- 1 - 主文 被告人を懲役18年に処する。 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 福岡地方検察庁で保管中のレンジャーナイフ1本(同庁平成30年領第3379号符号1-1)を没収する。 理由 (犯罪事実)第1 被告人は,Aを含む複数の者がインターネット上で複数で一般の個人を攻撃する内容の投稿をする「集団リンチ」を行っていると考え,それらの者に対し,「低能」,「死ね」などと罵倒する内容の投稿を大量に行い,ウェブサイトの運営会社からアカウントを停止する措置を取られても,新規のアカウントを繰り返し取得するなどして上記のような投稿を続けていたが,自らもAを含む複数の者から「集団リンチ」を受けていると考えるようになり,次第に,「集団リンチ」をやめさせるためには,「集団リンチ」を行う者を殺害するしかないと考えるようになった。そして,被告人は,Aが福岡市内でインターネット関係の勉強会を開催するために福岡市に来ることを知り,その機会にAを殺害しようと決意した。 被告人は,A(当時41歳)を殺害する目的で,平成30年6月24日午後7時4分頃,福岡市スタートアップ支援施設運営委員会会長Bが看守する福岡市a区bc丁目d番e号「C」に開放された南東側出入口から侵入し,同日午後7時59分頃,同所1階東側男子トイレ及びその付近において,Aに対し,殺意をもって,持っていたレンジャーナイフ(刃体の長さ約16.5センチメートル。福岡地方検察庁平成30年領第3379号符号1-1)で,その頸部,胸部,背部等を多数回突き刺すなどし,よって,同日午後8時40分頃,搬送先の同市a区fg丁目h番i号D病院において,同人を頸・胸部刺創に伴う心臓刺創・頸動脈切断による失血により死亡させて殺害した。 - 2 -第2 被告人は,業 ,よって,同日午後8時40分頃,搬送先の同市a区fg丁目h番i号D病院において,同人を頸・胸部刺創に伴う心臓刺創・頸動脈切断による失血により死亡させて殺害した。 - 2 -第2 被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後7時4分頃から同日午後7時59分頃までの間,前記「C」において,第1記載のレンジャーナイフ1本を携帯した。 (争点に対する判断)第1 争点本件において,被告人が,本件犯行当時,中等度の自閉スペクトラム症を有していたことについては当事者間に争いがない。しかし,検察官は,起訴前に被告人の精神鑑定を行ったE医師の見解を前提に,自閉スペクトラム症の本件犯行への影響は限定的であり,被告人は完全責任能力を有していたと主張するのに対し,弁護人は,E医師の見解の信用性自体は積極的には争わないが,被告人は,本件犯行当時,心神耗弱の状態にあったと主張している。 そこで,以下,E医師の見解を前提に,被告人の責任能力につき検討する。 第2 判断 1 判示のとおり,被告人は,「集団リンチ」を行っていると考えた者を罵倒する内容の投稿を繰り返し行い,アカウントを停止する措置を取られても,新規のアカウントを取得するなどして投稿を続けた。また,被告人は,いったん犯行を決意すると,綿密に準備を行った上で被害者を執拗に攻撃して犯行を遂げ,犯行後も犯行声明ともいうべき投稿を行うなどした。このように被告人が常軌を逸した行動をとったことについては,病的なこだわりの強さや,物事や自身の行為を様々な視点から検討したり,いったん思い込んだことを修正したりするのが困難であること,誰かに相談して物事を解決するコミュニケーション能力が不足していることなど,自閉スペクトラム症の特徴というべき症状が影響しているといえる。 2 もっとも,E を修正したりするのが困難であること,誰かに相談して物事を解決するコミュニケーション能力が不足していることなど,自閉スペクトラム症の特徴というべき症状が影響しているといえる。 2 もっとも,E医師は,自閉スペクトラム症は攻撃性を特徴とするものではなく,被告人が被害者の殺害,攻撃を決意したことについては,被告人自身の性格,人格によるとの見解を述べている。確かに,被告人は,本件以前には暴力- 3 -沙汰を起こしたことはなかったが,E医師は,被告人がインターネットの中で他人を罵倒するなどの言動を繰り返していることを挙げ,そのような攻撃的な言動は被告人本来の性格の一面が表れたものであり,本件犯行もその延長と見られると説明している。 これに加え,被告人の犯行前後の行動を見ても,被告人は,犯行に及ぶ直前,被害者の様子を見て殺害を躊躇したことが認められ,犯行後にも,自ら交番に出頭して,警察に自首したことからしても,犯行時に明瞭な違法性の認識の下で行動していたということができる。また,被告人は,犯行現場の下見を行うなど綿密に計画した上で,犯行現場に到着した後も,直ちに犯行に及ぶのではなく被害者の勉強会の状況を見て殺害の機会をうかがうなど,その場の状況に応じて冷静に行動できていたといえる。この点に関し,E医師は,被告人は,やむにやまれず犯行を行ってはいない,(精神障害の影響は)自分の意思で犯行を行ったという感覚を損なうものではなかったなどと説明しているが,このような説明も,被告人が自らの行動をコントロールできていたことを示すものといってよい。 第3 結論以上の事情に照らすと,本件犯行につき自閉スペクトラム症の影響があったことは否定できないものの,被告人の善悪の判断能力や行動制御能力が著しく低下していたという疑いは生じない。被告人に完 3 結論以上の事情に照らすと,本件犯行につき自閉スペクトラム症の影響があったことは否定できないものの,被告人の善悪の判断能力や行動制御能力が著しく低下していたという疑いは生じない。被告人に完全責任能力があったことは十分に認定できる。 (量刑の理由) 1 犯行態様を見ると,被告人は,犯行現場の下見や犯行の予行演習をするなど綿密に犯行準備を重ねた上で,逃げようとする被害者を追い掛けてナイフで突き刺すなど執拗に攻撃し,頸部や胸部など30か所以上に刺し傷,切り傷を負わせて失血死させている。このように,本件は,非常に強固な殺意に基づく計画性の高い犯行といえるところ,このような犯行態様の悪質さは,被告人に対する刑を決- 4 -める上で特に重視すべき事情である。 本件の犯行に至る経緯や動機は判示したとおりであるが,客観的に見れば,被害者は,被告人がインターネット上で他者を罵倒するなど迷惑行為を行っていたのをウェブサイトの運営会社に通報するなどしたにすぎない。被告人が,インターネット上でのやりとりがあっただけの被害者に対し「集団リンチ」をしているなどとして一方的な殺意を抱き,現実に殺害にまで及んだのは身勝手で理不尽といわざるを得ない。 弁護人は,インターネット社会に内在する危険が本件犯行の背景にあると指摘しているが,それが被告人の刑を特に軽くするような事情とはいえないし,争点に対する判断の項で説示したとおり,被告人が有する自閉スペクトラム症が犯行に影響したことは否定できないとはいえ,被害者の殺害を決意したこと自体は被告人の性格,人格による部分が大きいことからすれば,精神障害の影響について刑を決める上で被告人に有利に考慮するにも限度がある。 2 以上のような犯罪事実に関する事情を中心に据えた上で,刑の公平性の観点から,同種事案の量 部分が大きいことからすれば,精神障害の影響について刑を決める上で被告人に有利に考慮するにも限度がある。 2 以上のような犯罪事実に関する事情を中心に据えた上で,刑の公平性の観点から,同種事案の量刑傾向(凶器を使用した計画的な殺人1件のうち,被告人に量刑上特に考慮すべき前科がないものについて,怨恨を動機とするものを中心に量刑傾向を把握した。)を踏まえて検討すると,本件は,同種事案の中で重い部類に属するものということができる。 3 その上で,被告人に対する具体的な刑を定めるに当たって,上記の事情に加え,犯情以外の点を見る。まず,被告人は,犯行後比較的短時間のうちに警察に出頭して自首をした。被告人が強く反省して出頭したと見ることはできないが,自首により捜査が迅速に行われることになった面があることも否定できないといえる。他方で,被告人は,事実を認めた上で,被告人なりの反省の言葉を述べてはいるものの,人の死に対する考えが深まってはいないように思える。また,被告人は,自閉スペクトラム症の影響もあるにせよ,被害者遺族らに対し十分な謝罪の言葉を述べることができておらず,被害者遺族らは,法廷で,被害者を突然失- 5 -った深い悲しみに加えて,被告人に対する厳しい処罰感情を表明している。これらの事情は被告人の刑を決める上で軽視できないといえる。 そうすると,被告人に前科前歴がないことなど,犯情以外の点で弁護人が指摘する事情を踏まえて検討しても,被告人に対し,主文の程度の刑をもって臨むのはやむを得ないというべきである。 (求刑-懲役20年,主文同旨の没収)令和元年11月25日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官岡 﨑 忠之 裁判官 𠮷 野内庸子 令和元年11月25日 福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長 裁判官岡崎忠之 裁判官 𠮷野内庸子 裁判官 平岩彩夏
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