平成30年12月6日判決言渡平成30年(行ケ)第10041号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成30年10月9日判決 原告NextInnovation合同会社 同訴訟代理人弁護士柳楽久司 被告特許庁長官 同指定代理人野村伸雄 森 竜介 関口哲生 板谷玲子主文 1 特許庁が不服2016-14969号事件について平成30年2月14日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文第1項と同旨第2 前提となる事実(証拠を掲記した以外の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨から認められる。) 1 特許庁における手続の経緯等原告は,平成24年3月30日,発明の名称を「地殻様組成体の製造方法」(出願当初の名称は「汚染材の焼成方法,焼成汚染材,焼却灰,地殻様組成体 の製造方法,ペースト状地殻様組成体,及び,地殻様組成体」であったが,後記の平成28年10月5日付けの補正により変更された。)とする特許出願(特願2012-83259号。以下「本願」という。)をした(甲1)。 原告は,平成28年3月1日付けで特許請求の範囲及び明細書を補正したが(甲4),同年6月24日付けで拒絶査定がされたことから,同年10月5日,特許請求の範囲及び明細書を補正するとともに(甲7),拒絶査定不服審判を請求した(不服2016-14969号)。その後,原告は,平成29年3月21日付け及び同年12月28日付けで特許請求の範囲及び明細書をそれぞれ補正した(以下,同年12月28日付けでされた補正を「本件補正」という。 本 16-14969号)。その後,原告は,平成29年3月21日付け及び同年12月28日付けで特許請求の範囲及び明細書をそれぞれ補正した(以下,同年12月28日付けでされた補正を「本件補正」という。 本件補正後の請求項の数は5。甲10,14)。 特許庁は,平成30年2月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月27日,その謄本が原告に送達された。 原告は,平成30年3月28日,審決の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本願に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正後の特許請求の範囲請求項1から5記載の事項により特定されるところ,その請求項1の記載は次のとおりである(以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本願発明1」と,本願に係る本件補正後の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。)。 「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物より成る固相組成物であって,上記炭酸カルシウム組成物,上記ケイ酸質組成物,及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射能汚染由来であり,全体として上記固相組成物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質を含んで構成されている地殻様組成体を微粉砕して成る粉砕材と,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚 泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する焼成汚染材と,を水で混練して全体として放射能濃度が法的に設定された法 上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する焼成汚染材と,を水で混練して全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下のペースト状組成物を生成することを特徴とする地殻様組成体の製造方法。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりである。その要旨は,①特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合するものとはいえない,②本願発明1は,「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分にむけた検討状況」,川崎市ホームページ,2012年3月27日,(http://www.city.kawasaki.jp/170/cmsfiles/contents/0000015/15973/file1504.pdf。以下「引用文献」という。甲15の1,15の2)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 4 審決が認定した引用発明並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点(1) 引用発明「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134,Cs137)とし,放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する,下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法。」(2) 本願発明1と引用発明との一致点及び相違点<一致点>「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物より成る固相組成物であって,全体として上記固相組成 物内に閉じ込められた所定値以 ム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物より成る固相組成物であって,全体として上記固相組成 物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質を含んで構成されている地殻様組成体を微粉砕して成る粉砕材と,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,焼成した放射性物質を含有する焼成汚染材と,を水で混練して全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下のペースト状組成物を生成する地殻様組成体の製造方法。」<相違点1>本願発明1の「粉砕材」は,「炭酸カルシウム組成物,上記ケイ酸質組成物,及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射能汚染由来であ」るのに対して,引用発明はセメント原料化に係るセメントの具体的製造工程が特定されない点。 <相違点2>本願発明1の「焼成」は,「前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満」でなされるのに対して,引用発明はこのように特定されない点。 第3 原告主張の取消事由 1 取消事由1(サポート要件適合性についての判断の誤り)(1) 審決は,本願の請求項1の「セシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満」との文言が,「セシウムの気化温度(沸点671℃)未満」を意味するのか,「ストロンチウムの気化温度(沸点1382℃)未満」を意味するのかが不明確で,これを仮に「セシウムとストロンチウムの両方が気化する温度(1382℃)未満」と解釈した場合には,セシウムの沸点を超える温度範囲(671℃以上1382℃未満)でセシウム含有の汚染材を焼成す 明確で,これを仮に「セシウムとストロンチウムの両方が気化する温度(1382℃)未満」と解釈した場合には,セシウムの沸点を超える温度範囲(671℃以上1382℃未満)でセシウム含有の汚染材を焼成する余地があるが,この温度ではセシウムが気化してしまうため,「放射性物 質が気化されて大気中に放出されないようにする」という本願発明の課題を解決することはできないと判断した。 しかし,次のとおり,この判断は誤りである。 (2) 請求項1の当該文言は,正確には「放射性物質を含んだ(中略)汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成」するというものであるから,これを通して読めば,「当該汚染材に含まれる放射性物質の気化温度未満で焼成」することを意味していることが文理上明らかである。 すなわち,ここでいう「気化温度」は,まず,①当該汚染材にセシウムだけが含まれているときはセシウムの気化温度を意味し,②ストロンチウムだけが含まれているときはストロンチウムの気化温度を意味する。次に,③当該汚染材にセシウムとストロンチウムの両方が含まれているときは,セシウムが含まれているのであるからセシウムの気化温度未満であることを意味し,同時に,ストロンチウムも含まれているのであるからストロンチウムの気化温度未満であることも意味する。 (3) 被告の主張について被告は,本願発明は,大震災後の原子力発電所の事故を背景とするものであるから,汚染材の放射性物質には,セシウム,ストロンチウム及びそのいずれでもない他の放射性物質が必ず含まれている,ということを前提とした解釈に基づく主張をしている。 しかし,本願明細書にも,本願の特許請求の範囲にも,本願発明は,原子力発電所の事故の場合のみ れでもない他の放射性物質が必ず含まれている,ということを前提とした解釈に基づく主張をしている。 しかし,本願明細書にも,本願の特許請求の範囲にも,本願発明は,原子力発電所の事故の場合のみに限定したものであるとの記載はない。原子力発電所の事故は,本願に係る発明のきっかけとなったものであって,放射性物質による汚染が生じる場合の一例にすぎない。 したがって,本願の請求項1の解釈に当たっては,発明の背景である原子力発電所の事故とは切り離して文理解釈を行うべきである。 (4) 小括したがって,「セシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満」との文言を誤って解釈し,これを前提として請求項1の記載は発明の詳細な説明に記載されていない発明を含んでいるとした審決の判断は誤りである。 2 取消事由2(引用発明の認定の誤り)(1) 審決は,引用文献の記載から引用発明を認定した上で,本願発明1は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤りである。 (2)ア引用文献は,役所内に設置された「検討会議」において,下水汚泥焼却灰等の処分方法とその安全性の評価基準を「これから検討していく」上で,従前の検討状況を振り返るとともに,検討すべき事項や方向性を確認するための,いわば論点整理の資料として会議参加者に配布された文書にすぎず,具体的にどのように処理すればセシウムを含有する汚泥焼却灰等を安全に処分できるのかといった技術的事項は全く示されていない。 イ審決が,引用発明認定の根拠とした引用文献記載の各文言を具体的にみると,まず,「放射性物質対策」及び「下水汚泥焼却灰等の安全な処分」は,単なる会議体の名称である。 次に,「セシウム(Cs13 決が,引用発明認定の根拠とした引用文献記載の各文言を具体的にみると,まず,「放射性物質対策」及び「下水汚泥焼却灰等の安全な処分」は,単なる会議体の名称である。 次に,「セシウム(Cs134,Cs137)を対象とし」との文言は,前後の文脈からすると,これから策定しようとする安全性評価基準がセシウムを対象とした基準であることを明示することが望ましいという方向性を示したものにすぎない。 また,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」との文言についても,前後の文脈からすると,引用文献の作成時点では「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」は何らかの事情によって中止されており,未だ再開はされていない,すなわち,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を安全に行うための方法はこの時点で確立されていなかったことが,引用文献の記載そのもの からも明らかである。これに対し,それを可能とする「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」は,引用文献に何ら示されていない。 さらに,「めやす値より低い」及び「対策する」という各文言も,これから策定しようとする安全性評価基準の姿勢について述べたものにすぎない。 ウこのように,引用文献には,審決が認定した引用発明は記載されていない。 (3) したがって,引用文献の記載から引用発明を認定し,それとの対比で本願発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断が誤りであることは明らかである。 第4 被告の反論 1 取消事由1(サポート要件適合性についての判断の誤り)について(1) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】,【0002】及び【0005】の記載から,本願発明は,大震災の後,原子力発電所の事故があり,多くの放射性物質が飛散し,日々集積する いて(1) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】,【0002】及び【0005】の記載から,本願発明は,大震災の後,原子力発電所の事故があり,多くの放射性物質が飛散し,日々集積するゴミ焼却場の焼却灰や下水処理場の汚泥,被災地の瓦礫,また,河川や海洋にも放射能汚染物質が確認されているという背景に基づいてされたものであるといえる。また,段落【0133】~【0136】の記載から,「放射能汚染材は,魚貝類,野菜類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき(コンクリ,木材,ガラス,金属,プラスチック),汚染水,土砂,路面材等である」こと,及び「セシウム-134は,沸点が671℃であ」り,「焼成温度を671℃未満としたときには,大部分の放射性物質が気化することを防止することが出来る」ことが分かる。 ところで,本願の請求項1の「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ」「汚染材」に含まれる「放射性物質」として,どのような放射 性物質が含まれるかは特定されていない。そして,本願発明は上記の背景に基づいてされたものであるところ,原子力発電所の事故により飛散した放射性物質に,セシウムやストロンチウム,その他の放射性物質が含まれていることは自明である。また,「放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂」は,通常,放射性物質としてセシウムだけを含んでいるものとも,また,ストロンチウムだけを含んでいるものともいえない。 そうすると,本願の請求項1の「前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する」との記載は,どのような放射性物質が含まれるかは特定されていない汚染材の焼成 の請求項1の「前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する」との記載は,どのような放射性物質が含まれるかは特定されていない汚染材の焼成温度を,①セシウムの気化温度(沸点671℃)未満にするか,②ストロンチウムの気化温度(沸点1382℃)未満にするか,③セシウム及びストロンチウムの気化温度未満にするかの態様に特定していると解するのが相当である。 以上によれば,審決が判断したとおり,本願の請求項1の「放射性物質」自体については何ら特定されておらず,「放射性物質として含まれる」ものの中にセシウム及び/又はストロンチウムがあることが特定されているから,「放射性物質」は少なくとも「セシウム及びストロンチウム」を含むと解することができる。 (2) 次に,本願明細書の段落【0135】には,セシウムの気化温度(沸点)未満の焼成温度にしたときの効果についての記載がある。 しかし,段落【0133】に,焼成温度を放射性物質の気化温度未満にする旨の記載があるものの,本願明細書の発明の詳細な説明には,具体的に放射性物質としてストロンチウムを選択し,焼成温度をストロンチウムの気化温度(沸点)未満とすることについての記載はない。そして,本願明細書の表3によれば,ストロンチウムの気化温度未満という特定では,ヨウ素―1 29だけでなく,セシウム-134,セシウム-137,亜鉛-65及びテルル-123mも気化してしまう可能性がある。また,焼成温度が,セシウム-134の気化温度(沸点)未満であれば,必然的に,ストロンチウムの気化温度(沸点)未満になるものの,段落【0135】には,セシウム-134の気化温度(沸点)未満の焼成温度とすることが開示されているにすぎず,ストロンチウムの気化温度(沸 必然的に,ストロンチウムの気化温度(沸点)未満になるものの,段落【0135】には,セシウム-134の気化温度(沸点)未満の焼成温度とすることが開示されているにすぎず,ストロンチウムの気化温度(沸点)未満の焼成温度とすることが開示されていると理解することはできない。 (3) したがって, 本願発明1として含まれる態様,つまり,少なくとも「セシウム及びストロンチウム」を含む放射性物質が含まれる汚染材を,セシウムが気化してしまうストロンチウムの気化温度未満で焼成する(例えば,1000℃で焼成する)態様は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない。 また,焼成温度を,「ストロンチウムの気化温度(沸点1382℃)未満にする」態様及び「セシウム及びストロンチウムの気化温度未満にする」態様は,セシウム-134や,セシウム-137,亜鉛―65,テルル-123mを気化してしまうものも含むものである。 よって,本願発明1は,その課題である「放射性物質の気化温度未満で焼成」して,「放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させる」という課題を解決できない発明を含み,また,特許を受けようとする発明が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから,本願の特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たしていない。 (4) 原告の主張について原告は,当該汚染材にセシウムとストロンチウムの両方が含まれているときは,「気化温度」は,より低い方,すなわちセシウムの気化温度(671℃)を意味すると主張する。 しかし,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0135】の記載からは,焼成温度をセシウム-134の沸点( より低い方,すなわちセシウムの気化温度(671℃)を意味すると主張する。 しかし,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0135】の記載からは,焼成温度をセシウム-134の沸点(671℃)未満としたときに,大部分の放射性物質が気化することを防止する一方,その焼成温度で気化する放射性物質(ヨウ素-129(沸点184.3℃))もあることが理解できる。 そして,本願発明1において,放射性物質にヨウ素-129が含まれるとき,「気化温度」は,より低い方の,放射性物質(ヨウ素-129(沸点184. 3℃))の気化温度が選択されるわけではない。そうすると,本願発明1は,複数の放射性物質が含まれる場合に,焼成温度を放射性物質の気化温度が高い方の放射性物質の気化温度未満とすることも含む。 また,本願発明1の「セシウム及びストロンチウムの気化温度未満で焼成した」との記載は,文言上,セシウムの気化温度未満,及び,ストロンチウムの気化温度未満で焼成,つまり,2つの焼成温度(焼成温度領域)で焼成することを特定しているとも解される。なお,汚染材を2つの焼成温度(焼成温度領域)で焼成する場合,汚染材を焼成温度(焼成温度領域)の異なる2つの場所を通過させて焼成することが考えられるところ,本願発明1はそのことを特定していない。 さらに,本願発明1は,より低い方の気化温度を選択することまで特定していない。 そもそも,本願明細書の発明の詳細な説明には,焼成温度について,セシウム-134の沸点未満の温度にすることが記載されているのみで,セシウム-134以外の多数の放射性物質からストロンチウムを特定し選択することは記載されていないから,セシウム及びストロンチウムの両者から,一方の気化温度を選択するという思想が記載されているとはいえない。 したがって,原告 の放射性物質からストロンチウムを特定し選択することは記載されていないから,セシウム及びストロンチウムの両者から,一方の気化温度を選択するという思想が記載されているとはいえない。 したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載に基づく主張とはいえない。 2 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について (1) 引用文献の「1 これまでの経緯と今後の予定」の項の記載から,引用文献には,放射性物質対策のために,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法について検討したことが記載されていることを読み取ることができる。 (2) そして,引用文献の記載から,「下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法」に関する事項として,次のことを読み取ることができる。 すなわち,引用文献には,①「・今回の安全性評価の中では,セシウム(Cs134,Cs137)を対象としたことを前提条件として明示することが望ましい。」という記載が含まれていることから,放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134,Cs137)とすること,②「・めやす値より低いからそれで良しとするのではなく,さらに,できる限り影響が小さくなるよう対策する姿勢が重要」という記載が含まれていることから,放射線濃度がめやす値より低くなるように対策すること,③「・再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原料化)の再開を目指すことは望ましい。」という記載が含まれていることから,下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行うこと,をそれぞれ読み取ることができる。 したがって,引用文献から,放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134,Cs137)とし,放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する,下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法を検討したことを読み 物質対策の対象をセシウム(Cs134,Cs137)とし,放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する,下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法を検討したことを読み取ることができる。 そして,「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134,Cs137)とする」こと,「放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する」こと,及び,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う」ことが表す技術的事項は,それぞれ当業者が普通に理解し得る事項である。 (3) 以上によれば,引用文献には,「放射性物質対策の対象をセシウム(Cs134,Cs137)とし,放射線濃度がめやす値より低くなるように対策する,下水汚泥焼却灰のセメント原料化を行う,下水汚泥焼却灰等の安全な 処分方法。」 という発明,すなわち引用発明が記載されている。 なお,引用文献の右側に記載されている「3 安全性評価の検討フロー」のフロー図(ポンチ絵)には,「放射性物質が検出された焼却灰等」において,「下水汚泥焼却灰」を「処分する」に際し,「セシウム合計値が8000ベクレル/kg」を超えない時,「有効利用」をするために,「セメント原料化(下水汚泥焼却灰)等の資源化」することが示されている点を考慮したとしても,引用文献には引用発明が記載されているといえる。 したがって,引用文献に引用発明が記載されているとした審決の判断に誤りはない。 (4) 原告の主張について原告は,引用文献に「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されていないと主張する。 しかし,引用文献の記載から「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」が再開されていないことがうかがわれるからといって,直ちに引用文献に「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示さ する。 しかし,引用文献の記載から「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」が再開されていないことがうかがわれるからといって,直ちに引用文献に「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されていないことにはならない。 また,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法については,例えば,特許第4030636号公報(乙4)の実施例に,川崎市のスラッジセンターから発生した下水汚泥焼却灰を用いたセメント組成物が開示されており,セメント組成物はこれまでにない新しいセメントであると記載されている。また,特開2002-187748号公報(乙5)及び特開2011-102208号公報(乙6)にも,下水汚泥焼却灰とセメントとを混合してなるセメント組成物,混合セメントが記載されているように,当該方法は一般的に確立されていた技術といえる。 したがって,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」は,本願出願日以前に,川崎市においても確立されており,また,引用文献には「下水汚泥焼却灰の セメント原料化」を安全に行う方法が記載されているといえるから,この点についての原告の主張は当を得たものとはいえない。 第5 当裁判所の判断 1 本願発明について(1) 本願明細書(平成28年3月1日付け,同年10月5日付け,平成29年3月21日付け及び同年12月28日付け各補正後のもの。甲1,4,7,10,14)には,概ね以下の記載がある(なお,記載中の図表については,表3のみ掲記し,それ以外は省略した。)。 ア技術分野【0001】本発明は,地殻様組成体の製造方法に関する。 イ背景技術【0002】日本では,2011年3月11日の大震災の後,原子力発電所の事故があり,図44に示すように,85万テラベクレル以上の放射性物質が飛散したと考えられてい 造方法に関する。 イ背景技術【0002】日本では,2011年3月11日の大震災の後,原子力発電所の事故があり,図44に示すように,85万テラベクレル以上の放射性物質が飛散したと考えられている。これ以降,高レベル放射性廃棄物だけでなく,低レベル放射性廃棄物や除染に伴う廃棄物も多量に発生し,今も増加の一途を辿っている。具体的に,図45に示すように,放射性廃棄物は,日々集積するゴミ焼却場の焼却灰や下水処理場の汚泥に放射能汚染物質が認められ,被災地の瓦礫からも放射能汚染物質が確認されている。また,河川や海洋にも,放射能汚染物質が確認されている。 【0003】放射性廃棄物の処理に関しては,図46に示すように,震災前に制定された原子力政策大綱があり,また,原子炉等規制法や放射線障害防止法が制定されている。国際的には,日本はロンドン条約に加入しており,放射性物質の海洋投棄が禁止されている。更に,クリアランス制度が導入されており,ここでは,放射性廃棄物のクリアランスレベルが設定されている。 【0004】放射性廃棄物の最終処分に当たって,現在のところ,高レベ ル放射性廃棄物は,ガラス固化体を地層処分することとなっており,低レベル放射性廃棄物は,余裕深度処分,浅地中ピット処分或いは浅地中トレンチ処分することになっている。また,地層処分についいては(判決注:原文のまま),管理期間が数万年以上,余裕深度処分では数百年,浅地中ピット処分については約300年,浅地中トレンチ処分は約50年となっている。このような処分方法は,極めて高度の技術を要し,コストがかさみ,また,極めて長期間に亘って管理を行って行かなければならない。今後増加する放射性廃棄物を,このような方法で処分管理していくことは,非常に大変である。 ウ発明が解決しようとする課題 トがかさみ,また,極めて長期間に亘って管理を行って行かなければならない。今後増加する放射性廃棄物を,このような方法で処分管理していくことは,非常に大変である。 ウ発明が解決しようとする課題【0005】本発明は,以上のような背景に基づいて成されたものであり,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を焼却し,生成された焼成汚染材及び焼却灰を有効利用できる地殻様組成体の製造方法を提供することを目的とする。 【0006】また,本発明は,放射性物質を含む汚染材に含まれる有機物が腐敗し,或いはガス化したり又は膨潤したりすることによって地殻様組成体が脆弱化してしまうことを防止する地殻様組成体の製造方法を提供することを目的とする。 エ課題を解決するための手段【0010】…焼成汚染材は,炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して得られる固相組成物を微粉砕して成る粉砕材とを水で混練してペースト状組成物を生成することが出来る。 本発明に係る地殻様組成体の製造方法は,炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組 成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物より成る固相組成物であって,上記炭酸カルシウム組成物,上記ケイ酸質組成物,及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射能汚染由来であり,全体として上記固相組成物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質を含んで構成されている地殻様組成体を微粉砕して成る破砕材と,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき 放射性物質を含んで構成されている地殻様組成体を微粉砕して成る破砕材と,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する焼成泥,焼成土,焼成砂,焼成がれきの何れか一つ以上を含んで成る焼成汚染材と,を水で混錬して全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下のペースト状組成物を生成することを特徴とする。 このような地殻様組成体の製造方法において,前記ペースト状組成物には,硬化速度及び/又は水和反応速度を調整するための反応速度調整材や細骨材や粗骨材や上述した焼却灰を混練することが出来る。 【0011】ここで,前記ペースト状組成物の放射能濃度は,所定値以下に設定される。ここで,前記所定値は,法的に設定された法令基準値であり,また,クリアランスレベルであり,前記ペースト状組成物の放射能濃度は,このような所定値を満たすものである。 オ発明の効果【0014】本発明では,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂等のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,放射性物質の気化温度未満で焼成するので,有機物が炭化及び/又はガス化され,焼成処理後の汚染材中には,有機物が含まれないようにすることが出来る。 【0015】焼成して得られた焼成汚染材や焼却灰は,炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物より成る して得られた焼成汚染材や焼却灰は,炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物より成る固相組成物であって,上記炭酸カルシウム組成物,上記ケイ酸質組成物,及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射能汚染由来であり,全体として上記固相組成物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質を含んで構成されている地殻様組成体を微粉砕して成る破砕材と,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂等のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質の気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する焼成泥,焼成土,焼成砂,焼成がれきの何れか一つ以上を含んで成る焼成汚染材とを水で混練して,ペースト状組成物を生成することが出来る。そして,焼成汚染材や焼却灰の添加量を調整することによって,ペースト状組成物の放射能濃度を,法的に設定された法令基準値を満たすものとし,また,クリアランスレベルを満たすものにすることが出来る。このように,本発明では,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材をペースト状地殻様組成体やこれを固化させた地殻様組成体に有効に利用することが出来る。 【0016】このような所定値以下とされたペースト状組成物は,ペースト状地殻様組成体として地殻に還元することが出来,また,ペースト状地殻様組成体を固化させた地殻様組成体を地殻に還元することが出来る。また,地殻様組成体は,有機物を含んでいないため,有機物が膨潤したり,腐敗してガス等を発生させたりすることで脆弱化することが防止される。 カ発明を実施するための形態【0133】[ 出来る。また,地殻様組成体は,有機物を含んでいないため,有機物が膨潤したり,腐敗してガス等を発生させたりすることで脆弱化することが防止される。 カ発明を実施するための形態【0133】[5-2.前処理工程の説明] [5-2-1.汚染材の焼成処理の説明]上記表2に示すように,放射能汚染材は,魚貝類,野菜類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき(コンクリ,木材,ガラス,金属,プラスチック),汚染水,土砂,路面材等である。 なお,ここで用いられる放射能汚染材は,放射能濃度(密度)が測定下限値でも良いが,測定下限値を超える放射能濃度(密度)で放射性物質を含んだ汚染材も用いることが出来る。このような汚染材に有機物が含まれると,地殻様組成体20が成形された後,時間経過に伴って,有機物が膨潤したり,腐敗したり,ガスを発生し,地殻様組成体20が脆弱化してしまう虞れがある。そこで,前処理工程1001では,図15に示すように,汚染材を地殻様組成体20の原料として使用する前に,汚染材の焼成処理を行う。ここでの焼成温度は,放射性物質の気化温度未満とし,放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする。このように,汚染材は,焼成処理されることで,有機物を気化若しくは無機化させることが出来る。 【0134】【表3】 【0135】上記表3は,代表的放射性物質の沸点表である。セシウム-134は,沸点が671℃である。従って,例えば,焼成温度を671℃未満としたときには,大分部分(判決注:原文のまま)の放射性物質が気化することを防止することが出来る。なお,密閉空間で汚染材の焼成処理 を行うときには,酸素を供給しながら行うことで,有機物質を炭酸ガス等 には,大分部分(判決注:原文のまま)の放射性物質が気化することを防止することが出来る。なお,密閉空間で汚染材の焼成処理 を行うときには,酸素を供給しながら行うことで,有機物質を炭酸ガス等の気体と,水分や灰分等の無機物質に変えることが出来る。 【0136】以上のような汚染材の焼成処理により得られた焼成汚染材や焼却灰は,例えば,原料工程1002において,炭酸カルシウム組成物,ケイ酸質組成物,酸化鉄組成物等と共に原料粉砕機に投入して,粉砕原料を得るようにしても良い。また,焼成汚染材や焼却灰は,三次組成物や四次組成物や五次組成物を水又は汚染水で混練しペースト状組成物とする際に,添加材として,硬化速度及び/又は水和反応速度を調整するための反応速度調整材や細骨材や粗骨材と共に混合するようにしても良い。このように焼成汚染材や焼却灰を添加することによっても,地殻様組成体20の全体としての放射性物質19の濃度(密度)を調整することが出来る。 (2) 上記(1)によれば,本願発明の概要は次のとおりと認められる。 ア技術分野本発明は,地殻様組成体の製造方法に関する。(【0001】)イ背景技術日本では,2011年3月11日の大震災の後,原子力発電所の事故があり,85万テラベクレル以上の放射性物質が飛散したと考えられている。 これ以降,高レベル放射性廃棄物だけでなく,低レベル放射性廃棄物や除染に伴う廃棄物も多量に発生し,今も増加の一途を辿っている。放射性廃棄物は,日々集積するゴミ焼却場の焼却灰や下水処理場の汚泥に放射能汚染物質が認められ,被災地の瓦礫からも放射能汚染物質が確認されている。 また,河川や海洋にも,放射能汚染物質が確認されている。 放射性廃棄物の処理に関しては,震災前に制定された原子力政策大綱があり,また, られ,被災地の瓦礫からも放射能汚染物質が確認されている。 また,河川や海洋にも,放射能汚染物質が確認されている。 放射性廃棄物の処理に関しては,震災前に制定された原子力政策大綱があり,また,原子炉等規制法や放射線障害防止法が制定されている。国際的には,日本はロンドン条約に加入しており,放射性物質の海洋投棄が禁止されている。更に,クリアランス制度が導入されており,ここでは,放 射性廃棄物のクリアランスレベルが設定されている。 放射性廃棄物の最終処分に当たって,現在のところ,高レベル放射性廃棄物は,ガラス固化体を地層処分することとなっており,低レベル放射性廃棄物は,余裕深度処分,浅地中ピット処分或いは浅地中トレンチ処分することになっている。また,地層処分については,管理期間が数万年以上,余裕深度処分では数百年,浅地中ピット処分については約300年,浅地中トレンチ処分は約50年となっている。このような処分方法は,極めて高度の技術を要し,コストがかさみ,また,極めて長期間に亘って管理を行っていかなければならない。今後増加する放射性廃棄物を,このような方法で処分管理していくことは,非常に大変である。(【0002】~【0004】)ウ発明が解決しようとする課題本発明は,以上のような背景に基づいて成されたものであり,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材を焼却し,生成された焼成汚染材及び焼却灰を有効利用できる地殻様組成体の製造方法を提供することを目的とする。 また,本発明は,放射性物質を含む汚染材に含まれる有機物が腐敗,ガス化したり又は膨潤したりすることによって地殻様組成体が脆弱化してしまうことを防止する地殻様組成体の製造方法を提供することを目的とする。 (【0005】,【0006】)エ 含まれる有機物が腐敗,ガス化したり又は膨潤したりすることによって地殻様組成体が脆弱化してしまうことを防止する地殻様組成体の製造方法を提供することを目的とする。 (【0005】,【0006】)エ課題を解決するための手段本発明に係る地殻様組成体の製造方法は,炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と,ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と,酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物との焼成物より成る固相組成物であって,上記炭酸カルシウム組成物,上記ケイ酸質組成物,及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射能汚染由来であり,全体 として上記固相組成物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質を含んで構成されている地殻様組成体を微粉砕して成る破砕材と,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する焼成泥,焼成土,焼成砂,焼成がれきの何れか一つ以上を含んで成る焼成汚染材と,を水で混錬して全体として放射能濃度が法的に設定された法令基準値以下のペースト状組成物を生成することを特徴とする。 ここで,前記ペースト状組成物の放射能濃度は,所定値以下に設定される。ここで,前記所定値は,法的に設定された法令基準値であり,また,クリアランスレベルであり,前記ペースト状組成物の放射能濃度は,このような所定値を満たすものである。(【0010】,【0011】)オ発明の効果本発明では,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂, このような所定値を満たすものである。(【0010】,【0011】)オ発明の効果本発明では,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂等のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,放射性物質の気化温度未満で焼成するので,有機物が炭化及び/又はガス化され,焼成処理後の汚染材中には,有機物が含まれないようにすることが出来る。 そして,焼成汚染材や焼却灰の添加量を調整することによって,ペースト状組成物の放射能濃度を,法的に設定された法令基準値を満たすものとし,また,クリアランスレベルを満たすものにすることが出来る。このように,本発明では,測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ汚染材をペースト状地殻様組成体やこれを固化させた地殻様組成体に有効に利用することが出来る。 このような所定値以下とされたペースト状組成物は,ペースト状地殻様 組成体として地殻に還元することが出来,また,ペースト状地殻様組成体を固化させた地殻様組成体を地殻に還元することが出来る。また,地殻様組成体は,有機物を含んでいないため,有機物が膨潤したり,腐敗してガス等を発生させたりすることで脆弱化することが防止される。(【0014】~【0016】) 2 引用文献について引用文献には,概ね以下の記載がある。 (1) 「1 これまでの経緯と今後の予定◆平成23年9月~『放射性物質対策検討特別部会』【下水汚泥焼却灰等の安全な処分に向けた検討】◆平成23年10月~『下水汚泥焼却灰等の処分に関する安全性評価検討業務委託』【焼却灰処分の安全性評価,モニタリング計画の考え方】・汚染焼却灰等処分安全性評価委員会(3回開催) た検討】◆平成23年10月~『下水汚泥焼却灰等の処分に関する安全性評価検討業務委託』【焼却灰処分の安全性評価,モニタリング計画の考え方】・汚染焼却灰等処分安全性評価委員会(3回開催)(委託先有識者委員会)【汚染焼却灰等の処分に係る安全性評価の確認及び処分の方向性について】・有識者から適宜意見聴取を行い検討に反映◆平成24年3月『東日本大震災対策本部会議』【処分に向けた検討の方向性について確認】◆平成24年4月~【実現に向けた課題の抽出・整理】」(2) 「2 第1~3回汚染焼却灰等処分安全性評価委員会での有識者からの主な意見 (前提)・今回の安全性評価の中では,セシウム(Cs134,Cs137)を対象としたことを前提条件として明示することが望ましい・下水脱水汚泥からヨウ素(I131)が検出されつづけているのは,医療用として検査や治療で使用されたものと考えて差し支えない(国から医療用ヨウ素の安全性に関する通知発出)…(方針)・再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原料化)の再開を目指すことは望ましい・めやす値より低いからそれで良しとするのではなく,さらに,できる限り影響が小さくなるよう対策する姿勢が重要・川崎市としての更なる努力内容を示し,説明していくことが望ましい(モニタリング)・埋立作業前に周辺の空間線量を測定することが,焼却灰の影響を確認するうえで非常に重要となる・海底土壌の核種分析においては,河川由来の放射性物質が想定され,長期間にわたり分析していくと濃度が上昇する可能性があるので.モニタリングの際には注意が必要」 3 取消事由1(サポート要件適合性についての判断の誤り)について(1) 審決は,本願 され,長期間にわたり分析していくと濃度が上昇する可能性があるので.モニタリングの際には注意が必要」 3 取消事由1(サポート要件適合性についての判断の誤り)について(1) 審決は,本願発明1は,少なくともセシウム及びストロンチウムを含む放射性物質を,1382℃未満の温度(例えば1000℃)で焼成する場合を含むと解され得るが,1382℃未満の温度で焼成をすると,「前記放射性物質として含まれるセシウム及びストロンチウム」のうちのセシウム(沸点671℃)が気化するため,本願発明1の効果である「放射性物質の気化温度未満で焼成」し,「放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気 化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させること」を実現できないとして,特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しないと判断した。 (2)アそこで検討するに,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 イ本件についてみると,本願発明1は,焼成汚染材を「測定下限値を超える放射能濃度で放射性物質を含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウム 含んだ動植物類,焼却灰,汚泥スラッジ,海洋泥砂,河川泥砂,湖泥砂,街路樹木,がれき,汚染水,土砂のうちの何れか一つ以上を含む汚染材を,前記放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウムの気化温度未満で焼成した放射性物質を含有する」ものと特定するものである。 そうすると,本願の請求項1にいう,「汚染材に放射性物質として含まれるセシウム及び/又はストロンチウム」には,汚染材に放射性物質として「セシウム及びストロンチウム」の両者が含まれる場合のみならず,「セシウム又はストロンチウム」,すなわち「セシウム」,「ストロンチウム」のいずれか一方のみが含まれる場合も含まれているというべきである。 ウまた,本願明細書には,前記1(1)カのとおり,「前処理工程1001では,図15に示すように,汚染材を地殻様組成体20の原料として使用する前に,汚染材の焼成処理を行う。ここでの焼成温度は,放射性物質の気化温度未満とし,放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気化 されて大気中に放出されないようにする。このように,汚染材は,焼成処理されることで,有機物を気化若しくは無機化させることが出来る。」(【0133】),「セシウム-134は,沸点が671℃である。従って,例えば,焼成温度を671℃未満としたときには,大分部分(判決注:原文のまま)の放射性物質が気化することを防止することが出来る。」(【0135】)と,焼成温度を汚染材に含まれる放射性物質の気化温度未満とすることにより,放射性物質の気化を防止できることが記載されている。 これに対し,本願明細書には,汚染材に含まれる放射性物質の気化温度以上の温度で焼成することについての記載はない。 このような本願明細書の記載に鑑みれば,本願発明1の上記特定事項については,セシ 対し,本願明細書には,汚染材に含まれる放射性物質の気化温度以上の温度で焼成することについての記載はない。 このような本願明細書の記載に鑑みれば,本願発明1の上記特定事項については,セシウム及びストロンチウムを放射性物質として含む,すなわち,セシウムとストロンチウムの両者を同時に放射性物質として含む場合には,セシウム及びストロンチウムの気化温度未満で汚染材を焼成,すなわち,両者の気化温度に共通する部分となる(より低い気化温度である)セシウムの気化温度未満で焼成するものと解するのが自然である。また,セシウム又はストロンチウムのいずれか一方のみを放射性物質として含む場合には,当該放射性物質の気化温度未満で焼成するものと解される。 エしたがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきである。 (3) 被告の主張について被告は,本願明細書の発明の詳細な説明には,具体的に放射性物質としてストロンチウムを選択し,焼成温度をストロンチウムの気化温度(沸点)未満とすることについての記載はない上に,ストロンチウムの気化温度未満という特定では,ヨウ素-129だけでなく,セシウム-134,セシウム-137,亜鉛-65及びやテルル-123mも気化してしまう可能性がある から,本願発明1は,その課題である「放射性物質の気化温度未満で焼成」して,「放射性物質や灰分が残渣として残り,放射性物質が気化されて大気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させる」という課題を解決できない発明を含み,また,特許を受けようとする発明が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである 気中に放出されないようにする」とともに「有機物を気化若しくは無機化させる」という課題を解決できない発明を含み,また,特許を受けようとする発明が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないと主張する。 しかし,本件明細書の記載が,放射性物質としてストロンチウムのみが含まれている場合を想定し,その場合にはストロンチウムの気化温度未満の温度で焼成することとしているものと解されることは,前記(2)イ,ウにおいて説示したとおりである。 そして,本願発明1は,前記(2)ウのとおり,測定下限値を超える放射能濃度の放射性物質として,セシウムのみ,ストロンチウムのみ,その両方が含まれる各場合について,含まれる放射性物質の気化温度未満で焼成することを特定しているから,測定下限値を超える放射能濃度の放射性物質として,セシウム及びストロンチウム以外の放射性物質が含まれることを前提とする被告の主張を採用することはできない。 (4) 小括したがって,特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しないとした審決の判断には誤りがあり,その誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,原告が主張する取消事由1は理由がある。 4 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について(1) 審決は,引用文献には引用発明が記載されていると認定し,本願発明1は引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたと判断した。 (2)アそこで検討するに,進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき特許法29条1項各号所定の発明は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されると ころ,同条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をする ,当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されると ころ,同条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。 イ本件についてみると,引用文献は,その表題から,放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況を1枚の資料にまとめたものと認められる。 そして,引用文献の「1 これまでの経緯と今後の予定」の項の記載から,①平成23年9月から,「放射性物質対策検討特別部会」において下水汚泥焼却灰等の安全な処分に向けた検討が開始されたこと,②同年10月から,下水汚泥焼却灰等の処分に関する安全性評価検討業務委託がされ,委託先の有識者委員会である汚染焼却灰等処分安全性評価委員会が3回開催されたこと,③平成24年3月に東日本大震災対策本部会議が開催又は予定され,処分に向けた検討の方向性について確認されること,④同年4月以降,実現に向けた課題の抽出や整理が行われる予定であることが理解できる。 また,「2 第1~3回汚染焼却灰等処分安全性評価委員会での有識者からの主な意見」の項の記載は,上記有識者委員会での主な意見をまとめたものと理解できるところ,「(前提)」の欄に,「今回の安全性評価の中では,セシウム(Cs134,Cs137)を対象としたことを前提条件として明示することが望ましい」との記載があることから,放射性物質としてセシウムが検討対象になっていたことが把握できる。 さらに,「(方針)」の欄に,「再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原料化)の再開を目指すことは望ましい」,「めやす値より低い 放射性物質としてセシウムが検討対象になっていたことが把握できる。 さらに,「(方針)」の欄に,「再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原料化)の再開を目指すことは望ましい」,「めやす値より低いからそれで良しとするのではなく,さらに,できる限り影響が小さくなるよう対策する姿勢が重要」との記載があることから,上記有識者委員会において,放 射性物質としてセシウムを含む下水汚泥焼却灰のセメント原料化の再開を目指すこと,放射線の影響はできる限り小さくするよう対策すべきことが,方針に関する有識者の意見として存在したことをそれぞれ理解できる。 その一方で,引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのように焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであるか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さくなるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足りる事項についての記載は一切存在しない。 そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひとまとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。 ウしたがって,その余の点について認定,判断するまでもなく,引用文献に審決が認定した引用発明が記載されているとはいえない。 (3) 被告の主張について被告は,引用文献の記載から,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」が再開されていないことがうかがわれるからといって,引用文献に「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されていないことにはならないし,「下水 の記載から,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」が再開されていないことがうかがわれるからといって,引用文献に「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されていないことにはならないし,「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法は一般的に確立されていた技術といえるから,原告の主張は失当であると主張する。 しかし,引用文献中の「再開を目指すことが望ましい」との記載からは,下水汚泥焼却灰のセメント原料化が引用文献の作成時点において中止されていたことが明らかであるところ,上記(2)のとおり,引用文献には下水汚泥焼却灰を処分するに当たっての具体的な方法など,技術的思想として観念するに足りる事項についての記載は一切存在しないのであるから,同文献に「下 水汚泥焼却灰のセメント原料化」を行う方法が開示されているとはいえない。 また,被告が証拠として提出した乙4~6は,いずれも「下水汚泥焼却灰のセメント原料化」技術に関する刊行物であるものの,放射性物質を含む下水汚泥焼却灰のセメント原料化についての記載はないから,これらの証拠をもって,引用文献が対象とする「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等」におけるセメント原料化が確立された技術ということはできない。 したがって,この点についての被告の主張を採用することはできない。 (4) 小括よって,引用文献に引用発明が記載されていることを前提として,本願発明1は引用発明に基づいて容易に想到することができたとした審決の判断には誤りがあり,その誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,原告が主張する取消事由2は理由がある。 5 結論以上によれば,原告が主張する取消事由1及び2はいずれも理由があるから,審決は取り消されるべきである。 よって,主文のとおり判決する。 原告が主張する取消事由2は理由がある。 結論以上によれば,原告が主張する取消事由1及び2はいずれも理由があるから,審決は取り消されるべきである。 よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 高橋彩 裁判官 間明宏充
▼ クリックして全文を表示