平成20(受)1418 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年3月2日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 札幌高等裁判所 平成19(ネ)247
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判決文本文3,361 文字)

- 1 -主文原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,被上告人らの控訴を棄却する。 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。 理由 上告代理人水原清之ほかの上告受理申立て理由について 本件は,北海道内の高速道路において,自動車の運転者が,キツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こし停車中,後続車に衝突されて死亡したことについて,上記運転者の相続人である被上告人らが,上記自損事故当時の上記高速道路の管理者であった日本道路公団の訴訟承継人である上告人に対し,キツネの侵入防止措置が不十分であった点で,上記高速道路の設置又は管理に瑕疵があったと主張して,国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求める事案である。 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)Aは,平成13年10月8日午後7時51分ころ,北海道苫小牧市字糸井282番地74付近の高速自動車国道である北海道縦貫自動車道函館名寄線において,普通乗用自動車(以下「A車」という。)を運転して走行中,約100m前方の中央分離帯付近から飛び出してきたキツネとの衝突を避けようとして急激にハンドルを切り,その結果,A車は,横滑りして中央分離帯に衝突し,車道上に停止した(以下,この事故を「本件事故」といい,上記自動車道のうち本件事故現場付近の部分を「本件道路」という。)。そして,同日午後7時53分ころ,車道上に停車中のA車に後続車が衝突し,Aは,これにより頭蓋底輪状骨折等の傷害を負い,そのころ死亡した。 - 2 -(2)本件事故現場は,北海道苫小牧市の郊外であり,上記自動車道の苫小牧西インターチェンジと苫小牧東インターチェンジとの間の区間(以下「本件区間」という。)にある。本件事故現場の周囲は原野であり,本件道路は,ほぼ直線で,見通しを妨げるもの であり,上記自動車道の苫小牧西インターチェンジと苫小牧東インターチェンジとの間の区間(以下「本件区間」という。)にある。本件事故現場の周囲は原野であり,本件道路は,ほぼ直線で,見通しを妨げるものはなかった。 本件区間においては,道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が,平成11年は25件,平成12年は34件,平成13年は本件事故日である同年10月8日時点で46件発生していた。また,上記自動車道の別の区間で,道路に侵入したキツネとの衝突を避けようとした自動車が中央分離帯に衝突しその運転者が死亡する事故が,平成6年に1件発生していた。 (3)本件道路には,動物注意の標識が設置されており,また,動物の道路への侵入を防止するため,有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されていた。有刺鉄線の柵には鉄線相互間に20㎝の間隔があり,金網の柵と地面との間には約10㎝の透き間があった。日本道路公団が平成元年に発行した「高速道路と野生生物」と題する資料(以下「本件資料」という。)には,キツネ等の小動物の侵入を防止するための対策として,金網の柵に変更した上,柵と地面との透き間を無くし,動物が地面を掘って侵入しないように地面にコンクリートを敷くことが示されていた。 (4)本件事故当時の本件道路の管理者であった日本道路公団は,平成17年10月1日に解散し,上告人が同公団の訴訟上の地位を承継した。 被上告人らは,Aの両親であり,相続人である。 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの請求を一部認容した。 高速道路の利用者は,一般道路に比較して高速でも安全に運転することができる- 3 -ものと信頼して走行していることからすれば,自動車の高速運転を危険にさらすことになるキツネが前記2(2)のような頻度で本件区間に現れることは,その 較して高速でも安全に運転することができる- 3 -ものと信頼して走行していることからすれば,自動車の高速運転を危険にさらすことになるキツネが前記2(2)のような頻度で本件区間に現れることは,そのこと自体により,本件道路が営造物として通常有すべき安全性を欠いていることを意味する。動物注意の標識が設置されていることは,上記判断を左右するものではない。 本件資料には,キツネ等の小動物の侵入を防止するための対策が示されていたのであり,それにより,かなりの程度キツネの侵入を防止することができた。以上によれば,本件道路には設置又は管理の瑕疵があったというべきである。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,当該営造物の使用に関連して事故が発生し,被害が生じた場合において,当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは,その事故当時における当該営造物の構造,用法,場所的環境,利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである(最高裁昭和42年(オ)第921号同45年8月20日第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁,同昭和53年(オ)第76号同年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号809頁参照)。 前記事実関係によれば,本件道路には有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されているものの,有刺鉄線の柵には鉄線相互間に20㎝の間隔があり,金網の柵と地面との間には約10㎝の透き間があったため,このような柵を通り抜けることができるキツネ等の小動物が本件道路に侵入することを防止することはできなかったものということができる。しかし,キツネ等の小動物が本件道路に侵入したとしても,走行- 4 このような柵を通り抜けることができるキツネ等の小動物が本件道路に侵入することを防止することはできなかったものということができる。しかし,キツネ等の小動物が本件道路に侵入したとしても,走行- 4 -中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではなく,通常は,自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができるものというべきである。このことは,本件事故以前に,本件区間においては,道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が年間数十件も発生していながら,その事故に起因して自動車の運転者等が死傷するような事故が発生していたことはうかがわれず,北海道縦貫自動車道函館名寄線の全体を通じても,道路に侵入したキツネとの衝突を避けようとしたことに起因する死亡事故は平成6年に1件あったにとどまることからも明らかである。 これに対し,本件資料に示されていたような対策が全国や北海道内の高速道路において広く採られていたという事情はうかがわれないし,そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり,加えて,前記事実関係によれば,本件道路には,動物注意の標識が設置されていたというのであって,自動車の運転者に対しては,道路に侵入した動物についての適切な注意喚起がされていたということができる。 これらの事情を総合すると,上記のような対策が講じられていなかったからといって,本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたということはできず,本件道路に設置又は管理の瑕疵があったとみることはできない。 以上と異なる原審の判断には,判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免 に設置又は管理の瑕疵があったとみることはできない。 以上と異なる原審の判断には,判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人らの上告人に対する請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人らの控訴を棄却すべきである。 - 5 -よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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