主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は原告らそれぞれに対して,別紙請求金額目録「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成11年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要等本件は,平成11年6月29日,新湊川の洗心橋付近で発生した溢水(以下,これを「本件溢水」という。)によって浸水被害を受けた原告らが,河川管理者である被告に対し,河川改修工事における河川管理の瑕疵を主張して,国家賠償法2条1項に基づき,原告らそれぞれが被った損害の賠償及びそれら各損害に対する本件溢水が発生した日である平成11年6月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 1 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。)(1) 新湊川流域ア新湊川は,六甲山系西方に位置する再度山を源とする天王谷川が,中流の菊水橋上流で石井川と合流して新湊川となり,会下山をトンネルで貫き,苅藻川と合流して大阪湾に注ぐ,幹川流路総延長13.1キロメートル,流域面積29. 88平方キロメートルの表六甲河川群の中で最大の河川である(乙1,14,別紙1-1参照)。 イ新湊川上流域(石井川)では,石井川トンネル上流で石井川と烏原川が合流している(乙1,別紙1-1,1-2参照)。 ウ天王谷川の上流には,洪水調節用の治水ダムとして天王ダムが設置されており,石井川・烏原川合流点付近には,神戸市の管理する水道用水供給用の利水ダムとして烏原貯水池が設置され 2参照)。 ウ天王谷川の上流には,洪水調節用の治水ダムとして天王ダムが設置されており,石井川・烏原川合流点付近には,神戸市の管理する水道用水供給用の利水ダムとして烏原貯水池が設置されている(乙1,別紙1-1,1-2参照)。 (2) 原告ら原告らは,神戸市兵庫区内の肩書地で店舗を営業し,あるいは居住していた。 原告らのうち,肩書地で店舗を営業していた者及びその業種・屋号は以下のとおりである。 原告 A 酒類販売「a」原告 B 化粧品・婦人雑貨販売「b」原告 C 米穀販売「c」原告 D 寿司店「d」原告 E 銭湯「e」原告 F 喫茶店「f」原告 G 喫茶店「g」原告 H 喫茶店「h」原告 I ペット販売店「i」(3) 被告新湊川は,兵庫県知事が指定した2級河川であり,管理者は兵庫県知事である(河川法10条)。 (4) 河川改修工事新湊川では,過去にも昭和13年及び同42年に大きな水害が発生し,河川改修工事が実施されていた。このような中,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で新湊川の苅藻川合流点から菊水橋上流の天王谷川・石井川合流点までの間の護岸や会下山トンネルは,大きな被害を受けた。 この復旧に当たっては,被災前の原形に復旧するだけでなく,新湊川水系工事実施基本計画(昭和60年建設大臣認可,以下「本件基本計画」という。)に基づき,河積の拡大を図るほか,安全で快適な水辺空間の整備をも併せて行う平成7年災河川災害復旧助成事業(以下「本件助成事業」という。)によって治水整備が図られることとなり,これに基づ 」という。)に基づき,河積の拡大を図るほか,安全で快適な水辺空間の整備をも併せて行う平成7年災河川災害復旧助成事業(以下「本件助成事業」という。)によって治水整備が図られることとなり,これに基づき改修工事(以下「本件改修工事」という。)が進められていた(乙1,14)。 (5) 平成10年9月22日の溢水ア平成10年9月22日,台風7号の通過に伴い,午前8時ころから午後4時ころにかけて,新湊川流域に多量の降雨があった(別紙7-2参照)。同日午後2時10分過ぎころには,当時改修工事を実施していた洗心橋仮橋の上流左岸側から溢水が発生し,同日午後2時20分過ぎころには,洗心橋仮橋の上流右岸側からも溢水し始め,最終的には,洗心橋仮橋上流から菊水橋下流に至る新湊川両岸の約150メートルの区間から溢水が発生するに至った(別紙2の赤色矢印参照。以下,これを「第1次溢水」といい,溢水が生じた箇所を「第1次溢水箇所」という。)。 第1次溢水当時には,本来出水時に撤去されるはずであった河道内の止水壁褄部(河道工事中に工事区間に水が流れないようにし,流水を瀬替に誘導するための構造物)及び階段・手摺等の仮設工作物は,撤去されずに残存しており,これが流下能力を低下させ,溢水を増加させた一因となった。 イ第1次溢水による氾濫流は,当時護岸に沿って設置されていたH型鋼2段積みによる高さ約1メートルの水防柵の切れ目から市街地へ流出し,広範囲に浸水被害をもたらした(別紙3参照)。 (6) 本件溢水の発生ア本件溢水当時の改修工事の進捗状況本件助成事業は早期完成を目指して,第1次溢水後も出水期(5月~10月)を含む「通年施工」で実施されていた。平成11年6月29日時点の兵庫工 ア本件溢水当時の改修工事の進捗状況本件助成事業は早期完成を目指して,第1次溢水後も出水期(5月~10月)を含む「通年施工」で実施されていた。平成11年6月29日時点の兵庫工区(菊水橋から会下山トンネルまでの工区)における改修工事の進捗状況は,兵庫7工区(夢野橋下流左岸)及び夢野橋工区で護岸工事が行われるとともに,熊野橋工区,氷室橋工区,兵庫5-1工区(洗心橋仮橋地点)で準備作業が行われていた(別紙4の図参照)。 このうち,兵庫5-1工区では,洗心橋の架け替え工事に伴い,同年4月末までに完成した新橋に交通を切り替え,引き続き,護岸工事のため,付近の占用物件の移転協議など準備作業が行われていたが,洗心橋仮橋の撤去とその橋台部分の開削は行われていなかった。 イ水防柵等の設置(ア) 本件溢水当時,洗心橋新橋から菊水橋までの間の両岸には木製の水防柵が設置されていた(別紙5-1,5-2参照)。そのうち,洗心橋新橋上流左岸側の水防柵(以下「本件水防柵」という。)の構造は,約3メートル間隔で立てられたH型鋼の支柱の間に,幅25センチメートル,厚さ6センチメートルの木製矢板を4枚上から落としたもので,支柱の基礎は,25センチメートル四方,深さ50センチメートルの筒状の基礎ブロックを地中に埋め込んで,その中にH型鋼を差し込むというものであった(別紙5-3,5-4参照,甲7)。 また,洗心橋新橋両岸には角落し(出水時に橋梁部から溢水しないよう,護岸に沿って道路を遮断するような形で設置する仮設工作物)が設置されており,その構造は,約3メートル間隔で立てられたH型鋼の支柱の間(支柱から支柱までの間を1スパンという。)に,長さ295センチメートル,幅15~17セン るような形で設置する仮設工作物)が設置されており,その構造は,約3メートル間隔で立てられたH型鋼の支柱の間(支柱から支柱までの間を1スパンという。)に,長さ295センチメートル,幅15~17センチメートル,厚さ6センチメートルの木製矢板を7枚上から落とすもので,支柱の基礎は,上記水防柵と同様の筒状基礎ブロックを埋め込んで,その中にH型鋼を差し込むというものであった(別紙5-3,5-5参照,甲8)(イ) 本件水防柵の支柱の基礎構造は,左岸道路に接している区間と同道路から離れて洗心橋新橋角落しへ擦り付けるまでの区間とで異なっており,前者については,歩道コンクリートに基礎ブロックを埋め込んでコンクリート舗装と基礎ブロックとを一体化するという構造であり(以下「歩道コンクリート部」という。 別紙5-4下段図参照),後者については,土の中に基礎ブロックを埋め込んで支柱を立てるという構造であった(以下「土中埋込部」という。別紙5-4上段図参照)。 また,洗心橋新橋左岸側角落しについて,上流側1本のH型鋼の基礎ブロックは土中に埋め込まれていたが,それ以外の支柱については,基礎ブロックがアスファルト舗装に覆われていた(別紙5-5参照)。 ウ本件溢水当時の気象状況(別紙7-2参照)本件溢水当時は梅雨の時期であり,新湊川流域では平成11年6月23日から同月27日まで降雨があった(以下,これを「前期降雨」という。)。 同月29日朝,四国沖にあった梅雨前線は,低気圧の東進とともに北上し,前線に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込んだために,前線の活動が活発化し,西日本一帯に大雨をもたらした。 午前9時40分,兵庫県南部に大雨・洪水注意報が発令され,午 北上し,前線に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込んだために,前線の活動が活発化し,西日本一帯に大雨をもたらした。 午前9時40分,兵庫県南部に大雨・洪水注意報が発令され,午前11時45分には大雨・洪水警報が発令された。 午前10時から午後1時にかけて,新湊川流域には,1時間当たり10ミリメートル程度の降雨が続き,午後2時から午後3時にかけて雨はいったん小康状態になったものの,午後4時ころからは,再び強い雨が降り始めた。午後5時には新湊川流域の西側で降雨が1時間当たり40ミリメートルに達し,その雨域が新湊川流域に達した。新湊川流域では,午後5時ころから午後6時にかけて,10分間当たり10ミリメートルを超える激しい降雨があった。 エ本件溢水の発生同日午後5時32分ころ,洗心橋新橋上流左岸の水防柵(本件水防柵)のうち土中埋込部約18メートルが転倒して溢水が始まり,午後5時39分ころには,洗心橋新橋左岸側角落し4スパンのうち,上流側1スパン及び下流側1スパンの横矢板が相次ぎ流出して溢水が拡大した(別紙5-1参照。以下,洗心橋新橋付近で溢水が発生した箇所を「本件溢水箇所」という。)。溢水が発生した工区は,水防柵からの溢水が兵庫6工区,洗心橋新橋左岸角落しからの溢水が洗心橋工区であった(別紙4の図,5-1参照)。 本件溢水箇所は第1次溢水においても溢水が発生した箇所の一部であった。 本件溢水により,原告らはいずれも床上浸水の被害を受けた。 2 争点本件の争点は,①河川管理の瑕疵の有無,②河川管理の瑕疵と原告らの損害との因果関係,③原告らの被った損害額である。 (1) 争点①(河川管理の瑕疵の有無) 2 争点本件の争点は,①河川管理の瑕疵の有無,②河川管理の瑕疵と原告らの損害との因果関係,③原告らの被った損害額である。 (1) 争点①(河川管理の瑕疵の有無)(原告らの主張)原告らが主張する河川管理の瑕疵の内容は,概略以下の4点である。 <ア> 出水期(5月~10月)に入るまでに洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削を実施し,洗心橋新橋の桁下を上げる(嵩上げ)などして,洗心橋付近の流下能力の改善を図らなかったこと。 <イ> 本件溢水箇所付近では,新湊川は西方(右岸側)に大きく湾曲しており,左岸側はカーブの外側の水衝部にあたることから,右岸に比べて水位が高くなるにもかかわらず,護岸高や水防柵の高さを右岸よりも低いままにしていたこと。 <ウ> 最も流下能力の低い本件溢水箇所の水防柵(土中埋込部)の基礎を脆弱な構造のまま放置したこと。 <エ> 本件溢水当日も,水防柵や角落し部分の補強は十分可能であったにもかかわらず,土のうによる水防柵や角落しの補強などを怠ったこと。 具体的には以下のとおりである。 ア河川管理の瑕疵<ア>について(ア) 出水期に入るまでに洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削を行わなかったこと本件助成事業として,兵庫工区では,河床を掘り下げ,両岸を開削し,新たにコンクリート護岸を設置するという改修工事が行われていた。 洗心橋新橋から菊水橋にかけての区間は,平成11年4月末までに河床の掘り下げを残して,両岸の護岸工事はほぼ完了し,洗心橋新橋も完成して供用が開始されていた。 しかし,本件溢水当時,本件溢水箇所からすぐ下 の区間は,平成11年4月末までに河床の掘り下げを残して,両岸の護岸工事はほぼ完了し,洗心橋新橋も完成して供用が開始されていた。 しかし,本件溢水当時,本件溢水箇所からすぐ下流の兵庫5-1工区では,洗心橋仮橋の撤去とその橋台部分の開削工事が完了していなかったことから,同地点の河幅が上下流に比して狭くなっており,同地点の流下能力は兵庫工区の中で最も低かった(別紙4の表のケース「2」欄参照)。 第1次溢水における新湊川浸水災害調査委員会(以下「第1次溢水調査委員会」という。)は,平成10年12月28日,新湊川浸水災害調査報告書(以下「第1次溢水調査報告書」という。)をまとめ,その中で「今後の工事のあり方」として,過去の実績において5月も降雨が多いことから,出水期を「5月から10月まで」とすること,出水期の工事は,河道において従前の流下能力以上を確保した仮設計画のもとに行うこと等の提言があった。 よって,被告は,出水期を前にして早期に洗心橋仮橋の撤去とその橋台部分の開削を完了すべきであったのに,これを放置した。 (イ) 洗心橋新橋の嵩上げを行わなかったこと洗心橋新橋の橋桁部分を持ち上げて桁下を上げれば,流下能力はさらに向上したはずであり,洗心橋付近の流下能力の改善を図ることは容易にできた。 事実,被告は本件溢水後の平成12年4月に洗心橋新橋の桁下を上げる工事をして,同橋の嵩上げを実施している。 しかるに,被告は,平成11年の出水期に入るまでに,このような流下能力の向上のための方策を採らなかった。 (ウ) 以上のように,被告は洗心橋仮橋付近の流下能力を第1次溢水時から何ら改善せず,低いまま放置したのであ 出水期に入るまでに,このような流下能力の向上のための方策を採らなかった。 (ウ) 以上のように,被告は洗心橋仮橋付近の流下能力を第1次溢水時から何ら改善せず,低いまま放置したのであり,これは河川管理の瑕疵にあたる。 イ河川管理の瑕疵<イ>について本件溢水箇所付近では,新湊川が西方(右岸側)に大きく湾曲しており,左岸側はカーブの外側に当たり,平常時でも遠心力により右岸に比べて水位が高くなる。その上,左岸が上流からの流れの水衝部にあたることから,増水時には右岸に比べて左岸の水位が相当高くなる(それ故本件溢水も左岸側だけで生じた。)。 ところが,本件溢水箇所にあたる№114地点(別紙5-1参照)では左岸の護岸高が右岸のそれよりも約70センチメートルも低く,被告はこれを放置していた。 ウ河川管理の瑕疵<ウ>について本件改修工事前,洗心橋上流左岸側(本件溢水箇所)には,水位が護岸高を超えても直ちに溢水が生じないように,護岸に沿って護岸天端から高さ約1メートルほどのコンクリート製パラペットが築かれていた(以下,これを「既設パラペット」という。)。この既設パラペットは「特殊堤」であり,洪水防止機能を担っていたものであるが,本件改修工事に先立ち撤去されていた。 その後,第1次溢水が発生したことから,第1次溢水調査委員会は,「今後の工事のあり方」として「従前のパラペット高さを確保するため,工事現場の周囲にはH鋼などによる水防柵を設置し,十分な余裕を確保する。」という基本方針をまとめ,水防柵に溢水被害を極力小さくするための「余裕の確保」の役割を担わせている。この点,確かに,本件水防柵は,改修工事期間中にだけ設置されるもので,恒久的な な余裕を確保する。」という基本方針をまとめ,水防柵に溢水被害を極力小さくするための「余裕の確保」の役割を担わせている。この点,確かに,本件水防柵は,改修工事期間中にだけ設置されるもので,恒久的なものではないが,既設パラペット撤去による溢水防止機能の低下を補うものとして設置されたものであり,それ故,本件水防柵の高さは既設パラペット高を基準に定められたのである。 しかるに,本件水防柵(土中埋込部)は支柱を土中の基礎ブロックに差し込むだけの構造であったために,溢れた水により基礎部分の土が洗われて転倒したのであり,およそ「水防活動の事前準備」としての役割さえ果たせない構造であった。 このように,本件水防柵(土中埋込部)の基礎は,極めて脆弱なものであり,第1次溢水において当該箇所から溢水し,しかも,出水期に工事を実施するにもかかわらず,被告はその基礎を強固なものにしなかったのであり,河川管理の瑕疵があることは明らかである。 エ河川管理の瑕疵<エ>について(ア) 新湊川警戒態勢の不適用本件助成事業の区間では平成10年10月に工事請負業者の水防活動を強化することを目的とした「新湊川警戒態勢」が定められた。そして,兵庫工区では,本件溢水当日も次のように「新湊川警戒態勢」が適用された(別紙6参照)。 午前11:45 兵庫県南部に大雨洪水警報発令午後 0:30 「警戒準備」(工事中止,水防活動のための人員の配置,一般土のうの準備)発令0:50 各施工業者は各工事区間における土のう準備など新湊川警戒態勢で定められた準備を完了 。 3:30 「警戒 の準備)発令0:50 各施工業者は各工事区間における土のう準備など新湊川警戒態勢で定められた準備を完了 。 3:30 「警戒態勢」(既設護岸部の土のう積み実施,角落しの準備,人員及び機械の配置,溢水に備えて土のうを備蓄)発令4:00 各施工業者は土のう積みに着手し,主な工事箇所における水防柵の補強と開口部の閉鎖完了。 5:10 「警戒出動」(橋梁通行止め,角落し設置,溢水危険箇所に土のう積み実施)発令このような本件溢水当日における新湊川警戒態勢の適用からすれば,仮に本件溢水箇所に同態勢が適用されていれば,本件溢水当日も午後0時30分に土のうの準備が始まり,午後3時30分には水防柵を補強するための土のう積みが始まり,午後4時ころには完了していたはずである。しかるに,実際には,本件溢水箇所は新湊川警戒態勢の適用対象外とされていたため,かかる措置が採られないまま,水防活動が遅延したのである。 この点,被告は,本件溢水当時,本件溢水箇所では現実に改修工事が行われていなかったから,本件溢水箇所に新湊川警戒態勢を適用しなかったと主張する。しかし,本件溢水箇所からすぐ下流の兵庫5-1工区では,洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事が残っており,これら工事の請負契約は既に締結され,請負業者が着工の準備を行っていた。また,洗心橋新橋から菊水橋にかけての上流部分についても河床の掘削工事は未了で,工程の都合で一時工事が中断していたに過ぎない。しかも,洗心橋仮橋地点は従前に比べて流下能力が低下し,本件溢水当時は,兵庫工区のうち最も流下能力が低かったのである。 河床の掘削工事は未了で,工程の都合で一時工事が中断していたに過ぎない。しかも,洗心橋仮橋地点は従前に比べて流下能力が低下し,本件溢水当時は,兵庫工区のうち最も流下能力が低かったのである。 とするならば,被告が工事を実施するにあたって設定した「兵庫工区」という一連区間の工事全体が完了していない以上,一連区間全体について新湊川警戒態勢が適用されるべきであり,一連区間の一部について工事が一時中断しているからといって,被告は水防責任を免れるものではない。 (イ) 水防活動の遅れa 本件溢水の予見可能性第1次溢水調査報告書では,第1次溢水時の防災活動の問題点として,新湊川の流出特性から防災活動の着手が遅れたことが指摘され,水位だけでなく上流の降雨量も防災活動の基準とすることや降水予報を活用すべきであることが指摘された。かかる指摘からすれば,本件溢水当日においても,水位のみならず上流の降雨量及び降水予報等の各データにも注意すべきであり,以下のとおりこれら各データを十分注意していれば,本件溢水を予見することは可能であった。 b 河川水位について第1次溢水は,菊水橋地点の水位が1.44メートルに達した後に急上昇して溢水が始まったが,本件溢水では溢水開始から1時間半以上も前の午後3時50分に,同水位が既に1.64メートルに達し,その後も漸増している(別紙7-1参照)。 c 降雨について降雨についても,第1次溢水開始時の累加雨量が88.8ミリメートルであった(別紙7-2参照)ところ,本件溢水当日の累加雨量は,午後3時10分過ぎに既に60ミリメートルを超え,その時点での雨量 降雨についても,第1次溢水開始時の累加雨量が88.8ミリメートルであった(別紙7-2参照)ところ,本件溢水当日の累加雨量は,午後3時10分過ぎに既に60ミリメートルを超え,その時点での雨量情報により,新湊川流域にはさらにまとまった降雨が予想され,上流にある天王ダムの1時間当たりの降雨量も,午後3時10分から午後4時10分までの間に合計34ミリメートルに達している。 加えて,第1次溢水と異なり,本件溢水では,溢水当日までに1週間にわたって降雨(前期降雨)があった。 d 以上からすれば,被告において本件溢水を予見することは可能だったのであり,第1次溢水も本件溢水箇所付近で発生していることからすれば,本件溢水箇所に新湊川警戒態勢が適用されていなかったとしても,被告としては,河川管理者として自ら早期に水防活動を実施すべきであった。 しかるに,被告は,本件溢水当日も午後5時14分に至るまで,本件溢水箇所につき何らの水防活動の指示もせず,同時点でようやく,他工区の施工業者に本件溢水箇所への土のう積みを要請したが,左岸側への土のう積みは間に合わず,同箇所からの溢水を防止できなかったのであり,角落しの補強についてもこれを怠ったのである。 よって,被告が水防活動を怠ったことは明らかであり,これは河川管理の瑕疵にあたる。 (被告の主張)ア河川管理の瑕疵<ア>について(ア) 洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削について本件溢水当時,洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事がなされていなかったことは認める。しかし,本件溢水当日までに同工事を完成させることは以下のとおり不可能であり,河川 本件溢水当時,洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事がなされていなかったことは認める。しかし,本件溢水当日までに同工事を完成させることは以下のとおり不可能であり,河川管理の瑕疵については争う。 a 建設工事請負契約締結に要する手続平成11年4月28日に洗心橋新橋の供用を開始した後,早期に洗心橋仮橋の撤去と護岸開削工事を行うべく,被告は同年4月中から設計図書の作成準備にとりかかり,連休を挟んだ5月中旬から順次,設計図書の内部決裁,入札手続等を進め,見積期間(原則として15日以上)を確保した上で,同年6月9日に工事請負業者と建設工事請負契約を締結した。 b 占用物件の移設に要する手続(a) 洗心橋仮橋橋台部分の開削に当たっては,左岸側の護岸付近にあると考えられた占用物件(関西電力,NTT,大阪ガス,神戸市上水道及び下水道)を移設することが必要であったため,請負契約締結の翌日(同年6月10日)に各占用者に対して工事を行う旨の通知を行った。 その後,工事請負業者の作成する当該工事の仮設方法等に関する施工計画案を基に,各占用者と協議し,各占用者による現場立会(同年7月10日前後)を経て,その約10日後の同年7月20日ころから占用者による移設工事が開始され,同年7月31日に占用物件の移設が完了したのである。 (b) また,埋設物の移設は,本件改修工事の請負業者ではなく,各占用者が行うのであるが,いずれの占用者も,現場立会後,移設のための内部手続(工事費の見積り,移設工事を行うための業者の選定等)や利用者との調整(移設工事に伴う停電や断水を行う日程調整等)を進める必要があったこ のであるが,いずれの占用者も,現場立会後,移設のための内部手続(工事費の見積り,移設工事を行うための業者の選定等)や利用者との調整(移設工事に伴う停電や断水を行う日程調整等)を進める必要があったことから,被告の一存で,占用物件をもっと早い時期に移設させることなど到底できなかった。 c 占用物件の移設以外に要する手続洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削を担当する兵庫5-1工区の工事請負契約は,同年6月9日に締結されたが,その落札を受けて初めて,工事請負業者が施工計画の検討・作成,施工計画に沿った下請業者の選定,施工計画で具体化された道路使用にかかる警察との協議,施工に際し必要な重機の手配等が可能となる。 d 洗心橋仮橋の撤去及び仮橋の橋台部分の開削に要する工事以上の手続が完了してようやく,洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削に着手できるようになる。 しかし,橋台部分を開削するには,橋台部分(左岸側の旧護岸)の開削箇所からの崩落を防止するために,あらかじめ仮設土留め工として,鋼矢板による土留め工を施しておく必要があったが,本件では地中に地盤の堅い層(N値50以上)があったことから,直接地盤に鋼矢板を打ち込む鋼矢板圧入工法を採ることができず,鋼矢板を打ち込むための孔を先行掘りし,鋼矢板を打ち込む先行掘工法を採る必要があった。そして,この先行掘りを行うためには特別な重機(アースオーガー)が必要であり,この機械を現地で組み立てたり解体したりするための作業スペースや,稼働させるための発電機,溶接機,ボンベ等の雑機材を設置するためのスペースも同時に必要であった。 ところが,この付近の道路には既に工事 解体したりするための作業スペースや,稼働させるための発電機,溶接機,ボンベ等の雑機材を設置するためのスペースも同時に必要であった。 ところが,この付近の道路には既に工事用の資機材が置いてあり,新たな機材を置くスペースがとれなかったことから,やむなく工事期間中に限り,旧護岸及びその上の洗心橋仮橋を存置して,これらの機材を設置するためのスペースを確保していた。 そして,洗心橋仮橋及びその橋台部分を存置しつつ工事を進めた結果,平成11年8月19日に洗心橋仮橋の撤去とその橋台部分(左岸側の旧護岸)の開削を終了することができたのである。 e このように,兵庫5-1工区の工期については,同工区の全体工事のうち,仮橋の撤去と橋台部分の左岸側護岸の開削という点だけを見ると,約3週間で終了しているが,上記のとおり,契約手続に約1か月(準備期間を含めると約2か月),占用物件移設のための協議を含めた準備手続に約2か月,実際の撤去工事に約半月を要することから,洗心橋新橋の工事完了後に直ちに同工区の工事に着手していたとしても,出水期に入るまでに同工区の工事を完了させることは不可能であった。 よって,出水期に入るまでに洗心橋仮橋の撤去とその橋台部分の開削を完了しなかったことが河川管理の瑕疵にあたるとはいえない。 (イ) 洗心橋新橋の嵩上げについてa 被告が平成12年4月に洗心橋新橋の嵩上げを実施したことは認めるが,本件溢水までにこれを実施しなかったことが河川管理の瑕疵にあたることについては争う。 b 原告らが主張する被告が平成12年4月に実施したという嵩上げ工事は,橋梁を通行止めにした上で,道路と一体となってい しなかったことが河川管理の瑕疵にあたることについては争う。 b 原告らが主張する被告が平成12年4月に実施したという嵩上げ工事は,橋梁を通行止めにした上で,道路と一体となっているアスファルト舗装及び橋梁を固定しているアンカーボルトを切断し,橋桁を橋台から分離して,その分離した橋桁(約200トン)を6基の油圧ジャッキで約2メートル持ち上げ,これを出水期間中保持するという極めて特殊な工事であり,その工法も一般的に知られたものではなく,原告らが主張するような容易な工事ではない。 そもそも,一度完成した橋桁を治水対策のために橋台から分離して持ち上げるなどということは通常行われず,本件溢水当時においても想定外であり,そのため第1次溢水調査委員会でも全く検討の対象になっていなかった。加えて,本件溢水当時としては,むしろ,交通の確保が最優先の課題であったことなどからすれば,本件溢水当時にかかる工事を行わなかったのは当然である。 被告が同月に嵩上げを実施したのは,二度の溢水と本件溢水にかかる新湊川浸水災害調査委員会(以下「本件溢水調査委員会」という。)における検討結果を踏まえて,流下能力を確保するために,たとえごくわずかでも効果のある対策は積極的に行うとの方針によるものである。 c よって,かかる嵩上げ工事を行わなかったことをもって河川管理の瑕疵にあたるとは到底いえない。 イ河川管理の瑕疵<イ>について本件溢水箇所の左岸側の護岸高が右岸のそれよりも低かったことは認めるが,№114地点において溢水に影響のある高低差は70センチメートルではなく,右岸護岸高と左岸地盤高の差である54センチメートルである。また,同地点における左右両 岸のそれよりも低かったことは認めるが,№114地点において溢水に影響のある高低差は70センチメートルではなく,右岸護岸高と左岸地盤高の差である54センチメートルである。また,同地点における左右両岸の水防柵の高低差はわずか14センチメートルである。 しかし,原告らが,かかる高低差をもって河川管理の瑕疵と主張することについては争う。 (ア) 本件溢水箇所付近の曲率半径は170メートルで,増水時の湾曲による水位上昇量は,本件溢水箇所付近に限ってみても,最大で5センチメートル程度である。 そして,本件溢水当日における溢水箇所付近の最高水位は約5メートルであったことからすると,湾曲によって生じる約5センチメートルの水位差は,ピーク時においてすら割合にして1パーセント程度に過ぎず,この程度の水位差をもって,増水時には右岸に比べて左岸の水位が相当高くなるとは到底いえない。 (イ) また,そもそも,左右の護岸に前記のような高低差があったのは,本件溢水箇所付近の右岸側には市道が通っていることから,右岸側に市道からの転落防止のための構造物が必要だったからである。すなわち,左右の護岸の高低差は,背後地の土地の利用形態に応じて,転落防止という目的を図るために必然的に生じたものであって,河川管理とは全く関係がないのである。 (ウ) 加えて,原告らが低いと主張する左岸側の護岸高でも,本件溢水箇所では従前の河道の流下能力(毎秒100立方メートル)を上回る毎秒112立方メートルの流下能力が確保されていたものである。 (エ) よって,左岸側の護岸高が右岸側に比べてわずかに低かったことをもって,河川管理に瑕疵があったとはいえない。 ウ河川管 ートルの流下能力が確保されていたものである。 (エ) よって,左岸側の護岸高が右岸側に比べてわずかに低かったことをもって,河川管理に瑕疵があったとはいえない。 ウ河川管理の瑕疵<ウ>について第1次溢水調査報告書の記載及び本件水防柵の一部につき支柱(H型鋼)が土中に埋め込まれた基礎ブロックに差し込むものであったことは認める。しかし,本件水防柵の支柱の基礎は,単にH型鋼を基礎ブロックの穴に差し込んだだけのものではなく,基礎ブロック内にモルタルを詰めてH型鋼と基礎ブロックとを一体化させたものであった。 その余は否認ないし争う。具体的には以下のとおりである。 (ア) 既設パラペットが堤防ではないことについて原告らは既設パラペットについて,特殊堤であると主張する。しかし,既設パラペットの構造は無筋コンクリートであり,その厚さも22センチメートルに過ぎないなど,堤防と評価し得るほどの安全性を備えていなかった。また,既設パラペットは連続して設置されておらず橋梁部が途切れており,出水時には水防活動により開口部を塞ぐことが予定されていた。 また,そもそも堤防は,護岸等の施設と一体として計画高水位以下の水位の流水の通常の作用に対して安全であるように設置されるものであり(河川管理施設等構造令18条1項),新湊川のような改修途上の河川では,従前の河道の流下能力の最も劣る箇所における流下能力(本件では菊水橋地点の毎秒99立方メートル。)に見合う水位が,計画高水位に代わるものであるところ,新湊川は,掘込河道の構造になっており,護岸の天端が同水位よりも高い位置にあったことから,護岸より高い位置にある既設パラペットが,流水の「通常」の作用 合う水位が,計画高水位に代わるものであるところ,新湊川は,掘込河道の構造になっており,護岸の天端が同水位よりも高い位置にあったことから,護岸より高い位置にある既設パラペットが,流水の「通常」の作用に対して安全を確保するという堤防の機能を担っていないことは明らかである。 よって,既設パラペットは,平常時には河川への転落防止機能を果たし,洪水時には,橋梁の角落しと一体となって,風浪,うねり,跳水等による一時的な水位上昇に対してこぼれないようにする機能を有していたに過ぎず,それ自体で堤防としての機能ないしは溢水防止機能を果たすものではない。 (イ) 水防柵が転倒しても被告に法的責任が生じないことについてa 水防の意義水防とは,現実に災害が生じ又は生じようとしているときに,人命と財産を災害から守るため,種々の手法を用いて,被害を最小限に食い止めるための活動であり,河川管理者の行う河川の管理とは異なり,自らの地域を自ら守るという基本的自衛手段である。 水防法3条でも,河川管理者と水防管理団体である市町村との役割については,第一次的に地元の市町村を中心とした水防管理団体が水防の責任を有すると規定され,同法3条の6では,都道府県は,その区域における水防管理団体が行う水防が十分行われるように確保すべき第二次的な責任を有するにとどまると規定されている。具体的には,都道府県の水防計画を作成し(同法7条1項),水防警報を行い(同法10条の6),水防信号を定める(同法13条1項)等,水防法に定められた事務を行うほか,水防活動の際に重点的に資器材を配布するため,水防倉庫を造り,資器材を備蓄することも含まれるとされている。 を定める(同法13条1項)等,水防法に定められた事務を行うほか,水防活動の際に重点的に資器材を配布するため,水防倉庫を造り,資器材を備蓄することも含まれるとされている。 このように,水防法では,土のう積み等の具体的な水防活動は市町村の役割とされており,都道府県の役割とはされていない。 また,水防活動については,河川法にも規定が設けられているが(河川法22条),河川法によって河川管理者に求められている水防活動の内容は,河川管理施設である堤防(本件では護岸)からの漏水対策,護岸の洗掘や亀裂,崩壊対策など,河川管理施設の機能の維持が同時に水防活動にあたる場合が想定されているのであって,本件のように,護岸自体に何の支障も生じていなかったような場合にまで,河川管理者に河川法上の水防活動は求められていない。 b 本件水防柵の役割及び機能本件水防柵は,水防管理団体の行う水防活動の事前準備として,出水時の水防活動を容易にするため,あらかじめ兵庫工区の全域にわたって,水防工法の一種である「せき板工」(増水が激しく,流水が堤防を越えそうになっているときに,堤防天端に堰板《ここでは水防柵》と積み土のうを用いて越水を防ごうとするもの)による水防活動の事前準備として役立つよう被告が設置したものである。 そして,その機能は,既設パラペットの機能と同様に,平常時には河川への転落を防止するとともに,洪水時には,積み土のうと相まって,風浪,うねり,跳水等による一時的な水位上昇に対してこぼれないようにする役割を果たすことであった。 c 本件水防柵の構造及び効用本件水防柵は,せき板工の作業工程の一部 水等による一時的な水位上昇に対してこぼれないようにする役割を果たすことであった。 c 本件水防柵の構造及び効用本件水防柵は,せき板工の作業工程の一部であって,その内側(堤内地側)に土のうを積まなければ,水防工法として十分機能するものではなく,水防柵自体で構造上の安全性,すなわち一定の強度を確保しなければならないものではない。ただ,水防柵があることにより,せき板工の工程を大幅に省略することができるので,緊急時の水防活動の事前準備としては,非常に効果的なものであった。 d このように本件水防柵は,堤防でもその代替物でもないので,これに構造上の安全性を求めるのは失当である。これは既設パラペットが堤防ではなかったことからしても明らかである。 したがって,本件水防柵の基礎が脆弱であるからといって,河川管理の瑕疵があったとはいえない。 エ河川管理の瑕疵<エ>について(ア) 新湊川警戒態勢の適用について本件溢水当日の新湊川警戒態勢の適用状況については,同態勢が本件溢水箇所に適用されなかったことも含めて認めるが,これをもって河川管理の瑕疵とすることについては争う。 a 新湊川警戒態勢の趣旨・概要新湊川警戒態勢は,第1次溢水時に,改修工事による河道内の仮設工作物の撤去の遅れが溢水増加の一因になったことに鑑み,河道内の仮設工作物や現場周辺の工事用資機材により,河積阻害や水防活動に直接影響を受ける区間に限り,工事請負業者が本来行うべき防災活動に加えて,水防活動を行うことによって,可及的に工事現場からの溢水を防ぐことを目的として,被告(兵庫県神戸土木事務所 阻害や水防活動に直接影響を受ける区間に限り,工事請負業者が本来行うべき防災活動に加えて,水防活動を行うことによって,可及的に工事現場からの溢水を防ぐことを目的として,被告(兵庫県神戸土木事務所以下「神戸土木事務所」という。)が策定したものである。 そして,同態勢においては,第1次溢水の教訓も踏まえ,河川水位だけでなく,降雨予測などを含めて発令の判断基準とし,水害の危険性に応じた4段階の態勢(警戒準備,警戒態勢,警戒出動,警戒解除)を定めるとともに,各態勢に応じて各工事請負業者が,その施工する工区内において行うべきことについて,具体的に定めていた。 b 本件溢水箇所への適応上記のような新湊川警戒態勢の趣旨からすれば,河川工事中の区間ではなく流下能力が河道内の仮設工作物の影響を受けず,また,工事用の資機材がないため水防活動に何の支障もない区間についてまで,同態勢が適用されることは,初めから想定されていなかった。 そして,本件溢水当日の兵庫工区における工事の実施状況は,別紙4の図のとおりであり,河道内での工事(護岸工事)を行っていたのは,本件溢水箇所から約400メートル下流の兵庫7工区(夢野橋下流左岸)及び夢野橋工区のみであった。また,それより上流の工区である熊野橋工区,氷室橋工区及び兵庫5-1工区では,護岸工事に先立つ準備作業(兵庫5-1工区では占用物件の移設協議)が行われていただけであり,何ら河道内の工事は行われていなかった。さらに,兵庫6工区(本件溢水箇所を含む工区)やそれに隣接する洗心橋工区,兵庫5工区にかかる護岸工事は,既に平成11年4月までに終了しており,本件溢水箇所やその周辺の区間には,河道内に仮設工作物は設置されておらず, 区(本件溢水箇所を含む工区)やそれに隣接する洗心橋工区,兵庫5工区にかかる護岸工事は,既に平成11年4月までに終了しており,本件溢水箇所やその周辺の区間には,河道内に仮設工作物は設置されておらず,また,水防活動に支障となるものもなかった。 よって,本件溢水箇所に新湊川警戒態勢の適用がなかったのは当然である。 c 神戸市との連携態勢神戸土木事務所職員は,平成10年10月16日,水防管理団体である神戸市の関係事務所(西部建設事務所,中部建設事務所,長田消防署及び兵庫消防署)を訪れ,新湊川警戒態勢を記載した書面を手渡した上,同態勢の趣旨・目的・内容等について説明した。その後も,同事務所職員は,同態勢の更新の度に,これを記載した書面を神戸市の関係事務所に送付しており,神戸市の関係者の理解を得るとともに,情報の共有に努めていた。 また,神戸土木事務所は,平成11年5月13日に水防演習を実施し,神戸市(建設局,建設事務所,消防署及び区役所)のほか,警察署も交えて洗心橋の角落しの設置や土のう積みの訓練を行うとともに情報伝達の確認を行った。 さらに,神戸土木事務所は,同年6月7日には,水防連絡会を開催し,神戸市(建設局)のほか,警察署及び陸上自衛隊も交えて,重要水防箇所(洪水又は高潮が公共に及ぼす影響が大きいため,水防活動を重点的に実施すべきものとして,水防法及びこれを受けた兵庫県水防計画に基づいて指定された箇所で,新湊川の本件改修工事区間もこれに該当する。)に指定されている神戸市内の河川の区域の確認や,水防時の連絡体制等についての確認を行った。 加えて,神戸土木事務所は,同年6月18日には,神 改修工事区間もこれに該当する。)に指定されている神戸市内の河川の区域の確認や,水防時の連絡体制等についての確認を行った。 加えて,神戸土木事務所は,同年6月18日には,神戸市との間で,河川改修事業に関する打合せ会議を開催し,神戸市からは建設局の各担当者が出席した。その際,神戸土木事務所の担当者らは,明石川,住吉川,都賀川等の河川とともに,新湊川についても,当時の各工区の施工状況,施工完了箇所等について,図示して説明した。 d 本件溢水当日の対応本件溢水箇所は新湊川警戒態勢の対象外となっていたが,本件溢水直前の降雨状況から,水防活動が必要とされる事態が想定された。そこで,工事中の区間か否かにかかわらず,水防活動を支援するため,自工区以外にも水防活動に従事する余力のあった会下山トンネル呑口側工区(本件溢水箇所から約600メートル下流)の工事請負業者(西松・新井特別共同企業体)に対し,現場における臨機の措置として,警戒出動発令直後の午後5時14分に,氷室橋付近から上流で土のう積みが必要と思われる箇所を応援するよう要請した。同業者は,自工区の作業ヤードに備蓄していた土のうを洗心橋付近まで運搬して右岸側に土のうを積むことはできたが,左岸側については交通渋滞に阻まれて本件溢水開始までに到達することができず,結果的に同所からの溢水を防止することができなかった。 しかし,これらの活動は,被告の独自の判断で応援要請をしたものであって,その応援及び水防活動の遅れをもって,被告に水防責任があるかのような原告らの主張は,水防法の解釈からして失当である。 e このように,新湊川警戒態勢の趣旨から本件溢水箇所に同態勢が適用されなかったのであ れをもって,被告に水防責任があるかのような原告らの主張は,水防法の解釈からして失当である。 e このように,新湊川警戒態勢の趣旨から本件溢水箇所に同態勢が適用されなかったのであり,被告としては,これについて水防管理者である神戸市に対しても周知していたのであるから,河川管理の瑕疵があるとはいえない。 (イ) 水防活動の遅れについて原告が主張する河川水位及び降雨データについては認めるが,その余は否認ないし争う。 a 本件溢水の予見可能性(a) 新湊川の流出特性について新湊川において,水位の上昇に最も影響を及ぼす降雨の強度を表す単位は,10分間最大雨量と60分間最大雨量である。 また,新湊川の流出量は,石井川と天王谷川の流出量を合わせたものであるが,石井川の流出量は天王谷川の流出量の4~6倍であり,新湊川の水位を予想するにあたっては,天王谷川流域の雨量を観測する天王ダムの雨量観測所の雨量データよりも,むしろ,石井川流域の雨量を観測する北区役所の雨量データの方が重要である。 (b) 前期降雨について新湊川の流出特性について,確かに,新湊川は菊水橋よりも上流の河川勾配が非常に急峻であり,流域に降った雨は短時間で下流に到達するという特性を有しているが,このことは逆に,水位の上昇が早いのと同様に,水位の下降も早いという特性を有することを意味する。 現に,本件溢水でも,前期雨量が153ミリメートルあった(別紙7-2参照)にもかかわらず,本件溢水当日の早朝にはほとんど降雨がなかったことから,菊水橋地点の 味する。 現に,本件溢水でも,前期雨量が153ミリメートルあった(別紙7-2参照)にもかかわらず,本件溢水当日の早朝にはほとんど降雨がなかったことから,菊水橋地点の水位も30センチメートル程度まで下がっていた。 よって,前期降雨と本件溢水とは直接関係がない。 (c) 累加雨量について第1次溢水開始時の累加雨量は88.8ミリメートルであり,本件溢水当日には午後3時10分過ぎに累加雨量が60ミリメートルを超えたが,同時点での菊水橋地点の水位は1メートル程度に過ぎなかったこと,その後に降雨があったが,それらを含めても,水位は2メートル程度に過ぎなかったこと,本件溢水当日の降雨域は,淡路島方面から新湊川方面に向けて北東方向に移動していたが,その移動元である淡路島方面には,午後4時30分時点でも1時間当たり70ミリメートルを超える降雨域はなかったこと,新湊川への流出量が多い石井川流域の警戒態勢発令前後の雨量をみても,天王谷川流域の雨量の半分以下で,かつ警戒態勢発令時には,既に減少に転じていたことからすれば,本件溢水当日の累加雨量からしても,本件溢水を事前に予見できたとは考えられない。 (d) 水位について確かに,本件溢水において,急激な水位の上昇が始まる前の水位は,第1次溢水のそれよりも若干高いものであったが(別紙7-1参照),午後4時50分までの10分間雨量は数ミリメートル程度に過ぎず,上記のとおり,その後の集中豪雨を事前に予想できなかった以上,水位が高いことのみをもって,後の水位上昇を事前に予測することができたということにはならない。 また ぎず,上記のとおり,その後の集中豪雨を事前に予想できなかった以上,水位が高いことのみをもって,後の水位上昇を事前に予測することができたということにはならない。 また,本件溢水当日の累加雨量は午後5時時点で第1次溢水時の88.8ミリメートルを超えており,しかも1週間前からの前期降雨もあったが,他方,本件溢水では,菊水橋地点の10分間最大水位上昇量は105センチメートルで,第1次溢水時が167センチメートルであったことからすると,第1次溢水ほどの急激な水位上昇はなかった。よって,前期降雨や累加雨量の多寡は,必ずしも水位上昇にストレートに結びついていないといえる。 (e) したがって,前期降雨,累加雨量及び水位の,いずれのデータによっても,事前に本件溢水を具体的に予測することは不可能であった。 b 小括以上のとおり,被告には原則として水防責任はなく,被告としては,工事中の区間以外の箇所については原則どおり神戸市による水防活動が行われるものと考えて,工事中の区間の水防活動に専念していたものである。しかも,本件溢水当日も本件溢水の発生を事前に予測することはできなかったのであるから,水防活動の遅れをもって被告に河川管理の瑕疵があったとはいえない。 (2) 争点②(河川管理の瑕疵と原告らの損害との因果関係)について(原告らの主張)ア本件溢水当日の溢水量について本件溢水に関する新湊川浸水災害調査報告書(以下「本件溢水調査報告書」という。)は,本件水防柵で流し得る流量を毎秒120~130立方メートルと推定し,かつ,本件溢水当日における菊水橋地点の最大流出量は毎秒155~165立方メートルであったとして 本件溢水調査報告書」という。)は,本件水防柵で流し得る流量を毎秒120~130立方メートルと推定し,かつ,本件溢水当日における菊水橋地点の最大流出量は毎秒155~165立方メートルであったとして,本件水防柵が転倒しなかったとしても洗心橋付近からの溢水は避けられなかったと結論づけている。 しかし,本件水防柵で流し得る流量が上記報告書のとおりであるとしても,上記報告書は,本件溢水当日における最大流出量を過大評価している。後記のとおり,本件溢水箇所における最大流出量は130~140立方メートルであったものである。そして,洗心橋仮橋地点における仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事が完成していれば,その流下能力はさらに毎秒10~20立方メートル程度向上していたはずであるから,本件水防柵が転倒せず,かつ洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事が完成していれば,溢水は生じなかったはずである。また,同工事を除いて考えてみても,本件水防柵で流し得る流量を毎秒120立方メートル,本件溢水箇所における最大流出量を毎秒130~140立方メートルとして計算すると,溢水量合計は被告が主張する約5万立方メートルではなく4000立方メートルとなり,被害はほとんど発生しなかったと考えられる。 さらに,洗心橋新橋の桁下を上げる嵩上げ工事を実施していれば,流下能力はもっと向上したはずであり,仮に毎秒160立方メートル前後の流出量があったとしても,溢水を防止することができた。 イ本件溢水箇所の最大流出量について本件溢水当日における本件溢水箇所の最大流出量については,本件溢水箇所上流の菊水橋の流出量によって,これを知ることができる。 (ア) 菊水橋地点における流出量の特 本件溢水当日における本件溢水箇所の最大流出量については,本件溢水箇所上流の菊水橋の流出量によって,これを知ることができる。 (ア) 菊水橋地点における流出量の特徴新湊川は菊水橋上流で石井川と天王谷川が合流しており,菊水橋地点における流出量は,これら二つの川の流出量を合計したものとなる。ただ,石井川の流出量と天王谷川のそれとを比較すると両者の流出量には大きな差があり,本件溢水調査報告書においても,石井川における最大流出量は毎秒132立方メートル,天王谷川のそれは毎秒32立方メートルとされている。よって,菊水橋地点の流出量を推定するにあたっては,石井川からの流出量が決定的な影響を与えるといえる。 また,石井川には天王谷川との合流地点の上流に石井川トンネルがあり,同トンネル下流の石井川の流出量は同トンネルの疎通能力によって制約されることになる。 (イ) 流出量の推定方法本件溢水調査報告書では,菊水橋地点の流出量を検討するにあたって,洪水痕跡による方法,水位記録による方法,比流量による方法,流出解析による方法の4つの方法を用いており,その具体的内容は以下のとおりである。 ① 洪水痕跡による方法天王谷川及び石井川の洪水痕跡から,それぞれ等流計算(断面形状及び勾配が縦断的に変わらないと考えられる水路に,時間的に一定と考えられる流量が流れるときに用いられる水理解析方法)により流出量を算出して,これを合計する方法である。 菊水橋地点の流出量に大きな影響を及ぼす石井川の流出量を計算する際に,石井川の洪水痕跡地点の粗度係数(河床や側壁の表面の摩擦抵抗を表す係 て,これを合計する方法である。 菊水橋地点の流出量に大きな影響を及ぼす石井川の流出量を計算する際に,石井川の洪水痕跡地点の粗度係数(河床や側壁の表面の摩擦抵抗を表す係数で,河床や側壁の表面の凹凸状態に基づいて設定される。粗度係数が大きくなればなるほど流下量は小さくなる。)をどのように評価するかで計算結果は異なる。 ② 水位記録による方法天王谷川及び石井川の水位計の記録を基に,それぞれ不等流ないし等流計算により流出量を算出して,これを合計する方法である。石井川の流出量を計算する際に,石井川の粗度係数をどう見るかで計算結果は異なる。 ③ 実測流量を用いた比流量による方法天王谷川上流にある天王ダムの流入量と,石井川上流にある烏原分水堰(別紙1-2参照)の流下流量を基に,それ以外の流域からの流出量を流域面積の比率に基づいて推定し,それらと実測流量とを合わせて天王谷川及び石井川の流出量を算出し,これを合計する方法である。 石井川の流出量を算定する際に,石井川トンネルの疎通能力の制約を受けることになるので,石井川トンネルの疎通能力の評価により計算結果が異なる。 ④ 流出解析による方法本件基本計画で採用されている流出解析手法(雨量から流量を推定する手法)である等価粗度法(流域をいくつかの矩形斜面と流路が組み合わされたものとみなし,これらの斜面や流路における雨水流下現象を,水流の運動法則と連続の関係を用いて水理学的に追跡する手法)を用いて,雨量から天王谷川及び石井川の流出量を算出し,これを合計する方法である。 この場合も石井川トン 現象を,水流の運動法則と連続の関係を用いて水理学的に追跡する手法)を用いて,雨量から天王谷川及び石井川の流出量を算出し,これを合計する方法である。 この場合も石井川トンネルの疎通能力の評価により計算結果が異なる。 以上からすると,流出解析による方法と比流量による方法は,石井川トンネルの疎通能力の評価が結果を左右し,洪水痕跡による方法及び水位記録による方法においては,石井川の粗度係数の評価が結果を左右することになる。 (ウ) 石井川トンネルの疎通能力石井川トンネルの疎通能力の評価にあたって,結論を大きく左右するのは,トンネル内部の粗度係数である。この点,本件溢水調査報告書では粗度係数を0.025と評価し,その結果,同トンネルの疎通能力を毎秒120立方メートルと算出している。 しかし,石井川トンネルの内部は石積ライニングを施した覆工部と,素堀りのままの素堀部とが交互に存在しているにもかかわらず,本件溢水調査報告書では全て覆工部で代表させ,トンネル内部の凹凸を適切に評価していない。また,トンネル内部には石などの堆積物があり,流木が引っかかっているなど,断面を阻害するものがある。 よって,これらを適切に評価し,素堀部の粗度係数を0.040ないし0.050と評価し,覆工部のそれを0.025と評価して石井川トンネルの疎通能力を算出すると,毎秒95立方メートルとなる。 (エ) 石井川の粗度係数石井川の粗度係数について,本件溢水調査報告書では石井川における洪水痕跡地点(石井橋下流地点,別紙8参照)の粗度係数を0.020と評価しているが,同地点の河床では,水路底面が溝状に一部深く 石井川の粗度係数について,本件溢水調査報告書では石井川における洪水痕跡地点(石井橋下流地点,別紙8参照)の粗度係数を0.020と評価しているが,同地点の河床では,水路底面が溝状に一部深くなっていること,溝状部は側壁が玉石積みで蛇行していること及び飛び石が配置されていることからすれば,同地点の粗度係数は0.025を下ることはない。 また,粗度係数の妥当性を検証するために神戸土木事務所災害復旧室の職員が平成14年1月21日に実施した流量観測についても,川の中央部に浮きを20メートル流して,4回の到達時間の平均から平均断面流速を算出し,粗度係数を0.216と算出している。しかし,そもそもかかる浮子観測法は正確性が低いとされている方法であり,しかも,本来であれば浮きを50メートル以上流さなければならず,かつ川の中央部と側壁部に分けて流さなければならないはずであるのに,同土木事務所職員らは川の中央部で20メートルしか流さなかったのであり,観測方法自体恣意的なものである。 よって,かかる観測結果から得られた粗度係数の信用性は低い。 (オ) 小括以上のような石井川トンネルの疎通能力及び石井川の粗度係数を基に,上記4つの方法により菊水橋地点の最大流出量を算出した結果は,別紙9の表(原告ら欄)のとおりであり,毎秒130~140立方メートルとなる。 (カ) 被告の主張について被告は,菊水橋地点の最大流出量について,本件溢水調査報告書に基づき,毎秒155~165立方メートルと主張するが,これを前提とすると菊水橋地点の流下能力との間で矛盾が生じる。 すなわち,本件溢水調査報告書によれば,本件溢水当日の菊 書に基づき,毎秒155~165立方メートルと主張するが,これを前提とすると菊水橋地点の流下能力との間で矛盾が生じる。 すなわち,本件溢水調査報告書によれば,本件溢水当日の菊水橋地点における流出量は,午後5時ころに毎秒100立方メートルを超え,午後5時20分ころには毎秒130立方メートルを超えて,午後5時50分ころ毎秒162立方メートルに達している。 しかし,本件溢水当時の菊水橋地点の流下能力は毎秒129立方メートルであったことからすれば,もし,被告が主張するとおりの最大流出量があれば,菊水橋地点でも溢水が生じていたはずであるし,洗心橋地点でももっと早い時点で,溢水が開始したはずである。 このように,被告の主張する最大流出量では菊水橋地点の流下能力との間に矛盾を来すのであり,かかる最大流出量自体が過大であることを強く推測させるものである。 ウ浸水区域について本件水防柵が転倒しなければ,もう少し下流で溢水した可能性があり,本件溢水箇所で溢水は発生していなかった。 仮に本件溢水箇所において溢水が生じたとしても,本件水防柵が倒れず水防柵を越流して溢水が発生する場合には両岸から溢水が生じるから,溢水被害ははるかに小さかったといえる。また,左岸側の溢水箇所の幅も18メートルということはなく,もっと拡大していたであろうから,本件溢水のように狭い地域に深刻な被害をもたらすということはなかった。 (被告の主張)本件溢水調査報告書が,本件水防柵で流し得る流量を毎秒120~130立方メートルと推定し,かつ,本件溢水当日における菊水橋地点の最大流出量は毎秒155~165立方メートルであったとして,本件水防柵が転 件溢水調査報告書が,本件水防柵で流し得る流量を毎秒120~130立方メートルと推定し,かつ,本件溢水当日における菊水橋地点の最大流出量は毎秒155~165立方メートルであったとして,本件水防柵が転倒しなかったとしても洗心橋付近からの溢水は避けられなかったと結論づけているいることは認めるが,その余は否認ないし争う。 ア本件溢水における溢水量本件溢水では,溢水箇所が特定されているため,洗心橋水位観測記録を用いて溢水量を算定した結果,溢水量の合計は約5万立方メートル,最大溢水流量は毎秒28立方メートルとなる。 イ水防柵が転倒しなかった場合の溢水量本件溢水における菊水橋地点の最大流出量は,原告が主張するように毎秒130~140立方メートルではなく,本件溢水調査報告書にあるとおり,毎秒155~165立方メートルである。そこで,水防柵で流し得る流量を毎秒125立方メートル,菊水橋の最大流出量を毎秒160立方メートルとして本件水防柵が転倒しなかった場合の溢水量を算出すると,約4万2000立方メートルとなる。 また,左右両岸への溢水割合は,1:1程度と考えられることから,左岸側には,その半分の約2万1000立方メートルが溢水したものと考えられる。 ウ本件溢水当日の最大流出量について(ア) 石井川トンネルの疎通能力原告らは,石井川トンネルの疎通能力を阻害するものとして,河床の石や同トンネルの途中に引っかかっていた流木を重視する。 しかし,河床の石の多くは転石であり,それにもかかわらず原告らはこれらの石を固定された石と同じように評価して粗度係数に直接反映させており妥当ではない。 を重視する。 しかし,河床の石の多くは転石であり,それにもかかわらず原告らはこれらの石を固定された石と同じように評価して粗度係数に直接反映させており妥当ではない。 そもそも,ある断面に粗度係数を設定するということは,その設定した粗度の断面の形状が一定である,すなわち連続している必要があるところ,石井川トンネルでは石と流木が絡み合っている箇所は1箇所しかなく,後は転石と考えられる石が点在しているだけであり,これを連続的なものと捉えて粗度係数を評価していることも適切ではない。 加えて,同トンネルでは水深(流量)が深く(大きく)なるにつれて流水と接する部分に占める側壁の割合が大きくなり,その側壁には大きく出っ張った岩や雑木がないことからすれば,河床の石を重視して直接粗度係数に反映させるのは明らかに誤っている。 また,素堀部の粗度係数を0.040ないし0.050と評価することについて,何ら合理的な根拠も示されていない。 確かに,素堀部の粗度係数は0.025より大きい0.030程度と考えられるが,素堀部は覆工部よりも断面積が大きく,この点をも考慮して素堀部と覆工部の疎通能力を算出すると,素堀部は毎秒119.9立方メートル,覆工部は毎秒120.6立方メートルとなり,ほぼ同じ疎通能力となることからすれば,覆工部で代表させて疎通能力を検討したことについて,何ら問題はない。 また,原告らが主張する石井川トンネルの疎通能力からすると,同トンネル上流の烏原貯水池における水量収支がとれなくなるという矛盾が生じる。すなわち,本件溢水当日における石井川トンネル上流のピーク流出量(毎秒162立方メートル)は,石井川トンネルの疎通 ると,同トンネル上流の烏原貯水池における水量収支がとれなくなるという矛盾が生じる。すなわち,本件溢水当日における石井川トンネル上流のピーク流出量(毎秒162立方メートル)は,石井川トンネルの疎通能力を超えていたので,同トンネルを流下しきれなかった流量は,烏原貯水池に入ることになる。そこで,計算上烏原貯水池に流入することになる推定流入量と,実際に同貯水池に流入した実測流入量との関係を検討すると,原告らの主張する石井川トンネルの疎通能力(毎秒95立方メートル)では,同貯水池の水位上昇量の推定値は182.6センチメートルとなるのに対して,同貯水池の水位上昇量の実測値は112.1センチメートルであり,推定値の方が70.5センチメートルも高くなるという不均衡が生ずる。これに対して,被告の主張する同トンネルの疎通能力(毎秒120立方メートル)からすれば,水位上昇量の推定値は104.8センチメートルとなり,実測値と7.3センチメートルしか差がないことになり,ほぼ整合する結果となる。 このように,原告らの主張する石井川トンネルの疎通能力の場合に,水量の収支がとれなくなるのは,原告らの主張する疎通能力が過小であることの証左である。 (イ) 石井川の粗度係数本件溢水調査報告書によると,洪水痕跡の認められた石井橋付近は,石積みのライニングを施した水路であることから,マニングの粗度係数表の「石積み,モルタル目地」を適用すると0.017~0.030となるが,洪水痕跡確認箇所のライニングは比較的新しいものであることから0.020と考えるのが妥当であるとされている。 これに対して,原告らは,河床の影響を考慮して0.025と評価するところ,原告らが主張する河床の状況はいずれ ものであることから0.020と考えるのが妥当であるとされている。 これに対して,原告らは,河床の影響を考慮して0.025と評価するところ,原告らが主張する河床の状況はいずれも河床付近の状況に限られたものであり,本件溢水時のように水位が高くなると,河床付近の影響は相対的に小さくなることをも考慮すれば,粗度係数を標準値より小さく評価した同報告書の結論が妥当性を欠くということにはならない。 また,流量観測についても,浮子観測法が必ずしも正確でないとはいえないし,流量観測の箇所についても,石井川が河幅の小さい河川(約2.5メートル)なので,中央付近だけで流速を観測すれば十分であり,側壁付近の計測は必要ではない。流速測定の距離についても,流速に水位から求めた断面積を乗じて流量を求める場合と異なり,粗度係数の逆算データとして用いるには20メートル流せば十分である。 以上からすれば,原告らの主張は失当であり,石井川の石井橋付近における粗度係数は0.020と考えられる。 (ウ) 小括以上を基に,本件溢水当日における菊水橋地点の最大流出量を算出すると,別紙9の表(被告欄) のとおりであり,毎秒155~165立方メートルとなる。 (エ) 菊水橋地点における流下能力との整合性について原告らは,菊水橋地点における上記最大流出量を前提とすると,同地点における流下能力からして,同地点において溢水しなかったことと矛盾するし,本件溢水箇所においても,もっと早い時点で溢水が生じたはずであると主張するが,いずれについても上記最大流出量と矛盾するものではない。 a 菊水橋における溢水 たことと矛盾するし,本件溢水箇所においても,もっと早い時点で溢水が生じたはずであると主張するが,いずれについても上記最大流出量と矛盾するものではない。 a 菊水橋における溢水について原告らは,本件溢水当日,菊水橋地点で越流しなかったかのように主張するが,実際には,菊水橋の橋梁に当たってせき上がった流水が,橋面上約15センチメートルに達しており,菊水橋地点の流下流量は菊水橋地点の流下能力(毎秒129立方メートル)を上回っていた。ただ,越流水深が15センチメートル程度で済んだことについては,以下のように考えられる。 まず,本件溢水当時,菊水橋付近の河幅は,菊水橋地点で約8メートルであったのに対し,これを挟む上下流では10~11メートルであり,菊水橋地点が,水理学でいう縮流断面(水路の幅が上流から下流に向かって徐々に狭くなり,その後再び広がるという水路における最も幅が狭い箇所の断面)の形状になっていた。こうした縮流断面の場合,水理学的には,縮流によって流速が増すため,その分,圧力水頭が低下(すなわち水面が低下)し,縮流断面における水位は,上下流に比べて低くなることが知られている。 また,流量がさらに増加して,水位が橋梁の桁下高よりも高くなると,橋梁の上面を越える流れが発生し,水位は橋梁の上流側では高く,下流側では低くなる。この上下流の水位差によって生ずる圧力差は,橋梁にも作用するが,下流に向かっての流水の加速にも作用し,その分,流速が増すことになる。 加えて,菊水橋地点では,流下能力に相当する流量が流下した後も,菊水橋下流部で溢水が発生したことによって,縮流断面の効果がより大きく現れやすくなっていた。 。 加えて,菊水橋地点では,流下能力に相当する流量が流下した後も,菊水橋下流部で溢水が発生したことによって,縮流断面の効果がより大きく現れやすくなっていた。 以上のような理由から,菊水橋地点において,流下能力以上の流量が流下したものと考えられるのであり,被告が主張する最大流出量と何ら矛盾するものではない。 b 午後5時32分以前に溢水しなかったことについて洗心橋地点の流下能力は,橋が潜り状態になることから,潜り橋計算によるべきであり,これによると毎秒133立方メートルとなる(別紙4の表のケース「3」参照)。ただ,潜り橋計算によると,最も流下能力が低くなるのは,兵庫6工区(洗心橋上流で本件溢水箇所を含む区間)の毎秒125立方メートルであり,溢水も同工区から生じていることから,同工区における溢水開始時刻と流出量との比較検討を行う必要がある。 溢水開始時刻とされている午後5時32分ころの石井橋地点(石井川)及び人道橋地点(天王谷川)の水位観測所(別紙8参照)における流出量は,水位記録から算出すると,毎秒133立方メートルであるが,溢水箇所がこれらの水位観測所から約500メートル下流であることを考慮して,500メートル流下するのに要する時間として同時刻から1~2分前の流出量を見てみると,毎秒127~131立方メートル(午後5時30分:毎秒127.6立方メートル,午後5時31分:130.4立方メートル)であり,溢水箇所を含む兵庫6工区で流し得た流量(毎秒約125立方メートル)とも比較的整合する。 よって,午後5時32分以前に溢水しなかったことをもって,菊水橋地点における流出量が毎秒155立方 庫6工区で流し得た流量(毎秒約125立方メートル)とも比較的整合する。 よって,午後5時32分以前に溢水しなかったことをもって,菊水橋地点における流出量が毎秒155立方メートル以下であったとはいえない。 c したがって,被告が主張する最大流出量について,菊水橋地点における流下能力と矛盾するところはない。 エ浸水区域について(ア) 溢水箇所について前記のとおり,潜り橋による不等流計算をした場合の最も流下能力の低かった箇所は兵庫6工区であることから,水防柵が転倒しなかった場合にも,同工区から(ただし,両岸から)溢水したものと考えられる。 (イ) 浸水被害状況についてa 別紙10-1に示された標高を基に,洗心橋付近から神戸東山ビルの東側を通って東山地下道出入口付近にかけての縦断勾配の形状を表すと,別紙10-2のとおり,東山商店街ロータリー(以下「ロータリー」という。)付近から市道湊町線西側の東山追分地蔵周辺は,相対的に標高が低いすり鉢状の地形となっている。 このすり鉢状の地形の区域(以下「本件湛水区域」という。)では,河川の氾濫時には一定の水量が物理的に湛水することになる。本件湛水区域の中で,最も標高の低い地点は,東山追分地蔵から見て市道を挟んだすぐ東側の地点(別紙10-1の「すり鉢状の地形のうちの最低標高を示す場所」標高18.3メートル)であり,その地点を基準に,標高差を色分けすると別紙10-3のようになる。 そして,標高と湛水容量の関係を表したものが別紙10-4であり,これによると本件湛水区域に物理的に湛水する容量(以下「基本湛水量」という。) 別紙10-3のようになる。 そして,標高と湛水容量の関係を表したものが別紙10-4であり,これによると本件湛水区域に物理的に湛水する容量(以下「基本湛水量」という。)は約1万1600立方メートルで,その際の水位(以下「基本湛水深」という。)は,標高19.1メートルとなる(別紙10-2参照)。ただ,基本湛水深まで湛水するためには,基本湛水量そのものではなく,その1割増しの約1万3000立方メートルが溢水することが必要である(その差1400立方メートルは,道路や水路を通って区域外に流出する。)。 以上からすると,本件では,本件水防柵が転倒しなかった場合には,左岸側の本件溢水時とほぼ同様の箇所から約2万1000立方メートルが溢水したと考えられ,このうち,約1万3000立方メートルが基本湛水深を構成する基本湛水量となり,残りの約8000立方メートルにより湛水深が深くなる。そこで,これを基に8000立方メートルによってもたらされる水深を算出すると標高19.23メートルとなる。 ところで,本件溢水時の本件湛水区域における浸水深の実績は標高19.65メートルであり,東山追分地蔵付近の標高18.7メートルを基準にすると,水深は約95センチメートルとなる。これに対して水防柵が転倒しなかった場合の水深は上記のとおり標高19.23メートルであり,これによれば,本件湛水区域においては,水防柵が転倒しなかった場合には浸水深が約42センチメートル低下したものと考えられる。 b これに対して,洗心橋からロータリー付近までの地域については,すり鉢状の地形の中にあって,市道と住居に挟まれた部分が水路状態になっており(別紙10-1の「水路状態になっている道路」参照),洗 b これに対して,洗心橋からロータリー付近までの地域については,すり鉢状の地形の中にあって,市道と住居に挟まれた部分が水路状態になっており(別紙10-1の「水路状態になっている道路」参照),洗心橋から溢水した流水は,この水路状態の道路(幅員約4メートル)を流れることになる。よって,その時の水深は,本件湛水区域における水深とは異なり,溢水流量によって左右されることになる。 この点,本件溢水時における溢水流量は毎秒16.8立方メートルと考えられ,これを基に浸水深を算出すると約1.35メートルとなる。これに対して,本件水防柵が転倒しなかった場合に,流れる溢水流量は毎秒10.5立方メートルと考えられ,これを基に水深を算出すると,約1.0メートルとなる。 したがって,洗心橋からロータリー付近までの地域については,水防柵が転倒しなかった場合には約35センチメートル浸水深が低下したものと考えられる。 (ウ) 小括以上からすると,本件水防柵が転倒しなかった場合には,本件湛水区域では浸水深が約42センチメートル低下して約53センチメートルとなり,洗心橋からロータリー付近までについては,浸水深が約35センチメートル低下して約100センチメートル程度になったと考えられる。 そして,原告らは,いずれもそのいずれかの区域で居住ないし店舗を営業していたものである(別紙10-5の「・」が原告らの被災地である。)。 とすると,本件水防柵が転倒しなかったとしても,原告らの浸水被害に有意の差はない。よって,水防柵の転倒の有無と原告らの損害との間に因果関係はない。 (3) 争点③(原告らの損害)について(原告ら 防柵が転倒しなかったとしても,原告らの浸水被害に有意の差はない。よって,水防柵の転倒の有無と原告らの損害との間に因果関係はない。 (3) 争点③(原告らの損害)について(原告らの主張)ア原告らは,本件溢水によりいずれも床上浸水の被害を受け,それぞれ別紙損害額計算書記載のとおり財産的損害を受けた。 イ加えて,原告らは,第1次溢水の被害から立ち直ろうと懸命に努力しているさなかに,再び,本件溢水で同様の被害を受け,その努力を無にされてしまった。一度ならず二度までも被告の河川管理の瑕疵により,重ねて被害を受けた原告らの精神的打撃は大きく,これを金銭に評価すると別紙損害額計算書のうち慰謝料欄に記載のとおりの金額となる。 ウまた,原告らは原告ら訴訟代理人らに本件訴訟の遂行を委任した。その弁護士費用として,別紙損害額計算書弁護士費用欄に記載の金員が被告の河川管理の瑕疵と相当因果関係にある損害である。 (被告の主張)いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 事実認定前記前提となる事実に加え,証拠(甲1~8,10~17,35~47の各1,48,57,乙1~3,8,12~20,21の1,22,23,24の1・2,25~29,31~33,40,45,73~77,79,91,105,110,111,114~119,122,123,132,137,証人J〔いずれも以下の認定に反する部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 新湊川流域(別紙1-1参照)ア新湊川は,六甲山系西方に位置する再度山を源とする天王谷川が,中流の菊水橋上流で石井川と合流して新湊川となり,会下山をトンネルで貫き,苅藻川と合流して大阪湾に注ぐ (別紙1-1参照)ア新湊川は,六甲山系西方に位置する再度山を源とする天王谷川が,中流の菊水橋上流で石井川と合流して新湊川となり,会下山をトンネルで貫き,苅藻川と合流して大阪湾に注ぐ,幹川流路総延長13.1キロメートル,流域面積29. 88平方キロメートルの表六甲河川群の中で最大の2級河川である。 イ新湊川上流域(石井川)では,石井川トンネル上流で石井川と烏原川が合流しており,その合流点付近には,神戸市の管理する水道用水供給用の利水ダムとして,烏原貯水池が設置されている(別紙1-1,1-2参照)。 また,天王谷川の上流には,洪水調節用の治水ダムとして,天王ダムが設置されている。 ウ新湊川流域の土地利用の特色として,上流域に大規模な宅地開発が行われていること,中流域は自然の残る山間部であること,下流域は高度に利用された市街地であることが挙げられる。 特に,菊水橋地点より上流は鈴蘭台などの近年都市化された地域が流域の約3分の1を占めるようになり,昭和40年代に比べ洪水の到達時間が短くなると共に,洪水のピーク流量は大きくなる傾向にある。 こうした上流域の市街化と表六甲特有の急峻な河川勾配などとの関係から,上流域の降雨は短時間のうちに河道に流出し,洪水流が短時間で下流に到達する特徴がある。 (2) 第1次溢水までの水害ア上記のような新湊川の流水特性は,過去に幾度も大きな洪水被害をもたらした。その代表的なものとして,昭和13年7月5日の水害(以下「昭和13年水害」という。)と昭和42年7月9日の水害(以下「昭和42年水害」という。)が挙げられる。 イ昭和13年水害の状況昭和13年7月5日,兵庫 水害(以下「昭和13年水害」という。)と昭和42年7月9日の水害(以下「昭和42年水害」という。)が挙げられる。 イ昭和13年水害の状況昭和13年7月5日,兵庫県南部に梅雨前線に伴う集中豪雨があり,神戸海洋気象台の観測で,10分間最大雨量15.3ミリメートル,60分間最大雨量60.8ミリメートル,日雨量269.2ミリメートルを記録した。 かかる集中豪雨により上流山地から大量の土砂が流出し,当時暗渠となっていた天王谷川・石井川合流点付近の河道が埋没したため,暗渠上流で溢水が発生し,その溢水が暗渠を乗り越えて下流方面に氾濫し,広範囲にわたって浸水被害をもたらした。 ウ昭和42年水害の状況昭和42年7月9日,兵庫県南部に梅雨前線に伴う集中豪雨があり,神戸海洋気象台の観測で,10分間最大雨量23.4ミリメートル,60分間最大雨量75.8ミリメートル,日雨量319.4ミリメートルを記録した。 かかる集中豪雨により,菊水橋付近で溢水が発生し,広範囲にわたって浸水被害をもたらした。 (3) 本件助成事業までの治水事業ア昭和42年水害を契機として,従前の治水計画が見直され,河川改修と洪水調節ダムの建設が行われ,昭和56年度には天王ダムが完成し,昭和57年度には庄田橋上流の河川改修が完成した。なお,昭和56年度から着手した石井ダムについては,平成16年度に完成予定である。 イ新湊川の治水整備の方針は,昭和60年9月に建設大臣(当時)の認可を受けた新湊川水系工事実施基本計画(本件基本計画)に定められた。 本件基本計画を策定するにあたっては,洪水防御対象地域の社会的経済的重要性を考慮して,神戸海洋気 臣(当時)の認可を受けた新湊川水系工事実施基本計画(本件基本計画)に定められた。 本件基本計画を策定するにあたっては,洪水防御対象地域の社会的経済的重要性を考慮して,神戸海洋気象台の過去の雨量記録を基にして,100年に1回の降雨確率に相当する雨量(1日当たり340ミリメートル)が治水安全度の計画規模として採用された。 本件基本計画では,新湊川のような急流河川に通常適用される流出解析手法である等価粗度法により洪水の流出モデルを作成した上,基本高水流量(ダムがない状態で流域に降った計画降雨量がそのまま河道に流出する水量)が定められている。 そして,同基本計画では,基準地点である菊水橋における基本高水流量を毎秒520立方メートルと定め,計画高水流量(河道への配分流量)を,天王ダム,石井ダム等の上流ダム群により毎秒290立方メートルを調節した毎秒230立方メートルと定めている。 ウ本件基本計画に基づき,新湊川の改修工事が進められ,平成元年度には庄田橋から苅藻川合流点までの河川改修工事が完了し,引き続き,苅藻川合流点から天王谷川・石井川合流点までの区間の改修工事に着手することとなった。 しかし,同区間では,河川護岸いっぱいにまで張り出して建てられた市場,店舗,住居及び倉庫などの支障物件が,平成2年当時で約300件存在し,これらが工事実施の支障となって,被告は直ちに河川改修工事に着手することができなかった。 その後,被告は神戸市とともに,平成6年2月までに約150件の支障物件を移転させ,さらに,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により,支障物件の多くが倒壊したことなどから,平成6年度から平成7年度にかけて,その余の支障物件を移転 月までに約150件の支障物件を移転させ,さらに,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により,支障物件の多くが倒壊したことなどから,平成6年度から平成7年度にかけて,その余の支障物件を移転させることができ,平成7年度から河川改修に取り組む準備が整った。 (4) 本件助成事業ア震災復旧の概要(ア) 苅藻川合流点から天王谷川・石井川合流点までの区間は,阪神・淡路大震災までは,開水路区間が自立式コンクリート擁壁護岸形式,トンネル区間が煉瓦覆工造りとなっていた。 しかし,平成7年1月17日に発生した同震災により,開水路区間では,自立式コンクリート擁壁護岸の数箇所が倒壊し,河道が閉塞したり,随所に亀裂が生じ,倒壊寸前となった。また,トンネル区間では,アーチ部や側壁部を構築している煉瓦積みに,剥離や亀裂が発生するとともに,下流部では坑門部が倒壊し,周辺の斜面崩壊による大量の土砂流入により,河道が埋塞した。 そこで,応急復旧として,開水路区間で擁壁護岸が倒壊した箇所では,土留め矢板工を実施し,護岸に亀裂が生じた箇所では,かなりの区間でH型鋼による上下2段の切梁の設置を実施した。 なお,橋梁部については,ほとんど損傷が認められず,現状のままで供用が可能な状態であった。 (イ) しかしながら,再度の災害を防止するためには,被災箇所の原形復旧を行うだけでは十分な効果が期待できないため,本格的な復旧工事に取り組むこととし,一連の区間について本件基本計画に基づく助成事業(本件助成事業)をもって河積の拡大等を行うこととなった。 イ本件助成事業の概要平成7年災河川災害復旧助成事業(本件助成事業)は, ついて本件基本計画に基づく助成事業(本件助成事業)をもって河積の拡大等を行うこととなった。 イ本件助成事業の概要平成7年災河川災害復旧助成事業(本件助成事業)は,阪神・淡路大震災により擁壁護岸が被害を受けた苅藻川合流点から天王谷川・石井川合流点までの区間(施工延長2503メートル以下「本件事業区間」という。)において,本件基本計画に基づいて河積の拡大を図るほか,安全で快適な水辺空間の整備を併せて行う,総事業費約217億円の河川改修事業である。 (5) 第1次溢水ア第1次溢水当時の改修工事の進捗状況(ア) 第1次溢水当時は,本件助成事業に基づき,洗心橋の架け替え工事(洗心橋工区)及び洗心橋上流左岸側の護岸拡幅工事(兵庫6工区)が行われており,同工事のため,施工業者らが河道内に止水壁褄部及び階段・手摺等の仮設工作物を設置していた。これにより,同部分の河道が狭くなり,洗心橋工区の流下能力は毎秒72立方メートルに,兵庫6工区では毎秒79立方メートルに低下していた(別紙4の表のケース「参考」欄参照)。とりわけ,洗心橋仮橋地点は,仮設工作物の設置の影響で,兵庫工区のうちで流下能力が最も低くなっていた。 (イ) 本件改修工事に先立ち,左岸護岸上に従前設置されていた高さ約1メートルのコンクリート製パラペット(既設パラペット)は撤去され,これに代わって工事区間の周りに,高さ約50センチメートルのH型鋼を2段積みにした高さ1メートルの水防柵が設置された(別紙2の緑色で着色した部分)。 イ集中豪雨の発生(ア) 降雨状況平成10年9月22日の午前8時ころから午後4時ころにかけて,兵庫県南部に台風7号の通過に伴う多 た部分)。 イ集中豪雨の発生(ア) 降雨状況平成10年9月22日の午前8時ころから午後4時ころにかけて,兵庫県南部に台風7号の通過に伴う多量の降雨があった。 新湊川流域では,同日午後1時40分ころから午後2時30分ころにかけて,10分間当たり10ミリメートル以上の強い雨が集中的に降った(別紙7-2参照)。同日の菊水橋流域の平均雨量は,10分間最大雨量17.7ミリメートル,60分間最大雨量62.2ミリメートル,日雨量132.3ミリメートルであった(別紙7-3参照)。 (イ) 気象情報同日午前6時30分ころには,兵庫県南部に暴風・波浪警報及び大雨・雷・洪水・高潮注意報が発令され,午前11時10分ころには,大雨・洪水・暴風・波浪・高潮警報及び雷注意報が発令された。 ウ溢水の発生(ア) 河川水位の状況神戸市では,同日,台風7号の近畿地方への接近に伴い,午前8時ころから雨が降り始めた。しかし,雨足は強くはなく,第1次溢水箇所の河川水位も,午前9時の時点で河床から70センチメートル程度の高さであった。 その後,雨足は弱まり,午前10時ころには,河床から30センチメートル程度まで河川水位が低下した。そして,その後も,雨足は強まらず,大雨・洪水警報が発令された午前11時10分の時点においても,兵庫県が暴風圏に入った午後0時の時点においても,河川水位は河床から30センチメートル程度であった。 その後も,雨足は強まらず,河川水位は,午後1時の時点で河床から70センチメートル程度まで微増したものの,午後1時40分ころでも,河床から センチメートル程度であった。 その後も,雨足は強まらず,河川水位は,午後1時の時点で河床から70センチメートル程度まで微増したものの,午後1時40分ころでも,河床から80センチメートル程度であった。 (イ) 施工業者らの対応施工業者らは,同日午前中から,それぞれ従業員を現地に派遣し,河川水位の観察を継続していたが,上記のとおり河川水位に目立った変化がなかったため,大雨・洪水警報発令後も止水壁褄部を撤去しなかった。また,兵庫6工区及び洗心橋工区の水防柵の開口部について,H型鋼や土のうの設置による閉鎖作業を実施しなかった。 (ウ) 第1次溢水の発生状況同日午後1時50分ころから突然風雨が強まり,午後2時から午後2時10分の10分間に菊水橋地点流域平均雨量に換算して17.7ミリメートルもの降雨があった(別紙7-2,7-3参照)。これに連動して,河川水位が急激に上昇し始め,午後2時過ぎころには,河川水位が1メートル以上も上昇し,河床から約2メートルの高さに達した。 その後も,風雨が激しくなるとともに,河川水位は10分間でさらに約1.5メートル上昇し,午後2時10分過ぎころには,仮設工作物設置の影響で最も流下能力が低下していた洗心橋仮橋上流左岸(別紙2の<A>付近)から,溢水が発生した。 さらに,その10分後の午後2時20分過ぎころには,洗心橋仮橋上流右岸からも溢水が始まり,その後,両岸からの溢水は,洗心橋仮橋から上流の菊水橋に至るまでの約150メートルにわたり,かつ両岸全体に拡大し,水防柵との間に貯留していった(別紙2の黒色矢印参照)。 そして,上記貯留していった溢水の水 橋仮橋から上流の菊水橋に至るまでの約150メートルにわたり,かつ両岸全体に拡大し,水防柵との間に貯留していった(別紙2の黒色矢印参照)。 そして,上記貯留していった溢水の水深は,洗心橋仮橋から上流の菊水橋にかけて設置されていた水防柵の下から約90センチメートルの高さまで上昇するとともに,閉鎖されていなかった水防柵開口部合計6箇所から,氾濫流が市街地に向けて流出した(別紙2の赤色矢印参照)。 エ第1次溢水による被害状況第1次溢水により広範囲に浸水被害が発生し(別紙3参照),左右両岸合わせて床上浸水500戸,床下浸水602戸の被害が発生した。また,原告らは第1次溢水により,いずれも床上浸水の被害を受けた。 オ第1次溢水調査委員会の設置・提言(ア) 同委員会の設置被告は,第1次溢水の原因(本件改修工事との関係)等を明らかにするため,平成10年9月30日,K氏(京都大学名誉教授,立命館大学理工学部環境システム工学科教授〔当時〕)を委員長とする5名の河川工学等の専門家(上記K氏のほか,京都大学防災研究所巨大災害研究センター長・教授L氏,神戸大学工学部建設学科教授M氏,神戸大学工学部都市安全研究センター教授N氏,建設省土木研究所次長O氏〔肩書きはいずれも当時〕)で構成された「新湊川浸水災害調査委員会」(第1次溢水調査委員会)を設置し,専門的知見に基づく調査・提言を依頼した。 (イ) 溢水原因に関する報告内容同委員会は,現地調査の結果や関係資料の分析・検討を経て,平成10年12月28日,「新湊川浸水災害調査報告書」(第1次溢水調査報告書)をまとめ,第1次溢水の原因について概略以下の結論を導いた。 同委員会は,現地調査の結果や関係資料の分析・検討を経て,平成10年12月28日,「新湊川浸水災害調査報告書」(第1次溢水調査報告書)をまとめ,第1次溢水の原因について概略以下の結論を導いた。 a 新湊川の河川改修は,主要な表六甲河川(住吉川,都賀川,生田川,妙法寺川)に比べて遅れている。 b 台風7号による降雨は,菊水橋より上流での60分間最大雨量の流域平均が62.2ミリメートルであり,昭和13年水害と同規模であった。 c 流出量の推定結果により,台風7号による菊水橋地点の流出量は毎秒130~140立方メートル程度と推定される。一方,流下能力の検討結果により,溢水区間(会下山トンネル呑口から菊水橋間)の従前(阪神・淡路大震災前)の流下能力は毎秒約100立方メートルと考えられる。したがって,工事を行っていなくても溢水は発生した。 d 工事仮設は,従前の流下能力を毎秒100立方メートルとして計画している。第1次溢水時点の河道状況では,止水壁褄部を撤去することができていれば,河道の流下能力は毎秒約95立方メートルであり,天王ダムの暫定操作による洪水調節効果の増分(毎秒約7立方メートル)と合わせて,概ね従前の流下能力を確保することができていたと考えられる。 e しかし,第1次溢水当日の洗心橋水位観測所の水位記録及び菊水橋地点の流出量から推定すると,溢水は流出量が毎秒約80立方メートルを超えた時点から始まっている。また,溢水が終了した時点の下流への流下量は,毎秒50~65立方メートル程度であったと考えられる。 f この流下能力を低下させた要因として,溢水開始時は止水壁褄部が撤去できなかったことが考えられる。また,溢水開始と終 は,毎秒50~65立方メートル程度であったと考えられる。 f この流下能力を低下させた要因として,溢水開始時は止水壁褄部が撤去できなかったことが考えられる。また,溢水開始と終了時の流量差は,橋梁・階段・手摺・切梁に流木などが引っかかり,流下断面の減少を招いたこと,及び橋梁地点では水位が桁下高より高くなった段階で流下能力が低下したことなどによると考えられる。 g なお,左岸の水防柵の開口部を閉鎖することができなかったこと,及び右岸の一部はパラペットを設けない計画護岸高で完成していたことも,溢水量に影響したものと考えられる。 (ウ) 第1次溢水調査委員会による提言同委員会は,第1次溢水調査報告書において以下のとおり提言した。 a 今後の工事のあり方工事が再開され,平成11年の出水期までには現在工事中の区間は完成するが,未着手の区間についても早期に河川改修を実施して治水安全度の向上を図る必要がある。 河川工事はできる限り非出水期に行うべきであるが,橋梁工事は工程上どうしても出水期に工事を行わざるを得ない。また,非出水期のみの施工とした場合は,河川改修に長期間(8年程度)を要するので,「通年施工」とし,早期完成を目指すことが望ましい。 このため,今後の工事のあり方について基本方針として次のとおり取りまとめた。 (a) 新湊川流域の場合,過去の実績において5月の降雨も多いことから,出水期を「5月から10月まで」とする。 (b) 出水期の工事は,河道において従前の流下能力(会下山トンネル呑口から菊水橋までの間の阪神・ において5月の降雨も多いことから,出水期を「5月から10月まで」とする。 (b) 出水期の工事は,河道において従前の流下能力(会下山トンネル呑口から菊水橋までの間の阪神・淡路大震災前の流下能力・毎秒100立方メートル)以上を確保した仮設計画のもとに行う。 (c) 非出水期の工事は,河道において非出水期の既往最大の流量以上を確保した仮設計画のもとに行う。 (d) 従前のパラペット高さを確保するため,工事現場の周囲にはH鋼などによる水防柵を設置し,十分な余裕を確保する。 (e) 安全対策の強化を図る。 b 今後の安全対策工事中の河道の流下能力を上記方針に基づき確保することは必須条件であるが,それで十分であるといえるものではない。防災活動が十分機能し得る安全体制の徹底を図ることや流木などの河積阻害物の対策,危険な状況が想定されるときの住民への情報伝達方法など,多重性のある安全対策を講じておく必要がある。 そこで,今後の安全対策に対する基本方針を次のとおり取りまとめた。 (a) 早期段階での態勢づくりのため,上流の降雨量を防災活動の基準とする。さらに,降水予報の活用を検討する。 (b) 止水壁褄部の構造は,短時間で容易に撤去できる構造とする。 (c) それ以外の階段などの仮設物は,可能な限り設置しないこととし,必要なものは,構造,設置場所などに工夫をする。 (d) 工事用出入口として常時使用する水防柵開口部については,可能な限り少なくする。 し,必要なものは,構造,設置場所などに工夫をする。 (d) 工事用出入口として常時使用する水防柵開口部については,可能な限り少なくする。 また,出水時の締切り時期,方法などについて徹底する。 (e) 住民への情報伝達については,水位上昇を知らせる回転灯の設置などを行う。 (f) 県土木事務所,請負業者が協同して,定期的に防災訓練を実施する。 (6) 本件溢水当時における本件助成事業の実施状況等ア本件改修工事の進捗状況(ア) 兵庫工区全体の進捗状況本件助成事業は,早期完成を目指し,出水期を含む「通年施工」で実施されており,平成11年6月29日の本件溢水当時においても,工事は実施されていた。 同日時点の兵庫工区における工事の実施状況は,別紙4の図のとおり,兵庫7工区(夢野橋下流左岸)及び夢野橋工区で護岸工事が行われるとともに,熊野橋工区,氷室橋工区及び兵庫5-1工区(洗心橋仮橋地点)で護岸工事に先立ち準備作業(熊野橋工区では仮設道路の設置,氷室橋工区では樹木の移植,兵庫5-1工区では占用物件の移転協議)が行われていた。 (イ) 兵庫6工区の進捗状況本件溢水箇所にかかる兵庫6工区(洗心橋上流左岸)の護岸改修工事は引堤(河川の流下断面が不足している場合に,その流下能力を増加させるため,従前の護岸を堤内地側に後退させる形で河幅を拡幅する方法)で行われ,同工事は平成11年4月までに完了していた。 同工区付近では,下流の会下山トンネルの河床切り下げ工事の完了を待って河床を掘削することにより,最終的 幅を拡幅する方法)で行われ,同工事は平成11年4月までに完了していた。 同工区付近では,下流の会下山トンネルの河床切り下げ工事の完了を待って河床を掘削することにより,最終的に計画高水流量を確保する予定であったところ,本件溢水当時には,未だ同トンネルの河床切り下げ工事が完了していなかったことから,河床の掘削工事の着手には至っていなかった。よって,同工区では河道内に仮設工作物は設置されておらず,河積を阻害するものはなかった。 (ウ) 兵庫5-1工区の進捗状況兵庫5-1工区では,平成11年4月28日に洗心橋新橋の供用が開始された後,洗心橋仮橋の護岸(橋台部分)の開削工事を行うべく,同年5月中旬に当該工事にかかる契約手続を行い,同年6月9日に施工業者との間で工事請負契約を締結した。 しかし,同契約締結後も,同護岸付近には上水道管が埋設され,上空には送電線が張られているなど占用物件があったことから,この移設方法等について調整する必要があり,直ちに同工事に着手することはできなかった。 かかる事情から,本件溢水当時,兵庫5-1工区では,施工業者において施工計画案を立案するとともに,上記占用物件の占用者との協議に入っていた段階であり,現実に改修工事には着手していなかった。 よって,兵庫5-1工区でも,河道内には仮設工作物は設置されておらず,護岸上にも工事用資機材は存置されていなかった。 なお,同工区では,本件溢水後の同年7月30日に占用物件の移設が完了し,その後,現場での工事(左岸側の鋼矢板先行掘削)に着手して,同年8月19日に洗心橋仮橋の撤去と左岸側の旧護岸の開削が完了した。 お,同工区では,本件溢水後の同年7月30日に占用物件の移設が完了し,その後,現場での工事(左岸側の鋼矢板先行掘削)に着手して,同年8月19日に洗心橋仮橋の撤去と左岸側の旧護岸の開削が完了した。 (エ) なお,前記(イ)のとおり,洗心橋上流(兵庫6区)の護岸工事は完成し,河幅が拡張された結果,水理現象(縮流現象)により,その上流の菊水橋地点の流下能力は,従前(阪神・淡路大震災前)においては毎秒99立方メートルと会下山トンネル呑口から菊水橋までの一連区間中では,最も低かったのが,本件溢水時には毎秒129立方メートルに向上していた(別紙4の表参照)。しかし,その一方で,前記(ウ)のとおり,下流の洗心橋仮橋地点(兵庫5-1工区)では,洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削が行われていなかったことから,同部分の河幅が上下流に比して狭まり,その結果,相対的に流下能力が低下し,従前は毎秒129立方メートルの流下能力があったにもかかわらず,本件溢水時には会下山トンネル呑口から菊水橋までの一連区間中において最も低い毎秒93立方メートルに低下していた(別紙4の表参照)。 イ出水期工事における諸改善事項上記のとおり,本件助成事業は出水期を含めた通年施工で実施することとしていたが,第1次溢水調査報告書による上記提言を受けて,以下のような改善がなされた。 (ア) 工法の改善措置5月から10月までを出水期と定め,出水期には,一連の事業区間の従前の流下能力(会下山トンネル呑口から菊水橋までの間の阪神・淡路大震災前の流下能力・毎秒100立方メートル)を確保できる場合に限り施行し,流下能力が確保できない場合は,非出水期に施行することとされた。 なお,前記の 橋までの間の阪神・淡路大震災前の流下能力・毎秒100立方メートル)を確保できる場合に限り施行し,流下能力が確保できない場合は,非出水期に施行することとされた。 なお,前記のとおり,洗心橋仮橋地点(兵庫5-1工区)では,本件溢水時,従前の流下能力を下回る流下能力となっており,かつ,その上流の菊水橋地点の流下能力よりも低いという逆転現象が生じていたが,本件溢水時,天王ダムでは暫定操作を行っており,これによる洪水調節効果の増加が毎秒15立方メートルあったので,これを併せれば,本件溢水時の洗心橋仮橋地点の流下能力は毎秒108立方メートルとなり,従前の流下能力である毎秒100立方メートルは確保されていた。 (イ) 水防柵等の設置第1次溢水後,洗心橋新橋から菊水橋までの間の両岸には,H型鋼による水防柵に代わって,木製の水防柵が設置されていた(別紙5-1,5-2参照)。 同区間左岸側の水防柵(本件水防柵)の構造については,約3メートル間隔で立てられたH型鋼の支柱の間に,長さ295センチメートル,幅25センチメートル,厚さ6センチメートルの木製矢板を4枚上から落としたもので,支柱の基礎は,25センチメートル四方,深さ50センチメートルの筒状の基礎ブロックを埋め込んで,その中にH型鋼を差し込み,モルタルを詰めてH型鋼と基礎ブロックを一体化させたものであった(別紙5-3,5-4参照)。 また,洗心橋新橋両岸には角落しが設置されており,その構造は,約3メートル間隔で立てられたH型鋼の支柱の間に,長さ295センチメートル,幅15~17センチメートル,厚さ6センチメートルの木製矢板を7枚上から落とすもので,支柱の基礎は,上記水防柵と同様の筒状基礎ブロッ トル間隔で立てられたH型鋼の支柱の間に,長さ295センチメートル,幅15~17センチメートル,厚さ6センチメートルの木製矢板を7枚上から落とすもので,支柱の基礎は,上記水防柵と同様の筒状基礎ブロックを埋め込んで,その中にH型鋼を差し込むというものであった(別紙5-3,5-5参照)。 (ウ) 水防柵等の構造本件水防柵の支柱の基礎構造については,左岸道路に接している区間と同道路から離れて洗心橋新橋角落しへ擦り付けるまでの区間とで異なっており,前者については,歩道コンクリートに基礎ブロックを埋め込んでコンクリート舗装と基礎ブロックとを一体化するという構造であり(歩道コンクリート部別紙5-4下段図参照),後者については,土の中に基礎ブロックを埋め込んで支柱を立てるという構造であった(土中埋込部別紙5-4上段図参照)。 また,洗心橋新橋左岸側角落しについて,上流側1本のH型鋼の基礎ブロックは土中に埋め込まれているが,それ以外の支柱については,基礎ブロックがアスファルト舗装に覆われていた(別紙5-5参照)。 ウ防災体制の改善措置(新湊川警戒態勢)(ア) 新湊川警戒態勢の概要被告は,平成10年10月,水位計や雨量計の増設を行い,瞬時に情報が入手できる防災システムを導入し,水位や雨量の監視を行うほか,河川水位だけでなく,降雨予測などを含めて発令の判断基準とした新湊川独自の「新湊川警戒態勢」を策定した。 新湊川警戒態勢においては,水害の危険性に応じて4段階の態勢(警戒準備,警戒態勢,警戒出動,警戒解除)が定められており,それぞれ概略以下のとおりの内容が定められていた。 a 新湊川警戒態勢においては,水害の危険性に応じて4段階の態勢(警戒準備,警戒態勢,警戒出動,警戒解除)が定められており,それぞれ概略以下のとおりの内容が定められていた。 a 警戒準備(a) 作業を一時中止し,現場作業員の退避及び現場内にある支障物を撤去。 (b) 一般土のうを準備。 (c) 水防活動のための人員及び機械を配置。 (d) 現場進入路等の開口部の締切り準備。 b 警戒態勢(a) 止水壁の褄部を撤去。 (b) 現場進入路等の開口部の締切りを実施。 (c) 既設護岸部からの溢水に備え,既設護岸部の土のう積みを実施。 (d) 橋梁の通行止めに備え,角落しを準備するとともに,角落し設置に必要な人員及び機械を配置。 (e) 溢水に備え,土のうを備蓄。 c 警戒出動(a) 神戸土木事務所から指示する橋梁を通行止めするとともに,角落しを設置。 (b) 溢水危険箇所に土のう積みを実施。 d 警戒解除周辺の片付け等。 (イ) 神戸市との連携a 被告職員(神戸土木事務所災害復旧室副室長P)は,平成10年10月16日,神戸市の関係事務所(西部建設事務所,中部建設事務所,長田消防署及び兵庫消防署)を訪れ,新湊川警戒態勢を記載した書面を手渡した上,同態勢の趣旨・目的・内容等について説明した。 その後も,上記林ら神戸 事務所,中部建設事務所,長田消防署及び兵庫消防署)を訪れ,新湊川警戒態勢を記載した書面を手渡した上,同態勢の趣旨・目的・内容等について説明した。 その後も,上記林ら神戸土木事務所職員は,同態勢の更新の都度,改訂したものを神戸市の関係事務所に送付しており,本件溢水当日に適用されていた平成11年5月に改訂されたものについても,神戸市の関係事務所に送付していた。 b 神戸土木事務所は,同年5月13日,水防演習を実施し,神戸市(建設局,建設事務所,消防署及び区役所)のほか,警察署も交えて洗心橋の角落しの設置や土のう積みの訓練を行うとともに情報伝達の確認を行った。 c 神戸土木事務所は,同年6月7日,水防連絡会を開催し,神戸市(建設局)のほか,警察署,陸上自衛隊も交えて,重要水防箇所に指定されている神戸市内の河川の区域の確認や水防時の連絡体制についての確認を行った。 同連絡会において,神戸土木事務所災害復旧室室長のJは,新湊川につき,第1次溢水を踏まえて重要水防区域指定基準が「要注意区域」から,最も重要度の高い「水防上最も重要な区域」に指定されたこと,新湊川における水防活動として水防柵への土のう積みの対策を採る必要があること,及び新湊川警戒態勢と当時の改修工事の進捗状況について説明した。なお,重要水防区域の記載された「平成11年度水防活動要綱」及び「平成11年度重要水防区域図」は,神戸市の関係機関に送付されていた。 d 神戸土木事務所は,同年6月18日,神戸市との間で,河川改修事業に関する打合せ会議を開催し,神戸市からは建設局の職員らが出席した。その際,神戸土木事務所の担当者らは,明石川,住吉川,都賀川等の河川について説明し,新湊川に 月18日,神戸市との間で,河川改修事業に関する打合せ会議を開催し,神戸市からは建設局の職員らが出席した。その際,神戸土木事務所の担当者らは,明石川,住吉川,都賀川等の河川について説明し,新湊川については,同事務所災害復旧室防災第1課課長補佐のQが,当時の各工区の施工状況,施工完了箇所等について,図示して説明した。 (ウ) 回転灯の設置被告は,平成11年5月末,新湊川の水位が通報水位を超えていることを知らせる回転灯を菊水橋地点に設置した。 (7) 本件溢水ア降雨の状況(別紙7-2,7-3参照)(ア) 前期降雨本件溢水当時は梅雨の時期であり,新湊川流域では平成11年6月23日から同月27日まで,合計153ミリメートルの降雨があった。 (イ) 本件溢水当日の気象概況平成11年6月29日(本件溢水当日)朝,四国沖にあった梅雨前線は,低気圧の東進とともにゆっくり北上し,前線に向かって南から温かく湿った空気が流れ込んだために,前線の活動が活発化して,西日本一帯に大雨をもたらした。近畿地方周辺では,淡路島から神戸・阪神地域に向けて北東方向に1時間当たり150~200ミリメートルの豪雨域が集中していた。 また,同日午前9時40分には,神戸海洋気象台の気象情報として兵庫県南部に大雨・洪水注意報が発令され,午前11時45分には大雨・洪水警報が発令された。 (ウ) 新湊川流域における降雨の状況新湊川流域においては,午前10時から午後1時にかけて,1時間当たり10ミリメートルの降雨が続き,午後2時から午後3時にかけて雨はいったん小康状態になったものの, 降雨の状況新湊川流域においては,午前10時から午後1時にかけて,1時間当たり10ミリメートルの降雨が続き,午後2時から午後3時にかけて雨はいったん小康状態になったものの,午後4時ころからは,再び強い雨が降り始めた。午後5時には新湊川流域の西側で,降雨が1時間当たり40ミリメートルに達し,強い雨域は下流市街地を含む全域に広がり,その後,流域東部の上流域へと移動した。 菊水橋地点流域平均降雨量は,10分間最大雨量が15.8ミリメートル,60分間最大雨量が55.6ミリメートルであり,10分間最大雨量及び60分間最大雨量については,第1次溢水より若干少なかったものの,日雨量は206.6ミリメートルで,第1次溢水の日雨量の1.56倍であった。 また,本件溢水における新湊川流域の降雨の分布としても,上流域だけでなく中流域も含む流域全体に多量の降雨があったことが特徴的であり,加えて,前期降雨があったことにより,本件溢水当日は流出しやすい状況にあった。 イ河川水位の状況(別紙7-1参照)菊水橋及び洗心橋水位観測所での河川水位は,前期降雨のため,河床から1~2メートル程度に上昇していた。 かかる状況の下で,午後5時ころからの集中豪雨(菊水橋地点流域平均降雨量の10分間最大雨量・午後5時から午後5時10分まで15.8ミリメートル。同60分間最大雨量・55.6ミリメートル。)があったことを受けて,水位も急上昇を始めた。 菊水橋水位観測所の水位は,午後5時15分ころに通報水位の2.20メートルを超え,その約14分後の午後5時29分ころには,警戒水位の3.20メートルを超えた。そして,午後5時54分には最高水位3.92メー 水位観測所の水位は,午後5時15分ころに通報水位の2.20メートルを超え,その約14分後の午後5時29分ころには,警戒水位の3.20メートルを超えた。そして,午後5時54分には最高水位3.92メートルを記録した。なお,10分間最大水位上昇量は,午後5時30分から40分までの間で,105センチメートルを記録した。 ウ本件溢水発生の状況本件溢水は,通報水位を超えてから約17分後の午後5時32分ころに,洗心橋上流左岸の水防柵(土中埋込部)約18メートルが転倒したことから始まり,午後5時39分ころには,洗心橋新橋左岸の溢水防止の角落し(4スパン)のうち上流側1スパン,下流側1スパンの横矢板が相次ぎ流出し,溢水が拡大した。 エ本件溢水当日の防災対策(ア) 新湊川警戒態勢の発令被告は,本件溢水当日,水位・降雨の状況や今後の雨量予測に基づいて,以下のとおり新湊川警戒態勢を発令し,各施工業者らはこれに対応した(別紙6参照)。 a 午後0時30分警戒準備(工事中止,水防活動のための人員の配置,一般土のうの準備)を発令し,施工業者らはこれを受けて,午後0時50分にはその準備を完了した。 b 午後1時30分兵庫県災害警戒本部設置c 午後3時30分警戒態勢(既設護岸部の土のう積実施,角落しの準備,人員及び機械の配置,溢水に備えて土のうを備蓄)を発令し,これを受けて施工業者らは,土のう積みに着手し,午後4時ころには主な工事箇所における水防柵の補強と開口部の閉鎖を終了した。 d 午後5時10分 を備蓄)を発令し,これを受けて施工業者らは,土のう積みに着手し,午後4時ころには主な工事箇所における水防柵の補強と開口部の閉鎖を終了した。 d 午後5時10分警戒出動(橋梁通行止め,角落し設置,溢水危険箇所に土のう積実施)を発令し,これを受けて施工業者らは,午後5時25分に氷室橋と夢野橋の通行止めと角落しの設置を完了した。 なお,神戸土木事務所は,上記警戒態勢の発令について,逐一,神戸市の関係機関(建設局,中部建設事務所,西部建設事務所,兵庫消防署,長田消防署)に報告していた。 (イ) 本件溢水箇所への水防活動本件溢水当時,本件溢水箇所には新湊川警戒態勢が適用されておらず,また,施工業者らによる自主的な警戒出動の範囲にも含まれていなかったので,施工業者らによる本件水防柵への土のう積みなどの水防活動はなされていなかった。 しかし,被告は,水位や降雨の状況から,本件溢水箇所への水防活動を支援するため,午後5時14分,自工区以外にも水防活動に従事する余力のあった会下山トンネル呑口側工区(本件溢水区間から約600メートル下流)の工事請負業者である西松・新井特別共同企業体に対し,氷室橋付近から上流で土のう積みが必要と思われる箇所を応援するよう要請した。 これを受けた同業者は,洗心橋周辺の左右両岸に向かうべく出発し,右岸側には要請から約11分後の午後5時25分ころ(溢水発生前)に到着して土のう積みを行った。これに対して,左岸側に向かった作業班は,大きく迂回しなければ現地に到着できず,折からの交通渋滞に巻き込まれたため,本件溢水開始に間に合わず,午後7時ころになってようやく到着した。 を行った。これに対して,左岸側に向かった作業班は,大きく迂回しなければ現地に到着できず,折からの交通渋滞に巻き込まれたため,本件溢水開始に間に合わず,午後7時ころになってようやく到着した。 なお,洗心橋新橋の角落しの設置については,午後4時30分ころから神戸市の職員によって実施されたが,本件水防柵に対する土のう積みなどの水防活動はなされなかった。 (8) 本件溢水による被害本件溢水により洗心橋左岸側に浸水被害が発生した(別紙3参照)。その被害は,床上浸水257戸(住家166戸,非住家91戸),床下浸水147戸(住家102戸,非住家45戸)に及び,原告らはいずれも床上浸水の被害を受けた。 2 争点に対する判断(1) 争点①(河川管理の瑕疵)について原告らは,被告において新湊川の河川管理に瑕疵があったと主張するので,以下検討する。 ア総論国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いて他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい,このような瑕疵の存在については,当該営造物の構造,用法,場所的環境,利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきものである。 ころで,一般に河川は,管理の開始当初から上記安全性を有しているものではなく,洪水等の自然的原因による災害をもたらす可能性を内包し,治水事業を経て逐次その安全性を高めていくことが予定されているものであるところ,治水事業については,議会が国民生活上の他の諸要求との調整を図りつつ配分を決定した予算の下で必要性,緊急性の高いものから逐次改修を実施していくほかはないという財政 が予定されているものであるところ,治水事業については,議会が国民生活上の他の諸要求との調整を図りつつ配分を決定した予算の下で必要性,緊急性の高いものから逐次改修を実施していくほかはないという財政的制約,長い工期を要するという時間的制約,流域全体について総合的に調査検討の上,緊急に改修を要する箇所から段階的に,また下流から上流に向けて行うことを要するなどの技術的制約,流域の開発等による雨水の流出機構の変化や治水用地の取得難などの社会的制約が内在するものであるから,河川が通常予測し得る水害を未然に防止するに足りる安全性を備えるに至っていないとしても,そのことから直ちに河川の管理について瑕疵があるとすることはできず,河川の備えるべき安全性としては,原則として,上記諸制約の下で施行されてきた治水事業の過程における改修,整備の段階に対応する安全性をもって足りるものとせざるを得ない。 そして,河川の管理についての瑕疵の有無は,過去に発生した水害の規模,発生の頻度,発生原因,被害の性質,降雨状況,流域の地形その他の自然的条件,土地の利用状況その他の社会的条件,改修を要する緊急性の有無及びその程度等の諸般の事情を総合的に考慮し,河川管理における上記財政的,技術的及び社会的諸制約の下で,同種同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである(最高裁昭和53年(オ)第492号,第493号,第494号同59年1月26日第1小法廷判決・民集38巻2号53頁,最高裁昭和63年(オ)第791号平成2年12月13日第1小法廷判決・民集44巻9号1186頁,最高裁平成3年(オ)第1534号同8年7月12日第2小法廷判決・民集50巻7号1477頁参照)。 イ 年(オ)第791号平成2年12月13日第1小法廷判決・民集44巻9号1186頁,最高裁平成3年(オ)第1534号同8年7月12日第2小法廷判決・民集50巻7号1477頁参照)。 イ河川管理の瑕疵<ア>について(ア) 原告らは,出水期を前にして早期に洗心橋仮橋の撤去とその橋台部分の開削工事を完了し,洗心橋新橋の桁下を上げるなどして洗心橋付近の流下能力の改善を図らなかったことが河川管理の瑕疵にあたると主張するところ,新湊川は本件基本計画に基づいて本件助成事業として現に改修中の河川であったことから,原告らのかかる瑕疵主張は,改修計画に基づき改修中の河川について河川管理の瑕疵を主張するものと解される。 かかる場合,上記河川管理の瑕疵の判断基準に鑑み,当該河川改修計画が,過去の水害の発生状況その他諸般の事情を総合的に考慮し,全体として河川管理の一般的水準及び社会通念に照らして,格別不合理なものと認められないときは,その後の事情の変動により未改修部分につき,水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならず,かつ当該水害の発生までに改修を完了することができたような特段の事由がない限り,同部分につき改修が完了していないとの一事をもって,当該河川の管理に瑕疵があるということはできないと解すべきである。 (イ) 洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事についてa まず,洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事に関する改修計画としての本件助成事業の合理性について検討するに,確かに,河川改修工事においては,下流部分に従前以上の負担をかけないために,下流から上流にかけて工事を施行するの の橋台部分の開削工事に関する改修計画としての本件助成事業の合理性について検討するに,確かに,河川改修工事においては,下流部分に従前以上の負担をかけないために,下流から上流にかけて工事を施行するのが原則であるところ,本件溢水当時は,菊水橋下流の護岸の改修が先になされたことによりその上流に位置する菊水橋地点の流下能力が毎秒101立方メートルから毎秒129立方メートルに向上した一方で,その下流に位置する洗心橋仮橋地点については,仮橋の撤去及びその橋台部分の開削が行われていなかったために,流下能力が改修工事前の毎秒129立方メートルから毎秒93立方メートルに低下しており,結果的に下流の流下能力が上流のそれよりも低くなるという逆転現象を来していたものである。 しかしながら,一般論として河川を改修する場合に,下流から上流に向かって工事を施行するのが原則であるとは認められるものの,前期認定のとおり本件助成事業は通常の河川改修工事とは異なり,阪神・淡路大震災による災害復旧工事という側面をも有するものであり,本件事業区間では同震災により護岸等に甚大な被害を受けたことから,かかる被災状況を踏まえて緊急性の高い護岸等から優先して工事を行う必要があったものと認められる。 また,そもそも河川改修工事においては,改修着工後直ちに計画高水流量が確保されるわけではなく,段階を追ってこれを確保していくことが予定されているのであり,国土交通省河川局治水課・河川環境課監修の河川改修事業関係例規集(乙17)においても,出水期における改修工事においては,一連区間の現況流下能力を確保することを原則とし,不足する場合は適切な対策を施すこととされていることからすれば,改修工事途上の本件溢水当時において,河川管理者として対処す おける改修工事においては,一連区間の現況流下能力を確保することを原則とし,不足する場合は適切な対策を施すこととされていることからすれば,改修工事途上の本件溢水当時において,河川管理者として対処することが予定された規模の洪水とは,一連区間の現況の流下能力に対応した洪水と解するのが相当であり,河川管理者がこれ以上の規模の洪水に対応する安全性を確保すべき法的義務を負うものとは解されない。このことは,前記した治水事業が内包する財政的制約,技術的制約からすれば,本件において約9か月前に第1次溢水が発生したことを考慮しても代わらないというべきである。そして,本件における一連区間の現況流下能力とは,本件改修工事において確保すべきものとされていた会下山トンネル呑口から菊水橋までの間の阪神・淡路大震災前の流下能力毎秒100立方メートルがこれにあたるものであるところ(乙1,2,12,40,証人J),上記のとおり,本件溢水当時,本件事業区間の流下能力については逆転現象が生じ,菊水橋地点に代わって,洗心橋仮橋地点の流下能力が毎秒93立方メートルに低下していたものであるが,そうとしても,前記1の(6)で認定したとおり,本件溢水時,天王ダムでは暫定操作を行っており,これによる洪水調節効果の増加が毎秒約15立方メートルあったことから,これを併せ考えると,本件溢水時の洗心橋仮橋地点の流下能力は毎秒108立方メートルあったもので,現況の流下能力(毎秒100立方メートル)は確保されていたのである。 そうとすれば,本件事業区間において,洗心橋仮橋地点より上流に位置する菊水橋下流の護岸工事が先行され,その下流の洗心橋仮橋の撤去が後回しにされたからといって,そのことが,河川管理の一般的水準及び社会通念に照らして格別不合理 において,洗心橋仮橋地点より上流に位置する菊水橋下流の護岸工事が先行され,その下流の洗心橋仮橋の撤去が後回しにされたからといって,そのことが,河川管理の一般的水準及び社会通念に照らして格別不合理なものであったとは認められない。 b もっとも,本件溢水の約9か月前に本件溢水箇所を含む部分から第1次溢水が発生しており,かつ,出水期を前にして洗心橋仮橋地点の流下能力が低下していたことからすれば,可能な限り早期に洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削工事を実施し,完了すべきではあったものである。 しかしながら,第1次溢水時には,既に洗心橋新橋の架橋工事が開始されていたのであり,その後も,同工事の続行により平成11年4月に洗心橋新橋が完成し,同月28日から供用が開始されたものであり,洗心橋新橋の完成及び供用が遅延したという事情は認められない。 また,洗心橋新橋供用開始後も,直ちに洗心橋仮橋の撤去及びその橋台部分の開削に着手することができるとは認められず,請負工事業者の選定,契約締結などの契約締結手続に要する期間,契約締結後も,本件では同工事箇所付近に上水道管が埋設されており,上空には送電線が張られていたことから,その移設及び移設のための調整等,工事を現実に施行するための準備が必要であること,洗心橋仮橋の橋台部分の開削工事自体についても,開削箇所からの崩落を防止するために,あらかじめ仮設土留め工として鋼矢板による土留め工を施しておく必要があったところ,本件では地盤に固い層があったことから特殊な工法(先行掘工法)を採用しなければならず,そのための機材を用意する必要があり,しかも,重機の設置場所として洗心橋仮橋を存置する必要があったこと(乙12,19,証人J)からすれば,これら から特殊な工法(先行掘工法)を採用しなければならず,そのための機材を用意する必要があり,しかも,重機の設置場所として洗心橋仮橋を存置する必要があったこと(乙12,19,証人J)からすれば,これらの工事を完了するには相当の期間を要するものと認められ,現実にも洗心橋仮橋の撤去及びその橋台(左岸側の旧護岸)の開削を終了することができたのは同年8月19日であることからすれば,洗心橋新橋供用開始から約2か月後である同年6月29日の本件溢水までに,これらの工事を完了することが可能であったとは認められない。 この点,原告らは,洗心橋新橋架橋工事中にも,仮橋の撤去及びその橋台部分の開削業者の選定等,工事にかかる事前準備を実施すべきであると主張するが,上記占用物件の移設に関しては,本体工事の進め方と直接関わるため,施工業者を交えずに,被告だけで占用者との協議を進めることは困難であると考えられることからすれば,それら準備が兵庫5-1工区の施工業者が決定した同年6月9日(前記認定のとおり同日に兵庫5-1工区につき施工業者との間の工事請負契約が締結されたものである。)以降になったこともやむを得なかったものと認められる。 c 以上からすれば,洗心橋仮橋の撤去及び橋台部分の開削工事に先行して洗心橋上流部(兵庫6工区)の護岸工事を施行したことにつき,改修計画が不合理であったとは認められないし,洗心橋仮橋の撤去及び橋台部分の開削工事に要する準備等の期間からして,本件溢水までに同工事を完了することができたものとも認められない。 よって,本件溢水までに同工事が完了していないことをもって河川管理の瑕疵があったとは認められない。 (ウ) 洗心橋新橋の嵩上げ工事について よって,本件溢水までに同工事が完了していないことをもって河川管理の瑕疵があったとは認められない。 (ウ) 洗心橋新橋の嵩上げ工事について洗心橋新橋の嵩上げ工事について,確かに被告は本件溢水後の平成12年4月にこれを実施しているが,本件助成事業の計画当初からかかる工事が予定されていたものとは認められない。 そこで,かかる計画自体の合理性について検討するに,一度完成した橋桁を治水対策のために橋台から分離して持ち上げるという本件のような嵩上げ工事が,当時一般的に行われていたと認めるに足りる証拠はなく,しかも,嵩上げを実施している間,橋梁は車両の通行ができなくなるなど,社会的影響も大きいことからすれば,かかる工事を本件助成事業として予定しなかったことが,河川管理の一般的水準及び社会通念に照らして,格別不合理なものとは認められない。 また,確かに上記のように第1次溢水が発生し,水害発生の危険性が明らかになったとしても,かかる嵩上げ工事の特殊性及びその与える社会的影響からして,嵩上げ工事を本件助成事業に組み入れて施行しなければならないという特段の事情も認められない。 よって,本件溢水までに洗心橋新橋の嵩上げ工事を実施しなかったことをもって,河川管理の瑕疵があったとは認められない。 ウ河川管理の瑕疵<イ>について(ア) 原告らは,本件溢水箇所における左岸の護岸高が右岸のそれに比して低くなっていることにつき,河川管理の瑕疵があると主張する。 (イ) そこで検討するに,証拠(乙1の18頁)によれば,本件溢水当時,本件溢水箇所にあたる別紙5-1の№114地点における左岸護岸 いることにつき,河川管理の瑕疵があると主張する。 (イ) そこで検討するに,証拠(乙1の18頁)によれば,本件溢水当時,本件溢水箇所にあたる別紙5-1の№114地点における左岸護岸高は右岸のそれよりも67センチメートル,同左岸地盤高は右岸護岸高よりも54センチメートルそれぞれ低いこと,また,水防柵を加えた高さについても,左岸の方が右岸よりも14センチメートル低いことが認められる。 しかし,上記高低差はあるとしても,本件溢水当時,本件溢水箇所においては,左岸側の地盤高を基準として考えても(左岸については地盤高の方が高いので,その流下能力は,地盤高を基準にして考えるのが妥当である。),本件改修工事中確保されるべきものとされていた従前の流下能力毎秒100立方メートルを上回る毎秒112立方メートルの流下能力が確保されていたこと(乙1の41頁)に加え,同部分の湾曲を基準として,遠心力による影響を考えても,水位上昇は本件溢水箇所にあたる№114地点ですら約5センチメートル程度と考えられ,原告らが主張するような右岸に比べて左岸の水位が相当高くなるといった事態は生じないこと(甲17の6-37・38頁)からすれば,上記のような左右の護岸及び水防柵の高低差があるからといって,それが河川管理の瑕疵にあたるものとは認められないというべきである。 なお,本件溢水は,左岸側のみから溢水が生じており,右岸側からは生じていないが,これは前記認定のとおり右岸側は溢水開始前に土のう積みなどの水防活動が実施されたことに起因するとも考えられるところであって,左岸が低いからといって,それが直ちに左岸側から溢水したことの原因に結びつくものではない。 よって,左右の護岸及び 活動が実施されたことに起因するとも考えられるところであって,左岸が低いからといって,それが直ちに左岸側から溢水したことの原因に結びつくものではない。 よって,左右の護岸及び水防柵に高低差があったことをもって,河川管理の瑕疵があったとする原告らの主張は認められない。 エ河川管理の瑕疵<ウ>について(ア) 原告らは,本件水防柵が堤防(特殊堤)であったことを前提に,その基礎が脆弱であったことをもって,河川管理の瑕疵があると主張する。 これに対し,被告は,本件水防柵は堤防(特殊堤)でもその代替物でもなく,水防の準備のために,水防工法の一種である「せき板工法」による水防活動の事前準備として,土のうによる補強を予定して設置したものであるから,その基礎が脆弱であるからといって,河川管理の瑕疵には当たらないと反論する。 (イ) そこで,本件水防柵の性質について,以下検討する。 前記認定のとおり,本件水防柵は,従前設置されていた既設パラペットが,本件改修工事(護岸工事)を施行する際に撤去されたことから,その代替物として設置されたものであり,かかる経緯からすれば,既設パラペットの性質が,本件水防柵の性質に影響するものと考えられるところ,既設パラペットの構造は,従前の護岸天端に無筋コンクリートを載せたもので(乙29),その厚さも22センチメートルに過ぎず(同),構造上,堤防と評価し得る安全性を備えた構造物とは認められない。また,氷室橋右岸側直上流地点においては,鉄柵が設置されていたこと(乙12,32),本件溢水箇所の既設パラペットは,護岸に沿って従前建てられていた支障物件を除去した後に,神戸市によって設置されたものと認められることからすれば, おいては,鉄柵が設置されていたこと(乙12,32),本件溢水箇所の既設パラペットは,護岸に沿って従前建てられていた支障物件を除去した後に,神戸市によって設置されたものと認められることからすれば,既設パラペットは転落防止のための擁壁であったと認められ,堤防(特殊堤)ないしそれに準ずる役割を果たすものとして設置されていたとは認められない。よって,既設パラペットの代替物としての水防柵が当然に堤防あるいはこれに準ずる構造物としての役割を有し,その安全性を具備しなければならないものであるとは認められない。 (ウ) ただし,本件では,本件溢水より約9か月前に第1次溢水が発生していることからすれば,同溢水との関係において,本件水防柵が従前の既設パラペット以上の堤防ないしそれに準ずる構造物として,その安全性を具備しなければならないかについて検討する必要がある。 そこで検討するに,確かに第1次溢水における流出量について,第1次溢水調査報告書において,最大毎秒130~140立方メートルと報告されていること(乙2)からすれば,少なくともこれと同程度の流出量が今後も発生することは,抽象的には予見することが可能であったといえる。 しかしながら,河川改修工事においては,護岸の改修それ自体や,改修工事のために河道内に設置された仮設工作物等により,一時的に当該部分の流下能力が低下することは技術的に不可避なものと考えられる。また,本件では最終的に河床を掘削することにより,当該護岸高で計画高水流量を確保することが将来的に予定されていたことからすれば,護岸天端にさらに堤防ないしそれに準ずる強度を有する構造物を設置することは,結果的に大きなロスにつながるものと認められ,限られた財政の中で効率 を確保することが将来的に予定されていたことからすれば,護岸天端にさらに堤防ないしそれに準ずる強度を有する構造物を設置することは,結果的に大きなロスにつながるものと認められ,限られた財政の中で効率的に治水の効果を上げるためには,必ずしも望ましいこととはいえない。 このような技術的・財政的制約からすれば,たとえ約9か月前に同部分から溢水が生じており,それと同程度の流出量が今後も予想されたとしても,未だ改修途上にある河川につき,河川管理者として直ちにこれに対応する堤防等を設置して河積の確保を図らなければならないとまではいえない。 また,前記イで既に述べたとおり,そもそも河川改修工事においては,改修着工後直ちに計画高水流量が確保されるわけではなく,段階を追ってこれを確保していくことが予定されているのであり,国土交通省河川局治水課・河川環境課監修の河川改修事業関係例規集(乙17)においても,出水期における改修工事においては,一連区間の現況流下能力を確保することを原則とし,不足する場合は適切な対策を施すこととされていることからすれば,改修工事途上の本件溢水当時において,河川管理者である被告が法的義務として確保すべき流下能力は一連区間の現況流下能力であり,被告がこれ以上の災害防止対策を水防活動に委ねたとしても,河川管理の瑕疵にあたるとはいえないというべきである。 そして,本件において確保すべき一連区間の現況流下能力とは,本件改修工事において確保すべきものとされていた会下山トンネル呑口から菊水橋までの間の阪神・淡路大震災前の流下能力毎秒100立方メートルであり,かつ,同区間では,従前菊水橋地点が最も流下能力が低かったのが,本件溢水当時には,これが改善され,同区間での最小の流下能力地 水橋までの間の阪神・淡路大震災前の流下能力毎秒100立方メートルであり,かつ,同区間では,従前菊水橋地点が最も流下能力が低かったのが,本件溢水当時には,これが改善され,同区間での最小の流下能力地点となっていたのは洗心橋工区(洗心橋仮橋上流地点)であって,その流下能力は,毎秒93立方メートルであったが,これも天王ダムの暫定操作によって洪水調節機能として確保される毎秒15立方メートルを加味すると,その流下能力は毎秒108立方メートルとなり,現況の流下能力が確保されていたと認められることも,既に前記イで述べたとおりである。 (エ) そうすると,本件水防柵は,原告らが主張する堤防(特殊堤)ないしその代替物ではなく,被告が主張する水防の準備のために設置した水防工法の一種であるせき板工の準備段階としての構造物とみるのが相当であり,そうとすれば,被告が主張するとおり,土のう積みによる補強を当然の前提としたものであるから,それ自体が堤防のような安全性を備えていなければならないわけではない。 したがって,水防柵の基礎が土に埋め込まれていたもの(土中埋込部)でそれ自体としては脆弱であったとしても,水防活動の準備段階としては不備はないというべきである。 (オ) 以上より,本件溢水箇所においては,水防柵を除いた護岸によって現況の流下能力は確保されており,護岸によって護岸改修整備の段階において対処することが予定された規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性を備えていたというべきであるから,本件水防柵の基礎の脆弱性をもって,河川管理の瑕疵にあたるとはいえない。 オ河川管理の瑕疵<エ>について(ア) 原告らは,被告が本 を備えていたというべきであるから,本件水防柵の基礎の脆弱性をもって,河川管理の瑕疵にあたるとはいえない。 オ河川管理の瑕疵<エ>について(ア) 原告らは,被告が本件溢水箇所に新湊川警戒態勢を適用しなかったこと及び本件溢水当日の水防活動が遅れたことをもって,河川管理の瑕疵にあたると主張する。 ところで,水防活動に関する法的責任について,水防法3条は「市町村がその区域における水防を十分に果たすべき責任を有する。」と規定し,同法2条1項により,市町村が「水防管理団体」と位置づけられていることからすれば,水防に関する第1次的責任は水防管理団体たる市町村にあるものと解される。 しかしながら,河川法は洪水,高潮等による災害の発生を防止するという目的を有し(河川法1条),河川管理はその目的を達成するために適正に行わなければならないとされており(同法2条),同法22条1項も「洪水,高潮等による危険が切迫した場合において,水災を防御し,又はこれによる被害を軽減する措置を採るため緊急の必要があるときは,河川管理者は,その現場において,必要な土地を使用し,土石,竹木その他の資材を使用し,若しくは収用し,車両その他の運搬具若しくは器具を使用し,又は工作物その他の障害物を処分することができる。」と規定して,河川管理者に緊急時における物的及び人的公用負担を課する権限を付与している。また,水防法においても,同法3条の6で「都道府県は,その区域における水防管理団体が行う水防が十分に行われるように確保すべき責任を有する。」と規定し,同法35条の2では「都道府県知事は都道府県の区域内における水防管理団体に対し,水防に関し必要な勧告又は助言をすることができる。」と規定している。 確保すべき責任を有する。」と規定し,同法35条の2では「都道府県知事は都道府県の区域内における水防管理団体に対し,水防に関し必要な勧告又は助言をすることができる。」と規定している。 加えて,本件では,本件溢水から約9か月前に第1次溢水が発生しており,少なくとも第1次溢水と同程度の流出量が将来的に発生することは抽象的に予見することができたのであり,しかも本件溢水当時においては未だ改修工事が完了しておらず,同規模の流出量については水防活動によって対処するほかなく,それ故,被告においても水防活動の事前準備として本件水防柵を設置したことからすれば,本件溢水箇所における水防活動は,洪水防止のための中心的な施策として極めて重要な意義を有するものといわなければならない。 とするならば,本件において,水防に関する第1次的責任が水防管理団体たる神戸市にあるとしても,被告には,神戸市に対して本件溢水箇所の水防活動について留意すべき事項を的確に連絡し,必要かつ適切な勧告又は助言をすべき義務があるというべきであり,したがって,被告がこれに反した場合には,河川管理の瑕疵が認められて然るべきである。 (イ) 新湊川警戒態勢についてa 前記認定のとおり,本件溢水当時,本件溢水箇所には新湊川警戒態勢が適用されていなかった。しかしながら,同態勢は,改修中の河川管理者としてなすべき河道内の仮設工作物の撤去のみならず,土のう積みなど本来的に水防管理団体が実施すべき水防活動をも,その内容として盛り込むものであるところ,これは現に改修工事中の箇所では,護岸上等に工事用資機材を設置するなど水防活動の妨げとなる可能性があったことから,改修中の河川の管理者及び工事監督者として,例外 内容として盛り込むものであるところ,これは現に改修工事中の箇所では,護岸上等に工事用資機材を設置するなど水防活動の妨げとなる可能性があったことから,改修中の河川の管理者及び工事監督者として,例外的に被告が水防活動の一部を担うものとして,これを同態勢に組み入れたものと解される。 とするならば,河川改修工事が完了していなかった場合であっても,工事が一時中断した状態で現に実施されておらず,かつ河道内の仮設物及び護岸上の資機材等が設置されていない箇所については,水防活動の妨げとなる物はないのであるから,河川管理者としての水防活動に関する責任根拠はなく,原則どおり水防管理団体による水防活動が予定される箇所といえる。 よって,このように,河川管理者としての責任根拠の存しない箇所についてまで,水防活動をも内容とする新湊川警戒態勢を適用しなかったとしても,このこと自体不合理なものではなく,これをもって,河川管理の瑕疵と認めることはできない。 b しかしながら,新湊川警戒態勢においては,改修工事の施工業者が水防活動の実施主体とされていることからすれば,同態勢により同施工業者において水防活動を行う箇所と,原則どおり神戸市において水防活動を実施しなければならない箇所の分担については,水防管理団体たる神戸市が水防活動を実施する上で,とりわけ重要な情報であるから,被告はこれを神戸市に連絡しておくべきであり,これを怠った場合には,河川管理の瑕疵が認められるというべきである。 そこで,以下この点について検討するに,前記認定のとおり,神戸土木事務所職員のPは,平成10年10月16日,神戸市の関係事務所(西部建設事務所,中部建設事務所,長田消防署及び兵庫消防署)を訪れて そこで,以下この点について検討するに,前記認定のとおり,神戸土木事務所職員のPは,平成10年10月16日,神戸市の関係事務所(西部建設事務所,中部建設事務所,長田消防署及び兵庫消防署)を訪れて,新湊川警戒態勢の趣旨・目的・内容等について説明し,その後も,同態勢が更新される都度,神戸土木事務所職員はこれを神戸市の関係事務所に送付していたもので,本件溢水当日に適用されていた平成11年5月に改訂された同態勢についても神戸市の関係事務所に送付されていたし,その中には,本件溢水箇所である兵庫6工区の土のう積みは記載されていないことが認められる(乙3の2頁)。また,前記認定のとおり,神戸土木事務所は,同年5月13日,神戸市建設局,消防署等と合同で本件事業区間における水防演習を実施し,同年6月7日には,水防連絡会を開催し,神戸市建設局の職員出席の下,同事務所災害復旧室の佐々木室長が,新湊川につき,第1次溢水を踏まえて重要水防区域指定基準が「要注意区域」から,最も重要度の高い「水防上最も重要な区域」に指定されたこと,新湊川における水防活動として水防柵への積み土のうの対策を採る必要があること,及び新湊川警戒態勢と工事の進捗状況について説明したことが認められる。さらに,神戸土木事務所は,本件溢水の11日前の同年6月18日,神戸市との間で河川改修事業の打合せ会議を開催し,神戸市建設局職員らの出席の下,同事務所職員のQが,新湊川について,当時の各工区の施工状況,施工完了箇所等について,図示して説明したことが認められ,かかる図には,兵庫6工区が工事中ではないことが示されていた。 また,前記認定のとおり,神戸土木事務所は,本件溢水当日も,新湊川警戒態勢の発令について,逐一神戸市の関係機関(建設局,西部建設事務所,中部建設事務所 が示されていた。 また,前記認定のとおり,神戸土木事務所は,本件溢水当日も,新湊川警戒態勢の発令について,逐一神戸市の関係機関(建設局,西部建設事務所,中部建設事務所,兵庫消防署,長田消防署)に連絡していたことが認められる。 このように,被告職員は水防管理団体である神戸市に対して,兵庫6工区が当時工事中ではないこと及び新湊川警戒態勢の適用がないことについて説明していたものと認められ,前記のように水防に関する第1次的責任が神戸市にあることからすれば,神戸市は兵庫6工区が原則どおり自らによる水防活動が予定されていた箇所であることを十分知り得たものといえる。しかも,被告(神戸土木事務所)は,本件溢水当日も,同態勢の発令について,神戸市の関係事務所に逐一報告していたのであるから,河川管理者として水防に関して十分な情報伝達をしていたものというべきである。 よって,被告において上記連絡義務の懈怠は認められず,この点について被告に河川管理の瑕疵は認められない。 (ウ) 本件溢水当日の水防活動について原告らは,被告は本件溢水当日において本件溢水を予見することができたのであるから,積極的に水防活動を実施すべきであるのに,これを怠ったことが河川管理の瑕疵にあたると主張する。 しかしながら,上記のとおり,水防に関する第1次的責任は,水防管理団体たる神戸市にあるというべきであり,水防法等の規定からすれば,河川管理者が水防に関して法的な責任を負うのは,上記水防上留意すべき事項に関する助言・勧告のほか,河川管理者として求められる河川管理施設としての堤防からの漏水対策,護岸の洗掘や亀裂,崩壊対策など,河川管理施設の機能の 関して法的な責任を負うのは,上記水防上留意すべき事項に関する助言・勧告のほか,河川管理者として求められる河川管理施設としての堤防からの漏水対策,護岸の洗掘や亀裂,崩壊対策など,河川管理施設の機能の維持が同時に水防活動にあたる場合に限られるというべきである。 そして本件では,護岸自体に何の支障も生じていなかったのであり,かかる場合に河川管理者が直接水防活動を実施しなかった,あるいは水防活動が遅れたことをもって,河川管理の瑕疵にあたるとはいえない。 よって,本件溢水を予見し得たか否かにかかわらず,直接水防活動を実施しなかったことそのものについて,被告が河川管理者として責任を負うことはないのであるから,かかる点についても,被告に河川管理の瑕疵は認められない。 (2) 小括よって,河川管理の瑕疵に関する原告らの主張は,いずれも理由がない。 3 結語以上の次第で,原告らの請求はその余の争点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判長裁判官上田昭典裁判官北岡裕章裁判官太田敬司は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官上田昭典(別紙は添付省略) 申し訳ありませんが、整形するテキストが提供されていません。整形したいテキストをお送りください。
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