1 令和5年3月24日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官令和3年(ワ)第32897号 発信者情報開示請求事件口頭弁論終結日 令和5年2月10日判 決 5原 告 株式会社ケイ・エム・プロデュース 同訴訟代理人弁護士 戸田 泉同角地山 宗 行 10被告 KDDI株式会社 同訴訟代理人弁護士 今井和男同小倉慎一同山本一生15同小俣拓実主 文1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由20第1 請求被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 第2 事案の概要等1 事案の概要本件は,原告が、被告に対し、原告が著作権を有する別紙動画目録記載の各動25画(以下「本件各動画」という。)の複製物を送信可能化した複数の者がそれぞれ2 原告の各著作権(公衆送信権)を侵害したところ、これらの者が被告の提供するプロバイダを経由して通信を行い、損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の各権利侵害に係る発信者情報である本件各情報5の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)⑴ 原告は、映像の企画、制作等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)被告は、電気通 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)⑴ 原告は、映像の企画、制作等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社である。(争いがない事実)10⑵ア ビットトレントとは、P2P(ピアツーピア)方式でファイルの共有及び交換(以下「ファイル交換等」という。)を行うためのソフトウェアである。 P2P方式では、ファイル交換等を行うコンピューターはネットワーク(以下、ビットトレントにおける同ネットワークを「ビットトレントネットワーク」といい、同ネットワークに参加しているコンピューターを「ピア」とい15うこともある。)を形成し、ピア同士でファイルのデータを直接送受信する。 ビットトレントおけるファイル交換等では、対象ファイルを多数のピースとトレントファイル(各ピースが当該ファイルのピースとして齟齬がないか等を検証するために必要な情報等が記載されている。)に分解したものを利用し、あらかじめこれらのピースの全部又は一部を保有している他のピア(全20ピースを保有しているピアを「シーダー」という。ビットトレントネットワーク上にシーダーが存在しない場合には、必ずしも同ネットワーク上に全ピースが存在しているとは限らないことになる。)に接続して各ピースのデータを受信し(複数のピアに同時に接続してそれぞれのピアから異なるピースのデータを並行して受信することもある。)、ピースを全てそろえると、トレ25ントファイルと全ピースのデータを用いて元のファイルを合成することが3 できる。(甲3、5)イ ビットトレントネットワークに参加してファイル交換等を行うためには、ファイル交換等の対象となるファイルに係るトレントファイルをWEBサーバ等か を合成することが できる。(甲3、5)イビットトレントネットワークに参加してファイル交換等を行うためには、ファイル交換等の対象となるファイルに係るトレントファイルをWEBサーバ等から取得する必要がある。トレントファイルには、当該ファイルに係るトラッカー(クライアント間接続のための情報を提供するサーバ。当該フ ァイルに係るビットトレントネットワークに参加しているコンピューターに接続するために必要な情報を管理している。)のIPアドレス等も記載されており、ビットトレントネットワークに参加しようとするコンピューターは同IPアドレス等を利用してトラッカーと通信する。当該コンピューターは、トラッカーから当該コンピューターが他のピア(既に複数のコンピュー ターで当該ファイルに係るビットトレントネットワークが形成されている場合には、複数ピアに同時に接続を試みる場合もある)に接続するために必要なIPアドレス等のネットワーク上の情報を取得する。当該コンピューターは、同情報に基づいて当該ピアと直接通信し、当該ピアが必要なピースを保有している場合には当該ピアが送信するピースを受信(ダウンロード)す る。(甲3)ウビットトレントネットワークを構成するコンピューターは、定期的にトラッカーにアクセスし、対象ファイルに係るビットトレントネットワークに参加しているピアの情報を取得・更新する。他のピアからピースをダウンロード中のコンピューターも、ビットトレントネットワークの一部を構成するコ ンピューターとしてトラッカーサーバに登録されるため、ビットトレントネットワーク上の別のピアからピースの送信を求められることがあり、その場合には、当該コンピューターもピースの受信と並行して既に受信済みのピースのデータを送信する。ビットトレン るため、ビットトレントネットワーク上の別のピアからピースの送信を求められることがあり、その場合には、当該コンピューターもピースの受信と並行して既に受信済みのピースのデータを送信する。ビットトレントネットワークを構成するいずれのコンピューターも、対象ファイルに係る全ピースのダウンロードを完了した後25は、ビットトレントネットワークへの接続を切断しない限り、シーダーとし4 て機能する。(甲3)別紙通信目録の「IPアドレス」欄、「ポート番号」欄記載のIPアドレス、ボート番号を用いて同目録の「発信時刻」欄記載の時刻に行われた通信(以下、これらの通信を総称して「本件各通信」という。)は、被告の電気通信設備を介して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有してい5る。(弁論の全趣旨)原告は、調査会社が以下のような調査を行ったと説明する。 株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)は、独自に著作権侵害検知システムのソフトウェア(以下「本件ソフト」という。)を開発し、本件ソフトを用いて、ビットトレントにおいて本件各動画の複製物であるファイル(以下10「本件各ファイル」という。)の共有及び交換がされているかの調査(以下「本件調査」という。)を行った。 本件調査会社は、トラッカーサーバから、本件各ファイルの提供者であるとされたピアが使用しているものとして、別紙各通信目録の「IPアドレス」欄記載の各アイ・ピー・アドレス(以下「本件各IPアドレス」という。)を含む15アイ・ピー・アドレスが記載されたリストを取得し、令和3年2月25日から同年9月30日までの間、そのアイ・ピー・アドレスに接続し接続先から応答があることを確認する各通信を行った。その中には、本件各IPアドレスに接続し、同目録の「発信時刻」欄 し、令和3年2月25日から同年9月30日までの間、そのアイ・ピー・アドレスに接続し接続先から応答があることを確認する各通信を行った。その中には、本件各IPアドレスに接続し、同目録の「発信時刻」欄記載の各時刻頃に接続先から応答があることを確認する各通信である本件各通信が含まれる。 20本件調査会社は、これらの各応答確認をもってそれぞれの調査を終了したため、各接続先から本件各動画の複製物である本件各ファイルを受信していない。 (本項につき、甲5、弁論の全趣旨)3 争点原告が本件各動画の著作権を有するか(争点1)25本件各通信の発信者の情報が、本件各動画の公衆送信権の侵害に係る発信者5 の情報に当たるか(争点2)原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点3)4 争点に対する当事者の主張原告が本件各動画の著作権を有するか(争点1)について(原告の主張)5本件動画目録記載1,5、6の各動画は、原告の発意に基づいて企画され、各動画撮影の監督は、いずれも、当時原告に出向し、原告における職務の履行として各動画を制作した。各動画を収録したDVDのパッケージには、原告の登録商標である「KMP K.M.Produce」や、原告のレーベル名(屋号)である「Million」を表示し、原告名義で公表した。よって、各動10画は原告が職務上作成した著作物に当たり、原告が著作権を有する。 本件動画目録記載2,3,4,7の各動画は、原告から委託を受けた監督によって制作されたものであり、各動画の著作者は各監督である。そして、原告は、「Million」、「SCOOP」といったメーカー名を付して各動画制作を企画し、各動画の制作費用全てを負担する等の責任を負う主体であったから15原告は著作権 者は各監督である。そして、原告は、「Million」、「SCOOP」といったメーカー名を付して各動画制作を企画し、各動画の制作費用全てを負担する等の責任を負う主体であったから15原告は著作権法所定の映画製作者に当たる。そして、上記各監督は、映画製作者である原告に対し、各動画の製作に参加することを約束していたため、各動画の著作権は原告に帰属した。 (被告の主張)本件動画目録記載1、5、6の各動画については、各製作時期が不明であっ20て、原告が著作権を有しているか明らかではない。 本件動画目録記載2、3、4、7の各動画については、原告が「発意と責任を有する」か明らかではないから、原告が著作権を有しているか明らかではない。 ⑵ 本件各通信の発信者の情報が、本件各動画の公衆送信権の侵害に係る発信者25の情報に当たるか(争点2)について6 (原告の主張)ア ビットトレントを用いたファイル交換等では、トラッカーにアクセスすることによってビットトレントネットワークに参加している他のピアに接続するために必要な情報を取得した後、同情報に基づいて当該ピアと通信して、同ピアが必要とするピースを保有しているときには、当該ピアからピースを5ダウンロードすることになる。当該ピアとの通信では、「HANDSHAKE」、「BITFIELD」、「UNCHOKE」等の通信を経て当該ピアからのピースのダウンロードが開始される。 原告が調査を委託した本件調査会社が独自に開発した本件ソフトを用いた監視では、ビットトレントネットワークに参加する他のコンピューターと10同様に、監視対象となるファイルのトレントファイル等を用いて対応するトラッカーにアクセスして、ビットトレントネットワークに参加しているピアのIPアドレス等の情報を 加する他のコンピューターと10同様に、監視対象となるファイルのトレントファイル等を用いて対応するトラッカーにアクセスして、ビットトレントネットワークに参加しているピアのIPアドレス等の情報を取得する。監視ソフトは、同情報に基づいて、同ネットワーク上のピアとの間で、前記「HANDSHAKE」、「BITFIELD」、「UNCHOKE」等の通信を行い、監視ソフトに対してピースの15データの送信がされる前の通信である「UNCHOKE」の通信が行われた時点でそれ以上の通信を中止する(したがって、当該ファイルに係るピースが監視ソフトを導入したコンピューターにダウンロードされることはない。)。本件ソフトでは、「BITFIELD」の通信で通信相手のピアが当該ファイルのピースを保有していることを確認し、その後に行われる「UNC20HOKE」の通信の時刻を自動的に記録する仕様になっている。別紙動画目録記載の「発信時刻」欄記載の時刻は、通信相手のピアとの間で「UNCHOKE」の通信が行われた時刻であり、同目録の「IPアドレス」及び「ポート番号」欄記載のIPアドレス及びポート番号はこのときの通信に係る通信相手のピアの「IPアドレス」及び「ポート番号」である。 25本件ソフトによってIPアドレス等及び「UNCHOKE」の通信の時刻7 が記録されたピアは、同IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、本件各動画のデータをビットトレントを通じてインターネット上にアップロードし、ビットトレントを使用した者が本件著作物をダウンロードできる状態にした。これらの各発信者によるこのような行為は、本件著作物を公衆の求めに応じて自動公衆送信が行われる状態に置いたものであり原告5の送信可能化権を侵害したものである。 本件ソフトが上記のと 態にした。これらの各発信者によるこのような行為は、本件著作物を公衆の求めに応じて自動公衆送信が行われる状態に置いたものであり原告 の送信可能化権を侵害したものである。 本件ソフトが上記のとおり動作することは種々の動作試験の結果から認められる。 イビットトレントでは、共有されるファイルを電子的に特定するためにファイルごとに異なる英数字の羅列であるハッシュ値を利用してファイルを特 定するが、本件各動画のハッシュ値と本件調査でファイルを特定するために使用したハッシュ値が同じであることから、ビットトレントネットワークで共有されていたファイルのデータが本件各動画のデータであることは明らかである。 (被告の主張) ア本件ソフトが正確に動作することを裏付ける客観的な証拠はない。本件につき、本件各通信の発信者に照会した結果、多数の者が本件各動画に係る発信者ではない旨回答をしており、本件ソフトによる発信者の特定が正確ではないことは明らかである。 原告が提出した本件ソフトが正確に作動することに関する試験結果につ いては、いずれも信用できない。 また、原告の主張を前提にしても、原告が主張する時刻において送信可能化権の侵害行為になり得るアップロード行為は行われていないのであるから、原告が開示請求を行っている「発信時刻」に係る発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないことは明らかである。 イ本件各通信の発信者が、ビットトレントネットワークを通じて各発信者の 端末にダウンロードしたファイルのデータ及び他の端末からの求めに応じて発信したファイルのデータが本件各動画のデータと同一であることについても、客観的な証拠はなく、認められない。 原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が のデータ及び他の端末からの求めに応じて発信したファイルのデータが本件各動画のデータと同一であることについても、客観的な証拠はなく、認められない。 原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点3)について5(原告の主張)本件各動画では、出演する者の性器の映像にはモザイク処理されており、また、一般社団法人日本映像制作・販売倫理機構の審査を受けているものであり、「甚だしいわいせつ文書(ないし動画)」に当たるということはできない。原告が著作権侵害を主張して損害賠償を請求することが権利の濫用に当たったり、10公序良俗に反するということはない。よって、原告には逸失利益などの損害が生じていることは明らかであるから、不法行為に基づく損害賠償を請求することができ、その権利行使のために、本件各通信の発信者情報の開示を受ける正当な利益がある。 (被告の主張)15本件各動画は、それぞれ出演する女性の肛門にモザイク処理がされていない。 また、本件各著作物のほとんどは、出演女性と出演男性の性行為のシーンである。特に、本件動画目録1、5、7の動画は、出演女性が強制的にわいせつ行為をされているシーンを含んでいる。 本件各動画は、わいせつ性を有するものであって、本件各動画を販売するこ20とは刑法175条1項に該当して違法である。そうすると、原告には逸失利益等の損害は生じないし、仮に逸失利益が認められたとしても同じ理由により各発信者の行為と損害に因果関係はない。したがって、原告は損害賠償請求をすることができないため、原告に発信者情報の開示を求める正当な利益はない。 第3 当裁判所の判断251 本件ソフト及び本件調査会社が行った調査について9 本件調査会社の代表者作成の報告書(甲5、23)には 原告に発信者情報の開示を求める正当な利益はない。 第3 当裁判所の判断251 本件ソフト及び本件調査会社が行った調査について9 本件調査会社の代表者作成の報告書(甲5、23)には、以下の記載がある。 ア ビットトレントにおいて、トラッカーからビットトレントネットワークに参加しているピアへの接続に必要な情報を得たコンピューター(当該ピアは、ピースの受信と並行して既に保有している別のピースの送信を行う可能性もあるが、以下「受信ピア」という。)は、トラッカーから取得した既にビ5ットトレントネットワークを形成している他のピアのIPアドレス等を用いて当該ピア(当該ピアは、当該ピースの送信と並行して別のピースの受信を行う可能性があるが、以下「送信ピア」という。)に接続して通信を行う。 受信ピアと送信ピアは、まず、「HANDSHAKE」と呼ばれる通信を行って、受信ピアと送信ピアがファイル交換等の対象ファイルに係るビットト10レントネットワークに属するピアであることの確認を行う。続いて、受信ピアから送信ピアに対して「ACK」という通信を行い、その後、受信ピア及び送信ピアで相互に「BITFIELD」という通信を行ってお互いが対象ファイルのどの部分を所持しているかを確認する。そして、受信ピアから送信ピアに対して「INTERESTED」という通信を行って送信ピアが保15有しているファイルに興味があることを通知し、送信ピアは受信ピアに対して「UNCHOKE」の通信を行って当該ファイルを送信することが可能であることを通知する。(ここまでの一連の通信は「Host Communication Phase」と呼ばれている。)。 続いて、受信ピアは、送信ピアに対して「Request(piece,20subpiece)」の通信を までの一連の通信は「Host Communication Phase」と呼ばれている。)。 続いて、受信ピアは、送信ピアに対して「Request(piece,20subpiece)」の通信を行い、これに応じて、送信ピアは「Piece」の通信でピースのデータを送信し、受信ピアはこれを受信する。 イ 本件調査会社は、本件ソフトを用いて次のとおりの調査を行った。 本件ソフトに著作権侵害が疑われる対象ファイルのハッシュ値を登録すると、本件ソフトはトラッカーサイトに公開されている同ハッシュ値25に対応するトレントファイル又はトレントファイルに代替するマグネッ10 トリンク(以下「トレントファイル等」という。)を取得する。本件ソフトは、トレントファイル等に基づいてトラッカーに30分おきにダウンロードリクエストを行い、トラッカーから当該ファイルに係るピアの一覧(IPアドレス及びポート番号で特定される。)を取得し、これを記録する。 5本件ソフトは、トラッカーから取得したピアの情報を基に当該ピアに接続し、「Host Communication Phase」に当たる各通信を実行する。本件ソフトは「BITFIELD」の通信で当該ピアが0より大きいピースを所持していることを判定し、その後行われる「Host Communication Phase」の各通信の最後に10行われる「UNCHOKE」の通信を実施した時点の時刻を記録したところで通信を終了し、その後の通信を行わない。上記の過程によって、対象ファイルの少なくとも一部を所持しているピアだけが本件ソフトのデータベースに記録される。 本件ソフトの動作及び本件調査会社の調査の正確性に関して、証拠として提15出された報告書には以下の記載がある。 ア 本件調査会社の代表者作成 アだけが本件ソフトのデータベースに記録される。 本件ソフトの動作及び本件調査会社の調査の正確性に関して、証拠として提15出された報告書には以下の記載がある。 ア 本件調査会社の代表者作成の報告書(甲5)には、以下の記載がある。 令和3年7月15日、他の人によってアップロードされる可能性の極めて少ない試験用ファイルを用いて、同ファイルBitTorrentネットワークに参加する1台のコンピューターから同ファイルの送信を、もう1台の20パソコンに同ファイルの受信をさせたところ、試験用ファイルをダウンロードしたパソコンのIPアドレスと本件ソフトで記録されたIPアドレスが一致した。また、ダウンロード環境以外のIPアドレスから、試験用ファイルのダウンロードは行われなかった。また、本件ソフトウェアを稼働した令和3年以降、今まで本件ソフトがシステム異常を起こしたことはない。 25イ 原告代理人が所属する法律事務所事務員作成の報告書(甲6)には、以下11 の記載がある。 令和3年10月7日、BitTorrent Webを用いて、クライアント環境のコンピューターから試験用ファイルを公開し、モニタリング用環境のトレントモニタリングシステムを用いて、ダウンロードかつビットトレントネットワークの監視を行った。その結果、トレントモニタリングシステ5ムによって、同日10時30分~10時40分までに、クライアント環境のピアから試験用のファイルがダウンロードされた。このとき、トレントモニタリングシステムが検知したIPアドレスと、クライアント環境のIPアドレスが完全に一致した。 ウ 原告代理人が所属する法律事務所事務員作成の報告書(甲16)には、以10下の記載がある。 令和4年3月2日、クラウドサービスを利用して、3個のダウ 境のIPアドレスが完全に一致した。 ウ 原告代理人が所属する法律事務所事務員作成の報告書(甲16)には、以10下の記載がある。 令和4年3月2日、クラウドサービスを利用して、3個のダウンロード用環境及び1個のモニタリング用環境を準備した。モニタリング用環境において試験用データを配置し、μTorrentを利用して配布可能な状態にした。その後、ダウンロード用環境のパソコンがモニタリング用環境から同デ15ータのダウンロードを行った。モニタリング用環境のトレント監視システムによって、同日11時21分~12時36分までに3つのピアから試験用ファイルのリクエストがなされ、モニタリング用環境から試験用ファイルのダウンロードが行われた。上記テストにおいて、トレント監視システムによって試験用ファイルの交換を行っていると検知された3個のIPアドレスと20ダウンロード用環境の3個のコンピューターのIPアドレスはすべて一致した。また、ダウンロード用環境以外のIPアドレスからはダウンロードは行われなかった。さらに、ダウンロード用環境からトレントファイルをダウンロードした時刻と同一の時刻がトレント監視システムにおいて、当該ダウンロードを行ったIPアドレスの欄に表示されていた。これらのことから、25トレント監視システムは、試験用ファイルが交換されている環境について、12 ダウンロードが行われたIPアドレス、ダウンロードが行われた時刻を正確に検知していた事実が確認された。 エ 本件調査会社の代表者作成の報告書(甲24)には、以下の記載がある。 令和4年10月26日10時30分から11時40分までの間、次のとおりの試験を行った。アップロード用環境において試験用ファイルをビットト5レントを通じて配布可能な状態にし、本件ソフトを用いて 令和4年10月26日10時30分から11時40分までの間、次のとおりの試験を行った。アップロード用環境において試験用ファイルをビットト レントを通じて配布可能な状態にし、本件ソフトを用いて監視を開始した後、アップロード用環境においてアップロードを一時停止し、他のピアが試験用ファイルをダウンロードできないようにした。その後、ダウンロード用環境のコンピューターを同ファイルに係るビットトレントネットワークに参加させたものの、前記一時停止によってファイル保持率は0%のままとなった。 本件ソフトのログには、本件ソフトがダウンロード用環境のコンピューターに対してハンドシェイクを試みたことが記録されていたものの、本件ソフトのデータベースにはダウンロード用環境のIPアドレス等は記録されなかった。よって、本件ソフトは、ファイル保持率が0%のピアに対してもハンドシェイクを試みるものの、本件ソフトのデータベースにはIPアドレス等 の情報は記録されないことが示された。 2 別紙動画目録記載の発信時刻に同IPアドレス及びポート番号を使用していた者らに対する意見聴取の結果本件訴えにおいて原告が開示請求をしたIPアドレス及び発信時刻を利用した者のうち、被告が該当者の情報を保有していたものが162件あった。被 告が少なくともこれらの一部について発信者に対して意見照会を実施したところ、少なくとも、内88件に該当する30人(一人が複数の通信をしていたものが多数ある。)から、身に覚えがない旨の回答があった。(弁論の全趣旨)そのうちの一部の回答の具体的な内容はおおむね次のとおりである。 ア確認された動画タイトルに身に覚えがなく、念のためにPC内を確認した が、見つからなかった。ネットでタイトルを確認したところアダルトビデオ 具体的な内容はおおむね次のとおりである。 ア確認された動画タイトルに身に覚えがなく、念のためにPC内を確認した が、見つからなかった。ネットでタイトルを確認したところアダルトビデオ のようだが、自分はきちんと購入しているのでダウンロード、アップロードしていることはありえない。(乙1の1)イ回線契約者は当該動画をダウンロードしていないため、複製権を侵害することはない。(代理人弁護士による回答)(乙1の2)ウ動画タイトルは知らない。照会者に係る発信元情報、タイムスタンプ、動 画タイトル、ハッシュが示している情報の信頼性を判断できないので、開示に同意しない。動画タイトルで自分のパソコンを検索したが発見できなかった。動画コンテンツはストリーミングで利用している。(乙1の3)エ BitTorrentが実装された端末を有していない。したがって、公衆送信は原理的に不可能なので、開示に同意しない。(乙1の4) オ契約者において動画を保存し、送信した認識はない。念のため、妻及び小学生以下の子にも確認したが認識はなかった。当方の関知しないところで行われた可能性も想定し、可能な限りの調査をしたが、そもそもBitTorrentなるツールをインストールした形跡も見つけられなかった。利用し得るWEBブラウザにてツールのインストールや閲覧履歴、ダウンロード履 歴等を調べても形跡が発見できなかった。貴社においても入念な確認に基づいて今回の照会があったものと承知しているが、形跡は見つからず、当方の家族状況、PCのスキル等からして、当該ソフトを使用すること、当該動画をアップロード、ダウンロードすることは考えにくく、本当に当方が発信したのか再度確認してもらいたい。何かの間違い、回線の不正利用等、もしく は個人情報 して、当該ソフトを使用すること、当該動画をアップロード、ダウンロードすることは考えにくく、本当に当方が発信したのか再度確認してもらいたい。何かの間違い、回線の不正利用等、もしく は個人情報の不正取得等の可能性を懸念していて、現時点では開示に同意できない。(乙1の5)カ BitTorrentを利用したことがなく、心当たりがない。(乙1の6)キ本通知で「BitTorrent」なる存在を初めて知った。身に覚えの ない事柄についての主張で、特殊詐欺被害にあっている印象。接続が事実で あれば、不正アクセスの被害を受けている。(乙1の7)ク本件の動画タイトルの動画はダウンロードしていない。自己の端末に本件動画タイトルは保存されておらず、複製も不可能である。(乙1の8)ケ当該データのダウンロードおよびアップロードを行った記憶がなく、データの補完も確認できない。しかし、当方にて何か迷惑をかけているなら適切 に対応する。(乙1の9)コ動画タイトルに心当たりがなくPC内にもそのようなファイルが存在しない。本件IPアドレスとデータ通信を行った内容をそのまま記録したパケットキャプチャの記録やその部分的に受信したとするファイルのハッシュ値、または完成ファイル全体におけるピースの位置などの具体的な証拠が一 切示されていない。(乙1の10)サ P2Pの一種であるBitTorrentネットワークに接続した事実は認めるが、当該動画のダウンロードは行っていない。(乙1の11)シ私も家族もその時期にビットトレントをインストールしておらず、使用もしていない。その時期のPCの使用状況もできる限り調べたが、使った形跡 はなかった。(乙1の12)ス当該ファイルをダウンロード、アップロードした覚えがなく、ま ンストールしておらず、使用もしていない。その時期のPCの使用状況もできる限り調べたが、使った形跡15はなかった。(乙1の12)ス 当該ファイルをダウンロード、アップロードした覚えがなく、また、PC内を検索したところ、ファイルを確認できなかった。根拠とされる監視システムの情報がなく、調査結果の正確さが不明瞭であり、また、記載された発信元情報、日時は具体的な物証ではなく、証拠性に乏しいと思われます。よ20って、開示を拒否する。(乙1の13)3 本件各通信の発信者の情報が、本件各動画の公衆送信権の侵害に係る発信者の情報に当たるか(争点2)について原告は、別紙各通信目録記載の各情報が、当該ファイルの少なくとも一部(ピース)を保持する状態で本件動画に係るビットトレントネットワークに参加す25るピアとの間で行われた「UNCHOKE」の通信を行った時刻と当該ピアが15 使用したIPアドレスに係るものであると主張する。しかし、以下に述べるとおり、本件においては、これらの事実を認めるには足りない。 原告は、前記1の報告書を提出し、また、本件調査会社の調査について、同の報告書等を提出する。また、原告が、本件訴訟において、当初、開示を求めたIPアドレス、ポート番号及び時刻を基に被告が特定した者の中には、5任意に開示に応じるものもいた(甲15)。 しかし、別紙動画目録記載の通信情報が、それぞれ、当該ファイルの少なくとも一部(ピース)を保持する状態で本件動画に係るビットトレントネットワークに参加するピアとの間で行われた「UNCHOKE」の通信を行った時刻と当該ピアが使用したIPアドレスに係るものであると認められるためには、10単に本件ソフトがこれを満たすピアを検出できるだけでは足りず、上記条件を満たさないピアが検 HOKE」の通信を行った時刻と当該ピアが使用したIPアドレスに係るものであると認められるためには、 単に本件ソフトがこれを満たすピアを検出できるだけでは足りず、上記条件を満たさないピアが検出されることがないことが必要である。 本件で行なわれた調査の結果については、前記2のとおりの事情がある。一般に、本件で行われたような意見聴取においては、自己の責任を免れようとするため、指摘された行為を行っているにもかかわらず、それを行っていない旨 の虚偽の事実を述べる者がいることが想定され、特に本件では対象動画の性質からも、そのような者がいることが想定されるとはいえる。しかし、本件については、意見書の内容は、行為を行っていないとする理由が具体的であったり、意見聴取に対して真しに対応した上で行為を行っていないことを述べたりするなど、当該行為をしていないことに関する内容が相当に説得的なものが多い。 そして、そのような意見書が相当に多くの者から提出されている。これらからすると、令和3年2月25日から同年9月30日までに本件で行われた調査については、本件ソフトを現実のビットトレントネットワークに接続して動作させた際、誤った情報が記録されたことがあったことを相当程度うかがわせるといえる事情があるといえる。 これに対し、原告は、本件ソフト及び本件調査会社が行った調査やその正確 性等に関して、報告書を証拠として証拠を提出する。 そのうち、前記1の報告書には、ビットトレントの仕組みや本件ソフトの基本的な動作の仕組みが記載されている。しかし、同報告書に記載されているのは基本的には上記の仕組みであって、その記載からは本件ソフトがそこに記載されたとおりに作動し、様々な動作環境において、相当の正確性、信用性を 有して作動した上 しかし、同報告書に記載されているのは基本的には上記の仕組みであって、その記載からは本件ソフトがそこに記載されたとおりに作動し、様々な動作環境において、相当の正確性、信用性を5有して作動した上で、誤った情報を記録することはないプログラムであることを直接検証することができるものとはいえない。また、同イからエの報告書には、ビットトレントの利用者が試験用ファイルを利用できるようにした上で、システムで監視したところ、所定のIPアドレスが正確に検知できたと記載されている。しかし、これらが、令和3年2月25日から同年9月30日までに10本件調査で使用された本件ソフトと同じソフトウェアを用いて行われたものであるとしても、これらは、当該実験で、短時間、他に流通していないと思われる試験ファイルを極めて少ない台数のコンピューターのみで共有を試みるなどして行われたものであって、実際の動作環境において、反復継続して行われたものではない。したがって、本件で行われた調査で使用された本件ソフト15による調査について、実際の様々な動作環境において、多数回にわたる検証の結果、本来顕出すべきではない通信が検出されたり、そもそも存在しない通信が記録されたりする可能性がなかったことが記載されているものではなく、上記の各報告書は、本件で行われた調査が、本来顕出すべきではない通信が検出されたり、そもそも存在しない通信が記録されたりする可能性があることを排20除するものとはいえない。また、同アの報告書には具体的な条件等が記載されておらず、この報告書が直ちに本件ソフトの正確性等を裏付けるものとはいえない。 以上によれば、令和3年2月25日から同年9月30日までに同時点での本件ソフトを用いて行われた本件調査については、本件ソフトを現実のビットト25レントネ 確性等を裏付けるものとはいえない。 以上によれば、令和3年2月25日から同年9月30日までに同時点での本件ソフトを用いて行われた本件調査については、本件ソフトを現実のビットト25レントネットワークに接続して動作させた際、誤った情報が記録されたことが17 あったことを相当程度うかがわせるといえる事情がある。そして、そのような状況下において、本件で提出された証拠によっては、上記時点での本件ソフトが、実際の様々な動作環境において、本来記録してはならない通信を誤って記録してしまうことがないことについて、これを認めることができるとまではいえない。そうすると、本件調査の結果に基づく別紙動画目録記載の通信情報が、5その全てについて、原告が主張する通信についての情報であると認めることはできない。 原告は、本件において、別紙通信目録のとおりの発信者のいずれもが当該通信を行ったとして、本件の請求をするところ、以上によれば、本件においては、本件で対象とする各通信情報に係る発信者の全てが、当該通信を行ったとまで10は認めるに足りない。 したがって、本件調査会社に対し応答したという本件各通信による情報の流通によって、原告の本件各ファイルについての著作権(公衆送信権)が侵害されたとは認めるに足りない。 第4 結論15以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 20裁判長裁判官 柴 田 義 明 裁判官 佐 伯 良 子 25 18 裁判官 仲 田 憲 史 19 (別紙)発 信 者 情 報 目 録 別紙通信目録(1)ないし( 佐 伯 良 子 25 18 裁判官 仲 田 憲 史 19 (別紙)発 信 者 情 報 目 録 別紙通信目録(1)ないし(7)記載の各IPアドレスを,同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 5① 氏名又は名称② 住所③ 電子メールアドレス 20 (別紙)通信目録(1)(記載省略) 5 10 15 20 25 30 35 40 21 (別紙)通信目録(2) (記載省略) 10 15 20 25 30 35 40 45 22 (別紙)通信目録(3) (記載省略) 5 10 15 20 25 30 35 40 23 (別紙)通信目録(4) (記載省略) 10 15 20 25 30 35 40 45 24 (別紙)通信目録(5) (記載省略) 10 30 35 40 45 24 (別紙)通信目録(5) (記載省略) 10 15 20 25 30 35 40 4525 (別紙)通信目録(6)(記載省略) 10 15 20 25 30 35 40 26 (別紙)通信目録(7)(記載省略) 10 15 20 25 30 35 40 45 27 (別紙)動画目録(記載省略) 5
▼ クリックして全文を表示