蛋白)に改善が認められた。また,7日後の2月14日に1gを再投与した。 bバンコマイシンの最低血液中濃度は10μg/mLを超えないことが望ましいとされている。被告病院の担当医師は,dの同月18日における血液中濃度が3.5μg/mLであったこと及び腎機能の変化の状況から,増量が可能と考え,2月21日には72時間ごとに1gのバンコマイシンを投与することとした。その結果,2月27日のバンコマイシン投与直前の血液中濃度は,ピーク値36. 0μg/mL,トラフ値8.4μgにまで上昇し,原告らの基準に よったとしても有効治療域に達していた。 (2)因果関係の有無(原告らの主張)ア脳障害の発生原因dに生じた脳障害は,両側大脳半球に広範に生じた分水嶺梗塞によるものである。そして,C に よったとしても有効治療域に達していた。 (2)因果関係の有無(原告らの主張)ア脳障害の発生原因dに生じた脳障害は,両側大脳半球に広範に生じた分水嶺梗塞によるものである。そして,CT所見上(乙A4の1,2),分水嶺梗塞が,両側性に,前頭部よりも後頭部優位に,非常に広い範囲で認められることから,これは低灌流を主たる原因とするものである。 仮に,塞栓性の分水嶺梗塞の場合は,心臓や頸動脈壁で生じた非常に小さな血栓が脳血管に飛んできて,前大脳動脈や中大脳動脈の比較的太い血管には詰まらずに,それらの境界部の非常に細い動脈に詰まって生じるはずであるが,前記CT画像(乙A4の1,2)には,そのような所見は認められない。 イ手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反(争点(1)ア)と死亡との因果関係dは,被告病院の担当医師が,本件手術において,HCAの循環停止許容時間を超過し,必要な脳保護措置をとらなかったことから,脳血管の血流が途絶して脳梗塞を発症し,これにより意識障害を生じ,摂食障害のために栄養状態が著しく悪化して,易感染状態に陥ったため,術後MRSA感染症を引き起こし,多臓器不全,敗血症性ショックを合併して死亡したものである。 よって,被告病院の担当医師が適応のない本件手術を施行しなければ,dが上記機序により死亡することはなかったといえるから,前記(1)アの注意義務違反とdの死亡とには因果関係がある。 ウ脳等の臓器の保護が不十分なもとで弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反(争点(1)イ)と死亡との因果関係 被告病院の担当医師が,本件手術において,HCAの循環停止許容時間を超過せず,また,必要な脳保護措置をとっていれば,dが脳梗塞を発症することはなく,前記アの機序により死亡 )と死亡との因果関係 被告病院の担当医師が,本件手術において,HCAの循環停止許容時間を超過せず,また,必要な脳保護措置をとっていれば,dが脳梗塞を発症することはなく,前記アの機序により死亡するのを避けることができた。 よって,前記(1)イの注意義務違反とdの死亡とには因果関係がある。 エアテローム飛散の防止義務違反(争点(1)ウ)と死亡との因果関係仮に,被告らの主張するとおり,dはアテロームの飛散により脳障害を発症したのだとしても,被告病院の担当医師が前記(1)ウのアテローム飛散の防止義務を尽くしていれば,アテロームの飛散及びこれに基づく脳障害の発症を避けることができ,dが脳障害に起因して死亡するのを避けられた。 よって,前記(1)ウの注意義務違反とdの死亡とには因果関係がある。 オ説明義務違反(争点(1)エ)と死亡との因果関係被告病院の担当医師が,dに対し,本件手術のリスクについて適切な説明を行っていれば,dが本件手術の施行を選択することはなく,前記アの機序により死亡することはなかった。 よって,前記(1)エの説明義務違反とdの死亡とには因果関係がある。 カMRSA感染防止策を怠った注意義務違反(争点(1)オ)と死亡との因果関係被告病院の担当医師が前記(1)オのMRSA感染防止策を怠っていなければ,dがMRSAに感染することはなく,MRSA感染症に起因して多臓器不全,敗血症性ショックにより死亡することは避けられた。 よって,前記(1)オの注意義務違反とdの死亡とには因果関係がある。 キMRSA感染に対する治療義務違反(争点(1)カ)と死亡との因果関係被告病院の担当医師が,2月3日の時点で,MRSA感染症を発見し,適切なバンコマイシン投与を行っていれば,dが多臓器不全,敗血症に 至ることはなく,死亡を避けることができた )と死亡との因果関係被告病院の担当医師が,2月3日の時点で,MRSA感染症を発見し,適切なバンコマイシン投与を行っていれば,dが多臓器不全,敗血症に 至ることはなく,死亡を避けることができた。 よって,前記(1)カの注意義務違反とdの死亡とには因果関係がある。 (被告らの主張)原告らの主張する注意義務違反とdの死亡とにはいずれも因果関係がない。 ア脳障害の発生原因についてdに生じた脳障害は,脳梗塞が両側小脳,大脳半球,基底核,尾状核に巣状に多発したことにより起こったものであり,これは,本件手術中にアテロームが動脈瘤内から脳血管に飛散したことにより,小脳の血管を閉塞して部分的巣状に動脈閉塞を生じたものである。 仮に,原告らの主張するように,血流遮断に起因して脳障害が生じたのであれば,その障害は,全脳にびまん性に及ぶはずであるが,CT所見上,脳梗塞は部分的巣状に生じており,脳障害が血流遮断によるものとは考えられない。 イ同時手術及びHCAの影響について手術を施行した場合やHCAを施行した場合に全身状態が低下することは医学的経験則上明らかであり,本件手術及びHCAの施行がMRSA感染に特段寄与したとは認められない。 よって,原告らの主張する前記(1)アないしエの注意義務違反とdの死亡とには因果関係はない。 ウバンコマイシンの投与の影響原告らの主張は,dの腎機能の悪化を全く考慮しないものであり,原告らの主張するような投与方法を行っていれば,たちまちdは,致命的な腎障害を起こした可能性が高い。 よって,原告らの主張する前記(1)カの注意義務違反とdの死亡とには因果関係がない。 (3)損害(原告らの主張)アdに生じた損害(合計4260万3169円)(ア)逸失利益1460万3169円dは,死亡当時75歳で,本件による 違反とdの死亡とには因果関係がない。 (3)損害(原告らの主張)アdに生じた損害(合計4260万3169円)(ア)逸失利益1460万3169円dは,死亡当時75歳で,本件による死亡がなければ,11年間は生存することができた。また,年間351万6294円の年金を受領していた。 よって,年収351万6294円を基礎に,生活費控除割合を50%として,ライプニッツ方式(11年に対応するライプニッツ係数8. 306)により中間利息を控除すれば,dの逸失利益は,次のとおり1460万3169円である。 351 万6294 円× 8.306 ×(1-0.5)=1460 万3169 円(イ)慰謝料2800万円(ウ)原告らの相続原告a は,dの上記損害賠償請求権の2分の1(2130万1585円)を,原告b及び原告cは,各4分の1(各1065万0793円)をそれぞれ相続した。 イ原告a に生じた損害(合計654万8415円)(ア)慰謝料300万円(イ)葬儀関係費用75万円(ウ)証拠保全費用30万9820円(エ)弁護士費用248万8595円ウ原告bに生じた損害(合計327万4207円)(ア)慰謝料150万円(イ)葬儀関係費用37万5000円 (ウ)証拠保全費用15万4910円(エ)弁護士費用124万4297円エ原告cに生じた損害(合計327万4207円)(ア)慰謝料150万円(イ)葬儀関係費用37万5000円(ウ)証拠保全費用15万4910円(エ)弁護士費用124万4297円オ請求のまとめよって,原告らは,被告法人に対しては不法行為(使用者責任)又は診療契約の債務不履行に基づき,被告g医師に対しては不法行為に基づき,連帯して,原告a につき損害賠償金 297円オ請求のまとめよって,原告らは,被告法人に対しては不法行為(使用者責任)又は診療契約の債務不履行に基づき,被告g医師に対しては不法行為に基づき,連帯して,原告a につき損害賠償金2785万円,原告bにつき損害賠償金1392万5000円並びに原告cにつき損害賠償金1392万5000円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成14年3月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。 (被告らの主張)原告らの主張は争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,dの診療経過に関して,以下の事実が認められる。 (1)本件手術までにおけるdの大動脈瘤についての所見ア平成8年11月,dは,h病院において,直径5cmの腹部大動脈瘤があると診断された(乙A5の1)。 イ平成9年6月1日,dは,午後4時ころから背部痛や嘔気が生じ,同月2日夜には失神,失禁したため,被告病院に救急搬送され,急性心筋梗塞と診断された(甲A18,乙A5の1,2)。同日撮影されたCT画像上,dには腹部大動脈瘤が認められ,瘤径は5cmであった。また,単純CT画像上,大動脈と思われる白色影の中にコントラストの高い石灰化像が,同日撮影の造影CT画像上,大動脈壁を示すコントラストの低いドーナツ状白色影の外側に,これを取り囲むコントラストの高い白色影がそれぞれ認められ,大動脈外に漏出した血液成分の存在が認められた(乙A16,17の1ないし5,乙A19)。 ウ平成9年10月22日,dは,冠動脈造影施行,大動脈瘤精査等を目的として被告病院に入院した。その際,dには,腹部大動脈瘤,陳旧性心筋梗塞,慢性腎不全,高血圧が指摘された。被告病院の担当医師は,dの腹部大動脈瘤は径6cmの は,冠動脈造影施行,大動脈瘤精査等を目的として被告病院に入院した。その際,dには,腹部大動脈瘤,陳旧性心筋梗塞,慢性腎不全,高血圧が指摘された。被告病院の担当医師は,dの腹部大動脈瘤は径6cmの嚢状動脈瘤であり,その大きさ及び形状からは手術の適応であると考えたが,d及び原告らは,被告病院の担当医師から,造影剤を使用する検査により慢性腎不全が悪化し,血液透析を余儀なくされる危険もあるとの説明を受けて動揺し,冠動脈造影検査を受けずに,翌23日退院し,外来で経過観察を続けることとなった(乙A5の2)。 エ平成10年2月16日,dは,腹部CT検査を受けた(乙A5の3)。 同CT画像において,腹部大動脈瘤は,最大径5cmで著変がなかったが,大動脈と思われる白色影の中にコントラストの高い石灰化像が認められ,大動脈外の血液成分の存在が認められた(乙A5の3,乙A16,18の1ないし3,乙A19)。 オ平成10年5月27日,dは,左背部痛を訴えて,被告病院救急外来を受診した。同日施行された造影CT検査では,腹部大動脈瘤の破裂は否定的であった(乙A5の4,5)。 カ平成12年2月28日,dは,腹部CT検査を受け,上腸間膜動脈直下と分岐部直上に2個の大動脈瘤が認められ,前者はやや右背側への張り出しが増大していた(乙A5の6,乙A6の1)。 キ平成13年8月12日,dは,胸部圧迫感,ふらつきを訴え,被告病院救急外来を受診し,CT検査を受けた。CT画像上は大動脈解離はなく,腹部大動脈瘤に著変は認められなかった。なお,CT画像上,弓部にも動脈瘤があるように見える旨の指摘がなされた(乙A5の9,10)。 ク平成13年12月14日,dは,被告病院で腹部CT検査を受け,腹部大動脈瘤が直径6cmであった(乙A1・125頁,乙A3の1ないし6,乙A24 に見える旨の指摘がなされた(乙A5の9,10)。 ク平成13年12月14日,dは,被告病院で腹部CT検査を受け,腹部大動脈瘤が直径6cmであった(乙A1・125頁,乙A3の1ないし6,乙A24)。 ケ平成14年1月12日,dは,腹部大動脈瘤手術の検査目的で被告病院に入院した。1月15日以降に施行された心臓カテーテル検査,超音波検査,MRI検査等の結果,1月15日の血管造影検査では,大動脈弓部(左鎖骨下動脈分枝部より遠位)と,上腸間膜動脈分岐部から腸骨動脈分岐部直上までの胸腹部大動脈に大動脈瘤が認められ,腹部主要分枝は開存しているものの下腸間膜動脈は瘤から出ていることが判明した。 また,平成13年12月14日撮影のCT画像と平成14年1月15日撮影のCT画像を比較し分析したところ,弓部大動脈瘤の最大径は6. 5cmと推計され,いずれも嚢状であることが確認された。さらに,1月16日の超音波検査では,腹部大動脈に最大径6cmの瘤が認められた(乙A1・123,142,143頁,乙A2の1,2,乙A3の1ないし6,乙A24,被告g反訳書7・3頁)。 コ1月18日,dは,MR検査を受け,これにより,弓部に下方への瘤の突出と,腹部に上腸管膜動脈直下から分枝上まで最大径は5cm程度の動脈瘤の所見が報告された(乙A1・136頁)。 (2)本件手術についての説明被告g医師は,1月25日,d,原告a 及び原告bに対し,dの弓部大動脈及び胸腹部大動脈に大動脈瘤があり,これらの部位を同時に人工血管に置換する手術を行うこと,手術の際には人工心肺を使用すること,脳への血液循環が停止する間の脳保護のために,体温を低下させるHCAを用いること,体温を15℃前後まで低下させれば酸素の消費量が36℃のときの約12分の1に低下し,約60分の循環停止が可能になる ,脳への血液循環が停止する間の脳保護のために,体温を低下させるHCAを用いること,体温を15℃前後まで低下させれば酸素の消費量が36℃のときの約12分の1に低下し,約60分の循環停止が可能になること,手術はおそらく20分程度で済むと思われるが,手術範囲が広がることなどにより余計に時間がかかる可能性もあること,起こり得る合併症としては脳梗塞,縫合部からの出血,細菌感染等が考えられること,本件手術のリスクは約10%であることなどを説明し,説明書を交付した。d及び原告aは,1月26日,本件手術の同意書を提出した(甲A13ないし18,乙A1・47ないし56,408,409頁,被告g反訳書7・15,16頁)。 (3)本件手術の施行(乙A1・21,22,39ないし45,410ないし419頁)1月30日,被告g医師の執刀により,dに対し,以下のとおり本件手術(弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術)が施行された。同手術は,第4,第6肋間左開胸のアプローチにより行われ,脳保護法としてHCAが採用された。 午前11時33分,肺動脈及び左房を脱血し,左大腿動脈からの送血で人工心肺を開始するとともに,冷却を開始した。 午後零時53分,マンニトール,チオペンタール,ニカルジピン,ラジカットの注入を開始した。 午後1時3分,人工心肺を停止し,脳及び全身の血液循環を停止し,大動脈を切開した。 被告g医師は,本件手術施行前,術前の画像所見から,弓部大動脈大弯側の動脈硬化はそれほど強くないと予測し,左鎖骨下動脈基部1本あるいは分岐2本分を人工血管で置換する予定で,循環停止時間を20ないし40分間程度と予測していた。しかし,大動脈弓部を切開してみると,弓部大動脈瘤内に潰瘍性病変が多発したうえ,多量のアテロームが存在し,動脈硬化が予想よりも進行していたため,弓 環停止時間を20ないし40分間程度と予測していた。しかし,大動脈弓部を切開してみると,弓部大動脈瘤内に潰瘍性病変が多発したうえ,多量のアテロームが存在し,動脈硬化が予想よりも進行していたため,弓部全体を人工血管で置換することとなった。被告g医師は,40分を経過したころから,循環停止時間が60分を超えるのではないかと予想したが,そのまま手術を続行し,午後2時20分,人工血管の側枝と左大腿動脈からの送血を再開した(被告g反訳書7・9頁,反訳書9・11頁)。循環停止時間は,午後1時3分から2時20分までの77分間であった。 さらに,午後3時17分,被告g医師は下行大動脈を遮断し,その後,腹腔動脈,上腸管膜動脈,右腎動脈,左腎動脈を再建して,午後5時30分,下行大動脈の遮断を解除し,午後6時5分,人工心肺を停止した。 大動脈瘤壁の病理診断の結果は,動脈硬化で血栓を伴うというものであり,2個の大動脈壁のいずれにも強いコレステリン結晶沈着,線維化が認められ,部分的に中膜弾性板の消失を伴い,壁在血栓とされた検体には,部位により新鮮な血栓と器質化傾向を伴う血栓が認められた(乙A1・67,68頁)。 (4)本件手術後の経過アdは,1月30日午後9時ころ,未覚醒のまま帰室し,翌31日午前9時ころには呼びかけにかろうじて開眼したものの,同日午前11時30分ころからは刺激,呼びかけにも反応がない状態が継続した。被告病院の担当医師は,術後の抗生剤予防投与として,dに対して,1月30日から2月1日までセファメジン及びシプロキサンを投与し,同月2日及び同月3日は,セファメジンのみを投与した。また,同月2日,脳浮 腫治療薬グリセオールの投与が開始された(検査結果等一覧表,乙A1・22,23頁,乙A22)。 イdは,2月3日午前1時30分ころ,左前腋窩線 セファメジンのみを投与した。また,同月2日,脳浮 腫治療薬グリセオールの投与が開始された(検査結果等一覧表,乙A1・22,23頁,乙A22)。 イdは,2月3日午前1時30分ころ,左前腋窩線付近の創から浸出(discharge)があり,また,午前2時ころ,担当看護師によって,創部のガーゼ上の汚染拡大及び膿様ないし水様の排液の存在が確認された。 また,午後5時ころにもガーゼに直径3cmほどのうす茶色の汚染が確認され,午後10時ころにもガーゼに直径4cmほどのうす茶色の汚染が確認された(乙A1・513,515,517頁)。 その後,2月4日午前0時,同月5日午後6時には,看護師によっても創部のガーゼの汚染は認められなかった(乙A1・517,520,522,524頁)。 ウdの白血球数(成人の標準値4000~10600)は,本件手術後,1月31日19300,2月1日21000,同月2日21600であったものが,同月3日18800に減少し,その後同月4日23400,同月5日23600,同月6日21300,同月7日24500になった。また,CRP(成人の標準値0.3以下)は,1月31日に4.1,2月1日16.9,同月2日16.4であったものが,同月3日12. 6,同月4日9.9に減少し,その後同月5日11.9,同月6日17. 3,同月7日20.7になった。さらに,体温は,1月31日には38. 1℃を示したものの,その後2月1日から同月5日までは36~37℃台であったものが,同月6日には38.1℃,同月7日には39.1℃を記録した(検査結果等一覧表,乙A1・80ないし83頁)。 エ本件手術後,2月6日までのdのBUN(成人の標準値8~22)及びCr(成人の標準値0.5~1.1)は,以下のとおりであり,腎機能の低下傾向が認められた(検査結果等一 A1・80ないし83頁)。 エ本件手術後,2月6日までのdのBUN(成人の標準値8~22)及びCr(成人の標準値0.5~1.1)は,以下のとおりであり,腎機能の低下傾向が認められた(検査結果等一覧表,乙A1・25,80ないし82頁)。 1月30日BUN21Cr1.61月31日BUN24Cr2.22月1日BUN43Cr3.72月2日BUN69Cr4.32月3日BUN78Cr3.72月4日BUN82Cr3.22月5日BUN88Cr2.92月6日BUN89Cr2.7オ2月7日,dには39℃の発熱が認められ,胸部レントゲン上,左肺に胸水貯留が認められた。そこで,胸腔ドレーンが挿入され,ドレナージされた胸水を検査したところ,胸水からはグラム陽性球菌(2+)が検出された。そこで,被告病院の担当医師は,dに対し,バンコマイシン1gの投与を開始した。同日,dのBUNは98,Cr3.3と,更に腎機能の悪化が見られた(検査結果等一覧表,乙A1・25,82頁)。 カ2月8日,頭部CT検査が行われ,両側大脳半球皮質,皮質下,両側基底核,尾状核に多発する低吸収域,両側小脳,後頭葉,右頭頂葉に腫脹が認められ,多発塞栓症が疑われた。そのため,脳浮腫治療薬グリセオールの処方が増量された。また,左鼠径部から膿様の滲出液が認められた(乙A1・3,26,467頁)。 キ2月9日,同月7日に採取した血液培養,胸腔ドレーン排液培養,後腹膜腔ドレーン培養,同月8日に採取した左鼠径部創培養のいずれからもMRSAが検出された(乙A1・27,107ないし113頁)。 クその後2月12日まで,dは,腎機能の悪化傾向を示し,同日のBUNは113,Crは4.5であった(検査結果等一覧表,乙A1・83頁)。 ケ2月14日,dに 27,107ないし113頁)。 クその後2月12日まで,dは,腎機能の悪化傾向を示し,同日のBUNは113,Crは4.5であった(検査結果等一覧表,乙A1・83頁)。 ケ2月14日,dにバンコマイシン1gが追加投与された(乙A1・30頁)。2月12日に提出されたバルーン尿から大腸菌が,喀痰からセラチア,MRSAがそれぞれ検出された(検査結果等一覧表,乙A1・114ないし116)。 コ2月15日,dは,胸腔ドレーンから出血が認められ,ショック状態となった。そのため,被告病院担当医師によって,直ちに再開胸による左内胸動脈止血手術が行われた(乙A1・30,46,60,62ないし64頁)。 サ2月18日,バンコマイシン1gが追加投与された(乙A1・32頁)。同日,バンコマイシンの血中濃度の測定が実施され,ピーク値は22.9,トラフ値は3.5であった(検査結果等一覧表,乙A1・89,90頁)。 シ2月19日提出されたバルーン尿から同月21日大腸菌が,同月19日提出された喀痰から,同月21日ナイセリア,セラチア,大腸菌,MRSAが検出された(検査結果等一覧表,乙A1・118,119頁)。 ス2月21日,感染症内科へコンサルトした結果,バンコマイシンを72時間毎に1g投与することとされ,同日1g,同月24日1g,同月27日1gがそれぞれ追加投与された。2月27日に測定したバンコマイシンの血中濃度はピーク値36,トラフ値8.4であった。また,同月22日からは,ゲンタマイシンの投与も開始された(検査結果等一覧表,乙A1・33,35,89,90頁)。 (5)dの死亡dは,3月3日,敗血症性ショックが明らかな状態となり,3月5日,敗血症により死亡した(乙A1・8,37,38頁)。 争点(1)ア(手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工 頁)。 (5)dの死亡dは,3月3日,敗血症性ショックが明らかな状態となり,3月5日,敗血症により死亡した(乙A1・8,37,38頁)。 争点(1)ア(手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反の有無)について (1)原告らは,dに生じていた動脈瘤について,①疼痛など破裂切迫症状はなく,②最大瘤径5cm以上で6か月間に0.5cm以上拡大するものでもなく,③両大動脈瘤の間には正常な下行大動脈が存在しており,連続した動脈瘤ではなく,解剖学的には分割手術が困難でもなかったから,本件では同時手術の適応はなかったものであり,被告病院の担当医師には,手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反がある旨主張する。 (2)この点につき,j医師(以下「j医師」という。)は,本件については,まず弓部大動脈瘤に対する手術を行い,その回復の様子を見て3か月から半年後に腹部大動脈瘤に対する手術を行うという計画が一般的であり,同時手術を行うべきではなかった旨の意見を述べる(甲B26,証人j反訳書8・7頁,反訳書10・12頁)。 また,重複大動脈瘤の同時手術の適応に関して,①一般的には二期的手術でかつ腹部大動脈瘤手術を優先して行うことの有用性を報告するものが多いとする文献(甲B1・2頁),②広範囲大動脈瘤では,可能ならば分割手術を行うのが原則であり,例外的に同時手術の適応があるのは,解剖学的形態から分割不可能な形状を有する広範型大動脈瘤で,かつ,Ⅰ疼痛など破裂切迫症状のあるもの,Ⅱ最大瘤径が6cm以上のもの,またはⅢ最大瘤径が5cm以上で6か月間に0.5cm以上拡大するものであるとする文献(甲B2・220頁,証人j反訳書8・2頁)が存在することも認められる。 そして,dの弓部大動脈瘤と腹部大動 もの,またはⅢ最大瘤径が5cm以上で6か月間に0.5cm以上拡大するものであるとする文献(甲B2・220頁,証人j反訳書8・2頁)が存在することも認められる。 そして,dの弓部大動脈瘤と腹部大動脈瘤の間隔は,約15~20cm程度であり,その間には正常な下行大動脈が存在していたことが認められる(証人j反訳書8・5,6頁,被告g反訳書9・6頁)。 (3)しかしながら,この点については,以下の事実を指摘することができる。 ア分割手術による不利益について (ア)sealedrupture の存在a平成9年6月2日撮影の単純CT画像上,大動脈と思われる白色影の中にコントラストの高い石灰化像が,同日撮影の造影CT画像上,大動脈壁を示すコントラストの低いドーナツ状白色影の外側に,これを取り囲むコントラストの高い白色影がそれぞれ認められ,大動脈外に漏出した血液成分の存在が認められた。また,平成10年2月16日撮影の単純CT画像においても,大動脈と思われる白色影の中にコントラストの高い石灰化像が認められ,同様に大動脈外の血液成分の存在が認められた(乙A19)。以上から,dの腹部大動脈瘤については,sealedrupture(封じられた破裂)またはchroniccontainedrupture(慢性の包含型破裂),すなわち動脈瘤壁はすでに破綻しているが,大動脈瘤周辺の臓器に包含されていることで,本来ならば遊離腹腔内に流出する血液が流出しないでとどまっている状態にあることが疑われたことが認められる(乙A16,被告g反訳書7・2,3頁)。そして,被告g医師が,本件手術において腹部大動脈瘤を切開し,その中の血栓を取り除いた際,椎体をそのまま見ることができ,sealedrupture の存在が肉眼的にも確認されたことが認められる(被告 て,被告g医師が,本件手術において腹部大動脈瘤を切開し,その中の血栓を取り除いた際,椎体をそのまま見ることができ,sealedrupture の存在が肉眼的にも確認されたことが認められる(被告g反訳書7・3頁)。 以上の状態において,弓部大動脈瘤に対する人工血管置換術のみを先行させれば,人工心肺装置を導入する際に投与するヘパリン(抗凝固剤)によって血液の凝固作用が低下し,辛うじて破裂を免れていた腹部大動脈瘤から大量出血が起きる危険が高まるということができ,この点については,j医師も,破裂の危険性は明らかにある旨述べているところである(証人j反訳書8・8頁)。 一方,仮に腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術のみを先行させた場合,腹部大動脈瘤の前後で大動脈を遮断する必要があるところ, 腹部大動脈瘤の中枢側を遮断することにより,より中枢側に位置する弓部大動脈瘤にかかる圧が増大し,破裂を生じさせる危険が高まるものといえる(乙A16,被告g反訳書7・4,5頁,反訳書9・26頁)。 b以上に対し,原告らは,dについて破裂切迫症状はなかったと主張する。そして,平成10年5月27日施行の造影CT検査では,腹部大動脈瘤の「rupture(破裂)」は否定的であったこと(乙A5の4,5),平成13年8月12日施行のCT画像上,大動脈解離はなく,腹部大動脈瘤に著変は認められなかったこと(乙A5の9),診療録にsealedrupture についての記載はないこと(被告g反訳書9・4頁)が認められる。 しかしながら,平成10年5月27日,平成13年8月12日の時点で,現実の「rupture(破裂)」,「解離」を免れていたからといって,破裂が辛うじて封じられていた状態であったことが直ちに否定されるものではなく,平成9年6月2日及び平成10年2月16日 時点で,現実の「rupture(破裂)」,「解離」を免れていたからといって,破裂が辛うじて封じられていた状態であったことが直ちに否定されるものではなく,平成9年6月2日及び平成10年2月16日撮影の各CT画像上,大動脈外に漏出した血液成分の存在が認められたことは前記認定のとおりである。そして,本件手術において,腹部大動脈瘤を切開し,その中の血栓を取り除いた際,椎体をそのまま見ることができた旨の被告g医師の前記供述は,上記の客観的なCT所見と整合するものであることからすれば,dには,本件手術時にはsealedrupture の状態が生じていたと認めるのが相当である。 cまた,原告らは,仮に平成9年や平成10年の時点で切迫破裂の状態にあったのであれば,その時点で人工血管置換術等の治療が実施されていたはずであり,本件手術が平成14年1月まで行われなかったことからしても,dが切迫破裂の状態になかったことが推認 されるとも主張する。 しかし,前記1(1)ウに認定した事実によれば,被告病院の担当医師は,平成9年10月22日,dの腹部大動脈瘤が径6cmの嚢状動脈瘤であり,その大きさ及び形状から,手術の適応であると考えて,その旨をd及び原告らに説明したものの,d及び原告らが手術の実施を選択しなかったために,手術が施行されず,経過観察を続けることになったことが認められる。この点に照らせば,平成14年1月まで手術が行われなかったことから,直ちにdの腹部大動脈瘤が切迫破裂の状態になかったと推認することはできない。 (イ)術後癒着による影響次に,本件手術においては,弓部大動脈瘤,腹部大動脈瘤いずれに対しても左開胸でアプローチしているところ,分割手術を行うとすると,後から行う手術の際には,先に行った手術により生じる癒着のために,手技がより困 件手術においては,弓部大動脈瘤,腹部大動脈瘤いずれに対しても左開胸でアプローチしているところ,分割手術を行うとすると,後から行う手術の際には,先に行った手術により生じる癒着のために,手技がより困難になることが認められる(乙A16)。 仮に,先に弓部大動脈瘤に対する手術を胸骨正中切開で行った後,腹部大動脈瘤に対する手術を左開胸で行ったとしても,弓部大動脈瘤を置換した人工血管と下行大動脈との吻合部は左開胸内に位置するから,後から行う腹部大動脈瘤に対する手術の際には,中枢側の大動脈にアプローチするのが困難となることが認められる(乙A16,被告g反訳書7・4頁)。この点については,j医師も,左胸水が溜まることによって,左の胸腔全体に癒着が生じる可能性を否定していないところである(証人j反訳書8・9頁)。 (ウ)血行動態変動の影響さらに,先に行った手術により血行動態が大きく変動し,これが手術を行わなかった大動脈瘤の破裂を誘引する危険があることも認められる(乙A16,被告g反訳書7・4頁)。 以上によれば,dの弓部大動脈瘤と腹部大動脈瘤は約15~20cm程度離れており,その間には正常な下行大動脈が存在していたことを考慮したとしても,本件では分割手術を行うのに伴う危険があったと認めることができる。 イ同時手術の適応について(ア)同時手術の適応に関しては,文献上,原告らの主張する前記(2)②の基準がある一方,遠位弓部大動脈瘤については直径5cm以上の紡錘状動脈瘤又は嚢状動脈瘤,腹部大動脈瘤については直径4cm以上の紡錘状動脈瘤又は嚢状動脈瘤であれば手術適応があり,いずれの手術適応をもみたしていれば,それらの重複大動脈瘤に対する同時手術の適応があるとの見解も存在する(乙B17)。このように,原告らの主張する前記(2)②の基準が絶対的な あれば手術適応があり,いずれの手術適応をもみたしていれば,それらの重複大動脈瘤に対する同時手術の適応があるとの見解も存在する(乙B17)。このように,原告らの主張する前記(2)②の基準が絶対的なものであるとは解されない。 そして,本件では,平成13年12月14日,平成14年1月15日撮影のCT画像から弓部大動脈瘤の最大径は6.5cmと推計され,また,腹部大動脈瘤については,同月16日の超音波検査で最大径6cm,同月18日のMR検査で最大径5cmとされ,いずれも嚢状であることが確認されており(前記1(1)ケ,コ),これによれば,上記乙B第17号証に示された適応基準をみたすということができる。 (イ)なお,原告らは,平成14年1月18日のMR検査では,腹部大動脈瘤の最大径は5cm程度であるとの所見が報告されたこと(前記1(1)コ)から,これによれば,原告らの主張する「最大瘤径が6cm以上」との基準(前記(2)②)を満たさないと主張するが,前記(ア)ⅱのとおり,同時手術の適応に関しては複数の見解が存在し,原告らの主張する前記(2)②の基準が絶対的なものであるとは解されないことからすれば,たとえ腹部大動脈瘤の最大径が6cm未満であったとしても,直ちに手術適応が否定されるわけではない。むしろ,腹部大動脈 瘤については直径4cm以上の紡錘状動脈瘤又は嚢状動脈瘤であれば手術適応があるとする前記見解(乙B17)によれば,手術適応は肯定されるのであり,よって,上記MR検査所見を理由に同時手術の適応がなかったということはできない。 (4)以上のとおり,本件においては,分割手術に伴う危険があり,他方で,同時手術の適応を認め得ることに鑑みると,被告病院の担当医師に,手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反があると り,本件においては,分割手術に伴う危険があり,他方で,同時手術の適応を認め得ることに鑑みると,被告病院の担当医師に,手術適応を欠く弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反があるとは認められない。 争点(1)イ(脳等の臓器の保護が不十分なもとで弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術を実施した注意義務違反の有無)について(1)原告らは,HCAにおける循環停止許容時間はおおむね20~40分程度であり,これを超過すると致命的な脳障害発生の危険性が生じ,さらに60分を超えると死亡率が高まるから,被告病院の担当医師には,本件手術に当たり,HCAの循環停止許容時間を超過せず,またこれを超過するのであればSCPなどの保護措置をとるべき注意義務があった旨主張する。 そして,前記1(3)に認定した事実によれば,本件手術における循環停止時間は,午後1時3分から午後2時20分までの77分間であったと認められる(なお,この点につき,j医師は,左椎骨動脈への血流を送る腕頭動脈や左鎖骨下動脈腕頭動脈の再建までの時間が108分間前後であったことから,左椎骨動脈が108分間阻血状態であった可能性がある旨指摘するが(甲B26),左椎骨動脈は右椎骨動脈と連絡していたと認められること(被告g反訳書7・9頁)からすれば,上記指摘は採用できない。)。 (2)まず,HCAにおける循環停止時間の制限について検討する。 アこの点について,証拠によれば,以下の知見及び事実が認められる。 (ア)Svensson らによる報告(甲B21,乙B4) Svensson らは,1993年に発表した「Deephypothermiawithcir-culatoryarrest. Determinantsofstrokeandearlymortalityin 1993年に発表した「Deephypothermiawithcir-culatoryarrest. Determinantsofstrokeandearlymortalityin 656 pa-tients.(超低体温循環停止。656例における脳卒中と術後早期死亡率の決定因子)」において,単変量解析の結果,循環停止時間は,次のとおり術後脳卒中発生の決定因子であったと報告している。 7~29分4%(12/298)30~44分7.5%(15/201)45~59分10.7%(9/84)60~120分14.6%(7/48)また,循環停止時間が40分を超えると術後脳卒中の発生率が高まり,さらに65分を超えると死亡率が明らかに高まることが認められ,この点から,脳卒中の発現しない安全な時間はおよそ40分に制限されることが示唆されるとしている。 そして,循環停止時間及び体外循環時間が超過しないのであれば,HCAは複雑な大動脈病変のための安全な技術であると結論付けている。 (イ)Griepp らによる報告(甲B22,乙B20)Griepp らは,1994年に発表した「Hypothermiccirculatoryar-restinoperationsonthethoracicaorta. Determinantsofoperativemortalityandneurologicoutcome.(胸部大動脈手術における超低体温循環停止法。手術死亡率と脳合併症発生の決定因子)」において,多変量解析の結果,一時的な神経学的機能不全が循環停止時間と相関していたことを報告し,循環停止時間が60分未満に保たれるのであれば,HCAは十分な脳保護をもたらすとの見解を述べている。 (ウ)我が国における文献ないし知見 な神経学的機能不全が循環停止時間と相関していたことを報告し,循環停止時間が60分未満に保たれるのであれば,HCAは十分な脳保護をもたらすとの見解を述べている。 (ウ)我が国における文献ないし知見(甲B3ないし5,26,40,42,53ないし55,57ないし60,63,66) 大動脈手術における脳保護法を紹介した多くの文献において,HCAには循環停止時間の厳格な制限が存在すると説明されている。そして,その具体的な許容時間については,各文献によって差があり,見解が統一されているわけではないが,複数の文献においてSvensson らによる前記報告が引用されており(甲B3,40,42,53,59),上限を60分を超えない範囲に捉えている文献がほとんどである。 また,j医師は,HCAにおける循環停止許容時間は40分ないし60分以内であると考えられているとの意見を述べている(甲B26)。 (エ)被告g医師の文献,供述等についてa被告g医師らは,1999年に発表した「Protectiveeffectofthiopentalagainstcerebralischemiaduringcirculatoryarrest.(循環停止中の脳虚血に対するチオペンタールの予防効果)」において,HCAの最も重要な欠点の1つは循環停止時間の制限であると述べている(甲B43,乙B5,29の6)。 bまた,前記1(2)に認定したとおり,被告g医師は,1月25日,dらに対し,本件手術の説明を行った際,HCAを用いることについて,体温を15℃前後まで低下させれば酸素の消費量が36℃のときの約12分の1に低下し,約60分の循環停止が可能になることを説明し,その旨手術説明書にも記載したことが認められる。そして,被告g医師は,60分という時間につい 下させれば酸素の消費量が36℃のときの約12分の1に低下し,約60分の循環停止が可能になることを説明し,その旨手術説明書にも記載したことが認められる。そして,被告g医師は,60分という時間について,これが限界であるとまでは述べていないものの,循環停止時間の1つの目安であることは肯定する趣旨の供述をしている(被告g反訳書7・7頁,反訳書9・26頁)。 以上のとおり,HCAを紹介したほとんどの文献において,HCAに は循環停止時間の制限があるとされていること,HCAが広く採用されている欧米において,HCAにつき40分ないし60分以内を安全な循環停止時間とする報告が存在すること,それらの報告は我が国の文献でも広く引用されており,j医師も循環停止許容時間は40分ないし60分以内であるとの意見を述べていること,被告g医師も60分が循環停止時間の1つの目安であると認めていることなどを総合すれば,一般的な見解として,HCAには循環停止時間の制限が存在し,その上限は長くとも概ね60分程度であると考えられていることが認められる。そして,この点からすれば,脳保護法としてHCAを選択する場合には,原則として,循環停止時間を60分以内とすることが要求されるものと解するのが相当である。 イこれに対し,被告らは,HCAについて循環停止時間の制限は存在しないと主張する。 そして,①Svensson らによる前記報告において,多変数解析の結果では,循環停止時間の長さは,死亡や術後脳卒中の独立した決定因子ではなかったとされていること(甲B21,乙B4),②Griepp らによる前記報告において,多変量解析の結果,術後脳卒中発生の最も重要な決定因子は,高齢であること及び血栓ないしアテロームの存在であり,また,死亡率はHCAの使用に関連するパラメータによって影 p らによる前記報告において,多変量解析の結果,術後脳卒中発生の最も重要な決定因子は,高齢であること及び血栓ないしアテロームの存在であり,また,死亡率はHCAの使用に関連するパラメータによって影響されなかったとされていること(甲B22,乙B20),③被告g医師らによるものとして,神経学的合併症と循環停止時間との間に統計学的に著明な相関関係は認められなかったとする2000年発表の報告(甲B44,乙B3,29の7),スピルスマン順位相関係数テストの結果,神経系の合併症発生率と循環停止持続時間の相関性は認められなかったとする報告(甲B7),多変量解析の結果では術後脳合併症発生のリスクファクターはCABG(冠動脈バイパスグラフト)の併設のみであり,循環停止 時間と脳合併症発生との間に相関関係は認められなかったとする2002年発表の報告(甲B23)が存在することが認められる。 しかしながら,Svensson らは,前記報告において,多変量解析の結果,循環停止時間が死亡や脳卒中発生の最も重要な決定因子ではなかったとしても,単変量解析の結果等からして,循環停止時間の長さは重要であるとしており(甲B21・25頁,乙B4・25頁),また,Griepp らによる前記報告では,多変量解析の結果で,一時的な神経学的機能不全と循環停止時間との間に相関関係が認められている(甲B44,乙B2)。その上で,これらの各報告は,前記のとおり,安全な循環停止時間はおよそ40分に制限され,これを超過しないのであればHCAは安全な技術である(前記ア(ア)),あるいは,循環停止時間が60分未満に保たれるのであればHCAは十分な脳保護をもたらす(前記ア(イ))と結論付けており,いずれも60分以上の循環停止時間を許容する立場に立っていないことからすれば,前記①,②によって 時間が60分未満に保たれるのであればHCAは十分な脳保護をもたらす(前記ア(イ))と結論付けており,いずれも60分以上の循環停止時間を許容する立場に立っていないことからすれば,前記①,②によって循環停止時間の制限が否定されるものではない。 また,確かに,被告g医師らによる前記③の各報告は,循環停止時間の制限を観念することに対して疑問を投げかけるものであるということはできるけれども,他方で,前記のとおり,循環停止時間の制限を論じたSvensson らやGriepp らによる報告は我が国における文献でも多く引用されており,一般的に支持されているものであると推認できること,被告g医師も60分が循環停止時間の1つの目安となることは認めていることなどに鑑みれば,循環停止時間の制限についての前記認定を左右するに足りるものではないというべきである。 よって,被告らの前記主張を採用することはできない。 (3)そこで,本件手術において循環停止時間が77分間に及んだことについて過失が認められるか検討する。 アこの点について,j医師は,HCAにおける循環停止許容時間を超えることが予測された時点(30分ないし40分が経過したころ)でSCPやRCPなどの他の脳灌流法に切り替えるべきであった旨の意見を述べている(甲B26,証人j反訳書10・5,7頁)。そして,本件ではHCA下で循環停止時間が77分間に及んだが,SCPやRCPといった他の脳灌流法は用いられなかったことが認められる。 イしかしながら,この点については,以下のとおり指摘することができる。 (ア)循環停止時間が77分に及んだ経緯について被告g医師は,本件手術施行前,術前の画像所見から,弓部大動脈小弯側の動脈硬化はかなり強いが,大弯側の動脈硬化はそれほど強くなく,大弯側は弓部を全置換するほ 循環停止時間が77分に及んだ経緯について被告g医師は,本件手術施行前,術前の画像所見から,弓部大動脈小弯側の動脈硬化はかなり強いが,大弯側の動脈硬化はそれほど強くなく,大弯側は弓部を全置換するほどではないと予測していたため,本件手術に要する循環停止時間は大体20分ないし40分以内であろうと考えていた(被告g反訳書7・10頁,反訳書9・24頁)。しかし,本件手術に着手した後,弓部大動脈瘤内に多量のアテロームが存在していたこと,弓部大動脈の動脈硬化が術前に予想していたよりも強かったことが判明し,弓部全体を人工血管で置換する必要が生じて,そのために循環停止時間に77分を要したことが認められる(被告g反訳書7・9頁,反訳書9・23,24頁,なお,大動脈瘤壁の病理診断の結果でも,動脈硬化で,新鮮な血栓と器質化傾向を伴う血栓が存在したことが認められる(前記1(3)))。 そして,この点につき,弓部大動脈については,その解剖学的位置関係に照らし,術前の画像診断だけでは存在するアテロームの量を明確に診断できないとされていることからすれば,本件手術前に循環停止時間が60分を超えることを予測することは困難であったと認められる(被告g反訳書7・9頁,反訳書9・23頁)。この点について は,j医師も,弓部の状態や弓部の置換範囲を術前に予測することは難しく,HCA下で大動脈手術を施行した場合において,術前の見込みよりも病変が進行していたなどの理由により,アテロームの除去や置換範囲の拡大のために手術時間が延長し,結果的に循環停止時間が60分を超過することが不可避的に生じ得る旨述べているところである(甲B26,証人j反訳書10・7,8頁)。そして,本件手術は,まさにそのような理由により手術時間が延長し,結果的に77分の循環停止時間を要するに至ったと認め 避的に生じ得る旨述べているところである(甲B26,証人j反訳書10・7,8頁)。そして,本件手術は,まさにそのような理由により手術時間が延長し,結果的に77分の循環停止時間を要するに至ったと認めることができる(被告g反訳書9・23頁)。 以上に照らせば,本件手術において77分の循環停止時間を要したことにはやむを得ない面があったということができる。 そして,77分間に及ぶことを術前に予測することが難しかった以上,g医師が,SCPやRCPを用いず,HCA単独で本件手術を開始したことに問題があったとは認められない(証人j反訳書10・6頁)。 (イ)HCA以外の脳灌流法への切り替えの適否についてa前記のとおり,j医師は,HCAにおける循環停止許容時間を超えることが予測された時点でSCPやRCPなどの他の脳灌流法に切り替えるべきであった旨の意見を述べている(甲B26,証人j反訳書10・5,7頁)。そして,被告g医師は,本件手術中,循環停止時間が約40分を経過した時点で,残りの吻合部位に照らせば循環停止時間は60分を超過するであろうと考えた旨供述するところ,その時点でSCPに切り替える,あるいはRCPを併用することも技術的には可能であったと認められる(被告g反訳書7・10,11頁,反訳書9・27頁)。 bしかしながら,SCP,RCPについては,次の欠点が指摘され ている。 (a)SCPにおいては,HCAと比較してより生理的条件に近く,弓部操作に厳密な時間制限がなく,極端な超低体温法を併用する必要がない点において有利であるが,弓部分枝に送血管を挿入する必要が生じ,粥腫,血栓塞栓症の危険があると言われている(甲B39,40等)。弓部大動脈から分岐している腕頭動脈,左総頚動脈,左鎖骨下動脈にバルーン付きカニューレを挿入して脳への送血 管を挿入する必要が生じ,粥腫,血栓塞栓症の危険があると言われている(甲B39,40等)。弓部大動脈から分岐している腕頭動脈,左総頚動脈,左鎖骨下動脈にバルーン付きカニューレを挿入して脳への送血が行われるところ,特に本件のように,弓部大動脈付近の動脈硬化が強く,アテロームが多量に存在しているような場合には,バルーン付きカニューレを挿入し,バルーンを膨らませる際に,付近に存在するアテロームないし血管内皮から剥がれ落ちた内膜が飛散して脳血管を塞栓する危険がある(被告g反訳書7・11頁,反訳書9・9,10,22頁)。この点については,j医師も,バルーンとの接触による内膜を損傷したり,アテロームを押し込む形になり,脳血栓,脳塞栓症を惹起する危険があることを認めているところである(証人j反訳書10・4,7頁)。 (b)また,RCPについては,循環停止の許容時間が延長され,粥腫,血栓の弓部分枝内への塞栓予防に有用であるが,灌流が高圧になれば脳浮腫を来すという欠点が指摘されており,虚血許容時間をどの程度延長できるのかについても明確な結論が得られていない(甲B38,39,乙B19,被告g反訳書9・27頁)。 この点については,j医師も,静脈圧を強制的に上昇させ灌流させることにより,組織の浮腫が惹起され,脳に幾ばくかの障害を与えかねないという懸念があるとの意見を述べているところである(証人j反訳書10・3,4頁)。 そして,以上のような危険性に加え,術中にSCP,RCPを新 たに導入することにより手術時間が延長されること,前記Svenssonらの報告によっても,脳卒中の発生率が,30~44分では7.5%,45~59分では10.7%であったものが,60~120分では14.6%と報告されており,60分を超えれば直ちに脳梗塞が発生するとされている によっても,脳卒中の発生率が,30~44分では7.5%,45~59分では10.7%であったものが,60~120分では14.6%と報告されており,60分を超えれば直ちに脳梗塞が発生するとされているわけではないことを考慮すれば,循環停止許容時間を超えることが予測された時点で,必ずSCPやRCPなどの他の脳灌流法に切り替えなければならないと言えるものではなく,担当医師としては,当時の患者の状況,超過が予測される時間,病変部の状況などを総合勘案して,より患者への危険が少ないと判断される方法を採るべきであったと認めるのが相当である。 cこの点につき,原告らは,前記bのようなSCP,RCPの欠点はすでに克服されたものであると主張する。 確かに,SCPについて,塞栓症の危険を低下させるために,弓部分岐部ではなく分岐部より1~2cm程度末梢側からカニュレーションを行う方法も存在することが認められる(甲B53,63,67,68)。しかし,これは,SCPについては,塞栓症を引き起こす危険があるとされていることを前提に,そのリスクを低下させるための一方策として紹介されているにすぎないものであり,これにより塞栓症の危険が完全に防止されるものとは解されない。そして,前記1(3)のとおり,本件手術時,dの弓部大動脈瘤内には多量のアテロームが存在し,動脈硬化が術前の予想よりも進行していたことからすれば,本件でSCPを採用することには,相当程度のリスクがあったと認めることができ,原告らの主張は採用できない。 また,RCPについても,高い灌流圧を避けることが術後脳浮腫対策の1つであるとする文献が存在するが(甲B63),この点についても,脳浮腫のリスクが克服されているとまでは認められない。 dそして,j医師は,これらの脳保護法にはそれぞれ利点と欠点があり, 策の1つであるとする文献が存在するが(甲B63),この点についても,脳浮腫のリスクが克服されているとまでは認められない。 dそして,j医師は,これらの脳保護法にはそれぞれ利点と欠点があり,どの方法を採用するかは,その医師の育っていく環境にもよるとも述べているところであり(証人j反訳書10・3頁),脳保護法の問題は,患者の状況に加え,医師の当該方法に対する熟練度等も考慮したうえで,最も危険の少ない方法が選択されるべき問題であると考えられる。 (ウ)脳保護剤の使用についてa被告g医師は,本件手術において,HCAを用いるほかに,チオペンタール,ニカルジピン,マンニトール,ラジカットを使用した。 このように,HCAに併せてチオペンタールなどの脳保護剤を使用することが循環停止時間の延長をもたらし得ることについては,被告g医師らによる以下の報告が存在する。 (a)PharmacologicalCerebroplegia を用いた超低体温循環停止法による弓部大動脈瘤人工血管置換術,1997年(乙B29の1)39例の弓部大動脈瘤に対して,HCAにpharmacologicalcerebroplegia を用いて人工血管置換術を施行した結果,脳合併症はほとんど認められなかった(pharmacologicalcerebroplegia とは,electrocerebralsilence(電気脳沈黙)の後に循環停止時間の延長を目的として投与するもので,組成は,チオペンタール,ニカルジピン,マンニトールである。被告g医師らは,薬理学的に脳保護効果があるといわれている薬剤を用いて脳保護を行ったので,従来までのcerebroplegia(組成は,冷却した血液又は酸素加晶質液で,低温,酸素供給,pH維持,代謝産物の洗い流しによる脳保護効果が 果があるといわれている薬剤を用いて脳保護を行ったので,従来までのcerebroplegia(組成は,冷却した血液又は酸素加晶質液で,低温,酸素供給,pH維持,代謝産物の洗い流しによる脳保護効果があると考えられると報告されている。)と区別する意味でpharmacologicalcerebroplegia としている。)。 チオペンタールは,超低体温によって常温の20%まで低下した脳代謝をさらに11%まで低下させることができると言われ,ニカルジピンは,脳虚血時のCaイオンの細胞内への過剰流入を抑制し,脳循環停止前に投与すると脳の虚血障害範囲を縮小することができると言われ,マンニトールは,脳虚血によって生じる脳浮腫を抑制し,また,虚血によって産生されるフリーラジカル(不対分子をもつため不安定で反応性の高い原子や分子であり,活性酵素がその代表例である。)に対する抗酸化物質として作用すると言われている(Tan,P.S.K:Theanestheticmanagementofcirculatoryarrest.Br.J.Hosp.Med.43:36 ~44,1990)。このcerebroplegia の脳保護効果を検証するために,内頚静脈酸素分圧をモニターし,cerebroplegia 投与前後で比較したところ,温度は一定であったのに対して,内頚静脈酸素分圧は,cerebroplegia 投与後は投与前に比べて上昇していた。すなわち,超低体温によって低下した脳代謝が,cerebroplegia 投与によってさらに低下したことを示唆すると思われた。また,臨床成績も術後に麻痺を認めた症例はなく,当初,WAIS(ウェクスラー成人知能検査)上異常が認められた2例も遠隔期には明らかな脳後遺症を残しておらず,脳保護効果は優れていたと考えら 思われた。また,臨床成績も術後に麻痺を認めた症例はなく,当初,WAIS(ウェクスラー成人知能検査)上異常が認められた2例も遠隔期には明らかな脳後遺症を残しておらず,脳保護効果は優れていたと考えられる。 (b)Protectiveeffectofthiopentalagainstcerebralischemiaduringcirculatoryarrest.(循環停止中の脳虚血に対するチオペンタールの予防効果),1999年(甲B43,乙B5,29の6)チオペンタール投与開始後に循環停止とし,HCAにより弓部大動脈手術を行った50例について,チオペンタール投与後,内頚静脈酸素分圧が有意に上昇し,チオペンタールが脳酸素消費量 を減少させることが示唆された。 (c)Aorticarchrepairusinghypothermiccirculatoryarresttechniqueassociatedwithpharmacologicalbrainprotection (薬理学的脳保護を加えた超低体温循環停止法による大動脈弓部手術),2000年(甲B44,乙B3,29の7)チオペンタール,ニカルジピン,マンニトールを併用してHCAによる弓部大動脈手術を行った75例について,循環停止時間が45分を超過した症例の術後脳卒中発生率は5.4%(6/37)であり,術中又は術後早期に死亡した3例を術後脳卒中を発症したと仮定したとしても8.1%(9/37)であり,いずれもSvensson らが報告した発生率(45~59分で10.7%,60~120分で14.6%。前記(2)ア(ア))よりも良好であった。 Svensson らの報告との唯一の違いは,脳保護剤の使用であり,チオペンタール,ニカルジピン,マンニトールの 分で10.7%,60~120分で14.6%。前記(2)ア(ア))よりも良好であった。 Svensson らの報告との唯一の違いは,脳保護剤の使用であり,チオペンタール,ニカルジピン,マンニトールの併用は,弓部大動脈手術の循環許容時間を延長することが示唆された。 これらの報告に照らせば,被告g医師らのグループは,チオペンタールが超低体温によって常温の20%まで低下した脳代謝をさらに11%まで低下させることができるなどの海外での研究結果報告を踏まえ,チオペンタールなどの投与による循環停止時間の延長に取り組んでおり,本件手術においては,脳保護のために,HCA単独ではなく,被告g医師らの研究により一定の効果が示唆されたチオペンタールなどの薬剤により,循環停止中における脳保護を図ったものと認めることができる。 b以上に対し,原告らは,循環停止時間延長のためにチオペンタールなどの薬剤を使用するのは適応外使用であり,それぞれの薬剤,その併用による循環停止時間の延長効果についてはエビデンスがな い旨主張する。 確かに,能書上,チオペンタールを始めとする前記4薬剤について,循環停止時間の延長に適応があるとされていないことは,原告ら主張のとおりである(乙B9ないし12)。そして,HCA下におけるバルビツレート系薬剤の脳保護作用について否定的な見解に立つ報告も存在し(甲B45,71),前記4薬剤を投与することにより循環停止時間の延長を図ることができるという点について,コンセンサスが得られているとまでは認め難い。 そうすると,チオペンタールなどの前記4薬剤を投与してさえいれば,60分という循環停止時間の制限を超過しても問題がないと即断することはできない。 しかしながら,被告g医師らの報告において,pharmacologicalcerebropleg 投与してさえいれば,60分という循環停止時間の制限を超過しても問題がないと即断することはできない。 しかしながら,被告g医師らの報告において,pharmacologicalcerebroplegia の脳保護効果が示唆されたこと,チオペンタールが脳酸素消費量を減少させることが示唆されたこと,また,チオペンタール,ニカルジピン,マンニトールの併用が弓部大動脈手術の循環許容時間を延長することが示唆されたことは,前記のとおりである。 そして,それらが,一定数の症例を比較分析したものであり,エビデンスとしての価値が全くないとまではいえないこと,被告g医師らによる報告以外にも,循環停止中の脳保護としてチオペンタールやバルビツレート系薬剤の使用を挙げる文献が存在すること(乙B38),j医師も,前記4薬剤について,一般的に承認されている薬効を前提として,循環停止中の脳代謝低下,脳保護の効果を期待することは十分にできる旨証言していること(証人j反訳書8・14頁)に鑑みると,HCAに加えて,循環停止中の脳保護効果を期待して前記4薬剤を併用することに合理性がないとまではいうことができず,原告らの主張は採用できない。 この点,原告らは,チオペンタールなどのバルビツレート系薬剤は,全脳虚血時や脳波平坦時には脳保護効果がない旨主張し,これに沿う内容の文献を提出する(甲B68ないし70,72ないし74,76,77)。しかし,これらがHCA下におけるチオペンタールなどの効果を直接論じたものでないことに照らすと,これらによって被告g医師らによる前記報告の信頼性が完全に否定されるものとも解されない。 ウそこで,循環停止時間が60分を超えることが判明した時点で,被告g医師が,SCP,RCPに切り替えるべき義務があったかについて検討する。 以上のとおり,①d 全に否定されるものとも解されない。 ウそこで,循環停止時間が60分を超えることが判明した時点で,被告g医師が,SCP,RCPに切り替えるべき義務があったかについて検討する。 以上のとおり,①dの弓部には,新しい血栓を含むアテロームが多数存在していたこと,②したがって,SCPを採用することには重大な危険が予想され,仮に分枝部から1~2cm程度末梢側からカニュレーションを行うとしても,相当程度の危険は存在したと予想されること,③RCPについても脳浮腫等発生の危険が存在し,その虚血延長時間についてもなお議論があること,④いずれの方法にせよ,新たな脳保護法を採用すれば,それだけ手術時間は延長されること,⑤一方,チオペンタールなどの薬剤を使用することによって,HCAで常温の20%まで低下した脳代謝をさらに11%まで低下させることができるとの海外での報告が存在し,被告g医師らの報告によって,その実効性が示唆されていたこと,⑥Svensson らの報告によれば,循環停止時間が60~120分の場合脳卒中の発生率が14.6%とされているが,45~59分の場合でも10.7%とされており,循環停止時間を延長することによる危険の増加と,アテロームが多数存在する状況下でSCPを採用することによる危険の増加と,どちらの危険が少ないかの判断は慎重に行う必要があること,⑦術式の選択にあたっては,その医師にとっての経験数 も考慮せざるを得ないと考えられるところ,被告g医師は,HCAの経験数が多かったと認められること(弁論の全趣旨)に照らせば,被告g医師において,アテロームが多数存在する状況下でSCPを採用するよりは,チオペンタールなどの薬剤を使用しつつHCAを継続する方がより危険が少ないと判断したことが,直ちに不合理であるとは認められない。 したがって, テロームが多数存在する状況下でSCPを採用するよりは,チオペンタールなどの薬剤を使用しつつHCAを継続する方がより危険が少ないと判断したことが,直ちに不合理であるとは認められない。 したがって,被告g医師において,循環停止時間が60分を超えることが判明した時点で,SCP又はRCPに切り替えることが義務であったとまで認めることはできないというべきである。 (4)よって,争点(1)イについての原告らの主張を採用することはできない。 争点(1)ウ(アテローム飛散の防止義務違反の有無)について(1)原告らは,被告病院の担当医師には,本件手術を行うに当たり,アテローム飛散を防ぐために,胸骨正中切開(仰臥位)によるべき注意義務があったと主張する。 (2)この点につき,弓部大動脈瘤に対する人工血管置換術を胸骨正中切開(仰臥位)で行った場合には,循環停止中に手術操作で遊離したアテロームは下行大動脈に落ち,順行性に血流を再開する限り,脳塞栓源とはならないのに対し,左開胸(右側臥位)で行った場合には,遊離したアテロームは上行大動脈に落ちるため,たとえ順行性に血流を再開しても,脳塞栓の原因となり得ることが認められる(甲B20・37頁,甲B39・230頁,甲B40・89頁)。 (3)しかし,左開胸(右側臥位)により弓部大動脈瘤の手術が行われる場合も存在するのであり,弓部大動脈瘤に対する手術において,左開胸(右側臥位)によるアプローチが一般的に禁忌とされているわけではない(甲B39・230頁,甲B40・89頁,被告g反訳書7・14頁)。 そして,本件においては,①弓部大動脈にアテロームが存在したことは, 弓部大動脈を開いてから始めて判明したものであること,②腹部大動脈瘤にはsealedrupture が存在し,その破裂の危険に対処するために同時 は,①弓部大動脈にアテロームが存在したことは, 弓部大動脈を開いてから始めて判明したものであること,②腹部大動脈瘤にはsealedrupture が存在し,その破裂の危険に対処するために同時手術を選択しているにもかかわらず,胸骨正中切開によるアプローチでは,破裂の危険がある腹部大動脈瘤を視認できない状態で手技を行わなければならなくなること(被告g反訳書7・14頁,証人j反訳書10・2頁),③弓部大動脈瘤へのアプローチに胸骨正中切開を用いると,腹部大動脈瘤手術のための左開胸と合わせて2か所を切開することになる結果,侵襲性が高まり,また,体位変換による創汚染の危険も高まること(弁論の全趣旨)などからすれば,胸骨正中切開によるべきであったとは認められない。 なお,j医師は,胸骨正中切開によった場合の利点を述べているが(甲B26),これは,分割手術を前提とした場合の意見であり,本件手術とは前提を異にするものであるから,上記判断を左右するものとはいえない。 (4)したがって,被告病院の担当医師に,本件手術を行うに当たり,アテローム飛散を防ぐために,胸骨正中切開によるべき注意義務があったとは認められない。 争点(1)エ(説明義務違反の有無)について(1)手術リスクに関する説明義務についてア原告らの主張するとおり,被告病院の担当医師には,本件手術前,d又は原告らに対して,本件手術に伴うリスクを十分に説明すべき義務があったといえる。 しかし,前記1(2)に認定した事実によれば,被告g医師は,本件手術前,d及び原告らに対し,本件手術のリスクを10%と説明したことが認められ,上記説明義務を果たしたものと認めることができる。 イこの点につき,原告らは,被告病院循環器センターのウェブサイトには,弓部大動脈瘤手術の手術リスクが10%である旨掲 0%と説明したことが認められ,上記説明義務を果たしたものと認めることができる。 イこの点につき,原告らは,被告病院循環器センターのウェブサイトには,弓部大動脈瘤手術の手術リスクが10%である旨掲載されており,また被告g医師の論文でも,弓部大動脈瘤手術を受けた患者88人のう ち10人(11.4%)が手術中に死亡したと述べられているから,前記説明は,弓部大動脈瘤手術のリスクを説明したものにすぎず,同時手術のリスクを適切に説明したものとはいえない旨主張する。 確かに,①被告病院循環器センターのウェブサイトには,「執刀医のコメント」として「特に大動脈弓部にある動脈瘤は手術が難しいとされていますが,手術リスクは10%と欧米の一流施設の成績を上回る好成績をだしています」と掲載されていること,②被告g医師が,自らの論文において,1991年11月から2001年2月までの間に,21歳から83歳までの88人の患者がHCAによる弓部大動脈手術を受け,手術による死亡率は11.4%(88人中10人が死亡)であった旨記載していること(甲B7)が認められる。 しかしながら,dの弓部大動脈瘤は遠位弓部大動脈瘤であったところ,前記ウェブサイトに示された手術リスクは,すべての弓部大動脈瘤手術に関してのものであり(被告g反訳書7・16,17頁),これが遠位弓部大動脈瘤手術のリスクを示したものであるとは認められない。そして,被告g医師が,遠位弓部大動脈瘤手術に限定すれば,本件手術が施行された平成14年1月までの被告病院における死亡率は約4.4%であったと供述していること(被告g反訳書7・16,17頁),また,平成15年の日本胸部外科学会総会において,1991年から2003年4月にかけて被告病院で施行した左開胸,HCAによる遠位弓部大動脈瘤手術33例のうち病院死亡は 告g反訳書7・16,17頁),また,平成15年の日本胸部外科学会総会において,1991年から2003年4月にかけて被告病院で施行した左開胸,HCAによる遠位弓部大動脈瘤手術33例のうち病院死亡は1例(3%)であったと報告していること(乙B30)に照らすと,被告g医師が,遠位弓部大動脈瘤手術のリスクについての上記認識を踏まえて,同時手術である本件手術のリスクを10%と説明したことが不適切であったとはいえない。 ウまた,原告らは,被告g医師が,dの腹部大動脈瘤は切迫破裂の状態でなかったにもかかわらず,dに対し,それがいつ破裂してもおかしく ないと説明した旨主張する。しかし,dの腹部大動脈瘤にsealedrup-ture が認められ,出血を辛うじて免れている状態であったことは前記認定のとおりであり,この点に照らせば,被告g医師がdの腹部大動脈瘤について「いつ破裂してもおかしくない」と説明したことが不適切であったとはいえない。 エしたがって,被告病院の担当医師に手術リスクに関する説明義務違反があったとは認められない。 (2)脳保護法に関する説明義務についてさらに,原告らは,本件手術の脳保護方法について,被告病院の担当医師は,d及び原告らに対し,①HCA,SCP,RCPそれぞれの術式,利害得失,予後,②HCA単独でチオペンタールなどを投与して循環時間を引き延ばす方法を行う者はほとんどおらず,しかもチオペンタールなどを循環停止時間の延長に用いることは適応外使用であり,その効果についてはエビデンスがないことなども説明すべきであった旨主張する。 しかし,①どのような脳保護法を用いるかは,あくまで本件手術(弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術)の施行に付随する問題であるところ,被告g医師は,本件手術の内容,方法,合併症に関して,前記(1)ア しかし,①どのような脳保護法を用いるかは,あくまで本件手術(弓部及び胸腹部大動脈人工血管置換術)の施行に付随する問題であるところ,被告g医師は,本件手術の内容,方法,合併症に関して,前記(1)アのとおり,十分な説明を行ったと認められること,②手術前には,弓部大動脈内のアテロームの状況は認識し得ず,循環停止時間を20分ないし40分と予想して,脳保護法として,HCA単独で行う予定としたことが不相当ではなかったこと,③被告g医師は,脳保護法としてHCAを採用すること及びその原理についても説明をしており,脳保護法に関しても一定の説明がされたと評価できること,④本件手術においては,弓部大動脈切開後に初めて循環停止時間が60分を超えることが予想されたところ,その時点で,SCP,RCPについて家族に説明をし,同意を求める時間的余裕があったとは考えられないこと,⑤そもそもHCA,SCP,RCPそれぞ れの優劣については定まった議論が存在せず,その選択は各医療機関において様々であること(被告g反訳書7・13頁,反訳書9・32頁)などからすれば,被告g医師に,原告及びdに対して,HCA,SCP,RCPそれぞれの術式,利害得失,予後について説明すべき義務があったとは認められない。 また,被告g医師は,本件手術前,本件手術に要する循環停止時間を20分ないし40分以内と予測していたものであり(被告g反訳書7・10頁,反訳書9・24頁),当初からチオペンタールなどの使用による循環停止時間の延長を企図していたわけではないことに照らせば,チオペンタールなどを循環停止時間の延長に用いることが適応外使用であることや,その効果について十分なエビデンスがないことなどを説明すべき義務があったとも認められない。 争点(1)オ(MRSA感染防止策を怠った注意義務違反 止時間の延長に用いることが適応外使用であることや,その効果について十分なエビデンスがないことなどを説明すべき義務があったとも認められない。 争点(1)オ(MRSA感染防止策を怠った注意義務違反の有無)について(1)一般的な予防策についてア原告らは,dが本件手術後にMRSAに感染したのは,被告病院においてdの治療,看護に従事した者が手洗い,消毒,マスクやガウンの着用等の感染防止策を怠ったことによるものである旨主張する。 そして,原告bは,2月14日まで,感染対策用のガウンやマスクを着用している医師や看護師はいなかった旨供述する(原告b反訳書5・4,5頁)。また,dがCCUに入院していた1月30日当時,CCUにMRSA患者が存在したこと(乙A8),1月30日にMRSA患者の担当であった看護師が,同日午後10時45分,dの輸血パックを受け取ったこと(甲A5,21,乙A1・390頁),1月31日にMRSA患者の担当となった看護師が2月2日にdの担当となったこと(甲A7の1,2,甲A21),病院内において医療従事者を介したMRSA感染が起こり得ること(甲B14・23,24頁,甲B15・21 頁)が認められる。 イしかし,本件当時,被告病院には感染症対策のマニュアルが存在し,同マニュアルには,手洗い,消毒,マスクやガウンの着用等の対策事項が詳細に定められていること(乙B21),被告病院において院内感染対策の責任者を務めていたk医師(以下「k医師」という。)が,被告病院では上記マニュアルに基づいて感染症防止対策が採られており,ガウンやマスクの着用等が励行されていた旨証言していること(乙A22,証人k反訳書1・1,2頁)からすれば,本件当時,被告病院においては,感染防止策が採られていなかった旨の前記原告bの供述を直ちに採用すること クの着用等が励行されていた旨証言していること(乙A22,証人k反訳書1・1,2頁)からすれば,本件当時,被告病院においては,感染防止策が採られていなかった旨の前記原告bの供述を直ちに採用することができない。 そして,同じ看護師がMRSA感染患者と他の患者を担当したとしても,時間帯が異なり,感染防止対策が講じられている以上,義務違反とはいえないから,被告病院にMRSA感染防止策を怠った注意義務違反があるとの原告らの主張は採用できない。 ウなお,原告らは,dのMRSA感染経路につき,1月29日付け手術患者申送書に「MRSA-」と記載されていること(乙A1・496頁)からすれば,dは,術前,MRSAの保菌者ではなかったといえるから,術後に被告病院の人や物を通じてMRSAに感染したとしか考えられない旨主張する。 しかし,MRSAは常在菌の1つであるところ(甲B15・19頁,甲B16・1頁,乙B24・459,460頁),術前,dに対して,MRSAのスクリーニングが行われたと認めるに足りる証拠はないこと,申送書の前記記載はMRSAの感染徴候がない旨を記載したにすぎない可能性もあり得ることからすれば,前記記載のみをもって,dが本件手術前からMRSAを保菌していた可能性を否定することはできない(乙A22,証人k反訳書3・9頁,証人l反訳書4・3頁)。そして,d とMRSA患者とが,同じCCU内に滞在していた期間は,1月30日から2月1日までの48時間以内であり,その間,MRSA患者は個室に入室しており,同一時間帯に同一看護師が両者の担当者を兼ねたことはなかったことが認められるから(甲A21,乙A8,9,22),したがって,dのMRSA感染経路は不明であるといわざるを得ない。 そして,文献において,「MRSAは,既に医療環境では『常在菌』とな はなかったことが認められるから(甲A21,乙A8,9,22),したがって,dのMRSA感染経路は不明であるといわざるを得ない。 そして,文献において,「MRSAは,既に医療環境では『常在菌』となっており,感染予防や伝播を完全に阻止する有効な手段は見い出し難い」と指摘されていること(甲B16・3頁)に照らせば,dがMRSAに感染した事実から,直ちに被告病院においてMRSA感染の防止についての注意義務違反があったと推認することはできない。 (2)術前のMRSA保菌検査等についてア原告らは,被告病院の担当医師には,dに対し,本件手術前にMRSA保菌検査を行い,陽性であればムピロシンなどの薬剤で除菌を行うべき義務があったと主張する。 そして,l医師(以下「l医師」という。)は,意見書において,MRSAは健常者の約30%が鼻腔等に保菌しているところ,MRSA保菌者は,心臓や大血管の置換術等の開胸手術後に術後感染を起こす危険性が高いため,術前の一般的な検査,処置として,MRSA保菌の有無についての検査を行い,陽性であればムピロシンなどの薬剤による除菌治療を実施するものであり,被告病院の担当医師が術前のMRSA保菌検査を実施しなかったのは不適切であるとの意見を述べている(甲B24の1)。 また,①CDC(米国疾病予防管理センター)によるGuidelineforPreventionofSurgicalSiteInfection, 1999(手術部位感染防止ガイドライン1999)においては,可能な限り,定時手術の前には手術部位から遠隔した感染症を特定,治療し,遠隔部位感染症を有する患者は,その 感染症が治癒するまで定時手術を延期することが推奨されていること(甲B25・210頁),②順天堂大学医学部附属順天堂医院心臓血管外科及び慶應 を特定,治療し,遠隔部位感染症を有する患者は,その 感染症が治癒するまで定時手術を延期することが推奨されていること(甲B25・210頁),②順天堂大学医学部附属順天堂医院心臓血管外科及び慶應義塾大学医学部麻酔学教室の各ウェブサイトには,術前検査として,鼻腔,咽頭等の培養検査が挙げられていること(甲B27,28),③鹿児島大学医学部・歯学部附属病院の感染防止対策マニュアルにおいて,心臓血管外科手術に当たっては,術前,MRSAのスクリーニングを行い,MRSA保菌者に対してはムピロシンでの除菌を行うとの指針が示されていること(甲B29・A-4頁)がそれぞれ認められる。 イしかし,他方で,「国立大学医学部附属病院感染対策協議会病院感染対策ガイドライン」においては,鼻腔のMRSAスクリーニング監視培養検査は,検査精度の問題があること(陰性結果は必ずしも微生物が存在しないことを意味しているのではない),鼻腔のみがリザーバー(供給基地)とは限らないこと,一過性の保菌をみている場合があること,経済的負担が増加すること,保菌ゆえに手術を延期せざるを得ないケースは限定されていることなどの理由により,一律的に実施することは推奨されないものとされている(甲B29・A-4頁)。また,術前のMRSAスクリーニングは,我が国では現時点においても保険適用が認められていないこと(乙A22,証人k反訳書1・2頁,証人l反訳書2・2頁)が認められる。これらの点に照らせば,前記ア②及び③のとおり,一部の医療機関において,場合により術前のMRSAスクリーニングが行われていることを考慮したとしても,これが通常の医療機関で一般的に行われるべき検査であるとは認められず,l医師の前記意見を採用することはできない(なお,l医師も,必ずしも全ての場合に術前のMRSAスクリ いることを考慮したとしても,これが通常の医療機関で一般的に行われるべき検査であるとは認められず,l医師の前記意見を採用することはできない(なお,l医師も,必ずしも全ての場合に術前のMRSAスクリーニングを行うものではなく,これを行わない病院が存在することを認める趣旨の証言をしている(証人l反訳書4・3, 4頁)。)。 ウしたがって,被告病院の担当医師に,dに対し,本件手術前にMRSA保菌検査を行い,陽性であればムピロシンなどの薬剤で除菌を行うべき義務があったとは認められない。 (3)術後における抗生剤の予防投与についてア前記認定のとおり,被告病院の担当医師は,dに対して,セファメジンを1月30日から2月3日まで,シプロキサンを1月30日から2月1日までそれぞれ投与したことが認められる。 この点について,原告らは,①術後24時間を越えると耐性菌選択による院内感染を助長するため,抗生剤の予防投与を行うべきではないとされており,上記セファメジン及びシプロキサンの投与は,予防投与として不必要に長く,②大血管手術後感染予防として通常用いられることのないシプロキサンを同時投与する必要性はなかったとして,このような不要な抗生剤の投与がdのMRSA感染を助長させた可能性が高い旨主張する。 そして,l医師は,本件における術後の抗菌薬予防投与期間は不必要に長く,術後感染予防に通常使用されないシプロキサンの不要な投与と併せて,結果的にMRSA感染を誘発した可能性があるとの意見を述べている(甲B24の1,証人l反訳書2・2ないし4頁,反訳書4・2,3頁)。 さらに,①米国胸部外科学会の心臓外科手術後感染予防のための抗菌薬使用ガイドライン(TheSocietyofThoracicSurgeonsPracticeGuide-lineS )。 さらに,①米国胸部外科学会の心臓外科手術後感染予防のための抗菌薬使用ガイドライン(TheSocietyofThoracicSurgeonsPracticeGuide-lineSeries: AntibioticProphylaxisinCardiacSurgery)上,多くの外科手術において,予防的抗菌薬の投与は術後24時間以内で止めるべきであるとのコンセンサスが存在すると指摘されていることが認められ(乙B45・398頁,証人k反訳書1・4頁,証人l反訳書4・5 頁),また,②シプロキサンが一般的には予防的投与としては使用されない抗生剤であることは原告ら主張のとおりである(証人k反訳書1・3頁,証人l反訳書2・2頁)。 イしかしながら,この点については,以下の事実を指摘することができる。 (ア)抗生剤の予防投与期間について前記米国胸部外科学会のガイドライン(前記ア①)には,一般的なコンセンサスでは,ほとんどの大きな手術について,その予防的抗菌薬投与は術後24時間以内に止めるべきであるとされているけれども,心臓外科手術においては,この結果は当てはまらないとされており,その理由として,心臓外科手術では,人工心肺装置や低体温療法の利用,凝固因子の低下,手術時間の長さ,胸腔チューブの留置など術後感染症のリスクが高いこと,術後の感染性縦隔炎が極めて高い死亡率であることが挙げられている。そして,心臓外科医がそのために例外的といえるほど,積極的にその危険性を押さえ込もうとするのは理にかなっており,予防的抗菌薬の投与を術後数日間,一般的には胸腔チューブと中心静脈ラインが抜けるまで続けると記載されている(乙B45・398頁)。また,k医師も,本件手術では人工心肺が使用されており,48時間ないし72時間程度の予防投 後数日間,一般的には胸腔チューブと中心静脈ラインが抜けるまで続けると記載されている(乙B45・398頁)。また,k医師も,本件手術では人工心肺が使用されており,48時間ないし72時間程度の予防投与が必要である旨述べている(証人k反訳書1・4,5頁)。 この点については,l医師も,抗生剤の予防投与が絶対に24時間を超えてはいけないということはなく,個別の症例によってはやむを得ない場合もあることを認めているところである(証人l反訳書4・5頁)。 また,全ての開心術症例に対し術後5日間の抗生剤投与を基本としているとの報告も存在する(乙B28)。 以上のとおり,本件手術が心臓血管外科手術であって,人工心肺,HCAを使用した危険因子の高い手術であったことに照らせば,本件手術後,24時間を超えて抗生剤を予防投与したことが不適切であったとは認められない。 (イ)シプロキサンの投与についてadについては,腹部大動脈瘤は,上腸間膜動脈分岐部から腸骨動脈分岐部直上まで認められ,腹部主要分枝は開存しているものの下腸間膜動脈は瘤から出ていた(前記1(1)ケ)。したがって,本件手術中,腹部の血流途絶により腸管虚血が生じ,これにより腸内細菌(大腸菌等のグラム陰性桿菌を主体とする腸間内に常在している細菌群)が腸管壁を越えて血中へ移行し,菌血症が引き起こされる可能性があったところ,セファメジンだけではグラム陰性桿菌を主体とする腸内細菌には抗菌力が弱いことからすれば(甲B30),腸内細菌にも有効性が考えられる抗生物質を併用する必要性があったと認められる(甲B31,乙A22,証人k反訳書1・3頁,証人l反訳書4・4,5頁)。 bまた,dにはペニシリンアレルギーがあり(乙A1・481頁),ペニシリン系抗生物質は使用できなかったため,本来であればアミノグ 1,乙A22,証人k反訳書1・3頁,証人l反訳書4・4,5頁)。 bまた,dにはペニシリンアレルギーがあり(乙A1・481頁),ペニシリン系抗生物質は使用できなかったため,本来であればアミノグリコシド系抗生物質を併用するのが標準的であった。しかしながら,1月30日から2月1日の血液生化学検査結果によれば,dのBUN,Crは標準値を超えて推移しており(検査結果等一覧表,乙A1・80,81頁),dの腎機能が低下していたことが認められるのであり,この点を考慮して,アミノグリコシド系抗生物質よりも腎機能低下の副作用が小さいシプロキサンを選択したことにも合理性があったといえる(乙A22)。 cなお,前記米国胸部外科学会のガイドライン(前記ア①)におい ても,グラム陰性桿菌に対する予防を必要とする腎機能障害のある患者に対しては,アミノグリコシド系抗生物質又はシプロキサンと同じニューキノロン系抗菌薬であるレボフロキサシンの投与が推奨されている(乙B44・1574頁)。 以上の点を考慮すれば,被告病院の担当医師が,腸管虚血による腸内細菌による菌血症を心配して,セファメジンに加えてシプロキサンを併用したことが不適切であったとはいえない。 ウしたがって,l医師の前記意見を採用することはできず,被告病院の担当医師に術後における抗生剤の予防投与について注意義務違反があったとは認められない。 (4)まとめ以上によれば,被告病院の担当医師にMRSA感染防止策を怠った注意義務違反があると認めることはできない。 争点(1)カ(MRSA感染に対する治療義務違反の有無)について(1)原告らは,被告病院の担当医師には,2月3日時点で,dについて,感染徴候を認識し,浸出液のグラム染色等の必要な検査を実施して,血中濃度をモニタリングしながら,少なくとも1 反の有無)について(1)原告らは,被告病院の担当医師には,2月3日時点で,dについて,感染徴候を認識し,浸出液のグラム染色等の必要な検査を実施して,血中濃度をモニタリングしながら,少なくとも1日につき1gのバンコマイシン投与を開始すべき注意義務があった旨主張する。 (2)浸出液のグラム染色等の検査を実施すべきであったかについてア証拠によれば,2月3日の診療録に「左前腋窩線付近のwound(創部)でdischarge(浸出)」との記載があること(乙A1・24頁),経過記録(看護記録)に同日午前2時の記録として「創部G(ガーゼ)汚染拡大あり。膿様~水様排液あり」との記載があること(乙A1・513頁),午後5時の記録として「以前と同じ所にG(ガーゼ)汚染+うす茶色のもの径3cm大のものあり」との記載があること(乙A1・515頁),午後10時の記録として「創部同じ部位にうす茶色のG (ガーゼ)汚染あり径4cm程」との記載があること(乙A1・517頁)が認められる。 そして,前記各記載によれば,dは,2月3日,左前腋窩線付近の創から,膿様か水様かはっきりしないうす茶色の浸出が続いており,その汚染が,ガーゼ上拡大していたと認められ,これは感染を疑わせる一徴候であるということができる(甲B24の1,証人k反訳書3・2頁,反訳書5・2頁,証人l反訳書2・5頁,反訳書4・5頁)。 そして,仮に感染が判明すれば,術後のMRSA感染等を念頭においてバンコマイシン等の有効な薬剤の投与を開始すべきであったのであるから,被告病院の担当医師は,2月3日の時点で,感染症に対する治療開始の要否を判断するために,浸出液のグラム染色を行うべきであったと認めることができる(甲B24の1,証人k反訳書5・4ないし6頁,反訳書6・4,5頁,証人l反訳書2・5,6頁 ,感染症に対する治療開始の要否を判断するために,浸出液のグラム染色を行うべきであったと認めることができる(甲B24の1,証人k反訳書5・4ないし6頁,反訳書6・4,5頁,証人l反訳書2・5,6頁,反訳書4・8頁,反訳書6・4頁)。 イこれに対し,被告らは,2月3日の時点で感染を疑って検査を行う義務はなかったと主張するので,以下,被告らの主張について検討する。 (ア)浸出の有無(診療録の記載内容)について被告らは,2月3日における診療録の記載は,左前腋窩線付近のwound(創部)で「discharge(浸出)」ではなく「dissect(離開)」であり,dには2月3日時点で左腋窩付近からの浸出液漏出は認められなかったと主張する。 しかし,診療録の上記記載部分をみれば,問題となっている単語の4文字目は「c」,5文字目は「h」,最後の文字は「e」であると認められ,全体としては「discharge」との記載であると解するのが相当である(乙A1・24頁)。そして,その記載に照らせば,浸出があったものと認めることができる。 なお,被告らは,仮に「discharge(浸出)」があれば浸出しているものが何かを記載するはずであるとも主張するが,前記のとおり診療録の記載は「discharge」であると客観的に認められること,浸出の内容が記載されていないことが不自然であるとまではいえないことからして,採用できない。 (イ)感染徴候の有無についてa被告らは,術後創感染は,手術日以降に菌が創から侵入し,その後その菌が増殖し,感染徴候を示すまでには通常1週間以上は要すると考えられており,仮に術後4日目の創から,血液,リンパ液その他の体液の流出がみられたとしても,直ちに感染の徴候があると判断すべきものではないから,2月3日の時点で術後感染を疑う根 間以上は要すると考えられており,仮に術後4日目の創から,血液,リンパ液その他の体液の流出がみられたとしても,直ちに感染の徴候があると判断すべきものではないから,2月3日の時点で術後感染を疑う根拠はなかったと主張する。そして,被告g医師の陳述書にはこれと同旨の記載がある(乙A23)。 しかし,k医師が,術後1週間以内に感染徴候があった又は感染が発生した患者を多数診療したことがある旨証言していることに照らせば(証人k反訳書3・2頁),被告らの前記主張及び被告g医師の前記陳述を採用することはできない。 なお,感染性縦隔洞炎の病態に関して「初回手術から発病までの期間は…平均17.7日であった」とする報告が存在することが認められるが(乙B28・203頁),これを感染症全ての場合に一般化できるものとは考え難く,感染徴候を示すまでには1週間以上を要するとの被告らの前記主張を認めることはできない。 bまた,被告らは,看護記録の「膿様~水様排液あり」との曖昧な記載だけでは感染徴候が疑われるとはいえないと主張する。 しかし,その記載から排出物が膿であると断定することはできない反面,膿性の浸出である可能性を否定することもできないのであ るから,前記のとおり,膿である可能性のある排液が確認された以上は,感染の可能性を疑い,治療開始の要否を判断するために,浸出液のグラム染色を行うべきであったと解するのが相当である。 cさらに,被告らは,看護記録における2月4日の記載は「創部G(ガーゼ)汚染なし」(乙A1・520頁),「創部G(ガーゼ)上層汚染-」(乙A1・522頁)であり,2月5日の記載も「創部ガーゼ汚染なし」(乙A1・522頁)であり,感染徴候を示す所見となっていないことからすれば,2月3日当初から膿の排出ないし感染徴候はなかった旨主張する。 確 22頁)であり,2月5日の記載も「創部ガーゼ汚染なし」(乙A1・522頁)であり,感染徴候を示す所見となっていないことからすれば,2月3日当初から膿の排出ないし感染徴候はなかった旨主張する。 確かに,看護記録に前記各記載が存在することは被告らの主張するとおりであり,これによれば,2月4日以降は,ガーゼの汚染は見られなくなったことが認められる。 しかしながら,2月4日以降の汚染が見られなかったからといって,2月3日に浸出が見られたとの前記認定を覆すことはできない。 そして,術後感染症に対する治療の開始が遅れれば致命的になり得ることにも鑑みると,2月3日の時点で,創部からの浸出が認められ,膿である可能性のある排液が確認されたという具体的状況下における判断としては,直ちに感染症に対する治療を開始すべきかを見極めるために,浸出液のグラム染色を行うべきであったと認めるのが相当であり,2月4日及び同月5日の所見によって同月3日時点における検査義務が遡及的に否定されるものとはいえない。 (ウ)担当医師による確認について被告g医師は,dの創部については,被告g医師とm医師が毎日確認し,創部のガーゼ交換も同医師らが直接行っていたが,2月3日の朝,直接創部を確認したところ,発赤,浸出液など,特に術後創感染を疑う所見を認めなかった旨供述する(被告g反訳書7・1頁)。し かし,2月3日の診療録に「discharge」との記載が認められることは前記のとおりであること,2月3日の午前2時,午後5時,午後10時に浸出が続いており,この点に照らすと,被告g医師の前記供述を直ちに採用することはできない。 ウしたがって,被告病院の担当医師には,2月3日の時点で,感染症に対する治療開始の要否を判断するために,浸出液のグラム染色を行うべき注意義務違反があったと認 供述を直ちに採用することはできない。 ウしたがって,被告病院の担当医師には,2月3日の時点で,感染症に対する治療開始の要否を判断するために,浸出液のグラム染色を行うべき注意義務違反があったと認めることができる。 (3)2月3日から1日につき1gのバンコマイシン投与を開始すべきであったかについてアl医師は,2月3日の時点で浸出液のグラム染色をしていれば,グラム陽性球菌が認められ,適切な治療が開始された可能性が高く,同時点からバンコマイシン1gを4日ないし5日ぐらいの間隔で投与すべきであったとの意見を述べている(甲B24の1,証人l反訳書2・7頁)。 イしかしながら,仮に2月3日に確認された排液が膿であり,同時点で感染が生じていたのだとすれば,これが特段の処置なしに直ちに改善するとは考えにくいところ(証人k反訳書5・6頁,反訳書6・6頁),本件では,2月3日に創部からの排液が確認された後,感染に対する特段の処置はとられていないにもかかわらず,2月4日及び同月5日には創部のガーゼの汚染がないことが確認されていることが認められる(乙A1・520,522頁)。これに加え,2月3日は,同月1日21000,同月2日21600であったdの白血球数が18800に減少したこと,同月1日に16.9,同月2日に16.4であったCRPが12.6に減少したことに照らせば,2月3日の時点で感染が生じていたかは疑問であるといわざるを得ず,同時点で浸出液のグラム染色を行っていればグラム陽性球菌が検出されたと推認することはできない。 ウこれに対し,l医師は,2月4日及び同月5日にガーゼの汚染がみら れなかったのはガーゼによる圧迫により排液が押さえられていただけであり,膿瘍の広がりが表面ではなく深部に進行していたと考えられる旨証言する(証人l反訳書4・8 及び同月5日にガーゼの汚染がみら れなかったのはガーゼによる圧迫により排液が押さえられていただけであり,膿瘍の広がりが表面ではなく深部に進行していたと考えられる旨証言する(証人l反訳書4・8頁,反訳書6・6頁)。しかし,2月3日時点でもガーゼによる圧迫はあったと考えるのが自然であるから,同時点で一旦は創部からの浸出が認められたことに照らすと,同日以降に膿瘍が体表ではなく深部のみに向かって進行したとは考え難く(証人k反訳書6・6頁),l医師の前記証言は採用できない。 エまた,バンコマイシンは,腎機能障害患者においては,血中濃度の半減期が延長するので,投与量を修正して,慎重に投与する必要があるところ(乙B23),前記のとおり,1月30日から2月1日の血液生化学検査結果によれば,dは,BUN21~43,Cr1.6~3.7であり,腎機能の低下が認められたこと(前記6(3)イ(イ)b),2月2日ないし3日の時点では,検査数値がBUN69~78,Cr3.7~4. 3に上昇しており,腎機能の低下はさらに悪化する傾向にあったことが認められる(検査結果等一覧表,乙A1・80,81頁)。この点に照らせば,バンコマイシン投与による腎機能低下の副作用を十分に考慮する必要があったといえるから,感染の有無及び原因菌が未確定な2月3日の段階で,直ちに少なくとも1日につき1gのバンコマイシン投与を開始すべき義務があったということはできない。 オなお,原告らは,被告病院担当医師らが,2月3日以降もdの感染徴候を看過した旨主張する。 そして,dは,2月3日白血球数が一度18800に減少した後,同月4日には23400に増加し,好中球分葉核が91.0%と優位を示したこと,同日CRPが9.9に減少した後,同月5日には11.9に増加したことなどが認められる(検査結果等 18800に減少した後,同月4日には23400に増加し,好中球分葉核が91.0%と優位を示したこと,同日CRPが9.9に減少した後,同月5日には11.9に増加したことなどが認められる(検査結果等一覧表,被告g反訳書9・14頁)。しかしながら,当時は,本件手術後1週間以内の時期であっ て,上記炎症所見を本件手術に伴う侵襲によるものと考えてもおかしくない時期であったこと(被告g反訳書9・15,16頁),2月4日,同月5日の時点における,数値の若干の変動から,これがその後も継続する有意な上昇傾向であると見極めることは困難と解されることからすれば,2月4日,5日の時点で,感染症を疑ってバンコマイシンの投与に踏み切るべき義務があるとは認められない。 そして,その後,dは,2月1日から5日まで,体温が概ね36~37℃台であったものが,同月6日に37~38℃台に,同月7日に38~39℃台になっていること,CRPも2月5日に11.9であったものが,同月6日に17.3,同月7日に20.7に上昇したこと(検査結果等一覧表)が認められるから,これを踏まえて被告病院担当医師が,数値の再上昇傾向を疑い,同月7日に白血球数も再上昇していること(検査結果等一覧表)を踏まえて,同日からバンコマイシン1gの投与を開始したこと(検査結果等一覧表,乙A1・25頁)に遅れがあったとは認められない。 そして,dは,上記のとおり,腎機能低下傾向にあり,バンコマイシンについては慎重な投与が必要とされていたことからすれば,被告g医師が,2月6日の体温,CRPの上昇を確認のうえ,2月7日からバンコマイシンの投与に踏み切ったことに,感染を看過した義務違反があったとは認められない。 (4)血中濃度をモニタリングしながら,少なくとも1日につき1gのバンコマイシンの投与を開始すべ 7日からバンコマイシンの投与に踏み切ったことに,感染を看過した義務違反があったとは認められない。 (4)血中濃度をモニタリングしながら,少なくとも1日につき1gのバンコマイシンの投与を開始すべきであったかについてア被告g医師は,同月7日からバンコマイシン1gの投与を開始した後,さらに同月14日,18日,21日,24日,27日に各1gをそれぞれ追加投与したことが認められる(検査結果等一覧表)。 イこの点に関し,l医師は,バンコマイシンを選択したことは正しいが, 投与量,投与間隔が不十分であり,2月3日からバンコマイシン1gを4,5日くらいの間隔で投与し,その後,血中濃度を測定しながらトラフ値10~15を目標に投与すべきである旨供述する(甲B24,証人l反訳書2・7,8頁)。 そして,バンコマイシン投与の有効性と安全性を保つには,トラフ値が5~15μg/mLとすることが望ましいとの文献が存すること(甲B78,79),dの2月18日のバンコマイシンのトラフ値は3.5μgで,有効血中濃度とされているトラフ値に達していなかったこと,同月27日のトラフ値が8.4μgであったことが認められる(検査結果等一覧表)。 ウしかしながら,この点については,以下の事実を指摘することができる。 (ア)dは,従前から慢性腎不全の既往があった(前記1(1)ウ)。バンコマイシンは,腎機能障害患者においては,投与量を修正して慎重に投与する必要があり,Ccrが0.4mL/min/kgの場合6. 2mg/kg/日とされるところ(乙B23),術前である1月21日のCcrは31.1mL/minであり,dの体重が68kgであることからすれば,Ccrは0.46mL/min/kgであったことが認められる。したがって,同日におけるdへのバンコマイシンの投与適正量は, crは31.1mL/minであり,dの体重が68kgであることからすれば,Ccrは0.46mL/min/kgであったことが認められる。したがって,同日におけるdへのバンコマイシンの投与適正量は,約6.2~7.1mg/kg/日,すなわち,422~483mg/日となる(乙A22,乙B23)。そして,dの腎機能は,術前の1月11日から同月21日のBUNが18~23,Crが1.6~1.7であったのに対し,術後の2月7日時点ではBUN98,Cr3.3と悪化しており,2月6日に比べても悪化傾向が認められる(乙A1・82頁)。以上を総合すれば,2月7日時点でのdへのバンコマイシンの投与は,422~483mg/日よりさらに 少量に修正されるべきであるとした判断は合理的であると言える。 (イ)また,2月7日にバンコマイシン1gを投与した後も,BUN,Crは2月12日まで更に悪化傾向にあり,一方,CRP,白血球数は,増加傾向を示していなかったことからすれば(検査結果等一覧表,乙A1・82,83頁),被告病院担当医師が,2月14日までバンコマイシンの追加投与をしなかったことも,不合理とは認められない。 (ウ)そして,2月14日の後,2月17日ころからCRPが再上昇してきたこと等を踏まえて,同月18日,被告病院担当医師においてバンコマイシンのトラフ値の計測を行い,これを踏まえてバンコマイシンの投与頻度を3日に短縮したこと(検査結果等一覧表)も不合理とは認められない。 エなお,腎機能障害のある患者に対しバンコマイシンを投与するにあたっては,血中濃度のモニタリングをすることが望ましいことが認められるけれども(乙B23),前記のとおり,2月7日にバンコマイシン1gを投与した後,腎機能が悪化傾向を示していた一方,体温,CRP,白血球数は有意に上昇してお リングをすることが望ましいことが認められるけれども(乙B23),前記のとおり,2月7日にバンコマイシン1gを投与した後,腎機能が悪化傾向を示していた一方,体温,CRP,白血球数は有意に上昇しておらず,感染症状が悪化する傾向にはなかったことからすれば,追加投与を積極的に検討すべき状況であったとは認められず,2月18日まで血中濃度のモニタリングを行わなかったことが,義務違反になるとも認められない。 (5)以上によれば,被告病院の担当医師には,2月3日の時点で,感染症に対する治療開始の要否を判断するために,浸出液のグラム染色を行うべき義務に違反した過失が認められるというべきであるが,その余の義務違反の主張については,これを認めることができない。 争点(2)(因果関係の有無)について前記7のとおり,被告病院の担当医師には,2月3日の時点で,感染症に対する治療開始の必要性を判断するために,浸出液のグラム染色を行うべき 義務に違反した過失が認められる。 しかしながら,前記7(3)に説示のとおり,本件では,2月3日に創部からの排液が確認された後,感染に対する特段の処置はとられていないにもかかわらず,2月4日及び同月5日には創部のガーゼの汚染がないことが確認されていること,2月3日は,同月1日21000,同月2日21600であったdの白血球数が18800に減少したこと,同月1日に16.9,同月2日に16.4であったCRPが12.6に減少したことに照らせば,2月3日の時点でdに感染が生じていたかは疑問であるといわざるを得ず,同時点で浸出液のグラム染色を行っていればグラム陽性球菌が検出されたと推認することはできない。 よって,同時点で浸出液のグラム染色を行っていればグラム陽性球菌が検出されたとは認められず,また,同時点から少なくとも1日につき 色を行っていればグラム陽性球菌が検出されたと推認することはできない。 よって,同時点で浸出液のグラム染色を行っていればグラム陽性球菌が検出されたとは認められず,また,同時点から少なくとも1日につき1gのバンコマイシン投与を開始すべき義務があったとも認められない。 したがって,前記グラム染色を行うべき義務に違反した過失と死亡結果との間に因果関係を認めることはできない。 第4 結論 以上によれば,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官大嶺崇 裁判官渡邉隆浩
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